ファンとのふれあい! 中野有香編 (18)
・有香ちゃんとファンとのふれあいを書きました
・みじかめです
・シリーズにするかは未定です
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秋風がさわやかな夜。
男は、ある少女をストーキングしていた。
中野有香。
美城プロダクション所属。
誕生日は3月23日、牡羊座。B型。右利き。
身長149cm、体重が……。
男は自らを落ち着かせるために、
彼女のプロフィールを暗唱した。
男は中野有香がデビューから以来の、
熱狂的なファンである。
朝起きると、天井に貼ったポスターに
“おはようございます”と言う。
向かいの椅子に抱き枕を起き、朝食をとる。
家を出る時には、下駄箱の上に置かれた写真に
“いってきます”をする。
通勤中にデビューCDがちょうど21週したあたりで、会社に着く。
仕事中は自重し、帰りは徒歩で帰宅する。
就業中に摂取できなかったナカノニウムを、
CDのヘビーローテーションによって身体に充填するためだ。
家に帰ると、ネット掲示板のアンチスレを監視する。
不逞な輩が彼女に危害を加えないか。
彼は刃のように目を光らせて、調べる。
それにやや疲れると、
また中野有香(綿100%、ベトナム製)とともに夕食をとる。
中野有香がCMを担当した女性用シャンプー、
コンディショナー、リンス。
そしてボディーソープで身体を磨き上げ、
入浴後は肌に乳液をすりこみ、顔にパックをする。
みすぼらしい身体で彼女と過ごすわけにはいかない。
パックを剥がしたあとは、歯磨きをして、
軽く体操をし、布団に入る。
天井の中野有香に、
“今日もありがとうございました”と呟いて就寝……。
抱き枕と眠るような真似はしない。
彼は中野有香の恋人ではないからだ。
休日は家の近くにある空手の道場に通う。
神誠道場に入門することは、
“あわよくば”という下心を抱くということであり。
男はそれをよしとしなかった。
彼は熱心に修行に取り組んだ。
体脂肪率はみるみる下がり、筋肉がついた。
空手を始めてから健康診断の結果は年々良くなって、
彼は、自分は中野有香によって生かされているのだと、
そう思わずにはいられない。
したがって、彼は中野有香の敬虔な信者であり、
彼女に危害を加えようという企みなど、抱きようがない。
だが彼は一週間前、見てしまった。
掲示板に、中野有香を襲撃するという旨の書き込みがされているのを。
そして、彼女の住所まで詳らかにされていることを。
今日が襲撃の日。
男は有給を取り、不審な人物が彼女に近づかないか見守った。
拳を固く握りしめ、血走った目で。
彼は初めて、中野有香のプライベートを垣間見た。
秋の夜空のような、深青色のスカート。
そこからのぞく、ほっそりとなめらかな脚。
トップスは白地のプリントTシャツの上にデニムシャツ。
さらに、上からミリタリーカーキの上着を羽織っている。
アイドルの時よりも露出は抑えられているのに、
男は胸をかきむしりたくなるような背徳感を覚えた。
誰にも彼女を傷つけさせていけない。
自分が傷つけさせない。
しばし男が陶然としていると、中野有香が十字路を曲がった。
彼は慌てて追いかけた。足音を殺しながら。
自分の存在を知られたら、彼女にストーカーだと思われてしまう。
彼女に嫌われるのが、彼女が傷つくことの次につらい。
だが、角を曲がった先、中野有香は男を見つめていた。
それは彼の存在に気づいていたような素振りだった。
男が言い訳を思いつくより前に、
中野有香は上着を脱ぎ、構えた。
右拳は顎の高さまで上げ、
左は肘で脇をかばうように、やや下げる。
男は、ほぼ反射的に構えた。
彼女に危害を加えるつもりはなかったが、
組手修行で身体にしみついた動作だった。
あるいは、彼が胸中にひっそりと
抱いていた疑問がそうさせたのかもしれない。
中野有香は強いのか。
構えた以上、男はしばらく口を閉ざすことにした。
倒すんじゃない。
彼女の攻撃を、少し受けるだけだ。
男は173cm、72kg。
身長体重、筋肉量ともに中野有香を大きく上回る。
試合としては成立しようがないマッチングだ。
顔面と金的を避ければ、ダメージはない。
男はそう踏んだ。
身体をかがめて、脇を締める。
右拳は胸の高さ、左腕はへそ辺りの位置に下げる。
警戒すべきは蹴り。
男と中野有香の間には、深刻なリーチ差がある。
男にそのつもりはないが、突き合いになれば彼女は不利だ。
また、間合いを詰めることで組まれる危険がある。
したがって、中野有香はできるだけ長い距離で戦わねばならない。
さらに中野有香は男のスタミナを知らない。
レッスンによって鍛え上げられているとはいえ、
戦いを長期化させるのは悪手である。
最長のリーチ、かつ最短の時間で片を付けるためには……。
中野有香が踏み出した。
蹴りだ!
男は視線を下げて、中野有香の足を見ようとした。
だが、彼女の上体がそうさせなかった。
中野有香は男に肉薄し、弧を描く軌道で打撃を放った。
狙ったのは防御されていない、左脇腹のやや後方。
腎臓。
どんな突きをもらっても、ダメージはない。
そうタカを括っていた男の顔が、苦痛に歪んだ。
中野有香の打撃は、重くはなかった。
その代わりに、錐のように鋭く突き刺さる。
男は相手の存在を一瞬忘れ、右拳を突き出した。
中野有香は同じく右拳でそれを受け、止めた。
そして、今度は反対側の腎臓を刺した。
男は無意識のうちにやや後ろに下がり、
体勢をさらに低くして、相手の腹部に組みつこうとした。
それは成功した。
だが、彼がシャンプーの香りで我に返ったのと同時に、
首に中野有香の肘が、深々と沈み込んでいた。
延髄。
男はふっと力が抜けたように、組みを解いた。
彼の意識は、ここでほぼ途切れていた。
だが、中野有香は重力に従って落ちてきた顎に、
強烈な膝蹴りを直撃させた。
男はぼんやりと、自分の体がゆっくり後ろに倒れていくのを感じた。
そして確信した。
中野有香は、強いのだと。
中野有香は、男が昏倒したのを確認した後、構えを解いた。
彼女は震え上がった。
「や、やっちゃった……。
救急車、救急車!!
109だっけ!? それとも101?
あ〜〜ぅ、もうっ!!」
その後、彼女は二台の救急車を呼ぶことになった。
おわり
依頼出してきます
おつ
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