【ミリマス】田中琴葉「アイネクライネ」 (10)

長い療養生活を経て。
一番の収穫は、あの曲に出会えたことだと。
今なら、本当に心からそう思う。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1526653286

入院中。入れ替わり立ち代わりで、みんながお見舞いに来てくれた。
恵美をはじめとした灼熱少女の面々。歩、昴ちゃん、千早ちゃん、志保ちゃん、新しく仲間に加わった紬ちゃんと歌織はん、他にもたくさん。
中でも、1番顔を見せてくれたのは。他でもない、私の担当プロデューサーだった。
検査、投薬、そしてリハビリ。
決して楽ではない日々の中で、彼は本当に私を支えてくれた。
幸せだった、と思う。
不謹慎と言われるかもしれないけど、彼と過ごすことが出来た日々は本当に幸せだった。

幸せが一定量を越えると、一周回って不安になると言い出したのは誰だっただろうか。
リハビリを進める中、私の中に生まれた黒い感情は、日に日に大きくなっていった。
私は、彼の居場所を奪ってはいないだろうか。
彼は、私といることで無理をしていないだろうか。
私が石ころみたいにちっぽけな存在だったら、彼にこんなに迷惑をかけることは無かったのに。
私は一体何をしているんだろう。
ファンを悲しませて、仲間に辛い思いをさせて、プロデューサーに迷惑をかけて。
何がアイドルだ。誰かを笑顔にするための存在が、周りにいる人から笑顔を奪うなんて本末転倒じゃないか。

「もう私に関わるのはやめてください」
プロデューサーにそういったことがある。
私は彼を慕っていた。心の底から信頼していた。それはきっと、アイドルとプロデューサーという関係を越えた感情だったと今なら断言出来る。
だから、今のままでは行けなかった。彼を私という「歪み」の中に引きずり込んではダメだと思っていた。
「琴葉が復帰して、トップアイドルになったらそうするよ」
だから、当たり前のようにそう返してくれた彼に。
一体私はどれだけ救われただろうか。

恵美に「私、死んだ方がいいのかもしれないわね」って言ったことがある。
その直後、病室に響いた乾いた音と、頬に走った痛みを忘れることは一生ないだろう。
泣いていた。あの恵美が。いつも笑顔の恵美が。普段、例えライブ後でも嬉し涙以外を見せたことがなかった恵美が。
その綺麗な顔をぐしゃぐしゃにして泣いていた。
「馬鹿!!!本当に馬鹿!!!あんた、あんた自分が何言ってるかわかってんの!?」
恵美の叫びを聞いて、私の中から押さえ込んだ感情が全て流れ出ていって。
気づいた時には、私も泣きわめいていた。
「わかってるわよ!!!わかってるのよ!!!自分がどれだけ迷惑をかけてるかくらい!!!私なんて、私なんて……誰かに迷惑をかけるくらいなら、死んでしまいたいって思うのよ……!!!」
そこから先は言葉に出来ず、お互い抱き合って泣いたのを覚えている。

退院する三日前だったか。
偶然、ラジオから流れてきた曲を耳にした。
その曲は、本当に私の心境とこの上ないくらいにマッチしていて……私は、気づいたら涙を流していた。
この曲が、私に色んなことを教えてくれた。
今の私にとって、みんなとの出会えたことは奇跡みたいな出来事だということ。
いつまでも超えられないと思う日々にも、必ず終わりは来るということ。
誰かを愛することが出来るのは、こんなにも美しいということ。
本当に、私は恵まれている。
こんな小さな私でも。こんなに醜い私でも。
愛してくれる誰かがいるということが。
愛する人の名前を呼ぶということが、こんなに幸せだということが。

そうして、私はこの舞台に立っていた。
目の前には緑色に輝くサイリウムの海。
背中に向けられるのは仲間とプロデューサーからの応援の気持ちが込められた視線。

ここでようやく私は悟る。
今ここでこうしてこのステージにいられることが、何にも変えられがたいたった一つの奇跡だということを。

「今からカバー曲のコーナーに入りたいと思います。この曲は、私が本当に辛い時期に支えられた曲です」

この想いよ。
この奇跡よ。
どうか、私の歌声に乗って響け。

「聞いてください。
 米津玄師さんで『アイネクライネ』」

短いですけど終わりです。琴葉は星野源も好きだけど同じくらい米津玄師も好きそう

元になった曲はこちらです
よければお聞きください

米津玄師 MV 「アイネクライネ」
https://www.youtube.com/watch?v=-EKxzId_Sj4

琴葉と曲にあう感じの話で良かった、乙です

田中琴葉(18) Vo/Pr
http://i.imgur.com/4b7MrKu.png
http://i.imgur.com/kRwSOBq.jpg

所恵美(16) Vi/Fa
http://i.imgur.com/NbxCxm1.png
http://i.imgur.com/BiJOgbP.jpg

乙泣いた

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom