【創作】「彼女はとても手が早い」 (16)
※注意
・グロい表現を含む予定です
・遅筆です
・小説や掲示板に不慣れなので変なところがあると思います
そういった部分があれば教えて頂けると助かります
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ぷるるる、ぷるるる。
雫が滴り落ちる音が静かに響き渡る廃墟の中。
一人の少女が新しく買ったばかりの携帯を使って電話をしていた。
「あ、お姉ちゃん?今終わったからこれから帰るね?」
『お疲れ様。どうだった?初体験のキモチ』
「んー、予想以上に気持ち良かったかな。お姉ちゃんがどはまりしちゃう気持ちもわかっちゃうかも……」
『あはは、そう?それじゃあ今から迎えに行くから下で待っててね?』
「うん、了解~」
ぷつん。
「……ふふ」
ずり、ずり。
「初体験、かぁ。……あの体全身がしびれる感じ……気持ち良かったぁ……」
ずり、ずり、ずり。
少女は「何か」を背負っているが、どうやら「それ」は少女の体よりも大きいようで
その先端を床に擦らせてしまっていた。
「えーっと、あと十何人とこういう事をすればいいのね。……ふぅ、とっても大変……でも……」
床には、赤い道が出来ていた。
ぽた。ぽた。と、音がするたびに、その道は繋がっていく。
「……彼のためなら、こんな感覚も悪くないわね♪」
少女は鼻歌を歌いながら、迎えの車に乗り込んだ。
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4月10日。朝6時。
ぼくはいつも通りの時間に起床した。
カレンダーを見ると、今日の日付の部分にでかでかと「入学式」と書いていた。
「……あぁ、そうだ。今日は高校の入学式だったか……」
布団から起き上がり、カレンダーの10日の部分に×を付ける。
部屋を出てすぐ隣の部屋をこんこん、とノックする。
「……パパ?」
「いや、お兄ちゃんだ」
がちゃり、と扉が少しだけ開き、隙間からじっと僕の顔を見つめてくる。
相変わらず小さい妹だ。
ぼくの顔を舐めるようにじーっと見つめた後、
「……パパ?」
見た上で呼び方を間違えられた。
「見た目をじっくり確認した上で間違えるな。お前のお兄ちゃんだ」
「……にぃ」
妹は小さくうなずいて、扉を開ける。
ぼくよりも20cmほど小さい妹はとてとてとそばに近づき見上げてくる。
「……どうしたの?にぃが私に直接話すことがあるなんて、めずらしい……」
妹とぼくはあまり会話することはない。
というか、こいつはいつも部屋の中でパソコンの前から動かないから話す機会がない。
というのも強烈な人見知りでもあるこの妹は家族とも好んで話そうとはしないのだ。
そのため、入学式前の長期休みは部屋の入り口に僕が毎日ご飯を作って運んでいた。
「あぁ、今日は入学式がある。朝ごはんは作るけど、昼ごはんは自分で作ってくれないか」
「……にゅうがくしきってなに?」
「小学校の時に一度だけ体験しただろ?」
「……がっこうについての記憶はぜんぶわすれました。おーるでりーと済み」
自分のこめかみに人差し指を当て、とぼけたふりをする妹。
数年前にイヤイヤ言いながら通ったはずなのにもう忘れるとは、かなり都合のいい頭をしているようだ。
……それにしても、こんな話し方をする妹だったかな。
ネットの影響を受けすぎてしまったのだろうか。
「とりあえず、これからぼくは高校に行く。泥棒には気を付けるんだぞ」
「……どろぼうがきたら、メールする」
「メールしても学校から家に来るまで、だいぶ時間がかかるだろう」
「……じゃ、がっこういかないで……」
ぎゅ、と妹はぼくの服の裾を掴んだ。
……昔はもっと、素っ気なかったような。
いや、ぼくの記憶違いだったのだろうか。
「悪いけど、そういうわけにはいかないんだ。なるべく早く帰ってくるから、大人しく待っていてくれ」
ぼくがそう言いながら手を握り返すと、妹は少し考え込んでから
「……わかった。まつ」
と、呟き、部屋の中へとゆっくりと戻っていった。
……なんだかんだで、こういう風に妹に甘えられたのは初めての体験だった。
誰かに感謝されることなんて、数年ぶりだろう。
久々に味わった感情に浸りつつ、ぼくはそっと扉を閉じ、学校へ向かう準備を始めた。
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ぼくは中学三年生の頃、とある事件をきっかけに転校をし、この町、天栄町へと来た。
思い出したくない過去を振り返りたくなく、
かつて住んでいた町にこれ以上関わっていたくはなかったためだ。
ぼくは久々の外出ですっかり重くなった足を無理やり前へと進めていった。
今日は晴天、入学式にはぴったりの日だ。
遅咲きなのか桜はまだ咲いていなかったものの、
ほんのりと涼しい風がぼくの体に触れるたびに春をしっかりと感じることができた。
そのままぼんやりと歩いていたら、やがてぼくが通う予定の学校が見えてきた。
「……ぼくが通う高校。ここで合ってるよな」
友達がいない状況にももう慣れてしまっている。
待つ相手も特にいるわけではないので、ぼくはまだ人気の感じられないこの学校の校門をくぐった。
着いた時間は7時10分。家を出た時間が6時50分だから、家から20分ほど歩いたようだった。
学校の中に入ると、案内の先生らしき、眼鏡をかけた男性が立っていた。
「おや、新入生かな?一年生は左の階段をのぼって、事前に知らされた教室に入ってね」
「はい、ありがとうございます」
ぼくは先生に向かって小さく一礼をし、階段をのぼっていく。
久々の学校だが、他クラスはおろかこの学校に知り合いなど当然一人もいないため
大人しく自分の教室へと一直線で向かう。
ぼくは一年三組なので、その張り紙が貼られた教室へと向かった。
がらがら。
少し立てつけの悪い扉を開く。
黒板には「好きな席に座ってください」という文字が大きく書かれていた。
ぼくは優柔不断な性格なので、「好きな場所に~」とか「好きなところに~」という言葉は苦手だ。
さて、どうしたものか。
教室の中を一瞥すると、窓際の一番後ろになんだかボーイッシュな女子が座っているのが見えた。
ぼくが扉を開けた音に反応していたのか、ぼくのことをじっと見ている。
さすがに見知らぬ人の隣に座るのも気が引けるし、遠めの席に座ろうか。
そう考えていたぼくだったが。
「ねぇキミ、良かったら隣来てよ。話し相手が少なくて暇だったんだ!」
女子の方から声をかけられ捕まってしまった。
さすがにそう言われて逃げるのもどうかと思ったので、大人しく隣の席に座った。
「いやぁ~、ちょっと早く来すぎちゃってね~。キミも随分早く来たみたいけど、お友達待ちとか?」
「そういうわけじゃないけど、ぼくは中学生時代はこの時間にいつも来てたから」
「へぇ、そうなんだ!私は転校したばっかりで、道に迷って遅刻するのとか嫌だからつい早く来ちゃったんだよね。
ん~、知り合いが一人も居ないなんて不安だなぁ。
お友達ができるといいけど……たとえば~、キミとなってみたり!!」
びしっ!という効果音が似合うくらい、勢いよく指を指された。
ぼくをフレンドの枠に入れたいとか、そういうことなのだろうか。
その気持ちは嬉しいが、ぼくはそういうわけにはいかない。
中学生の頃から決めたことだ。
ぼくは友達を作らない。
作りたくない。
「遠慮しておくよ。確かにぼくも転校したばかりで友達はいないけど、
ぼくみたいな根暗を友達にしたところで良い事はないだろ」
「えっ、キミも転校生だったんだ!奇遇だなぁ、私達いいお友達になれそうだね!
私は明るさだけが取り柄だから、根明根暗コンビだね!おぉっ、明暗だけに名案だぁ!」
「座布団没収レベルだよ。とにかく友達は勘弁してくれ」
「もぉ~、ノリ気じゃないなぁ」
ぷぅ、と頬を膨らませてしまった。
行動の一つ一つがとても明るい子で、素直で良い人だということはすぐに分かる。
だが……そういう人こそぼくに関わらせてはいけないだろう。
それが一番、彼女のためにもなるのだ。
「あ、そうだ!私は湊って言うんだ。瀬々流湊[せせらぎ みなと]。
よく変な名前って言われるんだよね~。
瀬にくりかえしにながれるでどうやってせせらぎって読むんだ!って!」
「聞いてないよ」
「根暗くんが冷たいよぉ~。湊ちゃん泣いちゃうよ?ぐすぐすだよ?」
湊という少女はちらちらとこちらを見ながら泣き真似をし始める。
いきなり変なのにからまれたなぁ……。
ぼくはかばんを湊の隣の席に降ろし、大人しく座る。
すると、湊から質問が飛んできた。
「そういえば根暗くんは転校前はどこに住んでたの?」
……その質問は、ぼくにとってはウィークポイントだ。
できれば、言いたくないが、隠す必要もないだろう。
今ぼくは、そこにいないのだから。
「……白河町。知ってる?」
「っ。……しら、かわ……。……」
湊は「白河町」という単語を聞き、表情を一瞬暗くする。
「……あ、あぁー!白河町ね!あのお団子が美味しいところね!
私もそこが出身だからさ!いやー、いい町だったよね!」
その表情を隠すように、湊はぼくに笑顔を向ける。
ぼくと彼女の間に、少し変な間ができる。
……いい町なわけがあるか。
ぼくがそう言おうとした瞬間、湊から口を動かした。
「……あはは、うぅん、ごめん。
そんなことなかったよね。
だって、あんなことがあったんだもん……」
湊はぼそぼそ、とそう呟く。
……まったく、思い出したくないことを思い出してしまった。
……そう、あの事件ももう2年ほど前の話になっているのだ。
あの事件がまた再発したという話もない。
「……私さ、あの事件があっても都合で引っ越しをするわけにはいかなくてさ。
毎日びくびくしてたよ。『いつ自分が巻き込まれてしまうのか』って。
でも……無事に他の町まで来れたし。もう大丈夫……だと、思うんだ」
「……そうだね」
ぼくは相槌だけ打ち、そこで会話は静かに途切れた。
時計の長針は8を指していた。
教室の中にこれから三年間世話になる予定のクラスメイトが固まってぞろぞろと入ってくる。
ぼくと湊は知り合いが誰一人として居ないため、必然的にクラスの角で固まっているだけとなった。
「……瀬々流さん。ぼくは少し保健室に行ってくるよ。
あまり具合が良くなくて」
「ん、うん。先生にはそう言っておくね」
少しさみしそうな顔で手を振る湊。
申し訳ないとは思うが、彼女の底なしの明るささえあれば友達なんて簡単に作れるだろう。
ぼくは手を軽く振り返し、一階の保健室へと向かった。
~~~~~~~
保健室のベッドを二時間ほど借り、ぼくは湊の言葉を思い返した。
『もう大丈夫だと思うんだ』
……本当に、大丈夫なのだろうか。
その事件の全容も明かされていないのに、終わったことにしてしまっていいのだろうか。
……。
ぼくは考え事は苦手だ。
だいたいぼくの考えることは裏目に出ることがほとんどだ。
苦手で不向きなことはしないに限る。
ぼくは時間をめいいっぱい借り、
過去の事件のことでぐちゃぐちゃになった脳みそを落ち着かせるため、睡眠を取ることにした。
そうだ、過去の事件などもうぼくには関係ない。
関係のない話なんだ……。
~休憩挟みます~
~~~~~~~
「……ごはん、こない……」
兄が保健室で過去を忘れ夢の世界に逃げている間、ぐったりと机の上に突っ伏す妹。
よだれを垂らしながら兄の昼ごはんを待っているのだが、
当然来るはずもない。
「……あ。にぃ、がっこうだった……」
兄が学校に行っていることを思い出した妹は、
辺りに転がっているコンビニの袋の中身を漁りだした。
「……たしか、このへんに……。……ぁ、あったぁ……」
いくつかの袋を開け、そのうちの一つから見つけたカップ麺を取り出した。
中に入っていた割り箸を咥え、雑誌を踏まないように歩きながら電気ポッドの前に座る。
カップ麺の蓋を開け、電気ポッドの注ぎ口の下に設置する。
そして、プッシュボタンに手を重ね……。
「……えいっ」
ぺこっ。
ボタンを押す。
「……出てこない」
ぺこぺこぺこっ。
一滴もお湯が注がれない。
ぺこぺこぺこぺこぺこ。
連打しても、当然何も出ない。
「……おゆがない……」
膝からがくりと崩れ落ちる。
少女は絶望した。
兄もいない、お湯もないこの状況。
自らは何を食せばいいのか。
パソコンで注文しようにも玄関には行きたくないし、人と話したくもない。
少女には「自らで昼ごはんを作る」という任務は酷だったのだろう。
いっそのこと、お湯を入れずこのまま食べてしまおうか。
ふとそういう思考が脳裏をよぎる。
「……。……トイレにいくついでに、お水いれてこよう……」
が。
ふと催した尿意と共にこの状況を打破しようという思考が生まれた。
明らかに「ついで」の対象が逆なのだが、少女にとってはその思考が大きな一歩だった。
そして、扉を開け、自らの部屋から外に出る。
今まではトイレは自分の部屋のすぐ左隣だったが、
今度は右にある兄の部屋を通り越してリビングへと向かわなければならない。
「……がんばれ、わたし……」
トイレに向かいながら自分を激励する少女。
少女は、兄が見ていないところでひっそりと成長しようとしていた。
~~~
それから十数分後。
ようやくリビングに着いた妹は数年ぶりにテレビを付け、ニュースを見ながら水を入れ始めた。
(……たいくつ。……テレビ、つまらない……)
ある程度必要な分まで水を入れ、ふらふらとしながらテーブルの上に置く。
「……きゅうけい」
そして椅子に座り、なんとなくニュースを見始めた。
人身事故、高校野球、視聴者プレゼント。
どれ一つとして少女の琴線に触れそうなものは一つとして無かった。
歩き疲れた足を休めつつ、何か面白そうな情報があればいいのだが。
そう思いつつも、お昼の時間にアニメをやっているはずもなく。
少女はこれ以上退屈なニュースを見たくなくなり、椅子を立った。
しかし、その後。
少女はとある光景を目撃することとなる。
自らとその兄をかつて住んでいた町から追いやった「原因」。
白河町に起きた「事件」について組まれた特集。
そして……。
「……にぃ……。……にぃ、に、メール、しなきゃ……!」
『……えっ?……は、はい!緊急ニュースです。
かつて白河町で発生した無差別大量殺人事件と同じ手口で殺害された人物が発見されました。
市役所で働く23歳の女性が、鈍器のようなもので――――』
~~~
「……はっ」
ぼくは突然意識を取り戻した。
とても気持ちの悪い夢を見ていた。
夢の中では普通に友達が居て、一般的な学生らしい学校生活を送っていた。
現実とはかけ離れすぎていたために体が拒否してしまったのだろう。
ところで、いったいどれくらいの時間寝てしまったのだろうか。
ぼくはポケットに入っていた携帯を開いてみた。
「……11時、40分?二時間も寝過ごしてしまったのか……?」
9時40分まで借りる予定だったのに二時間オーバーだ。
保健室の先生はぼくを起こさなかったのか。
いや、その不自然よりも……。
なんだ、この不気味な静かさは……。
「……メール?」
時刻表示の下に妹からのメールが届いていたことに気付いた。
メールが来た時間は10分前。
タイトルは……「大変」?
一体なにが……。
『本文:
添付した写真を見て』
「写真……?」
ぼくが開いたその写真には。
「天栄町の殺人鬼、白河町にも現る」という見出しで報道しているテレビの画面が映し出されていた。
「……まさか」
ぼくは震える手で、カーテンを開いた。
「……あぁ、やっぱり。か」
当然だった。
これだけ静かだったら、誰もいるわけがなかった。
「……やっぱり、『来ていた』か」
違う。
「人と認識できるものが無かった」。
ぼくの正面には、赤い壁紙と絨毯が丁寧に敷かれていた。
ただ、そのインテリアはまともな人間なら受け入れられないもの。
やすらぎの地だった保健室は、
悪趣味なマッドサイエンティストの研究室へと変貌してしまったようだ。
ぼたぼたと肉片の落ちる生々しい音だけが、ぼくにはっきりと伝えている。
「天栄町の殺人鬼が、ここにも来てしまったのだ。と?」
――!!
ぼくは咄嗟に声が聞こえた保健室の入り口の方を見た。
そこには女性警官が立っていた。
……とても小さい。
見た目的には、ぼくの妹と同じくらいだ。
「そう驚かないでほしい。私は警察関係の者ではない」
「……ではない?」
「まったく関係ない。あぁいや、遠い関係ではあるな。遠戚のようなものだ」
そのエセ警官はぼくの隣に立った。
そして壁についた肉片をぐちゅりとこそぎ取る。
「……うわ」
「ドン引くな。お前はこれに似た光景を何度も見ているのだろう?
……あぁ、これは言ってはいけないことだったか?」
思わず言葉が詰まる。
……こいつ、どこまであの事件を「知っている」……?
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