「ピクシー見つけた」 (12)


「って『言われたら』負けです」

「は?」


夢なのか、俺が寝ぼけているのか。
枕もとに立って、自分を『妖精(ピクシー)』と名乗る少女はそう告げた。

「相手のピクシーが消えて、自分のピクシーが生き残る。最後まで生き残ればあなたと私の勝ちでございます!」

小さい。
目覚まし時計と同じくらいの大きさの彼女は、キラキラと輝いていた。
昔映画で見た『ティンカーベル』を彷彿とさせる愛らしい容姿に、藍色のドレス。

唯一違うのは、瞳の、本来人間ならば白い部分まで藍色に染まっていること。

「まだ寝てますか?起きてますか?もう妖精はあなた方のそばに存在しているんですよ?」

ピクシーはおかしそうに笑う。
喉奥から「う゛ーん」と声を絞りながら、俺は寝起き(というより真夜中なので就寝中だった)重たい体を起こした。

「なんなら頬っぺたでもつねりましょうか?」

「……いや、いい……起きた」

「それはよかった!」

寝起き頭の正面に、彼女はすっくと降り立った。
彼女の姿は眩しかったが、ひときわ光っているのは羽なのだと、いまさらながらに気づいた。

藍色はにこりと笑った。

では改めて、『藍色の妖精魔法』の担当、アズールです。よろしくね!」



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 ゆ び を ふ る


「アズール?」
「はい! 青系統の色を表す言葉だったかと! 本当は別に名前があるんですけど、人間の言葉じゃ発音できないので!」

ようやく彼女の発する光に目が慣れてきたころ、ようやく自分が直面している状況が怖くなってきた。

「よ、妖精……? テレビとか、寝ぼけてるとかじゃないんだな、本当に……」

「ええ!いますよ! いつもは見えないだけで!」

健康そうな笑顔のアズールは、生きている人形みたいだ。
トイストーリーの世界はこんな感じだろうか。

こっちは本物だけど。

「起きましたね?もう寝ぼけてませんね? ではもう一回、『妖精魔法』について簡単に説明します」

アズールはくるくる指を回した。

「むかーしむかーし、悪いことをした妖精がいました」

「え?」

「いいから!」

アズールは続けた。


「昔々、悪いことをした妖精がいました。妖精の王様はたいそう怒って、その妖精を人間に見えるようにしてしまいました」

SKETDANCEの会長とボッスンがやったゲームかと

ボコォしなきゃ


「人間に見つかったら何をされるか分かりません。 悪いことをした妖精は、信頼しようと決めた一人の人間にだけ事情を話して、
『自分が使っている魔法』を『その人間が使っているように』見せかけました」

「こうして世界に初めて人間の『魔法使い』が生まれたのです」

アズールが指先で空中をつつくと、そこからポッと小さな炎が出た。

「ぅおおっ?!」

「あはは、だーいじょうぶですって、鼻の頭をちょこっと焙っただけじゃないですか」

驚いた声を上げると、彼女はくすくすと笑った。
妖精らしく愛らしい整った顔をしているが、油断ならん奴だ。

「……今のが、ま、魔法か……」

「驚くことないですよ。馴染みがないだけ、見えてないだけで魔法も存在するんですから。今のはホントにちょっとした魔法ですけど」

妖精が目の前で喋っている今、魔法がちょっと出たくらいじゃ驚かない。
ただ鼻が熱かっただけだ。


「さて、魔法使いの始まりはそんなもんですが、重要なのは罪人の妖精が人間に魔法を教えた点です」

「……まさか」

「察しが良い方がパートナーで助かりますよ。『妖精魔法』は一人じゃ使えません」

アズールはくすくすと笑う。

「私は罪人。我らの王は、罪人の人間界への追放を贖罪とし、一方で我々に条件を課しました」

「……俺に、その『魔法使い』のまねごとをしろって?」

「ええ、その通りです」

「罪を犯した妖精は11人。生きて妖精の国に帰られるのは一人だけ。
あなたには『藍色の妖精魔法』を与えるかわりに、私が生き残る手伝いをしていただきます」


「……は」

「ちなみに拒否権はありません。もう少し説明が必要ですね」

表情は変わらずニコニコとしているのに、今はそれが随分と怖く見えた。

罪人。
そう告げられて納得してしまうほど、彼女の笑顔には切迫感があった。

「今高校生ですよね?」

「は?」

「高校生ですよね」

「あ、ああ」

なんだ突然。
想定外の質問内容にリズムが狂う。

「あなたと同じ学級に、11人のピクシーが紛れます」

「は?!」

紛れるって、俺が今直面してんのと同じような状況のやつが、あと10人居るってことか。
うちのクラスに。

「たぶん」

「多分?」

「私がこちらに転送されるとき、ほかのピクシー全員に向かってそう宣言したからです」

「なんで?!」


「こ、効率がよかったんですよ学級の人数単位は。他の妖精たちが憑く人間たちを絞りたかったんですが、あんまり多すぎても誰が『魔法使い』か特定できないですし、コミュニティが狭すぎたらすぐ特定されちゃいますからね。あ、もちろん直接あなたに憑くとは言ってませんよ?! と、とりあえず目についた人間があなただったのであなたがいる学級にしようと思ったからですあなた」

急に饒舌になったアズール。
汗がこちらに飛んできそうな勢いだ。

「ふ」

「な、なにがおかしいんですかぁ?!こっちは生きるか死ぬかのデス妖精ゲームを繰り広げようとしているところなのに!!」

「いや、ごめん。アズールの焦り方が面白くて」

「なっああああ?! まだ気安く名前を呼んでいいとは言ってませんよ?!アズールと呼んでください!!」


どっちだ。
さっきまでの殺気立った雰囲気はなく、ただの小さな女の子を見ているような気分だ。

「いいよ」

だからこんなことを言ったのも、気の抜けて油断してしまったせいなのだろう。


「え?」

「いいよ。アズールが困るんなら、なるよ、魔法使い。 具体的に俺は、何をすればいいんだ?」


「フッ、」

「?」

「フフーーーン!!当たり前じゃないですか愚かな人間め!! 最初からあなたに拒否権などなかったような感じなんですよ!!」

アズールは当然といった様子で鼻を鳴らした。
随分と調子のいいやつだ。

「それであなたには、具体的に何をして欲しいかというとですね、他のピクシーが憑いている人、いわゆる『魔法使い』が誰かを見破ってほしいんです」

「ほう」

「最初に言いましたよね? 『ピクシー見つけた』って言われたら負けだって」

話を要約するとこうだ。

俺を含めて11人、明日から俺のクラスに『魔法使い』が存在することになる。
魔法使いは当然の事ながら、自分に憑いている妖精が持つ『魔法』が使える。

それを見破れば勝ち。
見破られれば、妖精は人間界での生存権を失い消滅。

協力した人間への見返りは、負けない期間だけ魔法が使えるという事。


「簡単でしょう?」

「全然簡単じゃねえ」


それにまだ、大事なことを聞いていない。


「お前が俺にくれる魔法はなんなんだ?」

「フフン、よくぞ聞いてくれましたとも!」


アズールは声高に宣言した。

普通に考えるならさっきの炎とか水みたいな自然を操る感じでもいいし、肉体強化とかでも戦う上では有利になるかも。
他の魔法使いがどんな魔法を持っているかわからないが、派手でなく、かつ強い毒みたいな魔法もアリだな。

高校生とは言え、本物のファンタジーに出会ってしまった俺はわくわくしていた。

「あなたの魔法は、










『一日に一人、その人の好きな人がわかる』魔法です」

「は?」


ー翌日ー

「無理だ」

「無理駄じゃないですよ!!私の命かかってんですよ?!」

あれから一晩寝ずに考えたが全く使い方が思いつかん。
高校生なら喉から手が出るほど欲しいこともあるかもしれん力だけれど、『好きな人がわかる』だけで魔法使いを探せというのはノーヒントもいいとこだ。

「いいですか?! 最悪ばれなければいいんです! 無理して魔法使って尻尾出すような真似はしないでくださいね?!」

「……」

無言で応える。
登校時なので他人の小さな独り言など聞こえないだろうが、用心に越したことはない。

どうやらこの魔法使い探しの間は、アズールの姿は俺にしか見えず、声も他人には聞こえないようだ。
他の妖精も、各パートナーと同様の状態らしい。


「あ、ちなみに」

「?」

「声、心で思うだけで伝わりますよ。あなたの妖精なので」

先に言えバカ。

「すみません」

アズールはぺろりと舌を出した。


(しかし……)

朝は何事もなく、普通にホームルームが始まった。
特に言うべきこともない連絡事項と、今日の予定。

警戒しすぎか?

一番すべきことは、魔法使いを見つける事よりバレない事だ。
『何もなかった』ようにしないとかえって不自然か。

意識すまいと思えば思うほど泥沼な気がする。

一人で悶々としていると、先生が最後に一言加えた。

「あ、そうだ」

「あと今日の給食はステーキとイチゴパフェに急遽変更になった。 業者の手違いらしいが、なんか良かったなお前ら!」

「は……?」

女子も男子も、戸惑いつつも歓声を上げた。



「ちょっと、なに呆けてるんですか」

(アズール?)

「早く他の人と一緒に喜んでください! 怪しまれる前に!
『魔法』が使われた可能性があります!」

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