【艦これ】提督、逃がしませんよ (10)
加賀さんとのちょっと甘めな短めのSSです。時季外れです
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少々騒がしい、横須賀鎮守府。
「提督、失礼します」
そう言って、正規空母加賀が、執務室に入ってくる。
しかし、そこに提督の姿は無い。
「…………」
ざっと執務室を見回した加賀は、眉を顰めた後、執務用の机の後ろに回り込んだ。
「……提督、一体何をされているんですか?」
「いや、ペンを、落としてな」
明らかに隠れていたのが見え見えだが、提督は表情を崩さずに机の下から出て来て、着衣を整える。
もはやツッコむのも面倒な態度だった。
「提督……」
「さて、少し工廠を見てくるか。確か、大鳳の艤装を建造している途中だったな」
「隼鷹です」
「……何?」
「艤装の開発は失敗しました。代わりに隼鷹の艤装が出来ました」
「…………」
表情は崩れていないが、明らかに落胆の様子が見て取れる。
まあ、我が鎮守府の資源圧迫の原因は間違いなく彼女の建造にあるので、無理も無い。
「そうだ。確か金剛に茶会へ誘われていたんだ。行って……」
「断っておきました」
「えっ」
「提督はお忙しいので、本日は来れないとお伝えしておきました」
「…………」
この人は……。
加賀は内心で溜息を吐く。
本人も分かっていてやっているのだから、そろそろ止めを刺してあげるべきか。
「提督」
「なあ、加賀」
「……何ですか?」
「旅に出てみたいんだ」
「……はあ」
「しおいの言っていた運河を見に行くのがいいな。大型の船を出して、みんなで……」
「提督。いい加減にしてください」
「…………」
加賀の言葉を聞いて、提督は素早くドアの前まで移動して、ドアノブに手を掛ける。
が、それを開ける前に加賀は提督の肩を掴んだ。
「さあ、やりましょう。年末決算と、報告書の作成を」
そう言われて、提督はゆっくりと後ろに振り返った。
その視線の先にある執務机の上には、大量の書類が。
そしてその横にも、書類が山のように積まれている。
「今まで逃げ続けていたようですが、私が秘書艦となった以上は逃がしません。鎧袖一触よ」
「私に何をするつもりだ。鎧袖一触……?」
「さあ、こちらに……」
「待て、加賀。これを見ろ」
そう言って、提督は加賀に何かを見せる。
それは、チケットのようだった。
「……これは?」
「実は昔の同僚から、レストランのペア招待券を貰ったんだ。だが、生憎と日付は今日まででな、どうだ加賀。一緒に食事でもしないか?」
「…………」
これは、提督の作戦だった。
何度も書類仕事から逃げていれば、最終的に加賀が差し向けられるのは容易に想像できた。
だから、美味しいもので誤魔化して逃げようと、無理を言って日付調整までして招待券を手に入れたのだ。
案の定、加賀はチケットを凝視したまま固まった。
そして、震える手でゆっくりとチケットに手を伸ばし……。
「っ!」
「うおっ!」
チケットを持っている提督の手首を掴んだ。
それも、痛いくらいの力で。
「早くこの書類を終わらせましょう」
「かっ、加賀?」
「私も手伝います。さあ」
そう言って、加賀もイスに座って、書類置きに使っていた机の上の物を退かす。
「この程度の書類、鎧袖一触よ」
「……破くなよ?」
いい加減腹を括ったのか、提督も筆を取って、ため息交じりにそう言った。
「終わった……!」
魂を吐き出すようにそう言って、提督は筆を置いた。
その机の上には、朝あった書類は無く、綺麗に片付いていた。
「加賀、すまなかったな。お前のおかげで早く終わった」
「いえ。それよりもレストランはまだ営業しているでしょうか」
「んっ……? ああ……。だが、少し時間が厳しいか」
「構いません。行きましょう」
加賀はそう言って、イスにもたれ掛かって天井を仰ぎ見る提督の手を取った。
「何だ。そんなに行きたいのか? 分かった。車を出そう」
そう言って、提督も立ち上がる。
「しかし加賀、そんなにレストランで食べたいのか?」
「……提督」
「何だ?」
加賀はそっと提督の手を握って、身を寄せる。
普段のクールな態度と違う加賀に、提督は思わず足を止める。
「提督が一緒だから、意味があるんですよ?」
「そう、か……。なら、急いでいかないと、な」
全く表情を崩さない二人だが、少しだけ二人とも頬を染めて歩き出した。
「んっ? 雪か?」
「綺麗、ですね」
「ああ。そうだな」
「……少し寒いですね。もう少し寄っても?」
「構わない……。ほら」
ぴったりと腕を組んで、二人は夜の闇に消えて行った。
以上です
乙
もはや正妻空母、最高かよ
やりました
おつー
さすがだずい
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