比叡がメインのちょっぴり甘めの短いSSです
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ここは鎮守府。の、執務室。
「失礼します!」
「んっ、入れ」
元気の良い声と共に、一人の戦艦がその執務室に入って来る。
「金剛型二番艦、比叡! 司令の秘書業務に来ました!」
「ああ。御苦労。では、本日から頼むぞ」
「はい! 気合い、入れて、行きます!」
比叡は気合い十分にそう言って、早速机の上に置かれている書類を手に取った。
「司令! この書類はどこにしまうのでしょう!」
「それはまだ目の通してない書類だ。戻してくれ」
「あれぇ!?」
アワアワと書類を元置いてあった場所に戻す比叡。それを見て、提督は幸先の悪さに溜息を一つ吐いた。
「比叡。こっちの書類の処理を頼む。やり方が分からない所があったらすぐに訊くように」
「わっかりました! お任せ下さい!」
比叡はそう言って、書類を持って机に着く。
比叡が秘書官業務に就くのは、実は初めてではない。以前にも僅かだが秘書を務めていた事があるのだ。
期間にして約一ヵ月。その間、ざっととはいえ確かに秘書業務について説明はした、はずなのだが……。
「司令! 出来ました!」
書類業務を始めて二時間が経過した頃、比叡はそう言って書類を提督に渡した。
提督も、業務の手を止めて書類を受け取った。
「……ふむ」
「どうです?」
「ここの計算が間違っているな。しかも、その後の書類も全部同じミスをしている」
「えぇ!?」
提督は書類を比叡に渡す。比叡は書類を受け取ると、指摘された箇所を見直している。
「うぅん……。見直したつもりなんだけどなあ……」
「事実間違えている。修正しておくように」
「はーい……」
その言葉に、比叡はうな垂れながら書類の修正作業に入った。
その後も。
「司令! アイスティーを淹れました!」
「すまないな……。んっ……? ああ。そうか。比叡、アイスティーを作るなら、一度湯で茶葉を煮出してから冷やしてくれ。最初から冷水では味が薄い」
「えっ、そうやって作るんですか?」
「えっ」
他にも。
「せっ、せめて司令の出来ない開発で頑張ろう……。むしろ、これまで失敗したら……」
そう言って、工廠へとやって来た比叡。狙うは46cm砲だが……。
「…………」
謎のペンギンのような生物を前に、完全に轟沈した比叡だった。
そうこうしている間に、時刻は一九○○。晩御飯の時間である。
「しっ、司令~……」
「どうした?」
「今日は、失敗ばかりでごめんなさい……。お詫びと言っては何ですが、夕食にとカレーを作ってきました……」
そう言って、比叡は提督の前にカレーを置いた。
提督も、出していた書類を片付けて夕食の準備をする。
「では、いただきます」
「はい、どうぞ……」
カレーを掬って、一口食べる。
「どっ、どうでしょうか!」
「う、む……」
「……司令?」
提督は、一声も発さずカレーを食べきると、ゆっくりと席を立った。
「すまないがドッグに用を思い出した。片付けを頼む」
「えっ、ちょっと司令!? 感想は!」
手を伸ばす比叡を余所に、提督は足早に部屋を出て行く。
「…………」
ポツンと残された比叡は、皿に残っていたカレーを指で掬って舐めてみる。
「……不味い」
全ての業務が終わった後。比叡は再び執務室に来ていた。
「はあ……」
結局、あれから提督には一度も会えず仕舞いだった。
もしかしたら執務室にいるのではないかと来てみたが、案の定というか。そこに提督の姿は無かった。
「…………」
朝からずっと失敗続き。せめてもの償いと慣れない料理を作ってみても失敗……。
「うう……」
涙が、溢れ出て来た。
「ふ……ああああああああああああああん!!」
周りの事など気にせず、床に座り込んで、比叡は大声で泣いた。
「比叡!」
「ふ……え……? じれい……?」
突然聞こえて来た声に、比叡は声のした方へ振り返る。
そこには、ずっと捜し続けていた提督の姿があった。
「う……! 司令、なにがごうでじょうがあ……!」
「ああ。いや、無理に喋らなくて良い。落ち着いてからで大丈夫だ」
「あい……!」
まだしばらく泣いている比叡の背中を、提督は撫でて落ち着かせる。
「……ごめんなさい。もう大丈夫です」
「そうか……」
比叡は、赤くなった目を擦りながら、ゆっくりと立ち上がる。
「先程はすまなかった。その、何だ……。私もあまり語学が達者な方では無いのでな。あの時、何と言えば思い付かず逃げてしまった」
「不味いなら不味いって言ってくれた方が、逃げられるよりマシです……」
「すまない……」
「……私、本当に怖かったんですよ」
「怖かった?」
比叡の言葉に、提督は首を傾げる。
「朝からずっと失敗続きで、全然司令のお役に立てませんでしたから……。見捨てられるんじゃないかって……」
そう言いながら、再び目に涙を溜める比叡。
その比叡の頭に、提督は手を置いた。
「誰も見捨てる訳が無いだろう」
「あ……」
「私がずっと傍にいてやる。だから安心しろ」
「…………」
「さあ、もう遅い時間だ。自室に帰りなさい」
はい……。そう答えて、比叡はボーッとしながら執務室を出た。
そして帰り道を、比叡は考え込みながら歩く。
先程……。というよりも今日、秘書業務をしている時から。自分の中で不思議な感情が芽生えているようだった。
それが一体何なのか。比叡には分からなかった。
「んっ? Hai比叡。ボーっとしてどうしたノ?」
「あ、お姉様……」
部屋の少し手前で、最愛の姉である金剛に声を掛けられる。
「お姉様、こんな時間にどうしたんですか?」
「今日は演習に出てて提督に会えなかったネー。だから提督に会ってTea Timeをしようと思ってネー」
「そう、ですか……」
ズキリと、胸が痛んだ。そこで比叡は気付く。
ああ、そうか……。私は……。
いつも仏頂面で不器用で、でもどこまでも優しい司令の事が……。
「お姉様! ティータイムは私としましょう!」
「比叡? でも、私は提督と……。ちょっと、そんなに背中を押したら危ないネー!」
比叡はグイグイ金剛の背中を押して、無理やり部屋に帰らせる。
「……お姉様」
「何? 比叡」
「私、お姉様と同じくらい大切な人、見つけました」
「……そう、それは良かったネー」
笑顔で言う比叡に、金剛も笑って答える。
そして、翌日。
「提督ぅー!」
「ん? 金剛か。どうした?」
そろそろお昼になろうという時間。執務室のドアが勢い良く開いた。
「提督に一つ忠告ネー!」
「忠告?」
「私から目を離しちゃNo! だけど、妹を泣かせるのはもっとNo! なんだからね!」
「あ? ああ……。分かった」
「そう、ならOkね! じゃあ、もう行くネ。そろそろComeする頃だしネ」
そう言って、金剛は執務室から出て行く。
それと入れ違いに。
「司令! お昼にカレー作ってきました! 食べてみてください!」
「比叡、か。カレー……?」
入って来た比叡の手には、先日と同じカレーがあった。
「……味見はしたか?」
「えっ?」
「えっ」
執務室を、沈黙が包む。
やがてゆっくりと提督は立ち上がって、比叡の脇をすり抜けるように執務室から出て行く
「司令? ちょっと司令? 何で走るんですか!?」
「せめて味見をしろ! 昨日は情けで食べたが正直食えたもんじゃないぞ!」
「今度は大丈夫ですって! あっ、すみません。ちょっと預かってください!」
「んっ? それはいいが……」
比叡は、通り掛かった長門にカレーを渡して、提督を追い掛ける。
「提督ー! なんで比叡から逃げるのですかぁ!?」
「お前がまともなカレーを作らないからだ!」
走る二人の姿を、長門と陸奥は、カレーを手に見送る。
「あら、カレーね。比叡が作ったのかしら?」
「だろうな。どれ……」
長門は指でカレーを掬って、食べてみる。
すると、みるみる内に表情が微妙なものに変わっていく。
「どう?」
「コメントは控えておこう……」
「あら、あらあら」
「提督! 待って下さいってー!」
「何ですか!? スクープですか!? これは……。青葉、出撃……。いえ、取材しまーす!」
「はわわわ……。提督さんが走って行くのです」
「ハラショー。元気だね」
「あれでお昼の御飯は手配されているのでしょうか。無ければ陳情も辞しませんよ」
「提督さん! あんまりうるさいと爆撃しますよ!」
横須賀鎮守府は、今日も平和である。
以上です
乙
比叡かわいい
ありがとうございます。この可愛い比叡のお話はまだ続きがあるのでまた別の機会に書かせていただきます
とてもよいもの
おつヒェ-
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