【キノの旅ss】「胸の話」 (15)

 草原の中の一本道を、キノとエルメスが走っていました。

「キノはさ」

「なんだい、エルメス」

 暖かい春の風が吹き渡るうららかな日差しの下で、エルメスが言いました。

「胸の大きさとかって気にしてるの?」

「…………」

 あたりが静かになりました。正確にはエルメスのエンジン音が響き渡っていますが、そんなことは気にならないほどの静寂でした。

「キノ?」

「…………」

「キノー」

「…………」

 何度かエルメスが呼びかけても、キノは微動だにしませんでした。ゴーグルの下の眼差しは日光の反射によって見えません。ただ口は真一文字に結ばれていました。



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「キノったらさ」

 エルメスが13回呼びかけ、周りが草原から森に変わるころ、ようやくキノが口を開きました。

「あのね、エルメス」

「うん、キノ?」

「エルメスが突然そんなことを言いだした理由について、ボクはよく理解できる。前の国のことだろ?」

「そうそう。前の国『女性は胸が大きいほど魅力的だ』って考えで、キノが女の子だって知ったら国中の人がみんなバカにしたようにキノを見たからさ」

「そうだったかな? 気にしていないから気にならなかったよ」

「そうだよ。その上、『あらやだこの子、こんな板みたいな胸でよく通りを歩けるわね』とか『わたしより胸のない人は初めて見たわ!! これで生きていける!』とか、『男の方がまだ大きいんじゃないか、あの子の胸だと』とか言ってた。それでキノは、3日の滞在を切り上げて2日目の昼には国を出て、そして今森の中を走ってる。本当なら今晩も白いシーツで眠れたのに」

「一つ訂正するとね、別にボクは陰口なんかどうでもいいし、特に胸のサイズになんか興味も関心もない。あの国を早くに出たのは、ただシャワーの温度がぬるかった。それだけの話だよ」

「ただそれだけの話なのに国を出たの? キノ」

「…………」

「本当があの国に腹を立てたんじゃないの?」

「だとしてもね、ボクは自分の胸なんか気にしない。大きかったって邪魔なだけだし、得することなんか何もない。旅をする上ではこれぐらいがちょうどいいんだよ。それに胸の大きさで評価されようと、ボクは痛くもかゆくもない」

 キノはエルメスの言葉を否定してまくしたてます。少しいつもより早口でした。

「そう、ならいいんだけど」

 そういって、エルメスはこれ以上この話題を掘り返しませんでした。

 しかし、数か月後のことです。城壁に辿りついたキノとエルメスはいつものように3日間の滞在を申請しました。

 すると、申請書類を受け取った審査官の女性が目をらんらんと輝かせました。

「キノさんは女性なのですか!? その胸で!?」

「は?」

 一瞬、ほんの一瞬剣呑な気配が出たことに、審査官は気づかないまま続けます。

「そんなに素晴らしい胸を持つ女性は初めて見ました! なんてすばらしいんでしょう!」

「は?」

 今度は真剣に疑問符でした。審査官はキノのこの困惑には気が付いたようで、とりなすように説明してくれました。

「も、申し訳ありません。実は我が国では遺伝的に胸の大きな女性が多いので、逆に胸の小さな女性こそが素晴らしいという考えがありまして……。いやぁ、それにしても素敵な胸だなぁ、憧れるなぁ」

 入国審査官はシャツに影を作っている自分の胸を見つめます。

「……はぁ」

「よかったねキノ! この国じゃきっとモテモテだよって痛っ!」

 キノはエルメスのタンクを叩きました。かなり大きめの金属音がしました。

 それから、キノは国中の人に話しかけられました。

 食料品店のおばさんには、

「あらまぁ! 素敵な胸だねぇ。こんなに平ら女の子を見たのは久しぶりだわぁ。私もそれぐらいだったらもっといい旦那見つけられたのにねぇ」

 パースエイダー(注・銃器のことです)のお店のおじさんには、

「おお! なんて小さな胸の嬢ちゃんじゃねえか! やっぱり胸のない子はいいなぁ。よし、おまけしてやる」

 レストランの若い男性シェフには、

「あああ、あの!! あなたのような胸の小さい方が、ずっと俺のタイプでした! よければこの特製コースを食べてもらえませんか!? そしてお付き合いしてください!」

 公園に行くと小さい女の子に、

「あの、旅のおねーさん、おねーさんみたいにむねが小さくなるにはどーしたらいいですか?」

 通りを歩くと、

「あなた、いい胸してるわね。私と一緒にモデルをしない? きっとこの国の頂点を目指せるわ」

「いいや、僕と一緒にアイドルをしよう! そんなに胸の小さい子ならこの国、いや、世界を狙える!」

「まてまて、どっちもすればいいじゃないか。写真集を出し、テレビに出る。すぐにこの国のトップスターさ! 国を挙げて応援しようじゃないか!」

 と、あっという間に人だかりができてもみくちゃにされました。






そしてこの日の夕方、キノとエルメスは反対側の城門から出国していました。




「もう出ちゃうの、キノ? 白いシーツがあって熱いシャワーが出るホテルをタダ同然で借りられそうだったのに」

「そのホテルの宣伝写真を撮ることを条件にね。加えてとても恥ずかしい格好で」

「それにしても珍しい。キノが3日滞在せずに国を出るなんて。ちやほやされてたのにもったいない。あ、もしかして、胸のことを言われるのが嫌だったとか?」

「あのね、エルメス」

 キノは観念したように言いました。

「前にも言ったように、ボクは自分の胸の大きさなんてこれっぽっちも気にしていない。あの国を出たのは、あのままだと大騒ぎになりそうだったからだ。それ以外の理由はないよ。幸い食料や燃料は安く補給できたし、次の国も近くにあるからね」

「ホントは?」

「…………。本当さ。ただね、一部の身体的な特徴でしか人を判断しないで、それをしつこく言われるのは決して愉快じゃない。それだけだよ」

「さいで」

「ああ」

 キノは自分の胸を少しだけ見つめて、

「さあ、暗くなる前に寝床を見つけよう」

 まっすぐ正面を向きました。

あとがき―Preface―
アニメ2期に触発されてキノSSを書き始めて早幾月。

私は成し遂げた。

「キノの貧乳ネタをいじると消息を絶つ」という都市伝説に打ち勝ったのだ! 私は成し遂げた! あの男か女かわからないキノの慎ましい胸を題材にしたSSを書ききっ……



あれ?




なぜだろう?






なにも見えな







ぬ?



おつー

ひんぬーを気にするキノかわいい






あれ?




なぜだろう?






なにも見えな







ぬ?

最後のぬっていったいなんなんだろうな


二つの国では入国前にサイズを測るのかな?

ちなみにキノは川で水浴びしていたらたまたまいた魚が“変なところ”に吸い付いてきて変な声をあげたことがあるからきっと感度はいいと思うよ

それ何巻だっけ?

>>13
覚えてないけど表紙裏の「あとがキノ」だったことはわかる

いやですねえ、こんなに散らかしてしまって……
お掃除をいたしませんと

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