【ハルヒ】涼宮ハルヒの暖冬【SS】 (16)
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【ハルヒ】涼宮ハルヒの冷夏【SS】 - SSまとめ速報
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涼宮ハルヒの暖冬
◇
今年も残り数週間で終わりを告げる、年末のことだ。
相も変わらずSOS団部室で好き放題やっている俺達だったが、今日は俺に危機的状況が訪れている。
「観念しなさい、キョン。洗いざらいぶちまけてもわうわ」
ハルヒは鼻先が触れ合いそうなくらいに顔を近付けてくると、腰に手を当てにんまりと笑った。
俺は両手を掲げ、目の前の神様モドキに顔が近いという抗議の視線と共に何も言うことはない
と反論したものの、『面白そうなこと』を目の前にしたハルヒを止められる者はもはやこの部室
に誰もいないことは分かりきっていた。
先程まで俺と将棋を指していた自称・超能力者でSOS団副団長である古泉一樹は、いつものうす
らにやけた笑みを変えることなく、俺とハルヒの動向を静かに見守っている。
おい、俺が6枚落ちという破格のハンディキャップで対局してやったんだから少しはフォローし
ろよ。
そのまま視線を窓側に移すと、SOS団の陰の立役者である宇宙人製アンドロイド、長門有希がこ
れまたいつも通り分厚いハードカバーに視線を落とし、我関せずを貫いている。
むしろ長門が興味深げにこちらの様子を伺っていたら、それはそれで心穏やかではない状況だが。
そしてSOS団きっての未来人マスコットアイドル、朝比奈みくる大天使様は、いつも以上に愛ら
しいお顔を微笑みに染めて俺達のやり取りを静観している。
朝比奈さん、その子供同士の喧嘩を見守る親のような視線で俺を見るのやめてくれませんか。
「それで、どうなのよ」
ハルヒの追及は止むわけがなく、俺はどうにかこの場を切り抜けられないか試行錯誤しつつ、
「そんなに睨むな。穴があく」
悪あがきを見せる俺に痺れを切らしかけている団長様は、俺のネクタイを力強く引っ張ると、
「言わないと[ピーーー]わよ」
死刑執行を言い渡された受刑者の気持ちが少し分かるぜ。
俺はネクタイをぐいぐい引っ張るハルヒを尻目に、窓の外に広がる澄んだ青空へと目線を向けた。
なぜ、俺がハルヒに詰め寄られることとなったのか。
事の発端は、古泉との会話だ――。
◇
三十分ほど時間を遡り、現在と同じく部室で古泉との対局に講じている最中のことである。
よせばいいのにハルヒを崇め奉る古泉の思考回路は、とにかくハルヒを楽しませることを最優先事
項としており、そのために日々裏工作を仕掛けている汚いヤツだ。
3か月ほど前、夏休みの時分に俺とハルヒをデートに仕向けるよう画策しやがったのは今でも恨んで
いるぜ。
そりゃ思い立ったのは俺だし、遊園地で遊ぶってのもガキの頃以来である程度は楽しめたが、ところ
構わず陰謀論を振り回してアトラクションにいちゃもんを付けるハルヒの面倒を一人で見るのは俺の体
力がもたん。交代要員を用意しとくべきだったんじゃないのか?
「あなたの代わりなどいませんよ。以前、あなたのことを涼宮さんに対する『鍵』だと申し上げました
が、ただの『鍵』ではありません。唯一無二の『マスターキー』と言ったところでしょうか。スペアキー
は存在しないのです」
古泉はハルヒに聞かれないぐらいの小声でそう言うと、手元にある歩をいじりながら気色の悪いウイ
ンクを俺に寄越してきた。
もうちょっと俺への労りを考えてみても良いんじゃないかね。
俺は穴熊囲いを画策している古泉の陣形を攻めたてつつ、
「年がら年中ハルヒに付き合う身にもなれよ。俺にも人権はあるぞ」
古泉はちらりとパソコンと睨めっこしているハルヒを見て、また俺に視線を戻すと、
「僕からしてみれば、あなたは少なからずこの状況を楽しんでいらっしゃると思いましたが」
「バカ言え。そもそもハルヒのお守はお前らの役目だろうが」
ハルヒを信奉してやまない『機関』は普段一体何してる連中なんだ?
街中で新たなハルヒ信者の勧誘でもしているのか。
「『機関』の方々の素性は不明です。普段何をしているのか、そのような事情は正直どうでも良い
んですよ。重要なのは、同じ目的を共有していることですからね」
孤島や朝比奈さん誘拐時にお世話になった多丸兄弟や森さん、新川さんの顔を思い浮かべてみる。
中でも一番謎なのは森さんだ。メイド姿だったりスーツ姿だったり、腹の底が窺い知れない言動は
果たして『機関』にいるときだけなのだろうか。案外、普段の生活上は愛想の良いただのOLとかかも
しれんな。まるでスパイの二重生活だ。
はい、王手、と。穴熊囲いは角攻めに弱いんだぜ。
「おや。逃げ回るしかありませんね」
俺に角を取られたのが運の尽きだったな。今日は缶コーヒーで手を打ってやる。
古泉は玉をずらして角道から逃げると、「ところで」と前置きし、
「その後、佐々木さんとはいかがですか」
なんの話題を持ってくるかと思えば、よりによってなんで佐々木の話なんだよ。
俺は前髪を小指でかき分けるキザ野郎の顔を睨みつける。当の本人は涼しげな表情で、
「気になっただけですよ。彼女は我々の存在意義に関する重要な人物ですからね」
そっとしておいてやれよ。ただでさえ、自分を神様扱いするおさげツインテールが周りをうろうろ
してうんざりしてんだ、あいつは。その上別の神様を信奉する連中にも付き纏われたんじゃたまった
もんじゃないぞ。
「付き纏うつもりはありません。それでも、彼女の動向はそれなりに耳に入ってきます」
おいおい。
「それを付き纏ってるって言うんだろうが。一般人を監視するのはやめろ。悪趣味だぞ」
古泉は首を振って否定すると、
「そうではありません。たまに連絡がくるのですよ、橘京子から」
「橘から? また面倒なことを考えてるのかあいつは」
ハルヒと佐々木を巡る一連の事件は、橘側が手を引くということでカタが付いたわけだが、まだ佐々木
と橘の交友がなくなったわけではない。それは佐々木も承知していた。
それを良いことにまた何らかの悪だくみを考え付くとも限らん。
俺が険しい表情をしていたのか、古泉は「ご心配なく」と肩をすくめて見せた。
「しばらくは大人しくしているよう釘を刺してあります。橘京子の連絡は、定期報告のような
ものだと思ってください」
どういう報告だ?
古泉は珍しく鬱陶しそうな表情で、
「佐々木さんとショッピングに行けた、佐々木さんと絵画の展示会に行けた、佐々木さんとお茶に行けた
などなど。まるで彼女の日記を聞かされているようですよ」
「それはまぁ…なんだ、お疲れさん」
俺は古泉の陰鬱そうな表情を見てそれ以上追及するのをやめ、話題を佐々木に戻すことにした。
「佐々木とのことだが、特に今までと変わらん。連絡はたまにとるようになったが」
駅前であいつに喋りかけられて以来、たまに連絡をとるようになったのは事実だ。と言っても、
お互いマメにメールをし合うような性格ではないので、もっぱら電話だが。
そういや、先月の終わり頃に佐々木と博物館に行ったな。
「仲睦まじいですねえ。橘京子によると、例の遊園地に併設されているところに行ったとか」
井戸端会議をするママ友かお前らは。
佐々木も、ぺらぺらと喋りやがって。
「冬季限定の割引だかなんかがあって、たまたまそこにしたんだよ」
「へえ、たまたまですか」
ぶん殴るぞ古泉。
「冗談です。それで、博物館で何をされたんですか?」
古泉はいたずらに笑うが、俺は視線を目の前の将棋盤に移し、
「別に。学校の課題に使える展覧がいくつかあったんだとよ。それを見に行っただけだ」
あと数手で詰みだな、これは。
そんなことにも気付いていない古泉はのんびりと歩を動かすと、
「これも橘京子からの情報ですが、なにやら佐々木さんが嬉しそうにあなたとのツーショット
写真を見せてきたとか」
「……いったい、なんのことやら」
「ご丁寧に腕まで組んでいたと仰っていましたが、本当ですか?」
これは非常にまずい展開になった。
まさかあの写真の存在を、こいつに知られるとは。
古泉はやや冷酷そうに笑みを浮かべながら机に肘を置いて手を組むと、
「僕も気になってHPを調べてみました。冬季限定割引、それは、」
「やめろ!!」
俺は勢い良く立ち上がり、古泉を見下ろした。
立ち上がった勢いで盤上の駒が拡散してしまい、机の上のあちこちに散らばってしまっている。
しまった、と後悔しても遅かった。
古泉は最初こそ目を開き驚きの表情を見せていたが、事の顛末を察するとすぐににやにやした
腹の立つ顔へと変えていった。
朝比奈さんは替えのお茶の用意をしていたが、「ふえ?」という可愛い声を出しつつ、立ち上がった
俺を不思議そうに見つめている。
長門は本の妖精と化しているのでいつも通りだ。
そして。
ネットサーフィンに講じていたであろう、この部室を不法占拠している諸悪の権化、涼宮ハルヒは、
モニタの上から顔を覗かせ、「なんなの?」という呆れた表情でこちらを見やった。
「すまん。なんでもない」
俺はいそいそと再びパイプ椅子に腰かけると、古泉を睨みつけた。古泉は知らん顔で散らばった将
棋駒を集めているが、まさかドローにする気じゃないだろうな。
しかし、なんでもない、で済まないのが涼宮ハルヒという女だ。
ハルヒがこちらに寄って来る気配を感じながらも、俺は古泉に倣って改めて将棋駒を並べていたのだが、
「で、なんなの? キョン。アホみたいな声出して」
蛇に睨まれた蛙状態である。
ハルヒは俺のおでこあたりを見ながら机に手を置いて体を預け、
「あんたのことなんてどうでもいいけど、また発狂されたらSOS団の平和維持に関わるから仕方なく聞いてあげる。なんなの?」
やけに早口で、なんなの、に妙に強いアクセントを残してハルヒは俺を見下ろす。もはや見下している
と言っても過言ではないが。
沈黙を貫く俺から視線を古泉に移したハルヒは、
「古泉くん。なんの話をしていたの?」
古泉、わかっているよな? 下手なことを言うんじゃないぞ。
「彼が先月末、博物館に行ったという話をしていました」
にやけ面でこちらを見ながらそうハルヒに告げる古泉。
気を利かせているようだが、中途半端にそんなこと言うとこいつは突っかかってくるぞ。
ハルヒも古泉の視線と合わせるように俺を見て、ふんと鼻を鳴らすと、
「あんたが博物館? 全然似合わないわね。空っぽの歴史を歩んできたあんたには不釣り合いだわ」
ほっとけ。
ハルヒは「というか」と付け加えると、
「誰と行ったの?」
ほらみろ、余計なことを聞いてきた。
俺は魚の骨が喉に刺さっているときのようなか細い声で、
「さあな」
なんて言ってしまったものだから、ここから怒涛の追及が始まることとなった――。
◇
はい、回想終わり。
俺もいい加減ハルヒの扱いに慣れてきたと思っていたが、まだまだツメが甘かった。妹がぺんぎんさん
を見たがってたんだ、とか適当なことを言ってはぐらかしておけば良かった。
それでハルヒが納得するとは思えないが、ひとまずこの場を凌ぐことはできたろうに。
やれやれ。
そろそろネクタイが千切れそうになってきたし、息苦しくなってきたので白状することにした。
「佐々木とだよ。あいつの課題を手伝いに行ったんだ。わかったら離せ」
俺が「さ」と言った時点でハルヒの眉が吊り上り、真っ白い歯をぎりぎりと噛みしめながら、
「どこの?」
ぐえ、そんなに引っ張るなバカ。
「もしかして、あそこじゃないわよね。前に行った動物園とこの」
「そうだよ」
「ふん。どうせ冬季割引に釣られて行ったんでしょ。あんたの思考回路なんてそんなものよ」
割引云々の話は佐々木の方からしてきたんだけどな。っていうより、
「なんで割引のこと知ってるんだ?」
ハルヒはぱっと俺のネクタイから手を放すと、焦った様子で三歩程後ずさり、
「う、うるさいわね。私は神聖にして不可侵たるSOS団団長なのよ。それぐらい知ってて当然でしょ」
目線を明後日の方向に向け、腰に手を当てふんぞり返るハルヒに俺は深々とため息を吐きながら、
「お前がなんで怒ってるのかわからんが、ただ博物館に行っただけだ」
「……あっそ」
もうそれ以上の興味を失ったのか、ハルヒは再び団長席に戻り、椅子にどすんと腰を下ろした。
そしてマウスをこれでもかというくらい乱暴にクリックしながら、モニターとにらめっこしている
状態に戻った。
俺は古泉に後で缶コーヒー奢れよという目線を差し向けると、古泉は僅かに顎を引いて肩をすくめた。
◇
「少し冗談が過ぎましたかね」
帰りの道中、俺と肩を並べて歩く古泉が白い息を吐きながらそんなことを言いやがった。
俺は前を歩いているハルヒ達を見ながら、
「まったくだ。余計なことばっかしやがって。ハルヒは藪からヤマタノオロチを出すようなやつなんだぞ」
ただ、正直もう少し突っかかってくると思っていたから変に拍子抜けした気分だった。しかしまぁ、
佐々木とのツーショット写真まで言及されなくて助かった。さすがの俺も、あれは弁解のしようがない。
古泉は何が面白いのか、くくっと笑うと、
「それはそれで興味深いですけれどね。あなたがどのようにご自身を弁護するのか」
うるせえ。お前はハルヒの精神コントロール係なんだろうが。役目を全うしやがれ。
「涼宮さんの精神は穏やかになっています。去年より比べものにならないくらい、ね。ですので、」
古泉は朝比奈さんに縋り付くハルヒを楽しそうに眺めながら、
「彼女に様々な体験をして欲しいと考えるようになりました。誰かに恋心を抱いたり、逆に嫉妬心を覚えたり。
普通の女子高校生がするような、日常的なことをして欲しい。あなたもそうお考えでは?」
その気色悪いウインクはお前の得意分野なんだろうが、俺にとっては余計寒くなるだけだ。
俺は古泉から頂戴したホット缶コーヒーを喉に流し込みながら、寒さを吹っ飛ばしそうなハルヒの笑っている
横顔を見て思う。
果たしてあいつが普通に女子高生らしい学園生活を過ごしていくことができるのだろうか、と。
いや、無理だろう。
なんせ、あいつは、普通であることを誰よりも望まない。無我夢中でこの世の不思議を探し出して、暴れて、
周りの連中を巻き込みながら突き進んで生きているやつだ。その生き方を誰が肯定してやる?
そして、誰にともなく俺は自然と、
「来年は何をしでかしてくれるんだろうな、あいつは」
なんて呟いていた。
古泉は俺の独白を聞いていたのかわからないが、ふふっと微笑むと、
「早く暖かくなるといいですね」
俺は良い匂いのする手編みのマフラーに鼻もとを埋めて、
「今年の冬は、去年よりは暖かいさ」
◇
『例の遊園地に、不思議な噂があるらしいから、今度調査しに行くわよ』
俺はゆるむ口元を抑えつつ、
『了解、団長殿』
と、返信した。
≪了≫
ありがとうございました~。
乙
途中の絵は何なの
>>13
ありがとうございました。途中の絵は友人が描いてくれたものです。
>>14
このssとは関係ないよね?w
今回も面白かった!乙!
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