ハピネスチャージプリキュアの二次創作です。
・悪堕ち要素あり
・誠めぐ、誠ひめ要素あり。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1509024530
プロローグ:キュアラブリー
ぴかりが丘にそびえる一本の煙突、その頂上にキュアラブリーは立ち尽くしていた。
街の景色が一望出来る、この場所が好きだった。
夕暮れに染まる街並み、その真ん中に流れる河川は陽の光を浴びて、キラキラと輝いている。
プリキュアにならなければ、見る事の出来なかった景色だ。
「あれは……」
プリキュアとなって強化された視力が帰宅途中の学生達を捉える。ラブリーが助けた事のあるぴかりが丘学園の同級生だ。
黒髪を三つに編み込んだ少女が繁華街を歩いている。
彼女はぴかりが丘学園の生徒会長だ。成績も優秀で、将来の夢は弁護士だとか。
河川敷には少し背の高い少女がいた。バレー部のエースでありながら、キャプテンも兼任している彼女はメンバーからの人望も厚い。
学園内では多用な個性を持つ彼等だって、こうしてみれば一介の学生に過ぎない。
ラブリー自身もそうだ。地球を救ったプリキュアとて、変身を解けば民衆に紛れてしまう。
「うぅっ……誠司ぃ……」
惨めさに耐え兼ねて、凍える様にしゃがみ込む。
助けを求めて開いた口からは、自然と幼馴染の名前がこぼれた。
ラブリーは多くの人を救ってきた。強者は弱者を助けなければならないと思った。
それこそが力を持った者の責任だと思い、事実として、今日までキュアラブリーは強者で有り続けてきた。
「でも本当の私は……強くなんか無かった……」
ラブリーの瞳には暗い感情が浮かんでいる
愛乃めぐみは勉強が出来ない。努力しても平均点が良いところだ。
愛乃めぐみが運動も出来ない。運動神経は悪くないと自負しているが、決して良い方ではない。
何もかもが中途半端だ。
少なくとも自分が一角の人物になれる様な器でないことは確かだった。
それが愛乃めぐみの現実だ。
愛乃めぐみは弱者だった。
「うっ……うぅっ……!」
夕陽は沈みかけ、空には既に幾つかの星が瞬きはじめている。
感情の逃げ道を探すかのように、ラブリーの瞳からはとめどなく涙があふれた。
1人になりたかった。
涙を堪えたくなかった。
今の現実が理不尽なのではない。
プリキュアとしての日々こそが分不相応だったのだ。
今こそ幼稚なメサイアコンプレックスから目覚めなくてはならない。
〈キュアラブリー〉は確かに救世の英雄たる人物だったが、〈愛乃めぐみ〉は違う。
〈キュアラブリー〉は〈愛乃めぐみ〉を包括していたが、逆はない。
ラブリーは、変身を解いては空も飛べないし、巨悪とも戦う事は出来ない。
〈愛乃めぐみ〉はただの女子中学生に過ぎなかった。
一章:愛乃めぐみ①
ぴかりが丘の中心部に位置する住宅街。そこから少し南に位置する繁華街。
その境目にブルースカイ王国の大使館はあった。
「はぁ~……この間期末テストが終わったばっかだっていうのに、今度は進級テストなんてちっともハピネスじゃないよー!」
「ほら、めぐみっ!そんな事言ったって問題は解けないぜ。」
一向に進まないペンに口から溢れるのは愚痴ばかりだ。
誠司の喝を受け、渋々と目の前の問題集に手を伸ばす。
しかしどこまでページをめくっても、続くのは白紙ばかり。
めぐみはこれでもか、というくらいに深いため息をつくのだった。
テーブルを囲むのはめぐみ、ひめ、誠司の3人。
今日は春休み初日。
この勉強会は誠司とひめが、めぐみのためにと提案したものだった。
「めぐみ、ここはこの数字を代入してだな……」
そう言ってめぐみをサポートする誠司。
最近のめぐみを殊更に心配してくれていたのは誠司だ。
神をも相手取った戦い。
プリキュアとしての最後の戦いが終わってから、めぐみはどこか呆けていた。
平和が1番というのは確かだが、刺激の無い日常に退屈していたのも事実だ。
とはいえ勉強を疎かにする訳にはいかない。
ぴかりが丘学園の進級テストは毎年始業式の前日に行われる。
結果は成績に反映されるし、赤点を取れば補習もある。
来年に控えた高校受験を考えれば、ここで酷い成績を取るわけにはいかない。
それはめぐみにも分かりきった事だった。
「けどさー、春休みは始まったばっかだよ?ねっ、ひめ!天気も良いし、どこかに遊びに行こうよー!」
「もー!その前に勉強だってば!毎日少しずつするのが大切なんだよ」
尚も愚痴るめぐみに、ひめの口から驚くほど優等生な台詞が飛び出す。
しかしそう言ってのけた、ひめ本人の問題集もさほど進んではいなかった。
めぐみと違い、ひめは学力に問題が無い筈だ。
そこに疑問を抱かぬめぐみではなかった。
ひめは誠司に弱い。
その事に気付いたのは最近だった。
誠司の言う事に合わせる、というのだろうか。
普段は以前と変わらないひめだったが、誠司を相手にした時だけは、妙にしおらしくなるのだった。
おそらくこの勉強会の真の立案者は誠司だ。ひめはそれに従ったに過ぎないだろう。
ひ~め~」
ひめはきっと勉強会に乗り気じゃない。
そこに勝機を見出しためぐみは、言うやいなやひめに抱きつき、横腹をくすぐり始めた。
「ひゃんっ!?めぐみっ!?
だっ、だめだよっ!今日の分が終わるまで遊びはお預けなんだからっ」
耳まで真っ赤になりながら、頑として譲らないひめ。
とはいえ、こちらも譲る訳にはいかない。
プリキュアとしての活動がひと段落した今、めぐみ達の集まりはめっきり悪くなってしまっていた。
特段の事もなく、共通の敵がいなくなった今、集まる口実がひとつ減った。
それだけの事である。
ある意味当然の事だ。
しかしそれを仕方ないと言って諦めるだけの聞き分けの良さを、めぐみは持ち合わせていなかった。
だからこそ、こうして集まれた時は「幸せハピネス」な事をしていたいのだ。
「そろそろ桜の季節だよね~。あー、ひめの作ったお弁当食べながらお花見したいなあ~、きっとすっごく美味しいんだろうなあ~」
「もう!めぐみってばぁ!まあ……それ程でもあるけどーっ?」
あとひと押しだと言わんばかりに誘惑を仕掛けると、ひめの口からいつもの台詞回しが飛び出した。
得意げなひめの姿に、陥落は間際だという事を確認する。
そう、めぐみ達は華の女子中学生なのだ。
プリキュアとしての活動は確かにめぐみにとってもひめにとっても大切な時間だった。
だけど、それは普通の女の子なら、恋に遊びに大忙しだったはずの時間だ。
ちょっとくらい勉強を後回しにしたって良い。
青春時代の1日は大変貴重である。
勉強などはいつでも出来る、むしろ後回しにされて然るべきなのだ!
「って、んな訳ねーだろ!」
「だよねー」
2人の声がタイミング良く被る。
一喝した誠司も、言葉とは裏腹に声は明るい。
誰からともなく笑い出し、あはは、と重なる笑い声が大使館に響いた。
ひめがぴかりが丘滞在を許されたのは中学卒業までだ。
一年後にはぴかりが丘を離れるかもしれない。
いつまで続くか分からない、こんな時間をめぐみは大切にしたかった。
『ぴかりが丘の皆さま、お騒がせしております!市議候補、現職市議の鈴木恵子です!』
大使館の前を1台の広報車が通る。
スピーカーからは力強い演説が流れ、昼前の住宅街に響く。
『私は以前この街のプリキュア、ハピネスチャージプリキュアに救けられました。』
「へー、私達ってそんな偉い人も助けてたんだね!」
「ふっふっふ、私達にかかればぴかりが丘の政治情勢も、思うがままという事ですぞ」
誇らしく笑うひめの頭からはすでに、勉強のことは消え去っていた。
。
『あの時私は、自分の価値観がまるごと変わるような衝撃を受けました!
皆様にもお約束します!
私が当選した暁にはキュアラブリーの言う所の「幸せハピネス」を皆様に……
』
広報車が大使館から離れていく。
あれだけ大きかった演説も小さくなり、やがて聞こえなくなった。
期待
このSSまとめへのコメント
このSSまとめにはまだコメントがありません