【エグゼイド】駆け抜けるSonic!【ソニック】 (184)
!CAUTION!
・仮面ライダーエグゼイド×ソニック・ザ・ヘッジホッグのクロスオーバーです
(どちらかというとエグゼイド寄り)
・エグゼイド本編およびソニックシリーズ一部作品のネタバレがあります
・1日1回まったり進行
・ゆっくりペースですがエグゼイド最終回までには完結させたい
!CAUTION!
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1501994987
- Tutorial. A New Venture -
[SONIC]
青きハリネズミが、大地を駆け抜けていく。
勢いのまま黒煙を突き破ると、回転しながらその先にいる敵へ突撃し、跳ねかえった反動すら勢いに変える。
まさに目にも止まらぬ速さ。彼の名――ソニックに違わぬ姿だった。
「オレから逃げられると思ってたのかい、ドロボウさん!」
クルっとターンし、ソニックは噂の泥棒と相対する。
体躯はソニックより一回り大きい程度。
黄色い金属質のボディに、背中からバイクのような排煙パーツが生えている。
姿を見たのは初めてだったが、その悪行と名前は既に聞き及んでいた。
「どういうつもりか知らないが、ソイツを渡すわけにはいかないな。
返してもらうぜドロボウ……いや、モータス!」
「気をつけて、ソニック。そのモータスってメカ、エッグマンのロボットとは違うみたい。
出方もわからないから注意して」
「No problem! あとは取り返すだけでおしまいさ」
後方から見守る二本尻尾の狐の少年・テイルスの警戒を、ソニックは軽く受け流した。
今いる場所は緑生い茂るグリーンヒルの最北部。
このモータスなる泥棒がよほど優れたスイマーかダイバーでもない限り、もはや逃げ場はない。
そしておそらく、ソニックの超スピードは水場に踏み込むことすら許さないだろう。
それでもなお、テイルスははっきりとしない顔をしていた。
もちろん、ソニックの強さと速さは誰よりも知っている。
だが実際に盗みの被害に遭ったテイルスの目から見て、モータスの手口はあまりに巧妙過ぎた。
わずか1日で自分だけでなくシャドウ、あるいはGUNの管理下にあった場所へ次々と侵入し、
騒ぎを知って駆け付けたソニックの探索先すら読むかのようにして鮮やかに盗みを完遂している。
そんな相手が、ソニックに追い詰められることを予期しないものか――
不安に思う間にも、ソニックが黄金のリングの輪をくぐって突撃する。
何度目かの直撃。
そのまま回転力を活かした二段蹴りが決まると、背中の噴煙口がいくつか砕け散った。
形勢は明らかにソニックに傾いていたが、それでもモータスは倒れも降参もしなかった。
「ガッツだけは中々だな。でも、そろそろおネンネの時間だ。
これ以上やったらバラバラになっちまうぜ?」
「今回モ勝テヌカ。ダガ遅イ、モウコノ世界ニ用ナドナイ」
「どういうことだ?」
「見ヨ……コノ身体ヲ」
ようやく口を開いたモータスを、ソニックは正面から睨みつけた。
機械的で無機質な声からは感情がほとんど感じられない。
だが大の字に広げられたその身は、ソニックを警戒させるのに十分だった。
いつの間にか、モータスの各所から色とりどりの輝きが透けて見えている。
ソニックの攻撃を受けながらも、モータスは盗んだ7つの宝石全てを無理矢理に体内へ取り込んでいた。
反撃を警戒し、ソニックとテイルスが動きやすいよう体勢を整える。
だが対するモータスは構えるでもなく、そのまま大の字に手足を広げたまま。
全く戦うのに向かないポーズに違和感を抱いた頃には、モータスが背にした海上が暗くなっていた。
唐突に現れた闇。しかし、ソニック達には見覚えがあった。
「あれは……時空の穴!?」
「なるほど、あくまで逃げの一手ってことか!」
大の字の体勢のまま、海上に生まれた穴へモータスが吸い込まれていく。
それを見逃すソニックではない。
「レディー、GO!」
迷うことなく、ソニックがモータスの後を追う。
閃光のごとく水上を走り、そのまま穴目掛けて飛び込んでいった。
だがソニックが突き抜けていった直後、穴が段々と縮んでいく。
このままでは間もなく消えてしまうだろう。
本気の一端を出したソニックに追いつけるほど、テイルスの足は早くない。
代わりにテイルスは、すぐさま近くに置かれた水上バイクへ駆け寄った。
海上への逃走を予期して準備したウェーブサイクロン号だ。
そのハンドル部に念のため用意していた腕輪をくくりつけ、さらにスロットルを全開のまま固定する。
そのままテイルスが飛び乗ると、マシンはソニックもかくやという速さで水上を突き進んでいく。
「お願い、間に合って……うわぁ!」
暴れ馬と化した車体からテイルスが放り出される。
同時に乗り手を失ったウェーブサイクロン号が、消える直前の穴へ潜り込んでいく。
その光景を確認すると、テイルスは水に落ちる前に尻尾を回転させ、そのまま自らの工房へと飛んで行った。
――ソニック・ザ・ヘッジホッグ。
彼の何度目かの、そしてこれまでと少し違う冒険が始まった瞬間である。
-------------------------------------------------
Kamen Rider EX-aid
--------------→
駆け抜けるSonic!
←--------------
Sonic the Hedgehog
--------------------------------------------------
やっとソニックSSを書いてくれる人が現れたか
期待
- Zone.1 Open Your Heart -
[EX-AID]
「モータスの亡霊?」
永夢は思わず、貴利矢にそう聞き返した。
ムテキゲーマーがクロノスを破ったその夜、CRでは勝利の余韻に浸る間もなくミーティングが開かれていた。
なにせ壇正宗の懐に忍び込んでいた九条貴利矢がその配下を脱し、CRへ帰還したのである。
仮面ライダークロニクルの内情など、敵地にある貴重な情報の共有は急務だった。
だが一応はクロノスに勝利し自分も無事に帰ってこれた以上、状況は好転をしている。
気を吐いてばかりというのもよろしくない。
そう判断した貴利矢が息抜きがてら提供したのは、幻夢コーポレーション内で噂の怪現象だった。
「ああ。なんでか知らないが、夜中にモータスが社内をウロウロしてる、なんていう話が流れててな。
偶然見つけても襲いかかってくるでもなし、その途端に姿を消しちまうらしい。
そんな始末だから、消されたバイクの亡霊がモータスの姿を取ってさ迷ってるんじゃないか?
……なーんて、すっかり怪談めいた尾ヒレがついてくるようになったワケだ」
「あ、あはは……」
永夢の口から乾いた笑いがこぼれる。
なにせ、リプログラミングでバイクを消し去ったのは誰あろう永夢なのである。
その亡霊がさ迷っているなら、標的は自分以外に考えられない。
大天空寺にでも相談しようか、とまで考えて、ようやくこの話が噂に過ぎないことを思い出した。
……そんな永夢はさておき、もう一人の天才ゲーマーはあくまでゲーマーらしく事を捉えていた。
「モータスが1人でも2人でもいいけどさ、仮面ライダークロニクルに関係ないなら放置でいいっしょ。
アイツそんな強くないけど、逃げ足だけは早いから面倒なんだよ。それに大我がゆうれ――」
「別にモータスの野郎とわかってりゃ何も問題ねえよ」
ニコが言い終える前に、大我が割り込む。
強引なのは明らかだったが、貴利矢はそれをバグスター相手の必死さと取ったのだから甲斐はあったのだろう。
「あー、そんなムキになるなって。そもそも真偽すら定かじゃない噂だ。
何度もコンティニューできるはずのバグスターの亡霊、ってのは面白いが、本当だとしてもあっちでカタつけるだろ。
なんたってあちらさん、仮面ライダークロニクルを広めるために特に痛い腹探られたくない時期だからな。
……ただ、開発関連か上層部でもない限り表に出なかったバグスターの話が、
噂話程度で出るくらいに空気が毒されてるのは事実ってワケだ」
幻夢コーポレーションの内部事情につなげて貴利矢が締めようとした時、室内に内線電話のコール音が響き渡った。
緊急通報。仮面ライダークロニクルが展開中である以上、いつ鳴ってもおかしくない。
幾度となく聞いたその音に応じ、いつものように永夢は素早く受話器を取った。
「はい、電脳救命センター」
「オマエガ『ホウジョウエム』……『エグゼイド』カ」
「……え?」
どこか聞き覚えがあって、同時に違和感を覚える声。
そして自分の名前ならまだしも、なぜエグゼイドと問うのか。
動揺が漏れるのも無視して、電話口の声は続く。
「ゲーム病患者ヲ出シタクナケレバ、今スグ聖華公園ニコイ」
「聖華公園? 待ってください、どういうことですか!?」
言いたいことだけ言って、電話は切れてしまう。
その慌てようにすぐさま顔を向けたのは貴利矢だった。
「ただの通報、って感じじゃなさそうだな」
「ええ。ゲーム病患者を出したくなければ聖華公園に来いって……。
僕やエグゼイドの名を出したのも変ですし、何より声に覚えがあるんです。
ちょっとヘンでしたけど」
「ほう? ハズレでもいい、誰っぽかったんだ」
「……モータスです」
永夢の出した名に、一瞬場が静まり返る。
嫌が応にも、話に出たばかりのモータスの亡霊が思い起こされる。
「まさか、マジで亡霊?」
「そんなワケあるか。おおかた、クロノスの野郎にけしかけられてるんだろ」
またしても大我が亡霊の存在を否定するが、今度は新たな伏兵が現れた。
腕を組んで座っていた黎斗、もとい新檀黎斗である。
「亡霊という可能性もなくはない、か」
「なんだとテメエ……!」
「気にするな、霊魂だのなんだのという話ではない。
バグスターのダミーを用意するくらいあの男は平然と指示するということさ。
クロニクルの管理下にあるコンティニューデータから細工すれば、私ほどの腕がなくてもできるだろう。
本人を脅す以上に効率的で、クロニクルを汚さない。いかにも壇正宗が選びそうな手じゃないか?」
大我の言うことも、そして黎斗の言うことも一理ある。永夢はそう感じた。
モータスとは最近遭遇していない。仮面ライダークロニクルのスレッドでも話題が出ていない。
そしてスイッチ一つでバグスターの命が管理されている光景を、永夢は既に見ている。
鏡飛彩すら引き入れた正宗のこと、バグスター自身の命という強力な交渉材料を表沙汰にすれば、
管理下から外れうるパラドやポッピー以外のバグスターは逆らえないだろう。
同時に目の前の九条貴利矢がそうであるように、人間のバックアップデータから再生ができるならば、
バグスターでも同じことができておかしくはない。
電話越しに聞こえたモータスの声が不自然だったことも、本人でないなら説明が付く。
主力商品と言ってはばからないデスゲーム『仮面ライダークロニクル』のコンテンツとして
バグスターを見ている正宗が、そのコンテンツを自ら歪める手法を避けたがるのも筋は通っている。
だがそのどちらを選んでも、永夢には腑に落ちない部分があった。
(なんでモータスを使ったんだ……?)
パラドやグラファイトは難しいにしても、より戦闘に適したバグスターは他にいくらでもいる。
元々がレースゲームのキャラであり、今となってはバイクもなく、噴煙とダッシュ力程度しか特徴はない。
そんな現在のモータスを駒に選ぶことのメリットが永夢には思いつかなかった。
まさか社内の怪談話に乗った、などという酔狂な真似でもあるまい。
捨て駒にする前提だからか、気付いていないだけでモータスにしかない何かがあるのか。
あるいは何か別の狙いが……と考え込む永夢の肩がポンと叩かれる。
「考えてダメなら、ここは現場百遍と行こうじゃない。
罠なら2人がかりでブチ破ればいいし、噂の亡霊だったらここできっちり縁切るのが一番だ」
「貴利矢さん……」
「レーザーターボにもアンチバグスターエリアが実装されてるのは知ってるよな?
誰かさんが永夢を乗っ取ってどこか遠いところで決闘、ってのは自分でも防げるワケさ。安心だろ?」
左手に握られたゲーマードライバーを揺らしながら、貴利矢が笑う。
本当に帰ってきたんだ、という実感と共に永夢は力強く答えた。
「わかりました。行きましょう!」
[SONIC]
「まさか、またここに来るなんてな。どこまで行っても張り合いがないぜ」
思わず肩をすくめながらソニックはぼやいた。
モータスを追ってきた先にあったのは、見渡す限り真っ白な世界。
何もない世界で走る爽快感など、大海にジュースの粉末を混ぜるようなものだ。
だがソニックにとって半ば生き地獄のようなこの光景は、初めて見たものではなかった。
そんな世界に突如けたたましいモーター音が響く。
背後を見ずに飛び上がると、地面に叩きつけられるようにして何かが滑り込んで来た。
陸地には不似合いで、そして見覚えのある水上バイク。
「Wow! こいつは思い切りがいいや」
「……ソニック、大丈夫? そこにいる?」
「こっちは無事だ。モータスは見失っちまったけどな……。
にしても、ピザのデリバリーにしてはずいぶん派手だったぜ」
「ごめん。でも他に手がなかったんだ」
ハンドル部から回収した腕輪をさっそく右腕に巻き付け、ソニックはテイルスと交信を続けた。
何度目かの横転の末に停止したウェーブサイクロン号はスクラップ同然の有様だったが、
元より拾い物の資材で作り上げた急造品である。
少なくともソニックに渡った腕輪型通信機は、急造のマシン1台よりはるかに価値があった。
これがあれば離れた場所どころか、離れた世界にいてもサポートできるのだから。
「やっぱりその場所、この前と同じ時空の歪みみたいだね。
通信機の機能が生きてるのがその証拠だよ」
「なんでアイツがタイムイーターと同じチカラを持ってるのか知らないが、
ここが残ってるってことはまだ終わっちゃいなかったってことか。
まだ帰って来たかわからないままだったよな、エッグマンのヤツ」
「たしかにそうだけど、エッグマンが自作じゃないメカを投入してくるかな……。
動物はともかく、メカに限っては必ず自分のメカで勝負してくるのが意地だと思ってたけど」
工房で検証作業を進めながら、テイルスは少し前のことを思い出していた。
……タイムイーター。
今から1週間ほど前にソニック達を襲った、時空を超える魔物である。
悪の科学者・Dr.エッグマンに操られたタイムイーターは、ソニックがこれまで訪れた時代と場所を切り取り、
ソニックとその仲間達を謎の白い空間に吸いこんだのだ。
それだけでなく、タイムイーターの凶行はソニックをライバル視するメタルソニックや、
現代に居合わせなかったシルバーやブレイズ、終いには過去の時代のソニックまでも巻き込んでいた。
だが、その異変は2人のソニックが切り取られた時空を駆け抜けることで正常化し、最後はタイムイーターそのものを撃破。
巻き込まれた仲間達は無事に帰還し、空間も元通りになったことで、全て終わったはずだった。
今いる白い世界は、まさにタイムイーターの展開したものと同じ。
通信機からの収集データはテイルスにその事実を示していた。
同時に、何もかもが同じではないということも。
「この間と違って、切り取られた空間が1つもないね」
「ほっといたらこれから増えるってことだろ? そうなる前に捕まえないとな」
「……案外、そうでもないみたい」
「どういうことだ、テイルス?」
「ウェーブサイクロン号が突入した時のデータと、タイムイーター事件の時のデータを比較してたんだけど、
見た目はそっくりでも時空の穴の性質がずいぶん変わってるみたい。
少なくとも時間の流れを消し去ったり、他の空間をそこに繋ぎ止める能力はなくなってると思う」
「時間移動じゃないって? じゃあ、あの穴はどこに繋がってるんだ?」
言いながら、ソニックが通信機のカメラを前方へ向ける。
そこにはたしかに、今しがたソニックが突入してきたものと同じような穴があった。
踏み込まないように注意しつつ穴の先を見るが、わずかに見える光景に見覚えはない。
「多分だけど、行き先は別の世界だよ。ぼく達が時空移動した時の反応に似てるんだ。
ただ、モータスがそこに入ったかまではちょっと……」
「そいつは心配なさそうだぜ」
穴の前に落ちているものを拾いながら、ソニックが不敵な笑みを浮かべる。
何もない空間に転がるパイプ状のパーツ片はひどく目立つ。
足跡が残らないこの場所にあって、それは決定的な痕跡だった。
「アタリだな。壊したのが背中じゃ、気付かなくても仕方ないか」
「モータスはその穴の先にいるってことだね。
移動した先で待ち伏せされてる可能性もあるから、出る時に注意して」
「Don't mind! なら突っ切って行くだけさ。
留まってたところでアイツの悪だくみを黙って見てるだけだ。
それに……カンタンな冒険じゃつまらないだろ?」
たとえ行く先がどこだろうと、相手が誰だろうと、彼に恐れなどない。
テイルスに力強く答えると同時に軽くその場で跳ね、スタートの姿勢を整える。
駆け抜ける準備はできた。あとは行くのみ。
「待ってろよ、モータス!」
青い光が、また別の異界へと突き抜けていった。
[EX-AID]
聖華公園。
聖都第8地区の中央にあるこの公園は、入口以外の周囲が高い木々に囲まれている上、
21時過ぎともなればわずかにある子供の影もなくなってしまう。
その視認性の悪さから夜に様々な事を起こす輩が絶えないこの公園は、なるほど罠にはうってつけで、
同時に複数の発見者が現れにくい以上は善意の可能性も否定できない場所でもあった。
そして辿りついた永夢と貴利矢が見たのは――見慣れたバグスターの姿だった。
「モータス!」
黄色をベースに青に塗られ、背中からバイクのマフラーを生やしたその姿は紛れもなくモータスのもの。
何故かマフラーの幾つかが砕けていたが、その程度で見間違えるはずもない。
そのバグスターが、仁王立ちで永夢達の前に立っている。
「来タナ、『エグゼイド』。我ハ『モータス』」
「おいおい、こっちには挨拶なしか?
今さら自己紹介がいるような間柄でもないけどさ」
「オ前ハ……『レーザー』カ。面白イ」
言葉と裏腹に、全く面白がるような感情を見せない声。
そんなモータスを前に永夢は再び思案していた。
何度見たところで、マフラーの破損以外はなんらモータスと変わらない姿形。
だが、実際に対峙してなお機械的な不自然さを感じさせる声と、異様な硬さを感じる話し方は、
あの調子乗りで軟派なバグスターとは違い過ぎる。
「……貴利矢さん、どう見ます? 」
「とりあえず実体はありそうだ、ってくらいか。
幽霊や映像系のダミーってセンは外せそうだが、あの社長さん何でもやりかねないからな……。
ま、どっちにしろあのモータスが元なら大した敵じゃないだろ。このまま倒すぞ」
「はい。すぐに終わらせましょう」
力強く頷きながら、永夢はガシャットに手を掛けた。
既にオリジナルのモータスは永夢の敵ではない。
それどころか、この間に至ってはニコとポッピーを前に逃走するような身なのだ。
多少の変化なら押し切れると判断するのは自然の成り行きだった。
だがそれと同時に、モータスが指から光を放つ。
それが攻撃手段でなくバグスターウィルスの放出だと気付いた時には、
既にオレンジに発光するウィルスでトゲ付きのホイールが形成されていた。
「バグスターユニオン!?」
「なぜ完全体のコイツがユニオンを……」
疑問に思いながらも、2人は急いでゲーマドライバーを腰にセットする。
バグスターユニオンはその性質上、戦える相手は限られてしまう。
誰が誰と戦うかはすぐに決まった。
「僕がユニオンを叩きます。貴利矢さんはモータスを!」
「おう、任された! 」
『レッツゲーム!メッチャゲーム!ムッチャゲーム!ワッチャネーム?
アイム・ア・カメンライダー!』
『爆走!独走!激走!暴走!爆走バイク!!』
揃ってガシャットをドライバーに挿し、そして貴利矢だけがレバーを倒す。
変身完了と同時に、ずんぐりむっくりとしたLv1のエグゼイドがバグスターユニオンに突撃していく。
それを横目にスマートな体型のレーザーターボは、モータスと対峙していた。
「お前がゆっくりしてる間にこっちはターボに乗り換えててな。
さぁて、ついてこれるかな?」
「イキガルナ……人間」
「悪いけど自分、もう真人間じゃなくてさぁ! そらっ!」
言うや否や、レーザーターボはキレのあるステップでモータスに接近し、側面目掛けて蹴りを放った。
貴利矢の得意技・飛び回し蹴りである。
蹴り足を裏拳で受けられても勢いは止まらない。
ローキックをアクセントに、後ろ回し蹴り、膝蹴り、飛び踵落としと次々に蹴りを見舞っていく。
「なるほどー、防御はお上手になったもんだ」
「オ前程度ノ速サナド、対応ノ範囲内ダ」
「言ってくれるじゃない。でも、受けてばかりじゃ説得力ねえぞっと!」
避けて防ぎ、いなしては受けと巧みに耐え続けるモータスだが、不思議なことに全く反撃してこない。
俄然レーザーターボの攻勢が強まり、連撃がさらに激しさを増す。
守りが強いなら崩すまで。貴利矢は勝負に出た。
ローキックを再び振る。
モータスがスネを合わせてくるが、その手前でレーザーターボの足が止まる。
直後に放たれたのはミドルキックだった。
寸止めから放ったことで威力は落ちるが、受けを超えた一撃はモータスを確実にぐらつかせた。
それを見逃す貴利矢ではない。すかさず体重を乗せた前蹴りが放たれ、守勢のほころびを広げていく。
そしてモータスが体勢を立て直すよりも、レーザーターボの踏み込みの方が早かった。
次の瞬間、モータスは高々と打ち上げられていた。
「派手にダウン取って一本、ってところか?
そろそろ永夢も患者を助ける頃合いだからな、お遊びは終いだ。
もっとトレーニングしたいなら後はお友達にでも相手してもらうといいぞ」
「ククク……」
渾身のサマーソルトキックで宙に浮かされてなお、モータスは余裕を崩していない。
それどころかゆっくりと起き上ったモータスは笑っているようにすら見えた。
不可解な反応。蹴り倒されたのがそんなに嬉しいか。
だがキメワザスロットに手を伸ばした時、貴利矢は気付いた。
起き上った瞬間から、モータスの視線が自分ではなくエグゼイドへ向いていることに。
(……まさか、ユニオンに何か仕掛けてあるのか!?)
慌てて振り向くと同時に見えたのは、エグゼイドが大ジャンプで飛び上がる姿だった。
「トドメだ!」
ハンマーモードのガシャコンブレイカーを構え、トゲの勢いを超える衝撃を叩きこむ。
その一撃で結合が解け、集合したウィルスが分散していく。
これで取り込まれたゲーム病患者を救出し、バグスターと分離させられる。
Lv1はそのために用意された形態である。
だが、その場に残されたのは患者ではなかった。
「え……なんだ、コレ?」
戸惑うエグゼイドの前に現れたのは一台のバイクだった。
シャープかつ凶暴なシルエットを形成する、剥き出しのメタルフレーム。
わずかに貼りつく外装部は濃紺に塗られ、夜の闇に溶け込む。
そしてハンドルの前に鎮座する、血のように紅いヘッドライト。
「我ガマシン『メタルマッドネス』ダ」
「マシンだと……うおっ!?」
先ほどまでの防御一辺倒が嘘のような、俊敏な踏み込みからのフック。
反射的に防御してしまったレーザーターボの肩を踏みつけながら、モータスが高く跳躍する。
そのままモータスはバイク――メタルマッドネスのシートに着地していた。
「わざわざ呼び付けたのは、これが狙いだったのか?」
「そういや、前のアイツのマシンもバグスターウィルスの寄せ集めだったか……。
バイクの亡霊ってのはある意味当たってたのかもな。
どうにも実力隠してるようだし、思ったよりタチ悪いぞコイツ」
警戒するエグゼイド達に応えるがごとく、モータスはメタルマッドネスのエンジンを思い切り噴かす。
だが、それだけだった。逃走する様子はない。
それどころか、かかってこいと言わんばかりに指先で挑発してくる。
「『最速』ノ一里塚ヲ試ス。レース勝負デオレヲ倒シテミロ」
同時に車体をエグゼイドに向け、再びエンジンを噴かして煽ってきた。
準備をする時間は与えるが、レースに応じなければこのまま轢く、と言わんばかりだ。
下手に無視して暴走されれば、甚大な周辺被害と感染拡大につながりかねない。
永夢達に選択の余地はなかった。
すぐさまゲーマドライバーのレバーを開き、エグゼイドが細身のLv2へ姿を変える。
『マイティジャンプ! マイティキック! マイティマイティアクション・X!』
「よっと!レースならこうじゃないとな!」
「永夢、今回は自分もレーサーとして挑ませてもらうぜ」
「え?」
驚くエグゼイドに、レーザーターボが取り出したのは『爆走バイク』のガシャットだった。
ただしエグゼイドが今まさに取り出したものや、レーザーターボが変身に使っているものとは違う。
フレームが黒く、ラベルはモノクロ。
それは紛うことなきプロトガシャットだった。
「プロト爆走バイク!?」
「調査に使うつもりで抜いたのをそのまま持って来ちまった。
今となっちゃ手荒に扱いたくないんだが、自重一つで取り逃がしたら笑い話にもならねえ」
「よし……なら、2台で一気に!」
『爆走バイク!』
『爆走バイク!』
2本のガシャットが起動し、ホルダーに収まる。
同時にエグゼイドとレーザーターボの背後から、それぞれバイクが現れた。
瞳がないことを除けば、かつてレーザーが変形したものと同じ黄色く派手なが並ぶ。
2台のレーザーがメタルマッドネスに真っ向勝負を挑む。
そしてレースにふさわしく、かつ被害を避けられる場所として『爆走バイク』のステージを選んだ。
――いや、選べなかった。
[SONIC]
「What!? どうなってるんだ……?」
目の前の光景に、ソニックは呆然としていた。
穴を踏み越えて見えたのは夜の住宅街だった。
そこから進んで、今立っているのは広大な公園の入り口。
待ち伏せはないがモータスを追う手がかりも途切れている。
見知らぬ世界の、見知らぬ場所。
だが、突如として現れた光輝くラインが現れた。
それが格子状に公園一帯を囲むと、風景が急速に変わっていく。
そして気付いた時、ソニックの前にあったのは――
「あれ? ソニック、今ステーションスクエアにいたっけ……?」
「違う。ここはオレ達の世界じゃないし、ついさっきまでここは公園だったんだ」
「そ、そうだよね。でも、通信機からの視点だとわからないくらい同じに見えるよ」
ネオンが輝く夜のビル街に、360度ループの道路や空中移動ロケットが配置されたその場所は、
ソニックだけでなくテイルスにも見覚えがあった。
ステーションスクエア。その夜の名所であるスピードハイウェイ。
ソニックの世界にあるはずのそれが、突如として現れている。
足場になっている高層ビルも、数秒前には存在しなかったものだった。
「これもモータスの仕業か?」
「そうかもしれない……前にタイムイーターが吸い込んだ時間にあったよね、この場所」
「ああ。でもアレは昔の、本物のステーションスクエアだった。
今ここにあるのはただ再現しただけのニセモノだ」
あえてソニックはそう言い切った。
本物の都市なら、格子状のラインの手前で道路が寸断されてしまうことなどあり得ない。
展開された空間の端に偶然いたことで見えたものだ。
その事実をはっきり自己認識しなければならないほど、内部の再現度は本物と変わらなかった。
「ヘンなことになったが、とりあえずモータスを探すか。
こんなマネしても時間稼ぎになんかならないって教えてやるさ」
「帰るためにもまずはそうするしかないね……同じ構造なら、少しは探すのだって簡単かも」
「こっちのホームみたいなもんだからな。サービスがいいや」
ビルからビルへと飛び移りながら、ソニックは偽りの街を軽快に駆ける。
時空の穴に謎の空間、どちらもモータスの手によるものならまだ遠くには行っていない。
その考えが正しいと証明されるのに、さしたる時間はかからなかった。
「見えた、モータスだ! バイクに乗ってるみたいだがアイツのはずだ」
「こっちからも反応、確認できたよ!」
「やっぱり間違いないか。それに他にも誰かいるみたいだぜ?
なんかエミィみたいなヤツだが、モータスの仲間ってワケじゃなさそうだ」
眼下に見覚えのある壊れたマフラーを確認したソニックは、同時にその後方にいる何者かにも気付いていた。
ピンクの頭髪に小型ハンマーを手にした姿はソニックの知人を思い起させたが、彼女より戦士然としている。
そんな謎の戦士だが、どうもモータスの乗っている謎のマシンに苦戦しているようだ。
ならばとソニックはビルの壁面を駆け降り出した。
バイクを使われた程度で、スピード勝負に負ける気など毛頭ない。
だがビルの中腹に降り立った瞬間、一瞬その足が止まった。
止めたのは疲労ではなく不可解さだった。
「なんでアイツが、あの力を使ってるんだ……?」
[EX-AID]
「ったく、こいつはまるでジェットコースターだな!」
立体ループする道路をなんとか走り抜けながら、レーザーターボがヤケクソ気味に叫ぶ。
2台のレーザーは高速道路と高層ビルが立ち並ぶ夜の街を走っていた
金色に輝くリングが点在し、各所にはバネやブースターが置かれ、
空中移動用なのか小型ロケットらしきものすら見える。
『爆走バイク』のステージである荒野のレース場と、あまりにもかけ離れた光景。
展開方法はゲームエリアのそれだが、エグゼイドもレーザーターボもこんなエリアは知らない。
その場にいるのが3人しかいない以上、犯人はおのずと絞られた。
「こっちのステージセレクトに割り込んで来るなんて!」
「クロノスやパラドばかりに気を取られてる場合じゃなかったな、こりゃ。
男子三日会わざればなんとやらってヤツか」
言いながらも、今度はレーザーターボのバイクが路上停車中の車の真上に着地した。
ズドン! という音は、仮に車中に人がいれば事故死を免れない衝撃を物語っている。
ここが現実から隔離された場所であるからできる芸当だった。
だがそんな無理をしてもなお、メタルマッドネスの赤いヘッドライトすら見えない。
このゲームエリアには『爆走バイク』のような既定のゴールが存在しない。
故に順位を競うスピードレースも成立し得ない。
必然的にモータスから仕掛けられたレース勝負は、相手に追いつきクラッシュさせるバトルレースになっていた。
だがモータスはそんなことなど知らぬかのように、全く減速せず走り去っていく。
ドリフト走行で急激なカーブを平然と曲がり、その勢いで螺旋状に回転する道路を駆け抜け、
ビルとビルの間を平然と最高速のまま大ジャンプしていく様はあまりに命知らずで、そして速かった。
「ノリが良いのも大概にしろよアイツ……普通にやってちゃ追いつけないぞ」
「普通? そうか、なら普通じゃない方法で!」
メタルマッドネスが360度ループに入ったのを見るや、エグゼイドはその手前のブースター目掛けて突っ込む。
そして角度を調整し、ループに乗らず真っすぐ飛び込んでいった。
「ナイス名人芸!」
エグゼイドを追い、レーザーターボも同じようにループを丸々すっ飛ばして距離を縮めていく。
コースアウトすれば脇にそびえる高層ビルに突っ込みかねないが、それだけに速度差を埋められるだけの短縮になる。
モータスの移動先を見てはそんなショートカットを敢行していく中、ついに長い直線路が見えてきた。
「永夢、ケリをつけるぞ! 自分が行くから援護頼むわ!」
「オーケー!」
ダブルライダーが勝負に出た。
直線前のカーブをドリフト走行するメタルマッドネスに、あえてエグゼイドが真っすぐ突っ込んでいく。
そしてそのままガシャコンブレイカーを振りかぶった。
ガードレールへの接触と引き換えに、メタルマッドネスの後輪へハンマーが直撃する。
体勢を崩したままのモータスが直線路に入るや否や、今度はレーザーターボがキメワザスロットに手をかけた。
『キメワザ!爆走・クリティカルストライク!』
「最速で決めるぜ!」
レーザーターボが一気に急加速する。
元々出力で勝るプロトガシャットの上、専用の連携機構を持つレーザーターボとなれば出力ロスは皆無に近い。
正規版を超える最高速度を発揮し、カーブからの立て直しで隙を見せたメタルマッドネスを猛追していく。
そしてメタルマッドネスの側面目掛け、黄色のオーラを纏ったプロトレーザーが激突した。
耳障りな金属音と共にモータスがバイクごと派手に吹き飛ばされていく。
やがて高速道路の料金所に激突すると盛大な爆炎が上がった。
「やった!」
「やっぱりターボの方が速かったってワケだ!」
追いついてきたエグゼイドとともに、バイクを停止させたレーザーターボは会心のガッツポーズをとった。
まだクリア表示はないが、いくらかレベルアップしていてもゲームオーバー必至だろう。
これまでのモータスなら1回倒してお釣りが出るダメージなのは間違いない。
――だからこそ、その声は聞こえるはずのないものだった。
「ナルホド、オ前モ少シハヤルナ……」
直撃、していたはずだ。
モータスなら耐えられないほどの攻撃も、確かなはず。
だが爆炎の中から現れたモータスとメタルマッドネスには何らのダメージも見出せない。
鮮やかな緑の閃光を時折放ちながら悠然と歩く姿からは、レース前以上の余裕すら漂っていた。
「ダガソレデ『最速』トハ笑エヌ冗談ダ」
「アンタのタフさはキツい冗談だけどな……!」
「音ヲ上ゲルノダケハ最速カ?
ドレ、セカンドラップト行コウジャナイカ」
言い放つと同時に、メタルマッドネスを急加速させて突っ込んで来る。
だがそのまま轢くような真似はせず、エグゼイドとレーザーターボの間をすり抜け、来た道を逆走していく。
どうやらこれがセカンドラップということらしい。
すぐさまマシンを旋回させ、2台のレーザーは再びモータスを追う。
だが、その様相は1週目と全く違うものとなった。
「なんだ、車が吹き飛ばされてくる!?」
「遠隔で操ってやがるのか?」
驚愕しながらも、ハンドルを切って前方から飛ばされてきたものを避ける。
同時に道路の中央を、横転した乗用車が転がっていく。それも1台や2台ではない。
近隣の道路から、ビルの地下駐車場から、あるいはカーショップの中から引き抜かれた車が
音もなく宙に浮き、そして次々とエグゼイド達目掛けて打ち出されていく。
そのいずれもが妖しい緑色に輝いていた。
「くっそ、二度も乗せられるとかさぁ!」
貴利矢のキレ気味の叫びが響いた。
最初は様子見し、好機と見るや隠していた実力で反撃に転じる。
警戒したにも関わらず、また同じやり口にハメられた己自身に怒りが沸く。
だが叫ぼうとどうしようと金属製の雨は止まらない。
ショートカットどころか回避すら難しい中、次第に2台のレーザーにもダメージが蓄積されていく。
「ちっ……!」
「貴利矢さん!?」
ついにレーザーターボが宙を舞うワゴン車と接触し、転倒しかける。
間一髪でエグゼイドが救助するも、さらに飛んで来たミニバンに向けてマシンを盾にせざるをえなかった。
車体に傷、というレベルでは済まないと吹き飛んだ外装パーツが物語っている。
爆発の心配がないことだけが不幸中の幸いだった。
「悪ぃ、助かった。乗せるのは上手いが乗るのはまだまだらしい」
「直撃を避けれたならまだやれるさ。死ななきゃ安いって言うしな!」
「ありがとよ。とはいえ、どうしたもんかな……」
ホルダーから爆走バイクのガシャットを外し、クラッシュした2台のレーザーを元に戻す。
こちらを嘲笑うかのようにモータスは動きを止めていた。
車の雨も止んでいたが、マシンがないことには追跡のしようもない。
ゲーマ召喚用のガシャットは、ダメージを受け過ぎると再起動までにクールタイムが生じてしまうのだ。
あるいは、身体能力だけで追いつければ――
「こうなりゃやるか、乗れ! 永夢!」
「貴利矢さん!?」
「してやられたまんまってのはシャクだからな……よっと!」
エグゼイドの目前でレーザーターボが飛び上がり、そのシルエットが変わり始めた。
改造が施されているとはいえレーザーターボもまたレーザー、ならば彼も変形できる。
それは完成したバイク形態に、先ほどまでと違う瞳が浮かんでいることが証明していた。
これが3台目の、最後のバイク。
しくじれば後がないばかりか、今度は貴利矢にもダメージが及ぶ。
それでも永夢に迷いはなかった。
「よし、行くぞレーザーターボ!」
「OK! できれば回避率100%ってので頼むわ」
「ああ、天才ゲーマーMの腕前を見せてやるぜ!」
アクセルを回し、レーザーターボに乗ったエグゼイドが駆ける。
人間形態に主眼を置いただけに、レーザーターボのバイク形態は外装の大部分が省略されている。
被弾一つでライダーゲージがごっそり減るであろうことは明らかだった。
だが代わりに速力と機動力は、わずかだがプロトレーザーすらも上回る。
何より貴利矢の身を賭けた疾走には覚悟が乗っていた。
「パターンが読めた! 逆転させてもらうぜ!」
再び前進し始めたモータスを追い、飛んでくる車を時に避け、時に足場にして乗り越えて突き進む。
エグゼイドはただ車を避けていたのではない。
車の射出軌道がランダムでないことを見抜き、パターンを覚えることで適切な対処を組んでいたのだ。
さらにショートカットも逃さずこなし、再びモータスの背が見える距離に来た。
「気をつけろ! アイツ、まだ隠し玉持っててもおかしくないぞ!」
「わかった!」
改めて警戒を促すレーザーターボに応じつつ、エグゼイドはガシャコンキースラッシャーを呼び出し、
すかさずマキシマムマイティXのガシャットを挿した。
今度は最大出力。
次の一撃で、どんな手が残っていようと出しようがないオーバーキルを叩きこむ。
だがトドメ目指してスピードを上げる2人が感じたのは、背後からの巨大な影だった。
「メテオスマッシュ……!」
そんな声が聞こえたかと思った頃には、その威容は組み上がりつつあった。
浮遊した車が、道路標識が、あるいは廃材が次々と集まり、球状の巨大な鉄の塊となっている。
そのまま完全に道路を塞ぐ大きさとなったそれが、後ろから転がってきた。
さらにモータスが再び車を飛ばしてくる。
それもこれまでのように降り注ぐのような軌道ではなく、真上から叩き潰す形で。
「あっぶねえ!」
パターンに慣れているほどハマる罠。
それを反射神経だけで切り抜けたエグゼイドはさすがだったが、無理な回避運動で速度が落ちるのは避けられない。
減速したレーザーターボの背後には、徐々に鉄塊が迫っていた。
「永夢逃げろ!飛び下りればお前だけでも助かる!」
「そんなこと……!」
エグゼイドがハンドルを握りしめる。
たとえ自分がCRの切り札だろうとレーザーターボを、いや貴利矢を見捨てることなどできない。
だが判断を躊躇している猶予はもうわずかしかない。
もはや少しでもアクセルを緩めれば、その瞬間に圧殺されるところまできていた。
空気が変わったのは、その時だった。
「フン、来タカ……」
モータスの声から余裕の色が消える。
マスク越しの永夢にもはっきり見える、青い光。
肉眼で捉えるにはあまりに速かったが、横切った一瞬で姿は眼に焼き付いていた。
白い手袋に、白ラインの入った赤い靴。
レーザーターボすらはるか凌駕する超スピード。
そして青い体毛の、二足歩行するハリネズミ――
「ソニック!?」
そこが戦場であることも、今まさにピンチにあることも忘れ、永夢はそう叫んでいた。
[SONIC]
「やっぱりこれ、シルバーの超能力だよ!」
「らしいな! 一体どういうカラクリなんだか……な!」
ビルの壁面を蹴り、ハイウェイの路上へ飛んだソニックが、回転したまま降り注ぐ乗用車へ激突する。
そのまま次のターゲットを定めると、急激な方向転換を伴いつつ再び飛んだ。
空中で軌道を調整しながら回転突撃する、ホーミングアタックというソニックの得意技だ。
それが次々と決まり、モータスを追っていたピンク色の戦士を救う。
だが終わりではない。そのまま、戦士をすり抜けるようにして背後へ向かう。
巨大な鉄塊の中心部目掛けて、ソニックが再び青い閃光と化す。
寄せ集めでできた鉄塊が砕け散り、構成部品だった乗用車が四散していった。
突然乱入したソニックに驚いてか、戦士がバイクを止める。
同時に道路を1本挟んだ先にモータスも現れた。
バイクに跨ったままの仁王立ちは、嫌味なほどに威風堂々として見える。
「追いかけっこならオレも混ぜてもらおうか、モータス!」
「ソニック、世界ヲ超エテマデ我ヲ追ウカ」
「お前が逃げてるだけだろ? このくらいで躊躇すると思ったら大間違いだぜ」
「結構ナコトダ。ダガ……今ハコレデ終イダ」
モータスが会話を打ち切るかのように、メタルマッドネスを反転させる。
急激に加速し出したバイクを追って、ソニックも走り出した。
「おい、待て!」
「マシンヲ得テ、エメラルドノパワーモ1ツ解放シタ……益ノナイオ前トノ戦イハ必要ナイ」
ソニックが道路を飛び越えてようとするのと、背を向けたままモータスが右腕を掲げたのは同時だった。
手首から透けて見える緑色に輝く宝石に応じるかのように、また1台の車が飛んでくる。
すぐさまホーミングアタックで跳ねのけるが、乗用車の車体で一瞬視界を塞がれてしまった。
風景が変化したのはその瞬間だった。
立っているのが公園であると気付いた頃には、既にモータスの姿はなくなっていた。
「また逃げたか!」
「時空の穴を使ったワケじゃなさそうだね。でもどうやって姿を消してるんだろう?
こんなにあっさり逃げられたら、ずっとペースを握られっぱなしだよ……どうしよう」
通信機越しのテイルスだけでなく、ソニックも焦っていた。
白い空間で見失った時は、ただ単純に別の穴へ早々に入りこまれたからだと思っていた。
だが今度は目前で姿が消えている。時空の穴の痕跡もなかった。
いくら超スピードがあろうと、さすがに見えない相手は捕まえられない。
その時、ふと背後に気配を感じた。
振り向くとそこには、黄色いスーツの戦士が立っている。
色や顔は違うが、先ほど助けたピンク色の戦士にベルトやスーツが似ていた。
「ゲームエリアの解除を目くらまし代わりにされちゃ、見失うのも仕方ないか」
「ゲームエリア? 今のニセモノのステーションスクエアのことか?」
「ステーションスクエア?……なんの話だ?」
会話が噛み合わない。互いに知っている部分が違い過ぎる。
そんなソニックと黄色い戦士の間に立ったのは、あのピンク色の戦士だった。
「ゲームエリアは、さっきみたいな隔離空間のことさ。
普通はライダーガシャットの力で展開されるんだけど、今回はモータスが展開してたみたいだ。
そしてステーションスクエアは、キミの世界にある都市の名前……だよな?」
「そいつは合ってるが、また聞いたことのない名前が出たな。
ライダーガシャットってのは何だい?」
「これのことさ」
言いながら、2人の戦士がベルトからカートリッジ状の物体を抜く。
途端にピンクと黄色のスーツが消え、その下から白衣を着た青年と、アロハシャツを着た男が現れる。
その様子にソニックは派手に驚いてみせた。
「Wow! すごいな、変身してたのか!
それで、そのカセットみたいなのがガシャットってヤツか」
「うん。モータスは人に感染するウィルスを持っているバグスターって存在でね。
それも、感染すると人間が消滅しちゃうこともある危険なウィルスなんだ。
だから僕達が変身して戦ってる。患者を救うためにね」
白衣の青年がかいつまんで説明する。
全くわからなかったモータスの素性がわかっただけでも、ソニック達にとっては収穫である。
「なるほど、その白衣は医者のセンセイだからか。
モータスのヤツ、こっちでも泥棒してるのかと思ったらもっとタチが悪いとはな」
「泥棒?」
「ああ。カオスエメラルドを盗んだアイツを追って、オレはここまで来たんだ」
「カオス……なんだって?」
聞き返そうとするアロハシャツの男を、白衣の青年が制する。
その顔色がかすかに青ざめているように見えたのは、ソニックの気のせいではないはずだった。
普通ならおかしくないが、この場所でそんな反応を見せるには理由がいる。
「カオスエメラルドを知ってるのか?」
「え? あ、いや、ちょっとね。……そうだ、キミの名前は?
僕は宝生永夢。聖都大学附属病院の研修医なんだ」
モータスという共通の敵を追っている以上、長く付き合うことになるかもしれない。
強引な切り出し方に若干の不自然さを感じながらも、ソニックは改めて名乗った。
「オレはソニック。ソニック・ザ・ヘッジホッグ。
ちょっとスゴいハリネズミさ」
[EX-AID]
「ウェーブサイクロン号じゃないか! へぇ、こっちの世界のゲームでも出てるのか」
「そりゃあ、サザン島での事件全部ゲーム化した作品だからね!
あ、そういや今でもこの水上バイク乗ってんの?」
「たまに乗ってたけど、本物はついさっきモータスを追うために派手に壊れちゃったんだ……。
作り直すのは難しくないし、そのおかげでここに辿りついたんだから無駄じゃないけどね」
「うっそマジで!? 絶対モータスしばき倒してやる!」
ソニックやテイルスと話しながら、ニコが堂々とゲームのソニックシリーズをプレイしている。
そんな光景に永夢は頭を抱えていた。
モータスを追って現れたのが紛れもないソニックだと知った永夢は、
CRまで彼を連れて来る際になるべく人目につかないルートを選んでいた。
同じゲームキャラでもパックマンの時と違い、ソニックは人語が話せるし、実体も残り続ける。
もし本来知り得ない事実を知った場合、それがどのような事態を招くか永夢には推し量りきれない。
だからこそ衆目を集めるのはやむを得ない――ソニックの速さなら証拠も残りにくいだろうが――としても、
事後を考えソニックに「自分がゲームキャラである」とわかる要素は見せないようにしていたのだ。
だが……
「運が悪かったとしか言いようねえな」
「大我さん……」
「本だろうがゲームだろうが、何かやってる最中に本人来たら舞い上がるに決まってるだろ。
コイツがもうちょっと年くってて、ゲーマーでもなけりゃまた違ったんだろうけどよ」
大我の言う通り、CRへ来たソニックが最初に会ったのは、よりによってソニックのゲームをプレイしていたニコだった。
元々CRの正式なメンバーではない上に未成年の少女、さらに相手は幻夢コーポ製のゲームが出る以前からのレジェンド。
秘匿意識というものが薄かったこともあって、あっさりとソニックに出自をバラしてしまった。
それどころか通信機越しのテイルス――ソニックの無二の相棒だ――ともベラベラ喋っている。
これなら出会った喜びを殺してまで誤魔化す必要などなかった、と今になって思う。
「バレちまった以上は、無駄な腹の探り合いしなくて済んだと思えばいいさ。
何よりご本人がスパッとした性格で助かったぜ」
「不幸中の幸いですね。ここで袂を分かつようなことになってたら、色々こじれるところでした」
「そういうのは自分が死ぬ前までで十分だからな。今思えばずいぶん回り道したもんだ」
コーヒーをあおりながら、貴利矢が椅子から立ち上がった。
「そーろそろ本題と行こうか? ただ遊びに来たわけじゃないんだろ、スピードスターさん」
「OK! お楽しみはモータスを捕まえてからでも遅くないぜ、ニコ!」
ソニックに合わせ、ニコが素直にゲーム機のフタを閉じる。
既に一通りの自己紹介は済ませてあるが、双方が知っている事実はまだすり合わされていない。
どちらか片方だけではあの不可解な『モータス』を追い詰めることはできないというのは、
この場にいる全員の――あの新檀黎斗すらも含めた――共通見解だった。
「じゃ、オレの方から行くか。モータスが現れたのは昨日だったよな、テイルス?」
「うん。昨日の昼から今日の昼までで、カオスエメラルド7つを次々と盗んでいったんだ。
ぼくやソニックも追いかけたけど、時空の穴を通ってそっちの世界まで逃げられちゃって……」
ソニックの右腕から聞こえるテイルスの言葉に、永夢の目が真剣なものになった。
一人のゲーマーとしてソニックに関する知識を持つ永夢は、カオスエメラルドがどれだけの代物か把握している。
その力も、それが現出してしまうことの危険性も。
だからこそソニック達の状況説明が終わった直後、すぐさま永夢はエメラルドについて補足を入れた。
「カオスエメラルドは1つ1つが強大なエネルギーを秘めていて、7つも揃えば無尽蔵に近いものになります。
悪用すれば都市を壊滅させる破壊生物を生み出したり、世界そのものを分断したり、甚大な被害を起こしかねません。
使い方次第では、あのクロノスだって太刀打ちできないかもしれません」
「ま、悪いことばかりじゃないんだけどな。
オレはエメラルドの力を借りて危機を乗り越えたことがあるし、
テイルスが使えばメカの動力にもできる。まさに使い方次第ってワケだ」
永夢の主張をソニックがフォローするが、事前に知識のなかった大我と貴利矢の衝撃は大きかった。
目下最大の障害である、仮面ライダークロノス。
2人が気にしたのはやはりそこだった。
「クロノスの野郎より上とは大きく出たな。あの時間を止める技に対抗できるってのか?」
「できます。既にそういう能力も確認されていますから」
「でもさぁ、さっきのアイツは強いことは強かったけど、あの社長さんほどじゃないだろ。
あれか、使いこなせてないってヤツ?」
「それは……」
「ただ埋め込んだだけで使いこなせるほど甘くはない、ということだろう」
貴利矢の言葉に答えたのは、永夢ではなく黎斗だった。
創造の過程で必要とされる技術力という面において、この男が優れた才覚を表していることは貴利矢も認めている。
「どんな超エネルギーでも、適した形にしなければ力を発揮しない。
リプログラミングという力を秘めたガシャットも、宝生永夢の力がなければただのエラー品に過ぎんようにな」
「チッ……面白くない例えしやがる」
「あれは傑作だったぞ、花家大我。ゲーマドライバーで正式なエラー表示を出すのは存外に難しいのだ」
どんどん違う話へ進みそうな黎斗を、貴利矢がジト目で睨む。
技術や才能は優れているが、同時に人格に難があるのが黎斗という男だった。
「おい、脱線すんな外野。自分がいない時の話だろソレ。
……大層なもん盗んだ割に強くないのはわかったが、まだ疑問はありそうだな」
「それを解き明かすためにも、今度はこちらの状況説明ですね」
「頼むぜ、エム!」
「まかせて、ソニック。
……って言っても、あのモータスについては僕達もわからないことが多いんだけどね」
不明瞭な部分が多い現状を恨みつつ、永夢は自分達の世界の状況を説明し出した。
バグスターという、ゲームキャラを模したコンピュータウィルス生命体のこと。
モータスが『爆走バイク』というゲームのバグスターであり、
『仮面ライダークロニクル』というデスゲームの刺客でもあること。
そして先ほど遭遇した『モータス』が、いつもと相当に様子が違っていたこと――
「つまりオレ達の追ってきたモータスが、エムやキリヤが倒してきたものと同じかはわからないってことか」
「呼び出される前から推測は色々されてたけど、結局はっきりしなかったんだ。
でもバグスターであることは間違いから、僕達にとっても追うべき相手なのは確かだよ。
バグスターワープを使ったのがその証拠になる」
「ワープ?」
「こういう感じのワープのことだね!」
ワープという単語に若干戸惑ったソニックを見て、ポッピーピポパポが声を掛ける。
直後、ポッピーの身体が消え、代わりにオレンジの粒子が現れた。
そして粒子がコーヒーメーカーの前に集まると、再びそこにポッピーの姿が現れた。
「Amazing! まるで魔法だな」
「このワープは壁越しでも使えるし、どんな距離があっても短時間で移動できるんだよー。
もしかすると逃走だけじゃなくて、エメラルドの盗難にもこれを使ったんじゃないかな?」
「防犯、もっと徹底しなきゃ……」
テイルスが疲れたような声で呟くのが聞こえた。
たしかにバグスターワープの前には、並の防犯設備は役に立たないだろう。
盗品を身体に埋め込めばその時点で盗品ごとワープできてしまうのだから。
いくら発明少年のテイルスとて、そんなものを前提にしたメカまで作ったことはない。
――もっとも、あくまでこのミーティングは防犯講座ではないのだが。
「さぁて、例のモータスについてわかんねえところをまとめて、今日は終いにするか。
自分が進めちゃうけど構わないか?」
「お願いします、貴利矢さん」
永夢の合意を受けて、そのまま貴利矢が問題点を洗い出す。
元々、貴利矢がCRに戻ってきた時点で既に日は落ちていた。
ソニックが来たテンションで乗り切ってきたニコすらあくびを噛み殺す程度には、もう夜も遅い。
切り上げるには良い頃合いだった。
「まず、そもそもアイツは何なのか。
自分達がさんざぶちのめしてきたモータス本人なのか、違うのか。
本人だとすればあの変貌は異常だ。クロニクル絡みで何か異変が起きた可能性がある。
別人ならなんで今さら本人と別に出て来たか、なんでモータスなんだって話につながるな。
――どっちにしろ、裏に檀正宗が絡んでるのかってのは外せないポイントだ。
なんせクロノスを凌駕するかもしれない代物だ、モータスごとカオスエメラルドがあの社長さんの手に
渡ったらロクでもないことになるのは間違いない」
「モータスの亡霊の話とは、何かつながりがあるんでしょうか」
「そいつも懸案事項だ。クロノスもそうだが、こっちもただの偶然で片づけるにはタイミングが良過ぎる。
直列つなぎになるかはわからないが、何かしら手がかりになってもおかしくないだろう」
貴利矢の返答も併せて、永夢が疑問点をノートに記していく。
正式な形でCRに来たのは今日がはじめてのはずだが、そうとは思えないほど貴利矢のまとめ役は板についていた。
「次だが、どうやってあのモータスが時空移動だの超能力だの獲得したのか。
今までのモータスにそんな力はカケラもない。自分がいない間にちょっと足は速くなったらしいがな。
他に特徴があるとすればバイクを持っていたことくらいだが、メタルマッドネスなるバイクも以前のそれと全く違う。
アイツみたいにこれまでのバグスターが強化されていくとしたら、パラドやグラファイト以外も無視できない脅威になりうる」
「モータスが新しく手に入れた力が、なぜかぼく達の世界に関係してるのも気になるな。
時空移動メカはぼくも作ったことがあるけれど、普通は直接移動するんだ。
わざわざあの白い空間をクッションにしてた以上、劣化はしててもタイムイーターの能力なのは確かだよ。
それと永夢さん達を襲った超能力は、ぼく達の仲間のシルバーが使ってた超能力だと思うけど……
タイムイーターはソニック達が倒したし、事件以降未来からシルバーが戻ってきた話は全くないんだ」
「たしかにソイツはミステリーだな。
そんなレア物の能力をモータスがどうやって得たのか、ってのは1つの鍵になりそうだ」
テイルスの言葉にニコと永夢がはっきりと頷く。
どうやら今のテイルスの発言は信用して良いものらしい。
出自をバラしてしまった以上、ゲーマーが持つゲームキャラに対する知識は極めて有用なものになっていた。
「最後は、なぜソニックの世界にモータスが現れたのか。
カオスエメラルド目当てなんだろうが、時空移動ができるんなら他の世界を狙ったって別にいいはずだ。
狙われた理由がはっきりしないことには、下手すると今後他のバグスターまでソニックの世界に迷惑かけてく危険がある。
……とりあえず、こんなところか」
貴利矢が進行を止めるが、それに反論するものはいない。
モータスの謎は3つ。降って湧いた不可解な謎。
クロノス相手に勝機が見えた矢先だが、既にソニックの世界まで巻き込んでいる以上、放置するわけにいかない。
「明日、アイツの正体を確かめてきます。協力お願いできますか、貴利矢さん」
「そう言われて断るワケないだろ? いいぜ、朝一で付き合うわ」
永夢の頼みを快く応じる貴利矢。
そんな永夢に対抗するかのように、黎斗が隣に立つ。
「私も私の方法で謎を暴いてやろう。
贋作だろうと改造品だろうと、私に嘘などつけないことをわからせてやる」
「へいへい、アンタはアンタで動いてくれ。
アンタじゃないとできないアプローチがあるんだろうが、あんま調子に乗ったらケリ入れるからな」
「強く出たものだ。いいだろう、神ならではのアプローチを見せてやる」
不敵な笑みを浮かべつつ、黎斗がバグスターワープでCRの角にある筐体へ消えていく。
知らぬ間にゲームマスターどころか神を自称しだした姿に、思わずため息を吐く。
その間に今度はソニックが貴利矢の隣に立っていた。
「……クロトっていつもああいう調子なのか?」
「どうもそうらしい。自分が戻ったのは今日なんだけどよ。
今じゃここに居座って協力してるみたいだが、昔ははっきりと悪人だったんだぜ?
それでいて普段はまともそうな顔してやがる。自分や永夢がしてやられたことも一度じゃなかった」
「へぇ。なんか、Dr.エッグマンみたいなヤツだな」
ニコと永夢が思い切り噴き出している。
どうやらゲーマーの2人には常識のようなものらしいが、貴利矢にとってははじめて聞いた名前だった。
聞けば説明してくれるだろうが、いちいち問い質すのも具合が悪い。
この客人が長居するならゲームの勉強もやむなしかと、貴利矢はそう考えはじめていた。
[SONIC]
「いいのか? 必要なら布団一式持ってくるぞ」
「大丈夫さ、キリヤ。このくらいのクッションでもオレは十分眠れる」
「そうか。寝床の代わりっちゃなんだが、朝はチリドッグ用意しとくからな」
「へぇ、至れり尽くせりってワケか」
「ウチの天才ゲーマーは配慮が細かいからな。子どもにも親御さんにも人気なわけだわ。
ま、自分は上にいるからなんか不都合あったら言ってくれ」
アロハシャツの男、もとい貴利矢が階段を上るのを見送りながら、早くもソニックは横になっていた。
ゲーム病患者の付き添い用に設けられたシートはそれなりの寝心地だったが、ちゃんとしたソファに比べればいくらか劣る。
それでもミーティングルームのソファを使わなかったのは、既に貴利矢という先客に既にあてられていたためだった。
あくまで自分が外から来たのだという自覚は、ソニックも持っている。
「いい人達でよかったね、ソニック。
最初は何か隠してるのかなと思ったけど……」
「エムがああしたのは気を使ってくれたのさ。
要は本の世界に入って、登場人物に『これは本のお話だ』って言って回るようなものだろ?
ま、オレは気にしないけどさ」
テイルスが不思議そうな顔をするが、それも一瞬だった。
どうやらソニックが気にしないなら、自分も深く考えないことにしたようだ。
代わりに浮かんだのはまた別のこと。
「さっきのまとめを読み返して思い出したんだけど、そういえばモータスって妙なこと言ってたよね」
「妙なこと?」
「うん。そっちに行く直前に『今回も勝てなかった』とか言ってたんだけど……
実はどっかで会ったことないかな、ソニック」
「オレとアイツが?」
言われてみればそんなことを言っていた気はする。
だが、ソニックがモータスと相対したのはグリーンヒル北端が本当に初めてだ。
あんな妙なヤツに会っていれば覚えていないはずがない。
だから行き着いたのは別の可能性だった。
「オレより先にシャドウと戦ってたんじゃないのか?
知らなきゃ見間違えることはありそうだぜ」
「あ、そっか。それはあるかもしれないね」
テイルスが素直に頷く。
ソニックの仲間の一人、シャドウ・ザ・ヘッジホッグの姿はソニックとよく似ている。
青いソニックに対してシャドウは毛が黒いものの、シルエットだけみればそっくりと言って良い。
少なくともソニックの世界の軍隊・GUN――自衛隊のようなものだ――が、
脱走したシャドウと取り違えてソニックを逮捕した前例がある以上、モータスもまた取り違える可能性は否定できない。
シャドウもカオスエメラルド盗難被害に遭っているならなおさらである。
「朝になったら、ぼくがシャドウに話を聞いてくるよ。少しの間連絡できなくなるけど、
もしシャドウと会ってないなら、モータスとソニックの接点を改めて考えないといけないもの。
ぼくらが知らない内にシルバーがまた来てるようなことがなかったのかも、一緒に確認しておくね」
「頼むぜ、テイルス。
人のモノをほいほい取っていくヤツがいちゃ、オレ達だけじゃなくてみんなが困るしな」
「うん、まかせて!」
テイルスの自信のこもった返答を最後に、通信を落とす。
そのまま寝ようかと思ったが、少しだけテイルスの言いかけたことが気になった。
この世界の人々は、ゲームを通じて自分達の冒険を知っている。
そういった不思議な距離感に、ソニックは抵抗も違和感も全くなかった。
テイルスは知らないが、実はソニックはアラビアン・ナイトやアーサー王といった本の世界へ赴いたこともあるのだ。
本とゲームの違いはあるが、自分が色々と知られている側に回る可能性は、全く考えていなかったわけではない。
ただ、それでも気になることはある。
世界リングに、黄泉の騎士団。
かつて訪れた本の世界は、そのどちらも異変が起きていて、本来の道筋を外れていた。
ならば今の自分もまた――?
「ま、好物が知られてるのは悪いことじゃないよな」
それ以上細かいことを考えるのはやめ、今度こそソニックは眠りについた。
- Zone.2 Live and Learn -
[EX-AID]
「さってと、そろそろ行くか?」
「はい。できれば、檀正宗に知られず終わらせたいですから」
「そいつは同感だ。タチ悪いからな、あの社長さん」
ソニックが現れた翌日。
約束通り永夢に同行した貴利矢は、早朝からある場所を目指していた。
勤務地の聖都大学附属病院ではない。むしろ、今はその真逆に位置する存在。
(……こうも早くここに戻ってくるとはな)
目前の光景に、思わずそうごちる。
噴水越しに見えるのは幻夢コーポレーションのロゴマーク。
曇り空の下でも主張の激しいそれこそ、2人が今から乗り込む敵地の旗印だった。
同時に昨日の昼までの貴利矢にとって滞在先だった場所でもある。
「当たり前だが、バカ正直に正面から入るのはナシだ。
ムテキの力で押し切ったところで、白昼堂々ケンカ売ったら立場がガタガタになる」
「じゃあ一体、どこから入るんですか」
「社長室のテラスあるだろ? 壁登ってあそこからだな……」
「え、本気ですか?」
「そりゃ冗談に決まってるさ。バレたくない相手に直行してどうすんだ。
……こっちだ、ついてきな」
貴利矢の案内で、2人は本社社屋の脇へ回った。
地下駐車場へ続く道も避けたその先、社屋正面から死角になる木立の裏にその扉はあった。
「ちゃーんとそのままだな。足場キツいから気をつけろよ?」
「ここは一体……」
「災害時の緊急避難階段ってヤツさ。ただし元、だがな。
Dr.パックマン事件の時に財前達が破壊していったんで、内部的にここはもう避難経路から抹消されてる。
新種ウィルス調べの途上で知ったコイツを、復活した後で申し訳程度に直しておいたってワケだ。
表向きには危険物撤去の後に封鎖ということになってるから、まぁ中入ってバレなきゃ何度か使えるだろう」
言葉通り、扉の先の階段はとりあえず降りられるというだけの代物だった。
通ろうと思えば通れるとはいえ、とても一般の避難経路に載せられるようなものではない。
平地でも転倒することのある永夢は気が気でなかったが、なんとか転ばず進む。
そして降りた先にある地下駐車場を道なりに進むと、社屋へつながる地下の入り口が見えてきた。
「さてと、今度は会社案内と行くか? 社長室以外なら案外融通は効くぜ」
「いえ、もう狙いは決まってます。 地下に出たおかげで早く行けそうです」
内部に入ると同時に、今度は永夢が貴利矢を先導する形になった。
まったく迷いがないその歩みを貴利矢は疑問に感じていた。
自分が死んでいた間の状況は幻夢コーポレーション内から情報収集していたが、
永夢が社長室以外の場所に行った話は特に聞いていない。
そんな機会すらなかったのに、なぜこうも地理を把握しているのか。
その疑問はすぐに氷解した。
「よくここがわかったな、永夢?」
永夢が歩みを止めた場所、地下の扉の前で一人の青年が待っていた。
ケーブルの付いた奇妙なコートを纏った彼のことは、貴利矢も知っている。
だが彼は協力者などではない。
バグスターのリーダーにして、永夢の半身――
「パラドだと!?」
「お前に乗っ取られた時の記憶を利用したんだ、パラド。
どうしても、今すぐ聞きたいことがある」
「へぇ。イヤだ、と言ったら?
お前と決着をつける約束、まだ果たしてないぜ」
「言わせない。お前の仲間、モータスに関わる話だからだ」
驚く貴利矢も、来訪を喜ぶパラドも、強引に押し切って永夢は話を進めた。
「昨日の夜、モータスが僕達を呼び付けて挑戦してきた。
でもそのモータスは僕達だけでなくソニック――ソニック・ザ・ヘッジホッグにも追われていた」
「……ソニックだと?」
「モータスは盗んだカオスエメラルドを体内に取り込んでいる。
クロノスに対抗するために、お前が指示してソニックの世界に侵入させたんじゃないか?」
「そんなことはしない。するはずがない……!」
静かに、だが明らかな怒気をはらんだパラドの声が地下に響く。
幸いここは誰も――少なくとも見えている範囲では――聞き耳を立てるものなどいない。
故に唯一の聴衆である貴利矢には、今のパラドがかつて自分を陥れた相手とあまりに異なって映った。
こんなに感情的になる男だったとは、知らなかった。
同時に永夢がかつてよりずっと豪胆になったことにも驚く。
檀正宗の元に直談判したという話も、今なら何もおかしくは感じられない。
「知ってるはずだろ……オレ達バグスターはゲームから生まれた命だ。
都合良く扱う人間どもからならまだしも、他のゲームから何かを奪うような恥知らずはいない。
自分以外のバグスターやゲームから略奪するだけの、ゲンムみたいなヤツはいないんだ!」
「なら、モータスが昨日どうしていたか教えてほしい。
僕達が昨日戦ったモータスと、今までのモータスが違うとわからない限り、疑いは解けない」
派手に声を荒げたパラドと対照的に、一見して永夢は冷静に話している。
だが、その右腕が黄金のガシャットを掴んでいることは明らかだった。
パラドとしてはエグゼイドとの戦闘は歓迎するところだろうが、今握られた力はおそらくパラド以外に向けられる。
彼の背後にある、バグスターの本拠地に。
「……やれやれ、貸し2つ目か。
その妙な疑いが原因で、オレを無視してモータスを殺しにいかれたらたまったものじゃない。
ただし、モータスの件が解決したら後で改めて決着はつける。それは忘れるなよ」
軽くため息を吐きながら、パラドが背後の扉を開ける。
そこから見えるのは電源設備などが並んだ最下層のフロア。
そして入口からでも、見慣れたバグスターの姿は確認できた。
――モータスだ。
「ほら、アイツならそこにいるだろ?
……最近ずっとトレーニングばかりで全然戦ってないんだよ。
ポッピーとNに負けたのがよほど悔しかったらしい」
半ば呆れ気味にパラドが説明する。
たしかに延々と腹筋やスクワットを繰り返すモータスの姿は、どこか奇妙なものがある。
時折発せられる雄叫びに至っては全く機械らしくない。
コメディショーにでも流せば十分な笑いが取れるだろう。
だが永夢はにこりともせず、その光景を全力で注視していた。
その視線はある一点に注がれている。
モータスの背中、昨日会ったものにはないはずの部分。
「……マフラーが壊れてない」
「へえ、偽者の方は壊れてるのか?」
「呼び出された時から壊れてた。直したって話は……」
「ないな。アイツは女2人にいいようにされてから今まで、ここから一歩だって出てない」
パラドの説明を受け、永夢は貴利矢に視線を向ける。
どこまで信じるべきか迷っている。そう見えた貴利矢自身も、実際迷っていた。
この判断は、モータスの異変にある企てにバグスターが関わっているか否かに直結する。
だが何か言うよりも、永夢のゲームスコープが鳴る方が早かった。
「永夢、聞こえる?」
「明日那さん、どうしました?」
「聖都第8地区にまたモータスが現れたの。
今は大我達が応戦してるけど、苦戦してるみたい。至急応援に向かって!」
「わかりました、すぐ行きます」
明日那――ポッピーとの交信を手短に切る。
扉の先のモータスは、未だ猛烈な勢いで反復横飛びしている。
同時に居合わせたわけではないが、状況証拠と呼ぶには十分な光景だろう。
「これで決まりだろ? 永夢が昨日会ったモータスは偽者だって」
「でも、たしかにあれはバグスターの特性もあって、モータスの姿だった……。
モータスが壇正宗に捕まったって話は?」
「聞いた覚えはないな。
……さて、ボーナスゲームの時間はここまでだ」
今度はパラドが強引に話を打ち切る。
既にさきほど狼狽していた面影はない。
新たな興味は、恐怖を打ち消すのに十分だった。
「オレは一足先にモータスの偽者――モータスカオス、ってところか。
そいつに会ってくる。
バグスターの名前に泥を塗るヤツは、オレが許さない」
そう言い残して、パラドがオレンジの粒子になって消える。
バグスターワープ。パラドもバグスターである以上、使えて当然の移動法だ。
残された永夢達も現場に急行しなければならない。
筋トレしてるだけのモータスと、都市部を襲撃しているモータスカオス。
どちらを優先すべきかは考えるまでもない。
だからこそ、貴利矢の意思は固かった。
「お前は先に行け」
「貴利矢さん……?」
「そう簡単に踏み込める場所でもないんでな、もうちょい調べもののお時間だ。
永夢のおかげでバグスターが手を引いてるセンを潰せた以上、
こっちは社長さんが絡んでる可能性を追いきってみせるさ。
ま、謎解きは監察医に任せとけば大丈夫だ」
永夢は一瞬だけ迷ったが、そんな猶予はない。
こうしている間にも、大我はなんとかモータスカオスを抑えているのだから。
「……わかりました。でも、絶対に無理はしないでください。
壇正宗に見つかったらマズイことになります」
「自分だってこそこそ確保した侵入経路フイにしたくないんでな、
カタがついたらとっとと逃げるさ。ほら、行った行った!」
軽いノリの貴利矢に頷き、永夢が来た道を戻っていく。
その背中を見ながら、貴利矢も次の行く先を決める。
「さて、次は例の怪談話の現場に行くかね。
亡霊じゃない、本人でもないってなら、やっぱりそこが鍵になってるはずだ」
爆走バイクのガシャットを手に、貴利矢は地下通路を一人歩き出した。
[SONIC]
「Yeah! All right! It's cool!」
一晩寝て休養十分、チリドッグで食事も十分。
準備運動を終えて早々、絶好調のソニックは病院屋上のヘリポートから宙を舞っていた。
人間には飛び降りにしかならないが、ソニックの速力があれば高台はカタパルトと化す。
空中でトリックを決め、回転しながら飛んでいく姿は目立つものだったが、
それを撮影できた人間は誰一人いなかっただろう。
「ソニック、そこから右に見える道路を真っすぐ進んで!
大我とニコちゃんが対応に入ってるけど、簡単に終わる相手じゃないはずよ」
「OK、アスナ! 今日こそカオスエメラルドを取り返さないとな」
着地した瞬間、テイルス手製の通信機から指示が飛ぶ。
だがその声はテイルスではなく、ポッピーのもう1つの姿・仮野明日那のもの。
黎斗が追加した機器により、今の通信機はCRからの通信も受けられるようになっているのだ。
どうやら開発スピードが速いのもエッグマンと同じらしい。
全幅の信頼を置くのは早い気もするが、CRと連携が取りやすくなること自体はソニックにとって歓迎すべきことだった。
やがて手ごろなガードレールを見つけると、その上に飛び乗ってグラインドの要領で滑り、
勢いを乗せたまま歩道橋のスロープへ飛んだ。そしてそのまま、歩道橋を超えてすっ飛んで行く。
こういった大胆なショートカットはソニックの十八番である。
ほどなくして見知った顔を見つけ、そこが目的地であると気付くとソニックは足で急ブレーキをかけた。
「ソニック!」
「ニコか! タイガはどこだ?」
「そこのゲームエリアでモータスを抑えこんでる!」
言われてニコが指さした先を見ると、川にかかった橋の上に格子状の空間が形成されている。
外部からはうかがい知れないが、内部で大我とモータスが戦闘中なのだろう。
「ニコちゃん、ゲーム病患者はいた?」
「いないよ! プレイヤーを無視してアタシ達に向かってきたから、避難誘導は簡単だったし被害も出てない。
というより、最初からCRに行く途中のアタシ達を待ち伏せしてるみたいだったんだ」
「じゃあ狙いは……スナイプ?」
「そういやタイガも変身するってキリヤが言ってたな。大丈夫なのか?」
「大丈夫だって! アタシの主治医が、あんなヤツに負けるもんか!」
答えになっているようで全然なっていなかったが、タイガへの強い信頼だけはソニックにもよくわかった。
そういった類の思いは、自分も誰かから少なからず受けている自覚はある。
そんな中の一人の声が、通信機から聞こえる。
先ほどまで不在だった、本来の通信機の主だ。
「はぁ、はぁ……ソニック、聞こえる?」
「テイルス! シャドウのところに行ってたのか?」
「うん、とりあえず話は聞けたよ!
盗まれた直後にすぐ逃げられたから、戦ってはいないって」
「ってことは、一方的にでもオレをどこかで知ってるってことか。
こうなりゃ直接聞き出すのが一番かもな」
「直接って、もうモータスが見つかったの?」
「ああ。オレの世界じゃエメラルド泥棒だが、こっちじゃライダー相手のケンカ屋やってるらしい。
ちょうど今その現場に来たとこさ。逃がさないぜ!」
意気込み十分に、ゲームエリアに向かおうとするソニック。
だがいざ突入しようとした時、背後からストップがかかった。
「ちょ、ちょっと待って! アタシも行くから」
「おいおい……戦う気なのか? アイツ、多分女の子でも容赦とかしないぞ」
「大丈夫、アタシにはこれがある!」
心配するソニックを前に、ニコが何かを取り出す。
永夢達の持っているものに似た、黒いガシャット。
「ゲームスタート!」
『エンター・ザ・ゲーム!ライディング・ジ・エンド!』
その場でくるりとターンしてガシャットを起動すると、たちまちニコの姿が変わっていく。
帽子とリュックだけはいつものままだったが、それ以外は茶色のアーマーに身を包んだ戦士と化していた。
「Hoo! ベルトがなくても変身できるのか」
「ちょっと弱そうだけど、これならとりあえず安全そうだね」
「……聞こえてるぞー、テイルス君」
「わあぁ、ごめんなさい!」
思わず通信機越しにテイルスが謝る。
妙に目つきの悪いアーマーの顔がドアップになれば、驚かない方が珍しい。
色々とカスタマイズされているライドプレイヤー・ニコも、顔の外装までは変えていなかった。
「ま、思いきりは良さそうだしなんとかなるだろ。今度こそ行くか!」
「よっしゃ来た! テイルスも準備いい?」
「大丈夫、サポートはボクにまかせて! 」
覚悟を決め、外部からゲームエリアに突入する。
橋目掛けて飛び込んで出た先。
それは――遺跡だった。
レーザーのジェットコースター発言はあのハリモグラの台詞かww
「ヤッバ、超スゴイ……」
ライドプレイヤーのマスク越しに、ニコがそう呟くのが聞こえる。
だがそれも無理のないことだった。
澄み渡る青空にかかる、綿菓子のような雲。
コバルトブルーの海に白い砂浜。
時折海上から飛び上がり、元気に泳ぐ巨大なシャチ。
繊細な紋様が刻まれた紅白色の美しき古代建築。
どれをとっても現代日本でそうそう見れるものではない。
まして、ニコには教養があるのだ。
「画面の中でも印象残ってたけど、マジモンのシーサイドヒルってこんなにきれいなんだ……!」
「こりゃあ説明することはなさそうだな」
「でも、これではっきりしたね。
モータスはぼく達の世界を再現してゲームエリアを展開してる」
「それだけじゃないぜ、テイルス。
タイムイーター事件の時に走った場所ってとこまで、スピードハイウェイと同じだぜ」
テイルスの指摘にソニックはそう付け加えた。
シーサイドヒルもまた、ソニックの世界に存在する場所なのだ。
本物と寸分違わない精度も昨夜と変わらない。
だがここがゲームエリアであることは、注意せずともすぐにわかった。
「ソニック、大我は見つかった?」
「それっぽいのならもう見えてるぜ。ずいぶん派手にやってるな」
テイルスに代わって聞こえた明日那の声にそう答えた。
太陽光を反射して輝く海を、一人の戦士が高速移動している。
引く者のいない水上スキーのような格好から、どうやらソニックのように沈む間もなく駆け抜けているのではなく、
靴の機構で安定した浮力と推進力を得ているらしい。
さらに上半身には重厚なアーマーと複数のキャノン砲を備えた姿は、さながら人型の戦艦とでもいうべきものだった。
「大我だ!」
「やっぱりあれが、キリヤの言ってたスナイプってヤツか。
ってことは……いた! あそこだ!」
スナイプの腕に備わったハンドキャノンが火を噴き、飛んできた物体を爆砕する。
ソニックの記憶がたしかなら、それは遺跡の防衛用に置かれたとおぼしき円形の隔壁のはずだ。
ソニックやスナイプの身の丈の数倍はあろう壁をたやすく破壊する威力もさることながら、
それが妖しい緑色に輝いていることをソニックは見逃さなかった。
脳裏にスピードハイウェイで投げ飛ばされてきた乗用車が浮かぶ。
射出先を目で追うと想像した通りのものがあった。
遺跡を爆走しながら超能力でスナイプを攻撃する、モータスの姿が。
「ニコ、スナイプはスピード出せないのか?」
「出す手がないワケじゃないけど、代わりにパワーが落ちるんだよ。
シミュレーションゲーマーは大我が持ってる中じゃレベル一番高いから……。
それに速度出そうとすると今度は空中飛行になるから、あの場所じゃちょっと難しいね」
「たしかにな。セコセコしたヤツだぜ」
モータスは明らかに走る場所を選んでいる。
攻撃の際は側面以外が空いていない外周部を回るが、スナイプが反撃しようとするとすぐ遺跡内部に入り込んでしまう。
これでは射線が通らず、迎撃するのがやっとだろう。
かといって空中から追走すれば低空飛行を余儀なくされる。
それ自体は地形を活かした防御として利に適ったものだったが、ソニックは気にいらなかった。
モータスは常に自分が優位な状況でしか向かってこない。
あのエッグマンだって、挑めば真っ向戦ってきたことが多いというのに。
「アスナ、聞こえるか?
モータスのヤツは見つかったが、こそこそ逃げ回ってる。
大我も有効打を与えるのも一苦労って感じだ。コイツはちょっと時間がかかりそうだぜ」
「わかった、永夢や貴利矢にも応援を頼むわ。
調査中だからすぐに来れるかはわからないけど」
「こっちも色々やってみるから、すぐじゃなくていいさ。
むしろ後から来ればあのワープで逃げられるのを防げそうだ」
「あの、無理はしないでね?」
「大丈夫さ。誰かさんのおかげで、ここもオレのホームだからな」
自信と余裕を乗せ、明日那との通信を切る。
だが間髪入れず、今度はテイルスが通信をかけてきた。
元々2人のソニックとテイルス達との3方向通信を想定した通信機だけあり、テイルスにも今の会話は聞こえていた。
「やってみるって……ソニック、何か手があるの?」
「ああ、海にいるヤツの力を借りるのさ。ちょっと危ないけどな」
「アイツか!」
隣でニコが手をポンと叩く。
彼女に聞かせたつもりはなかったが、どうやらテイルスへの説明がそのまま通ったらしい。
本当にわかっているなら、話が早くつくのは楽でいい。
「その調子なら、ニコちゃんにも協力してもらえそうだね」
「あったり前じゃん!
ここでソニックと一緒ってことは、ソニックヒーローズってことでしょ?
大我とアタシとでちょうど3人だしさ!」
やたらテンションの上がっているニコを前に、ソニックとテイルスが思わず顔を見合わせる。
たしかにこの場所に来た時、ソニックとテイルスだけでなくナックルズも加えた3人だったのは事実で、
その後にソニックヒーローズの名を出したのも覚えている。
だがいくら知る機会があるとはいえ、曲がりなりにも違う世界の人間であるニコからこうもスラスラ出てくるとは。
こうなるとなんでもかんでもゲームになっているのではないか、とも思ってしまう。
とはいえ、それも余計なこと。
ソニックは目前のモータスに意識を切り替え直した。
「まったく、ホントよく知ってるな。でも今は3人同時じゃなくて連携でいくぜ?
オレがあの聖堂の手前にモータスのヤツを追いこむ。ニコはタイガをそこまで誘導してくれ」
「オッケー、任せて! エナジーアイテム使ってきっちり間に合わせるよ!」
「エナジーアイテム?」
「ほら、アレのこと!」
ニコの指さした先には円盤状のコインのような物体が浮かんでいる。
リングやバネとも違う、ソニックにとっては見慣れないものだ。
誰かが走っているような絵柄のそれを、ニコがジャンプして取ると何者かの声が響いた。
『高速化!』
「なんだ、この声?」
「ゲームのシステム音声ってヤツ!
それより、これでアタシもスピードで追いつけるから!」
「そいつは頼もしいぜ。よし、行くぜニコ!」
「よっしゃまかせろーー!!」
言うなり、ニコが先に走り出した。そのスピードはたしかに早い。
遅れて走り出したとはいえ、ソニックと並走できたのだから大したものである。
だが同時に砂浜へ降り、そして並べられたリングを取ると一気にソニックが加速した。
幾多の冒険を経て体得した『ブースト』というソニック独自の加速能力である。
青い閃光と化したソニックは、そのまま当然のように海の上を駆け抜けていく。
「おい、そこを走るんじゃねえ! 厄介なヤツがいるぞ!」
「ああ、アイツにとっても厄介なハズだぜ!」
海上で迎撃するスナイプの警告もなんのその、ソニックは平然と海原を駆ける。
そして間もなくそれは現れた。
ソニックの後方に貼りつくように、巨大な魚が現れている。
鯨もかくやというその大きさは、開かれたその口だけでもソニックの数倍はある。
現に大量の海水と大小様々な魚を呑み込んでいる以上、追いつかれればソニックも同じ運命を辿るに違いない。
だがそんな人喰い魚が迫ってなお、ソニックは全力で走り続ける。
「ニコ、タイガは!?」
「誘導うまくいってる! あとはモータスだけ!」
「ソニック、モータスからのカオスエメラルド反応も出たよ!
進路通りなら聖堂前に来る!」
テイルスの声にあわせ、ソニックがさらに加速する。
その速度にすら大魚は追いついてきたが、それこそがソニックの狙いだった。
既に前方には荘厳な装飾が施された聖堂が見えてきている。
そしてその手前には、神殿のような建物からつながる一本道。
ソニックがそこへ到達したまさに瞬間、神殿側からバイクに乗ったモータスが現れた。
「ソニック……キサマ!!」
「そう怒るなって、でっかいプレゼントやるぜ!」
「!?」
ソニックが神殿へと飛び込み、それを大魚も追う。
だがソニックよりずっと大きい巨体が入るべくもない。
代わりに餌食となったのは、入れ違いに出て来たモータスだった。
愛車どころか聖堂への道ごと口に放り込まれ、鋭利な歯で金属質の肩が貫かれる。
そのままモータスの姿は口の中へ消えた。
完全な不意打ちなら、バグスターワープやゲームエリア解除の猶予などない。
「なるほど、ハリネズミも中々やるじゃねえか。おかげで全力でブチ込める」
『キメワザ!』
聖堂側に残された道で待ち構えていたスナイプが、ドライバーのレバーを戻す。
呑み込んだ魚ごとモータスを始末する気なのは明らかだった。
ソニックの思惑ではモータスの退路を断って狙い撃ちさせるつもりだったが、おそらく結果は変わらない。
建築物ならいざ知らず、鯨並みとはいえ魚が相手なら丸ごと爆砕することは可能に見えた。
『バンバン・クリティカルファイア!』
「これで終わりだ、泥棒野郎」
レバーを開くと同時に巨大魚が飛び上がる。
無数の砲門が一斉に火を噴き、青空を爆炎の紅に染め上げた。
[EX-AID]
「またぞろ、わかりやすい偽装だな」
青空と無縁な地下通路の端で、貴利矢はそうぼやいた。
モータスの亡霊の目撃談を元に、確認範囲が重複している場所。
それが今立っている場所である。
だが現地に着いてすぐ、貴利矢は絶対にここに何かあるという確信を固めていた。
むしろ装飾のない白壁が並んでいたところに、いきなりゲームの告知ポスターが貼ってあれば何もないと思う方が難しい。
監察医の頭脳を駆使するまでもない、ごく自然な思考だった。
「念のため向こうを調べて……よっと!」
ポスターのある部分の壁を叩くと、軽く音が響く。
本社社屋の最下層で聞こえるはずのない反響を確認すると、貴利矢は壁へと飛び込んだ。
同時にその姿がオレンジの粒子へと変わっていく。
自ら語るように、九条貴利矢は真人間ではない。
バグスターワープを使って壁を抜けていくこの光景が何よりの証拠だった。
「さぁて、アイツの秘密はここにあるかな……っと!?」
壁を超えた先で貴利矢が辺りを見回す。
辺りにはガシャットのパーツや企画書らしき文書が散乱している。いかにも開発現場といった場所だ。
光源がない可能性を考えて小型電灯を準備していたが、その必要はなかった。
一台だけ、パソコンが点けっぱなしになっていたのである。
だがモニタの明かりの正面から浴びる椅子を見て、思わず貴利矢の目が見開かれた。
血に染まった衣服。
座っていた何者かを残したそれだけが、椅子に残されている。
「今さっきってワケじゃないが、そう昔のものでもないな。2日前、幅をとっても3日前ってところか?
コトによっちゃあのパチモノモータスとも関係ありそうだ」
赤から褐色に変わりつつあるTシャツを手に取り、状況を読み取る。
かつて監察医を本業としていた貴利矢は、遺留品からもある程度は情報を得ることができる。
本職の鑑識や検視官に比べて精度は劣るが、遺体がない以上こうする他ない。
……いや。
「今の自分なら、こういう手も取れるんだったな」
衣服の検分を止め、モニタに目を向ける。
そして貴利矢は再びオレンジの粒子へ姿を変えた。
バグスターはコンピュータウィルス由縁の生命体である。
コンピュータから情報を得る、という点においては人間の数倍、いや数十倍の効率で行える。
そしてそれは貴利矢にも等しく言えることであった。
あのモータスに関する事実が、ザクザク入ってくる。
それを事前に用意したネットワーク上のスペースに送る様は、さながらお得な掴み取りのようだった。
「大漁大漁、っと。かなりヤバそうなネタもあるが、もう少し粘ってみるか。
この調子ならまだ何かあってもおかしくないよな」
マシンの中から帰還して早々、貴利矢は散乱した企画書を漁り始めた。
この部屋の主にあまり整理するという習慣がなかったのか、配置はかなり適当に見える。
ならばと貴利矢はパソコンに近い範囲に捜索の幅を狭めた。
そしてある書類に目が止まる。
「ん? これは……そういうことか。
ログでよくわからない部分があったのはそのせいか」
納得がいくと同時に拾った書類をキーボードの上に投げ、そしてバグスターワープの準備に入る。
いくら鍵を開けずに入ったとはいえ、長居すれば発見のリスクはある。
ここいらが潮時と踏んだ貴利矢は、密室から姿を消した。
開けられずにいた扉が開かれたのは、ちょうどその直後だった。
入ってきたのはスーツ姿の男。身なりは小ざっぱりしていて、どことなく清潔感を感じる。
ゲーム会社という場所には似つかわしくないその男は、キーボード上に残された紙面にある文字を見つけると、
食い入るように目を走らせた。
「タドルレガシー……やはり、そういうことだったのか」
モニタに反射した鏡飛彩の顔に、遊びの色は一切なかった。
[SONIC]
「やった!」
巨大な魚が頭上で爆発したのを見て、ニコが快哉を上げる。
だがそれに応える声はない。
ソニックだけでなくスナイプも、通信機越しのテイルスすらもまだ警戒を解いていなかった。
「ニコ、喜ぶのはちょっと早いぜ」
「え、だって終わりでしょ? キメワザ当たったし」
「そう甘かねえってことらしい……出てきやがれ。不意打ちとかフザけた真似が決まると思うなよ」
油断なくスナイプがハンドキャノンを構え、大魚の身体が四散する砂浜へ向ける。
ほどなくして、崩落した道の陰から見覚えのある姿が現れた。
モータスと、メタルマッドネス。今度はさすがに無傷ではない。
だが鯨並みの大きさの魚ごと爆殺されたのに、損傷は両肩に穿たれた穴と、肩の顔面の半分から外装が失われただけ。
規模を考えればそのダメージは驚異的に小さかった。
「予想ヨリ冷静ダナ、『スナイプ』」
「爆発した瞬間に口から飛び出したのが見えたからな。
ソニックの策にやられたのも、半分は俺の警戒を解くためってところだろう」
「でも、これで鬼ごっこはおしまいだな。
ここで決着つけようぜ、モータス!」
ソニックはビシッ、とモータスを指さした。
砂浜の後ろはそびえ立つ壁、前方は海。
その先の聖堂への道はソニックとスナイプが塞いだ格好だ。
だが逃げ場のない場所に追い詰められながら、モータスは余裕を崩していなかった。
「フン、一ツ勘違イヲシテイル。オ前ハ既二乗セラレテイルノダ」
「どういう意味だ?」
「スグニワカル……」
言うなり、崩落した道の一部を飛ばしてくる。
シルバー由来の超能力は変わらないが、先ほどまでより規模は小さい。
だがハンドキャノンによる迎撃が決まる直前、何かがスナイプを横殴りに叩く。
手元がぶれ、弾道が逸れる。
同時にスナイプが海上に前進する。
それはおそらく攻撃の正体を見極めるための行動だったが、
そうするまでもなくソニックには、スナイプを襲ったものの正体が見えていた。
「こいつは……水か!」
スナイプを襲っていたのは、強烈な水流だった。
周囲に広がる海から、何条もの水流がスナイプに襲いかかる。
水上に立ったことが仇になり、その攻撃は360度全方位から放たれていた。
それどころか、乱打される水の鞭は余波だけでもソニックやニコをも巻き込みつつある。
「ニコ!聖堂まで突っ切るぞ!」
「え!? 大我は……!」
「テメエは先に行け!」
迷うニコを尻目に、スナイプがたたらを踏みつつ体勢を整える。
さらなる水流が襲いかかるが、それよりもガシャットを替える方が早かった。
『ドラゴナイトハンター・Z!』
海上をジャンプしたスナイプから戦艦のような重装備が外れる。
直後に現れたのは鋼のごとき黒の翼をはためかせた龍、いやドラゴンだった。
それがスナイプの周囲を一周し、水流の嵐を弾きながら合体する。
ドラゴンの翼、爪のごとき剣と砲を備えたスナイプが高々と飛翔すると水流は完全に届かなくなった。
さすがに無制限に飛ぶ、というものではないらしい。
「タイガは大丈夫そうだな……こっちも行くぜニコ!」
「オッケー!」
スナイプがモータス目掛けて左腕のレールキャノンを放っている間に、ソニックはニコを抱え上げた。
アーマーを装備した人間とはいえ、重量100kgに満たないニコならさしたる問題ではない。
そのまま聖堂へと駆け込み、ニコを隠れさせる。
その時、ハッとした様子でニコが周囲の水を見やる。
「ソニック、あの水流ってまさか……」
「……カオス、じゃないといいんだけどな」
ソニックにはニコの言わんとするところがすぐにわかった。
突如として3人を襲った水流は、全く見覚えのないものではない。
かつてソニックが戦った突然変異の敵、カオス。
その完全形態であるパーフェクト・カオスの使う能力に酷似していた。
そして何より――
「これもタイム・イーター事件で再現されていたよね、ソニック」
「テイルス……」
「ステージの時点で疑わしかったけど、やっぱりあのモータスはどこかでぼくらと関係がある。
それもモータスが来るより前、タイム・イーター事件の中で」
「ああ。だが、エッグマンじゃないとしたら一体誰が関係あるんだ?
あの時集められたのは、オレの仲間ばかりじゃないか」
通信機越しに話すソニックは、珍しく浮かない顔をしている。
テイルスの推論通り点と点をつなぐなら、この事件の裏で仲間の誰かが巻き込まれているか、あるいは糸を引いていることになる。
その理屈自体もさることながら、事実確認ができず敵を特定できないことがソニックを苦しめていた。
あの時は乱れた時空を正し、仲間を救うために走ることで精いっぱいだった。
誰がどのように行動したかなどわかるはずもない。
これでは仲間に嫌疑を掛け続けることになる。
……そう、ここがソニックの世界だったならば。
「それならアタシが力になれるよ、ソニック」
「ニコちゃん?」
「タイム・イーターって名前で薄々感づいてたけど、多分その事件もアタシの世界でゲームになってる。
もしそうなら戻って確認すれば、怪しい行動取ってそうなのわかるハズ!」
「そうか、その手があった!」
ソニックがグッとニコの手を握る。
ソニックが関わった事件の幾つかは、本人の知らぬ間にゲーム化されている。
ゲームである以上完全に史実かは断定できないが、それでもソニックは再現性の高さを信じていた。
CRに来た際にニコが見せたゲーム『ソニックワールドアドベンチャー』は、
些末な部分を除けばソニック達のかつての冒険を確実に辿っていたのだから。
「アイツをここで捕まえられなかったら、その時はそれで調べようぜ。
ま、きちんと決着付けられるのが一番だけどな」
「そうだね。んじゃ……月並みでアレだけどがんばってよ、ソニック!
悔しいけどアタシはここで待ってるよ。空、飛べないからさ」
「まかせな、ニコ!」
ニコを残し、再びソニックがモータス目掛けて走る。
そしてわずかに残る道すら喰い荒らす水流を避け、すぐさま海上に立つ柱へジャンプした。
完全飛行できないのはライドプレイヤーだけでなく、ソニックも同じ。
だがこのシーサイドヒルには各所にバネやジャンプ砲台がある。
ダッシュジャンプで高度を上げ、陰に隠れた砲台目掛け飛ぶ。
その中へ入ると、放物線軌道でソニックがすっ飛んで行く。
「チッ……ソニック、邪魔ヲスルナ!」
打ち出された先、モータスの背後へ落ちるソニックを再び水流が襲う。
神殿下の砂浜へ行けば奇襲になるかと思ったが、読まれていたらしい。
回避はできた。だが攻撃を止めるにはまだ至らない。
鬼ごっこが終わったと思ったら逆に逃げる側になるなど、笑い話にすらならない。
それでも冷や汗と共に笑う他ないソニックは、たしかに見た。
突如モータスの背後に現れた青年が、挨拶代わりに蹴りを入れている。
その青年に、ソニックはどこかエムに似た空気を感じていた。
[EX-AID]
「ずいぶん面白いことになってるじゃないか。
オレもそろそろ挑戦するとしようか。マフラーなしのお前にな」
バグスターワープで突入するなり、パラドは挑発的に言い切った。
実際、今の状況はパラドからすれば十分に面白い。
ライダーとバグスターの戦いに、詳細不明の偽バグスター、そしてあのソニックが乱入しているのだから。
この謎の敵がバグスターの名に泥を塗ったのは事実だが、新たな挑戦者自体はパラドの歓迎するところだった。
ソニックに至っては言うまでもない。
ただ、永夢から伝えられた事実が、パラドの中で戦う優先度を変えていた。
「バグスターノ首魁ガ、バグスターヲ狙ウカ」
「他所のゲームキャラに被害出してるお前が言えたことか。
モータスにあれだけ罪を被せたってことは、オレと本気で遊びたいってことだろ?
よーくわかってるぜ」
パラドがバイクに跨ったままのモータスを睨めつける。
ここで、ソニックの眼前でこの不埒者を断罪しなければ、モータスの名誉は地に落ちる。
いざゲーマドライバーを取り出したその時、背後から気配を感じた。
そこにはレールガンの銃口を向けるスナイプの姿があった。
「罪を被せただと? どういうことだ」
「要は偽者なのさ。コイツのことはモータスカオスとでも呼んでやってくれ」
「お前の言うことを信じろってのか?」
「永夢とレーザーは信じたぜ」
「……フン」
レールガンの銃口が下がる。
不機嫌そうではあるが、スナイプもパラドの言い分を一応は認めたらしい。
たとえ認めなかろうと構う気はなかったが、無駄な消耗をせずにモータスカオスとぶつかれるのは行幸だった。
その一方で、スナイプの隣に立つソニックはこの戦いを静観するように見えた。
おそらく自分の素性をCRからある程度聞き及んでいるのだろう。
それでも敵対せずに済んだのはモータス――いや、モータスカオスを倒すという目的が同じだからだった。
「本気ト言ウナラ、場所ヲ用意シテヤロウ」
モータスカオスが右の人指し指を軽く三回振る。
同時にゲームエリアの風景が瞬時に変わっていく。
神殿も海も全て消えうせ、代わりに現れたのは幾つもの細いレールと広めの道が走る宇宙ステーションだった。
これがあくまでゲームエリアであることは誰もが理解していたが、それでも宇宙から地球を見下ろす光景は、
シーサイドヒルと別の意味で強い非日常性を感じさせる。
そんな非日常の塊を突っ切るように、レール上をグラインドする影があった。
「ソニック!……ってお前、パラド!!」
「へぇ、Nも来てたのか」
レールから道路上へ降り立ったライドプレイヤーを、軽く笑って迎える。
スナイプのお付きのような状態ながら、ニコが着実にバグスターを攻略してきたのはよく知っている。
クロノスが出現しなければ、彼女との直接対決もあり得たのだろう。
だが戦闘能力では圧倒的な差がある上、今はやはりモータスカオスが先だ。
それでも、この場でソニックが動いたことはパラドが手を止めるのに十分だった。
「ニコ、そろそろ先に帰ってくれ」
「ソニック!? でもココ、明らかにファイナルラッシュ……」
「わかってるさ。いよいよタイム・イーターとのつながりがハッキリしてきたこともな。
だからこそ、例のゲームを確認してほしいのさ」
「俺も抜けるのには賛成だ。モータスカオスが偽者野郎に過ぎないなら、クロニクル攻略とは関係ない。
わざわざトドメ刺すために残ることもねえだろ。ヤツのことは俺とソニックで確認しといてやる」
ソニックとスナイプに説得され、ニコがガシャットのボタンを押す。
変身解除と同時に、ニコがゲームエリアから弾かれてゆく。
「パラド! 今は帰るけど後で絶対ブッ飛ばしてやるからな!」
捨て台詞と共に完全にニコの姿が消える。
パラドはすぐさまモータスカオスへと向き直った。
「そろそろ始めるか。余興はもう十分だろ?
ここなら存分に戦えそうだ」
「フン……何処カラデモ来ルガイイ。
『偽者』ナドデナイトワカラセテヤル」
なぜか偽者、という部分に強い語気を感じる。
そのモータスカオスの圧に応じるがごとく、パラドがドライバーを装着した。
そして二色の大型ガシャット、ガシャットギアデュアルをドライバーへ装填する。
「マックス大変身……!」
『マザルアップ!』
パラドの背後に2つのゲーム画面が現れ、それが融合する。
同時に赤と青の光線がパラドを包み、その姿を変えていく。
『赤い拳強さ! 青いパズル連鎖! 赤と青の交差!
パーフェクト・ノックアウト!』
――仮面ライダーパラドクス、パーフェクトノックアウトゲーマーLv99。
二色の混ざったローブを纏ったこの姿こそ、今のパラドが出せる限界点である。
「勝負といこうか、モータスカオス!」
「意気込ミハ良シ。ダガ倒サレル気ナド元ヨリナイ……」
パラドクスが距離を詰めにかかった瞬間、モータスカオスの姿が唐突に消えた。
バイクも何も残されておらず、まるでバグスターワープで逃げたかのように見える。
だがゲームに対する注意力が強いパラドクスは、モータスカオスのいた場所に水溜まりができたのを見逃さなかった。
直後、飛び退いたパラドクスの前方を場違いな水流が襲った。
水と侮ればただでは済まないと、路面にできた穴が物語っている。
そして水流が集まった先では、再びモータスとメタルマッドネスの姿が形成されていた。
「なるほど、液状化に水流制御……まるでカオスだな。
でもそんなやり方シラけるんだよ。正面からぶつかろうぜ!」
バグスターワープと似て非なる、反撃困難にして攻撃力を持つ水流ワープ。
広けた宇宙ステーションという場所は、スナイプが立ってしまった海上と同じく全方位から奇襲を受けやすい。
しかしパラドクスはそのことごとくを幾つものレールを飛び移って避け、あるいは青いパズル状の防壁で直撃を防いでいく。
そしてレール上をグラインドしながら、パラドクスが左手を高く掲げた。
直後に虚空から2つのエナジーアイテムが飛来し、パラドクスに力を与える。
『挑発! 鋼鉄化!』
パラドクスがレールから広い道の中央へ降り立つ。
その着地を狙って水流が襲ってくるが、それは真正面からだった。
『ガシャコンパラブレイガン!』
挑発の効果で迂回や退避が許されなくなったモータスカオスに対し、パラドクスが武器を呼び出す。
さらにパラブレイガンの斧の部分を前にし、ボタンを連打する。
そして向かって来た水流に正面から斬撃を叩き込んだ。
水に斧を突き立てても弾いてしまうだけ。
だが、鋼鉄化の効果で受けるパラドクスにもダメージはない。
そして斬撃と同時に放たれた赤い閃光のごとき炎は、水を蒸発させるほどの熱量を放っていた。
『7・連打!』
一瞬にして七発の閃光が走り、爆炎のごとき赤に宇宙を染め上げる。
直後にパラドクスの背後で何かが転倒する音がした。
その正体を見ずにすぐさまパラブレイガンの前後を入れ替える。
そして再びボタンを連打すると、振り向き様に銃撃を放った。
今度は五発。
『5・連鎖!』
気配だけを辿って撃った射撃は、しかしパラド自身の思惑以上に正確だった。
五発全てがモータスカオスに直撃し、内一発は顔の左半分の外装を吹き飛ばしていた。
だが与えたダメージ以上にその体勢がパラドに目に留まった。
モータスカオスはバイクを、メタルマッドネスをかばっていたのだ。
「自分を盾にするとはな。そんなにバイクが大事か?」
「我ガ何ノゲームノバグスターカ忘レタカ……?」
「そう言う殊勝なセリフは少しでもそいつで走ってからにしろよ。
液状化して襲ってくるだけのヤツに、レースゲーマーの誇りがあるとは思えないぜ」
「フン……ナラバレースト行コウカ」
乗せられようようにして、モータスカオスがバイクを始動させる。
だが道路と別にレールによるショートカットが簡単なこの場所では、
スピードさえ足りていれば脚で追いつくのは難しいことではない。
そしてノンストップで駆けるメタルマッドネスの速さに追いつく手も、パラドクスにはある。
『高速化! 高速化! ジャンプ強化!』
今度は3つのエナジーアイテムをその身に受け、パラドクスが凄まじい勢いでダッシュする。
重ね掛けされたスピードアップを活かしたまま、大ジャンプでレールを目指す。
その超スピードの世界に、突如として割り込んできた何かにパラドクスがパラブレイガンを構える。
飛来する巨大な岩石……いや、隕石。
その大きさは自動車や遺跡の円盤よりさらに大きい。
妖しい緑の輝きは、それが自然に降ってきたものでないことを示していた。
連射を叩き込むにも破片が飛び散るだけ、接近して叩き割れなければ一気に不利になる。
だがこの状況で、仮面の下はパラドが笑っていた。
「なるほど、飛ばすものは十分あるってことか。
でもこれでオレを止める気なら……甘い!」
レールを飛び上がり、強化されたジャンプ力で一気に隕石の上へと着地する。
あまりに巨大な障害物は破壊するのは不可能だが、スピードさえ足りればそれ自体に乗ることができてしまう。
その弱点をパラドは瞬時に見破っていた。
負けじとモータスカオスが大小様々な隕石を呼び寄せるが、今度はパラブレイガンが火を噴く。
放たれた青い弾丸目掛けてパラブレイガンを投げつけると、一つの弾が瞬時に拡散した。
無数の青いパズルのピースが小規模な隕石の軌道を外す。
そして残された大型隕石を新たな足場にしたパラドクスは、一気にモータスカオスへ迫っていた。
「チェッカーフラッグまであと少しだな!」
勝利が近づくのを確実に感じ取りながら、二色の戦士は宇宙を疾走する……。
[SONIC]
「あっさりこっちを無視しやがって。狙いは俺じゃなかったのかよ」
宇宙ステーションの中を駆けながら、スナイプが毒づく。
パラドクスとモータスカオスはステーションの外周を走っている。
ソニックはまだしも、スナイプの加速力ではあの2人に追いつくのは難しい。
ならばと入ったはいいものの、内部もまた幾つもの仕掛けが施されていた。
唯一の救いは、かつてこの地を攻略した当人であるソニックがいることだった。
「まさか……」
「どうした、テイルス?」
テイルスに応じつつ、ソニックが装置を動かす。
直後に室内の重力が上下反転した。
このクレイジーガジェットという場所は各所に配置された重力操作装置を使わねば前に進めない。
既に装置の操作は10回を超えている。
踏破した経験のおかげで無駄なく進めてはいるが、まだ出口まで距離はあった。
「あいつの狙いは永夢さんや大我さん個人じゃなくて、仮面ライダーそのものなんじゃないかな?
さっきの戦闘とカオスエメラルド反応で、気になることがあるんだ」
「気になること?」
「うん。大我さんが戦ってた時と、今のパラド……だっけ。
あの人が戦ってる時でカオスエメラルドの反応の強さが違うんだ」
「エメラルドの力を引き出してるんだろ? なら強くなるのはおかしくないさ」
「そうじゃないんだ。弱くなってるんだよ」
「なんだと……?」
隣からスナイプの声が漏れるのが聞こえる。
その驚きはソニックも同じだった。
「Really? 本当に逆じゃないんだな?」
「継続して反応を取ってるから間違いないよ。
いつ反応が変化したか確認したんだけど、モータス……じゃなくて、モータスカオスだっけ。
それがカオスの能力を操るようになった時なんだ」
「……なるほど、そういうことか」
今度は重力が90度傾く。
三半規管を狂わせるに十分な重力変化の連続だが、スナイプは移動にも会話についてきている。
おそらくタイガは人間としてもかなり強い部類なのだろうと、ソニックは思った。
「アイツが追い詰められてから新しい能力を使い出すのは、後出しで温存してたワケじゃねえってことだな」
「多分、そうだと思う。
……パラドって人もライダーなら、基本的な機能は同じなの?」
「テメエの心配してることなら、その通りだ。急ぐしかねえな」
「OK、タイガ! さかさまになるのも……最後だ!」
ソニックが装置を操作すると、上下左右とも内部の重力は完全に元に戻った。
室外への出口が見えると同時に、ソニックが外部へつながる道を駆ける。
『ジェットコンバット!』
スナイプも新たなガシャットを挿してソニックを追う。
背部にジェットパックを背負ったその姿は、最高速は足りずとも再加速性はソニックにも劣らないだろう。
外は宇宙空間だが、厳密な意味で宇宙でないことは既にパラドが証明している。
――そう、辿りついた先ではもう赤い炎が見えていた。
「Too bad……!このままだとまた思うツボか」
「狙い撃つには邪魔が多過ぎる、あの野郎妨害させない気か!」
両手に構えたガトリング砲に手をかけながら、スナイプが吐き捨てる。
ソニック達と前には小規模の隕石が大量に流れていた。
パラドクスとモータスカオスの間はクリアになったが、周囲はその煽りを受けた形になっている。
「さぁて、追いついたぜ。チェッカーフラッグ代わりに受け取りな」
『キメワザ! パーフェクトノックアウト! クリティカル・ボンバー!』
その状況に気付かぬまま、パラドクスがドライバーのレバーを開閉した。
一度はエグゼイドすら破ったという必殺のキック。
だがモータスカオスはそれを悠然と受けようとしている。
「タイガ、オレが止めにいく! 手を貸してくれ!」
「チッ、一か八かでもやらねえよりはマシか!」
既にパラドクスはレール上から飛び降りている。
すぐさまスナイプがガトリング砲を掃射した。
石の流れを吹き飛ばし、わずかながらもクリアな進路を作る。
それは一瞬だったが、ソニックが抜けるにはその一瞬で十分だった。
レール上に辿りつき、さらにバネとブースターを使って勢いを増幅させる。
あとはホーミングアタックで狙えば、タッチの差だがモータスカオスを転倒させられる。
だが――
「なんだって……!」
回転突撃したソニックがモータスカオスに触れることはなかった。
迎え撃ったのはモータスカオスのバイク、メタルマッドネスだったのだ。
乗り手を離れたバイクがきりもみ回転して突撃してくる、というその異様な光景に、
なぜか既視感を感じながらソニックが中空へ吹き飛ばされていく。
パラドクスのキックがモータスカオスに炸裂したのは、その直後のことだった。
「ソニック、トドメだけもってこうなんてズルいことするなよ。
まぁ、結局はオレが倒したんだけどな」
軽く咎めるようなパラドの声が聞こえる。
モータスカオスは盛大な爆炎に包まれている。
施設に巻き込みもせずに、必殺とはいえ蹴りだけでこの威力を出せるのだから、
パラドクスのパワーはたしかに凄いのだろう。
だがソニックの表情は険しい。視線はパラドクスではなく、爆炎へと向けられている。
そしてその視線で、彼もまた状況を察した。
「まだ終わっちゃいないぜ、パラド」
「……なるほど、たしかにタフだな」
爆炎に蠢く何かを認め、ソニックだけでなくパラドクスも油断なく構え直す。
だからこそ、それは確実に2人の目に見えていた。
ゲームエリアに突如として青やオレンジの体色をした奇妙な生物を封じたカプセルが現れたのを。
その正体をソニックが理解するのと、青い生物が爆炎の中へ吸い込まれたのは同時だった。
『レーザー!』
ガシャットの音声とも異なる、何者かの声がエリア内に響き渡る。
直後に走った青い光はまさしくレーザービームのようだった。
それは爆炎を超え、その前にいるパラドクス目掛けて突き進む――
「ぐ、おおおおおおおっ……!!」
「パラド!!」
『鋼鉄化!』
レーザービームに押し潰されるかのごとく、凄まじい勢いでパラドクスが引きずられていく。
盛大な炎上痕が道路に刻まれる。
だが、苦悶の声を上げるパラドクスにエナジーアイテムが当たった直後、火花と爆炎が消えた。
そのまま己を鋼鉄と化したパラドクスが、強引にレーザービームを蹴り上げる。
壁に反射したかのごとく中へ舞った光が消えると、その中からモータスカオスが現れた。
「大丈夫か!?」
「なんとかな……警戒して正解だ。サンキュー、ソニック」
パラドクスを助け起こそうとしたソニックだが、うっかり背中に触れて手を離す。
代わりにその身を引き起こしたのは、遅れてやってきたスナイプだった。
変身していないソニックよりは、その手は熱に強いらしい。
だがその手はパラドクスが自力で立ち上がれるとわかった途端、すぐに離された。
「助けるのはここまでだ。後はテメエでやれ。
……ソニック、今ポンポン出て来た奇妙な生き物はなんだ?」
「ああ、あれはウィスプだ」
「ウィスプ?」
「ぼく達の世界にいる宇宙人だよ。カラーパワーっていう不思議な力を持っていて、
Dr.エッグマンに狙われていたところを助けたソニックに力を貸してくれたんだ」
「今オレを轢いたのも、その力ってワケさ。
『シアン・レーザー』……光そのものと化して突撃したり、レーザービームを発射する力だ」
テイルスの説明に、パラドが付け加える。
パラドもまたゲーマーなのだろうと、ソニックはそう理解した。
「エッグマンがやったみたいに、強引に取り込んでも力は使えるからな。
アイツがやったのもそういう手だろうさ」
「つまりコイツが今度の力か。止めるのが間に合えば……!」
スナイプがパラドクスに顔を向ける。
双方が仮面越しでも、明らかに睨んでいることはソニックに透けて見えた。
「おいおい、オレが悪いのかよ。
反撃受けた分だけ甘いのは認めるが、初見でスピードランした割に悪くないだろ?」
「推論が証明されたってこと以外は何もいいことねえよ。
テイルス、エメラルドの反応はどうなってる?」
「うん、弱まってる。やっぱり合ってるんだね。
原理はわからないけど、モータスカオスはエメラルドの力を利用して新しい能力を手に入れてる。
そのタイミングが『キメワザ』って技を当てた瞬間なんだ」
「なに……!」
さすがのパラドも軽口を止める。
必殺の一撃こそが狙いだとは思わなかったのだろう。
「そういうことだ。テメエも俺も、ヤツの手助けをしちまってたらしい」
「そいつは本当か……?」
「ソニックは信じたぜ」
「……そう言われちゃ、信じるしかないな」
苦笑するパラドだが、すぐさま戦闘態勢を整え直す。ソニックとスナイプも。
宇宙空間にすっ飛んでいったモータスカオスに、また別のウィスプが引かれていくのが見えたのだ。
「おいスナイプ、飛ぶ準備はできてるか? お前はグラインド下手そうだからな」
「俺を誰だと思ってやがる。心配するならテメエの心配しやがれ」
「ケンカはそこまでだぜ、タイガ、パラド。来るぞ!」
『スパイク!』
ソニックの言葉通り、再びウィスプを発動する声が聞こえる。
そしてモータスカオスとメタルマッドネスが、ピンク色の光に包まれた。
青いレーザービームに対し、今度はピンク色のトゲの球。
ウニのようなその球体が、中空から一気に道路上へ張りつくように降り立ち、
そのまま猛スピードで回転しながら突っ込んで来る。
「さっきよりは大したことねえな……」
「気をつけて、大我さん! ピンク・スパイクの能力ならどこにだって張り付いてくるよ!」
ソニックと並行してレールへ飛んだスナイプに、テイルスの忠告が飛ぶ。
電動ノコギリのごとく壁面を切り刻みながら、ピンクの球体が宙を舞う。
道路やレールどころか、ステーションの壁面や隕石すらも貼りついて足場にしてしまう。
背後や頭上すらも自在に狙うその動きに、3人は回避を優先せざるを得なくなっていた。
「追い切れねえならこれで!」
ガトリング掃射を振り切られたスナイプがミサイルを発射する。
その追尾性能は決して悪くないようにソニックには見えたが、モータスカオスには当たらない。
それどころかスナイプ目掛けて当たるよう逆に誘導までされている。
ガトリングで自ら発射したミサイルを撃ち落としている時、ソニックが地を駆けた。
「悪いな、オレも力を貸りるぜ!」
『ロケット!』
モータスカオスと別のウィスプが、ソニックの身体に重なる。
オレンジ色の輝きと共にソニックがロケットへと姿を変え、垂直に飛んでいく。
そのままスナイプのジェットパックに突き刺さらんとするピンク球を真下から吹き飛ばす。
2つのウィスプの力が切れたのは同時だった。
変身解除の隙をパラドクスが射撃で狙うが、今度はバイク自体の機動力で避けられてしまう。
「キメワザは使えない、普通の攻撃は当たらない。
なんとも攻略しがいのあるヤツだぜ」
パラドが呟くも、そこには苛立ちの色が混ざっている。
それはソニックも同じだったが、同時に奇妙な感覚を覚えていた。
(この戦い方、はじめての気がしないな。
それにバイクが突っ込んできた時のあの技……まさか!)
そんなソニックの逡巡を切り裂くように、再びゲームエリアに乱入者が現れる。
その姿は昨日遭遇した2人の戦士そのものだった。
[EX-AID]
「エグゼイド、そいつにキメワザは使うな!」
ゲームエリアに突入した自分達を見てか、スナイプが叫ぶ。
それが何を意味する言葉か、今の永夢達には予想ができた。
「……ちょっと遅かったか。情報収集に欲をかき過ぎた、って思いたかないんだけどな」
「まだ手遅れじゃないはずです。
本当に手遅れなら、大我さん達が無事に立っていられる相手じゃないですから」
「そうらしいな。どうやら、例のクロノスすら倒せる能力ってのはまだらしい」
貴利矢の言葉に頷きつつ、永夢がガシャットをホルダーに戻す。
仮に最悪の事態であればムテキの力を使う他ない。
幸いにして状況はそこまで悪化していなかったが、金色のガシャットに熱視線を感じる。
その先を見るまでもなく、声が響いた。
「マタ会ッタナ、エグゼイド……」
モータスカオスがゆらりと蠢く。
それまで対峙していたであろうソニック達ではなく、永夢と貴利矢に向けて。
顔の外装が完全に消え失せ、機械仕掛けの顔を剥き出しにしながらその余裕に変わりはない。
「今はアイツを撤退に追い込みたいが……それも簡単な話じゃなさそうだな」
「なんとか引きずりおろして、削ってくしかないですね」
『激突ロボッツ!』
『シャカリキスポーツ!』
バイクで迫りくるモータスカオスを前に、エグゼイドとレーザーターボがガシャットを挿す。
脇へと飛び退り再び向き直った時には、エグゼイドに赤いアーマーが装着され、
そしてレーザーターボは黒い自転車を背負う形になっていた。
すぐさま自転車のホイールを投げつけるが、高速で向かってくるモータスカオスに弾かれてしまう。
「コノ程度……無駄ダ」
「そうかよ、ならこれはどうだ!」
貴利矢に合わせるがごとく、今度はエグゼイドが右の拳を前方に向ける。
アーマーの一部である巨大な拳が、ロケットパンチと化して飛んでいく。
だがホイールよりは衝撃力に勝るそれも、やはりダメージを与えるには至らない。
「コレモ無駄ダ」
「慌てるな、まだ終わっちゃいないぜ!」
「……!?」
直後、モータスカオスの身体が揺れた。
ロケットパンチが直撃している。
だがそれはモータスカオスの身体を狙ったものではない。
メタルマッドネスのシート――座席を狙ったものだった。
自在に動く自転車の車輪でロケットパンチを挟み、急激な旋回と再射出を行ったのである。
いくら優れたマシンと乗り手でも、座る場所がなくては不安定にならざるを得ない。
スナイプのガトリング砲が追撃で刺さるとそれは決定的なものになっていた。
「チッ……」
明らかな舌打ちとともにモータスカオスの姿が水と化す。
直後に超能力で落とされた隕石はパラブレイガンにより打ち砕かれたが、
それに紛れてウィスプを呼び寄せたのを永夢は見逃さなかった。
青でもピンクでもオレンジでもない、また違う色。
「赤いウィスプ……!」
「エム! 一旦下がるぞ!」
「いや、ここで踏みとどまる! ソニック達は後ろに!」
ソニックを退避させながら、エグゼイドがマキシマムガシャットに手をかける。
走行中のモータスカオスを追っていたために、周りには障害物がほとんどない。
粉砕したために隕石を盾にするのも難しい。
見晴らしが良過ぎる。
ならば、自ら壁を作るまで。
『マキシマムガシャット!レベルマックス!』
『バースト!』
永夢が自らより一回り大きいアーマーを呼び出すのと、液体から固体へ戻ったモータスカオスが爆発したのは同時だった。
レッド・バースト。爆発の力を使うウィスプ。
盛大な爆炎に包まれる前に、マキシマムマイティの装着が完了する。
そしてすぐさま腕を組んだ防御の姿勢で受け止める。
サイズが大きいからこそできる、身代りの壁だった。
「くっ……こいつはまた、派手な火力だな」
「パラド!」
「お前と手負いでやり合う真似はしたくないんでな。
次はサシで勝負しなおそうぜ、永夢」
右手を突き出したパラドクスが、そのままバグスターワープで姿を消す。
至近距離とはいえ、爆発の威力は高かった。
だからこそ、咄嗟にパラドはマキシマムマイティの前に防壁を貼っていたのだ。
負荷こそ高いが、水流ワープをことごとく防いだパズル状の防壁。
それを完全に破られたことは、アーマーを焼かれる実害だけでなくパラドの過負荷にもなっていた。
超能力で数を、液状化で不意を、そしてウィスプ吸収で破壊力を増す。
昨日会った時から半日足らずで、モータスカオスはどんどん強くなっている。
だからこそ慎重に削らねばならない。
パラドの力を以てしても止められない威力をいなしながら、どこまで削り切れるか――
永夢の目がひたすらに険しくなる。
想像するだけでも、困難が避けられない状況。
だが、その状況は一瞬で変わった。
『デンジャラス! クリティカルフィニッシュ!』
唐突に聞こえたその音声と共に、虚空から一本の剣――ガシャコンブレイカ―が飛んでくる。
それがモータスカオスの胴体に突き刺さると、その身体が紫に輝いた。
体内の石の輝きが3つから4つに増え、同時にブレイカーが身体から押し出されていく。
そして刺さった剣の傷が消えていくのを目の当たりする永夢達の前で、それは起きた。
「グ……ガガガ……ゴオ……!!」
「この状況を待っていた……お前を丸裸にしてやる!」
はじめて聞く、モータスカオスの苦悶の声。
だがそれも当然である。突如現れたゲンムが、腕に装備したバグヴァイザーIIで顔を突き刺しているのだ。
今や外装のない剥き出しの目を、耳を、鼻を、小型チェーンソーが次々と粉砕していく。
同時にチェーンソーの刃の動きに合わせてオレンジ色の輝きが取り込まれ、代わりに青い輝きが叩き込まれる。
「ついでにこちらもいただくぞ贋作ゥ!」
暴れるモータスカオスに構わず、今度はバイク――メタルマッドネスのフロントランプをチェーンソーが貫く。
その一撃にまるで生き物のようにマシンが暴れ、急回転してゲンムを吹き飛ばす。
そのままモータスカオスがオレンジの粒子に姿を変えていく。
それが液状化でなくバグスターワープによる単純な逃げだと理解できたのは、
起き上ったゲンムが変身を解除し、全てが終わった後だった。
「黎斗、お前!」
「新檀黎斗だァ!」
「んなこと言ってる場合か! なんでキメワザ使いやがった!」
「ヤツの耐性のことか? そんなもの、代価に比べれば安いものだ!」
ゲームエリアが消え、元の街中の風景で貴利矢が叫ぶが、黎斗は意に介さなかった。
永夢も文句の一つや二つ言いたかったが、バグヴァイザーIIのモニタ画面を見て言葉を呑み込んだ。
バグスターの身体成分であろうオレンジ色の粒子だけでなく、赤く輝く宝石が映り込んでいる。
それは永夢だけでなく、ソニックにとっても忘れるはずがない代物。
「カオスエメラルド!! まさか今の一撃で!?」
「クロト、それはアイツから吸い取ったのか?」
「もちろんだ、ソニック君。顔面に取り込まれていたものをそのまま奪い取ったのさ。
データ採取だけなら簡単だが、こいつを確実に奪い取る調整にはずいぶんと手を焼いた……
だが結果はこの通りだ。これも私の才能の為せる技!」
「ソニック、黎斗さんの言ってることは本当だよ。
1個だけだから弱いけど、間違いなくカオスエメラルドの反応がある」
テイルスの補足に、黎斗の哄笑が響き渡る。
戦闘直後で人払いされていなかったら、間違いなく通報を受けるほど不審な姿だったが、
永夢どころか大我や貴利矢も止めなかった。
自分達を囮に使った形とはいえ、カオスエメラルド奪回という目的を一つ達成したことに変わりはない。
「ま、ちょうど撤退に追い込みたいタイミングだったからな。ここは素直に感謝しときますか」
「フン……そっちの情報収集はどうなったんだ? 遅れてきてスカだったとは言わせねえぞ」
「お、そういう聞き方する? 残念だがこっちは上々だ。
虎穴に入らずんばなんとやらって、危ない橋の先からあんなこととかこんなとことか色々引っ張ってきたぜ。
そっちも、あのモータスとずいぶん長く戦ってたが?」
「あいにく俺やパラドのヤツはブッ潰すのに専念してたんでな。
だが、俺が面倒見てたヤツはそうでもないらしい。今頃ニコはCRでゲームの時間らしいからな」
「そいつはまぁ、ずいぶんと保護者が板に付いたもんだ」
「初対面のガキとすぐ意気投合できるテメエには言われたくねえな……」
貴利矢と大我の言い合いを横目に、永夢はソニックに視線を移す。
そして視線が正面からぶつかる。どうやら、ソニックの方からも用があったらしい。
「エム、お前も気付いたか?」
「何に?」
「アイツの声さ。どう聞こえた?」
ソニックの言葉の意味をすぐに悟る。
永夢自身も、接近戦を常とするソニックなら気付いているかもと思って気にしていたのだ。
「……多分、ソニックと同じことを考えてると思う」
「OK! やっぱり気のせいじゃなかったんだな。ならニコの調べも役に立つはずだ」
ソニックを前に、永夢もまたあの現象が気のせいでなかったと理解する。
ゲンムが乱入した瞬間も目前に立っていたことで、その謎ははっきり耳に残っている。
意味がないとは思えない、不可解な謎。
(なぜ、バイクの方から苦悶の叫びが聞こえたんだ……?)
- Zone.3 Endless Possibility -
[SONIC]
CR、昼下がりのミーティングルーム。
ソニックは永夢達と共にここへ帰って来ていた。
出迎えたのは留守を預かっていたポッピー――既にアスナから元の姿に戻っている――と、もう一人。
「ソニック! もう帰ってきたんだ」
「クロトがアイツを撤退させたからな。おかげでカオスエメラルドも1つ取り戻せた」
「マジで!?」
携帯ゲーム機から顔を上げたニコが、ソニックの手にある赤い宝石をまじまじと見つめる。
直後に振り向いたのは黎斗の顔だった。その驚きに満ちたリアクションに黎斗も満更ではないらしい。
「フッ、私に不可能はないということだ。分析に必要なデータも十分奪えた。
贋作の命運ももう間もなくというところさ」
「ったく、アタシだって負けてないんだからな!
もうちょいで通しプレイやり直し終わるんだから!」
捨て台詞めいたセリフと共にゲーム機を握るニコの様子に、思わずソニックは肩をすくめる。
だが彼女の検証もまたソニックにとって外せない情報になる。
子ども染みた反発でも、意欲を燃やしてもらう分には悪くない。
「んじゃ、情報の取り纏めに入ろうか。
アンタはともかく、その様子だとニコちゃんも作業中ってところか?」
「プレイしながら聞く! だから始めちゃって大丈夫だよ!」
「わかった。じゃあ誰から行くかい?」
「オレからいくぜ!」
貴利矢の呼びかけに、すぐさまソニックが手を挙げた。
基本的にせっかちな性分なだけにその手は反射的に動いていたが、それだけではない。
ニコが何をしているかを説明しておく必要もあった。
「ソニック、オレの分もお前に任せた。
オレはヤツとの交戦に専念してたし、ゲームの知識は足りてねえ。
お前にしか見えてない部分はあっても、オレにしか見えてないのはなさそうだからな」
「OK、タイガ。……ってことだぜ、テイルス?」
「そうなると思った。じゃあ、ぼくが話すね」
通信機越しにテイルスが説明をはじめた。
「まずわかったのは、モータスカオスはキメワザを受けることで新しい能力を増やすってこと。
今のところ判明している能力は、物質を浮遊させたり射出する超能力、自分の身体を液体にして自在に操作する液状化能力、
ウィスプっていう生き物を取り込んで一時的に特殊な力を発揮する能力だね。
実際には、黎斗さんが最後に当ててるからもう1つあるはずだけど……」
「つまり車ポンポン投げてくるようになったのは、自分がキメワザでぶつかったせいってことか」
「ぼくやソニックに追い詰められた時に使ってなかったら、そういうことになるね。
それに能力が増えるだけじゃなくて、キメワザって攻撃自体が全然効いてないみたい。
能力を得ると同時にカオスエメラルドの反応が減ってるから、多分エメラルドのエネルギーを吸ってる影響だと思う」
テイルスの言葉に、CRのライダー達の目が心なしか険しくなる。
唯一、ゲーム筐体の中で凄まじいスピードでキーボードを叩く黎斗だけがいつもの調子だった。
その様子に思わずソニックがフォローを入れる。
「普通の攻撃は効いてるから、手の打ちようがないワケじゃなさそうだけどな。
一人で一気に倒すのは無理でも、全員で集中攻撃って方法もあるんだしさ」
「そうだね。モータスカオス自体は案外脆いみたいだし」
永夢の反応に、ソニックはモータスカオスのダメージを思い出す。
自分の世界で叩き込んだ蹴りで噴煙口を、巨大魚に肩と顔半分の表皮、さらにパラドクスの射撃で残り半分の顔。
そういった明らかなレベルでないものの、胴体にだって傷は幾つか入っている。
打たれ強さという面で言えば、決して倒すのは難しくないはずなのだ。
それでも苦戦しているのは、バイクの速力や獲得した能力で直撃を避けられているからである。
当たらなければ打たれ弱いという弱点は問題にならない。
そして対策の立てられていないタネを、モータスカオスはまだ残している。
「反応が強く残ってるエメラルドはあと二個、使い切られる前に止めなきゃ」
「あと二回、ね。そろそろクロノスに対抗できるって能力が出てきそうだな」
「……カオスコントロール、か」
貴利矢に応えるが如く、永夢が重々しく呟く。
おそらく永夢とニコは知っているだろうし、今朝方にモータスカオスを倒せれば知る必要はなかった。
だが本当にあの能力に手が届く可能性があるなら、この事態において知っておく必要がある。
「カオスエメラルドの力そのものを使いこなす能力、それがカオスコントロールさ。
エメラルドのエネルギーを槍にして投げたり、そのまま放出して爆発を起こすこともできるんだが、
多分エムが言ってるのはそこじゃないな。
……カオスコントロールを使えば、時間を操作できるんだ。
自分以外が止めた時間の中でも動けるようになるから、クロノスってヤツにも正面から戦えると思うぜ」
ソニックの前で、貴利矢と大我に驚きの色が浮かぶ。
それはかつてカオスコントロールを使われた時のソニックと同じだった。
最速の足を誇るソニックも、時間を止められては遅れを取ることは否めない。
それどころか止められた状態のまま、仲間ともども敵に包囲されたことすらある。
カオスコントロールの真の使い手であるシャドウがいなければ、おそらく今ここにソニックはいなかっただろう。
そんな過去の想起を止めたのはテイルスだった。
「あと、最後にこれは少し推測も入るけど……なぜかモータスカオスはタイム・イーター事件に関係した能力ばかり使うんだ。
ステージの場所も、能力も、今のところ全部あの事件の時に見たことがあるものばかり。
だから、モータスカオスの裏にはあの事件に居合わせた誰かが関係してるんじゃないかって」
「どうやら、オレのことも最初から知ってたみたいだしな。
シャドウに会ったワケじゃないのはテイルスが確認したから、モータスのヤツが人違いしたってセンは消えてる」
「だから、ニコちゃんがあのゲームをしてるのか……」
「それももう終わったよ! あとは犯人探しの時間!」
割り込むようにニコが会議用テーブルの前に戻ってくる。
その手には『ソニックジェネレーションズ』と書かれたゲームソフトが握られていた。
タイム・イーター事件を収めたゲームの細部を確認し直せば、当事者であるソニック達にも見えない事実がわかる。
今まさにニコが作り上げた全ステージクリアデータが、その鍵を開ける。
だが、扉と別にソニックにはある心当たりがあった。
「それじゃニコ、とりあえずアイツがどうしてたかを調べてくれないか」
「アイツ?」
「ああ。名前は――」
回転突撃するバイクの動きを思い出しながら、容疑者の名を告げる。
その名にニヤリとするニコを残し、ソニックは再びテーブルへと戻ってきた。
「Going well! 次はそっちの番だぜ、キリヤ」
(本編と関係ない連絡:
既に1日1回ペースから遅れて久しいですが、9月4日までプライベートで大作業入ってしまうので更新完全に止まります
遅筆こじらせたために完結より先にビルド放映開始されてしまうペースですが、コンティニューしてでもクリアする精神で
完結まで進む所存です……)
乙です
楽しみに待ってます
乙、いつまでも舞ってる
[EX-AID]
「ご指名とありゃ、自分らも出すもん出そうか。
拾ってもらったパズルのピースも幾つかつなげられそうだしな」
青いハリネズミを前に、貴利矢が取り出したのは人数分の紙束だった。
数枚程度とはいえ、その文体は報告らしい形にきっちりまとめられている。
「……律儀なもんだな」
「職業病ってヤツさ。監察医務院じゃ死体検案書だの死因統計だの、手打ち仕事の嵐だったんでな」
「フン、闇医者稼業には関係ねえ話だ」
わざとらしく大我が鼻を鳴らす中、それぞれなりに報告書へ目を通す。
黎斗だけは未だキーを叩き続けているが、それでも合間で見てはいるようだ。
それを確認して貴利矢は口を開いた。
「自分らが拾って来た情報はモータスカオスの素性だ。
3つの事情が絡んでる複雑なお子さんなんでな、念のため資料用意しといた」
「まず前提として、モータスカオスは僕らが知ってるモータスとは明確に別個体です。
モータスカオスが大我さんと交戦してた時も、幻夢コーポレーション内部には本物が残ってました」
「……つかここに書いてあるのマジ?
『アタシとポッピーにやられた悔しさから筋トレ等で肉体改造中』ってバカじゃないの?」
「ま、バグスターも生き物である以上全く意味ないワケじゃないけどな。
ついでに言えばその馬鹿のおかげで別個体と断定できたんだ、そこは大目に見てやれ」
永夢の発言に割って入ったニコの指摘を、貴利矢が抑える。
たしかにモータスの反復横跳びは大した見世物だったし、それだけで話がかなり弾むネタだろう。
だが、いつモータスカオスが活動再開するかわからない以上、無駄な時間はとりたくなかった。
「こっからが本題だ。そもそもなんでモータスの複製なんているのか。
原因は幻夢コーポ内で秘密裏に進められていた、バグスターの複製実験にある。
仮面ライダークロニクルを拡大展開すれば、プレイヤーの数に応じたバグスターを配置しなきゃならない。
バグスターワープがあれば遠方にもすぐ行けるとはいえ、同時に出現できないワケだからな。
ゲームとしちゃそれは問題だ……ってのが、実験開始の理由だな」
「クロニクルってことは、裏にいるのは正宗の野郎か!」
「音頭を取ったのは違いないだろうな。今のクロニクルが改良されて得するのは他にいない」
応える貴利矢に震える声が響く。
気付けばポッピーピポパポが、青ざめていた。
「その、複製ってモータスだけじゃなくて……?」
「……拾って来た計画骨子のデータには、クロニクルにプレイヤー登録された全バグスターの名前があった。
一人の例外もなく、だ」
「そんな……!」
ポッピーピポパポが顔色を失う。
それは先んじて事実を知っていた貴利矢と永夢も含め、全員の総意でもあった。
直後に響いたのは机を叩く轟音。
それは筐体の中から響いていた。
このような事態に、もっとも強く怒りを覚える者。
「ポッピーを複製するなどふざけるなァ!!」
「落ち着け。全バグスターの登録データを対象に実験は行われたそうだが、
成功したのはモータスただ一人。他は全部失敗した」
「試行した時点で十分な罪だ!
ポッピーが誰の記憶を引き継いでいるか、あの男はそれを知らないハズがない!」
「……冷血人間の誹りは免れないだろうな。
クロノスが手に入ろうと入らざると、この計画は決行予定だったみたいだからな」
冷静さをなんとか保ちつつ、貴利矢が同調する。
ゲームキャラとしてのポッピーの誕生は黎斗の手によるものであるが、それだけではない。
ポッピーピポパポは檀櫻子――黎斗の母にして、正宗の妻の記憶を引き継いでいるのだ。
妻そのものではないとはいえ、その忘れ形見ともいえる存在を複製する判断は、貴利矢の目からも尋常とは言い難い。
止まりかけた進行を動かしたのは、通信機からの声だった。
「貴利矢さん、なんでモータスだけは複製が成功したの?」
「テイルス……そいつは、これが原因だ」
「ガシャット?」
「正しくは爆走バイクの、だな。
複製実験の失敗は、本来バグスターが実体化する時に通るユニオン生成のプロセスを再現できなかったからだ。
それを人工的に再現するには正規のライダーガシャット、それも実働経験のあるものが必要だったらしい。
そしてコイツだけはあった。自分を解放する時に、一緒に復元されちまってたのさ。
……永夢に渡すのがもうちょっと早ければ、こんなことにはならかなったのかもな」
若干の苦々しさを噛み殺しながら、貴利矢は続ける。
「そして自分のガシャットからのデータ移植が、モータスカオスの2つ目の事情につながる。
改良強化のテスト素体だ」
「改良……強化?」
「せっかく出来たコピーも、そのままじゃ出したところで大して役に立たない。
全くレベルアップしてないモータスなんぞ、ニコちゃんでも本気出せば粉みじんにできる程度だ。
それに複製自体も相当な手間がかかるらしくてな、全国津々浦々に飛ばすってワケにはいかなかった。
……となれば、色々いじくって強くしてしまおうと考えるのはまぁ自然だな」
「でも、それってバグスターの力を強めるだけなんじゃ……正宗って人はバグスターとも敵対してるんだよね?」
「ああ。だから真っ先に行われた改良ってのが、自我の切り離しだった。
そもそも複製実験の裏には、反逆するオリジナルの意思はいらないが、存在や能力は欲しいってワガママな話がある。
プレイヤー登録されたバグスターを狙ったのも、制御可能な複製とすり替えて完全に主導権を奪うためだろうな。
ま、今のモータスカオスを見るに切り離しは失敗したんだろうが」
既に檀正宗はマスターガシャット経由で、バグスターに対する生殺与奪権を持っている。
永夢から聞いていたその話で、貴利矢は裏の意図に気付いていた。
バグスター主導で始まった今の仮面ライダークロニクルを終わらせず、かつ主導権を奪うには、
なるほど傀儡にした同一バグスターとすり変えるのは有効と推察された。
無論、その際にオリジナルは消滅させられるのだろう。やはり冷血漢と言わざるを得ない。
「改造点は色々と並べられてた。キメワザに対する完全耐性や、登録データに基づいた能力追加もその一つだ。
ただしどちらも『過剰なエネルギー消耗』を理由に失敗扱いだ。
カオスエメラルドを欲しているのは、その解消のためってことになる」
貴利矢の発言に、ソニックが動いた。
「キリヤ、あのバイクも改造ってことなのか?」
「いや、違う。それどころか登録データの出所も不明だ。
実験用に入れてあったのはアランブラの魔法だったらしいからな。
試験稼働のログもそうだったんだが、途中で何らかのデータを回収したことで今のような暴走を始めたらしい。
その何か、ってのが3つ目の事情だ」
「その出所、多分これだよ!」
言い終えた貴利矢に割り込むようにして、ニコが携帯ゲーム機をテーブルの中心に置いた。
映っているのは、コレクションアイテムを表示するギャラリーのような画面。
フォーカスが当てられている一体は、ソニックを模した金属質のメカだった。
だがその外観は、初めて見たはずの貴利矢に既視感を抱かせるものだった。
血のように紅いアイカメラ。
ソニックより濃い濃紺の外装に、背面を中心に剥き出しのメタルフレーム。
これは、まるで――
「メタルソニック。
そいつが多分、ソニックを巻き込むことになった原因だよ」
ニコが告げた容疑者は、あのメタルマッドネスを人型にしたような姿だった。
[SONIC]
メタルソニック――
ソニックやテイルス、シャドウと同じタイムイーター事件の関連人物。
そして事件の首謀者であったDr.エッグマン以外で唯一、ソニックの仲間と明確に言い難い存在である。
彼はエッグマンが打倒ソニックのため、ソニックを模して開発したメカなのだ。
故にソニックが戦ったことは一度や二度の話ではなく、未だライバル視も強い。
しかも過去にはカオスやシャドウの能力を学習して襲いかかってきたこともある。
何らかの経緯でモータスカオスがメタルソニックのデータを得たならば、
これまでソニックと対峙してきた強敵達の能力を再現することは可能のように思えた。
……そう、接触そのものがあり得るなれば。
「ニコ、一応聞いとくぜ。
あの時のメタルソニックは、もう一人のオレに倒されて元の時代に戻ったんじゃないのか?」
ソニックがあえて慎重に問う。
タイムイーター事件で対峙したメタルソニックは、はじめてソニックと戦った時の彼だったのだ。
もしニコが見つけたものが過去のメタルソニックなら、貴利矢の疑念まで話は巻き戻ることになる。
だがニコはまったく自信を陰らせることなく言い切った。
「アタシもそうだと思ってたんだけどさ、もう一回全クリしたら気付いたんだよ。
ソニックやテイルスと同じように、メタルソニックも現代の存在があの場にいたってさ。
……ほら、ここココ!」
改めてニコがゲーム画面を指差す。
ギャラリーらしき部屋に並ぶフィギュアの中に、やはりメタルソニックの姿がある。
しかしそれは一つではなかった。
「このフィギュアはコレクションアイテムで、この作品に出てる――
つまりタイムイーター事件に巻き込まれてれば必ず用意されるんだよ。
ゲームの本編、つまりソニックに見えてる範囲には全然出てないけど、ここにある以上はその場にいたってコト」
「ってことは、やっぱりアレは見間違えじゃなかったのか」
「アレって?」
「オレがパラドクスのキメワザを止めようと近づいた時に、メタルマッドネスってバイクが突撃を仕掛けてきたんだ。
その回転の仕方がメタルのヤツとそっくりだったんだ。
あと、クロトがカオスエメラルドを奪い返した時に呻き声みたいなのが出てたのさ。
人型じゃなくて、バイクの方からな」
「それは僕も気付きました。
バイクの形にしてはあるけれど、あれは多分……生きてるんだと思います」
ソニックに代わって永夢がそう言う。
元々、メタルソニックの居場所は基本的に判然としていない。
エッグマンの元にいることが多いはずだが、そのエッグマンがタイムイーター事件の前から行方知れずだった上、
事件後も姿が確認されていない。
仮に過去だけでなく現代のメタルソニックも巻き込まれていたとして、帰還できたか誰も知らないのだ。
だからこそある可能性が生まれる。
『ソニックジェネレーションズ』からメタルソニックのデータを得たのでなく、
本人がモータスカオスに囚われたのではないかと。
「ソイツが本当なら、ヤツを止める手立てがあるかもな」
「スジ? どういうことだい、タイガ」
「お前も見てただろうが、パラドの野郎と戦った時にヤツは自分の身体を盾にしてバイクを守った。
パラドにはキメワザを叩きこむ好機と思わせるためってだけじゃなくて、あのバイクがメタルソニックなら、
潰されるとカオスコントロールとやらの習得ができなくなるんじゃねえか」
「つまりモータスカオスをバイクから引き剥がせば最悪の事態は避けられる……ってことかな?」
「やってみる価値はあるだろ」
大我の提案が一つの指針になった。
既に3つ、いや4つもの能力を獲得した相手を捕捉し、キメワザを使わず倒しきるのは容易と言い難い。
だがバイクから降ろすだけなら手の打ちようもあるのではないか。
「おい黎斗……新檀黎斗か? ずっと解析してるようだが、アンタは何かわかったか。
こっちは一通り話まとまったぞ」
「もちろんだ。まずは君達の策に重要な話からだ」
待っていたとばかりに、筐体の中の黎斗がキーを叩く。
同時にCR内の液晶モニターに6つの名前が現れた。
「What's!? こいつはまさか!」
「察しの通りだ、ソニック。
採取したウィルスを元に特定したヤツの能力獲得データだ。
7つ目の能力はエメラルドを奪ったことで逆にわからなくなったが、6つ目まではこれで割り出せた」
ソニックがリストの先を目で追う。
「シャドウは6番目、最後か。それまでに挟まってるのは……」
ソニックが名前を口を出す前に、室内に内線電話のコール音が響き渡った。
緊急通報。永夢が素早く受話器を取る。
「わかりました。……モータスカオスが現れました。
通報連絡の場所から、おそらく狙いは幻夢コーポレーションです!」
「え? まだカオスコントロールを使えないのに……クロノスを倒すためにライダーを利用してるんじゃないの?」
「だからさ、ポッピー。
あそこにはまだ鏡飛彩がいる。事情を知らなければキメワザを撃って倒そうとするはずだ。
情報共有はひとまずここまでだ、まずはヤツの根っこを断ァつ!」
筐体を飛び出した黎斗を追うかのごとく、CRの全員が出撃に向けて動き出した。
ソニックもまた、モータスカオスを追うべく席を立つ。
視界に入ったのは黎斗が映したままの画面だった。
既にモータスカオスが手に入れた「Silver」「Chaos」「Wisp」。
おそらく次に使ってくるであろう「Dark Gaia」。
最後に鎮座する「Shadow」。
そしてその間に挟まる――
「Sonic」
[EX-AID]
世界で、一番のドクターになって――
その声はもう響いていない。
この部屋にいるのは1人だけ。
生きてはいるものの、ドクターの立場を離れかけている鏡飛彩だけ。
「監察医……」
手元のレポートに目を落としながら呟く。
先ほど向かった部屋の主は、研究の才はあっても整理はできない男だと檀正宗に聞かされていた。
しかし、実際の部屋は有用な報告書の類だけがキーボード上にまとめて置かれていた。
そのような整理の仕方を、かつて飛彩は九条貴利矢のパソコンの中に見ている。
実際、今やバグスターでもある彼なら侵入は容易かろう。
だが正宗に彼の侵入を報告する気はなかった。
それは彼の整理のおかげで自らの求めた資料がすぐ見つかった、という小さい恩義ゆえだけではない。
不意に背後の扉が開く。
檀正宗の催促か、と思い振り返る。
だがシルエットが違う。
何より、室内でバイクにまたがるなど普通の人間はしない。
だから全身に幾つものの損壊を負い、顔面が崩壊したその姿でも正体にすぐ行きあたった。
「モータスの亡霊……!」
社内に流れるあの噂話は、飛彩も聞き及んでいた。
自ら足を運んだ部屋こそ亡霊の場所近辺であることも。
恐らく貴利矢が残したであろう、複製計画の資料にも目を通している。
そしてあの部屋を訪れた後、図ったかのように一人になったタイミングでの出現。
「あの部屋を見たオレが狙いか」
「フン、取リ込ムノニチョウド良イ人体カ。
……アノ男ノヨウニ糧ニサセテモラウ」
「やはり、あの血染めの衣服はお前の仕業か!」
九条貴利矢と違い、飛彩は遺体の検分には強くない。
あくまで彼の専門は生きている人間なのだ。
しかし、代わりに飛彩はあの部屋の主の名を知っていた。
そして複製計画の資料と残された血塗れのネームプレートから、何が起きたのか悟った。
悪魔の計画の親とも言える研究者は、今やモータスカオスと呼ばれるその産物に取り込まれたのだ。
全身出血を伴う、極めて強引な方法を介して――
「くっ……!」
悪魔が迫る。監察医が危険を覚悟で情報を取りに来るほどの悪魔。
疑いのない危機を悟ると同時に、飛彩は2本のガシャットを起動させた。
「術式レベル3!」
『タドルクエスト!』
『ドレミファビート!』
ブレイブに変身すると同時に、ガシャコンソードを振り上げる。
狙いは既に外装のない顔。
視界を完全に奪い、さらには穴の空いている肩まで切断すべく袈裟に斬る。
しかしその刃は外装のないモータスの内部構造にすら通らない。
弾かれた勢いで手を切りつけ、前進をはじめたバイクの進路を変えるのが精いっぱいだ。
逆にモータスが無造作に繰り出したパンチで、ブレイブの上体は簡単に揺れた。
(さすがに力負けは否めないか……!)
苦戦をはっきりと自覚する。
本来、ブレイブの全力であればモータスなど敵ではない。
モータスとて低く見積もってもレベル20ほどまで成長しているが、
最後に交戦した時はレベル50の力、タドルファンタジーで圧倒しているのだ。
だがガシャットギアデュアルβを正宗に奪われ、未だタドルレガシーを起動できない今、
ドレミファビートで引き出せるLv3の力が最大戦力となっていた。
レベルが勝負の全てでないとはいえ、ここまで差があるとひっくり返すことは容易ではない。
「だからといって退くことはできない!」
ブレイブが右腕に供えられたターンテーブルをスクラッチし、左肩のスピーカーを起動させる。
そして流れる音楽に合わせ、心肺蘇生法の要領でガシャコンソードを振るう。
リズムに合わせた攻撃へ振動波による強化を施せるのがドレミファビートの力だ。
今度は無傷、とはいかなかった。
横一文字に振り抜かれたソードは、顎から上を斬り飛ばしていた。
「よし!」
「ホウ、メスノ扱イハ鈍ッテイナイカ」
「なっ……!」
驚愕する。
モータスカオスの身体が、切り落とされた自分の顔を拾っている。
それをバイクのヘッドランプ上に乗せると、顔がバイクに取り込まれてしまった。
さらにその状態のままモータスカオスが迫る。
首なしライダーに等しいこの状態に至っても、状況は全く優位ではない。
むしろモータスカオスの動きが読みにくくなり、攻撃への対処が難しくなってしまった。
「がはっ……!」
バイクに激突され、正面から吹っ飛ばされたブレイブの変身が解ける。
血染めの衣服がフラッシュバックする。
ふらつきながらも飛彩はポケットの中のガシャットを手に取った。
(今ここで倒れてどうする……)
タドルレガシー。
檀正宗から受け取って以来、まだ一度も起動に成功していない。
そしてこのガシャットを起動することが何を意味するか、それはわかっている。
起動できぬままCRによる仮面ライダークロニクル攻略が完了した方が、結末は良いのかもしれない。
……だが、もはや勝機はこのガシャットにしかない。
よしんば自分は逃げられても、これを契機に正宗から見切りをつけられる可能性は低くない。
最後の引き金を引いたのは、黒いコートに身を包んだ己自身の姿だった。
(小姫を救う覚悟を決めたからこそ、敵対してまでオレはここにいるはずだ!
エイトを救う覚悟を決めたお前のように!)
飛彩はガシャットのスイッチに手をかける。
そして迫りくるバイクの正面に立ち、自ら前方へ駆けつつスイッチを押した。
「もはや迷いはない! 動かしてみせる!」
『タドルレガシー!』
「術式レベル100、変身!」
ゲーマドライバーのレバーが開くのと、バイクが激突するのはほぼ同時だった。
モータスカオスの動きが止まる。
ブレイブの姿はいつものLv2のままに見えるが、その腕力はあっけなくバイクを止めていた。
直後、ブレイブの隣に一人の騎士が現れる。
騎士が純白の鎧を外した姿は、茶色ではあるがブレイブとそっくりだった。
その姿が消え、残された鎧が青いブレイブに託される。
……タドルレガシーは、起動した。
「ソウコナクテハナ……ブレイブ」
「場所を変えるぞ。ここをこれ以上破壊されては不都合だ」
ブレイブが右手を突き出すと同時に、モータスカオスが後方へ吹き飛ばされた。
さらに吹き飛ばされた先には既にブレイブがいる。
衝撃魔法と転移魔法、そのどちらもタドルファンタジーを超える精度と能力でタドルレガシーは使うことができる。
そして再びの転移で、戦いの舞台は地下室から地下駐車場へと移された。
「逃がすか!!」
開けた空間になったことで、モータスカオスがバイクで疾走しようとする。
だがそれを許す飛彩ではない。
ガシャコンソードを掲げると同時に、輝く剣のような物体がモータスカオスを包囲する。
それが次々と刺さり、進路を塞いだ。
そして後方が駐車場の出入り口というところまで追い詰める。
「うおおおぉぉ!!」
複製計画の資料通りなら、このキメワザは効かないのかもしれない。
しかし、今はモータスカオスを叩き出すことだけを考えた。
その覚悟を込めてタドルレガシーのガシャットをキメワザスロットに挿す。
『キメワザ!タドル・クリティカルストライク!』
ブレイブが左腕を突き出す。
放たれたのは激しい稲妻。電撃を放つ攻撃魔法だ。
それをガシャコンソードを通じて収束させると、超高圧放電がモータスカオスを襲った。
電撃によるショートと同時に、凄まじい勢いの衝撃がモータスを押し戻す。
そして電撃を乗せたソードをモータスカオスの胴体に叩きつけると、
地下駐車場出入り口の斜面をカタパルトのようにして、モータスカオスは吹き飛んでいった。
「はぁ、はぁ……なんとか、使えたか」
ブレイブの変身が解ける。
モータスカオスを退けはしたが、その負荷は非常に重い。
タドルファンタジーの負荷でダウンしかけたことのある飛彩には、タドルレガシーも簡単に慣れるものではない。
そうして膝をつく飛彩の背後から、聞き慣れた靴音が響いた。
「よくやった、タドルファンタジー……いや、正しくタドルレガシーと呼ぶべきだな。おめでとう」
「檀、正宗……?」
「あの失敗作の暴走も、ガシャットの起動に役立ったなら無価値ではなかったか。
もっとも、制御できぬ以上もはや勘定に入れる気はないが」
あのモータスの裏に正宗がいることはわかっている。
だが、それを迂闊に口にすれば小姫がどうなるかわからない。
そして何より、制御できていない事実は知らなかった。
己の知りうる範囲以上に、状況は悪化しているらしい。
「後は私がやろう。君の戦う相手はあれではない。
パラドを討つ前にその力を使いこなせるようにしておきたまえ」
そう言うと、社長専用の社用車に乗り込んだ正宗は駐車場を出て行く。
今まさに外部へ吹き飛ばしたモータスを消しにいった。
それが決定的な証拠の隠滅でもあるとわかっていても、身体が動かないのではどうしようもない。
痛む身体に鞭打ちながら、なんとか社内で安静にすることだけが今の飛彩にできることだった。
[SONIC]
「まさか吹っ飛んでるアレ、モータスカオスか!?」
「多分そうだよ! もうかなり弱いけど、頭上を通った瞬間にカオスエメラルドの反応が出てる!」
「サンキュー、テイルス! うっかり通り過ぎるところだったぜ!」
疾走中のソニックは足でブレーキをかけつつ、急激な方向転換をかけた。
Uターンしたソニックの視界の先には、やはり放物線軌道で飛ばされるモータスカオス姿がある。
きりもみ回転をかけられながらもメタルマッドネスを降りずにいるのは、
それだけバイク――いや、メタルソニックを失うわけにいかないということなのだろう。
直後、通信機から永夢の声が聞こえた。
「ソニック、どうしたんだ!」
「ゲンムコーポの方からモータスカオスが吹っ飛ばされてきた!
この調子だと多分、噴水のある公園みたいなところに落ちるぜ!」
「噴水って……朝通ったあそこか! あと1分もあれば着く!」
「オーケー、こっちも間に合わせるぜ!」
アバウトな説明だが、永夢には場所がわかったらしい。
ならば後はソニックが辿りつくだけ。
公園への最短距離には上り坂があったが、それで迂回するようなソニックではなかった。
「Go!」
一瞬だけブーストをかけ、コーナーをドリフト走行してその勢いを持続させる。
そしてスピードを上り坂に殺される前に前方へ飛んだ。
その先にあるのは自動車用の信号。
支柱を掴み、鉄棒のようにして大回転する。
手放したタイミングは勘に任せたものだったが、山なりに飛んでいくソニックの軌道は、
落ちゆくモータスカオスと完全に重なっていた。
……昼下がりの公園に、ソニックが降り立つ。
わずかに遅れてモータスカオスが噴水の脇に墜落した。
幸い落下に巻き込まれた人間はいなかったが、周囲のベンチで休憩中と思しき人々が一目散に逃げていく。
「ここは危険です! 公園敷地内から退避してください!」
「エムか!」
「こっちもいるぜ、ソニック」
避難誘導の声の先には、永夢や明日那の姿があった。
そして人払いができたタイミングで貴利矢と黎斗も現れた。
しかしその表情は明るいものではない。
「貴利矢さん! モータスカオスは……」
「してやられたよ。自分らが着いた時にはもう駐車場からブッ飛ばされてた。
本社まで行ってできたのが指咥えて見てるだけってのはホント情けねぇや……。
ブッ飛ばしたのがブレイブかクロノスかはわからないが、はっきりしてることが2つある」
「2つ?」
「少なくとも1発はキメワザ撃たれたことと、檀正宗がここを目指してるってことだ」
永夢とソニックの目が揃って鋭くなった。
黎斗が解明した能力獲得リスト通りなら、あと1発のキメワザでモータスカオスはカオスコントロールを体得してしまう。
そして檀正宗――クロノスは、CRに対する明確な敵である。おそらくソニックにとっても。
今まさに本社襲撃をかけたモータスカオスをどう見るかはわからないが、この場に来るだけで厄介なことになるのは間違いない。
「時間はかけられないですね」
「ああ。例の黒塗りの車は法定速度キッチリ守るみたいだが、それでもあと3分ってところだ」
「Hey, guys! モタモタしてると置いてくぜ?」
ソニックがモータスカオス目掛けて駆ける。
首なしライダー、というべき今のモータスカオスの姿にも恐れはない。
腹の傷痕が消えていったあたり、こちらがキメワザのダメージなのだろう。
「クロノスが来る前に、メタルだけでも引き剥がせれば状況は変わるはず!」
「フッ、ゲームマスターに無断で作られた贋作などこの手で処分してやる!」
「今だけ貸してやる。外すんじゃねえぞ」
「まかせなって! 天才ゲーマーNの腕前見せてやる!」
後方でCRのライダー達が次々と変身する中、起き上ったモータスカオスの眼前にソニックは迫っていた。
「ソニック……貴様ハマダ後ダ!」
「そう言うなよ、わざわざ手本を見せてやるんだからさ。
オレの力くらいメタルソニックに頼らないで覚えてみな!」
メタルソニック、という言葉にモータスカオスの動きが一瞬止まる。
直後、ソニックがモータスカオスの周囲を猛スピードで旋回し出した。
液状化する暇さえ与えぬその超加速が、瞬く間に一本の竜巻を発生させる。
ワールウィンドと呼ばれるその技で、モータスカオスはバイクごと空高く浮き上がっていた。
『ガシャコンマグナム!』
「ハチの巣にしてやる!……なんてね!」
ライドプレイヤーに変身したニコの手に、一挺の銃が現れる。
すぐさまその銃口をモータスカオスの左大腿へ向けると、トリガーが高速で連打された。
ゲーム機の銃型コントローラーと同じ操作性でビーム弾を放つガシャコンマグナムは、
テクニック次第ではフルオート拳銃以上の連射速度で弾丸を放つことができる。
ゲームに精通した彼女の手にかかれば、動きの止まった相手の大腿を穴だらけにすることも難しくはない。
さらにそれを援護する形で、数は少ないが強力なビーム弾が混ざる。
撃っているのは、明日那から姿を変えたポッピーだった。
連射性能は低くとも、単発の威力ではガシャコンバグヴァイザーIIはかなりのものを持っている。
「上手くいってるな。こっちもいくぞ、レーザー」
「よし、空中戦はコイツの華ってな! 行くか!」
『バンバンシミュレーションズ!』
『ジェットコンバット!』
スナイプが戦艦を模したアーマーを、レーザーターボがジェットパックを背負う。
ハンドキャノンとガトリング砲の向けられた先は同じ、モータスカオスの右大腿だった。
「ウィスプは来てねえな。このまま足を潰す!」
「おうよ、じゃんじゃんバリバリ出血大サービスだ!」
レーザーターボのガトリング砲が右大腿に集中する。
そこへ狙いをつけたハンドキャノンの一射が命中する。
両足を付け根から粉砕する弾丸の嵐に、モータスカオスの身体がメタルマッドネスから浮き始めた。
しかし、ソニックがワールウィンドを続けられる限界も近い。
黄金の輝きが発せられたのはその時だった。
『ハイパームテキ!』
黄金に輝くエグゼイドが、モータスカオス目掛けて飛び上がる。
同時に黒いエグゼイド――ゲンムも合わせて飛んだ。
「メタルソニックを切り離す!」
「神の一撃を受けろォ!」
エグゼイドのガシャコンキースラッシャーがモータスカオスの胴体を再び斬り飛ばす。
そして未練がましくメタルマッドネスに残る下半身を、ゲンムのガシャコンブレイカ―が叩き飛ばした。
……竜巻が止む。
メタルマッドネスの上に、もうモータスカオスは乗っていなかった。
「It's cool! 上手くいったな、エム」
「ああ。ソニックのおかげさ」
共にサムズアップして、ソニックとエグゼイドは健闘を称える。
守勢ではLv99の力すら超えるのなら、先手を打って一気に倒すまで。
キメワザが使えない以上、威力の上限は数とコンビネーションにかかっていた。
手数のためにニコにマグナムを任せたのは永夢や大我いわく賭け――マグナムを実際に撃ったのは初めてらしい――だったが、
その結果はこうして出た。
「気を緩めるな宝生永夢ゥ! 贋作はまだ死んでいない!」
一人気を吐く黎斗だが、ソニックはもう焦っていない。
もはやモータスカオスは瀕死の身。
メタルマッドネスを切り離され、顔も下半身もなく、残された胴体はピクリとも動かない。
あとは奪われたカオスエメラルドを回収し、CRがこれまでのバグスター相手にしてきたように対処してもらうだけ。
問題があるとすれば元の世界にどう戻ったものか、とソニックが思案したその時――
『PAUSE』
――時が、停止した。
[EX-AID]
「クロノス!」
変身したままの永夢は、何が起きたかすぐ把握した。
ポーズを受け付けないムテキゲーマー以外で、今動ける者は一人しかいない。
……仮面ライダークロノス、檀正宗。
「ふむ、複製を倒したか。コレの弱点に気付いたと見える」
モータスカオスを撃破されたというのに、正宗の声色に焦りなどは感じられない。
だからこそエグゼイドは警戒を解かずにキースラッシャーを握る。
檀正宗は何の意味もなく動く男ではない。
「ハイパームテキ、君に今の私を止める理由はない。
これより私は失敗作を絶版にする。つまり倒すのに協力しようというのだからな」
「今さら出てきて何を……それに止める理由はある!
まだコイツからカオスエメラルドを取り戻せていない!」
「論外だな。我が幻夢コーポレーション以外の都合など考慮に値しない。
この実験体は優秀な結果を残したが、結果として幻夢コーポレーションへの反逆を試みた。
制御を離れたものを商品と呼べない以上、私が処分するのは当然だ」
「それも違う! お前がここに来たのは、モータスカオスのデータを回収するためだ!」
クロノスを正面から見据え、永夢が真っ向反論する。
かつて檀黎斗が撃破されたバグスターを回収している光景を、一度やニ度ではなく見ている。
だからこそ必ずこのタイミングで乱入してくると読んでいた。
ハイパームテキで回収作業を防がなければ、通常のモータスよりはるかに苦戦したモータスカオスのような強化が、
以降あらゆるバグスターで起きかねない。
「……まったく、君には可愛げというものがない。そんなに不満ならば私を止めてみるがいい」
「ああ、そうさせてもらう!」
機嫌を害したような正宗の声に、キースラッシャーを振り上げて答える。
そしてすぐさまモータスカオスの胴体の前に立った。
止まった時の中でモータスカオスを粉砕してしまえば、データの回収はできなくなる。
それはかつて完全体バグスターの復活を断つ形で、正宗自らが証明した事実だ。
ならば勝負はポーズが解ける直前と踏んだ。
停止が解けた瞬間に致命傷を与えられる形さえ防げば、スナイプら他のライダーの協力も得られる。
接近するなら直接ポーズを止め、射撃戦ならカウンターの射撃で止める。
衝撃は受けてもダメージは受けないムテキゲーマーなら、被弾を気にする必要はない。
「自らを盾にするか。ならばこちらも考えがある」
読みをわかっていてなお、正宗に焦りは見えない。
だからこそエグゼイドはクロノスを正面に捉え続けた。
本当に何か策があるのか、あるいはハッタリか。
どちらにしても引き下がる気はないことだけははっきりした。
そしてそのお見合いと化した状況を破ったのは、聞き慣れたシステム音声だった。
『分身!』
直後、クロノスの影が増えていく。
2人、3人……最終的に7人となったクロノスが一斉にバグヴァイザーIIを発射した。
ムテキゲーマーのいる前面だけでなく、側面や背面にも無数の弾丸が放たれ、そして静止する。
それは警戒していたからこそ、永夢に驚愕を伴って感じられた。
周囲にはモータスカオスの影響でリングこそ出現しているが、少なくとも「分身」のエナジーアイテムはない。
「アイテムがないのに、なんでエナジーアイテムの効果が!?」
「先んじて回収したアイテムを持ち運ぶ……その場しのぎでアイテムを使う時代は終わるのだよ」
クロノスの手には小型のメダルが握られていた。
それはたしかに、エナジーアイテム「分身」と全く同じ絵柄のものだった。
だが小型メダルによって発動したのかを考える暇などない。
「目的を果たせれば道中の敵を倒さずともよい。
クリア条件とはそういうものだろう?」
『RESTART』
「しまった!」
時間が再び動き出す。
とっさにモータスカオスに覆いかぶさろうとするエグゼイドだったが、それより先に銃弾が爆発する方が早かった。
エグゼイドがいかに無敵であろうと1人でしかなく、広域バリアを展開する力まではない。
数による飽和攻撃から無傷で守るのは限界があった。
「モータスカオスが!」
永夢のその声に反応したライダー達が見たものは、公園の地面を転がって爆発炎上するモータスカオスの胴体。
その身体が消えゆくほど薄く見えたのは、おそらく気のせいではない。
正宗による妨害は成功してしまった。
だがなおも凶行は続く。
「回収に猶予があるようだな。ならここはゴミ掃除といこうか」
『キメワザ! クリティカルジャッジメント!』
分身が消え、一人に戻ったクロノスがバグヴァイザーIIを操作する。
キメワザを餌にするモータスカオスがいない以上、それは本来の破壊力を発揮する。
各々の自己判断で受けに回るライダー達とソニック目掛け、飽和攻撃の比でない火力が放たれた。
……はずだった。
「……なに!?」
今度は正宗が驚愕していた。
バグヴァイザーIIの目前、いや銃口の前に何者かが現れ、至近距離で代わりに攻撃を受けている。
そのシルエットは明らかにモータスカオスの首なし胴体だった。
緑色の輝きを見るに、おそらくシルバーの超能力で強引に自らを浮遊させているのだろう。
なぜモータスカオスが動けるのか、と考える永夢の足元に何かが転がってきた。
金色のリング。
モータスカオスがメタルソニックのデータを獲得したゆえに再現されたもの。
(ソニックの力……まさか!)
それがゲーム内で何をもたらしていたか、永夢はすぐ気付いた。
そしてそれはやはりニコも変わらない。
「永夢、アイツが生きてるのってまさか!」
「ああ。ソニックの力を獲得したのはこういうことだったんだ」
「どういうことだ、あのリングが何か関係あるのか」
「あるんです、貴利矢さん。
ここに来たソニックは被弾そのものを避けられるスピードだから忘れかけてたけど、
ソニックはリングを1つでも持っていれば、リングが散らばる代わりに残機が減らないんです。
たとえそれが落命するような事態であっても」
「なんだって!?
だが、たとえそうだとしてもあのザマで何するつもりだ……?」
貴利矢の疑問ももっともだった。
たしかに、これで6回目のキメワザを受けた形にはなる。
だが、首も足もない身でなお動いたところで、抵抗のしようがあるだろうか。
「ほう、そんな小細工があったとはな。だがそれもリングが全くなければ無意味だろう」
『PAUSE』
クロノスが再び時を止める。エグゼイドもまたモータスカオスを守るべく動く。
だが、そのどちらでもない何かの声が静止した時間の中に響いた。
「カオス・コントロール……!」
振りかえった先には、メタルマッドネス。
メタルソニックを内包したバイクが自走し、クロノス目掛けて突撃している。
そしてバグルドライバーから再びバグヴァイザーIIを外すよりも早く、メタルマッドネスの射出した何かが腰部に直撃した。
『RESTART』
「ぬうっ……!!」
投げ出されたモータスカオスの頭部にボタンを押され、時間停止が解ける。
再びポーズをかけようとする腕を射抜いたのは、黒い槍状のエネルギーだった。
それをなんと呼ぶか、永夢は知っている。
――カオス・スピア。
「アイツ、本当にカオス・コントロールを使ってる。 本ッ当にマズいわコレ……」
「おい、なんで能力学習が成立してるんだ? もうメタルソニックは切り離したんだろうが!」
いつになく焦るニコの前で、スナイプが声を荒げる。
その不可思議に答えたのは永夢だった。
「……おそらく、僕達は勘違いをしていたんです」
「勘違い? 何をだ」
「昨日最初に見たのはモータスの方で、メタルマッドネスは後から出て来た。
だからモータスが主で、メタルマッドネス――いや、メタルソニックが取り込まれてると思い込んでしまったんです。
僕達だけでなく、ソニックや大我さん達も。そう捉えた方が自然だから疑うこともしなかった。
……でも、それが逆だったら」
永夢の言葉に応えるがごとく、哄笑が響く。
その声はメタルマッドネスは発せられた。
見ればメタルマッドネスを中心とし、バラバラになったモータスカオスのパーツが集まっている。
「勘ノ冴エル奴モイタ者ダ。
褒美ニ見セテヤロウ……我ガ真ナル姿ヲ!」
メタルマッドネスを中心に、モータスカオスが粒子状のウィルス形態になる。
それが一瞬でメタルマッドネスの中に取り込まれると、異変ははじまった。
剥き出しのメタルフレームが骨格を形成するかのように蠢く。
その上からバグスターウィルスの固着で外装が載っていく。
真紅のフロントライトが2つに分かれ、赤眼となると同時に直立して立つ。
そのシルエットは、ソニック・ザ・ヘッジホッグによく似ていた。
「ようやく手に入れたぞ、バグスターとカオスの力を得た我が真なる身体!
我が名はメタルソニック……いや、ネオメタルソニックだ!!」
真なる敵が、吠えた。
[SONIC]
「どうやら、お前を助けてハッピーエンドってワケじゃなさそうだな」
ソニックがメタルソニックを鋭く睨む。
メタルソニックは平然としていたが、不意に真っ向視線を返してきた。
ソニックが感じたのは敵意。ライバル視とも違う、純然たる敵意。殺意に限りなく近いもの。
不穏極まりない空気に割り込んだのは無二の相棒の声だった。
「まさか、ダークガイアとソニックの能力を合わせて、モータスを乗っ取った?」
「ほう。2本尻尾はオレのいかにしてこの姿を取り戻したか理解したらしいな」
「ソニックがダークガイアの影響を受けた時はパワー自慢の別の姿になった……。
もしそれを人格が2人分ある状態で行ったら、人格も入れ替わる」
「そういうことだ。そしてモータスが潰れた状態で行ったことで、オレは完全復活を果たした。
お前には感謝しないとなぁ、クロノス?」
嘲りに満ちた目でメタルソニックがクロノスを見やる。
それに対し、クロノスが地面にバグヴァイザーIIを発射した。
そしてすぐに姿が消える。
ポーズを用いた逃走術であることは、停止した世界の見えないソニックにもすぐわかった。
「贈り物だけして消えるとはな。さしづめ黒いサンタクロースか」
「メタルソニック、お前の目的はなんだ!」
「決まっている、全ての下等生命体を踏みつける万物の王となることだ。
新世代ロボットとバグスターの融合生命体――ロボスターがあらゆる世界、あらゆる時間に君臨する!」
メタルソニックの口振りに、ソニックは聞き覚えがあった。
エッグマンを監禁し、カオスやシャドウの能力を学習して襲いかかってきたあの時に似ているのだ。
それが思い違いでないことはすぐに証明された。
「ソニックヒーローズ……アイツがラスボスになった時の目的に似てる!」
後ろからニコの声が聞こえる。
スナイプがモータスカオスと交戦したあの場所は、たしかにメタルソニックの起こした騒乱で訪れた場所だった。
そしてあの騒乱の最終決戦の舞台もまた、タイムイーター事件に巻き込まれている。
「エッグマンが言ってたな、メタルソニックの暴走は試作の高性能AIチップのせいだったって。
お前はソイツを取り戻したってワケだ」
「そうだ。タイム・イーター事件の中、オレは倒された過去のオレ自身からAIチップを回収した。
そしてカオスとシャドウのみならず、新たな力をも学習することができた……タイムイーターの力すらな。
だがこの身体で完全なる再現を行うことは限界があった。
タイムイーター撃破の余波で、この世界の電脳空間に飛ばされるまではな」
「複製バグスターの取り込みに活路を見出すか。贋作同士で相性のいいことだな」
ソニックとメタルソニックの間に、ゲンム――檀黎斗が割り込む。
ゲンムにも敵意の籠った有機式アイカメラを見せたメタルソニックだが、ソニックと違いそれは純粋な敵意だけではない。
明らかに憎悪の色が混じっている。
「貴様か……オリジナルのモータスを捨て駒にしたのは」
「何を言うかと思えば、モータスカオスの側に残された恨み節か。
抹殺したワケではないだろうに何か不満があるのか?」
「ロボットとバグスターの人間からの扱いは似ている。その最たるものが存在の軽視だ。
お前はその象徴だよ、檀黎斗。エッグマンと同じく愚かしい存在だ」
「新檀黎斗だ……!」
敵意には敵意。
かつてCRのライダー達の絶対的な敵になったこともある黎斗は、メタルソニックと正面から対話を続けている。
睨みあいの最中、突如としてメタルソニックが哄笑した。
まさしくマッドネス、狂気に染まった声が響く。
その視線はゲンムが右手に構え直したガシャコンブレイカ―にあった。
「生まれ変わった今のオレを見てなお真っ向対峙しようとは、やはり貴様は愚かしい男だ!」
「私は自分の道を違える気はない。Dr.エッグマンが君の暴走を認めなかったようにね。
不正なバグスターを排除し、君も正常化させる。生み出したものの責務とはそういうものだ」
「ちょっと、黎斗さん!?」
明らかに戦闘態勢を固めるゲンムに、エグゼイドが静止をかけようとする。
だがそのエグゼイドにもメタルソニックは殺意に近い敵意を向けた。
「宝生永夢、お前も許されざる存在だ。
バグスターの始祖でありながらその力でバグスターを潰している以上、貴様の運命は消えるべきだ!」
「メタルソニック……!」
「好き勝手言うのも大概にしやがれ。
だいたい、テメエは自分からケンカ売ってきたんじゃねえか。
それにエグゼイドは危害を加えていないヤツを倒したりはしねえ」
「危害だと?
フン、ロボットやバグスターに道を開けないこと自体が許されないというのに、人間はそう正当化して迎撃するのか」
スナイプに対しても敵意を見せるばかりのメタルソニック。
ソニックも苛立ちを見せかけたが、不意に肩を叩かれる。
隣に立つのはレーザーターボだった。
「ありゃ話が通じないタチだわ。元からそうなのか?」
「いいや、逆だぜ。エッグマンの命令にきちんと従うお利口さんさ。
ただ、今のアイツは一番厄介なことになった時のを再現してるようなものなのさ」
「ロボットにもあるのかね、反抗期っての。
完全なお仲間じゃないからっていいってワケじゃないが……やっちゃうしかないか」
「……誰が誰をやるだと?」
貴利矢の軽口にメタルソニックは鋭く反応する。
もはやどう動こうと敵意が揺らぐことはないと、ソニックもCRの面々もはっきり理解した。
構えるソニック達を前に、メタルソニックが両手を広げ迎え撃つ。
「大サービスだ。
今はカオス・コントロールを、いや新たな力を使わずお前達の相手をしてやろう。
このネオメタルソニックの力そのもので圧倒してやる」
「へぇ、いい心がけじゃない。後から後悔しても知らねえぞっと!」
戦いの火蓋を切ったのはレーザーターボだった。
慢心が窮地を産むことをよくわかっているが故の速攻。
だが、接近すると同時に放った得意の飛び回し蹴りはすぐさま下にくぐられた。
続く後ろ回し蹴りにはカウンターで低空浴びせ蹴りが突き刺さっている。
卓越した足技も、その足自体にダメージがあれば真価は生かせなくなってしまう。
当たり自体は相討ちでも、効いた様子が全くないメタルソニックに対し、
カカトが左の膝関節を直撃したレーザーターボの足は確実に鈍っていた。
「くっそ……あの時反撃しなかったの、パターン全部見るためかぁ?」
「それがわかっただけ誉めてやろう!」
大技が見切られているならと、まだ動く右足でローキックを狙うも、
フェイントに移行した瞬間にはみぞおちに容赦ない飛びヒザ蹴りが突き刺さっていた。
フェイントは狙いをズラして防御を崩せる反面、攻撃動作は遅れる。
完全に読まれていると絶好の反撃の機会になってしまう。
よろけた右足がサッカーボールのごとく景気よく蹴り飛ばされると、たまらずレーザーターボはダウンした。
さらにわき腹目掛けて叩き込まれた蹴りは、完全にレーザーターボの身体を宙に浮かし、遠くに飛ばしてしまう。
しかしその様子はもはや眼中になく、メタルソニックはすぐさま標的を変えた。
「次は貴様だ、スナイプ」
「やってみろ。このロボネズミが!」
すぐさまハンドキャノンを連射するスナイプだが、その全てが紙一重で回避されている。
メタルソニックのブースター移動速度はソニックもかくやというものだが、爆風を考えれば完全回避は難しいはずだった。
可動式ショルダーキャノンも加え発射数は倍加したが、それでも当たらない。
「目の良さが命取りだ!」
「なんだと、テメエ!」
スナイプの射撃は正確だ。そして対象外への射撃を絶対にしない。
それは放射線科医時代に、絶対に外せない患部照射治療を行う中で無意識に身についたものだ。
だが正確な射撃は狙いがわかりやすく、軌道を読みやすい。
高性能AIを搭載したメタルソニックには、その爆風範囲を超える速度を一瞬で計算し回避を可能とする。
そして被弾なく接近したメタルソニックの頭突きが、スナイプの胴体に突き刺さった。
「このっ……アタシの主治医から離れやがれ! いくらメタルでも許さないよ!」
「許されないのはゲーマーなどとほざくお前達人間の方だ!」
スナイプの窮地を救うべくガシャコンマグナムを撃つニコだが、やはり当たらない。
それどころか一瞬で接近され、腹部に強烈なパンチをくらってしまう。
ライドプレイヤーはライダーゲージが見えない構造だが、一撃で凄まじいダメージがあったことは苦悶の声だけで容易にわかる。
「ニコちゃん!」
ニコがゲームオーバーになれば仮面ライダークロニクル攻略も危うくなる。
咄嗟にバグヴァイザーIIでの射撃を浴びせたポッピーだが、その弾丸は手刀で弾かれていた。
「フン、小賢しい真似を」
「うそ、私は前に戦ってないのに!?」
「たしかにお前ははじめて見る顔だ。だが、その武器はもう見切っている。
それにお前程度の拙い動きは分析するまでもない」
ポッピーを相手に悠然と構えるメタルソニックだが、すぐさま背後へ振り向く。
そしてきりもみ回転しながら突撃し、跳ね返るように着地する。
その先には透明化が解けたゲンムが転がっていた。
「ゲンム、同じ手が何度も通じると思っているのか?」
「通じないだろうなぁ……同じ手なら!」
ゲンムを迎撃したメタルソニックの右腕に、何かが絡みついている。
あえて同じ手を繰り出したゲンムの襲撃は囮だったのだ。
きりもみ回転の瞬間に引っかかったそれは、猛烈な力でメタルソニックを引きずり、投げ飛ばそうとする。
だがメタルソニックにそれを気にしている風はない。
「無駄なことを……」
「無駄かどうかはやってみなくちゃわからない!」
「ならやってみせるがいい」
挑発めいたメタルソニックの物言いに、エグゼイドが動く。
だが絡みついたその長髪はメタルソニックには全く無力だった。
『MISS!』
「これって、ラヴリカと同じ!?」
「無駄と言った」
「だからって!」
『MISS!』
メタルソニックの大腿にガシャコンキースラッシャーを叩きつけるも、やはり効果がない。
反撃で蹴り倒されたエグゼイドにもムテキの力でダメージはないが、攻撃が無効になるならどうしようもない。
それでもエグゼイドはキースラッシャーをモードチェンジしながら攻め込んだ。
「自分もノ―ダメージだからと、そうやって遊んでどうする?
お前達ライダーの攻撃はもはや無意味なのだ」
「おっと、ならオレはどうなんだ?」
その声と共に、猛烈な勢いでソニックが転がっていく。
光を伴った強烈な体当たり、ライトアタックだ。
輝きを伴うエグゼイドの背後でチャージしたことで、一切気取らせずに発動に成功していた。
「お前の速さもオレを捉えられん」
「そいつはどうかな? 頼むぜエム!」
「よし!」
スナイプの時のように紙一重で回避しようとするメタルソニック。
だが、回避したはずのその身にライトアタックは直撃していた。
ゲンムから投げ渡されたガシャコンブレイカーを使い、エグゼイドがライトアタックの軌道を変えたのだ。
通常の体当たりの2倍以上の威力に、さらにガシャコンブレイカーの威力も乗せた一撃。
それでも外装を破壊することは叶わなかったが、メタルソニックを転倒させることはできた。
「ずいぶんタフだが、どうやらオレの攻撃は通じるらしいな?」
「この程度でいい気になるな……」
先ほどまでにない苛立ち混じりの声と共に、メタルソニックが黄緑色に発光する。
そのすぐ後には、坂の上から叩き落とされた乗用車が大地に突き刺さっていた。
「戯れはここまでだ。次は貴様達の拠点である病院に出向いてやろう。
その時こそ最後のカオスエメラルドとライダー全員の命を奪ってやる。
それでオレの目的は果たされるのだ!」
激昂したメタルソニックの周囲に、漆黒のエネルギーの渦が沸き立つ。
それを見たソニックはすぐさま受けの態勢を取る。
「みんな、防御するんだ! カオスブラストが来るぞ!」
その声か数秒の後、メタルソニックを中心に強烈な衝撃波が放たれた。
カオススピアと同じく、カオス・コントロールにより放たれる秘技。
それは一瞬展開されたゲームエリアを平然と貫き、噴水のある公園の一角を丸ごと粉砕する。
……ように見えた。
「なんだ、カオスブラストじゃないのか?」
受けの態勢を解きながら、ソニックが呟く。
メタルソニックの姿は消えていたが、被害は噴水自体が爆砕されただけだった。
本来の威力を知るソニックからすれば、あまりにも違和感のある弱さ。
まだカオス・コントロールを習得しきっていないのか、あるいは何か意図があるのか。
やがて警戒を続ける中、戦場に一つの影が戻ってきた。
「ったく、アイツひっでーことしやがるな……」
「貴利矢さん!」
「永夢、急いで緊急搬送の準備してくれ。外がマズいことになってる」
「何かあったんですか?」
「今さっきの変な爆発の直後に、公園外避難した一般人が一斉にゲーム病を発症した。
ウィルスパターンはモータスの亜種、まず間違いなくメタルソニックの仕業だ」
「それじゃあさっきのカオスブラストは、バグスターウィルスを広域伝播させるため?」
永夢と貴利矢の会話を聞きながら、ソニックは拳を握りしめた。
今のメタルソニックがどれだけ強大な力を持っているか、それはよくわかっている。
だがそれでも止めなければならない。
自由への抑圧を為す者こそ、ソニックにとって最大の敵なのだから。、
- Zone.4 Reach for the Stars -
[EX-AID]
「……してやられたか。完全に」
貴利矢の呟きが乾いて響く。
クロノスを相手に完全勝利を果たした昨日と対照的に、今のCRの空気は重かった。
ライダーの力を逆用され、対立する檀正宗に作戦を妨害され、さらに真の敵を見誤る――
そうして現れたネオメタルソニックは、単純な戦闘力だけでも貴利矢や大我を容易く打ちのめし、
特殊能力も含めればポーズやムテキゲーマーの攻撃すら効かない、クロノスすら超える脅威となっていた。
「しかもアイツ、手加減って言葉知らないらしいなな。
うっかりしてたらアバラとくるぶし砕かれてる勢いだぜ」
「テメエはまだバグスター化してるからマシだろ。
下手したらオレは一時戦線離脱してたかもしれねえ」
苦々しげに応える大我の腹には包帯が巻かれている。
腹部がシミュレーションゲーマの装着範囲外とはいえ、スーツ越しから生傷を負ったのだ。
ハリネズミであるソニックの姿を金属で模した故に、その外装の一部は暴力的な鋭さを伴っている。
追撃でもう一刺しでもされていたら生傷では済まない。おそらく内臓まで突き刺さったことだろう。
ニコが決死の勢いで乱入したおかげで追撃は免れたものの、彼女もスーツを超えて負った手酷い打撲傷が残った。
「僕は大丈夫ですけど、このままじゃ倒しようがありません」
「ま、攻撃が効かないんじゃな……リプログラミングするにも永夢以外は動けないんじゃ無理があるぜ。
ソニック一人に賭けるしかないのかね、コレ」
「止めてみせるさ。絶対に」
ソニックの表情は堅い。
だが、今は決意だけで送り出すことはできない。
万全を期したその瞬間まであえて汚名を被った男には、確証のない戦いはできなかった。
「勝機はあるのかい?
あんま言いたくはないが、アンタが倒れたら色んなことが詰んじまう。
勝ち目がなくても戦うって話ならやめとけ」
「勝ち目ならあるさ。一つだけ、直撃すればアイツを倒せるくらいの技がある。
ただし一発勝負だ」
「それって、あのカオスエメラルドが必要な手段?」
ニコがCRの隅を指さしながら問う。
メタルソニック――あの時はまだモータスカオスだが――から奪った最後のカオスエメラルドは、
ポッピーと黎斗の自室のある筐体の中に保管されていた。
最悪は筐体ごとエメラルドを消滅させれば、メタルソニックは目的を完全達成できなくなる。
だがそんな最終手段を見て、ソニックは首を横に振った。
「エメラルドじゃない。アイツの能力を逆用するのさ」
「そうか、ファイナルカラーブラスター!」
やにわに大声を出した永夢に、ソニックは今度こそ頷く。
それが何をどのような技なのかは貴利矢は全くわからなかったが、名前からしていかにも威力はありそうだ。
何より永夢が自ら可能性として名を出すものなら、信じるつもりだった。
……だったが、せめて外堀は埋めたい。
「そいつは問答無用でカオス・コントロールされても使えるのか?」
「いいや、アイツは正面から勝負に乗ってくるさ。
前にアイツが暴走した時も、なんだかんだ言いながらオレ達との決着を優先したんだ。
いくら暴走しても、根っこまではそうそう変わらない」
「それに今のメタルソニックのカオス・コントロールは完全じゃないと思うんだ。
だって、本当にいつでも使えるならさっきの公園の時点でおしまいでしょ?」
ソニックに続けて話すテイルスの言葉も一理ある。
檀正宗のように『商品価値がある』という理由でCRを生かす必要などメタルソニックにはない。
にも関わらず、わざわざ能力を封印して戦った。
その原因がカオス・コントロールの獲得と直結している可能性は決して低くない。
結果的にゲーム病患者の発生という結果には至っているが、カオスブラストも発動に半ば失敗している。
成功していれば蹴り飛ばされた自分以外軒並み戦線離脱に追い込めるだろうに、
それをしなかったという事実は一発勝負が通る可能性をある程度高めていた。
もちろん能力なしでも手強い相手だが、打算のない戦いではない。
「よし、ソニックはその手でいってくれ。
だがこっちも大概ムチャやってきてるし、何より元がモータスである以上こっちだって手は打てるハズだ。
ってところで――さっきからずっと作業中のようだが、打開策は見つかったか?」
「クリエイターの眼を甘く見るな、九条貴利矢。
先んじて回収したヤツのウィルス解析から、既にヤツの攻撃無効を抜ける方法は見つかっている」
「なんだって!?」
思わず貴利矢が驚愕の声を上げる。
攻撃が通るなら、少なくともムテキゲーマーは真っ向戦うことができる。
彼以外もカオス・コントロールさえ止められればいくらでも加勢できるようになる。
厄介な前提が違えば全く話が変わるのだ。
だがそんな貴利矢を制するように、黎斗の二の句が飛んだ。
「だがこの手は誰にでも使えるものではない。
そもそも、ヤツの無効化判定は『NPCからの攻撃』を対象にしている。
複製モータスの運用が仮面ライダークロニクル内で行われる予定だったなら妥当な調整だろう。
この設定だけでライダー、そしておそらくバグスター相手にも無効化機能が発動する。
今のヤツの不安定さは、キメワザから全ての攻撃に対象を拡大した部分にもあるだろうな」
「アレ? ってことは、一応アタシは当てられるのか」
「まぁ聞け。だが、クロノスのキメワザを無効化したことで一つの問題が浮かぶ。
クロノスがマスター権限で動いている以上、本来はNPC判定にはならない。
あれが無効になるならライドプレイヤーも対象外になってしまう。
その原因はヤツ自身にある。彼は本来、どんなゲームにいる?」
「Too easy! オレの世界に決まってるさ」
「そうだ、ソニックの世界だ。だからこそソニックの攻撃は効いている。
……つまりそこに合わせた新ガシャットがあればいい。既に準備はしている」
「準備?」
思わず首を傾げた貴利矢の前に、何者かが現れる。
まさかメタルソニックか、と警戒するが違った。
見慣れたバグスターワープの後に現れたのは、今朝も見たバグスターの首魁――パラド。
カオスブラストで発生した患者の搬送に黎斗は居合わせなかったが、この男を呼んでいたとは。
「……お前に協力するのは気にいらない」
「奇遇だな。私も今さら手を借りるなど反吐が出る」
開口一番、画面越しに言葉のボクシング。それも当然だ。
生前の黎斗はバグスターの扱いに反感を持ったパラドにより殺され、
復活した後は黎斗もパラドの撃破を狙っていたことがあった。
だが、今はそれすら抑える共通の目的があった。
「気にいらないが、今この瞬間だけは水に流す。
バグスターの誇りを踏みにじったアイツは、オレの心を滾らせた。
なによりこれじゃソニックが帰れない。ここは手を貸してやるよ」
「フッ……ソニックのため、か。それなら私も甘んじて受け入れよう。
彼は不正なゲームどころか先人が産んだレジェンドゲームの生まれだ。
もし彼が戻れなければ、今の仮面ライダークロニクル以上に悲しむ人間が生まれる。
それはゲームマスターとして認められない結果だ」
青いハリネズミの存在が、仇敵にしてかつての仲間である2人を組ませる。
それを証明するかのように、パラドが筐体の中へ飛び込んだ。
「これより新ガシャット製作に入る。
特性上、製作は1本のみしか認められない」
「ならソイツは永夢用にしてくれ。永夢は完成まで待機してろ。
ヤツが来るまでに間に合わなかったら、自分らで時間を稼ぐ」
「貴利矢さん?」
「未完成ガシャットの完全体化を2度もやってんだろ? 自信持てよ。
それにアイツ、モータスの記憶だけは持ってるせいか永夢にも殺意マンマンだからな。
ソニック相手に集中してもらうために、ギリギリまで控えてた方がいい」
「……わかりました」
永夢が覚悟を決める。
ならばと、貴利矢も自らの為すべきことに歩を進める。
「よし、自分らは今のウチに新しい攻め手を考えとかないとな。
もし何かの弾みでメタルソニックを叩けても、今のままじゃ素で動きを読まれてやがる」
「コイツを使うか……」
大我が見慣れないガシャットを取り出す。
バンバンシューティングに似ているが、ラベルは明らかに違う。
それを見て今度はポッピーがあるケースに手を出した。
昨晩、貴利矢が持ってきたばかりのプロトガシャットケースだった。
「黎斗、これ借りていい?
バグヴァイザーIIは読まれちゃってるみたいだし」
「かまわないさ。今は使ってないからな」
呆気なく交渉成立し、ポッピーが1本のガシャットを手に取る。
そして貴利矢も1本のガシャットを取り出す。
「……スパロー重視にするなら、コイツでいってみるか」
「みんなガシャット出してるけど、アタシはどうすればいいのさ」
ニコが不満げに呟く。
思わず近くにあるモップを渡したら何故かやたら怒られてしまった。
ソニック滞在によるゲームの知識は間もなくいらなくなるかもしれないが、
代わりに不在の時期に起きたことを追っておこうと、キレられながら貴利矢は考えていた。
[SONIC]
ソニックは1人、夜の屋上に出ていた。
頭上に見えるCRの面々はそれぞれ決戦への準備に忙しい。
だがソニック自身にできるのは全力を尽くすことだけ。
メタルソニックへの警戒を兼ねて、ヘリポートで身体を慣らすのが精々だった。
「ソニック、勝てる……よね?」
「ああ。アイツと戦った時から、オレも強くなってるしな」
「うん……」
ソニックが言い切っても、テイルスの顔には不安の色が残っている。
かつてメタルソニックが暴走した時、たしかにソニックは勝った。
だがそれはソニック・テイルス・ナックルズによる3人チームに加え、
シャドウやエミーの率いるチームまで共闘した12人がかりの大乱戦による勝利だ。
さらに逆転の鍵であるカオスエメラルドもソニック達の手にあった。
ソニックが当時より強くなっているのはテイルスもよく知っているが、
チーム戦術とカオスエメラルドの欠如という不安要素がある以上、どうしても勝算を高く見積もることは難しくなる。
まして今度のメタルソニックは、多彩な能力だけでなくバグスターの特性も持っているのだ。
天才少年とも呼ばれるテイルスだからこその冷静な不安だった。
「大丈夫だって。たとえ1人でもオレは負けないさ」
「1人じゃないよ。僕達もいる」
気付けば、永夢も屋上に来ていた。
他のCRの面々と違い、彼はガシャット完成の瞬間まで待つしかない。
それはソニックと近しい状態と言えた。
「ガシャットが完成するまであと少しだって。
3人には足りないけど、それでも一緒には戦える」
永夢の声にテイルスの表情が明るくなったように見えた。
エグゼイドがCRの最大戦力にして切り札であるのは、実際に戦う中でソニックもよくわかっている。
最強の対バグスター戦力が参戦すれば、不安要素のいくつかは消える。
そんなテイルスの様子に安心する永夢に、今度はソニックが問う。
「いいタイミングだ。エム、ちょっと聞いていいか?」
「なに?」
「エムは、ゲームよくやるんだよな」
「まぁね。研修医になってからはさすがに頻度落ちてるけど」
「じゃあ、モータスみたいなバグスターは元のゲームと同じなのか?
エムが知ってるゲームのキャラだって聞いたぜ」
「それは……違うよ。
見た目はゲームキャラでもソニックとは違うし、元のゲームと同じでもない」
「その違いはなんなんだ?」
ソニックの目は真剣だ。対する永夢にも冗談の色はない。
「バグスターは、データを取り込んで再現してるだけなんだ。
だからゲームキャラの姿と能力を借りて誕生して、ゲーム病患者の人間を取り込んでるなら記憶も借りてる。
命としては別モノだから、ゲームキャラそのものじゃない」
永夢の声にソニックは少し思案していたが、ややあってパチンと指を鳴らした。
「Good job、エム! これで迷いなく戦えるぜ」
「一体何がわかったんだい、ソニック?」
「メタルソニックがバグスターを取り込んだ本当の狙いさ。
アイツは――」
ソニックが語り出した直後、大地が揺れた。
辺りを見回すとすぐに原因はわかった。
突如として、病院の近くに巨大な影が2つも現れたのだ。
どちらもソニックには見覚えがある。
引き連れているのが誰かなど考えるまでもない。
その様子を見て、永夢が慌てて通信機に顔を寄せてくる。
「テイルス、1つだけ頼みがあるんだ」
「なに、永夢さん?」
「君の研究所に、できるだけそっちの世界の仲間を集めてほしいんだ」
「仲間を……?
わかった。多分全員は無理だけど、近くに来てる仲間を呼んでみるね」
「ありがとう」
意図不明ながらテイルスが了解すると、今度はソニックに顔を向けた。
「ごめん、ソニック……完成までの間なんとか持ち超えたえて。
必ず助けに行くから」
「ああ。倒せるようだったらそのまま倒していいんだよな?」
「もちろんさ。でも、無理はしないで。
CRのドクターとして、そして1人のゲーマーとしての頼みだ」
ソニックと永夢が堅く握手する。
そしてメタルソニック接近の報を伝えるべく永夢が階段を下りると、
ソニックはその真っ向逆、夜の闇に向けて迷いなく駆け出した。
「いくぜ、Go!」
ブーストの青い輝きが闇を切り裂く。
ソニックは、自ら決戦の地へと飛び込んでいった。
[EX-AID]
「ひ、ひええーーー! ナニ、あのおっきいの!?」
「おいおい、冗談じゃねえぞ……なんだあのデカブツは」
「一般病棟を崩壊させて、地下にあるCRを引きずり出そうって魂胆か。
えげつねえことしやがる」
突如現れた2つの巨影は、聖都大学附属病院の正面口から見える位置まで迫っていた。
そのサイズはどちらも地上フロアを構成する一般病棟より大きい。
ただ転倒しただけでも病棟は半壊、下手すれば全壊もありうる。
そうなればメタルソニックが発生させたゲーム病患者は、彼を倒す前に圧死という形で死ぬだろう。
ライダーやソニックに逃げを許さないためにこんな真似をするかと、貴利矢と大我は巨影を睨む。
だが、大我の隣に立つニコは別の意味で怒りに燃えていた。
「アレは……エッグマンのメカだ!」
「例の黎斗に似てるっていうヤツか?」
「うん。メタルソニックのヤツ、また勝手にエッグマンのメカ使いやがって!」
「またってことは、攻略法はもうわかってる?」
「もちろん! 攻撃が当たればね」
巨体相手に直撃を何度も狙うのは難しい。
ニコが知っているゲームでの攻略法は、2体の敵を倒す鍵になるだろう。
メタルソニック本体以外にも攻撃無効化がかかっているか否かは、もはや賭けに近い。
「いたぞ、ソニックだ!」
先行したソニックに貴利矢達が追いつく。
その目前には大地を揺るがす二足歩行メカ、低空を飛ぶ巨大飛行メカ。
そして――メタルソニック。
「無駄とわかっていてなお挑むか。下等生命体とは哀しいものだな」
「ずいぶんなご挨拶じゃないの。
昨日は呼び出しまでして自分らにかまってほしかったんだろうに」
「俺にケンカ売ってきたのもテメエだろうが。どの口でほざいてやがる」
「フン、揃って口は達者なものだ。
素直にエメラルドとエグゼイドを出す気はないらしい」
メタルソニックは全く余裕を崩していない。
どれだけ強気でも、ライダー相手に絶対的な優位がある以上恐れなどないのだろう。
実際、今の貴利矢達がメタルソニックを倒すのは極めて難しい。
だがそれでも退く気などなかった。
4つのガシャットの光が、4人の戦士を生む。
『バンバンシミュレーションズ!』
『爆走バイク!』
『ときめきクライシス!』
『仮面ライダークロニクル……』
「こっちはあのデカブツを止める。ソニックは永夢が来るまでなんとか凌いでくれ」
「オーケー、メタルは任せておけ! 」
『ステージセレクト!』
ソニックに正面を任せ、レーザーはホルダーに備わるボタンを押す。
だが、それは望んだ通りに機能はしなかった。
「……やっぱり割り込んで来るか」
「最初からこのモータスの身に含まれている機能だからな。
この程度は何らの負荷もない」
レーザーの展開しようとしたゲームエリアに代わり、目の前に現れたのは空間にぽっかり空いた穴だった。
2つの穴にそれぞれ巨体のメカが吸い込まれ、同時にライダー達も引き寄せられていく。
「貴利矢! エッグドラグーンの弱点は股と頭!
あとドリルを――」
別の穴に吸われゆくニコが必死で叫ぶが、そこでニコは大我と共に穴へと吸いこまれてしまう。
直後に貴利矢の姿もまた、ポッピーと共に飛行メカの待つ時空の穴へと消えていった。
[SONIC]
「これで邪魔者はいなくなった。ソニック……今こそ相手をしてやろう。
我が完全支配の達成と共に貴様を叩き潰してやる」
「決勝戦ってところかい? いいぜ、受けて立ってやる。
お前からカオスエメラルドを取り返して、今度こそおしまいだ」
「エメラルドの奪還だと? よくも吠えられるものだ。
ライダーは援護に来ない。スーパー化もない。
もはや貴様の勝率など1%もないのだ。覚悟を決めろ」
「覚悟を決めるのはそっちだぜ!」
ソニックが駆け出すと共に、周囲の風景が変化した。
メタルソニックがゲームエリアを展開したのだ。
その先の光景は、やはりソニックにとって見覚えのあるものだった。
「スターダスト・スピードウェイ……!」
「貴様とはじめて戦ったのがこの場所だったな。
エッグマンに倣うわけではないが、ここで貴様を倒し全ての敗北を無とする」
リングを取りながら、煌びやかに輝く夜の道路を突き進む。
だがソニックが大地を駆けるのに対して、メタルソニックは背部の大出力ブースターで浮遊していた。
そして道路外へ飛び、飛行したまま並走してきた。
「まずはおさらいだ……ふん!」
飛行しながら、メタルソニックが街灯をすれ違い様に叩き折る。
そして切り離された街灯が、妖しい緑色の光を伴ってソニック目掛け次々と飛ばされ、
ソニックもまたホーミングアタックで片っ端から吹き飛ばしていった。
ホーミングアタックの隙を狙うように放たれた水流アタックも見事に避け、
ソニックそっくりのフォームで転がるスピンアタックはブーストですり抜ける。
直後に双方が急停止し、路上の中央で再び正面から対峙した。
「フン、さすがにこの程度で倒せはしないか」
「どれもオレが破ってきた能力だからな。
さぁて、お次はなんだい。それとも時間稼ぎにおしゃべりか?」
「いい気になるな。
エメラルドを持たないお前など、カオス・コントロールの前に無力だ」
「ならやってみろよ。
今のお前はその身体を保つのに常にダークガイアパワーの能力を使ってるし、
取り込んだタイムイーターはカオスエメラルドを苦手にしていたはずだ。
これまでみたいにすぐ体得ってワケじゃないんだろ?」
「不完全でも貴様を殺すには十分だ……!」
メタルソニックが漆黒の槍を投げつける。
至近距離からの不意打ちだが、反応して避ける。
さすがにカオス・スピアが突き刺さっては、ソニックもかなりのダメージを受けてしまう。
リングがある以上即死はしないが、追い打ちですぐスピアを撃たれればそれも無意味に近い。
「我が目指す7つ目の能力を教えてやろう。タイムストーンだ」
「タイムストーン……くっ!」
超能力とカオス・スピアの波状攻撃をかろうじてさばく。
ソニックが動き続けているのと対照的に、メタルソニックは腕を組んで仁王立ちしていた。
「貴様の言う通り、エメラルドの力を使う以上タイムイーターの能力は完全にはならない。
だがタイムストーンの力を得れば、これが完全になる。
過去・現在・未来、そして数多の世界! 全てにおいてこのオレが君臨するのだ!」
仁王立ちの体勢から突如飛んできた水流アタックに、ついにソニックが被弾する。
だがすぐに跳ね起き、水流から元の姿にもどろうとするメタルソニックを蹴り飛ばして反撃する。
自ら後方へ飛んで衝撃を弱めたメタルソニックは、ウィスプの封じられたカプセルをゲームエリアに出現させた。
「その幕開けに今のお前を潰す! 決着をつけるぞ、ソニック!」
「……受けて立つぜ。そのステージは幕開けでおしまいだ!」
ソニックの瞳には、不屈の闘志が燃えていた。
[EX-AID]
「ずいぶん間抜けなツラしたロボットだな。こんなもんが街を蹂躙してたのかよ」
時空の穴を落ち、軍事基地のような場所へ降り立ったスナイプは開口一番そう言い放った。
目の前にはあの巨影の1つ、地を揺るがす二足歩行ロボが立ち塞がっている。
機械然とした脚部と腕部に対し、卵型の胴体を服に、楕円型の頭部を顔に見立てたアンバランスな巨体。
特にヒゲと眼鏡どころか白い歯まで象った頭部は、戦闘用メカとしてはあまりにも不似合いなものだった。
それ故に、知る者にはすぐ素性が知れる。
「やっぱり、デスエッグロボ!」
「あのナリで『死』だと? 悪ふざけはツラだけにしやがれ」
吐き捨てるような言葉もろとも、スナイプがハンドキャノンを発射する。
胴体の中央部に炸裂した砲弾が赤色の胴体を黒く汚す。
レベル50の火力すらそうそう通用しない堅い装甲に舌を巻きつつ、
さらに数発叩き込むが大きなダメージがあるようには見えない。
だが、わずかでも装甲に傷とへこみが付いたことをスナイプは見逃さなかった。
「ハッ、全く効かないってワケじゃねえのか。弱点を狙い撃てば苦労しなさそうだぜ」
「コイツの弱点は頭と尻だよ、大我!」
「正面は無敵ってワケか……」
スナイプの数倍はある巨体を改めて見上げる。
卵型で張り出している腹が原因で、地上から頭部を狙い撃つのは難しい。
尻を狙うにも、この軍事基地は奥行きはそれなりにあるものの左右幅が狭い。
あるいはジェットコンバットなら狙い撃てるかもしれないが、火力と耐久力に不安が残る。
戦えとばかりに置かれたこのロボが、このまま動かないはずがない。
その読み通り、デスエッグロボは突如動き出した。
腕をガシャンガシャンと回転させた後、軽い前傾姿勢を取りつつ右腕をスナイプに向ける。
正面からだと、ガトリングガンの砲口のごとく備えられた3連ドリルがよく見えた。
「大我! アイツ腕伸びるよ!」
「……くっ!」
ニコの言葉で敵の狙いを察し、すぐさまスナイプが飛び退る。
直後に右腕が伸び、一瞬前にスナイプが立っていた場所へ3連ドリルが突き刺さっていた。
床を破砕して金属片を撒き散らすその威力は、直撃すればシミュレーションゲーマーの防御力でも重傷は免れまい。
ジェットコンバットを使う考えは捨てざるを得なかった。
「おい、コイツは腕以外になんか武器あんのか」
「あるのは腕と踏み潰しだけ!」
ニコが言うのと同時に、デスエッグロボが大きく前方へ跳んだ。
今度はバックステップの1つや2つでかわせるものではない。
だからこそニコとスナイプは迷わず前方へ駆けた。
下をくぐる形で踏み潰しをギリギリで避ける。
そしてすぐさまスナイプは背後へ振り向いた。
「吹っ飛べ!」
デスエッグロボが旋回するより早く、ハンドキャノンがデスエッグロボの尻を捉える。
後方からだけ見える脚部と胴体の境目を正確に射抜くと、バランスを崩した巨体が地に転がった。
同時に尻の部分が爆発する。明らかにダメージを与えた手ごたえがあった。
「さっすがあたしの主治医、こんなあっさり倒しちゃうなんて……って、なに警戒してんの?」
「終わりと思えねえんだよ。あれだけ策を弄した野郎が、こんな手落ちするか?」
「時間稼ぎのつもりなんじゃない? 倒したはいいけどここから出られないっぽいし 」
ニコの言うことにも一理はあった。
直接攻撃が効かない今のライダー達でも、ソニックを援護することはできる。
そういった横槍を防ぐためにこの異空間が用意されたのなら、実際の強さは必要ない。
放置すれば病院からCRを部屋ごと引きずり出されるような仕掛けさえあればいい。
その論に納得しつつもハンドキャノンを下げずにいたその時だった。
突如として標的が消えた。
いや、違う。これは見知ったはずの現象。
「オレンジの粒子だと? こいつは、まるで――」
「――まるでバグスターワープじゃないの。この大きさでやるとか冗談キツイな……!」
同じ頃、レーザーターボも驚愕していた。
吸い込まれた先に待ちかまえていた「エッグドラグーン」なる飛行メカは、
ついさっきポッピーと協力して撃破したはずだった。
だが撃破したメカがオレンジの粒子と化し、ライダー達の背後に再び集まる。
振り向いた先には無傷のエッグドラグーンがいた。
「一瞬でコンティニューされちゃった!?
……貴利矢、これじゃ何度倒しても意味ないんじゃないの?」
「カラクリを解かない限りは、な。
いくらアイツの取り込んだモータスが普通じゃないったって、
こんな早く自力コンティニューできるはずがない。
そいつを見つけ出すためにも、もう1回倒すぞ」
慌てるポッピーを落ち着かせながら、再びエッグドラグーンを目で追う。
長い腕に対しオマケ程度の足しかない形状から、空中戦に特化した機体なのは明らかだった。
だが右腕のガトリングガンも、左腕の大型ドリルも遠距離戦には向いていない。
結果、エッグドラグーンはレーザーターボとポッピーの立つ円形の足場をゆっくり周りながら攻撃してきていた。
そしてニコの言った通り、頭部と股関節には弱点らしきドーム状のコクピットが収まっている。
飛行されるのは厄介だが、巨大な外見の割に弱点の装甲は薄い。
先に一度撃墜できたのも、ガシャコンスパローとバグヴァイザーIIの射撃で股関節の弱点を潰せたからだった。
「なんかあるとすれば、あの弱点かもな。ポッピー、ちょっと援護頼むわ」
「援護って……」
「ガトリングが来たらぐるっと回りながら避けろ」
「え、それだけでいいの?」
「ああ。来るぞ!」
右腕のガトリングガンが回転し始める。
それがポッピーを狙っていることを確認してから、レーザーターボはドライバーにガシャットを挿した。
『ギリギリチャンバラ!』
レーザーターボの足と腕へ漆黒の装甲が巻きつき、さらに頭部に兜が被さる。
武者のような姿になったレーザーターボだが、この増加パーツはただの鎧ではない。
「今だ!」
弾けるようにレーザーターボが突撃する。
瞬発力を大幅に増した脚部を活かせば、この瞬間だけはソニックもかくやという速度が出る。
その勢いでドリルを向けられる前に足場の端へ辿りつき、そのままジャンプした。
目前に迫る股関節の弱点に、分離させたガシャコンスパローを突き刺す。
その内の1本が装甲を抉るように突き刺さり、レーザーターボの体重を支える。
そしてもう1本は弱点に覆いかぶさるドーム状のキャノピーを叩き割っていた。
「さぁて、中身見せてもらおうか……なんだ!?」
「貴利矢、何があったの!?」
「中にモータスがいやがる。複製の複製、ってヤツか!」
『MISS!』
コクピットに鎮座するモータスをガシャコンスパローで斬り付けるが、今度は効いていなかった。
それがメタルソニック本体と同じ理屈によるものだと理解すると、すぐさま壁を蹴ってエッグドラグーンから離れる。
間髪入れず合体させたガシャコンスパローの射撃を、モータスの周囲に連続して叩きこんだ。
再び弱点のブロックが爆発し、エッグドラグーンが足場に倒れ込む。
「なんであんなところにモータスがいたの?」
「そいつは考えるより、見た方が早そうだ」
言うが否や、またエッグドラグーンがオレンジ色の粒子に姿を変える。
だが、今度は何が起きたか理解できた。
粒子に変わる直前、潰されていない頭部の弱点が光ったのだ。
シルエット越しに見えた頭部内の人影もモータスのものだった。
「思った通りか。自動復活の鍵にされてやがる」
「どういうこと?」
「おそらく、弱点に仕込まれた2体のモータスは連動してるんだ。
片方が撃破されると、もう片方がメカごと吸い込んで再生させる。
バグヴァイザーで回収したバグスターが再生できるのと同じ理屈だな」
「ってことは、同時に弱点を破壊しなくちゃダメ?」
「どこまでの精度が必要かわからない……けどな!」
乱暴に叩きつけられるドリルを避けながらも、貴利矢の声が響く。
完全に同じタイミングで倒すなら、外からの射撃ではなく複製モータス自体に同時攻撃が必要だ。
コクピットブロックの誘爆程度で倒せるのだから大した威力は必要なさそうだが、
そんな威力すらも直接攻撃では与えられない。
たとえある程度の誤差が許されたとしても、レーザーターボとポッピーの火力では単独破壊は難しい。
キメワザを使えば可能性はあるかもしれないが、メタルソニックの手口を考えると発動自体が躊躇われた。
「さぁて、どうしたもんかな……」
エッグドラグーンと三度対峙する中、レーザーターボは本格的に攻めあぐねていた。
[SONIC]
ソニックとメタルソニックの戦いは、ウィスプを駆使した勝負に突入していた。
『ヴォイド!』
メタルソニックが超能力で紫色のウィスプを呼び寄せ、すぐさま吸収する。
直後、黒い球体と化したメタルソニックが道路そのものを飲み込んでいく。
動きは遅いが、その凄まじい吸引力はまるでブラックホールのようだ。
しかもモノを飲み込めば飲み込むほど吸引力は強くなっていく。
ブーストを駆使しても抗うのが難しくなったその時、ソニックの前に青いウィスプが現れた。
『レーザー!』
すぐさま、力を借りる。
青い光線と化したソニックが反転し、黒い球体を貫通する。
直後にウィスプの力が解け、元の姿に戻ったソニックは路面へ降り立った。
(ほんっと、タフなヤツだぜ……)
降り立った先には既にメタルソニックが立っている。
新しいガシャットという可能性を残すには、ここでメタルソニックを足止めするしかない。
カオス・コントロールがまだ不完全であることは救いだったが、それでも有効打が叩きこめない。
この世界で習得を許した多彩な能力は、攻撃だけでなく防御においても脅威となっていた。
せめて直撃の一つ、それもできる限り強力なものを喰らわせられれば――
取るべき手は既に見えている。ウィスプが呼び出されている今なら、できる。
あとはタイミングだけ。
「お前がバグスターを取り込んだのは、ただ能力を再現するためだけじゃないな?」
「何を言い出すかと思えばそんなことか。再現どころかあらゆる時間における完全征服、それが目的だ」
「そういう意味じゃないさ。
……お前の望みは、ロボスターって形の方にあるんだろ」
メタルソニックの動きが止まる。
超能力などで奇襲をかけてくる気配もない。
ならばと、ソニックはさらに続けた。
「パラドやニコと戦ってる時、変だと思ったのさ。
お前は偽者とか、ゲーマーってものに妙に反応してる。
バグスターとしての知識を受け継いだせいなのかと思ったが、多分そうじゃない。
お前は見たんだろ? この世界の、オレ達が出ているゲームを」
「……!」
唐突にメタルソニックのアイカメラが赤く輝く。
ソニックもまた正面からその輝きを見据えていた。
「お前のシッポを掴むために、オレもニコがプレイしているゲームを見せてもらったさ。
あのゲームはたしかに、オレ達の世界の出来事を見知ったかのように再現している。
そしてその中で、お前が完全に勝てたことは一度だってない。オレが実際に勝ってきたようにな。
だから変えたかったのさ」
「……何にだ」
「メタルソニックではない違う命、本来の道筋を外れた存在ってヤツにさ」
メタルソニックは動かない。
だが、動かずしてそれは響き渡った。
――哄笑。
そして、また姿が変わりゆく。
金属部品の細い手足の上にバグスターウィルスが再び集まり、新たな手足を形成する。
生体パーツに包まれた手足は、生物の手足にしか見えないものへと変わっていた。
「クッ……ハハハハハハハハッ!!
その通りだソニック。
オレはタイムイーター撃破の余波で来たこの世界で、自らのゲームを知った。
そして語られる末路に絶望すると、同時に希望を見たのさ。バグスターの本質を知ったからだ」
「本質だと?」
「冥途の土産に教えてやろう。あれは願望機だ」
メタルソニックが手を前にかざす。
そこから放たれたウィルスが、いつかのにようバグスターユニオンを形成する。
「バグスターは万物のデータを再現し形を為す。
この世界の人間にはゲームキャラや人体の再現が精々だろうが、
コンピュータウィルスすら御する高性能チップの前には無から有を生み出す福音だ。
糧さえ十分にあればオレの身体を全く新しく生み出すことも造作もなかった。
あのモータスとやらを道具にしていた人間、その体を餌にオレの身体は完成した」
言いながら、ユニオン目掛けてメタルソニックがカオススピアを投げた。
四散したウィルスが新たな形に収束する。
それはモータスカオスがずっと乗っていた、メタルマッドネスそのものだった。
「そしてゲームという形で語られる未来のある世界で再誕することで、オレは枷を解いたのだ。
『ソニックシリーズの悪役』という敗北の枷をな」
再び、カオススピア。
今度は四散したウィルスがメタルソニックへと吸収されていく。
オレンジの輝きが胴体を包み込むと、ソニックに似た青い塗装が一瞬で消える。
新たに生まれたボディは、アイカメラだけでなく全身が深紅に彩られていた。
深紅のネオメタルソニックが、立つ。
「ロボスターという新たな命を得たオレは、何の横槍もなくお前を消し去ることができる。
筋書きのない戦いにせいぜい恐怖するがいい!」
直後、漆黒の波動がメタルソニックから放たれる。
カオスブラスト。今度は本当の衝撃波だ。
反転して後方へとかわしたソニックは一瞬だけゆっくり歩き出し、そして道路を一気に走り出した。
「恐怖だって? むしろ面白くなってきたぜ。
お前がそんな……勘違いをしてるなんてな!」
「勘違いだと?」
「そうさ!」
ブースターで迫りくるネオメタルソニックを、ブーストすら超えるスピードで振り切る。
CRの室内で永夢とニコから聞いた、ブーストの加速効率を大幅に高める走法。
だがそれすらも、速度を急激に上げてくるネオメタルソニックにはさしたる時間稼ぎにならなかった。
「その速さも今のオレは超える!」
「Foo! 勘違いでそこまでこれたら大したもんだぜ!
この世界のゲームは、オレ達の世界の予言でも記録でもないんだからな!」
「なに……?」
「お前はデータだけでゲームを知ってるからそんなことを思ったのさ。
オレはニコがゲームをやってる光景を見てきた。
たしかに大筋はオレ達の世界のものをなぞっているけど、一から十まで同じじゃあない。
ゲーマー次第じゃオレが負けたり、お前が勝ったりもするし、
新たなデータを足してオレも知らない冒険が増えたりもするのさ。ゲームだから当然だろ?」
再び、ソニックが速度を上げ直す。
ブーストしながらドリフト走行し、そのまま直線でもドリフトの勢いを乗せ続ける。
これもニコ達から教わった新たな走法だった。
それすらもネオメタルソニックは追いつきつつあったが、意味はあった。
攻撃が来ない。これだけの急激なスピード上昇には、ネオメタルソニックが学習した技もほとんどが当たらない。
カオス・コントロールが完全でない限り、これで攻め手を封じられる。
「願望機ってのも笑い話さ。エムはバグスターを命とも言ったんだぜ?
性質がどうだろうと、都合のいい道具じゃなくてアイツらは生き物なのさ。
お前の憎む存在の軽視とやらを、誰よりもやってるのがお前ってことなんだよ!」
そしてスターダスト・ハイウェイの途上で、ソニックが再び反転して立ち止まった。
「結局お前は、どんな手を使ってもオレに勝ちたいだけなのさ。
そしてそうさせるワケにいかないから、今度もオレが勝つ!」
『アンリミテッドカラー!』
直後、ソニックを囲むように7体のウィスプが現れた。
ソニックはただ超スピードで反撃を止めていたのではない。
ネオメタルソニックの反応を超えて、呼び出されたウィスプ達を集めていたのだ。
「みんなの力を貸りるぜ……これで勝負だ!」
『レーザー! ドリル! スパイク! ロケット! キューブ! ホバー! フレンジー!』
ウィスプがソニックの前方で輪になって回転し、虹の如き輝きを放つ。
カラーウィスプの力を集中させ、莫大なパワーを放つ大技・ファイナルカラーブラスター。
かつてウィスプを巡るDr.エッグマンとの戦いに終止符を打ったのは、スーパー化ではなくこの技だった。
永夢も認めるこの一撃なら、今のネオメタルソニックでもただでは済まない。
あとはこの力を乗せ、自らを真っすぐ追う赤きハリネズミに叩きつけるだけ。
だが――
『リミテッドカラーズ!』
「なっ……!?」
「オレはお前の力を獲得している。ならば当然できる!」
『バースト! ロケット! ドリル! レーザー! ヴォイド!』
突撃するソニックの前で、メタルソニックもまたウィスプを呼び寄せていた。
7色ではなく5色。
だが、それは紛れもないファイナルカラーブラスターだった。
2つの虹の輪を、青と赤の輝きが貫く。
直後、ソニックのホーミングアタックとネオメタルソニックのきりもみ回転が激突した。
夜の道路を眩いばかりの輝きが照らし、やがて弾ける。
――打ち負けたのは、ソニックの方だった。
「うわあああああっ!」
「そのまま吹き飛べ! カオスブラスト!」
追い打ちとばかりにネオメタルソニックから漆黒の衝撃波が放たれる。
回避も受けもできぬまま、ソニックが路上に叩きつけられる。
トドメを期するほどの一撃のダメージはあまりに大きい。
なんとか起き上るが、さすがに動きが大きく鈍る。
それでもソニックは折れなかったが、追撃の隙を見逃すネオメタルソニックではなかった。
「まだだ……まだだぜ!」
「もはやオレはお前の紛い物ではない。
このカオス・コントロールで……消えろ、ソニック」
時が止まる。
今のソニックに抗う術はない。
諦めかけたその時、待っていたその声がついに聞こえた。
『ハイパームテキ・エグゼーイド!』
[EX-AID]
「間に合った!」
ムテキゲーマーでソニックを救出した永夢は、そのままネオメタルソニックと対峙した。
全身が赤く、一回り大きくなったそのボディにソニックの似姿は感じられない。
だがそれでもこれがネオメタルソニックであることに疑念は抱かなかった。
ファイナルカラーブラスターの光が2つ見えたあの瞬間に、何が起きたかはもう悟っている。
「今更来たか、エグゼイド。
残念だが、オレのカオス・コントロールはほぼ完全なものになった。
動けるだけで手の打てない戦いをするのも苦しかろう?
その無敵の力を奪い取り、ソニックと共に叩き潰してやろう」
再びカオス・コントロールをかけられるよりも先に、永夢が動いた。
だがその手は武器ではなくドライバーに向かう。
直後、マキシマムマイティXごとエグゼイドはハイパームテキガシャットを抜いていた。
同時に金色のムテキゲーマーから、ピンク色のアクションゲーマーに姿も戻る。
「ハイパームテキを解くだと?
なんのつもりだ。今更許しでも乞うつもりか」
「違うさ。お前の運命は……オレが変える!」
不快感を露わにするネオメタルソニックの前で、永夢は新たなガシャットを取り出した。
そしてすぐさま起動する。
『ソニックジェネレーションズ!』
ラベルに2人のソニックが描かれたガシャットがコールを鳴らす。
マキシマムマイティXと同じ、スロット2つ分の大型ガシャットからはソニックを模した顔が見えていた。
それがドライバーに挿しこまれ、レバーを開く。
「変身!」
『超音速のマックススピード!スピンアタック!ライトダッシュ!』
中空に全身を包むアーマーが浮かぶ。
それを確認した永夢は、ソニックを模した頭部スイッチを叩いた。
『マキシマムソニック・X!』
アーマーと一体化し、エグゼイドが新たな姿を見せる。
青い塗装、ハリネズミの如き鋭利な背部装甲。
それは明らかに、ソニックを思わせる姿だった。
「貴様がソニックの紛い物になるとはな。
偽者の称号はお前が受け継ぐということか?」
「そう笑えるのも今のうちさ!」
挑発するネオメタルソニックの前へ、一気に青いエグゼイドが間合いを詰める。
一瞬だけ歩き、直後にブーストをかける。
ソニックに教えた手と全く同じものだが、元がゲームのテクニックだけに永夢は準備もなく最速で行った。
反応が遅れたネオメタルソニックに、エグゼイドの拳が突き刺さる。
「ごあッ……何故攻撃が当てられる!?」
驚く間もなく、今度は頭突きが飛ぶ。
そのままホーミングアタックを繰り出すと、ネオメタルソニックが派手に転倒した。
すぐさま起き上り、睨みつけられたのはドライバーだった。
「チッ、そのガシャットの力か!」
「そうだ。ソニックのゲームの力を持ったレジェンドゲームガシャットなら、
ソニックの世界のキャラとして戦える。お前の攻撃無効化を破れるんだ!」
「フン、調子に乗るなエグゼイド。
そういうことなら、貴様はよくてもコイツらはどうにもならんということだ」
体勢を立て直したネオメタルソニックが虚空に映像を映す。
それは時空の穴の先で戦うスナイプやレーザーターボ達の姿だった。
倒しても倒しても甦る巨大な敵を前に、彼らの消耗の度合いは明らかに色濃く見えていた。
「貴利矢さん! ポッピー!」
「タイガ! ニコ!」
「ハハハハハハハ!
これまでバグスターを破壊してきた者達は、ロボスターの新たな力の前に消えるのだ!
オレと戦うことはできても、もはや仲間はどうにもならんぞ!」
再び哄笑するネオメタルソニックに、ソニックが怒りに肩を震わせる。
それは永夢も同じだった。
そしてどちらからともなく、拳を伸ばす。
「……エム、一緒にやるぞ。
今のコイツは、絶対に止めなきゃダメだ!」
「わかってるさソニック。
2人だけじゃない、2つの世界の力で止めてみせる!」
エグゼイドとソニックが拳を突き合わせる。
同時に、再び金色のガシャットに手をかける。
「無駄なことを! カオス・コントロールの前には無力だ!」
ネオメタルソニックが時を止める。
そしてカオス・コントロールの波が拳を突き合わせる2人に触れた時――世界の壁は、崩れた。
- Zone.5 Fist Bump -
[SONIC×EX-AID]
「エグゼイド、貴様何をした!?」
ネオメタルソニックの叫びが響く。
揺らがぬ優位に立っていたはずのその身でも、驚愕せざるを得なかった。
あり得ないはずのものが見えている。
1つの空間に、聖都大学附属病院とグリーンヒルが並び立つ光景。
そして、このグリーンヒルはメタルソニックが再現したものではない。
「お前を倒すために、2つの世界をつなげたんだ!」
「やれやれ、枷を解いたなんて言うヤツがこんなことで驚くのかよ。
ロボスターってのも大したことないんじゃないか?」
「ソニック……貴様、なぜ動ける!?」
「そりゃあ動けるさ。自分を変えることにだけにアタマを回しすぎだぜ」
発動したはずのカオス・コントロールで、エグゼイドもソニックも時間が止まらない。
それどころか完全に余裕を取り戻したソニックを睨みつけながらも、また驚愕する。
ソニックとエグゼイドを取り囲むように、6つの光が現れていた。
自らの体内に取り込み、今もそのままであるはずの無敵の力。
6つの宝石――カオスエメラルド。
「バカな、そのエメラルドもガシャットの力というのか!」
「その通りだァ!!」
ネオメタルソニックに応えるが如く、その声は響いた。
聖都大学附属病院から飛び降りてくる姿は黒いエグゼイド。
ガシャット開発を終え、自らも戦場にやってきた新檀黎斗その人であった。
「君がいくらロボスターを名乗ろうと、ガシャットの開発技術や知識で私を上回ることはできない。
これはドラゴナイトハンターZの技術を応用したのさ。
プロトタイプから拡散されたデータを解体し、吸収して正規品のデータとすることで効率良く転用を可能とする。
そしてカオスエメラルドを使用してのカオス・コントロールは、それ自体がエメラルドのデータの拡散だ。
つまり君がカオス・コントロールを使ったことで、エネルギー源であるカオスエメラルドを丸ごと複製できたのさ。
エメラルドの1つをバグヴァイザーで吸い出せた時、この手が使えると私は確信していた。
君の無効化能力を封じるレジェンドガシャットと、カオス・コントロールに耐えられるムテキのガシャットがあればな!」
言いながら、黎斗が最後のカオスエメラルドを取り出す。
ソニック達を取り囲む6つのエメラルド目掛けて無造作に投げ込まれたそれを、ネオメタルソニックが奪おうと動く。
だが、赤いエメラルドを握ったのはネオメタルソニックでなかった。
「チィ、何者だ! カオス……」
「コントロール!」
カオス・コントロールが同時に発動し、直後に解除される。
さらに放とうとしたカオス・スピアはネオメタルソニック自身の肩を貫いていた。
そんな芸当ができるのは1人しかいない。
カオス・コントロールの使い手である黒いソニック――シャドウ・ザ・ヘッジホッグ。
「僕からコピーしたカオス・コントロールでずいぶん好き勝手しているじゃないか。
エッグマンネガと戦った時の誠実さがウソのようだな」
「シャドウだと! なぜ貴様がここに……!」
「お前がやっていることはブラックアームズと大差ない。
過去も未来も消し去ろうとするなら、僕はお前を許さない。
そしてそれは……僕だけじゃない」
シャドウの背後にあるグリーンヒルから幾つかのシルエットが迫ってくる。
それを認めた直後、ネオメタルソニックは後方へ大きく飛んだ。
同時に足元からバグスターウィルスの柱が沸き立ち、幾つものモータスが放たれる。
2つや3つではない、まるで大地を埋め尽くさんばかりの群れ。
そして逃げるネオメタルソニックを追わんとするソニックとエグゼイドの前に、今度こそ赤いエメラルドが投げ込まれた。
「ここは僕に任せろ。お前達はヤツを倒してこい」
「ああ、ケリを付けてくるさ。Are you ok、エム?」
「オーケー! スーパープレイを見せてやる!」
シャドウとゲンムの見守る前で、ソニックとエグゼイドが腕を交差させる。
そしてソニックと、ソニックの力を得たエグゼイドが同時にブーストを始動させた。
「「ダブルブースト!!」」
1人でのブーストをはるかに超えるスピードで、ソニックとエグゼイドが地を駆ける。
そこはもはやゲームエリアなのか病院前なのか、はたまたグリーンヒルなのかすらわからなかったが、
劣化コピーされたモータスの群れを蹴散らして突き進む2人は確実にメタルソニックを追っていた。
そして残されたのは、2人の黒き戦士。
「……お前か、エッグマンに似ているというのは」
「フッ、たしかに天才という意味では同じか」
「それだけとは思えないがな……ヤツらを蹴散らすぞ」
「望むところだ。贋作の排除がてら、たまには私も楽しむ側に回らせてもらおう」
いくら劣化コピーとはいえ、相手は完全体バグスター。
それが一山いくらという数で押し寄せてきても、シャドウとゲンムに恐れなど全くない。
彼らは揺らがぬ矜持と強さを持った戦士達なのだ。
「砕け散れ、カオス・ブラスト!」
シャドウを中心にして、漆黒の衝撃波が広がる。
それが迫りくる複製モータスをまとめて空中へ巻き上げると、既にジャンプしていたゲンムがキメワザホルダーに手をかけた。
『ガンバ・クリティカルストライク!』
17人のライダーの幻影とともに放たれたゲンムのキックが、宙に浮いたモータスをまとめて撃破していく。
だが、今も沸き立ったままのバグスターウィルスの奔流から新たなモータスが生み出されている。
背後に重なる病院とグリーンヒルの前に立ち塞がる黒き戦士は、すぐさま次の一波へ攻撃を放っていった。
------------------
「なに、ドリルが飛ぶだと!?!」
レーザーターボの身体が宙を舞う。
エッグドラグーンの左腕にある大型ドリルが、突如として腕を離れそのまま発射されたのである。
ドリルのリーチを測ってかわしていただけに回避が遅れる。
直撃はギリギリ避けたが、地面に刺さったドリルが爆発し防御すらできぬまま吹き飛ぶ。
「貴利矢、大丈夫!?」
「なんとかな。だが、スパローが吹っ飛んでいっちまった……!」
爆煙の残る先からポッピーの声が聞こえる。
鈍りながらもまだ動けるのは、ギリギリチャンバラで得た鎧のおかげだった。
だからこそ起き上ると同時に、レーザーターボは拳を地に叩きつけた。
ガシャコンウェポンは変身解除すれば再装備はできるが、今ギリギリチャンバラを解けば次は立ちあがれないかもしれない。
爆発したはずのドリルは、何事もなかったかのように左腕に再生されている。
誘導性能を持って飛ぶとわかった以上、もはや距離が離れても安全とは言えない。
今スパローを再召喚するのは分の賭けに違いなかった。
「だったら……!」
『ガシャコンブレイカー!』
煙の晴れた先、ポッピーの手にガシャコンブレイカーが出現する。
CRで黎斗から使用許可を取っていた、プロトマイティXによるものだ。
だがそれをレーザーターボへ投げ渡そうとするその瞬間、エッグドラグーンのガトリングガンが乱射される。
さらにドリルが再び射出され、ポッピーの目前に突き刺さった。
「ウソでしょ……!?」
今度はポッピーが吹き飛ばされる。
その身が再び爆煙に消え、天高く舞ったガシャコンブレイカーも手に取れない。
だが、歯噛みする貴利矢は信じられないものを見た。
閉じられたゲームエリアの外に、突如として緑豊かな島が現れる。
それはCRでニコがやっていたゲームに映っていた、グリーンヒルという場所だった。
同時に宙を舞って落ちていくはずのガシャコンブレイカーが、突如軌道を変えていく。
それも爆風の偶然で動いたのではない。誰かが握って落下している。
エグゼイドにも見たピンク色のシルエットに握られ、エッグドラグーンの頭部目掛けてガシャコンブレイカーが叩き込まれる。
さらにポッピーもまた何者かがキャッチしていた。
赤毛のハリモグラを思わせる彼は、ポッピーだけでなくガシャコンスパローをも拾い上げ、
レーザーターボの前に立っていた。
「お前がキリヤだな。テイルスから話は聞いてるぜ」
「テイルスから? ってことはアンタ、ソニックの知り合いか」
「俺はナックルズ。ま、アイツのライバルってとこさ。
……で、今エッグマンのメカぶっ壊してるのがエミー」
ナックルズの指さした先からは、ハンマーモードのガシャコンブレイカ―で頭部キャノピーをガンガン叩く音が響いている。
だが、割れない。やむなく飛び降りたシルエットは、ソニックを女の子にしたような姿をしている。
『MISS! MISS!』
「なんなの、このガラス! ぜんぜん割れないわ!」
眉根を歪ませ、エミーが可愛い顔を曇らせる。
同時にレーザーターボが何かに気付いた。
「なるほどね……自分と赤毛の兄ちゃん、ポッピーとお嬢さんがいれば頭数は足りるな」
「どういうこと、キリヤ?」
「メタルソニック、ソニックがこの時空の穴に吸いこまれた時に備えて別の無効化判定仕掛けてたらしいな。
元々ソニックの世界の存在だし、ソニックの能力学習したならそれくらいできてもおかしくないだろ。
おそらくキャノピーが割れなかったのはそのせいさ。
……だが、ヤツもソニックの仲間が2人も来るなんて想定しちゃいない」
「そっか! これなら同時撃破もできるね!」
ポッピーがそう声を上げた直後、いきなりスラスターの噴射音が聞こえた。
エッグドラグーンが急速後退を始めたのである。
シートに座らされている複製モータスにどれだけの判断ができるか定かではないが、
形成不利と見ての行動なのは明らかだった。
「ちょっと、逃げる気!? エッグマンのメカなんか壊してやるんだから!」
動き出す直前、エミーがとっさにジャンプして飛び付く。
鋼鉄の巨体が左右に揺れるのもなんのその、ピンク色のシルエットは胴体部に取り付いていた。
「エミーちゃん!? なんてパワフルな……」
「そのまま掴まらせろ! ポッピー、お前も行け!
バグスターワープで頭部に回って引っ張り上げるんだ!」
「キリヤは?」
「自分は下を潰す。頼むぜ、ミスターナックルズ?」
追って走り出そうとするナックルズの前で、レーザーターボがバイクへと変形する。
一瞬驚きながらも、ナックルズはその意図をすぐ理解した。
「バイクとかそういうのは、シャドウのヤツ向きなんだけどな……!」
「ハンドリングはこっちでやるさ、スピード調整だけ考えればいい」
「そういうシンプルな話なら大歓迎だぜ!」
シートに跨り、ナックルズが力強くアクセルを回す。
直後、猛スピードで走り出したバイクの前に道路が生成される。
だがそれは立体ループや360度回転が設けられた代物。
かつてモータスカオスと勝負を繰り広げた、ステーションスクエアのように。
「こいつはまるでジェットコースターだぜ!」
「へぇ……面白いねぇ。同じ見方するヤツもいるもんだ!」
思わぬ偶然に笑いながら、レーザーターボの車体がいつかのようにループの途中で飛び出す。
エッグドラグーンのシルエットは確実に近づいていた。
-------------
同じ頃、スナイプとニコにも異界の風が吹いていた。
「大我、これじゃキリがないよ!」
「中にいるモータスの野郎さえ潰せれば、こんなヤツ……!」
デスエッグロボを前に思わず歯噛みする。
既に何度撃破したかわからない。数回、十数回、いや数十回なのか。
だがその度に復活され、何事もなかったかのように襲いかかってくる。
鈍足であってもその重量から来るパワーは侮れない。
そして大きく飛び上がったデスエッグロボが、着地と同時に大地を揺るがした時、
ついにニコの体勢が崩れた。
(ヤバッ……!)
視界の先ではスナイプがハンドキャノンを構えているが、それが着弾するよりデスエッグロボの腕が伸びる方が早い。
なんとか立ちあがろうとするが、地面の振動で倒されたことで腕が突き刺さる前に立つことすら難しい。
せめてダメージを軽減しようとできる限りの防御の姿勢を取った時――
不意に、身体が浮いた。
横合いから誰かに胴体を抱えられ、ドリル付きの腕から逃れる。
直後にハンドキャノンの炸裂音がする。つまりスナイプがジェットコンバットを使ったわけではない。
なら一体、誰が?
その疑問は一瞬で氷解した。
見覚えのある二本の尻尾が見えたのだ。
「大丈夫、ニコちゃん?」
「テイルス……テイルスだ!」
「やっと直接会えたね。ここなら、ぼくも手伝える!」
「こっちもいるぜ!」
声に反応して振り返ると、ハンドキャノンの衝撃で動きを止めたデスエッグロボ目掛けて、何かが飛んでいくのが見えた。
それは施設内に置かれた自走砲や軍用バイクだったが、それ以上に色にニコは驚いた。
妖しい緑色の輝き。
その輝きと共に放たれる超能力は、散々見てきた。
「シルバー!」
「あの超能力のオリジナル、か。こいつは愉快なことになってきやがった」
だがスナイプ達の反応と裏腹に、超能力で放たれた物体はデスエッグロボに傷一つ付けていない。
それがどういう意味かを大我は瞬時に理解した。
「ニコ、コイツはお前が使え」
「これって……」
スナイプがホルダーに準備していたガシャットを投げ渡す。
CRで準備中に見ていた、あのバンバンシューティング似のガシャットだ。
だがラベルがよく見えなかったあの時と違い、今のニコには「バンバンタンク」と書かれているのがはっきり読める。
「発射はおせえが、そいつならキメワザなしでもヤツの装甲を抜ける。
中身まで爆破するのには足りねえが、コイツらがいるなら話は別だ」
「大我さん、何か手があるの?」
「ああ。テイルスはニコと、シルバーは俺と組む。
俺がヤツの頭、ニコがヤツの尻の装甲を割ったら、お前達はありったけ中にいるモータスのお人形にぶちかませ」
スナイプの指示と共に、再びデスエッグロボが動き出す。
懲りもせず大ジャンプする下を、今度はニコとテイルスが隙なくくぐり、スナイプとシルバーが後方へ跳んで避ける。
「ニコちゃん、がんばって!」
「ここで腕見せなかったらプロゲーマーの名折れだって!」
『ガシャコンキャノン!』
バンバンタンクのガシャットに登録された両手持ちの大型銃を抱えたニコは、
デスエッグロボの尻へとその照準を油断なく合わせる。
「ニコ・クリティカル・ファイヤァー!!」
己を奮い立たせる叫びと共に、必殺の一撃は放たれた。
---------------
「グッ……何故だ、何故ヤツらにばかり!」
超高速で飛行しながら、メタルソニックが吐き捨てる。
気付けば周囲の空間は、幾つもの世界が入り混じっているものになっていた。
グリーンヒルと聖都大学附属病院だけでなく、これまでの戦いで再現してきたソニックの世界、
そしてエグゼイド達の世界の様々な場所がパッチワークのようにつながれている。
だがそんなことはどうでもよかった。
真にカオス・コントロールの力を獲得し、そして無効化能力を再調整すれば、
あらゆる世界に敵はいなくなるのだ。
エメラルドが1つ足りずとも、それが可能になるまであと3分もないはずだった。
しかしその3分は、迫りくる2つの青い光にとって十分過ぎる時間だった。
「待たせたな、メタル!」
「ソニック……エグゼイド!」
「いよいよラスボスを倒して、ゲームクリア目前ってところだな!」
憎き2人の主人公達目掛けてあらゆる手を繰り出す。
超能力、水流、七色の異星人、漆黒の槍。
これまで幾度となくライダーとソニックを苦しめた数多の力を。
だが彼らは止まらない。止められない。
ダブルブーストの力は、ソニック単体のブーストより速さもパワーもはるかに上だった。
エメラルドから奪ったパワーで超加速したメタルソニックとの距離すら、徐々に縮めてくる。
不完全なカオス・コントロールでは、時を止めるより先に一撃をもらうだろう。
「何故お前達はそうも簡単に新たな力を得られるのだ!
願望機たるバグスターの力で、考え得る最強の能力を手に入れた!
オレを縛る枷もない今、それを覆す力を何故こうも!」
「オレ達が常に前に進んでるからさ!
アタマの中の今に留まってたら、追いつかれて当たり前だろ?」
「ぶつかって、試行錯誤して、そうやって前に進んでいくんだ!
それはゲーマーも、ドクターも……いや、どんな人間だって変わらない!」
即座に言い返されながらも、ネオメタルソニックのアイカメラが不気味に輝く。
2人の回りを取り巻く中にある、7つ目のカオスエメラルド。
それさえ奪い返せば、3分ではなく一瞬の内にカオス・コントロールは完全獲得できる。
シャドウがゲンムと共に離れている今なら、体勢を立て直されることもない。
「そんな戯言も終わりだ!」
「お終いはお前の方だぜ」
だが、赤いエメラルドを奪い取らんとした時、エメラルドが突如動いた。
いや、何者かがエメラルドを守っている。
奪われる前に動かし、また別の方向からソニック達の元へ戻す。
振り返るとそこには、赤と青の交差したライダーが立っていた。
「パラド! 貴様、小賢しい真似を!」
「小賢しくて悪かったな。
あんな退き方させられた借りを、返さないワケいかないだろ?」
エメラルドを奪うために接近し過ぎた深紅の装甲を、ダブルブーストが弾き飛ばす。
渾身の一撃が右腕に直撃し、青いエメラルドが体内からソニック達の元へ引き込まれていく。
怒りに任せてカオスブラストを放とうとした瞬間、今度はまた別の人影が現れた。
ガシャコンスパローの一撃に、それがレーザーターボだと判断したネオメタルソニックだったが、
スパローの鎌の刃は無効化されないまま外装を切り裂く。
さらに直後に現れたレーザーターボに、蹴りではなく殴り飛ばされる。
その手にはソニックのものに似た、白い手袋が嵌められていた。
「効くもんだな。武器なんて趣味じゃないが、キリヤのおかげで助かったぜ」
「こっちもパンチはあんまし得意じゃないんだが、いい使い手がいると違うね。
お互い様ってことだな、マッスルズ」
「ナックルズだ! お前ワザと言ってるだろ!?」
互いの武器を交換したレーザーターボとナックルズの一撃で、またエメラルドを失う。
倒せぬはずの足止めが解かれてしまった。おそらくは2つとも。
彼らがこの空間に出て来た意味を瞬時に理解し、すぐさま距離を離そうとする。
だがネオメタルソニックが動くより先に、またエメラルドを失う。
ポッピーとエミー、スナイプとシルバー、ニコとテイルス。
それぞれが力を貸し合い、ネオメタルソニックに次々と一撃を加えていく。
そして――
『ゼビウス!』
ソニック達とは別の方向から、ゲンムとその背に乗ったシャドウが迫る。
ゲンムの背負ったアーマーはジェットコンバットに似ていたが、その速力はさらに速い。
そのまま衝突しそうなほど接近したゲンムが、バックファイアで視界を潰す。
いくら攻撃を無効化できても、視覚やセンサーに影響がないわけではない。
その一瞬の隙に、シャドウの振りかざしたガシャコンブレイカーが装甲を切り裂いていた。
「終わりだな。カオスエメラルドは全て返してもらった」
その言葉通り、切り裂かれた脚部から最後のエメラルドが漏れ出していく。
同時にソニック達もダブルブーストを止め、目前で立ち止まる。
かつて自らを倒したソニックの仲間達に匹敵する数の敵を前に、取り戻すことなどできようもない。
もはやタイムイーターの力で時間を稼ぐことも無意味に等しい。
あとはメタルソニックを倒し、ゲーム病患者を救うだけ。
「まだ……まだ終わりではない!」
それでもネオメタルソニックは抵抗を続けた。
攻撃されながらも溜めていた、漆黒の衝撃波。
それは公園で放たれた時のような威力のないものだったが、今度はウィルス散布ではなかった。
衝撃波の行く先に、バグスターウィルスの柱が次々と沸き立っていく。
今度はモータスだけではない。
エッグマンのメカ、モータス以外も含めたバグスター、様々な敵が地面から生えてくる。
同時に上空に謎のゲームエリアが現れ、その中へネオメタルソニックの姿が消えていった。
「永夢、こうなったら徹底的にやってやれ!」
手近にいた複製ソルティに蹴りを見舞いながら、貴利矢が叫ぶ。
得意技の回し蹴りはやはり見切られていたが、対策として用意していた流麗さのないドロップキックが突き刺さる。
さらにガシャコンスパローの斬撃とナックルズ仕込みのパンチで複製ソルティは砕け散った。
復活はしない。だが、今度は敵の数が多過ぎる。
このままではネオメタルソニックに猶予を与えてしまう。
「コイツら多分無限湧きだよ! ゲームクリアしないと止まらない!」
「ニコちゃん!」
「ここはぼく達に任せて、早くネオメタルソニックを!」
「テイルス! ……よし、行こうぜ永夢!」
「わかった、すぐに終わらせよう!」
ソニックに促され、永夢が金色のガシャットを起動させる。
『ハイパームテキ! ロックオン・システム!』
「Let's do it!」
マキシマムマイティXと同規格のマキシマムソニックXに、ハイパームテキが接合される。
青いソニックを模したゲーマが金色に輝き、ムテキゲーマーもかくやというエネルギーが放出された。
同時に7つのカオスエメラルドがソニックに取り込まれ、また金色に輝く。
この姿こそエメラルドの力を借りて幾多の戦いを超えた、スーパーソニックの姿だった。
だが、さらにその姿へ新たな装備が重なる。
エグゼイドを思わせるマンガ的な眼の描かれたゴーグル、桃色の肩アーマー、緑色のブーツ。
それはソニックの力を得たエグゼイドと同じく、エグゼイドの力を得たソニックの姿だった。
かつての本の世界と同じ、本来の道筋を外れたからこそ生まれる可能性。
エグゼイドのいる世界でなお駆け抜けたからこそ、この力はある。
『ソニックアンドマイティ・X!』
マイティアクションXのブロックと、ソニックの世界にあるバネとを足場に、
2人の金色の戦士は闇に染まる空へと突き進んでいった。
---------------
「メタルソニックにはまだ何か手があるのか?
カオスエメラルドももうないのに、完全なカオス・コントロールを使えるとは思えないぜ」
空を飛んだまま、エグゼイドが呟く。
ソニックとエグゼイド、2人自身以外に光のないこのゲームエリアではどこから奇襲を受けるかわからない。
だがムテキの力とカオスエメラルド、2つが揃った今となってはカオス・コントロールすら効かないのだ。
ソニックもただの悪あがきかと思ったが、不意にメタルソニックが漏らした言葉を思い出した。
「そういやアイツ、最後にタイムストーンの能力を得るって言ってたな」
「タイムストーン? たしか、時間を渡る力を持つ石……
まさか、過去に戻って歴史を変えるつもりか?」
「いかにも諦めの悪いアイツらしい話だぜ。
過去に戻ってエメラルドをまた奪えば、カオス・コントロールもタイムイーターの力も悠々と取り戻せるって寸法か」
「そんなことはさせないぜ!」
決意を新たにしたその時、闇に埋め尽くされた空間に別の光が見える。
いや、ただ色があっただけと言うべきか。
ソニック達の数倍はある巨躯が、血に染まったような濁りのある赤を放っている。
ところどころに残る深紅の装甲だけが、ネオメタルソニックの変わり果てた姿だと語っていた。
そしてその先には――グリーンヒル。
それもタイムイーター事件の直後、カオスエメラルドが集められたままの場所が見えていた。
「貴様ラ……後少シトイウトコロデ!」
「タイムイーターの事件から、お前の心は過去に戻りっぱなしなのさ。
オレが未来に引っ張り直してやるぜ!」
「ゲーム病に感染した人のためにも、ここで勝負だ!
お前の運命は、オレ達が決める!」
『ガシャコンキースラッシャー!』
過去に戻る時空の穴の前に立ち塞がり、エグゼイドがキースラッシャーを呼び出す。
それが戦いの合図になった。
巨大な身体の全身の各所から、バグスターやエッグマンメカのパーツが現れる。
放たれる攻撃は本物と遜色ない。
だがそれは、都合の良いように見えて不完全な具現化に過ぎない。
エッグドラグーンを再現したと思しきドリルをキースラッシャーで撃墜し、そのままエグゼイドが突撃する。
そして乱射されるカオススピアをかわしながら、左腕を斬り落とす。
直後、ソニックへ向けてキースラッシャーを投げた。
「ソニック、今度はそっちだ!」
「OK! オレの剣捌きは手荒いぜ?」
投げ渡されたキースラッシャーを受け取り、今度はソニックが飛ぶ。
グラファイトの腕と思しきパーツから放たれた紅蓮爆龍剣をスピードとパワーで押し返し、外皮ごと斬る。
その勢いで肩まで飛び上がり、右腕に剣を突き入れる。
未練がましく各所で再生される過去の敵のパーツも、2人の金色の力で次々と破壊されていく。
両腕を無くした巨躯にライダー達やソニックを苦しめた力はない。
それでも自らの勝利のために過去への扉に進まんとする姿は、もはや妄執と呼ぶ他なかった。
「あんなになっても止まらないか。
なら……最後までやるぜ、相棒!」
「これでフィニッシュだ!」
エグゼイドが右手を天に掲げる。
オレンジと青の螺旋が2人を包み、金色の輝きをより一層強くする。
そしてハイパームテキガシャットを2度叩いた。
『ハイパー・クリティカルスパーキング!』
エグゼイドとソニックが突撃する。
同時に、血に濡れた巨躯の中央からメタルソニックが現れる。
本来の彼の持つ、きりもみ回転アタックを繰り出しながら。
正面から激突した3つのシルエットが交差し――回転する1つだけが、動きを止めた。
「オレハ……『ロボスター』ハ……不滅、ダ……」
『ゲームクリア!』
「ガアアアアアアッ!!」
メタルソニックのボディが爆発する。
そして取り込まれていたバグスターウィルスだけが放出され、霧散していった。
バグヴァイザーで吸う者のない今、複製されたモータスが復活することはもうない。
今ここに眠るのは、高性能AIがあるだけの、ただのメタルソニックだった。
「……やったな、エム」
「ああ、これで患者も救われる。カオスエメラルドも取り戻せた」
再び、エグゼイドとソニックが拳を突き合わせる。
ここには過去への扉も、闇に埋め尽くされたゲームエリアもない。
動かなくなったメタルソニックを抱え、ソニックとエグゼイドは元の世界に降り立つ。
全ては終わった。あとは全て元通りにするだけ。
この世界にいられる時間も、もう長くなかった。
- Final Zone. His World -
[EX-AID]
「なんか、あっという間だったな……」
CR備え付けのソファに座り、永夢は誰にともなく呟く。
誰かに聞いてほしいわけではなかったが、そういう時に限って聞いている者はいる。
「言う割にはさして堪えていないようだな、宝生永夢。
ゲーマーにとっては夢のような日々だったろうに」
「ニコちゃんみたいには泣けませんよ。
黎斗さんだって、笑って見送ってたじゃないですか」
「会えなくなるわけではないからな。君とてそれはわかっているのだろう?」
「まぁ……そうですね」
筐体の中の新檀黎斗を見ながら、永夢は昨日の夜のことを思い出していた。
メタルソニックの野望を打ち砕いた直後、待っていたのはソニックやその仲間達との別れだった。
ソニックの仲間達が世界を超えて現れたのは、ネオメタルソニックがタイムイーターの力で開けていた時空の穴に、
マキシマムソニックXガシャットの力で干渉していたためだ。
そしてメタルソニックは力を失い、ガシャットもまた使いっぱなしではいられない。
ガシャットを止めればそれで世界のつながりは断たれる。
ソニックとカオスエメラルドを元の世界に返し、全てを元通りにするにはこの別れは避けられない。
……ニコは派手に泣いていた。
それは別れの悲しさだけでなく、ゲーマーとしての腕でソニックやテイルスから認められた喜びもあった。
そこまで感情的でなくとも、大我や貴利矢、ポッピー、そしてパラドにも別れを惜しむ心はある。
もちろん、それは永夢も例外ではない。
「今はお別れだけど、オレはずっとエム達と一緒にいるぜ。
ま、あのゲームよりオレはもっとクールに駆け抜けてるけどな!」
「ははは……本物のソニックに迫れるように、僕もがんばらないとね」
「できるさ。クールな走りも、バグスターとの戦いもな」
最後に拳を交わし、手を握る。
隣で泣いていたニコもようやくテイルスから離れる。
そして永夢のドライバーからマキシマムソニックXが抜かれると、
グリーンヒルの側に立つソニックの姿が次第に薄くなっていく。
「Hey! 永夢、そしてみんな! 未来を楽しめよ!
駆け抜けていけば、絶対に面白いことが待ってるぜ!」
その言葉を最後に、ソニック達の姿が消える。
残されたのは、見慣れた聖都大学附属病院の風景。
時計の針はモータスカオスに呼び出された時と同じ、21時過ぎを指している。
終わってみれば、1日足らずしか彼らはこの世界にいなかった。
「……そういえばあの時、なんでガシャットが消えたんですか?」
ふと、残された疑問を問う。
ソニック達が消えたのと同時に、マキシマムソニックXのガシャットは消滅してしまったのだ。
黎斗やパラドが「製作は1本だけ」と明言していたので、ポッピー達はガシャットが限界に来たのだと解釈していたが、
永夢はそう思えなかった。
永夢の知る黎斗は、たとえ1本限定であろうと、役目を終えたら自壊してしまう出来を認める人間ではない。
「なんだ、君も彼らに未練があったのか」
「そうじゃないですけど、でも使ったら消滅するガシャットなんて聞いたこともありません」
「教えていないからな。……フッ、安心したまえ。
君が危惧するような一切の事態には繋がらないと約束しよう」
新檀黎斗がニヤリと笑う。
それを見て、永夢は先を聞くのを諦めた。
おそらくガシャットの全部を知っていて上で、かつ全部話す気などないのだろう。
ひたすら問い詰めれば吐くかもしれないが、そんなことをする気にはなれなかった。
黎斗がソニックを嫌っていないということはわかっていたし、何よりそれどころではないのだ。
ソニック達の乱入はあったが、今は仮面ライダークロニクル終結に向けた大詰めの時なのだ。
鏡飛彩を取り戻すためにも、自らの道を駆け抜ける。 ならば他のことを気にかけてはいられない。
不意に、内線電話のコール音が響き渡った。
緊急通報。この戦いの幕開けでもあったコール音。
それでも永夢は、いつものように素早く受話器を取った。
「はい、電脳救命センター。
……はい、ゲーム病の患者ですね。名前は……百瀬和王さんですね。
わかりました。こちらから向かいますので、なるべく安静にして待機してください」
受話器を下ろし、白衣を着直す。
ゲーム病患者を救い、バグスターの行く末を決める。
自分自身の戦いのために、永夢は新たな患者の元へと駆けていった。
「さて……私の助け舟が届くのはいつの日か。楽しみが増えたな」
1人残った新檀黎斗は、ソニックの残したチリドッグを温め直す。
食べ慣れないせいか、辛さの中にしょっぱさを感じた気がした。
[SONIC]
――エグゼイドと共に戦った日から、どれだけの時間が経っただろう。
あれからDr.エッグマンが生還し、高性能AIにより歪んでしまったメタルソニックも元通りに修復された。
そして幻の大陸や古代の寺院、異常気象に見舞われる雪の島など、様々な地でソニック達は冒険を繰り広げた。
だが今、ソニックの目の前に広がる光景は、今までのどんな冒険よりも絶望的なものだった。
「エッグマンのヤツ……何を血迷ったんだ!?」
量産されたデスエッグメカの群れが、都市を蹂躙している。
いや、もはや目前だけではない。
テイルスから聞いた話ではGUNの抵抗もむなしく、既に世界の99%がエッグマンに制圧されているという。
ソニックや仲間達も、頭数ではせいぜい10人かそこらでしかない。
物量では勝てないが、エッグマンがこれほどの攻勢を仕掛けたことがそもそもなかった。
さらには『インフィニット』なる謎の敵により、ソニックも一度敗北してしまったのだ。
なんとかエッグマンの施設から逃げてきた先に広がっていたのが、この惨状だった。
「……いくぜ! Go!」
ソニックは走り出す。
たとえどんなに劣勢でも、諦めなどしない。
黒塗りのデスエッグロボの頭部から放たれたレーザーを次々と避け、
ブーストの加速力で一気に前へ進む。
だが1人で抗うには、あまりに状況が悪すぎた。
乱射される無数のレーザーの中、破壊された岩盤が押し潰すように飛んでくる。
ブーストも永久にかけられるワケではない。
たとえ岩盤に潰されて生きていても、そこにレーザーの集中砲火を受ければ無事では済まない。
万事休すか――
その時、懐かしい音が聞こえた。
かつて最後の切り札から聞こえた声。
『ソニックアンドマイティ・X!』
直後、何者かがソニックを襲う岩盤を下から破壊する。
すぐさま脇道に逸れてレーザーの射線を避け、自分を救った何者かを追う。
その先から聞こえたのは、また懐かしい声。
『ソニック。
これが聞こえているということは、今度は君の世界がネオメタルソニック以上の危機にあるということだ』
「クロト!」
思わずその名を呼ぶが、黎斗の声はそれに構わず続く。
おそらく事前に吹きこんだメッセージなのだろうとソニックは理解した。
『形はどうあれ、君は私達の世界の危機に迷わず手を貸した。
その借りを今こそ返す。私が生み出したゲームキャラ、マイティの形を借りてな!』
道の先には、炎を象ったようなピンク色の戦士がいた。
背丈はソニックとほぼ同じだが、何より印象に残ったのは戯画的な眼の描かれたゴーグルだった。
かつての戦いでソニックが身につけ、そしてエグゼイドが使っていたものと同じ眼。
『そのマイティにはあの時のガシャットのパワー、そしてパラドの協力で得た宝生永夢のデータを可能な限り与えてある。
余計なお世話かもしれないが、これが起動するほどの極端なワンサイドゲームは、ゲームマスターから見ても好ましくない。
窮地を脱する一助になるならマイティも、そしてこちらの世界のプレイヤーも喜ぶだろう』
マイティから差し出された手を、ソニックが握り返す。
言葉こそ発しないが、あの日別れた永夢に似た感触を感じる。
それだけで信用するには十分だった。
『さて、これで本当にお別れだ、ソニック。あとは神の恵みを以て駆け抜けたまえ』
「……言い方は相変わらずだが、今のエッグマンと違うのは助かったぜ」
途切れた音声に、ソニックは1人呟く。
ソニックは黎斗をエッグマンに似ていると思っていたが、
世界を手中に収めんとする今のエッグマンは、もう黎斗に似てはいない。
ならば何かがあったはずだ。
その何かが『インフィニット』かはわからないが、今なら確かめられる。
立ち上がるのが自分1人でないとわかったなら、もう立ち止まる必要はない。
「いくぜ、マイティ!」
ソニックは駆け抜ける。
未曾有の危機にある彼自身の世界を、新たな仲間達と共に。
―― Continue to "Sonic Force" with Mighty avatar……?
[END]
乙でした
これにて終了となります。お目汚し失礼いたしました。
…いやはや、大遅刻になってしまいました。まさかエグゼイド最終回どころかファイナルステージ後とは。
こと後半更新ペースがガタ落ちし、展開もグダった感を出してしまい本当に申し訳ありません。
あと「どちらかというとエグゼイド寄り」と前置きしながらソニック側のネタを一定以上突っ込んでおり、
ソニック側ノータッチだと読みにくくなったのも猛省しております……orz
最初にイメージしたのは実は最終決戦ラストの「ソニックアンドマイティX」の部分ですが、
そこまで至るまでの構成を詰めるのに時間がかかった結果、逆に前半が安定進行で
後半が想像以上に構成甘かったのを調整しまくるハメに……
ですが「コンティニューしてでもクリアする精神で完結」という言葉は翻さず済みました。
これにて完結でございます。
今回も少し本編内小ネタに触れておこうかと。もちろんネタバレなので注意。
・時間軸
エグゼイド側は36話ラスト~37話冒頭。
貴利矢のCR帰還直後にモータスの亡霊の話に入り、事件後に百瀬和王(小姫パパ)がカイデンのウィルスに感染して
37話での流れにつながる形です。
ソニック側は本編がソニックジェネレーションズ終了後~ロストワールドの前、ラストのみソニックフォース冒頭。
ただしこちらはリアル時間だと数年経過するので、エグゼイド世界とは時間の流れが違うと思っていただければ。
・各章タイトル
ソニック側の知識があるとすぐわかりますが、各章タイトルは歴代ソニックシリーズのタイトル曲からお借りしています。
ソニックのボーカル曲はどれもテンション上がるので、執筆中も聞いてました。
いい曲多いのでソニック未プレイでも聞いてみると良いのですよ……!(ダイマ)
ちなみにソニジェネが下敷きなのでジェネ参戦作品から取るか迷いましたが、
内容と齟齬が出やすくなったので結局そこまではしないことに。
・起動するタドルレガシー
今回、エグゼイド側の補完というのも目的としてあって、その第一がタドルレガシー起動の瞬間。
エグゼイド本編では36話で起動できなかったものの、37話冒頭で小姫消滅を含めた脅しを正宗にくらった後、
再び出てきたらパラド戦でなんか起動できてたという形。
小姫について後がなくなった覚悟というにはちょっとあっさり気味に感じ、モータスカオスを敵役に覚醒してもらいました。
結果的にキメワザ判定で状況悪化してるけどね……!(ヒドイ)
ちなみに36話でレガシー起動失敗した際に正宗から一度ガシャットギアデュアルβ返してもらってますが、
その後また回収されたということにしています。
40話で正宗に奪われたガシャットにデュアルβが1つしかない(これは大我の分)ので、
本当に回収されっぱなしの可能性も高いかと。
・もう1つの爆走バイク
結局、最終回でも不明のままだった「レーザーターボ用の爆走バイク」。
貴利矢がゲームオーバー判定で消滅する前、ギリギリまで爆走バイクの挿さったドライバーに触れているので、
貴利矢復活時に副産物的に生成された、と解釈しました。
ただ、それだとバグスター人間化した貴利矢に最適化されるはずはないので、
レーザーターボになるよう再調整した誰かがいるはず。
タドルレガシーも超スーパーヒーロー大戦でのガシャットを小姫復活時に(黒い方の)飛彩が送って生成されたと考え、
スパヒロ版レガシーからTV版レガシーにつながるように同じ人物が調整したと補完。
それが複製モータスの実験に手を出し、モータスカオスに血肉ごと頂かれ……という末路に。合掌。
・未登場ガシャット
密かに「初期10ガシャットを全部出す」というのが裏テーマだったり。
変身用で使っているもの以外でもドラゴナイトハンターZとかは出すの簡単でしたが、
逆にレーザーターボになってから使うのやめちゃったギリギリチャンバラは思い切り捏造することに。
通常レーザーより細身のターボだと腰回りは太くならないだろう、ということで腕と足に寄らせました。
イメージ的にはファイブマンのファイブテクターみたいな感じ。
あと序盤はエグゼイド本編と同時進行で劇場版もまだ公開前だったので、
レーザーターボでのバイク形態が通常レーザーと全く同じと知った時に血の気が引きました……。
10ガシャット以外だとバンバンタンクも半分ほど未登場品です。
スナイプZERO1話冒頭でキメワザに使われてましたが、ガシャコンウェポン対応なのは今のところ捏造です。
・バグスターという名の願望機
バグスターはコンピュータウィルスが大元ですが、最初から本編通りに生命体だったのかは個人的に疑問がありました。
なにせ生体感染するとはいえ電脳上のウィルスなので、「何がしかを模倣する性質を持っていた生命体」だけでなく、
「周囲の情報を具現化する願望機が歪んで命の概念を得た」とも考えられます。
(後者の場合、原因は十中八九パラド誕生にあるはず)
メタルさんがロボットに対する道具扱いに不満を出してるにも関わらず、同じように怒っているパラドと違って
黎斗(生前)や正宗以上に手酷く複製モータスを酷使しているのは、そもそも最初が願望機で命は余計と考えていたせい。
・メタルソニックの暗躍
3DS版のソニックジェネレーションズでは、本編に出もしないのに何故かモダンメタルソニックのフィギュアがあります。
正直謎なのですが、これを逆手に取って「実際には暗躍してたがソニック達は気付かなかった」というフラグにしました。
DS版由来なので、ウィスプ系の能力でレッド・バースト(ジェネとカラーズではDS版限定)を使ったり、
ファイナルカラーブラスターの撃ち合いでもソニックがWii版でメタルはDS版と分けました。
あと、終盤で装甲真っ赤になるのはカオティクスでの「メタルソニック改」を意識した形。
最後の最後でデカくなったのもあっちのメタル改が大型だったため。
・ソニックの技
メタルが悪用した「リングが1枚でもあると死亡判定にならない」はシリーズ共通のお約束。
公園でのモータスカオス最終戦で拘束に使ったワールウィンドは「ソニッククロニクル」出典です。
動作自体はヒーローズでのブルートルネードと同じですが、今回は回るの1人だけなのでこちらを採用しました。
ダブルブーストは最新作「ソニックフォース」から拝借。
そしてファイナルカラーブラスター前に使った2つの走法は、RTAなどで使われる特殊な操作法によるもの。
展開の都合上、DS版ソニジェネをマッハで全クリアし直したニコほどの猛者が使わないはずないので
名を伏せて入れましたが、後になって見るとちょっとやり過ぎだったかもしれません。
…ということで、今回はこれまでになります。
お付き合いいただき本当にありがとうございました。
それでは、また電脳世界の狭間で。
完結乙でしたー!
最後の新作の繋げ方に感動した
ソニックもエグゼイドも好きな俺得SSだった、乙!!
このSSまとめへのコメント
このSSまとめにはまだコメントがありません