本田未央「ブリキの心臓」 (38)

あんまり怖くないホラーもの

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 本田未央がふと目を覚ましたのは、夜中の2時ごろ。

 病室の窓がひとりでに閉じたのだ。

 眠る前は暑くて開けたおいたのだが、
 
 いまは夜更けの冷たい空気を遮断していた。

 

 よく目を凝らすと、窓のそばに奇妙なものが“いた”。

 絵本の中に出てくるような、デフォルメされた鎧の騎士。

 いや、ブリキ男。

 『オズの魔法使い』に出てきたような……。

 未央は不思議と、怖い気持ちはしなかった。

 相手の格好がおかしいということもあるが、

 大好きだった兄のことを思い出したのだ。

 幼い未央のために、よく絵本を読んでくれた。

彼女は身体を起こそうとしたが、まったく動けなかった。

金縛り。よく、幽霊が現れたときにかかるという…。

このブリキ男がそうなのだろうか。

未央は唯一動く瞳で、相手を見つめた。

ブリキ男の、がらんどうの2つの瞳が見つめ返してきた。

それから彼はゆっくりと未央の寝台に近づいていきた。

まさか、心臓を奪われたりして。

先月移植したばかりなのに。 

未央は心の中で舌を出した。

本当に妙だった。

恐怖よりも懐かしい、楽しい、という気持ちがする。

結局ブリキ男は、毛布を未央に

そっとかぶせた後、ふっと姿を消した。

本田病院の院長室に、奇妙な来訪者があった。

白坂小梅。

垂らした金髪で右目を隠した少女。

病的に見えるほどに肌が白く、体型も痩せている。

露わになった右目はくすんだルビーのような色。

どこか儚げで、まるで、死人のような印象を受ける。

松永涼。

鷲色の長髪を、時折くしゃくしゃになるまで

かき回している。

体型は豊満で、むっとする色気があるが、

視線は猛々しく、肉食獣のように近寄りがたくもある。

片割れとは違い、生気に満ち溢れていた。

この2人は除霊師として、院長に呼ばれた。

「そのブリキ男による被害は?」

かみつくような口調で、涼が尋ねた。

先ほどからしゃべるのは、もっぱら彼女だった。

「直接何かされたということはないが…患者たちが怯えていてね。

 年配の方々からは、よそに移りたいという声も多い」

まだ壮年の院長が答えた。

涼はぴくりと眉を動かした。

患者を盾にしているが、結局は自身の懐事情か。

典型的な俗物。

彼女はそんな烙印を、彼の顔に押した。

「こんな場所、心当たりなんぞ聞かないさ。

 さっさとそのブリキ男を“ぶっ殺して”、報酬をもらう」

涼は口を、横に大きく裂いた。

本人は笑っているつもりだったが、

人間が浮かべるものとは思えぬほど、

恐ろしい表情になっていた。


霊がこの世に現れるためのセオリーがある。

それは依り代が必要だということ。

生前大切にしていたもの。

恨みの対象となる人間。またはその逆。

ものであれば、それが破壊された時。霊は即座に消滅する。

一方、人物である場合、対処は飛び抜けて難しくなる。

依り代が破壊できないのは勿論、

霊自体の強さが他の比ではない。

また霊は、死霊と生霊、あるいは付喪神の三種に分けられるが、

依り代の場合と同様で、生霊の強さは脅威的である。

そうなれば、もはや霊を構築する

霊子が朽ちるまで、ひたすら待つしかない。

出たとこ勝負か。

深夜2時、松永涼は病棟の中をぐるぐる歩いていた。

ブリキ男を迎え撃つためだ。

一方白坂小梅は、別の棟を回っている。

彼女の役割は、依り代を探すことである。

涼がちょうど、本田未央の病室の前を歩いた時、

前方20m先に、相手が現れた。

除霊は如何にして行う?

経でも読むか、札でも貼るか。

涼の場合は違う。

彼女は、ブリキ男に向かって駆けた。

そして、自身の拳でぶん殴った。

霊に対して直接的な暴力を行使できる。

それが、涼の特異体質であった。

しかしブリキ男は微動だにしなかった。

硬すぎる。

涼は確信した。

こいつは本田未央に強い執着を持ち、

かつ、生霊であると。

涼は相手の腰をつかんで、ぐいと押した。

今度は相手が転んだ。

からんからんと、空っぽな音を立てた。

外的衝撃に対する強度は高いが、攻撃性は低いようだ。

本当に、心臓のないブリキ男。

涼は、ふと、そんな風に思った。

倒す手段がない以上、彼女の役目は足止めに徹すること。

あとは小梅にまかせるしかない。

だが、その小梅は涼のすぐ近くに来ていた。

ちょうど、ブリキ男を挟んで反対側。

「小梅…依り代が近くにあるのか…」

病院内、それも夜更けであるので、涼は静かに問いかけた。

小梅は本田未央の病室を指差した。

「アタシが食い止めとくから…中を調べろ…!」

涼がブリキ男に馬乗りになって、がっちりと抑えた。

その間に、小梅は病室に入った。

完全な個室。寝台。そこに横たわる未央。

小さな本棚。中には漫画本が数冊。

棚の上には、『オズの魔法使い』の絵本。

小梅は未央を起こさぬよう、そろりと調べた。

物は少ない。しかし、霊の強度が非常に高い。

となれば、対象は人間。つまり、本田未央。

院長の話によれば、生まれた時から病弱で、

学校にはながく通っていなかったという。

誰に愛され、誰に恨まれる?

小梅は院長から、両親のほかには、

未央には血の繋がった肉親はいないと聞いた。

家族…家庭の問題…未央の問題。

その夜は結局、ブリキ男が姿を消すまで、2人で抑えた。

翌日、白坂小梅は院長に、

臓器提供者についての情報を要求した。

「臓器提供は匿名で行われるきまりになっているから、

私にも詳しいことは分からないんだよ」

院長は首を横に振った。

霊子が院長のそばに、濃厚にただよっている。

小梅はそれ目で追いながら、

別の可能性について思索した。

1つはブリキ男が、実は院長の生霊であるということ。

意識の表層は娘のことを心配しているが、

深層心理では、自身の負担となっている未央を疎んでいるのではないか。

だとすれば、ブリキ男が

病室周辺を徘徊し、攻撃的でないことに納得がいく。

傷つけたくない。傷つけない。

この二律背反のせいで、行動が制約されているのだ。


もう1つは、あれが臓器提供者ではなく、

臓器を待っていた人間であったということ。

それならば、未央に執着することに対しては説明がつく。

だが、未央に直接的な危害が加えられて

ないことを鑑みると、この線は薄かった。

臓器提供者、院長。

果たしてどちらがブリキ男なのか。


一方松永涼は、馴染みの探偵の下を訪れていた。

目的は本田未央の身辺に関する調査結果を、

聞きにいくためである。

「“血の繋がった兄弟がいない”というのは本当ですね…でも」

探偵の安斎都は、とある児童擁護施設の情報を提示した。

「本田夫妻は男児を1人、施設から引き取っています。

 未央ちゃんが生まれた後、ほぼすぐに」

涼は眉をひそめた。

除霊を引き受けてから1週間ほど経っているが

その戸籍上の兄とやらは、全く姿を見せない。

生身の姿を表さないし、未央周辺の会話にも一切出てこない。

「数年前家出したことになっていますね」

都は頬杖をつきながら言った。

義理の子どもと、実の子ども。

さらに未央は病気がちで、両親はつきっきり。

彼が家出をした理由は、すぐに思いつく。

「そいつが妹を恨んで、生き霊になる…?」

涼は首をかしげた。

そうだとすれば、行動が迂遠すぎる。

病室の近辺をうろうろするだけで、

直接的な被害が出ていないのが不可解だ。

いずれにせよ、院長が何かを隠していることだけは、

くっきりとした事実であった。

翌日小梅と涼は、未央に声をかけた。

「ブリキ男は、アンタの兄貴か?」

未央は、たぶん、と頷いた。

「仲は?」

「良かった…と私は思ってる。
 
 絵本を読んでくれることもあったし、

 なにかと気が合ったよ。血液型も一緒だし」

「短絡的だな」

 涼は肩をすくめた。 

「…血液型…4種類しかない」

 小梅もそう言ってくすりと笑った。

「そんなことないよ。

 実は血液型は、2000種類以上あるのです!」

未央は胸をどんと叩いて、言った。

「未央ちゃんの血液型はB型のRh-で、かなり珍しいんだよ!

 そんで、お兄ちゃんもおんなじだったんだ!」

小梅と涼は顔を見合わせた。

追って都に調べさせると、

本田未央の兄“らしき”人間が、

先月“不慮の事故”で亡くなり、

彼の心臓が未央に移植されたことが明らかになった。

なお、臓器バンクへのハッキングの結果、

これに関して不正な手続きはなかった。

ブリキ男の正体が、未央の兄である線が濃厚になった。

生身の心臓が依り代ゆえに、

涼はブリキ男を“生霊”だと錯覚した。

本田未央に対して執着があるのも、

義理の兄ということであれば納得がいく。

問題は、除霊をどうやって行うかだった。

いまだに攻撃性は見られていないが、強度がひたすらに高く、

生半可な手段では対処できない。

2人は、院長にいままでの調査結果について話した。

彼は、分かった、とだけ言った。

結局、小梅と涼は契約の3分の1の報酬を貰って、

この件から手を引くことになった。

もう、できることが何もないからだ。

引き際を誤れば、経歴に傷がつく。

本田病院はしばらく幽霊病院として名を馳せるだろう。

2人はそんな風に考えていた。

そして数日後、新聞の訃報欄に、

本田未央の名前を見つけた。

まさかブリキ男に取り殺されたのか。

なんともいえない後味の悪さを覚えて、2人は都に情報を求めた。

『んー…容態が悪化して、開胸手術を行ったみたいですね。 

手を尽くしたようですが…』

容態の悪化。おそらくは臓器の拒否反応。

霊のせいとも、偶然とも取れる。

「…執刀医は…?」

『本田院長になっていますね。

 実の娘だから、自身の手で

 何としても命を救いたかった…という風に“見えます”ね』

 含みのある言い方で、都が言った。

 電話の向こうでは、なんとも

 底意地の悪い笑みを浮かべていることだろう。

 ある少女が、児童擁護施設から引き取られた。

 腎臓にうまれつき障害を持った子だった。

 施設の人間は、表面上でも、内心でも安堵した。

 彼女の治療のために、少なからぬ負担があった。

 引き取り手は、大きな病院の院長であるという。

 施設にとっても、少女にとっても幸運だ。

 皆がそう思った。

その少女は、本田未央と名付けられた。

おしまい


逆だったのか

だれか哀れなアスペにもわかるように教えてくれ

俺もわからんわ
俺もアスペなのかもしれん

すまん俺もアスペ
あとこれいっちゃあおしまいだけどモバマスのキャラじゃなくていいって言う

モバマスキャラである必要はマジでないし、意味がわからないという意味で気持ち悪い

分かんないのが自分だけじゃなくて安心した

>>30はわかってるみたいだな
解説してほしいわww

逆ってより3人目ぽいな

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