【デレマス銀河世紀】双葉杏「ボーン オブ ドラゴン」 (46)

昨日に間に合わなかった。

『17歳の教科書』の二世紀前の出来事。

 他のシリーズを読む必要なし。


第1作 【モバマス時代劇】本田未央「憎悪剣 辻車」
第2作 【モバマス時代劇】木村夏樹「美城剣法帖」_
第3作【モバマス時代劇】一ノ瀬志希「及川藩御家騒動」 
第4作【モバマス時代劇】桐生つかさ「杉のれん」
第5作【モバマス時代劇】ヘレン「エヴァーポップ ネヴァーダイ」
第6作【モバマス時代劇】向井拓海「美城忍法帖」
第7作【モバマス時代劇】依田芳乃「クロスハート」
読み切り 
【デレマス時代劇】速水奏「狂愛剣 鬼蛭」
【デレマス時代劇】市原仁奈「友情剣 下弦の月」
【デレマス時代劇】池袋晶葉「活人剣 我者髑髏」 
【デレマス時代劇】塩見周子「おのろけ豆」
【デレマス時代劇】三村かな子「食い意地将軍」
【デレマス時代劇】二宮飛鳥「阿呆の一生」
【デレマス時代劇】緒方智絵里「三村様の通り道」
【デレマス時代劇】大原みちる「麦餅の母」
【デレマス時代劇】キャシー・グラハム「亜墨利加女」
【デレマス時代劇】メアリー・コクラン「トゥルーレリジョン」
【デレマス時代劇】島村卯月「忍耐剣 櫛風」
【デレマス銀河世紀】安部菜々「17歳の教科書」
【デレマス時代劇】土屋亜子「そろばん侍」
【デレマス近代劇】渋谷凛「Cad Keener Moon 」
【デレマス銀河世紀】双葉杏「ボーン オブ ドラゴン」

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人類が宇宙に進出し、

地球が寝物語の中で語られるようになった頃。

銀河は、大規模な艦隊戦によって国境が引かれていった。

最高の版図を誇るのは、帝政国家『リューザキ』。

その広大さは、観測可能な領域の50%を占める

次点が『Новый советский(新ソビエト連邦)』。

領域の35%。

最も小さいのは経済同盟体の櫻井クラスタ。

さらに、母星が他の2国に

挟みこまれるように位置している。

一見神に見放されているとしか思えない環境だが、

こと経済力に限って言えば、

クラスタはリューザキすら凌いでいた。

15%の中に主要な鉱山惑星や、資源衛星があり、

極め付けは、銀河に存在する企業の

80%がクラスタの関係企業なのである。

この中には無論軍事企業もあり、

リューザキと連邦が戦争になった時には

両国が櫻井製の戦艦を用いていて、

最終的な勝者はクラスタであった、という実話も数多い。

とはいえ、現在は一応のデタント期。

大規模な艦隊戦は“表面上は”行われず、

なにかしら利益の衝突があった際には、

協議か、シミュレーションによる

宇宙戦によって合意がなされた。

ある時、竜骨座矮小銀河内において、

多数の鉱山惑星が確認された。

発見したのは、リューザキの観測船だった。

この惑星群は、まさに名前の通り、

「龍の骨」となるだろう。

乗員達は喜び勇んで、惑星に上陸した。

しかし、資材を搬入したところ、

朽ち果てた宇宙船を発見した。

どうやら、銀河を彷徨った果てに墜落したようだ。

乗員が外装を調べると、

クラスタの関係企業の探索船だった。

一同は、嫌な予感を覚えた。

とはいえ、宇宙船は数世紀も前のもの。

黙っていれば問題ない。

乗員達は何も見なかったことにして、

採掘を行なった。

そして、乗員達に勲章の授与が決定された頃。

不法採掘の抗議が届いた。

どこから情報が漏れたのか、それは誰にもわからない。

だが、クラスタの探索船が

あったことは明らかになった。

結局、鉱山惑星の所有権は、

模擬戦によって決められることとなった。

模擬戦は、互いに1人ずつ司令官を選抜して行う。

過去には大人数で計画されたこともあったが、

スパイやメンバーの買収などが横行したので、

規模が縮小された。


両者はあらかじめ決められた予算内で

艦隊を組織する。

さらに、資金を投じてデータバンクから

優秀な指揮官やパイロットのAIを導入できる。

制限時間は8時間。

指揮艦を落とすか、相手の戦力を6割方削れば即時の勝利となる。

もし時間内に決着がつかなければ、

残存戦力の多寡で勝敗が決まる。

財前時子は、自身の執務室で相手の情報を眺めていた。

紅色にもみえる、光沢のある栗色の髪。

資料に穴があくのでは、

と思わせるほどの刺々しい印象を与える瞳。

顔立ちは整っているが、

近寄りがたい雰囲気を醸し出している。


今年21歳で、階級は中尉。

17歳の頃に士官学校を卒業して少尉であったから、

昇進のペースは少し遅いと言える。

それは時子が無能だからではない。

彼女はむしろ才能に満ち溢れていた。

首席で卒業し、宇宙海賊相手に華々しい勝利を量産。

連邦との小競り合いで、相手の艦隊を

圧倒的な損害比で撤退させたこともある。

高速強襲艦による電撃戦を得意とし、

短時間で相手に致命傷を与える。

あだ名は『血紅の鞭(ブラッドウィップ)』。

嗜虐的な性格と容赦ない攻撃で、

敵艦隊に深刻な出血をさせることから、

その名がついた。

しかし、彼女はその才気と性格ゆえに、

無能な上官に対しては、決して頭を下げない。

命令も無視する。効率が悪いと判断するからだ。

そのせいでいくら功を挙げても、

命令と規律の無視によって、昇進が遅れた。

戦勝祝いの最中、営倉にいたことも少なくない。

今回の模擬戦は、時子にとっては最高の機会である。

彼女は、司令官として選抜された。

事態が事態ゆえ、上層部は好き嫌いに

こだわっていられなかったのだ。

模擬戦に勝利すれば、すくなくとも准将、

運が良ければ中将まで昇進できる。

有名無実の豚どもの、

薄汚い尻を蹴り上げてやることも夢ではない。

時子はいつも以上に神経質になって、

相手について調査を重ねた。

彼女はプライドが高い。

ゆえに、自身のプライドを

満足させるための努力は怠らない。

「法子、双葉杏の性格は分かるかしら」

平時より、1ミクロンほど穏やかな声で、

時子は尋ねた。

相手は椎名法子。

時子の副官で、年齢はまだ13歳。

豊かな赤毛をポニーテールにまとめ、

瞳はくりくりとまあるい。

表情はいつも柔和で、性格は極めて温和。

時子とは対極の性格である。

なぜうまくいっているのか周りはよく噂するが、

逆に法子ほどの器がなければ、時子の副官はつとまらない。

年齢にそぐわない地位にいるのは、

実は、彼女が時子を凌ぐ才覚の持ち主だからである。

時子は士官学校の中等コースで、

三回ほど講義を行なったことがある。

彼女にはどの生徒も間抜け面に見えて、苛々していた。

そして生徒の中で一番間抜けに見えたのが、法子であった。

授業中にこっそりドーナツを食べて叱られているし、

居眠りはしゅっちゅう。

口周りは菓子の滓で、少し汚れていた。

だが、法子は時子がストレスの発散のために

ぶつけた質問に全て正解した。

その中には、中等クラスでは到達していないものも

あったが、法子は自身の直感と解釈で、正答を導き出した。

それが生意気で、時子は模擬戦を申し込んだ。

結果は時子の全勝。

大人気ないと周りから呆れられた。

時子は、その周囲にこそ苛立った。

たしかに彼女は法子の指揮艦を短時間で墜とした。

艦隊の物理的な被害は少ない。

しかし、兵站の側面から言えば、壊滅状態だった。

法子は徹底的に補給船を破壊、補給網を分断した。

戦闘が長引けば、時子の方が音を上げていた。

さらに言えば、これが事実の戦闘であった場合、

戦略的には時子の敗北である。

法子の軍は、母艦を移せばすぐにでも戦闘が行える状態。

一方の時子は、撤退して戦力の立て直しが必要。

だからこそ、彼女は周囲に苛立ったのだ。

大局を見れない無能ども。

そしてその無能どもが、法子の才能を

腐らせるのに我慢がならなかった。

時子は生まれて初めて他者のために尽くした。

丁寧に書状をしたため、

法的機関に不本意ながら頭を下げ、

親族を忍耐強く説得し、

士官学校から法子を引き抜いた。

そのせいで妙な噂が立ったが、

時子は全て無視した。

下等な虫ケラの羽音には、

苛立つことさえ時間とエネルギーの無駄だ。


「戦局を判断できるほどの情報はありませんね〜。

 “人がいやがることを進んでやる”とか」

法子が答えた。

双葉杏は17歳。

階級は准尉相当。

今年士官学校を卒業したばかりだ。

成績は中の上。

それだけ見れば、なぜ選抜されたのかわからない。

実戦経験もないので、どのような戦術を用いるのかも不明。

あるいは、この情報の不明瞭こそが、クラスタの計略か。

「不幸な役回りを押し付けられたのかしらね」

時子は、つまらなそうに資料を弾いた。

クラスタは経済的な成功をおさめているが、

戦略的な勝利は、いまのところ全くない。

『戦う状況にさせないこと』がモットーなのだという。

士官学校も創立から一世紀も経っていない。

教育ノウハウの蓄積が、まったくなされていないのだ。

それでいて、模擬戦を申し込んできたのはクラスタ側。

負けが予想されるとはいえ、

協議に無駄な時間を割くのを嫌ったのだろうか。


「“時は金なり”ということでしょうかね〜」

法子は、かすかに妙な予感を覚えながらも、そう言った。

 模擬戦の会場で時子達は、双葉杏と顔を合わせた。

 身長は139cm。時子どころか、法子よりも低い。

 さらさらとした絹のような金髪を、

 ぼさぼさにして、軍帽で抑え込んでいた。

 だらしなさが皮をかぶっているような表情をしていて、

 5分に一回はあくびが出る。

 悪人には見えないが、生真面目にも到底見えなかった。

 「今日は、お手柔らかに」
 
 言葉では礼儀正しく、時子が言った。

 だがその表情は苛立ちを隠せていなかった。

 この財前時子を相手に、

 こんな奴を差し向けてきたのか、と。

「ん〜、こひらこそ」

 口調が妙だと思ったら、杏は飴を舐め転がしていた。

 人と話している時に。

 時子の右手がゆらりと上に上がるのを、

 法子が抑えた。

 シミュレーションが起動。戦端が開かれる。

 電子の銀河を、深紅の電撃が斬り裂く。

 『血紅の鞭』。

 時子のあだ名と同名の艦隊だ。

「短時間で這いつくばせてやるわ」

 獰猛で、ひきつった笑みを浮かべながら

 時子は言った。

 そして、交戦を開始した数十分後。

時子の艦隊の4割が沈黙した。

「〜〜ッ!!」

 時子は声にならない叫びを上げて、

 コンソールの一部を破壊した。

 自身の艦隊が接触したのは、相手の艦隊ではなかった。

 空間を埋め尽くす、500億を超える砲台。

 杏は戦艦に一切資金を投じず、この砲台軍を配置したのだ。

 しかも一斉に発射されたのが、プラズマ粒子。

 物理的な破壊力が低い代わりに、戦艦の機器や

 レーダーに致命的な障害を与える。

 これによって先陣の艦隊は沈黙。

 続く第二陣も、あまりの高速で移動するあまり、

 停止した艦隊に衝突、大破。

 第三陣は、前線で起こった事態を把握できずに

 宙域に到達し、以下は同じことが繰り返された。

 運用速度の高さが仇となり、対応が遅れてしまった。

杏有能

 時子は奥歯を砕けるのではというほど

 噛み締め、艦隊を退却させた。

 そして遠距離から、星のような数の砲台を攻撃する。

 ちまちまとした、単純作業。

 時子が最も嫌うものだ。

 結局、5時間かけて砲台網を突破した。

 そして、杏の指揮艦を発見した。
 

 それは夜空に融けていくような、

 漆黒の戦闘機であった。

 時子は素早く、模擬戦の要項を思い返した。

 『指揮艦は、指揮官が搭乗するものとする』

 戦艦にしろとは一言も書かれていないし、

 戦闘機が駄目だとも記されていなかった。

機体データは、前川製の『マンチカン』。

 複座式の戦闘機としては非常に小型で、

 武装が乏しい代わりに、運動性能、機動力で他を圧倒する。

 主に偵察などに用いられている現役機だ。

 さらに操縦者は、双葉杏ではなかった。

 『岡崎泰葉』。

 伝説のエースパイロットのAIが、ダウンロードされていた。

 ここで、時子は杏の戦術を悟った。

 そして今度は、コンソールの半分を破壊してしまった。

 結果は杏の勝利。

 タイムリミットまで、超高速で宙域を逃げ続けた。

 最後、時子は砲台を攻撃し、

 戦力を削るように試みたが、

 数があまりにも膨大であったため、間に合わなかった。

「これは…艦隊戦ではありません」

 全壊したコンソールに突っ伏した時子に、

 法子が言った。

「いいえ…私は、負けた。完膚なきまでに」

 時子は、忌々しく思いながらも杏を称賛した。

 敗北を敗北と認めずに喚くのは、彼女の矜持に反する。

 模造のブリッジから出ると、外では非難の嵐だった。

 敗者の時子に対してではない。

 むしろ軍の関係者や、一般の観戦者などは、

 彼女に同情的ですらあった。

 だが、それに喜ぶ時子ではない。

 無能がいくら味方になったところで、敵よりも厄介だからだ。

 時折かけられるエールの声に

 耳を塞ぎならがら、時子達は会場を後にした。

 かくして、竜骨座矮小銀河内の

 領有権はクラスタのものとなった。

 その宙域に駐留する艦隊は、

 『アプリコッツ』と称され、

 その指揮官はいつも昼寝をしているそうである。

おしまい。

ヤン提督かってのwww

>>38
正直意識してた。
あと、『タイタニア』のヒューリックも。

銀河英雄伝説の再アニメ化すこしこわい

特に声優とBGM

あと作画とキャラ改変とデザインの変更と
ストーリの省略とかも

それ以外は不安はない

17歳の教科書の二世紀前ということはこの物語の裏で電脳アイドル化したウサミンの歌に惹かれて惑星ウサミンへと消えていった人たちもいた可能性も…

よくわからんが実戦のセオリーに則って艦隊組んだ時子様に対して、
ゲーム感覚で実戦ではありえない砲台だけで戦った杏ということか
デジタル世代怖い

読み返したら表現吹っ飛んでますねえ

「手を上に上げる」とか「さらさらの〜ぼさぼさにして」とか

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