絵里「チョコレートぎらい」 (39)

季節外れのバレンタインものです

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絵里(私はすべての食べ物のなかでチョコレートが一番好きだといってもかまわないわ)

絵里(でもそんな私にも唯一チョコレートのことが嫌いになる日があるの……)

絵里(それは……)

絵里(そう……!他ならぬあのバレンタインデー!!)

絵里(どこぞの宗教起源の謎記念日!!)

絵里(……どこぞの宗教は言い過ぎね……口が悪かったわ……ごめんなさい、おばあさま)

絵里(とにかくあの謎day!!)

絵里(あの謎dayのせいで私のあの甘くて癒しのチョコレートのことを嫌いになってしまう!!)

絵里(…………)

絵里(きっかけはほんのささいなことの過ぎないの)

絵里(それは私が高校一年生の時よ……)

一年生の教室

絵里(一時間目の授業は……っと)

絵里(……なんか今日はやけにクラスのみんながそわそわしてるわね)

絵里(……それにさっきからチラチラ見られてる気がする……)

絵里(自意識過剰ってやつかしら? なぜか恥ずかしくなってきたわ。嫌ね)

絵里(…………)

絵里(居心地が悪い)

希「えーりちっ」

絵里「希!」

希「なんでそんな泣きそうな顔してるん? 一時間目の宿題やってないから見せてくれへん?」

絵里「……」ハァ

絵里「希は少し不真面目なところが目立つわよ?」

希「えりちが真面目すぎんの! イマドキえりちみたいな真面目なんもめずらしいで?」

絵里「そんな言い草するなら宿題はみせません」

希「ごめんて、えりち~。みせて~」

絵里「……次からはちゃんとやってくるのよ?」

希「やった♪」

絵里「……ねえ、今日なにかあったかしら?」

希「どういうこと?」

絵里「ないのならいいんだけどね。たしかテストとかもなかったはずだし……」

希「強いて言えば今日はバレンタインやね」

絵里「バレンタイン?」

希「お! さっすがえりち! バレンタインも知らん??」

絵里「し、知ってるわよ! 女の子が好意を抱いている男の子へ手作りのチョコレートを渡す日でしょ?」

希「丁寧な説明ありがと。でもえりち的にはチョコレートほしい側やろ?」

絵里「チョコレートくらい自分で買うわよ。女子校だと縁のない話よね」

希「……そうでもないけど……」

絵里「え?」

クラスメイトA「絵里ちゃんっ!」

絵里「なにかしら?」

希「うわさをすればさっそく……」

クラスメイトA「……これを……っ!」バッ

絵里「え? なに……プレゼント……?」

クラスメイトA「それだけだからっ。じゃあっ」タタッ

クラス ザワザワ

希「盛り上がってるね」

絵里「???」

希「やったね、えりち。自分で買わなくてももらえるみたいやで?」

絵里「……チョコレート? バレンタインだから? なんで私がもらえるの?」

絵里「……もしかして私男だと思われてるの……?」

希「えりちはそこらへんドンカンやねぇ」

絵里「…………」ムッ

絵里「なによ。教えてよ」

希「机の中とかもなんか入ってるんやない?」

絵里「えぇ?」ゴソゴソ

絵里「…………」ドッサリ

希「ほんまに入ってるやん! あははは!」

絵里「ちょっとなに? 私バカにされてるの!?」

希「逆やと思うけど」

絵里「逆?」

クラスメイトB「絢瀬さん」

絵里「また?」キッ

クラスメイトB「ひっ…。あ、あのっ、三年生の人が呼んでるよ……」ソソクサッ

希「入り口に立ってるあの人かな? 早く行かないと」

絵里「三年生の人がなんの用かしら……私なんにもしていないと思うんだけど……」

希「またえりちの大好物がもらえると思うで?」クスッ

絵里「なによ。後でちゃんと教えてよ?」

三年生A「急に呼び出したりしてごめんね? すぐ終わるからちょっとこっちにきてくれる?」

絵里「はい……」

絵里(人気のない廊下の隅)

絵里(少し怖い)

三年生A「絵里ちゃんにこれを受け取ってほしいの」サッ

絵里(……キレイで上品な包み……)

三年生A「……絵里ちゃん?」

絵里「すみませんっ、ぼうっとしちゃって。いいんですか? こんな綺麗なものなのに……」

三年生A「絵里ちゃんにあげるために作ったのよ?」

絵里「どうして私なんですか? 申し訳ないんですが私はあなたの顔を覚えてなくて……」

三年生A「あははは! そんなにつらそうにしなくていいのよ? 覚えてなくて当たり前だから」

三年生A「たまたまあなたのことを廊下で見かけて……」

三年生A「とてと綺麗な子だなって」

三年生A「あなたはお友だちと話してるときだった」

三年生A「楽しそうに話す顔や笑顔がまぶしくて……」

絵里「……はあ」

絵里(なんかすごいベタ褒めされるわ……きまずい……)

三年生A「ようするに一目惚れよ」

絵里「え?」ドキッ

絵里(それって異性同士の話なんじゃ……)

三年生A「……私もそんな趣味は元々なかったんだけどね、女子校ってすごいわ」

三年生A「それでも本当に胸を捕まれたのはあなたが初めて」

三年生A「でも残念なことにその相手がうわさの絵里ちゃんだから端から諦めてるわ」

絵里(噂ってなんのことかしら……)

三年生A「でもね。思いきって想いを伝えることにしたの」

三年生A「もう私も卒業しちゃうから」

絵里(……卒業……)

三年生A「だから返事はいらないわ。これを受け取ってくれたらいいの」

絵里「あ、ありがたく頂戴します……」

三年生A「なにかたくなってるのよ、ふふ」

三年生「受け取ってくれてありがとう」

三年生「ずっとあなたのことが透きだったわ」

絵里(…………)

三年生「じゃあね」

絵里(………)ペコッ

絵里(…………)

絵里「好きだった……か……」

絵里「女の子からもらうなんて」

絵里「変なの」




希「おかえり。チョコレートはもらえた?」

絵里「綺麗な包みだから申し訳ないわ」

希「あの三年生はどうやら学校の人気者やったみたいやね」

絵里「人気ってなによ」

希「演劇部のプリンスやん。宝塚を真似てやってる劇が評判で、そこの部長やね」

絵里「それなら聞いたことあるわ。なにかの賞ももらったって」

希「演技もうまくて美人で普段から清楚でモテモテみたいやね。ファンクラブもあったみたいやし」

絵里「あった? 今はもうないみたいな言い方ね」

希「プリンスももう卒業やからね」

絵里「……ああ」

希「えりちが首を縦に振っとけばオトノキビッグカップルの誕生やったのにね。お相手がうわさのえりちやし」

絵里「そのうわさってなによ」

希「えりちもモテモテってこと」

絵里「……女の子同士なんて変じゃない……」




絵里(高校一年生のあの日)

絵里(今なら思う)

絵里(なんで希はチョコレートをくれなかったのだろう)

絵里(二年生の時だって──)

生徒会室

絵里「みんなもうそろってる?」ガラッ

希「めずらしくおそかったね」

絵里「ごめんね」

希「仕方ないよ。どうやら列ができてたみたいやから」

絵里「……お返しはできないって言ったのだけどみんなそれでも構わないって……」

希「受け取ってあげるだけえりちは優しいで?」

絵里「……この学校には物好きが多くて困るわ。いくら男の子がいないからって」

生徒会役員A「絢瀬さんにも友チョコあげるね?」

絵里「げっ。あなたまで?」

希「友チョコ言ってるやん。うちももらったで」

絵里「……友チョコ? そんなものまであるのね」

役員A「どうぞ」

絵里「ありがとう。ごめんなさい、私なんにも準備してなくて……」

役員A「別にいいのよ。簡単に作ったものだから」

役員B「私も作ってきたんです! 絵里先輩にうけとってもらったら自慢になります!」

絵里「自慢?」

役員B「絵里先輩にチョコを渡せるのは選ばれた人だけだから」

希「なんやルールがあるんやね」

トントン

絵里「誰か訪ねてきたわね。はい! どうぞ!」

三年生B「お邪魔します。絵里ちゃんに用があってきました」

絵里「あら、誰かと思えば演劇部のプリンセスの……」

絵里「噂はいろいろきいています。劇も評判で音ノ木坂への貢献度にはすばらしいものがありますね。これからも頑張ってください」

三年生B「ありがとう。絵里ちゃんに話があるからちょっとこっちにきてくれる?」

絵里「ええ。別にかまわないわ」

絵里「ごめんなさい、ちょっと出てくるわね」

希「がんばって~」ニヤニヤ

役員A「これはすごいぞ……まさかあのプリンセスが」

役員B「……///」ドキドキ



絵里(人気のない廊下の隅)

絵里(既視感があると思ったらちょうど一年前に似たようなことがあったわね)

絵里(しかも同じバレンタイン……)

絵里(もしかして、また……)

三年生B「さすがにわかってると思うけど絵里ちゃんにチョコをうけとってほしい」

絵里「……お返しはできないですけど、それでもいいなら喜んで」

絵里(定型文)

絵里(何度この言葉を繰り返しただろう)

絵里(もらうばっかりで気持ちに答えられないのは本当に申し訳無いのだけど)

絵里(それも仕方のない話)

絵里(思えばちょうど一年前の同じ演劇部のプリンスから告白されて初めて知った)

絵里(この学校には同性を愛する物好きが多いのだと)

絵里(それで前から感じていた周りの妙な目線の意味にも気づいて)

絵里(最初はとまどったりもしたけど)

絵里(それも慣れた今は冷静にスルーする態度でいられる)

絵里(告白なんてめったにされなかったし)

絵里(されても断れば儚そうではあってもみんなおとなしく下がってくれる)

絵里(そうしてこの目の前も先輩も……)

三年生B「私は絵里ちゃんのことが好き。どうか付き合ってほしい」

絵里(付き合ってなんて初めて言われた)

絵里「ごめんなさい。私は同性を恋愛対象では見られなくて」

絵里(これで話はおわり……)

三年生B「おねがい! 私と付き合って!」

絵里「え?」

絵里(人の話を聞いてないの?)

三年生B「わかる。絵里ちゃんの言いたいことはわかる。でも付き合いもせずに断るのはやめてほしい」

絵里(……なに……)

三年生B「私なら絵里ちゃんを楽しませる自信があるの! だからお願い!」

絵里(……この人はなにを言ってるの……)

三年生B「私とあなたならきっとお似合いのカップルになれるわ! 音ノ木……いいえ、日本一のカップルよ!」

絵里(……え? え? どうするの? どうしたらいいの? 私……)

三年生B「ほら」グイッ

絵里「……え?」

チュッ

絵里「…っ!」ゾワッ

絵里「やめて!!」バッ

三年生B「!?」

絵里「本当にやめてください」

絵里「気持ち悪いです」

三年生B「……ごめんなさい」

三年生B「私ちょっとムキになりすぎちゃった」

三年生B「不快な想いをさせちゃってごめんなさい。あなた本当に嫌だったのね」

絵里「…………」

三年生B「でも絵里ちゃんが好きだって私のこの気持ちは本当だから」

三年生B「もうすぐ私が卒業しちゃってもそれだけ覚えておいてくれたらうれしいな」

三年生B「じゃあね」スタスタ

絵里「…………」

絵里「本気のチョコだったんだ」

絵里「綺麗な包み」

絵里(私がもらってしまうのがもったいないくらい)

絵里(綺麗なものなのに……)

絵里(こんなものいらない)




絵里(二年生のあの日も希は私にチョコレートをくれなかった……)

絵里(友チョコとかあるんだったらくれてもよかったのに)

絵里(希はチョコレートをくれない)

絵里(そんなこんなでいつの間にか私はバレンタインデーが嫌いになっていた)

絵里(バレンタインデーなんて来なければいいのに)

絵里(チョコレートは私の大好物のはずなのに)

絵里(バレンタインデーのチョコレートは大っ嫌いになっちゃった)

絵里(それもこれも希のせい)

絵里(希がチョコをくれなかったから)

絵里(そうしていよいよ来てしまう)

絵里(三回目のバレンタインデーが──)




絵里「いってきます」

絵里(ついに迎えてしまった)

絵里(三回目のバレンタインデー……)

絵里(こんな日に限って希は用があって先に学校に行ってしまってて)

絵里(私は一人さみしく登校する……)

絵里(…………)ハァ

絵里「どうなっちゃうのよ、いったい……」

穂乃果「どうってなにが?」

絵里「えっ? 穂乃果? どうしてここにいるの?」

穂乃果「えへへ♪ おはよう、絵里ちゃん! そして~」

穂乃果・海未・ことり「ハッピーバレンタイン!!」

絵里「え、ええ? あなたたち……」

ことり「絵里ちゃんに早くチョコを渡したくて待ってたんだ♪」

海未「そのために穂乃果も早起きしてまできたんですよね?」

穂乃果「そうなんだよ! ほめてほめて!」

ことり「うわさのチョコレートよりもきっと美味しい手作りチョコレート」

ことり「うけとってね♪」

絵里(…………)

絵里(私は今日の朝一人で家を出てきて……)

絵里(しかもバレンタインデー)

絵里(とってもさみしかった)

絵里(涙出そうなんだけど)

絵里「」ウルウル

穂乃果「うわっ! 絵里ちゃん泣いてる!? なんで!? 穂乃果なんか悪いことした??」

ことり「ちがうよ、穂乃果ちゃん。ことりたちからのバレンタインチョコが嬉しすぎて泣いてるんだよ」

海未「……かわいそうに。きっと誰からもチョコレートをもらえない人生だったのでしょう」

海未「でももう大丈夫ですよ」

ことり「なんたって絵里ちゃんには私たちがいるもんね♪」


穂乃果「そうだよ!! だから泣かないで! もうひとりじゃないよ?」

絵里「……ありがとう」グスッ

絵里(……そう。忘れてたわ。昔と違って今の私には)

絵里(μ`sがいる)

絵里(まるで奇跡だわ……それは僕たちの奇跡なのよ……)

絵里「あなたたちとっても大好きっ!!」ウルウル

穂乃果「わあっ! 今日の絵里ちゃんなんかヘンだ!!」

ことり「なんか絵里ちゃんのそばにずっといてあげたい気もするけどことりたちこれから他のメンバーにもチョコをあげなくちゃいけないから」

海未「また部室で会いましょう、絵里」



絵里「…………」スタスタスタスタ…

絵里(そうよ。さみしくなんかなかったんだわ。なんたって今の私にはμ`sという素晴らしい仲間がいるんだもの!)

絵里(校門……学校に着くわ)

絵里(……いざ来ると思い出してしまう)

絵里(周囲から感じる目線……私の前に並んだ列……私がフってしまった卒業した演劇部のふたり……)

絵里「…………」ハァ

凛「どうしたにゃ? ため息なんてついて」

絵里「! 今度は凛!」

凛「絵里ちゃん金髪ですぐ見つけられるにゃ!」

真姫「ちょっと凛! 先に走っていかないでよ!」ハァハァ

花陽「……おはよう、絵里ちゃん……」ハァハァ

絵里「お、おはよう。どうしたの? 朝っぱらから?」

凛「どうしたのじゃないにゃ!!」

凛「今日はバレンタインでしょ!!」

絵里「え? もしかして……」

凛・真姫・花陽「ハッピーバレンタイン!!」

絵里「!」

花陽「がんばって三人でつくったんです…っ!」

凛「かよちんに教えてもらいながらがんばったにゃ!」

真姫「べ、別に絵里のためだけに作ったんじゃないからっ!」

絵里(…………)

絵里(……この子たち可愛すぎない??)

絵里(一年生だからってそんなに歳も離れてないんだけど……)

絵里(子どものように輝いてるわっ!)

凛「……絵里ちゃんがずっと黙って凛たちを眺めてるにゃ」

花陽「……わ、私たちのチョコじゃ満足できないのかな…」

真姫「絵里! なんとか言いなさいよ!」

絵里「」ハッ!

絵里「ごめんなさい。あまりにも嬉しすぎて」

凛「……なんか今日の絵里ちゃんヘンにゃ……」

絵里「チョコレートありがとう!! あなたたちも大好きよ!!」

凛「……なんか寒くないかにゃ……?」



絵里(……チョコレートをもらってこんなに嬉しくなったのは初めて!)

絵里(バレンタインデー最高!!)




三年生の教室前

にこ「やっときた」

絵里「……にこ? なんでそんなところにいるのよ?」

にこ「教室に入っちゃうとチョコが渡せないからね」

にこ「あんたの人気っぷりは知ってるし」

絵里「ちょっと待って……にこ、あなた……」

にこ「にこが手作りしてあげたんだからうけとってよね」

絵里「なんてことなの……ハラショー……素晴らしいわ……」

にこ「なんか怖いんだけど」

にこ「ま、まあ喜んでくれて何よりだわ。じゃあ戻るわね。大変だろうけど今日は一日がんばってね」

絵里(頑張れるに決まってるわ……だって私にはかわいいかわいいμ`sのメンバーがいるんですもの!!)

絵里(……それにもしかしたら)

絵里(今年こそ希からもらえるかもしれない……)

絵里(バレンタインチョコを…!)

凄まじいモテっぷり
そりゃロッカーも雪崩起こしますわ




絵里「……はぁ、やっと学校が終わった……」グッタリ

絵里(なんか今年はすさまじかったわ)

絵里(もうここぞとばかりにひっきりなしにチョコを渡された)

絵里(あれは嵐だったわ)

絵里(でもそれもわかる)

絵里(私は今年で卒業してしまうものね……)

絵里(渡せるチャンスは今日が最後だもの)

絵里(みんな必死になって当然だわ)

絵里(……さすがにあの演劇部のプリンセスみたいに強引に来た人はいなかったけど……)

絵里(そして……)

絵里(希はチョコレートをくれなかった)

絵里(なぜ?)

絵里(私たちはμ`sのメンバーなのに……)

絵里(今年は今までとは違うのに……)

絵里(私たちは今年で卒業してしまうのよ……?)

絵里(いつもどおりの希が憎いのはただの逆恨みかしら?)

絵里(いつものように……まるで今までといっしょ……)

絵里(また来年があるかのように……)




学校の廊下

絵里「……生徒会の仕事が長引いてしまったわ。みんな先に練習始めているかしら」スタスタスタ…

絵里(希は生徒会にも顔を出さなかった)

絵里(また用事があるとか言って)

絵里(もしかして練習も休む気なのかしら)

絵里(よりにもよってバレンタインに私をひとりにするなんて)

絵里(いつか仕返ししてやるんだから……)

絵里(なにをしてやろうかしら)



部室

絵里「みんないる?」ガラッ

穂乃果「あ! 絵里ちゃん! 遅いよぉ。みんな絵里ちゃんを待ってたんだからね!」

絵里「え? あ、ありがとう。先に練習してくれててもよかったのに……」

凛「なに言ってるにゃ! 今日はバレンタインって言ったでしょ?」

絵里「え? あぁ……」

絵里「そうだ。今日はチョコレートありがとうね! 私とっても嬉しかったわ!」

穂乃果「……なに言ってるの~? 絵里ちゃんなんか食べきれないくらいもらってるんでしょ~」ニヤニヤ

絵里「μ`sのチョコレートは特別よ?」

穂乃果「さっすが絵里ちゃん!!」

海未「絵里にそう言ってもらえるとはとても光栄です」

真姫「絵里のモテっぷりははっきり言って異常ね」

ことり「海未ちゃんもモテモテだったけどね?」

海未「わ、私のはちがいますっ! 同じ学校に通う良き先輩後輩としてよしみを……」

ことり「なんでそんなに慌ててるの?」

絵里「ところで希を知らない?」

海未「てっきり絵里と一緒にいるものだと」

絵里「なんか用事があるから生徒会には出れないってどこかに行っちゃったのよ」

絵里「練習には来ると思ってたんだけど……」

花陽「…………」

凛「かよちん? さっきからずっと静かだけど大丈夫にゃ?」

花陽「だ、大丈夫……だょ……」

絵里「花陽?」

花陽「…………」

花陽「じ、実は私知ってるの……」

絵里「え? なにを?」

花陽「……希ちゃんが学校が終わって他の生徒とふたりで体育館の方に歩いていくのを見ちゃったの……」

絵里「……は?」

花陽「ご、ごめんなさい! なんとなく言い出しづらくて……」

真姫「つまり希は今この瞬間誰かと会ってるってわけね」

海未「バレンタインチョコをうけとってるのでしょうか……」

ことり「特別に呼び出すってことは……」

穂乃果「愛の告白?」

絵里「」

穂乃果「うわわわ! 絵里ちゃんが凍りついてる!!」

にこ「ちょっと待って! これってもしかして三角関係?」

絵里「な、なんでそうなるのよ!」

にこ「素直になれない絵里と希……そこにつけ入る謎の女生徒……絵里は嫉妬の炎に燃え……これは面白くなってくたにこ!」

絵里「誰が嫉妬の炎に燃えてるのよ!!」

ことり「わぁ~、穂乃果ちゃんの家で読んだ少女漫画の世界みたい~……ステキ~」

絵里「私と希はただの友だちよ!」

真姫「で、絵里はどうするの?」

絵里「どうするって……」

真姫「このまま放っておくの?」

絵里「ほうっておくもなにもないわ。これは希のプライベートな問題だもの」

にこ「なにカッコつけてるのよ。素直に言えばいいでしょ? 『私の希に手を出すやつはこのエリーチカがロシアの冷たい海に沈めてやるっ!』ってね」

凛「かっこいいにゃ!」

絵里「いろいろおかしいわ」

絵里「とにかくそれに関しては私はノータッチ。そんなの希にとっては余計なお世話でしょ?」

にこ「なぁんだ。つまんないにこ」

絵里「楽しくなくて悪かったわね」

穂乃果「じゃあ希ちゃんももうすぐ帰ってくるのかな」

穂乃果「とにかくバレンタインの続きだ!」

絵里「続き?」

海未「チョコレートの渡し合いをしていたのです」

ことり「もう渡し終わったけどね」

一同 シーン

絵里「……え? みんなどうしたの?」

絵里「なんでみんなこっちを見つめてるの?」

凛「バレンタインでしょ?」

絵里「え、ええ。そうね……」

にこ「あんたのチョコを渡しなさいって言ってるのよ!」

絵里「え? チョコ? 用意してないわよ?」

一同「えー!!」

穂乃果「そんなのないよぉ! 絵里ちゃんがどんなチョコをくれるのか楽しみにしてたのにぃ!」

ことり「きっとチョコ好きの絵里ちゃんならおいしいチョコをくれるんだろうなぁってみんなで話してたんだよ?」

凛「ひどいにゃ!」

にこ「あんた本気?」

穂乃果「μ`sは特別だって言ってくれたのに!」

絵里「…………」

絵里(しまったあああ)

絵里(やらかしてしまったわ)

絵里(ちょっと考えてみれば簡単なことだったのに)

絵里(あんまりにもバレンタインを恨みすぎて失念していたわ)

絵里(これじゃ心の冷たい人じゃない……)

絵里(最悪!)

絵里「……ごめんなさい、私……」

にこ「……」ハァ

にこ「用意していないならしょうがないわ」 

にこ「そのかわり明日にでもつくってきてよね?」

絵里「ええ、そうするわ。本当にごめんなさい……」

花陽「……でも、絵里ちゃんにチョコをプレゼントしたときの笑顔とってもうれしかったな……」

ことり「うん! それはことりも思った! こんなに喜んでくれるならがんばって作ったかいがあったねって」

凛「子どもみたいなはしゃぎようでかわいかったにゃ」

海未「そうですね」

穂乃果「絵里ちゃんのあの笑顔とってもうれしかったよ!!」

絵里「みんな」ジーン

絵里「本当にごめんなさい」

絵里「明日きっと持ってくるわ」

希「ごめん、遅れちゃった!」ガラッ

絵里「希!」

希「……あれっ? みんなどうしたん? なんかめっちゃ見てくるやん……」

にこ「……」グイグイ

絵里「……なによ、肘で押さないで……!」ボソッ

絵里「……希?」

希「な、なに? 改まって……」

絵里「どこでなにをしていたの?」

希「え?」

絵里「いや! その……連絡くらいしてくれてもって……心配したから」

希「ああ、ごめんね? ちょっと用があって……」

絵里(隠したっ!?)ガーン

希「なんでみんなやけに静かなん?」

にこ「ところで希はチョコを用意してくれてるの?」

希「チョコ?」

にこ「その感じだとなさそうね」ハァ

にこ「もう、同じ学年として情けないわ」

にこ「こうなったらグリーン会議よ! ふたりともこっちきなさい!」グイッ

絵里「え?ちょっと!」

希「なんやの、いったい」

ガラッ

一同 シーン

凛「グリーン会議ってなんにゃ?」

真姫「μ`s三年生組の会議よ。リボンの色からにこちゃんが名付けたの」

凛「へえ。だっさい名前にゃ」

真姫「そうね」

真姫(かっこいいって思ったことは黙っておこ)

とある空き教室

希「チョコを用意せんかったのはうちが悪かった。明日作ってくるね?」

にこ「……」

絵里「私も。反省してる」

にこ「………」

希「にこっち?」

にこ「あんたたちってチョコをプレゼントしあったことあるの?」

希「へ?」

絵里「ないけど」

にこ「……」ハァ

にこ「あんたたちって想像以上に愚かなのね」

絵里「なによ、その言い方」ムッ

希「にこっちだって胸ちいさいやん!」

にこ「関係ないことは言わない!」

にこ「希はその今日会った子とはどうなの?」

希「………」

希「知ってたんやね」

絵里(……希)

希「その子とはなんにもない。ただずっと片想いしてくれていて……それだけ」

希「ホントよ?」

絵里「…………」

希「まあうちはえりちみたいに選択肢がいっぱいあるわけやないからそんなこと言える身分やないんやけどね」

絵里「なによそれ」

絵里「私はそんな趣味はないからいい迷惑なのに」

希「知ってる」

希「私に告白してきてくれた子は実は一年生の頃からずっとやってん」

絵里「え?」

希「一年生の頃にいきなりチョコをくれて……」

希「うちもえりちとおんなじでそんな趣味はないからって断ってんけど」

希「それでもいいって」

希「それから毎年律儀にくれて」

希「そんな趣味はないんやけどその子のけなげさはとってもかわいくて」

希「ステキやった」

希「だからうちはえりちみたいに物好き呼ばわりはできひんの」

絵里「……なに、まるで私が悪者みたいじゃない」

希「……そんなこと言ってへんよ……?」

絵里「まるで私が同性愛の子たちを変わり者扱いしてるような言い方だったわ」

希「でも」

絵里「?」

希「でもえりちも悪いよ?」

絵里「なによ、なにが悪いのよ」

希「あんなにチョコをたくさんもらってたくせに」

絵里「?」

希「うちには一個もくれへんかったやん!!」

絵里「え?」

希「三年間ずっと隣におったのに!」

希「ぜんぜんくれへんかった!」

絵里「ちょっと、希……」

希「えりちのばかっ!」

希「えりちなんてありふれた悲しみでも感じとけばええねん!!」ダッ

絵里「ちょっと!」

にこ「追いかけないの?」

絵里「……わからないわ、いったん部室に戻りましょ……?」



部室

絵里「……ただいま」

にこ「…………」

凛「希ちゃんがいないにゃ」ボソッ

真姫「どうやらグリーン会議は決裂したようね」

にこ「……絵里、みんなの前だけど説教していいかしら?」

絵里「どういうこと?」

にこ「あんたは恋愛に関してドンカンすぎる!」

凛「にこちゃんが恋愛について教えてるにゃ」

真姫「れんあい塾ね」

にこ「私も経験がないからなんとも言えないけどもっとこうあるでしょ!」

凛「経験不足なせいでふわっふわになってるにゃ」

真姫「乙女式ね」

真姫(にこちゃんかわいい)

似た者同士か
二人ともめんどくさかわいいな

海未「事情はよくわかりませんが希とゆっくり話した方がよいのではないですか?」

絵里「……どこにいるかわからない」

海未「……では連絡をしてみては」

絵里「……今の希が電話にでてくれるとは思わない」

海未「……絵里、あなた……」

ことり「絵里ちゃん!!」

絵里「! ……ことり?」

ことり「怖いのはわかる」

絵里「!」

ことり「希ちゃんに拒絶されたらどうしよう……」

ことり「変なこと言われたらどうしよう……

ことり「言い合いになって取り返しがつかなくなってしまったらどうしよう……」

絵里「…………」

ことり「でも、それでもことりは追いかけた方がいいと思うの…」

ことり「怖くて動けなくてつらい……」

ことり「それでも絵里ちゃんには動いてほしいっ……!」

ことり「だって今日はバレンタインなんだもん……」

ことり「とっても絵里ちゃんと希ちゃんにお似合いのいい日だよ?」

絵里「…………」

絵里「ことり、ごめんね?」

ことり「!?」

絵里「ことりにここまで言わせてしまった私のふがいなさを許してほしい……」

ことり「……ことりは絵里ちゃんと希ちゃん、二人の幸せを祈ってるだけ」

絵里「練習は先に始めてて?」

絵里「私と希は今日休むから」




海未「絵里、行ってしまいましたね。大丈夫でしょうか……」

凛「ああみえて不器用そうにゃ」

真姫「『そう』じゃなくて不器用なんでしょ。だからこんなことになってる」

にこ「三年生組は私以外面倒な子しかいないわねぇ」

一同 シーン

にこ「ちょっと! なんで静かになるのよ!」

ことり「……絵里ちゃんたちはきっと大丈夫」

穂乃果「ことりちゃん?」

花陽「……私もそう思う」

花陽「……普段は怖がりで勇気が出ないときでも」

花陽「今日だけは特別な力が出る」

ことり「バレンタインデーだもんね?」

花陽「うん!」



絵里「はぁ、はぁ、はぁ」タッタッタッ…

絵里(私って本当に愚かだった)

絵里(にこの言う通り)

絵里(バレンタインにどれだけチョコレートをもらってモテようがこんな有り様じゃ意味なんてない)

絵里(たった一人の大切な人を悲しませるようじゃ)

絵里(希がいる場所の見当はついてる)

絵里(きっとあの子のことだから家にいるはず)

絵里(悲しいときあの子は家に引きこもるもの)

絵里(…………)

絵里(本当は最初から気づいてた)

絵里(気づかないふりをしていただけ)

絵里(私からチョコレートを渡さなくてはいけなかったんだわ)

絵里(バレンタインチョコを嫌いになったのも私自身のせいで)

絵里(希のせいなんかじゃない)

絵里(私がバレンタインやバレンタインチョコを嫌いになる筋合いなんてなかったのよ)

絵里(こんなんじゃバレンタインやバレンタインチョコのほうが私のことを嫌いになるわね)

絵里(……もう遅いのかもしれない)

絵里(二年が経ってしまった)

絵里(二年のあいだにいろんなことがかわってしまった)

絵里(それでも私は決して走ることをやめたりしない)

絵里(だから祈りながら走る)

絵里「……希……」

絵里「待ってて……っ!」




ピーンポーン

希「……はい?」ガチャッ

絵里「はぁ、はぁ、はぁ……」

希「え、えりち!? どうしたん? 汗だっくだくやで?」

絵里「……の、のぞみぃ……」

希「アカンアカン…声かっすかすや! 女子高生が出したらアカン声になっとる!」

希「とにかく上がって! まずは休んでから話聞くわ!」



絵里「……ふうっ」

絵里「私希の淹れる紅茶すきよ?」

希「ありがとう。落ち着いたみたいやね」

絵里「ええ。いきなり来といてごめんね」

希「ええって別に」

希「……それで話って、バレンタインのこと……?」

絵里「……ええ……」

希「あのときはひどいこと言ってごめん、でもえりち──」

絵里「ちがうの! 希を非難しに来たんじゃないの!」

希「……?」

絵里「謝りに来たの」

希「……謝るって」

絵里「ごめんなさい。本当は私が希にチョコレートをあげるべきだったのに」

希「あげるべき?」

絵里「ええ。私ずっと希がチョコレートをくれなくて恨んでたの」

希「ちょっと、なにそれ? 初耳なんやけど」

絵里「あはは……バレンタインデーを嫌いになるくらいにね」

絵里「でもいまさら気づいた」

絵里「私がチョコレートをあげるべきだったのよ」

希「えりち」

絵里「だってそうでしょ?」

絵里「バレンタインデーってチョコレートを大切な人に『私にとってあなたは大切な人です』って想いを伝えるために贈る日でしょ?」

絵里「なのに私ったらずっと待っちゃってて……」

絵里「恥ずかしいわ。自分から想いを伝える大切さを知ってるいろんな人をたくさん見てきたのに」

希「えりち、ちょっとかんかえすぎちゃう?」

絵里「え?」

希「チョコレートをあげるべきとか、バレンタインデーはそんな堅苦しいもんやないやろ?」

絵里「え? え?」

希「……それをいうならうちの方こそえりちにチョコレートをあげるべきやったん……」

希「えりちがそこんとこドンカンなんはよく知ってた」

希「だから怖かってん……」

希「うちの想いを伝えてもなんにも感じてくれなかったらとか」

希「えりちに告白して玉砕していった人達みたいになってしまわへんかとか」

希「……怖がりでなんにもできひんかったうちが悪いねん……」グスッ

希「……だから二年も無駄にしてしまった……」シクシク

絵里「もういいのよ。過去なんてどうでもいいわ」ナデナデ

絵里「だって今私の目の前に希がいてくれるもの」

絵里「今私はとっても嬉しい」

絵里「だって私たちおんなじ気持ちだったってことでしょ?」

絵里「……片想いじゃなかった……」

絵里「もうひとりじゃないのよ」

絵里「……私も、希も……」

絵里「だから一緒につくろう?」

希「……え?」

絵里「バレンタインチョコよ」

絵里「だって私たちμ`sのメンバーに攻められるわ」

希「……ふふ、そうやね……」

絵里「そして私たち二人で私たち二人のためのチョコレートをつくりましょう」

希「ふたりで……」

絵里「私は希が好き」

希「……うん……」

絵里「だから一緒にいたいって思うし、チョコレートをくれなかったら恨んだりもする……」

希「……うちも好き……」

希「だからあの子に告白されるときえりちに嫌われたくなくて秘密にしてたん……」

絵里「私もあんまり話したくなかったわね、プリンセスのこととか」

絵里「キスも私には早すぎた」

希「……え?」

絵里「ん?」

希「……キ……ス……?」

絵里「ええ……あっ」

絵里「ち、ちがうの! これは! 相手に無理やり!!」

希「ふふふ、冗談。慌てすぎるとやましいみたいに見えるで?」

絵里「……もうっ」

希「でも隠してたんはえりちが悪いで?」

絵里「それはだから希に嫌われたくなくて……」

希「これからはうちに全部話してな?」

絵里「希もね?」

絵里「でもごめんなさい」

希「?」

絵里「ファーストキスが奪われちゃった……」

希「えりちはお父さんとのキスをファーストキスって呼ぶん?」

希「プリンセスとしたときえりちもしたいって思ったん?」

絵里「ちがうわ」

希「じゃあちがうやん。ファーストキスっていうのは好きな人としたくてやった初めての愛のキスってことやろ?」

絵里「そうね。じゃあ……」

チュッ

希「……ふっ……!?」

絵里「……これがファーストキスかしら……?」

希「……も、もう……///」

絵里「希、ずっと好きよ」




絵里(バレンタインデーはやっぱり最高!!)

おわりです。

お読みいただきありがとうございました。

ハラショーです
のぞえりはやっぱり好きだ

おつおつ
ハッピーエンドで最高だけどえりちが今までフった相手に刺されないか心配

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