【デレマス時代劇】二宮飛鳥「阿呆の一生」 (40)
人情物。
ほんのりカニバ要素あり。
剣士はでてくる。
第1作 【モバマス時代劇】本田未央「憎悪剣 辻車」
第2作 【モバマス時代劇】木村夏樹「美城剣法帖」_
第3作【モバマス時代劇】一ノ瀬志希「及川藩御家騒動」
第4作【モバマス時代劇】桐生つかさ「杉のれん」
第5作【モバマス時代劇】ヘレン「エヴァーポップ ネヴァーダイ」
読み切り
【デレマス時代劇】速水奏「狂愛剣 鬼蛭」
【デレマス時代劇】市原仁奈「友情剣 下弦の月」
【デレマス時代劇】池袋晶葉「活人剣 我者髑髏」
【デレマス時代劇】塩見周子「おのろけ豆」
【デレマス時代劇】三村かな子「食い意地将軍」
【デレマス時代劇】二宮飛鳥「阿呆の一生」
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1496413176
二宮飛鳥は、羅生門の上にすむ怪であった。
もとは人であったものが変化した。
といっても1人ではなく、
水子の霊が集まって形を成していた。
ものを食べるようになる前に死んだからか、
飛鳥の食欲は旺盛だった。
たびたび人を襲っては肉を喰らい、臓腑を啜る。
住民達は飛鳥を、
“門上の悪鬼”と呼んで、ひどく恐れた。
その悪名が広まると、
「僕はアスカ。二宮飛鳥。
ボクはキミの事を知らないけど、
キミはボクを知っているのかい?」
このような台詞を吐いて、
飛鳥はさらに人を襲うようになった。
その精神は捩くれていた。
だが飛鳥は怪であったため、殺されなかった。
高名な剣豪とやらが
やってきたこともあったが、逆に食ってやった。
また、数多の霊が集まっているからか、
供養も祈祷も意味を成さなかった。
飛鳥が大人しくなったのは、都を大飢饉が襲った頃。
毎日夥しい餓死者が出て、
その死体は羅生門の上に捨てられた。
飛鳥は、わざわざ人を襲う必要がなくなった。
日がなごろごろして、
死体が運ばれてくるのを待つ。
気分はまるで殿様である。
いや、もしくは乳飲み子か。
そう自分で思って、飛鳥は苦笑した。
乳の味など、知らなかったから。
退屈しつつも、腹はふくれる毎日を過ごしていると、
ある時、薄幸そうな女がやってきた。
髪の色は、青みがかった黒。目尻がすこし尖っている。
顔立ちは美人だが、
こちらが気後れするような鋭敏さが感じられる。
「やあやあ初めまして。
狭いし散らかっているが、くつろいでくれ給えよ」
満腹でやることもなかった飛鳥は、女に言った。
暇つぶしのつもりだった。
「あなたが門上の悪鬼…」
女は、飛鳥の方をじろじろ見た。
「せっかく会いにきてくれたのに、
こんな格好で申し訳ないね」
飛鳥は肩をすくめた。
飛鳥が身にまとっているのは、
死体からはぎとった襤褸である。
“生まれて”からずっと、それを着ている。
「突っ立ってないでかけなよ。
腐った死体って、
けっこう柔らかくて心地いいんだ」
飛鳥は積み重なった死体の上で跳ねた。
汁っぽい音がして、
死体の口から百足が這い出してきた。
それを見て女は眉をひそめたが、
物怖じせず飛鳥に言った。
「お願いがあるの」
まさか、日々の死体は貢物で、
自分は神だと勘違いされているのか。
飛鳥は苦笑した。
人間達は生きているくせに、目が腐っているのか。
「こんなボクに御利益がありそうに見えるなら、
まあ言ってみたまえよ」
飛鳥はそう皮肉を飛ばした。
まこと、まわりくどい話し方をする怪である。
女は一息すいこんで、願いを言った。
「私を食べてほしいの」
「はあ」
気怠げに飛鳥は返した。今は満腹である。
くわえ、人間の方からどうぞ
食べてくださいましと言われるのは、なんだか興冷めだった。
そこで飛鳥は退屈しのぎに、ある提案をした。
「1日1話、何か話して。
それが100話になったら、
キミを食べてあげる」
二宮飛鳥と和久井留美の関係は、
こうやって始まった。
飛鳥はまず、和久井に
食われたがる理由を尋ねた。
聞いてほしかったのか、
和久井はよく喋った。
結婚を約束した許婚がいて、
身体まで許したのに、捨てられたのだという。
でも自殺すると、本気になっていたと相手に
知られるから、嫌。だから食べて欲しいのだと。
阿呆な女だ。
飛鳥は思った。
食うに困って餓死するものが多いのに、
贅沢なのは格好だけではないのか。
和久井の服装は、
藤色の立派な着物で、裕福な武家の娘だと分かる。
「キミ、いままで苦労したことなかったんだね」
飛鳥ははっきりと伝えた。
和久井は、うぐ、と呻いた。
飛鳥は、和久井から外の世界の話を聞いた。
それによると、
他所にも自分とおなじような怪がいるらしい。
一目会ってみたいと思ったが、それはできなかった。
飛鳥を構築する水子たちは羅生門に憑ついていて、
そこを離れると、形を保っていられなくなる。
2度も死ぬのはごめんだった。
和久井は、飛鳥によくお土産を持ってきてくれた。
酒と菓子。
酒の方はにがくって駄目だったが、
菓子の方は甘くほろほろ溶ける。
飛鳥の口は人肉で脂っこくなっていたから、
こういう感触は新鮮であった。
腹にはたまらないが、舌が喜んだ。
話に疲れたときなどは、
和久井が持ってきた双六で遊んだ。
“遊び”という概念すら知らなかった飛鳥は、
これに夢中になった。
和久井が帰った後も、
次はどうやって勝とうか、などと熱心に考えた。
時々、飛鳥のほうからも話をした。
「親に捨てられた水子の霊があつまって、
二宮飛鳥という人格を形成しているんだ」
飛鳥は、特段悲しげな様子もない。
母の顔は知らない。
知らないから、恨みようも、悲しみようもない。
「それで平気なの」
そう和久井が尋ねても、飛鳥はけろりとして、
「割り算が難しくなると、分母を減らすのが世の習いさ」
などと言った。
飛鳥は、門の周りしか知らぬというのに。
ある日、和久井がいつもと違って、
明るい顔をしてやってきた。
腹に子どもがいる。
だから、ここに来るのはやめるという。
「なんだ、やっぱり相手に本気だったんじゃないか」
そう茶化した。
実際、飛鳥は喜んでいた。
飛鳥“達”は水子であったから。
しかし、いきなり和久井がいなくなると、
門の上が随分広い。
広いのに、息苦しい。
飛鳥は門の下に降りた。
そして、周りをぐるぐるしていると、
水子供養の地蔵を見つけた。
飛鳥を鎮めるために置かれたものだった。
こんなものがあったって、
満足するのは生者だけだ。
腹の足しにもなりゃしない。
飛鳥はそう毒づいて、門の上に戻った。
そうしてしばらく退屈にしていると、
和久井がまた門の上にやってきた。
「やあやあ、せっかく顔を見ないで済むと思っていたのに」
本当は一寸寂しかったが、
飛鳥はそう減らず口を叩いた。
だが、和久井が流産したと聞くと閉口した。
和久井はまた話をしてくれるという。
1000話ぐらいにしておけばよかったな、と飛鳥は思った。
和久井の着る服は、
どんどんぼろぼろになっていった。
「ボクに会いたくてしょうがないからって、
そんな立派な格好で来なくても」
飛鳥はそう言った。
本当に、捩くれた性格である。
和久井によると、家を追い出されたらしい。
だから、土産物は持ってこれなくなるという。
その代わり、と和久井は飛鳥に風鈴をくれた。
風が吹くと、本当に綺麗な音がした。
退屈と死体を友とする生活が、
ほんのすこし和んだ。
そしてとうとう、100の話が終わった。
飛鳥は和久井を食うのが惜しくなっていた。
「いまは満腹だから、明日また来てくれないか」
飛鳥は空腹をこらえながら、そう言った。
しかし和久井は、
「約束よ…約束」と飛鳥を見た。
その眼差しに、飛鳥はたじろいだ。
そして結局、和久井を食べてしまった。
その後、飛鳥は重い腰を下ろした。
脆い人間風情に、何を感傷的になっているのか。
自分は門上の悪鬼。
そう言い聞かせて、飛鳥は眠ろうとした。
しかし息苦しかった。
ひどく、息苦しかった。
部屋がずいぶん小さくなって、
自分の身体をぴったりと覆っているようだった。
堪え切れなくなって、飛鳥は門の下に降りた。
時刻は夜明け前で、風はない。
飛鳥はぼんやりと、上ってくる朝陽を眺めた。
いつもと同じ、ただ明るいだけの、鬱陶しい朝陽だった。
苛立ちながら、門の周りを
ゆっくり歩いていると、
あの地蔵が衣を纏っていた。
擦り切れた藤色の衣だった。
飛鳥はがっと近づいて、それを剥ぎ取った。
自分の体に、
ぴったりと合うように作られていた。
阿呆は。
本当の阿呆は、ボクの方だった。
二宮飛鳥は、衣を抱えながら都を駆けた。
母を呼ぶ赤子のように、泣き叫びながら。
門からぐんぐん離れ、身体が崩れていった。
それでも、飛鳥は走るのをやめなかった。
やがて飛鳥の身体は、形のない風になった。
その風が、町中の風鈴を、ちんちろ、ちんちろ、
寂しげな音で揺らした。
おしまい
乙乙。
切ないなあ…
生まれ変わりがあるのなら、今度は幸せになって欲しい
エレ速に反映されない。
せつない、みじめ。
さきほど反映されていましたよ
深夜に投稿されたものですし遅れることもままあることかと思われます
このSSまとめへのコメント
このSSまとめにはまだコメントがありません