妹と俺との些細な出来事 (1000)

妹スレ
不定期投下
投下頻度少な目(かけもちしているので)
非エロ

それでもよかったらご覧ください

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<ネタは誰?>



兄「ただいま」

兄(また誰もいないのかよ)

兄(何か俺って、四月からの一人暮らしを始めるまでもなく、既に家で一人ぼっ
ち・・・・・・)

兄(ぼっちって何か不吉な単語だな。一人暮らしはまあ既定路線だけど、まさか大学で友
だちができないとかじゃねえだろうな)

兄(ま、まああまり心配するまでもない。中学高校とそれなりに友だちもいたんだしな。
いくら地元から離れた大学といったって友だちくらいはできるはず)

兄「親父とお袋はともかく、高一の妹がこんな時間まで外出とはどういうことだよ」

兄「・・・・・・」

兄「ま、まあ、年頃だしな。しかもあいつは見た目は可愛いし、しかも、幼馴染の話によ
るとイケメンの先輩三人に言い寄られているらしいしな」

兄(つうか、いつのまにか独り言を言ってるじゃねえか、俺。もう、一人暮らしの準備は
十分だな)

兄(どうせ誰もいないんだから自分の欲望を開放してもいいかも)

兄「・・・・・・妹はいねえよな」

兄「うん、いない」

兄「親父もお袋もいない・・・・・・」

兄(誰にも聞かれていないなら、こういう時こそ妹に俺の熱い思いをぶつけねば)

兄「・・・・・・妹」

兄「いや、いくら何でも声が低すぎる。誰もいないんだから今日こそ自分のリビドーを解
放して」

兄「・・・・・・妹、妹! 妹!!」

兄「大好きだよ妹。おまえが欲しい。俺の恋人、いや奥さんになってほしい」

兄「おまえが幼い頃からおまえだけを見てきた。幼馴染の美少女に小六のとき告白された
り、中二のときクラス委員の優等生に迫られたりもした」

兄「高校に入って生徒会長だけど実は腐女子の先輩に、一緒の大学に行こうと口説かれた
こともあった」

兄「でも、俺が好きなのは俺が愛しているのは妹、おまえだけだよ。親友の男に相談した
時にはどん引きされたけど、それでも俺は後悔していない」

兄「おまえが幼いときからずっとおまえだけを見つめてきた。おまえの胸のささやかな成
長も、おまえの髪が伸びるのも」

妹「・・・・・・お兄ちゃん、脳みそ沸いてる?」

兄「いつから帰宅していた」

妹「『大好きだよ妹。おまえが欲しい。俺の恋人、いや奥さんになってほしい』ってとこ
から」

兄「・・・・・・そうか。それは学園祭の演劇のセリフを練習していただけだけどな」

妹「お兄ちゃんの学校の学園祭って去年終っているよね」

兄「それはそうだ。本番で納得がいかない出来だから学祭終了後も一人で練習してた」

妹「去年の学園祭はお兄ちゃん、ビラ配りしかしてないじゃん」

兄「なぜそれを」

妹「あたしとしてはもう少し納得できる釈明を要求したいな」


兄(これは言い訳は無理だな。ここまできたらいっそ)

兄「いや、素直に思ったとおりの言葉を口に出しただけなんだけど」

妹「何々・・・・・・開き直り? あたしはどんな反応をすればいいの?」

兄「何わけのわからんこと言っているんだ。素直に俺の愛情に応えれ・・・・・・」

妹「・・・・・・死ね」

兄「え?」

妹「え、じゃねえだろ」

兄「いや・・・・・・。つうかそもそもおまえ、何で俺の部屋にいるの?」

妹「何でって。声かけてもノックしても返事しなかったじゃん」

兄「だからって、普通兄貴がオナニーしているときにドア開けたりするか」

妹「妹にオナニーとかって言うな!」

兄「だってしてたんだもん」

妹「あのさあ」

兄「おう」

妹「聞きたくもなかったけど、あたしの名前を叫んでいるお兄ちゃんの声が聞こえちゃっ
たんだよ」

兄「うんうん」

妹「うんうんじゃねえよ。まさか、お兄ちゃん。あたしの名前を呼びながら。あ、あたし
のことを想像しながら」

兄「男なら普通だぞ。そんなことも知らないのかおまえは」

妹「・・・・・・何で偉そうなのよ。開き直ってるのかよ。ママとパパに言いつけるよ」

兄「すいません」

妹「それに言うにこと欠いて、ささやかな成長ってどういうこと?」

兄「いやだって・・・・・・。本当にささやかだし、おまえの胸」

妹「死ね。何で知っているのよ。見たこともないくせに」

兄「見たことあるし」

兄(あ、やべ。鬼のような表情)

妹「いつ」

兄「はい?」

妹「いつだって聞いてるの!」

兄「一昨日です。お風呂あがりでタオルを落としたあなたが、ソファに座っている俺の前
で前屈みに」

妹「・・・・・・見たの」

兄「おう。屈むとシャツの隙間から見えちゃうんだぞ。まあ、見えたっていうほうどはな
かったんだけどね。今後は気をつけるがいい」

妹「何で上から目線で忠告とかしてるのよ。結局覗いてるんじゃん」

兄「覗いたというか見せつけられたというか不幸な事故だったというか」

妹「もういい。今夜はパパとママ帰って来ないんだって」

兄「ほう」

妹「夕食作ってあげようと思ったけどやめたから。キッチンにカップラーメンあるからね。
じゃあね」


<切ないコピペ>



(パソコンのディスプレー)



 妹が
 義理だからねとチョコをくれ
 君が義理ならどんなにいいか



兄(名作だ)

兄(単なるコピペに過ぎないとはいえ)

兄(妹に惚れた兄貴の気持ちを繊細かつ的確に表現しているな)

兄(何だか泣けてくるほど切ないな。あいつが義理の妹なら、告って付き合えていたかも
しれないと考えると)

兄(・・・・・・)

兄(待てよ)

兄(・・・・・・冷静に考えると、義理ということは血縁がないということで)

兄(つまり同じ学校の可愛い子と同じ分類になるな)

兄(ということは)

兄(・・・・・・考えてみれば、というか考えるまでもなく)

兄(妹が学校の後輩だとしたら俺なんかがあいつと知り合って仲良くなれるわけなんかね
えじゃんか)

兄(現に、卒業までの三年間、親しくなれた女の子なんかいなかったんだし)

兄(ということは妹が俺の実の妹じゃなけりゃ、あいつは今頃俺なんかと話すらしてくれ
ていなかったということだ)

兄(あいつが妹でよかった。肉親だからこそ俺なんかと話もしてくれるしたまには飯も作
ってくれるわけだし)

兄(そう考えるとこれって全然名作じゃないじゃん。いや、このコピペの一人称の主人公
はきっとリア充なんだろうな。妹が赤の他人であっても十分落せるほどの魅力がある奴な
んだろう)

兄(だからこそ、目の前にいる相手が実の妹だということが苦しくて仕方ないのか。リア
充であるこの兄なら妹が学校の後輩なら簡単に付き合えるスペックなのに、なまじ実の妹
だから手を出せないという)

兄(そう思うとこれは意外と深いコピペだぞ)

妹「妹が 義理だからねとチョコをくれ 君が義理ならどんなにいいか」

兄「そうそう。切ないよな」

妹「そうかな。これ、意味わかんない。妹から本気チョコもらって、それが義理チョコだ
ったらよかったのにって話?」

兄「おまえって本当に読解力ないのな。どう読めばそういう解釈になるんだよ」

妹「妹が本気チョコをくれたって話でしょ。でも、それじゃあ近親相姦の禁断の関係にな
っちゃうから、義理チョコなら悩まなくて済んだのにって兄が悩んでいるって話じゃない
の?」

兄「そういう意味ちゃうわ。どこまで洞察力ないんだよ。だから、おまえは国語の成績が
悪いんだ」

妹「お兄ちゃん、ひどっ」

兄「って・・・・・・いつからいた」

妹「今から」


兄「だからおまえは何でノックするという簡単な習慣が身に付かないんだよ。びっくりし
たじゃねえか」

妹「あたしだって恐る恐るお兄ちゃんの部屋のドアを開けたんだよ」

兄「何で」

妹「またオナニーしてたら気まずいから。ましてあたしの名前呼びながらされてたら気持
ち悪いじゃん」

兄「もうそろそろ俺のオナニーネタの話題はよせ。それにいつもいつもしてるわけじゃな
いぞ」

妹「そうなの? いつもあたしでしてるわけじゃないんだ。じゃあ他には誰でしてるの」

兄「いろんな意味でちげーよ。いつもおまえでしてるわけじゃねえし、そもそもオナニー
ばっかしてるわけじゃねえよ!」

妹「なに逆切れしてるのよ。そもそもあたしでオナニーしていいなんて許可した覚えはな
いんですけど」

兄「ああいうのって許可がいるのか」

妹「何言ってるのよ。当事者の意思を無視して勝手にしていいことじゃないでしょ。普通
に考えたらわかるでしょうが」

兄「いやだって実際におまえにああしたりこうしたりされるわけじゃないのに、妄想する
だけでも規制されるのか」

妹「妄想される方はいい気持ちがしないでしょ。気持ち悪いでしょうが。てか、あたしに
するんじゃなくてあたしにされる妄想してんのかよ」

兄「A cat may look at a king」

妹「・・・・・・はい?」

兄「猫だって王様を見ることができる」

妹「・・・・・・」

兄「・・・・・・」

妹「・・・・・・そう、わかった。ちょっと自分が成績が良くて偏差値も良くて上位私大に合格
したからって、そう来るか。いいよ、せっかくカップラーメンじゃ可哀想だから仲直りし
て夕食用意してあげようと思ったのに」

兄「もちろん、オナニー目撃から切ないコピペの件も含めて、俺が全て悪かった。心より
謝罪する」

妹「またふざけて言うし。どんだけあたしをばかにすれば気が済むのよ。もういい」

兄「あ、ちょっと。本当に悪かったって」

兄(行っちゃった)

兄(結局今日の夕飯はカップラーメンか)

兄(それにしてもあのコピペの意味って、妹の解釈は正しくないよな。どう考えても実の
妹に惚れた兄貴の切ない戯言というのが正しい)

兄(でも何か妹の解釈に毒されてきたぞ。あれって近親相姦を避けたい正しく道徳的な兄
貴の想いの発露なのだろうか)

兄(その場合、妹は兄に本気チョコを渡したってことになるんだけど、そのへんあいつは
わかって言ってたのかな)

兄(・・・・・・)

兄(腹減った)


<嫉妬するわけないじゃん!>




女「よう兄」

兄「おはよ」

女「何で朝からそんなにげっそりした顔してるのよ。晴れて第一志望に合格してさ。あと
は卒業式を待つだけの幸せなモラトリアムの時間なのに」

兄「おまえこそ発言に棘がある。モラトリアムって言うなよ。生々しい」

女「だってそうじゃん? 普通なら今は進路も決まって惰性で卒業式の予行練習しに登校
しているだけだから、身も心も軽いでしょ?」

兄「それはまあ。でも浪人決定したやつとか第一志望を逃したやつ以外はみんなそういう
心境なんじゃね」

女「それが甘いね。むしろ、今は戦々恐々として不安に苛まれていなければおかしいでし
ょ」

兄「何でだよ。長かった受験生活が成功に終了したんだぞ。どう考えたって明るい未来し
か浮かんでこないじゃんか」

女「あんたさあ、目前に迫った大学生活をどう考えてる?」

兄「どうって・・・・・・。そりゃ、前から行きたかった大学だし、夢も希望もあるけど」

女「うふふ」

兄「うふふじゃねえよ。何が言いたいんだよ」

女「夢と希望かあ。そうだよね、それが普通だよね」

兄「おまえだって志望校に合格したんだろ? 嬉しくねえのかよ」

女「合格した時は嬉しかったよ。でも、その後に不安が豪雨前に暗雲に覆われる空のよう
にあたしの心を灰色に塗り潰したね」

兄「おまえ、修辞語下手だな」

女「想像してみてみ? 希望して入学した大学。憧れていたキャンパスライフ。でも、眩
しくさざめく新入生たちの間にはあんたの居場所はない。講義でも期待して入ったサーク
ルでもあんたはぼっち。周囲は知り合ってすぐに、さっそく友だちトークを繰り広げてい
るのに、あんたは学食で一緒に食事をする友人すらできない。そんな光景を」

兄「おい、やめろ。・・・・・・やめろ」

女「やはり気づいてはいたのね。ひょっとしてだからあんたは暗い顔してたの」

兄「いや、それは関係ない」

女「何よ。大学でぼっちになるかもしれないのに、それ以上の悩みがあんたにはあると言
うの?」

兄「ま、まあな」

女「相談してみ? あたしだってあんたのこと心配なんだしさ」

兄「・・・・・・いつから?」

女「へ?」

兄「いつから俺のこと好きだったの?」


女「どうしてそうなる」

兄「だって心配なんでしょ? 俺のこと」

女「おまえはな。あたしは兄友と別れてないぞ。なんであんたなんかと浮気しなきゃいけ
ないのよ」

兄「何だ、つまらん」

女「つまらんって、あんたもしかしてあたしのこと好きなの」

兄「何顔を赤くしてるんだよ。そんなわけねえだ、って痛えだろ」

女「あたしは兄友一筋です! つうか親友の彼女に何てこと言うのよ。あんたに好かれて
も迷惑です」

兄「まあ、俺も好きな子いるからさ。おまえに好かれても困るんだけどな」

女「あんたなんかどうでもいいけど、それでもそんなこと言われると腹立つわ」

兄「そう?」

女「誰?」

兄「はい?」

女「あんたが好きな子は誰だって聞いてるの」

兄「妹」

女「・・・・・・」

兄「どした?」

女「・・・・・・真面目に答えろよ。ふざけてると殺すぞ。で、あんたが好きな女は」

兄「うちの妹」

女「・・・・・・妹ちゃん?」

兄「うん」

女「マジで言ってるならドン引きだわ~。妹ちゃん可愛そう。実の兄貴に変な目で見られ
て」

兄「あいつのこと好きだってそんなに変かな」

女「変に決まってるでしょうが」

兄「妹が 義理だからねとチョコをくれ 君が義理ならどんなにいいか」

女「バレンタインデーに妹ちゃんからチョコもらったんだ」

兄「・・・・・・そう言われてみればもらってない」

女「義理とか悩む以前の問題だね」

兄「何で俺にそんなに冷たいんだ」

女「だって慰めようがないよ。あんた痛すぎ」

兄「あれか。ひょっとしておまえ、俺に嫉妬してる? 俺がおまえじゃなくて妹が好きな
ことに対して」

女「嫉妬するわけないじゃん!」

兄「やっぱおまえ顔赤いよ」

女「うるさい! 先に行く」

兄「そうですか」


今日はここまで
また投下します

期待


<待ち合わせの正しいマナー>





妹「遅い」

兄「遅いと言われても。何時に来てれば遅くなかったかすらわからんのに」

妹「何でそんな簡単なことがわからないのよ。お兄ちゃんもしかしてバカ?」

兄「それはそうかもしれないが、少なくとも偏差値が痛いおまえに言われる筋合いはな
いと思う」

妹「そう言えばたまにいるよね。成績だけはやたらいいけど、常識とか社会性とかが欠け
ている男子って」

兄「ちょっと待て」

妹「あ、社交性もだ」

兄「・・・・・・」

妹「そういう男の子に限って必ずぼっちなんだよね。何でだろう?」

兄「俺はぼっちじゃないぞ」

妹「休み時間はいつも一人教室の自分の机で読書してない?」

兄「してるけど」

妹「お昼休みは本を机に立てて、その陰にお弁当箱を広げて最速十分くらいで昼食を終ら
せてない?」

兄「まあ、昼飯ごときに時間をかけるなんて意味ないからな」

妹「極端なときには一日誰とも会話がなかったりしない? 先生は別として」

兄「いや、待て。さすがにそこまでは」

妹「お兄ちゃんかわいそう」

兄「だから待て。聞いてもいない待ち合わせに勝手に遅れたことで、何で最愛の妹からそ
んなひどいことを言われにゃならんのだ」

妹「最愛とか気持ち悪い言うな」

兄「・・・・・・いったい何時に来てれば遅刻認定されずにすんだんだ?」

妹「あたしがお兄ちゃんの学校の校門前に到着する三十分前に決まってるでしょ」

兄「はい?」


兄「そもそもおまえが何で校門前で俺を待っているのかすら理解できていないんだけど」

妹「嬉しい?」

兄「まあ、そりゃ」

妹「そ、そう。あたしが突然お兄ちゃんを迎えに来て本気で嬉しがってるんだ」

兄「まあそりゃあ最愛」

妹「だから気持ち悪いって」

兄「・・・・・・」

妹「まあ、いきなり来たのはあたしだから、今日だけは特別にあたしを三十分以上待たせ
たお兄ちゃんを許してあげるよ」

兄「事前に断りもせず、勝手に迎えに来て勝手に待たされたと怒っているおまえに、何で
そんなに上から目線で許してもらわなきゃいかんのか、正直理解できていないんだけど」

妹「だってあたしが迎えに来てお兄ちゃん嬉しいんでしょ?」

兄「おう」

妹「じゃあ仕方ないじゃん。こういうのは好きになった方が負けなんだよ」

兄「・・・・・・さいあ」

妹「最愛って言うな。周りの人が聞いているでしょ」

兄「それでいったい何しに来たの?」

妹「女さんからメールもらったからさ」

兄「あいつから?」

妹「うん」

兄「何だって」

妹「大学でぼっちになるんじゃないかってガクブルしている兄貴を慰めてやってね」

兄「・・・・・・」

妹「あとお兄ちゃんは絶対に手の届かない女の子に片思いしているから、そんな兄貴を元
気づけてやってね」

兄「・・・・・・」

妹「だって。だからとりあえずお兄ちゃんを慰めようと思って部活休んで迎えに来た」

兄「うん。いろいろ突っ込みたいがとりあえずここにいると目立つから、家に帰ろうか」

妹「そうだね。帰ろ」


<綺麗な女の子たち>




妹「さっきから何きょろきょろしているの」

兄「いや。人が大勢いるなあって思って」

妹「都心のターミナル駅なんだから人が多くたって不思議じゃないでしょ」

兄「まあ、そうなんだけど」

妹「本当にさっきから何見てるのよ」

兄「だから別に」

妹「そう? 今日もお母さんたちいないから駅前のスーパーで買物して行こ」

兄「・・・・・・」

妹「お兄ちゃん聞いてる?」

妹「・・・・・・」

妹「女子大生かな?」

兄「いや、もっと年上だろ。それにあの服装は大学生というよりむしろOLだな」

妹「やっぱり綺麗な女の人を見つけてはガン見してたか」

兄「まあ、目の保養になるからな」

妹「・・・・・・何でよ」

兄「何が」

妹「せっかくあたしがお兄ちゃんを慰めようとして一緒にいてあげてるのに」

兄「え?」

妹「・・・・・・何でお兄ちゃんはあたしだけを見てくれないの。そんなにあたしって可愛くな
い?」

兄「おまえちょっといつもとキャラ変わりすぎ」

妹「まあ、どうでもいいって言えばどうでもいいんだけどね。それにしたってくやしいじ
ゃん。周りにいる無関係な女たちの方があたしよりいいんでしょ?」

兄「涙目のセリフなら可愛かったのに、いきなり冷静に言うなよ。萎えるじゃんか」

妹「そんなにさっきの女の人が好みだったの?」

兄「いやまあ、さっきから十人くらいは綺麗な女の人を発見してたけどね」

妹「好みの女を見つけるたびにじろじろと下心丸出しでガン見するなんて、気持ち悪い
よ」

兄「そうじゃないんだなあ、これが」


妹「どう違うの」

兄「男ならみんなそうだろ。可愛い子を見かければじっと見る。電車の中で綺麗なお姉さ
んが隣に座れば、どきどきしてチラ見する。こんなの俺だけじゃないって」

妹「お兄ちゃんさあ、その」

兄「顔を赤くしてどうした」

妹「その、あたしがお兄ちゃんの最愛の人じゃなかったの」

兄「おまえは俺の最愛の女だぞ。おまえ以外に俺がここまで抱きたいと思い詰めた女はい
ないし、もっと言えばこの先の将来を共に手を取り合って進んでいきたいと決めた女はお
まえだけなんだけど」

妹「声でかいって。聞かれちゃうでしょうが。もういい、もういいから。恥かしいからや
めて」

兄「だっておまえが聞いたんじゃんか」

妹「それにしても、そんなにあたしのことがその・・・・・・・た、大切なら、何であたしと一
緒にいるときまで他の女をぼけっと馬鹿面して眺めるのよ」

兄「おまえもたいがい口が悪いな」

妹「いいから答えろ」

兄「・・・・・・ふぅ」

妹「何でこれみよがしにいかにも疲れたっていう風なため息をつくの」

兄「おまえは男性の心理が根本的にわかってない」

妹「どういうこと」

兄「現代アメリカ文学の旗手と言われている作家、アーウィン・ショーが1930年代に
発表した処女作なんだが」

妹「・・・・・・もういい。てか1930年代でも現代って言われるんだ」

兄「まあ聞けって。夏服を着た女たちというタイトルのスケッチ風の短編なんだけどさ。
ある夫婦がニューヨークを散歩しているんだ。奥さんの方は旦那にラブラブで、旦那の方
も奥さんが好き。それでも旦那は路上でいい女がすれ違うたびにその彼女たちをじっと見
つめる。それも一人や二人じゃなく」

妹「ふんふん。それで」

兄「旦那のそんな様子に気がついた奥さんは当然のことながら嫉妬する。あたしが一緒に
いるのに何で旦那は他の女の子に興味を持つのだろう。旦那が一瞬でも目を奪われた女の
子と比べたってあたしは全然負けてないのに、何で旦那はあたしを見ずに知り合いでもな
い女の子を眺めるんだろうってな」

妹「それでそれで」

兄「(珍しく食いついてきたな)それで二人は軽い仲違いをして、奥さんは旦那から歩み
去っていく。そんな奥さんの後姿を、旦那は他の女の子を見ていたのと同じくらい熱心に
興奮して思わずガン見するんだ。何ていい女なんだろう、何て綺麗な脚なんだろうって」

妹「うーん。その心は?」

兄「街中で綺麗な女を目で追ってしまうのは浮気でも何でもなく、単なる男の本能だって
ことだな。だからその行為によって奥さんや彼女への愛情や関心が薄れているわけじゃな
い。その証拠に自分の奥さんのことだって熱心に見つめることができたんだからな。もち
ろん、俺の最愛な人であるおまえへの愛情もまたしかり」

妹「だから、最愛って言うな」


妹「それって解釈違くない?」

兄「何でだよ。これ以外にどう解釈の仕様があると言うのか。まさか、旦那は奥さんを嫌
っているとでも言うつもりか。だいたい国語の偏差」

妹「偏差値のことは言うな!」

兄「ああ、はいはい」

妹「そうじゃなくてさ。好きの反対は嫌いじゃないって言うじゃない」

兄「好きの反対は嫌いで正しいだろ」

妹「嫌いっていうのは相手のことを引き摺っている感情だと思うな。だから、好きの反対
は嫌いじゃないよ」

兄「珍しく議論で俺に反論してきたな。よし、いいだろう。その議論受けてやろう」

妹「お兄ちゃん、目が恐い」

兄「そんなことはどうでもいい。結論を言ってもらおうか」

妹「お兄ちゃんって議論に関しては負けず嫌いだよね。相手から論破されると自分の全存
在を否定されたように考えちゃうタイプでしょ。自分への価値を議論にしか見出せてない
んだね」

兄「むしろ俺は議論よりも、そういうおまえの言葉に自分の存在意義を否定された気がす
るぞ」

妹「好きの反対は無関心だよ」

兄「え?」

妹「思い出してみて? お兄ちゃんがこれまで告白してことごとく振られた相手のこと
を」

兄「おまえなあ・・・・・・隠していたのに何で知ってる」

妹「相手の子って、お兄ちゃんを振った後だって別にお兄ちゃんを嫌ったりしなかったで
しょ。むしろ、お兄ちゃんに対してはそのへんの虫けらを眺めるように無関心なうつろな
視線を向けるだけで」

兄「・・・・・・俺さ、確かにおまえをネタにオナニーしたけど、それ以外におまえにひどいこ
となんか何一つしてないのにさ。何でおまえはそんなに俺を傷つけたがるんだ」

妹「ご、ごめん。あたし、そんなにお兄ちゃんが傷つくなんて思わなくて」

兄「振られたことだってトラウマになるくらい、PTSDで精神科に通おうかと思ったく
らい悩んだのに(あ、あの子可愛い。セーラー服がよく似合っているな)」

妹「おいこら」

兄(妹と同じ高校の制服だな。やっぱお嬢様校だけあってどことなく気品がある。何年生
くらいかな)

妹「あたしの方見ろって」


<妹の友だちって何か萌える響きだな>




兄「あ、ああ。見てるし聞いてるぞ」

妹「聞いてたかどうかはわからないけど、見てたのはあそこにいる高校生の女の子でしょ
うが」

兄「まあそうだけど」

妹「まあ、いいや。お兄ちゃんの言うその小説の解釈はそれで決まりだね」

兄「どう決まったんだよ」

妹「奥さんへの愛情は薄れてはいないって言ってたけど、思い切り薄れてんじゃん」

兄「何で? 旦那が奥さんを綺麗だなあってガン見するとこで終ってんだぞ。これは奥さ
んにまだ愛情とか関心がある証拠だろ」

妹「旦那の方は他の女の子と同列な感情で奥さんの後姿とか足を眺めたんでしょ? それ
はもはや無関心だよ。つまり旦那の方にはもう奥さんへの愛情はなかったってことじゃな
い」

兄「うん? 言われて見れば結構説得力がある解釈だな。偏差」

妹「だから偏差値のことは言うなと」

兄「確かにそう言う解釈も成り立つな。奥さんを特別な存在ではなくて他の女たちと同じ
レベルで綺麗だと思う。脚がスラットして綺麗だと考える。つまり他の女たちと同じ位相
で奥さんのことも記号化してしまっているということか。これはまさしくまさしく無関
心」

妹「お兄ちゃんが何言ってるかわからないけど。要するにお兄ちゃんはあたしに対する特
別な愛情をなくして、他の女の子と同じレベルでしか見ていないってことだね」

兄(・・・・・・あの子可愛いな。清楚だし間違いなく処女だろう)

妹「死ね」

兄「言葉遣いを何とかした方がいいぞ。おまえだってせっかくお嬢様の集う女子校に通っ
ているというのに」

?「妹ちゃんだ。妹ちゃーん」

妹「妹友ちゃん」

妹友「わあ、偶然だね」

妹「そうだね。今、帰り? 部活終ったの」

妹友「うん。今日はミーティングだけだったから。それよか今日はお家の事情で部活休ん
だんじゃなかったの」

妹「え。ああ、そうなの」

妹友「じゃあ、何でまだこんなとこにいるの」

妹「そ、それはさ」

兄「こんにちは~。妹の兄です」

妹「げ! 何話しかけてるのよ」

兄「妹の友だちって何か萌える響きだな」

妹「黙れ!」

妹友「あ。こ、こんにちは。妹ちゃんの同級生の妹友です。初めまして」


兄「初めまして。いつも妹がお世話になってます(たまたま見かけて可愛いなあって思っ
てガン見していた子が妹の友だちとは)」

妹友「ああ。妹ちゃんのお兄さんですか。こちらこそ妹ちゃんにはいろいろお世話になっ
てます」

妹「こんなやつにあいさつしなくていいから」

妹友「こんなやつって」

兄「こんなやつって」

妹「いいからお兄ちゃんは黙ってて」

兄「・・・・・・」

妹友「なあんだ。妹ちゃんの用事ってお兄さんと一緒に帰ることだったのかあ」

妹「違うよ」

兄「違うのか」

妹友「違うの?」

妹「違うって」

兄「だって明らかに俺の学校の校門前で俺を待っていて、しかも俺が来るのが遅いって怒
ってけど、なんだ、あれてって待ち合わせじゃなかったのか」

妹「だ か ら あ ん た は 黙 っ て ろ」

妹友「じゃ、じゃあ。家の用事を邪魔したら悪いしあたしはこれで」

兄「ぷ・・・・・・って痛え」

妹「じゃあまた明日学校でね。妹友ちゃん」

妹友「うん。お兄さん失礼します」

兄「またね」

妹「またねって言うな。会ったばっかなのに図々しい」

妹友「ふふ。妹ちゃんもお兄さんもまたね」

兄(可愛い)

妹「あたし、先に帰る」

兄「何で?」

妹「何でも。じゃあね」

兄「おい、待てって。せっかく迎えに来てくれたのに何でだよ。しかも行く先は完全に同
じ家なのに」

兄(早足で駅の構内に行っちゃった)

兄(妹の後ろ姿)

兄(小柄だけどすらっとして華奢な背中のライン)

兄(制服のスカートから覗く細い脚)

兄(胸が切ない。やっぱあいつは今日ガン見したどの女の子よりも可愛いな)

兄(記号化されてなんかいないし。妹の読解力はやっぱりまだまだだな)

兄(期せずして自分の小説の解釈が正しいことを身をもって再体験してしまった。これも
俺の最愛の妹のおかげかな)

兄(妹を追いかけよ)


今日は以上です

また投下させてもらいます

乙です

おつ


<妹の彼氏に嫉妬するなんてありえなくね?>



兄(夕食どころか朝食まで何の用意もなかったな)

兄(そんなに怒ることか? 妹と一緒にいたときに他の女の子を気にしたことは確かだけ
どさ)

兄(だからって俺が妹をガン見したらしたで、気持ち悪いって言って切れるくせに)

兄(それにしても昨日妹が一人で俺を置いて帰っちゃってから、一度もあいつと会話して
ない。というか顔すらあわせていない)

兄(よく考えてみれば、こんな危機的な状況は生まれてから初めてじゃないかな)

兄(何か寂しいな。アーウィン・ショーの短編なんか引き合いに出すべきじゃなかったか
な。たとえキモイと罵倒されようと素直に妹の可愛らしい肢体だけを舐めるようにガン見
すべきだったのかもしれないな)

兄(たかが昨日の夕方から妹に会えないだけで、何でこんなに動揺しているんだろうな、
俺)

兄(あ、あの女の子の後姿、すらっとしてていいな。スカートから覗く脚も白くて細く
て)

兄(・・・・・・あの子とお近づきになりたい。かといって声をかける勇気はないし)

女「何か背後から嫌らしい視線がすると思えば」

兄「え?」

女「やっぱりあんたか。登校時間に女の子の身体を嘗め回すような変態は誰かと思えば」

兄「げ。おまえか」

女「げって何よ」

兄「・・・・・・いや、何でもない(後姿だけ見ればこいつだって美少女なのに。もったいな
い)」

女「もしかして寝不足? すごい情けない顔してるよ」

兄「ほっとけ」

女「前からいつも情けない表情だと思っていたけど、今日は特にひどいね。何かあっ
た?」

兄「だからほっといてくれって」

女「・・・・・・」

兄「何だよ」

女「妹ちゃんと喧嘩でもした?」

兄「何でそう思う」

女「何となく」


兄「別にそんなんじゃねえよ」

女「何かあったんだね。正直にお姉さんに言ってみ?」

兄「誰がお姉さんだ誰が」

女「で? 何があった」

兄「・・・・・・」

女「・・・・・・」

兄「いや。特には何も」

女「何があった?」

兄「・・・・・・いや」



女「なるほどね。あんたって心底からバカだな」

兄「何でそうなる」

女「妹ちゃんはその妹友って子にやきもち焼いてるに決まってるじゃない」

兄「あ?」

女「あ、じゃねえよ」

兄「前にさ、俺が好きな女は妹だといったとき、おまえドン引きしてたじゃないか」

女「うん。正真正銘実の妹が好きな兄貴なんて気持ち悪いわ」

兄「まあ、そういう反応は十分に予測内なのでその程度で動揺したりはしないけどな。そ
れよりも、そんなことでどうして俺の最愛の妹が嫉妬するとかって結論になるのだ」

女「最愛な妹とかキモイんですけど。聞きたい?」

兄「・・・・・・聞きたい、かな」

女「自分でもわかってるんじゃないの? 本当は。それでも禁断の近親相姦の道を目指す
とはさすが筋金入りの妹スキーね」

兄「あんまり誉めないでくれ。照れるから」

女「・・・・・・本当に本気なの?」

兄「何が」

女「何がってさ。あんたマゾ? そんなにあたしに言わせたいの」

兄「俺が妹が好きなこと? 別におまえには隠してないじゃん。昨日カミングアウトだっ
てしたし」

女「カミングアウトとかって真面目な顔で言うな。あんた、口調は軽いくせに話す内容は
重過ぎる」

兄「まあ、そんなにマジに取るな」


女「まあ、いいか。これ以上あんたなんかの悩みに深入りする気なんかない・・・・・・ってあ
れ」

兄「あれって何だよ」

女「何でもない。つうか、何でもない・・・・・・」

兄「おまえ、何言って。って、あれ?」

兄「・・・・・・」

女「・・・・・・」

兄「・・・・・・早く学校行こうぜ」

女「あれは単なる友だちだと思うな。登校中にたまたま出会って一緒に登校してるだけで
しょ」

兄「・・・・・・そうだね」

女「そうだよ。だいたい、そんなに親密そうじゃないでしょ、妹ちゃんとあの彼って」

兄「何か恋人同士みたいだよな。妹のやつあの男にあんなにべったりと」

女「ああ、そうそう。妹ちゃんってまだ子どもだと思うな。きっと男の子に慣れてないか
ら距離感とかがわかってないんだよ」

兄(そうは見えないなあ。寄り添って歩いている妹とあの男は恋人同士としか見えないじ
ゃんか)

女「おい兄、大丈夫?」

兄(うちの妹に限って彼氏とかできるわけがない。そうだ、あれはたまたま登校中に出会
った同級生なんだ)

兄(『よう妹じゃねえか』『あ、同級生君おはよ』『妹っていつも朝早いよな』『そんな
ことないよ。同級生君こそ朝練?』『まあな。学校まで一緒に行こうか』『別にいい
よ』)

兄(まあ、こんなところだろう)

女「あのさ」

兄「・・・・・・うん?」

女「気にするなよ。妹ちゃんみたいな可愛い子がこれまで彼氏がいなかった方が不思議な
んだしさ。いくらドン引きするほどのシスコンのあんただって兄貴なんだから、妹ちゃん
が普通に正常な男女交際をしていた方が安心するでしょ」

兄「いや・・・・・・。それって考えすぎだろ、あれは単なるクラスメートだと思うよ」

女「クラスメート? 妹ちゃんって女子校じゃん」

兄「・・・・・・」

女「何とか言えよ」

兄「ああ」

女「まさか本気で落ち込んでるの?」

兄「ああ・・・・・・。割と本気で」

女「妹の彼氏に嫉妬するなんてありえなくね?」

兄「・・・・・・」

女「・・・・・・本気で妹ちゃんのこと好きなの?」

兄「・・・・・・うん」

女「ちょっと言い過ぎた。ごめん」


<シチュエーション萌えしているだけじゃないんですか?>




兄(卒業式典の予行練習しかなかったから、学校はすぐに終ってしまった)

兄(みんなは卒業を前にして名残惜しいのかなあ。せっかく学校が早く終ったんだからさ
っさと帰えればいいのに)

兄(俺も早く帰ろう・・・・・・って、家に帰って妹に顔を合わせるのはとてもつらい)

兄(かといってこのまま教室に残っていれば、そのうち女が俺のことを心配する振りをし
て俺をからかいに来るかもしれないし)

兄(そんなことないか。あいつは今日は兄友とデートだろうけどな)

兄(何というか卒業前のクラスの生温い馴れ合いの雰囲気に、今はは耐えられそうにな
い)

兄(俺は傷心なのだ)

兄(家に帰るのは嫌だけど、とりあえず学校を出るか)

兄(・・・・・・・)

兄(あのとき、妹が男に寄り添って、男の方を見上げて優しく微笑んでいた)

兄(あの微笑みって俺に悪口を言ってたとき、最後にいつも仲直りするように俺に見せて
くれた笑顔と同じだったような気がする)

兄(・・・・・・頭の中に何にも浮かばねえな。気の聞いたセリフとかこういうときこそ出すべ
きだろう)

兄(自虐ネタというのは本来妹とか女に対してではなく、こういうときこそ自分に対して
言うべきものなのにな)

兄(・・・・・・帰ろうかな)



妹友「こんにちは~。お兄さん」

兄「・・・・・・はい?」

妹友「こんにちは」

兄「はあ」

妹友「こんにちは」

兄「・・・・・・こんにちは」

妹友「昨日は妹ちゃんとのデートを邪魔しちゃってすいませんでした」

兄「はい?」

妹友「今、ちょっと時間あります?」

兄「はい?」

妹友「ちょっとお話しませんか」

兄「・・・・・・わざわざ校門前で待っていてくれたの?」

妹友「はい」

兄「えと~」

妹友「行きましょ。駅までは一緒に帰れますよね」

兄「はあ(何なんだ)」


妹友「・・・・・・」

兄(お話しませんかと誘われたわりには何も話しかけてこない)

兄(女の子に無視されるのは慣れているけど、自分から誘っておいて無視はねえだろ)

兄(だいたい、今は最愛の妹の浮気についてじっくりと考えかつ悩むべきであって、いく
ら可愛くても綺麗でも、そして胸がときめいていたとしても、妹友ちゃんと一緒に帰る気
になんてならねえよ)

妹友「お兄さん」

兄「うん(そこでにこっと微笑むなよ。突然だったから胸がときめいちゃったじゃない
か)

兄(あやうく妹の浮気を責めるどころか自分が浮気してしまうところだった)

妹友「お兄さん?」

兄「何?」

妹友「お兄さん、何か悩んでいるみたい」

兄「べ、別に」

妹友「・・・・・・」

兄「何でそんなこと言うのさ」

妹友「ひょっとしたら、お兄さん目撃しちゃいましたか?」

兄「・・・・・・何を」

妹友「今朝、初めて妹ちゃんと彼氏が一緒に登校したんですけど、お兄さんもしかして」

兄「・・・・・・彼氏?」

妹友「はい。前から彼氏の方から妹ちゃんが好きだって相談されていたんで、妹ちゃんに
彼氏の気持ちを伝えたんですね」

兄「そ、そうだったんだ」

妹友「はい。それで、しばらく妹ちゃんは煮え切らなかったんですけどね。その間、生殺
しみたいで彼氏も気の毒で」

兄「それで?」

妹友「何か急に昨晩妹ちゃんから連絡あって、友だちからなら付き合ってみてもいいよっ
て」

兄「・・・・・・そう」

妹友「それで急きょあたしがセッティングして、二人を待ち合わせさせて今朝、一緒に登
校させたってわけです」

兄「・・・・・・」


妹友「お兄さん?」

兄「うん?」

妹友「余計なことしてごめんなさい」

兄「何で俺に謝るの?」

妹友「お兄さんって妹ちゃんが好きでしょ」

兄「・・・・・・何言って」

妹友「好きでしょ」

兄「ま、まあ」

妹友「それが間違っていると思います」

兄「え?」

妹友「お兄さんが好きなのは妹ちゃん個人じゃなくて、一般的な兄妹関係における妹に萌
えているだけだと思います」

兄「・・・・・・何言ってるのかわからねえんだけど(自分でもよくわからんけど、何かちょっ
とムカッとしたぞ)」

妹友「お兄さんって、妹ちゃん自身が好きなんではなくて自分の妹というステータスを身
にまとった抽象化され、記号化された妹に惹かれてるだけなんじゃないんですか?」

兄「厨ニ病的な内容全開だし、初対面に近い男に言うことかよ、それ」

妹友「お兄さんが好きなのは生身の妹ちゃんじゃない。お兄さんは実の妹に恋するという
ラノベみたいな状況に、そういう現実的じゃないシチュエーションに萌えているだけじゃ
ないんですか?」



 別にそれは妹ちゃん本人じゃなくても『妹』というラベルが貼ってあれば誰でもいいんじゃないですか?

 例えばそれがあたしでも。

 妹友はそう言ってにっこりと笑った。


<お兄ちゃん、何で不機嫌なのよ!>






妹「おかえり」

兄「・・・・・・」

妹「何で返事しないのよ。しかも何か不機嫌そうな顔してるし」

兄「ただいま」

妹「何食べたい?」

兄「何で?」

妹「何でって、今日もパパとママが帰って来ないからさ。いくらあたしでも二晩連続して
お兄ちゃんにカップラーメンを食べさせるほど鬼じゃないし」

兄「・・・・・・」

妹「ねえ。お兄ちゃん、何で不機嫌なのよ」

兄「・・・・・・」

妹「何で何にも喋らないの? ひょっとして、昨日あたしを無視して他の女の子を見てい
たことであたしが怒っているとかって悩んでる?」

兄「・・・・・・」

妹「そうなんだ。全く何キモイこと考えているのよ。お兄ちゃんがどの女の子を眺めたっ
て本気であたしが気にしたりするわけないじゃん」

兄「そうか」

妹「そうだよ・・・・・・ねえ。本当にいい加減にしようよ。あたしは別に気にしてないから仲
直りしよ?」

兄「別に気にしてなんかねえよ」

妹「え」

兄「おまえにだって一緒にいちゃいちゃと登校する彼氏もできたようだし、俺なんかと仲
良くしすぎたらそいつに嫉妬されちゃうぞ」

妹「え・・・・・・」

兄「俺、今日は風呂入って寝るわ」

妹「ちょっと待ってよ、お兄ちゃん」

兄「俺のシャツを掴むなよ。切れちゃうだろうが

妹「だって・・・・・・あ」

兄「携帯鳴ってるぞ」

妹「行かないで。電話切るから」

兄「出ればいいじゃん」

妹「はい・・・・・・。ああ、彼氏君? ごめん、いまちょっと電話できない。またメールする
から」

妹「だから、後でメールするって。違うよ、そうじゃないって。あ、お兄ちゃん待って」

兄「風呂行く。じゃあな、お休み」

妹「待ってよ・・・・・・え? 違うよ、今のは君に言ったんじゃないの。ごめんね、もう切る
から」

妹「お兄ちゃん」

兄「彼氏に電話してやったら?」

妹「なんで・・・・・」


今日は以上です

いい感じだな
期待してるので是非とも完結までがんばって欲しい


<こういうのもNTRって言うのかな>





兄(NTRという分野の作品がある)

兄(小説とかアニメとかドラマとか、もっと言えば2ちゃんのコピペでも確立されたジャ
ンルと言えよう)

兄(俺、あれ嫌いなんだよな。何かむずむずしてカタストロフィーのない決着のつかない
イライラ感しか感じないし)

兄(だけど今の俺の感情はNTR物のコピペを読んだ後のそれと同じだ)

兄(・・・・・・何か胃の下あたりが持ち上がってきて胸を締め付けるような嫌な感覚)

兄(だが、待て。確かに俺が妹のことが好きなことは自他共に認めているところだが)

兄(どう考えてもそれは一方通行で片道切符な恋愛感情なんだよな)

兄(つうことは、妹は俺のことなんかせいぜい良くても仲良く喧嘩できる兄貴としか見て
いないわけで)

兄(こういう状況もNTRって言うのかな)

兄(俺と愛しあっているわけでも何でもない妹相手じゃ、NTRなんか成り立たないじゃ
ないか)

兄(寝取られでさえないのか。じゃあ、これは単なる片想い野郎の失恋感情だということ
だな)

兄(なるほど。いろいろ辛いことは確かだけど、こうやって自分の状況と感情を分析して
みると少しは気持ちが楽になるな)

兄(・・・・・・あれ)

兄(だけど、あの時女は言ってたな)



女『なるほどね。あんたって心底からバカだな』

兄『何でそうなる』

女『妹ちゃんはその妹友って子にやきもち焼いてるに決まってるじゃない』

兄『あ?』

女『あ、じゃねえよ』



兄(あんなやつが適当に言った言葉なんか信用できないことは確かだが)

兄(・・・・・・それにしても、女は何で妹が妹友に嫉妬したなんて考えたんだろうな)


<こういうのもNTRって言うのかな>





兄(NTRという分野の作品がある)

兄(小説とかアニメとかドラマとか、もっと言えば2ちゃんのコピペでも確立されたジャ
ンルと言えよう)

兄(俺、あれ嫌いなんだよな。何かむずむずしてカタストロフィーのない決着のつかない
イライラ感しか感じないし)

兄(だけど今の俺の感情はNTR物のコピペを読んだ後のそれと同じだ)

兄(・・・・・・何か胃の下あたりが持ち上がってきて胸を締め付けるような嫌な感覚)

兄(だが、待て。確かに俺が妹のことが好きなことは自他共に認めているところだが)

兄(どう考えてもそれは一方通行で片道切符な恋愛感情なんだよな)

兄(つうことは、妹は俺のことなんかせいぜい良くても仲良く喧嘩できる兄貴としか見て
いないわけで)

兄(こういう状況もNTRって言うのかな)

兄(俺と愛しあっているわけでも何でもない妹相手じゃ、NTRなんか成り立たないじゃ
ないか)

兄(寝取られでさえないのか。じゃあ、これは単なる片想い野郎の失恋感情だということ
だな)

兄(なるほど。いろいろ辛いことは確かだけど、こうやって自分の状況と感情を分析して
みると少しは気持ちが楽になるな)

兄(・・・・・・あれ)

兄(だけど、あの時女は言ってたな)



女『なるほどね。あんたって心底からバカだな』

兄『何でそうなる』

女『妹ちゃんはその妹友って子にやきもち焼いてるに決まってるじゃない』

兄『あ?』

女『あ、じゃねえよ』



兄(あんなやつが適当に言った言葉なんか信用できないことは確かだが)

兄(・・・・・・それにしても、女は何で妹が妹友に嫉妬したなんて考えたんだろうな)


兄(妹も俺のこと気になっているのかな。恋愛的な要素ではないにしても)

兄(さっきは彼氏の電話を無理矢理終らせてでも俺のことを引き止めたいように見えた
し)

兄(自分に都合いい推論かもしれないが、とりあえず仮説として考えてみよう)

兄(仮に妹が俺のことをどういうわけか気にしているとする)

兄(そう考えるとさっきの妹は俺と話したくて、あと彼氏と携帯で話しているところを俺
に見られたくなくて、彼氏との電話を即切りしようとした)

兄(うーむ)

兄(・・・・・・あれ?)

兄(視点を変えるとこれはこれでNTRが成立しそうだな)

兄(彼氏の視点に立ってみれば、せっかく彼女に電話したのに他の男のことを気にしてい
る妹に電話を切られたんだからな)

兄(必死で俺に話しかけていた妹の声も届いていたかもしれないし、彼氏にとっては正し
くNTRだったのかもしれん)

兄(・・・・・・)

兄(何か不公平だな。何で妹ごときの勝手な行動によって俺とその彼氏がNTRされたよ
うなショックを受けなきゃならんのだ)

兄(自分のことを好きな男二人を手玉に取っているのは妹じゃねえのか)



兄の妄想

 燃えさかる男二人の嫉妬の炎を前にして高らかに笑う妹

『おーほっほっほ。悩むがいい。惑うがよい。この汚らわしき男どもめ! わらわに愛さ
れようなどと百万年早いわ』



兄(・・・・・・でも、さっき妹は泣きそうになって俺を引き止めていたしな)

兄(やめやめ。もう寝よう。だいたい実の妹に恋したって本気で報われるなんて思ってた
わけじゃねえし)

兄(・・・・・・じゃあ、何で俺妹スキーを公言してたんだろう)

兄(そういや妹友ちゃんが言ってたことって)


<妹友の呪縛>



妹友『お兄さんが好きなのは妹ちゃん個人じゃなくて、一般的な兄妹関係における妹に萌
えているだけだと思います』

兄『・・・・・・何言ってるのかわからねえんだけど』

妹友『お兄さんって、妹ちゃん自身が好きなんではなくて自分の妹というステータスを身
にまとった抽象化され、記号化された妹に惹かれてるだけなんじゃないんですか?』

兄『厨ニ病的な内容全開だし、初対面に近い男に言うことかよ、それ』

妹友『お兄さんが好きなのは生身の妹ちゃんじゃない。お兄さんは実の妹に恋するという
ラノベみたいな状況に、そういう現実的じゃないシチュエーションに萌えているだけじゃ
ないんですか?』



兄(最近の女子高生は恐い。しかもお嬢様学校の生徒なのに、あんな穿った見方ができち
ゃうだもんな)

兄(そうなのかな。俺って妹本人が好きなんじゃなくて、実の妹に恋する俺っていうシチ
ュエーションにはまってただけなんだろうか)

兄(まあ、有名なセリフがあるよな)

兄(「あたしはお兄ちゃんだから好きになったわけじゃない。本気で好きになった男の人
がたまたまお兄ちゃんだっただけだよ」)

兄(俺の妹萌えがシチュエーション萌えだとすると、このセリフとは対極な感情だよな)

兄(ちょっと対極のセリフを考えてみよう)

兄(「俺はあいつが自分の妹だったから好きになったんだ。別に妹本人のことを本気で好
きになったわけじゃない)

兄(うーん)

兄(こうしてセリフにしてみると結構最悪だな。とても他人には相談できん)

兄(それにしても、ごめんお兄ちゃんって泣きながら俺の部屋に来るはずの妹は全然来な
いな)

兄(さっきの件で本気で嫌われたんだろうか)

兄(・・・・・・眠れねえ)

兄(ひょっとして妹は彼氏と話でもしてるのかな)

兄(さっきの電話の言い訳をしてるとか。でも、あの対応の言い訳するのって大変そうだ
な。彼氏もショックだったろうし)

兄(さっきの妹の対応に彼氏がどう感じていたか脳内でシミュレートしてみるか)

兄(いや、無意味だ。それよりさっさと寝た方がいい。つっても大学に合格した今となっ
ては明日もろくに授業はないんだけど)

兄(少しだけ想像力を使ってみるか)


<逆の視点で再生>




兄の想像

彼氏(妹友さんを頼って正解だったな。かなり待たされたけど憧れの妹さんと今朝一緒に
登校できたし)

彼氏(友だちからって言ってたけど、俺が本気になれば妹さんも俺に惚れてくれるはず)

彼氏(ここまできたら時間の問題かもね。そうだ、まだそんなに遅い時間じゃないし。今
日ゲットした妹さんの携番に電話して見るか。メールもいいけど、あの可愛い声を間近で
聞きたいしな)

彼氏「いきなりごめんね。彼氏だけど」

妹『はい・・・・・・。ああ、彼氏君? ごめん、いまちょっと電話できない。またメールする
から』

彼氏「え? ちょっとだけ話せない?」

彼氏(何だよ。いきなり電話できないって)

妹『だから、後でメールするって』

彼氏「ちょっとでいいんだけど。それに何で慌ててるんだよ。まさか浮気じゃないよな
(ちょっとしたジョークで妹ちゃんを笑わせてやろう)」

妹『違うよ、そうじゃないって。あ、××ちゃん待って』

彼氏(なんだか本気で慌ててるんですけど。それによく聞こえなかったけど、××ちゃん
って誰だよ。しかも追いすがるように待ってとか言っちゃってるし)

彼氏「待ってってどういうこと? 俺ならいつまでも君を待ってるのに(いったい誰と話
してるんだよ)」

妹『え? 違うよ、今のは君に言ったんじゃないの。ごめんね、もう切るから』

彼氏「浮気してるのかよ? 初日から俺のことコケにしてるのかよ。××って誰だこのく
そビッチ」

彼氏(って、電話切れてるし)



兄(こんな感じかな)

兄(彼氏にとっても結構きついな、これ。正直、俺とそう変わらないくらいショックを受
けたかも知れん)

兄(そう考えると少し気が楽になってきた。別に妹が俺のことを好きだということじゃな
いにしても、あいつの彼氏が悩んでいるならそれはそれで嬉しい)

兄(あいつにとってみればこれはこれで、十分にNTRだもんな)

兄(俺って性格悪いな。今にして気がついたわけじゃねえけど)

兄(今日はもう寝るか)

兄(それにしても妹は来ねえな)

兄(ごめんお兄ちゃんって泣きながら俺の部屋をノックするはずだったのに)


<視点を変えてみれば>



兄(起きて階下のダイニングに行ったらもう妹はいなかった)

兄(どうやら本当に兄妹関係の破局が来たのかな)

兄(とりあえず登校しよう。学校に行ってももうろくな授業はないんだけど)

兄(この駅から電車に乗るのもあと半月か)

兄(このまま妹と仲直りしないまま引越しするのかな)

兄(・・・・・・)

兄(昨日想像した彼氏の気持ちって結構生々しかったな。事実がどうかはともかく)

兄(そういや昔、妹系のコピペを読んだときは素直に感動したんだけど)



コピペの妹『お兄ちゃんは、何であたしにこんなに優しくしてくれるの? プレゼントを
くれたり遊びにつきあってくれたり』

コピペの兄『何でって・・・・・・。おまえは大切な俺の妹だからな。情けない兄だけどさ、母
さんが亡くなってから仕事で遅い父さんが当てにならないんで、二人で協力して何とか暮
らしてきたんじゃないか。おまえは大事な戦友だよ』

コピペの妹『お兄ちゃん・・・・・・』

コピペの兄『俺はおまえに感謝してるんだよ! こんなだらしない俺をおまえは支えてく
れた。俺が大学に行けたのだって就職できたのだって、全部おまえのおかげだよ』

コピペの妹『だって。じゃあ、何で最近まであたしのことを無視してたのよ! あたし寂
しかったのにお兄ちゃんは滅多に家に帰って来ないし、帰ってきてもあたしの相手をして
くれなかったじゃない!』

コピペの兄『泣くなよ。だってしようがないじゃんか。おまえには○○君っていう彼氏が
いるんだぞ。今さら俺が兄貴面しておまえと並んで歩けるかよ。俺だって悩んだし辛かっ
たんだよ!』

コピペの妹『お兄ちゃん?』

コピペの兄『何だよ』

コピペの妹『もしかして。もしかしてだけど、お兄ちゃんあたしのこと好き?』

兄『・・・・・・ああ。好きだよ。文句あるか? 気持ち悪いって笑ってくれてもい
い。俺はおまえのことが一人の女性として好きなんだよ!!!』

コピペの妹『やっと言ってくれた。嬉しい。あたしもお兄ちゃんが大好き』

コピペの兄『おまえ、彼氏君はどうするの』

コピペの妹『お兄ちゃんは心配しないで。彼氏君には本当に悪いことしたけど、あたしは
もう自分の気持を偽れない』

コピペの兄『妹』

コピペの妹『お兄ちゃん。もうあたしのことを離さないで』


兄(つうストーリーだったな、確か。今思い出しても泣きそうなほど素晴らしい話だっ
た)

兄(ここで終ったんだけど、今にして思えば彼氏には何の罪も落ち度もないんだよな。こ
の後彼氏は妹に振られてどういう感情を抱いたんだろう)

兄(視点を変えてみたらどうなるのか)

兄(このシチュエーションでNTR物のコピぺ風に想像してみよ)



彼氏(何かおかしい。付き合い出してからあれだけラブラブだった俺と妹なのに)

彼氏(今日もキスしようとしたら拒否された。唇が荒れてるからごめんねって妹は言って
いたけど)

彼氏(今日だってせっかくの休みなのにデートに誘ったら断られた。女友だちと映画に行
く約束をしたからって言っていたけど。最近、何か妹って俺に冷たくねえか)

彼氏(妹を信じたいけど、やはり心配だ。よし、突然妹の家に行ってみよう。あいつはア
パート暮らしだけど、一応俺、合鍵もらってるから)

彼氏(妹の部屋の前まで来たけど。何か男の声が聞こえる・・・・・・)



男の声『泣くなよ。だってしようがないじゃんか。おまえには○○君っていう彼氏がいる
んだぞ。今さら俺が兄貴面しておまえと並んで歩けるかよ。俺だって悩んだし辛かったん
だよ!』

彼氏(え? つうか○○って俺のこと?)

妹の声『お兄ちゃん?』

男の声『何だよ』

妹の声『もしかして。もしかしてだけど、お兄ちゃんあたしのこと好き?』

男の声『・・・・・・ああ。好きだよ。文句あるか? 気持ち悪いって笑ってくれてもいい。ず
っと黙っていたけど、俺はおまえのことが一人の女性として好きなんだよ!!!』

妹の声『やっと言ってくれた。嬉しい。あたしもお兄ちゃんが大好き。小さな頃からずっ
とお兄ちゃん以外の男の人を好きになれなかったの』

男の声『おまえ、彼氏君はどうするの』

妹の声『お兄ちゃんは心配しないで。彼氏君には本当に悪いことしたけど、あたしはもう
自分の気持を偽れない』

彼氏(・・・・・・はい? 俺に大好きって言ったのは、俺に抱かれて喘いでいたのは、全部
嘘?)

男の声『妹』

妹の声『お兄ちゃん。もうあたしのことを離さないで』

彼氏(ま、まさか。妹に浮気されてたなんて。しかも相手はは実の兄? というか)

彼氏(お兄ちゃん以外の男の人を好きになれなかったって。俺はいったい)



兄(うわー。最悪。これって最悪のNTRじゃんか。しかも相手が実の兄ってどうよ。ド
ン引きだわー。この彼氏もかわいそうだな)

兄(・・・・・・)

兄(同じ状況のコピペなのに視点を変えればずいぶん印象も変わるんだな)

兄(俺もよく考えないといけないな)


<お兄ちゃんって呼んでいいですか>



妹友「おはようございます」

兄(いったい俺は寝取られたのか寝取ったのか)

兄(俺は神の視点にしまったのかもしれない。自分の無駄に優秀な洞察力を恨みたい気分
だ)

妹友「お兄さん? おはようございますってば」

兄(よりによって俺の恋のライバルである彼氏なんてやつに共感してしまうとは)

兄(・・・・・・俺って、妹にとってどんな存在なんだろ)

兄(妹ネタでオナニーまでしている俺を罵りながらも許容してくれる妹)

兄(ひょっとしたら母性愛みたいな義務感で俺と接してくれていたのかな、妹は)

兄(両親が多忙で滅多に家にいないから、しっかりしている妹にそういう気持ちが生まれ
たって不思議はないよな)

妹友「・・・・・・わっ!」

兄「な、何だ? 耳元で大声が」

妹友「おはようございいます」

兄「おはよう」

妹友「何であたしを無視したんですか。お兄さん」

兄(ちょっと恐いこの子)

兄「ああ、ごめん。ぼうっとしてて気がつかなかった」

妹友「ふーん」

兄「つうか、何でいるの?」

妹友「何でって、お兄さんと一緒に登校しようと思って」

兄「何で?」

妹友「もう答えましたよ? 頭沸いてるんですか」


兄(こいつも見た目は可愛いくせに妹と同じで口が悪いな)

兄「何で一緒に登校する必要があるんだって聞いてるんだよ」

妹友「主に罪悪感からですね」

兄「はい?」

妹友「罪悪感って単語、まだ習っていませんか? 解説しましょうか」

兄「そうじゃねえよ。何でおまえが罪悪感なんて感じてるんだって聞いてるの」

妹友「妹友ちゃんと彼氏の間を取り持ったのはあたしですから」

兄「え」

妹友「そのこと自体には全く後悔はしていないんですけど、ただ、お兄さんがそのために
妹ちゃんと一緒に過ごす時間が減ったためにへこんでいることは、さすがのあたしでも理
解できますし、ちょっと気にもなります」

兄「何言ってるんだ。俺は別にへこんでねえっつうの」

妹友「隠しても駄目ですよ、お兄さん」

兄「だからそうじゃねえよ」

妹友「お兄さんのこと、お兄ちゃんって呼んでもいいですか」

兄「・・・・・・・頭沸いてるの?」

妹友「ずいぶんとひどいことを言いますね」

兄「最初にこの言葉を口に出したのはおまえの方だ」

妹友「・・・・・・そんな、いきなりおまえだなんて。最初は君とかから始めたほうがよくない
ですか」

兄「黙れ。いったい何でお兄ちゃんと呼びたいのか説明しろ。俺と妹のことをからかうつ
もりだったら二度と君とは話をしない」

妹友「何で君? おまえじゃなかったんですか?」

兄「黙れ」

妹友「じゃあ、これからもお話できますね。あたしにはお兄さんをからかう意図なんて一
ミリだってありませんから」

兄「じゃあ、何で妹と同じ呼び方で俺を呼びたいんだよ」

妹友「決まってます。お兄さんは妹ちゃん萌えじゃなくて、自分の実の妹に恋しているお
兄さん自身萌えですから」

兄「わかりづらいが、まあわかった。でも・・・・・・仮にそうだとしても妹友には関係ないだ
ろ」

妹友「関係はありますよ」

 妹友は今まで浮かべていた薄笑いをひっこめて、どういうわけか急に真面目な目で俺を
見つめた。情けないことに年下の女の子の視線に俺は怯んだ。

「お兄ちゃんって呼べばあたしのことを意識してもらえるかもしれないじゃないですか」

 妹友は真面目な顔でそう言った。

「何のために俺に意識させたいの」

「お兄さん、じゃなかった。お兄ちゃんのことが大好きだからですよ。妹ちゃんなんかに
お兄ちゃんは渡しませんからね」

 彼女は俺の手を握った。妹の手に比べるとそれは酷く冷たい手だった。


今日は以上です

別スレの更新をしようと思うんで、次回はその後になると思います

需要のないスレにお付き合いしてくれた方、ありがとう


<そんなこと法律に書いてあるんですか>




兄「あのさあ」

妹友「何ですか? お兄ちゃん」

兄「お兄ちゃんって言うのよせ」

妹友「嫌です」

兄「俺のことをお兄ちゃんって呼べるのは世界で一人だけなんだよ」

妹友「そんなルールってどこで決まってるんですか」

兄「どこでって」

妹友「条約ですか」

兄「え?」

妹友「法律ですか、施行令?、それとも施行細則かな。条例とか施行規則?」

兄「法制度に詳しいんだね」

妹友「それともまさか自分で勝手に決めたルールなんですか」

兄「悪いかよ。俺のことをお兄ちゃんと呼ばせるのは妹だけだ。自分のことだから自分で
決めただけだ。だからおまえはお兄ちゃんと呼ぶな。どうしてもそう呼びたいなら他の男
を探してそいつのことをそう呼べばいいだろ」

妹友「・・・・・・また、あたしのことをおまえって呼んでくれましたね」

兄「いや、そんなことはどうでも」

妹友「それにお兄ちゃんなんて呼び方、あたしにとっては日常茶飯事で、単に誰かをお兄
ちゃんと呼びたいだけなら他の人を見つける必要なんてないんです」

兄「どういう意味?」

妹友「あたしにも兄がいますから。いつもお兄ちゃんって呼んでますよ? 兄のこと」

兄「兄貴がいるのかよ・・・・・・」

妹友「そんなに意外ですか?」

兄「だからお兄ちゃんはよせ。いや、考えてみれば兄貴がいるなんて別に珍しいことじゃ
ないか」

妹友「そうですよ」

兄「いや、だったら自分の兄貴に迫ればいいんじゃね? 何も友だちの兄貴に告んなくて
も」

妹友「あなたもしかしてバカですか?」

兄「お兄ちゃんと呼ばなくなったのはいいけど、バカはねえだろ。せめて苗字で呼んだっ
て・・・・・・呼び捨てでもいいから」

妹友「あたし、バカな人は嫌いです。せっかくのあたしの恋心を否定するような言動はつ
つしんでいただきたいです」

兄「はあ?」


妹友「あたしはお兄ちゃんじゃなくて、お兄ちゃんが好きなんです。何でそんなことも理
解できないんですか」

兄「ちょっと待て。混乱してきた。俺じゃなくて俺が好きなのか。ってどういう意味?」

妹友「世界には兄と妹なんて数え切れないほどいるわけですけ、その兄と妹の全員が異性
的な恋愛感情を持っているとでも思っているのですか」

兄「そんなわけねえだろう。妹スキーな俺みたいな兄なんて、性的なマイノリティーなく
らいは理解しているるもりだ」

妹友「何でそこで誇らしげな態度に出れるのか理解できませんが、わかっているのならま
あいいでしょう。世間の兄妹のほとんどはお互いに恋愛感情を抱いたりはしません」

兄「だからそれは理解しているって」

妹友「それならわかるでしょう。あたしは自分の実のお兄ちゃんになんてこれっぽっちも
恋愛感情はないのです」

兄「お前がそう思うのならそうなんだろう」

妹友「・・・・・・お前ん中ではな」

兄「何? 少年ファイト好きなの?」

妹友「何でもありません。そんなことより、あたしには実のお兄ちゃんには恋愛感情はな
いことは理解していただけましたか」

兄「おまえになくてもおまえの兄貴にはあるかもしれないじゃん。おまえに対する欲求が。
たまに夜寝る前にパジャマ姿のおまえを見つめている兄貴の刺すような視線とか感じたこ
とがあるだろ? あるいは両親が留守の晩に執拗におまえと一緒にいようとする兄貴の姿
とかを見て怯えた夜だってあるんじゃないか?」

妹友「・・・・・・何で息が荒いんですか? それとも本当にそんなことを妹ちゃん相手にして
たんですか」

兄「・・・・・・あ、いや。つい」

妹友「してたんですね」

兄「まあ、妹のことは本気で愛しているからね」

妹友「開き直りましたか。まあ、いいです。とにかくあたしだけでなくあたしのお兄ちゃ
んもあたしに対しては恋愛感情はありません」

兄「何で言い切れるんだよ。兄貴の妹への恋は本人にも誰に対しても隠して表に出さず悩
むというのは基本だぞ」

妹友「それはよくわかります。とても人様に言えるようなことじゃないですからね」

兄「ま、まあそうだ」

妹友「でも、うちのお兄ちゃんは違います」

兄「何でそう言い切れる」

妹友「さっき話したじゃないですか。あたしが妹ちゃんと彼氏の仲を取り持ったって」

兄「うん、聞いた。正直余計なことをするなって思ったけど」

妹友「あたしも恋愛感情こそないですが、肉親に対する情はあります」

兄「はあ」

妹友「なので、お兄ちゃんが妹ちゃんが好きだとあたしに相談してきたときは、間を取り
持つくらいはしたいと思いました」


<妹ちゃんは別にお兄ちゃんのことなんか好きじゃなかったんですね>



兄「じゃあ、妹の彼氏って」

妹友「あたしのお兄ちゃんですよ。お兄ちゃん」

兄「ややこしい呼び方はよせ。じゃあ、おまえが妹を誑かしておまえの兄貴の情欲に塗れ
た腕に俺の可愛い妹を引き渡したのか」

妹友「確かにあたしはお兄ちゃんとはそんなに仲良しじゃないですけど、知り合ったばか
りのお兄ちゃんからあたしのお兄ちゃんのことを情欲塗れとかって言われる筋合いはあり
ません」

兄「ややこしいな。おまえの呼び方は。これでは人称を差別化できないから俺のことをお
兄ちゃんと呼ぶのはよせ。最大限に妥協してお兄さんと呼ぶことは許してやるから」

妹友「嫌です」

兄「何でだよ。わかりづらいだろうが」

妹友「誰かを呼ぶのに人の指図は受けません。それとも法律とか・・・・・・」

兄「法律とかには書いてねえよ」

妹友「A cat may look at a king」

兄「わかった。それ以上言わんでいい」

妹友「あたしのお兄ちゃんは中学生だった妹ちゃんを最初に見たときから一目ぼれだった
んですよ」

兄「妹とおまえの兄貴ってそんなに前から知り合いだったの?」

妹友「そうです。中一のとき、あたしと妹ちゃんが知り合って親友になって、そのうちう
ちに何度も妹ちゃんが遊びに来てくれたんですけど、そのころからお兄ちゃんは妹ちゃん
のことが好きになったみたいです」

兄「おまえらって中一の時から友だちだったの?」

妹友「はい」

兄「全然知らなかったわ。つうかおまえと知り合ったのだって昨日だしさ」

妹友「それはあたしの責任ではありません」

兄「別におまえのせいとか言ってないだろうが」

妹友「あたしは妹ちゃんがいつ家に来ても構わなかったんですけどね。妹ちゃんの方は滅
多に自分の家にあたしを誘ってくれなくて」


兄「何で?」

妹友「あたしだって妹ちゃんに誘われてお兄ちゃんの家に行ったことはあるんですよ」

兄「おまえと家で会ったことねえなあ。俺って帰宅部だし基本引きこもりなのにな」

妹友「妹ちゃんはいつも帰宅前にお兄ちゃんに電話するでしょ」

兄「確かにそういう習慣になってるな。親があまり家にいないんで自然にそういう習慣付
いたんだよ。買物とかそういう都合でさ」

妹友「あたしが何気なく注意していると、妹ちゃんがあたしを自宅に招いてくれるのは、
電話の結果お兄ちゃんが帰宅していないときに限っていることに気がついたのです」

兄「本当か」

妹友「本当です。あたしは自分のお兄ちゃんに妹ちゃんを紹介したというのに、妹ちゃん
はお兄ちゃんをあたしに紹介しないばかりか、あたしに会わせないようにしていたので
す」

兄(妹のやつ。バカだ。本当に。俺が妹友に心を奪われるとでも思って心配したんだろう
けど。確かに妹友は可愛いけど、俺にとって一番可愛いのはおまえに決まってるというの
に)

妹友「何で急ににやにやしてるんですか」

兄「いや。別に」

妹友「まあ、最初は妹ちゃんがお兄ちゃんとあたしを合わせまいとしているのかなって思
ったんですけど」

兄「ああ」

妹友「うちのお兄ちゃんと仲よく登校したところを見ると、妹ちゃんは別にお兄ちゃんの
ことなんか好きじゃなかったんですね」

兄「・・・・・・」

妹友「駅に着いちゃいましたね。ここからは反対方向の電車ですよね」

兄「ああ」

妹友「じゃあ、またです。お兄ちゃん」

兄「・・・・・・」


<お兄ちゃんってさ。本気であたしのこと好きなの>

兄「ただいま」

妹「お帰りお兄ちゃん」

兄「おまえいたの? 早かったな(何か昨日いろいろあったわりには普通に会話してくれ
るのな)」

妹「今日は卒業式の練習だからって、関係ない生徒は午前中で下校だったの」

兄「そうか」

妹「お兄ちゃんは遅かったね。もう卒業まで授業ないんでしょ」

兄「うちも卒業式の練習があったからな(あんなやりとりした後だけど、俺って普通に妹
に話せてるな)」

妹「そうか。そうだよね」

兄「ああ」

妹「・・・・・・今日もパパとママ帰れないって」

兄「ああ。どうせそんなことじゃないかと思ってたよ」

妹「あと、ママからお兄ちゃんに伝言がある」

兄「うん? 何だって」

妹「明日の土曜日、外で待ち合わせして一緒に出かけようって」

兄「何で? 俺はマザコンじゃないぞ。母さんと二人出かけても嬉しくないしな。どっち
かって言うと俺はむしろシスコンだし」

妹「・・・・・・四月からお兄ちゃんが住むアパートを探すんだって」

兄「ああ、そういうことか。確かに、そろそろ決めないとな」

妹「・・・・・・あのさ」

兄「うん?」

妹「今、お兄ちゃん言ったじゃん?」

兄「何を」

妹「何をって・・・・・・。その、お兄ちゃんがシスコンだって」

兄「・・・・・・言ったよ」

妹「お兄ちゃんってさ。本気であたしのこと好きなの」

兄「うん」

妹「ちゃんと答えてよ」

兄「ちゃんと答えているじゃんか」

妹「その・・・・・・。それって本気?」

兄「本気だよ」

妹「・・・・・・あたし、お兄ちゃんに何て言えばいいの?」

兄「そんなことは俺が知りたいくらいだ。それとも俺がおまえが言うべき言葉を教えれば
おまえはそのとおりに言ってくれるのか?」

妹「そんな・・・・・・でも実の兄妹だよね?」

兄「聞くまでもなく実の兄妹だな」

妹「あたし、お兄ちゃんに答えを言うように求められてる?」

兄「俺としてはそんなつもりはなかったんだが」

妹「だが?」

兄「ここまで事態をはっきっりとさせたのはおまえだ。俺はこれまでひた隠しにしていた
おまえへの感情を、おまえによってはっきりと口にさせられた」


妹「・・・・・・あれで、隠していたつもりだったんだ」

兄「ここまで来ちゃったらもう仕方ないだろ。おまえの返事を聞かせろ」

妹「そんなこと言われても」

兄「じゃあ、何で俺の気持を確認した?」

妹「それは・・・・・・」

兄「まあ、いい。さすがにすぐにとは言わん」

妹「うん」

兄「俺はこれから風呂に入る」

妹「ちょうどお風呂沸いたところだよ」

兄「だから、俺が風呂から出るまでに答を決めとけ」

妹「それはさすがに早すぎだよ。無理」

兄「おまえさ。妹友の兄貴のことを気にしているの?」

妹「何で知ってるの」

兄「それとも近親相姦の禁断の関係になることを気にしている?」


妹「・・・・・・自分でもよくわかんない」

兄「俺だって自分の気持を強要しているわけじゃないぞ。これまでおまえから何回も告白
みたいなことをされたこととか、何通ももらった手書きのお兄ちゃん大好きレターとか、
おまえが携帯を持ってから毎晩俺に送ってくるハート付きメールとか、そう言う積み重ね
によって実の妹を好きになった俺がいるわけだし」

妹「それは全部そのとおりだけど、そこまで深く考えていなかったよ」

兄「じゃあ、今考えろ。いくら偏差値が低いおまえでも誰が好きかくらいは簡単にわかる
だろ」

妹「偏差値はどうでもいいけど、あたしがお兄ちゃんを振ったら気まずくなっちゃうじゃ
ん。昨日の電話のときみたいなのは嫌だよ」

兄「じゃあ俺の愛を受け入れればいい」

妹「だって・・・・・・」

兄「妹友の兄貴のことが好きなのか?」

妹「別に好きじゃない」

兄「でも、友だちからならなんて言ったんだろ」

妹「・・・・・・お兄ちゃん」

兄「どした」

妹「妹友ちゃんから聞いたの?」

兄「あ、ああ。今朝、彼女が俺を迎えに家まで来てくれて」

妹「・・・・・・」

妹「ふざけんな」

兄「え」

妹「え、じゃないでしょ。あたしがこんなに真剣に悩んでるのに。お兄ちゃん、何であた
しに告白したのよ? 告白したのに何で妹友ちゃんとベタベタしてるのよ」

兄「ベタベタはしてないけど」

妹「不誠実だ。お兄ちゃんは誠実じゃないよね」

兄「おまえだって彼氏君と一緒に登校してたんじゃね?」

妹「そ、それは」

兄「まあ、不誠実と思うならそれでもいいよ」

妹「・・・・・・」

兄「風呂出るときまでとかも撤回。でも、明日には返事くれ。明日は土曜日だから何時に
なってもいいから」

妹「・・・・・・うん」


今日は以上です。前回の二重投稿すいません

あと別すれ更新すると言いましたけど、難航中なので少しこちらの投下を続けようと思います

おつ

乙です。ところで別スレって?


<そういうのって何かやだなあ>




妹「お兄ちゃん、もう少し早く歩かないと電車に間に合わないよ」

兄「まだ時間には余裕がある。逃したら次の電車に乗ればいいだろう」

妹「今日は休日ダイヤなんだから、一本遅れたら十五分くらい待つよ」

兄「・・・・・・というか、おまえは何で一緒に外出しているのだ。母さんからおまえもついて
来いと言われたのか」

妹「別に言われてない」

兄「じゃあ、なんで」

妹「お兄ちゃん、あたしと一緒じゃ嫌?」

兄「それは嫌なわけはないが、おまえにしてみれば俺の部屋探しなんかに一緒に来るメリ
ットがないだろう。それとも俺の部屋探しのどさくさに紛れて母さんから洋服でも買って
もらう気なのか」

妹「先月買ってもらっちゃったから、今日はちょっと無理かな」

兄「じゃあ何のために着いて来た?」

妹「何となく」

兄「何となく?」

妹「何となく。天気もいいしこんな休みの日に一人で家にいるのもつまんないし」

兄「一人ではないはずだぞ。昨日は職場で泊り込みだった母さんとは違って、父さんは深
夜に帰宅していたし朝食のときに今日はオフだって言ってだろ」

妹「パパがいたって一人でいるのと同じだよ」

兄「おまえもひでえな。父さんって娘ラブの人なのに」

妹「知ってるよ。パパもお兄ちゃんもあたしのことが大好きなのは」

兄「うん」

妹「パパのラブよりお兄ちゃんのラブの方がだいぶ重いけどね」

兄「・・・・・・おまえは今日は一日部屋に閉じこもって悩むんだと思っていたんだけどな」

妹「ちゃんと今日中には返事するから。だから一緒に行かせて」

兄「おまえな。返事が決まってるなら今返事してくれよ。俺だって内心はどきどきして緊
張してるんだぞ」


妹「そんなにどきどきしてるの?」

兄「ああ。俺の胸に触れて確かめるか?」

妹「いい。どうせ触ったら不公平だから俺にもおまえの胸を触らせろとか言い出す気でし
ょ」

兄「俺だっていつもふざけているわけじゃない」

妹「冗談だよ」

兄「冗談は時と場合を考えないとな」

妹「・・・・・・ねえ。お兄ちゃん」

兄「うん」

妹「あたしがお兄ちゃんの告白を断ったら、お兄ちゃんはどうするの?」

兄「どうするって。そしたら失恋するな」

妹「違うよ。どうなるのじゃなくて、どうするのって聞いているの」

兄「どうするって。多分泣くよ」

妹「それだけ?」

兄「何だよ。おまえに振られて逆上した俺に、無理矢理レイプされるとでも心配している
のか」

妹「ばか。そんなんじゃないよ」

兄「泣いて、それからおまえを忘れるように努力するよ。そんで他に恋人でも作ろうとす
るかもな」

妹「・・・・・・誰? 女さん? それとも妹友ちゃん」

兄「何で俺にはその二択しかないって決めつけるんだよ」

妹「ああ、あと去年卒業した腐女子の生徒会長さんだっけ? お兄ちゃんに同じ大学を受
けようって言った人」

兄「あの先輩は大学で無事オタクの彼氏ができたそうだ。結局全然違う大学になっちゃっ
たしな」

妹「そういうのって何かやだなあ」

兄「何を自分勝手なことを言っているのだ。振られてもずっとおまえに片想いしていろと
言うつもりか」

妹「だってお兄ちゃん、あたしのこと好きなんでしょ。一度振られたくらいで女さんか妹
友さんに乗り換えるつもりなの」


<今日はやっぱり家に帰れよ>




兄「さっきから俺が振られる前提で話が進んでいるんだけど、それがおまえのファイナ
ルアンサーってことなのか」

妹「違うよ。回答期限は今日中でしょ? まだ時間あるじゃん」

兄「とにかく。おまえに振られたら俺だってこの先も生きていかなきゃいけないんだから、
全力でおまえを忘れて他の女の子を好きになる努力をするしかないだろうが」

妹「そしたらさ、あたしたちの関係はどうなっちゃうの?」

兄「どうって?」

妹「お兄ちゃん、あたしのこと好きじゃん? これまでどおりの兄と妹の関係が続く
の?」

兄「それは無理だ」

妹「何で」

兄「だって振られたらいくら俺だって冷静におまえと一緒に過ごしたりできるかよ」

妹「卑怯だ」

兄「何でそうなる」

妹「それって脅しじゃん。あたしがお兄ちゃんの告白に応えなきゃ、これまでどおりの仲
のいい兄妹関係はお終いだって言ってるんでしょ」

兄「脅しじゃねえよ。それにお終いと言ったって、表面だけ取り繕った最低限の会話くら
いはおまえとするように努力はするし。まあ、仮面兄妹っつうの?」

妹「やっぱり脅しじゃない」

兄「おまえが俺のことを好きじゃないならそんなこと気にならないだろうが。おまえには
友だちも彼氏君もいるんだし」

妹「だからお兄ちゃんのことは嫌いじゃないって」

兄「おまえ、好きの反対は嫌いじゃなく無関心だと言ってたよな」

妹「うん」

兄「嫌いの反対は何なの?」

妹「え」

兄「嫌いじゃないという感情を表わす単語を次の中から一つ選べ」

妹「あたし国語は苦手でだよ」


兄「1好き 2好き 3好き」

妹「・・・・・・ふふ」

兄「何笑ってるんだよ」

妹「ベタなジョーク。そんなにあたしに好きって言わせたいの?」

兄「言わせたい」

妹「お兄ちゃん好きだよ」

兄「・・・・・・FA?」

妹「ううん。好きだけど、嫌いじゃないけど。でもやっぱり無理」

兄「・・・・・・好かれているのに振られるとはさすがに予想していなかった」

妹「うん。そうだよね。ごめんね」

兄「っていうか俺振られたのか」

妹「あ、思わず無理とか言っちゃった。今日の夜に返事するつもりだったのに」

兄「FAだよな?」

妹「うん、ごめん。お兄ちゃんとは付き合えない」

兄「まあ、しかたないよな」

妹「お兄ちゃん・・・・・・」

兄「もともと自分の実の妹に本気で告るなんてこと自体が非常識なんだし。それでもおま
えが気持悪く思わず悩んでくれただけでも幸せだよ」

妹「ねえ」

兄「うん」

妹「ふざけあったりからかいあったりとか、今までみたいな兄妹の関係って、もうお終い
なの?」

兄「努力はしてみる」

妹「・・・・・・」

兄「最低でもあいさつとか事務的な会話はするように頑張る」

妹「・・・・・・」

兄「泣くなよ。どっちかって言えば泣きたいのは俺の方なんだし」

妹「・・・・・・」

兄「今日はやっぱり家に帰れよ」

妹「・・・・・・どうして」

兄「振られた直後だけに母さんと一緒にいておまえと普通にしている自信がない。おまえ
だって泣いちゃってるし」

妹「お兄ちゃん」

兄「じゃあ、次の電車には乗りたいから俺は行くな」

妹「・・・・・・」


<おまえに言われたくない>





兄(大学まで徒歩二十分のワンルームマンション。ロフト付き)

兄(一人暮らしなら十分だし、何より大学に近い)

兄(結構あっさりと決まったな。つうか母さんが勝手に探し出して勝手に決めたに近いけ
ど)

兄(まあ、部屋に不満があるわけじゃないし、金を出すのは親だし文句を言うことでもな
い)

兄(それにしても部屋を契約した後、母さんがまた仕事に戻るとは予想外だった)

兄(昼過ぎなんだし、可愛い息子にお昼をご馳走してくれるんじゃないかと思っていたん
だけど)

兄(今日は朝飯も抜きなのに。まあ、妹の返事を待つプレッシャーに負けて飯を食う気に
なんてなれなかったんだけどな)

兄(・・・・・・)

兄(やっぱり振られたか。半ば予想どおりの結末だったから、そんなにショックを受ける
ことはないと思っていたけど)

兄(母さんがいなくなったらいきなり手が震えるとは。何か足もがくがく震えてるような
感覚があるし)

兄(俺ってこんなに打たれ弱かったのか)

兄(それでも腹は減っている。朝、昼抜きとか考えられないしな)

兄(俺のこと好きだって言ってたな、あいつ)

兄(兄としてだろうけど)

兄(変な告白とかしてあいつにもプレッシャーかけちゃったから、明日からなるべく今ま
でどおりに接してやりたいけど)

兄(正直、自信がない)

兄(・・・・・・マックがあるな。昼飯食って行くか。妹がいる家にこんなに早く帰りたくない
し)

兄(結構並んでるな)

兄(・・・・・・前に並んでいる子、スタイルいいな)

兄(後姿だけでもい女であることが想像できる)

兄(どんな顔しているのかな)

兄(・・・・・・)


兄(あと一人だ。前の可愛い女の子がオーダーを終えれば俺の番だ。まさかこんなに待つ
とは思わなかった)

兄(・・・・・・)

兄(・・・・・・いくらなんでも前の子、注文に時間かけすぎじゃね? ある程度は並んでいる
間に決めておけよ。何でカウンター前まで来てから悩みだすんだよ)

兄(いくら後姿が可愛いからって台無しだよ。だいだい、こういう気が遣えない女って性
格も優柔不断なんだよな)

?「あ、じゃあ、やっぱりシェイクは止めてアイスコーヒーにします」

兄(早くしろ)

?(で、テリヤキマックとポテトのSをください)

店員(それだとセットの方がお得なのでセットに変更させていただきます)

?(え? どういう意味ですか)

兄(こいつアホだろ)

?(はあ。じゃあそれでいいです)

兄(やっと注文が終ったか)

女(あれ、兄じゃん。何かさっきから背中にいやらしい視線を感じると思ったら)

兄「女かよ。いろいろ納得だわ。てか一瞬でも可愛いとかときめいた自分が情けないわ」

女「何よ。可愛いって何が?」

兄「何でもねえよ。おまえ、何でこんなとこにいるの」

女「四月から住むアパートを探しに来たの。なかなかいいとこって見つからないね」

兄「おまえもか」

女「あんたもアパート探し?」

兄「ああ。もう決めちゃったけどな」

女「いいなあ。あたしはまだ・・・・・・って、あんたも早く注文しなよ。こんだけ並んでいる
のに後ろの人に迷惑でしょうが」

兄「おまえに言われたくない」

女「何で?」

兄(自覚ねえのかよ)


兄「ついてくんなよ」

女「あんたも一人なんでしょ? 一緒に食べようよ」

兄「まあ、いいけど」

女「で、で? 決めたのってどんなとこ?」

兄「大学から徒歩二十分。日当たり良好。周囲は閑静な住宅街。ワンルームに
ロフト付き」

女「そこってさ、他には部屋空いていなかった?」

兄「さあ? 新築物件だったからまだ空きはあるかもしれないけど」

女「案内して」

兄「はい?」

女「その不動産屋さんに案内して。あたしもそこに済む」

兄「何でだよ」

女「何でってあたしも兄と同じ大学だし、その条件なら申し分ないじゃん」

兄「あのさ」

女「おう」

兄「おうじゃねえ。おまえってもっと広い部屋を探してなかった? 最終的には兄友と一
緒に同棲するからって」

女「うるさい」

兄「え?」

女「兄は死ね」

兄「何なんだ」

女「・・・・・・」

兄「泣くなよ(妹に続いて今日二人目だよ。目の前で女に泣かれるの)」

兄「どうしたんだよ」

女「振られた」

兄「え」

女「兄友に昨日振られた。他に好きな子ができたから別れたいって」

兄(あのアホ)

女「何となく態度がおかしかったことは気がついてたんだけど、きっと受験前だから気が
立っているんだろうなって思ってたの。そしたら昨日呼び出されたら、女の子と二人で一
緒にいてさ」

兄「そうか」

女「二股かけてたんだよ、あいつ。半年くらい前からずっと」

兄「相手の子ってうちの学校の子?」

女「うん。二年生の女の子。部活の後輩だって」

兄「そうか」

女「ごめんね。いきなりこんな話聞かせちゃって」


兄「おまえとは腐れ縁なのかな」

女「何で?」

兄「俺もさっき振られたとこ」

女「え?・・・・・兄って好きな子いたのかよ」

兄「おまえには前に話したぞ」

女「嘘? まさか本気で妹ちゃんに告ったの」

兄「うん。本気で告った。そんで全力で振られた」

女「そらそうでしょ。兄って本当にバカだったのね」

兄「反論はできないけど。でもこれでも一応落ち込んでるんだぞ」

女「あたしは兄友と会わなければそのうち傷も癒えると思うんだけど、あんたは一生妹ち
ゃんの兄貴なんでしょ? これからどうやって妹ちゃんに接していくの」

兄「それが問題だ。まあ、とりあえず四月になれば引越しできるから顔を合わすことはな
いんだけどな」

女「それはそうだろうけど」

兄「おまえは? 兄友だって俺たちと同じ大学だろ? 辛くないのか」

女「辛いに決まってるじゃん。でも、もうあいつとは縁を切るし話もしない。もちろん一
緒に住む話もなし」

兄「兄妹じゃなければそういうこともできるよな」

女「何よ。実の妹に告るんだったら、前もってそのくらいのことは考えておきなさいよ」

兄「いや、告るつもりはなかったんだけどさ」

女「・・・・・・」

兄「・・・・・・」

女「まあ、いいや。とにかく不動産屋に案内して」

兄「まあ、いいけど。妹の待つ家には帰りづらいし」

女「でしょ? その後飲みに行こう。お互いを慰めっこしようよ」

兄「マジで?(それもいいかもな。夜遅くに帰れば妹友顔を会わせずにすむし)」

女「じゃ、行こうよ」

兄「ちょっと待て。まだ食い終わってないって」


今日は以上です
また投下します

>>50
地の文だらけの長編ですので、ここと同じようなのを期待すると違うんですが、それでもよければ
読んでもらえたら嬉しいです


<実はあたしたちって見えないところで繋がっているのかもよ>




女「あたしたちってさ」

兄「何だよ」

女「何か運命的な縁が本当にあるのかもしれないね」

兄「縁だあ? 同じタイミングで失恋しているからか」

女「でもさ。それだけじゃないじゃん?」

兄「え」

女「大学が同じ」

兄「それはおまえと兄友が、同じ大学を目指してがんばろうねとかって恥かしい約束をし
たからだろうが」

女「・・・・・・二股かけられて振られたばかりの女にそれを言うか」

兄「あ、悪い」

女「まあ、それに学部も学科も一緒じゃん」

兄「おまえが兄友と同じ学部を受験する日にインフルエンザに罹ったからだろ」

女「そうだけどさ。あと、奇跡的に同じ賃貸マンションで、お互い隣の部屋同士でしょ」

兄「それは、さっきおまえが俺が契約したマンションを紹介させて、隣の部屋を契約した
からだろ」

女「何かお互いに今まではただの悪友みたいな関係だったけど、実はあたしたちって見え
ないところで縁があったのかも」

兄「人の話聞け。おまえちょっと飲みすぎ」

女「いいじゃん。もう入学式までたいしてすることもないんだし」

兄「未成年だろうが。万一ばれたら合格取り消しになるかもしれんぞ」

女「大丈夫だよ。生ビールお代わり頼んで」

兄「おい」

女「振られたばかりで言うのもなんだけどさ。何か大学に行くの楽しみじゃない?」

兄「そうかな」

女「だってさ。初めての一人暮らしだよ。何かわくわくするじゃん」

兄「俺には面倒くさいとしか思えないけどな(唯一の救いは妹と離れて暮らせることだけ
だ)」

女「一人暮らしに不安を感じてる?」

兄「まあ、正直そう言うことはあるな。掃除、洗濯、料理スキルなんか全くないしさ」

女「だったら、それこそ運命的な状況だと思わない?」


兄「おまえの言っていることはよくわからん」

女「掃除、洗濯、料理スキルが備わっている高校時代の同級生の美少女があんたの隣に住
んでるんだよ」

兄「美少女?」

女「美少女」

兄「あ、ああ」

女「何があ、ああよ」

兄「いや、別に」

女「あたしの後姿をガン見してたくせに。それも今日のマックだけじゃなくて前から」

兄「ガン見ってひでえこと言うなおまえ」

女「あたしの後姿を視姦してたくせに」

兄「してねえよ。つうか更に言葉がひどくなったぞ」

女「正直に言ってごらん? あたしのことを可愛いと思ってときめいたんでしょ?」

兄「・・・・・・あほ」

女「まあ、いいや。四月からよろしくね。あんたの面倒はあたしが見てあげるから」

兄「何でそうなる?」

女「お互いに振られたんだから別に誰に遠慮することもないでしょうが」

兄「おまえ、兄友に振られて自棄になってねえ」

女「自棄にはなってないよ。ただ、自ら抑えていたいろいろなことから自由になれただけ
で」

兄「何言ってんだかわからない」

女「あたしの後姿を熱心に見つめたことは認める?」

兄(こいつに嘘をついてもすぐにばれちゃうんだよな)

女「ほれ。何とか言え」

兄「ま、まあ」

女「酒も入っていることだし自分に正直になれ。楽になるぞ」

兄「一瞬、そう思ったことは認める」

女「え」

兄「おまえを見かけて、おまえとは知らず『あ、あの女の子の後姿、すらっとしてていい
な。スカートから覗く脚も白くて細くて・・・・・・あの子とお近づきになりたい。かといって
声をかける勇気はないし』とかって考えたことは確かに事実だ」

女「・・・・・・」

兄(恥かしいことを言ってしまった)

女「そうか。あんた、あたしのことをそういう目で見てたんだ」

兄(なぜ嬉しそうなんだ)


<それならあたしと付き合って>




兄「でもまあ、顔を見たらおまえだったんだけどな」

女「・・・・・・あたしさ」

兄「お、おう」

女「最初から兄友じゃなくてあんたと付き合えばよかった」

兄「へ?」

女「だって、そうじゃん。あんたはあたしのスタイルを好きなんでしょ? 後姿だけでも
気になるくらいに」

兄「前を見るまではな」

女「そうなの?」

兄「え」

女「あたしの顔とかはあんたは全然無理なんだ」

兄「だから何を言っているんだおまえは」

女「あたしって、妹ちゃんに比べたら可愛くない?」

兄「・・・・・・そんなことはないけど。おまえ結構もててたじゃん。兄友と付き合い出す前は
やたら告白されてたし」

女「あんたは?」

兄「うん?」

女「あんたはあたしのことどう思う?」

兄「どうって言われてもおまえは兄友の彼女だしな」

女「あたしはもうあいつの彼女じゃないよ」

兄「・・・・・・おまえさ」

女「何よ」

兄「もしかして自棄になってね?」

女「・・・・・・なってないよしつこいなあ」

兄「いや。俺の間違いならいいんだけどさ」

女「・・・・・・傷付いてはいるんだけど、ほっとした気持ちもある」

兄「そうなの?」

女「うん。兄友に振られて、二年生の女の子に負けて傷ついたけど」

兄「まあ、それは傷付くよな」

女「でも、今はちょっとだけ嬉しいかも」


兄「・・・・・・さっきから意味わかんないんだけど」

女「これで兄友に罪悪感とか感じないで自分の気持に素直になれるから」

兄「罪悪感って」

女「罪悪感って単語、知らないの? 解説しようか」

兄「(どっかで最近聞いたことのあるセリフだ)そうじゃねえよ。何でおまえが罪悪感な
んて感じてるんだよ」

女「兄友のことを、あんたへの気持を忘れるために利用したから」

兄「おい」

女「あんたが、妹ちゃんのことを好きなことなんて前から知ってたし」

兄「もしかして、ばれてたの」

女「ふふ。あれで隠していたつもりだったの」

兄「・・・・・・まあね(それも妹に言われたっけ)」

女「そんなの中学生の頃から知ってたって」

兄「だから何でそこで泣く」

女「あんたが好きだったの」

兄「え」

女「あたしはどうしたらよかった? 妹ちゃんしか見えていないあんたに玉砕覚悟で告れ
ばよかったの? それともずっとあんたに片想いし続ければよかったの?」

兄「・・・・・・」

女「でも、あんたは妹ちゃんしか目に入っていなかったでしょ」

兄「・・・・・・それは否定はしないし、できないけど(女が俺のこと好きだったってマジか
よ)」

女「あたしさ。あんたのことを諦めようと思ったとき、兄友に告られてさ。自分を変えた
かったこともあって兄友と付き合ったの」

兄「そうだったのか」

女「うん。でも、あんたのことを忘れたことなんかなかった。というか、忘れるために付
き合ったのに、一々いろいろ兄友とあんたのことを比較しちゃってさ。いつまでたっても
あんたを忘れられなかった」

兄(・・・・・・全然気がつかなかったよ)


女「それで、兄友に振られた次の日。まあ、今日なんだけどさ。偶然マックであったあん
たが、妹ちゃんに告って振られたっていうし」

兄「うん」

女「それならあたしと付き合って。振られた者同士、今なら誰も傷つけずに恋人同士にな
れるじゃん」

兄「いや」

女「何で? 妹ちゃんに振られたんでしょ。妹ちゃんにも大好きな彼氏が出来ちゃったん
でしょ」

兄「・・・・・・」

女「あたしのこと嫌い?」

兄「そんなことはねえよ」

女「じゃあ、いいじゃん。あんたのこと慰めてあげるよ」

兄(流されてもいいときなのかもしれないな。妹とはもう付き合えないし、俺が未練を残
していたら妹にも迷惑をかける)

兄(女だって兄友に振られて自棄になっているだけかもしれないけど、少なくとも一人で
うじうじ悩んでいるよりは前向きになれるかもしれない)

兄(俺と女が付き合っても妹も兄友も傷付くどころか罪悪感が薄れるだけだしな)

兄(これが一番いい解決方法かもな。それに女って可愛いことは確かだし。四月からはお
隣さんでもあるし)

女「何か言ってよ、兄。あたしいつもふざけていたけど、今はちょっと酔ってるけど本気
なんだよ」

兄「おまえの言うとおりかもな」

女「・・・・・・ほんと? 無理してない」

兄「おまえって可愛いし。妹に振られたばかりの俺が迫るのは信用ないかもしれないけ
ど」

女「そんなことないよ」

兄「何かおまえ、昨日までとキャラが違いすぎるんですけど」

女「信じられない? 兄友に振られてからあんたに告ったのは確かだけど、昔からあんた
のことが好きだったのは本当だよ」

兄「本当にキャラが違ったな。でも、そういうところも可愛いかもな(妹と女を傷つけな
いために)」

女「・・・・・・ばか」

兄「俺と付き合うか? (そのためにはこれが一番・・・・・・)」

女「うん。あんたがよければ」

兄「じゃあよろしくな・・・・・・って、酒がこぼれてるぞ。いきなり抱きつくなよ」

女「へへ。悪い」

兄「いいけど」

女「やっぱり運命的な繋がりがあったんだね」

兄(・・・・・・)


<でもよかった>





兄(俺に初めての恋人ができた。そんで帰りん電車の中では、いつも俺の悪口しか言わな
かった女が俺の腕にしがみついて俯いていた)

兄(そんで、どうしたって声をかけたら俺の胸に頭を擦りつけてきた)

兄(あいつの家のまで送って行って別れるとき、いきなり真っ赤な顔で俺にキスした)

兄(兄友に振られた次の日だぞ。女は悲しいとか思わないのかな)

兄(それとも女の言うとおり、本当は前から兄友じゃなくて俺の方が好きだったのか)

兄(ツンデレもいいとこだったのか。まさか女が俺のことを好きだったなんて思いもしな
かったぜ)

兄(じゃあ、俺は?)

兄(俺は妹を忘れるために、妹に余計な気を遣わせないために女と付き合ったのか)

兄(・・・・・・とりあえず、四月からぼっちになる心配だけはなさそうだな)

兄(女の他には友だちができないっていうことはあるかもしれんけど)

妹「おかえりお兄ちゃん」

兄(これからは妹じゃなくて女といつも一緒なのか)

妹「・・・・・・・」

兄「まあ、それも人生だ」

妹「おかえり。って何が人生なのよ」

兄「おまえか」

妹「ママは?」

兄「仕事」

妹「・・・・・・一緒じゃなかったの」

兄「部屋を決めるまではな」

妹「そうか」


兄「・・・・・・」

妹「・・・・・・ご飯作っといたよ」

兄「そう。無理しなくてもいいのに」

妹「無理なんてしてないよ」

兄「今までだってカップ麺だったしな。別にそれでいいのに」

妹「・・・・・・お兄ちゃん」

兄「何」

妹「もしかしてお酒飲んできた?」

兄「・・・・・・お願いです親には黙っててください」

妹「どうしようかなあ」

兄「おい」

妹「お兄ちゃんの弱みを握っちゃった」

兄「・・・・・・今さらだろう」

妹「どういうこと?」

兄「母さんに言いつけたら間違いなく俺が勘当されるくらいのネタを、今日おまえに掴ま
れたからな。飲酒くらいじゃびくともしない」

妹「何開き直ってるの」

兄「別に。振られたからやけ酒だよ」

妹「・・・・・・ママに言えるわけないでしょ。お兄ちゃんから告白されたなんて」

兄「それならまあいいが」

妹「でもよかった」

兄「振られたんだからよくはねえよ」

妹「そういう意味じゃないよ。思ったより普通に話してくれるから、よかったって思った
だけだよ」

兄「まあ、努力はすると約束したからな」

妹「努力してるの?」

兄「ちょっとは」

妹「ねえお兄ちゃん。普通に仲良しの兄妹に戻ろうよ」

兄「努力する」

妹「・・・・・・」


今日は以上です

重いんだけど、なんかもどかしいというか……、とにかく乙。

女可愛いよ


<愛されないということは不運であり、愛さないということは不幸である>




兄(全然眠れなかった。頭がぐちゃぐちゃだ)

兄(夜明け前にようやく寝たと思ったら抱きついてくる妹の夢を見るし)

兄(顔を赤くして・・・・・・大好きだよお兄ちゃんって)

兄(一瞬、すごく幸せな感情が心に満ちてきたけど。起きてみれば振られた日の翌日の朝
なわけで、妹との両想いになったのは浅く短い夢の中だけだった。夢で幸福感を味わった
反動と現実を思い出した絶望感がやばい)

兄(このまま夢を見ないで一生眠り続けたい)

兄(いやいや。それじゃあ自殺願望じゃんか。さすがにそこまで落ちてはいないぞ)

兄(今日は日曜日。学校もないしもう少し寝ようか)

兄(いや。また妹の夢、しかも妹と付き合っている夢なんか見ちゃったら起きたときにつ
らすぎる。それくらいならいっそ起きてしまおう。今何時だ)

兄(まだ六時過ぎ。とりあえずコーヒーでも飲んで出かけてしまおう。行く先のあてはな
いけど家で妹と気まずいまま一緒にいるよりはましだ)

妹「おはよう」

兄「(こいつもおきてたのか)おはよう」

妹「・・・・・・早いね。今日は日曜日だよ」

兄「知ってるよ」

妹「そか」

兄「うん」

妹「・・・・・・」

兄「おまえこそ部活でもあるの?」

妹「そうじゃないけど」

兄「? そうか」

妹「朝ごはん食べる?」

兄「いいや」

妹「・・・・・・こんなに早い時間になんで着替えてるの? どっか出かけるの?」

兄「まあな」

妹「そう」

兄「おまえは?」

妹「出かけてくる」

兄「そう」

妹「・・・・・・」

兄「・・・・・・」

妹「お兄ちゃんは日曜日なのにこんなに早くからどこに行くの?」

兄「ちょっとな。おまえは?」

妹「・・・・・・うん。ちょっと」


兄「そうか」

妹「じゃ、じゃあね」

兄「もう出かけるのか?」

妹「ううん。自分の部屋に戻る。着替えないと」

兄「そうか」

妹「・・・・・・」

兄「じゃあ、俺はもう出かけるな」

妹「お兄ちゃん。今も努力してるの?」

兄「うん?」

妹「お兄ちゃん無理してるの?」

兄「・・・・・・ちょっとだけな」

妹「ごめんなさい」

兄「何言ってるんだ」

妹「お兄ちゃんごめんなさい」

兄「何だかわからないけど謝るなよ」

妹「あれだけお兄ちゃんに好かれて優しくされたのに。あたしのせいで仲のいい家族関係
の一つを壊しちゃった」

兄「おまえバカか?」

妹「偏差値は低いけど」

兄「そんなことは聞いてねえよ」

妹「何?」

兄「おまえのせいじゃないって。どう考えたってわかるだろ。俺が実の妹に近親相姦の関
係になろうぜなんておまえに迫ったのが原因じゃんか」

妹「あたしだってお兄ちゃんのこと好きだもん。でも、お兄ちゃんの彼女になったら兄妹
関係は壊れないかもしれないけど、パパとママを裏切ることになるんだよ」

兄「それはそうかもな」

妹「だからお兄ちゃんの告白にはいって言えなかったの」

兄「わかった。もうわかったから」

妹「ごめんなさい」

兄「愛されないということは不運であり、愛さないということは不幸である」

妹「・・・・・・どういう意味?」

兄「アルベルト・カミュ」

妹「・・・・・・誰」

兄「フランスの作家。俺は不運だったのかもしれないいけど、不幸のままでいるよりはま
だしも救いがあるのかもな(俺は本気で女にのめり込むべきなんだろうな)」

妹「・・・・・・よくわからない」

兄「うん。わからんでもいいや。とにかく努力するから。俺のせいだから俺が努力するか
らさ。おまえはもうあまり気にするな」

妹「・・・・・・お兄ちゃん」

兄「出かけてくるな」

妹「うん。行ってらっしゃい」


<早く起きてお洒落したりメークしたりしたかったんでしょうね>




兄「何でこんな早朝にここにいる」

妹友「おはようお兄ちゃん」

兄「質問に」

妹友「おはよう」

兄「・・・・・・おはよう」

妹友「さわやかな朝ですね」

兄「そうかな。雪でも降りそうなどんよりとした曇り空だけど」

妹友「ずいぶん朝早くから出かけるんですね」

兄「まあな」

妹友「どこに行くんですか」

兄「(行き先決めてねえ)いや、おまえには関係ない」

妹友「・・・・・・」

兄「何でそこで赤くなる」

妹友「やっぱりお兄ちゃんはあたしのことを、君じゃなくておまえって呼びたいんです
ね」

兄「・・・・・・脳みそわ」

妹友「もしかしてお兄ちゃん。語彙が乏しい残念な人なんですか」

兄「何でだよ」

妹友「この間から同じ単語しか口に出してないですよ」

兄「それはおまえがループするように同じことしか言わないからだ」

妹友「お兄ちゃんは少しは小説とか読んだ方がいいと思います。そうすれば自然と語彙が
豊富になりますよ」

兄「・・・・・・何でおまえにそこまで言われにゃならんのだ」

妹友「ずいぶん気が立っているようですね。そんなにお兄ちゃんと妹ちゃんの関係に悩ん
でるんですか」

兄「俺と妹の関係?」

妹友「違います。妹ちゃんとお兄ちゃんの関係です」

兄「ああ。おまえの兄貴とうちの妹の関係か」

妹友「この状況でそれ以外に聞くことがあるわけないでしょ。頭沸いてるんですか」

兄「おまえの語彙の貧困さも相当だな」

妹友「失礼なことを言わないでください」

兄「それで何の用だ? 妹なら外出前で着替え中だぞ」

妹友「そうですね」


兄「うん?」

妹友「それはあたしの予想の範囲内なので別に驚くほどのことではないです」

兄「そうなのか」

妹友「はい。なぜなら今日はうちのお兄ちゃんと妹ちゃんが初めての休日デートをする日
ですから」

兄「(そうなのか。だからあいつ早起きしてたのか)そうなんだ」

妹友「そうです。まあ待ち合わせ時間はずっと遅い時間ですけど、そこは女の子だから早
く起きてお洒落したりメークしたりしたかったんでしょうね」

兄「そうか」

妹友「そうですよ」

兄「まあそういうこともあるのかもな」

妹友「で話題は最初に巻き戻りますが、お兄ちゃんはどこに行くんですか」

兄「決めてない」

妹友「はあ?」

兄「妹と同じ家にいるのが耐えられなかっただけだから、どこに行こうかなんてこれから
考えるよ」

妹友「最低ですね」

兄「何で」

妹友「お兄ちゃんと妹ちゃんのデートをストーキングしようとしているんですね」

兄「ちょっと待て。おまえは何か誤解しているぞ」

妹友「早めに家を出て妹ちゃんを尾行するつもりだったんですね」

兄「だからそうじゃねえよ」

妹友「潔白を証明したいならどこに行こうとしていたか話してもらいましょうか」

兄「わかんね」

妹友「わからないとはどういうことですか」

兄「だから。妹がデートなんて知らなかったからさ。気まずいから家を出ようと思っただ
けだよ」

妹友「今さら何で気まずいんですか」

兄「いや」

妹友「答えないと妹ちゃんのストーカーの罪で告発しますよ?」

兄「何言ってるんだ。まあ、いいや。隠してもしようがないし」

妹友「素直ですね。誉めてあげるから言ってみなさい」

兄「昨日、妹に告って振られた」

妹友「そうですか」

兄「そうですかって、感想はそれだけ?」

妹友「当然の結末ですからね。驚く要素は何もないです」

兄「・・・・・・」

妹友「妹ちゃんには彼氏君、つまりあたしのお兄ちゃんがいるのですから、お兄ちゃんに
は勝ち目は最初からなかったんですよ。一ミリたりとも」


兄「追い討ちをかけなくてもいいよ。昨日はっきりと妹には振られたんだから」

妹友「そうですか」

兄「でも妹は言ってたぞ。別におまえの兄貴は好きじゃないって」

妹友「信じたんですか」

兄「え」

妹友「妹ちゃんがお兄ちゃんを気遣ったその言葉を、お兄ちゃんはそのまま信じたんです
か」

兄「何を言っている」

妹友「あたしのお兄ちゃんと妹ちゃんはラブラブですよ。両想いですよ。」

兄(妹は俺たちの家族の関係を壊したくなかったって言ってた。俺を振ったのだってそれ
が理由だって)

兄(そして、妹は彼氏のことは好きじゃないって言ってた。そして、俺のことが好きだ
と)

妹友「自分のことが大好きなお兄ちゃんに気を遣って、妹ちゃんもはっきりは口にできな
かったんでしょうけど、妹ちゃんはうちのお兄ちゃんにベタ惚れしてますよ」

兄「見え透いた嘘を言うな」

妹友「嘘じゃないです。何ならご自分の目で確かめて見ますか」

兄「どういうことだよ」

妹友「あたしと一緒に二人をストーキングしましょう」

兄「・・・・・・犯罪者になるのは嫌だ」

妹友「間違えました。一緒にあの二人を尾行しましょう」

兄「さっきとどう違うのかわかんねえけど」

妹友「恐いんですか」

兄「わからん」

妹友「じゃあ、はっきりと確かめた方がお兄ちゃんのためにもいいですよね」

兄「マジで言ってるの」

妹友「当然です。あ、妹ちゃん出てきました」

 妹友は俺の腕を抱えるようにして、隣の家のガレージの陰に俺を引き摺っていった。

 いつもより着飾った妹が俺が好きだった背を真っ直ぐ伸ばした姿勢のまま、俺たちの前
を足早に歩み去って行った。


短いけど今日は以上です


妹も女も可愛いが、妹友が…ぐぬぬ


<そのつなぎ方は間違ってます>




妹友「行きますよお兄ちゃん」

兄「尾行したなんてあいつにばれたら今度こそ本気で終わりだな」

妹友「ばれなきゃ済む話でしょう」

兄「それはそうだけど」

妹友「妹ちゃんの気持を直接確かめたくないんですか」

兄「それは確かめたい気もするが、どっちにしても振られたことには変わらないわけだし、
こんなことをしてどうするんだという気持もある」

妹友「お兄ちゃんが振られたのは確定的な事実であってそのことに関しては微塵も疑いが
ないことは、おっしゃるとおりですが、振られた理由についてはまだ確定していないでし
ょう?」

兄「いやあ、あいつは俺のことは好きだけど、俺と付き合うことで家族の仲が気まずくな
るのはいやだから俺のことを振ったって」

妹友「妹ちゃんは優しい子ですからね。お兄ちゃんなんかに異性としての愛情なんか欠片
もなかったとは言いづらかったのでしょう。でもこの話はさっきもしましたよね」

兄「確かにさっきも聞いたけど、別に納得したわけじゃないぞ」

妹友「だからこそ、お兄ちゃんのその曇った眼差しで今こそ真実を直接確かめるべきなん
じゃないですか」

兄「別に俺の眼差しは曇ってはいない」

妹友「濁った眼差しで確かめるべきなんじゃないですか」

兄「・・・・・・本当に尾行するの?」

妹友「もちろんです。そろそろ追跡に入らないと妹ちゃんを見失ってしまいます。さあ、
行きますよ」

兄「おい。ちょっと待てって」

妹友「急がないと置いていきますよ」

兄「おまえ足早いな」

妹友「お兄さんは歩幅が狭いようですね。一足で前方に進む距離が他の人より短いようで
す。短足な人の特徴ではありますけど」

兄「おまえさ。本当に俺のこと好きなの?」

妹友「好きですよ。兄ちゃんに振り向いてもらえるように、さっきから無理に可愛らしい
自分を演出したり、お兄ちゃんの胸がどきどきするような好意的なセリフを、毒舌を吐き
たい気持を抑えて口にしているのはいったい何のためだと思っているんですか」

兄「おまえの愛情表現は非常に特殊だというところまでは理解した」

妹友「言いがかりです」

兄「そうじゃねえ」


妹友「お兄さん」

兄「何だよ」

妹友「そろそろ駅前で人目が増えてきました」

兄「そうだな」

妹友「このままだとあたしたちは、周囲の人たちからデートに向っている可愛い女子高生
をストーキングしている怪しい二人組みだと思われかねません」

兄「それが正しい理解だと思うけど」

妹友「なので偽装工作をしましょう」

兄「何だって?」

妹友「妹ちゃんとは無関係に休日デートを楽しんでいるカップルの振りをしましょう」

兄「具体的にはどうするんだ」

妹友「手をつなぎましょう。それであたしたちは完璧に彼氏彼女の間柄に見えると思いま
す」

兄「ちょっと待て。万が一おまえと手を繋いでいるところを妹に見られたら、俺は今度こ
そ本当に破滅だ」

妹友「おかしなことを言いますね」

兄「何がおかしい」

妹友「お兄ちゃんは既に完全に破滅しているじゃないですか。実の妹なんかにマジで告白
するという社会常識や世間一般のモラルに反した行動を選択した時点で」

兄「いやいや」

妹友「それにお兄ちゃんに対する愛情なんて元から妹ちゃんの中には存在しないわけだか
ら、お兄ちゃんが誰と手を繋ごうが全く気にしないと思いますけどね。むしろお兄ちゃん
に対しては妹ちゃん関心すら抱かないと思いますよ。好きの反対は無関心ですから」

兄(こいつも妹と同じことを言うのか)

妹友「では手を握ってください」

兄(仕方ない)

妹友「そのつなぎ方は間違ってます」

兄「どうして?」

妹友「父親が幼い娘の手を引いているんじゃないんですから。周囲から恋人に見られなけ
りゃ意味ないでしょうが」

兄「どうすりゃいいんだ」

妹友「仕方ないですね。こうするんです」

兄「これは」

妹友「これが世間で言われている恋人つなぎです。お兄ちゃん、知らないんですか」

兄「見聞きしたことはあるが実際にするのは初めてだ」

妹友「勉強になってよかったですね」

兄「・・・・・・それにしてもちょっと手に力を込めすぎじゃね」


<いつもよりお洒落してますね>




妹友「下り方向の電車に乗るようですね」

兄「ホームに上がって行ったな」

妹友「このまま尾行しますよ」

兄「お、おう」

妹友「やっとその気になりましたか」

兄「ここまできたら仕方ないだろうが」

妹友「改札に入りますよ」

兄「・・・・・・」

妹友「何で改札口前で止まるんですか。妹ちゃんを見失ってしまうでしょうが」

兄「いや。それなら手を離してくれないと」

妹友「ああ。確かにそうですね。仕方ないから一瞬だけ手を解きますよ」

兄「そうしてくれ」

妹友「何してるんですか」

兄「何って」

妹友「改札を抜けたのだから手を握らないと」

兄「ああ、そか」

妹友「だからそうじゃなくて」

兄「ああ、恋人つなぎね」

妹友「そうです。やれば出来るじゃないですか」

兄「まあ、このくらいなら」

妹友「そろそろ注意してください。同じホーム上にいると発見される確率が高くなります
から」

兄「そうだね」

妹友「少し離れたところから妹ちゃんの動静を見守りましょう」

兄「わかった」

妹友「・・・・・・最初からそれくらい素直になってくれれば楽だったのに」

兄「何だって」

妹友「独り言です」

兄「そう」

妹友「妹ちゃん、いつもよりお洒落してますね」

兄「そうか?」

妹友「間違いないです。普段は付けないアクセとかもしていますし」

兄「よくわからん」

妹友「お兄ちゃんに会うくらいでそんなに気合いれなくてもいいのに」


兄(よくわからなくなってきた。あいつは彼氏からの電話を無視するくらい俺を引きとめ
ようとしていたのに、本当は彼氏のことが好きなのかな)

兄(実の兄とかいう以前に俺なんかには全然好意なんてなかったんだろうか。妹友の話し
を聞いているとだんだんそんな気もしてきた)

兄(もちろんどっちにしても妹に振られたことには違いないんだけど、その理由によって
は俺は今以上に立ち直れないくらいのショックを受けるかも)

兄(いや。そんなことはもうどうでもいいと思わなきゃいけないな。俺だって今では女と
いう彼女がいるんだし)

兄(そう考えるとこんなところで妹友と恋人つなぎをしている場合じゃない)

兄(俺何やってるんだろ)

妹友「電車が来ました」

兄「ああ」

妹友「妹ちゃんが乗り込みました。あたしたちは隣の車両から監視を続行しましょう」

兄「う、うん」

妹友「妹ちゃんさっきからずっとスマホを見てますね。メールでしょうか」

兄「さあ」

妹友「お兄ちゃんからのメールでしょうか」

兄「いや、俺は妹にはメールしてないし」

妹友「違いますよ。お兄ちゃんじゃなくてお兄ちゃんからのメールのことです」

兄「おまえさ。頼むからお兄ちゃんという呼び方を何とかしてくれないか」

妹友「いやです」

兄「だってわかりづらいじゃん。どうしても呼びたいならせめてお兄さんと呼んでくれ。
おまえの兄貴のことなのか俺のことなのか混乱する。おまえだって俺に意図するところが
伝わらないと困るだろう」

妹友「別にそれほどは困りませんけど・・・・・・まあいいでしょう。不本意ですがお兄ちゃん
のことはお兄さんと呼ぶことにします」

兄「助かるよ」

妹友「感謝してね」

兄「何でだよ」

妹友「まずい。妹ちゃんがこっちの車両を眺めてます」

兄「ど、どうしよう」

妹友「誤魔化しましょう。妹ちゃんからは顔が見えないようにしましょう」

兄「だからどうすれば」

妹友「こうしましょう」

 妹友が不意に恋人つなぎをしていた手を解き、両腕を俺の首に回した。爪先立って背伸
びした妹友は、一瞬の出来事で何が起きたかわからない俺の顔を抱き寄せキスした。


<それなら嬉しいです>




兄「な、何を」

妹友「黙って」

兄「・・・・・・おい」

妹友「妹ちゃんに不自然なカップルだと思われてはいけません。もう一度キスしましょ
う」

兄「いやいや」

妹友「早く」

兄「え」

妹友「・・・・・・」

兄「・・・・・・」

妹友「・・・・・・こういうときは鼻で息をしてください」

兄「窒息するかと思った」

妹友「どんだけ奥手なんですか」

兄「ほっとけ。それよか妹は」

妹友「こっちを見るのをやめて再びスマホを眺めてます」

兄「どうにか誤魔化せたか」

妹友「はい。あたしの機転のおかげです」

兄「機転が利きすぎだ、おまえは」

妹友「そんなにいやでしたか」

兄「いやというわけでは」

妹友「じゃあ、よかったですか」

兄「よかったというか」

妹友「どっちなんです」

兄「・・・・・・悪くはなかったが」

妹友「それなら嬉しいです」

兄「・・・・・・」

妹友「妹ちゃんがドアの方に向いました。次の駅で降りるようですね」

兄「あ、ああ」

妹友「行きますよ」

兄「うん」

妹友「手」

兄「え」

妹友「手ですよ」

兄「わかった」

妹友「お兄さんだいぶ慣れてきましたね」

兄「おかげさまで」

妹友「降りましょう」


兄「妹が改札から出て行くぞ」

妹友「残念ですが改札を抜けるために一時的に手を解きましょう」

兄「ああ」

妹友「妹ちゃん駅前広場の方に向ってますね」

兄「何かどきどきしてきた」

妹友「手」

兄「うん」

妹友「あ」

兄「どした」

妹友「お兄ちゃんが駅広の噴水前にいます」

兄「どれがおまえの兄貴だ? 人だらけでわからんぞ」

妹友「噴水前でスマホを弄っている人です」

兄「あいつか(イケメンだな。何だか勝てる気がしない)」

妹友「人の兄をあいつ呼ばわりは失礼ですよ。いくら恋のライバルだと言っても」

兄「すまん」

妹友「これ以上接近するのは危険です。この街路樹の陰から見守りましょう」

兄「うん」

妹友「あ、お互いに気がついた。お兄ちゃんが手を振ってますね」

兄(妹の反応は)

妹友「妹ちゃんも軽く手を振りましたね」

兄「ああ」

妹友「08時17分。ターゲットが接触」

兄「二人で歩き出したぞ」

妹友「どこに行くんでしょうか」

兄「さあ」

妹友「あの方向には図書館がありますが」

兄「図書館でデート? ねえだろ」

妹友「そうですか」

兄「いや。よくわからんけど」

妹友「あ」

兄「どうした? あ」

妹友「・・・・・・手をつなぎましたね」

兄「・・・・・・」

妹友「恋人つなぎですね」

兄「・・・・・・」


今日は以上です

また投下します

うぅ…これ系のスレは胃が痛くなるな


<それは異性に対する愛情じゃない>




妹友「休日だというのに二人揃って図書館に入って行きましたね」

兄「何なんだろうな。一緒に勉強でもするつもりなのかな」

妹友「お兄さんって思ったより打たれ強いんですね。見直しました」

兄「何がだ」

妹友「最愛の妹ちゃんがお兄ちゃんと恋人つなぎをしながらイチャイチャしていたという
のに、何でそんなに余裕かましていられるんですか」

兄「いや。結構距離も離れていたし、本当にそういう手のつなぎ方をしてたかどうかは確
認できなかったしな」

妹友「お兄さんの視力がいいのかどうか知りませんけど、あたしにははっきりと見えまし
たけど」

兄「あれだけ距離が離れていたのに、手のつなぎ方まで視認できるわけはないだろう」

妹友「そんなに現実逃避したいんですか。だいたいお兄さんは妹ちゃんから嫌われたわけ
だし、今さら妹ちゃんに好きな男がいるってわかったって何も事態は変らないでしょう
が」

兄「別に嫌われたわけじゃない」

妹友「何でそう思うんです? お兄さんの妹ちゃんへの愛情ははっきりと妹ちゃんに拒否
されたんでしょ」

兄「世の中にはな。互いに好きあっていてもどうしようもないことだってあるんだ」

妹友「・・・・・・なるほど」

兄「何がなるほどだ」

妹友「よく理解できました」

兄「ようやくわかってくれたか」

妹友「はい。お兄さんは現実逃避しない方が幸せになれると思います」

兄「何でそうなる」

妹友「気持はわかりますよ。妹ちゃんもお兄さんを愛している。彼女だって実の兄妹じゃ
なかったら本当はお兄さんの胸に飛び込みたいと思っている」

兄「まあそうだ」

妹友「・・・・・・そう思いたい気持ちはわかります。妹ちゃんとは本当は両想いだけど、両親
や世間への配慮から妹ちゃんが素直にお兄さんのことを好きだと言えない」

兄「・・・・・・お、おう」

妹友「そう思いたいんでしょ」

兄「自惚れるわけじゃないけど、実際にそれに近い葛藤があったんじゃないかなあ。妹の
心の中では」

妹友「あるわけないでしょ」

兄「え」

妹友「え、じゃないですよ。いい加減に現実を見つめましょうよ」

兄「・・・・・・」


妹友「妹ちゃんは優しい子です。そのことは中学高校と一緒に過ごしたあたしが一番よく
わかっています」

兄「まあ、兄貴の俺が言うのも何だが、確かにあいつは優しいな」

妹友「そうです。だから彼女はお兄さんに告られたとき、お兄さんには異性としての愛情
なんかこれっぽっちもないなんて言えなかったんですよ。そう言えばお兄さんのことを再
起不能なまでに追い詰めてしまうから」

兄「・・・・・・そうなの?」

妹友「そうです。お兄さんの告白なんて妹ちゃんにとっては気持悪いイベントに過ぎなか
ったんですよ。でも優しい妹ちゃんはそんなことをお兄さんには正直に言えなかった。な
ぜなら妹ちゃんの拒絶によってお兄さんが酷く傷付くだろうと心配したからです」

兄「何かひどく落ち込んできた」

妹友「なるべくお兄さんを傷つけずに断るためには、近親相姦とか両親との関係とかを持
ち出すしかなかったんでしょうね。本当はお兄さんのことなんて異性として考えてもいな
いのに」

兄「だけど、妹は彼氏の電話を切ろうとしてまで俺と話を続けたがっていたんだけど」

妹友「どこまで優しいんでしょうね、妹ちゃんは。そのときの電話で本当に大好きなうち
のお兄ちゃんを傷つけてしまった埋めあわせを今日しているんでしょ」

兄「それが恋人つなぎ?」

妹友「初めての登校デートのときは、そっと寄り添うだけで手をつないでなかったですか
らね。お兄さんを傷つけないように振る舞った行動の結果、妹ちゃんが大好きなうちのお
兄ちゃんを傷つけてしまった。その埋めあわせがさっきの恋人つなぎなんじゃないです
か」

兄「そうなのか」

妹友「妹ちゃんがお兄ちゃんを好きだとすると、埋め合わせは恋人つなぎくらいでは終ら
ないでしょうけどね」

兄「嫌なことを平然と言うなおまえは。証拠もない話じゃんか。俺は妹を信じるぜ」

妹友「哀れですね。お兄さんが本当に妹ちゃんのことが好きだったら、もう妹ちゃんを解
放してあげたらどうですか」

兄「俺の妹への好意ってそんなにあいつにとって重荷なのか」

妹友「妹ちゃんはね。お兄さんのことを好きだと思いますよ」

兄「はい?」

妹友「ただ、それは異性に対する愛情じゃない」

兄「・・・・・・」

妹友「お兄さんから告白された妹ちゃんは、悩んだと思います。妹ちゃんにとって異性と
して好きなのは、彼氏になって欲しいのはうちのお兄ちゃんだから。でも、妹ちゃんは自
分の兄貴に傷付いて欲しくなかった。自分の兄貴、つまりお兄さんへの愛情は異性に対す
るものじゃないけど、兄妹として家族としてお兄さんのことは好きだったんだと思いま
す」

兄「もういい」

妹友「聞いてください。だから妹ちゃんはお兄さんなんかに異性に対する愛情はないとは
言えなかった。そう言ってしまえばお兄さんが悩むしひょっとしたら自殺しかねないと思
ったから」

兄「いや、そこまでは悩んでいない」

妹友「だから彼女は便宜的に両親との関係とか近親相姦のこととかを持ち出してお兄さん
を振ったんでしょうね」

兄「わかったから、もう辞めてくれ」


<おまえのおかげで目が覚めた>




兄(自分でもひょっとしたらとは思っていたけど。他人にはっきりと口に出されると本気
で死にたくなるな)

兄(俺の気持があいつにとってそこまで迷惑だったとしたら。それなのに俺のことを想っ
て優しい嘘をついてくれていたのだとしたら)

兄(もうやめよう。妹と彼氏との関係を探る意味なんてない。妹友の言うことには残酷な
ほど説得力がある)

妹友「・・・・・・お兄さん?」

兄「ああ」

妹友「ごめんなさい。お兄さんには真実に目覚めて欲しかったんですけど、ちょっと急ぎ
過ぎました」

兄「いや。これくらいはっきりと言ってもらった方がよかったよ」

妹友「そうですか」

兄「ああ。でないと、このまま妹を監視して妹がおまえの兄貴とキスをしたところを目撃
したとしても、おれはまた都合のいい幻想でその場面を解釈しちゃったろうからな」

妹友「お兄さん」

兄「しかしおまえってよくそこまで人の気持がわかるのな」

妹友「それは」

兄「それにどうしてそこまで俺に厳しい、じゃなくて俺のことを考えてくれるんだ」

妹友「まあ、お兄さんを見るのも妹ちゃんをみるのも、あたしにとっては鏡を見ているよ
うなものですからね」

兄「え?」

妹友「いえ。何でもありません。それよりあたしたちも図書館内に侵入しましょう」

兄「俺もう帰る」

妹友「妹ちゃんとお兄ちゃんの仲を見届けないんですか?」

兄「もういいや。おまえの言うとおりだと思う。これ以上妹に迷惑をかけるわけにいかな
いし」

妹友「そうですか」

兄「ああ。今日はありがとな。おまえのおかげで目が覚めたよ」

妹友「・・・・・・それならよかったですけど」

兄「まあ、もう少ししたら引越しだしな。妹と物理的に離れれば俺も妹離れができるだろ
う。妹の方はとっくに兄離れできてるみたいだし」

妹友「そこまでは言ったつもりはないのですけど」

兄「いや。じゃあ、今日はありがと。またな」

妹友「・・・・・・またです。お兄さん」


兄(結果的にはこれでよかったんだ。自分でも感じていたはずなのに、妹への未練にしが
みついていたからはっきりと理解できなかったんだな)

兄(ショック療法みたいなものだけど、妹友のしてくれたことは結果的には俺のためにな
ったんだ)

兄(まあ、妹友も俺にキスとかはやりすぎだけど)

兄(あれは忘れよう。俺は女と付き合い出したんだし、覚えていられても妹友だって困る
だろうし)

兄(同じ大学で同じマンションの隣同士の女が俺の彼女。もう実家に住んでいる妹、しか
も好きな男がいる妹への変態的な欲望に悩むのはやめよう)

兄(好きの反対は無関心か。妹には俺に対する愛情はなかったのか。優しさはあるにして
も)

兄(妹にはこれまでどおりの関係でいるよう努力すると約束したけど、こうなったらそれ
ももう無理だ。これまでどおりに振る舞える自信なんてない)

兄(・・・・・・妹よ。弱い兄貴ですまん)

兄(家に帰って荷物をまとめよう。契約的には明日からは引越しできるわけだし、早めに
引っ越して妹のそばから消えてあげよう。その方が妹も気が楽だろうし)

兄(そうと決まれば今日は引越しの準備だ。それで引越し先から卒業式までの間、高校に
通えばいいんだ)

兄(それなら顔を会わせるたびに妹に気まずい想いをさせなくて済むし)

兄(女はいつ引っ越すのかな。俺もこれからはマジであいつのことだけを考えよう)

兄(女に電話しようかな)

兄(・・・・・・)

兄(妹は今頃・・・・・・)

兄(いや図書館だぞ。変なことができる環境じゃねえだろ)

兄(だから。そういうことを考えるのはやめよう。それにしてたっていいんだよ。俺にそ
んなことを止める権利なんかねえんだから)

兄(妹)

兄(今度こそ本当に、俺の生涯で最初で最後の妹離れをするときが来ちゃったんだな)

兄(とにかく家に帰って荷造りしよう)


<ひょっとしたら妹友って自分の兄貴のことが好きなんじゃね?>




兄(よし。そうと決めたらもう迷わず行動するのみ)

兄(荷造りをしよう。別に本格的な引越しをするわけじゃない。とりあえず見の回りの物
をもって引っ越してしまえばいいだけだ)

兄(幸いにも親は多忙で放任状態だし、母さんは部屋を一緒に決めただけで親の責任を果
たしたと思って満足しているしな)

兄(この鍵が手許にある以上、断固として引越しをする)

兄(妹にも黙って)

兄(・・・・・・いや、さすがに妹に黙ってはまずいか。両親が帰宅しなければあいつは一人で
この家で暮らすことになってしまうし)

兄(でも、俺がいない方があいつにとっては精神衛生上いいのかもしれない。たとえ両親
不在で一人きりになったとしても)

兄(それに俺がいなくなったらさっそく彼氏を家に引き込んだりして。ははは)

兄(・・・・・・自虐ネタはよそう)

兄(あれ)

兄(スマホが振動している)

兄(・・・・・・メールか)



from:妹
sub :無題
『ママから電話で今晩はパパもママも家に帰れないって。あたしも学校の友だちと遊んで
いるので少し家に帰る時間が遅くなると思うから、お兄ちゃんは適当にご飯食べてね』

『遅くなるのはママには内緒にしてね。ママすぐに怒るんだから。お兄ちゃんがあたしに
告白したことは黙っていてあげるからお願いします(はあと)』



兄(学校の友だちと遊んでいるだと。彼氏と一緒にいるくせに。おまえの学校はいつから
共学になったんだよ。しかも願いじゃなくて脅迫かよ)

兄(はあ)

兄(まあ、想定どおりの言い訳だ。妹友の言うとおりだ。やっぱり妹は彼氏のことが好き
なんだ)

兄(妹友には感謝しなきゃな。あいつのせいで俺は客観的に妹の感情に気がつくことがで
きたんだし)

兄(・・・・・・)

兄(・・・・・・何で妹友は手をつないだりキスしてまで俺に気を遣ってくれるのかな)



妹友『お兄さん、じゃなかった。お兄ちゃんのことが大好きだからですよ。妹ちゃんなん
かにお兄ちゃんは渡しませんからね』


兄(何で妹友は俺にまとわり付くんだろ)

兄(本当に俺のことが好きなのか。会ったばかりなのに)

兄(・・・・・・あれ。前に明確に否定されたけどさ。ひょっとしたら妹友ってやっぱり自分の
兄貴のことが好きなんじゃね?)

兄(今日だって、会ったばかりの俺のためというより自分のために兄貴と妹を尾行したん
じゃねえか?)

兄(確証はねえけど、ろくに知らない俺のことを好きだというあいつの言葉には相当無理
がある)

兄(そういやあいつ。俺と妹を見るのは鏡を見るようだって言ってたけど、あれってやっ
ぱりそういう意味だったのかな)

兄(・・・・・・そう考えると妹友もかわいそうなやつなのか。もう少し気を遣ってやればよか
ったな)

兄(とにかく俺はもう迷わない。引越して女と二人で暮らすんだ。いや、もちろん同棲的
な意味ではないが。そうだ早めに引っ越すってことを女に知らせておくか)

兄(・・・・・・女のやつ電話に出ねえ。付き合い出したばかりだというのに)

兄(とりあえず最小限の荷造りでもしておくか)

兄(・・・・・・よし)


妹「何やってるの」

兄「・・・・・・妹?」

妹「何でこんな散らかった部屋の床で寝ちゃってるのよ」

兄「うん?」

妹「起きた?」

兄「・・・・・・」

妹「こら起きろって」

兄「何だ何だ(目が覚めた。つうか何で妹が俺の部屋にいるんだ)」

妹「お兄ちゃん、お風呂にも入らないでこんな夜中に何やってんの」

兄「おまえ、いつ帰ったの」

妹「今さっき」

兄「学校の友だちと一緒で遅くなるんじゃなかった?」

妹「・・・・・・そうだけど。みんな家を気にして早く帰りたがってたから、思っていたより早
く帰れたの」

兄(こいつ目を逸らしやがった。何が友だちと一緒だ。男と二人で一緒にいたくせに。ま
あ、俺なんかには平気で嘘をつけるってわけか)

妹「夕食は食べたの?」

兄「忘れてたわ」

妹「あのさあ」

兄「いや、ちょっと引越しの準備をしてたら思わず眠くなってさ」

妹「引っ越しって。いくらなんでも気が早過ぎるよ。まだ卒業だってしてないのに」

兄「後期合格組のやつが参入してくると引越屋も混むしな。何事も早目早目に動くのがコ
ツだ」

妹「そうか。じゃあこれからご飯作るね。食べてないんでしょ」

兄「いやいい」

妹「・・・・・・え」

兄「いい」

妹「何で? お兄ちゃんの好きなオムライス作るよ」

兄「食欲ないし」

妹「・・・・・・お兄ちゃん、今まであたしが夕ご飯を作るって言ったら今までは必ずて食べて
くれたのに」

兄「そんなことまでしなくても、おまえの帰りが遅かったなんてチクらねえから。それに
結果的には怒られるほど遅くなってねえじゃん、おまえ」

妹「やだ。あんなの冗談に決まってるじゃん。何でマジになってるの」

兄「ごめんな」

妹「・・・・・・何で謝るの? いつもみたいに笑えない冗談で返してよ」

兄「もう寝るな。お休み」

妹「ねえ。本当にどうしちゃったの? こんなのやだよ」

兄「何か本当に疲れてるんだわ」

妹「・・・・・・お兄ちゃん」

兄「・・・・・・俺、明日から新しいアパートで暮らすから」

妹「・・・・・・何でよ」

兄「何でって」


今回はここまで

また投下します

乙です

妹友がウザすぎる


<新生活>





兄(とりあえず俺が学んだこと)

兄(大学というところはいくら講義をさぼっても、一週間行かなくても親に電話がかかっ
てこないということ)

兄(なので一人暮らしということもあって学校側から強制されない分、規則正しく大学に
行くには何らかのモチベーションが必要だということ)

兄(思うに学問すること自体が大学進学の目的になっているやつは別として、ほとんどの
連中は友だちと会うとかサークルに行くとかそう言う動機で大学に通っているのだろう。
つまり講義はそのついでと言ってもいいな)

兄(まあ、以前からわかってはいたことだけど、ぼっちが通学し続けるのには相当なイン
セティブがない限りは血の滲むような努力が必要になる)

兄(そこで負けたやつには留年とか中退とかそう言う道が待っている)

兄(言うまでもなく、半ば予想したとおりだが俺には大学で新しい友だちができなかっ
た。まあ、そのために努力したかと問われれば微妙だけど)

兄(・・・・・・)

兄(それなのに、俺がこれまで一度も講義をサボっていない理由。しかも体育実技も含め
てだけど)

兄(それはまあ)

女「ほら、もう行くよ。さっさと支度しなさいよ」

兄「わかってるって」

女「何よその顔。たかが夜中の三時まで一緒にゲームしてたくらいで何でそんなに憔悴し
きってるのよ」

兄「俺はもともと一日八時間は寝ないと元気が出ねえんだよ。だからもう止めて寝ようっ
て言ったのに」

女「勝ち逃げ禁止」

兄「もともとコンシューマーのゲームは好きじゃないんだよな」

女「何わけのわからない外国語を使って誤魔化してるのよ」

兄「いや。パソゲーの方が好きで」

女「ああ、エロゲのことか。確かに昔からあんたはそういうの好きだったんっだってね」

兄「なぜそれを。この年まで誰にも知られたことがないはずなのに」

女「『あかね色に染まる坂』、『ヨスガノソラ』、『SuGirly Wish』、『初恋』、『思春
期』、『絶対妹至上主義』。まだあったけど、メモしといたのはこんなところかな」

兄「なぜそれを」


女「あんたのPCを家捜ししたら出てきた。全部実の妹とエッチするゲームじゃん」

兄「・・・・・・言いわけしていい?」

女「しなくていいよ」

兄「え」

女「あんたシスコンなんでしょ? 妹ちゃんにマジで告白するくらいの。だから今さらこ
んなので驚かないよ。そりゃ、ロリコンモノとか熟女モノとか女教師モノとか出てきたら
引くけれども」

兄「ああ、それはない。安心して」

女「でもちょっと寂しいなあ。同級生モノとかないの?」

兄「あ、あるよ。昔のゲームの復刻版だけど」

女「そう? あんたも同級生の女の子と付き合う願望とかあったんだ。何か嬉しい」

兄「え? あ、まあ」

女「まだ大学行くまで時間あるからさ。さわりだけ見せてよ」

兄「(ここはシスコンの汚名を晴らして女ラブなところをアピールするチャンスだ)
いいよ。ちょっと待って」

女「まだ?」

兄「よし。起動した。オープニング画面をカットして」



『同級生2』



唯『お兄ちゃん?』

主人公『なんだ唯か』



女「・・・・・・ねえ。何でこの女はお兄ちゃんって言ってるの?」

兄「(しまった)ち、違う。唯は妹じゃなくて」

女「ふふ」

兄「え」

女「慌てるなバカ。こんなことくらいで動じるあたしじゃないって」

兄「いや唯は別に実の妹キャラじゃ」

女「あんたのそういうとこも含めて好きになったんだから」

兄「う、うん(本当に唯は妹キャラじゃないんだけどなあ)」

女「じゃあ、行こう。今日はニ限から講義だよ」

兄「おう」


<じゃあ、何であたしに手を出さないの?>




女「ねえ」

兄「うん?」

女「あんたさ。あたしのことうざいとか思ってない?」

兄「別に思ってねえけど」

女「本当?」

兄「うん。何で突然そんなこと聞くの」

女「だってさ。中学高校のときは単なる友達同士だったでしょ? あたしたちって」

兄「ああ。おまえには彼氏もいたしな」

女「それがさ、今では大学にいるときも、大学への行き帰りも家に戻ってからもずっと一
緒じゃん」

兄「まあ、履修登録のときに同じ授業ばっか登録したし、アパートの部屋は隣同士だし自
然とそうなるよな」

女「そのうえ夜はいつもどっちかの部屋でゲームしたりお酒飲んだりしてるじゃない?」

兄「うん」

女「あたしってうざくない?」

兄「全然そんなことは思ってねえよ。それよかバス来たぞ。あれに乗らないと二限がやば
いぞ」

女「うん」

兄「何とか間に合ったな。あそこに席が空いてるから座ろうぜ」

女「・・・・・・」

兄「何だよ」

女「本当にうざいって思ってない?」

兄「思ってねえよ(ちょっとだけうぜえ)」

女「じゃあ、何であたしに手を出さないの? 一緒に暮らし出してもう一月以上経つの
に」

兄「何でって言われても。手を出すってどういう意味?」

女「ばか。何度も言わせるなよ」

兄「・・・・・・俺。童貞だし経験ないし」

女「はあ? んなこと聞いてないよ」

兄「でもよ」

女「この一月、毎日一緒に登校して学内でも一緒にいて、帰りも一緒。帰ってからもどっ
ちかの部屋で食事してゲームしたりテレビ見たりしたでしょ」

兄「うん」

女「なのに何でキスもしないの? 何でシャワーから出てきたあたしから目を背ける
の?」


兄「あのさ」

女「・・・・・・」

兄「悪い。でも、おれそういうスキル皆無なんだよね」

女「何でよ。あんた昔からもててたじゃん。言いわけしないでよ」

兄「誤解するなよ?」

女「うん?」

兄「俺って昔から妹しか見えていなかったし。でも妹にそういうことをするなんて、それ
は脳内ではあったことはあったけど、実際にそんなことをしようなんて思ったこともなか
ったんだよね」

女「何が言いたいのよ」

兄「だからさ。うつ伏せに寝転んでゲームしているおまえに、そのムラムラしたことはあ
ったけど知識と経験と、何より勇気がなくてさ」

女「はあ? 何それ」

兄「笑うなよ。しかもそんなに大声で」

女「あはは。でもまあいいか。そういうことなら許してあげるよ」

兄「何で上から目線なんだよ」

女「別にそういうわけじゃないよ。でもまあいいか。気は晴れたし。じゃあ、これからは
お姉さんがリードしてあげるよ」

兄「おまえ俺と同い年だろうが。つうか誕生日だけ言えば俺の方が年上だ」

女「どうも兄とは経験値が違うみたいだしね」

兄「何を偉そうに。おまえだって兄友しか経験ないんだろうが」

女「え」

兄「それとさ。兄友はおまえにすぐに手を出したりしたの?」

女「・・・・・・」

兄「あ、すまん。その」

女「・・・・・・気になるの?」

兄「いや。そう言うわけじゃ」

女「・・・・・・着いたね。バス降りよ」

兄「うん」


<ダーリン?>





女「じゃあ、しばらくお別れだね。ダーリン」

兄「周囲のやつらがいちいち反応してるんですけど」

女「勝手に妄想させておけばいいじゃん。あたしとあんたのラブラブの仲を」

兄「だって恥かしいじゃん」

女「気にし過ぎだって。周りだってカップルなんて山ほどいるって」

兄「それはそうかもしれないけど」

女「しかし履修登録で完璧にあんたと一緒に過ごせるように計画したはずなのに」

兄「まあ、必修の体育実技だけは男女別だしな」

女「寂しいよダーリン」

兄「ああ、はいはい」

女「ダーリン冷たい」

兄「そろそろ更衣室行かないと体育に間に合わないぞ」

女「ダーリン?」

兄「そう呼ぶのよせって。何?」

女「あたしの着替え覗きたい?」

兄「てめえ。わざとやってるな」

女「ダーリン恐い」

兄「さっさと行け」

女「二号館のロビーで待ち合わせね」

兄「わかった」

女「じゃあ、体育頑張ってね」

兄「ほい。そっちもな」


兄(じゃあ俺も男子更衣室行こう。確か今日はストレッチするとか言ってたな)

兄(大学に入ってまで体育とかうぜえ)

兄(しかし、女がいなかったら絶対この単位は落としていたな。無理矢理朝起こされて連
れて来られるから何とか履修できているんだし)

?「兄じゃねえか」

兄「な、何だ」

?「おーい。久し振りじゃんか」

兄「(げ。今三番目に会いたくないやつが)おう。兄友じゃんか」

兄友「同じ大学に入ったのにおまえと会えたのは初めてだな」

兄「お、おう。そうだよな」

兄友「おまえこれから講義?」

兄「体育実技なんだけど」

兄友「何だよ。真面目にそんなの受けてるのかよ」

兄「だって必修じゃん」

兄友「体育実技は出席取らねえからさ。真面目に出席するだけ損だって」

兄「え。マジで?」

兄友「おう。サークルの先輩に聞いたんで間違いねえよ」

兄「これまで真面目に出席して損した」

兄友「おまえって情報に疎いのな。こんなの常識だぜ」

兄「まあ、友だちができないんでろくに話してないからな」

兄友「何だよ、おまえ。大学に入ってもぼっちなのかよ」

兄「ほっとけ」

兄友「まあそういうわけで、体育なんか出席しなくても平気だからよ。ちょっとどっかで
話そうぜ」

兄「おまえ講義は?」

兄友「ダチに出席票頼んできたから、出なくても平気だよ」

兄「・・・・・・」

兄友「じゃあ、行こうぜ。俺、今日はおまえを探してたんだよな。ちょうどよかったぜ」

兄「何なんだ」


<後輩の子にはめられたんだ>




兄「へえ。チェーンのカフェじゃなくこういう昔ながらの学生街の喫茶店みたいな店って
あるんだな」

兄友「おう。こういう店は先輩たちに教わらないとなかなか発見できないけどな」

兄「なるほどね」

兄友「ところでさ、今日はここは俺が奢るよ」

兄「別にいいって」

兄友「いや。その代わりに聞きたいんだけどよ」

兄「何を?」

兄友「言い難いんだけどさ。俺、女と別れたんだよな」

兄「ああ(つうかそんなことは女本人から聞いて知ってるつうの)」

兄友「驚いたよな? 俺さ、女を傷つけちゃったんだ」

兄「そうか」

兄友「驚かないのか」

兄「女から聞いたから」

兄友「そうか。まあ、おまえと女って前から仲良かったしな」

兄「そうでもねえよ」

兄友「たまにお前らが一緒にいるところを見ると、俺とおまえといったいどっちが女の彼
氏なんだって嫉妬したことがあるよ」

兄「おまえ、アホか」

兄友「まあいいや。俺さ、後輩の女の子に手をつけちゃってよ」

兄「手をつけるって? 手でもつないじゃったのか? それも恋人つなぎとか」

兄友「そんなんなら悩まねえよ。後輩の子を抱いちゃったんだよ」

兄「え」

兄友「笑えるだろ? そうなっちゃったらもう逆らえなくてよ。結局後輩の子の前で女を
振ることになったんだけど」

兄「実はそれは聞いた。あいつ、泣いてたぞ」

兄友「そうか。でも、本心じゃなかったんだ」

兄「それ、女に言っても信じないと思うけど」

兄友「本当だって。俺は後輩の子にはめられたんだ。妊娠したって言われて」

兄「何それ」


兄友「そう言われたら責任とるしかねえだろうが。俺だってつらかったけど、後輩に言わ
れたとおり女を振ったんだよ。俺はおまえより後輩の方が好きだから別れてくれって」

兄「・・・・・・」

兄友「あいつは別れてくれたよ。泣きながら、本当に悲しそうに泣きながら」

兄「で? 結局おまえはどうしたいの」

兄友「昨日さ、きっぱりと後輩ちゃんとは別れてきた。だって、あいつの妊娠って嘘だっ
たんだぜ。俺を女から奪おうとしたんだって」

兄「でもよ。おまえ、子どもができるようなことしたんだろ? 女がいるのに」

兄友「わかってる。でもあれは遊びのつもりだったんだ。女が許してくれるなら復縁した
い。女と一緒にこの大学で青春したい」

兄「おまえさ。その後輩とは別れたの?」

兄友「まあ。女とよりを戻せたら本気で別れる」

兄「まだ別れてないんだな?」

兄友「だってよ・・・・・・」

兄「おまえ、ふざけんな。どんだけ女が悩んだと思ってるんだよ!」

兄友「何でおまえが怒るんだよ。おまえは女じゃなくて俺のダチだろ」

兄「おまえはもう女に関わるな」

兄友「何でだよ? てめえに言われる筋合いはねえよこのシスコン野郎」

兄「・・・・・・女はおまえを忘れようとして努力してるんだ。おまえは黙ってフェイドアウト
した方がいいよ」

兄友「おまえさ。やっぱり女のこと狙ってるだろ。シスコンとかフェイクかましながら」

兄「・・・・・・」


<恐いよー。だからチューして>




女「おい。何で校外の喫茶店にいるんだよ。噴水のところで待ち合わせっていったじゃ
ん」

兄「あ、悪い」

兄友「女」

女「え・・・・・・。何で? 何で兄友が兄と一緒にいるの」

兄「気にしなくていいよ。次の講義に行こうぜ」

女「え、えと」

兄友「待ってくれ、女。俺が悪かったからちょっとだけ話を聞いてくれ」

女「・・・・・・どういうこと」

兄友「女。この間は本当に悪かったけど、俺は間違っていた」

女「何言ってんだてめえ」

兄友「悪かった。俺どうかしてたんだ。大切なおまえにあんなひどいこと言うなんて」

女「何? あんた今さら何言いたいの」

兄友「後輩ちゃんと浮気しちゃったのは事実だよ。本当に悪い。受験で気が立っていたし
おまえとも滅多に会えないところに付け込まれてさ。そんで妊娠したから責任取れって言
われて。もうそうなったら仕方ないと思って。本当にごめん」

女「はあ?」

兄友「悪い。本当に悪い。でも、やっぱり俺にはおまえしかいないんだ。頼むから俺とや
り直してくれ」

女「・・・・・・まあ、いいか」

兄(え?)

女「許してあげるよ。兄友が無節操なことなんて最初からわかってたしね」

兄(兄友のこと許すのかよ。俺、また失恋するの?)

兄友「ごめん。でも、今はおまえだけだよ。二度と他の女には目もくれないと誓うよ」

女「あはは」

兄友「え?」

兄(え?)

女「わかった。兄友のことは許すよ。それにそんなにあたしに気を遣わなくていいって」

兄友「許してくれるのか」

女「うん。許すよ」

兄(・・・・・・まあ、俺なんかじゃこんなもんか。女がこれで幸せなら何も言うまい)

兄(大好きな妹。てかなんでこんな修羅場で妹のことを思い出すんだろう)


兄友「じゃあさ、仲直りのしるしに今夜一緒に」

女「はあ?」

兄友「え」

女「兄友のことは許したよ。でも、何でそれが今夜一緒にとかってなるわけ?」

兄友「だってよ。せっかく復縁したんだし」

女「してないし」

兄友「だって俺のこと許してくれたんだろ」

女「あんたがあたしを振ったことは許した。でも、誰があんたと復縁するなんて言っ
た?」

兄友「え? そんなのねえよ」

女「あたしにはもう大好きなダーリンがいるんだし、あんたなんかとやり直す気なんてな
いよ」

兄友「おい。ふざけんなこのビッチ」

女「きゃあ恐い。ダーリン助けて」

兄「え」

女「兄君、助けて。恐いストーカーがあたしを襲うとしてるの」

兄「えと」

兄友「・・・・・・そういうことかよ」

女「そういうことよ。理解できたならさっさと消えて。せっかく許してあげたんだから」

兄友「おい兄。てめえはどこまで節操ねえんだよ。実の妹を好きになるわ、挙句に親友の
女に手を出すわ」

兄「ちょっと待てよ」

兄友「このままじゃ済まさねえからな」

女「きゃあ、恐いよう。兄君、あたしを抱きしめて」

兄「お、おい」

女「何よ。あたしの彼氏ならもっと強く抱きなさいよ」

兄友「お前ら、俺をコケにしたことを後悔させてやる」

兄「おい女」

女「兄~恐いよー。だからチューして」

兄友「・・・・・・ふざけるな。おまえらいい加減に」

兄「これでいい?」

女「うん。うふん、何か暖かい」

兄友「・・・・・・」


今日は以上です

また投下します

兄友さん、低能の臭いがプンプンするぜぇ!

まだかなまだかな

なかなかに心臓に悪いな

昨日は更新なかったなぁ

ここをキャンプ地とする!


<まだ少しだけ兄友に気があるからじゃねえの?>




女「あはは。あいつの顔見た? 面白かったねえ」

兄「おまえ兄友に全然未練ないの」

女「ないよ。あいつの顔なんか二度と見たくないって思ってたけど、あたしとあんたがキ
スしたときのあいつの顔ったら超面白かったし。あいつと会えて結果オーライだったね」

兄「そうかな・・・・・・って、おまえキスしているときは目閉じろよ」

女「細かいことは気にすんな」

兄「気になるって。俺だけ目を瞑ってたらバカみたいじゃんか。まあいいけど」

女「ごめん。これからはちゃんと目を瞑るから」

兄「いや、まあいいけど」

女「うん」

兄(可愛い笑顔。今まで全然気がつかなかったな)

兄「おまえさ」

女「なあに」

兄「(う。可愛い)そのさ。兄友ってある意味後輩の子に騙された被害者じゃん?」

女「うん?」

兄「いやさ。確かに二股かけてたのは最低だけどさ。結局後輩の子が妊娠してないってわ
かったらあいつはおまえを選んだんでしょ」

女「だから何が言いたいのよ」

兄「いやさ。ちょっとは心を動かされねえのかなって思って」

女「あんたバカ?」

兄「いや」

女「あたし言ったでしょ? 兄友と付き合っていてもあんたのことが忘れられなかったっ
て」

兄「うん。わかってる」

女「じゃあ何でそんなこと言うのよ」

兄「だってさ。兄友が慌てている様子を見てさ」

女「何よ」

兄「兄友につらい思いをさせられたから、あんな腹いせみたいなことをして気が晴れたん
だろ」

女「うん。すっきりしたよ」

兄「それってまだ少しだけ兄友に未練があるからじゃねえの?」

女「そんなわけあるか」

兄「ならいいけど」

女「何でそう思ったのよ」

兄「いや。好きの反対は無関心らしいからさ。さっきのことで気が晴れたっていうことは、
まだ兄友に対して無関心になっていないからじゃねえの」


女「あんたも意外とよく考えているのね」

兄「何か変なこと言ってごめんな」

女「ううん。でも、本当にあいつには未練なんかないのよ。ただ、あんな振られ方して悔
しかったしさ。見返してやれて嬉しかっただけ」

兄「そう。まあ、何となくそういうのってわかる気がするよ」

女「うん。でももうすっきりした。これで本当にあいつとはおしまい」

兄「そうか」

女「お互いに振られて始まった交際だけどさ。あたしはもう元彼には何の未練もないよ。
あんたの言うとおり無関心。そういう意味ではやっぱりさっきあいつと会ったのは無駄じ
ゃなかったんだね」

兄「・・・・・・そうか」

女「正直あいつのことを少し引き摺っていたからね。これですっきりした」

兄「よし。わかったよ。変なこと言って悪かったな」

女「あんたは?」

兄「へ」

女「あんたもまだ失恋を引き摺ってるんでしょ」

兄「正直に言うとな」

女「うん」

兄「まだかなり引き摺っている」

女「まあ無理もないか。ついこの間のことだもんね」

兄「まあな」

女「じゃあ、次はあんたの問題を解決しようよ」

兄「何だって?」

女「あたしだけすっきりしたんじゃ不公平じゃん? それにあたしだって自分の彼氏に
はあたしだけを見て欲しいし」

兄「すまん。おまえが何を言っているのかわからん」

女「簡単なことなのに。何でわからないの?」

兄「何でと言われてもわからないものはわからないし」

女「今日のあたしの置かれた状況を自分に置き換えてみなよ」

兄「へ」

女「あ、やばい。次の講義が始まっちゃうよ。急ごう」

兄「ちょっと、待て。おまえ何言って」

女「なるべく後ろの席がいいな。そこで講義中に考えてなよ」

兄「待てって」


<つうかおまえ前とキャラ変わりすぎ>




女「こら起きろ」

兄「うおっ」

女「あんたちょっと寝すぎ」

兄「悩んでるんだよ言わせるな」

女「本気で悩んでいるやつがあんなに気持ち良さそうに眠るか」

兄「まあ、春だし寝不足だし。でも悩んでいるのは嘘じゃねえよ」

女「迷うことないじゃん。妹ちゃんを見返してやれよ」

兄「いや、俺は別にそういうのは」

女「何で? 妹ちゃんに振られたことがまだ割り切れないんでしょ?」

兄「うん。今でも胸の中はぐちゃぐちゃだよ」

女「あたしが彼女になったのに?」

兄「あ」

女「やっぱりね」

兄「ち、違う。つうかごめん」

女「どっちだよ」

兄「悪い」

女「ずっと妹ちゃんに黙っているつもり? あたしと付き合っていること」

兄「いや。そんなつもりはねえけど」

女「けど何? まさかあたしと付き合っていることを妹ちゃんに知られたら、妹ちゃん
が傷付くとでも考えている?」

兄「いくら何でもそこまで楽天的じゃねえよ」

女「じゃあ未練がある? あたしと一緒のところを見られたらもう本当に妹ちゃんと終っ
ちゃうとか考えてる?」

兄「そうじゃねえよ」

女「じゃあ、あたしのこと妹ちゃんに紹介して。俺の彼女だって」

兄「・・・・・・」

女「・・・・・・」

兄「・・・・・・あのさ」

女「ごめん」

兄「え?」

女「ごめん。ちょっと急ぎ過ぎた。やだな、あたし。これまで付き合ってたときだってこ
んなに嫌な女になったことないのに」

兄「いや。多分俺が優柔不断なせいだよ」

女「・・・・・・あたしのこと嫌いにならないで」

兄「え? つうかおまえ前とキャラ変わりすぎ」

女「今日、あんたの部屋で寝てもいい? もう妹ちゃんのことは言わないから」

兄「別に・・・・・・いいけど」


兄「ずいぶん買い込んだな」

女「まあ、ちょっと気合入れてるんでさ」

兄「休みの日に昼飯作ってくれるのは初めてだな」

女「ふふ。そうだね」

兄「長い付き合いだけど、おまえって本当に料理とかできちゃうの?」

女「ふふふ」

兄「何だ?」

女「意外性とかってマンネリの最良のスパイスなんだって」

兄「マンネリってまだ付き合ったばっかじゃん」

女「ちょっと早いけどさ。何か本能的にやばい気がして」

兄「何で? 俺は別に」

女「自分じゃわからないものなのかもね」

兄「本気でおまえの言うことはわからん」

女「まあいいよ。あんたがどんなに妹ちゃんのことを好きだったとしても、絶対にあたし
の方に振り向かせてみせる」

兄「つうか、もう俺さ。おまえに告ったじゃんか」

女「え」

兄「・・・・・・だからさ。恋人同士になったんだろ、俺とおまえって」

女「うん」

兄「だからさ。もういいじゃん。兄友のことも妹のこともさ」

女「本気で言ってる?」

兄「ああ」

女「信じちゃうよ」

兄「何だよ。信じていいよ」

女「・・・・・・本気にするからね」

兄「女?」

女「何でもない。ご飯作るからもう邪魔すんな」

兄「お、おう。わかった」


<オムライス>




兄「おまえのオムライス、マジうめえ」

女「ほんと?」

兄「本当だよ。俺の母親って仕事してるから夕飯作ってくれなかったからさ」

女「あんたとはよく話していたのにそんなこと知らなかったよ。そういや昼がいつも購買
のパンか学食だったね。じゃあ、高校のときは朝と夜は食事はどうしてたの」

兄「朝は抜き。夕飯はコンビニ弁当とか」

女「とか?」

兄「あ、うん。まああと。その・・・・・・妹が」

女「・・・・・・妹ちゃんがあんたのご飯を作っていたわけか」

兄「ま、毎日じゃないぞ。妹も忙しかったし」

女「アホ。そんなことまで聞いてないでしょ」

兄「まあな」

女「・・・・・・」

兄「何だよ」

女「もっと食べてよ」

兄「ああ。しかしおまえって意外と家庭的なのな」

女「何言ってるの」

兄「料理スキル高えよな。これじゃ兄友だって未練がましいわけだ」

女「ばか。家以外で料理したのなんてこれが初めてだっつーの」

兄「そ、そうか。光栄だな」

女「何で目が泳いでるのよ」

兄「これもうめえ。おまえいい奥さんになるよ」

女「・・・・・・」

女「やめてよ」

兄「マジだったのに」

女「・・・・・・ばか」


女「ってあれ」

兄「チャイム鳴ったな。誰か来たのかな」

女「・・・・・・出て」

兄「おう」

女「早く帰ってきてね」

兄「宅配便だろ」

女「早く帰ってきてね」

兄「お、おう(可愛い)」

兄「はい。今開けます・・・・・・って、え?」

妹「来ちゃった」

兄「・・・・・・・何で」

妹「何でって」

兄「えーと」

妹「ママから預かったの。通帳と銀行のカードをお兄ちゃんに持ってけって」

兄「そうか」

妹「うん」

兄「それでわざわざ来てくれたの」

妹「ええとね。あと話もしたいなって思って」

兄「話って」

妹「・・・・・お兄ちゃん」

兄「うん」

妹「・・・・・・違うよ」

兄「(え? 何が違うんだ)何が」

妹「だから電話のこと」

兄(何が電話だ。何が違うだ。俺は恋人つなぎをして図書館に入っていったお前らを見て
るんだよ)

妹「あのさ。お兄ちゃん。あたし本当は」

女「兄? どうしたの」

妹「誰かいるの?」

兄「あ、いや」

女「あ、妹ちゃんだ。やっほー」

妹「・・・・・・女さん」

兄(どうしよう。何て言い訳しよう)

妹「何で女さんがいるの?」

兄「いやこれは」

女「妹ちゃんお久さしぶり~」

妹「どうも」

兄「あのさ」

妹「・・・・・・真面目に悩んだあたしがバカだった」


女「妹ちゃん一緒に飲もうよ、じゃない。一緒にオムライス食べない?」

兄「だからおまえは少し黙っとけ」

女「何でよ」

妹「・・・・・・あたし帰る。カードと通帳は置いとくね」

兄「ちょっと待て」

妹「・・・・・・腕痛い。離してよ」

兄「いきなり帰ることはねえだろ。そんなに俺の顔が見たくないのか」

妹「さっきまではすごくお兄ちゃんに会いたかった。顔も見たかった。お兄ちゃんは四月
から一度も家に帰って来てくれないし。でも、もうお兄ちゃんの顔なんか二度と見たくな
い」

兄「だから何で突然そうなる」

妹「悩んだのに。お兄ちゃんのこと傷つけちゃったって本気で悩んでたのに。お兄ちゃん
はもう女さんを部屋に連れ込んでるんだ。そんな程度の軽い想いで人に告白したりする
な!」

女「妹ちゃんもしかして怒ってる?」

妹「もしかしなくても怒ってます。ていうか女さん?」

女「なあに」

妹「兄友さんがいるのに、何でこんなやつと二人きりでいるんですか」

女「兄友とは別れたもん。そんで今ではあたしの彼は」

兄「ちょっと待て」

女「何で? あたし兄とは」

兄「あ~あ~あ~! 何も聞こえない」

妹「ちょっと黙れ。女さんの話が聞こえないでしょ」

兄「いや、これはその」

女「妹ちゃん。あたしと兄はお付き合いしてるの。お互いラブラブな仲なの。昨日だって
一緒にこの部屋で寝」

兄「・・・・・・もうよしてくれ。いっそ一思いに殺してくれ」

妹「・・・・・・」

女「妹ちゃんにだってわかるでしょ? あなたにだって年上の素敵な彼氏がいるみたいだ
し」

妹「誰に聞いたんですか」

女「誰って兄に決まってるじゃん」

妹「お兄ちゃん・・・・・・知ってたの」

兄「いや。知ってたというか知らされたというか」

女「あたしも見たよ。一緒に登校している妹ちゃんたちの姿を。彼、背高いね。何か寄り
添っちゃって超ラブラブって感じ?」

妹「・・・・・・あなたには関係ないでしょ」


女「関係あるよ。あたし、兄の彼女だもん」

妹「・・・・・・あたし帰る」

女「妹ちゃん何で不貞腐れてるの?」

妹「別に」

女「あんたさあ。兄とは付き合えないって言って兄のこと振ったんでしょ」

妹「そんなことまでペラペラ喋ったの? お兄ちゃん最低」

女「最低はあんただよ妹ちゃん」

妹「・・・・・・あなたなんかに言われたくありません」

女「じゃあさ。今日はいったい何しに来たの? 休日なのにわざわざ」

妹「通帳とカードを」

女「そんなの書留で送ればよくない?」

妹「・・・・・・」

女「自分は兄のことを振って彼氏とベタベタしてるくせに、兄があんたを忘れようとして
彼女を作ったら今度は兄に嫉妬かよ。答えてみ? 今日は本当は何しに来たの」

妹「あなたには関係ないでしょ」

女「当ててあげようか? どうせ妹ちゃんに振られて落ち込んでいるはずのお兄ちゃんを
慰めてあげよ! とかって軽い気持で来たんでしょ。自分には彼氏がいるくせに」

妹「ち、違う」

女「そしたら兄の部屋に彼女がいたんでかっとなったてところでしょ。自分は彼氏がいて
兄を振ったくせに、その兄に彼女ができることが許せないんでしょ。あんた、どこまで身
勝手なのよ」

兄「いや。妹だってそこまでは考えてないよ。もうよせよ」

女「あたしはあんたが妹ちゃんに軽く扱われているのが気に入らないの。どうせ兄のとこ
ろに来るなら、彼氏と別れて兄に告白するくらいの覚悟で来いっつうの」

妹「・・・・・・らないくせに」

女「何言ってるのか聞こえませ~ん」

妹「あたしのことなんか何も知らないくせに。お兄ちゃんもあんたも大嫌い」

兄「ちょっと待て」

妹「うるさい! 離せ」

兄「おいって・・・・・・行っちゃった」

女「追い駆けちゃだめ」

兄「妹にあそこまで言うことはねえだろ。いったい何考えてるんだよ」

 俺は切れ気味に女を問い詰めた。女は俯いた。妹に話していたときの威勢の良さはもう
全く感じられなかった。

「ごめん」

 女の目には大粒の涙が浮かんでいた。問い詰めようとした俺は女のその様子に躊躇した。

 その場を嫌な沈黙が漂った。床には妹が置いていった通帳とカードの他に布製の小さな
手提げ袋が放置されていた。泣いている女に何と話しかけていいかわからなかった俺は、
時間稼ぎにその手提げを覗いた。

 その中には妹が作ったらしいオムライスを収めた透明なタッパーが入っていた。


今日はここまで

また投下します

あああぁぁ・・・いいところでぇ・・・

いっそ一思いに殺してくれ・・・

あーもう終わりか
すげぇ面白いぞ、続き待ってる

これでやっぱ妹が好きだからって女ちゃんと別れるのはなぁ…
前に似たようなスレあったけど最後までモヤモヤしたから、こっちには期待

妹は世間体とか親とか気にして振っただけで
ホントはお兄ちゃんのことが大好きだったっていうのに期待


<妹友>




『もはや愛してくれない人を愛するのは辛いことだ。けれども、自分から愛していない人
に愛されるほうがもっと不愉快だ』

『~ジョルジュ・クールトリーヌ フランスの劇作家、小説家』

兄(愛してくれない人を愛するのは辛いなんて当たり前だ。こんなのは格言でも何でもな
い)

兄(でも後半とセットになるといきなり人生の真実みたいに感じられるから不思議だ)

兄(でも俺は違うよな。確かに愛してない人に愛されるのは別に嬉しくもないのかもしれ
ないけど、俺には女への愛情は確かにある・・・・・・はずだ)

兄(妹が帰ったあと、女も今日は自分の部屋に帰るねって言っていなくなっちゃった)

兄(そして食卓の上には食いかけの女が作ってくれたオムライス)

兄(手提げの中のタッパーには妹が作って来てくれたオムライス)

兄(妹は逃げるように帰っちゃったし。女も泣いて部屋に戻っちゃったし。)

兄(どうしたものか。つうか妹と女を泣かせたのってもしかして俺のせい?)

兄(俺は妹に振られたわけだし、理論的に因果関係を整理すればどちらかというと泣いて
もいいのは俺の方だと思うんだけどなあ)

兄(それに女に至っては一方的に妹を責めてたわけで、何で女自身が泣く理由があるんだ
ろう)

兄(う~ん)

兄(・・・・・・そもそも妹は今さら俺のところに何しに来たんだ。女が言ってたとおり優越感
混じりの同情か。いや。妹はそんなことをするようなやつじゃない)

兄(そもそも昔から妹は我が家のアイドルだった。父さんも母さんも俺も、皆妹が大好き
で、妹の塾への送迎とか買物に付き合うときとかは妹のエスコート役を取り合いしてたく
らいだ)

兄(それでも妹はそれに付け上がるでもなく、いい気になってわがままを言うわけでもな
かった。本当に性格のいい優しいやつだった。だから女の言っていることは多分違う)

兄(何で妹は女に反論しなかったのかなあ)

兄(俺なんかが恋愛対象なんて考えられなかったのか、それとも兄妹の交際を嫌ったんの
かはさておいて、あいつの性格なら自分が振った俺の気持を考えてつらくなったのかもし
れないな。それにあいつは家族が大好きだったから、俺とも普通の兄妹関係に戻りたかっ
ただけなのかも。家族を壊したくなくて)

兄(そのためにオムライスを作って俺に会いに来たのかな)

兄(・・・・・・それとも)

兄(あいつ言ってたよな)


妹『ええとね。あと話もしたいなって思って』

妹『・・・・・お兄ちゃん』

妹『・・・・・・違うよ』

妹『だから電話のこと』

妹『あのさ。お兄ちゃん。あたし本当は』



兄(あいつはこのあと何を言おうとしてたんだろうな)

兄(・・・・・・いや。この目で見たことだけが現実だ。彼氏と手を恋人つなぎして寄り添って
歩いている妹を俺はあのときはっきりと見た)

兄(結局あれが全てだ。妹の曖昧な態度に対する俺の勝手な期待なんかで否定できるほど
、あれはやわな証拠じゃない)

兄(・・・・・・)

兄(とりあえずオムライスどうしよう。どっちのも通常サイズの1.5倍はあるサイズだ
から両方合わせて三人前のくらいの量だな。どっちを優先して食えばいいんだ)

兄(だから俺は優柔不断なんだ。考えるまでもなく彼女のオムライスが優先だろうが)

兄(でも妹のオムライスもわざわざ俺のために作ってここまで持ってきてくれたんだよ
な)

兄(妥協案で行くか。食べかけの女のオムライスは今食べて、晩飯に妹のオムライスを食
おう。冷蔵庫に入れておけば大丈夫だろう)

兄(明日も休日だけど、女と会えるのかな。このままでは気まずい)

兄(いや、妹の方も何とかしなきゃいけないんだけど)

兄(・・・・・・とりあえず女のオムライスを食っちゃおう)


<年上なんだから譲歩してください>




兄(チャイム? こんなに朝早くから?)

兄(女かな。とにかく女を逃がさずに俺の気持を伝えて)

兄「今開けるよ」

妹友「おはようございます」

兄「・・・・・・」

妹友「おはようございますお兄さん」

兄「何でいるの」

妹友「お兄さんに合いに来たからです。いちいち聞くことですか? それって」

兄「いやいや。おかしいだろ。だいたい何で俺の住んでいる場所を知ってるんだよ」

妹友「ふふ」

兄「ふふじゃねえ」

妹友「世の中にはお兄さんが知らない方が幸せな特別なコネとかルートとかがあるんです
よ」

兄「妹から聞き出しやがったか」

妹友「なぜそれを? まあそうなんですけど。お兄さん、部屋には入れてくれないんです
か」

兄「何の用だよ」

妹友「それとも部屋に入れるとまずいことでもあるんですか」

兄「別に何もねえよ」

妹友「よくそんなことが言えますね。どの口が言ってるのかな」

兄「って痛てえよ。口を手でひねるな」

妹友「本当にお兄さんは洞察力とかないんですね」

兄「何だ」

妹友「あたしが妹ちゃんから聞いたのがお兄さんの住所だけだったと思っているのです
か」

兄「え」

妹友「妹ちゃん泣いてましたよ。どういうわけか今日のお兄ちゃんとのデートまでキャン
セルしちゃったし。おかげでお兄ちゃんまで落ち込んで大変でした。いったいどうやって
この責任を取るつもりなんですか」

兄「責任って言われてもなあ。妹とあいつの彼氏ことなんか俺には関係ねえし」

妹友「無責任もいいところですね」

兄「何でだよ」

妹友「お兄さんは年上なんだから譲歩してください」

兄「譲歩って何だよ。それに兄貴なんだから妹より俺が年上なんて言うまでもないことじ
ゃんか」

妹友「ずっとここで立ち話も何ですから部屋の中で話しましょう」

兄「おい、勝手に入るなよ」

妹友「お気遣いなく」

兄「むしろおまえがもっと気を遣えよ」

妹友「ホストはお兄さんの方ですから」

兄「まあいい。適当に座れよ」


妹友「これ、つまらない物ですが。一応気を遣ってみました」

兄「え? いやそんなつもりで言ったんじゃねえよ」

妹友「大した物じゃないんで気にしないでください。たかが、朝の五時に起きて作っただ
けですから」

兄「重いって。朝の五時とか気にするなと言われても無理なレベルだ」

妹友「だからつまらない物ですって」

兄「じゃあありがたく頂くよ。で、これ何?」

妹友「手づくりのオムライスです」

兄「何だって?」

妹友「チキンライスに薄く焼いた玉子焼きを載せて、ケチャップをかけた料理です。日本
オリジナルの洋食と言われています」

兄「そんなことを聞いてるんじゃない」

妹友「お兄さんの好物がオムライスであることは特別なコネ」

兄「妹から聞きだしたのか」

妹友「・・・・・・はい」

兄「ずいぶん大きいな」

妹友「通常の1.5倍位の分量を目安に作りました」

兄「(三食連続オムライス・・・・・・しかも全部大盛り)ま、ありがとう」

妹友「どういたしまして」

兄「・・・・・・」

妹友「・・・・・・どうしました」

兄「何が」

妹友「食べないのですか? あたしに遠慮はいりません。あたしは朝食を済ませてきまし
たから」

兄「いや。俺も朝は食べたから、これはお昼にありがたく頂くよ」

妹友「そうですか」

兄「で、話の続きだが年上だからどうこうって言ってたけどどういう意味なんだ」


妹友「ああ。別にお兄さんと妹ちゃんのことではありません」

兄「じゃあどういうこと?」

妹友「うちのお兄ちゃんはあたしと妹ちゃんより一つ上です。つまりお兄ちゃんは高三な
ので、お兄さんより一つ下になるわけです」

兄「ふーん。そう」

妹友「だからお兄さん。年上の男の余裕を見せてください」

兄「意味がわからん」

妹友「妹ちゃんが彼氏を好きな気持を理解してあげてください」

兄「(本当に妹はこいつの兄貴に惚れてんのかなあ。そう考えると何かとてもつらい)理
解しろと言われても。妹とおまえの兄貴が好きなようにすればいい話じゃねえの」

妹友「昨日、妹ちゃんは泣いてました」

兄「おまえ妹と会ったの?」

妹友「はい。泣き腫らした目で電車から出てきたところを見かけたんで、とりあえずスタ
バに連れて行って話を聞きました」

兄(泣いてたのか。女に責められたからか。いや、あいつは優しいけど気は強い。それが
いわれのない中傷なら怒りこそすれ泣くようなやつじゃない。やっぱり女の話に思い当た
る節があったんだ)

妹友「聞いてるんですか? お兄さん」

兄「聞いてるよ」

妹友「何かわからないこととか単語とかあったら、悩まないで素直に聞いてくださいね。
そうでないと正確に意図が伝わりませんから」

兄「わかった」

妹友「ちなみにスタバというのは、スターバックスカフェの略称で、米国発祥の日本でも
大規模展開しているチェーンのカフェです」

兄「いやそのレベルで説明してくれなくてもいいから」

妹友「そうですか。まあ、それで妹ちゃんを宥めているとようやく彼女が泣いていた理由
を話してくれました」


<妹友の回想>




妹友『どうしたの? 今日はお兄さんのところに行くんじゃなかったっけ?』

妹『行ってきた』

妹友『それにしちゃずいぶん早く帰ってきたのね。お兄さんと喧嘩でもした?』

妹『・・・・・・』

妹友『まさか、お兄さんにその。無理矢理変なことを』

妹『・・・・・・違うよ。お兄ちゃんはあたしが嫌がるようなことをする人じゃないもん』

妹友『じゃあ、どうしたの』

 最初、妹ちゃんは俯いているだけで何も話してくれなかったんですけど、あたしが辛抱
強く質問を繰り返しているとようやくぽつぽつと話し出してくれました。

 お兄さんに告白されてそれを断ったこととか。

妹『だって。二人きりの兄妹だしお兄ちゃんのことは大好きだけど、ずっと家族として生
きてきて、それは何よりも大事な家族だけど、それでもやっぱり恋人として付き合ってく
れって言われても素直にはいって言えなかった』

妹友『まあ、それが普通だよね。妹ちゃんが悩むことじゃないじゃん』

妹『・・・・・・でも。お兄ちゃん、あたしが妹友ちゃんのお兄さんと手をつないでいるところ
を見たらしくて』

妹友『そうか』

妹『タイミングが悪いよ。これじゃまるであたしがお兄ちゃんじゃなくて、妹友ちゃんの
彼氏の方を選んだって思って傷つけちゃったのかも』

妹友『だってそれ、別にもう誤解じゃないんじゃ・・・・・・』

妹『・・・・・・』

妹友『そんなことをお兄さんに言われたの? それで泣いて帰って来たの』

妹『お兄ちゃんの部屋に行って、お兄ちゃんに謝って今までどおりの兄妹の関係でいてく
ださいってお願いしようと思ったんだけど』

妹友『うん。それで』

妹『お兄ちゃんの部屋に女さんがいた』

妹友『女さんって誰だっけ』

妹『妹友ちゃんは多分知らないと思う。お兄ちゃんの昔からの友だち。嫌な女だよ』

妹友『そんで?』

妹『女さんに怒られた。あたしがお兄ちゃんを振ったくせにのこのこ慰めに来るなんてっ
て。あたしには彼氏がいるくせに女さんに嫉妬するなんてって』

妹友『ちょっと待て。お兄さんって彼女いたの?』

妹『女さんは自分がお兄ちゃんの彼女だって言ってた。夜も一緒にお兄ちゃんの部屋で泊
まったって』

妹友『お兄さん最低。彼女がいるのに妹ちゃんに告白するなんて』

妹『・・・・・・あたしに断られてから付き合い出したっぽいけど』

妹友『そっか』

妹『女さんに言われた。どうせあたしに振られて落ち込んでいるはずのお兄ちゃんを慰め
てあげよとかって軽い気持で来たんでしょって。そしたらお兄ちゃんの部屋に彼女がいた
んでかっとなったんでしょ、自分は彼氏がいて兄を振ったくせに、その兄に彼女ができる
ことが許せないんでしょ。どこまで身勝手なのよって」

妹友『う~ん』

妹『あと女さんに言われた。どうせお兄ちゃんのところに来るなら、彼氏と別れて兄に告
白するくらいの覚悟で来いって』


妹友『いやいや。それはおかしいでしょ。妹ちゃんが好きなのはうちの兄貴なのに』

妹『・・・・・・』

妹友『何とか言いなさいよ』

妹『しばらく妹友ちゃんのお兄さんとは会わないほうがいいのかも』

妹友『ちょっと待ってよ。あんたら付き合ってるんでしょ。何でそんな女に言いがかりを
付けられたくらいでそういうことになるのよ』

妹『でも・・・・・・』

妹友『でも、何よ』

妹『お兄ちゃんはあたしと彼氏のことを目撃して傷付いたと思うし』

妹友『何でそこまで自分の実の兄貴に遠慮するわけ? ちゃんと断ったんでしょ。それで
何も問題ないじゃない』

妹『あたしさ、お兄ちゃんと前みたいに仲良くなりたい。恋人としては付き合えないけど、
それでも昔みたいに口げんかしたりからかいあったりしたい』

妹友『それはわかるけど。でも何でうちの兄貴と会わないって話になるのよ。普通の兄貴
は妹の彼氏に嫉妬したりしないよ』

妹『それはそうだけど』

妹友『妹ちゃんさ。まさかと思うけど、お兄ちゃんの部屋に女さんがいるのを見て嫉妬し
たの』

妹『・・・・・・』

妹友『だから女さんっていう人のことを、嫌な女だなんて言ったの?』

妹『・・・・・・違うよ』

妹友『何であたしから目を逸らして答えるのよ。うちの兄貴のこと好きなんでしょ』

妹『多分』

妹友『あんたねえ。あたしの兄貴をその気にしておいてそれはないでしょ。まさか、あん
た。お兄さんのことが本気で異性として気になりだしてるんじゃ』

妹『・・・・・・』

妹友『何か言ってよ』

妹『わからない。ちょっとよく考えてみる』

妹友『・・・・・・妹ちゃん』


<妹にメール>




妹友「というわけです。どうですか」

兄「どうと言われても何がなんだかわからん」

妹友「妹ちゃんが自分のことを好きかも!? やったー! って単純に考えなかったのは
お兄さんにしては立派です」

兄「まあ、そんなに都合よくはいかないだろうしな。それに今では俺は」

妹友「お兄さんには女さんという彼女がいますしね。今さら妹ちゃんに告られても困りま
すよね」

兄「・・・・・・うん。まあそう・・・・・・かな」

妹友「その女さんって兄友さんっていう人から別れたばかりだって聞きましたけど、その
うえお兄さんにまで振られたら自殺しかねませんよね」

兄「・・・・・・」

妹友「うちのお兄ちゃんだってそうです。できたばっかの彼女に会えないって言われて落
ち込んでますし、このうえ振られでもしたら」

兄「そうだけど」

妹友「年上の男の余裕を見せてください」

兄「どうすればいいの」

妹友「妹ちゃんと仲直りしてください。単なる仲のいい兄妹として」

兄「・・・・・・」

妹友「そんで、お兄さんは女さんと、妹ちゃんはうちのお兄ちゃんと付き合えば何の問題
も生じないじゃないですか」

兄「そうかもな」

妹友「そうですよ」

兄「妹のことはわかった。俺だって一度は振られてるんだし妹に付きまとう気なんかねえ
よ。ちょっと意地になってたけど、妹とは普通に話せるように努力するよ」

妹友「それが一番いい解決策だと思います。誰も傷付かないし」

兄「じゃあ、善は急げだな。妹にメール出すぞ」

妹友「見直しました。優柔不断な人だと思ってましたけど、こうと決めたら無駄に実行力
がある人だったんですね」

兄「無駄には余計だ。ちょっと待ってろ」

妹友「はい」

兄「これでどうだろう」

妹友「拝見します」



to:最愛の妹
sub:無題
『昨日は悪かったな。いろいろおまえを悩ましちゃったことを後悔している。おまえの言
うとおり、俺とおまえはいい兄妹の仲に戻るべきだ。それがようやくわかったよ』

『もうおまえと彼氏の仲に嫉妬したりもしない。だからおまえも俺と女の仲を祝福して認
めてくれ』

『これからはなるべく実家に帰るようにするし、おまえが寂しかったらいつでも電話して
来い。まあ、おまえには彼氏がいるから余計なお世話かもしれないけど』

『じゃあ、もうわだかまりはなしな。また昔のようにバカな冗談を言い合おう』

『あ、そうだ。おまえのオムライス美味しかったよ。彼氏のを作るついででいいから、た
まには俺にも作ってな』


兄「こんなメールでどうだろう」

妹友「最愛の妹って。普通に妹って登録しとけばいいじゃないですか」

兄「それはちゃんと修正する」

妹友「何か微妙にうちのお兄ちゃんを引き合いに出して拗ねている雰囲気が感じられるの
ですが」

兄「それはおまえの思い過ごしだ」

妹友「まあいいでしょう。じゃあ、早速送信しちゃってください。それで兄貴も妹ちゃん
も女さんもみんな幸せになれますから」

兄「そうだな。でもその前に聞かせてくれ」

妹友「はい?」

兄「俺のことはいい。これで俺が幸せにあるかどうかはどうでもいいけど、おまえはこれ
で幸せになれるの?」

妹友「頭沸いてるんですか?」

兄「おまえ、前に言ってなかったっけ? 俺のことが大好きだって。妹なんかに俺は渡さ
ないって」

妹友「それは」

兄「あれ、嘘だよな?」

妹友「嘘じゃないです・・・・・・。何でそう思うんです?」

兄「あれが本当だったら、俺と女の仲を固めようなんてしないはずだろ」

妹友「あたしは」

兄「何を企んでるんだ」

妹友「別に。妹ちゃんやみんなが不幸になるのは嫌だから、自分がお兄さんから身を引く
方がいいのかと。それだけです」

兄「半分は嘘だな。身を引く気になったのは本当だろうけど、俺からじゃなくておまえの
兄貴からだろ」

妹友「・・・・・・何言ってるんですか」

兄「おまえ、自分の兄貴のことが好きだろ?」

妹友「それは兄妹ですから」

兄「異性として好きだろ?」

妹友「頭」

兄「沸いてねえよ。何で俺の妹とおまえの兄貴の仲を取り持ったりしたんだ? おまえが
つらくなるだけってわかっていたのに」

妹友「・・・・・・本当に無駄に察しがいいんですね。恋愛スキルもないくせに」

兄「お互い様だろ。俺もおまえも自分の実の妹とか兄とかしか見てこなかったんだか
ら。おまえを見てるとまるで鏡を見てるようだしな」

妹友「覚えていたんですね。前にうっかり失言しちゃったことを・・・・・・」

 妹友が泣き出した。普段は気の強いこいつの涙は、昨日の女の涙と変わらないほど大粒
だった。

 お兄ちゃんが好きです。

 妹友がようやく素直に話し始めた。


今日は以上です

また投下します

今日の終わり方は妹関連じゃないから我慢できる!

毎回楽しみにしてるよ
明日も期待して待ってる


<正直、結果はわかっていたんですけど>




妹友「あたしもお兄さんの仲間なんです」

兄「兄貴のことが好きなんだね」

妹友「はい。男性として好きです。多分ずっと小さい頃から」

兄「やっぱりそうか。てか全く俺と同じ状況じゃんか」

妹友「そうですね。ふふ」

兄「(泣き笑いか。見ててつらくなるな)何でおまえの兄貴とうちの妹との仲を取り持っ
たりしたの?」

妹友「それは、前にお話したとおりなんです。お兄ちゃんはあたしが妹ちゃんを家に連れ
て来るうになった頃から妹ちゃんが好きだったみたいです。まだ三人とも中学生だった
頃なんですけど。それからずっとお兄ちゃんは妹ちゃんに片想いしてたんですって」

兄「それおまえの兄貴から聞いたの?」

妹友「そうです。実は二ヶ月前くらいなんですけど、お兄ちゃんに話しがあるって言われ
て。で、聞いてみたら妹ちゃんが好きなんで何とかならないかって」

兄「(情けない兄貴だな。自分で告白くらいしろよ。何で妹なんかに頼るんだよ)それで、
おまえが兄貴のためにうちの妹との仲を取り持ったっていうわけか」

妹友「ええまあ」

兄「おまえは平気だったの? 兄貴のために妹との仲を何とかするなんてどういう罰ゲー
ムだよ」

妹友「それは平気なわけないです。お兄ちゃんが部屋から出て行ったあと一晩中声を出さ
ないようにしながら泣いてました」

兄「それが普通だよな。好きな相手に彼女を作る手助けをするなんて」

妹友「ただ、一方でこれでよかったんだっていう気持もありました」

兄「どういうこと」

妹友「兄妹の恋愛なんて叶うはずはないし叶ったとしたって幸せになれるわけはない」

兄「・・・・・・」

妹友「あたしはそう思っていましたから。だからもう終わりにしようって思いました。妹
ちゃんがお兄ちゃんの彼氏ならかろうじて祝福できる。妹ちゃんのことは大好きでしたし。
そしてお兄ちゃんとは仲のいい兄妹でいようって思いました」

兄「そうか」

妹友「だからあたしは妹ちゃんを呼び出して、お兄ちゃんが妹ちゃんのことを好きなこと
を伝えたんです。正直、結果はわかっていたんですけど」

兄「わかっていたとは?」


妹友「妹ちゃんもお兄ちゃんとは親しく冗談を言い合える仲ではあったんですけど、男性
としてのお兄ちゃんへの好意が妹ちゃんにないのはわかっていました。これまでずっとそ
んな気配も素振りもなかったですし」

兄「だが実際あの二人は付き合い出したじゃないか」

妹友「あたしが妹ちゃんにお兄ちゃんの好意を伝えたとき、妹ちゃんは考えさせてと言い
ました。正直、そのときは仲のよかったお兄ちゃんやあたしへの配慮に過ぎなかったんだ
ろうと思いました」

兄「それで?」

妹友「というかその話は前にお兄さんにお話しました。あれは別に嘘じゃないですよ」

兄(何だっけ?)

兄(ああ、そうだ。妹と彼氏のツーショットを目撃した日、下校時の校門前にこの子が俺
を待っていたんだった)



妹友『はい。前から彼氏の方から妹ちゃんが好きだって相談されていたんで、妹ちゃんに
彼氏の気持ちを伝えたんですね』

兄『そ、そうだったんだ』

妹友『はい。それで、しばらく妹ちゃんは煮え切らなかったんですけどね。その間、生殺
しみたいで彼氏も気の毒で』

兄『それで?』

妹友『何か急に昨晩妹ちゃんから連絡あって、友だちからなら付き合ってみてもいいよっ
て』

兄『・・・・・・そう』

妹友『それで急きょあたしがセッティングして、二人を待ち合わせさせて今朝、一緒に登
校させたってわけです』



兄「あのときの話か」

妹友「はい。これまで煮え切らないで返事を引き伸ばしていた妹ちゃんが、急に友だちか
らならって連絡してきたんです」

兄「まあ、いろいろおかしいよな。友だちからならって、親しくない男に告白されたとき
のセリフじゃねえか。中学の頃から仲がよかったおまえの兄貴に言うことじゃねえな」

妹友「そうは思ったんですけど、とりあえずお兄ちゃんにとっては前進だと思ったんで、
二人の待ち合わせをセッティングして一緒に登校させたわけです」

兄「おまえの兄貴ってどこの高校?」

妹友「うちらの学校の近くの男子校です」

兄「そうか」

妹友「妹ちゃんが友だちからならって連絡をくれたのは、お兄さんと一緒に帰る妹ちゃん
と駅前で出会った日の夜でした」

兄「そういやそんなこともあったな。おまえと初めて会った日のことだよな」

妹友「はい。あの日、妹ちゃんと何かありませんでしたか」


兄「えーと。あったといえばあったな、確か」

妹友「何です」

兄「妹と一緒に帰ったんだが、その途中で妹を無視して周りの可愛い女の子たちを眺めて
たら妹が切れた」

妹友「・・・・・・」

兄「どした?」

妹友「何だ自爆じゃないですか」

兄「何が」

妹友「自業自得というのかもしれません」

兄「・・・・・・あんなつまらないことで妹がおまえの兄貴に走ったとでも言いたいのか」

妹友「つまらないことかどうかは妹ちゃんの主観的な問題ですから何とも言えませんが、
あたしが妹ちゃんの立場ならお兄さんに平手打ちの百発や二百発くらいは食らわしていた
と思います」

兄「え~。それほどのことかあ」

妹友「お兄さん」

兄「どうした」

妹友「あたしの秘密がばれた以上は、もういろいろ誤魔化すのはやめます」

兄「そうしてくれるとありがたい」

妹友「妹ちゃんのお兄さんへの感情が異性への思慕なのか仲のいい兄貴への想いなのかは、
多分誰にもわかりません」

兄「そうかもな」

妹友「というか、妹ちゃん本人にだってよくわかってないんじゃないですか」

兄「何でそう思う」

妹友「お兄さんのことが本気で異性として好きなのか、あたしが妹ちゃんに聞いたとき、
彼女はわからないからよく考えてみるって言ったましたけど、あれは多分本音だと思いま
す」

兄「・・・・・・」

妹友「お兄さん?」


<妹はアイドル>




兄「ああ」

妹友「年上の余裕を見せてください」

兄「まだ、それを言うのか」

妹友「隠していた自分の秘密をお兄さんには気がつかれてしまったわけですけど、やっぱ
りお兄ちゃんと妹ちゃんが付き合うのが一番うまくいくと思います」

兄「・・・・・・」

妹友「あたしもお兄さんも、自分の気持を追求していってもその先は行き止まりです。仮
に相思相愛になれたとして、ラブラブな恋人同士になったとしてもそこから先には行き場
所はありません」

兄「どういうこと」

妹友「解説なんていらないでしょう。お兄ちゃんと妹さんなら、あるいはお兄さんと女さ
んなら恋人同士の先にはいろいろと行く先があるんですよ。実際にそこまで行き着けるか
どうかは別としてですが。可能性としては、婚約して結婚してパパとママになって孫がで
きて」

兄「まあな」

妹友「あたしやお兄さんの恋は違いますよね? 奇跡的に想いがかなったとして、恋人同
士にはなれるかもしれない。でもその先はどうなるんです?」

兄「あくまでも仮定の話だけどさ。別に結婚とか出産とか育児とか、それだけが目標じゃ
ないカップルがいたっていいんじゃね」

妹友「一生恋人同士、それも人には言えない関係でっていうのもあるのかもしれませんけ
ど、他の選択肢があるのにわざわざそんなつらい一本道に入ることを選ぶ必要なんてない
でしょう」

兄「・・・・・・」

妹友「いろいろお兄さんを騙してしまってごめんなさい。あたしは別にお兄さんを好きで
も何でもないです」

兄「それは別にいい。俺だっておまえを好きになったわけじゃないし」

妹友「正直なのも過ぎると罪悪ですよ」

兄「何だって?」

妹友「まあいいです。でも、その上でやっぱりあたしはお兄さんにお願いします。うちの
お兄ちゃんのためだけではなく、お兄さんとあたしのためにも」

兄「何だよ」

妹友「そのメール。今すぐ送信してください。お願いします」

兄「・・・・・・」


兄(妹友の本心を無理矢理聞きだす形になったけど、妹友の兄貴への恋愛感情はよくわか
った。けれどもど結局メールを打ったときと今と何も状況は変わっていないんだ)

兄(妹の俺への感情はわからない。つうか妹友によると妹自身にもわかっていないらし
い。ちょっと期待したい感情はあるけど)

兄(だめだ。女のことを考えるともう迷っちゃだめだ)

兄(それに妹友の言っていることも本当だ。俺の感情だけで将来のない行き止まりの関係
に大切な妹を巻き込んでいいのか。妹友は多分そう考えて兄貴への気持を思いとどまった
のに)

兄(・・・・・・もう迷うまでもねえ)

妹友「お兄さん?」

兄「うちの妹ってさ」

妹友「はい」

兄「生まれときから我が家の中心というか、家族のアイドルでさ」

妹友「はあ」

兄「別にシスコンの俺だけじゃなくて、父さんも母さんも妹を溺愛してるんだよね」

妹友「確かに妹ちゃんは幸福な家庭で大切に育てられたという感じはしますね」

兄「うん。だから妹ラブなのは俺だけじゃなくて、妹を巡る俺のライバルは父さんと母さ
んだった時期もあったんだ」

妹友「まあ、その程度なら微笑ましい家族のエピソードじゃないですか」

兄「妹の塾の送迎する権利を俺と父さんがマジで争ったり、妹の買物に付き合う権利を俺
と母さんが争ったりとかな」

妹友「妹ちゃん、ちょっぴりうらやましいなあ」

兄「だからわかった。おまえのいうとおりにする」

妹友「はい?」

兄「俺も目が覚めたよ。妹が俺のことをどう思うかなんてどうでもいいや。むしろ妹をそ
こまで追い詰めて悩ませていることが問題なんだな」

妹友「よくわかりませんが」

兄「こんなところを両親に気がつかれたら申し訳ないぜ。同じ妹ラブ同盟の同志として」

妹友「はあ」

兄「というわけで送信っと」

妹友「あ・・・・・・」

兄「そ、送信したぞ」

妹友「・・・・・・無駄に」

兄「妹に関することなら行動力はあるぞ」

妹友「不覚にもちょっとだけ真面目にときめきました」

兄「え」

妹友「何でもないです。深く考えないでください」


兄「・・・・・・」

妹友「・・・・・・」

妹友「返事来ませんね」

兄「うん。来ないな」

妹友「メールに気づいていないのかもしれませんね」

兄「俺もよくそういうことはあるよ。特に家にいると油断するよな」

妹友「そうですね」

兄「・・・・・・」

妹友「・・・・・・まあ、悩みながら返信メールを入力中かもしれません」

兄「妹はフリック入力が苦手だったぞ、確か」

妹友「ああ。スマホにしたばかりだとあれ慣れるのに時間かかりますよね」

兄「そうそう。俺もしばらくは苦手だった」

妹友「でも妹ちゃんはあたしにはすぐに返信してくれますけどね」

兄「・・・・・・」

妹友「あ・・・・・・。ごめんなさい」

兄「いや」

妹友「あ、あの。そろそろお昼ですよ」

兄「うん」

妹友「よかったらオムライス食べてください」

兄「あ、そうか」

妹友「・・・・・・自分を騙した女の作った料理なんか食べられそうもないなら無理しなくても
いいんですけど」

兄「いや。頂こうかな」

妹友「いいんですか」

兄「何が?」

妹友「いえ」

兄「そうだ。これ量が多いから一緒に食おうぜ」

妹友「はい?」

兄「おまえも昼飯まだなんだしちょうどいいじゃん」

妹友「あたしはそろそろ失礼しますから」

兄「そうか」

妹友「ごめんなさい」

兄「何で謝る」

妹友「・・・・・・」

兄「妹の返信が気になる?」

妹友「はい」

兄「じゃあ、返事が来たらおまえにも連絡するよ」

妹友「はい。じゃあ、あたしのメアドと携番です」

兄「わかった」

妹友「じゃあ失礼します」

兄「またな」


<俺はひょっとして妹に続いて女にも失恋したのか>




兄(意外なことに、妹より女より、妹友のオムライスが一番美味しいとはどういうこと
だ)

兄(腹が減ってたからかな。もう夜だ)

兄(夕飯はどうしようかな)

兄(妹からの返信はまだ来ない)

兄(女も今日は全然顔を見せないな)

兄(・・・・・・つうか、隣なんだから俺が行けばいいじゃん)

兄(もう決めたんだから迷わずに女の部屋に突入すればいいんだ)

兄(妹の返信を待ってからにしようかな。女と一緒にいるとことに妹からメールが来たら、
開くのも悪いしかといって読まずにいられるほど神経は太くない)

兄(いっそこっちから妹に電話しちゃうか)

兄(いや。それはいくらなんでもハードルが高い)

兄(・・・・・・酒でも飲もうかな)

兄(確か女が持ち込んできた缶ビールが冷蔵庫にまだあったはず。どれ)

兄(ってえ!!)

兄(メールの着信音だ)

兄(妹からだろうか。恐くてディスプレーが見られない)

兄(とにかく開いちゃえ)


from:兄友
to:兄
sub:悪かった



兄(兄友? 妹じゃねえのかよ)

『本当に悪かったな。別に女のことは俺の自業自得でおまえのせいじゃないのに。電話す
るのはちょっと敷居が高いからメールした』

兄(何なんだ)

『女に対する態度は今思うと言い訳のしようもねえよ。おまえに言われたとおりだ。今は
反省している』

『それでさ。これも言いにくいんだけど。俺、勇気を出して最後に謝ろうと思って女に
メールしたんだよ。いつもの待ち合わせ場所で待ってるから会いたいって』

兄(また無駄なことを。どこまで自分勝手なやつなんだ)

『来てくれなくてもしようがないって思った。でも、あいつは待ち合わせ場所に来てくれ
た』

兄(え? 何で)

『俺は本気で謝った。たとえ女が俺とやり直してくれなくても兄と付き合うにしても、俺
なりのけじめとして後輩とも別れるって言った』

『兄、悪い。本当にごめん。女はそんな俺を許してくれた。やり直そうって言ってくれ
た』

兄(何これ? 悪い冗談か)

『女はおまえへの罪悪感から、おまえとは直接話をしたくないって言ってるから俺が代わ
りに言わせてもらうな。兄、本当にごめん。俺たちのごたごたに巻き込んだ挙句結果的に
おまえの感情を持て遊ぶことになっちまった』

『俺と女はやり直すことにした。悪いが女のことは忘れてくれ。信じられないかもしれな
いので、一応写メ添付しとく』

『俺と女の問題に巻き込んでお前を傷つけてすまん。女はおまえとはもう会えないって言
っているけど、俺はおまえを親友だと思っているんで許してくれるならこれまでどおりの
付き合いをしようぜ』

『じゃあな』

兄(何これ? 画像って、これか)

兄(・・・・・・誰がどうやって撮影したかしらないけど、兄と女が恋人つなぎで微笑みあって
いる写真だな)

兄(ご丁寧に日付と時間まで入ってる。何だよ、ついさっきじゃんか)

兄(俺はひょっとして妹に続いて女にも失恋したのか)

兄(って電話だ・・・・・・え)

兄(妹)


<いますぐあたしのところに来て>




妹「お兄ちゃん?」

兄「ああ」

妹「メール読んだよ」

兄「うん」

妹「・・・・・・」

兄「・・・・・・あのさ」

妹「・・・・・・うん」

兄「いろいろ悪かったな」

妹「ううん」

兄「まあ、メールのとおりだ。俺もおまえとぎくしゃくするのあこんなつらいとは思わな
かったし」

妹「あたしも。お兄ちゃんと一月以上も喧嘩して口聞かないのって初めてだったから」

兄「うん。だから仲直りしようぜ」

妹「本気?」

兄「本気って。本気に決まってるだろ」

妹「違うよ。あのメールって本気なの?」

兄「まあ、本気って言えば本気だし」

妹「・・・・・・お兄ちゃん」

兄「うん」

妹「女さんと本気で付き合ってるんだよね?」

兄「え? ああ、いやその」

妹「誤魔化さないで」

兄「付き合ってた。でももう振られたみたい」

妹「何でそうなるのよ。昨日は一緒にお兄ちゃんの部屋にいたのに」

兄「よくわからんけど、どうも振られたみたいだぞ。まあ、本人から聞いたわけじゃない
んだけど」

妹「ひょっとしてあたしのせい?」

兄「関係ないんじゃね」


妹「お兄ちゃんの言ってることよくわからない」

兄「まあ、俺だってよくわかっていないんだし無理もない」

妹「あのメールって本気なの?」

兄「だから本気だって・・・・・・多分」

妹「あたしと彼氏君のことを認めてくれるの」

兄「うん。俺はおまえのいい兄貴になる」

妹「じゃあ、あたしもお兄ちゃんと女さんの仲を認めればいいの?」

兄「いや。その部分だけは無効ってことで」

妹「・・・・・・本当に女さんに振られたの。昨日の今日で」

兄「よくわかんないんだけど、写メを見るにその可能性は相当高そうだ」

妹「写メ?」

兄「悪い。何でもないや」

妹「もしかして、あたしのせい?」

兄「だから違うって。多分だけど」

妹「何で違うって言い切らないのよ」

兄「今知ったばかりだからまだ情報が整理できていないんだよ」

妹「じゃあ、あたしも彼氏君と別れる」

兄「ちょおま、何言って」

妹「別れる。あたしだけ付き合ってたら不公平だから」

兄「おまえ、脳みそ」

妹「沸いてないよ」

兄「・・・・・・」


妹「今、お部屋?」

兄「うん」

妹「明日は講義あるの」

兄「ああ」

妹「夕食はどうするの」

兄「(さっきから何の話だ)適当にコンビニ弁当でも買いに行くよ」

妹「・・・・・・家に帰って来て」

兄「何を言っているのだおまえは」

妹「メールでなるべく実家に帰るようにするって言ってくれてたじゃん」

兄「いや、そらそうだが」

妹「いますぐあたしのところに来て」

兄「ちょっとおまえ」

妹「・・・・・・来て」

兄「え~と」

妹「お兄ちゃんが来てくれないなら、あたしがお兄ちゃんの部屋に行く」

兄「あほか。夜におまえを一人で外出させられるか。父さんと母さんに殺されてしまう
わ」

妹「お兄ちゃんが来ないなら本気でこれから外出するからね」

兄「(脅迫かよ)・・・・・・わかった。今からすぐに行く」

妹「パパもママも仕事で帰ってこないから」

兄「え?」

妹「夕食の支度しておくね」

兄「・・・・・・うん」

妹「なるべく早く帰ってきてね」


今日は以上です

また投下します


予想以上に拗れてきたな

兄友からゲロ以下の臭いがプンプンするぜぇー

どんどん飲み込まれていくわ。

最初の[田島「チ○コ破裂するっ!」]からは考えられないな

誰も予想できなかった展開


<初めて妹と手をつないでしまった>




兄(全力で駆けつけてきたから思ったより早く家に着いてしまった)

兄(・・・・・・)

兄(何やってるんだ俺。自分の家なんだから鍵をあけてさっさと家の中に入ればいいの
に)

兄(何か緊張する。自分の妹、それも最愛の妹に会うのに何で足ががたがたと震えてるん
だろう)

兄(これは妹に非常識な告白して、あっさり振られたときと同じ症状だ)

兄(つうかあのときは絶対に自分の恋が成就するなんて思っていなかったから、返事を聞
くまでは余裕だったんだよな)

兄(いつまで玄関の前で震えながら立っているつもりなんだ俺は)

兄(もはや緊張する理由なんて何もないじゃんか。妹友のおかげで目が覚めた。とにか
く妹が悩まないで過ごせるようにすることだけを目的にすればいいんだ)

兄(つまりメールのとおりにすればいい。さっきの電話で妹は彼氏と別れるって言ってた
けど、こんなことを言わせてしまうこと自体、俺が妹を悩ませてしまっているってことな
んだろうな)

兄(俺が兄貴でなければ、俺が家族じゃなければ好きでもない俺なんかのために、彼氏と
別れるなんて言い出すわけがない)

兄(妹はうちの家族全員から溺愛されて育った。でも、妹の方も本当にこの家族全員が好
きだったんだ。だから、俺のことは異性としては考えられないけどそれでも俺を悲しませ
たり、兄貴との仲が変に壊れるのが嫌で仕方ないんだ)

兄(妹友は妹が俺のことを男として意識し出しているかどうかはわからないって言ってた
けど、それはどうでもいい。結局、前に妹友が俺に言ったとおりだったんだ)

兄(正直、妹は俺を好きででも禁断の関係に踏み込めなくて俺を振ったのならいいと思っ
ていた。それなら俺にとっては救いがあるもんな)

兄(でもそうじゃない。妹は俺のことなんか男としてはこれっぽちも意識していなかった
んだ。だから驚いて俺の告白を断った)

兄(でも、振られた俺が女々しく拗ねて、実家にも顔を出さず妹にも連絡しなかったから、
兄妹の仲が家族の仲が壊れそうになったことに妹はうろたえ、混乱した)

兄(それで滅多に作ってくれなかったオムライスを持って俺の部屋に来たり、挙句の果て
には自分の好きな彼氏と別れるとまで言い出した。全部、家族が大切なためだ)

兄(・・・・・・よし。さっき妹友に言ったことは間違ってない)


兄『俺も目が覚めたよ。妹が俺のことをどう思うかなんてどうでもいいや。むしろ妹をそ
こまで追い詰めて悩ませていることが問題なんだな』

妹友『よくわかりませんが』

兄『こんなところを両親に気がつかれたら申し訳ないぜ。同じ妹ラブ同盟の同志として』

妹友『はあ』



妹「こんなところで何してるの」

兄「いや。ちょうど今ここに着いたところだ」

妹「そうなの?」

兄「そうなのって何で」

妹「人の気配がしたからリビングでモニター見てたんだけど」

兄「・・・・・・いや」

妹「何で十分も玄関の前でじっと立ってたの?」

兄「大した意味はない。気にするな」

妹「でもお兄ちゃんが久し振りに家に帰ってきてくれて嬉しい」

兄「・・・・・・泣くなよ」

妹「いいの。家に入ろ」

兄(え。何これ)

妹「夕ご飯先に食べる? それともお風呂入ってからにしたい?」

兄(幼い頃はいざ知らず物心ついてから初めて妹と手をつないでしまった)

妹「さわらの西京漬け焼いたよ。オムライスの次に好きなんでしょ」

兄(俺の手汗ばんでないかな)

妹「お兄ちゃん?」

兄(恋人つなぎはさすがにしてくれないか・・・・・・って当たり前だろ俺。何考えてるんだ)

妹「お兄ちゃんてば」

兄「ああ」

妹「お風呂どうすんの」

兄「うん、入る」

妹「着替えあるの? 下着とか」

兄「持ってきてないよ」

妹「泊まるのに寝間着も持って来なかったの」

兄「ああ(そういや俺、今日ここに泊まるのか)」

妹「お兄ちゃんの部屋から適当に持ってくるからお風呂入ってて」

兄「自分で探すからいいよ」

妹「駄目だよ。夕ご飯遅くなっちゃうじゃん」

兄「うん・・・・・・」


<もうこれで十分じゃないのか>




妹「出たの?」

兄「うん。暖まったよ」

妹「じゃあ座って。用意できてるから」

兄「う、うん」

妹「どう? この西京漬け。スーパーのじゃなくてデパ地下の名店街で買ったんだよ」

兄「うまい(本当にうまい)」

妹「よかった」

兄「おまえは食べないの」

妹「食べてるじゃん」

兄「いや。いつもより食べるの遅くない? しかも普段は好きなものから先に食べるくせ
に」

妹「これお兄ちゃんにあげる」

兄「おまえ、さわらって嫌いだっけ」

妹「いいから食べて」

兄「じゃあ」

妹「うん」

兄(・・・・・・何か安らぐなあ)

妹「何か落ち着くね」

兄「そうだな」

妹「ご飯は」

兄「もういいや」

妹「じゃあお味噌汁」

兄「もらおうかな」

妹「赤味噌だよ。久し振りでしょ」

兄「うん。うまいな」

妹「ちょっと待ってて」

兄(やっぱりこれでいいんだよ。妹と一緒にいても安らぐだけで妹の彼氏への嫉妬なんて
心配したほどは感じないし)

兄(やっぱり家族なんだなあ。もうこれで十分じゃないのか)

兄(振られて拗ねて。偽装兄妹になれるよう努力するなんて言った俺って最悪だ。妹のた
めとかというより、自分のためにもこれでいいんだ)


妹「お粗末さまでした。はいほうじ茶」

兄「うん。ありがと」

妹「ううん」

兄「久し振りにおいしい飯を食えたよ。母さんの帰りがいつも遅かったからさ。俺のお袋
の味って実はおまえの作ってくれる飯の味だったんだなあ」

妹「・・・・・・何言ってるの」

兄「あやうく大切なものを失うところだったよ」

妹「意味わかんない」

兄「やっぱり俺にとって一番大事なのは家族だったんだなあってさ。わずかな間だけど一
人暮らししていて思い知らされたよ」

妹「いまさら何言ってるの。あたしはそんなことは昔からわかってたよ」

兄「そうか」

妹「そうだよ。あたしを一番大切にしてくれるのは、パパとママとお兄ちゃんだもん。彼
氏君と比べたってあたしにとって一番大事なのは家族だよ」

兄「おまえにはわかってんだなあ」

妹「うん。だってあたしは申し訳ないほど家族に愛されて育って来たって自分では思って
るし」

兄「それは本当だよ。おまえは生まれたときから我が家のお姫様だったしな」

妹「お姫様って」

兄「本当だって。父さんにいたってはおまえが生まれてからしばらくの間おまえのことを
妹姫って呼んでたぜ」

妹「ふふ」

兄「ばかだよな父さんも本当に」

妹「・・・・・・お兄ちゃんは」

兄「うん?」

妹「お兄ちゃんもあたしのことをお姫様って呼んでたの?」

兄「何でそこで赤くなる」

妹「うっさい」

兄「口に出すのは恥かしかったからさ。心の中で呼んでたよ。つうか妹姫妹姫ってうるさ
い父さんは死ねって思ってた」

妹「うふふ。でもあたしのことなんかをそこまで大事で好きになってくれるのなんてうち
の家族だけだよね」

兄「そうかな」

妹「そうだよ」

兄「妹友のお兄さんは同じように思ってるんじゃね」

妹「あ・・・・・・」


<恋人つなぎ>




兄「そうじゃなかったらおまえと付き合いたいなんて思わないだろ」

妹「お兄ちゃん?」

兄「ああ」

妹「あたし、彼氏君と別れるよ」

兄「何でそうなる」

妹「だって。お兄ちゃんって女さんに振られたんでしょ」

兄「いやそれは」

妹「やっぱりあたしってまだ子どもなのかなあ」

兄「何だそれ」

妹「よくドラマとか漫画とかでさ。彼氏とか彼女さえいれば何もいらないとか、全てを棄
てて駆け落ちするとかっていうシチュエーションがあるでしょ?」

兄「定番表現だな。家族とか仕事かと比較させることによってその恋愛がどんなに至高で
あるかを視聴者とか読者にわからせるための手法だ」

妹「あたしには少しもそんな風に思えないんだもん」

兄「どういうこと」

妹「この家族を棄ててとかお兄ちゃんと会えなくなってまで恋愛を優先したいとかって全
然考えられないの」

兄「そらそうだろ。そんなレベルの恋愛にいきなり遭遇するわけないじゃん。誰だって普
通はうまく彼氏と家族を両立させてるんだよ」

妹「だって両立できなかったもん。お兄ちゃん全然帰ってこなくなっちゃうし」

兄「それは悪かったけど、俺のメール読んだだろ」

妹「二百回くらいは読んだよ」

兄「さすがにそれは言いすぎだ」

妹「でも十回くらいは読んだ。これは本当」

兄「ならもうわかるだろ。いろいろ情けなく拗ねちゃって悪かったけど、もうそんな心
配はいらないから」

妹「ねえ、お兄ちゃん」

兄「うん」

妹「後片付けは明日するから今日はもう寝ようか」

兄「うん? (突然何なんだ)まあ、いいけど」

妹「じゃあ、今日は一緒に寝よう」

兄「はい?」


妹「一緒に寝ていい?」

兄「な、何でそうなる。これまでだって一緒に寝たことなんかないし、それはいい家族の
域を逸脱しているぞ」

妹「一緒に寝たことなんか何度もあるじゃん」

兄「それは小学校低学年の頃までの話だろうが」

妹「あたしってさ。今でもお兄ちゃんにとってお姫様なの?」

兄「・・・・・・」

妹「ねえねえ」

兄「まあ今でもそう・・・・・・かな?」

妹「じゃあお姫様抱っこして」

兄「はあ?」

妹「昔あたしがリビングで寝ちゃったとき、パパやお兄ちゃんがそうやって部屋まで連れ
て行ってくれてたでしょ」

兄「確かにあったけど、あくまでも小学校低学年の頃な」

妹「久し振りにしてよ」

兄「体重が」

妹「何だと」

兄(今日くらいは何でも言うことを聞いてやるか)

兄「じゃ、じゃあ」

妹「うん」

兄「触るけど騒ぐなよ」

妹「変なとこは触らないでよ」

兄「触んねえよばか」

兄(じゃあ妹の首に手を回して、足にも片手をかけ)

妹「ひゃあ」

兄「・・・・・・変な声出すな」

妹「くすくす」

兄「笑うなよ~。って、おまえ軽いな」

妹「じゃあ、あたしの部屋のベッドまで連れて行って」

兄(ベッドに連れてけって・・・・・・)

妹「抱っこされたまま階段を上るのって結構恐かった。何か遊園地の絶叫系の乗り物に乗
っているのに近い感覚だね」

兄「安上がりでいいよな。遊園地と違って」

妹「・・・・・・もっと乱暴にドサっていう感じでベッドに下ろされるかと思ったのに」

兄「あそ(もうやだ。早く自分の部屋に引きこもりたい)」

妹「じゃあ、今夜はお兄ちゃんが壁と反対側の方に寝てね」

兄「はい?」

妹「今日は一緒に寝て」

兄「あのさ」

妹「・・・・・・」

兄「俺も悪かったよ。でも反省して前みたく仲のいい兄妹になるよ。何よりおまえと気軽
に話せないと俺が寂しいし」

妹「・・・・・・うん」

兄「でもよ。今までだって手をつないだりとか一緒に寝たりなんかしてねえじゃん。小さ
な頃は別だけど。今さらわざわざこんなことなんかしなくても俺たちは大丈夫だよ。おま
えを不安にさせて悪かったけど、もう俺は家族の仲を悪くしたりはしねえから」

妹「お兄ちゃんあたしね」

兄「うん」

妹「何度も繰り返して考えたんだけど、やっぱりお兄ちゃんとは付き合えない」

兄「わかってるよ。てか何を蒸し返してるんだよ(何で付き合えないのかが問題だけど、
多分答えはわかっているから聞かない)」

妹「メールも読んだけど、お兄ちゃんが女さんに振られちゃったのなら前提が狂っちゃう
し」

兄「何でそうなる。たまたま女に振られる前のメールだったからああいう書き方になった
けど、俺に彼女なんかいなくたっておまえは彼氏と付き合ってればいいんだよ。もう二度
と拗ねたり嫉妬したりしねえから」

妹「嘘よ。お兄ちゃんは今までどおり仲のいい兄妹として振る舞ってくれると思うけど、
それはお兄ちゃんのつらい思いのうえに成り立っている関係じゃないの」

兄「・・・・・・それは。努力するとしか」

妹「昔は違ったもん。お互いに嫉妬したりどっちかが一方的につらくなったりしないで仲
がよかったじゃん」

兄「だから時がたてば俺の痛みだって薄れるって」

妹「お兄ちゃんとは付き合えない。でもあたしも彼氏君と別れる。それで昔のとおりじゃ
ない。もうそれでいいよ。ずっとお互いに彼氏彼女なんか作らないで、パパとママと四人
でずっと仲よく一緒に暮らそうよ」

兄「・・・・・・その関係って行き場があるの?」

妹「うん?」

兄「それって行き場のない関係じゃん。お互いに恋人を作らずにずっと兄妹仲よくとか。
ある意味、俺とおまえが付き合って恋人同士になるのと同じくらい行き場のない関係じゃ
んか」

妹「・・・・・・どういう意味?」

兄「もうよそう」

妹「隣に寝て」

兄「ああ」

妹「手つないで」

兄「(何なんだ)ほら」

妹「そうじゃなくて、こうだよ」

兄(恋人つなぎ・・・・・・)


今日は以上です

また投下します。あと、今はほぼ連日投下できてますけど週末から別スレの更新を
再開するので、こちらの投下ペースは落ちると思います

ごめなさい。読んでくれてありがとうです

おつ

切ない

別スレ晒して欲しいんだけど
そういうのって自分で探せるもん?


<ついに一緒に寝ちゃったね>




兄(右腕がちょっと重い)

兄(朝?)

兄(げ。妹?)

兄(物心ついてからこんなに妹と密着したのって初めてじゃん)

兄(腕枕・・・・・・。こんなことは幼い頃だってしたことがなかったのに)

兄(俺に向かい合うように身体を横にして・・・・・・。まだ寝ているみたいだ)

兄(何かとてもいい匂い。心が落ち着く)

兄(妹を起こすのも可哀想だし、何よりも俺がもっとこうしていたいから)

兄(昨夜はいろいろ中途半端になっちゃったのに。不思議と今はいい気分だ)

兄(・・・・・・もう少し寝てようかな。このまま二度寝しちゃおうか)

兄(・・・・・・全く俺のお姫様は。無邪気な顔をして)

兄(こいつのためなら俺は一生独身で、こいつが恋愛して結婚して子どもを産んで俺抜き
で幸せになっていくのを、密かに眺めているだけでも俺は幸せなのかもな)

兄(やっぱり妹を悩ませちゃだめだ。こいつが彼氏と別れるなんてとんでもない)

兄(女に振られたことも何だかあんまり気にならなくなってきた。女があのクズの方がい
いならしかたない)

兄(平和だ。やっぱり二度寝しちゃおう。こんなに幸せな瞬間はこの先もう二度とないだ
ろうから。妹の彼氏君、今日だけは妹の駄目な兄貴のことを許してくれ)

兄(・・・・・・)

兄(・・・・・・えーと)

兄(あれ? 何だか寝てはいけないような気がする)

兄(今何時なんだ。っていつもの場所に時計がない)

兄(そうか。ここは妹の部屋だからな。時計は・・・・・・・)

兄(あった。九時四十分か。休みのわりにはそんなに寝過ごしてないな)

兄(・・・・・・休み? 今日は月曜じゃん)

兄(げ)


兄「おい妹」

妹「うーん」

兄「(俺の腕に両手でしがみついてきた)起きろって」

妹「なあに」

兄「なあにじゃない。目を覚ませって」

妹「うー・・・・・・。あ」

兄「起きたか」

妹「・・・・・・お兄ちゃん」

兄「やっと目を覚ましたか」

妹「うん。えへへ」

兄(う・・・・・・可愛い)

妹「おはよお兄ちゃん」

兄「おはよう」

妹「ついに一緒に寝ちゃったね」

兄「な、何言って(俺のお姫様よ。それってダブルミーニングになってるぞ)」

妹「お兄ちゃんが隣にいると落ち着くな。やっぱり家族っていいね」

兄「いや。それどころじゃねえから」

妹「お兄ちゃんは落ち着かないの」

兄「さっき時間に気がつくまではすげえ安らいでいたけど」

妹「時間って?」

兄「おまえ、今の時点で既に学校遅刻してるから」

妹「何だ、そんなことか」

兄「へ」

妹「昨日寝る前に目覚まし時計止めちゃった」

兄「そういやアラームの音に気がつかなかったな」

妹「今日は学校はサボり。お兄ちゃん、もう少ししたら担任に電話してね」

兄「何で俺が」

妹「父兄でしょ。あたしの」

兄「確かに父兄とは父と兄とは書くけど、そういう連絡は普通母さんの役目だろうが」

妹「サボりの連絡なんてママに頼めるわけないじゃん」

兄(・・・・・・こいつ確信犯かよ)


妹「・・・・・・もう少しこのままでいたいな」

兄「何で学校休むの? おまえ、いつもはどんなに体調が悪くても学校に行きたがってた
のに」

妹「誰かさんが一月以上もあたしを放って置いたからね。お兄ちゃん成分が不足している
から今日は不足していた分を摂取するの」

兄「おま・・・・・・。まあいいか」

妹「お兄ちゃん」

兄「うん?」

妹「もしかしてすごく迷惑だった?」

兄「あほ。そんなわけねえだろ。俺はシスコンだぞ」

妹「えへへ」

兄「でも、あんまりくっつくなって」

妹「いいじゃん。あたしもブラコンになるんだもん」

兄「(夢を見ているみたいだ)おまえってやっぱりすげえ可愛いよな」

妹「え?」

兄「いやごめん。忘れて。いい兄貴は妹にそんなことは言わないよな」

妹「いいよ」

兄「あの」

妹「いいお兄ちゃんに戻ってくれるんでしょ? もっと誉めていいよ。てかむしろもっと
誉めてよ」

兄「あのなあ」

妹「こらこら。姫君に口ごたえしない」

兄「・・・・・・お姫様」

妹「なあにお兄ちゃん」

兄「いい兄貴でいるためにもさ。あまり俺にくっつかないでくれ」

妹「何でよ。お兄ちゃん分を取り戻しているのに」

兄「俺だって男の端くれだからさ。あまりおまえが胸を押し付けてくると」

妹「エッチ」

兄「(赤くなった)だってよ」

妹「ささやかって言ったくせに」

兄「ささやかながら感触はあるから」

妹「臣下のくせに姫に欲情するなんてどうよ」

兄「すいません。反省します」

妹「しかたないなあ。じゃあ、起きようか」

兄「・・・・・・もう起きちゃうの」

妹「クス」

兄「笑うなよ。頼むから」


<デートみたいだね>




兄「本当に付いてくるの?」

妹「何よ。迷惑なの?」

兄「そうじゃねえけどさ。学校休んでまで俺の大学見に来る必要なくない?」

妹「一緒にいたいからって言ったら?」

兄「それなら俺も大学休むから一緒に家にいようぜ」

妹「うそだよ。でもさ、お兄ちゃんの入学式ってパパもママも行かなかったんでしょ」

兄「仕事があったらしいからな」

妹「あたしが代わりに行くって言ったんだけどさ。学校休んで兄貴の入学式に行く妹がど
こにいるって言われて怒られた」

兄「まあ無理もない(両親は妹を溺愛しているけど、決して猫可愛がりはしないからな。
妹のために叱るところは叱るやつらだし)」

妹「だからあたしくらいはお兄ちゃんの大学を見ておきたいの」

兄「何でそんなに必死よ」

妹「・・・・・・不公平じゃん」

兄「何だって」

妹「あたしのイベントのときはパパもママもどんなに忙しくても仕事をやりくりしてくれ
て参加してくれたじゃない? 何でお兄ちゃんのときは同じようにしないんだろうって、
あたし前から悩んでたんだ」

兄「・・・・・・そうか。おまえは優しいよな」

妹「え? 何言ってんの?」

兄「あれだけ甘やかされても、スポイルされないでいい子に育ったよな」

妹「お兄ちゃんこそ、あたしやパパとママを恨んだことはないの?」

兄「ないな。つうかおまえは根本的に勘違いしてるよ」

妹「どういうこと?」

兄「俺はおまえとは立場が違うんだよ。おまえは家族から可愛がられ大切にされる側。俺
は父さんや母さんと同じでおまえを可愛がる側の人間だから」

妹「そんなに年齢は変わらないのに」

兄「年齢の問題じゃなくてな。まあ、家は昔からそう言う風なんだよ。俺自身がおまえを
お姫様扱いしてるんだから別におまえが気にすることじゃない」

妹「納得できません」

兄「だからそういうものだって割り切れよ。うちは昔からそうなの」


兄「俺、そろそろ大学行かないと」

妹「あたしも連れてってくれないなら、二度と腕枕もさせてあげないし恋人つなぎもして
あげないからね」

兄「・・・・・・」

妹「ちょっと・・・・・・何か言ってよ。あたしがばかみたいじゃん」

兄「ええと」

妹「もうオムライスだって作ってあげないし、さわらの西京漬けだってスーパーの安いや
つしか買ってあげない」

兄「・・・・・・それは困る」

妹「へへ。でしょ?」

兄「ついてきてもいいけど講義の間はどうする?」

妹「どっかで時間潰してるよ。キャンパス内にカフェとか本屋さんとかいろいろあるんで
しょ」

兄「・・・・・・あるけど」

妹「じゃあ行こうよ。ね?」

兄「退屈しても知らないぞ」

妹「しないよ。ちょうどいい機会だから志望校を見学しておくよ」

兄「うちの大学受けるの?」

妹「仲のいい兄妹は同じ学校に行くんだよ。あたしは中学高校と女子校に入れられちゃっ
たから、せめて大学くらいは同じ学校に行こうよ」

兄「いや」

妹「何よ。お兄ちゃんあたしと一緒の大学って嫌なの」

兄「もちろん嫌じゃないけど」

妹「じゃあ何よ」

兄「お姫様には非常に言いづらいのだけど、おまえの成績じゃとても」

妹「う」

兄「ま、まあ。これから頑張って偏差値を上げていけばあるいは」

妹「頑張るから」

兄「お、おう」

妹「マジで今日から勉強に集中する」

兄「本当にうちの学校に合格したいなら今から学校に行って勉強した方が」

妹「明日から頑張る。じゃあ、出かける前に電話して」

兄「どこに?」

妹「今ちょうど休み時間だからうちの担任に電話して。具合悪いから妹は休ませますっ
て」


兄「大丈夫か」

妹「上りの電車って結構混んでるんだね」

兄「まあ平日の午前中だから」

妹「うちから大学までどれくらい時間かかるの?」

兄「一時間半くらいだな」

妹「・・・・・・・だから迷わず実家を出たんだ」

兄「まあね。毎日これはつらいからさ。せめて座れればいいんだけど」

妹「お兄ちゃん」

兄「どうした」

妹「あたしもう足ががたがただよ」

兄「次の駅で降りて少し休むか」

妹「お兄ちゃんが大学の講義に遅刻しちゃうじゃん」

兄「別にいいよ」

妹「だめ」

兄「おまえ自分だって休んだくせに」

妹「今までお兄ちゃんやパパたちがあたしにしてくれたことを、あたしそのままお兄ちゃ
んに返すことにしたの」

兄「はい? おまえ脳みそ」

妹「沸いてないって。もうこの話はおしまい。でもちょっと疲れたから身体を支えてくれ
る?」

兄「おう。ってどうしたらいいの」

妹「あたしおにいちゃんに寄りかかるから、お兄ちゃんはあたしの身体に手を回して支え
て」

兄「こ、こう?」

妹「そこじゃ寄りかかれないよ。もっと下。そう腰の辺りを抱いて抱き寄せて」

兄(せっかくいい兄貴になろうと決心したのに。こいつ、俺の決意を邪魔して楽しいの
か)

妹「うん。これなら何とか行けそうな気がする」

兄「そ、それはよかったな」

妹「お兄ちゃん」

兄「ああ」

妹「何かデートみたいだね」

兄(やめてくれ。何とか興奮を押さえないと)


<あたしにとって本当に大切な用事があったから>




兄「本当に一人で大丈夫か」

妹「平気だって」

兄「何か心配だ。俺やっぱ講義サボって」

妹「必修なんでしょ。だめ」

兄「いいか。男に声をかけられても無視するんだぞ。あ、かと言ってあまり冷たくあしら
っても逆切れされて無理矢理変なことされるかもしれないから、うまく断るんだぞ」

妹「よくわからないけど、わかった」

兄「つうか何かあったら電話しろ。すぐに駆けつけてやるから」

妹「大丈夫だって。ナンパされるのなんて慣れてるし」

兄「え」

妹「いつものことだもん。大丈夫だよ」

兄「おまえ、いつもそんなに危険な目にあってるの」

妹「そんなに毎日じゃないけど」

兄「・・・・・・ちょっと父さんに電話するな」

妹「え? いきなりパパに何を話すの?」

兄「妹が危険だから学校の行き帰りはなるべく車で父さんが送迎しろと」

妹「こらやめろ」

兄「だってよ」

妹「ママはともかく、パパとお兄ちゃんはちょっと過保護だよ」

兄「おまえに何かあってからじゃ取り返しが」

妹「何もないって。ちょっと心配し過ぎ。あたしだってもう子どもじゃないんだから」

兄「そうか?」

妹「そうだよ」

兄「わかった。俺は講義に出るけど何かあったらすぐに電話するんだぞ」

妹「講義中は電話になんか出られないでしょ」

兄「何があっても電話に出るから」

妹「もう。何もないって」

兄「・・・・・・」


兄(一般教養の第二外国語。履修のときに全部同じ科目を選択したから当たり前だけど)

兄(やっぱり女がいる。しかも女の友だち数人と一緒に何か楽しそうに会話しているな)

兄(今は女と話すべきときじゃないからして、なるべく離れた席に座ろう)

兄(つうか、ほぼ全部のコマが女と被ってるんだよな)

兄(一つ教訓になったよ。履修登録時には、彼女と別れた後のことも考えて講義を選択し
ておく必要があるって)

兄(これから毎日女を避けなきゃいけねえのかよ)

兄(あ)

兄(やべ。女と目を合わせてしまった)

兄(え・・・・・・? 女の方が目を逸らした。何か気まずそうな表情だった)

兄(今度こそ兄友は嘘を言っていなかったのか。兄友からのメールは・・・・・・・)



『それでさ。これも言いにくいんだけど。俺、勇気を出して最後に謝ろうと思って女に
メールしたんだよ。いつもの待ち合わせ場所で待ってるから会いたいって』

『来てくれなくてもしようがないって思った。でも、あいつは待ち合わせ場所に来てくれ
た』

『俺は本気で謝った。たとえ女が俺とやり直してくれなくても兄と付き合うにしても、俺
なりのけじめとして後輩とも別れるって言った』

『兄、悪い。本当にごめん。女はそんな俺を許してくれた。やり直そうって言ってくれ
た』

『女はおまえへの罪悪感から、おまえとは直接話をしたくないって言ってるから俺が代わ
りに言わせてもらうな。兄、本当にごめん。俺たちのごたごたに巻き込んだ挙句結果的に
おまえの感情を持て遊ぶことになっちまった』

『俺と女はやり直すことにした。悪いが女のことは忘れてくれ。信じられないかもしれな
いので、一応写メ添付しとく』

『俺と女の問題に巻き込んでお前を傷つけてすまん。女はおまえとはもう会えないって言
っているけど、俺はおまえを親友だと思っているんで許してくれるならこれまでどおりの
付き合いをしようぜ』



兄(まあ、もういいや。正直何が起こったのかわからずに悩んだけど。もういい)

兄(俺にはもう彼女なんかいらないんだ。彼女にはなってくれないけど。それどころか彼
氏さえいるけど、それでも俺の大切なお姫様がそばにいてくれれば)


兄(やっと講義が終了。妹からは電話もメールもなし)

兄(終ったとたんに女は俺の方を見もしないで友だちと一緒に部屋から出ていっちゃっ
た。やっぱ兄友のメールは嫌がらせじゃなくて本当のことだったのか)

兄(それどころじゃない。妹を放置してしまった。電話もメールもないし)

兄(電話しよ)

兄(・・・・・・)

妹『お兄ちゃん?』

兄「講義終ったけどおまえどこにいるの」

妹『ええと。ここどこだろ。ちょっと待って』

妹『すいません、ここってどこですか』

兄(げ。あいつ誰に話しかけてるんだよ)

妹『ああ、そうなんですか。お兄ちゃん?』

兄「おう」

妹『三号館と五号館の間の中庭だって。なんか噴水のあるところ』

兄「すぐに行くから」



妹「お兄ちゃん」

兄「(一人でいた。よかったあ)おう。おまえさっき誰に話しかけてたの」

妹「さあ」

兄「さあっておまえ」

妹「何かうろうろしてたら話しかけてくれて。それで高校生? って聞かれたから」

兄「何ナンパされてんだよおまえ」

妹「ええ? ナンパじゃないよ。受験のアドバイスとか校内の案内とかしてくれたんだ
よ」

兄(こいつは今日は私服姿とはいえ見た目は幼いからな。一目で高校生だとわかったはず。
高校生だと承知して妹に近づく男なんて)

妹「お兄ちゃん?」

兄「ああ(もう今日は以降の講義は全部ブッチだ。妹が危険すぎる)」

兄(それにさすがに今日は女に無視されるのはつらいし)

妹「おなかすいた」

兄「じゃあ何か食おうぜ。学食は危険だから」

妹「危険って?」

兄「いや。学食は混んでいるから大学の外で食おう」

妹「そうなんだ。うん」



兄「何食べる?」

妹「お兄ちゃんがこんなお洒落なオープンカフェを知ってるなんてびっくりだよ」

兄「あんまり俺を舐めない方がいい(女に教えてもらったんだけどな)」


妹「周りはカップルだらけだね」

兄「そういやそうかな」

妹「あたしの学校って女の子しかいないからさ。何か新鮮」

兄「まあ、そうだよな。で、何食う?」

妹「この本日のオープンサンド、ドリンク付きっていうのにする」

兄「じゃあ俺も」

妹「ドリンクって何があるの?」

兄「メニューの下に書いてあるだろ」

妹「本当だ。わあ、ファミレスとは違うねえ。知らないドリンクがいっぱい」

兄「経験から言うと、どれ頼んでも味はそんなに変わらないぞ」

妹「人の楽しみに水を差さないでよ。この、アイスマンゴーハーブティーって美味しいか
な」

兄「それはだな。あ・・・・・・。電話出なよ。って切るなって。せっかく昼休だから彼氏から
電話してくれたんだろ」

妹「別にいいの!」

兄「・・・・・・出てやんなよ」

妹「・・・・・・いいの?」

兄「俺に聞くなよ」

妹『はい』

妹『うん、ごめんね。ちょっと今日は家の用事があって学校休んじゃった』

妹『妹友ちゃんから聞いたの?』

妹『大丈夫だよ。別に病気じゃないの。本当言うと仮病なんだ』

妹『いいじゃない別に』

妹『わかってるよ。でも今日はあたしにとって本当に大切な用事があったから』

妹『・・・・・・彼氏君? 何か怒ってる?』

妹『・・・・・・違うって。もういい加減にしてよ』

妹『もう切るね』

妹「・・・・・・何でこうなっちゃうんだろ」

兄「泣くなよ」

妹「・・・・・・お姫さまなんでしょ」

兄「え」

妹「あたしはお兄ちゃんのお姫様なんだよね?」

兄「・・・・・・うん」

妹「じゃ、慰めてよ」

兄「おい」

妹「さっきみたいにあたしを抱きしめてよ。だってあたし、お兄ちゃんのお姫様なんでし
ょ?」

兄「・・・・・・ああ、そうだよ。おまえは俺の大切なお姫様だよ」

妹「じゃあ抱き寄せて。違うよ、もっと肩に手を回して強く抱きしめるの」

兄「・・・・・・こう?」

妹「それでいいよ」


>>167
前のレスでURL貼ってますよ

今日は以上です
また投下します



わざわざありがとう
そっちも覗きに行く


しかしいつもこの>>1が書く作品は病んでるなぁ(いい意味で

otu


<俺のこと祝福して迎えてくれよな>




兄「落ち着いた?」

妹「うん」

兄「いつまで並んで肩を抱いているのも目立つから、向かいの席に戻るわ」

妹「ありがと」

兄「いや」

妹「何を話してたか聞かないの」

兄「うん」

妹「そう」

兄「おまえが相談したいなら話聞くけど」

妹「うん・・・・・・いいや」

兄「(少しだけ笑った)オープンサンド来たぞ」

妹「うん。何これ大きいね」

兄「ここは洒落ているように見えて実は質実剛健な学生向け大盛り料理が出て来るんだ
ぞ」

妹「でもおいしそう。お腹すいちゃった」

兄「遠慮せず食べろよ。何ならデザートも頼んでいいぞ」

妹「やった」

兄「・・・・・・(可愛い)」

妹「なに?」

兄「いや。口の端にマヨネーズついてるぞ」

妹「やだ」

兄「ほれ」

妹「へ? あ、ありがと。って指舐めるな」

兄(赤くなった。でも元気になったみたいだな)

妹「お兄ちゃん」

兄「どした」

妹「これ、食べても食べても無くならないよ」

兄「ここの仕様だからな。残せばいいよ」

妹「うー。せっかく美味しいのに」

兄「デザート食えなくなるぞ」

妹「じゃあ、これお兄ちゃんが食べて」

兄「いや、俺だって普通に一人前食ってるんですけど」

妹「食べて・・・・・・ね?」

兄「(その下から見上げるような可愛い目線はよせ)おう。任せろ」


兄(しかし考えてみれば不思議だ。妹とここまで仲良くデートみたいなことをするのって
初めてだな)

兄(昔から仲は良かったと思うけど、一緒に手をつないで寝たり、外出時に妹の肩とか腰
を抱き寄せたりなんてしたことなかったよな。あーんだって初体験だったし)

兄(どういうわけか、妹に告って振られた後の方が妹との距離が縮まった。もちろん大学
に入って一月以上妹と会わなかった反動はあるんだろうけど)

兄(今ならもう本気で大丈夫な気がする。やっぱり妹友の言うとおりだ。俺は妹とたまに
こうして過ごせるなら、妹と彼氏のことだって本気で祝福できる気がする)

兄(どうして今まで気がつかなかっただろう。いくら妹が好きだからって、こいつに告っ
たのは妹のためじゃなくて俺自身のためじゃねえか。俺自身が幸せになるためのどうしよ
うもない身勝手な行為だったんだ)

兄(それが結果的に妹を苦しめた。悲しませた。こんなの本末転倒だ。俺は父さんや母さ
んと同じで、妹の幸せだけを考えてやらなきゃいけなかったのに)

兄(妹が彼氏と付き合って、それで今までどおり仲のいい家族と一緒に過ごせるようにし
てやること。それが俺の目標じゃんか。今まで俺は何を血迷ってたんだろう)

兄(父さん母さん。俺もようやくあんたたちと同じ境地に辿り着いたよ。俺のこと祝福し
て迎えてくれよな)

妹「お兄ちゃんさっきから何嬉しそうに笑ってるの?」

兄「おまえの食べ残したサンドイッチを食えたからさ。間接キスじゃん」

妹「何よいまさらそんなこと」

兄「嬉しいからいいんだって」

妹「変なの。ねえ、このアイスマンゴーハーブティーってあまり美味しくないね」

兄「だから言っただろ。経験者のアドバイスを信じろよ」

妹「じゃあデザートはお兄ちゃんに決めさせてあげる」

兄「俺が選ぶの?」

妹「うん。どうせ食べられないから一つでいいや。一緒に食べよ」

兄「お、おう(ほら。妹を彼女にすることを諦めただけで、俺だってこんなに幸せになれ
るじゃないか)」


<・・・・・・・手を出して>





妹「これ、本当に大丈夫? 何か量だけ多くて大味そう」

兄「大丈夫だって。甘すぎず酸っぱすぎずでさ。このフルーツがマジで美味い」

妹「まあフルーツパフェでフルーツが適当なのってよくあるけど、フルーツが美味しいな
ら大丈夫かな」

兄「保証する。大きいけど絶対全部食べちゃうぜおまえ」

妹「いくらなんでも一人じゃ無理。お兄ちゃんも責任とって」

兄「(何気ない言葉なのに深読みするんじゃない)おう、いくらでも責任取るぞ。何なら
結婚してもいい」

妹「そっち方面の責任じゃないって」

兄「冗談だよ」

妹「わかってるよ。でもまたお兄ちゃんとこういう会話ができるようになって楽しい」

兄「ああ。俺もだ」

妹「こんな話はお兄ちゃんとしかできないもんね」

兄「・・・・・・彼氏とだってできるだろうが」

妹「彼氏君は真面目だから・・・・・・こういう話し出したら冗談じゃすまなくなっちゃうって
いうか」

兄「・・・・・・そうか」

妹「あ、パフェきた。って何これ大きすぎ」

兄「山盛りになったフルーツもすごいだろ」

妹「本当に」

兄「あと生クリームも甘すぎず美味しいぞ」

妹「じゃあさっそく」

兄「何だよ」

妹「あーんして」

兄「おまえが食えよ」

妹「毒見だよ。ほら」

兄「だってよ」

妹「そちは姫君の命令が聞けぬと言うのか」

兄「お姫様の命令ならしかたな・・・・・・っておま。口をあけてからスプーンを近づけろよ。
顔にクリームが付いちゃったじゃねえか」

妹「はい、動かないでね」

兄「おい。おまえの手が汚れるって。つうか舐めるなよ」

妹「確かに美味しいね」

兄「おまえなあ」

妹「さっきの仕返しだよ。じゃあ、食べるか」

兄「結局、俺は食えてねえじゃん。顔にクリーム付けられただけで」

妹「・・・・・・本当に美味しい」


妹「もう動けないよー」

兄「結局、完食したもんな。おまえ」

妹「途中でやめようと思ったけど、麻薬的な美味しさだった」

兄「だから言っただろ。絶対に美味しいって。そろそろ行くか?」

妹「だからまだ動けないって。苦しいー」

兄「おまえはちょっとそのまま休んどけ」

妹「お兄ちゃん、次の講義の時間じゃないの」

兄「今日は自主休講」

妹「だめだよ。真面目に出席しなよ」

兄「仮病使って休んだやつに言われるとはな」

妹「・・・・・・う」

兄「今日はおまえとデートする気分なの」

妹「え」

兄「何だよ」

妹「これってデートだったの?」

兄「兄妹の健全なデートだろ? 違うのか」

妹「まあ、もうそれでもいいか」

兄「とにかく今日は休む。だから、このあとどっかに遊びに行こうぜ」

妹「じゃあ、カラオケ行きたい」

兄「却下」

妹「却下早すぎだよ」

兄「何でこんなに天気もいいのにカラオケなんぞに行かなきゃいけないわけ? 大学のと
隣の自然公園でも散歩しようぜ」

妹「あんたはジジイか」

兄「何でジジイだよ。有名なデートスポットなんだぞ」

妹「・・・・・・デートスポット?」

兄(ああ、いかん。妹に意識させるような言葉を言ってしまった)

妹「お兄ちゃんがそこに行きたいなら別にいいよ」

兄「いや。よく考えたらそんなに行きたくないや。別に俺たちって恋人同士じゃねえし
な」

妹「・・・・・・」

兄「よし。カラオケ行こうぜ。お姫様の命令は絶対だし」

妹「お兄ちゃん、それでいいの」

兄「聞き返すなよ。言いに決まってるだろ」

妹「・・・・・・・手を出して」

兄「へ」

妹「テーブルの上に手を出して」


兄「こうか」

妹「・・・・・・」

兄(俺の手を包むように両手で握った・・・・・・)

妹「ちゃんと聞こうと思ってたんだけど」

兄「うん」

妹「お兄ちゃん本当に女さんに振られたの?」

兄「多分」

妹「多分ってどういうこと。ちゃんと教えてくれてもいいでしょ」

兄「本当にわからねえんだよ」

妹「ねえ、お兄ちゃん」

兄「ああ」

妹「あたしも同じだから」

兄「何が」

妹「あたしも同じ。お兄ちゃんが言ってくれたことと同じ気持だから」

兄「・・・・・・」

妹「うちの家族が何よりも誰よりも大切で大好き。だからお兄ちゃんのことも大好き」

兄「うん」

妹「最初にお兄ちゃんの部屋にいる女さんを見たときはちょっと混乱しちゃったけど。で
もお兄ちゃんがあたしと彼氏君とのことに嫉妬しないって言ったでしょ」

兄「言ったけど(何なんだ)」

妹「だからあたしも女さんには嫉妬するのやめたの」

兄(もうこういうのやめてくれ。せっかく父さんと母さんの心情の域にまで達したという
のに。何で俺と女の仲におまえが嫉妬するんだよ)

妹「女さんと付き合いなよ。本当は振られてないんでしょ? お兄ちゃん、あたしのため
に女さんと別れようとしてるんじゃないの」


<お兄ちゃんには強力なライバルがいるんだよ>




兄「それ思い切り誤解だから」

妹「嘘つくな」

兄「嘘じゃねえって」

妹「もしお兄ちゃんが本当に女さんに振られたんだとしたら、絶対あたしのせいだよね」

兄「何でそうなる」

妹「こんなうざい妹がいる男なんて面倒くさくなったんじゃないの」

兄「何でおまえがうざいんだよ。妹に迫って告白したうざいやつは俺の方だろうが」

妹「・・・・・・」

兄「しようがねえなあ。ほれ、これ見ろ」

妹「携帯?」

兄「メール読んでみ」

妹「うん」



from:兄友
to:兄
sub:悪かった
『本当に悪かったな。別に女のことは俺の自業自得でおまえのせいじゃないのに。電話す
るのはちょっと敷居が高いからメールした』

『女に対する態度は今思うと言い訳のしようもねえよ。おまえに言われたとおりだ。今は
反省している』

『それでさ。これも言いにくいんだけど。俺、勇気を出して最後に謝ろうと思って女に
メールしたんだよ。いつもの待ち合わせ場所で待ってるから会いたいって』

『来てくれなくてもしようがないって思った。でも、あいつは待ち合わせ場所に来てくれ
た』

『俺は本気で謝った。たとえ女が俺とやり直してくれなくても兄と付き合うにしても、俺
なりのけじめとして後輩とも別れるって言った』

『兄、悪い。本当にごめん。女はそんな俺を許してくれた。やり直そうって言ってくれ
た』

『女はおまえへの罪悪感から、おまえとは直接話をしたくないって言ってるから俺が代わ
りに言わせてもらうな。兄、本当にごめん。俺たちのごたごたに巻き込んだ挙句結果的に
おまえの感情を持て遊ぶことになっちまった』

『俺と女はやり直すことにした。悪いが女のことは忘れてくれ。信じられないかもしれな
いので、一応写メ添付しとく』

『俺と女の問題に巻き込んでお前を傷つけてすまん。女はおまえとはもう会えないって言
っているけど、俺はおまえを親友だと思っているんで許してくれるならこれまでどおりの
付き合いをしようぜ』

『じゃあな』


妹「・・・・・・そもそも女さんと兄友さんの二人には何があったの」

兄「兄友が後輩の女の子と女と二股かけていてな。そんで後輩ちゃんが妊娠したって嘘を
ついて、焦った兄友が追い詰められて女を振ったってことだな」

妹「本当なのそれ?」

兄「さあ。俺が直接見たわけじゃないしな。そんで俺もおまえとその、まあ何だ。振られ
た者同士慰め合っているうちに付き合おうかという話になって」

妹「そうだったんだ」

兄「だけど妊娠は嘘だったらしいよ。だから、兄友が本気で謝れば女だって一度は好きだ
った男のことなんだからさ、兄友のことを許しても不思議じゃねえよな」

兄(女の話も嘘だったのかもな)




女『これで兄友に罪悪感とか感じないで自分の気持に素直になれるから』

女『兄友のことを、あんたへの気持を忘れるために利用したから』

女『あんたが好きだったの』

女『あたしはどうしたらよかった? 妹ちゃんしか見えていないあんたに玉砕覚悟で告れ
ばよかったの? それともずっとあんたに片想いし続ければよかったの?』

女『あたしさ。あんたのことを諦めようと思ったとき、兄友に告られてさ。自分を変えた
かったこともあって兄友と付き合ったの』

女『うん。でも、あんたのことを忘れたことなんかなかった。というか、忘れるために付
き合ったのに、一々いろいろ兄友とあんたのことを比較しちゃってさ。いつまでたっても
あんたを忘れられなかった』

女『信じられない? 兄友に振られてからあんたに告ったのは確かだけど、昔からあんた
のことが好きだったのは本当だよ』



兄(あの言葉自体が甘い嘘だったのかもな。振られた自分を救うために、最初から兄友な
んか好きじゃなかった、本当に好きだったのは俺だったって自分に言い聞かせていたのか
も)

兄(女とは昔から悪友だったから、そういうことがあっても不思議じゃねえもんな。だか
ら女の言葉を俺は疑わなかったし、女も自分にそう言い聞かせることができたのかもしれ
ない)

妹「これ本当なのかな」

兄「本当って?」

妹「兄友さんのメール、何か現実感がないっていうか。まるで安っぽいドラマみたい」

兄「そうかな」

妹「これ、兄友さんが嘘ついてるんじゃないの?」

兄「何でそう思うの」


妹「あたしのせいで、お兄ちゃんと女さんは仲違いたんでしょ」

兄「違うよ」

妹「少なくともあたしが部屋に行ったせいで、女さんとはあの晩から話してないんでし
ょ」

兄「それはまあそうかもな」

妹「そういう行き違いを兄友さんが知って、こういうメールで揺さぶりをかけてきたんじ
ゃないかな」

兄「そんなの俺が女と話したらすぐにばれるじゃねえか」

妹「それはそうだけど」

兄「それにさ。さっきおまえを待たせていたときにさ。教室で女を見かけたんだよな」

妹「女さんどんな感じだった?」

兄「一瞬、目が合ったんだけどすぐに気まずそうに目を逸らされた」

妹「そうか・・・・・・」

兄「兄友のメールの内容と一致するだろ?」

妹「うーん」

兄「もういいって。それに俺だって女には悪いことしたっていう気持があるんだし」

妹「何でお兄ちゃんが?」

兄「俺が好きなのはおまえだけだったし。あのときは女の言葉が正しく思えて付き合おう
って言っちゃったけど、やっぱりおまえを忘れるために女と付き合うなんて最低じゃん」

妹「・・・・・・お兄ちゃん」

兄「だからもういいんだ。俺には女へ未練もないし、女から振られたことで女への罪悪感
も覚えずにすんだ。おまえに告白して振られたことももう整理できた。おかげでおまえと
の関係もようやく正しい道がわかったんだから」

妹「正しい道って」

兄「昨日から何度も言っているじゃんか」

妹「なに」

兄「おまえは永遠に可愛い俺のお姫様で俺の妹だよ」

妹「ふふ。そうか」

兄「やっと理解してくれたか」

妹「念のために妹ラブなお兄ちゃんに言っておくけど、お兄ちゃんには強力なライバルが
いるんだよ」

兄「知ってるよ」

妹「あ・・・・・・違うよ。彼氏君じゃなくて」

兄「父さんと母さんだろ?」

妹「・・・・・・うん」

兄「じゃあカラオケ行くか。俺の大切な可愛いお姫様」

妹「やっぱりいい」

兄「何が」

妹「カラオケはいい。お兄ちゃんが言ってたデートスポットの森林公園に行こう」

兄「おまえがいいいならそれでいいけど」

妹「あたしもそれでいいよ」

兄「じゃあ行こう・・・・・・手を離せよ」

妹「もうちょっとだこのまま握っていたい」


今日は以上です
また投下します

>>180
否定はしませんが今回のは以前よりもだいぶ軽いと思う

おつんつん

ええよええよ



前のより軽いやつなら安心だわ

>>1の他スレは前に読んでたが、鬱すぎて途中で読むのやめちゃったし


<無視すんな>




兄(公園でのデート以来、うざいくらいに妹からメールが来るようになったな)

兄(他愛のない内容なんだけど、何も自分の写メ付きで二時間おきに近況報告してくれな
くてもいいのに)

兄(いい家族ってこんなことまでしてたっけ? いや、しないな)

兄(思わず反語を思い浮かべちゃった)

兄(でも、正直に言うとすげー嬉しいし、楽しい)

兄(今まで知らなかった妹の学校生活をガイド付きツアーで見学しているようで)

兄(ただ、彼氏とのデートの報告メールだけは来ないな。もちろん写メも)

兄(・・・・・・当たり前だろ。そこは考え込むところじゃねえだろ)

兄(期せずして妹のセーラー服画像コレクションが充実してしまった。それも今までみた
いな盗み撮りじゃなくて妹本人が自撮りして送ってくれたやつだし)

兄(スマホの壁紙に設定しよう。どれにしようかな)

兄(何か楽しい。昔と違って合意なしに黙って撮影したわけじゃないから、堂々と選べる
な。何しろお姫様自ら送ってくれた画像だし)

兄(かといって一々返信もできん。万一、妹が彼氏と一緒だとすると何か気まずいしな。
きっと妹だってそうだろう。最も今は校内だろうからさすがに彼氏はいないだろうけど)

兄(あ、またメールだ)



from:最愛の妹
to:兄
sub:無視すんな
『何でメール返して来ないの? 最愛のお姫様からのメールを無視するってどういうこと
よ』

『これ以上、あたしを無視するならパパとママに、お兄ちゃんが意地悪するって言いつけ
るからね(はあと)』



兄(冗談にしても笑えねえ。うちの両親って普段は温和なくせに妹のこととなると人柄変
わるからな。こんなことを言いつけられたら俺だってただじゃすまん)

兄(してないよ、無視してないって。講義中だったから返信できなかったけど姫からの
メールはちゃんと見たって・・・・・・。親バレは勘弁したって、と。よし送信)

兄(これでご機嫌を直してくれるといいんだけどな。って、あ)

兄(・・・・・・女が俺の方を見ていた)

兄(気のせいじゃないよな。一瞬だけど確かに目が合った)

兄(まあ、講義のときはいつもわざと離れた席に座っているから、そんなに至近距離じゃ
なかったけど、目が合ったのは気のせいじゃない)

兄(ずっと俺のこと無視しているくせに、今さら何なんだ)

兄(別に今となっては恨む気はないけど、それにしたって兄友の浮気で別れたくせに、浮
気される心の痛みは自分が一番わかってたくせに)

兄(結局女自身が浮気したんだもんな。俺と付き合ってたくせにさ)

兄(はあ。まあいいや。俺は一生一人で童貞のまま姫を見守って生きていくんだから)

兄(・・・・・・それにしても俺のことなんか何で見てたんだろ。一応、気にしてんのかな)


兄(携帯が振動してる。妹からメールだ・・・・・・てか返信早すぎだろ)



from:最愛の妹
to:兄
sub:Re:Re:無視すんな
『まあ、講義中なら許してあげる。あれから女さんと話した? あ、返事は講義終ったら
でいいからね。あと、今度はいつ帰ってくる? あんまりあたしを放置して構ってくれな
いならあたし夜遊びしちゃうよ。何かあったらお兄ちゃんのせいだからね』



兄(可愛い。俺の姫って本当に可愛い)

兄(前にも思ったけど、こんなに妹との仲が改善されるんだったらもっと早く振られとく
んだった)

兄(・・・・・・)

兄(あいつもまだ女のこと気にしてるのかな。女に振られたのって全然あいつのせいじゃ
ねえのにな)

兄(女と話してもう気にするなって言ってやろうかな。実際、俺の方も妹を忘れるために
女と付き合ったっていうひけめもあるし)

兄(講義終ったら女に話しかけてみるか。女も気が楽になルるろうし妹だって安心するか
も)



兄「(よし。講義終了。女が消える前に側に行って話しかけるか)よ、よう」

女「え」

兄「ちょっといいか」

女「・・・・・・うん」

兄「あのさ俺」

兄友「講義終ったんだろ? 飯食いに行こうぜ」

兄「え」

兄友「あ。兄か」

兄「・・・・・・おう」

女「兄。あ、あのね」

兄友「兄、悪いな。早く行かないと学食混んじゃうからさ。女、さっさと行こうぜ」

兄「・・・・・・そうか」

女「ちょっと・・・・・・。引っ張らないでよ」

兄友「じゃあまたな。兄」

女「あ、兄・・・・・・ってちょっと」

兄(兄友に引っ張られて行っちゃったよ)

兄(何か兄友も必死だな。でもまあ、兄友と女が一緒に消えたわけだから兄友のメールは
嘘じゃなかったってことか)

兄(・・・・・・いけね。姫にメール返さないと)


<あたしと寝たい?>




from:兄
to:最愛の妹
sub:Re:Re:Re:無視すんな
『さっきは悪かったな。明日は土曜日だからそっちに帰るよ。だから夜遊びとか冗談でも
言うなよ。父さんと母さんがマジでへこむから』

兄(女のことは黙ってようかな。変に妹に悩まれても困るし)

『女とは体育実技以外の講義は全部一緒だけど、離れたところに座って顔を見ようともし
てないよ。てか、女のことはもういいよ。おまえが気にすることでもないしな』

『明日の晩も両親いないの? いないならまたオムライスお願い』

『じゃあ、明日の夜にまたな』



兄(さて、飯食うか。学食にでも)

兄(いかんいかん。兄友と女に出くわすかもしれん。妹と一緒に行ったカフェでオープン
サンドでも食うかな)



兄(・・・・・・敗残した。まさか満席とは思わなかった)

兄(しかたない。駅前の吉牛で牛丼でもって、あ)

兄(妹から返信だ)



from:最愛の妹
to:兄
sub:Re:Re:Re:Re:無視すんな
『あたしも別に鬼ってわけじゃないからお兄ちゃんが明日帰ってくるなら夜遊びはしない
であげるよ』

『あと明日もパパとママいないよ~。オムライスは考えておいてあげる』

『女さんのことはわかった。しつこく聞いちゃってごめんなさい。あたしにはどうするこ
ともできないことなので、もうそのことを口に出すのはやめます。お兄ちゃん、本当にご
めんね』

『あとさ。せっかく両親いないんだし、明日もあたしと寝たい?』

『じゃあね。明日遅くならないでね』



兄(寝たいって、おまえ。誤解しそうになるような表現はよせ)

兄(せめて一緒に寝たいとかって言うならエッチ的な意味じゃなくて添い寝的な意味だっ
てわかるのに。まあでも前から語彙に乏しい姫にそこまで求めても無理だろう)

兄(でも。妹と添い寝か。したいかしたくないかって言えばしたいに決まってる)

兄(・・・・・・もう女のことはいいや。俺には家族がいるんだからそれで十分だ)

兄(早く明日になんねえかな)


兄(いくらなんでも早く着きすぎかもしれない。気合を入れてほぼ始発の電車に乗って実
家に帰って来てしまったからな)

兄(どうしようかな。ここから歩けば十五分で実家に帰れるんだけど)

兄(さすがに朝七時前の家に入っていくのは何となくためらわれる。実家なんだし気にし
過ぎなのかもしれないけど)

兄(駅前のファミレスが営業してるな。朝飯食ってないし、あそこで飯を食いがてら時間
を潰すか)

兄(さすがに土曜日の朝だから店内も空いてるな)

兄「あ、はい。一人です。禁煙席で」

兄(何、食うかな。どうせならこの和風モーニングセットとやらにするか)

兄「すいません」

妹友「あれ? お兄さんじゃないですか。おはようございます」

兄「げ」

妹友「・・・・・・今あたしの顔を見て、げって言いましたね」

兄「いや。おはよう妹友さん」

妹友「げって言いましたね」

兄「いや。おまえの気のせいだろう」

妹友「言いましたよね」

兄「ごめんなさい。ちょっとびっくりして思わず」

妹友「・・・・・・まあ、いいでしょう。お兄さんは何でこんなところにいるんですか」

兄「何でって言われても。朝飯を食おうとして」

妹友「何でですか」

兄「いや。俺だってお腹は空くし」

妹友「ここから徒歩圏内にご自宅があるじゃないですか。家で食事ができないような事情
でもあるんですか」

兄「そんなもんあるか。いいじゃんか、ファミレスで飯くらい食ったって」

妹友「まあ、別にどうでもいいんですけどね」

兄「なら聞くなよ」

妹友「失礼します」

兄「何で俺の席に勝手に座る」

妹友「別にいいじゃないですか。別にご馳走しろって言ってるわけじゃないのに」

兄「そういう問題じゃない」

妹友「じゃあどういう問題ですか」

兄「・・・・・・まあいいや」

妹友「すいません。オーダーお願いします」

兄「俺は和」

妹友「あたしは和風モーニングセットをください」

兄「・・・・・・洋風モーニングセットAを」

妹友「意外ですね。朝は和食派かと思ってました」

兄「何を根拠に言ってるんだ」

妹友「ソースは妹ちゃんです。うちのお兄ちゃんは朝はいつもご飯とお味噌汁がないとだ
めなの。ママがいつも面倒がってるって言ってました」


兄「そんなこと話してるんだ」

妹友「そのくせオムライスが大好きなお子様味覚だとか、焼き魚もさわらの西京漬けみた
いな面倒なものが好きだとか」

兄「妹ってそんなことまで話してたのか」

妹友「妹友ちゃんはお兄さんの話ばかりしてますからね」

兄(え)

妹友「興味の欠片もないお兄さんの話しばかり毎日聞かされて、正直あたしも最近少しい
らっとしてました」

兄「(妹のやつ何なんだ)それは悪かったな」

妹友「お兄さんが謝る必要なんてないですよ」

兄「そうか」

妹友「お兄さんごときに謝ってもらっても少しも気分は晴れないですから」

兄「・・・・・・(そうかよ)それで? おまえは朝早くからこんなところで何してるんだ」

妹友「お兄さんと話しながら朝食が運ばれて来るのを待ってます」

兄「・・・・・・いや、そうじゃなくて」

妹友「ここで時間を潰して駅の出口を監視しようと思って」

兄「何のために」

妹友「妹ちゃんが昨日嬉しそうに明日お兄ちゃんが帰ってくるのって、目を輝かせながら
言っていたので」

兄「もしかして俺を待ってたの」

妹友「はい。お話しがあって」

兄「話って?」

妹友「お兄さんって妹ちゃんとはいい兄妹に戻ったんですよね」

兄「おまえも知ってのとおりだ。妹に送信する前にメールを見せたじゃんか」

妹友「そうですか。おかしいなあ」

兄「何か気になることでもあるのか」

妹友「実はそうなんですよ。で、てっきりお兄さんが性懲りもなくまた妹ちゃんを惑わせ
てるのかと」

兄「そんなことを疑ってたのかよ」

妹友「一番妥当な推論ですからね。お兄さん。嘘言ってないですよね」

兄「言ってねえよ。ちゃんと妹にも会っていい兄貴になるって、もうおまえを口説いたり
しないって宣言しったぞ」

妹友「嘘じゃなさそうですね」

兄「嘘じゃねえよ」

妹友「じゃあ、何で妹ちゃんはうちのお兄ちゃんと会おうとしないのかなあ」

兄「え」

妹友「お兄ちゃん落ち込んで悩んじゃって。最近妹ちゃんが冷たくて、登校時も下校時も
休日のデートも全部断られてるんですって」

兄(・・・・・・まじかよ)


<本当は嬉しいくせに>




妹「あ、お兄ちゃんお帰り」

兄「ただいまお姫様」

妹「へへ。やっと帰って来た」

兄「おい。家の中で手をつながなくたって」

妹「パパとママ、もう出かけちゃったし平気だよ」

兄「そういう問題じゃ」

妹「何よ。嫌なの?」

兄「・・・・・・嬉しいけど」

妹「おまえはツンデレかよ」

兄「俺はおまえとは正しい兄妹関係で行こうとだな」

妹「何意識してるのよ。こんなの兄妹なんだから普通でしょ」

兄「いやいや。ってそうなの?」

妹「そうだよ。それに兄妹の数だけ兄妹の関係のあり方があるんだから。うちは家族みん
な仲がいいんだからこれでいいの」

兄「おまえがそういうなら」

妹「本当は嬉しいくせに」

兄「まあ、そうだけど」

妹「ふふ。ね、今日はどうする?」

兄「どうって?」

妹「昼間何して過ごす? デートする。それとも家でゆっくりしたい?」

兄「おまえは予定ねえの」

妹「別にないけど」

兄「だってせっかくの休日じゃん。彼氏君とデートとかしねえの」

妹「・・・・・・別に約束してないし」

兄「だってさ。おまえらって学校違うから普段はあまり会えないんだろ?」

妹「そうだけど」

兄「だったら休みの日くらいは毎週でも会いたくなるんじゃねえの」

妹「うるさいなあ。約束してないったらないの!」

兄「何きれてるんだよ」

妹「きれてない! お兄ちゃん、そんなにあたしを彼氏君とデートさせたいの?」

兄「そうじゃねえけど。俺なんかに気を遣ってるならいらん心配だぞ。俺はもう嫉妬しな
いって決めたんだから」


妹「・・・・・・ちょっとくらいは嫉妬しろ。ばか」

兄「聞こえないよ。もっと大きな声で話せ」

妹「もういい。お兄ちゃんが嫌なら別に無理に一緒にいてくれなくたっていいよ。アパー
トに帰ったら?」

兄「そんなこと言ってねえだろ」

妹「あたしのこと大切にするって言ってたのに」

兄「だからそれは嘘じゃねえって」

妹「おまえは俺の大切なお姫様だよって言ってくれたのに」

兄「・・・・・・おまえは俺の大切なお姫様だよ。これは本当」

妹「本当?」

兄「(また出た。妹の必殺上目遣い。可愛い)本当だって」

妹「何で意地悪したの」

兄「いや、意地悪じゃなくて心配したんだよ。おまえこの間、彼氏君と別れるって言って
たし」

妹「・・・・・・大丈夫だよ」

兄「何が大丈夫なの」

妹「お兄ちゃんのお姫様なんでしょ? あたし」

兄「うん」

妹「じゃあ、姫からお兄ちゃんへのご褒美ね」

兄「ちょ、ちょっとちょっと。おまえ何やって」

妹「・・・・・・へへ」

妹「お兄ちゃんにファーストキスあげたの」

兄「おまえなあ」

妹「こないだのカフェで間接キスしたって喜んでたじゃん、お兄ちゃん」

兄「う、うん(キスしてしまった。告って振られた妹に)」

妹「嫌だった?」

兄(こんなに心配そうな顔をされたら・・・・・・それに正直すげえ嬉しいし)

兄「いや。すごく嬉しかったよ」

妹「ならよかった」

兄(妹って彼氏君とは手をつないだだけなのか。初キスって言ってたし)

妹「お兄ちゃん」

兄「・・・・・・抱きつくなよ。襲うぞ」

妹「お兄ちゃんは姫にそんなことできないでしょ。信用してるよ」

兄(男ってそんなに単純じゃねえんだけどな)

妹「じゃあデートに行こう。うちで二人きりでもいいけど、天気もいいし外出しよ」

兄「おまえがそれでいいなら」

妹「着替えるからちょっと待っててね」

兄「わかった」

妹「覗かないでね」

兄「しねえよ」

妹「あはは」


今日は以上です
少し間があくかもしれないけどまた投下します

ご愛読感謝です

乙です。ひょっとして女は男友に犯されて脅されてんのかね…?

そして妹がいい感じに危なくなってきたな。ヤンデレとは別ベクトルで

女にイラッとする
はよ続き見たいぞ

兄貴は仏か何かか?


<いくら何でもこれは行き過ぎじゃねえの>




兄「で。どこ行くの」

妹「お兄ちゃんはどこに行きたい?」

兄「いや。どこって言われても」

妹「何にもデートプランを考えてこなかったの」

兄「何で軽く非難しているような目で俺を見る」

妹「だって、そういうのは男の人の役目なんじゃないの」

兄「それは違うな」

妹「何でよ」

兄「おまえは性差による役割分担論という一時代前の固定観念に何の疑いも抱いていない
ようだな。この守旧主義者め」

妹「あたしバカだから何言われてるかわからないけど、お兄ちゃんひどい」

兄「更に言えば今日外出するなんて聞いていなかったのに、行く先なんて考えているわけ
はないだろうが」

妹「ちょっとはっきりさせようか。お兄ちゃん」

兄「おう。望むところだ。おまえなんかに論破される気は全然しないしな」

妹「論破するとかされるとか、ちょっとお兄ちゃん必死すぎでみっともないよ」

兄「いいから反論してみ」

妹「あたしってお兄ちゃんにとって守旧主義者なの。それともお姫様なの」

兄「え」

妹「どっち?」

兄「・・・・・・」

妹「何か言ってよ」

兄「お姫様」

妹「ふーん。お兄ちゃんは姫に向って守旧主義者だとか、行く先なんて考えているわけな
いとかって言うんだ」

兄「いや。ちょっと待て」

妹「パパとママに」

兄「悪かった。俺が少し考えなしだったよ」

妹「ふふ」

兄「・・・・・・何?」

妹「冗談だって。お兄ちゃんと一緒にいるとついうきうきして冗談を言いたくなっちゃう
の。それだけ嬉しいからかな。あたしの方こそごめんね」

兄「いや(いくら何でもこれは行き過ぎじゃねえの。俺って妹から付き合えないって言わ
れたのにさ)」

妹「じゃあ行こう」

兄「どこに」

妹「どこでもいいよ。とにかく行こうよ」

兄「はいよ(何か告白が受け入れられたかのような錯覚に陥る。振ったやつにこんな思わ
せぶりな態度しちゃだめだろ。いくら仲のいい兄妹になることにしたにしても)」


妹「公園に行こうか」

兄「いいけど。確か前も大学の側の公園に行ったよな」

妹「そうだね。お兄ちゃんのお勧めの場所だったよね。行ってみたらカップルしかいなか
ったけど」

兄「別にそんなつもりで誘ったわけじゃ」

妹「わかってるよ。嫌だったなんて言ってないじゃん。楽しかったよ」

兄「(わかんねえなあ。こいつ本心では俺のこと、異性として好きなのかなあ)」

妹「あたしも穴場の公園を見つけたの。こないだのほど大きくなんだけど、結構雰囲気が
よくて人もあまりいないんだよ」

兄「そうなんだ。じゃあそこに行こうぜ」

妹「うん」

兄(・・・・・・変な話だよな。振られた後の方が以前より妹が俺にベタベタするようになっ
た気がする)

兄(確かに昔から俺たちは仲のいい兄妹、つうか両親を含めてすごく仲のいい家族だった
し)

兄(妹に告白なんて余計なことをしてそれを壊しかけたのは俺なんだけど。妹はそのこと
を本気で嫌がってたんだろう。こいつは家族が大好きだったし)

兄(それにしても最近のこいつの態度は少し行き過ぎだ。昔に戻るどころか通り越しちゃ
ってるじゃん。むしろ恋人同士みたいな反応を要求されている気がする)

兄(俺の思い過ごしならいいけどさ。確かにこいつのことをお姫様扱いしたり姫と呼んだ
り、今までだってなかったことを言い出したのは俺の方ではあるけどさ)

兄(・・・・・・妹も俺が自分に振られて傷付いてることに気がついて気を遣ってるのかなあ)

兄(そうだとしたら兄貴失格だ。つうかそんなことを父さんに知られたら確実に俺が終っ
てしまう。いろいろな意味で)

妹「何かよけいなこと考えてない?」

兄「ね、ねえよ」

妹「・・・・・・本当」

兄「本当だって!」

妹「なら、いいけど」

兄「それよかさ。いったいその穴場の公園っていうのはどこにあるんだよ」

妹「電車に乗るよ」

兄「わかったけど」

妹「図書館の横にあるの」

兄「へ」

妹「ね? 知らなかったでしょ。あたしもこの間知ったんだけど、市立図書館の横にある
公園がすごく雰囲気がいいの。小さな公園なんだけど」

兄「そうなんだ」

妹「楽しみでしょ」

兄「うん(図書館って。前に妹が彼氏と一緒に恋人つなぎをしながら行った場所じゃん。
二人で勉強でもしに来たのかと思ったのに、あのときちゃっかりと公園デートしてたのか
よ)」


<誤解されたらおまえに迷惑かけるしな>




妹「休みなのに座れないね」

兄「まあ休日ダイヤだと本数が極端に少なくなるからな。逆に電車とかバスは混むよな」

妹「吊り革に手が届かない」

兄「低身長乙」

妹「仕方ない」

兄「へ」

妹「お兄ちゃんに掴まろうっと」

兄「・・・・・・」

妹「何よ。嫌なの?」

兄「別に」

妹「あんたは沢尻エリカか」

兄「どんだけ昔のネタだよ」

妹「どっちなのよ」

兄「・・・・・・こっちの方が姫も楽だろうし」

妹「え」

兄「この方が楽だろ」

妹「・・・・・・確かにこれなら両手が塞がらないしね」

兄「そうだろ」

妹「でもさ。お兄ちゃんがあたしの肩を抱いて支えているところを誰かに見られたら確実
に恋人認定されちゃうね」

兄「その危険性はあるな。やめとくか」

妹「しっかりとあたしの肩を抱いておいて今さら辞めるとか何言っちゃってるのかな」

兄「まあ、見回したところでは知り合いは誰もいないようだし」

妹「そうだね」

兄「知り合い以外にどう思われようと別に構わないでしょ」

妹「意外とお兄ちゃんって大胆なんだね。さすが、真面目に実の妹に告って迫っただけの
ことはあるよね」

兄「その話はよせ」

妹「まあいか。この方が楽チンだし。その代わりちゃんと支えててよ」

兄「わかってる」

妹「あとその手を肩以外の場所に動かさないでよ」

兄「するか。そんなもん」

妹「・・・・・・」

兄(姫の顔が真っ赤だ。何だよこれ。振られたのにまた期待しちゃうじゃんか)

妹「・・・・・・何か喋ってよ」

兄「何かって」

妹「何かは何かだよ」


兄「次の次の駅だっけ。図書館って」

妹「え。ああ図書館ね。そうだよ」

兄「じゃあ、姫の肩を抱き寄せていられるのもあと少しだな」

妹「・・・・・・残念そうに言うな」

兄「だって残念なんだからしかたない(俺は何を言ってるんだ)」

妹「そ、そか。へへ」

兄「ああ(何だか満足そうだな)」

妹「じゃ、じゃあさ。今日は特別大サービスで、公園に行くまであたしの肩を抱きよせて
いてもいいよ」

兄「そうはいくか」

妹「・・・・・・何で? あたしがせっかく」

兄「誰かに見られたら恋人認定されちゃうんだろ」

妹「え」

兄「誤解されたらおまえに迷惑かけるしな」

妹「何でよ」

兄「何でって・・・・・・」

妹「何でもない。次の駅で降りるよ」

兄「おう(じゃあ、手を離すか)」

妹「この駅から歩いて十五分くらいだよ」

妹「じゃあ図書館まで歩こうか」

兄「そうだな」

妹「・・・・・・」

兄(何か妹が微妙に不機嫌と言うか、さっさと先に行ってしまうというか)

妹「・・・・・・」

兄「ちょっとさあ。俺を置いてどんどん先に行くなよ」

妹「お兄ちゃんが歩くのが遅いんじゃない」

兄「いやさ。せっかく一緒にいるのにこれじゃデートっぽくないというか」

妹「これってデートだったの?」

兄「おまえがデートプランとか言い出したんだろうが(面倒くせえ妹だな全く)」

妹「まあ、お兄ちゃんがこれをデートだと言い張るならあたしは別にそれもでもいいけ
ど」

兄「ああ、そうだよ。おまえが迷惑でも俺は妹とデートしたいの!」

妹「もう。本当に面倒くさいお兄ちゃん。したいならしたいってもっと早く言いなさい
よ」

兄「悪かったよ」

妹「じゃあ、デートなら仕方ない。はい」

兄「はいって何が」

妹「手をつないであげるって言ってんの」

兄「お、おう、ありがと」

妹「そうじゃないでしょ」

兄「ああ。恋人つなぎね」


<いつ帰ってくる?>




妹「嫌だった?」

兄「んなわけねえだろ。アホ」

妹「アホじゃないでしょ。姫でしょ」

兄「そうだった。はいはい」

妹「ここだよ」

兄「ほう。これはなかなか」

妹「でしょ? 最初に来たときから気に入ってたんだ。お兄ちゃんの大学のとこの公園も
いいけど、あそこはカップルがあっちこっちで変なことしてて落ち着かないし」

兄「確かにここは静かだな。人もほとんどいないし」

妹「うん。だから穴場なんだよ」

兄「本当にいいところだね」

妹「うん。一度お兄ちゃんと一緒に来たかったんだ」

兄「(深く考えるな、俺)そうなんだ」

妹「次はパパとママも誘ってお弁当もって来ようよ」

兄「いいね。ってあいつらにそんな時間があるかはともかくな」

妹「あたしが誘えばパパは来てくれるよ」

兄「まあ、確かに。両親ともにおまえを溺愛しているけど、どっちかていうと父さんの方
が溺愛の度合いがいろいろひどいしな」

妹「ふふ。まあそうだね。でも、あたしもパパのこと好きだよ」

兄「俺とどっちが好きなの」

妹「え」

兄「(何言ってんだ俺)いや、何でもない。今の忘れて」

妹「・・・・・・うん」

兄「じゃあ、まあせっかく来たんだし園内を散策でもしようか」

妹「うん。ゆっくりと歩こうね」

兄「そうだな。この広さの公園だとすぐに一周しちゃいそうだしな」

妹「じゃあ行こうよ」

兄「おう(手を離すつもりはないんだな)」

妹「お兄いちゃん」

兄「うん?」

妹「何か鳥が赤い木の実を食べてるよ。可愛い」

兄「可愛いかあ? あれはヒヨドリじゃん」

妹「あれがヒヨドリかあ」

兄「冬になるとよくうちの庭にも来てるじゃん」

妹「そうなんだ」


兄「一周しちゃったな」

妹「うん」

兄「お昼どうする? 家に帰って食う?」

妹「・・・・・・ううん」

兄「じゃあ、好きなものご馳走するからさ。何食いたい? どっか行きたい店とかある
か」

妹「別に」

兄「おまえは沢尻」

妹「これ」

兄「へ?」

妹「一応、これお昼ごはん」

兄「何か手提げ袋を大切そうに抱えてると思ったら、弁当作ってくれてたのか」

妹「な! 別に大事そうになんか持ってないもん」

兄「そうかそうか」

妹「・・・・・・お兄ちゃん突然にやにやして気持悪い」

兄「そうじゃねえけどさ。それより弁当どこで食う?」

妹「この公園の中の噴水広場にベンチがあるから、そこで食べようよ」

兄「おお。いいねいいね」

妹「お兄ちゃんを餌付けするのって簡単だね」

兄「いや、まあな」

妹「誉めてないし」

兄「とにかく腹減ったな。お昼にしようよ」

妹「そうだね」

兄「いただきます」

妹「いっぱい食べてね」

兄「言われんでも」

妹「・・・・・・ふふ」

兄「何だよ」

妹「少し落ち着いて食べなよ」

兄「だって腹減ってるし」

妹「朝ごはん食べなかったの?」

兄「(げ)あ、ああ。まあ」

妹「そうかあ。じゃあ仕方ないね」

兄「う、うん」

妹「夕ご飯はオムライスだからね」

兄「やった」

妹「この間作って持って行ったのって冷たかったでしょ?」

兄「まあね。でもおいしかったよ」

妹「やっぱり作りたての方がおいしいよね」

兄「まあ、そうかも」

妹「一緒に住んでればいつでも作り立てをお兄ちゃんに食べてもらえるのに」


兄「そのことなんだけどさ」

妹「うん?」

兄「ちょっと俺も考えたんだけど」

妹「何を?」

兄「俺、実家に戻ろうかと思ってさ」

妹「本当?!」

兄「え」

妹「あ、いや。そうじゃなくてさ。実家から大学って遠いんでしょ? 通学が大変じゃな
い」

兄「うん。大変だからアパート借りたんだけどさ。こういう状況になると女と隣の部屋っ
ていうのも気まずいしさ。女だって気まずいかもしれないし、兄友だっていい気分はしな
いだろうしな」

妹「何それ? 浮気したのは女さんの方でしょ。何でお兄ちゃんがあの二人に遠慮して引
っ越す必要があるのよ」

兄「それはそのとおりなんだけどさ。まあでも俺が引っ越す方がいろいろと手っ取り早い
し」

妹「何か納得できないなあ。引っ越すなら女さんが引っ越せばいいじゃん」

兄「まあそう言うなよ」

妹「お兄ちゃん、女さんに未練があるの? だから隣の部屋にいるのがつらいの?」

兄「それはない」

妹「だったらさ」

兄「俺さ。やっぱりシスコンだからおまえの側にいたいんだよね。それに両親だって滅多
に夜は家にいないしさ。おまえのことも心配だし」

妹「え・・・・・・つうか、え?」

兄「そうすれば姫といつも一緒にいられるじゃん」

妹「ま、まあ、そういうことなら仕方ないかな。でもさ、引越ししたばっかでまた引越し
とかさ。絶対パパとママに怒られるよ? お金だってかかるし」

兄「それが怒られないんだなあこれが」

妹「何でよ」

兄「おまえが夜家に一人でいると思うと心配でしかたない」

妹「へ? まさかそれ本当にパパかママに言ったの?」

兄「これから言う」

妹「この悪者め」

兄「俺がいない方がいいのか」

妹「一々確認しないでようざいなあ」

兄「じゃあ、しない」

妹「・・・・・・いつ帰ってくる?」


<何かあたしお邪魔みたい>




妹友「妹ちゃん」

妹「え。ああ妹友ちゃん」

妹友「偶然だね。図書館に勉強しに来てたの? 真面目だね」

妹「あ、別に」

妹友「沢尻かよ」

兄「だからネタが古いっつうの」

妹友「げ」

兄「おまえ今俺の顔を見てげって言ったろ」

妹友「あら。こんにちはお兄さん」

兄「げって言った。ぜってえ言った」

妹友「お久し振りですね」

兄「お久し振りじゃねえだろ。今朝、ファミレスで会ったばっかりじゃんか」

妹友「・・・・・・アホ」

兄「え?」

妹「何? 妹友ちゃんとお兄さんって今朝どっかで会ってたの」

兄「あ、いや」

妹友「低脳」

兄「すまん」

妹「・・・・・・何で二人だけで通じる言葉であたしをのけ者にしてくれてるのかなあ」

兄「違うよ」

妹友「全くお兄さんときたら。少しは頭を使うことを覚えたほうがいいですよ」

兄「おまえが、げっとか言うからだろうが」

妹友「今朝、最初にそう言ったのはお兄さんの方です」

兄「それはおまえが待ち伏せなんかしてるから」

妹友「お兄さんってバカでしょ」

妹「・・・・・・妹友ちゃんとお兄ちゃんって仲いいんだ。何かあたしお邪魔みたい」

妹友「ほら。どうするんですかこれ」

兄「どうするって」

妹「お兄ちゃんって、女さんの次は自分の妹の親友に手を出してたんだ」

兄「ちげえよ」

妹「じゃあ何で妹友ちゃんと密かに逢引したりしてるのよ」

兄「逢引って。言葉が古いよ」

妹友「そんなことより妹ちゃん」

妹「・・・・・・何よ」

妹友「ほら」


妹「あ・・・・・・何で」

妹友「お兄ちゃん、こっちですよ」

彼氏「ああ、そこにいたんだ。探しちゃったよ妹友のこと」

妹友「さっきからお兄ちゃんの側を離れてないじゃないですか」

彼氏「それもそうだ・・・・・・って、あ」

妹「・・・・・・彼氏君」

彼氏「妹ちゃん。何か久し振りだね」

妹「そ、そうかな」

彼氏「最近一緒に登下校してくれないから。何か久し振りに会う気がする」

妹「ごめん」

彼氏「別に君のこと責めてるわけじゃないんだ。・・・・・・今日は図書館で勉強?」

妹「う、うん」

彼氏「それなら僕のことも誘ってくれたらよかったのに」

妹「ごめん」

兄(俺の存在は全く無視されてるな)

兄(一言何か言ってやりたいな)

兄(・・・・・・)

兄(いや。俺は妹の兄貴に過ぎない。そして妹と彼氏の交際には嫉妬しないと決めたばか
りだ)

兄(とりあえず邪魔にならないようにフェイドアウトしようか)

兄(さいわいなことに妹と彼氏はお互いを気まずそうに見つめ合っているし。よし)


妹友「そうそうお兄ちゃん、紹介するね。この今にもここから逃げ出そうと姿勢を低くし
ようとしている人が、妹ちゃんのお兄さんだよ」

兄(てめえ妹友)

妹「・・・・・・ちょっと。やめてよ」

彼氏「ああ、お兄さん。妹友からお話は伺ってます。初めまして。妹友の兄の彼氏です。
妹さんとはお付き合いをさせていただいてます。よろしくお願いします」

兄「・・・・・・どうも」

彼氏「お兄さんとは初めてお会いできました。前から妹ちゃんには紹介してってお願いし
てたんですけど、彼女自分の家族には絶対紹介してくれないんですよ。僕ってそんなに頼
りないのかなあ。あはは」

兄「そうなんだ(あははじゃねえ。ムカつくやつだ。ちょっと顔とスタイルがいいからっ
て)」

妹友「お兄さん」

兄「俺?」

妹友「そうです。あたしたちは恋人同士の邪魔みたいですから一緒に消えましょう」

兄「いや、だってまだ弁当食ってないし」

妹友「あたしもお弁当を作ってきましたから。妹ちゃんのお弁当をお兄ちゃんが食べて、
あたしのお弁当をお兄さんが食べてくれればそれで無問題です」

妹「・・・・・・」

兄「・・・・・・」

彼氏「へ? 妹友、おまえひょっとしてこのお兄さんのことが」

妹友「デリカシーがないですよ、お兄ちゃん」

彼氏「気がつかなかったよ。そうだったのか。お兄さん、ふつつか者ですが妹友のことを
よろしくお願いします」

兄「ちょっと待て。何の話だ」

妹「・・・・・・」

兄(妹が俺を睨んでいる、違うぞ姫。俺は潔白だ)

妹「さっきから黙って聞いてればみんな何勝手なこと言ってるのよ! いい加減にして」

兄・妹友・彼氏「え?」

兄(妹がマジできれた)


今日は以上です
また投下します

すっきり
妹友はいらない子

おつ

妹を応援したいけど、兄貴はやるべきことがあるよね


<お兄ちゃんに謝ってよ>




妹「・・・・・・」

彼氏「あ、ごめん。妹が勝手なこと言っちゃって。妹ちゃん今日はお兄さんと用事があっ
たんだよね」

妹「・・・・・・」

兄「もう行こうぜ」

妹友「はい。喜んで」

兄「そうじゃねえ」

妹「・・・・・・」

兄「彼氏君さあ。何か誤解しているみたいだけど」

彼氏「はい?」

兄「俺と君の妹は別に付き合ってないから」

妹友「あ、ばか。お兄さん何てこと言うんですか」

兄「だって本当じゃん。おまえ、俺のことなんか好きでも何でもないって言ってたじゃ
ん。あと親しい間柄じゃないのに俺のことバカとか言うのやめろ」

妹友「・・・・・・何でこのタイミングでそういうこと言うんですか。いろいろ計画が台なしじ
ゃないですか」

妹「計画?」

彼氏「計画って」

妹友「・・・・・・あ」

兄(このアホ自爆しやがった)

妹「本当?」

兄「ああ」

妹「お兄ちゃん、妹友ちゃんのことが好きなわけじゃないの?」

妹友「あたしの口から言うのも僭越なのですが、お兄さんは実はあたしのことを」

兄「好きじゃねえよ」

妹友「・・・・・・」

妹「今朝、妹友ちゃんと会っていたの?」

兄「偶然な」

妹友「いえ。偶然というか」

妹「そっか。偶然か」

兄「そ。信じるかどうかはおまえに任せるよ」

妹「信じる」


兄「うん」

妹「信じるよ。家族だもんね」

彼氏「そうだったんですか。勝手に妹と付き合っているなんて誤解しちゃってすいません
でした」

兄「あ、ああ。わかってくれたのなら気にしなくていいよ」

彼氏「それなら妹友とお兄さんを二人にするなんてご迷惑でしたね。妹がいろいろすいま
せん」

兄「気にしなくていいから」

妹「彼氏君・・・・・・。あのね、あたし」

彼氏「いいっていいって。全部うちの妹の勘違いが悪いんだから」

妹「そうじゃないの。あたしね」

彼氏「おい、妹」

妹友「はい」

彼氏「おまえは昔から暴走しすぎだ。お兄さんのことが大好きにしたって、まず相手の気
持を確かめてから行動しないといけないだろ」

妹友「お兄ちゃん、ごめんなさい」

兄(ずいぶん殊勝じゃねえか。俺に対する態度と違いすぎだろ)

彼氏「お兄さんが好きだっていう気持を咎めてるんじゃないんだぞ。むしろ人を好きにな
るっているのは尊いことだ。だけどまず相手も気持を思いやらないといけない」

兄(何言ってるんだこいつ)

妹友「うん。あたしが考えなしだったよ。お兄ちゃんの言うとおりだね」

兄(・・・・・・こいつも何言ってるんだ)

彼氏「人を好きな気持自体は悪くない。でも、恋人になりたいなら相手の気持も自分に向
いてないとな」

妹友「・・・・・・うん」

妹「・・・・・・」

兄(これ、ずっと聞いてなきゃいけないの?)

彼氏「おまえも知ってのとおり、僕だってずっと妹ちゃんに片想いしていた。でもそんな
自分の気持は常に自分の心の中に秘めていたし、妹ちゃんに押し付けたことなんかない。
何年も何年もだ」

妹友「そうだったね」

彼氏「それは妹ちゃんに迷惑をかけたくなかったからだ。おまえには相談してたから俺の
気持はわかるだろ?」

妹友「うん」

彼氏「僕は無理強いはしなかった。でも、あの日。おまえが間に入ってくれて妹ちゃんに
告白して、妹ちゃんがOKしてくれた日は本当に嬉しかったよ」

兄(やっぱりなあ。妹とこいつは正式に付き合ってたんだな)

妹「もうやめて」

彼氏「え? 何で」

妹「いい加減にして。約束が違うじゃない」

兄(約束?)

彼氏「え? でも図書館では」

妹「お兄ちゃん行こう」


<じゃあ、何であんなことをお兄ちゃんに言ったのよ!>




兄「へ」

妹「家に帰ろ。変な邪魔が入って気分が悪いし」

兄「だって弁当は? つうかデートはどうするの」

妹「外出すると外野が邪魔して鬱陶しいし。家の中なら誰にも邪魔されないじゃん」

兄「えーと」

彼氏「鬱陶しいって僕のこと?」

妹友「妹ちゃん、それはお兄ちゃんに対して言いすぎでしょ。お兄ちゃんに謝ってよ」

妹「謝らないよ。お兄ちゃん行こう」

兄「え? だってよ」

妹「・・・・・・それともお兄ちゃんは妹友ちゃんのお弁当を食べたいの」

兄「んなわけえねえだろ。でもおまえの弁当だって食いかけで」

妹「おうちで食べよう。やっぱり自分の家が一番いいよ。変な人も邪魔しないし」

妹友「変な人? もしかしてうちのお兄ちゃんのことを言ってるの」

妹「さあね。それが自分のことだって気がついていない人のことじゃないかな。約束も守
れない人なんてあたし大嫌い」

妹友「人の心ってそんなにマニュアルどおりになるものじゃないでしょ! ちょっとだけ
でもお兄ちゃんの気持も考えてよ」

妹「その言葉そっくり妹友ちゃんに返すよ」

妹友「・・・・・・どういう意味よ」

妹「ちょっとはあたしやあたしのお兄ちゃんの気持ちも考えたら? 何で妹友ちゃんはい
つも自分と自分のお兄さんの気持ばっかり優先するわけ?」

兄(話についていけないけど、とりあえず今が修羅場なのは理解した)

兄(しかし修羅場なのはわかったけど、それ以上は理解できねえ。いったいこの二人に、
いやこの三人に何があったんだ。お互いに親友だったはずなのに)

彼氏「妹友、もうよせ」

妹友「だってお兄ちゃん」

彼氏「妹ちゃんのいうとおりだよ。約束を破ったのは僕の方だ」

妹友「だって好きだっていう気持はしかたないじゃん。そんなの理不尽だよ」

彼氏「それでも約束したんだし」

妹友「妹ちゃんだっていけないじゃん。だってあの図書館の日にあんたはお兄ちゃんに」

妹「あ、あれは」

彼氏「もうよせ妹友」

妹友「お兄ちゃんはそれでいいの?」


彼氏「お兄さん、いろいろお騒がせしてすいませんでした」

兄「はあ(何が何だかわからねえ)」

彼氏「妹ちゃんもごめんね。うちの妹のことはちゃんと叱っておくから」

妹「・・・・・・謝るのはそこなの」

彼氏「・・・・・・ごめん」

妹友「じゃあ、何であんなことをお兄ちゃんに言ったのよ! 何であんな思わせぶりな態
度をお兄ちゃんに見せたのよ」

彼氏「もうよせ」

妹友「・・・・・・」

妹「・・・・・・いこ」

兄「(俺?)ああ」

妹「・・・・・・」

兄(何が起きたのかさっぱりわからねえ。どうも俺と妹友の仲を妹が嫉妬したとかってい
う単純な話じゃなさそうだ)

妹「・・・・・・」

兄「下りの電車来たけど」

妹「・・・・・・うん」

兄「家に帰るならこれに乗らないと」

妹「うん」

兄「(しゃあねえなあ)ほれ」

妹「あ」

兄「早く来いよ。乗り遅れるって」

妹「わかったから。あんまり強く手を握らないで。痛いから」

兄「さっさと行動しないおまえが悪い」

妹「ごめん」

兄「うるせえよ」

妹「え」

兄「いちいち謝るなって。俺はな(って何言おうとしたんだ俺)」

妹「・・・・・・俺はなって、何?」

兄「俺はさ。つうかよ、あんなやつらなんかどうでもいいじゃん」

妹「何で?」

兄「おまえの親友とおまえの彼氏のことを悪く言って申し訳ないけどよ」

妹「・・・・・・」

兄「あいつらうぜえよな。せっかく家族同士のデートだったのによ。いちいち変な感情を
むきだしにして絡んできやがって」

妹「・・・・・・お兄ちゃん」

兄「おまえが他の男と浮気してたならわかるよ、あいつらの行動も。でもそうじゃねえじ
ゃん。兄妹で一緒にいただけなのに、勝手に俺と妹友のこととか決め付けるし、兄貴と一
緒にいただけのおまえを責めるしよ」

妹「ふふ。そうだね」


<もうあたしを放置しないで>




兄「わけわかんねえよ。俺だって今日くらいはおまえとゆっくりしたかったのに」

妹「うん。災難だったよね」

兄「あいつら勝手に修羅場にしちゃうしよ」

妹「本当に修羅場って感じだったね」

兄「だいたい、俺にとっての修羅場は、女の隣の部屋から実家に引っ越すときだっつう
の」

妹「まあそうか。引っ越すところを女さんに見つかったらどうするの?」

兄「(話題が逸れた。よし。この調子で)客観的に見れば俺は女に振られたんだしさ。し
かも浮気とか不倫みたいな感じだったじゃん?」

妹「うん。さすがに女さんには弁解の余地はないよね」

兄「だから別に見つかったってどうってことはないよ。女に引越しを非難されるいわれは
全くないし」

妹「吊り革って背伸びしなきゃ掴まれない」

兄「ああ、悪い」

妹「・・・・・・気がついてくれた?」

兄「うん」

妹「やっと肩を抱いてくれた。どんだけ姫を待たすのよ。転びそうになったじゃない」

兄「悪いな。慣れてないもんで」

妹「肩を抱かれるなんてあたしだって慣れてないよ。これが二度目だもん」

兄「え? 一度目は彼氏君? それとも他の男?」

妹「一度目はお兄ちゃん。さっき来るときの電車の中で」

兄「おまえなあ。慌てさせるなよ」

妹「こんなにさあ」

兄「何だよ」

妹「こんなに姫が悩んでるのに、お兄ちゃんってどんだけあたしを放置するのよ」

兄「してねえって」

妹「ちゃんとあたしを構わないとパパに言いつけるかね」

兄「それはやめて」

妹「じゃあ、もうあたしを放置しないで。あたしのわがままを何でも聞いて」

兄「何でもって」

妹「嫌ならパパに」

兄「・・・・・・常識的なわがままなんだろうな」

妹「むしろ非常識なわがままってどんなのよ」

兄「まあ、そう言われれば思いつかないけど(本当はいくらでも思いつくけどな。主に性
的な意味で)」


兄「とにかく来週は引越しだ。実家に戻るぞ」

妹「通学大変だね」

兄「いいよ別に。それよか姫と夜一緒に過ごすメリットの方が全然大きいし」

妹「・・・・・・夜一緒のメリットって。お兄ちゃん何か変なことを期待してない?」

兄「深読みすんな」

妹「そういう変なことするのは嫌だからね」

兄「だから変な期待なんてしてねえって」

妹「それならいいけど。じゃあ今日はあたしのためにお兄ちゃんが振り回されちゃった
し」

兄「おまえのせいじゃねえよ。あいつらのせいだ」

妹「とにかくお兄ちゃんに悪いからさ。お詫びにお兄ちゃんが引っ越すときにはあたしが
一緒にいてあげるね」

兄「何言ってるんだよ」

妹「何って言葉のとおりじゃん」

兄「・・・・・・引越しは平日にしようと思ってるんだけど」

妹「何で?」

兄「平日なら女は講義でいないしな」

妹「なるほど。お兄ちゃんにしてはよく考えたね」

兄「してはは余計だ」

妹「まあ、それでもあたしも一緒に行く」

兄「学校は」

妹「休む」

兄「・・・・・・誰が担任の先生に電話するの」

妹「そんなのお兄ちゃんに決まってるじゃん」

兄「・・・・・・」


妹「嫌なの? 姫の願いをかなえるのが。だったらパパに言いつけ」

兄「かなえます。もちろん俺のお姫様の願いなら」

妹「・・・・・・ふふ」

兄「どうした?」

妹「・・・・・・嬉しい」

兄「え」

妹「引越しの途中に女さんが、お兄ちゃんにごめんとか、本当に愛しているのは兄友じゃ
なくて兄なのって復縁を迫ってきてもちゃんとあたしが女さんを撃退してあげるからね」

兄「ええと」

妹「電車降りよう。誰も邪魔しない家に帰ろう」

兄「うん(やっぱり姫が一番可愛い)」

妹「何か忘れてない?」

兄「ああ(手をつなぎたいのか。恋人つなぎで。でも、今俺がしたいのは)」

妹「へ? あの・・・・・・。お兄ちゃん?」

兄「ご近所さんに見られちゃうかな」

妹「・・・・・・まあ、見られてもお兄ちゃんだからいいか」

兄「兄妹だからな」

妹「お兄ちゃんに肩を抱かれるのはいいけど。ちょっと密着しすぎてない?」

兄「嫌か」

妹「ううん」

兄「それならよかった」

妹「・・・・・・へへ」

今日は以上です

また投下します

おつ

おつ~
早く続き頼むよ


<ばかだよお兄ちゃんは>




妹「引越し屋さんって何時頃来るの?」

兄「十時頃だな」

妹「ええ? じゃあ、あと一時間くらいしかないじゃん」

兄「うん」

妹「うんじゃないって。この散らかった部屋の荷造りをわずか一時間でしなきゃいけない
ってことでしょ」

兄「何とかなるよ」

妹「・・・・・・付いて来てよかった」

兄「つうかおまえ、学校休み過ぎだろ」

妹「先生、何か言ってた?」

兄「いや。お大事にって」

妹「よかった」

兄「いや、よかったじゃなくてさ。万一これが親バレしたら、俺勘当されるぞ」

妹「バレなきゃいいんだって」

兄「越後屋。おぬしも悪じゃのう」

妹「越後屋じゃないもん。お姫様だもん」

兄「おまえさ。俺と同じ大学に入るつもりならマジでもう少し真面目に勉強しないとやば
いって」

妹「わかってるよ。明日から頑張る」

兄「この間も同じセリフを聞いたような」

妹「とにかく今はそれどころじゃないでしょ。荷造りしないとやばいって」

兄「まあ、そうだけど」

妹「あたしが指示するからお兄ちゃんは指示どおりに作業して」

兄「ええ?」

妹「絶対その方が早いって。お兄ちゃん、片すのとか苦手だし」

兄「まあそうだけどよ」

妹「じゃあ、姫の指示に従うように」

兄「おまえ、姫って呼ばれることにはまってない?」

妹「・・・・・・うっさいなあ」

兄「じゃあ、姫。指示をくださいな」

妹「まず服からね」

兄「おう」


妹「次は本を箱詰めして。終ったら本棚を分解して箱に入れるよ」

兄「はいはい」

妹「はいは一度ね」

兄「おう」

妹「もっと早くできないの」

兄「無茶言うな」

妹「だったらもっと早い時間に来て作業を始めればよかったのに」

兄「だってよ」

妹「お兄ちゃんって意外と計画性がないよね」

兄「そうじゃないって。ないのは計画性じゃなくて意思の強さだって」

妹「何言ってるのよ。わけわかんないんですけど」

兄「いや、一応前日にここに来て作業しとこうかと思ったんだけどさ」

妹「すればよかったじゃん」

兄「だから意思が弱くてさ」

妹「言い訳すんな」

兄「・・・・・・だってよ。昨日帰ってきて準備しておこうかと思ったんだけど」

妹「面倒くさくなったわけね」

兄「いや。おまえがあんまり可愛らしく俺にまとわりついてくるからさ」

妹「え」

兄「こんなことはもうあまりないだろうし、せっかくだからおまえと一緒にいたいって思
ってさ」

妹「・・・・・・」

兄「今は反省している」

妹「・・・・・・ばか」

兄「わかってるよ」

妹「違うよ。そんなのまた一緒に暮らすんだしいくらでもしてあげるのに。ばかだよお兄
ちゃんは」

兄「う、うん」

妹「まあ今さらそんなことを愚痴っていてもしかたないね」

兄「悪い」

妹「じゃあ、さっさと作業してよ。あと三十分で業者さんが来ちゃうよ」

兄「おお」


<あたしはお兄ちゃんの彼女にはなれないよ?>




妹「ぎりぎり何とか荷作りできたね」

兄「おまえって意外な才能があるのな」

妹「お兄ちゃんが要領悪すぎなんだよ」

兄「そうかなあ」

妹「そうだって」

兄「まあ、これでいつ引越業者が来ても大丈夫だな」

妹「そうだね」

兄「じゃあ少し休憩しようか」

妹「だめ」

兄「何で」

妹「荷造りした段ボール箱をアパートの外まで運んでおこう」

兄「そんなのは業者がやってくれるって」

妹「わかってないなあ」

兄「何が?」

妹「この作戦の重要な目的は敵に知られないうちに密かにこのアパートからお兄ちゃんが
撤退することでしょ」

兄「え? ああ、まあそうだな」

妹「だから平日午前中を作戦開始時間にしたんでしょ」

兄「女は講義中だからな」

妹「それなら万一のことを考えても少しでも早くこのアパートから撤収すべきでしょう
が」

兄「うん」

妹「うんじゃない。わかっているなら休憩とかぬるいことを言うな」

兄「・・・・・・そこまでマジになるほどのことじゃ」

妹「お兄ちゃんは引っ越すところを女さんに見られてもいいの」

兄「まあ、見られないほうがいいから引越は平日に設定したんだけどさ。別に見られたら
見られたで構わねえよ」

妹「目的意識が希薄だよね」

兄「へ」

妹「この作戦の真の目的は卑劣にもお兄ちゃんのことを裏切った女さんに精神的打撃を与
えることでしょうが」

兄「ちょっと待て。そんな目的なんか考えたこともないぞ」

妹「女さんに理解させてあげようよ。いきなり振られたお兄ちゃんの絶望を」

兄「いや。絶望とかしてないし」

妹「帰宅したら突然隣の部屋のお兄ちゃんがいなくなっている。それほどあたしはお兄ち
ゃんにひどい仕打ちをしたんだって女さんに思わせないと」


兄「確信犯だなおまえ」

妹「さあ? どうなのかな」

兄「どうりで俺の引越についてくるってうるさく騒いだわけだ。最初から女に一泡食わせ
るつもりで一緒に来たんだな」

妹「はい、よくできました」

兄「俺はそんなつもりは全然ないぞ。もう女を恨む気持なんか微塵もないんだし」

妹「あたしの大切な家族を傷つけた人には相応の報いを与えないとね」

兄「だから俺は傷付いてないって」

妹「うそ」

兄「うそじゃねえよ」

妹「・・・・・何でひどいやり方で女さんに振られたのに傷付かないのよ」

兄「結果的にそれで姫と仲直りできたから」

妹「え」

兄「おまえには振られたけど、何か前よりおまえとの距離が縮まったみたいだしさ」

妹「・・・・・・」

兄「だからもう女に裏切られたとかどうでもいい」

妹「・・・・・・あたしはお兄ちゃんの彼女にはなれないのよ?」

兄「当たり前だ。今の俺にはそんなことくらいわかってるよ」

妹「だったら」

兄「それでも嬉しいんだよ。姫が手をつないでくれて。一緒に寝てくれて。肩を抱いても
逃げないでいてくれて」

妹「バカみたい。そんなことくらいで」

兄「姫と仲良くできるならもうバカでも何でもいいや」

妹「本当にバカだよ。お兄ちゃんは」

兄「うちの家系は妹スキーばっかなんだな。きっと」

妹「あたしには彼氏がいるんだよ・・・・・・」

兄「わかってるよ」

妹「デートもキスもエッチも彼氏とするんだよ。お兄ちゃんとじゃなくて」

兄「わかってる」

妹「なんでそこまで自虐的な愛情に走れるわけ? あたしのことが本当に好きならそんな
のあり得ないでしょ」

兄「いーや。あり得るね」

妹「何で」

兄「家族だからさ。兄というよりむしろ親父目線なのかもしれない」

妹「親父目線って。パパはあたしに告白したり迫ったりしないよ」

兄「それは悪かった。でももう二度とそんなことはしない」


妹「あたしと彼氏君に嫉妬しないの?」

兄「しないようにする」

妹「どういうこと? 今は嫉妬してるの」

兄「その気持は何とかするからおまえは気にするな」

妹「・・・・・・ちょっとくらいは嫉妬してくれないの?」

兄(え)

妹「ううん。今のは何でもない」

兄「俺さ。おまえのこと見続けるよ」

妹「どういうこと?」

兄「父さんと一緒だよ。おまえが恋愛して結婚して子どもができて幸せになるのをさ」

妹「そんなの何十年もかかるじゃん。お兄ちゃんはその間どうしているの」

兄「もう彼女とかいいや。独身で童貞のまま姫を見守るよ」

妹「そんなのやだよ」

兄「何で」

妹「そんなのパパとママだって許さないと思う。お兄ちゃんにだって普通に幸せになって
欲しいって、両親だって願っていると思うし」

兄「だって、彼女とかできるより姫が幸せな方がいいし。それを気がつかせてくれたわけ
だから、女を恨む気なんかないんだ。だからさ、今日の引越だって別に女に見せ付ける必
要はないけど、あえて避ける必要もないよ」

妹「そんな人生なんてあり得ないよ。お兄ちゃんがよくてもあたしがいや」

兄「わがままだなあ、姫は。簡単なことじゃん。おまえが幸せになってくれれば俺も幸せ
になるんだって」

妹「もうやだ。あたし彼氏と別れるから」

兄「そうじゃねえのに」


<二度とお二人はお兄ちゃんとあたしに話しかけないでください>




兄友「女~、いるか」

兄(げ。兄友の声が廊下から)

妹「お兄ちゃん?」

兄「ああ。気にするな。無視無視」

兄友「女のやつ今日は講義休んでるのに。部屋にはいないのかなあ」

兄(休んでる? じゃあひょっとして隣の部屋に女はずっといたのかな)

引越業者「兄さん、遅くなりました。○○便です」

兄友「あれ? そこは友だちの部屋ですけど、ひょっとして兄って引っ越すんですか」

兄(ええい。こんなときに面倒なやつだ)

兄「ドア開けるぞ」

妹「うん」

兄「どうもご苦労様です」

引越業者「どうも遅くなりました。梱包終ってるようですね」

兄「はい」

引越業者「じゃあ、トラックに積み込んでいいですか」

兄「お願いします」

兄友「よう兄」

兄「おう(女じゃなくてこいつが現われたか)」

兄友「・・・・・・おまえ、もう引っ越すの?」

兄「まあな(誰のせいだと思ってるんだこのハゲ)」

兄友「おまえも気まぐれだよなあ」

兄(死ね)

兄友「あ。妹ちゃん、久し振り」

妹「・・・・・・お久し振りです」

兄友「相変わらず可愛いよね。妹ちゃんは」

妹「どうも」

兄友「今日は兄の手伝い?」

妹「はい」

兄(まともにこんなやつを相手にするなよ)

兄友「兄のことが好きなんだねえ」

妹「はい。大好きです」

兄(おい)

兄友「そ、そうか。まあ昔から兄と妹ちゃんは仲良しだったもんな」

妹「そうですね」

兄友「しかしおまえ、今度はどこに引っ越すの?」

兄「実家に戻る」

兄友「何で? 通学つらくなるだろ」


兄「(ふざけるな。ちょっと嫌味くらい言ってやろう)女と隣りだとおまえも女も気まず
いだろうと思ってな」

兄友「ちょっと待て」

兄「何だよ。俺なんか邪魔だろ?」

兄友「俺が言うのも申し訳ないけどさ。この場合引っ越すのは兄じゃなくて女の方だろ」

兄「・・・・・・」

兄友「本当にすまん! 別にメール一本で済む話じゃねえとは思ってた。そのうち女も入
れて三人で話し合って、きちんと謝ろうって女友と話してたんだ」

兄「そういうのいらないから」

兄友「だってよ」

妹「余計な言い訳をして自己満足するつもりですか? 兄友さんと女さんは」

兄友「そうじゃないよ」

妹「罪悪感を晴らしたいだけでしょ。お兄ちゃんに謝ったっていう既成事実を作って」

兄友「俺は、俺と女は兄を傷つけちゃったし」

妹「お兄ちゃんの心のケアはあたしがします。あなたと女さんなんかに期待なんかしてい
ません。まして自分たちの心の安定のためにお兄ちゃんを利用なんかさせませんから」

兄友「何か誤解してるよ妹ちゃん」

妹「そう言うのならそれでもいいです。でも一つだけお願いがあります」

兄友「何?」

妹「二度とお二人はお兄ちゃんとあたしに話しかけないでください」

兄友「・・・・・・俺はまだ兄の親友だって思っているから」

妹「お兄ちゃん?」

兄「兄友、今までありがとな。でも、もう俺には話しかけないでくれ。女にもそう言って
おいてくれな」

兄友「・・・・・・待てよ」

兄「じゃあ、作業中だから」

兄友「おい。冗談だろ」

妹「冗談なわけないでしょ。それくらいの仕打ちをあなたたちはあたしの大切なお兄ちゃ
んにしたんですよ」

兄友「そんなつもりじゃ。そこまでしたつもりはなかったんだ」

妹「じゃあようやく何をしたのか理解できてよかったですね」

兄友「せめて女を入れてもう一度だけ話を聞いてくれ。兄を傷つけたままじゃ俺も女も」

妹「お兄ちゃんのことはあたしが家族として責任を持ってケアをしますから。あなたたち
なんかに中途半端な心配をしてもらう必要はないです」

兄(妹姫・・・・・・さすがに半端ねえな)

兄友「ちょっと待ってくれよ。女に電話するから」

妹「ご勝手に。でも、もうすぐ引越のトラックは出発しちゃいますけどね」


今日は以上です

また投下します

おつ

お疲れさま
続き楽しみにしてるよ


<海辺とかドライブしたいな>




引越業者「積み込み終わりましたのでこれから引越先まで配送します」

兄「お願いします。電車で先に家の方に行って待ってますから」

引越業者「わかりました」

兄「・・・・・・落ち着いた?」

妹「最初から最後までずっと落ち着いてるよ」

兄「そうかあ?」

妹「そうだよ」

兄「じゃあそういうことにしといてやる」

妹「何よそのムカつく言い方」

兄「ありがとな」

妹「え・・・・・・。何が?」

兄「俺、父さんや母さんと同じ心境になってこれからはずっと姫を守るんだって思ってた
んだけどさ」

妹「うん。何度も聞いたそれ」

兄「図々しいのにも程があるくらい、まだ俺って思い違いしてたんだな」

妹「何言ってるのかわからない」

兄「守るどころかおまえに守られちゃったよ」

妹「・・・・・・」


兄「ありがと。さっきは助かった。兄友にあそこまで言ってくれて」

妹「兄妹じゃん。どっちが守るとかどっちが守られるなんて決めなくていいんだよ」

兄「うん、そうだな」

妹「頼りない姫だって大事な人のためには頑張れるの」

兄「うん」

妹「さっき兄友さんに言ったことは本当だよ。お兄ちゃんのケアはあたしがする。女さん
なんかに余計なことはさせないから」

兄「俺、おまえの兄貴でよかったよ」

妹「・・・・・・うん」

兄「おまえ、もしかし」

妹「泣いてないよ! それよかさっさと行かないとまたあのうざい人が戻って来ちゃうよ。
今度は女さんも一緒かもしれないし」


兄「しかし電車で何度も往復もするのって疲れるよな」

妹「本当に毎朝大学まで通えるの?」

兄「大丈夫。それに家に帰れば姫がいると思えばさ」

妹「うん。あたしもそれは嬉しい」

兄「だから心配するなって」

妹「朝何時ごろに出かけるの」

兄「一限がある日は七時頃かな」

妹「そうか」

兄「何で?」

妹「別に何でもない」

兄「うん」

妹「結局兄友さん戻ってこなかったね」

兄「そうだなあ」

妹「女さんと連絡取れなかったのかな」

兄「さあ(女って実は隣の部屋にいたんじゃねえかな。大学に来なかったって兄友が言っ
てたもんな)」

妹「何考えてるの」

兄「いや。車の免許でも取りに行こうかなって」

妹「え? 本当」

兄「うん」

妹「やった」

兄「何で喜んでるの」

妹「ドライブとかできるじゃん。あたし混んだ電車って好きじゃないし」

兄「じゃあ父さんに頼んでみようか。車があれば講義のない日とかはおまえの塾の迎えに
行けるしな」

妹「マジで車で迎えに来てくれるの?」

兄「うん」

妹「早く免許取ってね。あたし車でどっか行くの大好き」

兄「そういや両親が忙しすぎて最近家族でお出かけとかしてないもんな」

妹「そうだね」

兄「免許取れたら少し遠出してみようか」

妹「うん、するする」

兄「・・・・・・やっと落ち着いてくれたな」

妹「もともと落ち着いてるって」

兄「はいはい」

妹「何かムカつく」

兄「悪い。で、どこ行きたい?」

妹「海辺とかドライブしたいな」

兄「いいね」


<紐の千切れた風船みたいに>




兄「さっき荷造りしたばかりなのにもうほどくのか」

妹「しかたないじゃん。しないと生活できないよ」

兄「とりあえず今日はもうやめようぜ。明日も学校だし」

妹「だめだって。面倒くさくなっちゃうから今やっておいた方がいいって」

兄「今日は疲れたしなあ。明日も講義だし、片付けは週末に絶対やるからさ」

妹「だってこれじゃあ寝る場所もないじゃん」

兄「・・・・・・」

妹「・・・・・・お兄ちゃん。まさか、狙ってたんじゃ」

兄「違うって。俺はリビングのソファで寝るから」

妹「エッチ」

兄「おまえなあ」

妹「まあ、いいか。部屋が片付くまではあたしのベッドで一緒に寝る?」

兄「いいのか」

妹「もともとそれ狙いだったくせに」

兄「本当に違うって」

妹「・・・・・・絶対に変なことしないでよね」

兄「しないよ。今まで一緒に寝たときだっておとなしくしてただろうが」

妹「あたしに欲情したくせに」

兄「あれは」

妹「あたしの胸が当たって興奮しちゃったくせに」

兄「いや。あの程度の胸なら本当は大丈夫なんだ」

妹「死ね」

兄「・・・・・・俺が姫が嫌がることをするわけないだろ」

妹「うん。そこだけは信用してるよ。お兄ちゃんはあたしが嫌がることだけは絶対にしな
いもんね」

兄「うん。常々そうありたいと精進している」

妹「何でそんなに必死なのよ? そんなにあたしと一緒に寝たいの」

兄「えーと」

妹「まあいいか」

兄「何が」

妹「お兄ちゃんのケアはあたしがするって大見得切っちゃったしね」

兄「ああ、兄友との話ね」

妹「だから一緒に寝てあげる」


兄「なあ」

妹「狭いしこれじゃ動けない」

兄「俺のせいかよ」

妹「あたし、これ以上もう壁の方には行けないよ。お兄ちゃん何であたしの方に摺り寄っ
て来るのよ」

兄「おまえが俺の手を引っ張ってるんだろうが」

妹「言い訳するな」

兄「・・・・・・」

妹「ねえ」

兄「何」

妹「何で離れちゃうの?」

兄「おまえが狭いって言うから」

妹「もっとこっち来てよ。離れていられると毛布に隙間にできて寒いじゃん」

兄「おまえなあ。どっちなんだよ」

妹「お兄ちゃん、姫のわがままは何でも聞いてくれるんじゃなかったけ」

兄「常識的なやつならな」

妹「じゃあ抱きしめてよ。両手であたしを」

兄「・・・・・・却下」

妹「非常識なお願いだった?」

兄「うん」

妹「・・・・・・」

兄「どうした」

妹「つなぎとめてよ」

兄「はあ?」

妹「つなぎとめて。あたしが紐の千切れた風船みたいにどっかにふらふら漂っていかない
ように」

兄「・・・・・・何の話?」

妹「あたしはずっとここにいたいの。お兄ちゃんとパパとママのところに」

兄「ずっといればいいじゃん。俺も父さんと母さんもおまえの側から離れない、つうか離
さないし」

妹「・・・・・・うん」

兄「・・・・・・」

妹「わかった。もういいや。平気だから」

兄「・・・・・・わかったって」

妹「ちょ・・・・・・ちょっと強く抱きすぎ」

兄「こんなものでどう?」

妹「それじゃ弱すぎ。もっと強くあたしをつなぎとめて」

兄「・・・・・・うん」


妹「こら起きろ」

兄「・・・・・・へ」

妹「何時だと思ってるの。さっさと起きてよ」

兄「ああ、おはよ。今何時?」

妹「六時だよ」

兄「そか。・・・・・・ってはあ? 起きるの早過ぎだろう」

妹「七時には家を出るんでしょ。今日は一限あるし」

兄「あ、そうか。ここは実家だったな」

妹「実家どころかあたしの部屋だっつうの」

兄「今日一限があるの何で知ってるんだよ」

妹「ほれ。そこ見てみ」

兄「うん?」

妹「ね」

兄「俺の予定表、コピーしたの」

妹「うん。居間のプリンターのコピー機能使った」

兄「何でそれがおまえの部屋の壁に貼ってあるんだよ。てか、ハートの模様だらけになっ
てるし」

妹「お兄ちゃんの行動を管理してあげる」

兄「え」

妹「美人秘書ができたみたいで嬉しいでしょ」

兄「いやいや」

妹「・・・・・・まだ寝ぼけてるの」

兄「んなことはな・・・・・・っておい」

妹「これでキスしたのニ回目だね」

兄「これも仲のいい兄妹なら普通の行動なのか?」

妹「そうだよ」

兄「そうか」


<ほんの少しの間だけ思考停止してもいいよな>




兄(きっかり七時に妹と手を恋人つなぎをしながら家を出たんだけど)

兄(そんで駅前まで妹に送られて。妹の電車は下りだから改札を入ったところで・・・・・・)

兄(・・・・・・結構、人もいたんだけどなあ)

兄(ここでバイバイだねって、妹にキスされて)

兄(俺、いい兄貴になる予定だったよな。仲のいい兄妹に戻ろうって思って)

兄(普通の仲のいい兄妹って別れ際に口にキスしたりするものなのか)

兄(・・・・・・考えるまでもない。んなことする兄妹なんていねえよ)

兄(妹は、兄妹の数だけ兄妹の関係があるんだよって言ってたけど)

兄(どう考えてもあり得ないよな。だいたい、彼氏に見られたら妹だって言い訳できねえ
だろうに)

兄(俺、本当に姫に振られたんだよな)

兄(いや、それは間違いないし。その後だって何回も妹にダメだしされた)



妹『あたしはお兄ちゃんの彼女にはなれないよ?』

妹『あたしには彼氏がいるんだよ』

妹『デートもキスもエッチも彼氏とするんだよ。お兄ちゃんとじゃなくて』



兄(あそこまではっきり言われたら誤解の余地なんかねえ)

兄(デートもキスも彼氏とだけするんじゃなかったのかよ)

兄(どう考えても俺ともしてるじゃん)

兄(妹のやつ、俺に気を遣ってるのかな。基本、家族思いの優しい子だし)

兄(自分に振られて、しかも女にも振られて傷付いた俺のことを思いやって、そのために
彼氏とも会わないで俺にベタベタしてくれてるんだろうか)

兄(・・・・・・姫の性格なら十分にあり得るよな)

兄(どうすりゃいんだよ。正直、俺はそんなあいつの態度が嬉しいし)

兄(しかもこれ)

兄(どう考えても五時前には起きて作ったんだろうな)

兄(弁当・・・・・・。大学生なんだから昼飯なんてどうにでもなるのに)

兄(正直、今はすごく幸せだけど、同時にすげえ不安だ。こんなことをしてたら妹だって
そのうち彼氏に愛想付かされるんじゃねえか)

兄(それで妹が悲しむなら本末転倒じゃん)

兄(あ、駅に着いた。降りよう)

兄(駅から大学までがまた結構距離があるんだよな)

兄(・・・・・・女と兄友には会わないようにしねえとな)

兄(つうか今日も一日女と全部講義が一緒じゃんか)

兄(鬱だ)


兄(メール?)

兄(姫からだ)



from:最愛の妹
to:兄
sub:無題
『ちゃんと大学に着いた? 電車乗り過ごしてないでしょうね』

兄(大丈夫だよ姫)

『しっかり勉強しなさいよ。せっかくお弁当まで作ってあげたんだから』

兄(うんうん)

『お弁当の中身なんだと思う?』

兄(オムライス? さわらかな)

『それはお弁当箱を開けるまで秘密です。その方が楽しみでしょ』

兄(・・・・・・可愛すぎる。彼氏君には申し訳ないけど、やっぱり今の状態は俺にとって幸せ
すぎて、姫と距離を置くなんてできねえ)

『あたしはこれから体育です。お兄ちゃん、あたしの体操服姿を見たことがないだろうか
ら、特別に写メ送ってあげる。いつもこんな格好で頑張ってるんだよ』

兄(・・・・・・ほ、保存しないと。夢にまで出てきた妹の)

『じゃあね。講義頑張ってね。あと、今夜もパパとママは年末進行とかで帰れないんだっ
て。さっきメール来た。お兄ちゃんが家に帰ってきくれてパパもママも安心したみたい
よ』

『夕食作っておくけど何食べたい? 午後三時ごろまでにメールしてね。買物もあるか
ら』

『じゃあね(はあと)』



兄(・・・・・・少しだけ、ほんの少しの間だけ思考停止してもいいよな)

兄(この幸せをしばらく味わったってばちは当たらないだろ)

兄(いろいろ先々のことはそれから考えればいいや。今は素直に可愛い姫の気持に応えよ
うぜ)

兄(何かもう大学でぼっちでも女に手ひどく裏切られていても、そういうことはどうでも
よくなってきた。大学なんて勉強してりゃいいんだ。合コンとかサークルとかどうでもい
いや)

兄(家に帰れば妹がいる。一緒に寝て朝起こしてくれて朝食を作ってくれてお弁当を持た
せてくれて。こんな幸せが我が家の他のどこあるっていうんだ)

兄(いつまで続くかわからない幸運だけど、これだけでもう、俺は一生一人身で妹の幸せ
を眺めていられる自信がある)

兄(・・・・・・早く昼休にならねえかな。中庭で妹の弁当を食べたいな)


兄(やっと昼休みだ)

兄(午前中の講義には女の姿がなかったけど、何かあったのかな)

兄(いや。気にしちゃダメだ。一年間はこういう状況が続くんだし、女と顔を合わせたく
ないなんて考えたら講義を全部落としちまう。平常心で対応しないとな)

兄(中庭で妹のお弁当を食おう。これだけを楽しみにしてたんだし)

兄(ではいざ弁当箱オープン)

兄(・・・・・・まさかのキャラ弁。しかもこれベジータじゃん)

兄(意表を付かれ過ぎて、ははは)

兄(姫、大好きだぞ。家族的な意味で)

?(可愛いお弁当。彼女が作ってくれたの?)

兄「へ」

?「こんにちは兄君」

兄「え、ええと」

?「あたしのこと知らない? ほとんどの講義が被ってるのに」

兄「ごめん。誰だっけ」

?「ひっどーい。あたしってそんなに存在感薄いかな」

兄「いや。俺って大学で知り合いとかほとんどいないからさ」

?「兄君が? 嘘付け、リア充のくせに」

兄「いや。君は?」

?「女友って言うの。遊び人の君が手ひどく振って傷つけた女の友だちだよ」

兄「いや、振るって。女の知り合いなの?」

女友「うん。大学に入って仲良くなったんだけどね」

兄(振るって何だよ振るって。振られたのは俺の方じゃんか)

女友「そのお弁当、新しい彼女に作ってもらったの?」

兄「そんなんじゃねえよ」

女友「女は悩んでたよ。昔から好きだったあなたとようやく結ばれたのに、すぐに振られ
ちゃったって」

兄「・・・・・・女がそう言ったのか」

女友「厳密に言うとそうじゃないけどね。共通の知り合いがさ、女がそう言って悩んでた
って言ってたの。まあ、女の方も明らかに最近様子がおかしかったしね」

兄「そうか」

女友「・・・・・・ふーん」

兄「何だよ」

女友「何も言い訳しないんだね」

兄「え」


兄「え」

女友「気に入った」

兄「何だよ」

女友「いさぎいいね君。何にも言い訳しないし、卑屈にもならないで堂々としてるし」

兄(そうかなあ)

女友「まあ正直、好きだ嫌いだなんて個人的な問題じゃん?」

兄「そうかもな」

女友「そんなことを知り合い中に触れ回ってる女の友だちもどうかと思うしね」

兄「まあ、好きにすればいいんじゃね」

女友「余裕だね。そんなに愛されてるって自信があるんだ。そのお弁当の女の子に」

兄「自信なんて全然ないし、余裕だってねえよ」

女友「そうなの?」

兄友「まあね。でも、知り合いでもないあんたには関係ないもんな。変なこと言って悪か
った」

女友「・・・・・・へえ。こんなところにいたんだね」

兄「何だよ」

女友「正直、大学なんかに期待してなかったんだけどな」

兄(何言ってるんだこいつ)

女友「撮影現場にいるような男より格好いいじゃん。あたしってラッキーだな」

兄「何言ってるんだおまえ。頭大丈夫か」

女友「・・・・・・大学なんかで運命の出会いがあったとはね」

兄(何か関わりにならない方がよさそうだな)

女友「ふふ」

兄(ただ。こいつ、改めて眺めてみるとすげえレベル高いな。何、このスタイル。むき出
しの足もありえないほど長くて細いし。背も高い。こいつ、モデルかなんかやってるの
か)

女友「兄君、どうした」

兄「・・・・・・どうもしねえよ。昼飯食いたいからもう放っておいてくれ。女のことなら話す
ことなんてねえよ」

女友「兄君さ。今、あたしの身体をガン見してたでしょ」

兄「してねえてって」

女友「別に恥かしがらなくてもいいよ。あたし、この雑誌でモデルしてるんだ」

兄「何これ?」

女友「ファッション雑誌じゃん。表紙見てみ」

兄「・・・・・・これっておまえ?」

女友「可愛いでしょ」

兄「・・・・・・」


今日は以上です
次回は別スレを更新した後の投下になります

片付けなきゃならんことが多すぎるなwwww

おつ

女神どーすんだ

女神終わったの?


>>251
>>253
>>254
油断してたら女神は落ちちゃいました。ビッチの方にレスしたけど需要の有無に関わらず女神3というスレを立てて完結させます

ただ、デスマーチ中の今、スレ立てしてもまた同じことになりかねないので、仕事が落ちつくかビッチが完結してから立て直そうと
思います

今日はビッチより先にこっちの方ができちゃったので先にこっちを投下します


<あたしの勝ちだ>




女友「隣に座ってもいい?」

兄「迷惑です」

女友「そう? じゃあお言葉に甘えて」

兄「おまえちょっとは人の話を聞けって」

女友「聞いてるって。何カリカリしてるのよ。ひょっとして生理?」

兄「おまえってそんなにひどいの」

女友「まあ、わりと重い方かな。って何で人の生理の事情をさりげなく聞いてるのよ」

兄「おまえが勝手にペラペラ喋ったんだろうが」

女友「変態、セクハラ男」

兄「おまえに言われたくねえよ」

女友「あんたさあ。そのお弁当の彼女にもそんなセクハラ発言してるの?」

兄「してねえよ(あれ? ちょっとはしてるかな。つうかしてたよな)」

女友「あんた最低だね」

兄「つうかさ。俺は女を手ひどく振ってなんていねえし。その話を聞きたいならここにい
るだけ無駄だぞ」

女友「あ、それはもういいや」

兄「何だって」

女友「どうでもいい。あたしはあんたに興味を持ったんだから」

兄「いい加減にしろ」

女友「え」

兄「俺はこれから大切な人が作ってくれた弁当を食うんだからおまえは邪魔。どこかに行
っちゃって」

女友「へえ」

兄(とにかく弁当を食おう。まずベジータの髪の海苔の部分を)

女友「その女の子って君にとってそんなに大切な子なんだ」

兄「おまえ、まだいたの」

女友「うん」

兄「うんって、おまえ」

女友「まだ、感想を聞いてないし」

兄「感想って言われても、まだ食ってないし」

女友「あんたねえ。誰が他の女が作った弁当の感想を聞いたのよ? 表紙のあたしの写真
の感想だよ。どう? 可愛いかな」


兄「可愛いいんじゃねえの」

女友「投げやりだなあ」

兄(正直に言えばクソビッチとしか思えんわ。うちの姫のセーラー服姿とかこいつに見せ
て、絶望させてやりたいくらいだ。可愛いって言葉の意味を思い知らせてやりたい)

兄(いかん。とにかく弁当を食って妹に感想メールを送らないと)

兄(・・・・・・食ってはいるが落ちつかん。せっかくの姫の手づくり弁当なのに、何でこんな
雰囲気で食わなきゃいかんのだ)

兄(女友って何考えてるんだろ)

女友「あはは。やっぱり我慢できないであたしの方を見た」

兄「何だよ」

女友「あたしの勝ちだ」

兄「何言ってるんだよ」

女友「あたしは彼女の手作り弁当に勝ったのね」

兄「・・・・・・意味わかんないんだけど」

女友「だってさ、あんたお弁当に集中できないであたしの方をちらっと見たじゃん。だか
ら、あたしの勝ち」

兄「真面目な話、そろそろ一人にしてくれないかな」

女友「何で?」

兄「何でって、ゆっくり飯を食いたいし、おまえだってこれから昼飯だろ」

女友「ダイエット中なんだ」

兄「それ以上やせる必要なくね?」

女友「エッチ」

兄「何でだよ」

女友「ねえねえ。そのお弁当作った子の写メとかないの?」

兄「・・・・・・何で?」

女友「女ちゃんだってそれなりに綺麗じゃない? 黙ってれば」

兄「(よほど自分に自信があるのか、失礼な言い方だな。でもまあ黙ってればと言うのは
正しいかもしれん)まあそうだね」

女友「そんな女ちゃんを振るくらいに君を夢中にさせた子を見てみたいから」


<お姫様フォルダー>




兄「だから振ってねえって」

女友「じゃあ、まだ女ちゃんと付き合っているの? ひょっとして二股かけてるんだ」

兄「違うって」

女友「じゃあどういうことよ? だってもう付き合ってないんでしょ」

兄「うるせえなあ。俺が女に振られたんだよ」

女友「本当かなあ。兄友君の話と全然違うじゃん」

兄(やっぱり兄友が変な噂を言い触らしてたのか。あいつ昨日は必死に俺に謝ろうとして
たから、兄友にも罪に意識があるんだって思ったけど。兄友をはねつけた妹の判断の方が
正しかったのか)

女友「まあいいか。君のいうことが本当ならそのお弁当の子ってそんなに可愛くないんだ
ろうなあ」

兄「(姫が可愛くない? ふざけるな)何でそう思う?」

女友「だって女に振られたからしかたなく二番目の子で我慢してるってことじゃない?」

兄「(もう我慢できん。許せ妹)可愛くないとかふざけんな。ほら、写メだ」

女友「どれどれ。スマホ貸してよ。よく見えないじゃん」

兄「・・・・・・」

女友「・・・・・・うそ」

兄「何が?」

女友「超可愛いじゃんこの子。セーラー服ってことは高校生か。やだ、すっぴんなのにこ
んなに可愛いんだ」

兄「(それ見ろ)まあな」

女友「この子、本当にあんたの彼女なの?」

兄(え)

女友「君のことちょっといいなって思ったのは本当だけどさ。それにしてもこんなに可愛
い子が好きになるほどの男とは思えないんだけどなあ」

兄「言いたい放題言いやがって(でも本当のことだ。実際俺は妹に振られたんだし)」

兄(そろそろこいつは妹だって種明かしするか。)

兄「まあ実はそいつは」

女友「あ、体操服だ。何々、この子こんな写真まであんたに送ってくるの? マジ信じら
れないし」

兄「何勝手に人の写真フォルダーを開いてるんだよ」

女友「このフォルダー名、『お姫様フォルダー』って言うんだ。あははは」

兄「おいやめろ・・・・・・」


女友「何だか私服とか制服とかいっぱい画像があるんだね。カメラ目線だから隠し撮りっ
てわけじゃなさそうだし」

兄「もういいだろ。返せよ(いや。それは妹が送ってくれたやつだけど最初の方のはほぼ
全て隠し撮りだし)」

女友「はいはい。ほら返すよ」

兄「全く」

女友「でも確かに彼女可愛いわ。女ちゃんじゃ敵わなかったのもわかるなあ」

兄「さっきから一々上から目線だよなおまえって」

女友「本当はこの高校生の子と付き合いたかったから、女ちゃんを振ったんじゃないの」

兄「違うって」

女友「でもまあこれだけ可愛い子と付き合ってると他のことなんかどうでもよくなっちゃ
うかもね」

兄「何の話? つうか本当はこいつは俺の」

女友「君って大学で友だち作ろうとしないし、合コンも断ってるらしいじゃん」

兄「そういうのに興味ねえの。だいたい俺ってぼっちだし」

女友「この子ってどこに住んでるの?」

兄「(どこって同じ家だよ)いや、ここから電車で一時間半くらいのところ」

女友「紹介して」

兄「何だって?」

女友「彼女に会わせて」

兄「何でだよ」

女友「うちの事務所に紹介したいから。これだけ可愛ければすぐに人気モデルになると思
うよ」

兄「そういうの興味ねえから」

女友「あんたになくてもこの子には興味あるかもしれないじゃん」

兄「断る」

女友「ははーん」

兄「何がははーんだよ」

女友「やっぱり紹介できないんだ。本当はこの子、彼女でも何でもないんでしょ。君が勝
手に片想いしてるだけで」

兄「何だと(いや、それって本当のことだな)」


<姫を舐めるなよ>




女友「どういう関係なのかなあ。ひょっとして君はこの子の家庭教師をしてるとか?」

兄「違うね」

女友「じゃあ、親戚の女の子だ。単なる仲のいい従姉妹なんでしょ」

兄「(う。だんだん真実に近づいてきた)違うよ・・・・・・」

女友「紹介できないなんて何か怪しいじゃん。彼女じゃないから紹介できないんでしょ?
 あたしに見栄を張っちゃたんじゃないの」

兄「そこまで言うなら紹介してやろうじゃねえか(俺、何言ってるんだ)」

女友「やった。じゃあ、平日は彼女も高校があるだろうから今度の土曜日でどう?」

兄「今度の土曜日って、明後日じゃねえか(つうかこいつは実は妹だよって言うつもりだ
ったのに)」

女友「いいじゃん別に。どうせデートなんでしょ。ちょっとだけデートの時間を割いてく
れればそれでいいのよ」

兄「とにかく聞いてみるよ」

女友「そうして。じゃあ話がまとまったら連絡してね」

兄「連絡って言われても」

女友「ああ、そうか。じゃあアド交換しようか」

兄「・・・・・・」

女友「感謝しなさいよ。大学の男にアドレス教えるの、君が初めてなんだから」

兄「そんなこと知るか」

女友「強気だねえ。自分の彼女が美少女だとこうも強気になれるのかなあ。別に彼女が可
愛いのなんて君の手柄でも何でもないのにね。まあ彼女が君の本当の彼女だとしたらの話
だけどね」

兄「いちいちムカつくやつだな。おまえ友だち少ないだろ」

女友「こう見えても男の子のファンが多いのよあたし」

兄「モデルって同性に支持されなきゃいけないんじゃねえの」

女友「・・・・・・へえ。よくわかってるじゃん」

兄「いや、何となくだけど」

女友「写真のあたしは女の子にも人気あるから平気だよ。生身のあたしの方はともかく」

兄「(うん? 何かちょっと真面目な顔したぞ)そうなんだ」

女友「じゃあね。連絡して」

兄「・・・・・・」


兄(どうしよう。売り言葉に買い言葉で変なことを約束しちゃったよ)

兄(ここまで来たら今さら妹でした何て言えねえ)

兄(土曜日は妹が忙しいことにしようそうしよう)

兄(・・・・・・)

兄(いや。もう姫に嘘をつくのはやめだ。本当のことを言って、その上で女友に怒られば
かにされれば済む話だ)

兄(よし。そうしよう。もう小細工は弄さない)

兄(ベジータのキャラ弁食おう)

兄(・・・・・・おいしい)



妹「あ、おかえりお兄ちゃん」

兄「・・・・・・ただいま」

妹「どうだった?」

兄「決まってるだろ。すげえおいしかったよ」

妹「そうか。あれベジータなんだよ」

兄「それくらい見ればわかるって」

妹「お兄ちゃん好きだったもんね」

兄「うん。ありがとな」

妹「・・・・・・」

兄「じゃあシャワー浴びてくるかな」

妹「・・・・・・」

兄「えーと」

妹「何があったの? 女さんか兄友さんに何か言われた?」

兄「今日はその二人とは顔を会わせてもいねえよ」

妹「じゃあ何があったの」

兄「何もないけど」

妹「姫を舐めるなよ」


兄「え」

妹「何年お兄ちゃんの妹やってると思ってるのよ」

兄「・・・・・・」

妹「何年お兄ちゃんと家族でいたと思ってるの」

兄「それは多分十六年か十七年間だと思うけど」

妹「それだけ妹やってるとね。ベテランの妹になるのよ」

兄「何だそれ」

妹「さっさと話しなさいよ。何でお兄ちゃんが悩んでいるのか」

兄「別に悩みなんかないって」

妹「うそ。今のお兄ちゃん悩んでるときの雰囲気だもん」

兄「・・・・・・何なんだよいったい」

妹「女さんにひどいことでも言われたんでしょ」

兄「だから今日はどの講義にも女はいなかったって」

妹「じゃあ兄友さん関係?」

兄「いや。あいつとも今日は会ってねえ」

妹「じゃあ何で悩んでるの?」

兄「・・・・・・」

妹「・・・・・・あたしにだけは何でも話してよ。二人きりの兄妹じゃない」

兄「(そうだな。妹には嘘をついちゃいけなんだ)わかった。実は」

妹「何だそんなことか」

兄「売り言葉に買い言葉でさ。ついおまえのこと妹だって言えなくなっちゃってさ。本当
にごめん」

妹「そんなに謝らなくてもいいよ。それに女友さんにそんなに可愛いって誉められるなん
てちょっと嬉しいし」

兄「おまえ女友のこと知ってるの?」

妹「あたしの年齢くらいの女の子ならみんな知ってると思うよ。ほら、この人でしょ」

兄「ああそうそう。この表紙を見せられたんだよな」

妹「最近人気が出てきているモデルだよ。大学生とは知ってたけどお兄ちゃんと同じ大学
だったんだ」

兄「こんなのが人気あるのかよ。これなら姫のほうが何百倍も可愛いのに」

妹「・・・・・・」

兄「あ。悪い」

妹「謝るな。むしろもっと誉めてって言ったでしょ」

兄「そうだった」

妹「じゃあ、女友さんにメールして土曜日の時間と待ち合わせ場所を決めて」


兄「はい?」

妹「はいじゃない。さっさとメールしちゃってよ」

兄「一緒に行ってくれるの」

妹「当然じゃない」

兄「何でまた。あ、ひょっとしておまえモデルとか芸能界とかに興味があるのか」

妹「んなわけないでしょ。そんな時間はないよ。ただでさえお兄ちゃんと同じ大学に行く
のに偏差値が足りないのに、そんなことしてたら勉強時間がなくなっちゃうじゃん」

兄「じゃあ何で女友に会おうなんて思ったんだよ」

妹「気に食わないから」

兄「へ」

妹「お兄ちゃんが女友さんにばかにされるなんて我慢できないから」

兄「いや、でも女友の言っていることは嘘じゃねえし」

妹「何が」

兄「俺、おまえに振られてるしさ。きっと兄貴じゃなかったら、俺なんかじゃおまえとは
口を聞くことすらできなかったろうし」

妹「いい加減にしないと怒るよ」

兄「だってよ」

妹「さっきからデモデモダッテとかうじうじ言うはよしなよ」

兄「う、うん」

妹「あとさ。土曜日はお兄ちゃんはあたしの手を握ったり肩を抱いたりしちゃだめだよ」

兄「・・・・・・え」

妹「あたしの方から手をつなぎに行ったり抱きついたりじっと見つめたりするからね」

兄「何で?」

妹「あたしの方がお兄ちゃんに夢中だっていうことを女友さんにわからせるためだよ。お
兄ちゃんはそんなあたしに半分うんざりしているようなクールな雰囲気を出してね」

兄「無理だよ」

妹「それくらいできるでしょ」

兄「おまえにそんなことされたらきっと嬉しくてにやにやしちゃうと思う」

妹「・・・・・・もう。仕方ないお兄ちゃんだ」

兄(姫よ。何でそこで真っ赤になる)


妹「早くしないと待ち合わせに遅れちゃうよ」

兄「う、うん」

妹「お兄ちゃんちょっと緊張しすぎ」

兄「だってよ。おまえと俺が恋人同士なんて」

妹「・・・・・・お兄ちゃんさ。まさかあたしたちが本当の恋人同士の関係になるなんて期待し
てるんじゃないでしょうね」

兄「ば、ばか。そんなこと考えてるわけねえだろ」

妹「それならいい」

兄「大切な妹にそんな変な感情を抱くわけねえだろ」

妹「だってお兄ちゃんには前科があるし」

兄「だからあれは謝っただろ。もう二度と変なことは考えないって」

妹「本当?」

兄「誓って本当だ」

妹「じゃあ何で今朝あたしが起きたとき、あたしの身体はベッドの上でお兄ちゃんの手と
足でがっちりとホールドされてたのかな?」

兄「言い訳してもいいか」

妹「いいよ」

兄「俺はもともと姫から三十センチ以上離れていようと努力してたんだ。これは本当だ
ぜ」

妹「努力とかどうでもいいし。結果が全てでしょ」

兄「とにかくそうやって努力してたらおまえが突然俺の手を引いて自分の体の方に俺を引
き寄せ」

妹「まあ、寝ぼけてるときのことまでは責任持てないよね」

兄「・・・・・・なあ」

妹「意識のないときの自分の行動を律することはできないしね。まあ自分でも知らない真
の願望が無意識に行動に出てしまうということはあるのかもしれないけど」

兄「おまえ本当によかったのか」

妹「何よ。お兄ちゃんに抱きしめられることくらいもう慣れたよ」

兄「恋人の振りをするなんてさ。万一彼氏君に知られたらおまえだってまずいだろ」

妹「あ、お兄ちゃんが気にしてたのはそっちか」

兄「別に俺が女友にバカにされようが放っておけ。おまえが心配することはねえよ」

妹「放っておかないし。心配もするよ。大切な兄貴のことだもん」

兄「え」

妹「あの人じゃない?」

兄「ああ、そうだな」

妹「お兄ちゃんは何もしなくていい。と言うか何もしないほうがいい」

兄「お、おう」


今日は以上です

おつ

これあとどれくらい続くの?

早く続き~


<土曜日のデート>




女友「こんにちは。兄君」

兄「よう」

女友「偉い偉い。すっぽかさずにちゃんと来たんだ」

兄「何でだよ。来ない理由なんてないじゃん」

女友「強気だねえ。まあ無理もないか」

兄「・・・・・・」

女友「こんにちは」

妹「どうも」

女友「あれ? どうして兄君の背中に隠れちゃうの? あたしってそんなに恐いかなあ」

兄(姫め。おまえが初対面の女相手に俺の後ろに隠れるような殊勝な性格かよ。何企んで
るんだ)

女友「ちょっと。ちゃんと紹介してよ」

兄「ああ。こいつは俺のいもう・・・・・・(って痛っ)」

女友「今何って言ったの」

兄「・・・・・・俺の彼女。妹っていう名前ね」

妹「・・・・・・こんにちは」

女友「こんにちは。兄君の親友の女友だよ」

妹「・・・・・・」

兄「誰が親友だ誰が。おまえとは昨日知り合ったばかりだろうが」

女友「妹ちゃんっておとなしくて本当に可愛いなあ。何かお人形さんみたい」

兄「まあね(性格はそんなにおとなしくないんだけどな)」

女友「それにしても兄君なんかがよくもこんなに可愛い子をゲットできたね。とっても不
思議」

兄「うるせえ(全くもってそのとおりだけど)」

妹「・・・・・・」

女友「やだ。冗談だって。そんなに恐い目で睨まないでよ。兄君は十分に格好いいよ」

妹「・・・・・・」

女友「でも、おとなしいお人形さんみたいな子かと思ったら意外と気が強いのね。ますま
す気に入っちゃった」

兄「じゃあ、約束どおり紹介もしたことだし、俺たちもう行くわ」


女友「何言ってるのよ。まだ会ったばっかじゃん。話もこれからだし」

兄「話って何だよ(嫌な予感しかしねえ)」

女友「ね? ちょっとお茶でも飲もうよ妹ちゃん」

妹「・・・・・・はい」

女友「やった」

兄(え? 何でだよ。いったい姫のやつ何を考えてるんだ)

女友「無理言っちゃったからここはあたしがご馳走してあげるね。何でも好きなもの頼ん
でいいよ」

兄「いいよ。俺がおごるよ(こんなやつにご馳走されたら後が恐い)」

女「そう? じゃあ遠慮なく」

兄「おまえはどうする?」

妹「・・・・・アイスティー」

兄「何か食えばいいじゃん」

妹「あまりお腹空いてないし」

兄「じゃあ、この間一緒に食べたフルーツパフェにしろよ。あれ、美味しかったろ」

妹「だってあれすごく量が多いし・・・・・・じゃあ兄君も一緒に食べてくれる?」

兄「そうしようか」

女友「へえ。君たち仲がいいねえ」

妹「はい」

兄(おい)

女友「あたしもここの名物のジャンボフルーツパフェにしよっと。あとコーヒーね」

兄「(おいおい。遠慮しねえやつだな)おまえダイエットしてるんじゃねえの」

女友「今日はお休みする」

兄「あそ」

女友「そんなことはどうでもいいのよ。くだらない」

 そう吐き棄てるように言った彼女は、突然今までのような気楽な様子とは一変した表情
を隠さなくなった。


<いい加減に嘘付くのはやめようよ>




兄「くだらないって何だ。おまえが誘ってきたんだろう」

女友「あんたは知らないでしょうけどね。あたしは女ちゃんとは友だちなの」

兄「それは聞いたよ」

女友「親友と言ってもいいかも」

兄「大学に入って知り合ったのにもう親友なのかよ」

女友「悪い? モデルなんかやってるから学内でもサークルでも浮きまくっていたあたし
に、自然に声をかけてくれて一緒にいてくれたのが女ちゃんなんだよ」

兄「そうなのか(女からはそんな話聞いてねえけど)」

女友「モデル仲間ともそんなに仲良くないしさ。大学で友だちができるかなと思ってたら、
何か知らないけどみんなに敬遠されちゃって。こんなに見た目がいいのに実はぼっちなの。
あたしは」

兄(そういうこともあるんだな。リア充の典型みたいな女なのに)

女友「だからあたしに声をかけてくれた女ちゃんには感謝してるし、あたしは彼女のこと
を勝手に親友だと思ってるよ」

兄「・・・・・・そうか」

女友「それでも最初の頃はあまり彼女とは一緒にはいられなかった。その頃の女ちゃんに
は彼氏がいたからね」

兄「・・・・・・」

女友「それがある日、女ちゃんと一緒にいると突然彼女が泣き出してさ。好きだった彼氏
と別れたって。悲しくて寂しくて死にたいって言ったの」

兄「でも女にはそのとき別の男がいたんじゃねえかな。確か兄友とかっていうチャらい男
がさ」

女友「兄友君は女さんの元彼で、君に振られた彼女を見過ごせなくて慰めてくれただけだ
って。女ちゃんはそう言ってたけど?」

兄(何言ってやがる。ふざけんな)

女友「その様子を誤解されて、兄友君の方も高校時代の後輩の彼女から振られたんだって
さ」

兄(・・・・・・ここまで酷い筋書きを仕組まれるともう反論する気すらしねえ)

女友「さて。君は女ちゃんに振られたって言ってたよね? 君が振ったんじゃなくて君が
振られたってさ」

兄「そのとおりだよ」

女友「それで傷心の君はすぐに新しい恋を見つけた。その相手がこの妹ちゃんって訳なん
でしょ」

兄「・・・・・・ま、まあ。そうかな」

女友「今、気まずそうに目を逸らしたね」

兄「してねえよ」

女友「いい加減に嘘付くのはやめようよ」


女友「時系列が逆でしょ。あんたは妹ちゃんと付き合いたかった。そのためには女ちゃん
が邪魔だった」

兄「おまえさあ。妄想もそこまで行くと行き過ぎだぞ」

女友「・・・・・・そうかもね」

兄「何だって?」

女友「女ちゃんと別れたいけど自分が悪者になりなくなかった君は、自分が振られたと言
い触らすことにしたんでしょ。だから、兄友君にも自分が振られたってアピールまでした
のよね」

兄「事実無根だよ。おまえ、いったい何の証拠があって」

女友「たださあ。それって君がこの可愛い子と付き合いたかったからかなって思ってたん
だけど、どうも二人の様子を見るに全然そうじゃないかもって今日になって思った」

兄「何言ってるんだ(何言ってるんだこいつ)」

女友「純粋に女ちゃんがうざくなったんでしょ? 確かに女ちゃんって好きになるとのめ
り込みそうだもんね」

兄「・・・・・・・(こいつ何かややこしい誤解をしてるな。どうしたら目を覚まさせることが
できるのか)」

女友「今日わかったよ。自分は女ちゃんに振られて傷心だったけど、今では好きな子と付
き合えた。だからもう自分を振った女ちゃんには未練がない。女ちゃんにももう俺に構う
なって。あんたはそうアピールしたかったのね」

兄「何言ってるんだ」

女友「そこまでして女ちゃんを諦めさせたかったのか。わざわざ偽装カップルまで仕込ん
でさ」

兄(発想が斜め上過ぎて反論する気力すらおきねえ)

女友「妹ちゃん。あなたは誰? 何で兄君のためなんかに恋人役まで引き受けたの。お金
でももらったのかな。それともこいつに弱みでも握られた?」

妹「・・・・・・」

女友「何か言ってごらんよ。あんたのせいで今でも毎日泣いている女がいるんだよ」

兄「誤解だって。もうよせよ」

女友「何か本当のカップルって感じがしないのよね。君たちって」

妹「モデルの人って綺麗だけど頭の中身はちょっと残念な人が多いんでしょうか」

女友「・・・・・・どういう意味?」

兄(妹よ。煽ってどうするんだよおい)


妹「あなたって何がしたいんですか?」

女友「それは・・・・・・女ちゃんのために」

妹「女さんのために?」

女友「女ちゃん可哀想だしさ。元気になって欲しいし」

妹「兄君と女ちゃんを復縁させようとしてるんですか」

女友「それは、まあそうなればいいと」

妹「兄君の方にはそんな気がなくてもですか」

女友「そんなのは不誠実でしょ。勝手に振って勝手に女ちゃんを泣かせて」

妹「そんなことは聞いてないですよ。兄君にはもう女さんへの気持がないのに、形だけで
も女さんとやり直す振りをしろって言いたいの?」

女友「そんなことは言ってないでしょ」

妹「何か大袈裟に推理小説の謎解きみたいな話をするから、もっとちゃんと考えてるのか
と思ったのに。やっぱり見た目しか武器のない可愛そうな人なんですね。女さんって」

兄「おい。もうよせ」

妹「黙っててよ。だいたい兄君が女さんを振ったって何か証拠でもあるの? 女さん自身
は何も話してないんでしょ? 結局あのチャらい兄友さんの伝聞証拠だけで勝手に人のこ
とを決め付けてるけなんじゃない」

兄(姫こええ)

女友「じゃあ聞くけど、あんたは誰なのよ。兄君とはそういう関係? そうだお互いに自
己紹介しましょう。これがあたしの学生証ね。あと、この雑誌のプロフィールにはモデル
としてのあたしの名前と写真。さあ、あなたは誰なの? 家庭教師の兄君の教え子かな?
 それとも従姉妹? 後輩じゃないよね。写メの制服って女子校だもんね」

妹「まあ、しかたないか。はい、あたしの高校の生徒手帳」

女友「・・・・・・これって」

兄(どうなってんだよ。恋人の振りをしてくれるんじゃなかったのか)


<お兄ちゃんはあたしの彼氏ですから>




女友「・・・・・・兄君の学生証見せて」

兄「何でだよ」

妹「この人に見せてあげて」

兄「(もうどうなっても知らないぞ)ほれ」

女友「苗字が同じだね。池山兄と池山妹か。これって偶然?」

妹「あなたの考えているとおりですよ。あたしたちは兄妹です」

女友「・・・・・・え」

兄(あーあ。言っちゃったよ)

女友「あは」

妹「・・・・・・」

女友「あははははは。兄妹なのかあ。何だ、そうだったのか」

兄(ちょっと笑いすぎだろ。でも、妹は冷静だな。少しも動揺していない)

女友「なるほどねえ。兄君って偽装カップルする相手すら妹しか調達できなかったのかあ。
あははは」

兄(・・・・・・何か惨めだ)

女友「ああ、おかしい。昨日はあたしに、妹以外に見せられる写メがなかったんだねえ。
それで妹に頭を下げて恋人の振りをしてもらったのかあ」

兄「もういいだろ。俺たちはもう帰るぞ」

女友「待ちなさいよ。こんな嘘つくほど女ちゃんのこと嫌いなの?」

兄「(ここまでこじれると説明する気力すらわかねえ)もういいよ」

女友「もういいって何でよ。ここまでして女ちゃんをコケにすることはないでしょ」

妹「あなたって本当に面倒くさい人だなあ。お兄ちゃん何でこの人と知り合いなの」

女友「お兄ちゃんだって。お兄ちゃんだってさ。ふふふ。何が恋人よ」

妹「恋人って嘘じゃないんだけどなあ」

女友「何でよ」

妹「・・・・・・お兄ちゃん」

兄「お、おい」

女友「あ、あんたたち何してるのよ!」

妹「キスですけど」

兄(こら。俺の首に廻した手をほどけ)

女友「何でここまで必死なの? 兄妹だってばれてるのに」

妹「だから嘘なんか付いてないって言ってるじゃないですか」

女友「どういうこと」

妹「お兄ちゃんはあたしの彼氏ですから」

女友「自棄になって見え透いた嘘を付くのはやめたら?」


妹「お兄ちゃん・・・・・・」

兄(う)

女友「こらよせ。人前でベロチューしてるんじゃないわよ」

妹「ここまでしないとわかってもらえないかと思って」

女友「・・・・・・本当なの?」

妹「こんなこと冗談でできると思いますか」

女友「兄妹なのにお互いに好きなの?」

妹「いけませんか? あなたに迷惑をかけるわけじゃないでしょ」

女友「兄君? 本当なの」

兄(げ。もちろん妹の嘘だけどここは合わせたほうがいいのかな)

女友「どうなのよ」

妹「お兄ちゃん?」

兄「ああ(また姫の可愛い上目遣いが)」

妹「お兄ちゃんのお姫様は誰だっけ」

兄「妹に決まってるだろ(あ、素で答えちゃった)」

妹「お兄ちゃんがこの世の中で一番大切な女の子は誰?」

兄「おまえ」

妹「・・・・・・というわけです」

女友「マジで引くわー。あなたせっかくこんなに可愛いのに、何で好き好んで禁断の愛な
んかにのめり込むわけ?」

妹「あなたには関係ないですよね」

女友「もういい。わかったから、あたしの目の前で兄貴にべったり抱きつくのはやめて
よ」

妹「あなたに指図されるいわれはありません。目障りならあなたが消えたらいいでしょ」

女友「いつからなの」

妹「あなたには関係ないけど特別に教えてあげます。お兄ちゃんが女さんに振られて落ち
込んでいて、それを見てあたしもすごく辛くなって。そのとき、初めて自分が本当にお兄
ちゃんが好きなんだって気が付きました」

女友「マジなの?」

妹「お兄ちゃんもようやくあたしの気持に応えてくれて。あたしたち、恋人になることに
したんです」

兄(これも演技でフェイクだよな? まさか本当にそう思っているわけじゃないよな)

兄(・・・・・・女とか兄友とか女友なんて今さらどうでもいいし、悪く言われたって構わない
けど)

兄(妹の気持が気になってしかたねえ。俺、せっかくいい兄貴になると決めたのに何でこ
んなに気持が揺れるんだろ)


今日はここまで
また投下します



寝る前に読むのが日課になってる…

はちきれそう!

あああ、なんで兄はこんな面倒くさい女にからまれるのか

女友が面倒臭いのは間違いないけど、話をを面倒臭くしてるのは男だよね
反論が全て頭の中止まりのせいで

いや、一番めんどくしてるのは兄友だろう

兄友はこの状況を作った張本人なので問題外かなと

というか妹より女さん応援してたんだが、あのゴミクズ兄友に慰めてもらってたって…

いやぁ、面白いねぇ
もう少し多めに投入してくれるといいなぁ

ここでも池山か
>>1のssには何かと出てくるな

池山懐かし過ぎワロタ

妹が可愛すぐる

誰か妹の絵描いてくれないかなー(チラ

>>287
消えろ


<こんなに可愛い年下の彼女が>




女友「まあ、そこまでしちゃうところを見ると嘘じゃないみたいね」

妹「口開けて」

兄「俺はいいって」

妹「あたし一人じゃ食べきれないもん。ほら」

兄「ああ、わかったから。ちょっと待って」

妹「はいどうぞ・・・・・・。美味しい?」

兄「う、うん」

女友「あたしを無視すんな」

兄「ああ悪い」

妹「ほら、お兄ちゃん。これも食べて。メロン好きでしょ」

兄「うん」

妹「へへ」

女友「わかった、わかった。君たちが恋人同士なことは認めるから、少し落ちつけ」

妹「落ちついてますよ。いつもどおりにしてるだけですけど。というかまだいたんですか
女友さん」

女友「あのさあ。何でこんな結構な秘密をあっさりとカミングアウトした?」

兄(そうだよな。妹は俺が女にバカにされないように彼女の振りをしてくれただけだ。兄
妹ってばれた時点で普通は諦めるのに)

兄(兄妹だってばれちゃって、それでも恋人だと言い張る意味なんかねえのに。しかも本
当は恋人でも何でもないのに。わざわざ嘘を言って自分たちを追い込んでるんじゃねえ
の? これ)

妹「あなたがお兄ちゃんをバカにしたからです。お兄ちゃんには妹以外にこんなことを頼
める子がいないって言いましたよね」

女友「・・・・・・言ったけど」

妹「お兄ちゃんにはこんなに可愛い年下の彼女がいたんですから訂正して謝ってくださ
い」

女友「可愛いって自分で言っちゃうの?」

妹「それが何か?」

女友「まあいいや。でもさ、結果的に間違ってないんじゃないかな。あたしの言ったこ
と」

妹「・・・・・・どういうことですか」


女友「やっぱり兄君ってもてないんだね。だってそうじゃん。彼女にできる候補が自分の
妹しかいなかったんでしょ。近親の恋愛なんて外でもてない同士が手近なところで手っ取
り早く恋愛欲求を満たしあっているだけなんじゃないの?」

兄(もてないって・・・・・・姫に向ってよくもそんな)

兄(あ、やべ。妹、本気で怒っているときの顔だ。例えて言えば鬼のような)

兄(知らねえぞ。妹は昔から男には告白されまくってたし、こないだ聞いた話ではどうも
街中でもよくナンパされてるというのに)

妹「何も知らないでよくそんなふざけたことが言えますね」

兄(落ちついた冷静な口調。これは姫が怒っているときによく見られる現象である)

妹「うちのお兄ちゃんは女の子には不自由していないですよ」

女友「はい?」

兄(え? 姫が怒ってるのって自分のことじゃなくて俺のこと?)

妹「あなたが親友だと言った女さんだって彼女の方から昔からお兄ちゃんが好きだったと
言って告白してきたんだし」

女友「何だ。自分のことじゃなくて兄貴のことでムカついてたのか。まあ、女ちゃんのこ
とは認めるよ。兄君に振られて落ち込んでいたくらいだし」

妹「それだけじゃありません。あたしの親友だって前からお兄ちゃんを紹介しろってうる
さいし。彼女がうちの家に遊びに来たがるのを阻止するのにずっと苦労してたんです」

兄(妹友が? いや。あいつが好きなのは俺じゃなくて自分の兄貴だろうに)

女友「わかったよ。訂正するよ」

妹「わかってもらえたならそれでいいです。ちなみにあたしの方も昔から男の子によく告
白され続けて今に至っています。まあ、全部断ってきたんですけどね」

兄(嘘付け。おまえは彼氏君の告白にOKしたんだろうが)

兄(・・・・・・いかん。何をエキサイトしてるんだ俺は。これは全部妹の俺を想ってのフェイ
クなんだ。嘘があって当たり前だ。妹友のことだってそうだ)

女友「つまりそんなにもててるあなたち兄妹が、本気で選んだ相手が実の兄であり妹であ
ったと言いたいわけね」

妹「よくわかりましたね。物分りが悪そうだからもっと理解させるのに時間がかかるかと
思ってたのに」

女友「言いたい放題言ってくれるね。ちょっとばっかし可愛いからって」

兄(ここまで来ると何が真実でどれがフェイクなのかわからなくなってきた)


<でもでもだって>




女友「そこまではわかった。でも本当にあたしが聞きたいことは全く聞けてないね」

妹「ちょっと、そうじゃないでしょ」

兄「あ、悪い」

妹「パパが娘の手を引いてるんじゃないんだから。もう。彼女の手を握るときは恋人つな
ぎしろって言ったじゃない」

兄「すまん」

妹「あと手を握るついでにスカートの上からあたしの足をそろっと撫でるのはやめてよ」

兄「それは本当に不可抗力だぞ」

妹「どうだか。お兄ちゃんにはいろいろ前科があるし」

兄「マジでおまえの勘違いだって」

女友「ちょっとは人の話聞けよ! このバカップルが」

妹「ああ、ごめんなさい。何のお話でしたっけ」

女友「・・・・・・もしかしてわざとあたしのことをおちょくってる?」

妹「そんなことないですよ。お兄ちゃんとあたしはお互いに相手のことしか見えてなかっ
ただけで。ごめんなさい」

女友「まあいいや。で、どうなのよ。女ちゃんは本当は振ったの? それとも振られた
の」

兄「だから何度も言ってるだろうが。女は兄友とよりを戻して俺を振ったんだって」

女友「何か証拠はあるの」

妹「お兄ちゃん、あれ見せてあげて」

兄「そうか。そうだったな。これ見てみ」

女友「メール?」

兄「兄友から来たメールだよ」

女友「・・・・・・」

女友「・・・・・・これって」

妹「ようやく理解できましたか」

女友「でも。でもだってさ」

妹「でもでもだってとか言い出すときは自分の中でいろいろ整理がついていないときです
よね。何がわからないんです? こんなにはっきりとした証拠があるのに」


女友「女ちゃんが泣いてた。泣きながら兄君と別れたって言ってた」

妹「別れたって言ってたんですよね? 振られたじゃなくて」

女友「そうだけど。でも泣いていたくらいだから、てっきり兄君に振られたんだと」

妹「はい。証拠のない思考停止の思い込みが一つはっきりしましたね」

女友「それに・・・・・・兄友君だって」

妹「あなた頭悪いでしょ」

兄(客観的に言うとモデルをしながらうちの大学に合格した女友の方が、姫よりも偏差値
は高いと思うのでその言い方はどうかと思うが)

女友「妹ちゃんさ。さっきから兄貴が大切なのはわかるけど、少し言い過ぎじゃないの?
 何であたしの頭の出来の問題になるのよ」

妹「兄友さんのメールを見たばかりでしょ。それとあなたがさっき言ってたことと比べた
らどんな結論が出るんですかね。あなたもちょっとは頭使ってみたら?」

女友「どんな結論って」

兄(どんな結論って・・・・・・。兄友は俺に女とやり直すことにしたっていうメールを送って
きた。そしてさっきの女友の話は)



女友『それがある日、女ちゃんと一緒にいると突然彼女が泣き出してさ。好きだった彼氏
と別れたって。悲しくて寂しくて死にたいって言ったの』

女友『兄友君は女さんの元彼で、君に振られた彼女を見過ごせなくて慰めてくれただけだ
って。女ちゃんはそう言ってたけど?』

女友『その様子を誤解されて、兄友君の方も高校時代の後輩の彼女から振られたんだって
さ』




兄(兄友は俺には女とやり直すことになった、悪いってメールして。で俺に振られたと思
って悲しんでいたらしい女を優しく慰めた)

兄(これは・・・・・・)

女友「あ」

妹「やっと理解しました? あたしはさっきのあなたの話を聞いてすぐに思いつきました
よ。兄友さんがお兄ちゃんに女さんを取られたくなくていろいろ頭の悪い策略を仕掛けた
んだって」

女友「じゃ、じゃあ」


<姫は女と俺を復縁させようとしてるんだ>




妹「女さんもお兄ちゃんもお互いが知らない間に、お互いを振ったことにされちゃったん
でしょうね」

女友「まさか。兄友君が」

妹「他に誰がいるんですか」

兄(嘘だろ。こ、これも妹のフェイクなのか)

兄(いや・・・・・・。偽の恋人の話と違って、この話には筋が通っている。講義が終わったと
きに俺が女に話しかけたときの女の不安そうな態度。そして俺と女を引きはがすように女
を連れ去って行った兄友の行動)

兄(妹の言っていることは多分真実だ)

兄(女に振られたと思っていたのに・・・・・・。あれ、何だ。体が勝手に震えてるぞ)

兄「ちょっとごめん。トイレ(何か気持悪い)」

妹「お兄ちゃん?」

兄(・・・・・・トイレで吐いてしまった。もう吐けねえな。胃には何も残ってないし)

兄(十五分以上トイレで篭もっちゃったからな。そろそろ行かないと妹が心配する)

兄(立てるかな)

兄(・・・・・・何とか大丈夫そうだ)

兄「妹?」

妹「お兄ちゃんごめん」

兄「何が」

妹「ショックだった?」

兄「・・・・・・ちょっとだけな」

妹「ごめん。女友さんを懲らしめようと思ってちょっとやり過ぎた」

兄「姫のせいじゃねえよ。それにいつかは知らなきゃいけなかったんだよ、多分」

妹「お兄ちゃん」

兄「泣くなって」


女友「兄君、大丈夫?」

兄「ああ。悪かったな」

女友「ごめんなさい」

兄「へ?」

女友「妹ちゃんの言うとおりだ。あたし、頭を使わないで思考を停止してあんたが全部悪
いんだって思い込んでた」

兄「おまえが俺に話しかけてきたのって」

女友「うん。女ちゃんを泣かせた男を懲らしめようと思って、あんたに近づいた」

兄「そうだったんだ」

女友「もう一度女ちゃんと話してみる。そのメール、彼女に見せてもいいかな」

兄(どうなんだろ。確かに俺は吐くほどショックは受けたけど、今さら女に理解してもら
ったってしかたないしな)

妹「女さんにメール見せてみたら」

兄「え?」

女友「妹ちゃんはそれでもいいの? 兄友君が本当に二人の間に割り込んだんだとした
ら・・・・・・」

妹「したらどうなるんですか」

女友「・・・・・・兄友君の意図を知ったら、きっと女ちゃんは兄君と復縁しようとすると思う
けど」

妹「・・・・・・いいんじゃないですか。それでお兄ちゃんの気持を持っていかれたら、それは
あたしとお兄ちゃんの仲なんてそれまでだってことだし」

女友「それ本気?」

妹「本気ですよ」

女友「兄君もそれでいいの? やっぱり女ちゃんに未練がある?」

兄「ええと(正直言えばもう女に未練はない。というかもう誰とも付き合う気はない。妹
の幸せを兄として見ていられればいい)」

女友「ええとじゃないでしょ。君は妹ちゃんを選んだんでしょ? たとえそれが禁断の関
係であったとしても、そんなことは承知のうえで」

妹「・・・・・・」

兄「何言ってるんだ。おまえは女の親友なんだろうが」

女友「それでもさ。あたしって頭悪いかもしれないけど、直感は結構間違ってないと思う
んだ」

兄(間違いだらけだったじゃねえか)

女友「妹ちゃんのさっきの話さ。君が振られて落ち込んでいたときに自分の好きな人は君
だとわかったって言ってたじゃん。あれが嘘じゃないことくらいはわかった。本当は君た
ちがベロチューするまでもなく、あの話を聞いたときにもうわかったんだ。妹ちゃんの気
持ち嘘じゃないって」

兄(んなわけねえだろ。姫は優しいから俺のことを気遣って演技してるだけなのに。こい
つって本当に人の心が見抜けねえのな)


妹「・・・・・・」

兄「まあ、俺と女って結局縁がなかったんだと思うよ。兄友のやつが余計なことを仕掛け
たとしても、本当にお互いを信じてればとっくに会って話し合っていたはずだしな」

女友「それでいいならいいけどさ。あーあ。結局女ちゃんが傷付くのは一緒か。兄君に振
られたんじゃないとわかったとしても、兄君を妹ちゃんに取られちゃうんだもんね。兄友
君の勝ち逃げか」

妹「結果なんて話してみないとわからないですよ。あたしだって自分にそんなに自信なん
てないですし。それにたとえそうなったとしても、少なくとも不誠実な兄友さんから女さ
んを守ることはできますよね?」

女友「まあそうだね。とにかく兄友のやつは許せない。女ちゃんの目を覚まさせよう」

妹「それがいいと思います」

兄(妹の気持がよくわからん。こいつって前に俺が一生独身で姫を見守るって言ったらす
げえ怒ってたし)

兄(女友には誤解させちゃったけど、俺と妹は仲のいい兄妹以上の関係は何もない。今日
の妹の態度はちょっとやり過ぎだったけど、それは兄貴のことをバカにされたくない一心
でしてくれたことだ)

兄(そう考えると結論は一つだな。妹が女に兄友からのメールを見せたらって言うのは、
俺と女を復縁させたいからだ)



妹『引越しの途中に女さんが、お兄ちゃんにごめんとか、本当に愛しているのは兄友じゃ
なくて兄なのって復縁を迫ってきてもちゃんとあたしが女さんを撃退してあげるからね』



兄(妹がこう言っていたのは女が俺を振ったと思ってたからだろうな。それが今日そうじ
ゃないらしいことがわかったんで、きっと軌道修正したんだろう)

兄(女が俺のことを振ったんじゃないと知って、姫は女と俺を復縁させようとしてるんだ。
自分も彼氏君と付き合っているからとか思ってるんだろう)

兄(そうじゃねえのに。俺の今の心境はもう父さんや母さんと一緒の域にまで達している
のに)

妹「じゃあ、決まりね」

兄「おい」

女友「まあ、君たちがいいなら女ちゃんにこの兄友君のメールを見せるよ。そんで兄友君
は絶対にお灸をすえてやる。女ちゃんの気持を弄んだ罰はきっと受けさせるから」

兄(女友は俺と妹のことを本当の恋人同士だと思っているからこの場じゃ言えねえ。俺は
本当に妹と彼氏君の仲を応援するなんて)

兄(でも俺にはもう一生彼女なんていらねえって。姫を守って行くためだけにこの先の人
生を捧げるんだって。大声でそう言いたいのに。つうか妹には何度もそう言ってきたの
に。まだわかってもらえてないのか)

女友「じゃあそのメールあたしに転送して」

兄「・・・・・・」

妹「・・・・・・お兄ちゃん?」


今日は以上です
また投下します

おつ


<自分がされて嫌なことを人に押し付けんな、アホ>




兄「なあ」

妹「どうしたの」

兄「あれで本当によかったの」

妹「何が」

兄「いや。メールの方はともかく、女友のやつ本気で俺たち兄妹が恋人同士だって信じ込
んでるぜ」

妹「だってそういう風に仕向けたんだもん。成功したってことでしょ。何を浮かない顔し
てるの? それともまさかとは思うけど、お兄ちゃんあたしの演技をマジで受け取ったり
してないよね」

兄「え」

妹「あたしとお兄ちゃんは恋人でも何でもないのよ。女友さんの前で恋人同士の振りをし
ただけ。最初からそういう話だったでしょ」

兄「だってよ。あれは兄妹だっていうことを隠した上での話だったじゃん」

妹「そんなの隠せるわけないでしょ。女友さんが女さんとか兄友さんにあたしの名前を言
ったら、それで兄妹だってすぐにわかっちゃうじゃん」

兄「もしかしておまえ。今日はこうなるってわかってて」

妹「そうだよ。もうこうなったら兄妹で禁断の恋人関係になってるって言うしかないと思
ってた。もちろん、そんなのは本当のことじゃないけど」

兄「・・・・・・何でそこまでするの?」

妹「さあ? それよりあたしとお兄ちゃんの関係を知った女さんはどう考えると思う?」

兄「どういうこと」

妹「あたしたちにが嘘を言ってると見抜くかな。それともお兄ちゃんをあたしに取られた
と思って悲しむかな」

兄「見抜くんじゃねえの。俺が姫に告って玉砕したことを女は知ってるし」

妹「その方がいいんだけどね」

兄「まあそうだな。あいつが信じちゃったら、おまえが変な誤解をされるってことだし」

妹「こんな演技した時点でそんなことは織り込み済みだよ。誰に何を言われたって構わな
いよ。真実は一つなんだし。あたしはお兄ちゃんにだけ誤解されなければそれでいい」


兄「・・・・・・よくわからん。万一噂が広がって彼氏君とかにまで知られちゃったらどうすん
だよ」

妹「本当のことを言うよ。それを信じられないならそれだけの仲だったんだよ」

兄「まあ、女は信じないとは思うけどね」

妹「噂とか誤解なんかどうでもいいけど、でも女さんにとってもその方がいいよね」

兄「何で?」

妹「女友さんの話でわかったじゃん。女さんはお兄ちゃんを積極的には振ってなかったん
だって」

兄(ああ、そうだった。多分兄友のアホが仕掛けたことだったんだな)

妹「だからさ。あたしたちが付き合ってるなんて女さんが信じちゃったら、彼女可哀そう
過ぎるよ。お兄ちゃんを振ったって思ってたときは女さんなんかどうでもよかったけど、
今となってはね・・・・・・」

兄「いろいろ面倒くさいことになったな」

妹「もうちょっと情報があれば恋人同士の振りなんかしなかったのにね」

兄「今日早速女の家に行くって言ってたな、女友」

妹「今頃は会って話している頃かもね」

兄「おまえさあ。ひょっとして俺と女を復縁させようとかしてねえ?」

妹「すればいいなってちょっと思っただけ」

兄「だから兄友のメールを女に見せていいって言ったの?」

妹「少なくともそれで兄友さんの正体は理解するでしょ。あとは女さんがあたしとお兄ち
ゃんの仲をどう判断するかだよね」

兄「俺は女にはもう恨みはないけど、女とやり直す気はないよ」

妹「それならあたしは彼氏君と別れるだけだよ?」

兄「何でそうなる。俺はいい兄貴として」

妹「じゃあ、あたしはいい妹として、一生お兄ちゃんの幸せな結婚を祈りながら一生独身
で過ごすことにした」

兄「ふざけんなよ。そんなのは俺が嫌だ」

妹「自分がされて嫌なことを人に押し付けんな、アホ」

兄「・・・・・・」


兄「なあ」

妹「なあに」

兄「いつまでもこの店にいてもしかたないし、とりあえずどっか行こうぜ」

妹「何か注文して」

兄「うん? あのパフェ食ったのにもうお腹空いた?」

妹「そうじゃないけど」

兄「何なんだよ」

妹「ここいいた方がいいと思う。どうせすぐに女友さんから連絡入ると思うし」

兄「・・・・・・アイスマンゴーハーブティー?」

妹「うん。それでいいや」

兄「わかった」

兄(メールだ)

兄「メール来たよ」

妹「読んだら」

兄「うん」

兄「・・・・・・」

妹「・・・・・・」

兄「これから会いたいって」

妹「お兄ちゃんに?」

兄「君たちにって書いてあるから俺と姫にじゃね」

妹「誰と誰が」

兄「女と女友がだって」

妹「ここにいるからって返信して」

兄「本当に今日あいつらに会うの?」

妹「嫌なことを先送りしたり優柔不断なのってお兄ちゃんの悪いところだよ」

兄「まあ姫がいいなら」

妹「じゃあ早く返事して。あと今日は間違ってもあたしのことを姫って呼ばないでね。あ
たしもお兄ちゃんにべたべたしないから」

兄「わかった」


<あたしバカだった>




女友「まだここにいてくれて良かったよ。君たちの住んでるところまで行くんじゃ遠すぎ
るしね」

兄「ああ」

女友「じゃあ、お邪魔するね」

兄「・・・・・・」

女友「ほら。女ちゃんも座って」

妹「こんにちは女さん」

女「こんにちは」

兄「よう」

女「・・・・・・」

兄(俺にはあいさつなしかよ)

女友「さっきからずっとここにいたの?」

兄「そうだけど」

女友「いい加減、お店も迷惑だったんじゃないの」

兄「今、追加注文しようとしていたところだ」

女友「ちょうどいい。一緒にオーダーしようか」

店員「いらっしゃいませ」

女友「女は何にする?」

女「じゃあアイスマンゴーハーブティーを」

女友「それ美味しい? あたしもそれにしてみよ」

兄「じゃあ俺たちも」

妹「あたしは普通のアイスティーをください」

兄「・・・・・・俺もアイスティーで」

兄(さっきから女のやつ俺と妹と目を合わせないようにしてるな)

女友「さっきまでさ。女と話してた」

兄「ああ」

女友「結論から言うとさ。あんたが女を振ったわけじゃないことは完全に理解した。誤解
してごめん」

兄「それは別にいいけど」


女友「でもさ。女だって考えなしだったとは思うけど、一種の被害者であることは間違い
ないの」

兄「そうなんだ・・・・・・」

女友「女ちゃんどうする? あたしから話そうか」

女「いい。自分で話せるから」

女友「大丈夫なの」

女「・・・・・・うん」

女友「じゃあ任せる」

女「兄」

兄「お、おう」

女「いろいろごめん」

兄「何で謝るんだよ」

女「あたしバカだった」

兄「・・・・・・」

女「あんたの部屋で一緒にいたときに妹ちゃんが来たでしょ」

兄「うん」

女「あたし妹ちゃんに嫉妬してた。あんたが昔から妹ちゃんのことを好きだったことは知
ってたし」

兄「うん」

女「そんなことは承知のうえであんたに告ったのにね。あのときは冷静でいられなくて、
妹ちゃんに酷いこと言っちゃった。妹ちゃんもごめんなさい」

妹「・・・・・・」

女「あんたに何となく顔を合わせたくなくて、あんたを避けてたら偶然学内で兄友に会っ
て」

女「無視しようとしたんだけど。あいつ、話があるって言ったの。別におまえと復縁した
いとかおまえに謝るとかそういう話じゃなくて、兄のことで相談があるって」

兄「俺のこと?」

妹「・・・・・・」

女「うん。それで兄のことだって言うから思わずわかったって言っちゃって」

兄「どんな話だった?」

女「あんたと妹ちゃんの話」

兄「何だって」

女「あいつは言ったの」


兄友『おまえには悪いことをしたって思ってる。それについては言い訳のしようもないし、
もうおまえにやり直してくれって頼むのも諦めた』

女『やっと理解できたか。まあ、もう許すって言ったんだしそれはもういい。つか兄のこ
とで話があるんでしょ』

兄友『兄と付き合い出したばかりのおまえには言いづらいんだけどよ』

女『・・・・・・何よ』

兄友『ちょっと相談されちゃってさ。どうしたらいいのかまるでわからないんでさ』

女『相談って誰から? まさか兄からじゃ』

兄友『違うよ。妹ちゃんから』

女『妹ちゃんがあんたに相談?』

兄友『今度のことが起こるまでは俺は兄の親友だったし、妹ちゃんともそれなりに親しか
ったから』

女『・・・・・・彼女何だって?』

兄友『兄貴に告白されて断ったって』

女『そうか』

兄友『驚かねえのな』

女『兄に聞いていたからね』

兄友『そうか。それを知ったうえでおまえと兄は付き合い出したんだな』

女『うん。振られた者同士くっついたって誰も傷付かないしね』

兄友『それがそうでもなかったみたいだな』

女『あんたのこと?』

兄友『・・・・・・俺は傷付いたって自業自得だよ』

女『じゃあ誰が』

兄友『妹ちゃん』

女『そんなのおかしいよ。妹ちゃんには年上の彼氏がいるんだし、そもそも兄の告白を断
ったんじゃない』

兄友『いきなり兄貴に告白されて、両親の顔とか世間体とかが浮かんじゃって反射的にお
兄ちゃんとは付き合えないって言ちゃったんだって』

女『何よそれ』

兄友『今は後悔してるって。彼氏よりも誰よりも兄貴のことが好きなのにって泣いてた
よ』

女『・・・・・・ふざけんな』

兄友『まあ、俺からおまえにどうしろとか言う資格はねえからさ。ただ、俺一人の胸に収
めておくにはでか過ぎる話だからな』

女『あんたの相談ってこのこと?』

兄友『ああ悪い。相談っていうより聞いて欲しかっただけかな』

女『それを聞かせてあたしにどうしろって言うの』

兄友『だからそんなことを言う資格なんて俺にはねえよ』

女『・・・・・・』

兄友『あ、これはどうでもいいことだけど。俺も後輩と別れたから』

女『どうでもいいよ』

兄友『そうだよな。じゃあ本当に悪かった。それじゃな』


<・・・・・・死んじゃいたい>




女友「まあそういうわけだったみたいだよ」

兄「姫・・・・・・じゃない。妹?」

妹「あたしは兄友さんにそんなくだらない相談をした覚えはないよ」

女「そうだよね」

妹「だいたいお兄ちゃんには言わなかったけど、あたしはこんなことが起きる前から兄友
さんって大嫌いだったし」

兄「そうなの?」

妹「兄友さんに身の危険を覚えたことだって何度もあったし」

兄「おい何だって? 兄友め、ふざけやがって。今度会ったらぶん殴ってやる」

女「・・・・・妹ちゃんのことになるとそんなに必死になるんだね」

女友「こら。今はそんなことを言っている場合か。話を続けなよ」

女「兄友は別にあたしに何をしろとか言わなかった。でも、あたしはそれを聞いてから兄
と顔を合わせづらくなって、何となく兄と避けるようになったの」

兄「そうだったんだ」

女「きっと兄はあたしの態度に悩んでいるかなって思うこともあったし、逆にあたしがい
なくなって妹ちゃんとやり直しているかもっていう気持もあって。もう心の中はぐちゃぐ
ちゃだった」

女「兄友はその後もあたしに言い寄って来たりはしなかった。それどころかさりげなくあ
たしの側にいてあたしを慰めてくれた。正直、あたしは前にひどいことをされたことを忘
れてあいつに感謝し出したくらいに。かといってよりを戻す気なんて全然なかったけど」

女「そんなある日。あたしが講義に行く気すら失って家で引きこもっていると、廊下から
兄友の声がしたの」



兄友『女~、いるか』

兄友『女のやつ今日は講義休んでるのに。部屋にはいないのかなあ』

女(兄友・・・・・・もしかしてあたしを心配して来てくれたのかな)

兄友『よう兄』

女(え? 兄?)

兄『おう』

兄友『・・・・・・おまえ、もう引っ越すの?』

兄『まあな』

兄友『おまえも気まぐれだよなあ』

兄友『あ。妹ちゃん、久し振り』

妹『・・・・・お久し振りです』

女(お久し振り? ついこの間、兄友に兄のこと相談したんじゃないの?)

兄友『相変わらず可愛いよね。妹ちゃんは』

妹『どうも』

兄友『今日は兄の手伝い?』


妹『はい』

兄友『兄のことが好きなんだねえ』

妹『はい。大好きです』

女(やっぱりそうなんだ)

兄友『そ、そうか。まあ昔から兄と妹ちゃんは仲良しだったもんな』

妹『そうです』

兄友『しかしおまえ、今度はどこに引っ越すの?』

兄『実家に戻る』

女(・・・・・・)

兄友『何で? 通学つらくなるだろ』

兄友『ちょっと待て』

兄『何だよ。俺なんか邪魔だろ?』

兄友『俺が言うのも申し訳ないけどさ。この場合引っ越すのは兄じゃなくて女の方だろ』

女(はい?)

兄友『本当にすまん! 別にメール一本で済む話じゃねえとは思ってた。そのうち女も入
れて三人で話し合って、きちんと謝ろうって女友と話してたんだ』

女(何の話? あたしが兄と会わなくて兄を傷つけたから? それであたしが謝るの?
でも何で兄友とあたしが一緒に謝るのよ)

兄『そういうのいらないから』

兄友『だってよ』

妹『余計な言い訳をして自己満足するつもりですか? 兄友さんと女さんは』

兄友『そうじゃないよ』

妹『罪悪感を晴らしたいだけでしょ。お兄ちゃんに謝ったっていう既成事実を作って』

兄友『俺は、俺と女は兄を傷つけちゃったし』

妹『お兄ちゃんの心のケアはあたしがします。あなたと女さんなんかに期待なんかしてい
ません。まして自分たちの心の安定のためにお兄ちゃんを利用なんかさせませんから』

兄友『何か誤解してるよ妹ちゃん』

妹『そう言うのならそれでもいいです。でも一つだけお願いがあります』

兄友『何?』

妹『二度とお二人はお兄ちゃんとあたしに話しかけないでください』

女(何で? いったい何でよ)

兄友『・・・・・・俺はまだ兄の親友だって思っているから』

妹『お兄ちゃん?』

兄『兄友、今までありがとな。でも、もう俺には話しかけないでくれ。女にもそう言って
おいてくれな』

兄友『・・・・・・待てよ』

兄『じゃあ、作業中だから』

兄友『おい。冗談だろ』

妹『冗談なわけないでしょ。それくらいの仕打ちをあなたたちはあたしの大切なお兄ちゃ
んにしたんですよ』

兄友『そんなつもりじゃ。そこまでしたつもりはなかったんだ』

妹『じゃあようやく何をしたのか理解できてよかったですね』

兄友『せめて女を入れてもう一度だけ話を聞いてくれ。兄を傷つけたままじゃ俺も女も』


女「何かひどく話が変だった。あたしは兄と距離を置いたのだけど、それが何で兄友とあ
たしが兄を傷つけたことになっているのかわからなかった」

女「それでも妹ちゃんが兄のケアは自分がするから、兄友とあたしには二度と兄に話しか
けないでくださいと言った言葉だけは本当はよく理解できたの。理解することを拒否して
ただけで。妹ちゃんの気持はやっぱりそうだったんだって」

女「そしてあたしが兄を取り返しのつかないほど傷つけてしまったことも」

女「それからは兄友にも不信感を覚えて距離置いた。いつもは女友ちゃんとだけ一緒にい
るようにした。彼女にだけはあたしは本音が言えた。入学して知り合ったばかりだけど親
友だと思っていたから」




女友『何? 何でいきなり泣き出すの?

女『・・・・・・死んじゃいたい』

女友『いきなりどうしたのよ』

女『大好きだったのに。彼のこと昔から大好きだったのに』

女友『・・・・・・失恋でもした?』

女『うん。大好きだった彼氏と別れた。悲しくて寂しくて死にたい』

女友『そうか』

女『何でこうなっちゃったんだろう』

女友『でもさ。女ちゃんには兄友君がいるじゃん。彼ってよく君に話しかけたりお昼に誘
ったりしてるよね』

女『彼はあたしの元彼なの。何かあたしに同情してくれて慰めてくれているだけだよ』

女友『そうなの? あんたの好きだった子って誰?』

女『兄』

女友『同じ学科の? いつも一人で過ごしている無愛想なあいつ?』

女『・・・・・・うん』



兄「もういいよ。それで兄友のメールは見た?」

女「うん。あたしはあいつにまた騙されたんだね。自分でもどうしようもないほど情けな
いよ。二股かけられた時点であいつのことは二度と信用しないって決めてたのに」

女友「まあ、そういうわけね。それでさ・・・・・・」

兄「うん」

女友「女はすごく後悔している。あんたを傷つけてしまったことも、引越のときの会話で
十分に理解して反省もしている」

兄「まあ、兄友が全部悪いんだしな」

女友「たださ。結果として君が傷付いて悩んでいたところを妹ちゃんが慰めてケアしてさ。
そんでその」


<傷つけちゃって本当にごめん>



女友「・・・・・・つまりさ」

妹「あたしとお兄ちゃんがそれをきっかけに男と女として付き合い出したってことを言い
たいんですね」

女友「うん。まあそういうこと。それを女ちゃんに話したら君たちに会いたいって」

妹「そうですか」

女友「ほら。言いたいことがあるんでしょ。言っちゃいなよ」

女「うん。あのさ、兄」

兄「ああ」

女「傷つけちゃってごめんなさい。あんたのことを考えたつもりだったけど、自分でも何
がなんだかわからなくなっちゃって」

兄「もういいよ。どっちかっていうとおまえだって兄友の被害者だしな」

女「だけど。あたしにいきなり振られたと思ったんでしょ」

兄「それは、まあそうだけど」

女「本当にごめん」

兄「もういいよ。今は立ち直ったし」

女「・・・・・・あのさ」

兄「おう」

女「女友ちゃんにさ。その・・・・・・妹ちゃんは兄と付き合っているって言ったって」

女友「確かに聞いた。つうかいろいろ見せつけられた」

女「・・・・・・」

妹「女さんが言いたいことってそのこと?」

女「え。あ、まあ。あたしには聞く資格はないかもしれないけど」

妹「女さんって今でも本当にお兄ちゃんのこと好きなの」

兄(おい。何を言い出すんだよ)

女「うん、大好き」

妹「そうなんだ」

女「妹ちゃん本当に兄と付き合ってるの」

妹「女さんはどう思うの?」

女「それは」

妹「兄友さんが言ったようにあたしがお兄ちゃんの告白を拒否したのは世間体を考えてだ
ったと思う?」


女「・・・・・・ううん。思わない」

妹「何でそう思うの?」

女「あたしは妹ちゃんとはそんなに親しくはなかったけど。それでも兄とは昔から知り合
いで、あなたのこともずっと見ていたし兄から話もきいていたから」

妹「それで?」

女「だから。妹ちゃんの性格からして、本当に兄のことが好きだとしたら世間体とか両親
への配慮とかで兄のことを振るような子じゃないと思ってたから」

妹「じゃあ何で兄友さんごときの嘘に乗せられちゃったんですか」

女「うん。自分でも変だと思うけど、きっと妹ちゃんに嫉妬して目が見えなくなっていた
んだと思う」

妹「そうなんだ。本当にバカな女」

兄(それはちょっと言いすぎなんじゃ)

女「うん。自分でもそう思うよ」

女友「妹ちゃんさ。さっきのベロチューはいったい何だったのよ」

女「ベロチュー?」

女友「そ。ベロチュー。あと、あ~んとか肩を抱いたりとか恋人にぎりで手をつないだり
とか」

女「何だ、そんなことか」

女友「何だってどういうことよ。普通の兄妹はそんなことはしないよ?」

女「だって兄と妹ちゃんは昔からすごく仲がいいもん。っていうかおじさんとおばさんも
含めて家族全員がすごく仲がいいんだよ」

女友「だからってベロチューはねえだろ。おい、兄君」

兄「何だよ」

女友「あんたんのところの仲のいい家族ではさ。あんたとあんたのお母さんもベロチュー
したりするの?」

兄「するわけねえだろ。気持悪いこと言うな」

女友「妹ちゃんとあんたの父親もベロチューしてるの?」

妹「パパはあたしにそんなことはしません」

女友「じゃあ何で君たちはしてるんだよ。仲のいい家族以上のことをしてるじゃん」

妹「パパとママに比べて、お兄ちゃんはまだ修行が足りないからかな」

兄「面目ない。でも俺だって学習して父さんたちの領域に入ったと思ってるぜ」


女友「入ってねえだろ。君たちはついさっき人の目の前で、つうか公衆の面前でベロチ
ューしてたくせに」

妹「女さんは? あたしとお兄ちゃんが付き合っていると思う?」

女「思わないよ。兄を大好きな妹ちゃんが恋人の振りをしただけだって思ってる」

妹「はい。よくできました。正解」

女友「あんたらなあ。あたしをおちょくって何が楽しいのよ」

女「それは多分、女友ちゃんが兄のことを煽ったからだと思うよ。妹ちゃんは家族が大好
きだし、あんたにバカにされたお兄ちゃんの名誉のために兄の恋人の振りをしたんだと思
う」

妹「ふふふ。あたしがそんなに感情に動かされる性格の女だと思います?」

女「ごめん妹ちゃん。でもそう思う」

妹「まあ、いいでしょう。女さんの言うとおりです。あたしとお兄ちゃんは恋人でも何で
もありません。仲のいい兄妹ではあるけど」

女友「あんたらは~・・・・・・こら。よくもあたしを騙したな。ベロチューまでしてさ」

妹「お兄ちゃんがバカにされないためならチューくらいしますよ。つうか、もっとすごい
ことだってできると思います。したことはないけど」

兄(それはいくらなんでも言いすぎだろ)

妹「あたしとお兄ちゃんは仲がいいのでそれくらいは全然平気ですし、そんなことで気
まずくなったりはしませんから」

兄(いやそんなことねえよ。少なくとも俺は)

妹「女さん」

女「うん」

妹「あなたがお兄ちゃんを積極的に振ったんじゃないことはわかりました」

女「・・・・・・ごめんね」

妹「それでもお兄ちゃんを傷つけたことには変わりありません」

女「わかってる」

妹「お兄ちゃんにどう落とし前をつけるつもりですか」

女「落とし前って。あたしにできるのは謝ることくらいで。あと嫌われても我慢すること
とか」


<あなたはバカですか>




妹「あなたはバカですか」

女「今となっては否定できないけど」

妹「傷付いたお兄ちゃんを癒す方法なんて一つしかないでしょ」

女「え」

女友「ちょっと待って」

妹「何ですか」

女友「妹ちゃんは・・・・・・。君は本当にそれでいいの?」

妹「何言ってるんですか」

女友「何って。あたしの勘はよく当たるんだけど」

妹「あたしもう帰る。彼氏にも電話してあげないとかわいそうだし」

女「妹ちゃん」

兄「じゃあ帰ろうか」

妹「お兄ちゃんってバカ?」

兄「何でだよ。おまえが帰るって言うから」

妹「一人で帰れるよ。お兄ちゃんは話し合いが終ったら帰ってきて」

女「妹ちゃん・・・・・・」

妹「本当に丸一日無駄にしちゃったよ。ここってドリンクはまずいし最低」

兄「だからアイスマンゴーハーブティーはよせって言ったろ」

妹「あたしが飲んだのはただのアイスティーだよ。じゃあ先に帰るからね」

兄「ちょっと待てって」

妹「じゃあね」

兄「・・・・・・」

女「・・・・・・」

女友「あちゃー。女ちゃんのためだったんだけど、妹ちゃんには酷いことしちゃったかな
あ」

兄「どういう意味だよ」

女「・・・・・・女友ちゃんまで巻き込んじゃってごめん」

女友「いいって。じゃあ、あたしもそろそろ行くね。実は今晩は撮影があるんだ。そろそ
ろ行かないと間に合わないし」

女「お仕事の邪魔しちゃってごめん」

女友「いいよ。あたしたちは友だちじゃん。じゃ兄君?」

兄「何だよ」

女友「ここの支払いはよろしくね」

兄「え?」

女友「今日は君のおごりだったでしょ。それに君と妹ちゃんにはすっかり騙されたしね」

兄「悪い」

女友「・・・・・・謝ることなんか本当はないのかもしれないね。じゃあね。ふたりともバイバ
イ。女ちゃんうまくやれよ」


女「・・・・・・」

兄「・・・・・・」

女「あの・・・・・・さ」

兄「お、おう」

女「本当にごめん」

兄「おまえのせいじゃねえだろ。兄友のアホのせいだし」

女「でも、あんた。あたしに振られたと思って傷ついたんでしょ」

兄「まあ、そうかな?(本当はそのせいで俺も目が覚めたし、実際のところあんまり悩ん
でねえんだけどな。まあ兄友の策略を知ったときは動揺してトイレで吐いたりもしたけ
ど)」

女「そうだよね。あんたのこと傷つけちゃった」

兄「もう気にするな」

女「あのさ」

兄「おう(何かやばい気がする)」

女「あたしにはもうそんな資格なんてないのかもしれないけど」

兄「何言ってるんだよ(やばい)」

女「兄友のバカに騙されたあたしなんかにはもう愛想も尽きたと思うけど」

兄「・・・・・・何だよ」

女「あたしがあんたの部屋でオムライスを作った夜まで戻って、またやり直せないかな? あたしたち」

兄(やっぱりそうなるか)

女「・・・・・・妹ちゃんに嫉妬しちゃったこと。そのせいで兄友に付け込まれたことは否定し
ないよ」

兄「それはもういいって(問題はそうじゃねえんだよ)」

女「それでもさ。あたしやっぱり兄のことが好き。せめて友だちからでもやり直してくれ
ないかな」

兄「ええと」

兄(俺はもう一生恋なんかしないと自分に誓った。もっと言えば妹スキー同盟の父さんと
母さんにも誓った。心の中でだけだけど)

兄(一生を姫の幸せを見守るために捧げようと思った。姫の恋愛も結婚も出産も育児も全
てを陰ながら応援しようと思った。それが我が池山家の家風だからだ)

兄(幼稚園のことから、俺はいや俺たちは妹に夢中だった。妹は我が家に光臨した天使だ
った。お姫様だった。あいつがいるだけで我が家はすごく幸せだったんだ)

兄(その姫が俺と女を復縁させようとしている。しかも俺と女が復縁しなければ自分も彼
氏君と別れるって脅迫までして)

兄(女のことは嫌いじゃない。っていうか女に振られたんじゃないってわかったときはす
ごく嬉しかった。あれだけ妹に女のことはもう気にならないって言ってたくせに)


 お願い。

 そう言って女は俺を見つめて涙を流した。どういうわけかその顔に俺はいつぞや少しだ
け泣き顔だった姫の顔を重ねてしまっていたようだ。俺が見たくないものの頂点に立つの
が姫の悲しそうな表情だ。俺が女と付き合えば全てがうまく行くのだろうか。姫も彼氏君
と別れずに済むのだろうか。言ってしまえばこれは二度目の過ちということになる。姫に
振られた反動で最初に女の告白を受け入れたことに続く再度の過ちだ。

 でも前回俺が女を受け入れたのは半ば衝動からだった。女には申し訳ないけど妹と付き
合えないのならと俺は自棄になっていたのだ。今度はそれとは違うのだろうか。根源的に
は一緒かもしれないじゃないか。それに今さらだけど、俺は本当に女のことが好きなのだ
ろうか。憎からず思っていることは確かだけど、それは二度目の告白に応えるほどの好意
なのか。

 俺は迷った。でも、結局妹が俺の想いを否定したときのことが頭に浮かんだだけだった。
それは姫に振られて拒絶されたことではない。それとは別な機会に妹はこう言ったのだ。
それは俺が一生彼女なしで妹を見守ると言ったときだった。



 そんな人生なんてあり得ないよ。お兄ちゃんがよくてもあたしがいや

 もうやだ。あたし彼氏と別れるから



兄「俺たちやり直してみようか? 仲のいい友だちからになるけど」

女「・・・・・・嬉しい。ありがと」

兄「仲のいい友だちは抱きついたりしない・・・・・・っておい」

女「好き・・・・・・兄のこと大好き」

兄「うん・・・・・・」


今日は以上です
また投下します



兄は意志が弱すぎる上に主体性がないな

お前の妹はよく分からんやつが多いな

今日も楽しみだ


<ゴールデンウィーク>




父「姫と兄はちょっと来なさい」

母「はい、あんたたち。ちょっと集合して」

兄(普段はいないくせに何が姫だ)

妹「ほらお兄ちゃん。パパたちが呼んでるよ」
あたし
兄「そんなことはわかってる」

妹「じゃあ早くリビングに行こうよ」

兄「ちぇ」

妹「お兄ちゃん、どうしたの?」

兄「父さんめ。普段は家に寄り付かないで放置しているくせに何が姫だ」

妹「何だ。パパにヤキモチ焼いて拗ねてたのか」

兄「拗ねてねえって」

妹「お兄ちゃんも堂々とあたしを姫って呼ぶといいよ」

兄「俺はいいよ」

妹「ほら、はい」

兄「・・・・・・あいつらの前で手をつないでいいのか」

妹「別にいいんじゃない? 兄妹が仲良くしてるんだから。つうかパパとママをあいつら
って言うのよしなよ」

兄「・・・・・・わかったって」

妹「拗ねないでよ。ほら行こ」

兄「うん(手を離されちゃった。俺ってバカだ)」

父「おまえたちようやく来たか」

兄「何か用?」

父「うん。とっても言いづらいんだけどな」

妹「どうしたの」

母「それがねえ。せっかく予約もしたし妹ちゃんも楽しみにしていた旅行なんだけどね」

父「申し訳ない。パパもママも休み中出社しなきゃならなくなってな」

母「本当にごめんね」

妹「え~。初めての海外旅行だったのに。そんなのないよ」

父「妹姫には本当に悪いことをしたな。すまん」

母「妹ちゃんごめんね」

兄(だから父さんは妹姫妹姫ってうるさいって)

妹「・・・・・・でもお仕事だから仕方ないよね。わがまま言ってごめんなさい」

母「妹ちゃんが謝ることなんか何にもないのよ」

父「そうだよ。悪いのは私たちなんだから」

兄(まさかその私たちの中には俺まで含まれてるんじゃないだろうな)

妹「わかった。じゃあお兄ちゃんと一緒に留守番してるね」

父「それじゃあんまり姫がかわいそうだ。留守番は兄に任せて姫はどこかに遊びに行った
らどうだ」

母「お友だちとお出かけでもしたら? 海外は無理でもどこか近いところで」


妹「無理だよ。友だちはみんな家族と予定があるし、だいたいゴールデンウィーク直前な
のに宿とか予約できるわけないじゃん」

父「あ、そうだ。伯父さんの別荘なら空いてるんじゃないかな。兄貴のとこも家族で海外
に行くって言ってたし」

母「そうそう。あそこなら海辺だし遊びに行くにはちょうどいいわね。ほら、兄は昔行っ
たことあるでしょ」

兄「別荘ってあれのことかよ。単なる古い平屋じゃない。あの当時で既に半ば老朽化して
たような」

父「別荘には変わりないだろ」

妹「だからいいって。こんなに急に一緒に行ける友だちなんかいないし」

母「聞くだけ聞いてみたら? お仕事で休めないご家庭だってあるんじゃない」

妹「それはいるかもしれないけど、でもそしたらお兄ちゃんが一人になっちゃうし」

兄「俺は別にいいよ。気が楽だし」

父「・・・・・・本当に姫は優しい子に育ったなあ。兄のことを心配するなんて」

兄(だからそこで涙ぐむなよ。父さんを見ているとまるで自分を見ているような溺愛ぶり
だ。こういうのを同族嫌悪って言うんだろうな)

母「じゃあ、ついでだから兄も一緒に連れて行ってあげたら?」

兄(ついでって)

父「それがいい。姫に何かあったら困るからボディーガード代わりに連れて行きなさい」

母「兄は免許も取ったことだしパパの車を使えばいいわね。運転手兼ボディーガードって
ところかしらね」

兄(ふざけんな。誰が行くか)

妹「だってそれじゃお兄ちゃんが迷惑でしょ」

父「おまえ、姫と一緒に出かけるのが嫌なのか」

兄「嫌なわけないだろう。妹のことも心配だし(げ。つい言っちゃったよ)」

妹「・・・・・・本当にいいの? お兄ちゃん」

兄「おまえが兄貴と一緒でもいいならな」

妹「あたしは嬉しいけど」

兄「そ、そう(嬉しいのか)」

妹「じゃあちょっと友だちに聞いてみるね」

父「そうしなさい。パパは伯父さんに電話をしておくから」

妹「気が早いよパパ。まだ一緒に行ける友だちが見つかるかわからないのに」

母「そうしたら兄と二人で一緒に行っておいで。連休中に家にいるよりはいいでしょ」

妹「それもそうか。じゃあ、電話してみる」

兄(しかし買ったエロゲの妹ルート以外は全く攻略しないってのも俺くらいだろうな)

兄(正直どんなに可愛くても後輩ルートとか同級生ルートとか幼馴染ルートとか全然興味
が持てないもんな)

兄(まあ、今では俺は姫のいい兄貴なんだけどせめてエロゲの中くらいでは妹ルートを攻
略したっていいだろう)

兄(初恋の杏ルートのシナリオはマジで名作だな。これはもはやゲームの域を超えてい
る。親バレ、親離婚とかやたらにリアルなのもいい。普段は兄のことをからかいまくって
いる杏が実は密かに兄ラブだったっている設定も俺好みだしね)

兄(個人的には連休中は部屋に引きこもってずっとゲームしてても不満はないんだけど
な。でも妹にしてみれば大好きな家族と一緒に海外に行きたかったんだろうなあ)

兄(妹と妹の友だちの女子高生と一緒にお泊まり旅行か。あるいは妹と二人きりでお泊り旅行。
何かどっちにしても嫌な話はないじゃんか)


<意外といいやつかも>




兄「どうしてこうなる」

彼氏「お兄さん運転上手ですよね」

兄「まだ免許取り立てだって。上手なわけないだろ」

彼氏「いやあ。本当に上手ですよ。初心者とは思えません」

兄「(俺にお世辞を言うなよ。どうせ妹のことしか頭にはないくせに)そういやさ」

彼氏「はい」

兄「おまえらって連休中は予定なかったの?」

彼氏「はい。父はホテルマンなんで」

兄「ああそうなんだ。じゃあ人が遊んでいるときに忙しくなる職業なんだな」

彼氏「そうなんですよ。だから妹ちゃんから誘ってもらって僕も妹も嬉しかったです」

兄「それならよかったけど(しかし何で助手席に姫じゃなくてこいつがいるんだ。何で姫
と妹友が後部座席なんだよ)」

彼氏「別荘なんてすごいですよね。楽しみです」

兄「伯父さんの別荘なんだけどさ。あまり期待しない方がいいぜ」

彼氏「何でですか」

兄「俺、昔そこに行ったことがあるんだけどさ。当時でさえ築百五十年くらい経ってるん
じゃないかと思ったほどの古い平屋の家だぜ」

彼氏「そうなんですか」

兄「まあ、別荘とは名ばかりの廃屋くらいに考えておいた方がいいな」

彼氏「何だか別な意味ですごそうですね」

兄「・・・・・・あのさ」

彼氏「はい」

兄「(後部座席の妹たちには聞こえないように)この前図書館脇の公園でおまえらと会っ
たじゃん?」

彼氏「はい。あのときは妹が失礼しました」

兄「それはいいんだけどさ。あのとき妹と妹友って喧嘩みたくなったじゃんか」

彼氏「そうでしたね」

兄「もう仲直りしたのかな」

彼氏「したんじゃないですかね。だってほら」

兄(後部座席で妹と妹友が楽しそうにお喋りしてる。ポテチとか食いながら)

彼氏「今日のお誘いだって妹は二つ返事だったみたいだし、妹ちゃんだってまっ先に妹に
声をかけてくれたみたいだし。とっくに仲直りしてるんでしょうね」

兄「それならよかった」

彼氏「お兄さんにご心配をおかけしてしまってすいません」

兄(・・・・・・何かこいつ。意外といいやつかも。妹の彼氏だっていうだけで偏見を持ってい
たのかもしれん。兄として考えるに兄友みたいなチャラいアホなんかより妹の彼氏として
は全然ましだよな。ちょっと空気読めないところはあるけどとりあえず真面目そうだし、
礼儀正しいし)

彼氏「お兄さんすいません。僕が免許を持ってれば運転を代われたのに」


兄「無茶言うな。高校在学中に免許なんか取れるかよ。そもそも受験生だろうが」

彼氏「はい」

兄「どこ受けるの?」

彼氏「お兄さんと同じ大学志望です」

兄「そうなんだ」

彼氏「ええ。妹ちゃんがそこを狙っているので」

妹「ねえ。お兄ちゃん」

兄「どうした?」

妹「まだ着くまでに時間かかるの?」

兄「ああ。渋滞してるしな。海が見えるまであと二時間くらいはかかるかもな」

妹「じゃあ、どっかでお昼食べようよ。その後は買物だってしなきゃいけないし」

兄「じゃあ次のファミレスで休憩しようか」

妹「うん。お腹空いちゃった。妹友ちゃんもそれでいい?」

妹友「うん」

彼氏「お兄さん」

兄「どした」

彼氏「あそこにファミレスがありますよ」

兄「おお。じゃああそこに入ろう」



妹「あー疲れたあ」

彼氏「おつかれ」

妹「彼氏君こそ疲れたでしょ? ずっとお兄ちゃんの隣で気を遣ったんじゃない?」

彼氏「そんなことないよ。お兄さんって話し上手だし」

妹「こら。嘘言うな。そもそもそういうのを気を遣うって言うんだよ」

彼氏「本当だって」

妹「まあそういうことにしておいてあげるよ」

兄(・・・・・・車内で妹とはほとんど会話できなかった分、車を降りたら姫と話せるかと思っ
てたのに)

妹「四人です。禁煙席をお願いします」

兄(まあそれは彼氏君も一緒だったんだけど。車を降りたとたんに妹と彼氏君が肩を並べ
て歩き出した。楽しそうに会話しながら)

兄(まあ、こいつらは付き合ってるんだしそれが自然なんだろう。だいたいいい兄貴にな
るって決めた俺がこんなことくらいで動揺することがおかしい)

妹友「・・・・・・お兄さん」

兄(俺が姫と仲良くしてどうする。姫が彼氏と一緒で楽しそうならそれで本望じゃねえ
か)

兄(父さんと母さんが言ってたとおりだ。俺は運転手兼ボディーガード。それで十分だ
ろ)


<座席の並び方>




妹友「お兄さん」

兄「あ、悪い」

妹友「どうかしましたか」

兄「いや、大丈夫だよ」

妹友「お兄ちゃんと妹ちゃんは先に行っちゃいましたよ。あたしたちも席に行きましょ
う」

兄「そうだな」

妹友「そっちじゃないです、お兄さん。そっちは喫煙席ですから」

兄「お、おう悪い」

妹友「あそこみたいですよ」

兄「そうだな」

妹友「お待たせ」

妹「妹友ちゃんもお兄ちゃんも遅いよ。何してたのよ」

兄「何って別に」

妹「早く座って。お腹空いたってば」

彼氏「まあまあ。お兄さんは一人で運転してくれて疲れてるんだから。あんまりわがまま
言っちゃだめだって」

妹「だってさあ」

兄(あれ)

兄(奥に妹、その隣に彼氏君が並んで座っている)

兄(それはそうだよな。彼氏君と妹が並んで座るなんて当たり前じゃんか)

兄(何で妹が俺の隣に座るなんて思い込んでたんだろう)

兄(・・・・・・何かこの旅行って辛い気持になるばかりだな)

兄(いかんいかん。いい兄貴になるんだろ? 今さらこんなことくらいでダメージを受け
てどうする)

妹友「お兄さん奥に行きますか?」

兄「いや、妹友ちゃんが先に座りなよ。妹の向かいの方が話しやすいでしょ」

妹「・・・・・・」

妹友「それじゃあ」

兄「うん」

彼氏「お兄さんメニューをどうぞ」

兄「ありがとう。じゃあ、妹友ちゃん一緒にメニューを見ようか」

妹友「そうですね。二つしかないみたいだし」

彼氏「妹ちゃんは何にする?」

妹「・・・・・・」

彼氏「妹ちゃん?」

妹「ああ、ごめん。どうしようかなあ」


兄「このリゾットって何だろ」

妹友「ああ、それはイタリアのお米を使った料理ですよ」

兄「雑炊みてえだな」

妹友「味は大分違いますけど、まあイメージはそんな感じです」

兄「雑炊ならいいや。何か肉食いたいな」

妹「・・・・・・今夜は海岸でバーベキューするんだよ。お昼からお肉を食べてどうすんのよ」

兄(何だよこいつ。ようやく話しかけてくれたと思ったら文句かよ)

妹友「まあ、でもお兄さんは運転で疲れてるでしょうし、好きなものを食べた方がいいで
すよね」

兄「ありがと妹友ちゃん」

妹「・・・・・・」

彼氏「妹ちゃんは何食べるの?」

妹「どうしようかなあ。彼氏君は?」

彼氏「僕はこの渡り蟹のトマトソースパスタにしようかな」

妹「美味しそう。じゃあ、あたしは違うパスタにするね」

彼氏「何で?」

妹「違うやつにすれば二人で二種類のパスタを食べられるじゃん」

彼氏「え?」

妹「あたしは和風明太マヨスパゲッティーにしようかな」

妹友「じゃあ、お兄さんはこのサイコロステーキセットにするんですね」

兄「いや、ちょっと待ってくれ」

妹友「今度はいったい何ですか」

兄「こっちのステーキセットと同じグラム数なのにサイコロの方は何でこんなに安いんだ
ろ」

妹友「多分、成型肉を使ってるから安いんだと思いますよ」

兄「成型肉って何?」

妹友「肉の切れ端の部分は普通は棄てるんですけど、それを集めて圧力をかけてサイコロ
状にしたのがこのサイコロステーキだと思います。廃棄するところを使っているから安い
んですよ」

兄「そんなのを食うのはやだなあ」

妹友「じゃあこっちのヒレかロースのステーキにしたらどうですか」

兄「どう違うの?」


妹友「いちいち解説したらきりがないです。ロースの方が脂身が多い。それでいいでし
ょ」

兄「解説の手を抜くなよ」

妹友「お兄さんはロースステーキで決まりですね」

彼氏「・・・・・・妹ちゃん」

妹「何ひそひそと小さな声で話してるの?」

彼氏「また怒られちゃうかもしれないけど、うちの妹とお兄さんって結構お似合いだよ
ね」

妹「え」

兄「勝手に決めるな。俺はヒレの方が」

妹友「ヒレは赤身中心の肉なので、ギトギト系が好きなお兄さんが満足できないんじゃな
いですか」

妹「・・・・・・」

兄「え? そうなの。 じゃあ、ロースでいいや」

妹友「本当にそれでいいんですね?」

妹「・・・・・・いつまで選んでるのよ。いい加減に決めてよ!」

兄「え?」

彼氏「妹ちゃん?」

妹友「あ、ごめんなさい」

妹「あ。あたしの方こそごめんなさい」

兄(おまえが切れるなよ。彼氏と楽しそうにメニューを眺めてたくせに)

兄(いや。それでいいんだった。何で妹が切れたのかはわかんないけど、この座席順は結
果オーライだ。そう考えよう)


今日は以上です
また投下します

おつ


ようやく明るくなったと思ったら
また暗くなりそうな展開だね…

妹の行動と言動がちぐはぐすぎて何考えてるかわかんなくてモヤモヤするな…
俺が読解力不足なだけだなw
そんなド低能な自分が理解できるような真相が語られることを祈るわ(切実)

確実に兄に嫉妬してほしいんだろwwwwwwwwwwwwww
普通に兄の事好きだろこの妹wwwwwwwwwwwwwwwwwwww


<ラブシャッフルかよ>




兄「どうしてこうなる」

妹友「お兄さん運転上手ですよね」

兄「まだ免許取り立てだって。上手なわけないだろ・・・・・・って、おまえらって本当に兄妹
なんだな」

妹友「どういう意味です」

兄「彼氏君にもさっき同じことを言われたからさ」

妹友「単なる偶然ですよ」

兄「そうだろうけど」

妹友「あたしたちが本当に兄妹であることには残念ながら一点の疑義もありませんけど
ね」

兄「残念なのかよ」

妹友「義理ならよかったんですけどね」

兄「・・・・・・後ろに聞こえちゃうぞ」

妹友「そんな心配はないですよ」

兄「狭い車内なんだしさ」

妹友「だってほら」

兄「(仲良くお昼寝かよ。まあ密着しているわけじゃないことがせめてもの救いだけど)
なるほど」

妹友「今朝は早起きして出発しましたし、お腹もいっぱいになれば眠くなりますよね」

兄「まあそうだな。つうかおまえも眠かったら寝ちゃっていいぞ」

妹友「あたしは自分の身が可愛いですから」

兄「おまえなあ。居眠り運転なんかしねえよ。てか初心者でそんな余裕なんてねえよ」

妹友「そうじゃないです」

兄「じゃあ何だよ」

妹友「自分の傍らで寝入っているあどけない美少女の肢体に対してお兄さんがついつい悪
戯心を出してしまったらあたしの身が危険ですから」

兄「そんなことを心配してたのかよ。俺は性犯罪者じゃねえぞ。そもそもあどけない美少
女なんてどこにいるんだよ」

妹友「お兄さんに身体を悪戯されるくらいは許してあげてもいいのですけど、それ以上に
運転中に淫らな行為をしているお兄さんが運転を誤ったら生命維持的に大変なことになっ
てしまいます」

兄「そっちかよ」

妹友「冗談ですよ」

兄「おまえの冗談はたちが悪い。心臓にも悪い」

妹友「真面目に言うとお兄さん一人に運転させてあたしが寝ちゃうなんて申し訳なくてで
きません」

兄「後部座席の二人にはそんな気遣いはさらさらなさそうだけどな」

妹友「後ろの人のことは知りません。少なくともあたしは嫌なんです」

兄「んな気を遣わなくてもいいのに」

妹友「・・・・・・」

兄「・・・・・・だんだんと道が空いてきたな」

妹友「そうですね」


兄「それにしても何でいきなり席替えしたんだろうな」

妹友「その方が楽しいじゃないですか」

兄「そうかなあ」

妹友「あたしよりお兄ちゃんが隣にいた方が嬉しかったのですか」

兄「そうじゃねえけど」

妹友「・・・・・・え? まさかお兄さんってそっちの趣味が」

兄「何の話だよ」

妹友「冗談ですよ。お兄ちゃんと妹ちゃんだって隣にいたいんじゃないかと思って」

兄「おまえが提案したのか」

妹友「はい。二人からは言い出せないだろうと思ったので、あたしが犠牲になろうかと」

兄(・・・・・・俺の隣に座るのって犠牲とか言われるほどの苦行なのか)

妹友「自らお兄さんの隣に座りたいって妹ちゃんに駄々をこねてみました」

兄「・・・・・・そう」

妹友「せっかくそこまでして気を遣ってあげたのに二人して寝てしまうとはバカですよ
ね」

兄「さあ。俺にはよくわかんねえけど」

妹友「まあ、次の休憩でまた席替えをしましょう」

兄「ラブシャッフルかよ」

妹友「またずいぶんと懐かしいドラマのことを」

兄「おまえさ」

妹友「何でしょう」

兄「いつの間に妹と仲直りしたの」

妹友「今日のお誘いの電話をもらったときです」

兄「え? 喧嘩状態だったのに妹はおまえを旅行に誘ったんだ」

妹友「妹ちゃんも仲直りしたかったんじゃないですか。それで誘ってくれたんだと思いま
す」

兄「も?」

妹友「はい。あたしも同じでしたから」

兄「そうか。まあ、これがきっかけになったのならよかった」

妹友「お兄さんにはご迷惑をおかけしました」

兄「おまえに謝られると気持悪い」

妹友「・・・・・・お兄さんひどい」

兄「口の悪さはお互い様だ」

妹友「ふふ。そう言えばそうでしたね」

兄「自覚くらいはしてたのか」

妹友「はい。わかっててやってますから」

兄「本当にたちが悪いな」


妹友「まあ次のシャッフルでは助手席に座るのは妹ちゃんだからあんまり落ち込まないで
くださいね」

兄「俺は別に落ち込んでねえぞ」

妹友「態度でバレバレでしたよ。お兄さんが妹ちゃんと仲良くできなくて拗ねていること
が」

兄「それはおまえの誤解だ」

妹友「そうですか」

兄「おまえはどうなの」

妹友「え?」

兄「おまえだって大好きな兄貴の隣で一緒にいたいんじゃねえの」

妹友「まあ否定はしません。でも意外と楽しいんですよね」

兄「何が」

妹友「ファミレスでお兄さんの注文を手伝ったり、ドライブ中のお兄さんの隣の席にいる
ことがです」

兄「え(何言ってるんだこいつ)」

妹友「あたし、どうしちゃったんでしょうね。今までお兄ちゃん以外の男の人と一緒にい
て楽しいなんて思ったことはなかったのに」

兄「まあ何と言っていいのかわからんけど、それはそれでよかったのかもな(兄妹じゃど
うせ結ばれないんだしな)」

妹友「どういう意味?」

兄「(こいつ何赤くなって目を潤ませてんだ)いや、どういう意味って」

妹友「お兄さんもそうなんですか」

兄「いや。ほらさ、おまえ前に言ってたじゃん。兄妹の関係なんか行き場のない行き止ま
りの関係だって」

妹友「言いましたけど」

兄「だからさ。人のことは言えねえけどおまえも前を向き出してるってことじゃゃねえ
の」

妹友「お兄さんには言われたくないです」

兄「・・・・・・俺はもう割り切ったし。これからは姫のいい兄貴になるって決めたしね」

妹友「え?」

兄「何だよ。おまえに言われて気がついたことなのに何を意外そうに」

妹友「ぷ。ひ、姫だって」

兄(げ。やば)

妹友「姫って呼んでたんですね。妹ちゃんのこと。あははは」

兄「おい。ちょっと声がでかいって。後ろが起きちゃうだろうが」

妹友「おかしい~。ひ、ひ、ひ」

兄「ちょっと笑い過ぎだ」

妹友「ひ、姫かあ」

兄「もういいだろ」

妹友「ご、ごめんなさい」

兄「・・・・・・」

妹友「妹ちゃんって幸せだなあ」

兄「・・・・・・そうかな」

妹友「あたしのお兄ちゃんとは大違い」


<海辺の夕暮れ>




兄「そうなのか」

妹友「まあ、いいんですけどね」

兄「海が見えた」

妹友「本当ですね。綺麗」

兄(・・・・・・こいつの横顔、結構綺麗だな)

兄(って俺は何を考えてる)

兄(でも。こいつもこいつの兄貴もそんなに嫌なやつじゃないのかもしれないな)

妹友「まだ時間かかるんですか」

兄「ここまで来たら、もう少しだと思う」

妹友「どこかで食材を調達するって妹ちゃんが言ってましたけど」

兄「今夜は庭でバーベキューをしたいんだって」

妹友「いいですね」

兄「もう少し海辺を走ったら街中に出ると思うから、そしたらスーパーを探さないとな」

妹友「それは任せてください」

兄「ああ頼むよ」

妹友「何か夕暮れになってきましたね」

兄「昼飯が遅かったからな」

妹友「ステーキ美味しかったですか」

兄「まあまあかな」

妹友「せっかく選んであげたのに」

兄「だって筋が多くて固かったし」

妹友「・・・・・・オムライスは?」

兄「へ」

妹友「あたしが作ったオムライスはどうでしたか? 考えてみればまだ感想を聞いてなか
ったです」

兄「美味しかったよ(あの日は三食連続オムライスだったわけだけど)」

妹友「よかった」

兄(何か微妙な雰囲気。例えて言えばお互い振られた同士が傷を舐めあっているような)

妹友「何か落ちつきますね」

兄「そう?」

妹友「はい。お兄ちゃんのことばかり考えていらいらしたり、妹ちゃんと口喧嘩になって
たときよりは、今の方が全然いいです」

兄(どういう意味だ)


妹友「前方にスーパーを発見しました」

兄「よし。ここで買物して行こう」

妹友「はい。じゃあ、そろそろ二人を起こしますね」

兄「そうして」

妹友「お兄ちゃん起きて。妹ちゃんも。買出しに行くよ」

妹「・・・・・・あれ? ここどこ」

兄(何言ってる)

彼氏「寝ちゃってたのか。お兄さんすいません」

兄「いいよ別に」

妹友「二人が寝ている間はあたしがお兄さんの話し相手をしてたから大丈夫だよ」

彼氏「そうか。妹も悪かったな」

妹友「いいって。海辺の道の景色すごくきれだったし。ねえ? お兄さん」

兄「まあな」

妹「・・・・・・」

兄「じゃあさっさと今夜のバーベキューの買物しちゃおうぜ」

妹友「そうですね」

妹「そんなに早く買物が終るわけないじゃん」

兄「何で? 肉と野菜を買えばいいんだろ」

妹「明日の朝食はどうすんの? お昼ご飯は」

兄「ああそうか」

妹「食材以外でも買うものはいっぱいあるの。簡単にさっさとか言わないでよ」

兄「え?」

妹「もういい。お兄ちゃんなんか頼りにならないや。妹友ちゃん、あたしたちで買物しち
ゃおう」

妹友「う、うん」

兄「おい(何怒ってるんだ)」


<逆切れするな>




彼氏「妹ちゃん機嫌悪かったですよね」

兄「ああ。いったい何が気に入らないんだろうな」

彼氏「何でしょうねえ。ファミレスまでは機嫌よかったのに」

兄「寝起きだからかな」

彼氏「そうでしょうか」

兄「おまえも彼氏なら何とかしろよ」

彼氏「無理ですよ。自信ありません」

兄「全く頼りにならないやつだな」

彼氏「お兄さんこそお願いしますよ」

兄「何で俺なんだよ」

彼氏「十七年間もずっと妹ちゃんと一緒に生きてきたんですよね。それくらいはできるは
ず」

兄「てめえ(何かだんだんこいつ調子に乗って馴れ馴れしくなってきてるな)」

彼氏「お願いします」

兄「しかたねえなあ。よし、俺の実力を見せてやる(何だかんだ言ってこいつら兄妹のこ
とが憎めなくなってきているような気がする)」

彼氏「はい!」

兄「よし。店内に入って妹たちを探すぞ」

彼氏「了解です」

兄「で。どこにいるんだ」

彼氏「さあ」

兄「バーベキューなんだから生肉売り場に行けばいるだろ」

彼氏「そうですね。あ、いました」

兄「よし。おまえは妹友ちゃんを妹から引き離せ」

彼氏「・・・・・・どうすればいいんですか」

兄「おまえの妹だろ? それくらいは自分で考えろよ」

彼氏「そう言われても」

兄「・・・・・・じゃあ、おまえがうちの妹の機嫌を直す役をするか」

彼氏「妹を何とかします」

兄「全く最初からそう言えって」


彼氏「妹、ちょっと」

妹友「お兄ちゃん? どうしたの」

彼氏「歯ブラシとか忘れちゃってさ。買っときたいんで一緒に来て」

妹友「何で一緒に行く必要があるの?」

兄(あのばか。もっとましな理由を作れねえのかよ)

彼氏「いや、どういうのがいいのか僕じゃよくわからないし」

兄(んなわけあるか。歯ブラシなんてどれでも一緒だろ。全く使えないやつだ)

妹友「もう。あたしがいないと歯ブラシも買えないんだから。しようがないなあ」

兄(え? マジなの)

妹友「妹ちゃんちょとだけごめん。お兄ちゃんの買物に付き合ってくるね」

妹「うん」

兄(マジかよ。つうか彼氏君もこんなことくらいで誇らしげに俺を見るなよ)

兄(・・・・・・よし。いつまでも妹と気まずいわけにはいかん。父さんと母さんに頼まれてる
んだし)

兄「何買ってるの」

妹「見てわからない?」

兄「いや、肉だよね」

妹「・・・・・・」

兄「あ。俺カート押すよ」

妹「・・・・・・」

兄「押させてくださいお願いします。つうかおまえにカートを押させてたなんて知れたら
父さんに殺される」

妹「別にいいけど。はい」

兄「籠の中は。肉はだいたい買ったのな」

妹「・・・・・・うん」

兄「じゃあ野菜売り場に行こうぜ」

妹「わかってるよ」

兄「・・・・・・ほら」

妹「何よ」

兄「これ。おまえの好物じゃん」

妹「アスパラ?」

兄「昔さ。家族で庭でバーベキューした時はおまえアスパラばっか食ってたじゃん」

妹「・・・・・・・・まあそうだけど」

兄「母さんが買い忘れると、おまえすげえがっかりしてたもんな」

妹「・・・・・・そんなこと今まで忘れてた。よく覚えてたね」

兄「姫のことだからな」

妹「・・・・・・」

兄「じゃあこのアスパラ籠に入れるな」

妹「・・・・・・別にいいけど」


兄「ほら。朝飯に玉子とパンを買っておこうぜ。あとベーコンも」

妹「勝手にメニューを決めるな。作るのはあたしと妹友ちゃんなんだからね」

兄「本当は和食がいいのに妥協したんだぜ」

妹「当たり前でしょばか」

兄「・・・・・・やっといつもどおりの姫になった」

妹「・・・・・・」

兄「じゃあ、パンを買いに」

妹「何でよ」

兄「え」

妹「何で今日はあたしに構ってくれなかったのよ。もうあたしを放置するなって言ったで
しょ」

兄「してねえよ。つうか俺はいい兄貴になるんだから」

妹「今日のお兄ちゃんは全然いい兄貴じゃないじゃん。あたしのこと放っておいて妹友ち
ゃんとベタベタして。だいたいお兄ちゃんは女さんとやり直すんでしょ」

兄「・・・・・・女とは仲直りしただけだよ。この先どうするかなんてまだわかんない」

妹「だからって。あたしを無視することないでしょ。何よ。あたしと隣になるのも避けて
たくせに」

兄「おい。いい加減にしろよ」

妹「逆切れするな」

兄「いい兄貴としてはおまえと彼氏君の邪魔なんかできないだろうが。それは俺だって寂
しかったけど」

妹「何でファミレスで車を降りたときにあたしの側に来てくれなかったの?」

兄「おまえが彼氏君と一緒にいたから」

妹「弱虫」

兄「何だって?」

妹「・・・・・・本当に寂しかったの?」

兄「本当だよ。今日はおまえと全然仲良くできてないし」

妹「お兄ちゃんは見栄とか張らないでもっと素直になった方がいいと思う」

兄「(何か表情が和らいだ)でもさ」

妹「何」

兄「俺一度おまえに振られてるからさ。臆病になるくらいは理解してくれよ」

妹「そんなこと」


妹友「じゃあ買い忘れはないよね」

妹「大丈夫だと思う」

彼氏「まあ、忘れてたらまた買いに来ればいいんだしね」

兄「・・・・・・誰が運転すると思ってるんだよ」

妹友「じゃあ出発しましょう。もう薄暗くなってきちゃったし」

妹「そうだね。お兄ちゃん?」

兄「うん?」

妹「別荘まであとどれくらいかかる?」

兄「もう一時間もかからないかな」

妹「じゃあ行こう。妹友ちゃん、ついたらすぐに食事の支度ね」

妹友「うん。じゃあ、本日最後のシャッフルです」

彼氏「え」

妹「何々?」

妹友「席替えね。今度は妹ちゃんが助手席であたしとお兄ちゃんが後部座席ね」

彼氏「了解」

兄「・・・・・・」

妹「・・・・・・うん」

兄「おまえはここに来るの初めてだっけ」

妹「うん」

兄「そうか」

妹「ねえ。伯父さんの別荘ってそんなに汚いの」

兄「昔の記憶だけどな。ぼろぼろだった印象がある」

妹「そうなんだ」

兄「うん。でもリフォームしたらしいな。出がけに父さんから聞いたけど」

妹「よかった」

兄「それに家はともかくロケーションは最高だぞ。寝室や庭から海が見えるし」

妹「寝室って何部屋あるの」

兄「寝室って言っても確か六畳の和室が二つだけだけど」

妹「・・・・・・さっきはごめんね」

兄「いや、拗ねてたのは俺の方だし」

妹「そうか。お兄ちゃんあたしと話せなくて拗ねてたのか」

兄「そうだよ、悪いか」

妹「でも、夜になったらいっぱいお話できるじゃん」

兄「どういうこと」

妹「あたしとお兄ちゃんで一部屋、彼氏君と妹友ちゃんで一部屋でしょ。今日は一緒に寝
るからいっぱい話せるよ」

兄(・・・・・・マジで?)

妹「・・・・・・はい。どうぞ」

兄(運転中なんだけど。手つなぐの?)


今日は以上です

しばらくは毎日の投下は無理っぽいです
すいません

おつ
無理強いは出来ないけど早く続きを見たい…

妹めんどくせぇぇ!

自分から振った上に振られた相手の目の前で恋人とイチャつき、気まずい雰囲気の中兄にも同じように自分に構えと
不機嫌になる…妹がメ○ヘラ路線に進んでる気が・・・

妹は一体何を企んでいるんだ!?


<BBQ>



妹「ほら彼氏君、この肉取っちゃって」

彼氏「ありがと」

妹友「少し肉とか野菜を載せすぎじゃないかな」

妹「そうかな? この方が景気がいいじゃん」

妹友「食べる方が忙しい気がする」

妹「お兄ちゃん?」

兄「うん」

妹「何でそんなに隅っこで座ってるの」

兄「ちょっと疲れた」

妹友「ずっと一人で運転してくれたんですものね」

兄「おまえにそんな優しい言葉をかけられると混乱するわ」

妹友「何言ってるんですか。お皿出してください」

妹「・・・・・・」

兄「うん」

妹友「お肉とソーセージですよ。ちょうどよく焼けてますから」

兄「ありがとな」

妹「・・・・・・肉ばっかじゃん。ほら」

兄「何だよ」

妹「お皿貸して」

兄「ちょっと待て。ピーマンとか入れ過ぎだろ。玉ねぎももうそれくらいでいいって」

妹「子どもじゃないんだからちゃんと野菜も食べなよ」

兄「・・・・・・わかってるよ」

妹「彼氏君もソーセージ食べる?」

彼氏「うん。ありがと」

妹友「お兄ちゃんも野菜食べてないよね。ちょっとお皿貸して」

彼氏「食べるのはいいけど、ちょっと野菜だけ山盛り過ぎじゃない」

妹友「子どもじゃないんだよ。それくらい食べなさいよ」

彼氏「わかったよ」

妹友「海からのいい風が来るんだね」

妹「そうだね。風のせいで炭火なのに煙くなくっていいよね」

妹友「暗くてよく見えないけど、すぐ前はもう海岸なんでしょ」

妹「そうみたい。周りに人家もないし海水浴場でもないからプライベートビーチ状態だっ
てパパが言ってた」

妹友「さすがに泳ぐにはちょと早すぎるよね」

妹「どうだろう。少し冷たいかもね」

妹友「海辺に行くって聞いたんでさ。無駄かもと思いながら実は水着持ってきちゃった」

妹「え? マジで」

妹友「まず使わないだろうと思ったんだけどさ」

妹「・・・・・・実はあたしも」


彼氏「何か野菜のバーベキューみたいですね」

兄「おまえだけじゃないぞ。俺だってほら」

彼氏「たいしたことないじゃないですか。僕の皿に比べたら」

兄「ばか言え。俺の皿の方が大量のピーマンや玉ねぎが」

彼氏「いや。僕なんかこんなに人参とキャベツが」

兄「・・・・・・食うか」

彼氏「それしかないですね」

兄「・・・・・・」

彼氏「・・・・・・お兄さんっていい人ですよね」

兄「何を言ってる」

彼氏「何かお兄さんとは気が合うような気がします」

兄「そうか(妹ともっと深い仲になるための策略か。将を射んとせば先ず馬を射よとはよ
く言ったもんだ)」

兄(確かに姫と俺の関係では姫が大将で俺はせいぜい姫の乗馬だもんな)

彼氏「何か妹がいるところとか境遇が似てますよね」

兄「逆に言うと妹がいる以外で似てるところはあるの?」

彼氏「さあ。それはわからないですけど。妹への距離感とかがすごく似ている気がしま
す」

兄「・・・・・・どういう意味だよ」

彼氏「仲がいいというか。良すぎるというかそういうところですね」

兄「おまえと妹友ちゃんって仲いいの?」

彼氏「ええ。昔から仲が良すぎるくらいで、両親に変な心配をされるくらいでした」

兄「変な心配って」

彼氏「まあ、さすがにそれは親の誤解なんですけどね。それでもそう言われてもしかたが
ないくらい、昔から妹とは仲良しでしたね」

兄「妹との仲のいいことを恥じることはねえよ。それが変な関係じゃねえんだったらなお
さらだ。むしろ誇ってもいいと思うぞ」

彼氏「そうですよね。僕もそう思ってましたけど、お兄さんからもそう言ってもらえて嬉
しいです」

兄「彼氏君さ。おまえ本当に俺の妹のことが好きなの?」

彼氏「本当です。妹ちゃんに告白して、OKしてくれてすごく幸せです」

兄「おまえの妹はどうなんだよ」

彼氏「・・・・・・お兄さんだから正直に言いますけど。妹は多分僕と妹ちゃんの仲に割り切れ
ない想いを抱えているんだろうと思います」

兄「やっぱりな。妹ちゃんってどう考えてもブラコンだもんな」

彼氏「さすがですね。やはりわかりますか」

兄「何がさすがかわからんけど、妹友と話しているとそんな気配がぷんぷんしてるもん
な」

彼氏「妹に慕われていることは嬉しいのですけど、恋愛感情となるとまた別です」

兄「まあおまえはうちの妹のことが好きなんだからしかたないね」


<おまえの前じゃ猫被ってんだよ>




彼氏「だからお兄さんのところの兄妹関係が僕の理想です。できれば妹とはそういう関係
になりたいんです」

兄「うちの関係?」

彼氏「はい。妹ちゃんはすごくお兄さんを尊敬していますし、信頼もしています。まだわ
ずかな間だけのお付き合いしかしていませんけど、それでもそれは十分に理解できまし
た」

兄「そうなんだ」

彼氏「それでもお兄さんと妹ちゃんは心からいい兄妹で、そこには変な感情は一切ない
し」

兄(ついこの間まで俺の方には変な感情が全開であったんだけどな)

彼氏「ある意味、仲のいい兄妹の理想像ですよ」

兄「・・・・・・そうか」

彼氏「妹ちゃんは恋愛感情とかじゃなくて純粋にお兄さんのことを慕っていますよね。う
ちの妹にもその境地に至って欲しいんですけどね」

兄「妹友ちゃんは頭がいい子だし。おまえが心配しているような近親相姦みたいな関係を
本気で望んだりはしないと思うけどな」

彼氏「はい。最近ではようやく僕もそう思えるようになってきました」

兄「そうか。それならよかったじゃんか」

彼氏「今まではだめだったんですよ。あいつは僕が言うのも何ですけど見た目は可愛いじ
ゃないですか」

兄「まあ確かに見た目はすごく可愛いよな(確かに可愛い。俺の姫には劣るけれども、女
とどっこいどっこいなくらいに)」

彼氏「そうでしょう。妹選抜総選挙があったとしたら、センターは確実ですよね」

兄「何、得意気に妹の自慢してんだよ。おまえの妹は見た目はいいが言動が痛すぎる」

彼氏「そうですか? その辺も普通に可愛いとしか思えませんけど」

兄(おまえの前じゃ猫被ってんだよ。その点、俺の妹は)

兄(俺の妹は・・・・・・。まあ、俺の前で猫被ったりはしないな。いろいろ問題はあると思う
けど、少なくとも俺の前では素直だと思う)

兄(つまり、わがままだったり俺のこと振ったくせに俺に嫉妬じみた行動したり、俺を放
っておいて彼氏君と仲良くした挙句、俺に放置されたと逆上したり)

兄(人から見たら最悪の妹だけど。面倒くささでいったら女友とか女とか妹友とかよりも
っと面倒くさい訳わかんない女だけど)

兄(俺が大切に思っている姫ってそういう女だからさ。別に俺が振り回されたっていいん
だ)

彼氏「こんなこと言うとまたお兄さんや妹ちゃんに怒られちゃうかもしれませんけど」

兄「何だよ」

彼氏「妹はお兄さんと知り合ってから少し変わったような気がします」

兄「何だって」


彼氏「さっき、妹ちゃんが寝ちゃたんで僕もうとうとしてたんですけど」

兄「ああ。ドライブ中の話ね」

彼氏「寝ちゃってすいません」

兄「それはいいけど」

彼氏「うとうとしてたら妹がお兄さんに話しかけてる声が聞こえて」

兄「うん」

彼氏「何かいい雰囲気でした。妹が僕以外の男に甘えたような口調で話すのを初めて聞き
ました」

兄「そ、そう」

彼氏「ちょうど海が見えた当たりですかね。夕暮れの中で妹がお兄さんに話している言葉
は全く聞こえなかったんですけど、その口調だけはわかりました」

兄「考えすぎじゃないのか」

彼氏「さあどうでしょうか。でもファミレスで妹がお兄さんとメニューを見ながら楽しそ
うに話しているのを聞いたときから、何かそんな予感がしていたんですね」

兄「まさか、おまえさ。本当に好きなのはうちの妹じゃなくて妹友ちゃんのことじゃねえ
だろうな」

彼氏「はい?」

兄「はいって」

彼氏「あいつは実の妹ですよ。そんな感情は全くないです」

兄「おまえら見てると何となくそういうのもありそうで恐い」

彼氏「でも。妹の方は正直よくわからなくて不安だったんですけど、少なくとも今は妹の
好きな男はお兄さんだと思います」

兄「違うと思うけどなあ(てめえの妹の好きな男は実の兄貴のおまえだっつうの。もっと
も妹友は近親相姦なんてありえないって考えているけど)」

兄(そうか。だから妹友は悩んでるんだ。ありえないって思いきれるほどの常識があるの
にもかかわらず、本当に好きな男が実の兄だっていう矛盾を抱ええて)

彼氏「お兄さん、妹のことをよろしくお願いします」

兄「ちょっと待て」

彼氏「別に妹と付き合ってくださいと言っているわけじゃないです。でもせめて妹を興味
半分に弄ばないでください」

兄「そんなことするかよ。それにそんなことできるほど女に慣れてないっつうの」

彼氏「変なこと言ってすいません」

兄「おまえの方こそ」

彼氏「え」

兄「えじゃねえよ。万一妹を悲しませたらマジで殺すぞ」

彼氏「はい。そんなことは絶対にありません」

兄「(即答かよ)それならいいけどよ」


<変なことをするのは禁止ね>




妹「ほら。お肉が焦げちゃうからさっさとお皿持ってきて」

兄「ほら行け。彼氏君」

彼氏「はい。行って来ます」

兄(・・・・・・いいやつだ。こういうちゃつなら妹を任せてもいいのかもしれないな)

兄(姫の彼氏が兄友みたいなどうしようもないクズじゃなくて幸運だったのかもしれな
い)

兄(姫も兄友君のことは好きみたいだし)



妹『もうやだ。あたし彼氏と別れるから』



兄(好きな相手と別れるなんて言わせちゃいけない。いくら姫が俺のことを兄として大事
にしてくれていたとしても)

妹友「お兄さんも来て下さい。このままじゃ肉が焦げてしまいます」

兄「ちょっと一度に載せすぎじゃねえの」

妹「何よ。その方が景気がいいじゃん。彼氏君、お皿出して」

彼氏「ありがと」

妹「美味しい?」

彼氏「うん。すげえ美味しい。妹ちゃんが焼いてくれてるからかな」

妹友「誰が焼いたって同じじゃん」

彼氏「俺には違いがわかるの」

妹友「ほう。じゃあこの肉を焼いたのはあたしか妹ちゃんか答えてみ?」

彼氏「え?」

妹友「違いがわかるんでしょ」

彼氏「お腹空いたからこの人参を食おう」

妹友「逃げたな」

妹「ちょっとトレイに行くね。妹友ちゃんあとお願い」

妹友「いいよ。ってこらお兄ちゃん誤魔化すな。誰が焼いたか言え」


妹「お兄ちゃん」

兄「どうした」

妹「トイレって言って出て来ちゃった」

兄「・・・・・・そうか」

妹「また拗ねてるの? あたしと彼氏君の仲がいいことに」

兄「いや」

妹「あたしだってお兄ちゃんとなるべく一緒にいたい」

兄「そんなに俺に気を遣うなよ」

妹「本当だって」

兄「まあ、正直に言えば俺も姫をあいつに取られたみたいで寂しいことは寂しいけど」

妹「・・・・・・うん。お兄ちゃんがあたしたちに嫉妬してたことはわかってた」

兄「おまえトイレ行かなくていいの」

妹「単なる口実だもん」

兄「・・・・・・」

妹「お兄ちゃん」

妹「・・・・・・」

兄「・・・・・・ふは」

妹「ふふ。またお兄ちゃんにキスしちゃった」

兄「・・・・・・おい。あいつらに見られたらやばいだろ」

妹「もう女友さんには見られてるじゃんん」

兄「あのときと違って今は恋人同士の振りをする必要なんてねえだろ」

妹「何よ。お兄ちゃん嫌なの?」

兄「・・・・・・」

妹「・・・・・・」

兄「俺、確かにおまえに振られたんだよな?」

妹「うん。そうだよ」

兄「・・・・・・俺がいい兄貴でいようと我慢するにも限度があるんだけど」

妹「こんなことでもう限界なの?」

兄「・・・・・・何考えてるんだよ」

妹「さっさとバーベキューを終らせようよ。そんで後片付けしてお風呂に入って」

兄「・・・・・・そんで何だよ」

妹「伯父さんの別荘って寝室は二部屋しかないんでしょ」

兄「ああ」

妹「じゃあ。話の続きは一緒に寝てからしようよ」

兄「・・・・・・」

妹「あ。でも変なことをするのは禁止ね」

兄「・・・・・・わかった」


<寝室にて>




妹友「洗い物もだいたい終ったね」

妹「結局お兄ちゃんも彼氏君もバーベキューセットをしまったくらいで義務を果たした気
になってるし」

妹友「あはは。でも男の子なんてそういうもんだって」

妹「だってそんなの不公平じゃん」

妹友「そう言われてもさ。そういう風に育てられて来てるからね。お兄ちゃんも。きっと
お兄さんもそうだろうし」

妹「うちのお兄ちゃんはうざいくらいあたしの台所仕事を手伝いたがったけど」

妹友「うちのお兄ちゃんとは大違いだ」

兄「運んできたぞ。多分、これで洗い物は最後だ」

妹友「意外とお兄さんってまめなんですね」

兄「男女間の性差に基づく議論なら今からでも相手になってやるけど?」

妹「やめなよ。大人気ない」

妹友「いつでも相手になってあげます。けど、今は洗い物があるので」

兄「逃げたな」

妹「お兄ちゃん!」

兄「風呂入ってくる」

妹「お風呂から二度と出てくるな」

兄「遅かったな」

妹「普通はお客さんから最初に入ってもらうもんでしょうが」

兄「だってあいつらなかなか風呂に行かないんだもん」

妹「遠慮してるに決まってるでしょ。」

兄「風呂はリフォームしてあったな。思っていたよりだいぶ綺麗だった」

妹「お布団くっつけて」

兄「・・・・・・あいよ」


妹「お兄ちゃん。あたしを彼氏君に取られちゃったと思って寂しかった?」

兄「別にそんなことは」

妹「あたしたち兄妹なのに」

兄「わかってるって」

妹「単に妹にすぎないあたしと今日はあんまり話せなくて寂しかった?」

兄「いや、まあ。妹友が相手してれくたし」

妹「お兄ちゃんは妹友ちゃんが好きなの?」

兄「(何か姫が怒ってるし)いや。男女の仲って意味ならそこまでじゃない」

妹「女さんは? やり直そうって言われたんでしょ」

兄「そんなのわからねえよ」

妹「お兄ちゃんって本当に人を好きになったことあるの」

兄「何だよ」

妹「何が何でも、あたしを彼氏君から奪おうとか思ったことないでしょ」

兄「・・・・・・・何それ」

妹「何でもない。ごめん」

兄「・・・・・・」

妹「ごめん。もう寝るね」

兄(・・・・・神様。もう許してくれよ)


今日は以上です

なんか妹[ピーーー]って思えてきた

兄妹揃ってはっきりしない奴らだな

妹にイニシアチブありすぎだけどな

でも、この煮え切らなさにはまっている俺w

あああ、早く続きを読みたい

兄妹同士だから同じ部屋で寝るのはいいんだけどさ
せっかくの泊まりなんだから普通妹は友達と寝るだろ
それか広い部屋に布団敷いて全員一緒とか

体裁や倫理を吹き飛ばすような強引な略奪愛をする覚悟がなきゃ靡かないって言いたいのか?
わがままなことを兄に要求する上にもし「私を一番愛してくれる人がいい」的なこと考えてるなら文字通りお姫様気分だな
リアルならお付き合いは遠慮したいタイプかも

いもかわ


<君が義理ならどんなにいいか>




兄(まだ夜明け前か。すいぶん早く目を覚ましてしまったな)

兄(・・・・・・妹が抱きついてるんじゃないかと期待したんだけどそんなことはなかった)

兄(何キモい期待してんだ俺。俺自身がちゃんといい兄貴の意識を持ててないから、妹も
混乱して矛盾だらけの行動を取っちゃうんだろうな)

兄(いい加減に落ちつかなくっちゃ。妹と彼氏君の仲に嫉妬とかして拗ねてる場合じゃね
え。明日は適度に妹と彼氏君を二人にしてやろう)

兄(姫の不機嫌を招くかもしれないけど、それは俺がうじうじとした態度だったからじゃ
ねえかな)

兄(妹友と一緒にいると姫が微妙に不機嫌だったのはちょっと気になるけど)

兄(今はいろいろお互いの関係とか距離感が不安定だからだろうな。現に女には俺に告る
ことを勧めるようなことを言ってたし)

兄(ずっと一人でいいと思ってた。一人で姫を見守ろうと。でもそれじゃあ姫のほうが安
定しないみたいだ)

兄(どうすっかなあ)

兄(しかし可愛い寝顔だな)

兄(・・・・・・君が義理ならどんなにいいか)

兄(まあ、兄貴でなかったら俺なんか姫には全く相手にされてなかったろうけどさ)

兄(とりあえず女とは仲直りしたけど、姫の言うとおり女と復縁した方がいいのかなあ)

兄(付き合ってた頃だって気は合ってたしな)

兄(それにそうすれば姫だって安心して彼氏君と付き合えそうだし)

兄(・・・・・・だめだもう眠れねえ)

兄(そろそろ明るくなるだろうし海辺でも散歩して頭を冷やすか)

兄(姫を起こさないようにそっと)

兄(・・・・・・行ってくるよ姫)

兄(・・・・・・)


兄(記憶よりずっと海が近いな。波のざわめく音がすぐ間近で聞こえる)

兄(さすがにまだ暗いから足元が危ないな。・・・・・・確か庭を出てそこの斜面を少し降りれ
ばもう海岸だったはず)

兄(少し明るくなってきたな。あ、海が見えた)

兄(しかし確かに周囲を崖と丘に囲まれてるし他に家もないから完全にプライベートビー
チ状態だな)

兄(夏なら泳げたのに)

兄(・・・・・・姫の水着姿か)

兄(いかん。邪念を払わないと)

兄(あれ?)

兄(何だ誰かいるじゃん。一人でゆっくり散歩しようと思ってたのに)

兄(気づかれるのも何か気まずいな。でもこんなに小さなビーチじゃ隠れようもない
し。しかたないから家に戻るか)

兄(あれ)

妹友「・・・・・・あ」

兄「妹友か」

妹友「おはようございますお兄さん」

兄「ずいぶん早起きなんだな」

妹友「たまたまです。何か目が覚めたら眠れなくなっちゃって」

兄「俺と同じだ」

妹友「そうなんですか」

兄「眠れないから少し散歩でもしようかと思ってさ」

妹友「何か意外です」

兄「意外って何が?」

妹友「お兄さんのことだからきっと少しでも長く妹ちゃんの側にいたいのかと思ってまし
た」

兄「・・・・・・」

妹友「あ。ごめんなさい。あたし・・・・・・」

兄「別にいいよ。てかおまえがそんな殊勝な態度を俺に見せるなんてそっちの方が意外じ
ゃんか」

妹友「そんなことないですよ」


兄「何だよ。実はツンデレでしたとでも言う気か」

妹友「・・・・・・」

兄「いやあの。冗談なんだけど」

妹友「今までのあたしは必死でしたから。必死になって強気を装って毒舌を吐くようにし
てましたから」

兄「何のこと?」

妹友「いいです。別に何でもないです」

兄「そうか」

妹友「お兄さん」

兄「うん」

妹友「海が見えてきました。大分明るくなりましたね」

兄「そうだな」

妹友「もっと海の近くに行きたいな」

兄「行ってみるか。つってもその靴じゃ砂浜を歩くのは厳しいかな」

妹友「大丈夫です。行きましょう」

兄「あまり走ると危ないぞ」

妹友「わあ。日の出ですよ。海から直接お日様が昇るんですね」

兄「本当だ」

妹友「きゃっ」

兄「おい危ないって、あ」

妹友「・・・・・・」

兄「・・・・・・大丈夫?」

妹友「はい。支えていただいたので転ばないですみました」

兄「いや。いったいどうしたの?」

妹友「波が靴にかかって冷たくてびっくりしちゃった」

兄「これで転んでたら全身びしょ濡れになるとこだったな」

妹友「ええ。ありがとう」

兄「いや別に」

妹友「あ、あの」

兄「どうした」

妹友「多分もう手を離していただいても大丈夫だと思います」

兄「あ、悪い」

妹友「・・・・・・いえ」


<おまえが罪悪感を感じることはないんだ>




兄「・・・・・・・(さっきから妹友が俯いて俺の顔を見ようとしないんだが)」

兄(とっさに転びそうになった妹友を抱きかかえてしまったんだが、あれに怒っているの
かな)

兄(だけどかかえなきゃ転んでたよな)

兄(それにしても抱きしめるようにしたのはまずかったか)

兄(・・・・・・こいつも妹と同じだった)

兄(女や女友は多分C、いやひょっとしたらDくらいはあるかもだけど)

兄(妹と妹友はBマイナスってとこか)

兄(貧乳、スレンダー、華奢好きな俺にとっては別に問題はないけれど)

妹友「お兄さん」

兄「うん」

妹友「これまでいろいろとごめんなさい」

兄「何で謝ってるの」

妹友「お兄さんの気持を左右したり変えたりする権利なんかあたしにはないのに」

兄「・・・・・・ああ」

妹友「妹ちゃんが公園で言ってましたよね。何で自分と自分の兄の気持ばっかり優先する
のって」

兄「言ってたな」

妹友「本当は妹ちゃんの言うとおりなんです。あたし、お兄さんの気持ちとか妹ちゃんの
気持とか全然考えてなかった」

兄「俺に年上の余裕を見せろって言ったことか」

妹友「はい。すごく勝手なことを言いました」

兄「・・・・・・」

妹友「本当にごめんなさい。あたしのお兄ちゃんに対する感情を解決するために、お兄さ
んと妹ちゃんまで巻き込んじゃいました」

兄「まあ、あまり気にしなくてよくね」

妹友「だって」

兄「おまえが言ってたことは間違ってないしな。確かに兄妹の恋愛に行き場なんかないし
さ」

妹友「お兄さん・・・・・・」

兄「それにそもそも妹には全然その気がなかったんだしさ。おまえのおかげで俺も目が覚
めたよ」


妹友「本当にそうなんでしょうか」

兄「何がだよ」

妹友「昨日の夜、あたし見ちゃいました」

兄「見たって何を?」

妹友「バーベキューの途中で妹ちゃんがトイレに行くと言っていなくなったんですけど」

兄(え)

妹友「お兄さんにお肉を持って行こうと思って。少し離れたところにいたお兄さんのとこ
ろまで行ったら、妹ちゃんがお兄さんにキスしていました」

兄「見られてたのか」

妹友「はい。お兄ちゃんが見てなくて本当によかった」

兄「・・・・・・言い訳していい?」

妹友「そんな必要はないですけど、話してくれるなら聞きます」

兄「妹はおまえの兄貴のこと好きだと思うよ」

妹友「はい」

兄「あいつが変になったのって俺があいつに告るなんて常識のないことをしたせいだと思
うんだ」

妹友「・・・・・・」

兄「あいつは常識的な行動をしたよ。俺の告白を断るという」

妹友「はい」

兄「だけど俺は、そのことに拗ねた俺は突然引越して家から消えたんだよな。それがどん
なにあいつを寂しがらせ傷つけるかなんてちっとも考えずに」

妹友「新学期になってから妹ちゃんは学校でも全然元気がありませんでした。元気付けよ
うとしても慰めようとしても、大丈夫だからと言うばかりで」

兄「そうか。うちの両親は都心に小さなアパートを借りててな。平日の夜はそこに泊まる
ことが多いんだよ。仕事で忙しいからさ」

妹友「じゃあ、お兄さんが家を出た後の妹ちゃんは」

兄「いつも一人で家にいたんだろうな」

妹友「あの寂しがり屋で家族大好きな妹ちゃんがいつも夜一人で・・・・・・」

兄「ああ。確かそれからだよ。おまえに言われて妹にメールして仲直りしてさ。これから
は普通の兄貴として接するからって言ったんだけど」


妹友「だけど何ですか?」

兄「いやさ。妹らしくないんだけど、俺と一緒に寝ようとしたり手をつなぎたがったりと
かさ。そういう行動が始まったんだよな。これまではそんことは素振りさえなかったの
に」

妹友「お兄さんに対してデレだしたんですね」

兄「うん、まあ。でもさ、それって兄貴としての俺を失いたくなくて無意識にやってるん
じゃねえかと思うんだ」

妹友「昔から仲の良かったお兄さんを一月以上も失った。その原因は自分がお兄さんから
の求愛を断ったせいだって、妹ちゃんはそう考えたんですね」

兄「まさにそれだと思う。男としての俺を欲しているわけじゃない。でも女として俺に接
していないといい兄貴としての俺が自分から放れていっちゃうと思ったんじゃねえかな」

妹友「妹ちゃんかわいそう」

兄「そうだな。こんなことになるなら、こんなに妹を傷つけるくらいなら告白なんてしな
きゃよかった」

妹友「・・・・・・」

兄「だからさ。おまえが罪悪感を感じることはないんだ。全部俺のせいなんだから」

妹友「それが正しいとしてもですけど」

兄「何だよ」

妹友「いい兄貴をつなぎ止めるためだけのために、普通キスまでしますかね」

兄「あいつは家族が大好きだからな。それくらいしても不思議じゃない」

妹友「そうかなあ」

兄「何か間違っていると言うのか」

妹友「あたし、前にお兄さんに言ったじゃないですか」



妹友『妹ちゃんはね。お兄さんのことを好きだと思いますよ。ただ、それは異性に対する
愛情じゃない』

妹友『お兄さんから告白された妹ちゃんは、悩んだと思います。妹ちゃんにとって異性と
して好きなのは、彼氏になって欲しいのはうちのお兄ちゃんだから。でも、妹ちゃんは自
分の兄貴に傷付いて欲しくなかった。自分の兄貴、つまりお兄さんへの愛情は異性に対す
るものじゃないけど、兄妹として家族としてお兄さんのことは好きだったんだと思いま
す』

妹友『聞いてください。だから妹ちゃんはお兄さんなんかに異性に対する愛情はないとは
言えなかった。そう言ってしまえばお兄さんが悩むしひょっとしたら自殺しかねないと思
ったから。だから彼女は便宜的に両親との関係とか近親相姦のこととかを持ち出してお兄
さんを振ったんでしょうね』



兄「そうだったな。全くそのとおりだったけど」

妹友「でも妹ちゃんはこうも言いました」


<お兄さんに言われたとおりにキスしましたよ>




妹友「お兄さんの部屋で女さんっていう人からひどいことを言われて傷付いていた妹ちゃ
んが言ったんですけど。ってもうこれは話しましたね」



妹『お兄ちゃんはあたしと彼氏のことを目撃して傷付いたと思うし』

妹友『何でそこまで自分の実の兄貴に遠慮するわけ? ちゃんと断ったんでしょ。それで
何も問題ないじゃない』

妹『あたしさ、お兄ちゃんと前みたいに仲良くなりたい。恋人としては付き合えないけど、
それでも昔みたいに口げんかしたりからかいあったりしたい』

妹友『それはわかるけど。でも何でうちの兄貴と会わないって話になるのよ。普通の兄貴
は妹の彼氏に嫉妬したりしないよ』

妹『それはそうだけど』

妹友『妹ちゃんさ。まさかと思うけど、お兄ちゃんの部屋に女さんがいるのを見て嫉妬し
たの』

妹『・・・・・・』

妹友『だから女さんっていう人のことを、嫌な女だなんて言ったの?』

妹『・・・・・・違うよ』

妹友『何であたしから目を逸らして答えるのよ。うちの兄貴のこと好きなんでしょ』

妹『多分』

妹友『あんたねえ。あたしの兄貴をその気にしておいてそれはないでしょ。まさか、あん
た。お兄さんのことが本気で異性として気になりだしてるんじゃ』

妹『・・・・・・』

妹友『何か言ってよ』

妹『わからない。ちょっとよく考えてみる』



妹友「これがもし妹ちゃんの本音だったとしたら」

兄「違うよ」

妹友「それならいいんですけど。それならあたしが傷つけたのはお兄さんだけで、妹ちゃ
んからお兄さんを引きはがしたことにはならないですし」

兄「・・・・・・おまえは悪くないよ」

妹友「でも結果的には引き離したのと同じことですね」

兄「・・・・・・もうやめようぜ」

妹友「はい」


兄「すっかり明るくなったな」

妹友「景色、綺麗ですね。今までは暗かったからわからなかった」

兄「久し振りにここに来たなあ」

妹友「今日って気温はどうなんでしょう」

兄「さあ。何で?」

妹友「その・・・・・・。ひょっとしたら泳げるかなと思って水着を」

兄「持ってきたの?」

妹友「ちょっと。どこ見てるんですか」

兄「ああ、すまん」

妹友「・・・・・・どうせあたしは胸はないです」

兄「へ? ああ、問題ない。その方が好みだから」

妹友「お兄さんのエッチ」

兄「ちなみにどんな水着なの」

妹友「教えてあげません」

兄「けち」

妹友「全くもう。今の今までシリアスな話をしてたというのにお兄さんときたら」

兄「おまえがいかにも俺に水着を見せたがっているような発言をするからだろ」

妹友「誰がそんなことを言いました。そんなわけないでしょ。どこまで自己中なんです
か」

兄「おまえとはキスした仲だしな(そうだ。これでいい)」

妹友「あ、あれは。妹ちゃんに発見されそうだったから偽装工作として」

兄「いやあ。でも女の子の唇って柔らかいのな(全部冗談にしてしまえば妹友だって悩ま
ないで済む)」

妹友「・・・・・・マジで殺す」

兄「つれないなあ。何ならもう一度してくれてもいいんだぜ(それで妹とも軟着陸す
るように頑張ろう。昔みたいなただ仲のいい兄妹に戻れるように)」

妹友「・・・・・・うっさい。死ね」

兄「おまえ顔真っ赤だぜ(あんな告白のせいでこんなに大変なことになるとはな。まさに
するは一瞬、戻すは百年だ)」

妹友「・・・・・・知りません」

兄「そろそろ戻るか。あいつらも起きる頃だろうし」

妹友「はい」


兄「じゃあ、行こうって・・・・・・!! おい!!!」

妹友「・・・・・・・お兄さんに言われたとおりにキスしましたよ」

兄「お、おまえなあ」

妹友「どっちかと言うとお兄さんの方が真っ赤じゃないですか」

兄(どういうつもりだ)

妹友「今日はどっかに遊びに行くんですか」

兄「・・・・・・妹は近くにある水族館に行こうって行ってたけど(いったい何なんだ)」

妹友「そうですか。一つお願いがあるんですけど」

兄「何だよ」

妹友「今日はあたしとずっと一緒にいてください」

兄「何で?」

妹友「その方がきっとお互いに楽ですよ」

兄「・・・・・・姫が嫉妬すると思う」

妹友「それに動揺しないで、いいお兄さんとして振る舞ってください」

兄「まあ、そうなんだが」

妹友「勝手言ってごめんなさい。あたしまた前と同じことをしようとしているのかもしれ
ないけど」

兄「まあ、正直に言えばそんな気もする」

妹友「でも動機は前とは全然違うんです」

兄「そうなの」

妹友「ええ。前はお兄ちゃんを諦めるためというのが主な理由だったんですけど」

兄「今は違うのか」

妹友「はい。今のお願いはどちらかというと自分の願望をかなえるためです。あたしのわ
がままですね」

兄「どういう意味?」

妹友「こういう意味です」

 妹友は爪先立って俺の首に手を巻きつけた。その朝、俺は妹友から二度もキスされたの
だった。


今日は以上です

たまたま連日投下できましたけど、今後はそれができるか不明です

ここまでお付き合いいただきありがとうございます


これを一日の楽しみにしてる

はぁ…ふぅ…乙ぅ…

夜になったら条件反射的にこのスレ開いてるわ俺ww

これからもよろしくお願いします

俺は起きたらすぐにこのスレ開いてるよ
何やってんだろw

今日も書き込みしてくれるかな


<朝食>




妹「あ、お兄ちゃん」

兄「おはよ」

妹「いったいどこ行ってたのよ。彼氏君と二人で家中探しちゃったじゃない」

兄「妹友と一緒に海岸を散歩してた。綺麗な景色だったぜ」

妹「え」

兄(これでいいんだよな妹友)

妹友「おはよう妹ちゃん」

妹「おはよ。二人で海まで行ってたの?」

妹友「早起きしちゃったから砂浜に下りたら偶然お兄さんと会ったの」

妹「そう」

妹友「お兄さんといっぱいお話しちゃった」

妹「・・・・・・どんなことを話していたの」

妹友「どんなって・・・・・・いろいろだけど。ね、お兄さん」

兄「うん」

妹「そうなんだ」

妹友「すごく綺麗な景色だったよ。妹ちゃんもお兄ちゃんと見てきなよ」

妹「後でね。それより朝ごはんの支度ができているから食べよ」

妹友「あ、ごめん。妹ちゃん一人にさせちゃって」

妹「慣れてるから平気だよ。気にしないでいいよ」

妹友「本当にごめん」

妹「いいって。じゃあ、食べよう。彼氏君はどこに行ったんだろう・・・・・・あ、いた。彼氏
君、妹友ちゃんたちいたよ」

彼氏「よかった。おまえいったいどこ行ってたんだよ。探しちゃったじゃないか」

妹「二人で海岸に行ってたんだって」

彼氏「二人? ああ、そうか。よかったな妹」

妹友「別にそんなんじゃ」

妹「・・・・・・」


兄「あれ? これって」

妹友「どうしたんですか」

兄「いや(何でご飯と味噌汁と干物なんだ? 旅先じゃあ面倒くさいからパンにするんじ
ゃ)」

妹「・・・・・・お兄ちゃんもさっさと食べちゃってよ。遊びに行く時間が減っちゃうじゃん」

兄(だって)



兄『ほら。朝飯に玉子とパンを買っておこうぜ。あとベーコンも』

妹『勝手にメニューを決めるな。作るのはあたしと妹友ちゃんなんだからね』

兄『本当は和食がいいのに妥協したんだぜ』

妹『当たり前でしょばか』



兄(黙って干物とか買って用意してくれたんだ)

兄(・・・・・・)

妹「・・・・・・何よ」

兄「いや。ありがとな」

妹「別にそんなことはいいからさっさと食べて」

妹友「・・・・・・」

妹「いったいどんだけお代わりするのよ。もうご飯ないよ」

兄「じゃあこれでいいや。ごちそう様」

妹「ほうじ茶飲む?」

兄「うん」

妹「妹友ちゃんと彼氏君は?」

彼氏「僕はいいや。ごちそう様」

妹「彼氏君、朝食はいつもパンだって言ってたから口に合わなかったでしょ」

彼氏「ううん。おいしかったよ。たまには朝の和食もいいよね」

妹「それならよかった。妹友ちゃんほうじ茶は」

妹友「・・・・・・あ、ごめん。ぼんやりして。あたしもいいや」


兄「で。今日はどうすんの」

妹「水族館と爬虫類パークと熱帯植物園に行きたい」

兄「それ全部回るの?」

妹「全部近い場所に固まってるから大丈夫じゃない?」

妹友「面白そう。ヘビとかトカゲとかワニとかがいるんでしょ」

兄「そりゃまあ、爬虫類パークっていうくらいだからな」

妹友「あたし、爬虫類って大好き」

兄「そらまた変わった趣味だな」

妹友「変わってないですよ。今、流行ってるんですよ」

妹「そうだよ。イグアナとか飼っている人、うらやましいな。あたしも一匹飼いたい」

兄「却下。俺はそんなのと同じ家で暮らしたくない」

妹「可愛いじゃん。ねえ彼氏君」

彼氏「いやあ。僕もちょっと遠慮したいなあ」

兄「ほれ見ろ」

妹「あの可愛さがわからないんなんて」

妹友「だよねえ」

兄「じゃあ、片づけしたら出かけようぜ。連休中だから多分すげえ混むと思うよ」

妹「そうだね。じゃあ洗い物しちゃおうか」

妹友「うん」


<水族館にて>




兄「チケットを買うだけでもう三十分以上もかかってるぞ」

妹友「連休中なんだからしかたないですよ。それに並んでくれてるのは妹ちゃんたちじゃ
ないですか」

兄「それはそうだけど、待っている方もつらい」

妹友「それよりお兄さん」

兄「どうした」

妹友「海辺での約束、覚えてくれてますよね」

兄「・・・・・・それはまあ」

妹友「妹ちゃんはきっと四人皆で行動しようと思っているでしょう」

兄「そうかもな」

妹友「この人混みですから水族館の中はきっと観光客でごった返しているはずです」

兄「それは容易に想像できるな」

妹友「はぐれましょう、わざと」

兄「はい?」

妹友「ですから妹ちゃんとお兄ちゃんとはぐれましょう」

兄「・・・・・・何でそんな手の込んだことをしなきゃいけないんだよ」

妹友「四人で見て回ろうって言われてるのにわざわざ二人きりになりたいなんて言いづら
いじゃないですか」

兄(こいつ、本当に俺のことが好きなのかな)

妹友「それに本心では妹ちゃんだってお兄ちゃんと二人きりになりたいに決まってます」

兄「そうかなあ(今朝、二回もキスされたしな。やっぱりこいつに好かれてるのかな
あ)」

妹友「あたしたちに遠慮して、二人きりになりたいなんて言い出せないだけですよ」

兄「まあ、妹友がそこまで言うならそうしようか」

妹友「・・・・・・」

兄「妹友?」


妹友「お兄さん、ひょっとしてあたしと二人きりになるのが嫌なんですか」

兄「そんなことねえけど」

妹友「それともやっぱり妹ちゃんのことが気になりますか」

兄「いや。それはやっぱり気にはなるけど、気にならないようにしなきゃいけないと思っ
てるよ。だからおまえと二人でも全然嫌じゃない」

妹友「そうですか」

兄「おまえはどうなの?」

妹友「どうと言いますと?」

兄「兄貴を取られちゃうみたいで落ちつかないんじゃねえの」

妹友「今はもう全然そんな気はなくなってしまいました。以前を考えるとまるで嘘のよう
に」

兄「どういうこと」

妹友「前は確かにお兄ちゃんと妹ちゃんが二人でいると落ちつかなかったんですけど」

兄「ブラコンだもんな。おまえ」

妹友「お兄さんにだけは言われる筋合いはこれっぽっちもないと思います」

兄「・・・・・・まあ、そうかもしれん。で、今はどうなの」

妹友「今はお兄さんと妹ちゃんが二人きりでいる方が心配で落ちつきません」

兄「どういう意味だよ」

妹友「そのままの意味ですよ」

兄「おまえ、俺のことなんか好きでも何でもないって前に言ってなかったっけ」

妹友「言いました」

兄「じゃあ何で」

妹友「そんなのわかりません。気になるんだから仕方がないでしょ」

兄「おまえひょっとして俺のこ」

妹「お待たせ。やっと買えたよチケット」

彼氏「チケットを買うだけで四十分ですからね。中は相当混雑しているでしょうね」

妹「はぐれないようにしないとね」


妹「順路に沿って行こうよ」

彼氏「最初にいきなり水槽の中を通るトンネルがあるんだって」

妹「見たい。早く行こう」

妹友「まだですよ」

兄「ああ(耳元で囁くなよ)」

妹「わあすごい。頭の上にも横にも魚がいる」

彼氏「ほら。あのエイすごく大きいよ」

妹「本当だ。あたしより大きいんじゃない?」

彼氏「僕の背丈と同じくらいの長さかな」



妹「もうトンネル終わっちゃったね」

彼氏「ここには何がいるんだろう。人が多すぎてよくわかんないね」

妹「あそこに人だかりがある。何かいるんじゃない」

彼氏「でかい水槽だね」

妹「あ、ペンギンだ。もっと近くに行こうよ」

彼氏「うん」

妹友「今ですお兄さん」

兄「あ、ああ」

妹友「二人はペンギンの方に向っています」

兄「そうだね」

妹友「この人が少ない地味な水槽の陰であの二人をやり過ごしましょう」

兄「地味な水槽って。なんだ、くらげか」

妹友「もう少し水槽の背後に回ってください。見つかってしまいます」

兄「ああ」


<罪悪感>




兄(妹の小さな背中が見える)

兄(夢中になってペンギンを眺めているんだろうな、きっと)

兄(別に俺のことを気にしている様子もないし。これならきっと妹友の言うとおり、二人
きりにしてやった方が親切なのかもしれん)

兄(そう考えると姫も成長したんだなあ)

兄(あいつが小学生の頃は俺にべったりだったもんな。親があまり家にいなかったせいも
あって、俺がちょっと視界から離れるとパニックになって泣いて俺のことを探してたのに
な)

兄(きっと妹も正しく成長してるってことなんだろう。いつも兄貴に頼っていた小さな女
の子はもういないんだ)

兄(これでいい。妹友には感謝しないとな)

妹友「お兄さんちょっと顔を出しすぎです。もっとあたしの方に寄ってください」

兄「これくらい離れてりゃ大丈夫だよ」

妹友「万一ということもありますから。ほら」

兄「こら、手を引っ張るな」

妹友「しばらくこうしていましょう」

兄「・・・・・・何で俺の腕に抱きついてるの?」

妹友「知りません。そんなこと一々聞かないでください、バカ」

兄(バカって)

兄(こいつ真っ赤だ。やっぱり俺のこと好きなのか)

兄(妹はいいとして、女のこともあるしなあ)

兄(これで妹友に走ったら今度こそ本気で俺が女を振ったことになっちまう)

兄(かと言って手を振り解くのも妹友を傷つけそうだし)

兄(あーあ。また俺の優柔不断ぶりが遺憾なく発揮されてしまうのかよ)

兄(こんなに胃が痛い思いをするならやっぱ一生一人身で姫を見守っていた方がよほど気
が楽だ)


兄(あれ?)

兄(妹がきょろきょろ周囲を見回している。俺たちがいないことに気がついたか)

妹友「妹ちゃんが気がついたみたいですね」

兄「どうもそのようだな。あっちこっちを探しているし」

妹友「すぐ諦めて二人で行っちゃいますよ。少しここで待ちましょう」

兄「うん」

兄(何か姫、すげえ勢いで周りを探してるな)

兄(彼氏君が宥めているみたいだけど)

兄(きっとすぐに会えるから先に行ってようとか言ってるんだろう)

妹友「あ」

兄「・・・・・・妹友が彼氏君の手を振り払った」

兄(何か普通じゃないな、姫の慌てようは)

兄(あいつパニックになってるんじゃ)

兄(スマホを取り出した。電話する気なんだ。って俺の携帯鳴ってるな)

兄「妹から電話が来てるんだけど」

妹友「着信に気がつかなかったことにしましょう。これだけ人だらけで周囲もうるさいの
で説得力もありますし。だから出ないでください」

兄「ああ」

兄(電話が切れた。ってまた着信だ)

兄(・・・・・・あの様子って、昔妹が俺とはぐれたときの様子と一緒じゃねえか)

兄(また着信だ)

兄(もう無理だ。妹友の言うことももっともだと思うけど、俺にはもう無理だ)

兄(妹を泣かすなんて一番してはいけないことじゃねえか)

兄(彼氏君のこととはまた別問題なんだ。あいつは昔から家族が大好きでしかも寂しがり
やだし)

兄(連休は久し振りに家族で一緒に旅行する予定だったのが、急にキャンセルになって)

兄(せめて俺とは一緒にいたかったんだろうに)


妹『だってそれじゃお兄ちゃんが迷惑でしょ』

父『おまえ、姫と一緒に出かけるのが嫌なのか』

兄『嫌なわけないだろう。妹のことも心配だし(げ。つい言っちゃったよ)』

妹『・・・・・・本当にいいの? お兄ちゃん』

兄『おまえが兄貴と一緒でもいいならな』

妹『あたしは嬉しいけど』



兄(姫に振られて勝手に引っ越したときの間違いをまた犯すところだった。妹友は何も悪
くないけど、やっぱり俺は妹を守らないと)

兄(着信が途絶えた。遠目ではよくわからないけど、あいつ俯いてるし泣いてるんじゃ)

兄「俺やっぱやめるわ」

妹友「・・・・・・何でですか」

兄「妹を宥めてやらないと」

妹友「それはもううちのお兄ちゃんの役目です」

兄「そうだけど・・・・・・そうだけど少なくとも今は違うんだよ。彼氏君じゃ無理だ」

妹友「どういう意味ですか? 妹ちゃんは本当はお兄さんの方が好きだとでも言いたいん
ですか」

兄「そうじゃねえよ。そういう問題じゃなくて、あいつには家族と一緒にいたい時があっ
て、そういうときに側に家族の誰かがいないとパニックみたいになることがあるんだよ。
だから今は彼氏君じゃ無理だ。俺の両親か俺自身じゃないと」

妹友「全くブラコンとシスコン同士はたちが悪いです」

兄「・・・・・・」

妹友「わかりました」

兄「悪い」

妹友「この埋め合わせはしてもらいますからね」

兄「おう」

妹友「じゃあすぐに行きましょう。妹ちゃんを救いに」


兄「よう姫」

妹「・・・・・・」

兄「悪い悪い。お前ら歩くの早いから見失ってたよ」

妹「・・・・・・バカ」

兄「え・・・・・・」

妹「お兄ちゃんのバカ。いったいどこをほっつき歩いてたのよ。人の気も知らないで!」

兄「(妹に思い切り抱きつかれた)わかってるよ。連休中は家族と一緒にいたかったんだ
もんな、おまえ」

妹「バカ。あたしのこと放置するなってあれだけお願いしたのに」

兄「悪かった。でも今はちゃんとおまえの側にいるだろ」

妹「・・・・・・」

兄「あ、悪い。髪が乱れちゃうな」

妹「・・・・・・いい」

兄「うん?」

妹「そんなことどうでもいい。もっと頭を撫でて」

兄「ああ(こいつ震えてる)」

妹「お兄ちゃんのお姫様は誰?」

兄「おまえ」

妹「・・・・・・だったらもう二度とこういうことしないで」

兄「悪かった」

妹「お兄ちゃん電話にも出てくれないし。あたし何度も電話したのに」

兄「気がつかなかったんだ。ごめんな」

妹「わかった。今回だけは許してあげる。一緒にペンギン見ようよ」

兄「そうだな(抱きつかれたまま歩くのはつらいけど)」

彼氏「・・・・・・いったいどうなってるの?」

妹友「今だけは放っておいてあげて」

彼氏「それはいいけど」

妹友「お兄ちゃんにはあたしが抱きついてあげるから」

彼氏「それはよせ」

妹「ほら見て。あのペンギン泳ぐのすごく早いよお兄ちゃん」

兄「そうだな」

兄(これでいいんだよな?)

兄(・・・・・・)


本日は以上です

別スレの更新も滞っているので明日の投下は期待しないでください

また投下します

めんどくさ可愛い

続き気になる…
少しでもいいから書き込んでー

おぎゃおぎゃお

おぎゃおぎゃお

禁断症状が…


<忘れてあげない。一生覚えているからね>




妹「お兄ちゃん、十二時からシャチのショーやるって書いてあるよ」

兄「見たい?」

妹「見たい」

兄「昼飯はどうすんの」

妹「そんなの見てからでいいじゃん。あれだけ朝お代わりしたんだから少しくらい平気で
しょ」

兄「いや。俺はいいけどさ。妹友と彼氏君はどうかな」

妹「そしたら別行動でもいいんじゃない?」

兄「ええと。さすがに昼飯くらいは一緒に食べた方が・・・・・・」

妹「・・・・・・」

兄「いやあの」

妹「・・・・・・じゃあ聞いてみるね」

兄「うん。あの二人はどこだろう」

妹「さっきまで一緒だったよね」

兄「はぐれたか? 全くあいつら」

妹「お兄ちゃんは人のことは言えないでしょ。あたしを放置したくせに」

兄「いやまあそうなんだけど。電話してみるか」

妹「うん。電話するからちょっと待って」

兄「・・・・・・」

妹「・・・・・・」

兄「どうした」

妹「妹友ちゃん電話出ないよ」

兄「そしたら彼氏君に電話してみろよ」

妹「え? ああ、そうだね」

兄「早くしろって。シャチ見るならそろそろ並ばないと」

妹「ええと」

兄「いったい何だよ」

妹「彼氏君の電話番号わからないや」

兄「(え?)そんなわけねえだろ。何で彼氏の電話番号がわかんないんだよ」

妹「そんなこと言ったってわかんないんだからしかたないでしょ」

兄「何切れてんだよ(何でなんだ。一番大事な人の携番を登録してないとかあり得ないだ
ろ)」

妹「切れてないよ」

兄「じゃあメールしろよ」

妹「・・・・・・わかった」

兄(まあ最近の連中は電話よりメールをするのかもしれないな)

妹「したよ」

兄「返事ないのか」


妹「もう。妹友ちゃんメール見てないのかな」

兄「じゃあ彼氏君にメールしろよ」

妹「メアドわかんない」

兄「はあ?」

妹「何よ。あたしが彼氏君の携番とかメアドを知らないことがそんなに悪いことなの?」

兄「いや、そういう問題じゃなくて」

妹「じゃあ何よ」

兄「普通、彼氏のアドレスなんてすぐわかるだろ。つうかアドレス帳で検索できないなら
彼氏から来たメールに返信すりゃいいだろうが」

妹「彼氏君からメールなんてもらったことないもん」

兄「何でだよ」

妹「何でって・・・・・・」

兄(何なんだ)

兄(妹が彼氏君と付き合っているのは間違いない。こいつらが恋人つなぎで図書館に入っ
ていたところを目撃したし、何より妹友から馴れ初めまで聞いているんだから)

兄(昨日だって今日だって二人で仲良く寄り添って歩いていたし)

兄(まさか。今までずっと妹友を介して連絡を取り合っていたのか)

兄(付き合っているのにメアドも携番も教えあってない? あり得ないだろ。彼氏君よ。
おまえはどこまで奥手なんだ)

兄(人のことは言えないけど、俺だって女とか女友とかの携番とかアドレスを知ってるつ
うのに)

妹「あ。入場が始まったよ。早く列に並ばないと」

兄「だっておまえ。妹友と彼氏君はどうするんだよ」

妹「ほら急いで。シャチのショーを見られなかったらお兄ちゃんのせいだからね」

兄「こら。ちょっと待てって」

妹「全くもう。こんなに後ろの席になっちゃったじゃん」

兄「俺のせいじゃない。それに前の方が濡れるってアナウンスしてたぞ」

妹「別に濡れたっていいじゃん。せっかくでかいシャチを目の前で見ようと思ってたの
に」

兄「いや。それはまずいだろ」

妹「何でよ」

兄「おまえのその白Tだと濡れるといろいろまずいことに」

妹「・・・・・・ブラしてるもん」

兄「下着が透けて見えることはおまえ的にはOKなのかよ」

妹「そうじゃないけど。こんだけ人がいれば誰も気がつかないよ」


兄「俺が困る」

妹「何でよ」

兄「何でって言われても」

妹「いい兄貴になるんじゃなかったっけ」

兄「そのとおりだ」

妹「じゃあ、妹の貧乳なんて興味ないでしょ」

兄「おまえな。自分で貧乳とか言うなよ」

妹「え? あたしそれなりに胸あるかな?」

兄「・・・・・・いや。あまりないとは思うけど」

妹「じゃあ別にいいじゃん。どうせ透けて見えたってAカップのブラなんだし」

兄「おまえ・・・・・・せめてBじゃねえの?」

妹「・・・・・・死ね」

兄「いやさ。カップの問題じゃなくておまえの肢体が濡れたTシャツ越しに露わになるの
が問題なんだって(Bじゃなかったのか。さすがにそれは微乳過ぎる気がするけど)」

妹「だから誰も気にしないって」

兄「何度も言わせんな。俺が困るんだ」

妹「何で? お子様体型のあたしの上半身なんて見たくないんでしょ」

兄「舐めるなよ。俺は貧乳、スレンダー体型、華奢な身体が一番好きなのだ」

妹「・・・・・・そうなの?」

兄「おう。細ければ細いほど好みだ」

妹「・・・・・・」

兄「な、何だよ」

妹「ロリコン」

兄「ちげーよ。小さな子になんか興味ねえよ」

妹「だって」

兄「俺はロリコンじゃなくて、おまえが好みなの。おまえの体型も性格も何もかも」

妹「・・・・・・」

兄「あ。今のはなしね。忘れて」

妹「ふふふ」

兄「何だよ」

妹「何だ。ロリコンじゃないのか」

兄「あたりまえだ」

妹「このシスコン」

兄「いや。そうじゃなくて」

妹「忘れてあげない。一生覚えているからね」


<奇妙な組み合わせ>




妹「すごいすごい。あんなに高くジャンプしたよ」

兄「そうだな」

妹「あ。ほら、シャチの背中に飼育員の女の人が乗って走ってる」

兄「おう」

妹「ジャンプした!」

兄「ジャンプしたな」

妹「すごいね。あんなに大きな動物があそこまで高くジャンプするなんて」

兄「うん(あれ)」

兄(正面の席に並んで座っているのって妹友と彼氏君じゃね)

兄(あいつらもこのアリーナに来てたのか)

兄(客席が狭いせいかあいらのことよく見えるな)

兄(・・・・・・何かシャチを仲良く見ているっていう雰囲気じゃねえな)

兄(何かあいつら、真面目な顔で話し合ってるみたいだ)

兄(いや。あれは話し合いというよりもはや喧嘩だな。ここから見てもそうとしか思えね
え)

兄(言い争い? 彼氏君が伸ばした手を妹友が振り払った)

兄(何揉めてるんだあいつら)

兄(俺たちと違って、妹友には兄妹間の恋愛感情は少なくとも彼氏君にはないし)

兄(妹友もうあまり妹と彼氏君の仲を心配しないようになったって言ってたのに)

兄(あ。妹友が席を立った)

妹「ほら、お兄ちゃん。シャチが皆に頭を下げてる。あたしたちもお辞儀しようよ」

兄(彼氏君は妹友の後を追わないのか。一人で座ったままだ)

兄(いったいあいつらの間に何があったんだろう)

妹「面白かったねえ」

兄「うん」

妹「じゃあ、ショーも終ったし出口が混む前に外に出ようよ。彼氏君たちを見つけなきゃ
いけないし」

兄「そうだけど」

妹「何?」

兄「いや。そうだな。早くあいつらを見つけないとな」


妹「ねえお兄ちゃん」

兄「おう」

妹「さっきはお兄ちゃんとはぐれて、あたし本当に悲しくて寂しくなっちゃったんだけ
ど」

兄「悪かったよ」

妹「お兄ちゃんさ。この旅行って家族旅行だと思う? それともカップル同士のダブル
デートだと思う?」

兄「連休は家族みんなで過ごす予定だったしな。これはその代わりだから家族旅行だろう
な」

妹「うん。あたしもそう思うの」

兄「それがどうした?」

妹「四人で一緒にいるけどさ。その中であたしの家族ってお兄ちゃんだけでしょ」

兄「そうだけど」

妹「じゃあ家族旅行なんだからさ。あたしとお兄ちゃんが旅行中いつも一緒にいないのっ
て変じゃない?」

兄「・・・・・・おまえが言っている意味がよくわからん」

妹「これが正しい姿じゃないかな? お兄ちゃんとあたしがカップルで、彼氏君と妹ちゃ
んは一緒に行動しているのが」

兄「ある意味、グループ行動つう四人旅行みたいなものだからそんなにこだわらなくてい
いんじゃね(俺と姫、妹友と彼氏君が行動する方が組合せとしては奇妙だろ。何せ姫と彼
氏君は恋人同士なんだし)」

妹「だってここにはパパもママもいないじゃん」

兄「え」

妹「本当なら家族四人で香港に旅行していたはずでしょ」

兄「まあそれはそうだ」

妹「そしたらさ。絶対パパとママはべったりと一緒にいるに決まってるから、あたしとお
兄ちゃんが一緒に行動することになるでしょ」

兄「んなわけねえだろ」

妹「絶対そうだよ」

兄「あの妹ラブな父さんがおまえと離れて行動するわけねえじゃんか」

妹「そんなことないと思うよ。パパはママがいるときはいつだってママと一緒だったも
ん。あたしのことは大好きだと思うけど、あたしにはいつもお兄ちゃんに守ってもらえっ
て言ってたし」

兄「(マジかよ)そんなこと聞いてねえぞ」

妹「物覚えがよくないんだね。お兄ちゃんは」

兄「(全然思い出せねえ)それにしてもさ。いくら家族旅行といったって彼氏が一緒にい
たら彼氏の方を優先するだろ、普通は」


妹「だからお兄ちゃんはこの旅行中はいつもあたしの隣にいなきゃだめ。そうしないなら
パパとママに言いつけるからね」

兄「・・・・・・おまえがよければ別に俺もそれでいいけど。でも、さっきだっておまえが彼氏君と二人でどんどん先に行っちゃっただろうが」

妹「ばれてないつもりなの?」

兄「何言ってるんだよ」

妹「お兄ちゃんと妹友ちゃんがなるべく二人きりでいようといろいろ企んでたのなんて、
あたしに気づかれないとでも思ってた?」

兄「それはおまえの誤解だ」

妹「お兄ちゃんが妹友ちゃんと付き合うのを邪魔する権利なんてあたしにはないよ。そん
なことはわかってる。それにお兄ちゃんと女さんの復縁を応援するようなとを言ったのも
あたしだし」

兄「・・・・・・」

妹「でもさ。これだけは聞かせて。お兄ちゃんが一番ん大切にしているお姫様は誰な
の?」

兄(・・・・・・)

妹「誰なのよ」

兄「・・・・・・それは。おまえだけど」

妹「あたしのいい兄貴になるって言ったよね」

兄「言ったよ」

妹「じゃあこれは家族旅行なんだから。今から家に帰るまではいつもあたしの隣にいて。
あたしを放っておかないで」

兄「うん。わかった」

妹「妹友ちゃんから電話だ」

兄「おう」

妹「うん、あたし。もう、さっき電話したのに出ないんだもん。うん、そうだよ」

妹「シャチのショーをお兄ちゃんと二人で見てたの。妹友ちゃんは?」

妹「え。会場にいたんだ。わからなかったよ」

妹「でさ。そろそろ爬虫類パークに移動したいんで、出口で待ち合わせしようよ」

妹「へ。彼氏君と一緒はなかったの?」

妹「うん。じゃあ、彼氏君に電話して。どこかでお昼食べてから爬虫類パークに行くか
ら」

妹「よろしくね」

妹「妹友ちゃんもシャチのショー見てたんだって。でも彼氏君とは一緒じゃないみたい」

兄(何か揉めてたもんな)

妹「とりあえず出口まで移動しよう」

兄「俺、彼氏君を探してこようか?」

妹「・・・・・・ずっと一緒にいてって言ったでしょ」

兄「ああ、そうだった」


<姫は迷わず俺の隣に座った>




妹友「やっと会えました」

妹「何で電話にもメールにも反応しないのよ」

妹友「ごめん。ちょっとトラブってて」

妹「何かあったの」

兄(やはり彼氏君と何かあったのかな)

妹友「ああ、別にたいしたことじゃないんだけどさ。ちょっとつまらないことでお兄ちゃ
んと喧嘩しちゃって」

妹「何で喧嘩なんかしたの? いつもは仲がすごくいいのに」

妹友「・・・・・・別に」

妹「妹友ちゃん?」

妹友「別に妹ちゃんが心配することじゃないよ」

兄「それにしても今はぐれてるのはまずよな。ただでさえ混み合ってるんだしさ。さっさ
とここを出て昼飯食って、爬虫類何ちゃらとかに行かないと。まあ、爬虫類を諦めるなら
別に急ぐ必要はないけど」

妹・妹友「そんなわけないでしょ!」

兄「・・・・・・こわ。つうかそれなら誰か彼氏君と連絡を取れよ」

妹友「あたしはお兄ちゃんと喧嘩しちゃって気まずいから。妹ちゃん、お願い」

兄(・・・・・・)

妹「あ・・・・・・。ごめん妹友ちゃん。あたし彼氏君の携番もメアドも知らないの」

妹友「え? 何で」

妹「何でって・・・・・・」

妹友「付き合ってるのに何でそんなことも知らなかったの?」

妹「うん」

妹友「何でよ?」

妹「別に理由はないけど。何となく」

妹友「・・・・・・よくそれで今までお付き合いできてたね」

妹「それは・・・・・・」

妹友「信じられない。お兄ちゃんの彼女なのにお兄ちゃんと連絡手段さえないなんて」

妹「・・・・・・・」

兄「多分、彼氏君のほうも同じじゃねえか」

妹友「そんなはずないです。お兄ちゃんに限って」

兄「姫さあ。おまえ彼氏君に携番とかメアド教えたの」

妹「教えてない。妹友ちゃんが教えてなければ多分彼氏君もあたしの連絡先は知らないと
思う」

妹友「あたしが勝手に教えるわけないでしょ」

妹「じゃあ」

兄「じゃあ彼氏君も妹の連絡先を知らないんだな。仕方ない。妹友、おまえが彼氏君に電
話しろよ」


妹友「あたしはお兄ちゃんと喧嘩して」

兄「このまま彼氏君を放置して出発するわけにもいかねえだろ」

妹友「・・・・・・それはそうです」

兄「じゃあ頼むから彼氏君に連絡して出口で待っていると伝えてくれ」

妹友「わかりました。お兄さんの頼みならしかたないです」

妹「・・・・・・」

妹友「・・・・・・」

妹友「お兄ちゃん?」

妹友「電話切らないで。お兄さんと妹ちゃんと合流したからお兄ちゃんもすぐに出口にき
て」

妹友「だから。あたしたちの喧嘩で妹ちゃんたちに迷惑はかけられないでしょ。とにかく
すぐに来て。食事して爬虫類パークに行くんだって」

妹友「うん、そう。喧嘩の相手は夜になったらまたしてあげるから」

兄「何だって?」

妹友「すぐに来るそうです」

兄「おまえら。何で喧嘩なんかしたの?」

妹友「それはお兄さんにだけは言われたくないです」

妹「・・・・・・」

兄「何でだよ」

妹友「言いたくありません」

兄(何なんだ)

妹「彼氏君」

彼氏「妹ちゃん、遅れてごめん」

妹「それは別にいいけど」

妹友「じゃあ、行きましょう。誰かさんが遅れたせいでだいぶ時間を食ってしまいまし
た」

彼氏「・・・・・・うるせえ」

兄(姫は迷わず俺の隣に座った)

兄(そして後部座席ではお互いに目も合わせない妹友と彼氏君の兄妹が、なるべくお互い
から離れるように座っている)

兄(何なんだ)

妹「お兄ちゃん、行こう。前に調べておいた金目鯛とか伊勢海老がおいしい店に行こう
よ」

兄「そいうのって混んでるし高いんじゃねえの」

妹「パパからお金もらってるし、予約もしてくれてるから」

兄(父さんめ。どこまで姫に甘いんだ)


今日は以上です
また投下します

待ってる

キテター!



一日空いただけで死にそうになったわ

兄っていい奴だよね

面白い。楽しみ・

妹Dieって思えてきた

まだなんか裏があるのかもしれんが今のところ彼氏君が悲惨だな
連絡先も実は妹が教えるの嫌がったとかだと、もう彼氏君を応援するしかない

妹うざいなこれ

本当に妹は彼氏を好きなのかな?
図書館の話も出てないし、なんか違う気がする

お前ら国語の成績悪そう

妹友が一番好き


<半分こしよう>




妹友「お昼のメニューは二種類しかないんですね」

兄「伊勢海老の鬼殻焼き定食と金目鯛の煮付け定食だな」

彼氏「妹ちゃんはどっちにする?」

妹「ねえお兄ちゃん」

兄「うん?」

妹「お兄ちゃんはどっちにするの」

彼氏「・・・・・・」

兄「俺はお品書きを見た瞬間から伊勢海老に決めているけど」

妹「やっぱりね。お兄ちゃんなら絶対そうだと思った」

彼氏「・・・・・・」

兄「どうせおまえは金目鯛だろ? 昔から煮魚系が大好きだもんな」

妹「うん。でも伊勢海老も食べたい」

兄「二種類なんて食えるか。結構高いんだし」

妹友「お兄ちゃんはどうするんですか」

彼氏「・・・・・・」

妹友「お兄ちゃん?」

妹「じゃあさ。お兄ちゃんの伊勢海老とあたしの金目鯛を半分こしよう。そしたら両方食
べられるじゃん」

彼氏「あ、うん。俺も妹ちゃんと同じやつで」

妹友「じゃあ、あたしはお兄さんと同じで伊勢海老にする」

彼氏「あの、妹ちゃん?」

妹「何?」

彼氏「よかったら俺のも半分あげようか」

妹「え? ・・・・・・ええと」

妹友「同じ金目鯛を半分こすることに何か意味があるの」

彼氏「あ。いけね。そうだった」

妹「お兄ちゃんいいよね? 伊勢海老半分ちょうだいね」

兄「しようがねえなあ」

妹友「お兄ちゃんが伊勢海老を食べたいなら、あたしのを分けてあげるけど」

彼氏「いや。別にいい」

妹友「・・・・・・」


妹「どっちもおいしかったねえ」

兄「しかしさ。あの伊勢海老小さすぎじゃねえの」

妹「ランチタイムのサービスメニューなんだからあんなもんだって」

兄「何か損した気分だ」

妹「パパが言ってたんだけどさ。あのお店は夜とかに行くと本当に大きな伊勢海老とか出
てくるんだって」

兄「じゃあ夜に行けばよかったじゃん」

妹「その代わり値段もさっきくらいじゃ済まないよ」

兄「うう」

妹「また来ればいいじゃん。伯父さんはいつでも別荘を使っていいよって言ってたらしい
し。今度は家族全員で来て夜にあのお店に連れて行ってもらおうよ」

兄「その前に香港だろ。あいつら約束破ったんだから」

妹「パパとママのことあいつらって言ったらだめ」

兄「わかったよ」

妹「遅くなったけど爬虫類パークに行こう」

兄「ああ」

妹「妹友ちゃん、そろそろ出発しようよ」

妹友「うん。イグアナ楽しみだなあ」

兄「理解できん」

妹「何でよ?」

妹友「お兄さんも実際に見ればあの可愛らしさがわかりますよ」

兄「ヘビの仲間の可愛さなどわかりたくもないわ」

妹「・・・・・・絶対に爬虫類好きにさせてやるから」

妹友「お兄ちゃん、行くよ」

彼氏「う、うん」

兄(また当然のように助手席に妹が座った)

兄(いくら何でもさすがに彼氏君が気の毒じゃんか)

兄(でも、姫に後部座席に行けなんていいづらいし。それでまた姫を悲しませた
ら・・・・・・)

兄「じゃあ、行くか」

妹「安全運転で急いでね」

兄「初心者マーク付けてる俺に無茶言うな」

妹「あたしの頼みが・・・・・・」

兄「わかったって」


<・・・・・・迷惑?>




兄「着いたけど、今度は駐車場待ちの自動車が並んでるし」

妹「連休だからそんなの当たり前だよ」

兄「この調子じゃ熱帯植物園はなしだな」

妹「ええ? そんなのだめだよ」

兄「だって時間ねえよ。ここだって駐車場に入ってから更に切符を買うのに並ぶんだぜ」

妹「うーん」

兄「植物園はまた別の機会でいいだろ」

妹「お兄ちゃんは姫の願いを無視する気?」

兄「姫だろうが女帝だろうがこれっばかりはどうしようもないぞ」

妹友「じゃあこうしましょう」

妹「妹友ちゃん、聞いてたの?」

妹友「うん。お兄ちゃん拗ねて寝ちゃったし」

妹「・・・・・・拗ねてって」

妹友「お兄さんたちが駐車場待ちしている間に、あたしが先に窓口に並んでチケットを買
っておくよ」

妹「・・・・・・いいの?」

妹友「水族館じゃ妹ちゃんとお兄ちゃんが並んでくれたし、今度はあたしの番だよ」

妹「あ、でもだめだ」

妹友「どうして?」

妹「パパの会社の割引券って、使うときに本人か家族の身分証明書がいるんだよ」

兄「そうなのか」

妹「あたしが行ってくるよ」

妹友「だって妹ちゃんはさっきも」

妹「いいって。妹友ちゃんはお兄ちゃんが順番待ちの間に寝ちゃわないように注意して
て」

妹友「わかった」

彼氏「じゃあ、僕も一緒に行くよ」

妹友「お兄ちゃん起きてたの?」

彼氏「今起きた」

妹「いいよ。さっきも付き合ってもらったし。彼氏君は寝てていいよ」

彼氏「お兄さんが眠れないのに僕だけ寝てるわけにはいかないし」

兄(てめえ。さっきまで普通に寝てたじゃねえか)

妹「気を遣わなくていいって」

彼氏「・・・・・・迷惑?」

妹「え」

妹友「・・・・・・」


妹友「結局、水族館のときと同じ組み合わせになりましたね」

兄「そうだな」

妹友「お兄さん、寝ちゃだめですよ」

兄「わかってるって」

妹友「お兄さんには不満もあるでしょうけど、お兄ちゃんも今日は辛かったと思うので許
してやってね」

兄「別に不満なんかねえよ」

妹友「・・・・・・あたしと二人きりでも?」

兄「ああ」

妹友「そうですか。それで? 妹ちゃんは救えたんですか」

兄「うん。多分これでしばらくは平気だと思う」

妹友「お兄さんも大変ですね」

兄「何が」

妹友「この調子だと、お兄さんは一生妹ちゃんの面倒をみることになりそうですね」

兄「・・・・・・妹が結婚するまでだけどな」

妹友「そうでしょうか」

兄「何で?」

妹友「今だって妹ちゃんには彼氏がいるんですよ。うちのお兄ちゃんが。それでも妹ちゃ
んはお兄さんに依存しているし、お兄さんもそんな妹ちゃんを構うことが使命みたくなっ
ちゃってるし」

兄「妹は寂しがり屋のうえに、昔から家族が大好きだったから」

妹友「昔からそうなんですか」

兄「そうといえばそうだけど・・・・・・・。でも最近は少し行き過ぎではあるね」

妹友「それはわかるような気がします」

兄「多分、それは俺のせいだ」

妹友「どうして?」

兄「俺が妹にマジで告白なんてしたから」

妹友「妹ちゃんには断られたんでしょ?」

兄「ああ。それで拗ねた俺は妹を一人にして一人暮らしを始めたり別に彼女を作ったりし
た。妹は親が帰って来ない家で一人きりになってしまった。それからだな。妹の行動がエ
スカレートしたのは。でもこれは前にも話したよな」

妹友「妹ちゃんはお兄さんに嫉妬しただけでは?」

兄「違うと思うよ。自分が俺を振ったせいで俺が妹から離れて行くって理解して、あいつ
は悩んだんだと思う。うろたえるほどに」

妹友「本当にそうですかね」


<共依存じゃないんですか>




妹友「妹ちゃんとお兄さんってちょっと普通じゃない感じがしますよね」

兄「あのなあ。おまえにだけは言われたくねえよ」

妹友「あ、違います。そういう意味じゃなくて」

兄「・・・・・・」

妹友「何て言うんでしょうか。無駄にお互いにお互いを必要だと思い込んでるっていう
か」

兄「どういう意味だよ。妹には俺への恋愛感情なんてないぞ。俺だってもうそういう不健
全な感情はきっぱりと諦めたし」

妹友「それだけなら理解できるんです。あたしだってそうでしたから」

兄「ああ、まあな」

妹友「そうじゃないんですね。お兄さんは言ってたじゃないですか。妹ちゃんは昔から家
族が何よりも誰よりも大好きだったって」

兄「まあな」

妹友「それが一応真実と仮定してですけど」

兄「本当だって」

妹友「お兄さんと妹ちゃんって。ご両親の不在とかそういうことが原因かもしれませんけ
ど」

兄「何だよ」

妹友「お兄さんと妹ちゃんって、結果的に共依存じゃないんですか」

兄「何だって」

妹友「共依存です。聞いたことはありますよね」

兄「聴いたことはあるような気はするけど、ちゃんとした意味はわかってない」

妹友「共依存とはお互いに精神的に過度に依存しあっている状態をいいます。それは決し
て精神的に健全な状態ではないです」

兄「どういうこと?」

妹友「例えばですけど」

兄「ああ」

妹友「麻薬に依存している彼氏を献身的に介助する彼女がいるとしましょう」

兄「それで?」

妹友「一見、美談に思えるでしょ」

兄「まあそうだな」

妹友「でもそれは実は非常に不安定で危険な関係なのです」

兄「どういうこと?」


妹友「麻薬中毒の彼は生活の全てを彼女に依存します。彼女はそんな彼の面倒を献身的に
みます。食事の支度や禁断症状が出たときの救急車への連絡まで。つまり彼にとっては献
身的な彼女がいないと生活が成り立たないのです」

兄「うん」

妹友「一方でそんなクズの彼氏に依存されている彼女にとっても、中毒者の彼氏が必要な
んですよ」

兄「何でだよ。そんなクズのことなんか放置して別れればいいのに」

妹友「普通に考えればそうなんですけど。この場合の彼女にとっては、自分を頼ってくる
彼の面倒を見ることが自分の生き甲斐、つまりアイデンティティになってしまっていると
したらどうですか」

兄「クズの女もしょせんはクズだなって思う」

妹友「そんなに簡単な話じゃないでしょ。彼女は麻薬中毒の彼氏を支えることが自分の第
一目標になっているんですから。そうしたら彼女にとって、何をすることが正しい方法な
んでしょうね」

兄「そのクズ男を薬物依存症治療の専門病院に放り込むことだろうが。んなことは考える
までもねえよ」

妹友「そうじゃないですよ。客観的に自分を見られる人なんてあんまりいないです。その
彼女の立場に立ってみればそんな選択肢はないでしょうね」

兄「じゃあ、その女の子はどうしたいの?」

妹友「徹底的に彼氏を甘やかすでしょう。彼氏が禁断症状で苦しんで再び麻薬に手を伸ば
しても彼のことを許容すると思います」

兄「それはそのクズのためにならねえじゃん」

妹友「そのとおりですけど、その彼女の行動原理だって自分のためなんですよ。彼氏が治
療によって治癒されてしまったら、薬物依存の彼を支えるという自分のアイデンティティ
がなくなっちゃうじゃありませんか」

兄「おまえ恐いこと言うな。それはずいぶんと病的な関係だな。つまり何か? 自分が彼
氏を支えたいために彼氏の薬物中毒を放っておくということか」

妹友「極端に言えばですけど。それは意識的なものではなく無意識かもしれませんけど。
だから片方からの一方的な依存ではなく共依存なんですよ」


兄「おまえさ。さっきから黙って聞いてれば、俺と妹もそういう関係だといいたいのか」

妹友「薬物依存みたいな悲惨な例とはちがうでしょうけど。根本的には同じじゃないです
か」

兄「俺と妹は仲がいい兄妹だってだけだろうが」

妹友「それだけの関係なら、何で妹ちゃんはさっきあたしたちが姿を消しただけでパニッ
クになったんですかね」

兄「それは」

妹友「両親が不在がちな環境。寂しがり屋で家族大好きな妹ちゃん。そんな妹ちゃんが側
にいてくれる唯一の肉親であるお兄さんに依存したって別に変な話じゃないですよね」

兄「・・・・・・まあ、そこまでは」

妹友「そして。お兄さんも妹ちゃんが大好きだった。それが妹への肉親的な感情なのか男
女間の愛情なのかは別として」

兄「・・・・・・今は妹に変な感情なんて抱いてねえよ」

妹友「それでも、お兄さんにとっては妹ちゃんのそんな依存が嬉しかったんでしょ? そ
れが唯一の生き甲斐になるくらいに」

兄「・・・・・・」

妹友「そうしてお兄さんと妹ちゃんの共依存の関係が始まった。妹ちゃんはお兄さんに依
存して心の平穏を得た。お兄さんは妹ちゃんの心の平穏を保つことに自分の生き甲斐を感
じてきた」

兄「・・・・・・そうかなあ」

妹友「ね? 見事に教科書どおりの共依存関係が成立しているじゃないですか」

兄「・・・・・・」

妹友「さっきも言いましたけど。共依存は決して精神的に健全な状態ではないと言われて
います」

兄「だからって急に妹を突き放せるわけねえだろ」

妹友「そうですね。あたしもそこまでは言ってません」

兄「おまえの言うとおりだとしてさ。俺はどうすればいいんだよ」

妹友「お兄さんも彼女を作ればいいんじゃないですか」

兄「何でそんな極端な話になるんだ」

妹友「一生独身で妹の幸せを見守るなんて真顔で言っていること自体が共依存の典型的な
症状じゃないですか」

兄「いや、でも」

妹友「妹ちゃんにはお兄ちゃんがいます。お兄さんもいっそ女さんと復縁したらどうでし
ょう」

兄「・・・・・・女のことは自分でもどうしたらいいのかわからん」

妹友「じゃあ、あたしでは駄目ですか?」

兄「え?」


妹「お待たせ~」

妹友(!)

兄(!)

妹「チケット買えたよ。つうか、まだ駐車場に入れてないんだ」

兄「ああ、まあな」

妹「お兄ちゃん疲れたでしょ」

兄「いや。平気だよ。姫こそ二回も並んで疲れたんじゃないのか」

妹友「・・・・・・」

彼氏「姫?」

妹「・・・・・・このバカ兄貴。二人きりじゃないところで姫って呼ぶな」

兄「あ、ああ。悪い」

妹「全くお兄ちゃんは。何でそういう常識的な配慮ができないのかなあ」

兄「悪い」

妹「え? 何マジになってるの? 冗談だよ。別にあたしを姫って呼びたければ呼んでも
いいんだってば」

兄「いや。本当にごめん」

妹「ちょっと・・・・・・。冗談だって。やだ、真面目に受け取らないでよ」

兄(共依存か。妹友の言うとおりかもしれん)

妹「ねえ」

兄(だってだからと言って俺が彼女を作れば解決するのかよ)

妹「お兄ちゃん。何か言ってよ。ごめん、あたし謝るから」

妹友「・・・・・・」

彼氏「・・・・・・」


今日は以上です
また投下します

共依存ときたかぁ.....

彼氏君も大変やなぁ.......



彼氏君のメンタルいつまで持つかな

彼氏君はさっさと妹と別れたほうが幸せだろ
彼自信はいい奴っぽいし

仕事柄それに近いケースをみたことあるが共依存は厄介だな
お互いにメンヘラ的な要素持ちか‥
これはどう転んでもみんな不幸になるな

いもともちゃんだけは幸せにな~れ


<お兄ちゃんの携番とメアドを妹ちゃんに送付しておくから>




妹友「何だ。真剣な顔で相談とか言うから何かと思ったじゃん」

妹「結構マジで悩んでるのに」

妹友「だってさあ。お兄さんとのトラブルとか相談されてもねえ。せめて好きな人のこと
とか相談されたんなら真面目に相談に乗ろうとか思うけどさ」

妹「あたしにとっては大問題なの!」

妹友「・・・・・・誇らしげにブラコンを公言するのはいい加減にしなって」

妹「そんなんじゃないよ」

妹友「昨日妹ちゃんとお兄さんのデートを邪魔したのは悪かったけどさ。妹ちゃんの部活
を休むほどの用事が、お兄さんと一緒に帰ることだったとはねえ」

妹「・・・・・・別にいいじゃん。誰かに迷惑かけてるわけじゃないし」

妹友「まあ、いいけど。それにしても何? いったい夜中に電話してきて相談って何かと
思ったら。自分と一緒に歩いているのにお兄さんが他の女の子をガン見してるのどうしよ
うって。そんなことで一々電話して来るなよ」

妹「だってさ」

妹友「まさか兄妹喧嘩の相談をこんな夜中に受けるとは思わなかったよ」

妹「ごめん」

妹友「で? 妹ちゃんはどうしたいの?」

妹「どうって」

妹友「じゃあ聞き方を変えるけど、お兄さんとどうなりたいの」

妹「どうって・・・・・・。仲のいい兄妹になりたい」

妹友「それなら今でも仲良すぎるくらいじゃん。それ以上仲良くなってどうすんのよ」

妹「だって。せっかくあたしがお兄ちゃんの学校に迎えに行ってあげたのに、他の女の子
のことばかり見てるとかあり得ないじゃん」

妹友「何であり得ないって言い切れるのかよくわかんないけど。じゃあさ。いっそ妹ちゃ
んもお兄さんに嫉妬させてみたら?」

妹「どういうこと?」

妹友「そろそろさ。うちのお兄ちゃんの告白にも返事してやってよ。断るなら断るでいい
からさ。このまま保留じゃお兄ちゃんだって落ちつけないじゃん」


妹「彼氏君のことは嫌いじゃない。でも、男の人と付き合うのってあたしにはまだ早いよ
うな気がする」

妹友「もうすぐ高校二年になるのに付き合うのが早すぎるって」

妹「あたしにとっては、だよ。あたしは家に帰って家族と一緒にいるのが一番好きだから、
男の人とデートとかしたいとも思わないし。だからあたしはまだ子どもなんだと思う」

妹友「しょっちゅう他校の男の子に告らてくるくせに、いつも断っていたのはそういう理
由だったのか」

妹「うん」

妹友「でもさ。あたしがうちのお兄ちゃんの気持ちを伝えたときは、少し考えさせてって
言って保留したよね?」

妹「彼氏君は中学一年の頃からの知り合いだし、何よりも妹友ちゃんのお兄さんだし」

妹友「何を気にしてるのか、よくわかんないなあ。結局振るんだったら早いか遅いかの差
だと思うけどなあ。つうか待たされた分お兄ちゃんも余計につらいと思うけど」

妹「・・・・・・妹友ちゃんは平気なの?」

妹友「何が」

妹「彼氏君に彼女ができても妹友ちゃんは大丈夫なの」

妹友「どういう意味よ」

妹「だって妹友ちゃんって彼氏君のこと大好きじゃん」

妹友「ちょっと待ってよ。あたしは妹ちゃんみたくブラコンじゃないって」

妹「とてもそうは見えないよ」

妹友「本当だって。もしそうならお兄ちゃんの気持を妹ちゃんに伝えるなんてしないでし
ょ」

妹「・・・・・・」

妹友「話が逸れちゃったけどさ。お兄さんに嫉妬させてみたらお兄さんの妹ちゃんに対す
る気持もわかるんじゃないかな」

妹「どうやったらお兄ちゃんが嫉妬なんてするんだろ」

妹友「他の男の人と一緒にいるところを見せればいいだけでしょ」

妹「そんな人あたしにはいないもん」

妹友「うちのお兄ちゃんでいいじゃん」

妹「え」

妹友「お兄ちゃんなら喜んで妹ちゃんと一緒にいようとすると思うな」


妹「それはだめでしょ」

妹友「何で?」

妹「だって・・・・・・彼氏君を利用するようなことはできないよ」

妹友「お兄ちゃんは妹ちゃんが好きなんだから別にいいじゃん」

妹「それって本当のことを話して彼氏君に協力してもらうってこと?」

妹友「さすがにそれは無理。お兄ちゃんには珍しく妹ちゃんが一緒に登校したいって言っ
てるよって言う」

妹「それじゃまるで・・・・・・」

妹友「お兄さんの反応が見たいんでしょ?」

妹「彼氏君に悪いよ」

妹友「妹ちゃん、お兄ちゃんの告白を断るって決めたの?」

妹「・・・・・・それはまだ」

妹友「まだ決めてないならいいじゃん。心を決める参考になるかもしれないよ?」

妹「だって」

妹友「じゃあ、決まりね。早い方がいいから明日の朝お兄ちゃんに学校まで送ってもらっ
てね。お兄ちゃんにはこれから話しておくから」

妹「本当にやるの」

妹友「そうだよ。明日の朝七時に妹ちゃんの家の前の公園で待ち合わせね。それであたし
は別なところから妹ちゃんの家を監視してるから。それでお兄さんが出てきたら妹ちゃん
にメールするね。そしたらお兄ちゃんと一緒に駅の方まで歩いて行って」

妹「あたしが彼氏君と一緒のところをお兄ちゃんが見たら傷つくかも」

妹友「そうかなあ。それなら妹ちゃんと一緒にいるのに他の女の子なんかをよそ見したり
しないんじゃない?」

妹「・・・・・・まあそうかも」

妹友「お兄ちゃんと手くらいつないでね。お兄ちゃんにも言っておくけど」

妹「・・・・・・」

妹友「そろそろ電話切るね。あとでメールする。万一会えなかったときのためにお兄ちゃ
んの携番とメアドを妹ちゃんに送付しておくから。お兄ちゃんにも妹ちゃんのを教えるけ
どいいよね?」

妹「・・・・・・」


<偽装デート>




彼氏「おはよう妹ちゃん」

妹「・・・・・・おはよ」

彼氏「・・・・・・」

妹「・・・・・・」

彼氏「何かこういうのって照れるね」

妹「うん」

彼氏「昨日夜中にいきなり妹に言われたときはびっくりしたよ」

妹「ごめんなさい」

彼氏「いやいや。むしろ嬉しい驚きっていうの? そういう感じ。マジで昨日はよく眠れ
なかったよ」

妹「・・・・・・うん」

彼氏「じゃあ行こうか」

妹「ちょっと待って」

彼氏「え」

妹「もう少しここにいて」

彼氏「もちろんいいけど。妹ちゃんと一緒にいられる時間が長くなるんだしむしろ大歓迎
だよ」

妹「ごめん」

彼氏「何、謝ってるの」

妹「ごめん」

彼氏「・・・・・・えと」

妹「・・・・・・」

彼氏「どうした?」

妹「ごめんね。ちょっとメール」

彼氏「あ、うん」

妹「・・・・・・」



from:妹友
to:妹
sub:無題
『お兄さんが家を出てきたよ。妹ちゃんはお兄ちゃんと寄り添って、なるべく仲よさそう
な振りをして駅に向って』


妹「あの」

彼氏「どうしたの」

妹「そろそろ行きましょう」

彼氏「うん」

妹「・・・・・・」

彼氏「・・・・・・妹ちゃん?」

妹「うん」

彼氏「そんなにくっつかれると歩きにくいんだけど」

妹「ごめんなさい」

彼氏「いや。もちろん僕としては嫌なわけなくて。大歓迎と言うか」

妹「・・・・・・」

彼氏「いや。変なこと言ってごめん」

妹「・・・・・・あたしの方こそごめん」

彼氏「・・・・・・」

妹「ごめん。またメールだ」

彼氏「うん」



from:妹友
to:妹
sub:緊急事態
『お兄さんは予定どおり妹ちゃんたちの後ろを歩いて駅に向っているけど、何か途中で結
構綺麗な女の人と出合って一緒に歩いてるよ』

『女の人の方も親し気にお兄さんに笑いかけてるし。ひょっとしてお兄さんってあんなに
綺麗な彼女がいたの?』

『気がつかれないように背後を見ることができるなら、ちょっと見てみ』



妹「・・・・・・」

妹「・・・・・・女さん。いったい何でお兄ちゃんと一緒に」

彼氏「うん? どうした」

妹「ごめん。何でもない」

彼氏「それならいいけど」

妹「ちょっと急ごうか」

彼氏「あ、うん」


妹「今日は学校まで送ってくれてありがと」

彼氏「いや。僕の方こそ一緒に登校できて嬉しかった。夢を見ているみたいだったよ」

妹「・・・・・・大袈裟だよ」

彼氏「嘘じゃないって」

妹「・・・・・・」

彼氏「あ、あのさ。せっかく電話とかアドレスとか交換したんだしさ」

妹「・・・・・・うん」

彼氏「たまには電話したりメールしてもいい? あ、もちろんうざければ返事とかいらな
いし」

妹「うん」

彼氏「やった」

妹の同級生たち「妹ちゃんおはよう」

妹「あ。おはよ」

妹の同級生たち「朝から校門前で男の人と何やってんのよ。先生に見つかったらマズイ
よ」

妹「別にそんなことじゃないし」

彼氏「じゃあ行くね。さすがに富士峰女学院の校門前に男がいるのってまずいと思うし」

妹「うん。今日はありがとう」

彼氏「こちらこそ。じゃあまたね」



妹友「妹ちゃんお疲れ」

妹「・・・・・・もう。本当に疲れたよ」

妹友「しかし意外な邪魔が入ったね」

妹「・・・・・・女さんね」

妹友「知ってるの?」

妹「うん。お兄ちゃんの昔からの友だち。嫌な女だよ」

妹友「嫌な女って」

妹「妹友ちゃんはお兄ちゃんの後をつけたの?」

妹友「うん。女さんっていう人と一緒になったんだけど、会話は聞けたから」

妹「・・・・・・」

妹友「よかったね。妹ちゃん。お兄さんは妹ちゃんに嫉妬全開だったよ」

妹「・・・・・・それ本当?」


<爬虫類パーク>




兄(何とか妹が落ちついてくれてよかった)

兄(しかし思わず妹のことをこいつらの前で姫と呼んでしまうとは大失敗だったな)

兄(共依存。本当にそうなのかな。俺と妹が共依存の関係だって言うなら前からそうだし
な。確かにここ最近の妹は少し行き過ぎている感じはあっるけど)

兄(精神的に不健全な関係だって? そんなことを言ったらうちの家族の基礎が全否定さ
れちまうじゃないか)

兄(妹友の言っていることには確かに説得力はある。客観的に見れば他人からはそういう
関係に見えるかもしれん)

兄(でもそれって本当に悪いことなのか。俺は妹と彼氏君の関係を受け入れた。妹も俺に
女と復縁するのを応援している)

兄(そう考えると、そういうことを前提に俺と妹が多少仲が良すぎたって別に問題ないじ
ゃないか)

兄(・・・・・・妹友は俺に彼女を作ればいいと言った。そんな単純な問題でもないだろうけ
ど)

兄(女とか? それとも)



妹友『・・・・・・・お兄さんに言われたとおりにキスしましたよ』

妹友『今日はあたしとずっと一緒にいてください』

妹友『じゃあ、あたしでは駄目ですか?』



兄(あいつ、前はおれのことなんか好きじゃないって言ってたんだよな。本当に好きなの
は自分の実の兄貴の彼氏君だって)

兄(でも。それにしては前から俺に接近してきたし)

兄(考えてみれば恋人つなぎとかキスとか、全部初めてはあいつとだったじゃんか)

兄(・・・・・・何を考えてるんだろうな。あいつは)

兄(今の俺には行動の自由がある。女とは一度は別れるてるし、姫は俺とは付き合えない
とはっきり言った)

兄(妹友と付き合うか?)

兄(確かにあいつは可愛いし、体型も妹に似て華奢でスレンダーだし)

兄(・・・・・・そういや、あいつ。水着持って来たって)

兄(・・・・・・・)


妹「お兄ちゃん」

兄「どうした」

妹「ほら。あれがイグアナだよ。可愛いでしょ」

兄「・・・・・・ノーコメント」

妹友「ええ? 何でですか。あのつぶらな黒い瞳を見てください」

兄「・・・・・・見たけど」

妹「可愛いでしょ?」

兄「いや。別に」

妹友「妹ちゃん。お兄さんって意外とつまらない人だったね」

妹「本当。全くお兄ちゃんにはがっかりだよ」

兄「・・・・・・彼氏君は?」

彼氏「はい?」

兄「あれ、可愛いと思う?」

彼氏「いやその」

妹「彼氏君ならわかるよね」

妹友「お兄ちゃんならそこのだめだめ男とは違って理解できるでしょ」

彼氏「えーと」

兄「えーとじゃねえよ。遠慮せず思っていることを言え」

彼氏「正直気持悪いです」

兄「・・・・・・友よ」

彼氏「いやあの」

妹「二人ともセンスないの」

妹友「本当だ。最低」

兄「何でだよ」

妹「あ。あっちに大きなトカゲがいる」

妹友「え。マジ? 行ってみよう」

兄(ここに来てから四人行動になったのはよかった。またニ対ニじゃいろいろ気を遣うし
な)

彼氏「二人とも行っちゃいましたよ」

兄「どうでもいい。おまえはついって行ってやれよ」

彼氏「いや。僕もヘビの類いは正直苦手で」

兄「だよな。あそこのカフェみたいなとこで休んでるか」

彼氏「そうですね。そうしましょう」

兄(・・・・・・ある意味もっとも揉めなさそうな二対ニに分裂したか。これはこれで気が楽
だ)


妹友「二人ともこんなところにいたんですか」

妹「せっかくチケット買って入ってるのに、二人とも何も見てないじゃん」

兄「いや。俺たち二人は爬虫類とは折り合いが悪くてな」

彼氏「妹ちゃんたちが楽しんでくれれば十分だって」

妹「つまんないの」

妹友「全くだよ」

妹「一とおり見たから、お土産買いに行こう」

兄「お土産?」

妹「パパとママと、あと伯父さんにも」

兄「まあ伯父さんには買っていかないとまずいか」

妹「そうだよ。別荘を貸してくれたんだし」

妹友「お兄ちゃんもほら。両親に何も買って帰らないつもり?」

彼氏「ああ、まあそうだね」

妹「あとさ。超可愛いぬいぐるみがあったから。自分用に買いたいし」

兄「何が超可愛いだ。どうせヘビかなんかだろ」

妹「全然違うし」

兄「イグアナか」

妹「ガラパゴスオオトカゲのぬいぐるみだよ。等身大なの」

兄「・・・・・・あ、そ」



兄(妹のやつ。何か夢中でお土産を選んでるな)

兄(やっぱり姫って可愛いな。正直、ここにいっぱいいる女の子の中でも飛び抜けて可愛
いじゃんか)

兄(まあ、これは家族補正がかかってるのかもしれないけど)

妹友「お兄さん」

兄「おう。おまえお土産買ったの?」

妹友「ええ、まあ」

兄「ガラパゴスなんちゃらか」

妹友「あれは大き過ぎます。何せ等身大だそうですから」

兄「そうか」

妹友「あたしは諦めましたけど、妹ちゃんはまだ悩んでましたよ」

兄「あんなでかいぬいぐるみ、そもそも車に乗せられないだろうが」

妹友「お兄さん」

兄「うん?」

妹友「さっきは妹ちゃん、何でお兄ちゃんに電話しなかったんでしょうね」

兄「番号を知らなかったからだろ」

妹友「そんな訳ないです。妹ちゃんはお兄ちゃんの携番とメアドは登録していますよ」

兄「(そう言えばそうだ。前に俺の目の前で彼氏君から電話が来たことが何度かあったじ
ゃんか)どういうこと?」

妹友「さあ? 共依存にしても行き過ぎてますよね」

兄「・・・・・・さすがにそうかも」


今日は以上です
また投下します

うわ
妹友も面倒なやつだな…



これって共依存じゃなくて妹からの一方的なものなんじゃないか?少なくとも今は

彼氏君........

乙です

今ならはっきり言える

妹死ね

彼氏君が一番まとも

自分の勘違いならいいけど、日常っぽいのから急に爬虫類パークの話が入ってきたけど順番間違ってない?

爬虫類パーク前のくだりは回想だろ。妹と彼氏の登校を初めて目撃したときの

割と核心に触れる内容がさらりと混ざってたな

一部分が明らかになって少しモヤモヤが晴れた


<クズ、鈍感、ロリコン、シスコン!>




妹友「何であそこまでお兄ちゃんに拒否反応を示すんでしょうね」

兄「さあ?」

妹友「お兄ちゃんのことが嫌いなのかな」

兄「でもさ。図書館デートのときなんて彼氏君と妹は恋人つなぎして寄り添ってたし」

妹友「結局、お兄さんがいない場合に限って、妹ちゃんはお兄ちゃんに素直に寄り添える
んですよね」

兄「何だよそれ」

妹友「いったいどっちが妹ちゃんにとって正しい姿なんでしょうね。お兄さんに依存して
いる妹ちゃんか。お兄ちゃんと普通に恋人同士ができている妹ちゃんか」

兄「何かよくわからんけど」

妹友「わからないじゃなくてそろそろ考えた方がよくないですか? どっちが妹ちゃんに
とって幸せなのか」

兄「あのさ。おまえ本当に俺のこと好きなの?」

妹友「好きですよ」

兄「即答かよ」

妹友「常にそのことだけを考え続けてましたから」

兄「嘘付け」

妹友「まあ嘘ですけど。でもイグアナのことを考える合間にお兄さんのことも考えてまし
た。これは本当です」

兄「俺はイグアナの次かよ」

妹友「あたしがあんまり思いつめちゃったらお兄さんだって嫌でしょ」

兄「・・・・・・おまえ思ってたより気を遣えるやつなんだな」

妹友「何ですかいきなり」

兄「まあ、でもさ。兄貴のことを忘れるために次の恋を見つけようとしてるんだったら考
え直した方がいいぞ」

妹友「え」

兄「実際にそれをやってさらに傷口を深くした俺が言うんだから間違いない」

妹友「・・・・・・お兄さんのばか」

兄「ばかって」

妹友「クズ、鈍感、ロリコン、シスコン! もう知らない」

兄「おい待てって」


妹「お兄ちゃんお待たせ」

兄「その様子だと等身大とやらは買わなかったようだな」

妹「あんなの持って帰れないもん。妹友ちゃんは?」

兄「どっかに行っちゃった」

妹「どっかって・・・・・・喧嘩でもしたんじゃないでしょうね」

兄「いや」

妹「嘘じゃないよね」

兄「う、うん」

妹「・・・・・・目を逸らした。やっぱりあたしに嘘ついたんだ」

兄「おまえだって嘘ついたじゃん」

妹「何のこと?」

兄「彼氏君の電話番号とメアド。本当は知ってたんだろ」

妹「・・・・・・あ」

兄「別にいいけど」

妹「違うの。あれは」

兄「今度からもっと上手に嘘ついたら。妹友があんな嘘信じるわけねえだろ」

妹「妹友ちゃんから聞いたの? あたしが彼氏君の携番知ってるって」

兄(あれ。まずかったかな。姫に嘘つき呼ばわりされたんでつい勢いで言っちまったけ
ど)

妹「・・・・・・妹友ちゃん、また約束を破ったんだ」

兄「約束って何だよ」

妹「言わない」

兄「何で?」

妹「もうお兄ちゃんには嘘つきたくないから」

兄「・・・・・・本当のことを言えばよくね?」

妹「もう行こう」

兄「だって妹友が」

妹「彼氏君に電話してもらおう」

兄(さっきとは逆か。それにしても妹友はさっき彼氏君と喧嘩したって言ってたけど。そ
の後俺と気まずくなり、今度は妹を怒らせた。これじゃ旅行なんか全然楽しめないんじゃ
ないの? あいつ)


彼氏「ああ、お兄さんに妹ちゃん。ここにいたんですか」

妹「うん。そろそろここは出ようよ」

彼氏「そうですね。妹友はどこかな」

兄「さっきまでいたんだけどな。彼氏君ちょっと電話してよ」

彼氏「いいですけど、さっきちょっとあいつと言い争いしちゃったから電話でないかも」

兄「喧嘩しててもさっきは妹友ちゃんは彼氏君に電話してたぞ」

彼氏「そうですね。じゃあかけてみます」

彼氏「ああ出た。おまえ今どこにいるの? もうここ出るぞ」

彼氏「うん、そうか。じゃあな」

彼氏「妹はもう建物の外にいるので直接駐車場に行くそうです」

兄「そう。じゃあ俺たちも行こうぜ」

彼氏「はい」

妹「・・・・・・」

兄「いたいた。おまえどこ行ってたんだよ」

妹友「ごめんなさい」

妹「・・・・・・」

兄「別にいいけど」

妹友「・・・・・・ごめんなさい」

兄(今度は俺にだけ聞こえるように小声で言った)

妹「行こうお兄ちゃん」

兄「ああ。え?」

彼氏「どうしました?」

兄「いや(妹め。後部座席の彼氏君の隣にさっさと乗り込んでしまった)」

彼氏「妹ちゃん、また席をシャッフルするの」

妹「別にいいでしょ」

彼氏「う、うん」

兄(まあいいか)

妹友「・・・・・・あの、隣に座ってもいいいですか」

兄「いいも何もそこしか席ないじゃん。早くすわんなよ」

妹友「・・・・・・はい」


<それだけは信じて欲しかった>




兄「あのさ」

妹友「はい」

兄「さっきはごめんな。勝手におまえの行動の意味を決め付けるようなこと言って」

妹友「あたしこそひどいことを言ってごめんなさい。それに出会い方がああだったからお
兄さんには誤解されてもしかたないです」

兄「悪い」

妹友「でも今朝、夜明けの海岸で話したことは嘘じゃないです。それだけは信じて欲しか
った」

兄「今さらだけどわかったよ」

妹友「よかった」

兄「(おいおい)ちょっとさあ」

妹友「大丈夫です。妹ちゃんからは見えません」

兄「・・・・・・うん」

妹友「大丈夫ですよ。こんなことでお兄さんに選んでもらおうなんて考えていませんか
ら」

兄「別にそんなこと考えてたわけじゃねえよ」

妹友「何か急がなくてもいいような気がしてきました。妹ちゃんとの関係とか女さんとか
お兄さんはゆっくり考えたらいいんじゃないかと思います」

兄「そうだな」

妹友「それで少しでもいいからあたしのことも候補に入れておいてください」

兄「・・・・・・わかった」

妹友「お兄さんと仲直りできてよかった」

兄「やっと笑ったな」

妹友「へへ。あまり顔を見ないでください。さっき少し泣いちゃったから変な顔してるで
しょ」

兄「全然変じゃねえよ。むしろ可愛い」

妹友「・・・・・・やだ」

兄「いやそのだな」

妹友「でも、前向いてください。よそ見運転はだめです」

兄「確かに」


兄「あれ?」

妹友「どうしました」

兄「何となく運転してたけど、これからどこに行けばいいの」

妹友「最初の予定だと熱帯植物園に行く予定でしたよね」

兄「でも、もうこんな時間だぜ。今から行くの?」

妹友「もう五時ですね」

兄「ちょっと無理があるだろ。それに結構道も混んでるから植物園についたら六時近いと
思う」

妹友「どうしましょう」

兄「俺に聞かれても」

妹友「妹ちゃん。これからどうする? 熱帯植物園に行くのは無理っぽいって」

妹「・・・・・・」

兄(露骨に無視かよ。何で怒ってるんだろうなあ。約束っていったい何だろ)

妹友「妹ちゃん?」

彼氏「妹ちゃん、呼んでるよ」

妹「・・・・・・」

兄「(これはまずい)おい妹」

妹「・・・・・・あたしのこと、もう姫って呼ぶのやめたんだ」

妹友「え」

彼氏「え」

兄「(な!)そうじゃなくて。今日はもう家に帰ろうぜ」

妹「そう」

兄「それでいいな」

妹「・・・・・・」

兄(無視かよこいつ。いくらなんでもこの態度はねえだろ。どんだけ約束とやらを破られ
て傷付いたのかは知らねえけど)

兄「おまえいい加減に」

妹友「お兄さんやめて」

兄「・・・・・・ちぇ」

妹友「妹ちゃんは植物園で食虫植物を見るのを楽しみにしてましたし」

兄「はあ?」

妹友「だから元気がなくてもしかたないです。正直、あたしもがっかりです」

兄「んなもん一生見なくたって不都合はないだろう」

妹「・・・・・・・そんなんじゃないし」

妹友「妹ちゃん?」

兄(何拗ねているんだこいつ)


兄(せっかくの旅行が重い雰囲気になっちまったなあ。必ずしも妹だけが悪いわけじゃな
いのかもしれない。でも、妹ももう少し大人になって自分の感情を抑えたってよかったは
ずだ)

兄(今日の夕食はどうなるのかなあ。妹には聞きづらいし聞いたってどうせ無視されるだ
ろうし)

兄(だけどこれは結構切実な問題だぞ。妹と妹友が作ってくれるならスーパーに寄って食
材調達しなきゃいけないし。どっかで食っていくならそろそろ店を探さなきゃいけない)

兄(どっちにしろもう決めないと)

兄「なあ?」

妹友「はい」

兄「今日の夕飯ってどうなってるか聞いてねえ?」

妹友「・・・・・・さっき爬虫類パークで妹ちゃんと話していたときには、今日は二人で別荘で
料理しようよって言ってました」

兄「そうか。じゃあスーパーとかに寄って」

妹友「でも・・・・・・」

兄「何?」

妹友「今の妹ちゃんに料理する気があるかどうかは」

兄「そうか。そうだよな」

妹友「・・・・・・」

兄「ファミレスにでも寄って行くか」

妹友「・・・・・・いえ。スーパーに行きましょう」

兄「だって」

妹友「ちゃんと妹ちゃんと話してみます。最悪の場合でも、あたしが一人で料理しますか
ら」

兄「・・・・・・いいのか」

妹友「ええ。あたし、こう見えても料理得意なんですよ」

兄「そうなん?」

妹友「うちもお兄さんのお家と一緒で両親は共働きですし、料理は慣れてますから」

兄「じゃあ。おまえがいいならスーパーに行くか。最悪の場合は俺も手伝うから」

妹友「・・・・・・あの」

兄「うん?」

妹友「何か妹ちゃん怒ってるじゃないですか? ひょっとしてあたしに対して怒ってるん
でしょうか」

兄「その話は後で。ここじゃ妹に聞かれるかもしれないし」

妹友「・・・・・・やっぱりそうなんですね」


<スーパーマーケット>




兄「着いたぞ」

彼氏「え? ここどこですか」

兄「スーパーだよ。今夜の飯の準備しないとな」

彼氏「ああ、そうですか。そうですよね」

妹「・・・・・・」

彼氏「また妹ちゃんが作ってくれるの? 楽しみだなあ」

妹「知らない。あたし食欲ないし」

兄「(こいつ。ふざけんな)いや。今夜は妹友が作ってくれるって。な、妹友」

妹友「え? ええまあ」

兄「何作ってくれるの? そういやおまえの料理を食うのって前に作ってくれたオムライ
ス以来だな」

妹「・・・・・・」

妹友「何でそれを今言うんですか」

兄「え」

彼氏「何だ。やっぱり二人はそういう仲なんですね。僕の勘違いじゃなかったんだ」

兄「いやそうじゃない」

妹友「お兄ちゃんそれ飛躍しすぎだから」

彼氏「悪かったな。さっきはおまえと言い合いしちゃったけど。でもそういうことなら隠
さないでそう言ってくれれば喧嘩なんてしなくてすんだのに」

妹友「いいから、ちょっとお兄ちゃんは黙って」

妹「・・・・・・彼氏君、行こ」

彼氏「行くってどこへ」

妹「あたしお菓子とかジュース買いたい。付き合って」

彼氏「うん。喜んで。お兄さん、すいません。買物はお二人にお任せします」

兄「おい。待てって」

彼氏「それに邪魔者は消えた方が気が利いてますよね」

妹友「・・・・・・もうあんたは黙ってろ。今すぐに消えろ」

彼氏「だから消えるって。妹ちゃん行こ」

妹「・・・・・・うん」


兄「何かごめん」

妹友「どうしてお兄さんが謝るんですか」

兄「そう言えばどうしてかな」

妹友「何でオムライスの話なんかしたの?」

兄「別にわざとでは」

妹友「妹ちゃんを挑発するようなことも言うし」

兄「あいつの態度がひどかったからだよ」

妹友「ねえ」

兄「うん」

妹友「妹ちゃんは何であんなに怒ってるんですか。お土産を買うところまではすごく和や
かだったのに」

兄「よくわからんけどな。妹にさ、本当は彼氏君の携番とメアドを知ってたんだろって言
ったら」

妹友「あ」

兄「そしたら妹友から聞いたのかって聞かれて。そしたらまた約束を破ったとか言って切
れて怒り出した」

妹友「・・・・・・やだ」

兄「へ?」

妹友「あたし、またやっちゃった」

兄「どうしたの」

妹友「これから妹ちゃん謝りに行きます」

兄「よしとけ」

妹友「何でですか」

兄「あいつとは長年の付き合いだからな。こういうときは言い訳すればするほどあいつは
頑なになるぞ」

妹友「それは確かに」

兄「もう少し時間をおいて、妹が冷静になってからの方がいいよ」

妹友「はい」

兄「じゃあ買出ししようぜ。あいつらは当てにならねえし」

妹友「そうですね。ねえお兄さん?」

兄「うん?」

妹友「今夜は何を食べたいですか」

兄「何でもいいよ」

妹友「何でもいいは禁止ですよ。お兄さん」

兄(こんなときだけど。こいつの笑顔って結構可愛いな。姫といい勝負なんじゃね)


<図書館にて>




from:妹
to:彼氏君
sub:無題
『さっきは電話切っちゃってごめん。ちょっとお兄ちゃんと揉めてたから。何の用事だっ
た?』



from:彼氏君
to:妹ちゃん
sub:Re無題
『僕の方こそ取り込み中のところ悪かったね。明日一緒に図書館に行くって妹から聞いた
から。待ち合わせ場所は聞いたんだけど、時間とか全然決めてないみたいだから直接メー
ルしちゃった。何時にする?』


from:妹
to:彼氏君
sub:Re:Re無題
『妹友ちゃんの暴走だよ。迷惑でしょ? 無理しなくてもいいのに』



from:彼氏君
to:妹ちゃん
sub:Re:Re:Re無題
『迷惑なわけないじゃん。一緒に勉強しようよ。僕の方が年上だしわからないところがあ
ったら教えてあげる』



from:妹
to:彼氏君
sub:Re:Re:Re:Re無題
『ちょっと早いけど八時でどうですか。本当に勉強を教えてくれるの?』



from:彼氏君
to:妹ちゃん
sub:Re:Re:Re:Re:Re無題
『任せて。お兄さんと同じ大学が志望校なんだよね? ちゃんと合格圏まで偏差値を引き
上げてあげるから。じゃあ、また明日ね』



彼氏「おはよう」

妹「おはよ」

彼氏「じゃあ行こうか。ちょうど図書館の開館時間だよ」

妹「あの」

彼氏「どうしたの」

妹「今日は本当に勉強を教えてくれるだけだよね?」

彼氏「何?」

妹「え。何って」

彼氏「何心配してるの。妹からはちゃんと釘刺されてるし、君に変なことなんてしないっ
て」

妹「・・・・・・うん」


彼氏「さすがに休日の朝一だと場所取りも簡単だね」

妹「うん」

彼氏「本当にごめんね。手までつながせちゃって。嫌だったでしょう」

妹「・・・・・・あたしの方こそ。迷惑でしょ?」

彼氏「そんなことないって。じゃあ、勉強始めようか。妹ちゃんの場合はとりあえず理系
科目の対策かな」

妹「はい」

彼氏「正直言って君のお兄さんの大学はそんなにレベルは高くない。地方国大だし」

妹「・・・・・・そうなの?」

彼氏「うん。まあ、皆はバカにして駅弁大学っていうんだけどね」

妹「・・・・・・」

彼氏「あ。でもね、君の成績だとそこすら合格するのは危うい。駅弁っていったってセン
ター試験は通過しなきゃいけないし、妹ちゃんって数学とか理科とか苦手でしょ」

妹「うん」

彼氏「数Ⅲはいらないけど数ⅡBはもう少し理解しないとね」

妹「・・・・・・そうだね」

彼氏「正直、君みたいな子があんな駅弁大学に行く必要なんかないと思うけどね。富士峰
女学院大学に内部進学すればいいじゃん。あそこならすぐにハイスペックな彼氏とか結婚
相手だって見つかると思うし」

妹「でもあたしはあの大学に行きたいの」

彼氏「だったら甘えてないで必死で偏差値を上げないと」


彼氏「少し休憩しようか」

妹「はい」

彼氏「中庭のベンチに行こうよ」

妹「うん」

彼氏「妹ちゃんって真面目だよね。正直こんなに集中してもらえるとは思わなかった」

妹「そんなことないけど」

彼氏「いろいろ厳しいこと言ってごめんね。でもさ、引き受ける以上は安請け合いしたく
なかったんだ。本当に妹ちゃんには志望校に受かって欲しいから」

妹「彼氏君が謝ることなんてないよ。あたしの方こそ、さっきは変なこと言ってごめんな
さい」

彼氏「いや。当然の心配だと思うよ。確かに僕は妹ちゃんに告った。情けないことに妹友
経由だけど。でも君はすぐには返事できないって言ったでしょ」

妹「ごめんなさい」

彼氏「いやそうじゃないよ。責めてるんじゃないんだ。本当なら静かに考えてもらいたい
時期に、一日僕と付き合わされるなんて君にとってはいい迷惑だよね」

妹「・・・・・・」

彼氏「でも、できればうちの妹のことは恨まないでやってほしい。あいつは僕の気持ちを
考えただけで」

妹「そうじゃないよ。妹友ちゃんはあたしとお兄ちゃ」

彼氏「だから今日は勉強を徹底的に教える。厳しくもする。それが君の合格のためだか
ら」

妹「・・・・・・うん」

彼氏「たださ。一つだけ妹ちゃんにお願いがあるんだ」

妹「え? 何ですか」


彼氏「妹ちゃんが僕のことを受け入れてくれるか、それとも拒否するのかは結論が出るま
ではいつまでだって待つよ」

妹「ごめんなさい」

彼氏「いや。君を責めてるんじゃないんだ。たださ、一つだけお願いを聞いてくれないか
な」

妹「何?」

彼氏「うちの妹のことなんだけど」

妹「妹友ちゃん?」

彼氏「すごく言いづらいんだけど。何かさ、あいつ僕のことを好きみたいで」

妹「そんなの前からわかってるよ。妹友ちゃんはブラコンじゃない」

彼氏「そんな軽いものなら悩まないんけどね」

妹「どういうこと?」

彼氏「最近、朝起きるといつも妹が僕のベッドで一緒に寝ている」

妹「うん」

彼氏「二人で外出するとやたらに僕と手をつなごうとしたり、抱きついてきたりする」

妹「ええと」

彼氏「びっくりしたでしょ。僕だってそうだよ。最近じゃあ、両親までおまえたち兄妹は
ちょっと仲良くしすぎだとか真顔で注意するようになったし」

妹「そうなんですか」

彼氏「あり得ないでしょ? 実の兄貴のベッドに潜り込んだり実の兄貴と外出中に抱きつ
いてきたりとか」

妹「そうかなあ」

彼氏「そうだよ。妹ちゃんとお兄さんだったらそんなことはないでしょ」

妹「・・・・・・」


<彼氏君のことを好きになってたかも>




彼氏「だから君にお願いがあるんだ」

妹「何ですか」

彼氏「敬語やめてよ。君が中学生の頃からの付き合いなのに」

妹「お願いってそれ?」

彼氏「そんなわけなでしょ。君ってもしかして偏差値以上にばか?」

妹「・・・・・・」

彼氏「ごめん。そうじゃないんだ。僕は妹の僕への不毛な恋愛感情を諦めさせたい」

妹「・・・・・・うん」

彼氏「君が僕の告白にどう返事してくれるかはいつまででも待つよ。でもさ、結論が出る
間だけでもいいから、僕の彼女の振りをしてくれないかな」

妹「はあ? 別にそんなのあたしじゃなくても」

彼氏「頼むよ。僕だって妹は可愛いし、あいつの将来を歪めたくないんだ」

妹「でも、何で恋人の振りなんて」

彼氏「朝の登校だって今日の図書館だってあいつが仕組んだことだろ。あいつは君のこと
は好きなんだよ。他の子じゃだめなんだ。君なら妹だって納得して身を引くと思う」

妹「だってそんな。妹友ちゃんをだますなんてできないよ」

彼氏「でも、それがあいつのためなんだ」

妹「・・・・・・」

彼氏「頼む。このとおり」

妹「ちょっと。頭を上げてよ。周りの人が見ているじゃないですか」

彼氏「ごめん」

妹「・・・・・約束して」

彼氏「え」

妹「妹友ちゃんの前以外では恋人ごっこはなし。あたしのお兄ちゃんとか他の友だちとか
に、あたしたちが恋人同士だなんて誤解させるようなことは絶対しないって」

彼氏「約束するよ」

妹「それ、妹友ちゃんにもうまく言ってもらえないかな」

彼氏「・・・・・・だってあいつのために彼女ができた振りをするのに、あいつに言っちゃった
ら」

妹「うまく言って。しばらくは秘密にしたいとか大事に付き会いたいとかって」

彼氏「・・・・・・わかった。何とかする」

妹「それなら・・・・・・。いいよ。何か自分を省みると複雑な心境ではあるけど」

彼氏「どういう意味?」

妹「何でもない。彼氏君の彼女役やるよ。妹友ちゃんのためなら」


彼氏「ありがとう。本当にありがとう」

妹「もういいって」

彼氏「この先、本当に妹ちゃんに振られたとしても、今日の恩だけは絶対に忘れないよ」

妹「だからいいって。でも恋人ごっこって具体的には何をするの」

彼氏「図書館でデートする」

妹「図書館で?」

彼氏「うん。本当にデートするんじゃ妹ちゃんに悪いし、かといってデートしなきゃ妹友
に怪しまれるだろうし」

妹「妹友ちゃん、傷付かないかな」

彼氏「傷付くかもしれないな」

妹「そんなのかわいそうじゃん」

彼氏「あいつは可愛いし頭もいい。実の兄貴なんかに夢中になって青春を無駄にする方が
よっぽどかわいそうだよ」

妹「・・・・・・へえ」

彼氏「何?」

妹「彼氏君って本当に妹友ちゃんのこと大切にしてるんだ」

彼氏「変なこと言わないでよ」

妹「ちょっと見直しちゃった」

彼氏「ありがと」

妹「で、毎回図書館はいいけど、ここで何するの」

彼氏「せめてものお礼に妹ちゃんの偏差値をお兄さんの大学を狙えるとこまで持ってい
く」

妹「・・・・・・本当に優しいんだね」

彼氏「そんなことないよ」

妹「あたし、悩んでいるんだけど。でもその悩みの人がいなかったら彼氏君のことを好き
になってたかも」

彼氏「・・・・・・声が小さくてよく聞こえなかった。でも何か僕のことを好きになったって
聞こえたような」

妹「違うよ。忘れて」

彼氏「でも」

妹「条件追加。今のは忘れること。いい?」


彼氏「・・・・・・了解」


今日は以上です
また投下します

…ん?妹と彼氏の会話は今までぼかされてた付き合う(仮)ことを決めた回想ってこと?

どう見たってそうだろ

これやっぱりいい人ぶってるけど彼氏も性格悪いな

屑しかいないな

これが妹と接近するための作戦なら彼氏くんも屑だろうな
けど今のところはいいお兄ちゃんじゃね?

妹友の今までの言葉を真実とすれば彼氏は嘘付いて恋人ごっこをしている
逆もまた然り
なんか性格に欠陥ある奴ばかりだな

いもともちゃんはまともだろ!!!!!!


<新婚の夫婦みたい>




妹友「ここってお魚が異様に充実してますよね」

兄「海辺だし漁港も近いからかな」

妹友「・・・・・・どうしますか。何を作ればいいのかな」

兄「何でもいいって」

妹友「だって・・・・・・。妹ちゃんも食べるんだし」

兄「あ。そうか」

妹友「・・・・・・」

兄「そうだよな。じゃあ俺が決めるよ。それならおまえが文句を言われこともないだろ
う」

妹友「そういうことじゃないですけど。でも、お兄さんの好きなのを作りたいです」

兄「ありがと。じゃあ何か魚が食いたい」

妹友「何がいいですか。あと、どういう風にしましょうか。焼き魚?」

兄「いっぱいあるからなあ。ちょっと一緒に選ぼうよ」

妹友「・・・・・・うん」

兄「お、この赤いのって」

妹友「金目鯛ですよ。お昼に食べたじゃないですか」

兄「俺とおまえは伊勢海老だったじゃん」

妹友「お兄さんは妹ちゃんの金目鯛食べてたでしょ」

兄「そうだった」

妹友「・・・・・・こんなときに言うのもなんですけど」

兄「どうかした?」

妹友「お兄さんと一緒にお買物とかって、何か新婚の夫婦みたい」

兄「・・・・・・変なこと言うなよ」

妹友「そうですよね。ごめんなさい」

兄「これにしようか」

妹友「それはアジの開きです。でも、明日の朝ご飯用に買っておきましょうか」

兄「朝食に?」

妹友「ええ。お兄さんは朝は和食派でしょ?」


兄「朝もおまえが作ってくれるの」

妹友「はい。妹ちゃん次第ですけど」

兄「悪いな」

妹友「ううん。今朝は妹ちゃんに作ってもらっちゃったし、お料理は好きですから」

兄「じゃあ、これは?」

妹友「穴子? ですね」

兄「さすがにこれは無理か」

妹友「あ。でもそこで捌いてくれるって」

兄「これってどうやって食べるの」

妹友「煮つけとか、甘辛く煮て穴子丼にするとかかな」

兄「おお。穴子丼いいね。食いたい」

妹友「じゃあ、これにしましょう。さばいてもらえるならあたしでも料理できます」

兄「よし。あと買うものは」

妹友「お米もお味噌もあったし、あとサラダを作りたいので野菜とドレッシングだけ買っ
ておきましょう」

兄「野菜売り場はあっちにあったぞ」

妹友「行きましょ」

兄「・・・・・・ええと」

妹友「だめですか?」

兄「いや。別にいいけどさ。ちょっとカートが押しづらいかな(腕に抱きつかれた)」

妹友「お願い」

兄「・・・・・・何でそんなに必死なの」

妹友「妹ちゃんの前ではしませんから」

兄「別にそんなことは」

妹友「行こ」

兄「・・・・・・」


兄「野菜って何買うの?」

妹友「レタスでいいですか」

兄「何でもいい。つうか野菜は別になくてもいいくらいだ」

妹友「だめですよ」

兄「笑うなよ・・・・・・ってあれ」

妹友「・・・・・・」

兄「喧嘩してる?」

妹友「お兄ちゃんと妹ちゃんが何か言い合ってますね」

兄「どう考えても喧嘩だな」

妹友「止めますか」

兄「・・・・・・いや。放っておこう」

妹友「お兄さんが妹ちゃんのこと放っておくなんて珍しい」

兄「痴話喧嘩に兄貴が入ってもな」

妹友「まあそうですけど・・・・・・」

兄「兄貴のことが心配か?」

妹友「・・・・・・そうじゃないですけど。まあ、でもそうですね。心配したってしかたない
か」

兄「行こうぜ」

妹友「はい」

兄「これでだいたい揃ったか」

妹友「ええ。今夜と明日の朝はこれで大丈夫です」

兄「そういや明日はどうするんだろ」

妹友「明後日は帰るので丸一日遊べるのは明日が最後ですね」

兄「何か予定聞いてる?」

妹友「いえ」

兄「全くどうしようもねえな。予定立てていたやつがへそを曲げるわ誰彼となく喧嘩する
わじゃ。いっそ勝手に予定立てちゃうか」

妹友「・・・・・・そういうわけには」


<仲直り>




兄「清算もしたしそろそろ帰るか」

妹友「そうですね。あ、荷物一つ持ちます」

兄「大丈夫だよ。それより」

妹友「まだ喧嘩しているんでしょうか」

兄「困ったな。これじゃ帰るに帰れん」

妹「ごめん」

兄「ああ、来たか」

妹「妹友ちゃんもごめんね」

妹友「え? ああ、とんでもない。あたしの方こそごめん」

兄(何なんだ)

妹「本当にごめん。ちょっと妹友ちゃんを恨んじゃったけど、誤解だった」

妹友「ええと」

妹「許してくれる」

妹友「うん。もちろん」

兄「おまえら今日は喧嘩したり仲直りしたり忙しいな」

妹「ふふ。本当だ」

妹友「言われてみれば確かにそうですね」

兄「ついでに姫も彼氏君と仲直りしちゃえよ」

妹「見てたの?」

兄「あれだけ派手にやってれば見たくなくても見えちゃうって」

妹「そうか」

妹友「妹ちゃん・・・・・・」

兄「妹友と彼氏君の喧嘩だってうやむやになったことだし、おまえも」

妹「仲直りはしないよ」

兄「そもそも何で喧嘩なんかしたんだよ」

妹「言いたくない」

兄「だってまだ旅行中なのに雰囲気が悪くなるだろうが」

妹「別にもう騒がないから大丈夫。でも彼氏君とは二人きりにはならない」

兄「困ったな」


妹友「まあしかたないです。別行動するときは、お兄ちゃんとはあたしかお兄さんが組む
ことにしましょう」

妹「ごめんね」

妹友「ちょっとお兄ちゃんを探してきます。妹ちゃんは助手席に座っちゃって」

妹「うん」

妹友「少し待っててくださいね」

兄「了解」

妹「・・・・・・さっきはごめん」

兄「まあいいけど」

妹「ねえ」

兄「うん?」

妹「いろいろな人といろいろな場所に行ってもさ」

兄「ああ」

妹「やっぱり一番安らいで一番あたしらしくいられる場所って、やっぱり家族のところな
んだよね」

兄「それはわかるけど。でもそんなことを決め付けるのはまだはえーよ。おまえも俺も」

妹「ううん。そんなことないよ。あたしにはわかるもん。この先、大学に入っても就職し
ても、やっぱり自分の本当の居場所はうちの家庭だけだって」

兄「子どもってのはな。いつかは家族から独立して新しい家族を作るもんなの」

妹「普通はそうなんだろうね」

兄「(こいつの家族好きは今に始まったことじゃないが、何か今日は極端だな)まあ、彼
氏君とだってすぐに仲直りできるよ」

妹「そういう問題じゃない・・・・・・それに、あたしだって努力はしてみたのよ」

兄「努力って」

妹「でも全然だめだ」

兄「意味わかんねえよ」

妹「本当にわからない?」


兄「うん」

妹「あたしさ。たまに思うんだけど、お兄ちゃんってあたしとは違って別にうちの家族の
ことにはそんなにこだわってないよね」

兄「そんなことはない。普通に家族のことは大事だけど。特に姫のことは」

妹「そうかなあ。一人暮らし始めた時だって別に問題なく環境に溶け込んだでしょ? す
ぐに彼女まで作ったし」

兄「いや、あれは。姫に振られたから」

妹「一月の間、あたしにもパパとママにも電話もメールもしてこなかったよね」

兄「まあ、そうだけど」

妹「お兄ちゃんはあたしのことを好きだって言ってくれたけど、本当はあたしがお兄ちゃ
んを想うほどにはあたしのことなんか好きでも大切でもないんじゃないの」

兄「そんなことは絶対にない」

妹「・・・・・・もうやだ」

兄「本当にどうしたんだよ」

妹「あたしね。お兄ちゃんには彼女を作って欲しかった。それが女さんでも妹友さんでも
いいし、女友さんでもいいんだけど。でもさ、お兄ちゃんは一生独身であたしのことを見
守るって言ってたでしょ」

兄「言ったよ。でも、おまえに言われたよな。自分がされて嫌なことをあたしに押し付け
るなって」

妹「・・・・・・言ったよ」

兄「だから俺も前を見ようかと思いだしたとこだ。姫のことを生涯見守ることには変わら
ねえけどさ。姫が負担になるなら俺も誰かと付き合おうかと」

妹「ねえ」

兄「うん」

妹「やっぱりあれはなし」

兄「あれって?」

妹「やっぱりお兄ちゃんは彼女作らなくていいよ」

兄「あれか? 一生童貞独身のままでおまえの幸せを見続けるってやつ? おまえ、それ
は駄目だって言ったじゃん」

妹「・・・・・・だからそれキャセル」

兄「何言ってるんだよ」

妹「あたしもそうするから」

兄「おい」

妹「前に一度言ったじゃん。お互いに彼氏彼女なんて作らないで一生一緒にいようよって。
お兄ちゃん。もうずっとあたしの側にいてよ」

兄「それって」

妹友「遅くなってごめんなさい」

彼氏「本当にすいませんでした」

兄「いや。別にいいよ。じゃあ帰ろうか」


<俺は全てを失ったと思っていたから>




兄「なあ」

妹「何」

兄「さっきの話だけど」

妹「今はだめ。彼氏君と妹友ちゃんもいるし」

兄「そうだよな。悪い」

妹「今夜寝る前に、ね?」

兄「・・・・・・うん」

妹友「妹ちゃん」

妹「あ、うん」

妹友「勝手に今夜の夕食のメニュー決めちゃった。ごめんね」

妹「ううん。あたしこそ手伝いもしないで全部任せちゃってごめんね」

妹友「今日ね。穴子を買ったの。それで穴子丼を作ろうかと」

妹「おおいいね。手伝うから作り方教えて」

妹友「妹ちゃんに教えることなんてないって」

妹「そんなことないよ。妹友ちゃんって穴子好きなの?」

妹友「うん。それにお兄さんが食べたいって言ってくれたから」

兄「・・・・・・(このタイミングで)」

妹「そうなんだ。お兄ちゃんが穴子が好きだなんて全然知らなかったよ」

兄「好きというか、一度食べてみたいというか」

妹「・・・・・・」

妹友「妹ちゃん?」

妹「ごめん。ちょっとぼうっとしちゃった」


兄「ご馳走様でした。いや、おいしかったよ」

妹友「そんな。無理して誉めてくれなくてもいいのに」

兄「いや。マジでうまかった。今度母さんに作ってもらおう」

妹友「妹ちゃんに作ってもらえばいいじゃないですか」

妹「やだよ。こんなの面倒くさい」

妹友「もう。素直じゃないなあ」

兄「じゃあ、俺風呂沸かしてくる」

妹友「お願いします。あたしたちは洗い物しちゃいますから」

妹「風呂沸かすってスイッチ押すだけでしょうが」

兄「ちげえよ。浴槽の掃除とか水を張るとかいろいろあんだよ」

妹「全部今朝のうちにしてあるよ。あとはスイッチ押すだけだって」

兄「・・・・・・言ってくれれば俺がしたのに」

妹「お兄ちゃんなんかに期待してないよ」

彼氏「あのさ。僕だけ何にもしないのも悪いし、洗い物手伝ってもいいかな」

妹「・・・・・・」

兄(おい。無視かよ)

彼氏「いや。かえって迷惑ならいいんだけど」

妹「・・・・・・」

兄「男じゃかえって邪魔になるらしいぜ。彼氏君、風呂の支度手伝ってくれ」

彼氏「あ、はい」

妹「お風呂のスイッチを二人で押すの? ばかみたい」

妹友「妹ちゃん・・・・・・」



兄「あのさあ」

彼氏「・・・・・・はい」

兄「俺言ったよね? 妹を泣かせたらマジ殺すって」

彼氏「はい」

兄「じゃあ何で妹と喧嘩してんだよ。何で妹があんなに落ち込んでるんだよ」

彼氏「・・・・・・」

兄「何とか言えって」

彼氏「本当は僕もお兄さんに全部話して相談したいんです」

兄「おう任せろ。何でも聞いてやるぞ」

彼氏「でも駄目なんですよ」

兄「何で?」

彼氏「約束ですから。妹ちゃんとした約束は守らないといけないですから」

兄「約束?」

彼氏「はい。うっかり破っちゃったんでさっきも妹ちゃんに怒られたばかりだし、これ以
上約束を破って話すわけにはいかないです」

兄「何なんだよいったい」


妹「お待たせ。お兄ちゃん」

兄「ずいぶん早かったな。ちゃんと体洗ったのか」

妹「洗ったよ。つうかお兄ちゃんのエッチ」

兄「何でだよ」

妹「妹に向って体とか言わないでよ」

兄「・・・・・・俺がシスコンであることは認めるけど、それはいくら何でも自意識過剰だろ」

妹「何よ。こういう会話をあたしとできることが嬉しいくせに」

兄「・・・・・・確かにな」

妹「え」

兄「確かに嬉しい。おまえに告って振られたときさ、俺は全てを失ったと思っていたか
ら」

妹「そうなの?」

兄「ああ。おまえさっき言ってたろ? 俺は別にうちの家族のことにそんなにこだわって
ないって」

妹「言ったよ。だってそうじゃん」

兄「全然ちげえよ。俺だって寂しくてたまらなかったよ。実家に帰りたくてさ。でも、自
分のせいで姫との関係を壊して、父さんたちにもとても言えないことをやらかしたんだ
ぞ」

妹「何よ。あたしがお兄ちゃんを振ったせいだって言いたいの?」

兄「んなこと言ってねえだろうが」

妹「じゃあなんで」


兄「告って振られたけど一応これまでどおりに振る舞おうとは思ったさ。でもできねえも
ん。おまえを見るだけでつらくてさ。つらいって言っても俺が失恋したことじゃねえぞ。
俺を振ったことでおまえが傷付いているのを見るのがつらくて」

妹「・・・・・・お兄ちゃん?」

兄「だからもういいだろ。俺は好きにする。彼女を作るかどうかはわかんないけど、とに
かく俺はいい兄貴としておまえを見守る。もうそんでいいじゃんか。彼氏君のことを俺が
応援したっていいじゃんかよ。これ以上、俺にストレスを与えないでくれよ」

妹「・・・・・・ごめん」

兄「あ、悪い。ついエキサイトしちゃった」

妹「ごめん」

兄「いや。今のは俺が悪いんだ。勝手に自分の感情を姫にぶつけただけだし」

妹「お兄ちゃん?」

兄「ああ」

妹「・・・・・・もういいじゃん。あたしたちは二人ともよく頑張ったよ。でもこのあたりがあ
たしたたちの限界だったんだよ」

兄「何言ってるの? おまえ」

妹「もうよそう。そろそろ現実を受け入れようよ。あたしとお兄ちゃんはきっと最初から
お互いに他の人じゃ駄目だったんだよ」

兄「・・・・・・え」

妹「お互いに恋人なんか作らないでいつまでも兄妹で一緒にいる運命だったんだよ」

兄「お互いに一人身でか?」

妹「・・・・・・・あのさ」

兄「・・・・・・」

妹「あたし、お兄ちゃんの彼女にはなれないけど。でも、お兄ちゃんが辛いならできるこ
とはするから」

兄「(ふざけんなよ)おい、よせ」

妹「キスしよ」

兄「おいちょっと(何で服を脱いでるんだよ!)」


今日は以上です
また投下します

なんつーいいとこで
期待してます



次でとうとう妹の想いが分かるのか?

乙です

そろそろクライマックスかなー


<お兄ちゃんが好き>




兄「ちょっとよせって」

妹「・・・・・・」

兄「マジやばいって。つうかおまえ上半裸じゃんか」

妹「・・・・・・」

兄(ゆ、夢にまでみた姫の)

兄「(いやそんなこと言ってる場合か)もうやめ。服着ろ」

妹「何でよ」

兄「何でって」

妹「お兄ちゃんに一生彼女作らないでなんてひどいこと言ったんだもん。できることはす
るよ」

兄「何言ってるんだおまえ」

妹「姫って言ってよ」

兄「あのさあ」

妹「彼女なんか作らないでずっとあたしと一緒にいて」

兄「・・・・・・」

妹「でも一生その・・・・・・ど、童貞じゃなくてもいいんだよ」

兄「・・・・・・」

妹「何か言ってよ。それともあたしの身体なんかに興味ないの?」

兄「抱きつくなよ(いろいろとやばい)」

妹「お兄ちゃん」

兄「う。何すんだよ」

妹「そういうときは鼻で息するといいよ」

兄「おまえさあ」

妹「何よ」

兄「俺とは付き合えないんじゃなかったのかよ」

妹「そうだよ。兄妹で付き合えるわけないでしょ」

兄「じゃあいったいおまえは何をしたいんだよ」

妹「だってお兄ちゃんに彼女ができたらあたしと一緒にいてくれないでしょ」

兄「ずっと姫の側にいるって」

妹「嘘つき」


兄「何で嘘だよ」

妹「だってそうじゃん。今日だって妹友ちゃんとずっと一緒にいたし」

兄「あれは姫と彼氏君に遠慮したんだよ。妹友だってそうだ」

妹「もう彼氏君とは別れる。だからもう変な遠慮はしないで」

兄「おまえなあ。俺のためにならやめとけよ。彼氏君が気の毒だろうが」

妹「ねえ」

兄「今度は何? もう寝ようぜ」

妹「妹友ちゃんから告白されたの?」

兄「(・・・・・・姫には嘘はつけねえ)多分、そんな感じ」

妹「妹友ちゃんと付き合うの?」

兄「まだ返事はしてないよ」

妹「・・・・・・」

兄「姫?」

妹「好き」

兄「え? 好きって・・・・・・え」

妹「お兄ちゃんが好き」

兄「ちょっと」



兄(ようやく服を着せ寝かしつけたけど)

兄(・・・・・・確かに最初は俺の気持悪い告白から始まったことには違いない)

兄(でも、あれから反省もした。彼女も作ったし別れもした。最初の一月を除けば妹のこ
とを放置だってしていないはず)

兄(好きって)

兄(付き合えないけど兄としては大好きって意味だろうけど。そもそもキスしいてる時点
でおかしいじゃんか)



妹『一生彼女は作らないであたしと一緒にいて』

妹『でも一生その・・・・・・ど、童貞じゃなくてもいいんだよ』

妹『何か言ってよ。それともあたしの身体なんかに興味ないの?』


兄(・・・・・・あれってつまりそういう意味だよな)

兄(付き合う気がないのに何であんなことまでしようとしたんだろ。しかも好きって)

兄(まあ、姫もいろいろ悩んで混乱してるんだろう)

兄(だから俺はあれを真に受けちゃいけないんだ。むしろ優しく姫を諌めなきゃいけな
い)

兄(とりあえず妹友と女のことは保留だ。ひどい仕打ちだしそれで嫌われてもしかたな
いけど)

兄(姫がここまで思い詰めているんだ。俺くらいは側にいてやらないと)

兄(・・・・・・泣きつかれたのかよく寝てる)

兄(・・・・・・しかし綺麗だったな)

兄(今さらだけど肌白いし華奢だし。胸は小さいけど、美少女ならそれすらも武器にしち
ゃうんだな)

兄(いかん。思い出すといろいろやばい。もう寝よう)

兄「おやすみお姫様」



妹「ほら起きてお兄ちゃん」

兄「うん? もう朝?」

妹「こら寝ぼけるな。朝ごはんだからさっさと起きて顔洗って」

兄「わかった(何か普通な態度だな。吹っ切れたのかな)」

妹「ほら早く」

兄「・・・・・・うん(いかん思わず姫の胸に視線が)」

妹「・・・・・・」

兄「じゃあ歯磨きしてこよ」

妹「お兄ちゃんどこ見てんの」

兄「あ、悪い」

妹「エッチ」

兄「いやその」

妹「・・・・・・もしかして思い出してるんじゃないでしょうね」

兄「・・・・・・」

妹「何とか言え。つうか今すぐ忘れなさい」

兄「無茶言うなよ」

妹「もう。さっさと顔洗ってこい」

兄「うん」

妹「だから。人の胸ばっか見つめてるんじゃないの」

兄「すまん(悩んでねえのかな。もう元気になったのか?)」


<温水プールへ>




妹友「おはようございますお兄さん」

兄「おはよ」

彼氏「今日は遅いですね。運転とかで疲れましたか」

兄「うん、まあ」

妹「ほら。さっさと食べちゃってよ。早く出かけたいから」

兄「わかった。って今日はどうするの」

妹「最後の日だからね。妹友ちゃんと相談したんだけど」

兄「うん」

妹「泳ぎに行こう」

兄「はい?」

妹「去年買った水着持ってきたし」

兄「さすがにまだ寒いだろ。無理無理」

妹友「違いますよ。海で泳ぐんじゃなくて大きな温水プールがあるんです。ドームの中な
んですごく大きいんですよ」

兄「植物園は?」

妹「プールの方がいいから」

兄「おまえら水着持ってるみたいだけど、俺はねえもん。彼氏君は?」

彼氏「・・・・・・」

兄「彼氏君?」

彼氏「あ、すいません。水着は持ってません」

兄「だよなあ。どうする? 別行動するか」

妹「・・・・・・」

兄「(あ、いけね。妹に睨まれた。姫を放置しないって約束したんだったな)でも、水着
ないし」

妹「買えばいいじゃん」

兄「こんな季節に売ってねえだろ。あるにしたって街中まで出ないと無理だよ」

妹友「大丈夫ですよ。さっきスマホで調べたら施設内の売店で水着が売っているそうで
す」

兄「彼氏君どうする?」

彼氏「・・・・・・」

兄「彼氏君?」

彼氏「あ、すいません。どっちでもいいです。お兄さんにお任せします」

兄「そう?」


妹「こんな時期に泳げるなんて嬉しい」

兄「おまえらなあ。泳ぐなら事前に言っておいてくれればいいのに」

妹「今朝、二人で朝ごはんの支度しながら急に思いついたんだもん」

兄「全く」

妹「へへ」

兄「何だよ(今日も自然に俺の隣に座ったな)」

妹「本当は期待してるんでしょ?」

兄「期待って何が?」

妹「あたしと妹友ちゃんの水着姿」

兄「・・・・・・あのなあ」

妹「正直に言ってみ?」

兄「まあ、楽しみではあるけど」

妹「けど、何よ」

兄「昨夜もっとすごいのを見、って痛いつうか危ねえよ」

妹「だから忘れろって言ったでしょ」

兄「そんなに都合よく記憶操作なんかできるか。だいたい姫が勝手に脱い」

妹「死ね」

兄「わかったって。努力するから」

妹「全くお兄ちゃんはエッチなんだから」

兄「男なんてみんなそんなもんだ」

妹「・・・・・・ねえ」

兄「うん?」

妹「興奮しちゃった?」

兄「おまえ何言って」

妹「あたしの裸の胸を見て、思わず妹と間違いを犯しそうになっちゃった?」

兄「・・・・・・正直に言うとまあそうかも」

妹「あたしの胸なんかじゃ興奮しないって言ってたくせに」

兄「小さめだけど綺麗だった、って、おい。だから危ないからよせって。姫の方が聞いて
きたんだろう」


妹「・・・・・・ねえ」

兄「もういい加減勘弁してくれ。俺が無理矢理脱がしたんじゃないぞ」

妹「違うよ。そのさ。本当に綺麗だった?」

兄「・・・・・・ああ本当だよ」

妹「じゃあ何で何もしなかったの?」

兄「姫は俺の妹だから」

妹「実の妹に告っておいて何で今さら道徳的なこと言ってるのよ」

兄「後悔したからさ」

妹「後悔って? あたしに振られたから?」

兄「違うよ。そんなのは自業自得だ。そうじゃなくて。俺が告白したことによっておまえ
からいい兄貴を取り上げておまえを悲しませたことだよ。悔やんでも悔やみきれん。だか
ら俺はもう二度といい兄貴から逸脱しないし、昨日の夜みたいな状況になっても絶対にお
まえには手を出さない」

妹「意味わかんない。日本語で言ってよ」

兄「立派な日本語だろうが」

妹「じゃあ。もし、もしもだよ。あたしがお兄ちゃんのことが大好きだって言ったら?」

兄「そんなことは前から知ってる。おまえが好きなのは俺と父さんと母さんだろ」

妹「違うよ。そうじゃなくて、もしあたしが男として異性としてお兄ちゃんのことが大好
きだって言ったら、お兄ちゃんはどうする」

兄「嘘付けって言うね」

妹「何でよ」

兄「あり得ないから。おまえが必死になってるのは俺を振ったことで兄貴を失うのが辛い
からだろ。だけどもう心配するな。おまえが結婚したってずっとおまえを見守っているか
ら」

妹「否定はしないよ。多分、自分の中ではそういう感情があったと思う。でもさ、あたし
が結婚したら、お兄ちゃんは見守ってくれるかもしれないけど、一緒にはいてくれないで
しょ」

兄「当たり前だ。新婚夫婦と一緒に暮らすなんてできるか」

妹「そう考えたら何か恐くなっちゃった。自分の人生からお兄ちゃんが消える日が来ると
思うと」

兄「心配するな。結婚したいと思うほど好きな男ができれば、俺のことなんか自然に忘れ
られるよ」

妹「そんな簡単なことじゃないんだけどなあ」

兄「いや。すごく簡単なことだよ。結婚するってそういうことだろ。いつかは家庭から旅
立って自分の家庭を新しく作るときが来るんだって」


<返事はもちろんイエスだよ。喜んでお兄ちゃんの彼女になるね>




妹「あのさ」

兄「まだ納得できない?」

妹「それならあたし、結婚なんかしないもん。そうすればお兄ちゃんがずっと一緒にいて
くれるんでしょ?」

兄「またその話かよ。いつまでも家族四人で暮らすって話だろ?」

妹「何がいけないのよ。お兄ちゃん、ずっと独身であたしを見守るって言ってたじゃん」

兄「こんなことは言いたくないけどさ。おまえが大好きな父さんと母さんだって永遠に生
きていてくれるわけじゃないんだぞ。いつかは別れが来るんだよ」

妹「・・・・・・そんなのずっと先の話じゃない。今考える必要なんかないよ」

兄「まあ確かに今考える必要はないな」

妹「あたしさ。前に妹友ちゃんに言われたのね」

兄「何て?」

妹「あたしがお兄ちゃんのアパートに行って、女さんと二人でいるところを見たことを妹
友ちゃんに相談したときだけど」

兄(あ。それ確か妹友に聞いた)



妹友『何であたしから目を逸らして答えるのよ。うちの兄貴のこと好きなんでしょ』

妹『多分』

妹友『あんたねえ。あたしの兄貴をその気にしておいてそれはないでしょ。まさか、あん
た。お兄さんのことが本気で異性として気になりだしてるんじゃ』

妹『・・・・・・』

妹友『何か言ってよ』

妹『わからない。ちょっとよく考えてみる』



妹「自分でもよくわからなかったのね。でも、そのあのときは確かに女さんにお兄ちゃん
を取られたくないって思って。だから妹友ちゃんから問い詰められたときも即答できなく
て考えてみるって言ったんだけど」

兄(マジかよ)

妹「でも考えてもよくわからなかった。それからお兄ちゃんが女さんと別れて家に帰って
きてくれたから、あたしはとりあえず安心して、そのことはもうあまり考えないようにし
てたんだけど」

兄「ああ」

妹「でもさ。お兄ちゃんの学校に一緒に行って公園でデートしたり、女友さんに対抗して
お兄ちゃんの彼女の振りをしているうちにさ。何か変なんだけど」

兄「・・・・・・」

妹「とにかく楽しかったし気が楽なのよ。お兄ちゃんといると。それに彼女の振りをして
たとき、あたし本当はすごくドキドキして」

兄「おまえさ」

妹「ふと思ったの。これが恋なんじゃないかって」

兄「彼氏君のときだってそうだったんだろ」

妹「全然違うよ。ときめきもドキドキも何にもなかったもん」

兄「じゃあ何で付き合ったんだよ」

妹「それは言いたくない」


兄「・・・・・・(何なんだ。いかん、こっちまでドキドキしてきた)」

妹「昨日の夜、あたしが最後に言ったこと覚えてる?」

兄「・・・・・・ああ」



妹『・・・・・・』

兄『姫?』

妹『好き』

兄『え? 好きって・・・・・・え』

妹『お兄ちゃんが好き』

兄『ちょっと』



兄「あれって兄貴として好きって意味じゃねえの?」

妹「・・・・・・」

兄「えと」

妹「後ろの二人は?」

兄「寝てるよ。昨日よく眠れなかったのかな」

妹「じゃあ、言うね」

兄「言うって何を」

妹「お兄ちゃんの告白に対する返事」

兄「それはもう聞いた」

妹「前のは取り消し。あとお兄ちゃんにも彼女を作って欲しいというのも取り消し」

兄「・・・・・・」

妹「お兄ちゃん。返事をやり直すね」

兄「おまえは何を言って」

妹「お兄ちゃん。あたしを好きになって告白してくれてありがとう」

兄「ちょ、おま」

妹「返事はもちろんイエスだよ。喜んでお兄ちゃんの彼女になるね」


妹友「お兄さん、あっちにウォータースライダーがありますよ」

兄「そうだね」

妹友「一人じゃ恐いので付き合ってください」

兄「ええと。妹も行く?」

妹「あたしはいいや。流れるプールでぷかぷか浮いてるから」

兄「そう?(くそ。こんなときなのに姫の水着姿から目が離せねえ)」

妹友「お兄さん。ちょっと妹ちゃんをガン見し過ぎです」

兄「ち、違うって」

妹「お兄ちゃんは昔からエッチだからね。妹友ちゃんも気をつけてね」

妹友「え?」

兄(だから胸を隠すな。隠すほどもないくせに。でもこいつも可愛いな)

妹友「ちょっと、あまりじろじろ見ないでください」

兄「見てねえよ」

妹「早く行っておいで。戻ったらお昼にしよ」

妹友「うん。あそこのレストランは水着のまま入れるんだって」

妹「いいね」

妹友「じゃ。ちょっとお兄さん借りるね」

妹「どうぞー」

兄(妹はさっきの告白で吹っ切れたみたいだ)



妹『返事は急がないよ。お兄ちゃんだって今は悩みも多いだろうし』

兄『おま、おまえ。あのとき俺のこと振ったくせに』

妹『だからあれはリセット。なかったことにしたの』

兄『おまえ、無理して言ってるだろ』

妹『無理なんかしてない。悩んだ末の結論だもん』

兄『俺はどうすればいいんだよ。せっかくいい兄貴になることにしたのに』

妹『お兄ちゃんには女さんと妹友ちゃんもいるんだから、よく考えればいいよ。その選択
肢の中にあたしも入れておいてくれればそれでいい』

兄『・・・・・・マジかよ』



妹友「あ。妹ちゃんが男の人に囲まれてますよ。あれちょっとやばいんじゃ」

兄「行ってくる」

妹友「あ。お兄ちゃんだ」

兄「彼氏君?」


<父さんのおかげかな>




兄(あいつら。姫をナンパするとはいい度胸だ。ガキの頃、数年間父さんの言いつけで無
理矢理空手道場に通わされた俺の実力を見せてくれるわ)

兄(かわいそうに。妹が野郎どもに囲まれて怯えてる。あいつら絶対許さん)

兄(彼氏君が野郎どもに話しかけているけど、おとなしく話を聞く玉じゃねえだろ、あい
つら)

兄(あ。彼氏君が男の一人に殴られた!)

兄(妹が彼氏君を庇っているな。くそ。もう許さん)

兄(あいつら何人だ? 五人か)

兄(とりあえず妹を抱えているやつを潰して、間をおかずに彼氏君を殴ってるやつを何と
かしよう。多分それで残りの三人は怯むだろうから、あとは周りの客に頼んで警備員を呼
んでもらって)

兄(よし。ここまでは俺は冷静だ)

兄「姫を放せこの野郎!」

妹「お兄ちゃん!」



兄(何とか姫を捕まえていたやつはプールの底に沈めてやったけど。彼氏君救出には至ら
ず逆に俺がボコボコにされてしまった)

兄(すぐに警備員の人が来てくれて助かったけど)

兄(情けねえ。姫の前で醜態をさらしてしまった)

兄(しかし、一度自転車に乗れたら何年乗ってなくても再び乗れるって言うけど、空手は
全然駄目だな。腰の沈め方から型まで全然覚えてなかった)

兄(まあ、でも姫が無事ならそれでいい。案外、俺のこの残念な有様を見てさっきの告白
の返事も思い直すかもしれないし)

兄「って体が重い」

妹「お兄ちゃん」

兄「おう、姫。無事でよかったな」

妹「・・・・・・大丈夫?」

兄「多分平気だと思う。おまえは? 何かひどいことをされてねえか?」

妹「うん。大丈夫」

兄「よかった」

妹「お兄ちゃん、すごく格好よかったよ」

兄「やられてボコボコにされたのにか」

妹「だって向こうは五人もいたんだし。それにあたしのことは助けてくれたじゃない」

兄「姫が無事でよかったよ」

妹「・・・・・・お兄ちゃん。大好き」

兄「いやその・・・・・・泣くなよ」

妹「本当にどこも痛くない?」

兄「平気だけど・・・・・・彼氏君は?」

妹「大丈夫みたい。殴られてはいたけど」


兄「あいつ、格好よかったよな。あんまり強そうには見えないけど、おまえを助けようと
必死だったもんな」

妹「・・・・・・うん」

兄「ところであのバカたちはどうなった?」

妹「警備員の人が警察を呼んで連れて行かれた。あとであたしたちからも事情を聞きたい
って」

兄「俺、どのくらい気を失ってたんだろ」

妹「十五分くらいだよ。さっきまでこの施設のお医者さんがいてくれた。もう大丈夫っ
て」

兄「そうか。妹友は?」

妹「彼氏君と一緒にいる。妹友ちゃんも彼氏君が殴られるとこを見てパニックになって大
変だった」

兄「あいつにとっては大好きな兄貴だもんな」

妹「そうだね」

兄「ここどこ?」

妹「医務室。気がついたらもう普通にここから出ていいって」

兄「じゃあ行くか。飯食ってないし」

妹「お兄ちゃん」

兄「うん」

妹「お兄ちゃん大好き。やっぱりあたしに何かあったときはお兄ちゃんが救ってくれるん
だね」

兄(妹に抱きつかれた。しかも水着姿の妹に)

妹「よくわかったよ。あたしは間違っていないって。やっぱりあたしを一番大切にしてく
れるのは世界でお兄ちゃんだけだって」

兄「彼氏君だって必死におまえを助けようとしてたんだぞ」

妹「でも、あたしを助けてくれたのはお兄ちゃんじゃん。あたしを抱きかかえてたやつ
をやっつけてくれて」

兄「・・・・・・父さんのおかげかな」

妹「どうして?」

兄「俺が昔、空手道場のジュニアコースに無理矢理入れられたの覚えてない?」

妹「覚えてるよ。お兄ちゃんすごく嫌がってたね」

兄「正直苦痛だった。空手なんかに全然興味なかったから」

妹「じゃあ、何で通ってたの」

兄「父さんに言われたから。何かあったとき、おまえが妹姫を守れるようになれって」

妹「・・・・・・」

兄「まさか、こんなに後になって役立つとは思わなかったけどな」

妹「・・・・・・もう無理」

兄「へ?」

妹「もう無理。もう無理だよ。お兄ちゃん、大好きだよ。キスして」

兄「おいって」

妹友「妹ちゃん、お兄さんは大丈夫?」

兄・妹「え?」

妹友「・・・・・・何やってるの? 二人とも」


今日は以上です
また投下しますが、連日投下は無理かも

えぇ!
こんないいところなのに…
明日も書き込みお願いします~

乙です

生殺し…

乙!今日もまたいいことで!!

とうとう妹が吹っ切れたーー!!

兄はどうするんだ!?

彼氏君ーーーーーーーーーーー!!!!

ここまでいいヤツだった彼氏君がここからクズルート・下種ルートに堕ちるのか、渦中の兄はどんな答えを出すのか、兄ともがどんな惨めで惨たらしい最期を迎えるのか色々楽しみ多いな…乙です!

俺もいもうとがほしいぎあ


<もうやだ>




妹友「何やってるの? 兄妹同士でキス・・・・・・しかもそんな裸同然の格好で抱きあって」

兄「ちょっと待て。落ちつけよ(いけね。二人とも水着のままだった)」

妹友「むしろお兄さんの方が落ちいつた方がいいんじゃないですか」

兄「いや、その(よく考えたら俺、妹の裸の背中に思い切り触ってんじゃん。自分の方に
抱きかかえるようにして)」

妹友「・・・・・・いい加減に離れたらどうですか」

兄「あ、ああ(つうか姫が離してくれん。むしろ俺の首に回している腕に力が篭もったし)」

妹友「もうやだ」

兄「ちょっと待て。これは違うんだ(逃げちゃった。追いかけて誤解を)」

妹「行かないで」

兄「え?」

妹「行っちゃだめ」

兄「だって妹友の誤解を」

妹「誤解なの?」

兄「・・・・・・だってよ」

妹「抱きついてキスしたのはあたしだよ。でも、お兄ちゃんの手だってあたしを肌に触れ
ている。あたしを抱きよせてくれてるじゃない」

兄「・・・・・・(そのとおりだ。姫に抱きつかれたとき、俺は姫を抱き寄せた。どんなに自分
に、そして妹友に言い訳したってこれだけは本当のことなんだ)」

妹「妹友ちゃんには悪いことしちゃったけど」

兄「・・・・・・うん」

妹「これからもっといろいろ大変なこととか嫌なこととかあると思うけど」

兄「・・・・・・どういうこと?」

妹「お兄ちゃんがもう一度あたしに告白してくれるなら、あたしはそれでもいい」

兄「俺・・・・・・」

妹「ごめんねお兄ちゃん」

兄(耳元で囁く姫の声)

兄(一時期はあれほど望んでいたことなのに)

兄(何でこんなに不安なんだろう。それでもようやく俺の腕の中に入った姫のことを俺
は・・・・・・)


妹「もう一度キスして」

兄(それでも妹には逆らえる気がしねえ)

妹「・・・・・・お兄ちゃん」

兄「うん」

妹「とっても素敵なキスだったよ」

兄(こんなこと言う子だっけ? 姫って)

妹「大切な人はやっぱり身近にいたんだね」

兄「何それ。青い鳥?」

妹「ふふ」

兄「何だよ(俺の胸に顔を埋めた。姫の髪の感触が俺の裸の肌をくすぐって。ちょっとや
ばいかも)」

妹「・・・・・・大好き」

兄「(ちくしょう可愛い・・・・・・が何とか冷静になるんだ)姫って、俺とは付き合えないの
かと思ってたよ」

妹「ごめん。でもあのときの返事はなしって言ったでしょ?」

兄「そうだけど」

妹「お兄ちゃんに抱かれてるとドキドキするんだけど、それでもなんか落ちつく。すごく
安心する」

兄「姫(我慢できねえ)」

妹「・・・・・・それはちょっと痛いかな」

兄「ごめん(すべすべしてた)」

妹「いいよ。でもそろそろここ出ないと医務室の人に変に思われちゃう」

兄「じゃあ行くか」

妹「どこも痛くない?」

兄「平気」

妹「よかった。お兄ちゃん。妹友ちゃんには悪いけど、今日はもうずっとあたしと一緒に
いて」

兄「・・・・・・そうする(流されてるな俺)」


妹「お兄ちゃん」

兄「ああ」

妹「お昼どうする?」

兄「水着で入れるレストランに行くんじゃなかった?」

妹「でも・・・・・・妹友ちゃんたちは?」

兄「そういや見当たらないな」

妹「先に行っちゃっていいのかな」

兄「携帯はロッカーの中だしなあ。少し探してみるか」

妹「そうだね」

兄(予想どおり姫に密着された。嬉しいけど何か複雑な気分だ)

兄(彼女を作る作らないに関わらず俺はずっと姫を見守る気になっていたし、そのこと
は姫にも伝わっていたはず)

兄(それなのに昨日の夜は・・・・・・服まで脱いで)



妹『お互いに恋人なんか作らないでいつまでも兄妹で一緒にいる運命だったんだよ』

兄「お互いに一人身でか?」

妹『あたし、お兄ちゃんの彼女にはなれないけど。でも、お兄ちゃんが辛いならできるこ
とはするから』



兄(最初はこうなって。そんで次に)



妹『・・・・・・』

兄『姫?』

妹『好き』

兄『え? 好きって・・・・・・え』

妹『お兄ちゃんが好き』

兄『ちょっと』



兄(それでさっき、前にした告白の返事のやり直しをされた。俺とは付き合えないんじゃ
なかったのかよ。つうか、お互いに一生独身で一緒にいるのと、俺の彼女になるって言う
のって意味としては全然違うと思うんだけど)

兄(妹も混乱してるんだろうか)

兄(妹友にも女にもずるずるってわけにはいかないよな)

兄(どうしたもんか)


<姫を自分だけのものにしたい>




妹「いないねえ」

兄「どこ行ったんだろうな。いくら大きなプールっていったって見逃すほどの規模でもね
えのにな」

妹「迷子の放送をお願いしてこようか」

兄「子どもじゃないんだから」

妹「じゃあどうするのよ。さすがに勝手に食事しちゃうわけにもいかないじゃん」

兄「・・・・・・じゃあ更衣室に行って携帯で電話してみるよ。これだけ探していないんだ。ひ
ょっとしたらもう着替えて外に出てるのかもしれないし」

妹「あたしたちに黙って勝手に?」

兄「・・・・・・」

妹「・・・・・・そうだね」

兄「それくらいのことをしちゃったんだし。しかも最中を見られたし」

妹「うん」

兄「いやさ。別に姫を責めてるわけじゃないぞ? 俺だって正直に言うと長年の夢がかな
ったみたいで嬉しかったし、姫に応えて、その、姫を抱きしめたりとかしちゃったし」

妹「本当に嬉しかった?」

兄「まあな」

妹「・・・・・・」

兄「・・・・・・いやあの。別に深い意味はなくて」

妹「お兄ちゃんの長年の夢って何? 正直に聞かせて」

兄「(嘘は言えねえな。たとえ姫にドン引きされても)姫のことだけどさ」

妹「あたしのこと?」

兄「ああ。昔からそうだった。姫がまだ小学校低学年の頃から。まあ、多分そうだった」

妹「ちゃんとわかるように言ってよ」

兄「昔からそうだったんだよ。姫を自分だけのものにしたいって、姫の心も身体も全部俺
だけのものにしたいって思ってたよ。姫は自分の実の妹なのにな」

妹「・・・・・・そうか」

兄「おまえ可愛かったからね。見た目も性格もさ。そんな子が身近に家庭にいるんだぞ。
姫が中学生の頃さ、おまえは無邪気に俺にまとわりついていたけど。もう少しで襲い掛か
りそうになったことなんか何度でもあったよ」

妹「・・・・・・何で襲わなかったの」

兄「それだと姫の心までは奪えないからな。姫の身体だけ奪ったって意味ないんだよ。だ
から我慢してた。オナニーはしてたけど」

妹「そういやあたしの名前を呼びながら変なことしてたよね、あのときも」

兄「おまえにはそんなこと許可してないとかって言われたけどな」


妹「そうだった」

兄「正直ドン引きだろ? 姫が慕ってきた大好きな家族の一人がおまえに欲情を抱いてた
なんて知ったら」

妹「そんなことないよ。いまさら何言ってるの」

兄「・・・・・・だってよ」

妹「あたしの名前を呼びながら変なことしてた時点でそんなことはわかってたって」

兄(うん? そういやあれを見られたときの姫ってわりと落ちついてかな)

妹「それで?」

兄「それでって。まあ自分でも報われない想いなのはわかってたけどさ。とりあえず姫に
は彼氏もいないようだったから、あの頃の俺のライバルはうざい父さんだけだったんだよ
な。まあ、彼氏君と寄り添って歩いている姫を目撃するまではだけど」

妹「彼氏君なんてどうでもいいけど、今は?」

兄「へ?」

妹「正直に話してくれたのはわかった。けど、今の気持はどうなの? お兄ちゃんだって
妹友ちゃんとか女さんとかに誘われてるんでしょ」

兄「結局さ。こうなったらどうしたって誰かを傷つけちゃうんだよな。別に俺なんかがも
てもてのイケメンみたいなことを言うのも滑稽だろうけど」

妹「そんなことはないけど」

兄「今は悩んでるさ。正直、姫に振られておまえを自分のものにすることについてはきっ
ぱりと諦めた。無理矢理そうする気なんかなかったし、そのほかの選択肢なんかなかった
から。でもさ、家族の一人をそれで失った姫を見て、告白したことを心底後悔したんだよ
ね」

妹「うん」

兄「何度も言ったことだよなこれ。しつこく言って悪い」

妹「もういいから、ちゃんと答えて」

兄「答えてるけど」

妹「そうじゃないよ。今は? あたしがお兄ちゃんの彼女になるねって言ったことを聞い
たでしょ。それで今はどう考えてるの」

兄「わからん。夢にまで見た姫の身体の方は昨晩上半身のヌードを見せてもらったし、今
日はおまえを抱きしめて姫の素肌にも触れることができた。姫の心と身体のうち身体の方
は手に入れた気になった気がした」

妹「触っただけでいいの?・・・・・・つうか、あれだけはっきり告白に返事したのにまだ理解
してくれないの?」

兄「俺の告白に応えるってことはさ。おまえの好きな父さんと母さんを裏切ったり騙すっ
てことだぞ。そこまでわかってて俺の彼女になるねとかって言ってるのか」

妹「もしかしてお兄ちゃんって、あたしのことを本当にバカだと思ってる?」

兄「何でだよ」

妹「あたしが何でお兄ちゃんの告白を一度断ったと思ってるの」

兄「それは・・・・・・。俺のことなんか好きじゃなかったか、あるいは好きかもしれないけど
近親相姦なんて無理って思ったかどっちかだと」

妹「どっちも違うよ」

兄「どういうこと?」


妹「お兄ちゃんに告白されたとき、付き合えないって言ったのはね」

兄「・・・・・・うん」

妹「大切な家族の関係を壊したくなかったから。理由はそれだけ」

兄「え? じゃ、じゃあさ。俺のことが好きじゃないわけじゃ」

妹「昨日から何回も言ってるでしょ。あたしはお兄ちゃんのことが好き。異性として。昔
から」

兄「昔からって。そこまでは聞いてない」

妹「多分小学校の四年生くらいの頃かな。あたしがお兄ちゃんに初恋したのって」

兄(夢みたいだ)

妹「それからはずっと大好きで。でもそういうことをはっきり口にするとパパもママも悲
しむって次第にわかってきて。それからはとにかく仲のいい兄妹でいようと思った。それ
だけが目標だった」

兄「全然知らなかったよ」

妹「お兄ちゃんは鈍感だからね。あたしはお兄ちゃんの気持ちなんか昔から知ってたよ。
冗談めかして照れ隠しで偉そうに言ってるけど、この人って本当にあたしのことが好きな
んだなあって」

兄「(マジかよ。小学校の頃から姫と俺は両想いだったってことじゃん)じゃ、じゃあ」

妹「うん」

兄「何で今になって俺の彼女になるなんて言い出した? 父さんと母さんはどうなる」

妹「もともとお兄ちゃんが一人暮らしを始めた頃から限界だと思ってたの。もう我慢でき
ないって。それでそれからいろいろあったけど、今日お兄ちゃんがあたしを乱暴な男の人
から助けてくれて。それで嫌だった空手もあたしを守るために練習してくれていたことを
聞いたときにね」

兄「・・・・・・」

妹「もう自分の気持を偽るのは無理だと思った。もうあたしは選ばなきゃいけないって思
ったの」

兄「選ぶって」

妹「あたし、もう決めた。お兄ちゃんがあたしを欲しいって言ってくれたら、あたしもも
うそれでいい。パパとママを失うことになってもお兄ちゃんがずっとあたしの彼氏でいて
くれるならもうそれでいい」

兄「おまえさ。昔から何よりも家族のことが大好きだったのに」

妹「昔からお兄ちゃんのことが一番好きだった。いろいろ回り道したけど、お兄ちゃんが
あたしを受け入れてくれるならもうそれでいいって決めた」

兄「・・・・・・なら俺もそれでいいや。おまえのこと昔から愛してる」

妹「お兄ちゃん。あたし、それがFAって思ってもいいの?」

兄「ああ。姫のこと大好きだ」

妹「あたしも大好き。お兄ちゃん愛してる」


<キス>





兄「これ」

妹「メールに返信があったの?」

兄「うん」



from:妹友
to:お兄さん
sub:無題
『ごめんなさい。ちょっとお兄ちゃんと話もあったので勝手にバスで別荘に帰ってきてい
ます。連絡もしないで本当にすいません。お兄さんと妹ちゃんは予定どおりプールで一日
過ごしてから帰ってきてください』

『お昼も夕食も勝手に済ませますからお兄さんたちもそうしてください』



妹「そうか」

兄「とりあえず食事する?」

妹「もうプールはいいや。どっか外でお昼食べて帰ろ」

兄「おまえ、今日はろくに泳いでないんじゃない?」

妹「うん。でももういいや」

兄「そんじゃそうしようか」

妹「ひょっとして残念なの?」

兄「何が」

妹「もっと付き合い出したばかりの彼女の水着姿を見たかった?」

兄「・・・・・・まあな」

妹「真顔で答えないでよ。反則だよつうか照れるじゃん」

兄「姫と一緒で俺も吹っ切れたからね。今のは本音」

妹「じゃあ、お兄ちゃんがいい子にしてたらまた見せてあげる。今のは本音」

兄「真似するなよ」

妹「真似じゃないよ」

兄(・・・・・・また姫にキスされたけど。今度ばかりは本気で嬉しい)

妹「じゃあ着替えて入り口で待ち合わせね。遅れないでね」

兄「おう。一分でシャワー終らせるよ」

妹「そこはちゃんと洗えよ。じゃあね」

兄「おう」

おわり


兄「じゃあ行こうか。もうこの時間だから昼と夕食と一緒でいいな」

妹「いいよ。今度こそ二人きりでドライブだね」

兄「そうだな」

妹「お兄ちゃん」

兄「どうした」

妹「車の中で二人きりなんだよ」

兄「そうだけど」

妹「今日はあたしがお兄ちゃんの彼女になった記念日じゃん」

兄「そうだけど・・・・・・あんまり恥かしいこと言うなって」

妹「照れることないでしょ。これからはつらいこともあるかもしれないんだし」

兄「それはそうだね」

妹「つらいことに対抗するにはきっと大切な思い出が武器になるんだと思うよ」

兄「ま、そうかな(よくわかんねえ)」

妹「こら。ここまで姫が譲歩して言ってるんだからいい加減にあたしにキスしなさいっ
て」

兄「・・・・・・了解」

妹「・・・・・・ちょっと!」

兄「・・・・・・うん」

妹「キスしろとは言ったけど。あ、お兄ちゃんいや」

兄「可愛いよ姫(すごく細いけどすごく柔らかい。そしてすべすべな肌)」

妹「・・・・・・もう。あんまり服とか髪を乱したら怒るよ」

兄「可愛いよ姫(夢にまで見た姫の身体のライン)」

妹「こら。信号青だって。もうおしまい」

兄「ああ」

妹「続きは夜でいいでしょ。全くエッチなんだから」

兄(妹萌えとはまさにこれか)


妹「お昼食べよう。もうあそこでいいね」

兄「またこの店かよ。伊勢海老と金目鯛しかないのに」

妹「どこでもいいじゃん。四人じゃなくて二人きりなら」

兄「そうか。そうだな(姫・・・・・・もう、どうにかしちゃいたいほど可愛い)」

妹「ほら、これ食べて」

兄「うん」

妹「もっと口開けてよ。あ~んってして」

兄「うん」

妹「美味しい?」

兄「美味しい。ほら、おまえも伊勢海老食え」

妹「食べさせて」

兄「ほら」

妹「うん。美味しい」

兄「不思議だな」

妹「何が?」

兄「四人で来たのと同じことやってるだけのに、姫と二人だと何か景色も食物の味も全然
違う気がする」

妹「それはね。ずっとお兄ちゃんとあたしが一緒に生きてきたからだよ。そしてその歴史
を踏まえて恋人同士になったんだもん。景色が違って当たり前だと思うよ」

兄「そうだな」

妹「着いちゃったね」

兄「何で残念そうよ」

妹「だって」

兄「(これで何度目の感想か忘れちゃったけど)姫、おまえ本当に可愛いよな」

妹「ちょっとしつこいよ・・・・・・。でもまあ、お兄ちゃんにそう言ってもらえると嬉しい」

兄「何度でも言うよ」

妹「あたしはもうお兄ちゃんだけのものだから。心も身体も」

兄「夢みたいだ。昔から片想いしてた姫が俺のものになるなんて」

妹「だから片想いじゃないって」

兄「そうだったな。そしたらもっと夢みたいだ」

妹「・・・・・・恥かしいよ。もうやめよ」

兄「だってさ。一度は永遠に諦めていたことが実現したんだし」

妹「そうか。待たせちゃってごめんね」

兄「いや。愛してるよ妹姫」

妹「あたしも愛してるよ、小さい頃からずっと」

兄「ありがとう姫」

妹「ありがとうって変だよ」

兄「そうかな」

妹「うん。別荘に入ろう」

兄「そうだな風呂入って一緒に寝ようか」

妹「あ」

兄「何?」

妹「あのね。お兄ちゃんのことは好きだし。その昨日みたいなのでもいいんだけど」

兄「(あ)そういうつもりじゃないって」

妹「・・・・・・昨日あれだけ迫ったのに今さらだと思うだろうけど。昨日は必死だったし、落
ちついて考えるとね。その最後までするなら」

兄「うん」

妹「初めては隣に妹友ちゃんたちがいないときの方がいいな」

兄「わかってるよ(姫を抱きしめたい)」

妹「・・・・・・うん」

兄「(逆に妹に抱きつかれた)じゃあ、入ろう」

妹「そうね」

兄「真っ暗だな。照明のスイッチは」

妹「あ」

妹友「・・・・・・」

 べったりと抱き合ってもつれるように別荘に入って照明をつけた俺たちの目の前に、妹
友と彼氏君がソファで半ば横たわりながら抱き合ってキスしている姿が目に入った。見た
くはなかったけど二人は半ば裸身のままだった。

 突然明るくなったことに驚いたらしい妹友が彼氏君の腕を振り解いて、俺たちの方を見
た。

「えと。これは違うの」

「邪魔すんなよ。ふざけんな。どこまで身勝手なんだおまえらは」

 妹友を離して体を起こした彼氏君が、何かを言いかけた妹友を遮るように怒鳴った。


今日はここまで
また投下します


期待してるぜ

やっぱりもうお前ら皆死んじまえって気分になった



無事兄と妹は結ばれたか...おめでとう!!

ただ....これは予想外の展開になってきたぞ!??

結局彼氏もまた妹が異性として好きな兄と同類だったと言うことか…どうも、ヤバイオーラ漂わせてきたが

しかし妹も昔から兄が好きだったって、それまでの「異性として好きなのかがよく分からない」発言と矛盾するような気が…?
なんにせよ乙!どんどん面白くなってきた

???

人の別荘でやってるやつが悪い

ついに彼氏君キレたか

全員クズやないか!!!


<なぜ彼氏は自分の妹を襲ったのか>




兄(こいつら何をやって・・・・・・いやいや、全然こいつらのことをとやかく言える立場じゃ
ないけど。それにしても穏かで礼儀正しい彼氏君とは思えない言葉遣いだ)

彼氏「何か言えよ。おまえら二人して僕たち兄妹のことを見下しやがって。わざといちゃ
ついてるところを見せ付けて僕たちが悩んでるのをニヤニヤしながら面白がってたんだ
ろ」

兄「彼氏君、落ちつけよ。何か誤解してんぞ(でも本当に誤解か。前にも一度想像したこ
とがあるけど、彼氏君の立場に立てばこれは立派なNTRかもしれないな)」

彼氏「何が誤解だこの野郎。僕のことを親切に相手する振りしやがって。最初から惨めな
僕たちを眺めて楽しむつもりでこの旅行に誘いやがったくせに」

兄「何を言ってるんだおまえは。とにかく少し落ちつけって。ちゃんと話せばわかるよ」

彼氏「・・・・・・それ本気で言ってるのか」

兄「当たり前だろ」

彼氏「それならてめえのビッチな妹に聞いてみるんだな。何でこの旅行に俺たちを誘った
のか」

兄「(・・・・・・こいつ俺の姫のことをビッチだと。いや我慢だ。とにかくこいつの誤解を解
くのが先だ)もともとは家族旅行が駄目になったんで、親父が妹にせめて友だちとどっか
行けって言ったからだよ。ただそれだけなんだけど」

彼氏「んなわけねえだろ。あんたのクソ妹にはちゃんと目的があったんだよ。聞いてみろ
よ、あんたの大切なクソビッチに」

兄「(・・・・・・こいつ。もう我慢できん)黙って聞いてりゃいい気になりやがって。俺の姫
のことをそれ以上悪く言うと」

彼氏「悪く言うと何ですかあ? お得意の空手で僕と妹友をノックアウトするつもりなん
ですかね?」

兄「・・・・・・てめえ」

妹「お兄ちゃんだめ」

兄「だってこの野郎、姫のことを」

妹「暴力はだめ」

兄(彼氏め。もう一言でも姫のことを悪く言ってみろ。姫が何と言おうとただじゃすまさ
ん。これで見逃したら父さんにも申し訳が立たん)

妹友「お兄さん」

兄「え」

妹友「うちのお兄ちゃんの暴言についてはあたしがお詫びします。妹ちゃんも本当にごめ
んね」

兄「いや。おまえが謝る必要は」

彼氏「・・・・・・妹友は黙ってろ」

妹友「あと、ありがとうございました」


兄「え?」

妹「何言ってるの」

妹友「二人が入って来てくれて助かりました。あのままじゃあたしはお兄ちゃんにレイプ
されていたところでしたから」

兄「・・・・・・何だって?」

妹「・・・・・・妹友ちゃん、それって」

兄「おまえそれ本当なのか(最低だこいつ)」

彼氏「違う。僕たちはそこの淫乱なビッチに追い詰められて」

兄「(言うに事欠いて姫のことを)てめえ」

彼氏「離せよ! 僕は悪くない」

兄「黙れ」

妹「お兄ちゃん!」

彼氏「・・・・・・殴ったな」

兄「もう一言でも姫のことを悪く言ってみろ。こんなんじゃすまないぞ」

妹友「もうやめましょう。とりあえずこの格好では恥かしいので服を着させてください」

妹「そうだね。お兄ちゃん、寝室に行こう」

兄「あ、気がつかなくて悪い」

妹友「いえ。着替えたら声をかけます」



妹「お兄ちゃん、暴力はやめてって言ったのに」

兄「だってあいつ姫のことを淫乱とかビッチとか言いやがったから」

妹「さっきのプールのときとは状況が違うでしょ。彼氏君は手を上げたりしたわけじゃな
いんだし」

兄「俺だって最初は我慢したぞ。でもあいつは」

妹「とにかく最初に手を出した方が悪いことになっちゃうんだから。これからは気をつけ
てね」

兄「・・・・・・(だが姫を侮辱されて黙っているわけにはいかん。父さんにも姫を守るよう言
われてるんだし)」

妹「あたしはお兄ちゃんやパパが考えているようなか弱い女じゃないよ。お兄ちゃんたち
の幻想を壊しちゃって悪いけど」

兄「・・・・・・何言ってる。姫は今にも壊れそうな繊細な子だし、俺や父さんたちが守ってや
らないと」

妹「そんなことはないんだよ。本当は」

兄「・・・・・・だって」

妹「でもありがと。お兄ちゃんのしたことは間違っているけど、それでもあたしを庇って
くれて、守ってくれて嬉しかった。本当にあたしはお兄ちゃんに守られてるんだって実感
できた」

兄「・・・・・・」

妹「だからありがと。これはお礼ね」


妹「ねえ」

兄「うん」

妹「彼氏君が妹友ちゃんを・・・・・・その、無理矢理って本当かな」

兄「妹友がそう言ってったんだから嘘じゃねえだろ。あんなこと冗談で言えることじゃね
えよ。まして相手は自分の兄貴なんだし」

妹「何でそんなことしたんだろ。自分の妹なのに」

兄「普通は妹じゃなくたってレイプなんてしねえよ」

妹「それはそうだけど。さっき乱暴な人たちに連れて行かれそうになったあたしを、彼氏
君は助けてくれようとしたわけでしょ? それなのに自分が同じことをするなんて」

兄「人間って意外と複雑だしな。本当は何を考えているかなんか他人にはわからないし」

妹「・・・・・・ねえ」

兄「うん」

妹「さっきの彼氏君が言ってた旅行の目的の話、あれはでたらめだからね」

兄「そんなのは当たり前だ」

妹「本当に連休中に予定のない友だちを探すつもりでいて。最初に一番仲のいい妹友ちゃ
んに声をかけたら、連休中は予定は空いてるよって言われたの」

兄「わかってるって」

妹「ただ意外だったのは、妹友ちゃんから彼氏君も一緒でいい? て聞かれたこと」

兄「そうだったのか」

妹「うん。まさかだめとは言えなくて。そしたら妹友ちゃんからはダブルデートだねって
言われた」

兄「それってさ。組み合わせは・・・・・・」

妹「妹友ちゃんの中では、あたしと彼氏君がペアで、お兄ちゃんと妹友ちゃんがもう一組
のカップルだったんだと思う」

兄「まあ姫と彼氏君は付き合ってるんだしな(そうだ。姫に俺の想いが通じたなんて浮か
れてたけど、まだ妹と彼氏君は恋人同士なんだよな」

妹「彼氏君の言ってたことは全部誤解。それだけは間違いないけどさ」

兄「うん」

妹「でも、彼氏君が難癖をつけてるわけじゃなくて、本心から信じて言ったのかもね」


<さっきみたいな誤解をされてもしかたないのかも>




兄「あいつは、何でまたあんな捻くれたことを考えるんだ」

妹「うん。客観的に考えてさ。あたしとお兄ちゃんの仲ってどう見えたんだろうね」

兄「俺には客観的になんか見れないけどさ。前半は俺は姫に相手にされずに拗ねてたな」

妹「後半は?」

兄「夢みたいだった」

妹「ふふ。でもさ、それを彼氏君とか妹友ちゃんの視点で見るとどうなのかな」

兄「それは(まあ面白くはないよな。彼氏君にとっては彼女を奪われたように感じたかも
しれない。もっと被害妄想的に考えれば、妹が彼氏君と別れたくて俺との仲を見せつけた
って考えちゃっても不思議はない)」

妹「本当にそんなつもりはないんだけど。でも結果的にはいろいろあって、この旅行中に
あたしはお兄ちゃんへの気持ちをもう我慢しないことにしたじゃん? だからそれを彼氏
君が見たらさっきみたいな誤解をされてもしかたないのかも」

兄(そもそも姫は彼氏君のことをどう思ってるのかな。前は俺に彼女がいないなら自分も
別れると言っていた。俺のためだって言ってたけど、そもそも本当に好きならこんなこと
くらいで彼氏と別れるなんていわないはずだ)

妹「だからさ。あながち彼氏君の被害妄想だって切り捨てるわけにはいかないかもね」

兄「あのさ」

妹「うん?」

兄「おまえはさ。彼氏君の彼女なわけじゃん? あいつのことどう思ってるの」

妹「どうって。別に嫌いじゃなかったけど」

兄「けど?」

妹「本当に妹友ちゃんに無理矢理言うことを聞かせようとしたんだったら軽蔑する。もう
顔も見たくない」

兄「まあな」

妹「お兄ちゃんならあたしが嫌がることは絶対にしないもん」

兄「それだけ自信を持ってそうだと言える」

妹「それだけなの?」

兄「いや、それだけじゃないけど」

お前ら全員[ピーーー]クズどもとしか言えない


妹「・・・・・・まだ着替えてるのかな」

兄「妹友ちゃん、ほとんど裸に近かったし」

妹「・・・・・・」

兄「いや、そんなには見てねえけど」

妹「最低」

兄「だから見てねえって。彼氏君が姫を傷つけるようなことを言ってたんで、妹友を見て
る余裕なんかなかったよ」

妹「・・・・・・そうか」

兄「そうだよ」

妹「まあ、でもお兄ちゃんに本当に愛されているんだっていうのはさっき感じたよ」

兄「本当に姫のこと愛しているし」

妹「・・・・・・うん」

兄「ほら」

妹「お兄ちゃん」

兄(こんなときだけど妹が俺の腕の中で上目遣いに俺を見つめると)

兄(やっぱり幸せだ。俺って姫が生まれたときからずっとこいつに恋してきたんだなあ)

妹「もっと撫でて」

兄「猫かよ」

妹「もうそんでもいいや」

兄「・・・・・・姫」

妹「お兄ちゃんがあたしを姫って呼び出したのって最近じゃない?」

兄「うん。父さんだけはおまえのこと姫とか妹姫とか呼んでたけど」

妹「だからお兄ちゃんにそう呼ばれるとなんだかちょっと恥かしい」

兄「嫌ならもう呼ばないけど」

妹「・・・・・・意地悪」

兄「別にそんなつもりじゃ」

妹「恥かしいけど嬉しいの!」

兄「それならよかった。姫って本当に可愛いな」

妹「お兄ちゃんってそればっか」

兄「だって本当に可愛いんだからしかたない」

妹「・・・・・・ばか」


兄「あれ?」

妹「どうかしたの」

兄「外で車の音がする」

妹「うちの車?」

兄「いや。エンジン音が違うよ」

妹「誰か来たのかな」

兄「そんなわけねえだろ」

妹「伯父さん?」

兄「今、家族揃ってオーストラリアに旅行中だろ」

妹「じゃあ誰だろ」

兄「ちょっとカーテンを開けるぞ」

妹「ちょっと待ってよ」

兄「何だよ」

妹「外から見えちゃじゃん。服とか直すからちょっと手を離して」

兄「そんなのわからないって」

妹「誰がこうしたと思ってるのよ」

兄「悪い」

妹「もういいよ」

兄「何か外でずっとアイドリングしてるな。開けるぞ」

妹「タクシー?」

兄「だな」

妹「あれって」

兄「荷物を乗せてるね。彼氏君と妹友が」

妹「うそ? こんな時間に出て行っちゃうの?」

兄「妹友に騙されたな。どうする? 外に出て問い詰めるか」

妹「・・・・・・いいよ。放っておこう」

兄「二人がタクシーに乗り込んだぞ。何かとても襲ったり襲われたりした二人とは思えな
いんだけど」

妹「そうだね。後部座席で寄り添ってるね」

兄「タクシーが出て行ったよ」

妹「うん」


<真実は?>




兄「いったいどうなってるんだろう」

妹「さあ」

兄「あいつらどこに行ったのかな」

妹「別なホテルか駅で電車に乗って帰るかどっちかじゃない?」

兄「こんな時期にホテルなんか空いてるわけねえだろ。ラブホならわかんないけど」

妹「お兄ちゃん」

兄「あ、いや」

妹「この時間ならまだ上りの特急はあるんじゃない?」

兄「ああ、そうか。連休の途中だから上りはまだ空いてるかもな」

妹「これで二人きりか」

兄「いや、今はそういう場合じゃ」

妹「何で?」

兄「だって収まりつかないじゃん。いろいろわからないことが多すぎる」

妹「わからないことって? お兄ちゃんとあたしがすっきりと初夜を向かえるために、こ
こは正直にお互いに確認しておこうよ」

兄「おま。初夜って」

妹「だって。さっきからお兄ちゃん、あたしの身体を触ってばかりいるし。あたしのこと
が欲しいのかなって」

兄「俺はだな。姫のことは大切にしたいって」

妹「じゃあ、変なことはずっとなしでもいい?」

兄「・・・・・・いや」

妹「いやってどういう意味よ」

兄「だからさ」

妹「もう全部話すよ。お兄ちゃんは今ではあたしに隠し事をしてないみたいだし」

兄「・・・・・・ああ」

妹「じゃあお話しようか。でも、一応恋人同士なんだからお布団の中で抱き合いながら話
ししよう」

兄(いったいなぜそうなる)


妹「いろいろ聞きたいんでしょ? 何から話そうか」

兄「そうだな(ちょっと抱きつきすぎだろ。俺の胸に頭を押し当てているせいで姫の声が
よく聞こえないじゃんか)」

妹「・・・・・・ちょっと。話が終るまでは服の間から手を入れないでよ。エッチなんだから」

兄「偶然だって。姫の誤解だ」

妹「・・・・・・あたしだって本当は勇気を振り絞って話をしようとしてるんだよ」

兄「あのさ。いろいろわかんないだけど、一番わかんないのが姫の彼氏君への気持ちだな。
付き合ってたんでしょ? 彼氏君と」

妹「うん」

兄「妹友から馴れ初めは聞いてるんだ。そんで返事を保留していた姫が、俺が姫以外の女
の子に目移りして姫を怒らせたときに姫が付き合いをOKしたって聞いた」

妹「そうだね。お兄ちゃん?」

兄「ああ」

妹「あたしさ。初恋はお兄ちゃんだったって言ったじゃん? それで昔からお兄ちゃんが
好きだったって。あたしとお兄ちゃんは前から両想いだったんって」

兄「うん。すげえ嬉しかった」

妹「それは嘘じゃないの。でも、ほんの一時期だけど、自分の気持がわからなくなったこ
とがあってね。パパとママを悲しませなくないから自分のお兄ちゃんへの気持は封印しな
きゃって思ってて。でもお兄ちゃんが側にいないと寂しくて辛くて。そんなときにお兄ち
ゃんがあたしと一緒にいるのに目に付く女の子をじっと見ているのを知ってさ。少し何か
違うなって思ったの」

兄「あれは本当に恋とか愛情とかとは違うんだけどな」

妹「そうかもしれないけど。あのときのあたしにはあれはいいきっかけだったの。両親の
ためにお兄ちゃんの恋を諦めるためには。それであたしはお兄ちゃんだってあたしだけを
好きなわけじゃないんだし、あたしだけ悩むなんてばかばかしいと思うことにした」

兄「・・・・・・」

妹「結局、その決意もお兄ちゃんの部屋に女さんがいたのを見て嫉妬しちゃってさ。再び
心がぐら付いちゃったんだけどね」

兄「妹友が言ってたな」



妹友『妹ちゃんさ。まさかと思うけど、お兄ちゃんの部屋に女さんがいるのを見て嫉妬し
たの』

妹『・・・・・・』

妹友『だから女さんっていう人のことを、嫌な女だなんて言ったの?』

妹『・・・・・・違うよ』

妹友『何であたしから目を逸らして答えるのよ。うちの兄貴のこと好きなんでしょ』

妹『多分』

妹友『あんたねえ。あたしの兄貴をその気にしておいてそれはないでしょ。まさか、あん
た。お兄さんのことが本気で異性として気になりだしてるんじゃ』

妹『・・・・・・』

妹友『何か言ってよ』

妹『わからない。ちょっとよく考えてみる』

妹友『・・・・・・妹ちゃん』



兄「これか」

妹「そうこのときのこと。あのときは確かに女さんにお兄ちゃんを取られたくないって思
った。だから妹友ちゃんから問い詰められたときも即答できなくて考えてみるって言った
んだけど」


兄「それで?」

妹「もともとは妹友ちゃんから言われたの。彼氏君が昔からあたしのことを好きだったっ
て。よかったら付き合って欲しいって言ってるよって」

兄「うん」

妹「それで一度一緒に登校して、次に休みの日に図書館で彼氏君と二人で勉強したの。あ
のときはお兄ちゃんに友だちと遊ぶって嘘をついた。ごめんなさい」

兄「それはいいけど」

妹「図書館で彼氏君は、あたしに恋人の振りをしてくれって言ったの」

兄「はあ? 何だよそれ」

妹「妹友ちゃんが彼氏君のことを兄ではなく男として見ているから、それを諦めさせたい
って。そんな関係は妹友ちゃんの将来を歪めるだけだからって」

兄「・・・・・・なるほどね。さっきの彼氏君の態度や行動を見なければ彼氏君らしいって思え
たんだろうけどな」

妹「今にしてみればそうなんだけど、そのときはそういうことならって彼氏君の彼女の振
りをすることにしたの」

兄「・・・・・・マジかよ」

妹「あ、でももちろん本当の恋人じゃないよ。それに絶対に付き合っていることはお兄ち
ゃんや他の同級生たちには内緒にする約束までして。結局約束を守ってくれなかったけ
ど」

兄「それで?」

妹「だけどさ。そのときは妹友ちゃんを大切にする彼氏君のことがすごく優しいいいお兄
さんに見えて」

兄「・・・・・・」

妹「お兄ちゃん怒らない?」

兄「何がだよ」

妹「正直に言うから怒らないで」

兄「おまえが生まれてから一度だって俺が姫に対して怒ったことがあるか?」

妹「・・・・・・そのときね。彼氏君のこと少し見直しちゃったの。本当にこの人は妹思いなん
だなって。それでつい」

兄「つい?」



妹『・・・・・・本当に優しいんだね』

彼氏『そんなことないよ』

妹『あたし、悩んでいるんだけど。でもその悩みの人がいなかったら彼氏君のことを好き
になってたかも』

彼氏『・・・・・・声が小さくてよく聞こえなかった。でも何か僕のことを好きになったって
聞こえたような』

妹『違うよ。忘れて』

彼氏『でも』

妹『条件追加。今のは忘れること。いい?』

彼氏『・・・・・・了解』


妹「でもその条件も結局守ってもらえなかった。彼氏君はあたしが彼のことを好きになっ
たと思い込んだみたいで、恋人の振りどころかあたしの本当の彼氏みたいに振る舞うよう
になったのね」

兄(・・・・・・何だか気持が悪い。姫の身体を触っていたくない。こんなことを思うのって初
めてだけど)

妹「お兄ちゃんが一人暮らしを始めて、あたしと会ってくれなかった一月の間に何度か彼
氏君と図書館で二人で勉強したの。勉強の合間に気分転換に隣の公園を散歩したりして」

兄「・・・・・・」

妹「あたしもあのときはお兄ちゃんに会えなくて、結構へこんでて。でも会うたびに彼氏
君は優しくしてくれたし。あたし、お兄ちゃんと付き合えないならもうこのまま彼氏君と
ってと考えちゃって」

兄「何が言いたいの?」

妹「自分でも何を考えていたかわからないんだけど。結構悩んでいたときにママから、お
兄ちゃんに通帳とカードを書留で郵送しておいてって頼まれたんだけど、急にお兄ちゃん
のアパートに言ってみようと思った。お兄ちゃんを訪ねる口実ができたし」

兄「あのときのことか」

妹「お兄ちゃんの好きなオムライスを作って、それを持ってお兄ちゃんの部屋に行ったら
女さんが一緒にいた」

兄「あのときはもう女と付き合ってたからね」

妹「女さんに罵倒されて泣きながら最寄り駅まで行ったところで彼氏君に出合って。お兄
ちゃんと女さんのことを夢中で話していたら」

兄「・・・・・・いたら?」

妹「彼氏君に抱きしめられてキスされた」

兄(キス。姫があいつとキス・・・・・・。いや、付き合っていたんだから別に不思議はないし
俺だって女とはしていたし)

兄(なのに何でこんなに姫に裏切られたようなショックを受けるんだろう。あのときは俺
の方から姫に距離を置いていたんだし、姫を責める理由もないのに)

妹「怒ったよね?」

兄「いや。それでどうしたの」

妹「・・・・・・ごめんなさい。頭がぐちゃぐちゃになって。彼氏君に抵抗しなかった」

兄「そう」

妹「そしたら彼氏君があたしの身体を触りだしたんで突き飛ばして逃げて、妹友ちゃんに
電話して彼女とスタバで会った。でも冷静になったら彼氏君のことは妹友ちゃんには相談
できないし。あたし泣き出しちゃって」

兄「うん」

妹「急にお兄ちゃんの部屋で女さんに言われたことを思い出してもっとつらくなって、妹
友ちゃんに何があったって聞かれたんで、女さんとのことを全部話したの」

兄(そこで俺のことが好きなのか聞かれて、わからないからよく考えてみると答えたわけ
か)

妹「怒った?」

兄「俺にはそんな権利なんかねえし」

妹「そんな言い方はいや」

兄「・・・・・・今日はもう寝ようぜ。明日は混む前に早めに帰らないとな」

妹「お兄ちゃんごめん?」

兄「・・・・・・もう寝ろ」


今日は以上です
また投下します



一気にドロドロになってきたなぁ.....

乙です
なんか混迷を極めてきたね…
妹もファーストキスを兄にあげたとか言ってたけど
実際には彼氏君だったし、妹はまだ隠し事ありそうだな

もう女友エンドでいいんじゃないかな!

いもぺろ

流されまくりな兄が1番クズだな

妹すでに嘘ついてるしクズい
でもいいからさっさと貫通してほしい
そんな俺が6番目くらいにクズ

完結まであとどれくらいかかるのかな?

第一志望は上位私大だはないのかよと・・・

やっぱり国立にした系か。

兄友→浮気したり小賢しい工作するNo.1クズ
彼氏→私利私欲のために人を騙すNo.2クズ
女友→頭が弱そうだけど基本的にいいやつ
女→女神
妹友→何を考えているかわからないけど多分クズ
妹&兄→フラフラしすぎちゃんとしろ

彼氏なんか騙してたっけ?

騙したんじゃなくて約束を破ったの方が正しいか

屑祭り到来?
屑がふえてきてゲロ以下の匂いがプンプンするぜーーー

一気に読んだけど妹友ちゃんに裏切られた……


<仲直り>




兄「これはどうすんの?」

妹「布団は畳んで元通り押し入れにしまって。その間に洗濯したシーツを干しておくか
ら」

兄「わかった」

妹「それが終ったら部屋を掃除機で掃除しておいてね」

兄「帰る前に別荘を元通りに戻しておけって父さんから言われたのをすっかり忘れてた
な。これじゃここを出発するのってどう考えても午後になりそうだよな」

妹「最初は四人でする予定だったから、午前中には終るはずだったんだけどね」

兄「まあ二人でやるしかないけどさ」

妹「・・・・・・ごめんね」

兄「姫が謝ることはないけど。とにかくさっさと終わせようぜ」

妹「・・・・・・うん」



兄(妹が俺の彼女になるって言ってくれて)

兄(普通なら二人でいて一番楽しいときのはずなのに)

兄(伯父さんの別荘の片づけで帰りが遅れることも、渋滞で車が動かないことさえ)

兄(妹とそれだけ長く近くで二人きりになれるんだから)

兄(付き合いたてならそんなことすら嬉しいはずだよな)

兄(・・・・・・姫のせいじゃない)

兄(俺には姫を責める資格なんかない。こいつだってもう高校二年だし、付き合っていた
んだから彼氏とキスしたって何の不思議もないんだ。妹の言うとおりだ。俺や父さんは勝
手に姫に対して自分たちの幻想を押し付けてるだけなのかもしれない)

兄(姫だって、いや姫なんて呼ぶこと自体がおかしい。妹だって単なる女子高生だし本人
だってそのつもりでいただろうに。妹を姫君とか勝手に祭り上げていた俺や父さんの自分
勝手な思い込みが妹にとっては一番の負担だったかもしれないじゃんか)

兄(そもそも中学受験させて富士峰女学院に入学させることだって、今にして思えば妹は
自身は全然望んでもいなかったんじゃないか。むしろ近所の公立中学に進学する友だちと
お別れするのを嫌がってたくらいだし)

兄(それでもあいつは俺や父さん母さんが大好きだって言っている。妹に勝手にお嬢様路
線を押し付けたのはその大好きな家族だって言うのにな)

兄(そんな妹が普通に彼氏君のことを好きになろうとして、その結果ファーストキスの相
手があいつになったのなんてむしろ祝福してもいいくらいじゃないか。言うに事欠いて俺
が妹の初めてのキスの相手じゃなかったなんて、そんなことに拗ねている俺の方が異常
だ)

兄(俺は妹が好きだ。それだけはもう間違いようもない。でも、自分の勝手な幻想を妹に
押し付けるのはやめだ。妹が俺のことを好きだと言ってくれただけで十分だろ。これ以上
妹に何を求めようって言うんだ)

兄(昨日の夜の俺の態度は最悪だったから、もう手遅れかもしれないけど。それでも今か
らでも態度を改めよう)

兄(妹が許してくれるかどうかはまた別問題だけど。たとえ振られても妹の味方になろ
う。父さんが妹に変な幻想を抱いて無茶言うなら俺が父さんに反対してやる)


妹「シーツ干すのと食器片付けは終ったよ」

兄「・・・・・・(妹が大切と言いながら俺は妹を追い詰めていたのかもしれない)」

妹「・・・・・・お兄ちゃん?」

兄「・・・・・・」

妹「・・・・・・もうやだ。お願い。無視しないで」

兄「・・・・・・え」

妹「ごめんなさい。彼氏君にキスを許しちゃってごめんなさい。何でもするからあたしの
こと嫌わないで」

兄「ち、違うって」

妹「もう絶対しないから。もうお兄ちゃん以外の男の人には絶対何もさせないから・・・・・・。
だからあたしのこと許してよ」

兄「そうじゃないんだ。ごめんな」

妹「え。何?」

兄「ごめんな。俺、もうおまえのこと二度と束縛しないから」

妹「・・・・・・」

兄「おまえを苦しめてごめん。俺ようやくおまえの気持が理解できたよ」

妹「・・・・・・何言ってるの?」

兄「彼氏君とキスしたなんて普通のことだよな。普通の女子高生ならそんなことは当たり
前のことなのに、俺が勝手に自分の幻想をおまえに押し付けて」

妹「ちょっと待って。意味わからない」

兄「辛かったろ? 今まで。全部俺や父さんが悪いんだ」

妹「・・・・・・お願いだから日本語で喋ってくれる?」

兄「さっきから日本語以外では喋ってないけど」

妹「何であたしのこと姫って呼ばないの?」

兄「それがおまえの負担になっていたと気がついたからさ。おまえはもううちの家族の呪
縛から逃れていいんだ」

妹「・・・・・・何かさっきから話が噛みあってないよ」

兄「そんなことはない」

妹「ねえ」

兄「うん」

妹「あたしはお兄ちゃんにファーストキスの相手が彼氏君だったことを黙っていたんだ
よ? というかあたし、最初はお兄ちゃんだって嘘を言ったんだよ」

兄「うん」

妹「なのに何でそこでお兄ちゃんが謝るの? もっとあたしを責めてよ」

兄「それはだな。さっきも言ったけど」

妹「ううん。お兄ちゃんはちょっと黙って」

兄「え・・・・・・うん」

妹「もう一度最初からやり直そう。お兄ちゃんはあたしに俺の彼女になってくれってあた
しに告白したよね」

兄「確かにした」


妹「本気だったんだよね?」

兄「当たり前だろ」

妹「あたしはそれに応えた。最初の返事はなしにして、喜んでお兄ちゃんと付き合うって。
それでお兄ちゃんもそれでいいってことになったよね」

兄「うん」

妹「昨日の夜、お兄ちゃんはあたしと彼氏君の関係にむっとしたでしょ?」

兄「だからそれは単に問題の一端い過ぎないんであって。おまえがこれまでうちの家族の
勝手な思い込みのせいでどんだけ普通の生活ができなかったと考えると俺は」

妹「ちょっと黙って。それは全く別の話でしょ」

兄「いや、そうじゃな」

妹「黙れ。お兄ちゃんは問題をすりかえてるじゃん」

兄「どういうこと?」

妹「家族の話は今はいいよ。それはいろいろな思いがないとは言わないけど。でもさ、そ
んなことは承知のうえであたしはお兄ちゃんの彼女になりたいって言ったんだよ。そのあ
たしの気持はどうなっちゃうのよ」

兄「え」

妹「え、じゃない。変な話だけど、昨日の夜お兄ちゃんが拗ねてくれて嬉しかったの。も
ちろん悪いことしちゃったし、許してくれなかったらどうしようって不安でもあったけど。
それでもあたしと彼氏君の関係に嫉妬してくれたから、あたしはそれが嬉しかった」

兄「・・・・・・嫉妬した。正直に言うと。でも、そんなことに嫉妬することが間違っていると
思った。普通の高校二年の女の子なら当たり前のことをしているだけなのに。そんなこと
も妹に許せない兄って最低だって。自分の中のお姫様伝説を勝手に美化して、それがおま
えを苦しめてるんじゃないかと」

妹「そんなことはどうでもいいのよ。そうじゃなくて、お兄ちゃんはあたしのことが今で
も好きなの?」

兄「そんなことは聞かれるまでもない」

妹「あたしはお兄ちゃんより先に彼氏君にキスされたし身体も触られたけど、それでもあ
たしのことを愛してくれるの?」

兄「もちろんだ。昨日の夜拗ねたのは嫉妬したからで、嫉妬するくらいおまえのことを愛
しているからだし」

妹「なんだ。じゃあ単純な話じゃない。もっかいやり直すよ」

兄「やり直すって何を」

妹「お兄ちゃんごめんなさい」

兄「・・・・・・」

妹「あたしが馬鹿だったせいでお兄ちゃんにファーストキスをあげられなかった。本当に
ごめん。でもお兄ちゃんのことが昔から大好きでした。たまにはお兄ちゃんにむかつくこ
ともあるし、お兄ちゃんが意地悪なことを言うこともあったけど。でもそんなあなたが昔
からとっても好きでした。一緒に手をつないで小学校に通っている頃から」

兄「えと」

妹「もう二度とあんなことはしません。お兄ちゃんが嫌なら一生家族以外の男の人とは仲
良くしないから。だから、あたしと付き合ってください。あたしの彼氏になって」

兄「・・・・・・(俺は何回間違えば気が済むんだろ)」

兄「俺の方こそ喜んで(・・・・・・妹)」

妹「あ・・・・・・やっと抱きしめてくれた」

兄「ごめんな。俺さ、いろいろ間違った方向に考えが行ってたみたいだ」

妹「本当だよ。でも許す。今はお兄ちゃんのすることなら何でも許すよ」

兄「・・・・・・大好きだよ、妹」

妹「もうあたしのことは姫って呼んでくれないの?」


<渋滞>




妹「さっきから全然動かないね。もう暗くなってきたよ」

兄「出たのが遅かったからな。でもいいじゃん」

妹「いいって何が?」

兄「渋滞しているってことは、姫と二人きりでドライブできる時間が増えるってことだ
し」

妹「ふふ。そう考えればいいのか。本当にそうだ」

兄「・・・・・・姫」

妹「なあに? お兄ちゃん」

兄「すごく可愛いよ」

妹「前見てないと危ないよ」

兄「うん。でも完全に止まっちゃってるし」

妹「あ・・・・・・だからだめだって」

兄「姫はこうされるのいやなの?」

妹「・・・・・・ううん。お兄ちゃんにされるなら大好き」

兄「さっきはごめんな」

妹「もう何も言わないで。今が幸せならいいじゃん」

兄「うん」

妹「前の車が動いたよ」

兄「・・・・・・うん」

妹「でもすぐ止まっちゃうのね」

兄「・・・・・・」

妹「だから危ないって」

兄「可愛いよ姫」

妹「お兄ちゃん。この間から本当にそれしか言わない」

兄「・・・・・・そう言われてみればそうだ」

妹「お兄ちゃんも格好いいよ。実の兄じゃなかったら皆にこの人があたしの彼氏ですって
大声で自慢したいくらい」

兄「・・・・・・・」

妹「あ、違うの。別にそういう意味じゃなくて」

兄「わかってる」

妹「ごめん」

兄「・・・・・・わかってるって」


兄「さっきは変なことを言ってごめんな」

妹「本当だよ。お兄ちゃんは勝手にいろいろ思いついて勝手に煮詰ってるし」

兄「そうかもしれない」

妹「さっきは何であんなことを言ったの。あたしはお兄ちゃんもうちの家族も大好きだ
よ」

兄「そうかもな。おまえは素直に父さんや母さんに従って来たんだろうけど。もっと普通
に青春できた人生だってあったかもしれないのに」

妹「それはどうかなあ」

兄「我が家ではおまえはいつも無垢で純真な姫君扱いだったもんな」

妹「何よ。本当はあたしは純粋無垢じゃないとでも言いたいの?」

兄「普通の女子高校生だろうな、本当は。彼氏とデートもするしキスもする」

妹「だからそれは。お兄ちゃんごめんなさい」

兄「いや、そういうことじゃないって。おまえは昔から部活以外で遅くなることもないし、
親に心配をかけたことなんか一度もないじゃん。そもそも部活だって調理部だし」

妹「あたしはそれでいいんだって。外にいるよりも家にいる方が楽しかったんだから」

兄「ストレスとか感じない?」

妹「別にないよ。むしろあたしなんかをこれだけ大事にしてくれている家族のことが何よ
りも好きだもん」

兄「さっきさ」

妹「うん」

兄「姫は言ってたじゃん。いろいろな思いがないとは言わないけどって」

妹「そうだね」

兄「いろいろ不満があったからそう言ったんじゃないの」

妹「そうじゃないの。あたしはパパとママが大好き。だから決心はしたんだけど、それで
も今はいろいろ考えちゃうの」

兄「どういう意味?」

妹「後悔はしないと思うし、お兄ちゃんの彼女になれて長年の夢がかなったので今はすご
く幸せな気分」

兄「・・・・・・(あ、そうか)」

妹「でも、お兄ちゃんと恋人同士になるっていうこと自体がパパとママへの裏切りだよ
ね。こんなに大事にしてもらっていたのに、ばれたら絶対二人とも悲しむよね。そう思う
とちょっと恐い」

兄「・・・・・・悪い」

妹「自分で選んだんだもん。お兄ちゃんが謝る必要なんかないよ」


兄「姫」

妹「・・・・・・うん」

兄「そうなったら俺が姫を守るよ」

妹「今だって守ってくれてるじゃん」

兄「そういうのだけじゃなくてさ。精神的にも姫に頼られるようになるから」

妹「そうか。まあ、いつまでも昔の空手だけでしか守ってくれないんじゃ不安だしね」

兄「・・・・・・」

妹「別にお兄ちゃんが頼りないなんて言ってないよ?」

兄「今のはちょっと傷付いたぞ」

妹「やだ。ごめん。そんなつもりで言ったんじゃ」

兄「お詫びに姫の方からキスしろよ」

妹「お兄ちゃん姫に対して偉そう。でもいいよ」

兄「・・・・・・どうした」

妹「前の車が動き出したから後でね」

兄「まじかよ」

妹「だって危ないじゃん」

兄「貸しだからな」

妹「貸しって何?」

兄「キスの貸しだよ。後で取り立てるから返せよな」

妹「はいはい」

兄「全く中途半端に動きやがって」

妹「もう七時だね。いったい何時ごろに家に着けるんだろ」

兄「見当もつかないけど。まあまだこんなところにいるんだし、確実に日付は変わるだろ
うな」

妹「そんなにかかるんだ」

兄「それも早くてだぞ」

妹「ちょっと家に電話しとくね。心配するといけないから」

兄「連休中ずっと仕事だって言ってたじゃん。家にはいないと思うけどな」

妹「じゃあママの携帯に電話しとく」

兄「姫って本当に父さんと母さんが好きなのな」

妹「別にいいじゃん」

兄「別にいいけどよ」

妹「嫉妬しなくたって一番好きなのはお兄ちゃんだよ」

兄「・・・・・・電話するなら早くしろよ」


<これであたしにはもう、お兄ちゃんに対して何の秘密もないよ>




妹「うん、そうなの。ママは今日はアパートの方にお泊りなの?」

妹「そうか。パパもなんだ」

妹「あたしは大丈夫だよ。お兄ちゃんと一緒だし」

妹「へ? あ、あのさ。ちょっと予定があるみたいで電車で先に帰っちゃったの」

妹「お兄ちゃんは早くても十二時過ぎるんじゃないかって」

妹「別に疲れてないよ。大丈夫だってば。むしろずっと運転しいているお兄ちゃんの方が
大変かも」

妹「うん。休みは明後日までだけど」

妹「え~。いきなりそれはないよ」

妹「ちょっと待って」

妹「お兄ちゃん」

兄「どうした」

妹「何時間も渋滞の中で運転するのは危ないからいっそどこかで泊まっていきなさいって、
ママが」

兄「泊まってけって。予約もなしにいきなりかよ」

妹「今夜ならもう連休も終わりに近いから海辺さえ離れればビジネスホテルの部屋なら空
いてるんじゃないかって」

兄「これからホテル探してチェックインなんか面倒くさいよ。心配しなくても俺なら運転
は平気だから」

妹「じゃあママにそう言ってみる」

妹「お兄ちゃん面倒くさいし、運転は心配ないって」

妹「変われって言われてもお兄ちゃんは運転中だよ」

妹「そうか。携帯をお兄ちゃんの耳と口に当てればいいのか」

兄「何だって」

妹「お兄ちゃんに変われって。あたしが携帯を持っていてあげるから。はい」

兄「もしもし。母さん? 心配してくれなくても俺なら大丈夫」



母『あんたのことなんか誰も心配してないわよ、このバカ息子。妹が疲れちゃうでしょ。
何でそんなこともわからないのよ』

兄(いかん。母さんも父さんほどじゃないけど妹ラブなことを忘れてた)

母『だいたいあんたは昔から妹に対する愛情が足りないのよ。こんなことくらい親に言わ
れる前に自分で配慮できるくらいになりなさいよ。全く』

兄「いやその」

母『いいわね。海辺を抜けて町中に入ったらどっかビジホに当たってみなさい。万一事故
でも起こしたら妹がどうなると思ってるの』

兄「わかったよ。わかったから」

母『お金はあるでしょ。ちゃんと休んで明日ゆっくり帰ってらっしゃい。じゃあね』


兄「どっかに泊まってけって」

妹「お兄ちゃんはどうしたいの?」

兄「これからビジホ探すのは面倒くさいし。おまえがつらくなきゃこのまま車で帰りたい
けど」

妹「お兄ちゃんがしたい方でいいよ」

兄「おまえは疲れてねえの?」

妹「平気だよ。一緒だし」

兄「・・・・・・それならこのまま帰ろうか」

妹「お兄ちゃんが平気ならそれでいいよ」

兄「大丈夫だって」



兄(ようやく海を離れたけど相変わらずノロノロとしか進まねえなあ)

兄(もう九時過ぎだ。俺はともかくいくらなんでも姫には食事させてあげないと)

兄「なあ」

妹「・・・・・・あ、ごめん。ちょっとうとうとしてた」

兄「そうか。起こしちゃってごめんな」

妹「ううん。あたしの方こそお兄ちゃんが運転してくれてるのに自分だけ寝ちゃってごめ
ん」

兄「何言ってるんだよ。俺のことなんか気にしないで寝てていいんだって」

妹「お兄ちゃんって優しいね。昔からそうだけど」

兄「当たり前だろ。姫のことなんだし」

妹「ありがと」

兄「一々礼なんか言うなよ、このバカ」

妹「姫なのかこのバカなのかはっきりさせたいなあ」

兄「・・・・・・ごめん」

妹「冗談だって。それで?」

兄「そろそろ夕飯にしないと」

妹「ああ、そうか。もうこんな時間だ」

兄「どっかファミレスがあったらそこに寄るから」

妹「わかった。お兄ちゃんもちょっとは休めるしね」

兄「おまえの方こそな」

妹「・・・・・・大好き」

兄「俺が姫のこと可愛いってばかり言うって言ってたけど。姫だって大好きってばっか言
ってるじゃんか」

妹「何よ・・・・・・嫌なの?」

兄「すげえ嬉しいよ」

妹「ふふ。そうか」


兄「ようやく飯が食える」

妹「席に案内されるまで一時間は並んだよね」

兄「こんなとこまで混んでるのな。連休だからしかたないけど」

妹「こういうのもいつかは懐かしい思い出になるよ。二人が恋人になったときの記憶なん
だし」

兄「・・・・・・そうか」

妹「そうだよ」

兄「そうだな。で、何食う?」

妹「ちょっとあたしにもメニュー見せてよ」



妹「ほらあーんして」

兄「う、うん」

妹「美味しい?」

兄「うん」

妹「本当は別荘に向う途中のファミレスでお兄ちゃんとこうするつもりだったのに」

兄「あれはおまえが彼氏君と並んで座るから」

妹「おまえって呼ぶな。名前か姫かどっちかで呼んで」

兄「・・・・・・あのときは姫が彼氏君とずっと一緒にべったりしてたから」

妹「あたしを彼氏君から奪って欲しかったのに」

兄「ごめんな」

妹「半分は冗談だよ」

兄「半分は本気かよ」

妹「あのときはあたしはお兄ちゃんと妹友ちゃんに嫉妬してたから。だから半分はお兄ち
ゃんに見せ付けようと思ってたから」

兄「そうだったんだ」

妹「これであたしにはもう、お兄ちゃんに対して何の秘密もないよ」

兄「・・・・・俺だって姫と彼氏にすげえ嫉妬してたよ」

妹「お互いにそんなこと思いながらバカなことしてたんだね」

兄「俺にもこれでもう姫には何の秘密もないぞ」

妹「よかった」


<謎>




兄「なあ?」

妹「なあに? お兄ちゃん」

兄「彼氏君って本当は姫と妹友とどっちの方が好きなんだろうな」

妹「何よ突然」

兄「いや。行きのファミレスで俺と姫がお互いに嫉妬しあってたってさっきわかったじゃ
ん?」

妹「そうだね。わかりあえてよかったじゃん」

兄「そうなんだけどさ。よく考えたら、彼氏君と妹友も俺たちと全く同じ状況だったじゃ
んか。まるで合わせ鏡をしてるみたいにさ」

妹「そう言われてみればそうか」

兄「あのときの彼氏君は姫を独占できて嬉しかったのかな。それとも妹友を俺に独り占め
されて嫉妬してたのかな」

妹「さあ」

兄「妹友はどうなんだろうな。姫に彼氏君を独り占めされて悔しかったのか、それとも俺
と二人で話せて嬉しかったのか。どっちなんだろ」

妹「彼氏君はあたしと一緒で嬉しいのかと思ってたよ。昨日の夜まではね」

兄「俺も妹友は俺と二人で嬉しいのかと思ってたよ。身勝手な考えだけど」

妹「妹友ちゃんに何か言われた?」

兄「ああ。俺と一緒にメニューを決めるとかそういうのが楽しかったって。兄貴のことが
気にならないくらいに」

妹「別に嫉妬して言うわけじゃないよ? でもそれって本当かな」

兄「よくわからん。妹友は彼氏君のことが好きだったんだ。でも実の兄妹の関係なんて不
毛だとも思っていて。だから姫と彼氏君をくっつけようとしてたし、俺にも姫のことは諦
めろって言ってたよ」

妹「そんなことじゃないかとは思ってたよ」

兄「問題は昨日のことだよな。ほとんど裸でもつれあってたあいつらのこと」

妹「・・・・・・うん」

兄「あれって何だったんだろな。勝手に別荘に帰っちゃうし、いきなりリビングであれだ
もんな」

妹「あのときは本当にびっくりした」

兄(・・・・・・姫が赤くなってる。可愛いぜちくしょう)


兄「彼氏君って妹友の自分に対する恋愛感情に気がついていたんでしょ?」

妹「うん。それであたしに付き合う振りをしてくれって言ったの。相手があたしなら妹も
諦めるだろうからって」

兄「ということは、彼氏君は妹友の自分に対する愛情を諌めようとしてたんだろ? その
ために妹友におまえとの仲を見せびらかそうとしたんだし」

妹「うん」

兄「それなら何であいつは妹友をレイプしようとしたんだろ。矛盾してるじゃんか」

妹「うん。よくわからない」

兄「それともレイプなんて妹友の嘘で、本当は二人で愛を確かめ合っていたのかな」

妹「実の兄妹なのよ? あり得ないでしょ」

兄「確かに実の兄妹だね。俺たちと同じで」

妹「あ」

兄「・・・・・・姫の言うとおりだ」

妹「違うの。今のは違うの。あたしそんなつもりじゃ」

兄「わかってるよ」

妹「本当にお兄ちゃんが好きなのよ? あたし」

兄「わかってるから落ちつけ。でも姫の言ったことは正しいよ。」

妹「・・・・・・正しいって?」

兄「兄妹で恋し合っている俺たちですら人のことになると反射的にそんなことはおかしい
と思うんだぜ。それが普通の感覚なんだよ」

妹「・・・・・・そうかも」

兄「それでも俺は姫のことを愛してる」

妹「あたしもお兄ちゃんのこと愛してる。もうお兄ちゃんじゃなきゃだめなの」

兄「嬉しいよ。でもさ。妹友と彼氏君の場合はどうなんだろうね」

妹「妹友ちゃんはブラコンだよ。お兄ちゃんも知っているとおり。お互いにはっきりは口
にしなかったけど、それで親友になったようなもんだもん、あたしたちは」

兄「そうなのか」

妹「お互いに兄貴の悪口ばかり飽きもせずに話し合える友だちなんか他にはいなかった
し」

兄「悪口かよ」

妹「そうだよ。でも外でお兄ちゃんのことを話せるならそれすらあたしにとっては貴重な
時間だったんだよ。多分妹友ちゃんも」

兄「そうか。嬉しいよ」

妹「でも、今ではよくわからない。妹友ちゃんは彼氏君のことを諦めてお兄ちゃんを好き
になったのかと思ってたけど」

兄「ああ」

妹「でも裸で抱き合ってたし。本当は彼氏君のことが諦め切れなかったのかしら」

兄「彼氏君にレイプされたって言うのが嘘だったらな」

妹「うん。でももういいじゃん」


兄「いいって?」

妹「もうあたしたちには関係ないじゃん。考えなきゃいけないのはあたしたちのこれから
のことなんだし」

兄「それもそうか」

妹「ねえ?」

兄「うん」

妹「あたしがお兄ちゃんの大学に受かるまでは、お兄ちゃんは実家であたしと一緒に暮ら
してね」

兄「うん。いいよ」

妹「通学時間が長くて悪いけど。その代わりにこれからは毎日早起きしてお兄ちゃんのお
弁当を作るから」

兄「そんな無理しなくていいって」

妹「あたしがしたいの。それで毎日駅まで一緒に行くの」

兄「姫の出かける時間より大分早いじゃんか」

妹「学校には入れる時間だし、授業が始まるまで勉強する」

兄「・・・・・・両親がいるときは無理だと思うけど」

妹「そうか。じゃあパパとママが都内でお泊りの翌朝だけはそうする」

兄「・・・・・・」

妹「迷惑?」

兄「嬉しいよ」

妹「ふふ。それでさ。あたしが再来年に合格したら大学の近くのアパートに住むの」

兄「そんなにうまく行くかな」

妹「通学時間が辛いって言えばパパは絶対OKだし。一人暮らしは不安だって言えばママ
は絶対にお兄ちゃんと一緒に暮らしなさいって言うよ」

兄「越後屋。その方も」

妹「水戸黄門じゃないし」

兄「でもいいね、それ(妹と二人きりで同棲か。夢みたいだ)」

妹「でしょ? もう彼氏君と妹友ちゃんのことは忘れよう。これからはあたしたち二人の
ことだけを考えようよ」

兄「そうだな」

妹「お兄ちゃん?」

兄「どうした」

妹「もう十一時近いよ。そろそろ帰ろうよ」

兄「ああ、そうだな」


今日は以上です
また投下します

おつー
待ってる

おつー
平和が1番!

今回は平和だったな…そろそろ男と姫の禁断の濡れ場来るか!?

ああ~いいよ乙


<今は不思議と迷いがないの>




兄(ようやく寝てくれた。ぎりぎりまで俺に悪いからって頑張って起きていようとしたけ
ど)

兄(・・・・・・姫)

兄(可愛い寝顔だな。もう十七年間も姫の顔を見続けてきたのに。今でもいつまでだって
姫を眺めていられる)

兄(渋滞でファミレスを出てから多分まだ一キロも進んでないと思うけど。姫とこうして
二人きりで車内で過ごせるなら全然気にならないな)

兄(・・・・・・だけど。手放しで喜べるかと言うと)



妹『そうじゃないの。あたしはパパとママが大好き。だから決心はしたんだけど、それで
も今はいろいろ考えちゃうの』

兄『どういう意味?』

妹『後悔はしないと思うし、お兄ちゃんの彼女になれて長年の夢がかなったので今はすご
く幸せな気分』

兄『・・・・・・』

妹『でも、お兄ちゃんと恋人同士になるっていうこと自体がパパとママへの裏切りだよね。
こんなに大事にしてもらっていたのに、ばれたら絶対二人とも悲しむよね。そう思うとち
ょっと恐い』

兄『・・・・・・悪い』

妹『あたしが自分で選んだんだもん。お兄ちゃんが謝る必要なんかないよ』



兄(俺は結果的にすげえ残酷な選択を姫に強いたんだ。俺が最初に姫に告ったときはそん
なことは何にも考えてすらいなかった。本当に俺って考えなしの大バカ野郎だ)

兄(姫は最初からわかってたんだ。俺の告白に応えるというのがどういう意味なのか)

兄(両親は姫を溺愛している。姫も他の何よりも自分の家族が大好きだ)

兄(俺と付き合うということは、その大切な家族を裏切って捨てるということだもんな)

兄(だから妹は最初は俺の告白を断った。それはそうだ。あいつにとっては何よりも大事
な家庭を捨てるなんて選択肢はなかったんだから)

兄(そんな妹の想いを踏みにじって俺は勝手に一人暮らしを始めたんだ。今にして思えば
考えなしの大バカだった。妹にとっては両親と俺とセットではじめてあいつの好きな家族
が成り立っているというのに)

兄(そう考えると俺のやったことは一種の脅迫のようなもんだ。わざとではないけど、結
果として俺と付き合わなければ俺はもう今までどおりの家族の一員にはならないって脅し
たんだもんな)

兄(最初に姫に告ったときあいつは)



妹『卑怯だ』

兄『何でそうなる』

妹『それって脅しじゃん。あたしがお兄ちゃんの告白に応えなきゃ、これまでどおりの仲
のいい兄妹関係はお終いだって言ってるんでしょ』

兄『脅しじゃねえよ。それにお終いと言ったって、表面だけ取り繕った最低限の会話くら
いはおまえとするように努力はするし。まあ、仮面兄妹っつうの?』

妹『やっぱり脅しじゃない』

兄『おまえが俺のことを好きじゃないならそんなこと気にならないだろうが。おまえには
友だちも彼氏君もいるんだし』


兄(最低だ。よくもあんな残酷なことが言えたもんだ。俺が後悔していい兄貴になるって
姫に言ったのだって姫に振られてから一月もたった後だもんな)

兄(・・・・・・)

兄(・・・・・・それでも俺は)

兄(・・・・・・もう後戻りはできない。自分勝手だけど俺はもう姫を手放せない)

兄(せめてさっきの約束だけは守ろう。俺は全力で姫を守るんだ)

兄(姫の寝顔。さっきから車が止まるたびに眺めては目を奪われている)

兄(・・・・・・やっぱり姫って可愛いな。いや、外見だけじゃねえ。ちょっと生意気な性格も、
年下の妹のくせに俺の世話を焼きたがったり、俺に細かく指示したがったりするところも
もう全部が全部可愛いとしか)

兄(何とかしよう。つっても具体的にはどうすりゃいいんだ?)

兄(まあ物理的な暴力から姫を守るのはともかく、精神的な意味ではひょっとしたら俺よ
り姫の方が大人なのかもしれないし)

兄(偏差値だけは俺の方が上だったけど、そういう意味じゃないところでは何か姫の方が
俺よりも数倍賢いかも・・・・・・)

兄(とりあえず目先のことから考えよう。将来のことを考えようとしても霧がかかったみ
たいで先のことなんか何も見えねえし)

兄(何だっけ? 姫が言ってたこと)



妹『ふふ。それでさ。あたしが再来年に合格したら大学の近くのアパートに住むの』

兄『そんなにうまく行くかな』

妹『通学時間が辛いって言えばパパは絶対OKだし。一人暮らしは不安だって言えばママ
は絶対にお兄ちゃんと一緒に暮らしなさいって言うよ』



兄(当面はこれだな。姫が大学生になったとき俺は三回生だし、これで少なくとも二年間
は一緒にいられる)

兄(でもその先は? 甘い考えは捨てないといけない。もう少し先を考えよう)

兄(とにかく勉強するんだ。少しでも成績を良くして就職を有利にするように)

兄(これから先は何が起こるかわからねえんだから、いざとなっても姫を養えるようにし
なきゃいけないな。父さんたちを裏切っているわけだし、親バレしたら最悪は勘当される
ことだってあり得る)

兄(・・・・・勘当されるとしたら俺だけだろうな。きっと姫にはお咎めなしかも)

兄(いや。今ならわかる。姫の性格からして一度覚悟を決めたらあいつはぶれない。どん
なに大切な両親を悲しませようとも、俺が勘当されれば姫は何もかも捨てて俺についてく
るだろう。自惚れじゃなくてそう思う)

兄(ちくしょう。免許とか連休の旅行とか言ってる場合じゃねえぞ。とにかく勉強して就
活に備えねえと。まだ一回生だからとか甘えてる場合じゃない)

兄(そう考えると今親バレしたらすべてが終わりだ。せめて俺の大学卒業までは気が付か
れないようにしねえと)

兄(心が痛む。ついこの間まで両親と俺は妹好きの同志だったのに、俺はそれを裏切っち
まったんだ。今さらそんなことに気がつくなんて)

兄(でも。姫は俺の告白への返事を考えている間、こういう心の葛藤を抱えて悩んでいた
んだ。それでも姫は俺を選んでくれた)

兄(俺はバカだ。でもこうなったらもう覚悟を決めよう)


妹「・・・・・・お兄ちゃん」

兄「うん? 起こしちゃったか」

妹「あたし寝ちゃってたの?」

兄「うん」

妹「ごめん。お兄ちゃんの方が運転で疲れてるのに」

兄「いいんだよ。姫は寝てろよ」

妹「お兄ちゃんに運転させてるんだもん。そうはいかないよ」

兄「眠っている間に姫の可愛い寝顔をゆくっりと見せてもらったしさ。俺はそれで十分
だ」

妹「あたしの寝顔が好きなの?」

兄「好きだよ」

妹「起きているときのあたしよりも?」

兄「そんなことはないよ」

妹「誤魔化したな。はっきりと言え」

兄「全部好きだよ。寝顔も起きている顔も、笑っている顔も怒っている顔も」

妹「・・・・・・それならいい」

兄「うん?」

妹「それならいいよ。安心した」

兄「どういう意味?」

妹「もうあたしたちにはお互いしかいなくなったんだね」

兄「・・・・・・ああ」

妹「いつかはわかってくれるかな」

兄「何を」

妹「あたしとお兄ちゃんのこと」

兄「・・・・・・誰が」

妹「パパとママ。あと妹友ちゃんとか女さんとか」

兄「後悔しているのか?」

妹「してないよ。決めるまではすごく悩んだけど。そのせいでお兄ちゃんをすごく待たせ
ちゃった。ごめんね」

兄「・・・・・・いや」

妹「あたしね。確かに決めるまでは悩んだけど、お兄ちゃんの彼女になった今は不思議と
迷いがないの」

兄「(俺だってそうだ。もう結論なんてとうに出てたじゃないか)姫?」

妹「・・・・・・うん。して」

兄(これで姫とキスするのって何度目かな)


<ファーストキス>




妹「・・・・・・もうだめ」

兄「え?」

妹「そんなに傷付いた目をしないでよ。前の車が動いたってだけじゃない」

兄「びっくりした。姫に嫌われたかと思った」

妹「・・・・・・ばか」

兄「ちぇっ。ちょっと動いたけどまたすぐに止まっちゃったよ」

妹「・・・・・・」

兄「どうした?」

妹「あたしのこと信じられない?」

兄「何言ってるんだ。んなことあるわけねえだろ」

妹「だって」

兄「姫にもうだめって言われたからさ。ちょっとあせっただけだよ」

妹「どうしてあたしを信じてくれないの」

兄「いやその」

妹「・・・・・・じゃあ、取って置きの話をしてあげるね」

兄「おまえ何言ってるの」

妹「彼氏君とファーストキスしちゃったのに、お兄ちゃんとのキスが最初だってあたし言
ったじゃない?」

兄「気にするなよ。おまえらは付き合ってたんだからそんなのは当然だよ。俺は気にして
ないよ」

妹「嘘」

兄「え? 何で」

妹「あの夜、お兄ちゃんはあたしを抱きしめもしてくれないで。不貞腐れて寝ちゃったじ
ゃん」

兄「・・・・・・不貞腐れたって。おまえなあ」

妹「本当はこんな恥かしい話は絶対にするつもりなんかなかったんだけど」

兄「何なんだよ」

妹「あたしの最初のキスの相手はね」

兄「何なんだ」

妹「本当はお兄ちゃんなんだよ」


兄「え」

妹「たいした話じゃないの。そんなに驚かないでよ」

兄「いや・・・・・・。ってどういうことだよ」

妹「お兄ちゃんが中学に入ったばっかで、あたしが小学校の5年生になったばかりの頃だ
ったかな」

兄「ずいぶんと昔の話だな」

妹「そうだね。あのときがさ。あたしの人生でお兄ちゃんとあんまり会えなくなった最初
の時だった」

兄「学校が違ったからな」

妹「うん。今までは一緒に通ってたのにね。昼間はほとんど会えないし、夜だってお兄ち
ゃんは昔みたいにあたしの相手をしてくれなくなっちゃったし」

兄「よく覚えてるな(俺の方こそ全部覚えてるぞ。俺だって姫と一緒に学校に行けなくな
くなって寂しかったからな。それに、妹は当時はもう中学受験の勉強をしてたから、いく
ら待ってても妹が俺の中学に来ることはないとも理解していた。寂しいけどしかたがない
とも思っていたっけ)」

妹「それでね。ある日受験塾から帰ったきたらパパとママもいなくて、これまで滅多に会
えなくなっていたお兄ちゃんがソファで寝ていたことがあって」

兄「そんなことあったかなあ」

妹「それでね。あたしはその頃はもうお兄ちゃんに恋していたから」

兄(・・・・・・嬉しい。もう今死んでも悔いはねえ)

妹「寝ているお兄ちゃんにキスした。お兄ちゃんの唇に」

兄「・・・・・・マジで?」

妹「うん。だから、本当はあれがあたしのファーストキスなの。あたしの最初のキスの相
手は彼氏君じゃなくてお兄ちゃんなんだよ」

兄「おまえなあ」

妹「何々? 何で怒ってるの」

兄「俺だってその頃はもうおまえへの愛情を実感してた頃なのに。何で黙ってたんだよ。
何で俺が起きているときにキスしなかったんだよ」

妹「うるさいなあ。少なくともあたしは行動したじゃん。お兄ちゃんなんかうじうじ悩ん
でいただけで何にも行動しなかったくせに」

兄「それは」

妹「もう安心したでしょ。あたしはお兄ちゃんだけを昔から大好きだったって理解でき
た?」

兄「ああ。完璧にな」

妹「じゃあそれを態度で示しなさいよ」

兄「・・・・・・そうだな。姫・・・・・・」

妹「ちょ・・・・・・いきなりそれは卑怯だって」


兄「俺、ちょっと計画を考えたんだけどさ」

妹「・・・・・・」

兄「まあ、少なくとも姫が俺の大学に合格するまでは、親バレしないように慎重な付き合
いをしてさ」

妹「・・・・・・ちょっと待って」

兄「どうした?」

妹「今は無理。いきなりあんなことしておいてすぐに真面目な話をしないでよ。対応でき
ないって」

兄「何で?」

妹「・・・・・・あんなことされた後ですぐに頭を切り替えることなんてできないよ。この鈍
感」

兄「(もしかして)感じちゃった?」

妹「死ね」

兄「悪い。おまえっていつも冷静だからさ。何か嬉しくて」

妹「んなわけないでしょ。お兄ちゃんにキスされるときはいつだってどきどきしてるのに。
ましてあんなことされたら」

兄「姫があんまり可愛いいんでつい」

妹「・・・・・・もう」

兄「怒った?」

妹「怒ってない! つうか何でそんなに上から目線で偉そうなのよ。何かむかつく」

兄「そんなつもりはねえけど」

妹「はぁ。全く。それでお兄ちゃんの計画とやらの続きは?」

兄「俺の大学卒業までは何としても親バレしないようにしよう。それで俺が就職しちゃえ
ば最悪両親に勘当されてもおまえの学費くらいは何とかなるし」

妹「あたしが寝てる間にお兄ちゃんはそんなことを考えていたのか」

兄「何だよ。何かまずいことでもあるか?」

妹「別にないけど」

兄「姫と一生一緒に暮らすためには、いろいろと計画しないとな。ただ、いちゃいちゃし
ているだけじゃどうしようもないしな」

妹「いろいろ考えてくれてたんだね」

兄「愛する姫のため、いや。愛する姫と一生添い遂げるためだしな」

妹「うん。ありがと」


<ラブホテル>




兄「しかしなあ。やっぱり俺の初キスの相手は姫だったのかあ」

妹「やっぱりって何でよ。まあ、パパがあたしの初めてのキスを奪っていなければだけど
ね」

兄「・・・・・・父さんめ」

妹「冗談だって」

兄「とても冗談には聞こえないよ(マジで父さんならやりかねん)」

妹「あたしの初めては全部お兄ちゃんだよ」

兄「・・・・・・だってよ。おまえが覚えていないほど小さなときならさ。父さんがおまえにキ
スしたって不思議じゃないだろ。あいつは姫のことが大好きなんだし」

妹「パパのことをあいつなんて言ったらだめ」

兄「悪かったよ」

妹「あたしの初めては全部お兄ちゃんだって。信じられないの?」

兄「・・・・・・そうだな。信じるよ今は」

妹「よかった。やっと理解したか」

兄「おまえ、ちょっとこっちに来なよ」

妹「無理だって。ちょっと」

兄「姫を抱きしめたい」

妹「すごく無理があるし。だいたい運転中でしょうが」

兄「・・・・・・そうだね」

妹「その表情は反則だよ全く。ほら」

兄(妹が抱きついてきた。もう死んでもいい)

妹「・・・・・・ねえ」

兄「うん」

妹「大好き」

兄「俺も大好きだよ姫」

妹「もうあたしにはお兄ちゃんしか残っていないのかなあ」

兄「・・・・・・」

妹「もう親も友だちもいないのかもね。あたしたちには」

兄「ごめん」

妹「あたしこそごめん。とっくに覚悟なんかしてたのに変なこと言っちゃった。もう二度
と言わないから許して」

兄「・・・・・・姫。顔をあげて」

妹「・・・・・・うん」


兄「姫、疲れてないか? 何だったらシートを倒して横になれば」

妹「お兄ちゃんこそ疲れた?」

兄「多分まだ平気だと思うけど。姫と一緒にいるし」

妹「でもお兄ちゃん、顔が疲れてるよ」

兄「そんなことはないよ」

妹「こら。あたしが何年間妹やってると思ってるのよ」

兄「十七年間だろ」

妹「言ったでしょ? それくらい妹をやってるともうベテランの妹になるんだって」

兄「・・・・・・大丈夫だよ」

妹「絶対大丈夫じゃない。お願いだから無理しないでよ」

兄「だからしてないって」

妹「家に着くまであとどのくらいかかるのかな」

兄「まだこんなところにいるくらいだからなあ。下手したら夜明けになるかも」

妹「それじゃ、お兄ちゃんの身体がもたないでしょ」

兄「今さらこんな時間にビジホなんて探すのも面倒だし」

妹「だって」

兄「あ。でもおまえがつらいなら」

妹「・・・・・・」

兄「どうした?」

妹「あの、さ」

兄「うん」

妹「休めればいいんだから、別にビジネスホテルじゃなくてもよくない?」

兄「へ?」

妹「だからさ。さっきから、そのさ。いっぱい通り過ぎてるじゃない?」

兄「何が?」

妹「だからさ。空室って表示されてるのが」

兄「ひょっとしてラブホテルのこと?」

妹「・・・・・・うん」

兄「いやちょっと待て。おまえはちょっと落ちつけ」

妹「むしろお兄ちゃんの方が落ちつきなさいよ」

兄「それはやばいって。兄妹で入るような場所じゃねえし。だいたい姫みたいな子が出入
りするようなところじゃねえって」

妹「あたしみたいな子ってどういう意味? またあたしにお兄ちゃんの勝手な幻想を押し
付ける気?」

兄「まさかおまえ」

妹「ないよ。入ったことなんかない。でも休めるならもどこでもいいじゃん」

兄「そうは言ってもおまえ」

妹「お兄ちゃんと一緒なら平気だよ。どこでも」


妹「何か部屋の写真のパネルがあるね」

兄「この中から部屋を選ぶんだろうな」

妹「この部屋、何かちょっと可愛い感じ」

兄「そこは暗くなってるから使用中で選べないんじゃないかな」

妹「・・・・・・何でそんなに詳しいのよ」

兄「詳しくないって。初めてだよこんなとこ来るの(つうか童貞だっつうの)」

妹「じゃあここにしよう」

兄「本当に寝るだけだからもうどこでもいいよ」

妹「だって・・・・・・じゃあ、ここにする」

兄「パネルにタッチしてみ」

妹「うん。どっちを押すの?」

兄「宿泊の方でいいんじゃないか」

妹「わかった」

兄「鍵が出てきた」

妹「お金は?」

兄「自動会計で出るときに払うって書いてあるぞ」

妹「何だか勉強になるねえ」

兄「まあ、お嬢様学校の富士峰の生徒がこんなところに入る機会なんてないだろうなあ」

妹「わからないよ。他校の彼氏がいる子だって結構いるし」

兄「そうなのか。意外だな」

妹「先入観は捨てないとね。あたしのことといい」

兄「わかったよ」



妹「何かペンションの寝室みたい」

兄「思ったより普通の部屋だよな」

妹「まあベッドは一つしかないけどね」

兄「それはラブホだし」

妹「ねえ」

兄「おう」

妹「明日まではまだ休みなんだしさ。せっかく今日もここに泊まるんだから、明日も真っ
直ぐ帰らないでどこかでデートして行こうよ」

兄「いいよ」

妹「やった。今度こそ恋人同士になってから初めてのデートだね」

兄「(そういやそうか)そうだね。じゃあもう寝るか」

妹「シャワー浴びないと」

兄「お先にどうぞ。姫」

妹「覗かないでよ」

兄「わかってるって(姫とラブホ。何か急展開過ぎてエッチな事すら考えられない)」

兄(何てもったいないんだ。でも、姫のことは大切にしなきゃ。エッチなんてもってのほ
かだ)

兄(・・・・・・)


今日は以上です
また投下しますが、そろそろ別スレの更新をしたいので、次回の投下で少しこちらは
お休みするかもです

えぇ?これからがいいところなのに…
少しずつでもいいのでこっちもお願いします

次回超楽しみにしてる


<・・・・・・ロリコン>




妹「シャワー出たよ。お兄ちゃんも入って来て」

兄「あ、ああ」

妹「・・・・・・どうしたの」

兄「(素肌にガウンだけまとった姫。・・・・・・可憐だ)いや。行ってくる」

妹「行ってらっしゃい」

兄(今日は掃除とか渋滞の中での長時間ドライブで疲れたので、シャワーがすごく気持
い)

兄(・・・・・・)

兄(あのガウンの下ってどうなってるのかな。パンツは履いてるだろうけどブラは?)

兄(何か気になる。が、邪念は払わないといけない。ここには文字通り寝るためだけに入
ったのだから)

兄(もう出よう。俺もパンツはいてガウンに着替えて)

妹「ずいぶん早かったね。ちゃんと体洗ったの?」

兄「洗ったって」

妹「それならいいけど。こっちに来て隣に座って」

兄「うん(ベッドで姫の隣に・・・・・・。理性を保つんだ俺)」

妹「お兄ちゃん・・・・・・」

兄「な、何寄りかかってるんだよ」

妹「お兄ちゃんに甘えたい気分なの。だめ?」

兄「もちろんいいけど(姫の上目遣いマジ反則だよな)」

妹「お兄ちゃん」

兄「うん(姫の身体の細い骨格まですごく身近に感じる)」

妹「大好き」

兄「俺も姫のこと好きだよ」

妹「あたしってバカだよね」

兄「何で?」

妹「結局こうなるんだから最初にお兄ちゃんに告白されたときにOKしておけば、その後
一月もお兄ちゃんと会えないなんてこともなかったのに」

兄「いや。姫にとってはそんなに簡単なことじゃなかっただろうし、しかたないって」


妹「あたしね」

兄「うん」

妹「決めた以上は絶対迷わないから」

兄「そうか」

妹「うん。だからお兄ちゃんもこの先何があっても迷わないでね」

兄「約束する。俺と姫が同じ家で兄妹として生まれたのだってきっとこうなるためなんだ
って考えてるし」

妹「そうだね。誰も理解しなくてもあたしたちだけはそう信じよう」

兄「おう」

妹「よかった。先のことを考えるとちょっと不安だけど。それでも今はあたし幸せだな」

兄「俺もそうだ」

妹「それならよかった。ちょっと安心した」

兄(あれ? 電話かな。でも今は姫と寄り添って話をしていたいから無視しよ)

妹「・・・・・・スマホ鳴ってるよ」

兄「うん・・・・・・」

妹「出たら?」

兄「誰だろ? (げ)」

妹「誰から?」

兄「母さん。ちょっと出るな」

兄「ああ俺。うん。そうまだ帰ってない。え?」

兄「ああそうだよ。結局ビジネスホテルに泊まった。渋滞全然解消しないし。明日の方が
混みそうだから朝早めに起きて帰るわ」

兄「妹? いるよ。ちょっと待って」

兄「おまえに代われって」

妹「ママ? うん。大丈夫だよ」

妹「え? あ、それはねその。つまり、確かにお兄ちゃんと同じ部屋だけど、ツインのお
部屋だし。それにこの部屋しか空いてなかったからしかたないし」

妹「うん、だってお兄ちゃんだもん。別に全然平気だよ」

妹「わかった。そうする。もう寝ようと思ってたところだから」

妹「そう。明日の夜は帰れるんだ。パパも?」

妹「わかった。じゃあお休みなさい」

兄「何だって?」

妹「・・・・・・心臓に悪いよ。何でお兄ちゃんと同じ部屋にいるの? って結構恐い声で聞か
れちゃったよ。誤魔化しておいたけど」

兄「俺もビジホだって嘘ついちゃったよ」

妹「しかたないね。きっとこれからはこういう嘘つくことも多くなるんだよね」

兄(姫にこんな日陰の道を歩ませることになるんだな。今さら気がついてもどうしようも
ないけど)


妹「はい。電話返す」

兄「うん・・・・・・どうした?」

妹「このホーム画面・・・・・・」

兄「(やべ)ちょ、返せよ」

妹「いいからちょっと見せなさい」

兄「いや、マジでよせって」

妹「どれどれ」

兄「やめろって」

妹「・・・・・・これってさあ」

兄「だってさ(いっそ死にたい)」

妹「あたしの写真なのは嬉しいけど。さすがにこれは」

兄「(もう開き直るしかない)いいだろ。好きな子の写真なんだから。何が悪い」

妹「それにしてもさ。これってあたしが保育園でビニールプールで遊んでたときの水着写
真じゃん」

兄「・・・・・・そうだけど」

妹「何でよ」

兄「何でって。家族のアルバムからちょっとこの写真を借りてスキャナーでjpegに」

妹「うわあ・・・・・・。まあ、あたしの写真だったってことだけは評価してあげるけど。何で
こんなに幼い頃の写真なのよ。この間制服とか体操服の写メを送ってあげたじゃん」

兄「だってこの写真の姫ってすげえ可愛いし」

妹「・・・・・・ロリコン」

兄「違うって」

妹「これはどう考えても言い訳できないよね。保育園児の女の子の水着画像をホーム画
面に設定するなんて」

兄「いや。保育園児って。これはおまえだっつうの」

妹「そんなことはわかってるよ」

兄「だったらいいじゃん」

妹「誰かに見られたら変質者扱いされちゃうでしょ。変えなさいよ」

兄「やだよ」

妹「・・・・・・何でよ」

兄「だって俺は今の姫も大好きだけど昔の姫も好きだったし。それにこの頃の姫の写真っ
て紙にプリントしてあるのばかりだからさ。俺の姫画像コレクションには幼い頃の姫の画
像は極端に少ないんだよな」

妹「・・・・・・コレクションって何よ」

兄「あ、いやその」

妹「全く変態なんだから」

兄(顔を赤くしたけど怒っている様子はない)


<相手があたしじゃなかったら完全に犯罪だよね>




兄「まあ、そこまで言うなら設定を変えるよ」

妹「それがいいよ。本当にロリコンだと思われちゃうよ」

兄「まあぼっちだから見られる心配はあまりないけどね」

妹「胸張って言わないでよ。聞いている方が悲しいよ。それに女さんとか女友さんとかに
見られたら」

兄「・・・・・・それは確かに。恐ろしくて考えたくもないな」

妹「じゃあ今変えようよ。何の画像にする?」

兄「姫の写真がだめならもう何でもいいや。デフォの壁紙に戻すか」

妹「だめなんて言ってないでしょ。保育園のはやめてって言ってるの」

兄「姫の画像使っていいの?」

妹「いいよ。あたしも嬉しいし」

兄「よし」

妹「急に元気になったね」

兄「じゃあどれにしよう」

妹「最近のならどれでもいいよ。高校入学後なら」

兄「いっそ姫が選んでくれ」

妹「いいね。そうしようか」

兄「じゃあ、設定画面で候補を表示するから」

妹「でも選ぶほどないんじゃない? ってうわあ」

兄「うわあって」

妹「何で百枚以上のあたしの画像がコレクションされているわけ? この間送ってあげた
のだって十枚くらいだったでしょ」

兄「隠し撮りしてたから。何年間にもわたって」

妹「偉そうに堂々と言わないでよ。これって盗撮じゃん」

兄「ごめん。でも姫のことが好きだったから」

妹「・・・・・・相手があたしじゃなかったら完全に犯罪だよね」

兄「う」

妹「やっぱりあたしが彼女になってあげないと、お兄ちゃんが犯罪者になっちゃうのか」

兄「・・・・・・」

妹「じゃあ選ぼうかな」

兄(思ったよりも怒られなかったぞ)


兄(さっきからなにやら真剣に画像選びをしているな。こんなに本気で選ばなくたってい
いのに。姫ならどんな姿でも可愛いんだしさ)

妹「本当はこの体操服のもいいんだけど、さすがにホーム画面じゃあまずいよね」

兄「別にまずくないのに」

妹「足とか思い切りむき出しだしね」

兄「そこがいいのに」

妹「何か言った?」

兄「いや。別に」

妹「あたしさ。うちの学校の制服好きなんだ」

兄「そうだね。この辺の学校ってブレザーが多いもんな」

妹「うちの学校のセーラー服が着たいから受験したって子も結構いるんだよ」

兄「富士峰のセーラー服って可愛いよな。特に姫が着ていると本当に可愛い」

妹「何で息が荒いのよ」

兄「ごめん。ちょっと興奮しちゃって(その清楚なセーラー服を身にまとっている姫が今
ではラブホのガウン姿で俺の肩にもたれかかっている。これで興奮するなという方が無理
だ。無理無体な話だ)」

妹「これなんかどうかな」

兄「どれどれ(姫の顔がすげえ近くにある・・・・・・)」

妹「あたしが送ってあげたやつだよ」

兄「却下」

妹「何でよ。可愛く写っているのに」

兄「同級生とツーショットはやめてくれ。姫が一人で写っているやつがいいな」

妹「ああ、そうか。彼女だってきっと気持悪いよね」

兄「それはそうかもしれんが、別に俺はそういう意味でやめてくれと言った訳じゃない
ぞ」

妹「わかってるよ。単なる冗談じゃん」

兄「姫単独の写真を選んでくれ。俺が盗撮したのでもいいけど」

妹「盗撮のはだめ。カメラの方を向いていないし」

兄「じゃあ体操服」

妹「だからだめだって。これなんかどう?」

兄「・・・・・・いいね(セーラー服姿の姫の自撮り画像。にっこり笑っているけど、これって
俺に送るために撮ってくれたんだから、つまり姫は俺に向って微笑んでいるってことだよ
な)」

妹「じゃあこれにしようか」

兄「おう」


妹「じゃあ明日も早いしそろそろ寝ようか」

兄「渋滞が始まる前に少しでもここから離れたほうがいいからね」

妹「じゃあ六時には起きてでかけよう」

兄「ちょっと早すぎる気もするけど」

妹「渋滞してたらデートする時間がなくなっちゃうじゃん」

兄「それもそうか」

妹「じゃあ寝ようか」

兄「あ」

妹「どうしたの?」

兄「そういや何か俺だけって不公平だなあ」

妹「何が」

兄「おまえのスマホの壁紙見せてよ」

妹「ごめん。単なる初期設定の壁紙のままだよ」

兄「え~」

妹「しょうがないでしょ。学校で誰に見られるかわからないんだし」

兄「休み中だけでも俺の写真にしてほしいな」

妹「そんなこと言われても」

兄「姫とのツーショットでもいいけど」

妹「そんな写真は持ってません」

兄「水族館で一緒に撮ったじゃん。インナーカメラでさ」

妹「もう」

兄「テーブルに置いてあるじゃん。俺が設定してやるよ」

妹「だめ! 勝手に触るな」

兄「何でだよ」

妹「こら。携帯から手を離せ」

兄「向きになるなって。おい危ないって・・・・・・うわっ」

妹「・・・・・・」

兄「・・・・・・」


<初夜>




妹「・・・・・・お兄ちゃん重いよ」

兄「・・・・・・」

妹「お兄ちゃん?」

兄「・・・・・・姫」

妹「うん?」

兄「・・・・・・可愛い」

妹「だからそればっか。ちょっとは語彙を増やしなさいって・・・・・・あ」

兄「・・・・・・姫」

妹「だめ」

兄「愛してる」

妹「・・・・・・え? ちょ。やだ」

兄「大好きだ」

妹「・・・・・・」

兄(もう止められん)

妹「・・・・・・お兄ちゃん」

兄(妹が抵抗を止めて力を抜いた)

兄「・・・・・・」



妹「・・・・・・・もうおしまい?」

兄「ごめん」

妹「何で謝っているのかなあ。あたしに突然襲い掛かったこと?」

兄「本当にごめん」

妹「それともすぐに終っちゃったからかな」

兄「う。俺だって初めてだし・・・・・・・」

妹「お兄ちゃん」

兄「うん」

妹「いいよ、許す。どっちも」

兄「ありがと」

妹「でも、ちょっと乱暴だったぞ。痛いって言ったのに」

兄「ごめん。余裕がなくて」

妹「急がなくてもいいじゃん。この先はきっと嫌になるほど長いんだし」

兄「うん。そうだな」

妹「でも、一応これであたしはお兄ちゃんのものになったのね」

兄「うん。確かに一瞬だったけど一つにはなったよ」

妹「知ってる。痛かったし、ほら少しだけど血も出てる」

兄「今拭くからな」

妹「自分でやるからいいよ」

兄「いや」


妹「ふふ」

兄(半ば勢いだったし。入れたらすぐに終っちゃったけど、そのわりには姫の機嫌がすげ
えいいな。何かにこにこしてるし)

妹「ねえ」

兄「うん」

妹「さっきは恥かしかったから見せなかったんだけど、やっぱり特別に見せてあげる」

兄「何?」

妹「はい。これ」

兄「え? これって」

妹「うん。あたしのスマホのホーム画面」

兄「え? だっておまえ初期設定だって」

妹「これ買ったときからずっとお兄ちゃんの高校入学式に撮った写真だったんだよ」

兄「・・・・・・姫」

妹「これに機種変する前のスライド式の携帯のときか待ち受け画面もずっとこの画像だっ
たの」

兄「付き合う前からじゃんか」

妹「うん。あたしも前からお兄ちゃんのことは好きだったしさ。まあ密かに待ち受けのお
兄ちゃんに話しかけたりしてた。彼氏君と付き合う振りをしてたときも、スマホの画面の
お兄ちゃんによく心の中で相談してたなあ」

兄「おまえ(これで何度目だろうか。もう本当に死んでも悔いはない)」

妹「でもせっかくだから画像を変えようかな。水族館の時の写真に」

兄「あれってツーショットだぞ」

妹「記念だし。いいよそれで」

兄「・・・・・・」

妹「お兄ちゃん?」

兄「姫」

妹「ちょっと。やだ、こんなことで泣かないの」

兄「・・・・・・」

妹「・・・・・・よしよし」


妹「お兄ちゃん?」

兄「うん。おはよ」

妹「今何時?」

兄「まだ五時前だよ」

妹「ずいぶん早起きしたね。何してたの」

兄「姫の可愛い寝顔を眺めてた」

妹「こら」

兄「うん」

妹「・・・・・・ねえ」

兄「ああ」

妹「まだ、起きるには早いよね」

兄「うん。起こしてやるからもう少し寝とけ」

妹「そうじゃなくてさ。その・・・・・・続き」

兄「・・・・・いいの」

妹「うん。何かそんな気分になっちゃった。すごく胸が切ないの。もっかいしようか」

兄「・・・・・・妹」

妹「今度は落ちついてしてね」

兄「・・・・・・努力するよ」


今日は以上です
次回の投下は別スレ更新後になります

おつ

乙です

祝 貫通

エロ描写無いのにおっきした 乙



ついに貫通しちゃったか....

これからはどんな物語が展開するんだ!?

中か外か、どちらにせよこの一回で出来てたら詰むな…

期待してる


<普通の恋人同士ならあり得ないじゃん>




兄(何か妙に姫が無口だな)

兄(かと言って不機嫌とも違う。ときどき黙って俺を見て少し微笑むし)

兄(ラブホの部屋を出たときも黙って俺に寄り添ってきたし。つまりあれか)

兄(体の繋がりができたからかな。もう言葉がなくても心が寄り添っていられるような関
係になったということなのかな)

兄(・・・・・・姫)

妹「・・・・・・なに?」

兄「いや」

妹「・・・・・・」

兄(黙ったまま俺の左手を握った。やっぱそうなんだ)

兄(・・・・・・感動だ。俺と姫はもう言葉なんかいらないくらい深くわかりあったんだな)

兄(もちろん問題は山ほどあることはわかっている)

兄(女とのこと。彼氏君と妹の関係。それに妹友のことすら何にも片付いていないのに)

兄(その上、父さんと母さんとのことまで心配しなきゃいけないような関係になってしま
った)

兄(俺って考えなしだよな。最初に告ったときにこんなことは考えておくべきだったのに。
本当に今さら過ぎる)

兄(でももう引き返せない。姫と心だけじゃなくて身体まで一つになっちゃったんだか
ら)

兄(でも後悔は全くしてねえ。実の兄妹同士の恋愛なんて世間じゃ理解されないかもしれ
ないけど。こればかりは実際に体験しないとわからないだろう。生まれたときから我が家
のアイドルだった姫への恋のことは。昔から誰よりも好きだったし、誰よりも身近にいた
んだから)

兄(まるで自分が本来帰るべきところに帰った感じだ。俺たちが兄妹だってことは別に悪
いことじゃないんだ。少なくとも俺にとっては。俺たちは昔から仲が良かったけどそれで
もそれは不完全だった。それが今では完全な関係になったんだ)

兄(・・・・・・妹だから好きになったんじゃない。たまたま好きになった子が妹なんだってい
うよく聞くセリフがあるけど。それは俺たちの場合は正しくないかもしれん)

兄(多分、兄妹としてのこれまでの積み重ねがあって俺たちはお互いを愛し合うようにな
ったんだ。いきなり初対面で妹と会ったとしても、可愛いなとは思うかもしれんけどいき
なり好きになったりはしないだろうな)

兄(そして姫に至っては、今までの兄妹としての関係がなければ俺なんかを意識すらしな
いだろう)


兄(姫の俺への気持はこいつの家族好きの延長なのかもしれないけど、もうそれはそれで
いいような気がしてきた。俺と姫ってやっぱり家族が一番だったんだし。そう考えるとう
やはり両親を裏切っていることは重い)

兄(ずっと両親に気が付かれないで済めばそれが一番いいのかもな)

兄(もう結婚とか子どもとかどうでもいいかもしれない。世の中には一生独身の人だって
いるはずだ。そんな独身の兄妹が一緒に暮らしたって別にそれ自体は変な話じゃない)

兄(よく考えれば児童書の赤毛のアンのマシュウとマリラだってそうじゃんか。あの二人
は両親亡き後兄妹だけで暮らしていたわけだし。アンを養子に迎え入れるまでは)

兄(子どもの頃あの本を読んだときには、別にマシュウとマリラが兄妹だけで暮らしてい
ることに疑問なんか抱かなかったよな)

兄(・・・・・・いや)

兄(小説のことなんかどうでもいい。それよかとりあえずは姫と彼氏君のことだ。姫は彼
氏君とはうやむやのうちに別れるつもりなのかなあ。それとも別れを切り出すのか)

兄(とにかくそのときは姫と一緒にいよう。彼氏君っておだやかな奴かと思ったら結構切
れてたしな。姫に危害を加えるようなら姫のことを守らないと。約束したんだし)

兄(・・・・・・姫)

兄(俺の手を握りながら車の外を眺めている。いったい姫は今何を考えているんだろう
な)

兄(わかりあえても。実際に姫が考えていることがわかるわけじゃないしな)

兄(・・・・・・姫)

妹「お兄ちゃん?」

兄「・・・・・・うん」

妹「今日はどうするの」

兄「うん。夕方までに家に帰ればいいからね。父さんたちも夜になるまでは帰って来ない
だろうし」

妹「じゃあ、今日は一日お兄ちゃんとデートできるね」

兄「そうだね(こういう会話を姫と普通にできる幸せ。世間から近親相姦野郎って罵られ
てももう何の後悔もない)」

妹「あのさ。お兄ちゃんの大学の方に行かない?」

兄「大学? 別にいいけど休み中だし誰もいないと思うよ」

妹「大学に行きたいんじゃないの。大学に通える範囲で一緒に暮らせるような場所がない
か下見してみようよ」

兄「いくらなんでも気が早くない?」

妹「いいじゃん。デートを兼ねて大学の周りを散歩しようよ」

兄「まあ姫がそうしたいなら別にいいけど」

妹「じゃあそうしよ。何か楽しみ」

兄「別にあのあたりって何も面白いところはないけどな」

妹「そんなことないよ。お兄ちゃんが連れて行ってくれた自然公園だっていいところだっ
たし」

兄「おまえ、周りがカップルだらけだって文句言ってたじゃん」

妹「あのときはね。今はあたしたちだってカップルなんだから公園でも別に浮かないんじ
ゃないかな」

兄「ああ。そうかもな」

妹「・・・・・・お兄ちゃん?」

兄「うん」

妹「お兄ちゃんはきっと自分の方があたしのことを好きだと思ってるかもしれないけど」

兄「何の話だよ」


<浮気とか不倫じゃないのに>




妹「本当はきっと、あたしがお兄ちゃんのことを好きな気持の十分の一もお兄ちゃんはあ
たしのことを好きじゃないと思うの」

兄「・・・・・・何でそう思う」

妹「今までは隠してたからお兄ちゃんにはきっと伝わっていなかったと思うけど。あたし
は彼氏君のことで迷ったあの一瞬以外、物心ついてからはずっとお兄ちゃんのことが好き
だったから」

兄「・・・・・・」

妹「考えてみればすごいよね。あたしたちって恋人同士になったばっかだけど、もう既に
十七年間の積み重ねがあるんだもんね。十七年も一緒に暮らしていたんだよ。普通の恋人
同士ならあり得ないじゃん」

兄「そうだな。まあ、幼馴染とかならそれに近いかもしれないけどな」

妹「幼馴染だって夜も一緒にいたわけじゃないでしょ。それにお兄ちゃんには女の幼馴染
なんていないじゃん」

兄「残念なことにな」

妹「残念なの?」

兄「いや。姫がいればそれだけでいいや」

妹「あたしもそうだよ」

兄「まあ、姫が言ったことは間違っているけどな」

妹「何でよ」

兄「十分の一とかふざけんな。どう考えても俺の方が姫のことを好きに決まってる」

妹「何で自信満々に言い切れるのよ」

兄「だって俺は姫より二つ年上だぞ。姫が物心つく前から俺は姫のことを愛するようにな
っていたんだから、この勝負は俺の勝ちだ」

妹「・・・・・・いつの間にか勝負になってるし」

兄「これだけは負けられん。俺のこれまでの人生の存在意義に関わるからな」

妹「・・・・・・あきれた。そんなにあたしのことが好きなの?」

兄「今さら何を言ってるんだ」

妹「うん。確かに今さらだけど、そういう言葉は何度聞いても嬉しい」

兄「さっきまで黙ってたのに。急にお喋りになったな」

兄(安らぐなあ。客観的に考えれば問題だらけなのに)

妹「・・・・・・お互いの想いが実ったときって、普通はただ嬉しいだけじゃない?」

兄「うん」

妹「あたしたちって浮気とか不倫じゃないのにね。それでもやっぱり不安や罪悪感を感じ
る」

兄「・・・・・・それは。不倫とかと違って誰にも迷惑はかけていないと言いたいところだけ
ど」

妹「パパとママのこと・・・・・・?」

兄「うん」

妹「あたしの不安はね。ちょっと違うの」

兄「違うって?」


妹「パパとママには悪いとは思うけど、でももうそれは覚悟したの。最悪、勘当されたと
してもお兄ちゃんと引き離されなければいいって」

兄「そうか」

妹「あたしの不安はね。お兄ちゃんがパパとママのことを気にしてあたしから離れて行っ
たらどうしようってこと」

兄(アホかこいつ。それは俺のセリフだっつうの)

妹「まあでも。お兄ちゃんとはもう結ばれちゃったんだから絶対に逃がさないけどね」

兄「当たり前だろ。それはこっちの」

妹「ちゃんと責任取ってね、お兄ちゃん」

兄「責任は取るからさ。姫もそろそろ貸しを返してくれ」

妹「よく覚えてたね。でもあれから何度も返したっていうかお兄ちゃんに返させられたじ
ゃん」

兄「無理矢理にはしてないぞ」

妹「わかってるよ・・・・・・はい」

兄「うん確かに」

妹「キスの借りとか貸しとか本当にバカなんだから」

兄「そろそろ自動車道に入るな。これなら午前中には大学のあたりまで行けるかもな」

妹「やっぱり朝早いとまだ空いてたんだね」

兄「エッチした後寝ないでそのまま出てきたのがよかった・・・・・・って痛っ」

妹「バカ」

兄「・・・・・・よっしゃ。インターに入ったけど空いてる空いてる」

妹「ちょっと。高速に入ったから手をどけてよ。危ないじゃん」

兄「そうだった。で、どうする?」

妹「どうするって?」

兄「朝飯食ってないじゃん。どっかで食べる?」

妹「ここまで来たら混む前に帰っちゃおうよ。おなか空いてないしお昼までは大丈夫」

兄「じゃあそうするか」


<あーんってしてたでしょ?>




兄「思っていたより早く着いたな」

妹「一応ぎりぎり午前中のうちに着いたね」

兄「車どうする? どっかパーキングに入れようか」

妹「うん。それで少しこの町をお散歩したいな」

兄「じゃあそうしよう。昼飯も食わなきゃいけないし」

妹「さすがに少しおなか空いたね」

兄「そうだな。とりえず飯食おう」



兄「どういうところがいい?」

妹「普段お兄ちゃんの大学の学生が行くようなところに行ってみたい」

兄「こないだのカフェみたいなとこ?」

妹「あそこはもういいや。他にはないの?」

兄「いつもは学食ばっかだったしなあ」

妹「じゃあ散歩しながら探そうよ」

兄「まだ連休中だし、あまり営業している店はないかもしれないけどな」

妹「なきゃファミレスでもいいんだって。お兄ちゃんと二人で町を散歩することに意義が
あるんだから」

兄「そうか」

妹「予行練習だよ。再来年にはあたしはここでお兄ちゃんと一緒に暮らすんだから」

兄(何かいいなあ。そういうのって)

妹「婚約者同士でこれから一緒に暮らす町を散策するのってこんな感じなのかな」

兄「何かテンションがあがってきた」

妹「・・・・・・うん。あたしも」

兄「じゃあ行こう」


妹「ねえ」

兄「どうした」

妹「このあたりって大学が多いんでしょ」

兄「近くには四つくらい大学があるよ。だからこの辺は学生街みたいな感じなんだ」

妹「でも大学生なんて誰もいないよ」

兄「今は連休中だからな。普段はもっと学生街っぽい感じだけど」

妹「それにしても見事なまでのシャッター街だね。ほとんど休業中だ」

兄「学生がいないんだから店を開けても商売にならないからだろ」

妹「おなか空いた」

兄「この先に洋食屋があるんだけど、やってるかなあ」

妹「とりあえず行ってみるしかないね」

兄「ああ。最悪は駅前にマックとファミレスはあるけど」

妹「その洋食屋さんがだめならね」

兄「おう」



兄「ここだけど」

妹「営業中って札が出てるよ」

兄「ラッキーだったな」

妹「ここって美味しいの?」

兄「入ったことないけど、噂では美味しいらしい」

妹「じゃあ入ろうよ」

兄「おう」

妹「空いてるね」

兄「普段は混んでるらしいけど」

妹「まあ待たずに座れてラッキーだよね」

兄「うん。ほらメニュー」

妹「何にしようかなあ」

兄「オムライスがあるな。俺はそれにしよ」

妹「お兄ちゃん本当に好きだね」

兄「本当は姫のオムライスの方が好きだけどな」

妹「また作るよ。今日はママがいるからだめだけど」

兄「期待してるよ」


妹「美味しそう」

兄「いいなあ。俺もビーフシチューにしときゃよかった」

妹「また始まった。お兄ちゃんの悪い癖」

兄「何だよ」

妹「いつもあたしのを見てそれにすればよかったって言うんだから」

兄「いいだろ別に」

妹「何拗ねてるの。お兄ちゃんのオムライスだって美味しそうじゃん」

兄「いや。よく考えたらオムライスは姫が作ってくれるわけだし、それなら他のにしとく
んだった」

妹「問題ないじゃん」

兄「え」

妹「こうすればいいだけの話でしょ。はい、あーんして」

兄「・・・・・・マジで」

妹「別に初めてするわけじゃないじゃん。はい」

兄「う」

妹「どう?」

兄「美味しい(味なんかわかるか。それは初めてじゃないけど、姫と結ばれてからこうい
うことするのは初めてじゃんか)」

妹「オムライスもちょうだい」

兄「ああ。ほら」

妹「・・・・・・うーん」

兄「どう?」

妹「生意気なようだけど。お兄ちゃんの好みじゃないかな。あたしの方が多分お兄ちゃん
の好きなオムライスを作れると思う」

兄「そうなの」

妹「あたしの方が上手とかじゃなくてね。あたしの方がお兄ちゃんの好みをよくわかって
いるからね」

兄「(姫のことが大好きすぎる)姫。好きだよ」

妹「いきなり何よ・・・・・・。でも、あたしもお兄ちゃんが大好き」


女友「あれ? おーい池山兄妹。久し振りじゃん」

兄「げ」

女友「げって何よ」

女「兄と妹ちゃんお久し振り。香港はどうだった?」

女友「君たち香港に行ってたのか。つうかそんなことよりさ。君たち、今あーんってして
たでしょ? あーんって」

女「え」

女友「あたし見ちゃった。相変わらず池山兄妹は仲がいいねえ」

兄「いや、そうじゃなくて」

女「・・・・・・」

妹「・・・・・・」


今日は以上です
また投下します

あと別スレ再開しました

おつ



まずは女との決戦か......

続きまだー


<二組の兄妹同士で旅行とかさ>



女友「まあ普段からこんなに仲がいいなら、あたしが二人は兄妹で恋人同士だって騙され
ても無理はないか。ねえ女」

女「・・・・・・そうだね」

女友「一緒に座ってもいい? 別に恋人同士のデートを邪魔するんじゃないからいいよ
ね」

兄「あ、いや」

女「・・・・・・邪魔しちゃ悪いよ」

女友「知らない仲じゃないんだしいいじゃない。ね? 妹ちゃん」

妹「そうですね。よかったらどうぞ」

女友「さすが妹ちゃんだ。じゃあ遠慮なく。ほら女も座りなよ」

女「・・・・・・」

妹「あたしの隣空いてますよ」

女「うん・・・・・・」

女友「君たち連休中香港に行ってたの? まさか兄妹二人きりで旅行したとか?」

兄「家族旅行だよ。でも両親に急な仕事は入っちゃったんでキャンセルした」

女友「何だ。じゃあ連休中はどこにも行かなかったんだ」

兄「いや、そうじゃないけど」

妹「・・・・・・」

女友「でも何か君たちって変わってるね。大学生とか高校生になっても両親と一緒に旅行
なんて。あたしだったら絶対嫌だな」

女「兄と妹ちゃんのところは昔から家族全員がすごく仲が良かったから」

女友「それにしたってさ。両親と一緒なんてうざいじゃん。両親に紹介した彼氏も一緒に
連れて行ってもらえるなら、まあ我慢してついていくかもしれないけどね」

妹「・・・・・・」

女「まあ、兄は妹ちゃんと一緒ならどこにでも行くだろうけど」

兄「・・・・・・どういう意味だよ」

妹「うん。そうですね」

兄(え)

女「・・・・・・」

女友「どうした」

妹「あたしは両親と一緒に旅行するだけでも嬉しいですけど」

女友「そんなに家族が好きなのかあ」

女「・・・・・・」

妹「そのうえお兄ちゃんが一緒なら絶対にその旅行は断らないですね」

女友「相変わらずだねえ。もういっそあのときの嘘を本当にしちゃって兄妹で付き合っち
ゃえばいいじゃん」

女「・・・・・・」

女友「あ、ごめん。冗談だって。冗談」

兄「とにかくさ。親と香港には行ってねえの。親抜きで海辺に遊びには行ったけど」

妹「・・・・・・」

女友「海辺って? 誰と行ったの」


兄「誰とって。まあ妹と」

女友「え? 兄妹二人きりで旅行に行ってたの?」

兄「二人きりじゃないって。妹の彼氏とその妹と一緒にな」

女友「何だそうか。って何よ。兄君って女というものがありながらダブルデートしてたの
かよ」

女「・・・・・・え」

兄「そんなんじゃねえよ。妹友は彼氏君の妹っていうだけだよ」

女友「何か複雑そうなダブルデートだねえ。二組の兄妹同士で旅行とかさ。あんたら兄妹
も異常なほど仲いいし。何か楽しいどころじゃかったでしょ」

兄「んなことねえよ」

女友「妹ちゃんの彼氏も複雑な心境だったろうなあ。かわいそう」

兄「さっきから何勝手にどろどろした関係にしようとしているんだよ」

女友「だってそうじゃない? 人前で実の兄貴にあーんとかしちゃう子が自分の彼女なん
すごく嫌じゃん。あたしだったらその場でひっぱたくけど」

妹「・・・・・・」

女「ちょっと・・・・・・言い過ぎだって」

女友「あ、いけね。ごめん妹ちゃん」

妹「そうかもしれませんね」

女友「え?」

妹「彼氏君はあたしのことを殴りたかったのかもしれないね」

女友「・・・・・・自分でもわかってるならせめて、彼氏と一緒のときくらいはお兄ちゃんだあ
いすきとかっていうのやめておけばよかったじゃん」

妹「・・・・・・」

女「まあさ。兄と妹ちゃんは純粋に家族として仲がいいだけだし、そんなことは妹ちゃん
の彼だって理解してるよね」

兄(どうしよう。こんな会話続けたって姫が辛いだけだ。かと言っていきなり食事途中で
出て行くのも不自然だし)

兄(以前の俺だったら。そうだな。最初に姫に告ったときの俺だったら喜んでこいつらに
妹が俺の告白を受けてくれたって話してただろうな)

兄(別に兄妹の恋愛が普通じゃないことなんかあのときだってわかってた。でも今振り返
って考えるとやっぱりちゃんと考えてはいなかったんだな)

兄(今ならわかる。たとえこいつらが理解してくれたとしても、話が広まればどこから親
バレするかもしれないんだ。本当の問題はそっちの方なんだ)

兄(とりあえず話題を変えるか。女友に悪意がないにしてもこれじゃ姫がかわいそうだ)

兄「おまえらはこんなとこで何してるんだ? まだ講義始まってないのに」

女友「何って、うちら親友だもん。一緒にいたって不思議はないじゃん」

兄「・・・・・・お前ら本当に親友なの?」

女友「そうだよ。ね?」

妹「・・・・・・そう言えばこの間まではちゃん付けで呼び合っていたのに今は呼び捨てです
ね」

女「うん」

女友「親友同士だからね、当然でしょ。今日だってあたしは女の悩み相談を聞くために」

女「やめてよ」

女友「あ・・・・・・悪い」


兄「相談って?(何かこいつらも微妙な雰囲気だな)」

女友「何でもないよ。あんたには関係ない」

兄「そう」

女友「君たちこそ何でこんなとこにいるのよ」

兄「旅行から帰る途中だから」

女「途中って・・・・・・兄と妹ちゃんの家と全然方向が違うじゃない」

兄「えーと」

女友「何かあやしいな」

妹「帰るついでに下見に来たんです」

女友「下見って・・・・・・何の?」

妹「アパートです。女さんの隣の部屋は引き払っちゃったんでその代わりの」

女「え? 兄ってまたこっちに住むの?」

女友「・・・・・・露骨に嬉しそうだなあんた」

女「へ? あ、それは違くて。そうじゃないんだけど」

女友「兄君本当にまたこの町に戻ってくるの?」

兄「いやその(いったい姫は何を考えてるんだ。わざわざ面倒なことを言わなくてもいい
のに)」

妹「すぐって訳じゃないんです。再来年にあたしがここに合格したらお兄ちゃんと一緒に
こっちで暮らそうかと思って」

兄「(言っちゃったよ姫)うちから大学まで時間かかるしさ。けど姫の一人暮らしなんか
うちの両親が許さないからね」

女友「・・・・・・人前で自分の妹のことを姫って呼ばない方がいいよ」

兄「う」

女「・・・・・・」

女友「はあ。これじゃやっぱり旅行中、妹ちゃんの彼氏はきっと胃が痛くなるような思い
をしたんだろうなあ」

妹「お兄ちゃん」

兄「ひ、じゃない妹。どうした」

妹「二人の相談の邪魔しちゃ悪いから、あたしたちはそろそろ帰ろう」

兄「そうだな。じゃあ、俺たちはこれで」

女友「これでって。まだ食事残ってるじゃん」

妹「じゃあさよなら、女さんと女友さん。お兄ちゃん行こ」

兄「ああ(姫もわざわざ手を引っ張らなくてもいいのに)」

女友「ちゃんと食べてかないと店の人に失礼じゃん。ま、いいか。じゃあねえ池山兄妹。
気をつけて帰ってね」

女「・・・・・・」


<バカみたい>




兄「本当に帰るのか。アパート見たり散歩したかったんじゃないの」

妹「もういい。何だかあの人たちのせいでせっかくのデートが台無しになっちゃたよ」

兄「悪かったね」

妹「別にお兄ちゃんのせいじゃないけど。でも少しおどおどしすぎだよ。前はあたしと一
緒にいるときはもっと堂々としてたのに」

兄「いや、あの頃は俺も考えなしだったから。何も考えずに俺は妹を愛しているなんて女
や妹友たちに言い触らしてたんだしな。今思うと姫にもきっと嫌な思いをさせたよな」

妹「嫌な思いなんかしなかったよ」

兄「だって」

妹「嬉しかったり恥かしかったりはしたし、照れ隠しにお兄ちゃんに怒ったりはしたけど。
嫌だなんて一度だって思ったことはなかったよ」

兄「まあ、そうだとしてもさ。これからは慎重にしないといけないと思うんだ。あの頃の
俺は考えなしだったけどさ。やっぱりこの先長く姫と付き合っていくためにはいろいろと
よく考えて行動しないといけないって」

妹「もともと世間の人から見たら非常識なことをしているんだもん。バレずに済むとか、
陰口や噂されて嫌な思いをしないで済むなんてあり得ないよ」

兄「姫?」

妹「だから最初はお兄ちゃんの告白を断ったんじゃない。だけど返事をやり直した時点で
もうそんな覚悟なんかできてるよ。言ったでしょ? あたし。パパとママを失ってもお兄
ちゃんだけ一緒にいてくれればいいって」

兄「姫がよくても俺がいやなんだ。姫にはなるべくつらい思いをさせたくない。俺と付き
合ったことで姫にいやな思いをさせたくないんだ」

妹「もうやめて。二人で苦労するならいいじゃない。それに今はお兄ちゃんが女さんと女
友さんに、はっきりとあたしたちのことを話してくれない方がむしろつらいよ」

兄「・・・・・・姫」

妹「家に帰ろう。あたしとお兄ちゃんにとっては、家が一番落ちつくよ。きっと」

兄「わかった。さっさと帰ろうか」

妹「うん。そうしようよ。あたしたち二人きりだと仲がいいのに」

兄「え?」

妹「他の人と一緒だとうまくいかないね。それが彼氏君でも妹友ちゃんでも、女さんと女
友さんでも」

兄(そうかもしれないな。何でかな。姫と二人きりが一番うまくいくなんてうれしいとし
か言いようがないけど)

妹「お兄ちゃん?」

兄(これって。ひょっとして俺と姫との将来を暗示しているんだろうか。俺たちってもう
二人きりで生きて行くしかないのかな)

兄「妹友が言ってたことってさ」

妹「え?」


妹友『あたしもお兄さんも、自分の気持を追求していってもその先は行き止まりです。仮
に相思相愛になれたとして、ラブラブな恋人同士になったとしてもそこから先には行き場
所はありません』

妹友『解説なんていらないでしょう。お兄ちゃんと妹さんなら、あるいはお兄さんと女さ
んなら恋人同士の先にはいろいろと行く先があるんですよ。実際にそこまで行き着けるか
どうかは別としてですが。可能性としては、婚約して結婚してパパとママになって孫がで
きて』

妹友『あたしやお兄さんの恋は違いますよね? 奇跡的に想いがかなったとして、恋人同
士にはなれるかもしれない。でもその先はどうなるんです?』

妹友『一生恋人同士、それも人には言えない関係でっていうのもあるのかもしれませんけ
ど、他の選択肢があるのにわざわざそんなつらい一本道に入ることを選ぶ必要なんてない
でしょう』



兄「妹友はそう言ってたよ」

妹「・・・・・・バカみたい」

兄「え?」

妹「そんなに先のことを考えて今を台無しにするなんて。お兄ちゃんも妹友ちゃんもバカ
みたい」

兄「いや。俺も前は考えなしだったから偉そうには言えないけどさ。でもこれって大切な
ことじゃね?」

妹「婚約? 結婚? 孫?」

兄「・・・・・・俺なんかと付き合わなきゃどれも全部姫のものになるはずの将来だよ」

妹「将来のことなんか知らない。どうでもいいよそんなこと。そんな先の訳わかんないこ
とのために何であたしが今一番大好きな人のことを諦めるなんていうバカな選択をしなき
ゃいけないのよ」

兄「落ちつけよ。そこまでは言ってない。俺だってもう姫のことは手放せないんだし」

妹「・・・・・・それならいいけど」

兄「別に後悔しているわけじゃないんだ。でもさ、俺と付き合うにしたってせめて姫には
あんまりつらい思いをさせたくなくて」

妹「あんまり何度も言わせないでよ。もうあたしにはお兄ちゃんだけいればいいんだっ
て」

兄「え?」

妹「・・・・・・」

兄「悪かったよ。ごめん」

妹「・・・・・・」

兄「ごめん。だから泣かないでくれ」

妹「・・・・・・もうやだ」


兄「悪かったよ本当に」

妹「・・・・・・本当だよ。いったい何回間違えば気に済むのよ。いつもいつも一人で考え込ん
で、一人で勝手に悩んで」

兄「ごめん」

妹「もう考えないでよ。あたしは幸せだって言ってるでしょ」

兄「わかったよ。ごめんな姫」

妹「・・・・・・ごめんお兄ちゃん。あたしも少し言いすぎた」

兄「悪かった。だからもう泣くなよ姫」

妹「ごめんなさい。お兄ちゃんも泣かないで」

兄「・・・・・・」

妹「・・・・・・ごめんなさい」

兄「いや。ごめん」

妹「ごめんじゃなくて」

兄「姫。可愛いよ。本当に愛してる」

妹「あたしも愛してる。お兄ちゃん大好きだよ」



妹「やっと帰ってきたね」

兄「おまえ本当に家が好きなのな」

妹「うん。でもおまえって呼ばないでよ」

兄「・・・・・・前から聞こうと思っていたんだけど。姫って自分が姫って呼ばれるのいやじゃ
ないの」

妹「人のこと散々姫とか妹姫とか呼んでおいて今さら何言ってるのよ」

兄「それはそうだけど。自分に勝手に幻想を押し付けるなって前に言ってたじゃん」

妹「ああ、そうね。だってお兄ちゃんもパパもあたしがまるで何も汚いところなんかない
童話の中の純粋無垢なお姫様だって決め付けてるんだもん」

兄「俺はそこまで姫に幻想を抱いちゃいなかったよ。結局姫には彼氏君だっていたんだし、
キスだってしてたんだしな」

妹「・・・・・・」

兄「あ、ごめん。そういうつもりじゃ」

妹「お兄ちゃんはどういうあたしが欲しいの?」

兄「どういうって。俺は、昔から俺の側にいるありのままの姫が」

妹「じゃあ、これがありのままのあたしだよ。彼氏君とキスもするし、妹友ちゃんや女さ
んに嫉妬もする。それに」

兄「・・・・・・それに?」

妹「明け方、お兄ちゃんに抱いてって迫る。それがあたしだよ。どう、姫に幻滅した?」

兄「・・・・・・しないよ。するわけがない」

妹「・・・・・・うん。そうか・・・・・・。それならよかった」


<両親>




妹「お風呂出た?」

兄「うん」

妹「ママから電話があった。これから会社を出るから一時間後くらいには家に着くって」

兄「そう」

妹「パパもそんなに遅くならないみたい。夕ご飯どうしようか」

兄「母さんは何か言ってたのか」

妹「うん。お腹空いたら適当に出前でも取って食べていてって」

兄「まあ、腹は減ったけど。昼飯はほとんど残して帰ってきちゃったしな」

妹「ごめん」

兄「姫のせいじゃない。でも、一時間くらいなら待ってようか」

妹「あたしもそう思ってた」

兄「まだ預かった金残ってるしさ。寿司でも取って母さんたちと一緒に食うか」

妹「いいね。どうせなら特上のお寿司がいいな」

兄「じゃあ近所の寿司屋に電話するわ。姫はその間に風呂入っちゃえよ」

妹「じゃあ、任せた」

兄「任されたよ。さっさと入って来なよ」

妹「・・・・・・覗かないでね」

兄「しねえよ」

妹「パパとママが帰ってくるからさ。お兄ちゃんも少し我慢してね」

兄「我慢って何を・・・・・・。うん。我慢する」

妹「あたしも我慢するから」

兄「さて。寿司屋の電話番号は」

妹「電話の下の電話帳に書いてあるよ」

兄「ああそうか」

妹「ちゃんと頼んでね」

兄「ちゃんとって。寿司の出前頼むだけじゃねえの」

妹「ママのは貝類なし。パパのはトロとか脂身のネタなし。そう言えばわかるよ。いつも
頼んでるんだから」

兄「そんな注文してたんだ。知らなかったよ」

妹「お兄ちゃんはうちの家族のことで知らないことがいっぱいありそうだね」


兄「何かパーティーみたいになってきたな」

妹「まあね。何か連休中に会わなかったせいか、パパとママに会うの久し振りな気がす
る」

兄「つうか連休前だってほとんど顔を合わせなかったような」

妹「それはお兄ちゃんが会おうとしなかったからでしょ」

兄「いないんだから会い様がないだろ」

妹「全くいなかったわけじゃないしね。会いたかったら会えてたはずだよ。あたしはパパ
とママと会っていたもん」

兄「何をわけのわからないことを。俺だって自慢じゃないけど学校が終ったらまっすぐ自
宅に帰ってたぞ。主に姫の顔を見たかったからだけど」

妹「そのせいかもね。お兄ちゃんはあたしだけを見てたのね」

兄「・・・・・・悪いかよ」

妹「悪くはない。でもあたしはお兄ちゃんだけを見てたわけじゃないの」

兄「え? そうなのか」

妹「うん。あたしはパパとママのことも見ていたから。お兄ちゃんと違ってパパとママに
会っていたから」

兄「そう言われると返す言葉もないけど(何度も考えたことだけどやっぱり妹の俺への愛
情は家族への愛の延長なんだなあ。別に今となってはそれでもいいんだけど)」

兄(俺が妹を好きなのももちろん家族としての積み重ねの延長だけど。それでも姫と俺の
動機には確実に温度差が存在する)

兄(それでもいいんだ。さっき妹に言われたばかりだろ。)



妹『・・・・・・本当だよ。いったい何回間違えば気に済むのよ。いつもいつも一人で考え込ん
で、一人で勝手に悩んで』



妹「でもお兄ちゃんのことが好きなのは本当だから。たとえパパとママを失うことになっ
ても後悔しないくらいにね」

兄「わかってる」

妹「あ。誰か帰ってきたね」


父「ただいま妹姫。休み中は悪かったね。寂しかっただろう」

妹「おかえりなさいパパって・・・・・・ちょっと苦しい。離してよ」

父「すまん。つい久し振りに姫と会えて嬉しくてな」

妹「もう。あたしだってパパに会えて嬉しいよ。パパ?」

父「うん? あ、うん」

兄(・・・・・・今に始まったことじゃない。散々見慣れた光景ではあるけど)

兄(姫の彼氏になってから妹が父さんにキスしているのを目の当たりにするとさすがにき
ついな)

父「香港に連れて行ってやれなくてごめんな、姫」

妹「お仕事が忙しいのはわかってるよ。わがままは言わないからまた今後連れて行って
ね」

父「そうだね。正月休みは無理だけど、来年には必ず行こうな」

妹「うん。お風呂入って。それからご飯にしよ。お寿司取っておいたから」

父「そうか。ああ、兄。おまえもちゃんと姫を守ってたか」

兄「ちゃんとやったって(うぜえ。早く風呂行け)」

妹「お兄ちゃんがいてくれたから全然寂しくなかったよ」

父「うん。それならいい」

妹「ママが帰ってくるまでにお風呂出てね。パパってお風呂が長いんだから」

父「わかったよ姫」

妹「・・・・・・こら」

兄「何だよ」

妹「いくらなんでもパパにまで嫉妬しないでよ」

兄「別に。してねえけど」

妹「もう。ひょっとして拗ねてる?」

兄「拗ねてねえよ」

妹「嫉妬するにしても見境がなさすぎでしょ。彼氏君ならともかくパパにまで嫉妬しない
でよ。お兄ちゃん・・・・・・」

兄「だから・・・・・・う」

妹「・・・・・・」

兄「・・・・・・」

妹「・・・・・・これでいい? 姫はパパには、自分の彼氏以外にはこんなキスはしないよ」

兄「別にそんなんじゃ(姫にベロチューされた。嬉しいけどそれを認めたらまるで俺が父
さんに嫉妬していたみたいじゃんか)」

兄(いや。まあ嫉妬しちゃったんだけど)

妹「あ。今度はママかな」

兄(・・・・・・)


今日は以上です
また投下します



セカンドシーズン突入だな!!

楽しみにしてる

乙です
これでスッキリ寝れるよw
引き続きお願いします~

たのしみ


<親バレ>




母「あなたと一緒にお夕飯を食べるのも久し振りねえ」

妹「うん。すごく嬉しい」

母「あたしたちもね。ねえ? パパ」

父「うん。寿司も美味しいが、何よりも姫の顔を見るともっと仕事を頑張ろうっていう気
になるよ」

母「本当ね」

兄(もういい加減慣れたけど、こいつら俺のことは心底どうでもいいらしいな)

妹「ちょっと大袈裟だよ。パパもママも」

母「だって本当なのよ。あたしたちが何よりも大切なのはあなた。パパとママが一番大事
なのはあなたの幸せだけなのよ」

兄(・・・・・・まあ、でも俺はどちらかと言えば両親に愛されるというより両親と一緒に姫を
愛する側の人間だから問題はないけどさ)

兄(それに姫は俺のことを一番・・・・・・)

妹「あたしもパパとママが一番大好き」

兄(どういうことだよ)

母「あら。ママとパパが言いたことをあなたに先に言われちゃったわ」

父「全くだね。パパとママがいつも忙しく仕事をしているのも姫の将来のためだしな」

妹「・・・・・・やめてよ。パパもママもちょっと大袈裟だよ」

母「大袈裟なんかじゃないのよ。本当のことだもの」

兄(・・・・・・何かいつもと違うな、母さん)

父「うん。お母さんの言うとおりだよ。大袈裟でも何でもない」

妹「・・・・・・ちょっと、どうしたの? パパとママ、何かいつもと違うよ」

父「そうかもな。パパとママは姫が不幸になることは見過ごせないんだよ」

妹「・・・・・・パパ。何言って」

父「残念だよ。久し振りに家族で食卓を囲めたのに、こんな話をしなければいけないと
はな」

母「もう目を覚ましなさい」

妹「・・・・・・何の話だかわからないよ」

父「兄。おまえ何にも言わない気か」

兄「何言ってるんだかわからないよ」

母「いい加減にしなさい」

兄「・・・・・・え?」

父「落ちつきなさいママ。兄、よく聞きなさい」

妹「ちょっとパパ」

父「姫は黙っていなさい。兄」

兄「何だよ」

父「おまえは私たちとの約束を破ったね」

兄「何のことだかわかんないよ」

父「本当にわからないのか」


兄「ああ(何言ってるんだ・・・・・・え? まさか)」

父「おまえ、私たちに約束したよな。私たちと一緒に姫を守るって」

兄「あ、うん。したけど」

母「・・・・・・本当に情けない。おまえって子は昔からそうよ」

父「ちょっと黙っていなさい。兄」

兄「何だよ」

父「おまえ。姫に、自分の妹に手を出したな」

兄(!)

母「・・・・・・よりによって自分の実の妹を。おまえなんか産まなきゃよかった」

父「おまえが姫を守るというのはそういうことなのか」

兄「・・・・・・」

父「言い訳すらなしか?」

兄(違うって言いたい。けど父さんの言っていることは事実そのものだし)

父「何とかいいなさい。おまえ、姫に何をした」

妹「パパ違うよ。お兄ちゃんは何も悪くないの」

父「姫も黙っていなさい。おまえの話は後で聞くから」

妹「いいから聞いて」

母「あなたは部屋に戻ってなさい。あとで声をかけるから」

妹「いや」

母「妹!」

兄「・・・・・・父さんと話すから。姫は母さんと一緒に」

妹「絶対にいや」

父「姫がそう言うならいいだろう。でもつらい思いをするかもしれないよ?」

妹「あたし、お兄ちゃんの側から離れないから」

兄「おい(姫に腕に抱きつかれた)」

母「お父さん」

父「まあしかたない。それに姫にも言わなくてはならないことはあるんだ」

母「でも」

父「私たちにとっては兄も姫もどちらも大事な子どもだろ?」

母「・・・・・・そうね」

兄(何だって)

妹「・・・・・・」


父「おまえは姫を傷つけたな」

妹「・・・・・・あたしはお兄ちゃんに傷つけられてなんかないよ」

父「だから姫とは後で話したかったんだ。姫は兄に騙されてるんだ。言いくるめられてる
んだよ」

妹「パパ。何を言って・・・・・・」

父「姫をこれ以上傷つけたくない。今からでもママと二階に行っててくれないかな」

妹「・・・・・・行かない。お兄ちゃんを一人には絶対にしないから」

兄(姫)

父「しかたがない。姫は兄に騙されているんだよ」

妹「・・・・・・」

兄(姫が父さんを睨んでいる。あれだけ両親が大好きだった姫が)

父「兄、おまえ姫を無理矢理犯したな」

兄「な」

妹「違う! お兄ちゃんは無理矢理なんかしてない」

兄(え?)

父「・・・・・・やっぱりか。嘘だと信じたかったよ」

妹「・・・・・・あ」

兄(やられた。これは誘導尋問だ)

父「おまえがどうやって姫を騙したかはわからん。無理矢理したなんて初めから思ってい
なかったよ」

母「妹を何だと思ってるの。あんたの玩具じゃないのよ!」

妹「違うよ。あたしたちはそんなんじゃ」

父「あたしたちというのはやめなさい。姫は騙されてるんだ」


<誤解>




母「あなたもいい加減に目を覚ましなさい」

妹「お兄ちゃんはそんなことしてない」

父「姫は少し落ちつきなさい」

妹「・・・・・・」

兄(姫。まるでハリネズミのように父さんと母さんに向って毛を逆立てている。妹のこん
なところを見るのは初めてだ)

兄(こんなに冷静に姫を観察している場合じゃないのにな。何か全てに現実感がない)

父「おまえは姫のことを・・・・・・その、つまり。つまり抱いたんだな」

兄「・・・・・・」

父「答えなさい」

兄「・・・・・・うん」

母「・・・・・・兄。あんた最低」

父「おまえはそれでも姫を守ったと言えるのか。胸を張って言えるのか」

兄(父さんと母さんが泣いている)

兄(・・・・・・それだけのことをしたんだもんな。無理はない)

兄(でも。でも、姫のこと愛しているからこそ)

兄(言い訳しても納得してもらえないだろうな)

父「おまえ。自分が妹に何をしたのかわかってるのか。おまえは姫の将来を閉ざしたんだ
ぞ」

妹「だから聞いて。お兄ちゃんは何も悪くないの」

父「・・・・・・ストックホルム症候群って知っているか」

妹「・・・・・・」

父「人質が犯人に対して憎しみではなく愛情を抱いていしまうことを言う」

妹「・・・・・・何よ」

父「普通の感情の延長だよ。立場が圧倒的に弱い人質は生き残るためには犯人に反抗的な
態度を取るよりは犯人に媚びた方が生き残る確率が高くなる」

兄(父さんは何を言ってるんだ)

父「だから犯人に媚びるための自分への言い訳として、人質は犯人のことを愛してしまっ
たと思い込むようになる。犯人に媚びる心理的抵抗を除去するためだ」

妹「違う。何バカなこと言ってるの」

父「バカなことじゃない」


兄(本当にいったい父さんは何を言いたいんだ)

父「それに加えて姫は兄のことを悪く思いたくないという気持ちもあったはずだね。姫は
家族のことが大好きだったから」

妹「・・・・・・」

父「たとえ自分にひどいことをした兄であっても、姫はそのとき兄のことを悪く思いたく
ないという心理的な防衛反応を取ったんだよ」

妹「何を言ってるの。それ以上言うとパパのこと嫌いになるよ」

父「嫌われてもいい。姫の将来が台無しになるよりましだ」

母「・・・・・・あなた。これからどうするの」

父「兄、何とか言いなさい。せめて自分の口で自分のしたこと話なさい」

兄「・・・・・・俺と姫は。愛しあって」

父「ふざけるな!」

妹「やめて!」

兄(殴られた。でもしかたないか)

父「何か言えよ」

兄(口の中が切れた。血の味がする)

妹「お兄ちゃん。お兄ちゃん大丈夫」

兄「・・・・・・うん」

父「おまえは姫の人生を無茶苦茶にした。こんなことがばれたら姫はもう普通の交際も結
婚さえもできなくなったんだぞ」

母「やめて」

父「私たちにも悪いところはあっただろう。仕事のせいで兄と姫を二人きりにした。その
結果、姫は兄に依存するようになった。その責任は私たちにもある」

兄「何が言いたいの」

父「だけど私たちは・・・・・・私とママはおまえを信じていた。おまえなら。兄なら姫を守っ
てくれると信じていたんだ」

兄「・・・・・・(!)」

父「姫は自分を守ってくれる兄のすることなら全部正しいと思い込んでいるだけだ。姫は
自分の愛している家族が自分にひどいことをするわけがない、兄のしていることは正しい
ことなんだと思い込みたいだけなんだ」

妹「いい加減にしてよ! あたしはパパが思いたがっているような純真なお姫様じゃない。
あたしの方からお兄ちゃんに告白して迫ったんだよ。あたしはお兄ちゃんが大好きなの」


父「そう思い込みたいという心理自体ががストックホルム症候群の典型的な心理的症状
だ」

妹「・・・・・・違うよ」

父「泣くことは何の証明にもならんよ」

母「あなた。これ以上妹を責めないで」

父「そうだな。兄、おまえはこの家から出て行け。生活の面倒と学費くらいは見てやる。
だから自分でアパートを借りて大学に通いなさい」

兄「・・・・・・姫は?」

父「まだそんなことを言ってるのか。姫は富士峰の生徒寮に入れる。おまえなんか信用し
ないで最初からそうしていればよかったんだ」

母「あたしが悪いと言いたいの?」

父「私が姫を寮に入れようと言ったとき、兄が面倒を見るから大丈夫だと言ったのは君だ
ろう」

母「あなただってあのときは同意したでしょ」

父「君の言うことなんか信用しなければよかったよ。そのせいで姫の将来は台無しじゃな
いか」

母「何でもあたしのせいにするのはやめてよ。自分だって妹のことを家で放置してたくせ
に」

父「何だと」

妹「もうやめて」

兄「わかった」

妹「・・・・・・お兄ちゃん?」

兄「言うとおりにするよ。家を出て行く。明日にでも部屋を探す」

妹「お兄ちゃんだめ。もうあたしを放っておかないって約束したじゃない」

兄「悪いな。姫」

父「姫もいい加減に目を覚ますんだ。実の兄貴のことが好きなんて姫の錯覚だ」

妹「違う! あたしたちは愛し合っているの・・・・・・お兄ちゃん? 何とか言ってよ」

兄「いや(これ以上は無理だ。姫の大好きな家族を壊しちまう。現に父さんと母さんまで
諍いを始めている)」

兄(とにかく一度は家を出よう。姫と全く会えなくなるわけじゃないし、家族のためにも
それが一番いいのかもしれん)

妹「やだよ。お兄ちゃんいやだよ」

兄「父さんの言うとおりにしよう。姫(姫。少しの我慢だ。親バレした以上はもうこれし
か)」

妹「絶対にやだ。こんなのやだよ。お兄ちゃん」


<別離>




女友「おはよう」

兄「ああ」

女友「何がああよ」

兄「いや」

女友「まあ、このあいだみたいに、げっとか言われるよりましか」

兄「悪かったな」

女友「最近、妹ちゃん見かけないけどどうした」

兄「どうって。別にどうもしないけど」

女友「しかし意外だったよね。あんたの引越って妹ちゃんの入学と同時じゃなかったの」

兄「そのつもりだったんだけどね」

女友「何で連休明けそうそうに引っ越してきたのよ。何かあったの?」

兄「別に。両親が今まで以上に忙しくなったから、妹が高校の寮に入ることになってさ」

女友「寮? 妹ちゃんかわいそう」

兄「しょうがねえだろ。家の都合なんだから」

女友「あんたが早く家に帰れば済む話じゃない。これまでだってそうやって二人で生活し
てたんでしょ」

兄「・・・・・・」

女友「まあ、詮索する気はないけどさ。それよか」

兄「何だよ」

女友「ちょっと気になるんだけどね」

兄「何が」

女友「最近、女ってあんたによそよそしくない?」

兄「・・・・・・そう言われてみればそうかな?」

女友「何か変じゃない」

兄「だから何が言いたいの」

女友「あれだけ君のことが好きだって言ってたのにさ。君が一人暮らしを始めたって知っ
たら、女のことだからもっと君に言い寄るんじゃないかと予想してたんだけどなあ」

兄「そんなことはねえよ。現に最近あいつとは全然話してないぞ」

女友「わかってるよ。でも何でだろうねえ。何か兄友に騙されたときみたいになってるよ
ね」

兄「・・・・・・うん。女にも誰か好きなやつでもできたんじゃね」

女友「ちょっとさあ」


兄「何だよ」

女友「いくら何でもその言い方は女に失礼じゃない?」

兄「どうして」

女友「どうしてって。女は兄友に騙され君に冷たくして以来、すごく後悔してたんだよ」

兄「女とは仲直りしたよ」

女友「とてもそうは思えないけどね」

兄「・・・・・・俺のせいかよ」

女友「そこまでは言ってないよ。でもとりあえず今、女が君を避けているのは間違いない
でしょ」

兄「そうだけど。でも少なくとも俺には心当たりはないぞ」

女友「何か女を怒らせることしたんじゃないでしょうね? 妹ちゃんとのいちゃいちゃを
女に見せつけるとかさ」

兄「ねえよ。だいたい今のアパートに引っ越してから妹には会ってねえよ」

女友「・・・・・・そうなの? 何であれだけ仲がよかった兄妹なのにそういうことになっちゃ
うわけ?」

兄「さあ」

女友「さあって。君さ」

兄(あれから姫とはずっと会ってない)

兄(メールは来る。姫の寮での生活とか授業とか部活とかの出来事を綴った何でもない内
容のメールが)

兄(もっと話したいことがあるはずなんだ。俺にも姫にも)

兄(でも、結局姫から来るのは平凡な日常を語るの内容のメールだけ)

兄(俺も同じだ。講義とかバイトとか日常の話題を返信するだけ)

兄(何でなのかはわからん。お互いに深い話は避けているけど、それでも一日に数回は
メールのやり取りをしている。それだけが今の俺の生き甲斐と言ってもいい)

兄(父さんたちの話題も、これまでの俺たちのことも、これからの俺たちのことすら話題
になったことはない)

兄(・・・・・・)


女友「しかし君もつらいよね」

兄「・・・・・・何で?」

女友「ただでさえ君ってぼっちなのにさ。女にまで無視されちゃうと学内でつらいでし
ょ」

兄「別に俺は一人だって平気だよ(姫のメールもあるしな)」

女友「しかたないなあ」

兄「何だよ」

女友「せめてあたしくらいは君の友だちでいてあげるからね」

兄「余計なお世話だって。おまえだって女の他には友だちなんかいないくせに」

女友「だからさ。ぼっち同士仲良くしてあげるよ」

兄「大きなお世話だ」

女友「何よ。今をときめくファッション雑誌のモデルが君と親しくしてあげるて言ってる
んじゃない」

兄「別に頼んでねえぞ」

女友「今日はもう講義ないんでしょ?」

兄「ああ」

女友「バイトもない?」

兄「ないけど」

女友「じゃあ付き合ってよ。今日はこれから撮影だからさ。一緒についてきて」

兄「・・・・・・何で俺が」

女友「撮影現場であたしを独り占めできるんだよ? ぼっちのあんたの自尊心がくすぐら
れるでしょうが」

兄「いい加減に」

女友「じゃあ行くよ」

兄「おい。ちょっと待てって」


今日は以上です
また投下します

イヤーーーーーー!!!!!

セカンドシーズン初っ端から絶望じゃねぇか.....

乙でござんす

モヤモヤしますな~

いやいや…妹の不安が的中しちゃったね

おつー
さてバラしたのは誰だろ

にしても初手から疑ってかかられるとか、信用ねえなぁ

続きが楽しみ。

きたきたもやもやどでんがえし


<思っていたよりいいやつなのかも>




兄「隣の森林公園? 撮影ってスタジオとかでするんじゃねえの」

女友「今日は屋外で撮影だからね。本当は集合場所に行かなきゃいけなかったんだけど、
今日は大学の隣での撮影だから、無理言って現場直行にさせてもらったの」

兄「そうか。つうか何で俺が一緒に」

女友「ほら。あそこにクルーがいる」

兄「ワゴン三台とか結構大掛かりなのな」

女友「そうかな。普段から外で撮影するときはこんな感じだけど」

兄「へえ。じゃねえよ。何で俺がおまえの仕事に付き合う必要があるんだよ」

女友「いい気分転換になるでしょ。妹ちゃんとも会えないんじゃ、講義が終ったら君には
何もすることなんかないんだろうし」

兄「だから大きなお世話だって言うの。何度も言わせるな」

女友「無理しなくていいよ。どうせいつもアパートに帰って一人で泣いてるんでしょ」

兄「泣いてなんかねえよ」

女友「あたしの勘って昔から結構当たるんだよ」

兄「だから今までおまえの勘なんか一度だって当たってねえだろ」

女友「そうでもないと思うけどな」

兄「・・・・・・どういう意味だよ」

女「はあい。おはようございまあす。遅れてごめんなさい」

兄「・・・・・・おい」

女「ちょっと行ってくるね。この辺で適当に見てて。君のことは話しておくから大丈夫だ
よ」

兄「・・・・・・(勝手に帰ったら駄目かな)」



兄(しかし女のやつ。あのワゴン車の中に入っていったままもう三十分以上は出てこないじゃんか)

兄(撮影とか全然始まらないじゃん。俺、こんなとこでいったい何をしてるんだろ)

兄(・・・・・・気晴らしにさえならないな。女友は好意で俺のことを気にしてくれたんだろう
けど)

兄(・・・・・・姫)

兄(ひょっとしてもう二度と姫とは会えないんだろうか)

兄(いや。今はそんなことを考えてはいけないな。姫の生活を落ちつかせることが最優先
だ。今は父さんと母さんの言うとおりにした方がいいんだ)

兄(今日はまだ姫からメールが来ない)


兄(・・・・・・しかしいい商売だよな。たかが雑誌の一カット撮影するのにこんなにのんびり
と時間をかけるなんて)

兄(気晴らしになるどころじゃない。暇なんでかえっていろいろ考えちまうじゃねえか)

兄(マジでそろそろ帰っちゃおうか。別に家に帰ったって一人きりだしすることがあるわ
けじゃないけどさ)

兄(あれ? ワゴン車から誰か出てきたけど)

兄(・・・・・・え? あれ女友か)

兄(何か印象が違うな。きっとメークとか服装のせいだろうけど)

兄(しかしあの格好)

兄(あいつ。普段はジーンズとTシャツとかラフな格好だし、すっぴんで大学に来ること
もあるのにな。変われば変わるもんだ)

兄(何か人混みの中心に女友がいる。あれ、レフ板とかって言うんだっけ)

兄(何やらポーズを取ってるな。ようやく撮影が始まったのか)

兄(どれどれ)

兄(・・・・・・)

兄(へえ。何か普段の女友と全然違うな。何というかオーラがある。あれだけのスタッフ
があいつを撮影するだけのために群がっているのか)

兄(まあ、それはいいとしてだ。撮影っていったいどれくらい時間かかるのかな。もうす
ぐ暗くなるし、自然光で撮影しているみたいだしまさか夜になってまで続くことはないん
だろうけど)

兄(・・・・・・俺、何やってるんだろ。いい加減に姫のいない生活に慣れなきゃ)

兄(女は何だか俺のことを避けてるし、妹友に至っては当然と言えば当然だけど連絡する
らない。まあ、妹とは同級生だし同じ部活だから何らかの交渉はあるんだろうけど)

兄(姫のメールには泣き言もないし、妹友との話もない。日常的な話題ばっかで)

兄(姫はか弱い女の子じゃないしな。親バレした日はさすがに泣いて俺にすがりついてた
けど、決まってしまったことにたいしていつまでも泣き言を言うような性格じゃゃない)

兄(そんなことは本当はわかってたんだ。親や俺が常にべったりとくっついて守ってやら
ないといけないようなひ弱なお姫様じゃないんだって。ただ、俺たちが勝手に姫に自分た
ちの幻想を押し付けてたんだ。姫には俺たちがいないと駄目なんだって)

兄(姫と会えなくなって冷静に考えて、俺はようやくこのことをはっきりと理解したけ
ど・・・・・・・。父さんと母さんは相変わらず娘はか弱い傷付きやすい女の子だと信じている
んだろうな)

兄(ストックホルム症候群? あとで調べてみたけどバカ言うな。姫みたいな自我が確立
した子がそんなことになるもんか。むしろ俺の方がよっぽど打たれ弱いくらいだ)

兄(・・・・・・姫。もう内容なんか何でもいいから早く俺にメールをくれよ)


女友「元気出せ」

兄「おわっ。っておまえか。いきなりびっくりするだろうが」

女友「何ぼうっとしてたの」

兄「ちょっとな」

女友「どうせ妹ちゃんのことでも考えてたんでしょ」

兄「・・・・・・うるせえよ」

女友「図星か。しかし君も見た目と違ってメンタル弱いよね」

兄「(う。図星だ)んなことねえよ。それよか撮影、終ったの?」

女友「休憩時間だよ。スポーツドリンク飲む?」

兄「え? ああ、どうも」

女友「ふふ」

兄「どうした」

女友「間接キスだ」

兄「え? おまえなあ。そんなもの人に勧めるなよ」

女友「さっきさ。メークの人に聞かれちゃった」

兄「何を」

女友「君のこと」

兄「俺?」

女友「うん。あたし、男の子を現場に連れてきたのって初めてだったからさ」

兄「ふーん」

女友「彼氏? って聞かれちゃった。マネージャーさんはいやな顔してたけど」

兄「おい。そういうのってやばいんじゃないの?」

女友「さあ? 別にタレントじゃないもん。別に平気じゃない?」

兄「そうかもしれないけどさ。何も誤解をそのまま放っておかなくてもいいと思う」

女友「それはそうか。言われてみればそうだね。あはは」

兄「・・・・・・あははじゃねえだろ(でも、こいつ。思っていたよりいいやつなのかも)」


<どちらかというと姫の性格と似ている>




女友「とにかく元気だしなよ。この人気モデルのあたしがぼっちの君の友だちになってあ
げるって言っているんだし」

兄「ああ、そうだな。ありがとな」

女友「光栄に思いなさいよ?」

兄「思うけどさ。でも、あんまり学内では会わない方がいいかもな」

女友「何で?」

兄「おまえって女の親友なんだろ? 何でか知らねえけどさ。女が俺を避けているのに、
俺とおまえが一緒にいるってわけにもいかないだろ」

女友「別にいいじゃん」

兄「いいって・・・・・・」

女友「女はあたしの親友だけど、君だって今日からはあたしの友だちだもん。別に誰に遠
慮することなんかないでしょ」

兄「だってよ。俺と親しくしてるとおまえが女と気まずくなるだろ」

女友「親友だからって自分の気持を曲げる気はないよ。あたしは女の親友。でもあんたと
も仲良くする。それで女に嫌われるならそれだけの仲だったんだよ」

兄(こいつ。女とか妹友とかと違う。見た目は全く違うけど、どちらかというと姫の性格
と似ている)

兄(姫は外見だけ見れば清楚でか弱そうな女の子だ。それに比べて女友は活発で人見知り
しない。こいつが何で大学で友だちが少ないのか不思議なほどに。それに姫は普通の女子
高生だけど、こいつは高校の頃から読者モデルとかしてて今では若い女の子向けのファッ
ション雑誌の表紙デビューを飾ったほどの売りだし中のモデルだ)

兄(それでも性格は似ていると思う。こうと決めたらなかなか気持を曲げない頑固なとこ
とか、芯が強くて打たれづよそうなところとか)

兄(女友の性格なんてそんなに深く知ってるわけじゃないけど、何となく今のやりとりだ
けでもそう思えるから不思議だ)

兄「まあ、おまえがそう言うなら」

女友「君ってぼっちだし女に慣れてる感じでもないのに、さりげなく優しいのね」

兄「何でだよ」

女友「今、あたしと女の仲のことを心配したでしょ」

兄「別に」

女友「あ、呼んでる。じゃ、ちょっと行って来るよ」

兄「俺はそろそろ」

女友「帰っちゃだめよ?」

兄「・・・・・・わかった」


兄(撮影再開か。モデルとかって華やかな仕事かと思ってたけど意外と地味で面倒くさそ
うだな。さっきから何度も同じようなポーズを取らされてるし)

兄(仕事なんだからそうなんだろうな)

兄(・・・・・・大学で友だちができたのはいいけど。それは女友に感謝しなきゃいけないけど。
やっぱりそれで楽になれるかというとなかなかそうもいかないみたいだ)

兄(だって女友はいいやつだし感謝もしてるけど、それでもちっとも胸のもやもやが晴れ
ないしな)

兄(女友はああ言ってくれたけど、俺ってやっぱり優しいんじゃなくて不誠実、つうか流
されやすいだけなんだ。女にも妹友にも気を持たすような態度をしたけど、実際には女が
そっけなくても妹友から連絡がなくても全然気にならないもんな)

兄(結ばれたからってだけじゃない。たとえあの夜がなくたってやっぱり俺は姫のことが
一番気になるというか、姫のこと以外は気にならないんだな)

兄(妹なのに。つうか妹だからと言うべきか)

兄(とりあえず両親の言うとおりにしようって姫に言ったけど。ひょっとしたらもうこの
まま姫とは終っちゃうのかな)

兄(こっちからメールしようかな)

兄(いや。何てメールする気だ? 前に気軽にしたみたいに三択の問題を姫に出すとでも
言うのか)



兄『嫌いじゃないという感情を表わす単語を次の中から一つ選べ』

妹『あたし国語は苦手だよ』

兄『1好き 2好き 3好き』

妹『・・・・・・ふふ』

兄『何笑ってるんだよ』

妹『ベタなジョーク。そんなにあたしに好きって言わせたいの?』



兄(ついちょっと前のことなのにずいぶん昔のことみたいだ。あの頃の俺は考えなしだっ
た。今ならとてもあんなことは口にだせねえな)

兄(メールしたくたって、妹と繋がっていたくたって姫に言える言葉すら今の俺にはない
んだ)

女友「お待たせ」

兄「(びっくりした。いつのまに)もう終ったの?」

女友「うん。光線がもう弱いから終わりだって」

兄「そういうもんなんだ」

女友「屋外撮影だからね。カメラマンの先生は本当はもう少し粘りたかったみたいだけど、
プロダクションの人が夜間は公園の撮影許可が下りてないからって」

兄「ふーん」

女友「車で送るよって言われたんだけど、断っちゃった」

兄「何で?」


女友「これから飲みに行こうよ」

兄「・・・・・・・はい?」

女友「せっかく友だちになったんだからさ。お近づきのしるしということで」

兄「俺、そういう気分じゃ」

女友「だからだよ。気分転換にさ。どうせ明日は土曜日だし講義ないでしょ?」

兄「ないけど」

女友「じゃあ、行こう。お腹も空いたから居酒屋にでも行こうよ」

兄「(このままアパートに帰ってもやることないしな。まあいいか)わかった」

女友「お疲れ様でした。このまま直帰しますので。あ、はーい」

兄「・・・・・・(何か俺、すげえ見られてる。スタッフの人たちの好奇心溢れる視線が痛
い)」

女友「じゃあ行こうよ。学校の側の居酒屋でいいよね」

兄「あの辺りだと知ってるやつがいっぱいいるぞ」

女友「別にいいじゃん。君をぼっちだと思ってバカにしてる人たちに見せつけてやろう
よ。スカッとするじゃん」

兄「おまえ、絶対面白がってるだろ」

女友「君はスペック的にぼっちだとかってバカにされるような男の子じゃないよ。あたし
だってそうだよ。そう思うでしょ?」

兄「確かにおまえみたいなリア充がぼっちなのは不思議だよな」

女友「まあ、あたしが周囲からハブられてるのは高校の頃からなんだけどね」

兄「何で?」

女友「とにかく飲みに行こう。持ち合わせがないならあたしが奢ってあげるから」

兄「バカにすんな。おまえに奢るくらいの金はあるよ」

女友「なら決まりね。行こう」

兄(あれ?)


<SOS>




兄「・・・・・・ここってうちの学生がよく来る店じゃん」

女友「お互い未成年じゃん。こういうところの方が目立たなくていいでしょ」

兄「大学生になってるんだからまさか飲酒で補導とかされないでしょ」

女友「ごちゃごちゃうるさい。ほら入るよ」

兄「ちょっと」

女友「やあ、混んでるね」

兄「ちょうど席が空いててよかったな」

女友「とりあえず生ビールにしようかな。君は?」

兄「同じでいいよ」

女友「じゃ乾杯」

兄「お疲れ」

女友「今日は何時間も付き合わせちゃって悪かったね」

兄「(全くだ)いや、面白かったよ」

女友「あたし、どうだった?」

兄「どうって?」

女友「だからさ。メークして被写体になってたあたしをどう思った?」

兄「いや。遠目に見てただけだし」

女友「休憩中はメークしたままあんたと話したでしょうが」

兄「あ、ああ。綺麗だと思ったよ」

女友「本当?」

兄「う、うん」

女友「ま、いいか。目は明らかに嘘だって言ってるけどね」

兄「そんなことないって」

女友「何か食べようよ。あとビールもお代わりしよ」

兄「おまえピッチ早いな」

女友「すいませーん。注文お願いします」


?「あれ、女友じゃん」

兄(誰だこいつ)

女友「・・・・・・ごめん。誰だっけ?」

?「ほら。同じ講義受けてるじゃん。俺のことわからない?」

??「おまえ何ナンパしてんだよ。って。女友さんじゃない」

兄(何かわからんけど、同じ大学の男たちか? チャラそうなやつらだな)

?「女友さんのことは兄友から聞いてるよ。モデルやってんだって?」

兄(ここで兄友かよ・・・・・・)

??「俺さ、先月号の××ティーン見たよ。表紙モデルだったよね」

?「俺、実はファンだったんだよね。よかったら一緒に飲まない?」

??「そうそう。合流しようぜ。こっちにも女の子もいるし遠慮はいらないし」

兄(なるほど。これじゃあ、いくら知り合いが増えても女友が親しくしたいやつがいない
わけだ。声をかけられないからぼっちなんじゃなくて、なまじ顔が知られている分こうい
うやつらに声をかけられてきたんだな)

女友「兄君さ、何が食べたい?」

兄(女友・・・・・・・見事なまでにこいつらを無視したよ。だんだん女友がぼっちば理由がわ
かってきたぞ)

?「えええ? 無視はないでしょ」

??「そっちの彼氏も一緒にどう? 女の子もいっぱいいるよ」

兄(うぜえ)

女友「うるさいなあ」

?「え?」

??「何?」

女友「うざいから放っておいてよ。今、あたしは友だちと飲んでるの。邪魔しないで」

?「何だこいつ」

??「いい気になりやがって」

兄(あれ? ちょっとやばいかな)

女友「兄君って好き嫌いある?」

兄「別に食えないもんはないけど」

女友「じゃああたしが決めていい?」

兄「任せるよ」

?「おい。おまえぼっちのくせに強気に出てるんじゃねえよ」


兄「・・・・・・俺?」

??「他に誰がいるんだよこのばかやろうが」

兄(酔っ払いに絡まれるとは最悪だ。何でこうなるんだろうな)

?「すかしやがって。何か言えよ。てめえのことは兄友から聞いてるんだよ。この童貞の
オタク野郎が」

女友「じゃあ勝手に決めちゃうね」

兄(女友も全然こいつらを相手にしてねえな。これじゃ浮くわけだ)

??「おまえ、兄って言うんだろ? この童貞のボッチ野郎。何か言えよ」

兄(何かやばそうだな。こんなところで俺のバカの一つ覚えの空手を披露するわけにはい
かないし。だいたいあれは父さんに言われて姫を守るためにいやいや覚えたんだし)

?「女友さんさあ、こんなやつ放って置いていこうぜ」

女友「手を離せ」

兄「おい」

??「何だ? やる気かこいつ」

兄(しかたない。俺の駄目空手を披露するか。しかし一応国立大学なのに何でこんなアホ
が潜り込めるんだ。姫だって偏差値が届いてないのに。何か不合理だよな)

女友「離せって」

兄「おい(しゃあねえなあ)」



女友「・・・・・・助けてくれてありがと」

兄「いや」

女友「君って強いんだね。格好よかったよ」

兄「んなんじゃねえよ」

女友「あっという間にあいつらを追い払っちゃったね」

兄「店の人が間に入ってくれたせいで警察沙汰にならないでよかったよ。店は追い出され
たけど」

女友「・・・・・・見直した」

兄「何が」

女友「・・・・・・友だちだよね?」

兄「うん?」

女友「あたしたち」

兄「まあね」

女友「・・・・・・うん。よかった。今日は帰るわ」

兄「おう。じゃあな」

女友「・・・・・・またね」

兄(あれ。妹からメールが着てた。全然気がつかなかった)

兄(もう、いや。いやだよ。お兄ちゃんお願い助けて・・・・・・ってこれ)

兄(これって)

兄(姫!)


今日は以上です
また投下します


妹の身に何が・・・



女友も兄のこと好きになっちゃうパターンかな?

そして妹のSOS来たー!!!

乙です
今度は女友ルートも出てきましたか
展開が目まぐるしくてヤバいw


<あれは絶対レイプなんかじゃないでしょ>




妹友「・・・・・・まだ怒ってるの?」

妹「・・・・・・別に」

妹友「黙って帰ったのは謝るよ。でもあのときはあれ以上一緒にいるべきじゃないと思っ
たの」

妹「・・・・・・」

妹友「それとも妹ちゃんが怒っているのって約束を破ったこと?」

妹「それもある。彼氏君はお兄ちゃんには言わないって約束したのに」

妹友「図書館のことね。あれは確かに悪かったと思う。お兄ちゃんもやりすぎたよ」

妹「・・・・・・」

妹友「でもさ。海に行ったときの妹ちゃんだって最初はお兄ちゃんとべたべたしてたじゃ
ん。お兄さんに知られたくないならあんなことする必要なんかなくない?」

妹「四人で一緒に旅行してるんだもん。無視したりもできないし」

妹友「そうじゃないでしょ。あれはわざとでしょ? ちゃんと目的があってああしてたん
だよね?」

妹「何言ってるの」

妹友「かわいそうにお兄ちゃんはその気になってしまったみたいだけど。でも妹ちゃんの
目はお兄ちゃんの方なんかこれっぽっちも見てなかったよね」

妹「いい加減にして」

妹友「行きのファミレスでもそう。スーパーに行たときだってそう。妹ちゃんは自分の
お兄さんの方しか見てなかったでしょ」

妹「何言って・・・・・・」

妹友「あたしとお兄さんが親しく話していると、いらいらして口を挟んできたしね」

妹「本当に何が言いたいの。遠廻しにぐちぐち言うのはやめてくれないかな」

妹友「お兄ちゃんは妹ちゃんとの約束を破ったかもしれない。でも妹ちゃんだってお兄ち
ゃんのことを利用したじゃない。お兄ちゃんの気持を知っていながら」

妹「・・・・・・」

妹友「お兄ちゃんとべたべたして見せて、妹ちゃんのお兄さんに嫉妬させようとしてた。
そんなの誰が見たってわかるよ。まあ、お兄さんは妹ちゃんの仕掛けを間に受けてあなた
にマジで嫉妬してたけどね」

妹「・・・・・・」

妹友「妹ちゃんって単なるブラコンの域を超えちゃってるよね。本気でお兄さんに嫉妬さ
せようとするなんて」


妹「そこまで言うならあたしも言わせてもらう」

妹友「どうぞ」

妹「あんたは旅行中必死になってあたしのお兄ちゃんをこれでもかっていうくらい誘惑し
てたよね」

妹友「だから? あたしがあなたのお兄さんを好きになっちゃいけないの? 少なくとも
自分の妹と付き合うよりはお兄さんにとってもいいんじゃないかな」

妹「・・・・・・あんたが本当にあたしのお兄ちゃんのことが好きならね」

妹友「妹ちゃんが自分で言ったんじゃない。あたしがお兄さんのことを誘惑したって」

妹「誘惑したでしょ。実際に。でもさっきの言葉は妹友ちゃんにそのまま返すよ」

妹友「はあ? 何言ってるのかわからない」

妹「妹友ちゃんだって本当は彼氏君が、自分のお兄さんのことが好きなくせに。お兄ちゃ
んとベタベタして見せて彼氏君に嫉妬させようとしたのはあなただって同じじゃない」

妹友「妹ちゃんって面白いなあ」

妹「何余裕ぶってるの? 図星の癖に」

妹友「あたしだってって言ったよね。つうことは自分がお兄さんのことを好きなことは認
めるんだ」

妹「あ」

妹友「おかしいの。自分で認めちゃってるじゃん」

妹「とにかく。あの夜のあれは・・・・・・あれは絶対レイプなんかじゃないでしょ。むしろあ
たしとお兄ちゃんが予想より早く帰ってきちゃって邪魔しちゃったんだよね。せっかく長
年の想いがかなったのに。邪魔しちゃってごめんね」

妹友「・・・・・・あれはそうじゃないよ」

妹「いい加減にして。もう本当のことを言うけどさ。あたしは嫌だったけど彼氏君に頼ま
れて彼氏君の彼女の振りをしてたの。妹友ちゃんに黙っていたのは悪かったけど」

妹友「そんなの知ってたよ。お兄ちゃんは何も言わなかったけど、妹ちゃんの態度自体が
すごく不自然だったもん」

妹「じゃあ、彼氏君が何でそんなことをしたかはわかるの?」

妹友「どうせ妹ちゃんはお兄ちゃんに言われてたんでしょ。あたしがお兄ちゃんのことを
好きみたいだから、あたしを諦めさせるために彼女の振りをしてくれって」

妹「わかってたみたいね。それなら何で黙ってあたしと彼氏君の仲を応援したのよ」

妹友「どうでもよかったから」

妹「何が?」

妹友「お兄ちゃんのことなんかどうでもよかったから」

妹「誤魔化すな。そう、もうあたしも正直に言うよ。あたしはお兄ちゃんのことが好き。
もうずっと前から、多分小学校の低学年の頃からずっとね。でも妹友ちゃんだってそうで
しょ? あたしが告白したんだからあんたも正直に言いなさいよ」

妹友「・・・・・・最悪」

妹「最悪って何が?」


妹友「実の兄を愛しちゃうなんて最悪じゃん。どうしてそういうことするのよ」

妹「何怒ってるの。だいたいあんただって彼氏君のことが好きなくせに」

妹友「兄妹だからそういう意味の情はあるけど、男性としてお兄ちゃんのことが好きなん
てことがあるわけないじゃん」

妹「裸で抱き合ってたくせに」

妹友「お兄ちゃんの気持を考えると、本気で抵抗できなかっただけ。でもあれは本質的に
はレイプだよ。あたしの気持ちなんか無視してだもん」

妹「無理矢理なのに抵抗しないとかあたしには理解できない」

妹友「とにかくあたしは実の兄のことなんか男性として意識すらしていません」

妹「・・・・・・じゃあ」

妹友「何よ」

妹「妹友ちゃんって、本気でうちのお兄ちゃんのことが」

妹友「・・・・・・そろそろ寮の門限じゃない?」

妹「・・・・・・うん」

妹友「あのさ。お兄さんの新しい住所とかって」

妹「教えない」

妹友「・・・・・・」

妹「妹友ちゃんがお兄ちゃんのことを好きなら、住所なんか教えない」

妹友「何で」

妹「あたしはお兄ちゃんの彼女だし、お兄ちゃんはあたしの彼氏だから。お兄ちゃんもそ
う言ってくれたから。だから妹友ちゃんには教えない」

妹友「そう。それならいいよ」

妹「あたしもう行く。寮の門限に遅れると怒られるから」

妹友「うん。わかった。またね」

妹「・・・・・・じゃあ」


<妹ちゃんに親しくしようとすると妹友ちゃんがすぐに邪魔するじゃん>




妹「遅くなってすいません」

上級生「ぎりぎりじゃない。これからはもっと早く寮に戻るようにしてね」

妹「はい。ごめんなさい」

上級生「急がないとお風呂の時間終っちゃうよ。食事の前までに終らせてね」

妹「はい。先輩」

上級生「あ、ちょっと。妹さん」

妹「はい?」

上級生「携帯電話を預けて行くの忘れてるよ」

妹「・・・・・・はい」

上級生「三年生になれば寮内でも携帯を持てるからさ。もう少し我慢しな」

妹「はい」



同室の友だち「今日の夕食は珍しく結構美味しかったね」

妹「そうかな」

友だち「妹ちゃんは通学生だったからそんなこというけどさ。中学の頃からずっと寮にい
るあたしにしてみれば、今日の夕ご飯は珍しく美味しく食べられたんだよ。ああ、今日は
幸せに眠れそう」

妹「・・・・・・そうなんだ」

友だち「どうする? 部屋に戻る? それとも自習室でおしゃべりでもする?」

妹「自習室でしゃべってたら怒られるんじゃないの」

友だち「静かにしてれば大丈夫。あと舎監の先生が来たときだけ勉強している振りをして
いれば問題ないよ」

妹「任せるよ。どっちでもいい」

友だち「あんたってさあ。そういうキャラだっけ?」

妹「何が?」

友だち「昼間の学校じゃあ普通に積極的なのに。そんなに家に帰りたい?」

妹「まあね。正直寂しい」

友だち「そうか。あたしも最初の頃はそうだったよ。でも大丈夫。数ヶ月もここにいれば
いやでも慣れるって」

妹「・・・・・・」

友だち「あんまり悩むなって。あたしがここの過ごし方を教えてあげるから」

妹「ありがとう」

友だち「いいって。あたしの方こそ妹ちゃんと仲良くなれて嬉しいよ」


妹「え?」

友だち「えって。何で驚いてるの」

妹「ああ、別に。でもあなたとはあたしが寮にはいる前から仲良かったと思ってたから」

友だち「うーん。そう言ってくれるのは嬉しいけどさ。妹ちゃんって仲良くしづらい人じ
ゃない?」

妹「・・・・・・何で?」

友だち「だって」

妹「あたしってそんなに声かけづらい?」

友だち「そうじゃなくてさ。その。妹ちゃんには妹友ちゃんがいるし」

妹「どういう意味」

友だち「本当にわからないの?」

妹「うん」

友だち「妹ちゃんって可愛いし性格もいいしさ。友だちになりたいっていう子はいっぱい
いるんだよ」

妹「可愛いとかはないと思う。でもあたしと友だちになりたいって子がそんないたなんて
聞いたことないよ」

友だち「本当だって。でもみんな勇気がないんだよね。あたしもそうだけど」

妹「全然わからないんだけど。どういうこと?」

友だち「だって・・・・・・・。本当にわかってないの?」

妹「うん」

友だち「だってさ。妹ちゃんに親しくしようとすると妹友ちゃんがすぐに邪魔するじゃ
ん」

妹「え」

友だち「妹ちゃんに声をかけようとしてそれで挫折した子が何人いたことか」

妹「うそでしょ」

友だち「うそじゃないって。まさか自分ではわかっていなかったの?」

妹「当たり前じゃん。びっくりしたよ。あたしって周りの人に好かれない性格なのかと思
ってたよ」

友だち「そんなわけないじゃん。でも妹友ちゃんと喧嘩してまで妹ちゃんに近づくだけの
勇気のある子なんかあんまりいないし。先輩たちだってそうなんだよ。妹ちゃんのこと可
愛いって言ってた先輩もいっぱいいたんだけどねえ」

妹「・・・・・・」

友だち「もっと言えばさ。隣の男子校の子たちだって妹ちゃんのことを気になった男の子
もかなりいたらしいけど、みんな妹友ちゃんに邪魔されて諦めてたしね」

妹「・・・・・・何で」


舎監「池山さんはここにいる?」

友だち「げ。妹ちゃん、舎監の先生に呼ばれてるよ」

妹「・・・・・・うん」

舎監「池山妹さんはいないの?」

妹「はい。います」

舎監「いるならもっと早く返事しなさい。ロビーの電話にお母さんからかかってきている
からすぐに行きなさい」

友だち「・・・・・・携帯を持たせてくれたらこんな面倒なことしなくてもいいのにね」

舎監「何か言った?」

友だち「何でもないです」

舎監「だったら黙ってなさい。寮内は携帯禁止でしょ」

友だち「はーい」

舎監「池山さん。早くロビーに行きなさい」

妹「はい」



妹「もしもし?」

妹「あ、ママ」

妹「うん、元気だけど」

妹「・・・・・・」

妹「どうして?」

妹「どして週末の外出許可を申請してれくれないの?」

妹「ママが忙しいのはわかってる」

妹「パパも帰れないのはわかったよ。でも、どうしてあたしが週末くらいはおうちに帰っ
ちゃいけないの?」

妹「違うよ。どうせ帰ったってお兄ちゃんは家にはいないんでしょ。お兄ちゃんと会いた
いからなんて言ってないじゃん。あたしは家が好きなの。せめて週末くらいは」

妹「お兄ちゃんだって家にはずっと帰ってきてないんでしょ? もうここで暮らすのはい
やだよ。お兄ちゃんと一緒に住めないならせめて家で一人暮らしさせてよ。ちゃんと家事
もするから」

妹「もういやだよ、こんなの。何でうちの家族はみんなで一緒に暮らせないの? 寮にい
るのはみんな地方に家がある子だけなのに」

妹「ママ? 泣いてるの」

妹「ママ? え?」


<離婚>




妹「どうしたの」

妹「・・・・・・」

妹「・・・・・・え」

妹「何でそんな・・・・・・」

妹「冗談でしょ」

妹「・・・・・・」

妹「もしかして・・・・・・あたしとお兄ちゃんのせい?」

妹「・・・・・・違うの? じゃあいったい何で」

妹「やだよ。そんなのやだよ」

妹「・・・・・・やだって。ちょっと待ってよ。何が何だかわからないよ」

妹「・・・・・・ちょっと」



友だち「お母さん何だって?」

妹「・・・・・・あのさ。預けた携帯ってどこに保管してあるの?」

友だち「何でそんなこと聞くの」

妹「どうしてもメールしたいの」

友だち「・・・・・・」

妹「教えて。お願い」

友だち「・・・・・・ばれたら一月以上外出禁止になるよ」

妹「それでもいいから」

友だち「・・・・・・つうか教えたらあたしもそうなるんだけどな」

妹「あ。そうか。勝手なこと言ってごめん」

友だち「・・・・・・」

妹「・・・・・・ごめん。勝手なこと言っちゃった。忘れて」

友だち「妹ちゃんってやっぱりいい子だよね。いつも妹友ちゃんと一緒にいたから君のい
いところが見えにくかったのかな」

妹「あの」

友だち「よし。教えてあげるからついて来て」

妹「いいの?」

友だち「うん。そのかわり今日からあたしは妹ちゃんの友だちね」

妹「・・・・・・ありがとう」


兄(いったい何なんだ。姫に何が起きたんだろう

兄(つうかこの時間なら姫はもう寮内のはずだし寮内では携帯は没収されるとか言って
た。だから今までだって昼間にしか姫からのメールは来なかったんだし)

兄(でもこの文面。ただ事ではないと思う。どうしたらいいのだろう)

兄(これから妹のところに駆けつけるか?)

兄(いや。駆けつけてどうする。妹は寄宿舎にいるんだ。まさか女子校の寮に押し入るわ
けにもいかんだろう)

兄(週末なら妹だって実家に帰っているも知れないけど)

兄(それにしても姫の寮の門限は早いよな。もう門限なんかとっくに過ぎているはず。そ
れでも俺にメールしてきたってことは。何があったか知らないけど妹は今携帯を手元に持
ってるんだ)

兄(電話はまずいかもしれないけど、とりあえずメールに返信してみよう。よし早くしよ
う)

兄(どうした? 何があった。姫がつらいなら俺はすぐにでもそっちに行くぞ)

兄(送信っと)

兄(・・・・・返事来るかな)

兄(・・・・・・)

兄(来た!)

兄(できたら明朝七時に校門の前にいて。お兄ちゃんに会いたい。お兄ちゃんの姫より)

兄(明日の七時・・・・・・)



兄(まだ時間が早いせいか通学する生徒の姿は全くないな。誰もいない)

兄(つうか小雨が降ってるし。傘持ってくればよかった)

兄(いや。そんなことはどうでもいい。三週間ぶりに姫に会えるんだ)

兄(・・・・・・いや違う。会えるとかそんなことは置いといてだ。姫のあのSOSを解決して
あげないと。俺は姫を一生守るって決めたんだ。それは父さんたちの期待していたような
守り方じゃないかもしれないけど)

兄(もうすぐ七時だ。登校するには早い時間だけど)

兄(あれ? 校門の外の方を見ててもしかたないのか。家から通っているわけじゃないん
だから)

兄(富士峰の寮は学校の敷地内にある。だから姫は校門の中の方から出てくるのか)

兄(姫と会わなかったことなんかこれが初めてじゃない。前に姫に振られて俺が拗ねて一
人暮らしをしたときだってそうだったけど。何か姫と相思相愛になったはずの今でも、や
っぱり緊張するな)

兄(あれ。誰か来た・・・・・・姫)


妹「・・・・・・お兄ちゃん」

兄「姫」

妹「来てくれたんだ」

兄「当たり前だ。父さんたちに言うことに一時的に従ったけど、俺は姫と別れたつもりな
んかない。姫がSOSを出せば何があっても駆けつけるよ」

妹「そうなんだ」

兄「そうなんだって。姫は俺のこと信じてくれてないの?」

妹「だって。お兄ちゃん勝手にあたしを放置してまた一人で出て行っちゃったし」

兄「ごめん。でも親バレしたじゃん? 今は少なくとも言うとおりにするしかないん
だ。あと三年して俺が就職したら、そしたらもう姫から二度と離れない」

妹「・・・・・・一応、ちゃんと考えていてはくれたんだね」

兄「ああ。今二人で家を出たって生活することすらできないから」

妹「お兄ちゃん。あたしね」

兄「うん」

妹「あたし・・・・・・もうやだ」

兄「どうしたの? つうか傘ないの? 濡れるって」

妹「覚悟はしてたんだよ。お兄ちゃんと結ばれたときから、いつかは選ばなきゃいけない
ときが来るって。そのときはパパもママも捨てることになってもお兄ちゃんだけを見て行
こうって」

兄「・・・・・・うん。あと三年待ってくれたら、俺も姫の気持に応えられると思う」

妹「三年も待てないの。もう待てないんだよ」

兄「どうしたの? 何でSOSなんだよ。そんなに寮がつらい? 姫の大好きな家で暮ら
せないことが我慢できない?」

妹「お兄ちゃんの言うことはわかってた。だから三年は我慢しようと思ってたから、つら
くてもお兄ちゃんにはそういう愚痴みたいなメールはしないように努力してたの」

兄「そうか(姫。かわいそうに)」

妹「昨日ママから電話があったの」

兄「そう(どうせ俺と会ってないかとか探りを入れたんだろうな)」

妹「・・・・・・パパとママ、離婚を前提に別居するって」

兄「え? ちょおまえ何を」

妹「もうずっと前からお互いに好きじゃなかったんだって」

兄「ちょ、ちょっと待て。俺は何も聞いてないぞ」

妹「ずっと前から、あたしのためだけに夫婦を演じてたんだって。あたしが大切だから。
あたしのことを愛しているから。だからパパとママはお互いに愛情なんてないのにずっと
仲がいい振りをしてたんだって」

兄「嘘だろ・・・・・・それ、本当なのか」

妹「あたしだって嘘だって思いたいよ。あたしの大好きな家族は、あたしが勝手に思い込
んでいた仲のいい家族なんて本当は演技の上で成り立ってただけなんだって」

兄「姫・・・・・・」

妹「あたしのせいだ。あたしのせいでパパとママは離婚するんだよね? もうやだよ。お
兄ちゃん助けて」

兄「姫(今はとにかく妹を抱きしめよう)」

妹「お兄ちゃん」

兄「・・・・・・(くそが。あのバカ両親が。姫を守れなかったのはあいつらの方じゃねえ
か。あいつら。絶対に許さない)」


今日は以上です
また投下します

乙です

乙です


第2部は波乱万丈だな

幸せに育つと親の離婚は大きな問題なんだな
ってちょっと思った



うおーーーーーー!!!!!

今回やべぇな!!先が気になって仕方がねぇ.....

楽しみ


<・・・・・・最初からなかったの?>




兄「・・・・・・落ちついた?」

妹「・・・・・・」

兄「・・・・・・」

妹「・・・・・・うん」

兄「そうか」

妹「あたし、何て言えばいいの?」

兄「どういうこと?」

妹「あたしママとパパに何て答えればいいと思う?」

兄「何の話?」

妹「・・・・・・もうやだ」



母『親権ってわかるわよね。あなたがこれからパパとママとどっちと一緒に暮らすのかは、
あたなが決めなさい。パパとママもあなとが大好きよ。あなたと一緒に暮らしたいの』

妹『だったらみんなで一緒に』

母『もうだめなの。だから選んでね。ママと一緒に暮らすかパパと一緒に暮らすかを。よ
く考えなさい。どっちを選んでもパパとママはあなたの決定を尊重するから』

妹『そんなの選べないよ。もうやだ』

母『もう仲良しごっこは終わっちゃったのよ。ごめんね。あなたのためならずっと我慢し
ようと思っていたんだけど』

妹『・・・・・・全部嘘だったの? 家族で香港に行こうって。あたしもお兄ちゃんも海外に行
くのは初めてで。パパが楽しみだよって。ママは途中でパパとお兄ちゃんを放っておいて
一緒に買物に行こうって。楽しみだねって言ってたじゃない』

母『ごめんね』

妹『・・・・・・最初からなかったの?』

母『・・・・・・何が?』

妹『あたしが何よりも大好きだった仲のいい家庭なんか、最初から存在してなかったって
ことなの?』

母『最初はあったの。本当よ。兄が生まれてその後あなたが生まれてね。パパもママも幸
せだったの。あなたたちとパパとママ。ずっと四人で幸せに暮らしていけるって思ってた
ときもあったの』

妹『だったら何で』

母『ごめん。パパには好きな人がいるの。ママと離婚したらその人と結婚したいんだっ
て』

妹『そんなの嘘だよ』

母『嘘じゃないいの。それでね。今はママにも』

妹『・・・・・・ママ?』


妹「・・・・・・」

兄「大丈夫か?」

妹「・・・・・・」

兄「ここにいると濡れちゃうよ。まだ学校始まるまで時間あるんだろ? どっか濡れない
ところで話をしよう」

妹「・・・・・・うん」

兄「じゃあちょっと歩くけど駅前のファミレスに」

兄(あいつらが離婚? 何だって言うんだよ。何がおまえは姫を守れだよ。あいつら自身
が姫のことを傷つけてるじゃねえか)

兄(ふざけんな。自分の生命よりも姫のことが大切だとかって偉そうに言いやがったくせ
に)



兄『ねえ。僕いつまで空手の道場に行かなきゃいけないの? もうやだよ。道場に通って
いたらサッカーだってできないし』

父『おまえももう大きいんだから自分のしたいことじゃなくて、自分のしなきゃいけない
ことを考えないとな』

兄『僕のしなきゃいけないこと?』

父『そうだ。おまえは姫のことが好きなんだろ』

兄『大好きに決まってるじゃん。あいつは僕の妹なんだから』

父『じゃあ、おまえのするべきことをしなさい。姫が悪い人に襲われたとき、もしパパが
いなかったら誰が姫を守るんだ?』

兄『ええと。おまわりさん?』

父『パパもおまわりさんも学校の先生もいなかったときだよ』

兄『そのときは僕が妹を守る』

父『そうだ。よく言ってくれたな。そのためにはおまえが強くならないとな。おまえはい
いお兄ちゃんだ。だから妹を守れるように強くなりなさい』

兄『わかったよ。本当はいやだけど妹のためならサッカーじゃなくて空手をやるよ』

父『よし。パパと約束しようか。ちゃんと姫を守るって』

兄『うん。わかった約束する。僕は一生妹を守るよ』


兄「・・・・・・姫」

妹「どうしよう。あのね。パパには好きな女の人がいるんだって」

兄(! ふざけんな。クソ親父。人に散々姫を守れって言っておいててめえが一番姫を傷
つけてるじゃねえか)

兄「それが本当なら、姫は母さんと一緒に暮らした方がいいのかもな(くそ。現実感のな
いセリフだ。これって悪い冗談かなにかじゃねえのかよ)」

妹「ママもね。パパと離婚したら一緒に暮らしたい男の人がいるんだって。会社の上司の
人」

兄「・・・・・・くそが」

妹「結局、全部嘘だったんだよね」

兄「姫・・・・・・」

妹「姫って呼ばないで。最初から姫なんかいなかったんだよ。騙されていたばかな女の子
がいただけで」

兄「・・・・・・」

妹「あたしってバカみたいだ。家庭のことが何より大好きで、学校が終ったらちょっとで
も早く家に帰りたくてさ」

兄「・・・・・・」

妹「早く帰ったってパパもママも仕事でいないのよ。でも、家に誰もいないのはいけない
って思った。家族全員が仲がいいんだから、せめてあたしだけでも家にいて家庭を守ろう
なんて思って」

兄「姫」

妹「全部あたしの一人よがりだったんだね。パパもママも全然うちのことなんか大事でも
何でもなかったんだね。あたしのために仲のいい家族を演じてくれてただけで」

兄(どうしよう。このままじゃ姫が壊れてしまう)

妹「笑っちゃうよね。仕事で忙しいとか言いながら、パパもママも愛人と一緒に過ごして
たんだもんね。あたしってばかだ。いくら仕事が忙しいからってあんなにお互いに会わな
い夫婦なんているわけがないのに。そんなことにも気がつかないで、あたしのために仕事
を頑張ってくれてるんだなんて考えてたなんて」

兄「姫。おまえは間違ってないよ」

妹「適当なこと言わないでよ」

兄「違うって。少なくとも俺と姫はお互いに大切な家族じゃねえのかよ」

妹「・・・・・・お兄ちゃん?」

兄「あんなくそ両親なんかどうでもいい。少なくとも俺は、俺だけは姫が生まれてからず
っとおまえのことが大事だった。演技なんかじゃねえよ。それだけは信じてくれるだろ」

妹「・・・・・・」

兄「・・・・・・(これだけは本当だ。頼むから信じてくれ)」

妹「うん」

兄「姫」

妹「信じるよ。お兄ちゃんのことだけは」


<寝ている場合じゃない>




妹「親権はあたしの選択を尊重するって。パパもママもあたしと一緒に暮らしたいけど、
どっちと暮らすのかはあたしが決めていいって」

兄「・・・・・・そうか」

妹「選べるわけないじゃん。そんなのどっちを選んだってパパかママかどっちかが傷付く
じゃん」

兄(あいつら言うにこと欠いてなんて残酷な選択を姫に強いるんだよ。姫はおまえらのペ
ットじゃねえんだぞ)

妹「あたし、どうしたらいい? ねえお兄ちゃん。あたしはどう答えればいいの?」

兄「姫・・・・・・。俺と一緒に暮らそう」

妹「え?」

兄「姫。父さんも母さんも、もうどうでもいいだろ」

妹「・・・・・・・お兄ちゃん?」

兄「遅かれ早かれどうせいつかはこうなったんだ。俺と一緒にいてくれ」

妹「・・・・・・親権の話はどうするの?」

兄「そんなもんどうでもいい。どうせ二十歳になるまでの話じゃないか。俺を選んでくれ
よ。最悪、大学をやめて働いてでも姫の学費と生活費は稼ぐから」

妹「ママはどっちを選んでもそういうことには不自由させないって言ってたけど」

兄「それは父さんと母さんのどっちを選んでもって話しじゃないか。どっちも選ばずに俺
と一緒に暮らすとしてもそうなのか」

妹「・・・・・・わからない」

兄「俺のこと好きなんでしょ? 俺を選んでくれるよな。姫には絶対に不自由はさせない。
あいつらなんかには絶対に負けないから」

妹「お兄ちゃん」

兄「姫は間違っていないよ。あいつらは姫を裏切った。だけど姫の大好きだった家族全員
がおまえを騙してたわけじゃないんだ。俺は、少なくとも俺だけは姫のことが世界で一番
大切だ」

妹「・・・・・・うん」

兄「別に姫と結ばれたから調子のいいことを言ってるんじゃねえぞ。単なる兄妹だったと
しても俺は同じことを言うよ」

妹「うん。お兄ちゃんのことは信じる。というか疑ったことなんかないよ」

兄「姫が混乱して傷付いているのならもう俺の彼女としてじゃなくてもいい。妹としてで
もいいから俺と一緒にいてくれ。姫。一緒に暮らそう」

妹「・・・・・・考えさせて」

兄「何でだよ。まだあんな嘘つきの親なんかに未練があるのかよ」

妹「ごめん。考えさせて」

兄「・・・・・(何でだよ)」


妹「そろそろ始業時間だから行くね」

兄「・・・・・・ああ」

妹「来てくれてありがと。お兄ちゃんも講義があるんでしょ」

兄「・・・・・・うん。次はいつ会える?」

妹「決めたら連絡する。ママにも一週間以内に決めてって言われてるし。パパからも今夜
寮に電話があるって」

兄「・・・・・・そう」

妹「じゃあ」

兄「ああ」

妹「お兄ちゃん?」

兄「うん」

妹「・・・・・・大好き」

兄(行っちゃった。軽いキスの感触を俺の頬に残して)

兄(両親のことはショックだったし混乱もしたけれど)

兄(それでも俺が姫に提示した選択肢は間違っていないはずなのに)

兄(姫も混乱してのかな。俺に抱きついて一緒に暮らすって言ってくれるかと思ってい
た)

兄(姫にとってそんなにあいつらの存在ってでかかったのかな。お互いに不倫しているク
ソ夫婦なのにな)

兄(妹は何を迷っているんだ。だいたい、母さんと一緒に暮らすなんてありえないだろ。
それは自動的に母さんの浮気相手と一緒に暮らすことになるんだぞ)

兄(父さんと一緒に暮らしたって同じことじゃねえか)

兄(それとも生活していく上で、俺のことが頼りないと思ったのか)

兄(確かにそれは否定できないな。大学を辞めて働いたらいったい給料ってどれくらい稼
げるんだろ。富士峰って授業料高そうだし。そもそも妹の大学の学費とかって俺は払える
のか)

兄(俺と一緒に暮らさなければ妹はあいつらから学費も生活費も十分にもらえるだろうけ
ど、実の兄貴と一緒になんてことになったら)

兄(・・・・・・そういえば俺だってまだ未成年だけど。俺の親権はどうなるんだ?)

兄(俺のことなんかどうでもいいのか。あいつらは)


兄「・・・・・・よう」

女「・・・・・・」

兄(また無視かよ。まあいいや。今はそれどころじゃないし)

兄(二限に間に合ったのはいいけど、結局全然集中できねえな)

兄(しかし何で姫にだけ離婚の話をして俺には何の連絡もないんだ)

兄(姫とのことで両親を怒らせたのは確かだけど。それにしたって離婚するとか別居する
とか言ってなら俺に話があってしかるべきだろ)

兄(・・・・・・そういや俺の学費とか生活費とかってどっちが出してくれるんだ)

兄(あいつらが離婚したら俺の戸籍ってどうなるんだよ)

兄(何か腹立ってきたな)

兄(・・・・・・講義はともかく先々の将来設計くらいは立てておかないとな。姫に偉そうに言
った手前)

兄(寝ている場合じゃない。姫がOKしてくれたら。とりあえず就職先を探して。もうこ
の際、仕事は何でもいいや。ちゃんと雇ってくれて給料を貰えるところなら)

女友「昨日はどうも」

兄(とりあえずの目標は姫の富士峰の授業料を稼げることか。あと姫の大学の費用も何と
かしないと)

女友「・・・・・・返事くらいしなよ」

兄(それだけじゃないかな。万一俺たちの養育費すら出してもらえない可能性もあるから
な。俺と姫が一緒に暮らすなんてことになったら)

女友「あくまであたしを無視する気だな」

兄(そう考えるとバイト程度じゃ無理だ。ちゃんと就職したって必要な費用を稼げるかど
うか覚束ないし)

女友「こら!」

兄「何だ? ああおまえか」

女友「おまえかじゃないでしょ。あたしを無視するな」


<女のことはどうでもいいのか>




兄「悪い。ちょっと考え事してた」

女友「寝不足って感じだね」

兄「まあな」

女友「あの・・・・・・さ」

兄「うん」

女友「昨日はその。ありがとね」

兄「何が? ああ。撮影に付き合ったことか。別に気にしなくっていいよ、どうせ暇だっ
たし」

女友「違うよ。あたしを助けてくれたこと」

兄「ああ。別に。つうかあれは俺の方が絡まれていたっぽいし」

女友「そんなことないよ。あたしがあいつらに手を掴まれたときあたしのこと助けてくれ
たじゃない」

兄(何だこいつ。ちょっと顔が近すぎだろ・・・・・・しかも何でこんなに潤んだ視線で俺を見
る? 女友らしくもない)

女友「さっきから何考えてるの?」

兄「別に」

女友「冷たいなあ。友だちでしょ? あたしたち」

兄「まあそうだな」

女友「何か悩みでもある?」

兄「ねえよ」

女友「嘘つけ。あたしの勘は結構当たるんだって」

兄「だから今まで一度だって当たってねえだろ」

女友「お昼どうすんの」

兄「はあ?」

女友「もう妹ちゃんのキャラ弁はないんでしょ」

兄「まあ、そうだけど(今となっては姫の弁当が懐かしいよ)」

女友「じゃあ、中庭で食べようか」

兄「何でだよ」

女友「お弁当作ってきたから中庭で一緒に食べて」

兄「・・・・・・あのさ」

女友「どうかした?」

兄「親友の女のことはどうでもいいのか」


女友「・・・・・・」

兄「あ。悪い。俺が言うことじゃねえな」

女友「・・・・・・あたしって友だち少ないじゃん?」

兄「うん?」

女友「それって。別にあたしがモデルしてるからとか、あたしが綺麗だからとかじゃない
のかもね」

兄(自分のことを綺麗って言ったよこいつ)

女友「こういうところが同性の子に嫌われるのかなあ」

兄「どういうこと?」

女友「女は親友だけど。でも、だからといってあんたに声をかけることを遠慮する気もな
いんだなあ、これが。こういうところが嫌われるのかもね」

兄「何が言いたいの?」

女友「・・・・・・何でもない。女とのことはあたしの問題だから気にしないで。それよかあた
しがせっかく作ってきたお弁当を食べたくないとか言わないでしょうね」

兄「・・・・・・おまえが何を考えているのかさっぱりわからん」

女友「本当にわからない?」

兄「おまえ、ひょっとして俺のこと好きなの?(もう冗談にでもしないとやってられ
ん)」

女友「・・・・・・」

兄(無言で赤くなるなよばか。つうかマジでこいつ)


女友「講義終ったから中庭に行こう」

兄「ええと」

女友「一緒に来て」

兄(今は姫と一緒に暮らすためのシミュレーションをしなきゃいけないんだ)

女友「兄君?」

兄「いや。悪い。俺、ちょっと考えなきゃいけないし。本当に悪いな」

女友「・・・・・・何でよ」

兄「え?」

女友「あたしが誘ってるのに何で来てくれないのよ」

兄「おまえさ。いくら女の親友だからって俺に弁当作る必要はないだろうが」

女友「・・・・・・わざと言ってる?」

兄「いや」

女友「俺のこと好きなのって聞いたよね」

兄「・・・・・・」

女友「答えるよ。その図々しい質問に。そうよ。君みたいな持てない冴えない男のことが
好きになったの。そうよ、あたしは君が好き。悪い? 何か文句あるの」

兄(・・・・・・今は姫のことで頭がいっぱいなのに。何でこういうタイミングで)

女友「何とか言え。売り出し中の若手ファッションモデルに告られたんだよ。喜んで付き
合うよって言えよ」

兄「・・・・・・女は?」

女友「親友だけど。でも、今はもうどうでもいい」

兄「そう」

女友「・・・・・・嬉しいでしょ? ねえ嬉しいって言ってよ」

兄「・・・・・・すまん」

女友「すまんじゃないでしょ。嬉しいよって言って」

兄「・・・・・・」


今日は以上です
また投下します

おつ



凄すぎてわけわかんなくなってきやがったぜ....

乙です

何か新しい問題ばかり出てきて
かなり重い感じになってきたね…


<妹友と・・・・・・?>




兄(もう朝か。今日は休日だから少しゆっくりできるな)

兄(・・・・・・二度寝しようかな。最近あまり夜眠れないし)

兄(じゃないよ。何言ってるんだ俺。今日は塾講のバイトの面接じゃんか)

兄(姫に一緒に暮らそうって言ったのはいいけど、姫がOKしてくれたとしても今のまま
じゃどうにもならないしな)

兄(ちょっと早いけどもう起きて準備しよう。このまま寝ちゃったら遅刻するかもしれな
いし)

兄(・・・・・・女友を傷つけちゃったな。せっかくぼっちの俺と仲よくしてくれてたのに)

兄(でもあれしかないよな。家がこんな有様なのにこれ以上グダグダやってられないし。
女や妹友のことだってあんな曖昧にしたのはよくなかった)

兄(・・・・・・姫。何で迷っているんだろう。お互いに浮気しあって離婚するような両親にま
だ未練があるのか)

兄(姫を大切にしてきただ? 姫のことを特別にちやほやなんかしなくてよかったんだ。
普通の浮気しない離婚しない両親でさえいてくれればよかったんだ。その方がよほど姫だ
って幸せだったはずなのにな)

兄(姫は俺と二人で暮らすのはやっぱり不安なんだろうか。それはそうだよな。姫だって
自分の学校とか進学とか生活が心配になっても不思議はないし)

兄(・・・・・・面接に行こ)



兄(よかった。採用してもらえた。研修はあるけど来月から週3コマ担当か。俺も先生と
呼ばれるようになるのか)

兄(とりあえず二つ目のバイトは確保できた。とにかくこうやって少しづつ前進していく
しかないんだし)

兄(カプセルホテルの夜のバイトと週3コマの授業を入れると講義の方がやばい気がする
けど、今はしかたない。とにかく講義とバイト以外を極力排除して頑張るしかないんだ
し)

兄(姫のためだと思えば俺は頑張れる・・・・・・と思う)

兄(とにかく帰ろう)

兄(しかし周りの高校生たちが何か幼く見えるな。何でだろう? 姫だって高校生なのに
な)

兄(・・・・・そういや姫って塾とかに行ってないよな。うちの大学を受けるなら学校の授業
だけじゃ厳しいのに)

兄(あれ? あの子って)


兄(妹友?)

兄(何であいつが・・・・・・まあ不思議はないか。それこそ受験勉強のために塾に通ってるん
だろう)

兄(なんかやだなあ。高校二年生のクラスを持つって言われたけど、まさか俺の授業に妹
友がいたら。何か気まずい)

兄(あのとき。妹友と彼氏君は・・・・・・)

兄(レイプだって言ってたけど。でも正直とてもそうは見えなかった。俺には抱き合って
いるように見えた)

兄(・・・・・・どうでもいいか。妹友は今日は授業が終ったみたいだ。塾の出口に向ってる)

兄(今は何だか顔を合わせたくないな。少し時間を置くか)

兄(・・・・・・出て行った)

兄(帰るか。今日は姫からメールが来ないかな)

兄(さて。スーパーにでも寄って買物しとかないと今夜の飯さえないな)

兄(あれ? あの車って)

兄(それにあの車に乗り込んだのって妹友じゃんか。つうかあれ。うちの車だ)

兄(いったい誰が運転してるんだ。まさか彼氏君が?)

兄(もう薄暗くなってきて車内がよく見えない。それに彼氏君がうちの車のキーを持って
るわけないし)

兄(でもナンバーは見える。あれはうちの車のナンバーじゃんか)

兄(よし。車が出ちゃう前にもっと近寄って)

兄(・・・・・・もう気が付かれてもしかたない。思い切り近づいてやる)

兄(妹友。やっぱあれは妹友に間違いないな)



妹友「迎えに来てくれてありがとう」

父「いや。どうせついでだからね」

妹友「・・・・・ママとパパと会った?」

父「会ったよ。ついさっきまで話をしてた」

妹友「そうか。うまく行ったの?」

父「どうかな。まだわからんよ」

妹友「何でママは一緒に来なかったの?」

父「君のパパと二人で話がしたいってさ」

妹友「・・・・・・そうか。そうでしょうね」



兄(父さん。つうかこいつらいったい何を話してるんだ。何で父さんと妹友が親しく話し
ているんだ)

兄(どうなってるんだよ。全く)


父「だから君のお迎えを頼まれたんだよ」

妹友「うん。ママからメールもらったから知ってる」

父「君のママは今日は帰りが遅くなると思う。お兄さんは?」

妹友「今日は友だちの家で勉強だって。帰るの遅くなるって言ってた」

父「お兄さんと仲直りできた?」

妹友「微妙」

父「仲直りした方がいいよ」

妹友「まあそうだけど」

父「じゃあ食事してから送っていくよ。何が食べたい?」

妹友「そうだなあ」



兄(ちくしょう。車を出されちまった)

兄(何で父さんが妹友を車に乗せてるんだ? てか妹友の両親と父さんの話し合いってい
た何だよ)

兄(あいつらの離婚と関係ありそうだけど。だけど何で妹友と)

兄(! ま、まさか。父さんの浮気相手って)

兄(まさか・・・・・・妹友の母さんなのか)

兄(何でだ。よりによって何で姫の親友の母親なんかと)

兄(いや。何かの間違いかもしれない。決め付けるのはまだ早い)

兄(離婚した後の姫のケアを姫の親友の妹友に頼んでいたとか)

兄(いや。ねえだろ。父さんが単独で妹友を迎えに来るなんて状況は考えられない)

兄(・・・・・・ただ。前から父さんと妹友が知り合いだったのなら話は別だ)

兄(いやいや。普通に考えればそれだってあり得ないだろ。もし父さんの浮気相手が妹友
の母さんだったとしたら、妹友にとっては父さんは自分の家庭を壊す元凶じゃねえか。仲
良く車なんかに乗るもんか)

兄(いくら考えてもわからん。いっそ姫に相談・・・・・・)

兄(バカか俺は。ただでさえ両親の離婚やこの先誰と暮らすのかで悩んでいる姫にこんな
こと話せるか。妹友は姫の親友なんだぞ)

兄(こんなとき相談できる相手は)

兄(いねえ。俺今ぼっちだし。女も女友にだって相談できる状況じゃねえし)

兄(あ)

兄(一人だけいた。俺のことはまだ怒っているかもしれないけど。父さんの浮気相手のこ
となら)


<それでも親かよ>




兄「や、やあ」

母「・・・・・・」

兄「突然連絡してごめん。でも来てくれてよかったよ」

母「・・・・・・何の用」

兄「いや。そのさ」

母「まさか、あたしがあなたに会いに来たからって許されたつもりじゃないでしょうね」

兄「・・・・・・そうじゃねえよ」

母「自分の妹に欲望をぶつけてあの子を汚したことが、そんなに簡単に許されるとでも思
ってたの?」

兄「俺と姫は愛し合って・・・・・」

母「何ですって」

兄「いや。何でもない(今はこんなことを言っても無駄だ。それよりも本題を話さない
と)

母「あたしさ。仕事を抜け出してきているんだけど。だいたいあなたは勘当されてるの
よ? 何を勘違いして偉そうに会いたいなんて連絡してくるのよ」

兄「(今は我慢するんだ)聞きたいことがあって」

母「何」

兄「・・・・・・離婚するって聞いたんだけど」

母「誰から? まさかあなた。こそこそと妹に会ってるんじゃないでしょうね」

兄「・・・・・・妹が連絡してきたんだよ。父さんと母さんが離婚するって。本当なのかよ」

母「・・・・・・あなたはもう勘当されてるんだから関係ないでしょ」

兄「ふざけんなよ。俺のことはともかく姫のことを傷つけてもいいのかよ」

母「だってしかたないじゃない。あたしだってあの子のために頑張ったのよ。お父さんが
浮気しているらしいって知ってからも、妹のために無理に仲のいい家族を演じてたの。あ
なたにわかる? 自分の夫に浮気されながら楽しそうに香港への家族旅行の話をしなきゃ
いけないあたしのつらさが」

兄「・・・・・・母さんにも男がいるって聞いたんだけど」

母「それはそうだけど。でも最初に浮気したのはお父さんなの。あたしはそれまでは誰に
対しても恥かしいことはしていなかったのよ」

兄「父さんと母さんの勝手な浮気なんかどうでもいいよ。母さんの言うとおり俺は勘当さ
れたんだし今さら文句を言う気もないし」

母「じゃあ、何でお母さんを呼び出したの? あたしだって仕事が詰まってて忙しいの
に」

兄「(こいつ自分の母親ながら本気でむかつく)だから聞きたいことがあったからだよ」

母「離婚のことでしょ? だから本当だよ。心配しなくていいよ。大学を卒業するまでは
学費と生活費は出してあげるから。それで卒業したら後は好きに生きなさい」

兄「・・・・・・それでも親かよ」


母「聞いた風なこと言わないでよ。妹に手を出す息子にそんなことを言われる筋合いはな
いわよ」

兄「まあ、どう思ってくれてもいいよ。たださ、妹は相当悩んでたぞ。精神が壊れそうな
くらい。あれは俺のせいじゃなくて母さんたちのせいだよな」

母「あの子、結局あんたに頼ったの?」

兄「頼ったっていうか。まあ、泣きながら相談してきた」

母「・・・・・・そうなんだ。結局そうなるのよね」

兄「何だよ」

母「あの子があなたのことを好きなことは何となくわかってたよ。お父さんは認めたくな
かったみたいだけど。あたしにはわかってた」

兄「何言ってるんだよ」

母「許したわけじゃないのよ。でも、あの子にはあんたが必要なんだろうなとは思ってた
よ」

兄「・・・・・・マジかよ」

母「うん」

兄「じゃ、じゃあ。何で」

母「自分の子どもたちがお互いに愛し合っていたとしても、それを笑って許す親なんかい
ると思うの?」

兄「・・・・・・ああ」

母「お父さんとは価値観も何かも合わない。正直顔を見るのも会話をするのもいや。でも
ね、あの夜お父さんが言ったことにはあたしも賛成よ。あなたは妹の将来を、あるべき明
るい将来を閉ざしたの」

兄「・・・・・・」

母「でもね。お父さんと違ってあたしにはあの子はやっぱり最後にはあなたが必要なんだ
ろうなって思ってはいた。自分では認めたくなかったけど」

兄「(え)・・・・・認めてくれるの?」

母「そんなわけないでしょ。自分の娘が不幸になるのを黙ってみている親がいると思
う?」

兄「・・・・・・離婚だって十分姫を不幸にしていると思うけどな」

母「・・・・・・それは」

兄「もういい。それよか、父さんの浮気相手だけど」

母「それを聞いてどうするの? もう勘当されたあなたには関係ない話でしょ」

兄「まさか、姫の親友の妹友の母さんじゃないだろうな」

母「・・・・・・あなた」

兄「どうなんだよ」

母「何であなたが知ってるの」

兄「やっぱりそうなのか」

母「あのね。あたしもお父さんも最初から家族で香港に行く気なんかなかったのよ。もち
ろん、連休中に仕事があったなんていうのも嘘なの」

兄「(ふざけんな)あの旅行をどれだけ姫が楽しみにしていたか知らないのかよ」

母「知ってたよ。そんなこと。あれは今にして思えばお父さんとの最後の共同作業だった
のかもね」


兄(何笑ってやがる。悲劇のヒロインのつもりかよ)

母「だからせめてもの償いとしてお父さんはあの子に旅行に行くように言ったの。あたし
も笑って賛成した。それがお父さんとの最後の共同作業ね。でもさ。連休中はお父さんも
お母さんもそれぞれの相手と・・・・・・・」

兄「もういい。そんな汚い話はこれ以上聞きたくない」

母「どうしたの? もうあなたには関係のない話でしょ。あなたの学費と生活費は面倒み
るって言ってるのだし」

兄「そうじゃねえだろ」

母「何が言いたいの」

兄「何で父さんが妹友の母さんと付き合ってるんだよ。知ってるんだろ? 妹友は姫の親
友なんだぞ」

母「それってお母さんの責任なの?」

兄「・・・・・・・そうは言わねえけど」

母「あたしが仕事ですごく忙しかったことがあってね。妹の学校行事に行けないことがあ
ったの」

兄「ああ」

母「お父さんは妹が大好きだったから。保護者がいないんじゃあの子が肩身の狭い思いを
するだろて言ってね。自分が学校行事に参加するって言ったことがあったのよ。お父さん
だって忙しかったのにね」

兄「それで?」

母「妹は喜んだわ。大好きなお父さんが学校に来てくれたって。でも、そのときにお父さ
んは同級生のママと、妹友ちゃんのママと知り合ったの」

兄「・・・・・・それって」

母「うん。それからその二人の不倫が始まったらしいよ。まあ、今となってはどうでもい
いけど」

兄「どうでもいいって」

母「お母さんにも今は彼氏がいるしね。会社の上司で離婚している人だけど」

兄「そんなこと聞いてねえよ。どうでもいいって言ったよな? 姫の気持もどうでもいい
のかよ。父親が親友の母とできてるんだぞ」

母「・・・・・・まだ妹はそのことは知らないはずだし」

兄「アホか。いつかはばれるに決まってるだろうが。いったいこの先姫のことをどうする
つもりだよ」

母「あたしが引き取りたい。でも、父さんも同じことを言ってるから」

兄「だからって姫に選ばせるのかよ。何でそんな残酷なことができるんだよ」

母「・・・・・・もう、そうするしかないのよ。知ったようなこと言わないで!」

兄「それによ。妹友のところにだって実の父さんはいるんだろ? そっちはどうなる」

母「そんなことは知らない。知りたくもない」

兄「・・・・・・結局、妹はどうなるんだよ。母さんを選んでも父さんを選んでも他人と一緒に
暮らすことになるじゃねえか」

母「あの子があたしを選んでくれたら、絶対に不幸にはしない。彼だって大事にするって
言ってくれてるし」

兄「それ本気で言ってるの?」

母「・・・・・・」

兄「家族大好きな、何よりもうちの家族が大好きな姫がそれで幸せになれると本気で思っ
てるの?」


母「それは」

兄「父さんと一緒に暮らすのだってあり得ないだろ。親友の妹友と姉妹になる? ねえよ
そんなの」

母「ねえ?」

兄「何だよ」

母「あなたさ。本気で妹を泣かせないで幸せにする自信ある?」

兄「何だよ突然」

母「真面目に答えて。とりあえずあなたのしたことは一時忘れてあげるから」

兄「あるよ。それが妹の兄としてでも、妹の彼氏としてでも」

母「・・・・・・そうか」

兄(何なんだ)

母「それが本気なら、あの子のことお願いしようかな」

兄「え?」

母「あなたの言うとおり、あたしたちは取り返しの付かないほど妹をないがしろにして傷
つけた。本当はわかってたよ。だから、もう妹のためにはあなたに頼るしかないのかもし
れないね」

兄「そんなに相手のこと好きなの? そいつと別れて姫と二人で暮らすことは考えられな
い?」

母「ごめんね。でも無理。だから、勝手な言い分だけど、あなたがあの子を救ってくれる
ならあたしは味方になるよ」

兄(どういうことだよ。俺と姫の仲を認めるってことか。それとも単純に姫のことが邪魔
なのか)

兄(でも。これは姫を救うチャンスだ。うまくいけば生活の心配とかなく姫と暮らせるか
もしれない)

母「よく聞いて。お父さんは絶対に反対するかもしれないけど。もうこうなったらあんな
人に遠慮する必要なんかないから。あなたはこうするの。いい?」


今日は以上です
また投下します

おつ


早く1つでも問題解決してくれよ…



やべぇ....超展開すぎる.....

先が気になって仕方がねぇんだけど...

これ単行本化しないですかねぇ...???



やべぇ....超展開すぎる.....

先が気になって仕方がねぇんだけど...

これ単行本化しないですかねぇ...???

乙。絵かきてえ


<お父さんを本気で嫌いにはならないであげてね>




兄「どうすればいいの」

母「明日土曜日でしょ。妹の外出許可を取っておくから、あんた妹に会いなさい」

兄「それで?」

母「あなた、妹のことを説得しなさい」

兄「説得? 何をだよ」

母「一週間後にお父さんとあたしはあの子に会うの。そのとき、これからはお母さんと一
緒に暮らすって妹に言わせるようにするのよ」

兄「何でだよ? 俺は父さんの味方じゃないけど、別に母さんに味方する気もないよ」

母「そんなことわかってるよ。いいから最後まで聞きなさいよ。妹と一緒に暮らしたくな
いの?」

兄「・・・・・・わかった。続けて」

母「あたしと暮らすことになったら、あなたと妹用に新しく部屋を借りてあげる。あなた
たちは二人でそこで暮らしなさい」

兄「本気なの?」

母「もうそれしかないでしょ。二人きりになんかしたらあなたたちがまた変なことするか
もしれないけど。でも、もうそれしかないのね」

兄「母さん」

母「あなたの言うとおりよ。あの子がお父さんや母さん、それにあなた以外の他人と一緒
に暮らして幸せになるなんて多分無理でしょう。まして、親友の子と姉妹として一緒に暮
らすなんて」

兄「・・・・・・それは多分間違いないよ」

母「だからもうしかたない。父さんと暮らしたら妹は幸せになれないから。だからあの子
にあたしを選ぶと言わせて。そしたら父さんには黙ってあなたちを二人きりで暮らさせて
あげるから」

兄「わかった。でも説得するときってさ。二人で暮らせるっていうことを姫に言ってもい
いの?」

母「言わなきゃ妹はどっちかを選んだりはできないでしょ。あの子はあたしのこともお父
さんもどっちも大好きなんだから。でもね。認めたくはないけど妹はあなたのことが大好
きだからね。多分、あたしやお父さんのことよりも」

兄「・・・・・・ああ」

母「だからあなたは明日妹を説得しなさい。お母さんと一緒に暮らすって言えばあなたと
一緒に暮らせるって。あたしは味方だってあの子に説明して」


兄「わかった。やるけどさ」

母「けど、何?」

兄「これ、父さんにばれたらどうなるの」

母「ばれないようにするのよ。父さんは忙しいから妹を監視したりはできないわ。定期的
に妹と面会はしたがると思うけど、そこで妹がうまく誤魔化してくれれば大丈夫よ。それ
にね」

兄「何?」

母「多分、あの子はお父さんが自分の親友の母親と浮気していたことを知ったら、お父さ
んのことを嫌いになると思う」

兄「・・・・・・」

母「妹を溺愛しているお父さんには気の毒だけど、でも自業自得よね。本当に妹のことが
好きなんだったら、娘の友だちのお母さんに手なんか出すべきじゃなかったし」

兄「嫌いになるくらですめばいいけどね(姫、相当ショックを受けるだろうな。かわいそ
うに)」

母「だからあなたに任せるんでしょ。しっかりしなさい」

兄「勝手なこと言うんだな」

母「勝手なことを言っているのはわかってるよ。あたしとお父さんが悪いのも自覚してい
る。でもさ、あなただってあの子を傷物にしたじゃない」

兄「・・・・・・(そうじゃない。俺と姫は愛し合って)」

母「わかるでしょ? あたしたちはみんなで妹を傷つけたの。よりによって妹が一番信頼
していたあたしたちがね」

兄(一緒にするなって言いたいけど。俺と姫以外の人が見たらそうなるんだよな、きっ
と)

母「だからあたしは今日あなたに決めたの。少なくともあなたはあたしたちの離婚で傷付
いている妹のことだけを本気で心配しているようだったから」

兄「俺の今のアパートは?」

母「引き払いなさい。あんな遠いところから妹を学校に通わせるつもり?」

兄「わかった。いつでも出られるように準備しておく」

母「そうなさい。引越費用とかは出してあげるから」

兄「ねえ?」

母「何よ」


兄「仮にだけど。仮に俺が妹の説得に失敗したらどうなるの」

母「あの子はあたしも父さんもどっちも選べないって言うでしょうね」

兄「そうしたらどうするんだよ」

母「今までどおり富士峰の寮で暮らすしかないでしょ」

兄「戸籍とか親権とかは?」

母「・・・・・・・どうしようもないね。最終的には調停とか裁判で決めるしかない」

兄「夫婦で妹を取り合って裁判か。どろどろだな」

母「そんなことはわかってる。でもしかたないでしょ。あたしも父さんも妹の意思を尊重
することでは合意してるの。でも肝心のあの子が選べないならもうそうするしかないでし
ょ」

兄「うまくいったとしても、いつか父さんにばれたら俺、今度こそ本当に嫌われちゃう
な」

母「・・・・・・ごめんね」

兄「え?」

母「でもきっと大丈夫だよ。お父さんも母さんもあなたのしたことは許せないけど。それ
でも息子には変わりないから」

兄「・・・・・・」

母「お父さんの悪口をいっぱい言っちゃったけど。でもあのときお父さんだって言ってた
でしょ」



父『私たちにとっては兄も姫もどちらも大事な子どもだろ?』



兄(そういやそんなこと言ってたかな)

母「まあ、あなたはあのときはそれどころじゃなかったでしょうから、気にしてもいない
だろうけどね。あなたが家を出てからときどき、兄はどうしてるかなってお父さんは言っ
てたのよ」

兄(まじかよ)

母「あたしはお父さんはもう一緒には暮らせないけど。それでもあなたと妹のことを一緒
に心配できるのはお父さんだけだしね」

兄「・・・・・・うん」

母「でも、お父さんが妹友さんのお母さんと浮気したのは事実だから。だからそれとこれ
とは別。あなたは妹を救いなさい」

兄「わかった」

母「それでもさ。それでもお父さんを本気で嫌いにはならないであげてね」

兄「・・・・・・」


<場所を考えてよ。周りの人が見てるって>




兄(姫には母さんから待ち合わせ場所と時間を連絡しておくって言ってたな。いったい何
を伝えたんだろうか)

兄(今日の本題なんか電話でできる話じゃねえだろうしな)

兄(しかし姫も混乱してるだろうな。いきなり母さんから電話で俺と会えなんて言われた
ら)

兄(・・・・・・正直あのくそ両親のことは許せない。母さんはああは言ったけど、あいつらが
少しでも俺のことを気にかけていたとかもうどうでもいいんだ。むしろ姫にしたことが許
せないんだから)

兄(それでも母さんの提案に乗ろう。うまくいくかどうかはわからない。いつまでも父さ
んに隠しておけることでもない。でも、姫と一緒に暮らせて生活の面倒もある程度母さん
が見てくれるなら、賭けてみる価値はある)

兄(もちろん姫が了解してくれたらだけど。正直姫の反応が不安だ。あのときあいつは)



兄『姫が混乱して傷付いているのならもう俺の彼女としてじゃなくてもいい。妹としてで
もいいから俺と一緒にいてくれ。姫。一緒に暮らそう』

妹『・・・・・・考えさせて』

兄『何でだよ。まだあんな嘘つきの親なんかに未練があるのかよ』

妹『ごめん。考えさせて』

兄『・・・・・(何でだよ)』



兄(・・・・・・姫がもし俺と一緒に二人で暮らすことに気がすすまないならこの話は終わりだ。
母さんがいくら応援してくれたとしても)

兄(そうしたら姫はどうするんだろう。姫が父さんの浮気相手が誰だか知ったら、母さん
と一緒に暮らすことを選ぶのだろうか)

兄(いや。それはないな。母さんを自分から奪って大好きな家庭を崩壊させる原因を作っ
た浮気相手となんか姫が一緒に暮らすわけがない。ということは姫は高校卒業まで寮生活
になるんだろうか)

兄(・・・・・・そろそろ家を出よう。遅れたらまずい。それに今まで行ったこともない場所を
母さんに指定されたしな。迷うとまずい)

兄(父さんに目撃されることを心配してるのかな。とにかくここから遠い場所だし、もう
行かないと)


兄(・・・・・・この駅って初めて降りたな。通過したことは何度もあったけど)

兄(確か駅前のファミレスって言ってたな。ああ、あれだ)

兄(何か緊張してきた。今日でこの先のおれと姫の生活が決まるんだと思うと)

兄(・・・・・・いた。姫だ)

兄(私服姿の姫って久し振りに見た。こんなときだけどやっぱり可愛い)

兄「待った?」

妹「・・・・・・お兄ちゃん」

兄「待たせて悪かったな」

妹「・・・・・・」

兄「何で泣くんだよ」

妹「何でだろ。何かお兄ちゃんの顔見たら涙が出ちゃった。ちょっとだけ待ってすぐに泣
き止むから」

兄「いいよ」

妹「だってうざいでしょ? お兄ちゃん」

兄「いいって」

妹「・・・・・・うん」

兄「俺さ。ここの駅って初めて降りたよ」

妹「あたしは二度目」

兄「来たことあるの? この町」

妹「だってママの会社があるところじゃん」

兄「あれ? そうだっけ(マジかよ)」

妹「一度だけママに会いに会社に行ったことがあって。そのときに来た」

兄「そうか(俺って姫のことはいろいろ知ってるのになあ。考えてみれば両親のことには
無関心だったな。俺もあいつらのことをとやかく言えないのか)」

妹「昨晩ママから電話があって、ここでお兄ちゃんと待ち合わせして会いなさいって。大
事な話だからって」

兄「そうか」

妹「うん」

兄「あのさ。俺と一緒に住むって話だけど」

妹「・・・・・・」

兄「つまりさ。姫さえよかったらだけど」

妹「・・・・・・うん」

兄「姫が迷っていることはわかるよ。俺なんかと暮らすのは不安だろうし、それに姫は父
さんたちが大好きだったから。だから返事は姫が決めるまでは待っているつもりだったん
だけど」

妹「ごめんなさい」

兄「いや。だけどさ。事情が変わったんでもう一度だけ言わせてもらう」

妹「事情って」

兄「姫。俺と二人で暮らそう。ずっと一緒に」


妹「・・・・・・無理だよ」

兄「何で。俺ってそんなに頼りない? やっぱりあいつらと一緒の方がいいの」

妹「お兄ちゃんのこと大好き。多分、パパとママよりもお兄ちゃんを愛してる」

兄「・・・・・・だったら」

妹「だからだめ」

兄「どういうこと?」

妹「お兄ちゃん絶対あたしのために無理するから」

兄「無理って? 俺は姫のためならそんなことは全然苦にならないって」

妹「あたしと一緒じゃなければお兄ちゃんは大学を卒業できるし、就職だってできるでし
ょ。でもあたしと暮らしたらパパもママもきっとすごく怒ると思う。お兄ちゃんへの仕送
りだってやめるはずだよ」

兄「それでも俺は」

妹「お兄ちゃんは絶対にあたしに富士峰を卒業させて大学に入らせるためなら、中退して
働くとか言い出すもん。そんなのだめ。お兄ちゃんの方があたしより頭いいのに」

兄「ひょっとして。姫はそれを心配して一緒に住むって言ってくれなかったの?」

妹「うん。だってお兄ちゃんの将来を閉ざしちゃうなんてあたしがいやだから。あたしの
ためなんかに、あたしが愛している人には苦労させたくないから」

兄「姫」

妹「・・・・・・・ちょっと。場所を考えてよ。周りの人が見てるって」

兄「やっぱりおまえは俺の大事なお姫様だよ」

妹「だから。恥かしいよ」

兄「愛してるよ姫」

妹「こら離せ・・・・・・。しょうがないお兄ちゃんだなあ全く」

兄「姫」

妹「あたしも愛してる。大好きだよ、お兄ちゃん」


<あたしがお婆さんになっても>




兄「ちょっと話があるんだ。聞いてくれるかな」

妹「聞くよ。だから手を離してよ」

兄「これでいいか」

妹「全くもう。少しはTPOをわきまえなさいよ」

兄「どうでもいいよ。それよかさ」

妹「何よいったい。大学を中退してあたしを養う話なら受け付けないよ」

兄「そうじゃねえんだよ。昨日母さんと会ったんだ」

妹「ママと? 昨日の夜は何にも言ってなかったけど」

兄「母さんが言ったんだよ。俺に姫を任せるから一緒に住めって。姫を守れって」

妹「・・・・・・嘘でしょ?」

兄「こんな大切なことで嘘言うわけねえだろ。あいつらのしたことは許せないけど、少な
くとも母さんは姫にひどいことをしたって言う意味のことは言ってたよ」

妹「そうか・・・・・・」

兄「姫がどっちを選んでも不幸になるってこともわかっていたみたいだ。だから、急に俺
に言ったんだ」

妹「なんて言ったの? ママは」



母『あなたさ。本気で妹を泣かせないで幸せにする自信ある?』

母『それが本気なら、あの子のことお願いしようかな』

母『あなたの言うとおり、あたしたちは取り返しの付かないほど妹をないがしろにして傷
つけた。本当はわかってたよ。だから、もう妹のためにはあなたに頼るしかないのかもし
れないね』

母『あなたがあの子を救ってくれるならあたしは味方になるよ』


妹「ママがそんなことを」

兄「ああ。母さんも少しは自分の浮気相手以外のことも考えてたみたいだな」

妹「やめて」

兄「あ。悪い」

妹「でもそんなの絶対にパパが許すわけないよ」

兄「そうだな。だから父さんには黙って二人で暮らすことになる。母さんは新しいアパー
トを用意してくれるって言ってた」

妹「それにしたって。いったいどうすればいいのよ。あたしは寮に入れられてるし、そも
そも来週にはパパとママに会ってどっちと一緒に暮らすのか返事しなきゃいけないし」

兄「母さんと一緒に暮らしたいって言うんだ」

妹「・・・・・・何で?」

兄「とにかく父さんと一緒に暮らしちゃだめだ」

妹「だから何でなの」

兄「(こいつはまだ妹友の母さんが父さんの浮気相手だってしらない。さすがに今この場
じゃそれは言えないな)母さんの提案だからだよ」

妹「どういうこと?」

兄「おまえが父さんのところに行ったらそれで終わりだ。でもおまえが母さんを選べば、
母さんは俺に姫を任せるって言ってた。新しいアパートで二人で暮らせって。俺に姫を守
ってくれって」

妹「お兄ちゃん!」

兄「嫌なのか? 俺たちの学費や生活の面倒はみるて言ってたし」

妹「嫌なわけないじゃん。すごく嬉しい」

兄「・・・・・・姫」

妹「今でも離婚なんか考えるだけでも気持悪くなるけど。でも、それでも」

兄「うん」

妹「あたしって冷たい人なのかな。お兄ちゃんと一緒に暮らせるって考えたらあまり悲し
く泣くなっちゃった」

兄「姫」

妹「こら。またそれか」

兄「もうずっと一緒にいよう。姫が生まれたときから一緒なんだ。こうなったら俺が死ぬ
ときまで一緒に暮らそうぜ」

妹「ばか。勝手に死んだら怒るからね」

兄「ずっと先の俺が爺さんになったときの話だって」

妹「それでもだよ。あたしがお婆さんになってたって先に死んだら怒るからね」

兄「ああ」


今日は以上です
そろそろ別スレの更新をしますので、あと一、二回投下したらしばらくこちらの更新はお休みします

ごめんなさい



取り合えず、一安心なのかな?

それとも....油断はできないなぁ.....

おつ

乙です
早くこのやモヤモヤからスッキリさせてくれよ…

おっつ


<デートじゃないって>




兄(妹と母さんのメールによると最初はごねてた父さんも最後は納得したようだな。最初
から姫の意思には従うと母さんとお互いに約束してたこともあるんだろうけど)

兄(それよりも姫に引け目を感じてるんじゃないかって母さんは書いてたな。それはそう
だ。姫の親友の母親を寝取るとか正気じゃ考えられないことをしでかしたんだからな)

兄(クソなのは母さんも同じだとは思うけど。不倫とか浮気しているって意味では父さん
と変わらないんだし。でもやっぱり妹友の家庭を崩壊させるって、いくら何でも父さんが
していることの罪はでかいよな)

兄(それに自分勝手なようだけど。母さんは俺に姫を任せてくれたし)

兄(今日は妹は創立記念日で休み。そして母さんが外出許可を取ってくれたらしい。俺も
今日は講義は午前中でパスして姫と)

兄(まだまだ油断できる段階ではないけど。それでも今日は姫に会えるだけでもわくわく
する。久し振りに気分が軽く感じるな)

兄(いい天気だな。もうすぐ夏って感じだ)

兄(っていかん。気を抜かずに講義に集中しないと。姫を幸せにするために頑張らなくち
ゃいけないことは、前と全然状況は変わっていないんだし。それに。姫を守るって母さん
に約束したんだしな)

兄(・・・・・・まあその約束は幼い頃から父さんともしてたんだけど。でも、もうあれは破棄
だ。もちろん姫のことは全力で守るけど、それはもう父さんとの約束とか関係ない。父さ
んなんかに姫を守れなんて言う資格はない。これからは誰に言われたからじゃなく、自分
の意思として、俺の全てを姫のためにだけにささげるんだ)

兄(姫を傷つけて他の男と再婚するとか言っている母さんだけど、少なくとも今は俺と姫
の味方なんだし、母さんだけはもう少しだけ信用してみようか)

兄(今日は姫と会って。そして新居を見に行く)

兄(何か新婚みたいじゃんか)

兄(いや。浮かれてる場合じゃないな。両親の離婚から痛手をおった姫を俺が守って癒し
てやらなきゃいけない。彼氏とか言う以前に俺は姫の兄貴だ。家族大好きな姫が唯一今で
も頼れる家族の最後の一人なんだから)

兄(・・・・・・って全然講義に集中出来てないじゃんか。あ。講義が終っちゃったよ)

女友「何か嬉しそうだね」

兄「おまえ。いたのかよ」

女友「何かちょっと前とはうって変わって元気そうじゃん。まあ、相変わらずぼうっとし
ているけど」

兄「別に元気とかじゃねえけど」

女友「人のこと振っておいて元気とはどういうこと?」

兄「あ、いや。だから別に元気じゃなくて」

女友「冗談だよ。そんなにびびるなよ」

兄「・・・・・・ごめん」


女友「だから冗談だって。何よ、あたしが君を引きずって暗い方がいいの?」

兄「そんなことは」

女友「重い女なんてやでしょ? そんなに敬遠しないでよ」

兄「そんなんじゃねえよ」

女友「まあ俺がこいつを振ったんだとか思わないで気楽に付きあってよ。あたしだって学
内では君と女しか友だちはいないんだしさ」

兄「あ、うん。悪い」

女友「謝るなって。あたしはプライドは高いけどさ。君に告って振られたことにはそんな
に傷付いてないからさ」

兄「・・・・・・何で?」

女友「うーん。何でかなあ。多分、君の相手が普通の女の子でさ。その子と比べられて負
けたのならすごくプライドが傷付くかもしれないけどさ」

兄「相手って」

女友「わかってるよ。君は、どうせ妹ちゃんのことが好きなんでしょ?」

兄「いやその」

女友「あたしは確かに外見ではこの大学の誰にも負けないくらい綺麗だし、性格も可愛い
いよ?」

兄「・・・・・・(自分で言うか。それに外見はともかく性格は)」

女友「でもさ。君と妹ちゃんって十七年間の積み重ねがあるみたいだし、いくらあたしが
可愛くてもそれには勝てないや」

兄「何言ってるんだ」

女友「あはは。君、今日は珍しく表情が明るいけどさ。もしかしてこれから妹ちゃんと
デート?」

兄「別にデートじゃねえけど。ちょっと用事があって妹と会うことは会う」

女友「君ってどんだけ自分の妹のことが好きなのよ」

兄「・・・・・・」

女友「まあいいいや。君に振られたおかげで結果的に女と気まずい仲になることもなさそ
うだし」

兄「前向きだなおまえ」

女友「まあ、いい男なんか他にもいっぱいいるしね。つうかあたしが惚れた歴代の男の中
では、あんたみたいな男は珍しいし」

兄「どういう意味だよ」

女友「そのとおりの意味だよ」

兄「あの・・・・・・(泣いてるのか?)」

女友「じゃ、じゃあね。これからも友だち。OK?」

兄「ああ、そうだな」

女友「さっさと妹ちゃんとデートしてこい」

兄「デートじゃないって」


妹「・・・・・・お兄ちゃん」

兄「今日は俺の方が早く来てだろ?」

妹「何張り合ってるのよ。大人気ない」

兄「これでこの間待たせた借りは返したぜ」

妹「・・・・・・本当にバカなんだから」

兄「行こうぜ。もう鍵は母さんからもらってるし」

妹「うん」

兄(姫が両手で俺の片腕に抱きついてきた。何か幸せだ)

妹「どうしたの?」

兄「何でもねえよ。行くぞ」

妹「偉そうに」

兄「そんなんじゃねえよ」

妹「何マジになってるのよ。冗談だって」

兄「わかってるって。とにかく行こうぜ」

妹「はいはい」

兄「ここかな」

妹「外観は思っていたより綺麗だよね」

兄「何か新築っぽいな」

妹「中を見ないと何とも言えないよ」

兄「それはそうだ。じゃあ、見に行こう」

妹「そうだね」

兄「2DKかな」

妹「中も新築っぽいよよね。壁とかきれい」

兄「お。これってユニットバスじゃないじゃん」

妹「それって重要なの?」

兄「当たり前だろ。おまえは何もわかってない」

妹「何でよ」

兄「ユニットバスっていうのはトイレと一緒なんだって。一人暮らしなら別に問題ないけ
どさ。一緒に暮らすなら」

妹「訳わかんない」

兄「俺がシャワー浴びてるとき姫がトイレに行きたくなったらどうするんだよ」

妹「ちょっとごめんねって言ってトイレに行くけど」

兄「・・・・・・おい」


<ごめんね。でももうパパとママは一緒に暮らせないから>




妹「でもここいい部屋だよね。新しいし、ここならお兄ちゃんの大学もあたしの学校にも
そんなに遠くないし」

兄「まあ、母さんはその辺を考えてここを選んだんだろうな」

妹「でもさ、ちょっと部屋が変だよね」

兄「変って? 2DKだぞ。俺たちにはちょうどいいじゃん」

妹「六畳間二つよりもっと広い部屋一つでいいのにね」

兄「え? だって二人暮しなんだし」

妹「どうせ一緒に寝るんだし一部屋無駄じゃん」

兄「おい」

妹「あ、でも。一部屋は荷物置き場にしよう。あたしの服とか置く場所にしてさ。今の寮
って収納スペース最悪だし」

兄「そう(何? いつも一緒に寝るってこと?)」

妹「部屋は二人一部屋だし。まあ、同室の子とは仲良くなったんでいいんだけどさ、とに
かく収納スペースがないのよ。だから六畳間一部屋あるくらいがちょうどいいね」

兄「それってさ。普段とか寝るときとか俺と一緒の部屋でってこと?」

妹「うん」

兄「うんってさ。まあいいか」

妹「嫌なの?」

兄「そんなわけねえよ。でもさ」

妹「でも?」

兄「いや。何でもない」

妹「・・・・・・お兄ちゃん。今日は意地悪だよ」

兄「そんなことないって。でも、ごめん」

妹「このキッチンが問題かな」

兄「何で?」

妹「シンクとか小さいし。コンロも一口しかないよ」

兄「それって問題なの?」

妹「だって使いづらいじゃん」

兄「・・・・・・母さんに文句言う?」

妹「・・・・・・言わない。お兄ちゃんと一緒に暮らせるだけでもう何も文句なんてないから
ね」

兄「ならよかった」

妹「・・・・・・夢みたい」

兄「何が?」

妹「パパとママが離婚するって言って。あたし、どうしていいかわからなくて。寮にいる
から誰にも自由に連絡できないし。でも、突然お兄ちゃんと一緒に暮らせることになっ
て」


兄「あのさ」

妹「うん」

兄「答えづらいかもしれないけど。おまえ土曜日に父さんと母さんと話し合いしたんだ
ろ?」

妹「うん。した」

兄「どんな感じだったの?」

妹「あのね」



父『姫』

母『妹ちゃん』

妹『・・・・・・』

父『姫。本当にすまない』

母『ごめん』

妹『どうしてもあたしがどっちか選ばなきゃいけないの』

父『すまん。パパもママも姫と一緒に暮らしたいんだ。だから、もう姫が選んでくれない
と何も決まらないんだよ』

母『ごめんね。でももうパパとママは一緒に暮らせないから。妹ちゃんが好きな方を選ん
でね』

妹『・・・・・・ママ』

父『どちらを選んでも姫に不自由はさせない。ママの相手のバカ男もそれは保証しますっ
て言ってたしな』

母『・・・・・・パパの相手のふしだらな既婚女も同じことを言ってたみたいよ。どこまで本気
か知らないけど』

父『何だと』

母『あなたが最初に言い出したんでしょ! あたしの彼は独身です。あなたのW不倫相手
と違ってね』

父『何が独身だ。不倫がばれて奥さんに離婚されただけじゃないか』

妹『もうやめて』

母『・・・・・・ごめん』

父『姫。悪かった。こんなことを言うつもりじゃなかったんだ』

母『パパもママもあなたにはひどいことをしているのはわかってるのよ』

父『そうだな』

母『そのうえであなたに聞くけど。あなたはどっちと一緒に暮らしたい?』


妹「最初はあれだけ事前に言うことは準備してたのに。それでもいざというときパパが気
になって」

兄「(それは姫が父さんの相手を知らないからだ)うん」

妹「でも迷うまでもないよね。お兄ちゃんと、少なくともママの公認で一緒に暮らせるん
だもの」

兄「母さんと一緒に暮らすってちゃんと父さんに言ったのか」

妹「言ったよ。パパはそれを聞いてつらそうだったけど」

兄(まあそうだろうな。でも、内心じゃほっとしているのかもしれない。妹友と一緒に暮
らすことになるんだし)

兄(・・・・・・そうとも限らないか。彼氏君と妹友が父親の方を選ぶ可能性だってあるし)

兄(いや。塾で見かけた父さんと妹友の様子だとそんなことはないかもな)

兄(それよりよく考えれば下手したら彼氏君と姫が一緒に暮らすことになってた可能性が
あるんだよな)

兄(それに比べたら今の状態は天に感謝したいくらいなんだよな)

妹「パパって嫌なこと言ってたよ」

兄「どんなこと?(あいつめ。浮気だけじゃ足りなくて更に姫に嫌がらせをしたのか)」

妹「ええとね。ママの再婚相手にあたしが変なことをされたり虐待されたとしたら、ママ
もその相手もただじゃおかないって」

兄「・・・・・・(正直、姫くらい可愛いとそういう心配もないわけじゃない。でも、あのクソ
親父が言えた立場か)」

妹「あとね。これはパパとママで少し言い合いになったんだけど。あたしはパパと一月に
一回は面会するんだって」

兄「言い合って?」

妹「ママはあたしがパパに会いたいならいつでもパパと面会させるけど、あたしの意思に
反して面会の頻度を決めるべきじゃないって」

兄「まあ正論だよな」

妹「でもパパは、ママが嘘を言うかもしれないって。ちゃんと決めておかないとあたしが
パパに会いたいのに間に入ったママが邪魔をする可能性があるからって」

兄「どろどろだな」

妹「・・・・・・うん。パパとママの言い争いなんて初めて見たよ。こんな思いをするならパパ
にもママにも会いたくない」

兄「姫」

妹「もうお兄ちゃんだけそばにいてくれたらそれでいいよ。あたしが信じられるのはもう
お兄ちゃんだけだし)

兄「姫。かわいそうに」

妹「どっか行っちゃやだ」

兄「何が?」

妹「あたしには、もうお兄ちゃんしかいないの」

兄「行かないよ。ずっと一緒にいるよ」

妹「何で。何でこうなるんだろう。もういやだ」

兄(・・・・・・これで父さんの相手が妹友の母親なんて知ったら姫は)

兄(でも、早晩姫はそのことを知ることになるんだ)

兄(・・・・・・)


<『お兄ちゃん好きだよ』>




兄「・・・・・・どこにも行かないから」

妹「うん」

兄「落ちついた?」

妹「もっと強く抱いてくれたら落ち着くと思う」

兄「おまえなあ」

妹「本当だって」

兄「それで? 父さんとの面会は結局どうなったの」

妹「あたしが会いたいときにパパに電話することになった。それならママに邪魔もされな
いしあたしの意思にも沿えるからってパパがそう言って」

兄「母さんも同意したわけか」

妹「うん。それでいいでしょって」

兄「姫ってさ。父さんとこの先会いたいとか思う?」

妹「・・・・・・よくわかんない」

兄「まあ、そうだよな」

妹「でもしばらくはパパにもママにも会いたくない」

兄「そうか」

妹「自分の中で整理がつくまでは。だってあたしのこれまでの人生の目標とか生き甲斐が
突然なくなっちゃったんだもん。そんなにすぐには割り切れない」

兄「姫にとってはまあそうだろうな。無理もないよ」

妹「お兄ちゃんは?」

兄「え?」

妹「お兄ちゃんはパパとママが離婚しても平気なの?」

兄「そんなわけはないけど」

妹「お兄ちゃんの親権とかってどうなってるの?」

兄「どうもこうもないだろ。父さんと母さんがいつ離婚するかによるけど、成人しちゃえ
ば親権も何もないし。まあ、大学卒業までは金の面倒は見てくれるみたいだしね」

妹「・・・・・・お兄ちゃんとパパやママって、お互いに未練とかないの?」

兄「どうだろう? 両親が大切なのは姫のことだろうし。俺にとって大切なのも姫だし
ね」

妹「そう言ってくれるのは嬉しいけど。お兄ちゃんだって本当は悲しんじゃないの」

兄「わからん。あまり考えないようにはしている。むしろ、姫のことばかり考えている
よ」


妹「あたしと一緒だね」

兄「そうだね。とにかく姫と一緒に暮らせるんだから。俺には今はその他のことはどうで
もいいよ(・・・・・・妹友の母さんと父さんとのこと以外はだけど)」

妹「あたしもそうかも。もう割り切らなきゃいけないのかもね」

兄「とにかくさ。うちの家族は全てが崩壊したわけじゃない。俺と姫だけでも家族を続け
よう」

妹「うん。お兄ちゃん好きだよ」

兄「ちょっと前なら姫からそんな言葉を聞くことなんか期待できなかったのにな」

妹「そんなことないよ。あのときだってあたしは」



兄『嫌いじゃないという感情を表わす単語を次の中から一つ選べ』

妹『あたし国語は苦手だよ』

兄『1好き 2好き 3好き』

妹『・・・・・・ふふ』

兄『何笑ってるんだよ』

妹『ベタなジョーク。そんなにあたしに好きって言わせたいの?』

兄『言わせたい』

妹『お兄ちゃん好きだよ』



兄「あのときは姫に振られたんだよな」

妹「うん。でも、ちゃんとお兄ちゃん好きだよって言ったじゃん」

兄「そうだったな」

妹「付き合えるかどうかは別として、あたしの気持ちはあのとき正直に言ったんだよ」

兄「そうだな」

妹「・・・・・・いい部屋だね」

兄「不満はねえよな」

妹「じゃあ、そろそろ帰ろう。門限もあるし」

兄「来週で退寮するんだろ」

妹「うん。ちょうど月末だしね」

兄「荷物は?」

妹「たいしてないの。かさばるのは宅急便で送るから」

兄「じゃあ俺は自分のアパートを引き払ってから、先にここで住んでるな」

妹「うん。散らかさないでよ」

兄「わかってる。早く来い」

妹「うん」

兄「じゃあ送ってくよ」

妹「ありがと」


兄「じゃあな」

妹「送ってくれてありがとう」

兄「先にあの部屋で待ってるよ」

妹「うん。お兄ちゃん?」

兄「・・・・・・校門の前だぞ」

妹「誰もいなかったからね。じゃあね」

兄「ああ」

兄(・・・・・・姫。別れるのは寂しいけど、すぐに一緒に暮らせるんだから)

兄(帰ろう)

兄(・・・・・・メール?)

兄(彼氏君? いったい今さら何だって言うんだろう)

兄(・・・・・・どれ)


今日は以上です
次回は別スレ更新後になりますので少し間があくと思います

すいません

乙です
やっと明るくなったと思ったら彼氏メールって…

彼氏くんきたーーーー!!!

絶対俺たちの家庭崩壊しやがってって感じだろ.....

あっ乙です

おつ

また、くらーい感じになるのか。


<後悔してるの?>




兄(・・・・・・ノック? 妹だ)

兄(いや。用心してし過ぎることはない。これだけ危ないことをしているんだし)

兄(・・・・・・)

妹「お兄ちゃん?」

兄「(姫だ)今開けるよ」

妹「・・・・・・来たよ」

兄「うん」

妹「・・・・・・何?」

兄「いや。入ったら?」

妹「・・・・・・うん」

兄(おかしい。一緒に暮らせることになって、俺も姫もあんなにテンションが高かったの
に。緊張するっていうか何かぎくしゃくするな)

妹「座っていい?」

兄「うん。つうか、いいのも何も今日からはおまえの家じゃねえか」

妹「そうか」

兄「そうだよ」

妹「・・・・・・」

兄「・・・・・・」

妹「これ」

兄「何?」

妹「ママからお兄ちゃんに渡してって。通帳みたい」

兄「ああ(仕送りしてくれるっていう通帳か。どれどれ)」

兄(・・・・・・何だこれ。七桁って。一括でくれたのかよ。いくら何でも子どもを信用しすぎ
だろ)

妹「どうしたの?」

兄「おまえ、通帳の中見た?」

妹「見てないけど。何で?」

兄「これ、俺たちの生活費っていうか、姫と俺の大学卒業までの学費分の金額が入金され
てるぜ」

妹「そうなの? じゃあ無駄遣いしないようにしないとね」

兄「感想はそれだけかよ」

妹「他に何て言えばいいの?」


兄「いやさ。母さんだって世間的にまずいと思っているだろうし、必ずしも積極的に俺と
姫の関係に賛成したわけじゃないと思うんだよな。つまり、他に選択肢がないと思ったか
ら消極的に賛成してくれたわけで」

妹「うん」

兄「それなのにこの金額っつうのはさ。よほど俺たちを応援しているか、それとももう俺
たちなんかと縁を切りたいのかどっちかじゃないかな」

妹「・・・・・・どっちでもないんじゃない?」

兄「何で」

妹「何となく」

兄「そうか」

妹「うん」

兄「そうかもな」

妹「荷物整理するね」

兄「手伝うよ」

妹「うん」

兄「おまえの部屋あっちな。こっちは俺の荷物を入れたから」

妹「・・・・・・」

兄「おまえはこっちの部屋に・・・・・・って、どうした?」

妹「・・・・・・」

兄「何で泣いてるの」

妹「・・・・・・」

兄「・・・・・・悪かったって」

妹「・・・・・何よ」

兄「・・・・・・冗談だって」

妹「・・・・・・」

兄「そうだよな。一緒の部屋で暮らすんだったよな」

妹「何で意地悪するの・・・・・・本当は嫌なの?」

兄「悪かったって」

妹「・・・・・・どきどきして。心配で。いっぱいいっぱいで」

兄「姫」

妹「それでもやっぱり嬉しくて。パパとママがあんななのにこんなに嬉しいあたしって変
なんじゃないかって」

兄「うん」

妹「こんなに胸が変になりそうなのに。一生懸命ここまで来て頑張ってこの部屋のドアを
ノックしたのに」

兄「・・・・・・ごめん」


妹「一緒に住むって決めたこと、後悔してるの?」

兄「してないよ」

妹「だったらもう勝手にいろいろ悩むのはやめて。お兄ちゃんはいつもそうじゃない。い
つも行動したあとに、決めたあとに勝手に悩んで自滅しちゃうの」

兄「・・・・・・」

妹「あたしも決めたの。そう決めてくれたお兄ちゃんの気持が嬉しかったから。なのに何
であたしが決めたあとにお兄ちゃんは勝手に悩んで勝手に後悔するのよ」

兄「悪かったよ」

妹「もうやだ」

兄「通帳の金額を見て、ちょっと不安になっただけだよ。後悔なんかしてないよ。ごめ
ん」

妹「・・・・・・」

兄「姫とずっと一緒に暮らせることが本当に嬉しいんだ」

妹「・・・・・・」

兄「これからはずっと俺が姫を守れることがさ」

妹「・・・・・・お兄ちゃん」

兄「本当だよ。すげえ嬉しい。通帳のこととか悪かった。俺は考えなしだから、これは姫
に預けるよ。姫が管理してくれ」

妹「本当?」

兄「本当に本当だ」

妹「・・・・・・うん」



兄「そろそろ姫の荷物を何とかしよう」

妹「あたしのセリフでしょ。それは」

兄「まあそうだけど」

妹「これからは時間だけはいっぱいあるじゃない。一緒にいる時間は」

兄「そうだな」

妹「だから急がなくてもいいの。何もかも」

兄「そうだね」

妹「でも、そうだね。お兄ちゃんの言うとおりそろそろ片付けよう。お夕飯の支度もしな
いといけないし」

兄「買物に行かないと何もないぞ」

妹「途中で買物してきたよ。今日はオムライスだよ」

兄「やった」

妹「じゃあ、あっちの部屋は荷物部屋ね」

兄「わかった」


<青い鳥>




妹「とりあえずこれくらいでいいかな。お兄ちゃん」

兄「うん。いいんじゃね」

妹「今、何時」

兄「そろそろ七時になるな」

妹「いけない。本当にもう夕ご飯作らないと」

兄「無理しなくてもいいよ。外で何か食いに行くか?」

妹「ううん、最初の日だし。あたしが作りたい」

兄「・・・・・・そうか」

妹「じゃあ、お兄ちゃんはご飯できるまで少し休んでて」

兄「ありがと」

妹「・・・・・・お礼なんて」

兄「・・・・・・そうだね」



from:彼氏
to:お兄さん
sub:無題
『本当にすいませんでした。でもこんなつもりじゃなかった。ごめんなさい。旅行に誘っ
てくれてありがとうございました』



兄(・・・・・・何なんだいったい)

兄(謝っていることだけはわかったけど。それ以外は何にも理解できねえ)

兄(返信しようがない。姫に見せれば意味がわかるのかな。何と言っても姫はあいつの彼
女だったんだし)

兄(・・・・・・だった、でいいんだよな。ちゃんと別れたって話は聞かないけど)

兄(いや。もう先走って勝手に悩まないと決めたんだ。姫が俺の彼女のつもりでいるかど
うかは、今となってはよくわからんけど。一緒に暮らすって姫が決めた以上、余計なこと
は考えないようにしないとな)

兄(もう彼氏君も妹友も女もどうでもいい。誰に避けられたっていいじゃんか。姫が俺と
暮らすことを選んでくれたんだから)

兄(幼い頃の父さんとの約束なんかどうでもいいけど、母さんとの新しい約束は絶対に守
る)

兄(姫を守ろう。姫を不幸にしないようにしよう。両親の離婚で傷付いている姫を癒そ
う)

兄(それだけで十分だろ。つうかそれだって生半可な覚悟でできることじゃねえよ)

兄(・・・・・・もう迷わない)


妹「お兄ちゃん、テーブル片付けて」

兄「ああ? うん」

妹「何ぼうっとしてるの。オムライス運ぶんだからテーブル!」

兄「わかった」

妹「ほら。スマホどけて」

兄「おう」

妹「はい。どうぞ」

兄「オムライス、久し振りだよ」

妹「そんなに好きなら外で食べればよかったのに」

兄「俺が好きなのはこのオムライスだからさ」

妹「そうか」

兄「そうだよ」

妹「じゃあ、はい。いっぱい食べてね」

兄「うん。いただきます」

妹「どうぞって。そんなに慌てなくても」

兄「何笑ってるの。つうか姫は食わねえの」

妹「食べるよ。いいからお兄ちゃんは冷めないうちに食べてよ」

兄「ああ」

妹「そういう風に食べてくれると作りがいがあるよ」

兄「・・・・・・本当に美味しいよこれ」

妹「食べながら喋っちゃだめだって・・・・・・はい」

兄「はいって。姫の分がなくなるじゃん」

妹「お腹空いてないし。それよか食べてくれる方がうれしい」

兄「じゃあ遠慮なく」

妹「ふふ」

兄「何?」

妹「お兄ちゃん子どもみたい。小学生の頃を思い出すなあ」

兄「何懐かしがってるんだよ」

妹「顔にケチャップ付いてるよ・・・・・・はい」

兄「・・・・・・」

妹「どきってした?」

兄「した」


兄(何この幸せなシチュエーション。こういうことなんだよな。姫と二人で暮らすって)

兄(考えてみたら別に目新しいことはない。エプロン姿の姫でさえ。いや、可愛いし思わ
ず手を伸ばしたくはなるんだけど)


兄(でもこれって、今までの俺たち二人の過ごしてきた生活の再現だよな)

兄(もともと夕飯なんか家族全員で食べることは滅多になかったから、姫が小学生の頃ま
では近所の蕎麦屋の出前かコンビニ弁当だったし)

兄(そんで姫が富士峰に合格して中学生になったある日、突然料理を始めたんだよな。部
活で習ったからって)

兄(あのときキッチンに立った姫のエプロンを着けた後姿のシャメは今でも俺のお姫様フ
ォルダーの中にある)

兄(考えてみたらすごく恵まれてたんだよな、俺って。大好きな姫といつも夜二人きりだ
ったんだし。今にして思えばもっと大切に時間を過ごすんだった)

兄(あの頃から俺は姫のことが大好きだったんだから、もっと姫に優しくしてやればよか
ったんだ。あの頃は当たり前だと思っていた姫との暮らしがこんなに貴重で得がたいもの
になるなんて、あの頃の考えなしの俺は思いもしなかったんだよな)

兄(母さんに感謝しよう。父さんに浮気されて対抗して自分も男を作ったどうしようもな
い母親だけど。少なくとも俺と姫のことは心配して応援してくれたんだから)

兄(姫が前に言ってたけど、幸せっていうのは身近なところにあるんだな。ただ、当たり
前すぎてなかなかそのことに気がつかないだけで)

兄(青い鳥か。大学に入るとかそういうことで環境を変える必要なんかないんだ。自分で
は気がつかなかった幸せは身近な日常に潜んでいた)

兄(俺はばかだ。姫に告白して困らせたり、勝手に家を出て一人暮らしをしたり)

兄(女の告白に答えたり妹友を気にしたり。そんなことのどこに俺の心の平穏があっ
た? そのどこに妹と一緒に飯を食うそれだけで得られる安らぎがあった?)

兄(ねえじゃん。だからもういいじゃんか。彼氏君が何を悩んで何で謝罪のメールをして
きたかなんて。女が何で俺を避けてるかなんて)

兄(姫と二人でささやかに暮らせる日々を奇跡的に取り戻せただけで十分すぎるじゃねえ
か)

妹「お兄ちゃん?」

兄「あ、ああ」

妹「まさか。また勝手に考え込んで悩んでいるんじゃないでしょうね」

兄「違うよ」

妹「それならいい。食べ終わったみたいだし、あたし洗い物しちゃうから先にお風呂に入
って」

兄「うん」

妹「あたしは明日のお弁当の下拵えしたらお風呂に入るから。先にベッドに行ってもいい
けど、勝手に寝ちゃったら怒るよ」

兄「・・・・・・え」

妹「一緒に寝るんだし。お兄ちゃんが寝てたら寂しいじゃん」

兄「・・・・・・寝ねえよ、ばか。姫が来るのを待ってるって」

妹「それならいい」

<蜜月>


兄(夢を見ているのかもしれない)

兄(これは覚めることのない夢だ。すごく日常的でありながら、いつまでも続いて欲しい
と心底から願えるような夢)

兄(とりあえず、昨日は姫が俺のベッドにそっと入ってきた。そして俺に寄り添っ
て・・・・・・・。Tシャツ越しの姫の華奢な骨格)

兄(まあ、俺と姫はもう結ばれているので別にああいう状況が始めたと言うわけじゃない
んだけど)

兄(でもなんか違った。抱くとか抱かないとか、寝るとか寝ないとかじゃねえんだ)

兄(そういうことじゃない。腕の中の姫は細くて小さくて。普通ならあるべき親の庇護を
亡くした姫のことが俺は何よりもいとおしくて)

兄(姫を好きだというだけなら昔からそうだ。でも、ここまで姫を守りたいと思ったのは
初めてだ)

兄(身近な幸せに気がついた俺だけど。前みたいに姫と寄り添って有頂天になるというよ
り、もっと真面目で静かな思いを込み上げてくる。俺が姫を守るんだなんて、大袈裟に言
う気はねえけどさ)

兄(大学に着いたばかりなのにもう家に帰りたくなってきた。別に帰っても姫は学校だし
姫と会えるわけじゃねえけど)

兄(今日も姫から弁当を渡された。これだけが楽しみだ)

兄(よし。勉学に励もう。成績をよくしていい企業の内定を勝ち取ろう。姫に不自由させ
ないために。父さんなんかに負けないために)



女友「おーい」

兄(負けちゃだめだ。負けちゃ)

女友「一限から寝るなよ」

兄「負けちゃ・・・・・・むにゃ」

女友「君が何と戦っているのか知らないけどさ。とりあえず目の前の一限の講義と戦った
らどうかな」

兄「逃げちゃだめだ・・・・・・ってあれ。女友か」

女友「逃げちゃだめってあんたは碇シンジか」

兄「何言ってるの? おまえ」

女友「それはこっちのセリフだって。何でいきなり寝てるのよ」

兄「つい」

女友「そして君は夢の中で何と戦ってたのかな」

兄「・・・・・・何でもいいじゃん」

女友「君もわけわかんないよね」

兄「何で?」

女友「前に会ったときはこの世の春みたいな明るい顔してたくせにさ」

兄「別に今だって暗いわけじゃねえよ」

女友「うん。それはそうだ。何か複雑な表情で寝ぼけてたよ」

兄「複雑なって」

女友「何か大人の表情っていうの? ちょっとだけ格好よかった。あの表情だけならモデ
ルになれるかも」

兄「何なんだよ。それに表情だけって」

女友「やべ。教授が見てる。ほれ、テキストに集中しろよ」

兄「あいよ」


女友「君、お昼はどうするって・・・・・・それ、お弁当?」

兄「うん」

女友「何かいいことがあったみたいね」

兄「別に」

女友「・・・・・・あんたらさあ。もう本当に付き合っちゃえば?」

兄「何の話だよ」

女友「・・・・・・それとももうとっくに男女の仲なのかな」

兄「・・・・・・」

女「女友~。やっほ」

女友「ああ女か。やあ」

女「一緒に学食行かない? って。あ」

兄(女か)

女「・・・・・・ごめん。あたし行くわ」

女友「こら待て。あんたはいったい何に対して謝ってるんだよ」

女「いや、その。ごめん」

兄(何言ってるんだこいつ)

女友「だから逃げるなって。ちょっと待て」

女「あの・・・・・・あたし」

女友「あんたさ。あたしから逃げようとしているの? それとも兄君から逃げたいの?」

女「ううん。違くて。っていうかそんなんじゃなくて」

女友「ちょっと落ち着け。っておい! 逃げるなって」

女「手を離してよ」

女友「だって。手離したらあんた逃げるじゃん」

女「・・・・だって」

女友「だってじゃない。何で親友のあたしから逃げようとするのよ」

女「女友から逃げたいなんて言ってないでしょ」

女友「じゃあ兄君から逃げたいのか」

女「ち、違う」

女友「表情から察するに図星か

女「・・・・・・そうじゃ」

女友「あんたさあ。誤解も解けて兄君と友だちまで巻き戻したんじゃなかったっけ」

女「・・・・・・うん」

女友「じゃあ何で兄君を避けるのよ」

女「・・・・・・親友だから」

女友「はあ?」

女「あんたはあたしの親友だから」

女友「何言ってるのよあんた」

兄(何言ってるんだこいつ)


今日は以上です。別スレ再開しました

また投下します

おつ

乙です
これからも楽しみにしてるよ~


<やっぱりこの二人、怪しいな>




妹友(何かイライラする。何でだろう)

妹友(別におかしいことじゃないのに。お兄ちゃんに好きな人ができたって。それがあた
しの友だちだって別に全然変なことじゃないのにね)

妹友(・・・・・・まさか)

妹友(ありえない。でも・・・・・・そうなのかな)

妹友(とりあえず。してしまったことは取り返しがつかないよね)

妹友(あの反応を見る限りうちのお兄ちゃんが好きだってことはなさそうだけど)

妹友(・・・・・・何であたし。ほっとしているんだろう)

妹友(妹ちゃんって誰か好きな男の子いるのかな)

妹友(他校の男の子に今までいっぱい告白されてたのは知ってるけど。でも全部断ってい
たよね)

妹友(・・・・・・)

妹友(まさか。そういえば今日は用事があって部活はお休みだっけ)

妹友(家の用事って言ってたけど)

妹友(あ・・・・・・妹ちゃんが校門から出て行く)

妹友(・・・・・・別にたいしたことじゃないよね。ちょっと確かめてみるだけだし)

妹友(よし)



妹友(あ~あ。やっぱりか。部活をサボって向う先が明徳高校って。何かやだなあ)

妹友(別にいいのよ。妹ちゃんがお兄ちゃんに興味がないことさえ確認できればそれでい
いの)

妹友(・・・・・・なのに。何でかわからないけどいらいらする)

妹友(校門で誰かを待っている。違ってていてほしいけど多分そうなんだろうなあ)

妹友(やっぱりむしゃくしゃする。親友が間違った方向に目を瞑って歩いていくのを見な
きゃいけないことに対して)

妹友(見てらんない。何よあのそわそわした様子。今まで誰にだってあんな表情を見せた
ことなんかないくせに)

妹友(お兄ちゃんのことを何とも思っていないことにほっとしたけど。それでも妹ちゃん
のああいう姿を見ると何かむかつく)

妹友(自分のお兄さんなのに。妹ちゃんは昔からお兄さんには紹介してくれないけど。そ
れでもどう考えてもうちのお兄ちゃんの方が格好いいと思う。妹のあたしから見てもお兄
ちゃんって格好いいし、昔からもててたし)

妹友(・・・・・・じゃなくて。あたし、何考えてるんだ)

妹友(あそこの木陰まで近づこう。会話が聞こえるかもしれないし。気づかれたら気づか
れたでいいや)

妹友(もう、何かどうでもいい。とにかく見届けよう)


妹友(しかし妹ちゃんのあの様子ったら。確かにあの子は可愛いけどさ)

妹共(でもあれって自分の兄貴を待っている姿じゃないでしょ。まるで付き合い出したば
かりの彼氏と待ち合わせしているみたい)

妹友(あ。あの人って)




妹「遅い」

兄「遅いと言われても。何時に来てれば遅くなかったかすらわからんのに」

妹「何でそんな簡単なことがわからないのよ。お兄ちゃんもしかしてバカ?」



妹友(やっぱりあの人が妹ちゃんのお兄さんか)

妹友(うちのお兄ちゃんの方が全然イケメンなのに)



兄「それはそうかもしれないが、少なくとも偏差値が痛いおまえに言われる筋合いはな
いと思う」

妹「そう言えばたまにいるよね。成績だけはやたらいいけど、常識とか社会性とかが欠け
ている男子って」

兄「ちょっと待て」

妹「あ、社交性もだ」

兄「・・・・・・」

妹「そういう男の子に限って必ずぼっちなんだよね。何でだろう?」



妹友(・・・・・・妹ちゃん。何か楽しそうだな。あんなに楽しそうにお兄さんをからかってる。
男の子とあんなに楽しそうに話をする妹ちゃんって初めて見たな)

妹友(何か言い合いながら歩き出した)

妹友(初々しい付き合いたてのカップルって感じじゃないね。何というか)

妹友(何というか。昔からずっと一緒に暮らしてきた夫婦みたい)

妹友(・・・・・・)

妹友(いやいや。だから二人は本当に兄妹なんだからそれじゃだめだってば)

妹友(妹ちゃんって、本当に異性としてお兄さんのことが好きなのかな)

妹友(何かただ仲のいい兄妹のような気もするし)

妹友(とりあえずストーキングしよう・・・・・・じゃない。後をつけよう)

妹友(さすがに会話が聞こえるほどは接近できないか)

妹友(なんか微妙な距離感。兄妹にしてはお互いに近すぎるような気がするし、恋人同士
にしては離れすぎている気がする)

妹友(あれ? なんか妹ちゃん、少し怒っているみたい)

妹友(お兄さんはあまり慌てている様子はないけど・・・・・・)

妹友(ひょっとして妹ちゃんの片想いだったりして)

妹友(気になるんだけど会話が聞こえない。もう少し近づかないとだめかなあ)

妹友(・・・・・・)

妹友(もういっそ声かけちゃおうか。偶然に出合った振りをすればいいんだし)

妹友(そうよね。そうしよう。じゃあ、あっちの道から先回りして)

妹友(ちょっと駆け足で)


妹友(はあはあ)

妹友(あ、いた・・・・・・よし)

妹友「妹ちゃんだ。妹ちゃーん」

妹「妹友ちゃん」

妹友「わあ、偶然だね」

妹「そうだね。今、帰り? 部活終ったの」

妹友「うん。今日はミーティングだけだったから。それよか今日はお家の事情で部活休ん
だんじゃなかったの」

妹「え。ああ、うん」

妹友「じゃあ、何でまだこんなとこにいるの」

妹「そ、それはさ」

兄「初めまして。いつも妹がお世話になってます」

妹友「(お兄さんの方が話しかけてきた。ちょっと軽い人なのかな)ああ。妹ちゃんのお
兄さんですか。こちらこそ妹ちゃんにはいろいろお世話になってます」

妹「こんなやつにあいさつしなくていいから」

妹友「こんなやつって」

兄「こんなやつって」

妹「いいからお兄ちゃんは黙ってて」

妹友「(やっぱお兄さんがあたしと知り合うのが嫌なのかな)なあんだ。妹ちゃんの用事
ってお兄さんと一緒に帰ることだったのかあ」

妹「違うよ」

兄「違うのか」

妹友「違うの?(違わないでしょうが)」

妹「違うって」

兄「だって明らかに俺の学校の校門前で俺を待っていて、しかも俺が来るのが遅いって怒
ってけど、なんだ、あれてって待ち合わせじゃなかったのか」

妹「だからあんたは黙ってろ」

妹友「じゃ、じゃあ。家の用事を邪魔したら悪いしあたしはこれで(何が家の用事よ)」

兄「ぷ・・・・・・って痛え」

妹「じゃあまた明日学校でね。妹友ちゃん」

妹友「うん。お兄さん失礼します」

兄「またね」

妹「またねって言うな。会ったばっかなのに図々しい」

妹友「ふふ。妹ちゃんもお兄さんもまたね(やっぱりこの二人、怪しいな)」


<おまえが犠牲になることはないって>




妹友「ただいま」

彼氏「おかえり。遅かったじゃん。今日も部活だっけ」

妹友「うん(サボって妹ちゃんを尾行したなんて言えないよね)」

彼氏「今夜も親父たち帰り遅いって」

妹友「そうなんだ。あ、夕ご飯まだでしょ」

彼氏「コンビニで適当に買っておいた。こういうのでよかった?」

妹友「・・・・・・あたしが作ったのに」

彼氏「いいよ、そんなの。おまえが母さんの替わりをすることはないよ」

妹友「だって。お兄ちゃんコンビニのお弁当嫌いでしょ」

彼氏「うん。でも、おまえが犠牲になることはないって」

妹友「犠牲って」

彼氏「だってそうだろ? 仕事かなんか知らないけどさ。夫婦で顔を合わせたくないから
って仕事に逃げている親の犠牲に、何でおまえがならなきゃいけないんだよ」

妹友「だって。パパとママは仕事が忙しいからしかたないじゃん」

彼氏「何が仕事だよ。たまに家に帰ってくるときは示し合わせたように互いに一緒になら
ないようにしているじゃないか。あの二人は家で一緒にいたくないんだよ」

妹友「何でそんなこと言うの? 家族はお互いがお互いを好きで・・・・・・」

彼氏「真っ当な家族ならね。うちはそうじゃない」

妹友「でも。ママもパパもあたしたちに優しいじゃん」

彼氏「僕たちにはね。あの二人は僕たちがいなければまともに夫婦さえやってられないよ
うだけどな」

妹友「お兄ちゃん、パパとママが嫌いなの」

彼氏「むしろ、あいつらがお互いに嫌いあってるんだろ。それにさ」

妹友「それに?」

彼氏「あいつら、俺とおまえのことだって本当には気にしてないんじゃないのか」

妹友「そんなこと」

彼氏「好きの反対は無関心だって言うしな」

妹友「・・・・・・妹ちゃんのおうちは真っ当な家族なのかな」

彼氏「何だよ突然」

妹友「別に何でもない。お風呂入るね」

彼氏「うん」


妹友「お兄ちゃん、お風呂空いたよ」

彼氏「ああ」

妹友「・・・・・・何でご飯食べないの」

彼氏「コンビニ弁当嫌いだから」

妹友「だからあたしが作るって言ったのに」

彼氏「いや」

妹友「お兄ちゃん?」

彼氏「・・・・・・ああ」

妹友(こんなのやだ。お兄ちゃんが落ち込んでいるのなんてやだ)

妹友(お兄ちゃんを元気にするためなら)

彼氏「うん?」

妹友「(・・・・・・よし)あのさ。この間の話ね」

彼氏「何だよ」

妹友「お兄ちゃんが妹ちゃんのことを好きだって話」

彼氏「・・・・・あれは考えさせてって言われたんだろ」

妹友「そうだけど。でも」

彼氏「何だよ。思わせぶりなこと言うなよ」

妹友「うん。でも少し期待してて」

彼氏「訳わかんない。風呂入ってくる」

妹友「うん(多分、今晩か明日には電話かメールがあるはず)」

妹友(あたしはいったい何がしたいのだろう)

妹友(本当にお兄ちゃんと妹ちゃんをくっつけたいのかな)

妹友(・・・・・・現実逃避しているだけかも。パパとママの仲が悪くて。お兄ちゃんは妹ちゃ
んに片想いしていて)

妹友(あたしのいる場所ってどこかにあるのかな)

妹友(お兄ちゃんと妹ちゃんを付き合わせることに一生懸命なうちはいい)

妹友(でも。二人が恋人になっちゃったら。あたしはどこにいればいいのかな)

妹友(・・・・・・今さらだよね。今になってそんなこと考えたってしかたない。今はお兄ちゃ
んのためにできることをしよう)

妹友(・・・・・・あ)

妹友(妹ちゃんから電話・・・・・・・)


妹『遅い時間にごめんね』

妹友「別にいいよ。まだそんなに遅いわけじゃないし」

妹『ちょっと話せる?』

妹友「いいよ」

妹『ちょっと相談してもいい?』

妹友「マジな話?」

妹『うん』

妹友「・・・・・・どうしたの? 真面目な声で」

妹『実はね・・・・・・』

妹友「・・・・・・はあ」

妹友「何だ。真剣な声で相談とか言うから何かと思ったじゃん」

妹『結構マジで悩んでるのに』

妹友「だってさあ。お兄さんとのトラブルとか相談されてもねえ。せめて好きな人のこと
とか相談されたんなら真面目に相談に乗ろうとか思うけどさ」

妹『あたしにとっては大問題なの!』

妹友「・・・・・・誇らしげにブラコンを公言するのはいい加減にしなって」

妹友(お兄さんが自分と二人で歩いていたのに。お兄さんは自分以外の女の子を見つめて
いた・・・・・・)

妹友(そんなこと普通友だちに相談する? まさかこの子。本当に自分のお兄さんのこと
が好きなのかな。お兄さんに嫉妬しちゃうくらいに)

妹『そんなんじゃないよ』

妹友「昨日妹ちゃんとお兄さんのデートを邪魔したのは悪かったけどさ。妹ちゃんの部活
を休むほどの用事が、お兄さんと一緒に帰ることだったとはねえ」

妹『・・・・・・別にいいじゃん。誰かに迷惑かけてるわけじゃないし』

妹友「まあ、いいけど。それにしても何? いったい夜中に電話してきて相談って何かと
思ったら。自分と一緒に歩いているのにお兄さんが他の女の子をガン見してるのどうしよ
うって。そんなことで一々電話して来るなよ」

妹『だってさ』

妹友「まさか兄妹喧嘩の相談をこんな夜中に受けるとは思わなかったよ」

妹『ごめん』

妹友「で? 妹ちゃんはどうしたいの?」

妹『どうって』

妹友「じゃあ聞き方を変えるけど、お兄さんとどうなりたいの(まさかお兄さんの彼女に
なりたいとか。さすがにそこまでは言わないか)」

妹『どうって・・・・・・。仲のいい兄妹になりたい』

妹友「それなら今でも仲良すぎるくらいじゃん。それ以上仲良くなってどうすんのよ」

妹『って。せっかくあたしがお兄ちゃんの学校に迎えに行ってあげたのに、他の女の子
のことばかり見てるとかあり得ないじゃん』


<策略>




妹友(・・・・・お兄ちゃんのためだ)

妹友(無理があるのはわかっているけど、今なら何とか妹ちゃんを言いくるめられるかも
しれない)

妹友(よし。言うだけ言ってみよう)

妹『妹友ちゃん?』

妹友「何であり得ないって言い切れるのかよくわかんないけど。じゃあさ。いっそ妹ちゃ
んもお兄さんに嫉妬させてみたら?」

妹『どういうこと?』

妹友「そろそろさ。うちのお兄ちゃんの告白にも返事してやってよ。断るなら断るでいい
からさ。このまま保留じゃお兄ちゃんだって落ちつけないじゃん」

妹『彼氏君のことは嫌いじゃない。でも、男の人と付き合うのってあたしにはまだ早いよ
うな気がする』

妹友「(何言ってるのよ。これまで告白してきた男の子を振ったのだって、お兄ちゃんの
告白を保留しているのだって、全ては自分のお兄さんが好きだから、ただそれだけでしょ
うが)もうすぐ高校二年になるのに付き合うのが早すぎるって」

妹『あたしにとってはだよ。あたしは家に帰って家族と一緒にいるのが一番好きだから、
男の人とデートとかしたいとも思わないし。だからあたしはまだ子どもなんだと思う』

妹友「しょっちゅう他校の男の子に告られてくるくせに、いつも断っていたのはそういう
理由だったのか(どうせこれもフェイクだ。妹ちゃんが、この子がそんなに幼いわけない
じゃん)」

妹友(何でうちの家族がぎくしゃくしてるのに、妹ちゃんの家族はみんな仲がいいんだろ
う。何か不公平だよね)

妹友(・・・・・・別に妹ちゃんのせいじゃない。そこは混同しちゃだめ)

妹『うん』

妹友「でもさ。あたしがうちのお兄ちゃんの気持ちを伝えたときは、少し考えさせてって
言って保留したよね?」

妹『彼氏君は中学一年の頃からの知り合いだし、何よりも妹友ちゃんのお兄さんだし』

妹友(ふざけんな)

妹友「何を気にしてるのか、よくわかんないなあ。結局振るんだったら早いか遅いかの差
だと思うけどなあ。つうか待たされた分お兄ちゃんも余計につらいと思うけど」

妹『・・・・・・』


妹友「そしたらさ。お兄さんに嫉妬させてみたら? それでお兄さんの妹ちゃんに対する
気持もわかるんじゃないかな」

妹『どうやったらお兄ちゃんが嫉妬なんてするんだろ』

妹友(何この子。まじで食いついてきた。というか本気でお兄さんに嫉妬させたいの?)

妹友「他の男の人と一緒にいるところを見せればいいだけでしょ」

妹『そんな人あたしにはいないもん』

妹友「うちのお兄ちゃんでいいじゃん」

妹『え』

妹友「お兄ちゃんなら喜んで妹ちゃんと一緒にいようとすると思うな」

妹『それはだめでしょ』

妹友「何で?(少しお兄ちゃんに悪いと思ってくれてるのかな)」

妹『だって・・・・・・彼氏君を利用するようなことはできないよ』

妹友「お兄ちゃんは妹ちゃんが好きなんだから別にいいじゃん」

妹『それって本当のことを話して彼氏君に協力してもらうってこと?』

妹友「さすがにそれは無理。お兄ちゃんには珍しく妹ちゃんが一緒に登校したいって言っ
てるよって言う」

妹「それじゃまるで・・・・・・」

妹友「お兄さんの反応が見たいんでしょ?」

妹『彼氏君に悪いよ』

妹友「妹ちゃん、お兄ちゃんの告白を断るって決めたの?」

妹『・・・・・・それはまだ』

妹友(まだ大丈夫なのかも)

妹友「まだ決めてないならいいじゃん。心を決める参考になるかもしれないよ?」

妹『だって』

妹友(このまま押し切ろう)

妹友「じゃあ、決まりね。早い方がいいから明日の朝お兄ちゃんに学校まで送ってもらっ
てね。お兄ちゃんにはこれから話しておくから」

妹『本当にやるの』

妹友(お兄ちゃんの気が晴れるなら。別に妹ちゃんとお兄さんに迷惑をかけるわけじゃな
いし)

妹友「そうだよ。明日の朝七時に妹ちゃんの家の前の公園で待ち合わせね。それであたし
は別なところから妹ちゃんの家を監視してるから。それでお兄さんが出てきたら妹ちゃん
にメールするね。そしたらお兄ちゃんと一緒に駅の方まで歩いて行って」

妹『あたしが彼氏君と一緒のところをお兄ちゃんが見たら傷つくかも』

妹友「そうかなあ。それなら妹ちゃんと一緒にいるのに他の女の子なんかをよそ見したり
しないんじゃない?」

妹『・・・・・・まあそうかも』

妹友(これくらいはしてもいいよね。妹ちゃんの家族は仲が良くて幸せみたいだし。お兄
ちゃんを救うためだもん)

妹友「お兄ちゃんと手くらいつないでね。お兄ちゃんにも言っておくけど」

妹『・・・・・・』

妹友(さすがに返事なしか。ちょっと言い過ぎたかな)


妹友「お兄ちゃん、おきてる?」

彼氏「うん」

妹友「何してたの」

彼氏「受験勉強」

妹友「そうか・・・・・・そうだよね」

彼氏「何か用か」

妹友「あのさ」

彼氏「うん」

妹友「お兄ちゃんって志望校、A判定なんでしょ」

彼氏「そうだけど」

妹友「お兄ちゃんってすごいよね」

彼氏「・・・・・・別に」

妹友「志望校、余裕なんでしょ」

彼氏「何がおこるかわからないから。油断はできないけどね」

妹友「それでもさ。お兄ちゃんのいつもの朝の勉強時間だけど」

彼氏「何?」

妹友「たまにはしなくても平気じゃないの」

彼氏「だから油断はできないって」

妹友「妹ちゃんと一緒に登校できても?」

彼氏「え」

妹友「それでも習慣になってる朝の勉強を一度もやめる気はない?」

彼氏「ちょっと。何の話をしてるんだよ」

妹友「妹ちゃんがお兄ちゃんと二人で一緒に登校したいって」

彼氏「・・・・・・嘘だろ」

妹友「嘘って何で?」

彼氏「だって、妹は俺のことなんか」

妹友「・・・・・・お兄ちゃんってさ」

彼氏「うん」

妹友「何でそんなに妹ちゃんのことが好きなの」

彼氏「何でって。好きになるのに理由が必要なのか?」

妹友「・・・・・・」

彼氏「どうした?」

妹友「明日、妹ちゃんと一緒に登校したくない?」

彼氏「妹がそんなこと言うわけねえだろ」

妹友「そう思うならそれでいいよ。じゃあお休み」

彼氏「ちょっと待てよ」

妹友(あたし・・・・・・いったい何がしたいんだろう)

妹友(・・・・・・)


今日は以上です
また投下します

乙です
今度は妹友の回想か…


<偽装デート>




妹友(・・・・・思っていたよりぎくしゃくしてないよね)

妹友(結構いい雰囲気じゃない)

妹友(妹ちゃん、お兄さんの気持を試すために演技モードになっちゃったのかな)

妹友(それともまさかお兄ちゃんに本気に?)

妹友(それはないよね)

妹友(あ・・・・・・)

妹友(妹ちゃんの家からお兄さんが出てきた)

妹友(作戦開始か。迷ってもしかたない)

妹友(連絡しないと)



from:妹友
to:妹
sub:無題
『お兄さんが家を出てきたよ。妹ちゃんはお兄ちゃんと寄り添って、なるべく仲よさそう
な振りをして駅に向って』



妹友(動き出した)

妹友(・・・・・・何かやたらに寄り添ってる。つうか妹ちゃんの方からだし)

妹友(よくわかんないな。お兄さんに見せつけようとしているのか、それとも)

妹友(まさかね)

妹友(いけない。見失わないように尾行しないと)

妹友(会話が聞ければなあ)

妹友(あれ? 何、あの女)

妹友(お兄さんに声をかけた)

妹友(誰だろう。何かやたらに親密そうなんですけど)


妹友(あの人。何かお兄さんのこと楽しそうにからかってるって感じだよね)

妹友(いや。単なる仲のいい同級生かもしれないし)

妹友(でも。それにしてはあの女の人の笑顔ってすごく嬉しそう。あの人、お兄さんのこ
と、本気で好きなのかな)

妹友(・・・・・・)

妹友(いけない。約束は約束だし)

妹友(てか。二組のカップルを尾行しながらメールうつって何でよ。面倒くさい)



from:妹友
to:妹
sub:緊急事態
『お兄さんは予定どおり妹ちゃんたちの後ろを歩いて駅に向っているけど、何か途中で結
構綺麗な女の人と出合って一緒に歩いてるよ』

『女の人の方も親し気にお兄さんに笑いかけてるし。ひょっとしてお兄さんってあんなに
綺麗な彼女がいたの?』

『気がつかれないように背後を見ることができるなら、ちょっと見てみ』



妹友(・・・・・・)

妹友(妹ちゃんが振り返った)

妹友(さすがに表情までは見えないね)

妹友(少し慌ててるのかな。まあ、嫉妬させるつもりでお兄ちゃんと一緒に登校してて、
逆にお兄さんとあの女の仲を見せつけられたらね)

妹友(妹ちゃん・・・・・・うん?)

妹友(お兄ちゃんに今までより近づいて寄り添った)

妹友(あれがお兄さんへの当てつけだったとしたら)

妹友(・・・・・・)

妹友(あたしはいったいどういう結果を望んでいるのかな)

妹友(妹ちゃんとお兄ちゃんが付き合うこと?)

妹友(それとも)

妹友(わかんない)

妹友(とりあえずどっちを尾行しよう。妹ちゃんとお兄さん? それともお兄さんとあの
女の人?)

妹友(・・・・・・もう少ししたら決めないといけないね。別れ道になるし)

?「ちょっといい?」

妹友「はい? 誰ですかあなた」


?「あのさ。ひょっとしてあんた、俺の彼女のこと尾行してる?」

妹友「はあ?(げ。何か見るからにチャらくて危なそうな人だ)」

?「いやさ。明らかにあんた、あの二人の後をつけてるだろ」

妹友「何の話ですか? というかあたし誰の後もつけてませんけど」

?「いやいや。いくら何でもそれは無理があるっしょ」

妹友「・・・・・・(変な人に絡まれちゃったな。どうしよう)」

?「そんなに睨まなくてもいいじゃん。意外と話し合うんじゃね? 俺たちって」

妹友「・・・・・・失礼します(何でこんな人に絡まれなきゃいけないのよ)」

?「君ってさ。兄と女を追いかけてたの? それとも妹ちゃんとあの男子校の生徒の
方?」

妹友「え? な、何で」

?「俺さ。兄友って言うの。あんたがストーカーしてた兄の親友で一緒にいた女の彼氏
ね」

妹友「はい?」

兄友「ぶっちゃけさ。俺は彼女の浮気調査の途中なんだけど、あんたもそう?」

妹友「・・・・・・お話をお聞きしてもいいですか」

兄友「もちろん大歓迎だよ。カラオケ行く? それともファミレスでお茶でする?」

妹友「これから授業ですから。登校中にお話を聞かせてください」

兄友「何だよ。つまんねえの」

妹友「これってナンパなんですか」

兄友「何でそうなるのよ。つうか俺はあんたとお知り合いになりたいだけだって」

妹友「やっぱりナンパですか」

兄友「ちゃうって。つうかさ。多分俺もあんたと一緒だと思うよ」

妹友「何言ってるんですか。わけわかんないです」

兄友「お互いに失恋しそうなとこみたいじゃん?」

妹友「(この人。チャラそうな人なのに)・・・・・・何でいきなりシリアスに修羅場みたいな
こと言ってるんですか」


<兄友>


妹友「妹ちゃんお疲れ」

妹「・・・・・・もう。本当に疲れたよ」

妹友「しかし意外な邪魔が入ったね」

妹「・・・・・・女さんね」

妹友「知ってるの?」

妹「うん。お兄ちゃんの昔からの友だち。嫌な女だよ」

妹友「嫌な女って」

妹「妹友ちゃんはお兄ちゃんの後をつけたの?」

妹友「うん。女さんっていう人と一緒になったんだけど、会話は聞けたから」

妹「・・・・・・」

妹友「よかったね。妹ちゃん。お兄さんは妹ちゃんに嫉妬全開だったよ」

妹「・・・・・・それ本当?」

妹友(お兄さんが自分で嫉妬したって聞いて嬉しそうよね)

妹友(・・・・・・何か面倒くさいことになってきた)



兄友『あんたさ』

妹友『・・・・・・』

兄友『いや。君ってさ』

妹友『何ですか』

兄友『君ってよく見ると可愛いね』

妹友『・・・・・・ふざけないでください』

兄友『ふざけてねえけど』

妹友『何なんですかいったい・・・・・・』

兄友『可愛いって言われたらちょっとくらい赤くなった方がもっと可愛いのに』

妹友『・・・・・・ふん』

兄友『ちょっとお茶してかない?』

妹友『あと三十分で始業時間です。兄友さんも同じでしょ』

兄友『そうだった。じゃメアド教えて』

妹友『お断りします』

兄友『これ、俺のメアドね。あと携番』

妹友『何で最初からメモにして準備してるんですか』

兄友『一々交換するのって面倒くさいじゃん』

妹友『・・・・・・あなたってわかりやすい人ですね』

兄友『おう』

妹友『別に誉めてはいないですけど』

兄友『君、照れてる?』

妹友『むしろイラついています』

兄友『あはは。そんなに俺のメアドゲットして嬉しかった?』

妹友『誰が喜んでいるんですか・・・・・・死ね』


兄友『死ねってひでえな。あはは』

妹友『・・・・・・意外とタフなんですね』

兄友『こう見えても結構傷付いてるんだぜ』

妹友『そんなに繊細そうには見えませんけどね』

兄友『・・・・・・上辺だけはな』

妹友『え』

兄友『浮気調査中なんだぜ。空元気に決まってんだろ。ははは』

妹友『(何かこの人・・・・・・)浮気って何ですか?』

兄友『さっき兄と一緒にいた女の子がいたでしょ?』

妹友『・・・・・・はい』

兄友『あれ俺の彼女』

妹友『はあ?』

兄友『だから女は俺の彼女なの!』

妹友『あの女の人、兄友さんの他に彼氏がいるようには見えなかったですけど。何か楽し
そうに言い合いしてましたよ。あの二人』

兄友『そうなんだよな。だから浮気なんじゃねえかって』

妹友『それを疑って二人の後を追跡してたんですか』

兄友『いや。最初は登校中に女を見つけたんだけどよ』

妹友『はい』

兄友『ちょっとさ。最近女のこと怒らせててさ』

妹友『はあ』

兄友『そしたら女のやつ、兄と一緒に登校してるもんだからよ』

妹友『あの。あたしもう学校に行かないと』

兄友『それにしたって何も俺の親友とあんなにいちゃいちゃすることはねえじゃん。あれ
じゃさ。女って、まるで俺に振られるのを待ってたみたいだ』

妹友『・・・・・・(この人。何言ってるのよ)そろそろ遅刻しちゃいそうなんですけど』

兄友『俺が悪いんだと思ってたよ、本当に』

妹友『あの・・・・・・始業時間がですね』

兄友『でも俺が悪いだけじゃないのかもしれんね』

妹友『・・・・・・・どういうことですか』

兄友『あいつもさ。俺が浮気とかするの待ってたんじゃねえかな』

妹友『あの。あたしには全然関係ないんですけど(何なのよ全く。こっちだってお兄ちゃ
んとのこととかぐちゃぐちゃなのに)』


妹「・・・・・・それだけ?」

妹友「それだけって」

妹「それだけじゃ本当にお兄ちゃんがあたしと彼氏君に嫉妬してるかなんてわかんないじ
ゃん」

妹友「あのさ。この際本気で聞かせてもらうけどさ」

妹「何よ」

妹友「あんたさ。本当にお兄さんと仲のいい兄妹に戻りたいだけ?」

妹「そうだけど」

妹友「・・・・・・とてもそうは思えないんだけど」

妹「何でよ」

妹友「わからないんならいい」

妹「何よ」

妹友「別に何でもない」

妹「・・・・・・」

妹友「あのさ」

妹「何?」

妹友「・・・・・・あの、さ」

妹友(いや。今は言えないね。事実かどうかすらわかんないだし)

妹友(・・・・・・兄友さんともう少し話してみようかな)

妹友(兄友さんって。あ、思い出した)

妹友(いきなり初対面の美少女の手を握るとは)

妹友(なんて図々しい。自分の顔を見てからそういう行動しなさいよ)

妹友(・・・・・・まあ、そんなに格好悪いというほどじゃないけど。つうか結構イケメンだっ
たけど)

妹友(・・・・・・それにしたって)


兄友『あれ?』

妹友『はい?』

兄友『君。本当に可愛いじゃん』

妹友『はあ? ・・・・・・!』

兄友『あ、ごめんごめん・・・・・・て、痛いって』

妹友『最低』

兄友『だから悪かったって。ついさ』

妹友『・・・・・・会ったばかりなのに。何でいきなり手を握るんですか』

兄友『いやだからつい』

妹友『ついって何ですか。』

妹友(何なのよこの人)

兄友『悪い癖なんだよな』

妹友『いきなり人の手を握っておいて悪い癖で済ませる気ですか』

兄友『悪かったって言ったじゃん』

妹友『あなたの言葉は軽すぎです。誠意が全く感じられません』

兄友『君ってさ。兄のこと知ってるの?』

妹友『話を変えて誤魔化す気ですか? つうか知りませんし』

兄友『ブーブー。嘘だね』

妹友『嘘じゃないです(実際、昨日会っただけだしね)』

兄友『今さら隠さなくっていいじゃん。ストーカーするくらい兄のこと好きなんでしょ』

妹友『だから(この人。あたしがお兄さんのことを好きだって思い込んでいる)』

妹友(・・・・・・女さんの彼氏は兄友さん。どうも浮気しているらしいけど)

妹友(女さんが本当はこの人じゃなくて、お兄さんのことが好きだとしたら)

妹友(そしてお兄さんが妹ちゃんじゃなくて女さんを選べば)

妹友(そうなったらお兄ちゃんは妹ちゃんと・・・・・・)


<浮気してるんだよねこの人>




妹友(部活をさぼってしまった)

妹友(昨日の妹ちゃんと行動が被ってるし)

妹友(しかし、お兄さんも昨日今日と続けて二日連続で美少女のお迎えとは)

妹友(いったい何様のつもりなんだろう)

妹友(まあ、押しかけてるのはあたしの方だから文句を言えた義理じゃないけど)

妹友(・・・・・・そんなことはどうでもいい。自分が本当はどうしたいのかわからないけど)

妹友(とにかくお兄さんの気持を探らなきゃ。妹ちゃんはどう見ても怪しいし)

妹友(兄妹間の恋愛なんて・・・・・・)

妹友(でも。お兄ちゃん・・・・・・)

妹友(あ。お兄さんだ。心を入れ替えて笑顔を作らないと)



妹友「こんにちは~。お兄さん」

兄「・・・・・・はい?」

妹友「(何よこの反応)こんにちは」

兄「はあ」

妹友「(あいさつくらいしろ)こんにちは」

兄「・・・・・・こんにちは」

妹友「昨日は妹ちゃんとのデートを邪魔しちゃってすいませんでした」

兄「はい?」

妹友「(可愛い女の子がわざわざ迎えにきたのに何よこの反応)今、ちょっと時間ありま
す?」

兄「はい?」

妹友「ちょっとお話しませんか」

兄「・・・・・・わざわざ校門前で待っていてくれたの?」

妹友「はい」

兄「えと~」

妹友「行きましょ。駅までは一緒に帰れますよね」

兄「はあ(何なんだ)」

妹友「お兄さん」

兄「うん」

妹友「お兄さん?」

兄「何?」


妹友「お兄さん、何か悩んでいるみたい」

兄「べ、別に」

妹友「・・・・・・(とりあえず仕掛けてみようか)」

兄「何でそんなこと言うのさ」

妹友「ひょっとしたら、お兄さん目撃しちゃいましたか?」

兄「・・・・・・何を」

妹友「今朝、初めて妹ちゃんと彼氏が一緒に登校したんですけど、お兄さんもしかして」

兄「・・・・・・彼氏?」

妹友「はい。前から彼氏の方から妹ちゃんが好きだって相談されていたんで、妹ちゃんに
彼氏の気持ちを伝えたんですね」

兄「そ、そうだったんだ」

妹友「はい。それで、しばらく妹ちゃんは煮え切らなかったんですけどね。その間、生殺
しみたいで彼氏も気の毒で」

兄「それで?」

妹友「何か急に昨晩妹ちゃんから連絡あって、友だちからなら付き合ってみてもいいよっ
て」

兄「・・・・・・そう」

妹友「それで急きょあたしがセッティングして、二人を待ち合わせさせて今朝、一緒に登
校させたってわけです」

兄「・・・・・・」

妹友「お兄さん?」

兄「うん?」

妹友「余計なことしてごめんなさい」

兄「何で俺に謝るの?」

妹友「お兄さんって妹ちゃんが好きでしょ(否定しなさいよ。このシスコン)」

兄「・・・・・・何言って」

妹友「好きでしょ(あなたが否定さえしてくれれば余計なことしないですむのよ!)」

兄「ま、まあ」

妹友「(・・・・・・何認めてるのよ)それが間違っていると思います」

兄「え?」

妹友「お兄さんが好きなのは妹ちゃん個人じゃなくて、一般的な兄妹関係における妹に萌
えているだけだと思います」

兄「・・・・・・何言ってるのかわからねえんだけど」

妹友「(自分だって何言ってるかわからないよ。あたしいったい何がしたいんだろう)お
兄さんって、妹ちゃん自身が好きなんではなくて自分の妹というステータスを身にまとっ
た抽象化され、記号化された妹に惹かれてるだけなんじゃないんですか?」

妹友(何言ってるんだあたし。もうわけわかんない)

兄「中ニ病的な内容全開だし、初対面に近い男に言うことかよ、それ」

妹友「お兄さんが好きなのは生身の妹ちゃんじゃない。お兄さんは実の妹に恋するという
ラノベみたいな状況に、そういう現実的じゃないシチュエーションに萌えているだけじゃ
ないんですか?」

兄「だから意味が」

妹友「別にそれは妹ちゃん本人じゃなくても『妹』というラベルが貼ってあれば誰でもい
いんじゃないですか? 例えばそれがあたしでも」

妹友(あたし何でお兄さんに向って微笑んでいるんだろう)


兄友「あのさあ」

妹友「何ですか」

兄友「さっそくメールしてくれたのは嬉しいけどさ」

妹友「嬉しいならもっと喜んだらどうでしょうか」

兄友「・・・・・あのさ。ま、いいか。つうかまだ名前知らないんだけど」

妹友「名前?」

兄友「そう。君の名前」

妹友「何であなたなんかに名前を教えなきゃいけないんですか」

兄友「・・・・・・人のこといきなり呼び出しておいてそれはねえだろ」

妹友「メアドとか携番を教えるっていうのは連絡が来ることを期待したからじゃないんで
すか」

兄友「まあどうだけどよ」

妹友「まあいいか。妹友といいます」

兄友「妹友ちゃんかあ。可愛い名前だね」

妹友「名前をほめられても別に嬉しくないですけど。両親が勝手に決めただけですし」

兄友「いや。妹友ちゃんは外見も声も何もかも可愛いよ」

妹友「そうですか」

兄友「そうですかって。いや、まあいいけど」

妹友「さっきまでお兄さんと会ってました」

兄友「・・・・・・そうなの?」

妹友「はい。お兄さんの気持を確認しようと」

兄友「・・・・・・どうだった」

妹友「え」

兄友「兄の気持を確認したんだろ」

妹友「(どうって。お兄さんが妹ちゃんのことが好きなことは確定でしょ。それを知った
ら兄友さんは喜ぶだろうな)」

妹友(でも、浮気してるんだよねこの人。そんな人の気持なんかどうでもいいか)

妹友(それに。お兄さんに彼女ができたらお兄ちゃんと妹ちゃんは親密な関係になれるか
も。そのためには)

妹友「お兄さんと女さんって愛し合ってるいると思いますよ」

兄友「・・・・・・え」

妹友(何かマジな反応。ちょっとまずかったかな。でも今さら話は変えられないし)

妹友「あの二人、兄友さんが身を引けばその日にでも付き合うんじゃないですか」

兄友「・・・・・・」

妹友「兄友さん?」

兄友「マジかよ」

 あたしの話を聞いた兄友さんはもうあたしの方なんか見もせずに、何か真剣な表情で俯
いて何かを考えているようだった。

 自分が何を始めてしまったのか。そのときのあたしにはよくわかっていなかったのだ。


今日は以上です
また投下します

よく分からなくなってきたな…

妹友怖い

兄友じゃなくて妹友が原因だったのか!!


<想像以上にクズですね>




妹友「最近あなたと毎日会ってますよね。とっても不本意です」

兄友「自分の方から呼び出しておいてそれかよ」

妹友「それでも律儀に来てくれるんですね。ひょっとしてあたしのことが好きなんです
か」

兄友「・・・・・・」

妹友「ちょっと。何で黙ってるんですか。変に誤解しちゃうじゃないですか」

兄友「誤解って何だよ」

妹友「本当にどうしたんですか。今のは冗談ですって」

兄友「うん。冗談ね、冗談」

妹友「・・・・・・何かあったんです?」

兄友「さっき女を振ってきた」

妹友「はい?」

兄友「あーあ。いざ現実となると結構きついなこれ」

妹友「・・・・・・あなたはバカですか」

兄友「うん。今はそれには反論できる気がしないよ」

妹友「いったい何でそんなこと」

兄友「女のため。妹友ちゃん言ってただろ? 俺が女と別れればその日にでも女と兄は付
き合うんじゃないかって」

妹友「言いましたけど。なら浮気とか止めて女さんの心を取り戻すように頑張ればいいじ
ゃないですか」

兄友「・・・・・・よく言うよ」

妹友「え」

兄友「兄と女をくっつけたいくせに」

妹友(ばれてた。でもあたしって本当にそうしたいのかな)

兄友「まあ妹友ちゃんのせいにする気はないよ。こんなことになってるのも自業自得だし
な」

妹友「・・・・・・浮気のことですね」

兄友「それだけなら良かったんだけどな」

妹友「他にも余罪があるってこと?」

兄友「妊娠させちゃった」

妹友「・・・・・・はい?」

兄友「浮気して付き合ってた部活の後輩の子を妊娠させたみたい」

妹友「・・・・・・想像以上にクズですね。兄友さんって」

兄友「まあ、妊娠させるようなことをしてたことは確かだからそう言われてもしかたがな
いけど」

妹友「けど何です? (こんなにクズな男に初めて会ったよ。ちょっとだけ感じていた罪
悪感が吹き飛んじゃった)」

兄友「あいつの妊娠ってなんだか怪しいんだよな」

妹友「(うわあ。最低)クズもここまで来るといっそすがすがしいので、そう現実逃避を
した理由くらいは聞いてあげましょう」

兄友「別にいいよ。無理に聞いてもらえなくても」


妹友「聞いてあげましょう」

兄友「わ、わかったって。そんなに睨まないで」

妹友「・・・・・・ふん」

兄友「妹友ちゃんみたいな子にこんな話をするのはどうかとは思うんだけどさ」

妹友「あたしみたいな子ってどういう意味ですか」

兄友「だってさ。君、処女でしょ」

妹友「・・・・・・死ね。セクハラですよそれ」

兄友「悪いな。話すの止めようか」

妹友「いいからさっさと話してください。今のセクハラ発言は特別に今日だけは目をつぶ
ってあげますから」

兄友「おかしいんだよな。俺だってばかじゃない。毎回きっちりゴムを付けてたし」

妹友(な、何言ってるのこの人。ゴムって。ゴムって)

兄友「確かに俺はそれなりに遊んできたよ。でも女には手一本だって触れちゃいない」

妹友(さっきから何言ってるのこの人)

兄友「後輩ちゃんは可愛らしかったし、部活でも健気に俺を支えてくれたよ。正直くらく
らした」

妹友「はあ」

兄友「でさ。女は相変わらず固いばっかで全然いろいろと許してくれないし。そんなとき
に好きって言われて好きにしていいって言われりゃさ。男だったら行っちゃうだろ」

妹友(やっぱりこの人最低だ)

兄友「だから後輩ちゃんと浮気した。あいつを抱いた。でもよ、本当に好きだったのは女
だったし、もちろん後輩ちゃんとするとときはしっかり避妊だって」

妹友「・・・・・・もういいです。結局何を言いたいんですか」

兄友「後輩ちゃんが本当に妊娠したかどうかなんて今は確かめようがないけどさ。そんな
ことより、女が本当は兄のことを好きならさ」

妹友「好きなら?」

兄友「まあ、俺らしくはないんだけどさ。でも浮気してたってこともあるし、女のことが
好きだから身を引いてやろうかなって思った」

妹友「何かわけわかんないですよ。妊娠は嘘だと思うなら何でです?」

兄友「俺にだってわからねえよ。でも、女のことは大好きだし、兄は俺の親友だしな。こ
れで本当にあの二人は付き合って幸せになれるんだろ?」

妹友「・・・・・・あたしに聞かれても(とても言えない)」

兄友「何だよ。妹友ちゃんがそう言ったんだろうが」

妹友(今朝あたしがお兄さんに告白したなんて。この人には絶対に言えない)

妹友「はい。あたしはそう思いますけど」

兄友「それならいいや。妊娠はともかく後輩ちゃんを抱いちゃったのは確かだしな。責任
は取らねえとな」

妹友「そうですか。兄友さんはそれでいいんですね」

兄友「ああ。後悔したってしかたない。もうしちゃったんだし」

妹友(どうしよう。まさかここまでの話になるとは思わなかった)

妹友(・・・・・・正直、お兄さんのことを好きって言っちゃったのも半ば勢いだったし)

妹友(冷静に考えよう。そもそもあたしは何がしたかったの?)


妹友(兄妹の恋愛なんかだめだってことはずいぶん前から考えていた)

妹友(それでお兄ちゃんのことは諦めたけど、それでもお兄ちゃんのことは好き)

妹友(だからお兄ちゃんには悩んで欲しくない。たとえお兄ちゃんがあたしを好きじゃな
いとしても)

妹友(お兄ちゃんが妹ちゃんのことを好きなら、お兄ちゃんの願いはかなってほしい)

妹友(どう考えても妹ちゃんはお兄さんが好き。お兄さんも妹ちゃんが好きみたいだし)

妹友(そんな将来のない未来のない関係なんて間違っている)

妹友(だからあたしはお兄さんに告白した。お兄さんがあたしに振り向いてくれるかどう
かはわからないし、勢いだけで告白したのも確かだけど)

妹友(あれ? 別にあたしがお兄さんと付き合わなくてもいいってこと?)

妹友(・・・・・・お兄さんと女さんが付き合い出しちゃえば、それで妹ちゃんの失恋は決定じ
ゃない)

妹友(あたしがお兄さんと付き合う必要なんかないんだ。正直、自分でもお兄ちゃんの妹
ちゃんへの恋愛のためにあたしがお兄さんと付き合うなんて不安だったけど)

妹友(兄友さんが身を引いてくれたせいで。多分だけどあの二人は付き合い出す)

妹友(失恋した妹ちゃんはそのままなし崩しにお兄ちゃんと結ばれるかも)

妹友(そうなったら。お兄ちゃんもまた元気が出て昔みたく明るい性格に戻ってくれるか
も)

妹友(お兄ちゃん)

兄友「あのさ。俺の話、ちゃんと聞いてる?」

妹友「もちろん聞いていますよ。それでこれからどうするんですか」

兄友「もう女とは別れたしね」

妹友「後輩さんと付き合うんですか」

兄友「あいつが本当に妊娠していたら責任取るけど」

妹友「妊娠って嘘だと思っているんですよね」

兄友「正気そうだな。証拠も何にもない。妊娠検査キットとかっていうのの結果も見せて
くれないし、一緒に産婦人科行こうって言っても拒否されるしな」

妹友「そうですか」

兄友「後輩と付き合うかどうかなんてどうでもいいよ。それよかさ。あいつは、女は本当
に兄と付き合うんだろうな。それで女は本当に幸せなんだよな」

妹友「(どうだろう。あたしが身を引けばおそらく)・・・・・・多分」

兄友「そうか。それならよかった」

妹友「兄友さん?」

兄友「それなら女を振ったかいはあったんだよな」

妹友「・・・・・・」

兄友「そうか。それならよかった。俺ってひどい彼氏だったけど、最後くらいはあいつの
ためになることできたならいいや」

妹友「・・・・・・うん」


<どうしてもと言うならあたしがお兄さんを引き受けても>




妹友(あそこではうんと言うしかなかったよね)

妹友(兄友さんには悪いことしたかもしれないけど)

妹友(でも妊娠したかどうかなんて結果論だ。そういうことをしてたのは兄友さんだし。
だから本人だって女さんと別れたんでしょ。きっと罪悪感があったのよ)

妹友(そうじゃないなら。兄友さんのあの軽い性格なら女さんとお兄さんのために身を引
くなんて考えられないじゃない)

妹友(問題はお兄さんの気持だよね。ああは言ったけどお兄さんが本当は女さんのことを
好きだなんて確信は持てないし)

妹友(たとえ女さんがお兄さんのことが好きだったとしても)

妹友(今日はお兄ちゃんと妹ちゃんが一緒に図書館で勉強する日だ)

妹友(あたしの出番はまだ終わってないよね。確実にお兄さんと女さんが結ばれるならと
もかく)

妹友(とにかく妹ちゃんとお兄ちゃんが結べれるまでは)

妹友(あたしがお兄さんを好きな振りを続けなきゃ)

妹友(・・・・・・保険的な意味でもそうしなきゃ)

妹友(まだ休めないよね。まだ行動しなきゃいけない)

妹友(うん)



兄友「また君かよ~」

妹友「・・・・・・何でそんなに嫌そうな表情をするんですか」

兄友「いや。君みたいな可愛い子と二人きりで会えるんだから嫌なわけないけどさ」

妹友「思いきり嫌そうな態度で言わないでください」

兄友「それしても毎日呼び出すことはねえだろ」

妹友「嫌じゃないんでしょ」

兄友「だってファミレスで話をするだけだろ? 俺だって今はそれどころじゃないんだ」

妹友「女さんと別れたんだから時間はあるんじゃないんですか」

兄友「今、後輩ちゃんと修羅場なんだよ」

妹友「それは自業自得です。で? 産むって言い張ってるんですか」

兄友「そうじゃねえよ」

妹友「じゃあ何なんです?」

兄友「あいつさ。結局妊娠なんかしてないってよ」

妹友「ああ・・・・・・やっぱりね」


兄友「まあそんなことだろうとは思ってたんだけどよ」

妹友「見事にはめられましたね」

兄友「別に。前にも言ったろ? ちゃんと避妊してたって。どうせこんなことじゃないか
って思ってたよ」

妹友「後輩さんは何て言ってるんですか」

兄友「想像妊娠だったって。別に騙したわけじゃないってさ」

妹友「・・・・・・それでどうするんですか。まさか」

兄友「まさかって?」

妹友「女さんに復縁話をする気ですか」

兄友「ねえよ。だいたい妊娠してなくたって、後輩ちゃんと妊娠するようなことをしてた
時点で女的にはアウトだろ」

妹友「・・・・・・わかってはいるんですね」

兄友「あいつと兄がお互い好きなら応援するしかねえだろ。兄だって俺の親友だし」

妹友「浮気とかあなたのしたことは本当にクズですけど」

兄友「うるせえな。だから自分でもわかってるよ」

妹友「でもお兄さん・・・・・・」

兄友「うん?」

妹友「女さんのことを、いえ女さんとお兄さんのことを本気で好きなんですね」

兄友「・・・・・・さあな」

妹友「兄友さんって結構いい人なのかな・・・・・・」

兄友「本人を目の前にしてそういうこと呟くなよ。いいやつは浮気なんかしねえだろ」

妹友「・・・・・・まあ自分でわかっててやってる分たちが悪いとも言えますけどね」

兄友「何だよ。誉めてるんじゃねえのかよ」

妹友「どうでしょう」

兄友「それよか妹友ちゃんはどうなの? 君も兄のこと好きなんじゃねえのか」

妹友「・・・・・・それは」

兄友「女と兄が付き合い出してもいいのかよ」

妹友「・・・・・・」

妹友(・・・・・・お兄さんと)

妹友(手を繋いでキスしちゃった)

妹友(余裕ぶっていたけど。本当は胸がどきどきしてた)

妹友(何であんなこと・・・・・・)

妹友(何であんなに大胆なことができたんだろ)

妹友(妹ちゃんがお兄ちゃんと親密そうだったせいで、お兄さんは何か一人で納得して帰
っちゃったけど)

妹友(あたしのしたことって。後輩さんという子が兄友さんにしたことと同じなんじゃ)

妹友(そんなことないよね。あたしはそんなつもりじゃない。ただ、お兄ちゃんと妹ちゃ
んの仲を何とかしたいだけだし)

妹友(そのためには。お兄さんが女さんと付き合えばいいんだけど)

妹友(・・・・・・まあ。どうしてもと言うならあたしがお兄さんを引き受けても。もうキスま
でしちゃった仲だし)

妹友(でもそうしたら、兄友さんのしたことはまるで意味がなくなる)

妹友(うーん)


妹「もう一月以上も連絡がないし」

妹友「電話もメールも何もないの?」

妹「ない」

妹友「ご両親のところにも?」

妹「それはわからない。最近はパパもママもあまり家に帰ってこないし」

妹友「え? それじゃ妹ちゃんいつもは家に一人きり?」

妹「うん」

妹友「だって食事とか掃除とか」

妹「それは平気。というかそれくらいしていないと気が紛れなし」

妹友「(あたしのせいなのかな?)だって寂しいでしょ」

妹「別に」

妹友「(そうだ)うちも普段両親遅いし。帰ってこないときもあるんだけど」

妹「うん?」

妹友「だから、ご両親がいないときはうちに来ない?」

妹「・・・・・・」

妹友「そしたら二人で一緒にいられるし」

妹「ありがと。でもいいや」

妹友「何で? 一人でいるよりいいでしょ」

妹「もしお兄ちゃんから家電に電話があったり、万一家に帰って来たときには家でお迎え
したいから」

妹友「何言ってるの。一月も連絡ないんでしょ?」

妹「でも」

妹友(兄友さんが言ってた。お兄さんと女さんは付き合い出したらしいって。大学でもい
つでも一緒にいるみたいだって笑ってた)

妹友(どうしよう)

妹友「ひょっとして、うちに来るとお兄ちゃんがいることが気詰まりなの? それならあ
たしが妹ちゃんの家にお泊りしてもいいけど」

妹「ごめん。そういうわけじゃないんだ。あ、先生来たね」

妹友「うん」


<・・・・・・女さんって嫉妬深い人ですか>




兄友「・・・・・・また君か」

妹友「迷惑でしたか」

兄友「そうは言ってない。ここまで来ると逆に意地でも君に付き合おうかって思えてくる
から不思議だ」

妹友「・・・・・・」

兄友「それで今日はどうしたの」

妹友「今日は腹を割って兄友さんに相談したくて」

兄友「何だよ。告白なら間に合ってるぞ」

妹友「それはそうでしょうね。あなたには後輩さんという彼女がいるんですから」

兄友「俺のことはどうでもいいだろ」

妹友「妊娠とかって嘘をついて男を略奪するような女の子と何で付き合っているのか理解
に苦しみますけど、まあ他人事なのでそれはどうでもいいです」

兄友「どうでもいいなら口にするなよ。しかもファミレスで他人に聞かれるような声量で
さ」

妹友「それは失礼しました」

兄友「そんなに簡単には別れてくれねえんだって。こっちにもいろいろ事情があるんだ
よ。つまりだな」

妹友「いえ。別に聞かなくてもいいです。それよりあたしの相談を方を聞いてください」

兄友「君ってさ・・・・・・。まあいいや。それで相談って?」

妹友「・・・・・・本当にお兄さんと女さんって仲よくお付き合いをしているんですか」

兄友「うん。なるべく顔を会わせないようにしてるけど、もう付き合い出して一月は経っ
ているんじゃねえかな」

妹友「・・・・・・そうですか」

兄友「何だよ。今日はやけに暗いじゃん。やっぱり君は兄のことが気になるのか?」

妹友「・・・・・・な! 何言ってるんですかこの低脳」

兄友「低脳ってひでえ」

妹友「あたしの相談はそんなことじゃありません。妹ちゃんのことなんですけど」


兄友「妹ちゃんがどうかしたのか」

妹友「お兄さんから全然連絡がないみたいで。あの家ってあまり両親が帰ってこないから、
妹ちゃんいつも学校が終ると家で夜一人でいるみたいなんです」

兄友「家で一人って。高校生の女の子がかよ」

妹友「はい」

兄友「それはひでえな。妹ちゃんかわいそうに」

妹友「ちょっと待ってください。あなたは妹ちゃんのこと知ってるんですか」

兄友「知ってるに決まってるじゃん。俺は高一の頃から兄の親友なんだし」

妹友「そうでした。じゃあ会ったこととか話したことも」

兄友「あるよ。つうか口説いたこともあるし」

妹友「・・・・・・あるんですか」

兄友「ちょ。こええよ妹友ちゃん。落ち着けって。それに妹ちゃんには相手にされなかっ
たし」

妹友「納得しました」

兄友「納得されてもなあ。昔のことだけど何かへこむぜ」

妹友「全くあなたときたら。まあ、女さんという彼女がいるのに浮気したり、浮気相手を
妊娠させるような男にあの妹ちゃんが振り向くはずはないですけど」

兄友「だから妊娠はしてないって。まあいいや。妹ちゃんは気の毒だけど相談ってそのこ
とか?」

妹友「・・・・・・女さんって嫉妬深い人ですか」

兄友「何言ってるんだよ。・・・・・・まあ普通じゃね。でも何で?」

妹友「あのシスコンのお兄さんが一月も妹ちゃんを放置するわけないんですよね」

兄友「女が妹ちゃんに嫉妬して兄に連絡させないようにしていると言いたいのか」

妹友「そうとしか思えないんですよね」

兄友「それはないだろう。いくら何でも彼氏の妹にまで連絡させないとかありえねえ
よ。まあ確かに昔からあの兄妹は仲が良すぎるくらいではあるけどさ」

妹友「確かですか」

兄友「おう」

妹友「・・・・・・そうですか。おかしいなあ」

兄友「兄妹喧嘩でもしたんじゃねえの?」

妹友「そんなことなら妹ちゃんはあたしにそう言うはずですけど」

兄友「そうかな」

妹友「そうです!」

兄友「いくら君と妹ちゃんが親友だって言えないことだってあるんじゃねえかな」

妹友(言えないこと。やっぱり妹ちゃんって)


兄友「じゃあな」

妹友「兄友さんまたです」

兄友「また? また俺を呼び出す気かよ」

妹友「嫌なんですか」

兄友「だからそのセリフは何度も聞いたって。いったい君は何をしたいの?」

妹友「・・・・・・何をって。それは妹ちゃんもお兄さんも幸せになってほしくて」

兄友「本当に?」

妹友「本当です。あたしが嘘をついているとでも?」

兄友「まあいいや。じゃあ、俺はこれから修羅場だから。じゃあな」

妹友「さりげなく修羅場って言いましたね」

兄友「全く胃が痛えよ。俺、ちゃんと後輩ちゃんと別れられるのかな」

妹友「別れてどうするんですか」

兄友「・・・・・・わからねえ」

妹友「まさかここにきて女さんに未練が出てきたんじゃないでしょうね」

兄友「・・・・・・」

妹友(え? 何黙ってるのよ。まさか本気で)

妹友(確かに妹ちゃんの現状は気の毒だし何とかしたいけど)

妹友(・・・・・・でも。女さんとお兄さんが別れちゃったら。そしたら)

妹友(そしたら。もしかして妹ちゃんはお兄ちゃんと別れてお兄さんのことを)

妹友(そんなことになったら目も当てられない。何のためにこんなことまでしたのかわか
らないじゃない)

兄友「じゃあ俺は帰るわ。またな」

妹友「またです」

妹友(あ)

妹友(そしたら・・・・・・)

妹友(そしたら。あたしがお兄さんと)

妹友(あたしなら女さんみたいにお兄さんと妹ちゃんに嫉妬して引きはがしたりしない
し)

妹友(・・・・・・)


今日は以上です
また投下します

乙~

乙~

今更だけど妹友ってホントに腹立つなw



これは妹友が主犯で決定かな?


<あたしって可愛いですか>




兄友「いやあ、まいったっすよ」

妹友「あのですね」

兄友「おう」

妹友「あなた。本気であたしが好きなんですか」

兄友「な、何言ってるんだよ。やめろよ」

妹友「というかつまらない冗談に真剣に反応しないでください。あと顔を赤くするのも止
めてください。気持悪いです」

兄友「・・・・・・おまえの冗談は心臓に悪い」

妹友「何であたしたち毎日のように会ってるんでしょうね」

兄友「・・・・・・・あのな。それは俺のセリフだ。昨日まではずっと妹友ちゃんが俺を呼び出
してたんだろうが」

妹友「で? 何で昨日に引き続きあたしを呼び出したんですか」

兄友「いや、だから昨日はおまえの方が俺を呼び出して」

妹友「そんなことはどうでもいいです。っていうか、あたしのことをおまえって?」

兄友「へ?」

妹友「あたしのことをおまえって・・・・・・。兄友さんいきなりそんな」

兄友「・・・・・・何言ってるの?」

妹友「ごめんなさい。お気持は嬉しいけど、あたしは浮気するような人とはお付き合いで
きません」

兄友「俺さ。おまえのことを一言だって誘ったか?」

妹友「じゃあ何であたしをおまえって呼んだんです?」

兄友「だから。いや、もういい」

妹友「で。今日はどんなご用件ですか」

兄友「自分は平気で俺を呼び出すくせに。何で俺にだけ厳しいんだよ」

妹友「いいから用件をどうぞ」

兄友「・・・・・・言いづらいんだけどさ」

妹友「はい」

兄友「衝動的に女に復縁を申し込んじゃった」

妹友「はあ?」

兄友「そんなつもりじゃなかったんだけどさ」

妹友「・・・・・・あなたって人は。いったい何のために女さんを振ったんですか。自分のして
いることがちゃんとわかってます?」

兄友「それはそうだけどよ。つい」

妹友「どういう状況だったか聞かせてもらいましょうか」

兄友「つまりだな」


妹友「・・・・・・つまりお兄さんと女さんが付き合っていることを知らない振りをしてお兄さ
んに近づいたと」

兄友「近づいたというか。まあ、もともと親友だしさ。兄の口から女との関係を言わせよ
うと思って」

妹友「何でそんな面倒くさいことを」

兄友「君の言うとおり女は多分兄のことが好きだとは思ったんだけどさ。兄の方はどうか
と思って」

妹友「付き合い出したんだから好きに決まってるじゃないですか」

兄友「俺は兄のことをよく知ってるから。あいつは状況に流されやすいし、目の前で誰か
が泣いていれば自分の意思を曲げてでも慰めようとするところがあるからな」

妹友(へえ。よく見てるじゃん)

妹友「でも復縁を申し込んだ結果は? まあ、女さんに振られたんでしょうけど」

兄友「うん。でもそのこと自体は思ってたとおりだったんだよね。女は君の言うとおり兄
にベタ惚れみたいだから」

妹友「だからそう言ったじゃないですか」

兄友「でもさ」

妹友「何です?」

兄友「女が一生懸命兄に抱きついてるのに、兄の反応はいまいち薄いんだよな」

妹友「お兄さんが女さんを慰めようと自分の意思に反して付き合っているということです
か」

兄友「そうとしか見えなかったなあ、正直に言うと」

妹友(妹ちゃんとお兄ちゃんとの仲が深まるのはいいことだけど。でも、そのために妹ち
ゃんやお兄さんを不幸にしちゃいけない)

妹友(お兄さんが妹ちゃんを失っても女さんと付き合えたらそれでいいのかと思ってたけ
ど、お兄さんが女さんのことを本当は好きじゃないなら)

妹友(・・・・・・お兄さんはまだ不幸なままじゃない)

妹友(おまけに普通の仲のいい兄妹に戻るどころか、女さんの嫉妬のせいでお兄さんは妹
ちゃんに連絡もせず、妹ちゃんは辛い思いをしている)

妹友(このままじゃだめだ)

妹友(でも。じゃあ、どうしたらいいんだろ)

妹友(それなら。それならいっそ)

妹友「兄友さん?」

兄友「どうした」

妹友「あたしって可愛いですか」

兄友「はい?」

妹友「大学生の男の子から見て、あたしって女性として魅力的ですか」

兄友「いきなり何の話だよ。だから、俺は君のことなんか」

妹友「一般論でいいですから、ちゃんと答えてください」


兄友「・・・・・・可愛いんじゃねえの。見た目も清純な美少女だし。まあ、性格は小悪魔だけ
どな」

妹友「そうですか」

兄友「いきなりどうしたんだよ」

妹友(あたしがお兄さんに好きですと言ったとき。お兄さんはあたしの気持ちを否定しな
かった)

妹友(もちろん、受け入れてもくれなかったけど、それは妹ちゃんがいたからだ。でも、
今ではもうお兄さんは妹ちゃんのことは諦めているはず)

妹友(・・・・・・女さんの彼氏でいるよりは、あたしの彼氏でいる方がお兄さんにとっても妹
ちゃんにとっても幸せなんじゃないの?)

兄友「急に恐い顔で黙っちゃってどうしたよ。小悪魔っていうのは軽いジョークだって。
ジョーク」

妹友(お兄ちゃんと妹ちゃん。あたしとお兄さん)

妹友(これが実現したら誰も不幸にならない)

妹友(いつも四人でいられるし。ダブルデートだって)

妹友(・・・・・・いや。もう誤魔化すのはやめよう。最初はお兄ちゃんを諦めるために始めた
ことだけど。今では多分あたしもお兄さんのことを)

妹友(嫉妬から妹ちゃんに連絡させない女さんなんかに同情する必要はない。それに)

妹友(女さんも救済してあげればいい。多分、兄友さんはまだ女さんに未練があるようだ
し)

妹友(女さんがお兄さんのことを好きだったとしても、もともとは兄友さんと付き合って
いたんだし、兄友さんと復縁する可能性はあるよね)

妹友(まあ、このバカが思ったとおりに行動してくれればだけど)

兄友「また何か考え込んでる。俺といるとそんなに退屈かなあ」

妹友「あのですね」

兄友「おお」

妹友「兄友さんが女さんを想うその気持にあたしは感動しました」

兄友「え? って何々」

妹友「確かにあなたの浮気は誉められたことではないですけど、その後の行動は立派でし
た」

兄友「君に誉められると気持悪い」

妹友「本心ですよ。復縁の要請だって女さんのことを想ってのことなんでしょ?」

兄友「・・・・・・いや。それは100%女のためというよりは」

妹友「わかってますよ。お兄さんは本当は女さんのことを好きではない。このままじゃい
ずれは女さんが不幸になると思ったからなんでしょ」

兄友「え? あ、ああ。そう・・・・・・かな」

妹友「今日は帰ります。どうすればいいか少し考えてみますから、その間は兄友さんはお
となしくしててくださいね」

兄友「考えるって何を」

妹友「また連絡します。それじゃあ、失礼します」

兄友「なんなんだよ」


<不機嫌な朝食>




妹友「お兄ちゃんおはよう」

彼氏「おはよう。今朝は遅いんだな」

妹友「まあ、ちょっと考えごとしてて寝不足で」

彼氏「珍しいな。寝つきのいいおまえが寝不足なんてさ」

妹友「たまにはね」

彼氏「早く食事しないと遅刻するぞ」

妹友「お兄ちゃんはもう食べちゃったの」

彼氏「今何時だと思ってるんだよ。とっくに食い終わったって」

妹友「待っててくれてもいいのに」

彼氏「遅刻の道連れはごめんだ。じゃあ、行ってきます」

妹友「冷たいなあ。あ。ひょっとして今日も妹ちゃんと」

彼氏「違うよばか。じゃあな。おまえも急いだ方がいいよ」

妹友「違うのか。行ってらっしゃい」

妹友(とにかくさっさと食べて出かけないと遅刻しちゃう)

妹友(考えの続きは授業中にでも)

妹友(寝不足で食欲がないなあ。もう朝ごはんはいいや。出かけちゃおう)

妹友(支度もできたし。あれ、ママとパパの声?)

母「いい加減にしてよ。あなたはいったい何の証拠があってそんなことを」

父「証拠とかって言い出すこと自体が怪しいじゃないか。後ろめたいことがあるからだろ
う」

母「言いがかりです。私は仕事で忙しいしあなたの言うことなんかあるわけないでし
ょ。自分の妻を信じられないの」

父「信じたかったさ。でもなあ、富士峰の保護者会でも噂になっているって聞いたぞ」

母「いったい何のことだかわかりません。私が不倫って、あなたは私が誰と不倫している
って妄想しているの」

父「・・・・・・池山さんという人だそうだな」

母「・・・・・・! 何であなたが」

父「何で知っているかって? 隠せてると思っているのはおまえだけだ。もう保護者の間
でも噂になっているんだよ。どういうつもりだ? 妹友や池山さんのお嬢さんに申し訳な
いと思わないのか」

母「・・・・・・」


父「否定しないんだな。そして言い訳すらなしか」

母「こそこそ嗅ぎまわっていたのね。卑怯者」

父「こそこそ娘の友だちの父親と浮気していた君には言われたくないね」

母「あなただって。あたしが知らないと思ったら大間違いよ」

父「何を言っているのかわからん。私にはやましいことは全くないよ」

母「あなたの部下の女の子、まだ二十五歳なんですってね。あたしより妹友の方が年齢が
近いじゃないの」

父「・・・・・・彼女とは何でもない」

母「何でもない? 子どもたちを放っておいて残業だと嘘をついて二人でいたくせに。あ
なた、恥かしくないの?」

父「それはおまえだけには言われたくないな。 妹友の親友のお父さんといい仲になって
いるような女には」

母「いい機会だし、ちゃんと話し合いましょうか」

父「私にはやましいことはないよ。でもそうだな。話し合うか」

母「離婚してください。そして子どもたちは私が育てます」

父「いい加減にしないか。離婚とか子どもたちに何て説明するつもりだ」

母「あの子たちならわかってくれる。あなたのような横暴な父親から解放されるんなら、
子どもたちは私と一緒に暮らしはずよ」

父「本気なんだな」

母「そうです」

父「わかった。私だって夫以外の男と不倫している君なんかいらない」

母「ここ十年間で初めて意見が一致したわね」

父「だが、親権の話は別だ」

母「あはは。あの子たちが仕事以外に興味のないあなたについていくとでも思ってるの」

父「・・・・・・それは聞いてみなければわからないだろう」

母「いいわよ。子どもたちに決めさせましょう。それでいいわね?」

父「いいだろう」


妹友(な、何よこれ)

妹友(直接聞き出して)

妹友(・・・・・・きゃ!)

彼氏「いいから行くぞ。今あいつらと話したってどうしよもない」

妹友「お兄ちゃん!?」

彼氏「大きな声を出すなよ。あいつらに気づかれる」

妹友(何でお兄ちゃんが)

彼氏「おまえにはまだ知られたくなかったな」

妹友「もう家の外だからいいでしょ。パパとママって離婚するの?」

彼氏「さあ。そこまでは知らない。でも、どうも母さんが浮気しているのは確かみたいだ
な」

妹友「そんな・・・・・・。まさかその相手って」

彼氏「おまえも聞いてたんだろ」

妹友「妹ちゃんのお母さん・・・・・・」

彼氏「どうもそうみたいだ」

妹友「・・・・・・」

彼氏「母さん最低だ」

妹友「パパは本当に妹ちゃんのお母さんと」

彼氏「どうもそうみたいだね」

妹友「何で? 何でよ。お兄ちゃんは前から知っていたの?」

彼氏「正直に言うと・・・・・・知ってた。前に母さんと父さん以外の誰かが腕を組んで一緒に
歩いているのを見かけたことがあったから。それから注意していると、家でも父さんと母
さんが深刻な表情で言い合いをしていることにも気がついた。内容はさっきおまえが聞い
たとおりだよ」

妹友「何でよ」

彼氏「何でかなんか僕にはわからないよ。きっと父さんにだって。いや、母さん自身にだ
ってわかっていないかもしれない」

妹友「離婚しちゃうの? あたしたちはどうなるの」

彼氏「さあな」

妹友「さあなって・・・・・・。お兄ちゃんは兄妹が離れ離れになっても平気なの?」

彼氏「平気じゃないけど。でも僕たちにはどうしようもないだろ」

妹友「ずいぶん冷たいのね。今のお兄ちゃんの目には妹ちゃんしか写っていないのかな」

彼氏「そうだね」

妹友「・・・・・・!」

彼氏「僕が今いろいろな意味で一番何とかしたいのは妹ちゃんだからね」

妹友「そんなに好きなの? 家族がバラバラになることも気にならないくらいに?」

彼氏「・・・・・・」

妹友「お兄ちゃんん?」

 そんなわけないだろ。身体の深いところからぎりぎり振り絞ったような低い声でお兄ち
ゃんは言った。

「そんなわけないだろ。悲しくて悔しくてたまらないよ。このままじゃ済ませない」

 お兄ちゃんの剣幕に驚いたあたしは黙ったままだった。今まで見たことのないお兄ちゃ
んの恐い表情。お兄ちゃんの口調。

「妹ちゃんに罪はないけど、妹ちゃんは僕の彼女になってもらう」


 それは以前からお兄ちゃんの願望であったはずだった。今さら力説することではないの
に。

「妹ちゃんには悪いけど。僕は妹ちゃんの父親に思い知らせてやるんだ。自分の大切な人
が突然知らな人間に奪われる辛さをね。妹ちゃんにはちょっと苦しい思いをさせちゃうけ
どしかたないよね。悪いのは彼女の父親なんだしさ」

 そのときのお兄ちゃんの表情は、以前顔を赤くして妹ちゃんが気になるんだと言ったと
き、照れた様子で少し笑っていた表情とは全く違っていて、暗いけど一切の口出しを許容
しそうにない強い意思が感じられた。そんなお兄ちゃんをあたしは初めて見たのだ。

 放課後、機械的に授業を済ませて真っ直ぐ家に帰ったあたしの携帯が鳴った。

 それは妹ちゃんからの着信だった。


<最低な行動>




『どうしたの? 今日はお兄さんのところに行くんじゃなかったっけ?』

『行ってきた』

『それにしちゃずいぶん早く帰ってきたのね。お兄さんと喧嘩でもした?』

『・・・・・・』

『まさか、お兄さんにその。無理矢理変なことを』

『・・・・・・違うよ。お兄ちゃんはあたしが嫌がるようなことをする人じゃないもん』

『じゃあ、どうしたの』

 最初、妹ちゃんは俯いているだけで何も話してくれなかったけど、辛抱強く質問を繰り
返しているとようやくぽつぽつと話し出してくれた。

 お兄さんに告白されてそれを断ったこととか。

『だって。二人きりの兄妹だしお兄ちゃんのことは大好きだけど、ずっと家族として生き
てきて、それは何よりも大事な家族だけど、それでもやっぱり恋人として付き合ってくれ
って言われても素直にはいって言えなかった』

『まあ、それが普通だよね。妹ちゃんが悩むことじゃないじゃん』

 あたしは妹ちゃんがお兄さんの告白を断ったことにはほっとしていた。でも、やはりお
兄さんが妹ちゃんのことを、自分の実の妹のことを好きだという事実に、あたしは少し動
揺していた。

『・・・・・・でも。お兄ちゃん、あたしが妹友ちゃんのお兄さんと手をつないでいるところを
見たらしくて』

『そうか』

『タイミングが悪いよ。これじゃまるであたしがお兄ちゃんじゃなくて、妹友ちゃんの彼
氏の方を選んだって思って傷つけちゃったのかも』

『だってそれ、別にもう誤解じゃないんじゃ・・・・・・』

 あたしは思わず我慢できずにそう言った。きっかけはともかく今となっては妹ちゃんも
お兄ちゃんのことが気になっているはずなのだ。図書館での妹ちゃんの告白をお兄ちゃん
から聞く限りは。でも妹ちゃんは黙ってしまった。

 あたしはしかたなく話を進めた。

『・・・・・・』

『そんなことをお兄さんに言われたの? それで泣いて帰って来たの』

『お兄ちゃんの部屋に行って、お兄ちゃんに謝って今までどおりの兄妹の関係でいてくだ
さいってお願いしようと思ったんだけど』

『うん。それで』

『お兄ちゃんの部屋に女さんがいた』

『女さんって誰だっけ』

 もちろん彼女のことは知っている。そして、兄友さんが未練たっぷりに再び一度振った
彼女に言い寄ったことも。でもそこまでは妹ちゃんも知らないようだった。

『妹友ちゃんは多分知らないと思う。お兄ちゃんの昔からの友だち。嫌な女だよ』

『そんで?』

『女さんに怒られた。あたしがお兄ちゃんを振ったくせにのこのこ慰めに来るなんてって。
あたしには彼氏がいるくせに女さんに嫉妬するなんてって』

『お兄さん最低。彼女がいるのに妹ちゃんに告白するなんて』

『・・・・・・あたしに断られてから付き合い出したっぽいけど』

『そっか』


『女さんに言われた。どうせあたしに振られて落ち込んでいるはずのお兄ちゃんを慰めて
あげよとかって軽い気持で来たんでしょって。そしたらお兄ちゃんの部屋に彼女がいたん
でかっとなったんでしょ、自分は彼氏がいて兄を振ったくせに、その兄に彼女ができるこ
とが許せないんでしょ。どこまで身勝手なのよって」

『う~ん』

 正直に言うと女さんの言うことの方が筋が通っていると思う。でもあたしはそれを妹ち
ゃんには言えなかった。

『あと女さんに言われた。どうせお兄ちゃんのところに来るなら、彼氏と別れて兄に告白
するくらいの覚悟で来いって』

『いやいや。それはおかしいでしょ。妹ちゃんが好きなのはうちの兄貴なのに』

 そのとき一瞬、お兄ちゃんが暗い表情で口にした言葉が脳裏をよぎった。あれはひどい
内容だった。自分の親友を待っているその辛い境遇を勧めるなんて、親友の行動としては
ありえないだろう。そう思ったけど、もう言葉は止まらなかった。口ごもった妹ちゃんに
あたしは畳み掛けるように言った。

『何とか言いなさいよ』

『しばらく妹友ちゃんのお兄さんとは会わないほうがいいのかも』

『ちょっと待ってよ。あんたら付き合ってるんでしょ。何でそんな女に言いがかりを付け
られたくらいでそういうことになるのよ』

『でも・・・・・・』

『でも、何よ』

『お兄ちゃんはあたしと彼氏のことを目撃して傷付いたと思うし』

『何でそこまで自分の実の兄貴に遠慮するわけ? ちゃんと断ったんでしょ。それで何も
問題ないじゃない』

『あたしさ、お兄ちゃんと前みたいに仲良くなりたい。恋人としては付き合えないけど、
それでも昔みたいに口げんかしたりからかいあったりしたい』

『それはわかるけど。でも何でうちの兄貴と会わないって話になるのよ。普通の兄貴は妹
の彼氏に嫉妬したりしないよ』

『それはそうだけど』

『妹ちゃんさ。まさかと思うけど、お兄ちゃんの部屋に女さんがいるのを見て嫉妬した
の』

『・・・・・・』

『だから女さんっていう人のことを、嫌な女だなんて言ったの?』

『・・・・・・違うよ』

『何であたしから目を逸らして答えるのよ。うちの兄貴のこと好きなんでしょ』

『多分』

『あんたねえ。あたしの兄貴をその気にしておいてそれはないでしょ。まさか、あんた。
お兄さんのことが本気で異性として気になりだしてるんじゃ』

『・・・・・・』

『何か言ってよ』

『わからない。ちょっとよく考えてみる』

『・・・・・・妹ちゃん』

 ママの不倫の事実はショックだった。自分の居場所である家庭が崩壊しようとしている
のだから。それでもそのときのあたしは、妹ちゃんがお兄さんにこれ以上接近することが
許せなかった。お兄ちゃんのためなのか。あたしのお兄さんへの恋のためなのか。それと
も。家庭が崩壊しそうなのは妹ちゃんとお兄さんの家族も一緒だ。二人に罪がないことも
あたしたち兄妹と同じなのだ。

 あたしは翌日、お兄さんに会いに行くことにした。住所は妹ちゃんが不審そうな様子す
ら見せずに教えてくれていた。もう、迷っている場合ではなかった。


 このときのあたしは精一杯努力して、普段の軽くちょっと口の悪い女の子を装えたと思う。

「今開けるよ」

「おはようございます」

「何でいるの」

「お兄さんに会いに来たからです。いちいち聞くことですか? それって」

「いやいや。おかしいだろ。だいたい何で俺の住んでいる場所を知ってるんだよ」

「ふふ」

「ふふじゃねえ」

「世の中にはお兄さんが知らない方が幸せな特別なコネとかルートとかがあるんですよ」

「妹から聞き出しやがったか」

「なぜそれを? まあそうなんですけど。お兄さん、部屋には入れてくれないんですか」

「いったい俺に何の用だよ」

妹友「それとも部屋に入れるとまずいことでもあるんですか」

兄「別に何もねえよ」

妹友「よくそんなことが言えますね。どの口が言ってるのかな」

 あたしはお兄さんの口にはもうキスしたことがある。それでも久し振りの肉体的な接触
はあたしをどきどきさせた。

「って痛てえよ。口を手でひねるな」

「本当にお兄さんは洞察力とかないんですね」

「何だ」


「あたしが妹ちゃんから聞いたのがお兄さんの住所だけだったと思っているのですか」

「え」

「妹ちゃん泣いてましたよ。どういうわけか今日のお兄ちゃんとのデートまでキャンセル
しちゃったし。おかげでお兄ちゃんまで落ち込んで大変でした。いったいどうやってこの
責任を取るつもりなんですか」

「責任って言われてもなあ。妹とあいつの彼氏ことなんか俺には関係ねえし」

「無責任もいいところですね」

「何でだよ」

「お兄さんは年上なんだから譲歩してください」

「譲歩って何だよ。それに兄貴なんだから妹より俺が年上なんて言うまでもないことじゃ
んか」

「ずっとここで立ち話も何ですから部屋の中で話しましょう」

「おい、勝手に入るなよ」

 お兄さんの部屋には女さんの痕跡はなかった。なぜかあたしはそのことにほっとしてい
た。

「お気遣いなく」

「むしろおまえがもっと気を遣えよ」

「ホストはお兄さんの方ですから」

「まあいい。適当に座れよ」

 諦めたようにお兄さんが言った。その口調や表情にあたしはなぜかいらいらしたのだっ
た。それは半ばは自分に向けられた感情だったのかもしれない。

 双方の家族が崩壊しそうだというのに、あたしはいったい何をしているのだろう。お兄
ちゃんが考えていることは妹ちゃんとその家族にとってはひどいことだけど、少なくとも
そんなことを考えつくだけお兄ちゃんは苦しんでいるのだ。

 それに比べてあたしはどうだろう。家族の崩壊のことをよそにお兄さんへの自分の恋心
を追及しているあたしは、お兄ちゃんからはどう見えるのだろう。

 四人全員が幸せになる。あたしはそれを目標にしてきた。でもお兄ちゃんが妹ちゃんの
お父さんへの敵意をむき出しにしている今、それでもお兄ちゃんと妹ちゃんが付き合うこ
とが二人の幸せなのだろうか。後悔するのはもう遅い。

 あたしは次にすべき行動を心の中で準備しながら、お兄さんの勧めてくた場所に腰をお
ろした。


今日は以上です
また投下します

乙です



ここにきて鳥肌がめちゃ走ったよ....

....すっげぇ............

やっと追いついた支援


<お兄ちゃんが好きです>




 あたしが朝早く起きて作ってきたオムライスはあたしが事前に考えていたほどお兄さん
の歓心を得ることはできなかったようだった。というか、朝の五時に起きて作ったと言っ
たらマジで引かれてしまった。冗談のつもりだったのに。でもそんなことはどうでもいい。
今日はあたしのお兄さんへの願望をかなえようとしてきたのではない。

 妹ちゃんはお兄さんと女さんのことを知って傷付いている。そして、あろうことかあた
しのお兄ちゃんの妹ちゃんへの気持ちすら無視してでもお兄さんへの気持を再考しようと
すらしている。

 双方の両親の浮気とお兄ちゃんの復讐心のことは心の底で重苦しくあたしを悩ませてい
たけど、それでもあたしのすることは一つだった。

 あたしはお兄さんに言った。

「妹ちゃんが彼氏を好きな気持を理解してあげてください」

「理解しろと言われても。妹とおまえの兄貴が好きなようにすればいい話じゃねえの」

「昨日、妹ちゃんは泣いてました」

「おまえ妹と会ったの?」

「はい。泣き腫らした目で電車から出てきたところを見かけたんで、とりあえずスタバに
連れて行って話を聞きました」

「それで妹ちゃんを宥めているとようやく彼女が泣いていた理由を話してくれました」

「と言われても何がなんだかわからん」

「妹ちゃんが自分のことを好きかも!? やったー! って単純に考えなかったのはお兄
さんにしては立派です」

 あたしは妹ちゃんがお兄さんのことで悩んでいるのを聞いてもそれほど動じなかったお
兄さんの態度に励まされ、言葉を畳み掛けた。

「お兄さんには女さんという彼女がいますしね。今さら妹ちゃんに告られても困りますよ
ね」

「・・・・・・うん。まあそう・・・・・・かな」

 お兄さんは不得要領に答えた。

「その女さんって兄友さんっていう人から別れたばかりだって聞きましたけど、そのうえ
お兄さんにまで振られたら自殺しかねませんよね」

 これはひどい言い方だったけど決して嘘ではなかったと思う。

「うちのお兄ちゃんだってそうです。できたばっかの彼女に会えないって言われて落ち込
んでますし、このうえ振られでもしたら」

「そうだけど」

「年上の男の余裕を見せてください」

「どうすればいいの」

「妹ちゃんと仲直りしてください。単なる仲のいい兄妹として」

 お兄さんは黙ってしまった。

「そんで、お兄さんは女さんと、妹ちゃんはうちのお兄ちゃんと付き合えば何の問題も生
じないじゃないですか」

「そうかもな」

「そうですよ」

「妹のことはわかった。俺だって一度は振られてるんだし妹に付きまとう気なんかねえよ。
ちょっと意地になってたけど、妹とは普通に話せるように努力するよ」

「それが一番いい解決策だと思います。誰も傷付かないし」

「じゃあ、善は急げだな。妹にメール出すぞ」


 お兄さんが考えたメールは確かこういう内容だったと思う。



『昨日は悪かったな。いろいろおまえを悩ましちゃったことを後悔している。おまえの言
うとおり、俺とおまえはいい兄妹の仲に戻るべきだ。それがようやくわかったよ』

『もうおまえと彼氏の仲に嫉妬したりもしない。だからおまえも俺と女の仲を祝福して認
めてくれ』

『これからはなるべく実家に帰るようにするし、おまえが寂しかったらいつでも電話して
来い。まあ、おまえには彼氏がいるから余計なお世話かもしれないけど』

『じゃあ、もうわだかまりはなしな。また昔のようにバカな冗談を言い合おう』

『あ、そうだ。おまえのオムライス美味しかったよ。彼氏のを作るついでいいから、たま
には俺にも作ってな』



 あたしが思うにこれはあたしにとって完璧なメールだと思った。でも、あたしはお兄さ
んのことを見くびっていたのかもしれない。自分が恋愛感情を抱き抱いたこの人の洞察力を。

「こんなメールでどうだろう」

「何か微妙にうちのお兄ちゃんを引き合いに出して拗ねている雰囲気が感じられるの
ですが」

「それはおまえの思い過ごしだ」

「まあいいでしょう。じゃあ、早速送信しちゃってください。それで兄貴も妹ちゃん
も女さんもみんな幸せになれますから」

「そうだな。でもその前に聞かせてくれ」

「はい?」

兄「俺のことはいい。これで俺が幸せにあるかどうかはどうでもいいけど、おまえはこれ
で幸せになれるの?」

「頭沸いてるんですか?」

「おまえ、前に言ってなかったっけ? 俺のことが大好きだって。妹なんかに俺は渡さな
いって」

「それは」

 あたしが仕掛けているこのゲーム。なのに何であたしの方がお兄さんに追い詰められて
いるのだろう。

「あれ、嘘だよな?」

「嘘じゃないです・・・・・・。何でそう思うんです?」

 あたしは手玉に取っていると思っていたお兄さんに追い詰められていた。本当にその気
持は今となっては真実になっていたのに。

「あれが本当だったら、俺と女の仲を固めようなんてしないはずだろ」

「あたしは」

「何を企んでるんだ」

「別に。妹ちゃんやみんなが不幸になるのは嫌だから、自分がお兄さんから身を引く方が
いいのかと。それだけです」

「半分は嘘だな。身を引く気になったのは本当だろうけど、俺からじゃなくておまえの兄
貴からだろ」

「・・・・・・何言ってるんですか」

「おまえ、自分の兄貴のことが好きだろ?」


 お兄さんに自分の行動の理由がばれたかと覚悟したこのとき意外な救いが訪れた。お兄
さんの思考は、あたしのお兄さんへの好意を追求するのではなく、あたしのお兄ちゃんへ
の好意を追求する方に向いたのだ。

 あたしはこのとき正直ほっとした。そして急に自分の意思を取り戻したようで、お兄さ
んに答える言葉も脳裏にしっかりと浮かぶようになって、あたしは狼狽した状態から自分
を取り戻すことができた。

 あたしが好きなのはお兄さんだったから、端的に言えば目の前のお兄さんに迫ればいい
だけの話だ。お兄ちゃんとか妹ちゃんとか女さんのことを考えないでいいなら、あたしの
したいことは今では明白になっていた。

「それは兄妹ですから」

 とりあえずお兄さんの的外れとは言えないけど、今ではもう興味を失っている話題に答
えるしかなかった。

「異性として好きだろ?」

「頭」

「沸いてねえよ。何で俺の妹とおまえの兄貴の仲を取り持ったりしたんだ? おまえがつ
らくなるだけってわかっていたのに」

「・・・・・・本当に無駄に察しがいいんですね。恋愛スキルもないくせに」

「お互い様だろ。俺もおまえも自分の実の妹とか兄とかしか見てこなかったんだから。お
まえを見てるとまるで鏡を見てるようだしな」

「覚えていたんですね。前にうっかり失言しちゃったことを・・・・・・」

 ここであたしは泣き出した。演技でなく場合でも、頑張れば涙は出るものだとあたしは
このとき悟った。それはお兄さんの言っていることが的外れではなかったせいもあるだろ
う。確かについこの前まであたしはお兄ちゃんのことが好きだったのだ。

 いや。世間体とかがなければ今でもあたしはお兄ちゃんのことを好きなままだったかも
しれない。

「お兄ちゃんが好きです」

 あたしは自分の意思に関らず、そうお兄さんに答えてしまったようだった。それがよか
ったのかどうかは今でもわからない。


<夢の中みたい>




 そこから先は夢の中にいるようだった。お兄さんと交わした会話は今でも記憶の中に鮮
明に残ってはいたけど、自分がどんな気持でお兄さんとそんな会話を交わしたのかはよく
わからない。夢うつつで本能的に話していたのだと思うから、多分それは自分の本音だっ
たのだろう。



「あたしの秘密がばれた以上は、もういろいろ誤魔化すのはやめます」

「そうしてくれるとありがたい」

「妹ちゃんのお兄さんへの感情が異性への思慕なのか仲のいい兄貴への想いなのかは、多
分誰にもわかりません」

「そうかもな」

「というか、妹ちゃん本人にだってよくわかってないんじゃないですか」

「何でそう思う」

「お兄さんのことが本気で異性として好きなのか、あたしが妹ちゃんに聞いたとき、彼女
はわからないからよく考えてみるって言ったましたけど、あれは多分本音だと思います」

 お兄さんは黙ってしまった。

「お兄さん?」

「ああ」

「年上の余裕を見せてください」

「まだ、それを言うのか」

「隠していた自分の秘密をお兄さんには気がつかれてしまったわけですけど、やっぱりお
兄ちゃんと妹ちゃんが付き合うのが一番うまくいくと思います」

「あたしもお兄さんも、自分の気持を追求していってもその先は行き止まりです。仮に相
思相愛になれたとして、ラブラブな恋人同士になったとしてもそこから先には行き場所は
ありません」

「・・・・・・どういうこと」


「解説なんていらないでしょう。お兄ちゃんと妹さんなら、あるいはお兄さんと女さんな
ら恋人同士の先にはいろいろと行く先があるんですよ。実際にそこまで行き着けるかどう
かは別としてですが。可能性としては、婚約して結婚してパパとママになって孫ができ
て」

「まあな」

「あたしやお兄さんの恋は違いますよね? 奇跡的に想いがかなったとして、恋人同士に
はなれるかもしれない。でもその先はどうなるんです?」

 心の底ではこの質問に対するあたしの答が用意してあった。いや回答というよりは望み
だったのかもしれない。

 あたしとお兄さんが付き合えばそんな不毛な将来はない。お兄ちゃんと妹ちゃんだって
そうだ。二組の恋人たち。

 もうそれでいい。恋愛関係にはなれない組み合わせはできてしまうけど、それであたし
たち四人は親しいままこの先の人生を送っていける。ひょっとしたら、お互いの両親の不
倫さえ克服できるかもしれない。この関係によって。

「あくまでも仮定の話だけどさ。別に結婚とか出産とか育児とか、それだけが目標じゃな
いカップルがいたっていいんじゃね」

「一生恋人同士、それも人には言えない関係でっていうのもあるのかもしれませんけど、
他の選択肢があるのにわざわざそんなつらい一本道に入ることを選ぶ必要なんてないでし
ょう」

「いろいろお兄さんを騙してしまってごめんなさい。あたしは別にお兄さんを好きでも何
でもないです」

「それは別にいい。俺だっておまえを好きになったわけじゃないし」

「正直なのも過ぎると罪悪ですよ」

「何だって?」

「まあいいです。でも、その上でやっぱりあたしはお兄さんにお願いします。うちのお兄
ちゃんのためだけではなく、お兄さんとあたしのためにも」

「何だよ」

「そのメール。今すぐ送信してください。お願いします」

 本当はここでお兄さんが好きだと言ったほうが良かったのだろうか。でも、お兄ちゃん
が好きだと言ってしまったばかりだったあたしは、自分の言葉に束縛されていたのだった。


妹友「で。その後の様子はどうですか」

兄友「どうって。何か良心が痛むよ」

妹友「浮気して妊娠させるようなことをする人が何言ってるんです。それに兄友さんの心
境を聞いたんじゃないです。女さんとかお兄さんの様子ですよ」

兄友「それがさあ。正直に言うとさ。俺、君の言うことを信じたわけじゃなかったんだよ
ね」

妹友「そうですか」

兄友「でも、まあ。前にも言ったけど女と兄のカップルって女の方は本気で兄のことを好
きみたいだけど、兄の方はそれほど女のことが好きなようには見えなかったんだよね」

妹友「それはもう何度もお聞きしました。だからあたしの提案に乗ることにしたんですよ
ね」

兄友「まあね。俺は女が幸せになるなら本当に身を引くつもりだったけど、君の言うよう
に兄が妹ちゃんに振られた反動で自棄になって女と付き合っているとしたら女がかわいそ
うすぎるしな」

妹友「あたしのことを信じていなかったとはどういうことです?」

兄友「兄がそれほど女のことを好きじゃないにしても、まさか本気で自分の妹に告って振
られたとは思えなかったんだよなあ」

妹友「でも、結局女さんに言ったんでしょ? 妹ちゃんがお兄さんのことを振って後悔し
ているみたいだって」

兄友「ああ。そうしたらびっくりだよ。あいつ、あれだけ騙してきた俺の言うことなのに
さ。妹ちゃんのことを話したらいきなり真剣な表情になっちゃって。やっぱりとかって俯
いて呟いてたよ。俺、また女にひどいことしちゃった気分だ」

妹友「それで珍しく良心が痛んでいるわけですね」

兄友「いや、珍しいって言われるほどでもないと思うけど」

妹友「話が逸れましたけど、お兄さんを避けだしてからの女さんの様子はどうですか」

兄友「表面上は明るくしている。兄とは目を合わせないようにしてるのがわかるしね。普
段は学内では俺と一緒に過ごしているよ。あと、女友っていうあいつの友だちと。やっぱ
り内心では相当落ち込んでいると思う」

妹友「やはり女さんはお兄さんと妹ちゃんに遠慮して身を引いたんでしょうか」

兄友「それ以外は考えられないだろう。俺が話をする前は兄にベタ惚れだったみたいだ
し」


妹友「そうですか」

妹友(妹ちゃんとお兄さんの部屋で鉢合わせしたときにはずいぶん強気だったみたいなの
に。お兄さんの気持が自分の方に向いていないことに気がついたんだろうか)

妹友「お兄さんの様子はどうですか」

兄友「どうって・・・・・・・普通にぼっちしてるよ。女のことをあまり気にしている様子もな
いな」

妹友「やっぱり。お兄さんと話はしたんですか」

兄友「いや。その勇気がなくて」

妹友「勇気がないって。兄友さんってそういうキャラでしたっけ」

兄友「兄のやつ見かけによらず喧嘩強いんだよ。昔空手を習ってたとかでさ」

妹友「じゃあ、お兄さんとは何の連絡もやりとりもないんですか」

兄友「いや。一応メールしたことはした」

妹友「・・・・・・はい?」

兄友「女がもう兄には会えないって言うからさ。俺が何とかしなくちゃと思ってさ」

妹友「メールで済む話ですか。どこまで考えなしなんですか」

兄友「だって怒るとあいつ恐いんだもん」

妹友「はあ。そのメール見せてください」

兄友「いや。それはまずいというか」

妹友「どうしてです?」

兄友「どうしてっつうか」

妹友「見せてください」

兄友「・・・・・・はい」


from:兄友
to:兄
sub:悪かった
『本当に悪かったな。別に女のことは俺の自業自得でおまえのせいじゃないのに。電話す
るのはちょっと敷居が高いからメールした』

『女に対する態度は今思うと言い訳のしようもねえよ。おまえに言われたとおりだ。今は
反省している』

『それでさ。これも言いにくいんだけど。俺、勇気を出して最後に謝ろうと思って女に
メールしたんだよ。いつもの待ち合わせ場所で待ってるから会いたいって』

『来てくれなくてもしようがないって思った。でも、あいつは待ち合わせ場所に来てくれ
た』

『俺は本気で謝った。たとえ女が俺とやり直してくれなくても兄と付き合うにしても、俺
なりのけじめとして後輩とも別れるって言った』

『兄、悪い。本当にごめん。女はそんな俺を許してくれた。やり直そうって言ってくれ
た』

『女はおまえへの罪悪感から、おまえとは直接話をしたくないって言ってるから俺が代わ
りに言わせてもらうな。兄、本当にごめん。俺たちのごたごたに巻き込んだ挙句結果的に
おまえの感情を持て遊ぶことになっちまった』

『俺と女はやり直すことにした。悪いが女のことは忘れてくれ。信じられないかもしれな
いので、一応写メ添付しとく』

『俺と女の問題に巻き込んでお前を傷つけてすまん。女はおまえとはもう会えないって言
っているけど、俺はおまえを親友だと思っているんで許してくれるならこれまでどおりの
付き合いをしようぜ』

『じゃあな』


<計算外>




妹友「・・・・・・・何ですかこれ」

兄友「いやその」

妹友「まず女さんは兄友さんとやり直すなんて一言も言ってないですよね」

兄友「うん」

妹友「そして女さんは兄友さんを選んだわけではなく、多分お兄さんのためを思って身を
引いたんですよね」

兄友「俺もそうだと思うんだ」

妹友「そしたらこのメール、一つだって真実が書かれてないじゃないですか」

兄友「だってよ。これくらい書かないとひょっとしたら兄が女に説明を求めるかもしれな
いし。それにさ」

妹友「それに?」

兄友「兄の妹ちゃんへの気持を俺が女にばらしたなんて兄には言えねえよ。もしそれを兄
が知ったら俺はボコボコにされる」

妹友「あんたはアホですか」

兄友「・・・・・・」

妹友「こんな穴だらけの嘘。いつばれてもおかしくないじゃないですか」

兄友「そうかな」

妹友「そうですよ。こうなったら兄友さんにできることは一つしかないですね」

兄友「それって?」

妹友「このメールを本当にしてしまうことです。つまり本当に女さんと復縁することです
ね」

兄友「俺、自信ねえよ」

妹友「しっかりしてください。何が何でもやるしかないでしょう」

兄友「そうは言っても」

妹友「幸い女さんは今心身ともに辛い状況でしょうから、その状態に付け込むんです」

兄友「それは卑怯じゃないかな」

妹友「あなたにはそんなことが言える権利も余裕もないと思いますけど」

兄友「・・・・・・そうかもだけど」


妹友「まあ、でも今は女さんも自分の心の痛みしか見えてないでしょうけど、そのうちに
気がつくと思いますよ。自分が一番つらかったときに自分の横でそっと支えてくれた人の
存在を」

兄友「それって俺のこと?」

妹友「そういう存在になるように頑張ってください。あんまり早まって迫らないようにし
て、いい友人として女さんを支えるようにするんです。そうしたらいつかは女さんは気が
つくでしょう。つらい自分を無償の愛で包んでくれていた人の存在を」

兄友「それって時間かかるんじゃね?」

妹友「それはしかたないでしょ。焦ったっていいことはないですよ」

兄友「その間は他に女を作っちゃだめかな」

妹友「あなたという人は。どんだけ危機感がないんですか。また後輩さんのときと同じ過
ちを犯すつもりですか」

兄友「そうじゃねえよ。後輩ちゃんとは本当に切れたんだ。つうかぶっちゃけ女友ってい
う女の友だちがすげえ綺麗でさ。雑誌の表紙モデルとかやってるほどの子なんだけどさ」

妹友「・・・・・・本当にいっぺん死ね」

兄友「・・・・・・わかったよ。そんなに睨むなって。女を支えることに専念する」

妹友「全く。一瞬兄友さんに殺意すら覚えましたよあたしは」

兄友「それにしてもよ。君は何で俺にそこまでしてくれるの?」

妹友「お兄さんと女さんが付き合っていると、お兄さんも含めてみんなが不幸になるから
です」

兄友「そうかな」

妹友「はい。だからそのためには兄友さんと女さんの復縁を応援しているわけです」

兄友「妹友ちゃんっていい子だよな」

妹友「はい?」

兄友「いや。俺なんかに言われても嬉しくないだろうけどさ。君はすごく一途でいい子
だ」

妹友「気持悪いから止めて下さい。それともまさかあたしのことを狙ってるんです?」

兄友「いや。好きな子は女なんだけど。女と知り合う前に妹友ちゃんと出会っていたらマ
ジで惚れて君のこと口説いていたかもしれない」

妹友「そういう寝言はあたしがいないところで寝てから言ってください。あたしは浮気相
手を妊娠させるような男の人とは絶対に付き合いません」

兄友「だから妊娠はしていなかったんだって」

妹友「うるさい。そういう問題じゃないでしょ」


妹友(女さんのことはこのまま兄友さんに任せるしかない。あたしはもっとお兄さんと仲
良くしよう)

妹友(親友として妹ちゃんの悩みを解決してあげたのはいいけど、実は今まで以上に危険
な状態に戻ったのも確かなんだし)

妹友(お兄さんのメールを妹ちゃんが正しく理解して納得してくれれば、普通に仲のいい
兄妹に戻るだけのはずだ。今のあたしとお兄ちゃんみたいに)

妹友(でも。お兄さんが女さんと疎遠になってから、妹ちゃんがお兄ちゃんと会わなくな
ってしまたのも事実だ)

妹友(一月以上仲のよかったお兄さんに放置されてたんだから、今頃妹ちゃんがその反動
でお兄さんの方を優先しても不思議じゃない)

妹友(それでも平日はお兄さんは下宿先にいるんだし、妹ちゃんがお兄ちゃんのために割
ける時間は十分にあるはず)

妹友(まさかあのメールのせいで、二人の仲が必要以上に接近しすぎたんじゃないよね)

妹友(・・・・・・)

妹友(いや。ありえる。妹ちゃんとお兄さんの仲なら何がおきても不思議じゃない)

妹友(お兄さんに早急に会って釘を刺しとかないと。まだ間に合うはず)

妹友(・・・・・・間に合うよね?)

妹友(あ。メールだ)



from:妹
to:妹友
sub:無題
『いろいろお兄ちゃんのことで相談しちゃってごめんね。おかげでお兄ちゃんと無事仲直
りすることができました』



妹友(うん。ここまではいいよんえ)



『妹ちゃんはいっぱい心配してくれて、相談にも乗ってくれてありがと。あたしとお兄ち
ゃんは家族としてこれからも普通に仲良くやっていくことになりました。全部妹ちゃんの
おかげです。本当にありがとね(はあと)』


妹友(取り越し苦労だったかな。家族として仲直りしたのならあたしが望んでいたとおり
の結果になったんだ)

妹友(あとは女さんに裏切られたと思っているだろうお兄さんをあたしが癒してあげれば
いい)



『明日の朝もお兄ちゃんはあたしに会いに実家に帰って来てくれるって。あたしがお願い
したらそうするって言ってたの。何かこれまでの一月の憂鬱な気分が嘘のように幸せ』

『それでね。彼氏君には申し訳ないんだけど、少し彼氏君と二人きりで会うのは止めよう
と思うの。せっかくお兄ちゃんと仲直りしたのに、お兄ちゃんが彼氏君のことを気にしす
ぎているようなんで』


妹友(え・・・・・・・?)



『ごめんね。そういうわけなんで彼氏君にもそれとなく話しておいてくれないかな?』

『勝手なお願いでごめんなさい。少しだけあたしに時間をください』

『それじゃまた学校でね』



妹友(しばらくお兄ちゃんと会うのを止める? お兄さんが彼氏君のことを気にしている
から?)

妹友(何よこれ)

妹友(これじゃ話が違う)

妹友(お兄さんと会って話さなきゃ・・・・・・明日の朝、お兄さんが帰ってくる)

妹友(何時かわからないけど構わない。早朝に駅前で待ち構えていよう)

妹友(お兄ちゃんの気持は妹ちゃんのパパへの復讐で占められてるけど、お兄ちゃんはそ
ういうのとは別に本当に妹ちゃんを愛しているはず)

妹友(・・・・・・お兄ちゃんを不幸にだけは)


今日は以上です
次回は別スレ更新との兼ねあいもありますが、なるべく早く更新したいと思います

これは親達以外誰も悪くないんじゃね

最初の文を読んだ時こうなると誰が予想できたことか....


<早朝の待ち伏せ>




妹友(こんだけ早い時間に駅前に来ていれば大丈夫よね)

妹友(それにしてもちょっと早すぎたかな。いくら何でも何時間も外で待っているのはつ
らいな)

妹友(そんなこと言っていられる場合じゃないだけどさ)

妹友(メールだけじゃない。昨日の放課後だって)



妹友「お兄さんと仲直りできてよかったね」

妹「うん。お兄ちゃんたらさ」

妹友「どうしたの」

妹「あんまりあたしを放置して構ってくれないなら、あたしは一人で夜遊びするからねっ
てメールしたら」

妹友「(それが兄貴に出す内容のメールかよ)そしたら?」

妹「お兄ちゃんたら、すぐに明日帰るからそれだけはやめてくれだって。バカみたいでし
ょ。あたしが本当に夜遊びなんかするわけないのにね」

妹友「それで明日の朝、お兄さんが実家に帰って来ることになったのかあ(何でそんなに
目を輝かせて嬉しそうなのよ)」

妹「うん。だから悪いけど今日は部活はパスね。お兄ちゃんの朝ごはんって面倒だからさ。
今日中に買物しておかないといけないの」

妹友「面倒って?」

妹「お兄ちゃんってさ。朝はパンとかだめな人なんだ。ご飯とお味噌汁とかないと食べた
気しないんだって」

妹友「ふーん。そうなんだ」

妹「だから、あとは出し巻き玉子を作って、干物を焼いて」

妹友「そこまでするの? せっかくの休日なのに」

妹「お兄ちゃんって一人暮らしじゃない? どうせ朝ごはんなんかろくに食べていないだ
ろうから、せめて実家に帰ったときくらいはちゃんと食べさせないとね」

妹友(それはあんたたちの母親の役目でしょうが)

妹「じゃああたしは帰るね」

妹友「・・・・・・部長に、妹ちゃんは今日は用事があって部活はさぼりますって言っておく
よ」

妹「妹友ちゃんひどい」

妹友「え」

妹「サボるとか言わないでよ」

妹友「あ。うん、そうだった」

妹「じゃあね」

妹友「うん」


妹友(いい兄妹として仲直りさせただけのつもりだったのになあ)

妹友(お兄さんはともかく、妹ちゃんが暴走し始めてるとしか思えない)

妹友(こうなったらお兄さんの方だけでも釘を刺しとかないと)

妹友(あ)

妹友(あのファミレスなら、あの店の駅側の窓際に座っていれば駅の入り口を見張ってい
られるかも)

妹友(・・・・・・あのファミレスの駅側の窓側の席って確か喫煙席なんだよなあ)

妹友(ううん。煙いとか言ってる場合じゃないよね)

妹友(よし)

妹友「すみません。あそこの窓際の席がいいんですけど」

妹友「あ、はい。窓際に座れるなら喫煙席でもいいです」

妹友(あれ? お兄さんが禁煙席にいる)

妹友「すいません。待ち合わせの人がいたんでその席に行きます」

妹友(まさかここで会えるとはラッキーだった)

妹友(よし)

妹友「あれ? お兄さんじゃないですか。おはようございます」

兄「げ」

妹友「・・・・・・今あたしの顔を見て、げって言いましたね」

兄「いや。おはよう妹友さん」

妹友「げって言いましたね」

妹友(何でそんなに嫌な顔するのよ。あたしに会えてもお兄さんは少しも嬉しくないんだ
ろうか)

兄「いや。おまえの気のせいだろう」

妹友「言いましたよね」

兄「ごめんなさい。ちょっとびっくりして思わず」

妹友「(謝らなくてもいいのに)・・・・・・まあ、いいでしょう。お兄さんは何でこんなとこ
ろにいるんですか」

兄「何でって言われても。朝飯を食おうとして」

妹友「何でですか」

兄「いや。俺だってお腹は空くし」

妹友「ここから徒歩圏内にご自宅があるじゃないですか。家で食事ができないような事情
でもあるんですか」

兄「そんなもんあるか。いいじゃんか、ファミレスで飯くらい食ったって」

妹友(よし。感情的にならずに冷静に話ができている)

妹友「まあ、別にどうでもいいんですけどね」

兄「なら聞くなよ」

妹友「失礼します」


兄「何で俺の席に勝手に座る」

妹友「別にいいじゃないですか。ご馳走しろって言ってるわけじゃないのに」

兄「そういう問題じゃない」

妹友「じゃあどういう問題ですか」

妹友(そんなにあたしと一緒にいるのが嫌なの?)

兄「・・・・・・まあいいや」

妹友「すいません。オーダーお願いします」

兄「俺は和」

妹友「あたしは和風モーニングセットをください」

兄「・・・・・・洋風モーニングセットAを」

妹友(朝食を注文した。少なくとも妹ちゃんが用意した朝ごはんは無駄になるのね)

妹友「意外ですね。朝は和食派かと思ってました」

兄「何を根拠に言ってるんだ」

妹友「ソースは妹ちゃんです。うちのお兄ちゃんは朝はいつもご飯とお味噌汁がないとだ
めなの。ママがいつも面倒がってるって言ってました」

兄「そんなこと話してるんだ」

妹友「そのくせオムライスが大好きなお子様味覚だとか、焼き魚もさわらの西京漬けみた
いな面倒なものが好きだとか」

兄「妹ってそんなことまで話してたのか」

妹友「妹友ちゃんはお兄さんの話ばかりしてますからね」

兄「・・・・・・」

妹友「興味の欠片もないお兄さんの話しばかり毎日聞かされて、正直あたしも最近少しい
らっとしてました」

兄「それは悪かったな」

妹友(ずいぶんと冷静だな。妹ちゃんの方はともかく、お兄さんはいい兄妹の関係に戻ろ
うとしているだけなんだろうか)

妹友(妹ちゃんにちょっと脅かされただけで実家に帰って来るとか普通じゃないとは思う
けど)

妹友(ここの家の仲のいい兄妹ならありえることだし)

妹友(もう少し探ってみないと)


妹友「お兄さんが謝る必要なんてないですよ」

兄「そうか」

妹友「お兄さんごときに謝ってもらっても少しも気分は晴れないですから」

兄「・・・・・・それで? おまえは朝早くからこんなところで何してるんだ」

妹友「お兄さんと話しながら朝食が運ばれて来るのを待ってます」

兄「・・・・・・いや、そうじゃなくて」

妹友「ここで時間を潰して駅の出口を監視しようと思って」

兄「何のために」

妹友「妹ちゃんが昨日嬉しそうに明日お兄ちゃんが帰ってくるのって、目を輝かせながら
言っていたので」

兄「もしかして俺を待ってたの」

妹友「はい。お話しがあって」

兄「話って?」

妹友「お兄さんって妹ちゃんとはいい兄妹に戻ったんですよね」

兄「おまえも知ってのとおりだ。妹に送信する前にメールを見せたじゃんか」

妹友「そうですか。おかしいなあ」

兄「何か気になることでもあるのか」

妹友「実はそうなんですよ。で、てっきりお兄さんが性懲りもなくまた妹ちゃんを惑わせ
てるのかと」

兄「そんなことを疑ってたのかよ」

妹友「一番妥当な推論ですからね。お兄さん。嘘言ってないですよね」

兄「言ってねえよ。ちゃんと妹にも会っていい兄貴になるって、もうおまえを口説いたり
しないって宣言したぞ」

妹友「嘘じゃなさそうですね」

兄「嘘じゃねえよ」

妹友(嘘じゃなさそうよね。じゃあ、妹ちゃんの感情は空回りしているだけなのかな)

妹友(釘を刺しておかないと。妹ちゃんがお兄ちゃんと会わないことをお兄さんに認識さ
せないと)

妹友「じゃあ、何で妹ちゃんはうちのお兄ちゃんと会おうとしないのかなあ」

妹友(・・・・・・お兄さんの反応は)

兄「え」

妹友「お兄ちゃん落ち込んで悩んじゃって。最近妹ちゃんが冷たくて、登校時も下校時も
休日のデートも全部断られてるんですって」

妹友(なんだかよくわからない。でも、意外そうな表情と口調ではあるし)

妹友(・・・・・・)


<お兄ちゃん>




妹友「ただいま」

彼氏「え? おまえ寝てたんじゃなかったんだ」

妹友「ちょっと散歩してた」

彼氏「こんなに朝早くから?」

妹友「・・・・・・ちょっとね」

彼氏「くそ。おまえまで悩んでるのか」

妹友「え? どうしたの」

彼氏「・・・・・・いや、ごめん。何でもないよ」

妹友「何でもないようには見えないけどな」

彼氏「本当に何でもないって」

妹友「・・・・・・ご飯食べた?」

彼氏「例によって父さんも母さんもいないしな」

妹友「ごめんね。今すぐ用意するから」

彼氏「おまえが謝ることじゃないだろ」

妹友「とにかく朝ごはん作るね。アジの干物でも焼くね」

彼氏「・・・・・・え」

妹友「焼き魚とかがいいんでしょ」

彼氏「・・・・・」

妹友(あ)

妹友「ごめん。お兄ちゃんは朝はトーストとかがいいんだったよね。すぐ用意するから」

彼氏「和食が好きなのか。おまえの彼氏は」

妹友「違うよ」

彼氏「隠すことはないだろ。二人きりの兄妹なんだし」

妹友「そんなんじゃ」

彼氏「僕はおまえに全部話したじゃん。おまえの親友の妹ちゃんが好きなことを」

妹友「・・・・・・ただ、好きなだけじゃないんでしょ」

彼氏「ああ」

妹友「もうやめようよ。お兄ちゃんがそんな気持で妹ちゃんと付き合いたいって言うのな
ら、あたしはもうこれ以上は協力できない」

彼氏「うちの家族を壊した張本人にはそのことを後悔してもらわないといけないよね?」

妹友「・・・・・・妹ちゃんはあたしの親友なんだよ」


彼氏「別に妹ちゃんをつらい目にあわせるのは僕じゃない」

妹友「え」

彼氏「妹ちゃんが僕のことを好きになってくれたら、僕は全力で彼女を幸せにする」

妹友「どういうこと?」

彼氏「僕に惚れさせるってこと」

妹友「よく意味がわからないんだけど」

彼氏「簡単なことじゃん。妹ちゃんも妹ちゃんの兄貴もあのクソ親父の犠牲者だろ。そう
いう意味では僕たちと同じ境遇じゃないか」

妹友「それはそうかもしれないけど」

彼氏「妹ちゃんがつらい思いをするとしたら、それは彼女のあのクソ親父のせいだ。そう
さ。彼女は気づくだろうさ。自分と自分の愛する僕を不幸にしたのは自分の大好きだった
親父のせいだってさ」

妹友「・・・・・・」

彼氏「そしてそうなったらあのクソ親父だって後悔するだろうさ。誰よりも大切にしてい
た自分の最愛の娘が、自分の行動のせいで不幸になり自分を憎むようになったことを」

妹友「お兄ちゃん・・・・・・」

彼氏「そして妹ちゃんにそういう感情を抱かせたのが誰か、あいつはわかるだろうね。そ
うだよ。自分が崩壊させた家庭の息子である僕がそうしたんだって」

妹友「やめて」

彼氏「あいつは僕をさぞかし憎むだろうな。最愛の娘をたぶらかして自分のことを憎ませ
た僕をさ。そして後悔するだろう。幸せだったはずの二つの家庭を壊した自分の行動を」

妹友「・・・・・・お兄ちゃんって本当に妹ちゃんのこと、好きなの?」

彼氏「もちろん好きさ。何でそんなこと聞くんだ」

妹友「ママを盗られた復讐のためだけに妹ちゃんを利用しようとしているんじゃないでし
ょうね」

彼氏「そんなことはない。母さんの浮気を知る前から、おまえには妹ちゃんが好きだって
相談してただろう」

妹友「それはそうだけど」

彼氏「嘘じゃないよ。僕を信じろよ」

妹友「・・・・・・うん」

妹友(どうしよう)

妹友(正直、妹ちゃんのパパのことはどうでもいいけど。妹ちゃんはこんなお兄ちゃんと
付き合って幸せになれるのだろうか)

妹友(もういっそ、禁断の愛だとしてもお兄さんと結ばれた方が妹ちゃんにとって幸せな
んじゃ)

妹友(・・・・・・そんなことはない。近親相姦の関係に未来なんかないことは、あたし自身が
何年も悩んで出した結論じゃないの。それにあたしだってお兄さんのことが)

彼氏「和風とか洋風とかもう朝ごはんはどうでもいいや。僕は図書館に勉強しに行くけ
ど」

妹友「あたしも行ってもいい?」

彼氏「・・・・・・いいけど。おまえが図書館に付いてくるなんて珍しいな」

妹友「あたしもそろそろ受験勉強しようかなって」

彼氏「おまえ富士峰に内部進学するんじゃなかったのか」

妹友「地元の国立大学を受験しようかなあって」

彼氏「妹ちゃんのお兄さんの大学か。別にたいした偏差値じゃないから今から勉強すれ
ば何とかなるだろ。でも何で」

妹友「妹ちゃんの志望校だからさ。あたしも一緒に行きたいなって」


彼氏「あのさあ」

妹友「どうしたの」

彼氏「おまえ本当にいつも勉強してるの?」

妹友「してるって」

彼氏「理数系科目、ほぼ全滅じゃん」

妹友「それはこれから頑張る」

彼氏「センター受験するならこれじゃだめだろ。文系がいくらよくても」

妹友「だから今から真面目にやれば」

彼氏「・・・・・・あの駅弁大学受験って、最近決めたんだろ」

妹友「・・・・・・」

彼氏「得意科目が偏りすぎてるもんな」

妹友「別にいいじゃん。放っておいてよ」

彼氏「まあいいけど。そろそろ昼飯にしようぜ。朝食ってないから腹減ったよ」

妹友「そうだね」

彼氏「図書館の側に結構美味しい蕎麦屋があるんだ。行こうぜ」

妹友「お弁当はどうするの」

彼氏「え? 弁当って」

妹友「一応、サンドイッチ作って来たんだけど」

彼氏「いつの間に」

妹友「お兄ちゃんが出かける支度をしている間に」

彼氏「そうか。じゃあ、隣の公園で食うか」

妹友「そうだね」


<公園での邂逅>




 図書館の隣の公園の噴水広場には、噴水のある池を取り巻くように古びた木製のベンチ
が置かれている。あたしとお兄ちゃんが並んで噴水広場に着いたとき、あたしの視界にベ
ンチに寄り添って座っている見覚えのある二人の姿が映った。

 あたしはお兄ちゃんがその二人に気がつく前に行き先を変更しようと思ったのだけど、
ここまで接近していたらそんな不自然な行動はできなかった。あたしはしかたなく声をか
けた。

「妹ちゃん」

「え。ああ妹友ちゃん」

 妹ちゃんはなぜか見られたくないところを見られた人のように慌てた様子で返事した。

「偶然だね。図書館に勉強しに来てたの? 真面目だね」

「あ、別に」

 妹ちゃんの隣にはお兄さんが座っていて、どうも妹ちゃんの作ったお弁当を嬉しそうに
頬ばっているようだった。

 そこから先のことはまた夢を見ているようだった。お兄さんは今朝あたしと会ったこと
を妹ちゃんとお兄ちゃんの前で堂々と話してしまった。あたしのことなどどうでもいいと
思っているのだろうから無理もない行動ではあったけど。

 案の定妹ちゃんはそのことに反応した。平たく言えばあたしにやきもちを焼いたのだ。
もうそうとしか思えなかった。

「何? 妹友ちゃんとお兄さんって今朝どっかで会ってたの」

「あ、いや」

 今さら誤魔化してもしかたないのにお兄さんは初めてうろたえたように言った。

「・・・・・・妹友ちゃんとお兄ちゃんって仲いいんだ。何かあたしお邪魔みたい」

 妹ちゃんは完全に拗ねてしまったようだった。でもこれはチャンスかもしれない。お兄
さんとあたしは実は妹ちゃんの知らないところで繋がっている。こうなったらもうそれは
隠すべきではないのかもしれない。

「お兄ちゃんって、女さんの次は自分の妹の親友に手を出してたんだ」

 妹ちゃんがあからさまに嫉妬している様子があたしには手に取るようにわかった。そし
て多分それはお兄ちゃんにも伝わってしまったのではないか。

「ちげえよ」

「じゃあ何で妹友ちゃんと密かに逢引したりしてるのよ」

「逢引って。言葉が古いよ」

「そんなことより妹ちゃん」

 あたしは妹ちゃんの注意をお兄ちゃんに向けた。

「あ・・・・・・何で」

「あ」

お兄ちゃんと妹ちゃんの視線が交錯した。


「・・・・・・彼氏君」

「妹ちゃん。何か久し振りだね」

「そ、そうかな」

「最近一緒に登下校してくれないから。何か久し振りに会う気がする」

「ごめん」

「別に君のこと責めてるわけじゃないんだ。・・・・・・今日は図書館で勉強?」

「う、うん」

「それなら僕のことも誘ってくれたらよかったのに」

「ごめん」

 このときのお兄ちゃんの気弱そうな反応が逆にあたしを後押しした。お兄ちゃんがあた
しに言った復讐的な言葉は嘘ではないと思う。でも、妹ちゃんを前にして情けない態度を
見せているお兄ちゃんの姿もまた演技ではなかった。復讐を決めたお兄ちゃんも妹ちゃん
を前にしてうろたえるくらい彼女のことが好きなのだ。

 情けないお兄ちゃんの様子を見てあたしは再び決心した。お互いの両親の不倫とかは一
時忘れて、あたしたち四人が幸せになるために。

「そうそうお兄ちゃん、紹介するね。この今にもここから逃げ出そうと姿勢を低くしよう
としている人が、妹ちゃんのお兄さんだよ」

妹「・・・・・・ちょっと。やめてよ」

 こんなにうろたえている妹ちゃんの声をあたしは初めて聞いた。でももうやめるわけに
はいかなかった。

「ああ、お兄さん。妹友からお話は伺ってます。初めまして。妹友の兄の彼氏です。妹さ
んとはお付き合いをさせていただいてます。よろしくお願いします」

「・・・・・・どうも」

「お兄さんとは初めてお会いできました。前から妹ちゃんには紹介してってお願いしてた
んですけど、彼女自分の家族には絶対紹介してくれないんですよ。僕ってそんなに頼りな
いのかなあ。あはは」

「そうなんだ」

「お兄さん」

 あたしは思い切ってお兄さんに言った。

「俺?」

「そうです。あたしたちは恋人同士の邪魔みたいですから一緒に消えましょう」

「いや、だってまだ弁当食ってないし」

「あたしもお弁当を作ってきましたから。妹ちゃんのお弁当をお兄ちゃんが食べて、あ
たしのお弁当をお兄さんが食べてくれればそれで無問題です」

 それを聞いて妹ちゃんは恐い顔で黙ってしまった。


「へ? 妹友、おまえひょっとしてこのお兄さんのことが」

「デリカシーがないですよ、お兄ちゃん」

「気がつかなかったよ。そうだったのか。お兄さん、ふつつか者ですが妹友のことをよろ
しくお願いします」

「ちょっと待て。何の話だ」

「さっきから黙って聞いてればみんな何勝手なこと言ってるのよ! いい加減にして」

「あ、ごめん。妹が勝手なこと言っちゃって。妹ちゃん今日はお兄さんと用事があったん
だよね」

 お兄ちゃんが妹ちゃんに気を遣ったように話しかけたけど、妹ちゃんは恐い顔をしたま
まだった。

「彼氏君さあ。何か誤解しているみたいだけど」

 結局お兄さんは直接お兄ちゃんに話しかけた。

「俺と君の妹は別に付き合ってないから」

「本当?」

 まずその言葉にそれに反応したのはお兄ちゃんではなく妹ちゃんだった。

「ああ」

「お兄ちゃん、妹友ちゃんのことが好きなわけじゃないの?」

「好きじゃねえよ」

「今朝、妹友ちゃんと会っていたの?」

「偶然な」

「そっか。偶然か」

「そ。信じるかどうかはおまえに任せるよ」

「信じる」

「うん」

「信じるよ。家族だもんね」

「そうだったんですか。勝手に妹と付き合っているなんて誤解しちゃってすいませんでし
た」

 お兄ちゃんが突然冷静な声で会話に割り込んだ。

「ご迷惑でしたね。妹がいろいろすいません」

「気にしなくていいから」

「彼氏君・・・・・・。あのね、あたし」

「いいっていいって。全部うちの妹の勘違いが悪いんだから」

「そうじゃないの。あたしね」

「僕は無理強いはしなかった。でも、あの日。おまえが間に入ってくれて妹ちゃんに告白
して、妹ちゃんがOKしてくれた日は本当に嬉しかったよ」

 でもお兄ちゃんは何か企んでいるようだった。お兄さんに謝っているようで実はお兄ち
ゃんは妹ちゃんと自分の恋愛関係をお兄さんに曝露していたのだ。


 そのとき妹ちゃんが切れた。きっとお兄ちゃんの意図に気が付いていたのだろう。お兄
さんの前ではお兄ちゃんと妹ちゃんの関係を口にしないこと。お兄ちゃんと付き合うにあ
たって妹ちゃんが出した条件がそれだった。お兄ちゃんは了解したらしいけど、その条件
自体理不尽極まりない。

「もうやめて」

「え? 何で」

「いい加減にして。約束が違うじゃない」

「え? でも図書館では」

「お兄ちゃん行こう」

「へ」

「家に帰ろ。変な邪魔が入って気分が悪いし」

「だって弁当は? つうかデートはどうするの」

「外出すると外野が邪魔して鬱陶しいし。家の中なら誰にも邪魔されないじゃん」

「鬱陶しいって僕のこと?」

「妹ちゃん、それはお兄ちゃんに対して言いすぎでしょ。お兄ちゃんに謝ってよ」

 多分正しいのは妹ちゃんの方だ。無理な恋愛を既成事実に持ち込もうとして足掻いてい
るのはお兄ちゃんの方なのだから。でもその動機は復讐だけじゃない。お兄ちゃんは妹ち
ゃんのことを。

 あたしはお兄ちゃんの側に立って反論した。

「謝らないよ。お兄ちゃん行こう」

「え? だってよ」

「・・・・・・それともお兄ちゃんは妹友ちゃんのお弁当を食べたいの」

「んなわけえねえだろ。でもおまえの弁当だって食いかけで」

「おうちで食べよう。やっぱり自分の家が一番いいよ。変な人も邪魔しないし」

「変な人? もしかしてうちのお兄ちゃんのことを言ってるの」

「さあね。それが自分のことだって気がついていない人のことじゃないかな。約束も守れ
ない人なんてあたし大嫌い」

「人の心ってそんなにマニュアルどおりになるものじゃないでしょ! ちょっとだけでも
お兄ちゃんの気持も考えてよ」

「その言葉そっくり妹友ちゃんに返すよ」

「・・・・・・どういう意味よ」

「ちょっとはあたしやあたしのお兄ちゃんの気持ちも考えたら? 何で妹友ちゃんはいつ
も自分と自分のお兄さんの気持ばっかり優先するわけ?」

 正直これには返す言葉がなかったのだけど。

「妹友、もうよせ」

 お兄ちゃんがこのとき冷静に間に入ってあたしをたしなめた。


今日は以上です
次回は別スレ投下後になります

おつ

すげぇ...

最近これぐらいしか言えてないわww

でもマジすげぇ.....


<お兄さんの引越し>



 それからしばらく、気まずくなってしまったあたしと妹ちゃんは学校でも会話をしなか
った。当然、お兄ちゃんには妹ちゃんから何の連絡もないし、あたしとお兄さんもそうだ
った。

 予想していたことだけど、今では修復不可能なほどに壊れてしまった家族であったため、
連休の家族旅行は何もないということをあたしは、パパとママから別々に言い訳混じりに
伝えられた。パパもママも観光産業に従事しているから別にそれは珍しいことではない。
今までだってよくあったことなのだ。

 それなのにわざわざ言い訳がましく弁解している両親を見ることが本当につらかった。
それにその後の妹ちゃんとお兄さんの仲がどうなっているのかも全くわからなかったこと
もつらかった。むしろ両親のことよりそっちの方がつらかったくらいだ。

 学校での妹ちゃんはあたしとは全く視線を合わせようとしないこと以外は、普段の妹ち
ゃんそのものだったから、学校の友人たちも特に彼女に何か変わったとことが起きている
とは思ってもいなかったと思し、あるいはそれは正しかったかも知れない。

 それでもあたしは心の中で疑っていた。図書館であたしと会っていたことを知った妹ち
ゃんがお兄さんに向けた態度や言葉、それに約束を破ってお兄さんに妹ちゃんとの付き合
いをほのめかしたお兄ちゃんに対する妹ちゃんの激怒を考えると、やはり今でも妹ちゃん
はお兄さんのことが好きとしか思えなかった。

 もう四日後には連休に入るその日のことだった。あたしは再び兄友さんに呼び出された。



妹友「・・・・・・またあなたですか。あたしだって忙しいんですよ。いつもいつもあなたの相
談に応じている時間はないんです」

兄友「まあそう言うなよ。俺と妹友ちゃんの仲じゃないか」

妹友「あたしと兄友さんがいったいどんな仲だと言いたいんですか」

兄友「まあ、言ってみれば。戦友?」

妹友「はい?」

兄友「だから戦友」

妹友「頭沸いてるんですか。何であたしが兄友さんの親友なんですか。言うにこと欠い
て・・・・・・恥を知りなさい」

兄友「親友とか言ってねえし。戦友だって」

妹友「ますます意味不明なんですけど」

兄友「いやさ。俺と君ってお互いに手を取り合ってここまで修羅場を乗り越えてきた仲間
じゃん」

妹友「寝言は」

兄友「寝て言えだろ? それはもう聞き飽きたって」

妹友「・・・・・・・ご用件を伺いましょう」

兄友「今日は結構暑いよね」

妹友「・・・・・」

兄友「そういやさ。妹友ちゃんって制服のセーラー服も可愛いけど、私服姿もいいね」

妹友「・・・・・・」

兄友「何か清純な女子高生って感じがして」

妹友「・・・・・・コーヒー代、ここに置いて置きますね」

兄友「ちょっと待ってよ」

妹友「用事がないなら帰ります」

兄友「・・・・・・相談があるんだって」

妹友「なら最初からさっさとそう言ってください」

兄友「あのさ」


妹友「・・・・・・」

兄友「兄が引越したことは知ってる?」

妹友「引越? 知りません。いったいどこに引越したのかすぐに教えなさい」

兄友「いきなり食いついてきた。やっぱ君って兄のこと」

妹友「うるさい」

兄友「まあ、いいけど。どこへっていうか実家に帰ったんだよ」

妹友(妹ちゃんのいる場所に戻って行った? まずい)

兄友「知らなかったのか」

妹友「知りませんでした。てか、何で兄友さんが知っているんですか。お兄さんから聞い
たの?」

兄友「それがさ。言いづらいんだけど」

妹友「兄友さんはそんなのばっかですね。今さら躊躇しなくても驚かないから安心してく
ださい」

兄友「つまりだな。まあ、何と言うか成り行きと言うか」

妹友「はっきり言いなさい」

兄友「・・・・・・はい」



兄友『女~、いるか』

兄友『女のやつ今日は講義休んでるのに。部屋にはいないのかなあ』

引越業者『兄さん、遅くなりました。○○便です』

兄友『あれ? そこは友だちの部屋ですけど、ひょっとして兄って引っ越すんですか』

兄『どうもご苦労様です』

引越業者『どうも遅くなりました。梱包終ってるようですね』

兄『はい』

引越業者『じゃあ、トラックに積み込んでいいですか』

兄『お願いします』

兄友『よう兄』

兄『おう』

兄友『・・・・・・おまえ、もう引っ越すの?』

兄『まあな』

兄友『おまえも気まぐれだよなあ』

兄『・・・・・・』


妹友「本当に偶然なんですか」

兄友「うん。女が講義休んだから心配になってさ。サボるようなやつじゃないから病気に
でもなったんじゃないかって思って訪ねてみたんだよな」

妹友「そしたらお兄さんが引越しの最中だったというわけですか」

兄友「そうなんだよ」



兄友『あ。妹ちゃん、久し振り』

妹『・・・・・・お久し振りです』

兄友『相変わらず可愛いよね。妹ちゃんは』

妹『どうも』

兄『今日は兄の手伝い?』

妹『はい』

兄友『兄のことが好きなんだねえ』

妹『はい。大好きです』

妹友「ちょっと待ってください。妹ちゃんはお兄さんのことが大好きだってはっきりと口
にしたんですか」

兄友「そうだよ。俺もちょっとびっくりして引いちゃったよ」

妹友「・・・・・・」


兄友『そ、そうか。まあ昔から兄と妹ちゃんは仲良しだったもんな』

妹『そうですね』

兄友『しかしおまえ、今度はどこに引っ越すの?』

兄『実家に戻る』

兄友『何で? 通学つらくなるだろ』

兄『女と隣りだとおまえも女も気まずいだろうと思ってな』

兄友『ちょっと待て』

兄『何だよ。俺なんか邪魔だろ?』

兄友『俺が言うのも申し訳ないけどさ。この場合引っ越すのは兄じゃなくて女の方だろ』

兄友『本当にすまん! 別にメール一本で済む話じゃねえとは思ってた。そのうち女も入
れて三人で話し合って、きちんと謝ろうって女友と話してたんだ』

兄『そういうのいらないから』

兄友『だってよ』

妹『余計な言い訳をして自己満足するつもりですか? 兄友さんと女さんは』

兄友『そうじゃないよ』

妹『罪悪感を晴らしたいだけでしょ。お兄ちゃんに謝ったっていう既成事実を作って』

兄友『俺は、俺と女は兄を傷つけちゃったし』

妹『二度とお二人はお兄ちゃんとあたしに話しかけないでください』

兄友『・・・・・・俺はまだ兄の親友だって思っているから』

妹『お兄ちゃん?』

兄『兄友、今までありがとな。でも、もう俺には話しかけないでくれ。女にもそう言って
おいてくれな』

兄友『おい。冗談だろ』

妹『冗談なわけないでしょ。それくらいの仕打ちをあなたたちはあたしの大切なお兄ちゃ
んにしたんですよ』

兄友『そんなつもりじゃ。そこまでしたつもりはなかったんだ』

妹『じゃあようやく何をしたのか理解できてよかったですね』


<今日は怒らないの?>




兄友「結構マジでへこんだよ。妹ちゃんにあんなに強い口調で責められたのなんか初めて
だったし、それに、兄に引越しまでさせるほどのことを俺はしちゃったのかって思い出し
たら何か自分がやったことが恐くなってさ」

妹友「今さら何を言ってるんですか。女さんに嘘を言ってまでお兄さんと別れさせたのは、
女さんのためなんでしょ」

兄友「そうだよ。別に俺が女とよりを戻したいからという理由だけじゃねえよ」

妹友「だったらなんで今さら罪悪感なんか感じてるんですか」

兄友「兄は女のことなんか本当は好きじゃねえのかなって思ってたんだけどさ。それなら
女に振られたくらいで引越しまでするかなって思ってよ」

妹友「お兄さんにとってみれば振られた相手と隣同士なんてあり得ないでしょ。引越しを
決めたって無理もないですよ」

兄友「だからそれがショックだったの。引越しって金も手間もかかるじゃんか」

妹友「それはそうでしょうね」

兄友「俺って何か考えが甘かったみたいだ。高校の頃の恋愛感情とか人間関係で振った振
られたなんてよくあったし、今回もその延長みないに軽く考えていたのかもしれない」

妹友「普通の高校生は振った振られたなんかよくはあったりしないと思いますけどね。そ
れはともかく何が言いたいですか? さっぱり意味がわかりません」

兄友「わざわざ引越してきたのに二ヶ月もしないでまた金と手間をかけて実家に戻るとか
さ。妹ちゃんの言うように兄って本当は結構傷付いているんじゃねえかな」

妹友「お兄さんの方は女さんのことがそんなに好きなようには見えないって兄友さんが言
ってたんじゃないですか」

兄友「そう思ったから行動したんだけどさ。兄が本当は女が好きで、俺のしたことで傷付
いているとしたらよ。どうしようかなあ」

妹友「お兄さんは単純に妹ちゃんと一緒に暮らしたくなっただけかもしれないですよ?
一月も離れ離れになって寂しかったのかも」

兄友「それならいいんだけどさ」

妹友「もうしてしまったことは後悔してもしかたないでしょ。兄友さんは女さんの心のケ
アを頑張ったらどうですか? そうすればいつかは復縁できるかもしれないし」

兄友「・・・・・・そうだよな。今さら後悔してもしかたないもんな」

妹友「応援してますから頑張ってくださいね」

兄友「・・・・・・妹友ちゃん」

妹友「きゃ。な、何するんですかいきなり」

兄友「君っていい子だな。前にも言ったかもしれないけど」

妹友「・・・・・・離してください」

兄友「もっと早く君に会いたかったな」

妹友「何言ってるの・・・・・・」

兄友「今日は怒らないの?」

妹友「お、怒ってます! だから手を離してって」

兄友「・・・・・・顔、赤いよ」

妹友「うっさい」


妹友「今日も会っちゃいましたね」

兄友「・・・・・・悪い」

妹友「まあ、お互い様ですし、本気で兄友さんと会うのが嫌だってわけじゃ・・・・・・。それ
よりずいぶんと落ち込んでいるようですけど、まだお兄さんのことが気になっているんで
すか」

兄友「・・・・・・」

妹友「どうしました? 人を呼び出しておいてだんまりはないでしょう」

兄友「俺、もういろいろ駄目かも」

妹友「だからどうしたんですか。相談に乗ってあげるのでさっさと話してください」

兄友「昨日、女と女友に呼び出された」

妹友「はあ。それで?」

兄友「俺が女に嘘ついてたのがばれてた」

妹友「え? 何で、何でばれちゃったんですか? いったいどうして」

兄友「よくわかんないだけど、女と女友と、兄と妹ちゃんが一緒に会って話し合いをした
らしい。それで妹ちゃんに確認されて俺の嘘がばれた」

妹友(まずい。まさか、あたしが兄友さんと相談していたこともばれたんだろうか。ただ
でさえ妹ちゃんとは図書館脇の公園で仲違いしちゃったばかりなのに)

兄友「・・・・・・心配しなくても君のことは一言も話してねえよ」

妹友「(え)あたしのことを庇ってくれたの?」

兄友「だって庇うも何も全部俺の自業自得だもん。君と会ってたなんて言ったら君が誤解
されるだろうし」

妹友「(何でこの人はあたしを庇ったの?)それで、いったいどんな感じだったんです
か」

兄友「・・・・・・まあ」


女友『何で呼ばれたかわかってるよね』

兄友『全然わかんねえんですけど。女?』

女『・・・・・・』

女友『あんたさあ。いい加減にしろよ』

兄友『何を言ってるんだよ・・・・・・』

女友『あんた最低だね。嘘をついてまで女を取り戻したかったのかよ』

兄友『・・・・・・・』

女友『もともとあんたが女を振ったんでしょ? 浮気相手の子を妊娠させちゃったから別
れてくれって』

兄友『・・・・・・』

女友『過ぎたことはもう言わないであげるよ。これだけだってあんたは十分に女にひどい
ことをしたけど、女は立ち直ったんだよ。中学の頃からの知り合いの兄君と付き合うこと
によってさ』

兄友『・・・・・・』

女友『なのに何で嘘までついて女と兄君を引きはがすようなことをしたの? 女に未練が
あったからなんでしょ?』

兄友『・・・・・・』

女友『さっきから黙ってないで何とか言いなよ』

兄友『・・・・・・うん』

女友『うんって? うんって何よ』

兄友『・・・・・・』

女友『今日妹ちゃんと話したよ』

兄友『・・・・・・そう』

女友『兄君のことを振って後悔しているとか、兄君を女さんから取り戻したいなんてあん
たに相談したことなんかないってさ』

兄友『・・・・・・』

女友『何俯いちゃってるのよ。何か言うことがあるんじゃないの』

兄友『・・・・・・』


妹友「・・・・・・何でここまで来ちゃったら本当のことを言わなかったんです? お兄さんが
女さんのことを好きだとは思えなかったから、女さんを救おうとしてって」

兄友「言えねえよ。俺がしたことを考えればさ」

妹友「ああもうじれったいなあ。女さんのことを思ってしたことでしょ。間違ったことを
したにしてもそれくらいは弁解しなさいよ」

兄友「いや。そうもいかないよ」

妹友「何でよ? 浮気は兄友さんが悪いけど、その後は女さんのことを考えてしたことで
しょ」

兄友「そんなこと。言葉で言ったって説得力ないよ。実際の行動からすればさ。俺のこと
多少なりとも信じてくれるのなんって君くらいだ」

妹友「・・・・・・」

兄友「まあもういいよ。これでも女が兄のことを信じるならもうしかたない。できること
はしたんだし」

妹友「本当は復縁したかったんでしょ」

兄友「君の言うことに少しは期待したけど。でもあそこまで女友に言われたら女が俺のと
ころに戻ってくれる可能性なんかないだろ」

妹友「ずいぶん冷静なんですね。女友さんにフルボッコにされた後なのに」

兄友「女友に悪気はないだろうから。それに」

妹友「それに何です?」

兄友「何でもない」

妹友「今さら隠しごとをするような仲じゃないでしょう」

兄友「・・・・・・やめておくよ」

妹友「いいから言いなさい。何で黙って女友さんも責められたままになってたんですか」

兄友「いや。女を救いたいと言う気持は嘘じゃなんだけどさ」

妹友「嘘じゃないけど。やっぱり自分が女さんと復縁したしたいという自分勝手な気持が
あったからですか」

兄友「そうじゃねえよ」

妹友「どういうこと」

兄友「女を救いたかった。それは本当」

妹友「はあ」

兄友「でも女と復縁とかはない。もともと俺のせいで別れたんだし」

妹友「よくわからないです。あたしは女さんを慰めてればいつかは復縁できるんじゃない
かって言いましたよね」

兄友「うん」

妹友「そんなに辛抱できないですか? ひょっとして女友さんが気になるんですか」

兄友「・・・・・」

妹友「どうなんですか」

兄友「正直に言うとさ」

妹友「どうぞ。ここまできたら正直な気持を言ってください。及ばずながらあたしもしか
たないから兄友さんの味方になってあげますから」

兄友「本当か」

妹友「ええ」

兄友「俺が好きなのは君だよ。妹友ちゃん、俺と付き合ってくれ」


妹友「脳みそ」

兄友「沸いてない。本気なんだ。ここまで腹を割って話せる女の子は君だけだし」

妹友「あ、あなたは。言うにこと欠いて何を言って」

妹友(何なのよいったい)

妹友(あたしが好きとかふざけな。恋愛脳の浮気男の癖に)

妹友(・・・・・・何なのよもう)

妹友(どんどん身の回りの人間関係が複雑になっていくじゃないの)

妹友(お兄ちゃんへの想いはもう断ち切ったはず。兄妹の恋愛なんてたとえ成就したって
未来なんかないし)

妹友(あたしが今気になっているのはお兄さんだ)

妹友(・・・・・・別にお兄さんのことを好きになったっていいよね。それはママの浮気を考え
ると何か微妙ではあるけど)

妹友(・・・・・・・・)

妹友(・・・・・兄友さんか)

妹友(別に男の人に告白されるのは始めてじゃないけど。それにしても兄友さんか)

妹友(お兄さんが好きなあたしがあの人にいい返事なんかするわけないのに)

妹友(だいたい彼女がいるのに浮気するような男なんて)

妹友(・・・・・・携帯?)


妹友(妹ちゃん)

妹友「はい」

妹「・・・・・あたし」

妹友「うん」

妹「あのさ。この間は言いすぎた。ごめん」

妹友「・・・・・・・うん」

妹「でも、お兄ちゃんの前であんなこと言われるとは思わなかったから。約束してたし」

妹友「それはそうかもだけど。でもお兄ちゃんだって図書館のことで期待しちゃったと思
うし」

妹「・・・・・・」

妹友「・・・・・」

妹「あのさ」

妹友「うん」

妹「連休なんだけど。妹友ちゃんの親って連休中が忙しいって言ってたじゃん?」

妹友「まあ観光産業に勤務してるからね。二人とも」

妹「じゃあ連休中はお出かけしないんでしょ」

妹友「うん」

妹「うちもさ。家族の香港旅行なくなっちゃて」

妹友「そうなの」

妹「うん。それでね。よかったら一緒に伯父さんの海辺の別荘に行かない?」

妹友「海辺の別荘って」

妹「妹友ちゃんとちゃんと仲直りもしたいし、お兄ちゃんが車を出すって言ってるし」

妹友「せっかく仲直りしたんだしお兄さんと二人で行けばいいのに」

妹「いいじゃない。一緒に行かない?」

妹友「うちのお兄ちゃんを一人にはできないし」

妹「あ。そうか」

妹友「・・・・・・・うん」

兄友「どうした? 誰から電話?」


今日は以上です
また投下します

おつ



また急展開だな...

海辺で兄といい感じになっていた時の妹友の心境が気になる.....

乙です
女が兄に対してよそよそしくなったのは
兄友の想いがわかったからなのかな?
であればやっぱり兄友最悪だな

面白くて一気読みした。
もしかして以前にも二作ほど兄妹SS書いた人?
妹友がレズなやつと女神板のヤツ。両方結構好きだったけど女神のやつは途中で読めなくなったんだよなあ。
違ってたらごめんなさい。続き楽しみにしてます。


<それがお兄ちゃんのせいなら>




妹友(なし崩しに妹ちゃんと仲直りしてしまった。あのときのことにはお互い全く触れる
ことすらなく。こんなんで本当に仲直りしたって言えるのかなあ)

妹友(何か汚いごみ箱に蓋をしただけって感じ)

妹友(でも妹ちゃんは気にしている様子はない。というか何かはしゃいでるし)

妹友(香港に行けなくなってがっかりしてるととか言ってたのに。むしろ喜んでいるとし
か思えないなあ)

妹友(家族大好きな妹ちゃんが香港への家族旅行が中止になって、そのかわりに両親抜き
で伊豆旅行になった。そんなんであの子が喜ぶはずがないのに)

妹友(何でこんなにはしゃいでるんだろ。お兄ちゃんと一緒だから?)

妹友(それならいいんだけど・・・・・・)

妹友(お兄さんはどう思っているんだろう)

妹友(前の席でお兄ちゃんと何か親しそうに話してるけど)

妹友(二人はいったい何を話してるんだろ)

妹友(・・・・・・・兄友さん)

妹友(て、違う。何でこんなときにあんなやつのことが)

妹友(・・・・・・)



兄友『正直に言うとさ』

兄友『俺が好きなのは君だよ。妹友ちゃん、俺と付き合ってくれ』

妹友『脳みそ』

兄友『沸いてない。本気なんだ。ここまで腹を割って話せる女の子は君だけだし』

妹友『あ、あなたは。言うにこと欠いて何を言って』


妹「まだ着くまでに時間かかるの?」

妹友(びっくりした。妹ちゃん寝てるんだと思ってた)

兄「ああ。渋滞してるしな。海が見えるまであと二時間くらいはかかるかもな」

妹「じゃあ、どっかでお昼食べようよ。その後は買物だってしなきゃいけないし」

妹友(別に普通の口調だよね。特にお兄さんのことを意識している様子もないし)

兄「じゃあ次のファミレスで休憩しようか」

妹友(・・・・・・お兄さんもそうだよね?)

妹「うん。お腹空いちゃった。妹友ちゃんもそれでいい?」

妹友「(あたし?)うん」

彼氏「お兄さん」

兄「どした」

彼氏「あそこにファミレスがありますよ」

兄「おお。じゃああそこに入ろう」

妹友(ファミレスか。どういう風に座るんだろう。まさか自分からお兄さんの隣に割り込
むわけにもいかないよね)



妹友(ファミレスに着いて車を降りた途端、自然にお兄ちゃんと妹ちゃんが肩を並べた)

妹友(・・・・・・図書館の隣の公園で、妹ちゃんはあんなに怒ってたのに)

妹友(あれはお兄さんとのデートを邪魔された怒りだと思ってたけど)

妹友(何だかよくわからないなあ)

妹友(並んで楽しそうに喋っているお兄ちゃんと妹ちゃんの後ろをお兄さんが歩いて着い
て行く。なんか心なしかしょんぼりとした感じ)

妹友(何でかな。少しだけ胸が痛い)

妹友(・・・・・・あたしなんかに何ができると言うけじゃないけど)

妹友(それがお兄ちゃんのせいなら。あたしは)



彼氏「おつかれ」

妹「彼氏君こそ疲れたでしょ? ずっとお兄ちゃんの隣で気を遣ったんじゃない?」

彼氏「そんなことないよ。お兄さんって話し上手だし」

妹「こら。嘘言うな。そもそもそういうのを気を遣うって言うんだよ」

彼氏「本当だって」

妹「まあそういうことにしておいてあげるよ」

妹友(・・・・・・お兄さん、何か寂しそう)

妹「四人です。禁煙席をお願いします」

妹友(ひょっとして妹ちゃんとお兄ちゃんに嫉妬している?)

妹友「・・・・・・お兄さん」


妹友「お兄さん」

兄「あ、悪い」

妹友「どうかしましたか」

兄「いや、大丈夫だよ」

妹友「お兄ちゃんと妹ちゃんは先に行っちゃいましたよ。あたしたちも席に行きましょ
う」

兄「そうだな」

妹友「そっちじゃないです、お兄さん。そっちは喫煙席ですから」

兄「お、おう悪い」

妹友「あそこみたいですよ」

兄「そうだな」

妹友「お待たせ」

妹「妹友ちゃんもお兄ちゃんも遅いよ。何してたのよ」

妹友(うん?)

兄「何って別に」

妹「早く座って。お腹空いたってば」

彼氏「まあまあ。お兄さんは一人で運転してくれて疲れてるんだから。あんまりわがまま
言っちゃだめだって」

妹「だってさあ」

妹友(あれ)

妹友(既に奥には妹ちゃん、その隣にお兄ちゃんがが並んで座っている)

妹友(お兄さんの反応は)

妹友(・・・・・・無表情。かえって気になるじゃない)

妹友「お兄さん奥に行きますか?」

兄「いや、妹友ちゃんが先に座りなよ。妹の向かいの方が話しやすいでしょ」

妹友「(お兄さんはそれでいいのかな)それじゃあ」

兄「うん」

彼氏「お兄さんメニューをどうぞ」

兄「ありがとう。じゃあ、妹友ちゃん一緒にメニューを見ようか」

妹友「そうですね。二つしかないみたいだし」

彼氏「妹ちゃんは何にする?」

妹「・・・・・・」

彼氏「妹ちゃん?」

妹「ああ、ごめん。どうしようかなあ」

妹友(妹ちゃんの反応もさっきから微妙だな)

<おまえの冗談はたちが悪い>


兄「このリゾットって何だろ」

妹友「ああ、それはイタリアのお米を使った料理ですよ」

兄「雑炊みてえだな」

妹友「味は大分違いますけど、まあイメージはそんな感じです」

兄「雑炊ならいいや。何か肉食いたいな」

妹友(さっきから微妙に妹ちゃんの視線を感じる。妹ちゃんはお兄ちゃんと会話している
のに何でよ)

妹友(それでも何かこういう会話って嬉しい。あたし、お兄さんのお世話をしているみた
い)

妹友(こんな感情をお兄ちゃん以外の人に抱くのって初めてだな)

兄友『俺が好きなのは君だよ。妹友ちゃん、俺と付き合ってくれ』

妹友(違うって。今はそんなことはどうでもよくて)

妹友(・・・・・・あたしは多分、お兄さんのことが)

妹「・・・・・・今夜は海岸でバーベキューするんだよ。お昼からお肉を食べてどうすんのよ」

妹友(何言ってるの。ようやくお兄さんに話しかけたと思ったら文句?)

妹友(妹ちゃんなんかむかつく)

妹友「まあ、でもお兄さんは運転で疲れてるでしょうし、好きなものを食べた方がいいで
すよね」

兄「ありがと妹友ちゃん」

妹「・・・・・・」

妹友(黙っちゃった)

彼氏「妹ちゃんは何食べるの?」

妹「どうしようかなあ。彼氏君は?」

彼氏「僕はこの渡り蟹のトマトソースパスタにしようかな」

妹「美味しそう。じゃあ、あたしは違うパスタにするね」

彼氏「何で?」

妹「違うやつにすれば二人で二種類のパスタを食べられるじゃん」

彼氏「え?」

妹「あたしは和風明太マヨスパゲッティーにしようかな」

妹友「(何かいらいらする。お兄さんに寄り添ってあげよう)じゃあ、お兄さんはこのサ
イコロステーキセットにするんですね」

兄「いや、ちょっと待ってくれ」

妹友「今度はいったい何ですか」

兄「こっちのステーキセットと同じグラム数なのにサイコロの方は何でこんなに安いんだ
ろ」

妹友「多分、成型肉を使ってるから安いんだと思いますよ」

兄「成型肉って何?」

妹友「肉の切れ端の部分は普通は棄てるんですけど、それを集めて圧力をかけてサイコロ
状にしたのがこのサイコロステーキだと思います。廃棄するところを使っているから安い
んですよ」

兄「そんなのを食うのはやだなあ」

妹友「じゃあこっちのヒレかロースのステーキにしたらどうですか」

兄「どう違うの?」


妹友(ふふ。お兄さんって食べ物の知識ないんだなあ。今まで用意されてるのを食べるだ
けだったのね)

妹友「いちいち解説したらきりがないです。ロースの方が脂身が多い。それでいいでし
ょ」

兄「解説の手を抜くなよ」

妹友「(お兄さん偉そう。でもなんと言うか)お兄さんはロースステーキで決まりです
ね」

兄「勝手に決めるな。俺はヒレの方が」

妹友「(ちょっとだけ嬉しい・・・・・かな)ヒレは赤身中心の肉なので、ギトギト系が好き
なお兄さんが満足できないんじゃないですか」

兄「え? そうなの。 じゃあ、ロースでいいや」

妹友「本当にそれでいいんですね?」

妹「・・・・・・いつまで選んでるのよ。いい加減に決めてよ!」

兄「え?」

妹友(え?)

彼氏「妹ちゃん?」

妹友「あ、ごめんなさい(何であたしが謝ってるんだろう)」

妹「あ。あたしの方こそごめんなさい」

妹友(うーん。妹ちゃんって)

妹友(・・・・・・いったい何をしたいんだろ)

兄「本当にロースでよかったんだよな」

妹友「知りませんそんなこと」

兄「おまえが勧めたんだろうが」

妹友「自己責任としか言いようがないんですけど」

兄「言い返せないことが何かすげえ悔しい」

妹友「・・・・・・本当に馬鹿なんですから。お兄さんって(・・・・・・ふふ。お兄さんって何か可
愛いかも)」

妹「・・・・・・」

彼氏「妹ちゃん?」

妹友(何かお兄ちゃんと妹ちゃんも微妙な雰囲気になっちゃった。さっきまですごく
いい雰囲気だったのに)


 ファミレスの微妙な雰囲気での食事の後、何となく食事の時の席順そのままに車内の座
席が決まった。後部座席の二人がどんな気持だったのかはわからないけど、少なくともあ
たしは少し気まずい思いを抱きながら運転席のお兄さんの隣に遠慮がちに座った。

 お兄さんは後部座席の二人を気にする様子もなくシートベルトを締めてからエンジンを
かけた。そのまま車はファミレスの駐車場を出て海沿いの国道に滑り出して行った。

 海がある方向には海辺は見えず、海辺に沿って植えられている砂防林の松林が海と空を
遮っていて、周囲の景観に目を紛らわすことができないあたしは、何となくお兄さんが国
道に添って車を運転してる姿を見つめているしかなかった。

 海があるであろう方向に沈んでいく夕日に照らされているお兄さんの横顔。

 ハンドルを握っている男の子らしい無骨な手。

 まっすぐに正面を見つめているお兄さんの瞳の指しているその先。

 どういうわけかはわからない。けど、あたしはあたしのことなんかちっとも気にしてい
ない様子のお兄さんの顔をひたすらじっと見つめていた。時間が経過するに連れてお兄さ
んの横顔が夕日に染まっていく。

 後部座席を振り向くとお兄ちゃんも妹ちゃんも眠ってしまっているようだった。



「おまえも眠かったら寝ちゃっていいぞ」

 お兄さんが前方を見つめながらそう言った。

「あたしは自分の身が可愛いですから」

「おまえなあ。居眠り運転なんかしねえよ。てか初心者でそんな余裕なんてねえよ」

「そうじゃないです」

「じゃあ何だよ」

「自分の傍らで寝入っているあどけない美少女の肢体に対してお兄さんがついつい悪戯心
を出してしまったらあたしの身が危険ですから」

 冗談にしたってこの種の戯言を男の人に話すなんて初めてだった。兄友さんにならそう
いうことを言っていた可能性はあるけど、実際にそう言ったのはお兄さんに対してなのだ
った。

 お兄さんは会いかわらず前方を見つめながら笑った。

「そんなことを心配してたのかよ。俺は性犯罪者じゃねえぞ。そもそもあどけない美少女
なんてどこにいるんだよ」

「お兄さんに身体を悪戯されるくらいは許してあげてもいいのですけど、それ以上に運転
中に淫らな行為をしているお兄さんが運転を誤ったら生命維持的に大変なことになってし
まいます」

「そっちかよ」

「冗談ですよ」

「おまえの冗談はたちが悪い。心臓にも悪い」

「真面目に言うとお兄さん一人に運転させてあたしが寝ちゃうなんて申し訳なくてでき
ません」

「後部座席の二人にはそんな気遣いはさらさらなさそうだけどな」

「後ろの人のことは知りません。少なくともあたしは嫌なんです」

「んな気を遣わなくてもいいのに」

「・・・・・・そうですか」

「・・・・・・だんだんと道が空いてきたな」

「そうですね」

 このときにはさっきまでの渋滞が嘘のようにお兄さんの運転する車は速度を上げて海岸
沿いの道路を走り出していた。


<笑う妹友>



 しばらくお兄さんと他愛ないようで、でもよく考えるとそうでもなく実はかなり突っ込
んだ内容の話をした。寝入ってしまった後部座席の二人のことなどもう全く意識の中にな
かった。

 こういう深い内容の話をお兄さんとリラックスしてできる日が来るとは思っていなかっ
たので、このときのあたしは少しだけこの状況下で許された幸福に酔っていた。これだけ
でも正直最初は気がすすまなかった四人での旅行に来た甲斐があったなってあたしは思っ
た。

「それにしても何でいきなり席替えしたんだろうな」

「その方が楽しいじゃないですか」

「そうかなあ」

「あたしよりお兄ちゃんが隣にいた方が嬉しかったのですか」

「そうじゃねえけど」

「・・・・・・え? まさかお兄さんってそっちの趣味が」

「何の話だよ」

「冗談ですよ。お兄ちゃんと妹ちゃんだって隣にいたいんじゃないかと思って」

「おまえが提案したのか」

「はい。二人からは言い出せないだろうと思ったので、あたしが犠牲になろうかと」

「自らお兄さんの隣に座りたいって妹ちゃんに駄々をこねてみました」

「・・・・・・そう」

「せっかくそこまでして気を遣ってあげたのに二人して寝てしまうとはバカですよね」

「さあ。俺にはよくわかんねえけど」

「まあ、次の休憩でまた席替えをしましょう」

「ラブシャッフルかよ」

「またずいぶんと懐かしいドラマのことを」

「おまえさ」

「何でしょう」

「いつの間に妹と仲直りしたの」

「今日のお誘いの電話をもらったときです」

「え? 喧嘩状態だったのに妹はおまえを旅行に誘ったんだ」

「妹ちゃんも仲直りしたかったんじゃないですか。それで誘ってくれたんだと思います」

「も?」

「はい。あたしも同じでしたから」

「そうか。まあ、これがきっかけになったのならよかった」

「お兄さんにはご迷惑をおかけしました」

「おまえに謝られると気持悪い」

「・・・・・・お兄さんひどい」

「口の悪さはお互い様だ」

「ふふ。そう言えばそうでしたね」

「自覚くらいはしてたのか」

「はい。わかっててやってますから」

「本当にたちが悪いな」


「まあ次のシャッフルでは助手席に座るのは妹ちゃんだからあんまり落ち込まないでくだ
さいね」

「俺は別に落ち込んでねえぞ」

「態度でバレバレでしたよ。お兄さんが妹ちゃんと仲良くできなくて拗ねていることが」

 そう返したあと、あたしは自分の言葉が自分の心の方に向って帰ってきたことを感じ取
って、気軽な気分のまま言い過ぎてしまったことを後悔した。せっかくここまで楽しくお
話できていたのに。ここでお兄さんがそれを肯定しないまでも、表情が暗くなったりした
ら最悪だ。

 ・・・・・・最悪? あたしは自分の心を見つめなおし瞬時に今自分がしたいことを理解した。
それを理解してしまったことによって、自分の考えなしの言葉を更に後悔する羽目にもな
った。

 でもあっさりとお兄さんはその質問を否定した。

「それはおまえの誤解だ」

「そうですか」

 もう疑うのはやめてもいいのかもしれない。たとえお兄さんが妹ちゃんのことを好きだ
ったとしても、その事実を確認しようとしても、そこには何の利益も生じないだろう。あ
たしは自分が兄友さんにしたアドバイスを思い出した。



『幸い女さんは今心身ともに辛い状況でしょうから、その状態に付け込むんです』

『それは卑怯じゃないかな』

『あなたにはそんなことが言える権利も余裕もないと思いますけど』

『・・・・・・そうかもだけど』

『まあ、でも今は女さんも自分の心の痛みしか見えてないでしょうけど、そのうちに気が
つくと思いますよ。自分が一番つらかったときに自分の横でそっと支えてくれた人の存在
を』

『それって俺のこと?』

『そういう存在になるように頑張ってください。あんまり早まって迫らないようにして、
いい友人として女さんを支えるようにするんです。そうしたらいつかは女さんは気がつく
でしょう。つらい自分を無償の愛で包んでくれていた人の存在を』



 これはまさに今の自分にこそ当てはまるのではないか。兄友さんにしたアドバイスがま
さに自分の状況にぴったりと当てはまっていることに少し感慨に耽っていたあたしにお兄
さんが聞いた。

「おまえはどうなの」

「え?」

「おまえだって大好きな兄貴の隣で一緒にいたいんじゃねえの」

「まあ否定はしません。でも意外と楽しいんですよね」

「何が」

「ファミレスでお兄さんの注文を手伝ったり、ドライブ中のお兄さんの隣の席にいること
がです」

「え」

 あまりにも気持を無理せずに流れるままで話をしていたせいだと思う。こんなことを言
う気はなかったのだけど、あたしはつい本音を漏らしてしまったみたいだった。

「あたし、どうしちゃったんでしょうね。今までお兄ちゃん以外の男の人と一緒にいて楽
しいなんて思ったことはなかったのに」

「まあ何と言っていいのかわからんけど、それはそれでよかったのかもな」

「どういう意味?」

「いや、どういう意味って」

「お兄さんもそうなんですか」


 胸の動悸が少しだけテンポを速めたようだ。

「いや。ほらさ、おまえ前に言ってたじゃん。兄妹の関係なんか行き場のない行き止まり
の関係だって」

「言いましたけど」

「だからさ。人のことは言えねえけどおまえも前を向き出してるってことじゃゃねえの」

「お兄さんには言われたくないです」

「・・・・・・俺はもう割り切ったし。これからは姫のいい兄貴になるって決めたしね」

「え?」

 え? それは今日お兄さんから聞けるとは期待すらしていなかったほど、今のあたしに
とって望めるだけ望んだ結果としてはもっとも望ましい言葉だった。

 ・・・・・・そう、そのはずだったのに。

 お兄さんがうっかりと妹ちゃんのことを呼んだその呼称があたしを悩ませ、一気に暗い
気持にさせたのだ。

「何だよ。おまえに言われて気がついたことなのに何を意外そうに」

「ぷ。ひ、姫だって」

 お兄さんは慌てたようだった。気軽にお兄さんをからかう言葉は自動的にあたしの口か
ら出た。軽口のように思えたかもしれないけど、そのときのあたしの心は暗雲に覆われて
いたのだ。

「姫って呼んでたんですね。妹ちゃんのこと。あははは」

「おい。ちょっと声がでかいって。後ろが起きちゃうだろうが」

「おかしい~。ひ、ひ、ひ」

「ちょっと笑い過ぎだ」

「ひ、姫かあ」

「もういいだろ」

「ご、ごめんなさい」

 笑うよりはむしろ泣きたい気持なのに。

 それでも少しするとあたしにも余裕が戻って来た。姫と呼ぶことはさておき、お兄さん
は妹ちゃんのことを兄として見守ることにしたのだ。姫と呼んだことくらいで動揺する必
要はないのだ。あたしは自分に必死に言い聞かせた。

 このとき周囲は夕暮れの景色になっていた。後部座席の二人は寝てしまっているので、
実質二人でドライブしているようなものだ。

 この雰囲気にあたしは少しづつ落ち着きを取り戻し、吐きそうなほど狼狽した感情も収
まってきていた。


「海が見えた」

「本当ですね。綺麗」

 いい雰囲気とはこういうことなのだろう。仲のよい兄妹である二人には二人だけの呼び
方やルールがあっても不思議じゃない。それにこの二人の仲がいいことなんて承知のうえ
であたしはお兄さんを好きになったんじゃないか。

 お兄さんを好きになったんじゃないか・・・・・・。

 あたしはこのとき初めて自分の心を肯定したのだった。もう誤魔化すのをやめて。

 そうだ。あたしは夕暮れの海岸で、あたしのとなりで車を運転している人のことが好き
なのだ。

「まだ時間かかるんですか」

「ここまで来たら、もう少しだと思う」

「どこかで食材を調達するって妹ちゃんが言ってましたけど」

「今夜は庭でバーベキューをしたいんだって」

「いいですね」

「もう少し海辺を走ったら街中に出ると思うから、そしたらスーパーを探さないとな」

「それは任せてください」

「ああ頼むよ」

「何か夕暮れになってきましたね」

「昼飯が遅かったからな」

「ステーキ美味しかったですか」

「まあまあかな」

「せっかく選んであげたのに」

「だって筋が多くて固かったし」

「・・・・・・オムライスは?」

 再びあたしの言葉は恥じることもためらうこともなく口をついて出た。

「へ」

「あたしが作ったオムライスはどうでしたか? 考えてみればまだ感想を聞いてなかった
です」

「美味しかったよ」

「よかった」

 本当によかった。お兄さんの返事はお世辞かもしれないけど、もうそれすらどうでもい
い境地にあたしは到達していたようだ。

「何か落ちつきますね」

「そう?」

「はい。お兄ちゃんのことばかり考えていらいらしたり、妹ちゃんと口喧嘩になってたと
きよりは、今の方が全然いいです」

 お兄さんは少し不思議そうな表情をした。あたしは笑った。


今日は以上です
次回は多分、ビッチの更新後になります

>>826
女神は申し訳ないです。油断したたら落ちちゃいました
もうちょっとしたらリニューアルして最初から投下しなおしたいと思ってます

ご愛読感謝

乙です



やっと妹友が素直になったか...

早く海辺のシーンが見てぇ......

乙乙!

やっと追いついた!
続き待ってます


<BBQ>




 夕食の食材買出しは予想していたとおりあたしと妹ちゃんの仕事になった。気軽に発言
しただけのお兄さんに反発した妹ちゃんの態度には多いに問題があるとあたしは思ったけ
ど、それと食材の買出しを手伝うこととは別な話だ。

 今夜は別荘の海に臨むお庭でバーベキューをするということだったので、買物に迷う必
要はない。あたしは相変わらずお兄さんに対しては好戦的で、あたしとお兄ちゃんに対し
てはしごく好意的な妹ちゃんと和やかに買い出しをしていた。なんだかあの図書館脇の公
園での妹ちゃんの怒りが嘘のようだ。

「何でアスパラ?」

「何でって?」

「普通バーベキューでアスパラって使ったっけ?」

「あれ? 普通は使わないの」

「どうだろ。あまり聞いたことないけど」

「そうなのか。じゃあやめるか」

「好きなら買ってもいいんじゃない?」

「別にいいや」

 もうだいだい必要な買物は終えたところで、あたしはお兄ちゃんから声をかけられた。

「妹、ちょっと」

「お兄ちゃん? どうしたの」

「歯ブラシとか忘れちゃってさ。買っときたいんで一緒に来て」

 何を言っているんだろうこの人は。歯ブラシを買うのにこれまであたしのアシストを求
めたことなんか一度だってないくせに。

「何で一緒に行く必要があるの?」

 あたしはそう言った

「いや、どういうのがいいのか僕じゃよくわからないし」

 正直に言ってこのときのあたしが気にしていたのはお兄さんだったから、以前だったら
飛び上がるように嬉しかっただろうお兄ちゃんの弱気な誘い受けはあたしにとってはうざ
いだけだった。

 でも、今さら急に態度を変えるわけにはいかなかった。それはお兄ちゃんにも妹ちゃん
にも不信感を与えるだろうということは、馬鹿なあたしにも容易に理解できたことだった。

「もう。あたしがいないと歯ブラシも買えないんだから。しようがないなあ」

「妹ちゃんちょとだけごめん。お兄ちゃんの買物に付き合ってくるね」

「うん」

「ほら、行くよお兄ちゃん」

「うん」

 お兄ちゃんは案の定妹ちゃんの表情を伺いながらそう答えた。理解できない。お兄ちゃ
んは何を考えて歯ブラシごときであたしを頼ったのだろう。

 でもその答えはすぐにわかった。


「思ってたよりうまくいってるよ。おまえのおかげな」

 ここまで好青年のようにお兄さんと妹ちゃんに愛想を振りまいていたお兄ちゃんは、最
近よく家で見せるようになった何を考えているのかわからない無表情な顔に戻っていた。

「あたしのおかげって」

「おまえがお兄さんの関心を惹いてくれているからな。何か妹ちゃんともうまくいってい
るし、お兄さんにも気に入られたっぽいし」

「お兄ちゃんにしては珍しいよね。男の人とあんだけ打ち解けるなんて」

「無理してるからな」

 お兄ちゃんが嫌な笑い方をした。

「普通ならあんな駅弁大学の学生なんか相手にするか」

 やはり駄目だった。この旅行で四人全員が救われるのではないかというあたしの根拠の
ない希望はこの瞬間に打ち砕かれた。

「この先、確実に妹ちゃんの親父が俺と妹ちゃんを必死になって別れさせようとするとき
が来る。それが狙いだからな。そのときにあのバカ兄貴には俺と妹ちゃんの味方になって
もらわないとな」

 そのためにはバカ兄貴に媚びることくらい何でもないよ。

 お兄ちゃんは吐き捨てるようにそう言った。



「歯ブラシ買えた?」

 妹ちゃんがお兄ちゃんに笑いかけた。

「うん。家にあるのと同じのを買えたよ。ありがと」

 お兄ちゃんの暴走を止めることはもう無理なのかもしれない。それでも自分の、自分と
お兄さんとの関係を深めることまでは諦めたくなかった。正直にいえばそのためにはお兄
ちゃんと妹ちゃんの仲が深まること自体は望ましいことなのだ。

 歯ブラシの購入について笑顔でお兄ちゃんに話しかけた妹ちゃんの態度にも不安なとこ
ろはあった。

 目が泳いでいたのだ。妹ちゃんの押していたカートは今では妹ちゃんの隣に並んだお兄
さんが押している。籠の中には妹ちゃんが一度買うことを諦めたアスパラガスの束が入っ
ていた。こういう事実がどんな意味を持っていたのかはわからない。でも、あたしがお兄
ちゃんから不毛な話をスーパーで聞かされていた間、お兄さんと妹ちゃんはいったい何を
話していたのだろうか。

 勘のようなものだった。わずか十分くらいの間に、あたしはお兄ちゃんの気持が変わっ
ていないことに絶望したのだけど、その同じ十分間に妹ちゃんとお兄さんの間にも何か化
学反応のようなことが起きていたんじゃないか。

 あきらかにお兄さんと妹ちゃんの雰囲気は十分前とは明らかに変っている。うまく説明
はできないけど、一見お兄ちゃんと和やかに仲良く過ごしていたように見えていて、それ
でいて何か逆立っていた妹ちゃんの感情が穏かに収まったように見えた。

 お兄ちゃんは過信している。お兄ちゃんはあるいはお兄さんの信用は得られたのかもし
れないけど、妹ちゃんの心を奪えたわけではないのだ。何もかも支配してコントロールし
ている気持になっているお兄ちゃんは、実は肝心の妹ちゃんの気持を惹きつけていたわけ
ではないのかもしれない。

 それはお兄さんに引かれつつあるあたしにとっても厳しい結論だった。

 それからのあたしは必死だった。お兄ちゃんの意図やそのせいで犠牲になるかもしれな
い妹ちゃんのことを考えている余裕はなかった。


 あたしはこれまで座席を決めるのはシャッフルに従うのだと妹ちゃんにもお兄ちゃんに
も強弁してきた手前、今さらその原則を崩すわけにはいかなかった。

「うん。じゃあ、本日最後のシャッフルです」

 お兄ちゃんと妹ちゃんが同意した。でも、お兄さんはどうでもいいというように黙って
いるだけだった。それから別荘に着く間、あたしとお兄ちゃんは黙ったままだった。

 妹ちゃんとお兄さんはぼそぼそと低い声で何か会話を交わしているようだった。あたし
はその内容が気になったけど、その会話を聞き取ることはできなかった。

 別荘(お兄さんの言っていたとおりそれは別荘というよりは古い民家に近かった)に着
いてすぐ、あたしと妹ちゃんはバーベキューの支度をした。といってもコンロや焼き台は
お兄さんとお兄ちゃんが用意して炭火を熾してくれたので、あたしと妹ちゃんは食材を用
意して並べただけだったのだけど。

「ほら彼氏君、この肉取っちゃって」

「ありがと」

 何だか昼間の二人のいい雰囲気は一見は続いているみたいだ。

「少し肉とか野菜を載せすぎじゃないかな」

 さっきからやたらと妹ちゃんは肉や野菜を鉄板に置こうとしているようだった。

「そうかな? この方が景気がいいじゃん」

「食べる方が忙しい気がする」

 このときお兄さんは庭の隅のベンチに座っていた。その姿はあたしとも妹ちゃんとのコ
ミュニケーションすら望まないように見えた。そういう様子のお兄さんに話しかけるのは
あたしにとってはハードルが高かったけど、妹ちゃんにとってはそんな障壁を全く感じて
いないようで、そんな彼女の振る舞いにあたしは密かに嫉妬した

「お兄ちゃん?」

「うん」

「何でそんなに隅っこで座ってるの」

「ちょっと疲れた」

「ずっと一人で運転してくれたんですものね」

 あたしはようやく兄妹の会話に口出しすることができたのだ。

「おまえにそんな優しい言葉をかけられると混乱するわ」

「何言ってるんですか。お皿出してください」

 あたしは持てる勇気を全て振り絞ってそう言った。そしてお兄さんが差し出してくれた
お皿に焼けた肉を載せた。

「お肉とソーセージですよ。ちょうどよく焼けてますから」

「ありがとな」

 このとき、妹ちゃんが反撃した。彼女は鉄板の上の野菜を手許にまとめてお兄さんを眺
めたのだ。

「・・・・・・肉ばっかじゃん。ほら」

 妹ちゃん邪魔。このときのあたしの正直な気持はそういうことだった。いったいお兄ち
ゃんは何をしているのだろう。

「何だよ」

「お皿貸して」

「ちょっと待て。ピーマンとか入れ過ぎだろ。玉ねぎももうそれくらいでいいって」

「子どもじゃないんだからちゃんと野菜も食べなよ」

「・・・・・・わかってるよ」


<こういう組み合わせなんだ>




「海からのいい風が来るんだね」

 こんなときだけどこの場の雰囲気は悪くなかった。暗くなっていたために海を見ること
はできなかったけど、海からの涼しい風が吹いているのは感じ取れた。

「そうだね。風のせいで炭火なのに煙くなくっていいよね」

「暗くてよく見えないけど、すぐ前はもう海岸なんでしょ」

「そうみたい。周りに人家もないし海水浴場でもないからプライベートビーチ状態だって
パパが言ってた」

「さすがに泳ぐにはちょと早すぎるよね」

「どうだろう。少し冷たいかもね」

「海辺に行くって聞いたんでさ。無駄かもと思いながら実は水着持ってきちゃった」

 お兄さんがあたしの水着姿を見たらどう思うだろう。一瞬あたしは胸が締め付けられる
ような感情に責められたけど、次に心に浮かんだのはお兄さんが自分の妹の水着姿を見た
としたらあの人はどういう想いを抱くだろうかという悩みだった。

 全くお兄さんはどんだけ自分の妹が好きなのよ。そう思ったあたしは、実はその言葉が
以前の自分に直接刺さって来ることに気がついて少し落ち込んだ。

「え? マジで」

「まず使わないだろうと思ったんだけどさ」

「・・・・・・実はあたしも」

 妹ちゃんが恥かしそうに言った。誰に見せるつもりなのかわからないけど。



 余計な話をしている間に鉄板の上の肉や野菜が焦げ始めていた。

「ほら。お肉が焦げちゃうからさっさとお皿持ってきて」

「ほら行け。彼氏君」

 お兄さんがお兄ちゃんに言った。この調子だとお兄さんはお兄ちゃんに心を許しはじめ
ているみたいだった。

「はい。行って来ます」

 対抗したわけじゃないけどあたしもお兄さんに声をかけた。声をかける大義名分もあっ
たから、あたしは自然に声をかけることができた。

「お兄さんも来て下さい。このままじゃ肉が焦げてしまいます」

「ちょっと一度に載せすぎじゃねえの」

「何よ。その方が景気がいいじゃん。彼氏君、お皿出して」

 妹ちゃんが母死に割り込んだ。お兄ちゃんに構っていればいいのに。

「ちょっとトレイに行くね。妹友ちゃんあとお願い」

 妹ちゃんがそう言った。


 そんなに広い庭ではなかったから妹ちゃんの意図に気がつくことは難しいことではなか
った。何がトイレよ。お兄さんと仲良くすることはしかたない。なんと言っても二人は家
族なのだから。でもそれをトイレとかって誤魔化してお兄さんに擦り寄るのは卑怯だ。お
兄ちゃんの行動とどっちが卑怯なのかと思えるほどに、あたしは妹ちゃんの行動に憤った。

 妹ちゃんを目で追うと、彼女はお兄さんが一人でベンチに座っているところに真っ直ぐ
に向った。

 妹ちゃんはお兄さんの隣に座って何か話しかけているようだった。二人の距離は恋人同
士のそれのようだ。何か話をしていた二人だけど、突然、妹ちゃんがお兄さんにキスした。

 その瞬間あたしの心臓が止まった。



「洗い物もだいたい終ったね」

「結局お兄ちゃんも彼氏君もバーベキューセットをしまったくらいで義務を果たした気に
なってるし」

「あはは。でも男の子なんてそういうもんだって」

「だってそんなの不公平じゃん」

「そう言われてもさ。そういう風に育てられて来てるからね。お兄ちゃんも。きっとお兄
さんもそうだろうし」

「うちのお兄ちゃんはうざいくらいあたしの台所仕事を手伝いたがったけど」

「うちのお兄ちゃんとは大違いだ」

「運んできたぞ。多分、これで洗い物は最後だ」

「意外とお兄さんってまめなんですね」

「男女間の性差に基づく議論なら今からでも相手になってやるけど?」

「やめなよ。大人気ない」

「いつでも相手になってあげます。けど、今は洗い物があるので」

 このときあたしは本当にそう思ったのだ。

「逃げたな」

「お兄ちゃん!」

「風呂入ってくる」

「お風呂から二度と出てくるな」

 妹ちゃんのそのお兄さんに対する何気ない悪口にまで、あたしは嫉妬していた。


「こういう組み合わせなんだ」

「組み合わせって?」

「いや。僕とお兄さんの組み合わせで同室だと思っていたんだけどな」

 後片付けを終えたあたしとお兄ちゃんは一部屋の寝室をあてがわれた。

「普通はおまえと妹ちゃん、僕とお兄さんで一緒になるんじゃねえの」

 それはあたしが抱いていた疑問と全く一緒だった。自然に二家族の兄妹同士を同室にす
る。別にそれだけ聞くとおかしなことはないように思える。でも普通はそうじゃない。

 女子高生同士の親しい友だちならこんな機会に一緒に寝ないとかは普通にありえない。
パジャマパーティーとまでいかなくても、こういうときに夜更けまで内緒話しないなんて。

 そのあたりから推察できることは一つだった。あたしは以前から妹ちゃんにお兄さんを
紹介してくれるように頼んでいた。別に会ったこともないお兄さんに憧れていたわけじゃ
なかったけど、親友の妹ちゃんのお兄さんとは知り合いになりたというき持ちはあった。
妹ちゃんはあたしが誘うと放課後に家に遊びに来てくれる。それも頻繁にだ。だからお兄
さんと妹ちゃんはずいぶんと前からお互いに知り合いだった。お兄ちゃんが妹ちゃんを好
きになったのだって、自宅で一緒にゲームとかしていたことの積み重ねからだったようだ。

 それなのに妹ちゃんがあたしを自宅に積極的に誘ってくれたことはほとんどなかった。
正確に言えば何度かあったことはあったのだけど、そのときの妹ちゃんの誘いの言葉を思
い出すと、常に一つの共通点があったのだ。



『今日はお兄ちゃんもいないし、たまにはあたしの家で勉強しない?』

『今日はお兄ちゃんに食事の支度を強いなきゃだから、妹ちゃんちには行けないかな
あ。あ、お兄ちゃん帰り遅いからそれまでうちで遊ぶ?』



 今日の部屋割りもそれと同じじゃないか。妹ちゃんは自分のお兄ちゃんをあたしになる
べく紹介したくなかったのだろう。でも、それなら何でこの旅行にあたしを誘ったのだろ
う。

「俺さ。今日のところは妹ちゃんじゃなくてあの兄貴の方を味方にするつもりだったんだ
けどな」

 あたしの思考に割り込むようにお兄ちゃんが言った。

「味方って・・・・・・」

「あいつ単純だからさ。下手に出ていたらすごくフレンドリーになっちゃったしよ。俺が
兄貴の駅弁を目指してますって言ったら満更でもなかったようだよ。バカか。誰があんな
クソみたいな国大を受験するかよ」

「・・・・・・」

 お兄ちゃんのひどい話が続いた。その話自体も聞きたくなかったあたしはお兄ちゃんの
言葉を頭から締め出して自分が気になることを考えることに集中しようとした。結果的に
それは失敗だった。自分勝手でエゴイスティックなお兄ちゃんの置かれている立場を再認
識してしまったのだから。

 あたしにはもうわかっていた。妹ちゃんとお兄さんに残酷なことを仕掛ける復習鬼のお
兄ちゃんなんかいないのだ。お兄ちゃんにとっては酷く惨めなことだけど。そこには妹ち
ゃんからは本当には相手にされていない勘違い男がいるだけだ。

 あたしからお兄さんを遠ざけようとしていた妹ちゃんの気持は今だってちっとも変って
いない。お兄ちゃんを有頂天にした好意的な振る舞いだって、お兄さんに嫉妬させたいだ
けなのだ。さっき、トイレに行くと言ってあたしとお兄ちゃんから離れていった妹ちゃん
は、迷わずお兄さんに、自分の実の兄貴にキスをした。

 惨めなのは、お兄さんのことを駅弁大学生とか呼んで優越感に浸っているお兄ちゃんの
方なのだ。あたしは目を伏せた。お兄ちゃんは敗北した。でも、あたしは? というか肝
心なお兄さんの気持はどうなのだろう。

 妹ちゃんの気持に関しては残念ながらもう誤解の余地はない。でもお兄さんは妹ちゃん
のいい兄貴になるってあたしに断言してくれた。あの言葉が嘘でないなら。

 次の日、早起きしてそのまま眠れなかったあたしは、近所を散歩しようと思い立った。
まるで悩みなんかない様子の寝顔のお兄ちゃんを残して、あたしは別荘を出た。


<夜明け前>




 昨夜は真っ暗でよく海辺の方を眺めることができなかったあたしは、朝なら眼下に海を
一望にできるんじゃないかと期待していたけど、古びた引き戸を開けて外に出たとき、ま
だ周囲は真っ暗な状態に近かった。

 庭の端に常夜灯というか庭を照らしている照明灯があったせいで、あたしはかろうじて
海岸に降りて行く小道を確認することができた。普段のあたしならこんな暗いところで崖
を下ろうなんて考えもしなかったろう。でも今朝のあたしの選択肢にはこのまま部屋に戻
ってお兄ちゃんと並んで眠るということは思いもよらなかった。

 滑ったり転びかけたりしながら何とか海岸に辿り着いた頃には、少しだけ周囲を見渡せ
るくらいに明るくなっていた。

 押し寄せる波頭の頂上で白く砕け散るのが薄く見えた。

 お兄さんと妹ちゃんは同じ六畳間の一室で何を語り合ったのだろうか。それとも言葉な
んかなくてあの夜のキスの続きみたいなことをしていたのだろうか。

 考えてももちろん結論なんか出ない。あたしはただここで立って邪推しているだけなの
だ。いったい今となっては何が正しいのだろう。お兄ちゃんと妹ちゃん、あたしとお兄さ
んが愛し合うカップルになることが正解なのか。それともそれがどんなにつらい道だろう
と、お兄さんと妹ちゃんは結ばれるべきなのか。

 それにお互いの親のこともある。お兄さんと妹ちゃんはまだ知らないと思うけど、妹ち
ゃんたちのパパとあたしのママは愛し合っている。別な言い方をすれば自分たちの配偶者
や子どもたちのことの気持を放置してまで不倫しているのだ。

 お兄ちゃんのしていることには賛同できないけど、そこまで追い込まれたお兄ちゃんの
気持は理解はできる。でもそれに味方していいのか。そしてその結果、あたしがお兄さん
と付き合えたとしても手放しでそのことに納得できるのか。

 波のざわめきがきにならないくらい、あたしは波打ち際で立ちすくんだまま悩んだ。そ
のとき背後の崖から物音がした。



「妹友か」

 どういう偶然なの。期せずしてお兄さんもこの朝、夜明け前の海岸を散歩しようと思い
立ったみたいだった。

「おはようございますお兄さん」

「ずいぶん早起きなんだな」

「たまたまです。何か目が覚めたら眠れなくなっちゃって」

「俺と同じだ」

「そうなんですか」

「眠れないから少し散歩でもしようかと思ってさ」

 こんなに悩んでいた朝にあたしはお兄さんと二人きりで話すチャンスを得たのだった。


「何か意外です」

「意外って何が?」

「お兄さんのことだからきっと少しでも長く妹ちゃんの側にいたいのかと思ってました」

 お兄さは黙ってしまった。

「あ。ごめんなさい。あたし・・・・・・」

「別にいいよ。てかおまえがそんな殊勝な態度を俺に見せるなんてそっちの方が意外じゃ
んか」

「そんなことないですよ」

「何だよ。実はツンデレでしたとでも言う気か」

 お兄さんにはそういう態度ばかり取ってきたからそう思われてもしかたない。それはい
い。

 問題はこの後お兄さんにあたしの気持ちをぶつけたとしたらどうなるかということだ。
それを考えると、気持悪くなるくらい下腹部が痛くなるくらいに悩ましい。

「いやあの。冗談なんだけど」

「今までのあたしは必死でしたから。必死になって強気を装って毒舌を吐くようにしてま
したから」

「何のこと?」

「いいです。別に何でもないです」

「そうか」

「お兄さん」

「うん」

「海が見えてきました。大分明るくなりましたね」

 それまで暗かった周囲に次第に光が当てられあたしたちは周囲の光景とともにお互いの
様子を目で見てわかるようになっていた。

「そうだな」

「もっと海の近くに行きたいな」

「行ってみるか。つってもその靴じゃ砂浜を歩くのは厳しいかな」

「大丈夫です。行きましょう」

 別に問題はなさそうだった。単なる砂浜で怪我をする要素もないし。

「あまり走ると危ないぞ」

「わあ。日の出ですよ。海から直接お日様が昇るんですね」

 こんなテンプレのようなセリフを吐く気はなかったのだけど。でも、わざとしたわけで
はなかったにせよ、次の出来事があたしとお兄さんの距離を少しだけ縮めてくれ、きっかけをくれたのだ。

 あたしは濡れた砂に足を取られて転びかかった。

「きゃっ」

「おい危ないって。・・・・・・大丈夫?」

「はい。支えていただいたので転ばないですみました」

兄「いや。いったいどうしたの?」

「波が靴にかかって冷たくてびっくりしちゃった」

「これで転んでたら全身びしょ濡れになるとこだったな」

「ええ。ありがとう」

「いや別に」


「あ、あの」

「どうした」

「多分もう手を離していただいても大丈夫だと思います」

「あ、悪い」

「・・・・・・いえ」

 多分このときはこんなことを口に出す必要はなかったはずなのに。

「お兄さん」

「うん」

「これまでいろいろとごめんなさい」

「何で謝ってるの」

「お兄さんの気持を左右したり変えたりする権利なんかあたしにはないのに」

「・・・・・・ああ」

「妹ちゃんが公園で言ってましたよね。何で自分と自分の兄の気持ばっかり優先するのっ
て」

「言ってたな」

「本当は妹ちゃんの言うとおりなんです。あたし、お兄さんの気持ちとか妹ちゃんの気持
とか全然考えてなかった」

「俺に年上の余裕を見せろって言ったことか」

「はい。すごく勝手なことを言いました」

 理解できたのかどうか、お兄さんは黙っていた。

「本当にごめんなさい。あたしのお兄ちゃんに対する感情を解決するために、お兄さんと
妹ちゃんまで巻き込んじゃいました」

「まあ、あまり気にしなくてよくね」

「だって」

「おまえが言ってたことは間違ってないしな。確かに兄妹の恋愛に行き場なんかないし
さ」

「お兄さん・・・・・・」

「それにそもそも妹には全然その気がなかったんだしさ。おまえのおかげで俺も目が覚め
たよ」

「本当にそうなんでしょうか」

「何がだよ」

「昨日の夜、あたし見ちゃいました」

「見たって何を?」

「バーベキューの途中で妹ちゃんがトイレに行くと言っていなくなったんですけど」

「お兄さんにお肉を持って行こうと思って。少し離れたところにいたお兄さんのところま
で行ったら、妹ちゃんがお兄さんにキスしていました」


「見られてたのか」

「はい。お兄ちゃんが見てなくて本当によかった」

「・・・・・・言い訳していい?」

「そんな必要はないですけど、話してくれるなら聞きます」

「妹はおまえの兄貴のこと好きだと思うよ」

「はい」

「あいつが変になったのって俺があいつに告るなんて常識のないことをしたせいだと思う
んだ」

「・・・・・・」

「あいつは常識的な行動をしたよ。俺の告白を断るという」

「はい」

「だけど俺は、そのことに拗ねた俺は突然引越して家から消えたんだよな。それがどんな
にあいつを寂しがらせ傷つけるかなんてちっとも考えずに」

「新学期になってから妹ちゃんは学校でも全然元気がありませんでした。元気付けようと
しても慰めようとしても、大丈夫だからと言うばかりで」

「そうか。うちの両親は都心に小さなアパートを借りててな。平日の夜はそこに泊まるこ
とが多いんだよ。仕事で忙しいからさ」

「じゃあ、お兄さんが家を出た後の妹ちゃんは」

「いつも一人で家にいたんだろうな」

「あの寂しがり屋で家族大好きな妹ちゃんがいつも夜一人で・・・・・・」

「ああ。確かそれからだよ。おまえに言われて妹にメールして仲直りしてさ。これからは
普通の兄貴として接するからって言ったんだけど」

「だけど何ですか?」

「いやさ。妹らしくないんだけど、俺と一緒に寝ようとしたり手をつなぎたがったりとか
さ。そういう行動が始まったんだよな。これまではそんことは素振りさえなかったのに」

「お兄さんに対してデレだしたんですね」

「うん、まあ。でもさ、それって兄貴としての俺を失いたくなくて無意識にやってるんじ
ゃねえかと思うんだ」

「昔から仲の良かったお兄さんを一月以上も失った。その原因は自分がお兄さんからの求
愛を断ったせいだって、妹ちゃんはそう考えたんですね」

「まさにそれだと思う。男としての俺を欲しているわけじゃない。でも女として俺に接し
ていないといい兄貴としての俺が自分から放れていっちゃうと思ったんじゃねえかな」

「妹ちゃんかわいそう」

「そうだな。こんなことになるなら、こんなに妹を傷つけるくらいなら告白なんてしなき
ゃよかった」

 妹ちゃんがお兄さんに執着する理由は本当に仲のいい家族を失いたくないだけなのだろ
うか。それともお兄さんのことを男性として愛してしまったからなのだろうか。このとき
のあたしにはどちらが正解なのかはよくわからなかった。

「だからさ。おまえが罪悪感を感じることはないんだ。全部俺のせいなんだから」

「それが正しいとしてもですけど」

「何だよ」

「いい兄貴をつなぎ止めるためだけのために、普通キスまでしますかね」

「あいつは家族が大好きだからな。それくらいしても不思議じゃない」

「そうかなあ」

「何か間違っていると言うのか」

「あたし、前にお兄さんに言ったじゃないですか」


<キス>




『妹ちゃんはね。お兄さんのことを好きだと思いますよ。ただ、それは異性に対する愛情
じゃない』

『お兄さんから告白された妹ちゃんは、悩んだと思います。妹ちゃんにとって異性として
好きなのは、彼氏になって欲しいのはうちのお兄ちゃんだから。でも、妹ちゃんは自分の
兄貴に傷付いて欲しくなかった。自分の兄貴、つまりお兄さんへの愛情は異性に対するも
のじゃないけど、兄妹として家族としてお兄さんのことは好きだったんだと思います』

『聞いてください。だから妹ちゃんはお兄さんなんかに異性に対する愛情はないとは言え
なかった。そう言ってしまえばお兄さんが悩むしひょっとしたら自殺しかねないと思った
から。だから彼女は便宜的に両親との関係とか近親相姦のこととかを持ち出してお兄さん
を振ったんでしょうね』



「そうだったな。全くそのとおりだったけど」

「でも妹ちゃんはこうも言いました」

「お兄さんの部屋で女さんっていう人からひどいことを言われて傷付いていた妹ちゃんが
言ったんですけど。ってもうこれは話しましたね」

『お兄ちゃんはあたしと彼氏のことを目撃して傷付いたと思うし』

『何でそこまで自分の実の兄貴に遠慮するわけ? ちゃんと断ったんでしょ。それで何も
問題ないじゃない』

『あたしさ、お兄ちゃんと前みたいに仲良くなりたい。恋人としては付き合えないけど、
それでも昔みたいに口げんかしたりからかいあったりしたい』

『それはわかるけど。でも何でうちの兄貴と会わないって話になるのよ。普通の兄貴は妹
の彼氏に嫉妬したりしないよ』

『それはそうだけど』

『妹ちゃんさ。まさかと思うけど、お兄ちゃんの部屋に女さんがいるのを見て嫉妬した
の』

『だから女さんっていう人のことを、嫌な女だなんて言ったの?』

『・・・・・・違うよ』

『何であたしから目を逸らして答えるのよ。うちの兄貴のこと好きなんでしょ』

『多分』

『あんたねえ。あたしの兄貴をその気にしておいてそれはないでしょ。まさか、あんた。
お兄さんのことが本気で異性として気になりだしてるんじゃ』

『何か言ってよ』

『わからない。ちょっとよく考えてみる』



「これがもし妹ちゃんの本音だったとしたら」

「違うよ」

「それならいいんですけど。それならあたしが傷つけたのはお兄さんだけで、妹ちゃんか
らお兄さんを引きはがしたことにはならないですし」

「・・・・・・おまえは悪くないよ」

「でも結果的には引き離したのと同じことですね」

「・・・・・・もうやめようぜ」

「はい」

「すっかり明るくなったな」

「景色、綺麗ですね。今までは暗かったからわからなかった」


「久し振りにここに来たなあ」

「今日って気温はどうなんでしょう」

「さあ。何で?」

「その・・・・・・。ひょっとしたら泳げるかなと思って水着を」

「持ってきたの?」

「ちょっと。どこ見てるんですか」

 あたしはお兄さんの視線に狼狽した。でもその感覚は決していやなものではなかった。
むしろ、こんなに悩み多い今、初めて心がときめいて、そして少しだけ安らぐ感じがした。
話題としてはエッチな話だったのに。

 多分あたしは何にせよお兄さんの関心をひきつけたことが嬉しかったのだろう。

「ああ、すまん」

「・・・・・・どうせあたしは胸はないです」

「へ? ああ、問題ない。その方が好みだから」

「お兄さんのエッチ」

「ちなみにどんな水着なの」

「教えてあげません」

「けち」

「全くもう。今の今までシリアスな話をしてたというのにお兄さんときたら」

「おまえがいかにも俺に水着を見せたがっているような発言をするからだろ」

「誰がそんなことを言いました。そんなわけないでしょ。どこまで自己中なんですか」

「おまえとはキスした仲だしな」

「あ、あれは。妹ちゃんに発見されそうだったから偽装工作として」

「いやあ。でも女の子の唇って柔らかいのな」

「・・・・・・マジで殺す」

「つれないなあ。何ならもう一度してくれてもいいんだぜ」

「・・・・・・うっさい。死ね」

「おまえ顔真っ赤だぜ」

「・・・・・・知りません」

「そろそろ戻るか。あいつらも起きる頃だろうし」

「はい」


 あたしはもうあまり考えずに爪先立って背の高いお兄さんに寄り添った。お兄さんに回
した腕は彼の少し痩せ気味の背中に回されていた。それは自分の意思で行われたことなの
だけど、あたしにとっては夢の中の出来事のようだった。

「・・・・・・・お兄さんに言われたとおりにキスしましたよ」

 あたしは表情を変えずに冷静にそう返せたはずだったけど、胸は激しく動悸を繰り返し
ていたのでお兄さんに気づかれたかもしれなかった。でもそれすらもうどうでもよかっ
た。

「お、おまえなあ」

「どっちかと言うとお兄さんの方が真っ赤じゃないですか。今日はどっかに遊びに行くん
ですか」

「・・・・・・妹は近くにある水族館に行こうって行ってたけど」

「そうですか。一つお願いがあるんですけど」

「何だよ」

「今日はあたしとずっと一緒にいてください」

「何で?」

「その方がきっとお互いに楽ですよ」

「・・・・・・姫が嫉妬すると思う」

「それに動揺しないで、いいお兄さんとして振る舞ってください」

「まあ、そうなんだが」

「勝手言ってごめんなさい。あたしまた前と同じことをしようとしているのかもしれない
けど」

「まあ、正直に言えばそんな気もする」

「でも動機は前とは全然違うんです」

「そうなの」

「ええ。前はお兄ちゃんを諦めるためというのが主な理由だったんですけど」

「今は違うのか」

「はい。今のお願いはどちらかというと自分の願望をかなえるためです。あたしのわがま
まですね」

「どういう意味?」

「こういう意味です」

 あたしは爪先立ってお兄さんの首に手を巻きつけた。その朝、あたしはお兄さんに二度
もキスしたのだった。


今日は以上です
また投下します

ビッチを心配してくれている方はすいません
なるべく早くあっちも再開したいと思います

おつ

乙です



彼氏くん無理してたんだな.....

どのキャラも大好きすぎるわ俺ww

乙。
同じ所の焼き直しなのにこんなにもドキドキしてる。
待ってるよ。

そろそろ保守


<水族館>



 その朝自分でもそこまでするとは思っていなかったことまでしてしまったことに驚き、
そして少し恥かしかったけど、早朝の光の下ならあたしの顔が赤くなっていたことにお兄
さんは気がつかなかったのだろうと信じたい。この場に及んでもあたしは冷静でクールな
女だとお兄さんに思われたかったのだ。

 その後は悩む必要がないほど何もかもうまくいっているように思えた。妹ちゃんはあた
しとお兄さんが二人で別荘を抜け出したことなど気にしていないようだった。妹ちゃん一
人に朝ごはんの支度をさせてしまったことをあたしは謝ったけど、妹ちゃんは笑っていた
だけだった。ただ朝食はお兄さん好みだと聞かされていた和風の献立だったけど。

 和やかな雰囲気はその後も続いた。何かもうこのままあたしとお兄さん、妹ちゃんとお
兄ちゃんとの二組のカップルが既定路線になったようだった。そしてあたしにはそのこと
を妹ちゃんもお兄さんも気にしていないように見えた。水族館までは自然に妹ちゃんとお
兄ちゃんが並んで後部座席に座り、あたしも昨日ほど自意識過剰にならずに助手席に座る
ことができた。

 水族館のチケット売り場にできている長い行列には、妹ちゃんとお兄ちゃんが並ぶこと
になってあたしとお兄さんは入り口の脇で並んでおしゃべりをしていた

 このときあたしはもう無理しなくていいかなという思いもあったのだけど、逆に言えば
これだけ自然に妹ちゃんとお兄ちゃんの自然な振る舞いを見ると、あたしとお兄さんが別
行動しても問題はないのではないかという気もしていた。お兄さんと二人きりでデートみ
たいに水族館を回れるならその方が嬉しい。



「チケットを買うだけでもう三十分以上もかかってるぞ」

 お兄さんがうんざりしたように言った。あたしは別に何時間待ったって構わない。お兄
さんと二人きりでいられるなら。お兄さんは退屈なのだろうか。あたしは少し心配になっ
た。

「連休中なんだからしかたないですよ。それに並んでくれてるのは妹ちゃんたちじゃない
ですか」

「それはそうだけど、待っている方もつらい」

 お兄さんがお兄ちゃんと二人きりでいる妹ちゃんのことを気にしている様子は伺えなけ
ど、あたしと二人でいることに嬉しがっている様子もない。今朝のキスはお兄さんにとっ
てはあまり意味のないことだったのか。あたしは予定どおりに行動することをこのとき決
めた。

「それよりお兄さん」

「どうした」

「海辺での約束、覚えてくれてますよね」

「・・・・・・それはまあ」

「妹ちゃんはきっと四人皆で行動しようと思っているでしょう」

「そうかもな」

「この人混みですから水族館の中はきっと観光客でごった返しているはずです」

「それは容易に想像できるな」

「はぐれましょう、わざと」

「はい?」

「ですから妹ちゃんとお兄ちゃんとはぐれましょう」

「・・・・・・何でそんな手の込んだことをしなきゃいけないんだよ」

「四人で見て回ろうって言われてるのにわざわざ二人きりになりたいなんて言いづらいじ
ゃないですか」

「それに本心では妹ちゃんだってお兄ちゃんと二人きりになりたいに決まってます」

「そうかなあ」

「あたしたちに遠慮して、二人きりになりたいなんて言い出せないだけですよ」

「まあ、妹友がそこまで言うならそうしようか」


「お兄さん、ひょっとしてあたしと二人きりになるのが嫌なんですか」

 意図しなかったことだけど少しだけ責めるような口調になってしまったのかもしれない。
勝手にしたことに多くの意味を持たせようとする気はなかったのだけど、それでも早朝の
あのキスの後にこういう態度を取られたことは寂しかった。

「そんなことねえけど」

「それともやっぱり妹ちゃんのことが気になりますか」

「いや。それはやっぱり気にはなるけど、気にならないようにしなきゃいけないと思って
るよ。だからおまえと二人でも全然嫌じゃない」

「そうですか」

「おまえはどうなの?」

「どうと言いますと?」

「兄貴を取られちゃうみたいで落ちつかないんじゃねえの」

「今はもう全然そんな気はなくなってしまいました。以前を考えるとまるで嘘のように」

「どういうこと」

「前は確かにお兄ちゃんと妹ちゃんが二人でいると落ちつかなかったんですけど」

「ブラコンだもんな。おまえ」

「お兄さんにだけは言われる筋合いはこれっぽっちもないと思います」

「・・・・・・まあ、そうかもしれん。で、今はどうなの」

「今はお兄さんと妹ちゃんが二人きりでいる方が心配で落ちつきません」

「どういう意味だよ」

「そのままの意味ですよ」

「おまえ、俺のことなんか好きでも何でもないって前に言ってなかったっけ」

「言いました」

「じゃあ何で」

「そんなのわかりません。気になるんだから仕方がないでしょ」

 ここまであたしにしては珍しく嘘は言っていない。フェイクさえないのだ。

「おまえひょっとして俺のこ」

「お待たせ。やっと買えたよチケット」

 妹ちゃんとお兄さんが戻って来た。ようやく入場券を買えたらしい。

「チケットを買うだけで四十分ですからね。中は相当混雑しているでしょうね」

 お兄ちゃんが言ったけど、そんなに心配している様子はない。妹ちゃんとのツーショッ
トに満足しているのだろう。

「はぐれないようにしないとね」

 妹ちゃんが言った。はぐれてもいいのよ。あたしはそう思った。


妹友「今ですお兄さん」

兄「あ、ああ」

妹友「二人はペンギンの方に向っています」

兄「そうだね」

妹友「この人が少ない地味な水槽の陰であの二人をやり過ごしましょう」

兄「地味な水槽って。なんだ、くらげか」

妹友「もう少し水槽の背後に回ってください。見つかってしまいます」

兄「ああ」



 予定していたとおりあたしとお兄さんはあの二人から計画的にはぐれた。これでこの後
は二組のカップルが別行動することになる。そしてまた合流して一緒に食事に出かけるの
だ。仲のいい二組のカップルとはこういう行動をするものだとあたしは思って少しだけ笑
った。

「お兄さんちょっと顔を出しすぎです。もっとあたしの方に寄ってください」

「これくらい離れてりゃ大丈夫だよ」

「万一ということもありますから。ほら」

「こら、手を引っ張るな」

「しばらくこうしていましょう」

「・・・・・・何で俺の腕に抱きついてるの?」

「知りません。そんなこと一々聞かないでください、バカ」

 そのとき異変がおきた。遠目に小さく見えている妹ちゃんが慌てたように周囲を見回し
始めたのだ。それも尋常ではない勢いで。

「妹ちゃんが気がついたみたいですね」

「どうもそのようだな。あっちこっちを探しているし」

「すぐ諦めて二人で行っちゃいますよ。少しここで待ちましょう」

「うん」


 でもどうも様子がおかしかった。宥めようとしたお兄ちゃんの腕を振り払った妹ちゃん
はスマホを取り出した。案の定すぐにお兄さんの携帯が鳴り出した。

「妹から電話が来てるんだけど」

「着信に気がつかなかったことにしましょう。これだけ人だらけで周囲もうるさいので説
得力もありますし。だから出ないでください」

「ああ」

 納得したようなお兄さんの態度に安心する暇もなく、一度切れた携帯はその後も断続的
に何回も鳴り響いた。これでは子どもと同じだ。パパとはぐれて迷子になった小さな子ど
もが必死になって親を探しているようだ。

「俺やっぱやめるわ」

 そのときお兄さんが鳴り止まない自分の携帯を真剣な表情で見つめながらぽつっと言っ
た。

「・・・・・・何でですか」

「妹を宥めてやらないと」

「それはもううちのお兄ちゃんの役目です」

兄「そうだけど・・・・・・そうだけど少なくとも今は違うんだよ。彼氏君じゃ無理だ」

「どういう意味ですか? 妹ちゃんは本当はお兄さんの方が好きだとでも言いたいんです
か」

「そうじゃねえよ。そういう問題じゃなくて、あいつには家族と一緒にいたい時があって、
そういうときに側に家族の誰かがいないとパニックみたいになることがあるんだよ。だか
ら今は彼氏君じゃ無理だ。俺の両親か俺自身じゃないと」

 がっかりした気持ちもあったのだけど、お兄さんの言葉はあたしを納得させてしまった。
というかその言葉をあたしは信じたかったのだろう。恋愛感情ではなく家族を求める妹ち
ゃんの行動にお兄さんは罪悪感を感じているのだと。それにあたしの方もパニックになっ
ているらしい妹ちゃんの様子に微妙な罪悪感を感じていたから、ここは素直にお兄さんの
言うことに従うことにした。

「全くブラコンとシスコン同士はたちが悪いです」

 お兄さんは黙ってしまった。

「わかりました」

「悪い」

「この埋め合わせはしてもらいますからね」

「おう」

「じゃあすぐに行きましょう。妹ちゃんを救いに」

 あたしはお兄さんに無理に笑顔を作って見せた。


<不機嫌>




 結局この後妹ちゃんの前に姿を見せたお兄さんに、妹ちゃんは半分泣いて怒りながら抱
きつくという結末となってしまった。あたしのささやかな計画のせいで妹ちゃんを悩ませ
たことは申し訳ないと思うけど、それにしてもこれはいくら仲のいい家族であり兄妹であ
ったとしても行きすぎではないか。

 妹ちゃんとお兄さんは和解したのだけど、そこから先は妹ちゃんはべったりとお兄さん
にしがみつくようにして、お兄さんの側から離れなくなってしまった。当然、何の説明も
なくあぶれたお兄ちゃんは釈然としない様子であたしと一緒にペンギンのいる大きな水槽
の周りを歩いていた。ペンギンになんか少しも目をくれず。

「お兄ちゃんさっきからペンギンじゃなくて妹ちゃんばかり見てるじゃん」

 あたしは優しくからかったつもりだったけど、お兄ちゃんの反応は予想外に激しいもの
だった。

「当たり前だろ」

 吐き捨てるようにお兄ちゃんが言った。「何でいきなり妹がバカ兄貴にべったり抱きつ
いて一緒にいるんだよ。おまえ、何か妙なことを吹き込んだんじゃないだろうな」

「そんなことしてないよ」

 あたしは予想もしなかったお兄ちゃんの剣幕に驚いて言い訳した。

「いったい何なんだよ。最初は四人でいたってよかったんだよ。徐々に彼女と二人きりに
なれればよかったのに。おまえが頭の悪いこと考えて、わざとはぐれようとかするからだ
ろう」

「何の証拠があって」

「さっき妹が言ってたんだよ。妹友ちゃんがバカ兄貴と二人きりになろうとしたせいだっ
て。僕もそう思うよ。おまえ、あの兄貴と二人きりになりたくてわざとこんなことしたん
だろう」

「それは。えと」

 確かにそれは事実だったからあたしは何も反論できなかった。

「おまえがあの兄貴を好きになるのは勝手だけどよ。僕と妹のことを邪魔するのはよせ」

「あたしは邪魔なんか。むしろ応援しようと思って」

「それが邪魔だっていうんだよ。応援してくれるならおまえは何もするな。僕の計画の邪
魔になるだけなんだから」

「計画って。妹ちゃんのパパを苦しめるっていうあれ? まだそんなこと言ってるの」

「あたりまえだ。そのために僕は妹ちゃんに近づいてるんだし、あの低脳のバカ兄貴に媚
びてるんだ。それをおまえが邪魔したんだ」

 四人で普通に仲良くなれないのだろうか。そうでなければあたしはこれ以上お兄ちゃん
を応援できなくなってしまう。いろいろ喧嘩もしたけど結局妹ちゃんはあたしにとって唯
一の親友だ。それにお兄さんの大切な妹ちゃんをそんなことに利用させるわけには行かな
い。それを黙認したらあたしはお兄さんと親しくなる権利すら失ってしまう。


「あいつらが移動した。行くぞ」

「行くって。二人のところに行ってどうするの」

「決まってるだろ。合流して四人で行動するんだよ」

「今はそういうの止めておこうよ」

 必ずしもお兄ちゃんの行動の目的に反対だったからということだけでそう言ったわけで
はなかった。それよりもお兄さんを必死に探している妹ちゃんの姿と、それを見て迷わず
妹ちゃんのところに向ったお兄さんの行動がまだ目に焼きついていたからだった。

 お兄さんは家族として妹ちゃんを宥めに行ったのだし、その行動をあたしは信用したか
った。それにお兄さんは妹ちゃんは家族から自分がはぐれて慌てているのだと言った。だ
から妹を宥めるのは自分でなければならないのだと。

 お兄さんにキスしお兄さんに告白まがいの言葉を伝えたあたしは、お兄さんを信じるべ
きだと思ったのだ。それに妹ちゃんは親友だった。この旅行をきかっけに一度は仲違いし
た彼女と、あたしは仲直りしたのだ。親友として思い返してみると妹ちゃんが家族好きな
ことだけは間違いない。妹ちゃんは笑いながら自分はファミコンだからって言っていた。
ファミリーコンプレックスのことだそうだけど。

「何でだよ。おまえなんか誤解してないか」

「誤解なんかしてないと思うけど」

「いや。してるね」

 お兄ちゃんは断言した。「おまえは僕のすることで妹ちゃんが不幸になると思ってるだ
ろう?」

「それは・・・・・・。正直言うと思ってるけど」

「それが誤解なんだよ。妹ちゃんは不幸になる要素なんかどこにある?」

「だって。自分のお父さんへの復讐のためにお兄ちゃんに告白されたなんて知ったら」

「知ったらだろ。知らなければ単なる普通の恋愛じゃん」

「それにしたって」

「いいか」

 お兄ちゃんが妹ちゃんたちを追跡することをやめてあたしの方を真っ直ぐに見た。

「母さんとあの二人の父さんとの不倫はいつかは妹ちゃんも知ることになるんだ。あいつら
はお互いに離婚して再婚する気まんまんだからな」


 それはお兄ちゃんの言うとおりだった。そしてそれを知った妹ちゃんがどんなに苦しむ
ことになるのかも容易に想像できた。

「確かに僕は妹ちゃんの父さんへの復讐もあってこういうことを考えたんだけど、もう少
し考えればこのことを逆手にとって母さんとあいつの仲を清算させることだってできるか
もしれないんだ」

「そんなの無理だよ」

 ずいぶんと非現実的な考えに思える。現実主義者のお兄ちゃんがそんな夢のようなこと
を本当に考えているのだろうか。

「無理じゃないよ。妹ちゃんはファミコンかもしれないけど、あいつだって自分の娘のこ
とが大好きだって言ってたじゃないか」

「それは本当みたい。お兄さんもそんなことを言ってたし」

 妹ちゃんのパパが何よりも大切なものは妹ちゃんらしかった。多分、あたしのママを愛
するよりももっと深く。パパは妹ちゃんのママよりもあたしのママを選んだのかもしれな
いけど、それでも彼にとって一番大切なのは妹ちゃんであることをあたしは疑っていなか
った。

「だったら僕が悪者になって、母さんを奪い家庭を壊したあんたへの復讐のために、あん
たの娘を弄んで傷つけるぞって言ったらどうなる?」

「妹ちゃんにお兄ちゃんと別れるように言うだけだと思う」

「そんなこと言えるかよ。そしたら僕が不倫のことを妹ちゃんにばらすってわかってるの
にさ」

 意外と現実的にありえる話なのだろうか。少なくともお兄ちゃんは自身ありげだ。

「じゃあどうなるのよ」

「妹ちゃんのためなら浮気な恋愛遊びなんか諦めるだろうさ。そしてその方が母さんにと
ってもいい。あんな男に弄ばれて家庭を壊すような馬鹿なことをしでかすより」

「妹ちゃんのパパがお兄ちゃんの言うとおりにしたら。そしたらお兄ちゃんは妹ちゃんの
ことはどうするのよ」

「それは・・・・・・」

 お兄ちゃんが目を逸らした。そのときあたしはお兄ちゃんの考えていることが全て理解
できた。あたしが目を逸らしていただけだ。そんなことはお兄ちゃんに片想いしていた頃
からわかっていたことだったのに。

 お兄ちゃんはやっぱり妹ちゃんのことが好きじゃないのだ。お兄ちゃんが救いたいのは
本当は妹ちゃんじゃない。


 もう無理だった。今までは意識して考えないようにもし、口に出すなんてもってのほか
だと思って自分の中に封じ込めていたこと。

「お兄ちゃんの初恋の人ってママだったよね?」

 いつも自信に満ちていたお兄ちゃんがうろたえたところを見たのは初めてだったかもし
れない。

「・・・・・・何言ってるんだ。おまえは」

「ようやくわかったよ。普段ならお兄ちゃんはこんなひどいことを考える人じゃなかった
もん」

「おまえの言っていることは意味わかんないよ」

「普段のお兄ちゃんなら妹ちゃんを利用して使い捨てるようなことはしないでしょ」

「今の俺だって使い捨てるとか利用するとか考えているわけじゃない」

 あたしはお兄ちゃんの弁解に構わず話しを続けた。もう今まで自分に課してきたたがが
はずれたのだ。

「お兄ちゃんが我が家を守ろうとしてくれたことは確かだと思うけど。でもお兄ちゃんが
本当にしたいのはママをお兄ちゃんの元に取り戻すことでしょ」

「僕の元じゃない。僕たちの元、僕たちの家族に母さんを取り戻したいだけだよ」

「・・・・・・それって違うよね? あたしとかパパなんてお兄ちゃんにとってはどうでもいい
んだよね。ママがお兄ちゃんのところにいればそれでいいんでしょ」

「おまえ。何の根拠があって」

「パパとママは今回のことが起きる前だってあまり仲がよくなかったでしょ。あたしはそ
のことが悲しかったけど、お兄ちゃんはそのことには全然悩んでいなかった」

 お兄ちゃんは再び黙ってしまった。

「お兄ちゃんが悩みだしたのは、ママに好きな人ができてからじゃん」

「黙れ」

「これ以上、お兄ちゃんのすることには協力できない。妹ちゃんはあたしの親友なの」

「おまえはお兄さんが好きなんだろ? お兄さんと付き合いたいんだろう」

「だから?」

「そのためにはあの度を越えたブラコンの妹ちゃんの気持を僕に向けないと、おまえはお
兄さんとは付き合えないよ」

 あたしは不意を打たれて黙ってしまった。お兄ちゃんは妹ちゃんの気持を楽観的に捉え
ているのだと思っていたけど、実はそうではなく妹ちゃんが好きなのはお兄さんだと最初
から見抜いていたのだろうか。

「もうすぐシャチのショーが始まるんだ」

 自分を取り戻したらしいお兄ちゃんが冷静に言った。「見に行くぞ」

「シャチなんか見たくない」

「いいから行くぞ。あそこで妹ちゃんたちを捕まえる」

 お兄ちゃんはもうあたしの方を気にせずに歩み去ってしまった。


今日は以上です
また投下しますが、投下頻度は別スレとの兼ね合いになります

ここまで読んでいただいてありがとうございます

おつ



なるべく早くお願いします

無理しない程度でいいので

彼氏君とことんクズだったのか。
これは妹罪悪感なくてもいい気がしてきた。
舞ってます。

全員クズでなんともいえない・・・

妹はファミコンだったのか……

続きが気になりすぎてもう...

続きはまだかな??


<いさかい>




 後ろの方の席にあたしたちが会話も交わさずに座ったときにはもうシャチのショーは始
まっていて、彼らは派手な水音を立てて空中からプールにその巨体を投げ込んでいた。そ
のとき周囲の観客の歓声の渦の向こうに寄り添ってはしゃいでいる一組の仲の良さそうな
カップルが目に入った。遠目に見えたお兄さんと妹ちゃんの姿は急にクローズアップされ
て見えた。

 二人は最前列から数列下がった席に座っていた。多分並んだ列の最初の方には間に合わ
なかったのだろう。そのためシャチが作る水しぶきが前列の観客を直撃したときも、二人
はそのしぶきの直撃を受けずにすんだようだった。

 妹ちゃんがお兄さんに寄り添うように、寄りかかるように甘えている。その姿は妹ちゃ
んを信じ始めていたあたしを動揺させた。それは付き合い出したばかりの初々しい様子で
もなく、お互いに慣れきってしまった恋人同士でもなく、一番お互いに傾倒しているとき
の恋人同士の親密さを思わせるような様子だった。

「あいつら。ふざけやがって」

 隣を見るとお兄ちゃんが険しい様子で向かいの席の方を睨んでいた。お兄ちゃんもあの
二人の様子に気がついていたようだった。

「落ち着きなよ」

「僕は落ち着いているよ」

「嫉妬したの? 妹ちゃんとお兄さんの仲のいい様子に」

「ばか言え」

「そうだよね。お兄ちゃんは妹ちゃんじゃなくてママのことが大好きなマザコンだもんね」

「黙れ。誰がマザコンだよ」

「誰って。知り合いにはお兄ちゃん以外にマザコンなんかいないし」

「いい加減にしろよ。何でおまえはあれを見て落ち着いていられるんだよ。あのばか兄貴
のことが好きなんだろ」

「お兄さんのこと、ばか兄貴なんて言わないでよ」

「悪かったよ。そうだな。お兄さんにはおまえが一番似合っているよ」

「そ、そんなこと言ってない」

「とにかく、あれはないだろ。あいいつらは実の兄妹なのに、何であんなにベタベタして
るんだよ」

「妹ちゃんたちは仲良しだからね」

「限度ってものがあるだろ。仲良しの兄妹にしたって」


 正直に言えばあたしもお兄ちゃんと同じ想いを抱いていたのだ。それでも今はママだけ
を大切に思いママだけを求めているであろうお兄ちゃんへの反発だけがあたしの心を支配
した。本当はお兄ちゃんだけではなくあたしだって妹ちゃんがお兄さんにしなだれかかっ
ている仲睦まじい様子に動揺していたのに。

「残念だったね。あたしが邪魔するまでもなくお兄ちゃんなんか妹ちゃんには全然相手に
されてなかったみたいじゃない。まあマザコンの男の子なら女の子を口説いったってこん
なものか」

 突然、左頬に痛みを感じたあたしは驚いてお兄ちゃんを見た。

「あ・・・・・・。悪い。そんなつもりじゃ」

「お兄ちゃんぶったね。あたしのこと」

「違う。っていうかぶったかもしれないけど違うんだ」

「ごめん。てかそうじゃないんだ。思わず手が出て」

「もういい。お兄ちゃんがあたしや家族のことをどう思っていたのかよくわかった」

「悪かったって。たださ、家族のためにしているのに何でおまえはわかってくれないんだ
よ」

「ママさえ一緒にいればいいんでしょ? お兄ちゃんは」

 その後、しばらく不毛な兄妹喧嘩が続いた。

「もういい」

 あたしはシャチのショーが行われている会場から抜け出した。こんなやつと一緒にいた
くない。あたしはそのときそう思ったのだ。

 しばらく行く末もなく、周囲の水槽を飾っている珍しい魚類も目に入らないまま水族館
の中を徘徊していた。頭の中をかき回すような感情が少し収まってくると、あたしは現実
的な心配を考えるようになった。

 どこかで妹ちゃんたちと落ち合わなければならない。昼食やこの後に行くところを考え
るといつまでも別行動というわけには行かないのだ。とはいえ全員で集まるどころかあた
しは今では一人でいる。こんな状態でいったいどうすればいいのだろう。後ろからお兄ち
ゃんが付いてきていないことを確かめてから、あたしは小さなカニとか小エビとかがいる
人気のない地味な水槽の前のベンチに腰を下ろした。電話するしかないか。そう思ってス
マホを取り出したとき、不在着信が入っていることに気がついた。妹ちゃんからだ。


 かけなおすとすぐに妹ちゃんが出た。

「うん、あたし。もう、さっき電話したのに出ないんだもん」

「ごめん。気がつかなかった。お兄さんは一緒にいるの?」

「うん、そうだよ。シャチのショーをお兄ちゃんと二人で見てたの。妹友ちゃんは?」

「あたしもシャチのショーを見てた」

「え。会場にいたんだ。わからなかったよ」

「まあすごく混んでたから」

「でさ。そろそろ爬虫類パークに移動したいんで、出口で待ち合わせしようよ」

「うん・・・・・・。でもお兄ちゃんがどこにいるかわからない」

「へ。彼氏君と一緒じゃなかったの?」

「まあそうかな」

「じゃあ、彼氏君に電話して。どこかでお昼食べてから爬虫類パークに行くから」

「ええとね。あの」

「よろしくね」

 あたしがお兄ちゃんと喧嘩したことを伝えようとする前に、妹ちゃんは電話を切ってし
まった。とりあえず妹ちゃんたちと合流するほかに選択肢はなかった。あたしはシャチのショーの
看板が飾られていた入り口の方に向った。

「やっと会えました」

 妹ちゃんがあたしの微笑みかけた。それは何の後ろめたいこともない素直な表情だった。
それはさっきお兄さんとはぐれてパニックになった妹ちゃんとは思えないほど、いつもど
おりの態度だ。

「ごめん。ちょっとトラブってて」

「何かあったの」

 ここで嘘を言ってもしかたがない。お兄ちゃんと合流すればお互いの態度でばれてしま
うだろうから。

「ああ、別にたいしたことじゃないんだけどさ。ちょっとつまらないことでお兄ちゃんと
喧嘩しちゃって」

「何で喧嘩なんかしたの? いつもは仲がすごくいいのに」

 妹ちゃんには言われたくなかった。たとえ彼女がお兄ちゃんに狙われている犠牲者だと
しても。お兄さんの前ではそういうことを言われたくない。

「・・・・・・別に」

「妹友ちゃん?」

「別に妹ちゃんが心配することじゃないよ」

 思ったより温度が低い声になってしまったかもしれない。


<妹への不信>




「それにしても今はぐれてるのはまずいよな。ただでさえ混み合ってるんだしさ。さっさ
とここを出て昼飯食って、爬虫類何ちゃらとかに行かないと。まあ、爬虫類を諦めるなら
別に急ぐ必要はないけど」

「そんなわけないでしょ!」

 思わず口に出した言葉に妹ちゃんの声が重なった。昔から妹ちゃんとは趣味が被ってい
て、それがあたしと彼女を親友にした一因だったのだ。

「・・・・・・こわ。つうかそれなら誰か彼氏君と連絡を取れよ」

 お兄さんが呆れたように言った。

「あたしはお兄ちゃんと喧嘩しちゃって気まずいから。妹ちゃんお願い」

「あ・・・・・・。ごめん妹友ちゃん。あたし彼氏君の携番もメアドも知らないの」

「え? 何で」

 嘘付け。あたしは共通の趣味のことを一瞬で忘れるくらい腹が立った。そもそも登校
デートとか図書館デートのときに二人はメアドを交換し合っていたはずじゃない。何で今
さらそんな嘘をつく必要があるのだろう。お兄さんにを使ったのだろうか? いや。それ
ならこの旅行の前半にお兄ちゃんといちゃいちゃするところをお兄さんに見せ付けること
自体がおかしい。あたしには妹ちゃんが何を考えているのかわからなくなってしまってい
た。

「何でって・・・・・・」

 妹ちゃんは追い詰められたように口ごもった。

「付き合ってるのに何でそんなことも知らなかったの?」

「うん」

「何でよ?」

「別に理由はないけど。何となく」

「・・・・・・よくそれで今までお付き合いできてたね」

「それは・・・・・・」

「信じられない。お兄ちゃんの彼女なのにお兄ちゃんと連絡手段さえないなんて」

 あたしは間違っている。いくら姑息な嘘を言っているにしても、この鬱憤は妹ちゃんに
ではなくお兄ちゃんに晴らすべきなのだ。でもお兄さんを前にして今さら取り繕う妹ちゃ
んの姿にあたしは失望していたのだ。

「多分、彼氏君のほうも同じじゃねえか」

 お兄さんが少し気まずそうに間に入って言った。

「そんなはずないです。お兄ちゃんに限って」

「姫さあ。おまえ彼氏君に携番とかメアド教えたの」

「教えてない。妹友ちゃんが教えてなければ多分彼氏君もあたしの連絡先は知らないと思
う」

「あたしが勝手に教えるわけないでしょ」

 妹ちゃんの自分勝手な憶測にあたしはむっとした。

「じゃあ彼氏君も妹の連絡先を知らないんだな。仕方ない。妹友、おまえが彼氏君に電話
しろよ」

「あたしはお兄ちゃんと喧嘩して」

「このまま彼氏君を放置して出発するわけにもいかねえだろ」

「・・・・・・それはそうです」

 現実的に考えればそれは正論だった。こんなところでどんなに待っていたとしてもお兄
ちゃんと出会えるとは思えないし、いくら喧嘩をしたとしてもお兄ちゃんだけここに置い
ていくわけにはいかない。


「じゃあ頼むから彼氏君に連絡して出口で待っていると伝えてくれ」

「わかりました。お兄さんの頼みならしかたないです」

 妙な沈黙の中、あたしはお兄ちゃんに電話した。数コール後にお兄ちゃんが電話口に出
た。

「お兄ちゃん?」

 お兄ちゃんは何も言わなかった。とにかく用件を言わなければ。

「電話切らないで。お兄さんと妹ちゃんと合流したからお兄ちゃんもすぐに出口に来て」

「だから。あたしたちの喧嘩で妹ちゃんたちに迷惑はかけられないでしょ。とにかくすぐ
に来て。食事して爬虫類パークに行くんだって」

「爬虫類か。そこに行くのか」

 お兄ちゃんの声が耳に響いた。

「うん、そう。喧嘩の相手は夜になったらまたしてあげるから」

「何だって?」

「すぐに来るそうです」

「おまえら。何で喧嘩なんかしたの?」

「それはお兄さんにだけは言われたくないです」

 妹ちゃんはさっきから関心がない風だ。

「何でだよ」

「言いたくありません」

 少ししてお兄ちゃんが姿を見せた。気後れしている様子さえ見せずに。

「彼氏君」

「妹ちゃん、遅れてごめん」

「それは別にいいけど」

「じゃあ、行きましょう。誰かさんが遅れたせいでだいぶ時間を食ってしまいました」

「・・・・・・うるせえ」

 お兄ちゃんがあたしの方を見ずにそう言った。


 その後の妹ちゃんはうざいくらいにお兄さん大好きモードに突入っしてしまっていて、
お兄ちゃんの自分勝手な行動や目的には賛同できないあたしも少しお兄ちゃんがかわいそ
うになったくらいだった。水族館以降、お兄さんの車の助手席には妹ちゃんが当然のよう
に座った。喧嘩したあたしとお兄ちゃんを並べて後部座席に座らせることに対して、妹ち
ゃんは気を遣う気すらまるでないようだった。その座席順は妹ちゃんだけが盛り上がって
お兄さんが当惑した様子で、あたしとお兄ちゃんが沈んできたばかりだった食事を終えて
も変わらなかった。

 当然ながらあたしとお兄ちゃんは後部座席ではお互いに目も合わず、なるべくお互いか
ら離れて座るようにしていた。

「遅くなったけど爬虫類パークに行こう」

「ああ」

 お兄さんが答えた。

「妹友ちゃん、そろそろ出発しようよ」

「うん。イグアナ楽しみだなあ」

 あたしは平静を装って言った。

「理解できん」

「何でよ?」

「お兄さんも実際に見ればあの可愛らしさがわかりますよ」

「ヘビの仲間の可愛さなどわかりたくもないわ」

「・・・・・・絶対に爬虫類好きにさせてやるから」

 このときのあたしの心境は複雑だった。お兄ちゃんの身勝手な行動を擁護することはで
きない。でも、それは妹ちゃんが本心ではお兄ちゃんのことを好きであるということが前
提になる話だ。お兄さんと妹ちゃんは共依存だとあたしは思っていた。お兄さんは妹ちゃ
んのことを愛していると自分では思い込んでいたかもしれないけど、それは共依存の関係
がお兄さんの思考を歪めていただけなのだ。

 お兄さんの告白を拒否した妹ちゃんは自分の拒絶により大切な兄を失ったと思い込み、
そのことに後悔と責任を感じている。それも共依存のなせる業だ。

 両親が留守がちな家庭で二人きりで育った兄妹がお互いへの依存を深めて行くこといつ
いては、あたしが一番よく知っている。そしてそういう心の傾斜は往々にして対象への愛
情と間違えることになるのだ。あたしはそれを克服した。でも妹ちゃんがまだそのことを
克服できずにいるとしたら。

 お兄ちゃんの計画なんて成り立たない。成り立たないこと自体は別に構わないというか
望ましいことなのだけど、あたしのお兄さんへの愛もまた報われないことになるのだろう
か。

 さっきのお兄ちゃんの言葉が頭に浮かんだ。



『おまえはお兄さんが好きなんだろ? お兄さんと付き合いたいんだろう』

『そのためにはあの度を越えたブラコンの妹ちゃんの気持を僕に向けないと、おまえはお
兄さんとは付き合えないよ』


<あたしではだめですか>




 爬虫類パークは大混雑していた。そもそもチケット売り場に並ぶ以前に、駐車場に入る
のを待つ車の長い列ができていた。

 さっきからイグアナを楽しみにしてる妹ちゃんに話しをあわせていたものの、今のあた
しの関心事は決して爬虫類の類いなどではなかったから、あたしはこの長い車列を見ても
別にどうとも思わなかった。結局、時間節約のために駐車場待ちをしている間に平行して
チケット売り場に並ぶことになり、妹ちゃんとあえて志願したお兄ちゃんが車を降りて行
った。

 お兄さんと車内に取り残されたあたしは後部座席から助手席に移りたかった。でも夜明
けの海岸では何でもできたはずのあたしは、今では何もできなかった。妹ちゃんのお兄さ
んへの好意がより明白になった今では。その代わりにあたしはお兄さんに共依存の説明を
した。冷静に話しているつもりだったけど途中から思い入れも入って相当失礼なこと言っ
てしまったと思う。でもお兄さんは真面目に聞いてくれた。



「薬物依存みたいな悲惨な例とはちがうでしょうけど。根本的には同じじゃないですか」

「それだけの関係なら、何で妹ちゃんはさっきあたしたちが姿を消しただけでパニックに
なったんですかね」

「両親が不在がちな環境。寂しがり屋で家族大好きな妹ちゃん。そんな妹ちゃんが側にい
てくれる唯一の肉親であるお兄さんに依存したって別に変な話じゃないですよね」

「そして。お兄さんも妹ちゃんが大好きだった。それが妹への肉親的な感情なのか男女間
の愛情なのかは別として」

「それでも、お兄さんにとっては妹ちゃんのそんな依存が嬉しかったんでしょ? それが
唯一の生き甲斐になるくらいに」

「そうしてお兄さんと妹ちゃんの共依存の関係が始まった。妹ちゃんはお兄さんに依存し
て心の平穏を得た。お兄さんは妹ちゃんの心の平穏を保つことに自分の生き甲斐を感じて
きた」

「ね? 見事に教科書どおりの共依存関係が成立しているじゃないですか」

「さっきも言いましたけど。共依存は決して精神的に健全な状態ではないと言われています」



「おまえの言うとおりだとしてさ。俺はどうすればいいんだよ」

 お兄さんが打ちのめされたような暗い表情で言った。

「お兄さんも彼女を作ればいいんじゃないですか」

「何でそんな極端な話になるんだ」

「一生独身で妹の幸せを見守るなんて真顔で言っていること自体が共依存の典型的な状じ
ゃないですか。妹ちゃんにはお兄ちゃんがいます。お兄さんもいっそ女さんと復縁したら
どうでしょう」

「・・・・・・女のことは自分でもどうしたらいいのかわからん」

「じゃあ、あたしでは駄目ですか?」

 そのとき、あたしがようやく勇気を振り絞ったその問いに対する答を聞くことはできな
かった。妹ちゃんとお兄ちゃんがチケットを入手して帰ってきたのだ。


 普段なら本気ではしゃいでいたはずだったけど、実物のイグアナを見ても少しも心がと
きめかなかった。爬虫類パークではあたしは爬虫類を眺めるのに夢中な妹ちゃんと行動を
共にしていたから、あたしは無理に喜んでいる様子を装うことが精一杯だった。

 妹ちゃんが土産物屋でガラパゴスオオトカゲのぬいぐるみを前に唸って悩んでいたので、
少し休もうと思って自販機の前の休憩スペースに行くと、ベンチにお兄さんが腰かけてい
た。さっきの答が聞きたかったけどこんなところで催促するわけにもいかない。

「おう。おまえお土産買ったの?」

「ええ、まあ」

「ガラパゴスなんちゃらか」

「あれは大き過ぎます。何せ等身大だそうですから」

「そうか」

「あたしは諦めましたけど、妹ちゃんはまだ悩んでましたよ」

「あんなでかいぬいぐるみ、そもそも車に乗せられないだろうが」

 お兄さんのあたしに対する気持は聞けないので、あたしはさっきから心の片隅に引っか
かっていた小さな疑問をお兄さんにぶつけた。

「さっきは妹ちゃん、何でお兄ちゃんに電話しなかったんでしょうね」

「番号を知らなかったからだろ」

「そんな訳ないです。妹ちゃんはお兄ちゃんの携番とメアドは登録していますよ」

 知らないわけがない。二人は登校デートとか図書館デートのときだってお互いにメール
で打ち合わせをしていたはずだ。

「どういうこと?」

「さあ? 共依存にしても行き過ぎてますよね」

「何であそこまでお兄ちゃんに拒否反応を示すんでしょうね」

「さあ?」

「お兄ちゃんのことが嫌いなのかな」

「でもさ。図書館デートのときなんて彼氏君と妹は恋人つなぎして寄り添ってたし」

「結局、お兄さんがいない場合に限って、妹ちゃんはお兄ちゃんに素直に寄り添えるんで
すよね」

 思わずそう口に出したあたしは、喋ってしまってから改めてはっとした。意外にこれが

正しいのかもしれない。

「何だよそれ」

「いったいどっちが妹ちゃんにとって正しい姿なんでしょうね。お兄さんに依存している
妹ちゃんか。お兄ちゃんと普通に恋人同士ができている妹ちゃんか」

「何かよくわからんけど」

「わからないじゃなくてそろそろ考えた方がよくないですか? どっちが妹ちゃんにとっ
て幸せなのか」

 それは不公平でありよけいなことだった。今となっては本当はこの言葉はお兄さんに言
うのではなく妹ちゃんの方に言うべきなのだから。でもお兄さんは意外な言葉を口にした。

「あのさ。おまえ本当に俺のこと好きなの?」

「好きですよ」

 あたしは迷わず即答した。自分からは言うまいと思っていたけどお兄さんの方から口に
するなら話は別だ。


「即答かよ」

「常にそのことだけを考え続けてましたから」

「嘘付け」

「まあ嘘ですけど。でもイグアナのことを考える合間にお兄さんのことも考えてました。
これは本当です」

「俺はイグアナの次かよ」

「あたしがあんまり思いつめちゃったらお兄さんだって嫌でしょ」

「・・・・・・おまえ思ってたより気を遣えるやつなんだな」

「何ですかいきなり」

 何だか少しだけ心が温まった。少なくともお兄さんはあたしの告白を茶化さずに真剣に
考えてくれているようだったから。それだけでもあたしには収穫だった。共依存について
は多分これ以上お兄さんに話しをする必要はないのだろう。むしろ、それは妹ちゃんに話
すべきなのだ。もちろん、実際にそんなことをできる勇気は持ち合わせていなかったけど。

 次の瞬間、少しだけリラックスした時間をお兄さんが台無しにした。

「まあ、でもさ。兄貴のことを忘れるために次の恋を見つけようとしてるんだったら考え
直した方がいいぞ」

「え」

「実際にそれをやってさらに傷口を深くした俺が言うんだから間違いない」

「・・・・・・お兄さんのばか」

 何を言ってるの。何でわかってもらえないのだろう。

「ばかって」

「クズ、鈍感、ロリコン、シスコン! もう知らない」

 あたしはパニックになりお兄さんに考え得る限りの罵倒を投げつけ、そしてあたしはそ
の場を逃げ出した。


今日は以上です
また投下します



胸がくるしい....

おつ

おつおつー


<妹の怒り>




拗ねていたあたしはさっきとは逆にお兄ちゃんからの電話で呼び戻された。逃げ出した
ことに後悔し始めていたこともあったし、集団行動を乱すわけにはいかないこともわかっ
ていた。さっきもお兄ちゃんにはそう言った手前もあったし。

 妹ちゃんは何の気まぐれかわからないけどお兄ちゃんが座っていた後部座席に入ってい
た。何でそうなんだろう。妹ちゃんは自分の行動がお兄さんとお兄ちゃんを惑わせている
と考えたことはもないのだろうか。彼女はあたしの唯一の親友だった。でも今の妹ちゃん
が自分の感情だけを優先していて、他者の感情を慮っていないことを認めないわけにはい
かなくなってきた。

 お兄さんとお兄ちゃんを競わせ自分への愛情を試しているかのような彼女の行動。

 お兄ちゃんについては自業自得とも言える。ママへの思慕から妹ちゃんを利用しようと
しているのだから。でもお兄さんはどうなるのだ。以前はともかく今のお兄さんは純粋に
妹ちゃんを家族として慈しもうとしているのだけど、妹ちゃんの行動はそう決心したお兄
さんをいたずらに刺激するだけだ。わざとしているのだとするとたちが悪い。

 それでもお兄さんの隣に座れたことは幸運だった。あたしはお兄さんに謝罪しお兄さん
は苦笑した。あんなことくらいで動揺してはいけなかったのだ。お兄さんにとってはさっ
きの発言は無理もないとあたしは思えるようになってきた。妹ちゃんに振られ実際につら
い思いをしたことは確かだったのだから。

「さっきはごめんな。勝手におまえの行動の意味を決め付けるようなこと言って」

 お兄さんが車を運転すながらそう言った。

「あたしこそひどいことを言ってごめんなさい。それに出会い方がああだったからお兄さ
んには誤解されてもしかたないです」

「悪い」

「でも今朝、夜明けの海岸で話したことは嘘じゃないです。それだけは信じて欲しかっ
た」

「今さらだけどわかったよ」

「よかった」

 あたしは勇気を出して片手ハンドルで運転していたお兄さんの左手に手を重ねた。

「ちょっとさあ」

「大丈夫です。妹ちゃんからは見えません」

「・・・・・・うん」

「大丈夫ですよ。こんなことでお兄さんに選んでもらおうなんて考えていませんから」

「別にそんなこと考えてたわけじゃねえよ」

「何か急がなくてもいいような気がしてきました。妹ちゃんとの関係とか女さんとかお兄
さんはゆっくり考えたらいいんじゃないかと思います」

 半ば自分に言っていたのかもしれないけど、あたしの言葉にお兄さんは素直に納得して
くれたようだった。

「そうだな」

 お兄さんが前を見つめながらそう言った。

「それで少しでもいいからあたしのことも候補に入れておいてください」

「・・・・・・わかった」

「お兄さんと仲直りできてよかった」

「やっと笑ったな」

 前方を見つめて運転しながらお兄さんが言ったその言葉にあたしは何でかほっとした。

「へへ。あまり顔を見ないでください。さっき少し泣いちゃったから変な顔してるでし
ょ」

「全然変じゃねえよ。むしろ可愛い」


 あたしの顔は赤くなっていたと思う。

「いやそのだな」

「でも、前向いてください。よそ見運転はだめです」

「確かに」

もう時間的には熱帯植物園を回る時間はなさそうだった。既に夕食の心配をしなければ
ならない時間だ。

「妹ちゃん。これからどうする? 熱帯植物園に行くのは無理っぽいって」

 お兄さんが無理だと言っているのだから無理なのだろう。それでもあたしは念のために
妹ちゃんに声をかけた。妹ちゃんは返事をしなかったのであたしの言葉は宙に浮いたまま
だった。そのとき、妹ちゃんの態度にお兄さんが少し顔をしかめたようだった。

「妹ちゃん、呼んでるよ」

 お兄ちゃんが妹ちゃんに声をかけたけど、妹ちゃんはそれを無視した。続いてお兄さん
もたしなめるように妹ちゃんの名前を呼んだ。お兄さんの言葉に初めて妹ちゃんは反応し
た。

「・・・・・・あたしのこと、もう姫って呼ぶのやめたんだ」

 車内の空気が凍りついた。でも、それであたしは自分が本当に恐れ心配していたことが
何なのかはっきりと思い知らされた。それは知らないほうが心穏かだったことだたろう。
妹ちゃんの声を聞いたとき、あたしの胃がきりきりと痛み、あたしの足は意思に反して震
えた。

 妹ちゃんの心をお兄ちゃんに向けようと足掻いていた頃からあたしの目標はお兄さんだ
った。お兄さんが妹ちゃんを一方的に好きで、そのお兄さんの好意により妹ちゃんは心を
乱されているのだとあたしはずっと考えてきた。お兄さんが身を引けば妹ちゃんは自然と
落ち着きを取り戻し、側にいるお兄ちゃんのことを見るようになるだろうと。

 ただし、妹ちゃんは自他共に認めるほどのファミコンだった。だからお兄さんの自分へ
の恋愛感情を退けた彼女は、そのことに拗ねたお兄さんが兄貴として振る舞うことさえ放
棄して突然一人暮らしを初めて連絡を絶ったことにすごくショックを受けていたことは間
違いなかった。

 だからあたしは、お兄さんに接近してお兄さんに妹ちゃんへの恋愛を諦めさせ、かつ良
い兄として振舞うよう働きかけたのだ。そのためにはなりふり構わずに。その甲斐あって
か、お兄さんは良い兄としてだけ妹ちゃんを悲しませないように振る舞うと約束してくれ
て、実際にそれを実行してくれた。彼女まで作ってしまったののは少し誤算ではあったけ
ど、当時のあたしは別に本気でお兄さんに惚れていたわけではなかったから、それは正直
どうでもよかった。

 でも、お兄さんのことが気になるようになり、やがて自分の中の恋心をはっきりと自覚
してからのあたしは、以前にましてお兄さんだけを見るようになった。お兄さんのあたし
への態度や妹ちゃんへの態度に一喜一憂するようになっていたのだ。さっきのお兄さんの
言葉に過剰に反応してお兄さんの前から逃げ出したのだってそれが理由だった。


 でもあたしは間違えていたのだ。今この耳に届いた妹ちゃんの言葉を聞くともうそうと
しか考えられなかった。あたしが自分の恋を成就するに当たって警戒すべきはもうお兄さ
んの気持ではなく妹ちゃんの気持なのだろう。

『・・・・・・あたしのこと、もう姫って呼ぶのやめたんだ』

 自分の兄貴から姫って呼ばれることを妹ちゃんは嫌がっていたはずだ。少なくとも人前
でそう呼ばれることに抵抗があるのだとあたしは思い込んでいたのだけど、その思い込み
は一瞬で吹き飛んでしまった。

 もう認めざるを得なかった。この兄妹は兄が妹を溺愛しているのではなく妹が兄を求め
ているのだ。それも男女的な恋愛的な意味で。

 はっきりとそう悟ったそのとき胃のむかつきとがくがくしていた足の震えが止まった。

 考えてみれば今のあたしは今までで一番自由だった。もうマザコンのお兄ちゃんに手を
貸す必要はない。そして既にお兄さんは恋愛的な意味では妹ちゃんを諦めている。それな
ら話は簡単なことじゃないか。妹ちゃんは確かに可愛いし、こういう一見清楚に見える女
の子を好きな男の子には魅力的かもしれない。でもそういう意味ならあたしだって負けて
はいないはずだ。少なくともこれまで男の子に声をかけられ告白された人数を考えれば。

 それにお兄さんが妹ちゃんのことを諦めている以上、多分妹ちゃんはもうあたしの敵で
はないのだ。



「ファミレスにでも寄って行くか」

 それきり妹ちゃんが黙ってしまったので、お兄さんがそう提案したけど、妹ちゃんの言
葉のショックから立ち直りだ出していたあたしはとっさに提案した。

「・・・・・・いえ。スーパーに行きましょう」

「だって」

「ちゃんと妹ちゃんと話してみます。最悪の場合でも、あたしが一人で料理しますから」

 もうちゃんと話なんかできなくてもいいのだ。

「・・・・・・いいのか」

「ええ。あたし、こう見えても料理得意なんですよ」

「そうなん?」

「うちもお兄さんのお家と一緒で両親は共働きですし、料理は慣れてますから」

「じゃあ。おまえがいいならスーパーに行くか。最悪の場合は俺も手伝うから」


<あたしはもうお兄さんのことだけを考えるようにした>




 スーパーであたしはお兄さんと二人で買物をした。それは妹ちゃんが拗ねてさっさとど
こかに消えてしまったおかげだった。予想どおりお兄さんも妹ちゃんの後を着いていって
しまった。さっき妹ちゃんの言葉にショックを受けたあたしには、お兄さんと二人きりの
買物は時宜を得たプレゼントだった。まるで新婚の夫婦のように軽口を叩きあいながら
カートを押して夕食の食材を買って歩けたのだから。

「お兄さんと一緒にお買物とかって、何か新婚の夫婦みたい」

「・・・・・・変なこと言うなよ」

「そうですよね。ごめんなさい」

 全然すまなそうに見えなかっただろうけど、あたしは一応そう言ってみた。

「これにしようか」

「それはアジの開きです。でも、明日の朝ご飯用に買っておきましょうか」

「朝食に?」

「ええ。お兄さんは朝は和食派でしょ?」

「朝もおまえが作ってくれるの」

「はい。妹ちゃん次第ですけど」

「悪いな」

「ううん。今朝は妹ちゃんに作ってもらっちゃったし、お料理は好きですから」

 そうやってスーパー内をうろうろしていると、お菓子売り場の隅で何やら言い合ってい
るお兄ちゃんと妹ちゃんを見かけてしまった。せっかくあの二人のことは忘れていたのに。
再び胃の底が重くなっていく。でも次の瞬間、お兄さんの言葉を聞いたあたしはその憂鬱
から解放された。

「お兄ちゃんと妹ちゃんが何か言い合ってますね」

「どう考えても喧嘩だな」

「止めますか」

「・・・・・・いや。放っておこう」

「お兄さんが妹ちゃんのこと放っておくなんて珍しい」

「痴話喧嘩に兄貴が入ってもな」

「まあそうですけど・・・・・・」

「兄貴のことが心配か?」

「・・・・・・そうじゃないですけど。まあ、でもそうですね。心配したってしかたないか」

「行こうぜ」

 お兄さんに促されたあたしは再び軽い気持ちになって、カートを押すお兄さんの片腕に
掴まりながらレジに向った。


 あたしの用意した穴子丼がお兄さんには好評だったことと、どういうわけか妹ちゃんが
あたしに歩み寄ってきて仲直りしたことでより気軽になったあたしだったけど、就寝の時
間になりお兄ちゃんと二人きりになると、再びあの嫌なストレスに包まれた。今まで以上
にお兄ちゃんは負のオーラをまとっているように見える。

「電気消していい?」

 お兄ちゃんは答えなかった。

「ねえ? 聞いてるの」

 お兄ちゃんは隣の布団に仰向けに横になって天井を見つめていた。

「・・・・・・うるさいなあ。消したきゃ勝手に消せよ」

「じゃあ消すね。おやすみなさい」

「なあ」

 でもお兄ちゃんはあたしをそのまま寝かせてくれるつもりはないようだった。

「・・・・・・どうしたの」

「妹ってやっぱり兄貴のことが好きなのかな」

 それはそうかもしれない。でもあたしは黙っていた。正直、もうお兄ちゃんのマザコン
故の卑劣な企みになんか加担したくなかった。あたしがこれまで妹ちゃんをたきつけてま
でお兄ちゃんの味方をしていたのは、お兄ちゃんが純粋に妹ちゃんに恋焦がれていると考
えたからなのだ。今では全く状況が違うし、そもそもあたしにだって優先すべきことがで
きたのだし。

「さっきスーパーで妹ちゃんと喧嘩しちゃったよ」

「喧嘩って?」

 関わるべきではないと思ったけど、妹ちゃんが何でお兄ちゃんを怒ったのか知りたくな
ったあたしは返事をしてしまった。

「約束を破るなんて最低だって言われたよ。兄貴の前だけでは付き合っている振りはしな
いって約束したでしょって」

「それはおかしいでしょ。旅行が始まってからは妹ちゃんの方からお兄ちゃんに近づいて
いたのに」

「僕もそう思ってたよ。それで有頂天になっていた。やっぱり付き合う振りをしているん
じゃなくて、本当は僕のことが好きなんじゃないいかってさ」

 付き合う振り。

 あたしがお兄さんの気持を計りかねていた妹ちゃんに勧めたことがそれだった。お兄ち
ゃんと付き合う振りをしてお兄さんが嫉妬するか確かめてみればいいじゃないって、そう
勧めたのは確かにあたしだ。でも、そのことはお兄ちゃんには秘密にしていたはずなのに。
妹ちゃんがお兄ちゃんにばらしてしまったのだろうか。


 でも、そういうことではなさそうだった。

「今までおまえには黙ってたんだけどさ。僕が妹ちゃんに頼んだんだよ。僕の彼女の振り
をしてくれって」

「え? いったい何でそんなことをしたの」

「おまえがセッティングしてくれて一緒に登校したり休日に図書館に行ったりするように
なったけどさ、何というかそういうことをしてても全然妹ちゃんとの距離が近づかないん
だよね。それで、振りでもいいから恋人っぽく過ごしていたらそのうち何とかなるんじゃ
ないかって思ってさ」

「んなわけないでしょ。だいたいどういう理由で付き合う振りをしてくれって頼んだの
よ」

「それは言いたくない」

 お兄ちゃんが言った。

「言いたくないなら無理には聞かないけど。それで? そのときに妹ちゃんと約束したっ
てこと? お兄さんの前では誤解されるような行動はしないって」

「うん。そういう約束した」

「だから図書館で出会ったときに妹ちゃんが切れてたのか」

「・・・・・・うん。だからあれは僕の方が悪かったんだ」

「そうやって反省しているわりには、お兄ちゃんは旅行中妹ちゃんとべたべたしてたよ
ね」

「そこなんだよ。僕は約束を守ってそういうことはしないようにしようと思ったんだけ
ど、言い訳じゃないけど今回は妹ちゃんの方から僕に接近してきたんだよね。だから、妹
ちゃんが僕に対する気持を変えたんだと思って嬉しくてさ。妹ちゃんに応えようと思って
行動してたらこれだよ。いきなり約束が違うとかって言われるなんて」

 お兄ちゃんにとっては妹ちゃんの行動は不可解で理不尽なように見えているみたいだっ
たけど、あたしにはもうわかっていた。難しく考えるほどのことではないのだ。

「おまけにばか兄貴から怒られるしさ。妹を泣かせたらマジ殺すとかってさ。俺の方が泣
かされてるのに」

 謎に包まれていたように考え過ぎていただけだ。妹ちゃんの行動は恋する女の子の行動
の典型的な例というだけのことなのだ。

 お兄ちゃんとべたべたしていた理由は、お兄さんに嫉妬させるため。そして妹ちゃんが
お兄ちゃんに対して切れたのは単なる逆切れに過ぎない。自分に嫉妬させようとしたお兄
さんが自分の思いどおりにならずあたしと一緒に行動して満足しているらしいことに、妹
ちゃんは逆に自分の方が嫉妬してしまったというだけのことだ。

 自分の行動を棚に上げて自分にべたべたと擦り寄ったお兄ちゃんを憎むようになったの
だろう。お兄ちゃんと妹ちゃん。その行動の自分勝手さはどっちもどっちだ。こんなこと
に巻き込まれる必要はない。

 もうこれからはお兄さんのことだけを考えるようにしよう。あたしはそう思った。


<自棄>




 あたしが起きてキッチンに行くと妹ちゃんがちょうど朝食の支度を始めたところだった。

「おはよう」

 妹ちゃんがあたしに気づいて言った。

「おはよ。遅れてごめん」

「ううん。あたしも今起きたところだから。朝ごはんの支度、手伝ってもらっていい?」

「もちろん。そのつもりで来たんだよ」

「妹友ちゃん、料理上手だもんね。昨日の穴子丼、お兄ちゃんなんか夢中になって食べて
たし」

「・・・・・・そんなことはないけど」

 お兄さんに恋焦がれているはずの妹ちゃんにしては余裕の態度だった。昨晩、お兄さん
と妹ちゃんに何かあったのだろうか。一瞬嫌な想像が頭をよぎった。

 いや。それはいくら何でも考えすぎだろう。妹ちゃんとあたしは仲直りしたから妹ちゃ
んはあたしにフレンドリーなだけだ。

「それでさ。今日の予定なんだけど」

「あ、うん」

「ほら。あたしたちって無駄だと思いながら持ってきたじゃん」

「・・・・・・水着のこと?」

「そう。昨日スマホでこの辺りの観光施設を見てたらさ。ドームの温水プールがあるの
よ」

「本当?」

「うん。ほら見て」

 あたしたちは朝食の用意を放置して温水プールの情報を集めた。そうしていると何とな
く嫌な想像も消え去って行ってしまうようだった。

 あたしと妹ちゃんは朝食の席で予定変更を宣言した。植物園に行くと思い込んでいて、
突然予定が変更になったことで最初は渋っていたお兄さんとお兄ちゃんも最後にはしぶし
ぶ温水プールに行くことに同意した。


 温水プールまでの車内の席順は再びシャッフルされた。妹ちゃんが迷わずお兄さんの隣
の助手席に座ったからだ。でもせっかく持参した新しい水着を披露できることに興奮した
あたしにはそのことは思ったより気にならなかった。

 お兄ちゃんと二人で後部座席に座ったあたしたちは、昨夜の続きを話すわけにもいかず
に、結局車の単調な振動に誘われて、あたしたちはいつのまにか寝入ってしまった。昨夜、
お兄ちゃんと話していてあまり寝られなかったからだろう。

 ふと意識が覚醒した。隣を見るとお兄ちゃんが目を瞑っている。あたしはあとどれくら
いで到着するのか聞こうと思った。そのとき妹ちゃんとお兄さんの話し声がまだ半ば寝入
ってる状態のあたしの耳に入った。

「後ろの二人は?」

「寝てるよ。昨日よく眠れなかったのかな」

「じゃあ、言うね」

「言うって何を」

「お兄ちゃんの告白に対する返事」

「それはもう聞いた」

「前のは取り消し。あとお兄ちゃんにも彼女を作って欲しいというのも取り消し」

「お兄ちゃん。返事をやり直すね」

「おまえは何を言って」

「お兄ちゃん。あたしを好きになって告白してくれてありがとう」

「ちょ、おま」

「返事はもちろんイエスだよ。喜んでお兄ちゃんの彼女になるね」



「着いたよ。妹友ちゃん起きて」

「ああ、うん。ごめん寝ちゃってた」

「爆睡してたよ妹友ちゃん」

「ごめんね」

「別にいいって。それよかチケット買ってきたから行こう」

「・・・・・・うん」

「じゃあねお兄ちゃん。更衣室出たところで集合ね」

「ああ。わかった。彼氏君行こうぜ」

「はい」

 お兄ちゃんはさっきの会話を聞いていたのだろうか。それともあれは夢だったのだろう
か。

「行こ」

 妹ちゃんが明るく行った。なんだか彼女のテンションがやたら高い。泳げることに興奮
しているだけとは思えない。

「・・・・・・うん」

 あれが夢でなかったとしたらあたしはどうすればいいのだろうか。それに肝心のお兄さ
んの返事は聞こえなかったのだ。


 それでも妹ちゃんのはしゃぐ様子を見ていると、あの会話が夢でなかったとしたらお兄
さんは妹ちゃんにとって望ましい返事をしたとしか思えない。仮にお兄さんが妹ちゃんを
拒絶していたら妹ちゃんのテンションがこんなに高いわけがないのだ。

 そう考えるとあたしは再び暗い気持ちになったけど、それでもまだ決まったわけではな
い。そもそもあれは夢かもしれない。とりあえずあたしは精一杯お兄さんにアピールする
ことにした。それが無駄かもしれないことを必死で考えないようにして。

「お兄さん、あっちにウォータースライダーがありますよ」

「そうだね」

「一人じゃ恐いので付き合ってください」

「ええと。妹も行く?」

 お兄さんが妹ちゃんを誘った言葉を聞いてあたしはまた暗い考えに押しつぶされそうに
なった。

「あたしはいいや。流れるプールでぷかぷか浮いてるから」

「そう?」

 ここでほっとするべき何だろうけど、逆に仲が固まった彼女の余裕のようなものを感じ
たあたしはほっとするどころではなかった。あたしはもう自棄になっていたのかもしれな
い。自虐的にお兄さんをからかう言葉まで口をついた。

「お兄さん。ちょっと妹ちゃんをガン見し過ぎです」

「ち、違うって」

「お兄ちゃんは昔からエッチだからね。妹友ちゃんも気をつけてね」

「え?」

 え? じゃない。妹ちゃんをガン見し過ぎと言われたお兄さんは今明らかに動揺してい
たのではないか。

「ちょっと、あまりじろじろ見ないでください」

「見てねえよ」

 妹ちゃんの水着姿を見たと言われたときと違いそれは冷静な口調に聞こえた。

「早く行っておいで。戻ったらお昼にしよ」

 妹ちゃんがすまし顔で言った。


今日は以上です
別スレ投下後にまた再開します



ハ~ァ...
兄だけが心のオアシスだぜ....

....もうそろそろで終わりかぁ.....

おつ

おつです
いつも楽しみにしてるよ~

妹友には悪いけど、妹と兄のカップルは好きだ。
さて、例のレイプについては一体どんな裏があるのかwktk

あっちからきた

…こっちもすげぇよ


<でもまあ、あの兄貴も偉いよな>




妹ちゃんとそれから多分お兄ちゃんを救おうと走り去って行ったお兄さんの後を追おう
としたあたしは、寸前で思いとどまった。お兄さんはあまり喧嘩をするような人には見え
ないし、何といっても相手は柄の悪そうな人たちで人数も多い。妹ちゃんを大切にしてい
るお兄さんならどんな不利な状況下にも飛び込んでいくだろう。でも結果がついてくるか
どうかは別だ。妹ちゃんとお兄さんとあたしのお兄ちゃんが危険な状況にあるのは確かだ。

 あたしはお兄さんとは別な方向へ、プールの管理事務所の方に駆け出した。そこに行け
ば係りの人がいるに違いない。もう大人を呼んで解決するくらいしか手はないとあたしは
とっさに判断した。

 係員以外立ち入り禁止と書かれたドアをあたしは思い切り引いて事務所の中に飛び込ん
だ。運のいいことに、そこには制服を着た警備員の人やたくましい体格をした監視員の人
たちがたむろしていた。驚いてあたしを見たその人たちにあたしは事情を話した。

 後で聞いた話だけど、お兄さんは妹ちゃんを抱きかかえている男を妹ちゃんから引きは
がしてプールに投げ込んだそうだ。かなり一方的な戦いで一見強面に見えた男はお兄さん
に対して手も足も出なかったらしい。一方、お兄ちゃんも妹ちゃんを庇って殴られていた。
いろいろあたしに理解できない行動を取っているお兄ちゃんも現実的な妹ちゃんの危機を
目の前にしたとき、いつものお兄ちゃんならするであろう利害の計算をすることもなく、
愚直に妹ちゃんを助けようとして殴られたのだ。

 妹ちゃんを救ったお兄さんは次にお兄ちゃんを取り囲んでいる連中を相手にしようとし
たらしいけど、さすがに多勢に無勢だった。四人がかりでお兄さんを床に倒した彼らがお
兄さんに対して殴る蹴るの暴行を加え始めたとき、あたしが呼んできた警備員と監視員の
人たちがその四人を取り押さえた。制服を着た警備員の人は年配の人であまり頼りにはな
らなかったけど、水着姿の監視員の男の人たちがその四人を取り押さえてくれた。

 ここまで興奮からくるアドレナリンの放出のおかげで行動できていたあたしは、急に緊
張の糸が切れてその場にへなへなと座り込んでしまった。情けないことに視界までがぼや
けていく。そのぼやけて紗がかかった視界の中で、床に倒れたお兄さんに必死でしがみつ
いている妹ちゃんの姿が見えた。


 やがて警察が来て騒ぎを起こした人たちを連れ去って行った。お兄さんは妹ちゃんに付
き添われながら担架に乗せられ医務室に連れて行かれたようだ。床にへたり込んだままの
あたしの肩を誰かが抱いてくれた。

「お兄ちゃん」

「大丈夫か?」

「うん。大丈夫」

 あたしはよろけながらも何とか立ち上がった。

「無理しないで座ってればいいのに」

「お兄ちゃんこそ、殴られたんでしょ。医務室に行かないで大丈夫なの」

「僕のは怪我ってほどじゃないし。ボコボコにされてたのはバカ兄貴の方だよ」

 相変わらずお兄さんのことを小ばかにしたようにお兄ちゃんが言った。でもどういうわ
けかこのときのあたしはその言葉に悪意を感じなかった。それはあえて言えば偽悪のよう
なものだ。口で言っているほどお兄ちゃんはお兄さんをバカになどしていない。そしてお
兄ちゃんは妹ちゃんを庇って殴られた。それは本能的な行動だったのだろう。あたしが好
きだった頃のお兄ちゃんは消えていなかったのだ。

「お兄ちゃん、すごく格好よかったよ」

「やられて殴り倒されたのにか」

 お兄ちゃんは目を逸らして言った。あたしは思わず微笑んだ。

「それでも格好よかった。お兄ちゃんのこと見直しちゃった」

「それならよかったけどな。でも係員を呼びに言ったおまえの行動の方が正しかった
よ。そういう意味じゃ僕もバカ兄貴も全然駄目だな。結局妹ちゃんを助けたのは監視員の
人だしさ。つまりは人を呼びに行ったおまえが妹ちゃんを助けたようなもんだ」

「あたしは人頼みしただけだよ。お兄ちゃんたちは夢中で自ら妹ちゃんを救おうとしたん
でしょ? そっちの方が全然格好いいよ」

「ああいうときは冷静な反応ができなきゃいけないんだよ。おまえはそれができた。僕と
バカ兄貴は頭を使わないで突入して自爆したんだ。おまえの行動の方が正しい」

「お兄ちゃん」

 不意にお兄ちゃんが笑った。最近見慣れている自嘲的で暗い笑いではなく、昔あたしが
好きだったお兄ちゃんの屈託のない笑い方で。

「でもまあ、あの兄貴も偉いよな。とりあえず妹ちゃんを抱きかかえていたやつを投げ倒
して妹ちゃんを解放したんだもんな」

「お兄ちゃん?」

「・・・・・・何だよ」

 昔のお兄ちゃんがそこに帰って来たようだった。あたしはこの旅行中で初めて素直にお
兄ちゃんに向って微笑んだ。


 医務室にお兄さんを見に行こうとお兄ちゃんを誘ってみたけど、お兄ちゃんはそれを拒
否した。

「ちょっといろいろ考えたくてな。おまえ行ってきなよ」

「考えるって?」

「いろいろだよ。いろいろ。いいからさっさと行け。ついでに今日この先どうするのかも
打ち合わせてきなよ」

「・・・・・・わかった」

 お兄ちゃんにもいろいろと心境の変化が訪れているのだろう。それは望ましい方向への
変化だと感じたあたしはそれ以上無理にお兄ちゃんを誘わなかった。

「じゃあ、医務室に行って来るけど。お兄ちゃんは本当に平気なの」

「ああ。放っておけば直るだろ、こんなの」

「じゃあ、ちょっと待っててね」

「わかった」

 お兄ちゃんと別れたあたしは係員の人に医務室の場所を聞いた。そのドアの前であたし
は医務室のドアをノックした。返事はない。治療中ならまずいと思ってあたしはしばらく
待ったけど、中からは何の物音もしなかった。

「お兄さん? 入りますよ」

 あたしはドアを開けた。



「うん? もう帰って来たのか」

 以前のお兄ちゃんを取り戻して心安らかだったときはほんの一瞬で粉々になり、あたし
の感情はさっきとは間逆の方向に暗転していた。

「顔色悪いぞ。何かあったのか」

 お兄ちゃんがあたしに問いかけた。

「行こうお兄ちゃん」

「行こうってどこに。妹ちゃんたちはどうするんだよ」

「ここから出ようよ。お兄ちゃんお願い」

 お兄ちゃんは鈍い人ではない。それどころか人の感情を読み取る点では鋭すぎるところ
がある。だからこのときお兄ちゃんは既に何事かを察していたのかもしれない。でも、こ
のときのあたしはお兄ちゃんの気持を察するどころではなかった。

「・・・・・・わかった。着替えたら出口で会おう」

 抱き合っていた。水着姿のままで。妹ちゃんの水着はワンピースでそれほど肌が露出し
ているわけではない。でも、妹ちゃんを抱きしめたお兄さんの手が、妹ちゃんのむき出し
の肩を撫でている様子ははっきりと目に焼きついている。深く重ねた二人のキスの様子と
ともに。


<熱帯植物園>




 どうやって着替えたのか記憶がない。ふらふらと温水プールの出口に辿り着いたあたし
をお兄ちゃんが迎えてくれた。もうお兄ちゃんは何も聞かなかった。あたしも何も言わず、
歩いていくお兄ちゃんの後を黙って着いて行った。

 バス乗り場に止っていいたバスの中に無言のままお兄ちゃんがあたしを導いた。あたし
は何も考えられずにバスに乗って座席に座った。隣にもう何も聞こうとしないお兄ちゃん
が座って、しばらくするとバスが動き始めた。昼時の時間のバスは結構混みあっていて発
車する頃になると席に座れなかった人で車内は一杯になっていた。

 海辺の半島の景色はこんな心境でなければすごく綺麗で目を楽しませてくれたのだろう
けど、今のあたしには何も見えない。

「どうぞ」

 お兄ちゃんの声が聞こえる。

「すみません。いいんですか」

「はい。よかったら」

「ありがとうございます」

 お兄ちゃんが誰かに席を譲ったようだ。

「ありがとうね」

 あたしの隣に座った老婦人らしい女の人の声が聞こえた。

「いえ」

「どこに行きなさるの」

「はい。妹と一緒に熱帯植物園に」

「ああ。あそこはいいところですよ。次の次の停留所でだからすぐに着くわね」

「そうですか」

 ではお兄ちゃんは熱帯植物園に向っているのだ。車窓に海辺の景色が崩れて後方に流れ
て攪拌されていく。最初からわかっていたのかもしれない。この小旅行には主人公と脇役
が出演している。お兄さんとあたしはその主役になれそうな気がしてそのことに酔ってい
た。偉そうにお兄ちゃんの行動を非難して切捨ててでも、ヒロインの座を手に入れるつも
りだった。

 でもそうじゃなかった。そこには主人公と脇役すらいない。王子様とお姫様は存在して
いる。プールの医務室で抱き合い求め合っていた二人が。そのほかにその場にいたのは脇
役ですらない。引き立て役のピエロが二人。お兄さんと妹ちゃんに振り回されて喜劇を演
じたあたしとお兄ちゃんがいただけ。

 あたしはようやくそのことをさとったのだ。妹ちゃんにとって、あたしとお兄ちゃんが
この場に必要だったことは確かだろう。別に自分の恋愛の成就に邪魔なあたしたちをあえ
てこの旅行に呼んだわけではない。あたしにはもうわかっていた。

 妹ちゃんが考えたのはきっと、もっとひどいことだったのだ。


 被害妄想かもしれないけど、ここまで来るとそうとしか考えようがない。

 わざとお兄さんを避けお兄ちゃんと一緒に行動していた妹ちゃん。

 思い通りにならず、あたしと一緒に行動したお兄さんに嫉妬してお兄さんに対して嫌味
な言葉を連発していた妹ちゃん。自分のことを姫と呼ばないお兄さんに対して苛立ちをぶ
つけた妹ちゃん。

 そして。

 妹ちゃんは知らない男の人たちに襲われた自分を身を張って助けたお兄さんに対して、
この旅行中で初めて素直な行動に出た。それはお兄さんに抱きついてキスすること。

 よく考えるとあたしがショックなのは妹ちゃんの行動にではなく、お兄さんがそれを受
け入れたことなかもしれない。妹ちゃんがファミコンやブラコンなのは十分に承知してい
た。でも、お兄さんはそれを克服していい兄になるって言っていたのだ。そのお兄さんが
がほんの短い間で豹変した。妹ちゃんの抱擁と愛撫と口付けによって。

 あたしにはもう喪失感以外の何も感じられなかった。

「次で降りるぞ」

 呆けたように脱力したまま腰かけていたあたしに、お兄ちゃんが声をかけた。

「おまえ、それしか食べないの」

 お兄ちゃんとあたしは、三十分くらい並んで入場券を入手してから、植物に入場した。
今となっては並んでまでここに入って食虫植物を見たいとは全く思わなかったけど、それ
でも何かしなければ時間が潰せないことも確かだった。

 お兄ちゃんも熱帯の植物には何の興味もないようだったから、あたしたちは入園してす
ぐに植物園内のレストランに入った。食欲は全くなかったけど。

「うん。お腹すいてない」

「・・・・・・おまえが医務室で何を見たのかは想像がつくよ」

 プールから出て以来何も核心に迫るようなことは何も言わなかったお兄ちゃんが、よう
やくあたしを見つめて話し出した。

「え」

「まあ、僕が言うのも何だけどさ。あまり気を落とすな」

「何でわかるの」

「妹ちゃってファミコンなんだろ? 身を張って自分を助けた兄貴にべたべたするくらい
は当然だろ。でもさ。おまえもそれくらいわかっていて兄貴のことを好きになったんだ
ろ」

「それは・・・・・・まあそうだけど」

「だったらあまり慌てるな。僕はまだ妹ちゃんを諦めてないよ」


 思わずお兄ちゃんの身勝手な発想に怒りが沸いてしまった。身勝手という意味では妹ち
ゃんも同じだったのだけど。

「それはお兄ちゃんが妹ちゃんのことを、ママを取り戻すための手段だと思っているから
だよ。だからそんなに平気な顔をしていられるんでしょ」

「何だって」

「あたしは違う。最初はともかく、あたしは今では本当にお兄さんのことが好きで、だか
らこんなにつらいんじゃないの」

「だから落ち着けって。あいつらは普段は両親が忙しくていつも二人きりだったんだろ」

「そうだけど」

「共依存だよ。あいつらは本当に愛し合っているわけじゃない」

 ここでお兄ちゃんの口から共依存という単語が出てくるとは思わなかったけど、それで
も今のあたしにはお兄ちゃんへの反発心しか感じない。

「何でそう言い切れるの」

「実の兄妹だからさ。これが幼馴染とかだったら僕だって少しは焦るけどさ」

 もう我慢できない。お兄ちゃんは頭がいいくせに真相を悟ることができない。それはき
っと自分に自信がありすぎて真実をそのままに受け取れないからだろう。正直、今はお兄
ちゃんのことどころじゃなかったけど、こんな楽天的な誤解をそのままにしておくわけに
はいかなかった。

「あたしたちってさ」

 あたしはお兄ちゃんに話し始めた。

「うん?」

「そもそも何で妹ちゃんからこの旅行に誘われたんだと思う?」

「それは親友のおまえと一緒に来たかったからじゃ」

「そうじゃないよ。妹ちゃんは本当はお兄さんと二人で来たかったんだと思うな」

「それならわざわざ直前になって僕たちを誘うことなんかないだろ」

「そのときの妹ちゃんはお兄さんからいい兄貴になる宣言をされてたからね」

「はあ?」

「妹ちゃんはきっとお兄さんと恋人になりなかったんだよ。でも、お兄さんがいい兄貴に
なるって頑なに言い張ってたからさ」

「どういうこと?」

「嫉妬させたかったんでしょ。お兄ちゃんとベタベタしているところをお兄さんに見せ
て」

 お兄ちゃんが俯いた。やがて顔を上げたときのお兄ちゃんの表情はさっきまでと全く異
なるものだった。


<せめて妹のおまえのことだけは>




「思い知らされたよ」

 やがてお兄ちゃんがはっきりとした声で言った。

「何を」

 お兄さんへの想いを断ち切られたあたしはお兄ちゃんのことなど構っている余裕はなか
ったはずなのに。それでも思わずあたしは声を出して聞き返してしまった。

「おまえの言うとおりだ。多分僕は妹ちゃんのことなんか好きじゃなかったんだと思う
よ」

 やはりそうなんだ。前から疑っていたこととはいえはっきりと口にされると結構ショッ
クを受けるものだ。

「お兄ちゃんの好きな人ってやっぱり」

「待て。それは違うぞ。兄妹だってどうかと思うのに、自分の母親のことがどうこうなん
て考えるわけないだろ」

「・・・・・・ママだなんて一言も言ってないじゃん」

「おまえは」

「もういいよ。どうせうちの家庭なんか壊れてるんだし。でもさ、お兄ちゃんには大好き
なママと暮らしたいって言う目標があるんでしょ? あたしはどうすればいいの。お兄さ
んと付き合うこともできず、家族も壊れちゃってさ」

「壊れてないよ。つうか、僕が壊させない」

「どうやって? もうお兄ちゃんの穴だらけの計画なんて考える価値すらないじゃん。そ
もそも妹ちゃんに相手にされてないんだから」

 お兄ちゃんは俯いて黙ってしまった。

「・・・・・・・ごめん」

 言い過ぎた。あたしはお兄ちゃんに謝った。

「あのさあ」

「・・・・・・何」

「僕は確かに考えが甘かったかもしれないけど、せめて妹のおまえのことだけは守るよ」

 この人は何を言っているのだ。自分の母親に恋焦がれた挙句結果的に頭の悪い作戦を立
てて盛大に自爆しているくせに。この人はもうあたしが好きだった頃のお兄ちゃんではな
い。あたしはそう思った。あたしが口を開こうとしたとき、妹ちゃんからのメールを受信
した携帯が鳴った。



from:妹ちゃん
to:妹友ちゃん
sub:無題
『そろそろご飯食べに行くよ~。今どこ? 出口で集合だから彼氏君と一緒にすぐに来て
ね』



 これだけ無神経なメールも珍しい。あたしは無気力にそのメールに返信した。


from:妹友
to:妹ちゃん
sub:無題
『ごめんなさい。ちょっとお兄ちゃんと話もあったので勝手にバスで別荘に帰ってきてい
ます。連絡もしないで本当にすいません。お兄さんと妹ちゃんは予定どおりプールで一日
過ごしてから帰ってきてください』

『お昼も夕食も勝手に済ませますからお兄さんたちもそうしてください』



 メールを終えてスマホをテーブルの上に置いたとき、あたしはお兄ちゃんが何か言いた
気な様子でいることにきがついた。

「妹ちゃんから。お昼の時間だから早くおいでって。ふざけてるよね」

「ふざけてるかどうかはわからないけど。もう別行動になってるしな」

「うん。だから夕食まで勝手に過ごしてって返信しておいた」

「それでいいの? おまえはバカ兄貴のことが好きなんだろ」

「もうどうしようもないじゃん。そんなこと一々言わないでよ」

 するとお兄ちゃんが珍しくあたしを正面から見つめた。

「何よ」

「あのさ。僕は妹ちゃんに付き合う振りをしてくれって頼んだ話をしただろ」

「聞いたよ。本当にばかみたい」

「その理由を知りたいか」

「・・・・・・別に」

 今さらどうでもいい話だった。

「教えてあげるよ。僕は妹ちゃんに言ったんだ」



『うちの妹のことなんだけど』

『すごく言いづらいんだけど。何かさ、あいつ僕のことを好きみたいで』

『最近、朝起きるといつも妹が僕のベッドで一緒に寝ている』

『二人で外出するとやたらに僕と手をつなごうとしたり、抱きついてきたりする』

『びっくりしたでしょ。僕だってそうだよ。最近じゃあ、両親までおまえたち兄妹は
ちょっと仲良くしすぎだとか真顔で注意するようになったし』

『あり得ないでしょ? 実の兄貴のベッドに潜り込んだり実の兄貴と外出中に抱きつ
いてきたりとか』

『ごめん。そうじゃないんだ。僕は妹の僕への不毛な恋愛感情を諦めさせたい』

『僕の彼女の振りをしてくれないかな』


 あたしは唖然とした。

「ふざけんな」

 何とか声を振り絞ったけど、お兄ちゃんは動じなかった。

「だっておまえ、僕のこと好きだったろ」

 確かにそうだけどそれは以前の話だしもうあたしはブラコンを克服している。このバカ
兄貴は言うに事欠いてあたしのお兄ちゃんへの想いまでも妹ちゃんへの恋の成就に利用し
たのだ。

「何でそんなこと妹ちゃんに言ったのよ。あたし、もう妹ちゃんの顔を見れないよ」

「どうでもいいだろ? あいつらが近親相姦の仲に踏み込んでいくなら、もう僕たちはあ
いつらに関わらない方がいい」

 事実かもしれないけど、それはお兄ちゃんにだけは言われたくないとあたしは思った。



 結局どこを回ってもつまらない思いをするだけだった。あたしたちは混んだ路線バスで
早めに別荘に帰ってきた。合鍵を預かっていたからお兄さんと妹ちゃんが不在でも中に入
ることはできた。

「なあ」

 何もする気力もなくリビングのソファに座り込んだあたしの目の前に立ってお兄ちゃん
が言った。

「何よいったい」

「さっきの話だけど。僕はおまえのことは守るよ」

「・・・・・・できもしないことを適当に言わないでよ」

 お兄ちゃんは動じなかった。

「おまえ、僕のこと好きだったんだろ」

 何を言っている。確かにそうだったけど。

 いきなりかがんだお兄ちゃんがあたしの頬を両手で挟んだ。

「前から知ってたよ。だから妹ちゃんに頼んだんだ。おまえ、僕のこと好きだろ」

「お兄ちゃんにはママがいるでしょ。マザコンのお兄ちゃんなんか大嫌い」

 あたしは思わずそう叫んだ。でもあたしの叫び声を聞いてお兄ちゃんは笑った。

「初めて気がついたよ。おまえって母さん似だったんだな」

 あたしは生まれて初めて自分の身体を抱きすくめられて愛撫されたことに狼狽した。

「ちょっと。やだよ、やめてよ・・・・・・お兄ちゃんやめて」

 あたしは生まれて初めてお兄ちゃんに抱きすくめられたのだ。


今日は以上です
次回はビッチ投下後になります

ここまでお付き合いいただきありがとうございます

乙です

おつ

兄のクズっぷりがストップ高

全員おどろくほどのクズっぷり



妹友ちゃん....可哀想に....

そして彼氏くんの暴走が始まる......

1000スレまでに収まるか……!?


<周りにとっては結構いい迷惑だよな>




「何かすげえ久し振りっつう感じ? 妹友ちゃんに会えて嬉しいぜ」

「あたしは別に嬉しくないですけど」

「またまたあ。会いたかったんでしょ? 俺と。そうじゃないなら連休の最終日にわざわ
ざ俺を呼び出したりしないでしょうが」

「・・・・・・それにしても電話一本で突然の呼び出しに応えるなんて、兄友さんはさぞかし連
休中はお暇だったんでしょうね」

「何でわかるの? 妹友ちゃんマジエスパーじゃん」

「こんなことをわかるのに超能力なんて必要ないです」

「そうかもだけどさ。今日だって妹友ちゃんの方が俺を呼び出したんじゃん。何で俺の方
が立場が下なのよ」

「嫌でしたか?」

「別に嫌じゃねえけど」

「じゃあ、いいじゃないですか」

「まあいいけどさ。で? 連休中はどうしてた?」

「好きな人と、片想いの人と一緒に海に旅行してました。二人きりじゃないですけどね」

「・・・・・・そ、そう。よかったね。楽しかったでしょ」

「ええ、本当に楽しかったですよ。彼と初チューもしましたし」

「よかったじゃん。妹友ちゃんおめでとう」

「・・・・・」

「兄友さんて無神経ですよね」

「・・・・・・それは認めるけど、無神経なのは君の方じゃない?」

「何でそうなるんです?」

「いや、別に。それより好きな男と結ばれたんだろ。おめでとう」

「好きな人にキスしたけど、結局失恋したみたい」

「あ~」

「あ~って何ですか」

「いやその」

「失恋して帰ってきました。ショックを受けるようなシーンも目撃しました。これでいい
でしょ」

「いやさ。俺別に君には何も要求してないし、今日も呼ばれたから来ただけなんだけど」

「・・・・・・」

「いやあの」

「わかってますよそんなこと。呼び出しちゃってごめんなさい」

「まじめに謝られると対応に困るんだけど」

「兄友さんは休み中は何をしてたんですか」

「何もしてないよ」

「そんなわけないでしょう。人間が行きていく上で何もしていないなんて有り得ないで
す。最低でも栄養を摂取したり睡眠を取ったりはしていたはず」


「妹友ちゃんいったい何言ってるの?」

「で。休み中は何をしてたんですか」

「俺のことなんか興味ないでしょう。何でそんなにこだわるの」

「・・・・・・別に」

「まあ君の言うとおりかな。食って寝て、妄想してを繰返してたら連休なんかすぐに終っ
ちゃったよ」

「いったい何を妄想してたんです?」

「君のことかな」

「・・・・・・あたしをからかってるつもりですか」

「いや、本当。君と恋人同士になってデートしたりプレゼント交換したりとかさ。何かそ
ういう妄想を繰り広げていた。最初はそれだけで幸せだったんだけど、そのうちむなしく
なってやめちゃったけどね」

「いい加減にあたしをからかうのはやめてください」

「正直に言ったんだけどな」

「・・・・・・ばか」

「ばかなのは十分承知してるよ。それで君は? 何で兄とチューまでしたのに失恋したの
さ」

「だ、誰がお兄さんと一緒だったなんて言いました」

「そんなのわかるよ」

「何でよ」

「妹友ちゃんのことが好きだから。んで、君は兄のことが好きだったんでしょ」

 どういうわけかそう断言した兄友さんに対してあたしは何も言い返せなかった。それに
しても兄友さんは、何でわざわざ好きだったという過去形を使ったのだろう。

「やっぱりか」

「何がやっぱりなんです?」

「いや。やっぱりあいつら兄妹ってお互いに好き会ってたのか」

「・・・・・・何であなたにそんなことが断言できるんです」

「わかるよ。俺だって高校時代からあいつらとの付き合いはそれなりに深かったしさ」

 そんなことは前からわかっていた。あたしだって妹ちゃんの親友だったのだから。お兄
さんと妹ちゃん、兄友さんと女さん。そしてあたしとお兄ちゃん。

 その全員の最近の関係がお兄さんと妹ちゃんの関係に振り回されていただけだとしたら、
そんなのはあまりにも惨めすぎる。男たちが妹ちゃんを求め、あたしを含めた女たちがお
兄さんを求めた。でも、二人は互いに互いしか求めていなかったとしたら、そんなことは
ひどすぎる。


「兄と妹ちゃんってさ。本人たちは意識していないのかもしれないけど、周りにとって
は結構いい迷惑だよな」

「迷惑って?」

「あいつらさ。一人一人はいいやつなんだと思うけど、一緒にいると周りに害しか及ぼさ
ないじゃん」

「そうですか。あたしにはよくわからないけど」

「いーや。君にだってよくわかってると思うけどな」

「わかりません」

「現に一緒に旅行に行った妹友ちゃんが傷付いているでしょ。女だってそうだし、それ
に新ネタだけど女友も兄に告って振られたらしいよ」

「・・・・・・誰です?」

「女の親友。何か飲み会で男に絡まれていたところを兄に助けられて惚れちゃったんだ
と。ヘブンティーンの表紙を飾るモデルとかまでしてる子なんだけどね」

「ああ。前にあなたが可愛いから何とかしたいって言っていた人ですね」

「・・・・・・よく覚えてるね。だけど何なんだろうなあ。別に兄なんか格好いいわけでも何で
もないのに、何でこんなにもてるのかな。そしてどんなにもてても自分の妹がいいとか俺
には理解できん」

「あなたは妹ちゃんが好きだったんですよね」

「ああ。昔妹ちゃんに告って玉砕したぜ」

「あなたはあたしが好きなのではなかったんですか」

「昔の話だって。俺が今好きなのは君だけだけどさ」

「・・・・・・・すごく迷惑だから本気でやめてください」

「君が話を振ったんでしょ。まあいいや。妹ちゃんについては君のほうがよく知ってるで
しょ」

「確かに彼女はもててたし、そのわりには特定の彼氏を作ったことは一度もないですね」

「好きな男がいたからだろ」

「・・・・・・それがお兄さんだと言いたいんですか」

「うん」

どう反応すればいいかわからなかったからあたしは黙った。


<兄と妹を別れさせる会>




「とにかく女が兄を好きならって思って身を引いた俺は全くのピエロだよ」

「あなたの場合は後輩を妊娠させたんだから自業自得でしょう」

「妊娠してないって。でもまあそうだな」

「あの。実の兄と妹の恋愛とかって本当に成り立つものなんでしょうか」

「さあ。俺には弟しかいないしよくわかんないな。君の方こそ兄貴がいるんでしょ? 兄
貴のことを彼氏として見れるの?」

 あたしは沈黙した。昨夜の恐かったお兄ちゃんの行動を思い出したからだ。

 兄貴のことを彼氏として見れるの? その応えはイエスでもありノーでもある。あたし
はかつてお兄ちゃんに恋していてお兄ちゃんを恋愛対象としか見れなかった時期がある。
でも、そんな関係はありえないと自分で納得してからは、お兄ちゃんから距離を置き、そ
してお兄ちゃんの妹ちゃんへの恋愛を手伝おうと思った。

 でも今ではどうなんだろう。お兄ちゃんの恋愛を手伝う気なんかさらさらない。マザコ
ンのお兄ちゃんは妹ちゃんを手段としてしか見ていないことがわかったからだ。

 無理矢理素肌に残されたお兄ちゃんの手の感覚がまだ残っている。その手はあたしが恋
しているお兄さんのものではなく、恐い実の兄の手の感覚だ。ただ、あたしは一時期その
手の持ち主に恋していたことも事実だったのだ。

 そういうことを踏まえてもなお、あの場をお兄さんと妹ちゃんが邪魔してくれたことは
よかったのだと思う。仮にお兄さんへの恋を諦めなければいけないとしても、それはお兄
ちゃんへの恋を復活させることと同義ではないのだから。

「どうなんでしょうね。二人がお互いを好きなら有りなのかもしれませんね」

「自分が振られたのにずいぶん冷静だな。やっぱり君も兄貴のことが気になるんじゃ」

「あ、違いますよ? 妹ちゃんたちのことなら有りなのかもしれないけど、自分とお兄ち
ゃんなんて有りえないですから」

 少なくともマザコンのお兄ちゃんとは。あたしは心の中でそう付け加えた。

「・・・・・・やべえ。そろそろ時間だ」

「何か用事があるんですか」

「まあね。つうか君も一緒に行かね?」

「はあ」

「この後女と女友と会うんだ。前から約束させられててさ」

「何であたしが一緒に?」

「さあ。でもテーマが兄と妹のカップルのことらしいんだよな。どうせ俺は尋問を受ける
んだろけどさ」

「繰返しちゃって悪いんですけど、何であたしが一緒に行く必要があるんですか」

「兄の被害者の会設立かもしれねえじゃん。それなら妹友ちゃんにも参加資格はあるし
な」

「あたしは別に被害者では」

「いいから付き合ってよ。俺だってたまには君とデートしたいしさ」

 兄友さんはそう言ってにかっと笑った。

 この人はどこまで打たれ強いんだろう。少なくとも今まであたしの周りにはいなかった
タイプの人だった。どうせすることもないのだ。家に帰ってお兄ちゃんと気まずく顔をあ
わせるよりは、いいのかもしれない。結局あたしは兄友さんに着いていくことに決めた。


女友「それでは第一回兄と妹ちゃんを別れさせる会を開催します」

兄友「・・・・・・そういうのマジでよそうぜ」

女「うん。周囲が介入しない方がいいと思う」

妹友「何なんですかこれ。兄友さんあたし帰ります」

女友「まあみんな。少し落ち着きなさい」

女「もうよそうよ」

女友「そういやさ。兄友、紹介しなさいよ。その可愛い女子高生は誰?」

兄友「ああ、彼女は妹友ちゃん。兄と妹ちゃんの知り合い」

女友「ああ。兄と妹ちゃんと一緒に旅行に行ったと言う。ふ~ん。で?」

兄友「でって何だよ」

女友「何で兄と妹ちゃんを別れさせる会に彼女が参加しているわけ?」

兄友「別れさせる会なんて聞いてないぞ」

妹友「あたしやっぱり帰ります」

女友「何でよ」

妹友「こんなの卑怯ですよ。お兄さんと妹ちゃんがいないところで勝手に別れさせると
か」

女「そうだよね。あたしもそう思うかも」

女友「これは彼らを救うためじゃない。どう考えたって先には不幸しか見えてないんだ
よ。友だちのあたしたちが目を覚まさせてあげようよ」

女「・・・・・・兄に告ったくせに。よく言うよ」

女友「振られたんだからあんたを裏切ったことにはならないでしょ。未遂じゃん」

女「全くもう。あんたはあたしの心配をしてくれているのかと思ったのに」

女友「心配はしてたよ。お友だちからやり直しているはずのあんたが兄のこと避けてた
し」

女「それは・・・・・」

兄友「とにかくよそうぜ。たとえ不幸なことになるにしたって、周囲がお節介を焼いてい
いことじゃないと思う」

女友「あんたはもう兄から絶好されてるかもしれないけど、あたしと女はまだ兄の友だち
だからさ。みすみす不幸になるのは見過ごせないよ」

兄友「そもそもあいつらが付き合っているって言う証拠はあんのかよ」

女友「決定的な証拠はないが限りなく黒だと思う」

兄友「証拠なしかよ。まあ俺も二人は好き合っているとは思うけどな。ね妹友ちゃん」


妹友「・・・・・・」

兄友「妹友ちゃん?」

妹友「旅行中、抱き合ってキスしてましたよ」

女友「・・・・・・マジで?」

女「うそ」

兄友「・・・・・・言っちゃったよ。女友が止められなくなるぞ」

妹友「無理に別れさせるとかはどうかと思いますけど、事実は事実ですし。それに」

兄友「それに?」

妹友「お二人もお兄さんことを好きなのだとしたら、事実を知る権利はあるんじゃないか
と思って」

女友「お二人も? あなたも兄のことが好きなの」

妹友「あ・・・・・・」

兄友「自爆かよ」

女友「そうか。あなたも仲間か。じゃあ詳しく話してもらおうかな」

兄友「もうよそうぜ」

妹友「二人とも水着姿で、ベッドに仰向けになったお兄さんに妹ちゃんが上から抱きつい
てました」

女友「キスしてた?」

妹友「ええ。お兄さんが妹ちゃんの背中を抱きしめてて、妹ちゃんもお兄さんの首に両手
で抱きついてて。その状態で二人はキスを」

女友「これはもう確定だね。やっぱり実の兄妹同士でできてたか。最初から怪しいとは思
ってたけど」

女「もうやだ」

女友「泣くなよ。それより復讐だ」

兄友「復讐っておまえ。最初に言ってたことと違うじゃねえか」

女友「うるさいなあ。復讐でもあり兄たちを救うことでもあるんだってば」

兄友「何か相当無理がある気がする」

女友「一石二鳥だって」

妹友「本気で二人を別れさせる気なんですか。何だか大きなお世話だって気がしますけ
ど」

兄友「そうだよ。妹友ちゃんの言うとおりだ。もうそっとしておいてやろうぜ」

女友「友だちだからね。二人が不幸になるのは放っておけないしさ。それに第一このまま
じゃ悔しいじゃん。あたしたちがバカみたいで」

妹友(・・・・・・確かにそうだ。振り回されるだけ振り回された感じがするし。最初は不純な
動機からお兄さんに接近したあたしの場合はともかく、女さんと女友さんは犠牲者といっ
てもいいかもしれない)

妹友(それにあたしの今の感情だって行き場がない。無理矢理別れさせるとか無茶な話じ
ゃないんだったらあたしも協力して・・・・・・)

妹友(それにあの二人はきっと妹ちゃんの方がお兄さんに執着しているはず。お兄さんは
一度はいい兄貴になるって決めてくれたんだし)

妹友「とりあえず何をする気なのか、お話を伺いましょうか」

兄友「マジかよ」


<新しい生活>




妹「お兄ちゃん」

兄「何だよ」

妹「浴室から出る前に身体を拭いてって言ったじゃん。何で毎日バスマットを濡らすの
よ」

兄「一応、バスルームの中で身体を拭いてはいるんだけど」

妹「だってバスマットが濡れてるじゃん。次に入る人の身になりなよ」

兄「そんなに濡らしてるかあ」

妹「濡れてますぅ。ほら」

兄「ば、ばか。顔に濡れたマットをくっつけるな」

妹「・・・・・・ふふ」

兄「・・・・・・何だよ」

妹「冷たかった?」

兄「冷めてえよ」

妹「ようやく思い知ったか」

兄「何なんだよいったい」

妹「ほら。濡れたとこと拭いてあげる」

兄「こらよせ! くすぐったいだろうが」

妹「じっとしててよ」

兄「・・・・・・・おまえなあ」

妹「気持よかったでしょ」

兄「全く」

妹「ほら。テーブル片付けて。夕ご飯の準備ができないじゃん」

兄「夕飯何?」

妹「見ればわかるでしょ」

兄(これは。俺の好物のさわらの西京漬けと。あと、オムライス?)

兄(何この記念日的メニュー)

兄(さわらとオムライスって食い合わせはどうよ)

妹「じゃあ食べようか」

兄「(共通点は俺の好物ってだけだな)おう。いただきます」

妹「いっぱい食べてね」

兄「なあ」

妹「なあに」

兄「・・・・・・そのさ」

妹「何よ」

兄「あのさ。その。俺は・・・・・・。おまえのこと愛してる」

妹「へ?」

兄「父さんたちの離婚とかいろいろあったけど、今こうしておまえと一緒に暮らせて、お
まえが料理してくれて。俺、本当に幸せだわ」

妹「お兄ちゃん・・・・・・」


兄「ずっとこうして俺と一緒にいてくれるか」

妹「・・・・・・」

兄「・・・・・」

妹「・・・・・・・はい」

 今まで妹の姿はいろいろと見てきたのだけど、うっすらと浮かぶ涙で目をうるませた妹
を見るのは初めてだったかもしれない。

妹「お兄ちゃん」

兄「うん?」

妹「ママがね。この先はあたしたち二人に任せるけど、いろいろと計画的に生活しなさい
って」

兄「そうだな。お金の使い方とかもそうだし、毎日の生活のルールとか将来の目標とかも
決めておくべきだし」

妹「・・・・・・もちろんそういうのも決めておかなきゃだけど」

兄「他に何かあるの」

妹「・・・・・・えと」

兄「何だ?」

妹「ママがね。その・・・・・・きちんと避妊できないならそういうことはしちゃ駄目って」

兄「あ、ああ」

妹「・・・・・・うん」

兄「それはそうだよな。当然だよな。旅行の時はごめん」

妹「生理がきたからあれはもういいけど」

兄「わかった。ちゃんとするから」

妹「勘違いしないでね? あたしは後悔はしていないんだから」

兄「何だよ」


妹「後悔はしてないけど。でもママがあたしから目を逸らしながら避妊しなさいって言っ
たのを聞いて、あたし思わず泣いちゃった。こんなことをママに言わせたのはあたしなん
だって思って」

兄「姫・・・・・・(泣いてる)」

妹「ごめんね。もう言わないから」

兄「いや。姫のいうとおりだと思うよ。それに姫と暮らせるのだって火事場泥棒みたいな
もんで、父さんたちが離婚しなければ母さんだって絶対に許してくれなかったろうし」

妹「うん。でも、あたしはこれでよかったって思ってる。好きな人と、お兄ちゃんとずっ
と一緒に暮らせるんだもん」

兄「うん。せめてこれ以上は母さんを心配させないようにしないとな」

妹「そうだね。あたしも頑張る。絶対にお兄ちゃんと同じ大学に合格してみせるから」

兄「おう。俺も勉強してちゃんと就職するからな」

妹「・・・・・・お兄ちゃん」

兄「こら。まだゴム買ってないんだしあまり抱きつくな」

妹「そこは理性で抑えないと」

兄「俺の理性にだって限界があるの」

妹「ふふ」

兄「だからよせって」

妹「計画的に生きるんでしょ?」

兄「・・・・・・コンビニ行って来てもいい?」

妹「あたしも行く。プリン買いたい」

兄「・・・・・・」

妹「冗談だよ。一緒に行こ」


「何かどきどきしてきた」

 女友さんがそう言って落ち着かない様子でスタバの店内を見回した。

「今になって何言ってるんですか」

「だってさ。まさかもう来てたりしないよね」

「いませんよ。あたしは妹ちゃんのお母さんの顔を知ってますから」

「何と言って兄のお母さんを呼び出したんだっけ」

「それ、もう何回も説明したじゃないですか」

「今は頭の中が真っ白なんだよ。全然思い出せないから予習的な意味で教えて」

「お兄さんの大学での生活態度についてお話したいことがありますって。妹ちゃんのお母
さんの会社に電話してそう話しました」

「そうだったっけ。でも、それってどういう意味なの」

「簡単に言えばモデルとかしているような尻軽な女の子に騙されて相当貢がされてるみた
いです。放って置けないのでご相談したいんですけどって言いました」

「なるほど。それなら母親は食いついてくるよね。って、モデル? 尻軽?」

「はい」

「まさかあたしのことじゃないでしょうね。つうかあたしがいつ兄に貢がせた?」

「そんなことはどうでもいいんですよ。普通に相談があるって言っただけでは警戒される
でしょうし、かといって最初からお兄さんと妹ちゃんのことで相談があるなんて言ったら、
話しを見透かされて事前に二人を問い詰めちゃうかもしれませんし。とにかく今日来てく
れればそれでいいんですから」

「それはそうだけど。妹友ちゃんあたしのことをそういう目で見ての?」

「さあ? でもいいじゃないですか。お母さんが来たら本当のことを話すだけなんだか
ら」

「何か納得できない。でも今は妹友ちゃんを問い詰めている心の余裕はないわ。やばい。
何だかどきどきして来た」

「意外とメンタル弱いんですね。自分で言い出したことなのに」

「妹友ちゃんは最初は反対してたけど、その気になったら容赦ないのね。迷いが全くない
っていうか」

「決めるまでは迷いますよ。でも、決めてまで迷うのは愚者の逡巡にすぎません」

「あなた本当に高校二年?」

「そうですけど・・・・・・あ、お母さんが店に入ってきました」

「うう。お腹痛い」

「もう覚悟を決めてください。あ、こっちです。お呼び立てしてすいません」

「妹友ちゃん。久し振りね」

 妹ちゃんのお母さんはスーツ姿でとても若く見えた。この人も妹ちゃんのパパとうちの
ママの犠牲者なのだと思うと気が重くなった。そのうえ、更にショックなことを言わなけ
ればいけないのだし。でも、決めた以上もう迷っているわけにはいかない。


今日は以上です
また投下します

>>920
次スレに行っちゃうかもしれませんけど、その場合でもそんなに長くはならない予定です

乙です
もうクズばっかりで何とも…

おつ



何だかトンデモナイ会が出来上がったぞ!?

どんなに長くなってでもいいんですよ.....??

乙! 楽しみに待ってる!

乙です!


<密告>




「妹友ちゃんってうちのバカ息子と仲良かったんだっけ? 全然知らなかったわ」

 おばさんがあたしに微笑みかけながら言った。

「えと。どうぞ」

 あたしは少し席をずれておばさんの座る場所を空けた。

「ありがと」

 おばさんがドリンクをテーブルに置いて腰掛けた。

「そちらは?」

 女友さんを見ておばさんがあたしに聞いた。

「女友さんです。お兄さんの大学のお友だちで、女さんの親友です」

「は、初めまして」

 まだ緊張しているらしく硬い表情と声で女友さんがあいさつした。

「こんにちは。まあ、女ちゃんのお友達なのね。女ちゃんはお元気?」

「あ、はい。元気です」

「最近会ってないのよね。いつからだろう。ああ、女ちゃんに彼氏が出来てからだ。ふ
ふ。あのときはうちのバカ息子は女ちゃんに失恋したんでしょうねえ」

「いえいえ。そうじゃないと思いますよ」

 てんぱっていた女友さんがよけいなことを言いそうだったので、あたしは慌てて口を挟
んだ。

「あの。お礼が遅れましたけど別荘に誘っていただいてありがとうございました」

「あ、ああ。そうか。そうだよね。一緒に旅行に行ったんだっけ。だから兄のことを知っ
ていたのね」

 おばさんが今までそのことを忘れていたことが不思議だった。子どもたちが連休中に誰
と過ごしていたかも覚えていないほど、子どもたちに興味がないのだろうか。妹ちゃんの
家は家族全員がすごく仲がいいのだと、妹ちゃん本人から何度も聞かされていたあたしは
おばさんの様子に疑問を感じた。

 でもおばさんはそんなあたしの疑問なんかおかまいなしに話を続けた。

「ごめんね。仕事の途中だからあまり時間がないの。だから早速聞かせてもらおうかな」

「あ、はい」

「うちのバカ息子が性悪女に騙されてるって? まあ自業自得って気もするし、いい勉強
だっていう気もするんだけどね」


「あ、いえ。それは違うんです」

 ようやく気を取り直したあたしは本題に入った。それにしてもこの人は自分の子どもた
ちを大事にしているようには見えない。妹ちゃんの大好きだった家庭って何だったんだろ
う。何だか少し薄ら寒い思いが一瞬あたしの脳裏をよぎった。

「違うの? 電話では妹友ちゃんからそう聞いたんだけど」

「ごめんなさい。電話では本当のことを話すなんてとてもできなくて」

「・・・・・・どういうこと?」

 ここまで作戦立案者である女友さんは黙って様子を伺っているだけだった。何であたし
が正面に立たされるのよ。あたしはそう思ったけどもう後戻りはできない。

「お兄さんのことなんですけど」

「それはわかってるけど。いったいあのバカに何があったの?」

 もう後戻りはできない。あたしは大きく息を呑んだ。

「妹ちゃんのことでもあるんですけど」

「妹? バカ息子のことじゃないの」

「いえ。そうなんですけど。」

「どういうこと」

 あたしは言うべき言葉を口に出す前に一度胸の中で復唱した。

「本当はそうじゃないんです。お兄さんと妹ちゃんのことをお話したくて」

「兄と妹のこと?」

 一瞬で叔母さんの表情が険しくなった。

「はい。嘘を言ってごめんなさい。でも聞いてください」

「聞くよ。だから早く教えて」

「お兄さんと妹ちゃんは恋人同士として付き合い出したみたいです」

「・・・・・・それで」

 天晴れと言うべきか、おばさんはショックに耐えて表情を変えなかった。でも、実は相
当に衝撃を受けたはずだ。あたしは次の言葉を口にした。


「旅行中に二人が抱き合ってキスしていたところを見ました。水着姿なんでほとんど裸の
状態でした」

「そうか」

 しばらくの沈黙のあとにおばさんが言った。

「それだけです。それがいいとか悪いとかはあたしたちには判断できないんで。でも、一
応ご両親には伝えておいた方がいいかと思って」

 おばさんがあたしを見た。表情からはおばさんがショックを受けていたかどうかなんて
伺えない。

「そうね。聞かせてくれてありがとう」
 おばさんは飲み物に手を付けずに立ち上がった。「教えてくれてありがとう」

 おばさんの表情からは何を考えているのか本当にわからなかった。

「じゃあね。妹友ちゃんまたね。女友さんさよなら」

「はい」

 異口同音にあたしと女友さんが答えた。



「うまくいったのかなあ」

 おばさんがいなくなると急に元気が出たようでな女友さんがはしゃぎ気味に言った。

「どうでしょうか。いまいち反応に乏しかったですね」

 自制したんだと思うけど、ひょっとしたらあたしが考えるほど妹ちゃんとお兄さんのこ
となんか気にしていないのかもしれない。そして、そうだとしたらその理由は一つだった。

 自分の夫の浮気。自分の夫のあたしのママとの不倫。でも、そのことを誰がどこまで知
っているのかはあたしにだってわからない。不用意におばさんに言っていいわけはないし、
まして女友さんなんかに話すべきことではない。

「多分、目的は達成したんじゃないでしょうか」

 確信なんかなかったけど、そのときあたしは女友さんにそう答えた。


 それから二週間ほどたったころ、例の何とかという会の集まりがあった。何となく集ま
ろうという話が緩く持ち上がり、あたしは兄友さんに誘われてその集まりに参加した。

 あたしたちの作戦が成功していたことはもうみんな知っていた。

 おばさんに告げ口した後、突然妹ちゃんは校内にある学生寮に入寮することになった。
旅行以来学校でも妹ちゃんと全く口を聞いていなかったあたしは、その理由を直接聞くこ
とはできなかったけど、それを推察することは難しいことではなかった。

 あたしはそのことを別れさせる会のメンバーに伝えていた。

「死にたい」

 女友さんが言った。それを聞いた女さんも彼女から目を逸らして俯いてしまった。

「おまえら今さら何言ってるんだよ。自信をもって始めたことなんじゃなかったのかよ」

「だって」

「だってじゃねえよ。これじゃあ、おまえに乗せられて一緒に動いた妹友ちゃんがバカみ
たいじゃねえか」

「決行してから後悔するって、それは最悪の選択肢ですよ」

 あたしも女友さんに言った。

「違うのよ。兄君と妹ちゃんを別れさせたことじゃなくて」

「あれよりひどいことしたの? おまえ」

「黙っているのも何か気持悪いから言うけどさ」

「どしたの」

 女さんが顔を上げた。

「兄君がさ。校内で寂しそうだったから、ちょっと声をかけちゃってさ」

「声って?」

 兄友さんが聞いた。

「いやさ。あたしたちのせいで兄君につらくて寂しい思いをさせちゃったとしたら申し訳
ないし。兄君、明らかに寂しそうにしてたから」

「はい? 何言っちゃってるのおまえ。おとなしい俺でもいい加減怒るぞ」

「何であんたが怒る必要あるのよ」

「おまえ、いったい兄に何したんだよ」

 兄友さんと女さんが同時に言った。

「ロケに誘った。そんで飲みに言った。そしたら大学の変なやつらに絡まれたんだけど、
兄君が助けてくれた。彼、やっぱ格好いいよね。あの良さをわからない大学の女たちがバ
カなだけで」

「・・・・・・それで何で死にたいとか言うの」

 元気のない声で女さんが言った。兄と妹を別れさせる会の中で、恐らくニ番目に罪がな
いのが女さんだったろう。そして一番罪がないのが兄友さん。

 結果としてお兄さんと妹ちゃんの仲をおばさんに密告したあたしと女友さんが一番罪が
重いはずだ。でも、このときあたしはまだその罪の本質的な重さに気がついていなかった
のだ。そして、何だか落ち込んでいるらしい女友さんもその罪悪に気がついてはいないの
だろう。女友さんの死にたいと言う言葉から始まった懺悔は、とても重い内容だったのに
その口調はとても軽いものだったのだ。


「もうやだ」

 女友さんが繰返した。

「だからやだって何がよ」

 女さんが食いついた。彼女の気持を考えると無理もないとあたしは思った。

「助けてくれた兄君が格好よかったからさ。次の日に思わず」

「もったいぶるなよ。思わずどうしたんだよ」

 兄友さんが聞いた。

「兄君に告ちゃった」

「だってあんた、もう兄君に告白して断られたんでしょ」

「・・・・・・嘘なの」

 あたしたちは唖然として女さんを見つめていた。お兄さんと妹ちゃんを別れさせる作戦
は、二人を不幸から救うためだと女さんは言っていた。でもそんなことは誰も信じていな
かった。女さんが口を滑らせたようにそれは復讐でもあり、また、リベンジの機会を得る
ための自分勝手な行動に過ぎない。それを承知であたしはその行動に手を貸し、女さんは
積極的には加わらなかったけど、結局それを黙認した。

「じゃあ、いったい何で・・・・・・」

 あたしと女さんの声が期せずして交錯した。

「好きは好きだったのよ。でも兄君と妹ちゃんを見ているととても勝てる気がしなくて
さ。モデルって言ったって兄君は全然そういうことに関心がないみたいだし。だから、二
人を別れさせてから告ればいいかなって思って」

 そのためにみんなを集めたのか。あまりの身勝手さにあたしは言葉すら出なかった。

「それで?」

 この場にいて唯一冷静だったのは兄友さんかもしれない。

「・・・・・・目的どおり兄君は家を追い出されて一人暮らしを始めたでしょ? それで学内で
も寂しそうにしてたから。慰めてあげようと思ってお弁当を作ったりしてね」

 あたしも女さんも何となく不戦同盟を結んでいた錯覚を覚えていたのかもしれない。冷
静に考えればこんなにお節介でひどいことを共同でした以上、そこには暗黙の了解があっ
たはずだった。それはお兄さんに関しては、妹ちゃんと引きはがされたお兄さんがどんな
に弱っていようと、勝手に手出しをしないということだ。そうしないと、あたしたちのし
たことは単純に妹ちゃんからお兄さんを自分に奪い取るための行為となってしまう。

 女友さんはあたしの考えが揺れていることなんかに構わずに話を続けた。何か一刻も早
く悩みを吐き出して楽になりたいかのように。

「そんで思わず告ちゃったの。前に言ってたのは嘘。でもそう言わないとみんな協力して
くれないでしょ?」

 もう言葉すら出ない。さすがの女友さんもその場の雰囲気に何か感じるところがあった
のか、今さらながら言いわけを始めた。

「嘘言ってごめん。でも振られたわけだし結果的には嘘じゃなくなっちゃったから」

 彼女はあたしたちに微笑みかけた。


『あの・・・・・・さ』

『うん』

『昨日はその。ありがとね』

『何が? ああ。撮影に付き合ったことか。別に気にしなくっていいよ、どうせ暇だっ
たし』

『違うよ。あたしを助けてくれたこと』

『ああ。別に。つうかあれは俺の方が絡まれていたっぽいし』

『そんなことないよ。あたしがあいつらに手を掴まれたときあたしのこと助けてくれ
たじゃない』

『さっきから何考えてるの?』

『別に』

『冷たいなあ。友だちでしょ? あたしたち』

『まあそうだな』

『何か悩みでもある?』

『ねえよ』

『嘘つけ。あたしの勘は結構当たるんだって』

『だから今まで一度だって当たってねえだろ』

『おまえ、ひょっとして俺のこと好きなの?』

『一緒に来て』

『いや。悪い。俺、ちょっと考えなきゃいけないし。本当に悪いな』

『・・・・・・何でよ』

『え?』

『あたしが誘ってるのに何で来てくれないのよ』

『おまえさ。いくら女の親友だからって俺に弁当作る必要はないだろうが』

『・・・・・・わざと言ってる?』

『いや』

『俺のこと好きなのって聞いたよね? 答えるよ。その図々しい質問に。そうよ。君みた
いな持てない冴えない男のことが好きになったの。そうよ、あたしは君が好き。悪い?
何か文句あるの。何とか言え。売り出し中の若手ファッションモデルに告られたんだよ。
喜んで付き合うよって言えよ』

『そう』

『・・・・・・嬉しいでしょ? ねえ嬉しいって言ってよ『』

『・・・・・・すまん』

『すまんじゃないでしょ。嬉しいよって言って』


<暖かい腕>




 女友さんの告白に続く重苦しい沈黙をあたしは破った。

「女友さんが綺麗で陽気な人なのにこれまでお友だちが少なかった理由がよくわかるお話
でしたね」

 女友さんが驚いたようにあたしを見た。きっと自分の嘘を優しくたしなめられつつ、軽
く慰められるくらいに思っていたのだろう。女友さんの当てがはずれたのだ。

「・・・・・・悪いけどあたしもそう思う」

 女友さんと大学で知り合い、彼女の親友になったという女さんもあたしに同調した。こ
の場で黙っているのは兄友さんだけだった。

「それってどう考えても卑劣な嘘じゃないですか。いくら振られて自爆しているにして
も」

「何だよ。兄のためとか言いながら結局は自分のためじゃねえか」

 兄友さんが静かに言った。

「あんたには言われたくない」

「兄友には言う権利があると思う」

 そのとき女さんが顔を上げはっきりと言った。

「何でよ。こいつはあんたを裏切ったんだよ。何で庇うの。女ってまさか兄じゃなくてま
だこいつのことを」

「今は兄友よりもあんたの方がむかつく」

 これまで女さんのほかには親友ができなかったという女友さんが呆然として傷付いた表
情を見せた。お兄さんに振られる以上の衝撃を受けていたのかもしれない。それでもあた
しはもう彼女に同情する気にはならなかった。

「何でよ。あたしたち親友でしょ? あんたの好きな男に告ったのは謝るけど振られたん
だからチャラでしょうが」

 女さんが答えるより前に兄友さんが声を出した。

「おまえバカか」

「な、何よ」

「結果じゃねえだろ。親友の彼氏に恋するなとは言わねえけど,告るならせめて筋通せよ。
女にそう言ってから告りゃいいだろうが。それに騙してあの二人を別れさせるようなこと
までしやがって。何が売り出し中のモデルだよ。ファンが知ったら悲しむぞ」

「脅迫する気なの」

「しねえよ。そんな価値すらおまえにはねえよ」

 筋を通せか。あたしはぼんやりと考えた。兄友さんはああは言ったけど、女さんのショ
ックはそういう理由じゃない。むしろ、女友さんがその秘密を黙って墓場までもっていっ
てくれた方が女さんにとっては気が楽だったろう。女さんは、平然とその卑劣な行動をみ
んなにカミングアウトして慰めてもらおうとした女友さんのメンタリティにショックを受
けたのだ。一時は親友だと思っていた女友さんが異星人のようにコミュニケーションでき
ない相手だったことの方が、実際に裏切られたことよりもショックだったのだろう。

 あたしはそう思った。

「女はともかく妹友ちゃんは実際に手を汚したんだぞ。二人のためだっていうおまえの言
葉を信じてよ」

 兄友さんが言った。それから彼はあたしを見た。

「もう女友と話してもしかたないな。解散。もう行こうぜ、妹友ちゃん」

 あたしは黙って彼の後について行った。


 翌日、あたしはまた兄友さんを呼び出した。兄友さんはまるであたしの精神安定剤みた
いだ。

 このときのあたしは女友さんの告白に受けたショックなんかどうでもいいくらいのひど
い出来事に遭遇していた。そんなときに相談できる相手をあたしは本能的に考えた。妹ち
ゃんには会わせる顔がない。お兄さんにも。

 お兄ちゃんは利害関係が複雑でとても相談できない。第一、あの出来事の後では親密に
お兄ちゃんと話せば自分の身が危険かもしれない。あたしは消去法でいつのまにか兄友さ
んに電話をかけていた。

「今日はずいぶん早いんだね。つうかさ、授業さぼったんじゃ」

「してません。今日はオープンスクールだったんで役員以外は午前中で下校だったんです
よ」

「そう。妹友ちゃんさ、昨日のこと気にしてるだろ」

「してません」

「嘘付け。じゃなかったら昨日の今日で俺を呼び出したりしないでしょ」

「もともと人間性なんかに過度の信頼を置いていなかったですから、女友さんの抜け駆け
くらいじゃ動揺したりしないですよ」

 兄友さんのくせに。兄友さんごときが何を偉そうに。

「今日は相談があって」

「相談って俺に?」

「あなたに相談がないなら呼び出したりしないでしょ。どこまで頭が」

「頭が悪いとか言うなよ。俺って意外と繊細で傷付きやすいんだから」

「・・・・・・」

「お願いだから何か突っ込んで。黙られるとつらい」

「・・・・・・ママの浮気相手と話しちゃった」

「何だって」


「意外と冷静に話せるものなんですね。我ながらびっくりしました」

「妹友ちゃん・・・・・・」

「ふふ。家族以外にこんなこと初めて話しちゃった」

「泣いてるの」

「泣いてない」

「泣いてるじゃんか」

「うっさい。黙れ」

 泣き出したあたしを、兄友さんは最初はおどろいたように眺めていただけだったけど、
しばらくしてあたしは自分の肩に暖かい手が置かれたことを意識した。そういう優しい経
験はお兄ちゃんやお兄さんを考慮するまでもなく、あたしにとっては初めての経験だった。

「何なんですか。いったい」

 あたしらしくもなく兄友さんに肩を抱かれたままかろうじて声を出した。

 少し落ち着くとあたしは急に恥かしくなった。あたしは無意識のうちに兄友さんの胸に
顔を押し付けて泣いていた。我に帰って顔を離すと彼のシャツに涙の跡がくっきりと残っ
てしまっていた。

「ごめんなさい」

「いいよ。こんなときに不謹慎かもだけど嬉しいから」

「嬉しいって?」

「初めて君が俺を頼ってくれた」

「ば、ばかじゃないんですか。いつあたしが」

「わかってるよ。俺の勘違いだよな」

「・・・・・・本当にバカなんだから」

 兄友さんがまた少しだけ笑った。それから彼は真面目な表情になりあたしを見た。

 涙とかで顔がぐちゃぐちゃになっていないだろうか。あたしは少し慌てたけど、そのこ
とによってあのときから胸を繰り返し苛んでいたあの重苦しい痛みから一瞬だけ開放され
たのだ。

「実は」

 あたしはもう肩を抱く兄友さんの手に逆らわず素直に話し始めた。


今日は以上です
次回はビッチ更新後になります

ここまで読んでいただいてありがとうございます

おつ

乙です

そろそろ妹友の心が傾き出しそうだ...

兄友は妹友に対していいヤツに見えるけど、コイツも結構クズなんだよな…まともなヤツはいないのか

そろそろお願いします....

保守だ保守

>>952
保守どうも

投下再開します


<慰め>




 いい加減、女友さんのことと自分のしでかしてしまったことに動転していたあたしは、
ママに会って更に動揺していたけど、兄友さんに慰めてもらっているうちにだんだんと落
ち着いてきた。彼はずいぶんと遠回りしてあたしを自宅まで送ってくれた。

「じゃあね」

「あ・・・・・・。あの」

「どうしたの」

「・・・・・・何でもないです。今日はありがとうございました」

「・・・・・・どうしたの」

「兄友さんって失礼ですね。何でわざわざそんなこと聞くんですか」

「いや。君がしおらしく俺にお礼を言うなんて何か恐い」

「どこまで失礼なんですか。あたしを何だと思っているんです? 感謝しているときはあ
たしだってお礼を言います」

「いやいや」

「いやいやってあたしのことは全否定ですか」

「否定とかしてないから。つうか感謝されるようなことはまだ何もしてねえし」

「まだ?」

「いや。まだっつうか・・・・・。妹友ちゃんは深読みしすぎだっつうの。とにかく俺は君に
感謝されるいわれはない。以上」

「・・・・・・」

「・・・・・・何だよ」

「本当にありがとう」

「何なんだよいったい。後輩を妊娠させて女を振っておきながら復縁しようと画策するよ
うなクズだぞ、俺は。礼なんか言われても戸惑うよ」

「あたしも人のことは言えないですけど、兄友さんって不器用ですね」

「・・・・・・わかったようなことを言うなよ。俺はただのクズだよ。君に何がわかるんだ」

「わかりますよ。とにかく話を聞いていただいてありがとうございました」

「ああ。それは別にいいけどさ。あまり考えすぎない方がいいぜ。兄の親父のことを見直
しているようだけど、しょせん浮気するような男はクズなんだから」

「・・・・・・あなたがそれを言いますか」

「自分がやらかしてきたからわかるんだよ。兄の親父のことは信用するな」

「よく考えてみます。じゃあ、お休みなさい」

「お休み」


 この日、あたしが兄友さんに相談したのは、お兄さんと妹ちゃんのことではなかった。

 兄と妹を別れさせる会の会合のあと、あたしは兄友さんと一緒にその場を後にした。駅
前で自分で期待していたよりもずいぶんとあっさりと兄友さんはあたしをリリースした。

 その直後、あたしの携帯が鳴った。ママからだ。

「ママ?」

「もう学校終った?」

「今日はオープンスクールだったから。午前中で」

「今から会える?」

『別にいいけど。どうしたの』

 何か嫌な予感がする。

「じゃあ、駅前のスタバでね」

「わかった」



 ママと待ち合わせしたファミレスでママと向かい合って座ると、急に緊張があたしを襲
った。本当はお兄さんと妹ちゃんとのことなんかのんびりと話し合っている場合じゃない
んだ。今さらだけどあたしはそのことを思い出した。愛とか恋とか以前に自分の家庭が危
ういんだった。海辺への旅行やお兄ちゃんに襲われかけたことでいろいろと自分を失って
いたけど、自分にとって今の最大の危機はママの浮気だろう。

 こんなことを今まで忘れていた自分に呆れるとともに、正面に座っているママの表情に
びくびくするほどの違和感とストレスを感じる。

「ごめんね突然」

「・・・・・・どうしたの」

 ママがこんな時期にあたしを呼び出す理由は一つしかない。あたしは暗い思いでそう考
えながら返事した。

「うん・・・・・・。あ、そうだ。あなたお昼まだでしょ。ドリンクだけじゃなくて何か食べれ
ば」

 ママが突然名案を思いついたように言った。あたしは緊張していたのだけど、ママの言
葉にイライラした。

「お腹すいてないし。それよか用事があるんでしょ」

「あ、うん」

「・・・・・・どうしたの」

「あのね。あなたとお兄ちゃんには本当に悪いんだけどね」

 ママが俯いて言った。やっぱりその話か。あたしは覚悟を決めた。でも、言い難いのか
ママはなかなか本題に入ろうとしなかった。


「いったい何? 用事があるなら早く言って」

「うん」

「・・・・・・何か大事な話なんでしょ。わざわざ呼び出したんだし」

 あたしは意地悪だ。でも家庭を壊す話をしようとしているママにならこれくらいのこと
はしてもいいだろう。

「そうね。あのね、あたしとパパは離婚するの。それをあなたに言いたかったの」

 ストレートにきた。回りくどい言いわけなんか望んでたわけじゃない。

「・・・・・・本気で言ってるの」

「うん、ごめん。だけど本気。もうパパとは一緒に暮らせないから」

「最初から話して。本当にパパのせいなの?」

 気のせいかママは少し怯んだようだったけど、見た目は強気のまま話を続けた。

「ママはね。結婚してすぐに後悔したの。何でこんなに理解のない人と結婚したんだろう
って。でも、結婚してすぐにお兄ちゃんが生まれたし、続いてあなたが生まれたんでママ
は育児に必死だったのね。パパなんか仕事ばかりい夢中で全然役に立たなかった。けど、
ママはあなたたちのことで精一杯で、その頃からパパとはもうやっていけないって思って
たけど子どもたちのためなら我慢しようって思ってた」

 あたしは最初に覚悟していたほど慌てなかった。というか、目の前にいる女性が何か奇
妙な動物のような気がして、辛いと思うことすらなかった。この人はあたしとお兄ちゃん
の育って来た家庭を全否定しているのだ。

「一度妥協するとどこまでもずるずるとしちゃうのね。出産直後から育児に興味ないパパ
には未練なんかなかったけど、保育園の卒園までとか小学校卒業までとか考えているうち
にここまで来ちゃった」

「・・・・・・ママは何が言いたいの?」

「ずっとつらかったの。もちろん、あなたとお兄ちゃんはあたしの生き甲斐だったけど、
それ以外はつらいことだけだった」

「それで」

「でも、あたしにもようやく本当に信頼できる人が見つかったの。本当に偶然の出会いだ
ったのだけど」

「ようやく浮気相手が見つかったってことね。よかったね」

「そんなこと言わないで。彼は浮気相手なんかじゃない」

「ママはどうしたいの」

「うん。ごめんね。あたしは彼ともう一度人生をやり直したいの。パパとじゃなくて彼と
一緒に」

「ママとパパが喧嘩ばっかりしてたことは知ってるよ。だからといってパパを裏切って浮
気するなんて最低じゃん」

「・・・・・・・あたしだってずいぶん我慢したのよ」

 浮気して離婚したい人の言いわけとしてはそれはデフォルトの言葉なのだろう。あたし
はもう冷静になっていたから、そんなママの言葉はスルーした。


<浮気相手>




「ママのしたことって浮気だし不倫じゃない。パパが嫌だったけど我慢したのはあたした
ちのせいだなんて。そんなの責任転嫁じゃない」

「だって、ママが離婚したらあなたたちが悲しむと思って」

「そう思うなら何で今離婚するの? もう高校生だから悲しまないとでも思っているの」

「それは」

「結局、好きな男ができたからその人と暮らしたいだけじゃない。順序が違うでしょ?」

 そのときママの目が泳いだ。あたしはママの視線の先を追った。やっぱりか。

 以前、妹ちゃんの家に遊びに行ったときあたしは偶然にその人に会いあいさつしたこと
があった。妹ちゃんはお兄さんがいる時はあたしを自宅に招こうとしなかったけど、それ
以外の家族がいることは全く気にしていなかったから。

 ママの視線の先にはそのとき会った人が座っていた。二人の視線が交錯し、その人は黙
って頷いて席を立った。

 最初からママはそのつもりだったのだ。あたしは席を立とうとした。

「待って。騙すようになっちゃったのは謝るから彼に会って。話さえすればどういう人な
のかわかるから」

 ママはあたしが妹ちゃんのパパと会っていることを知らない。でも、妹ちゃんのパパは
どうなのだろう。自分の不倫相手の娘であるあたしが、最愛の娘の親友であることを知っ
ているのだろうか。

「こんにちは」

 穏かで深みのある低音の声がして、目の前にその人が立った。

「お久し振りです。いつも妹ちゃんには仲良くしてもらってます」

 男の人とママは驚いたようだった。

「あれ? 君ってたまにうちに遊びに来ていたね」

「はい。妹ちゃんとは親友です」

「そうか。君だったんだ」

 ママとこの人は富士峰の授業参観や保護者会で親しくなったということだから、ママの
娘が妹ちゃんの友だちであることは承知していたのだろうけど、そのあたしが実際にあの
とき家で会った子だとは思わなかったようだ。


「君だったんだね。初対面かと思っていたのに」

 妹ちゃんのパパは動揺する様子もなくそう言ってさりげなくママの隣に座った。

「紹介する必要なくなっちゃったね」

 ママが隣に座った彼を見て微笑んだ。

「でも一応言っておこうかな。この人は池山さん。あなたのお友だちの妹さんのお父さん
なの」

「・・・・・・知ってる」

「改めて今日は。妹友ちゃん」

 こんな人にちゃん付けなんかされたくない。あたしはむすっとして軽く頭を下げた。

 しばらく奇妙な沈黙の間があいた。

「あなた。あの話をしないと」

 あなたか。思い返せばずいぶん前からママはパパに対しては人称がない。あなたとも君
とも、名前ですら呼んでいない。人称がなくても不便でないのはきっとママがパパに対し
てあまり話をしないからなのだろう。ママにとってのあなたはこの人なのだ。

「いや、その前に」

 池山さんがあたしの方を見た。

「この間は息子と娘の情けない関係を教えてくれてありがとう」

 すっかり忘れていた。あたしは妹ちゃんのママを呼び出して二人の関係をちくったのだ
った。ママの不倫のことしか頭になかったあたしは完全に不意を突かれた。

「あ、あの」

 情けない。不倫男相手にどもってどうするのだ。

「妻から聞いたよ。一緒に旅行にも行ってくれたんだってね。あのバカ二人のせいで嫌な
思いをしたでしょう」

 あたしは黙っていた。

「教えてくれてありがとう。バカ兄貴は家を追い出したし、娘の方は寄宿舎に入れた
よ。ちょっと手遅れっぽいけど何とか引きはがせてよかったよ。妹友ちゃんのおかげだ」

「妹ちゃん、何か言ってませんでしたか」

 ママの不倫相手と話をするのは嫌だったけど、純粋な好奇心に負けてあたしはつい聞い
てしまった。

「正直に言うと修羅場だった」

 ちょっと辛そうな表情だ。妹ちゃんを溺愛しているこの人なら妹ちゃんの悲嘆はつらい
出来事だったのかもしれない。

「娘は兄に抱きついて泣いてたよ。こっちの方がおかしくなりそうなほど悲し気に」

「そうでしょうね」

「それに比べて兄の方は落ち着いてたな。本当に妹のことが好きならもっと取り乱しても
いいはずなんだ。その様子を見て私は思ったんだ。兄は妹のことは本気で好きになったん
じゃないって。きっとあの年頃にありがちな恋愛欲求を手近な妹ですませようとしたんじ
ゃないかって」

「そんなわけないでしょ」

 あたしは思わずため口で池山さんに反論してしまっていた。

「そうとしか思えない」

 池山さんが言い切った。


「だいたい妹の方が昔からもてていたのに比べて兄の方はさっぱり女っ気がなかったから
ね。情けないことに」

「あら。ご自分の若い頃はさぞかしおもてになったのかしら」

 ママが微笑んでいった。

「そうじゃないけど。とにかく兄が本気ならあのときもっと私に反発したはずなんだ。そ
うされてれば私だって」

 そうされていれば二人の仲を許したとでも言いたいんだろうか。

「お兄さんは女の子にすごく人気がありますよ。昔から仲のいい女さんとか大学の友人
でモデルをやっている女友さんとかがお兄さんのことを好きみたいですし」

「本当か」

 池山さんが驚いたように言った。妹ちゃんとお兄さんの仲を邪魔したあたしにとっては、
論理的な思考ではなかったけど、なんだかお兄さんがバカにされているのが嫌であたしは
このとき少し興奮していたみたいだ。

「お兄さんの取り合いみたいになっているし。妹ちゃんの仲をご両親に告げ口しようとい
う話だって、どうもお兄さんを妹ちゃんと別れさせたいからみたいだし」

「うーん。ちょっと早まったかな」

 池山さんが苦い顔で呟いた。

「早まったもいいところでしょ。本当に愛し合っていたかもしれないですよ」

 あたしはいったい何がしたいのか。計画どおりに二人を別れさせたのはあたしの方じゃ
ないか。何を今さら池山さんを責めているんだろう。このとき、ママは黙ってあたしと池
山さんのやりとりを聞いていた。その様子は嬉しそうだった。どうも、その話題が何であ
れあたしと池山さんが親しい口調で話をしていることが嬉しいようだ。

「だったら何で黙って家を出て一人暮らしを始めたんだろう。妹に泣きながら抱き着かれ
ていたのに」

「妹ちゃんが好きだったから無理に添い遂げて不幸にさせなくなかったんじゃないです
か」

「そうかな。私たちにばれて自棄になって諦めたんじゃないかな」

「自分の息子のことなのにそんな感想しか持てないの? あなたは妹ちゃんだけが唯一の
大切な子どもなんですか。お兄さんのことは理解しようともしないの?」

 あたしはいつの間にか目に涙を浮かべてなかば叫ぶように言っていた。恥かしい。こん
なに感情的になるなんて。


<君みたいな子が兄と付き合ってくれたらいいのにね>




「・・・・・・君はなんで妻に兄妹の仲を教えてくれたのかな」

 池山さんとママはきっとこのときのあたしの剣幕に驚いたに違いない。そのせいか彼は
しごく穏かにあたしに問いかけた。

「どんなに真剣に愛し合っていたとしてもその関係には将来がないから。多分、いつかは
ふたりとも不幸になると思ったから」

「そうだね。君は正しいと思うよ」

「でもやり方ってあるでしょ。いきなり二人を引き裂く必要なんかないでしょ。あなたは
ひょっとして妹ちゃんのことでお兄さんに嫉妬でもしていたのかしら。自分の娘をお兄さ
んに取られた気がしたんですか」

「いい加減に言葉を慎みなさい」

 ママが口を挟んだ。この人にはそんなことを言う権利はない。

「へ~。家族を裏切ったママがそんなことを言えるんだ」

 ママは赤くなって俯いてしまった。一応、羞恥心という概念はを理解できていたらしい。

 しばらく訪れた沈黙を携帯が鳴る音が破った。ママの携帯だ。

「はい。ええ・・・・・・あたし。これから? 何があったの」

 ママは眼前のあたしを忘れて電話に集中していた。いつもそうだった。パパもママも携
帯が鳴った瞬間に家族のことに興味をなくすのだ。ママの好きな男がパパじゃなくて池山
さんになってもそれは変わらないらしい。池山さんの方はあまりママの様子を気にしてい
ないようだったけど。

「ごめん。中東のツアーがトラブってるみたい。あたし社に戻らないと」

「そうか。大変だね」

「何か空港がデモで閉鎖されちゃってツアーのお客さんが帰国できなくて足止めされてる
みたい」

「それは大事だね。すぐ戻った方がいいいよ」

「呼び出したのにごめんなさい」

「話はどうする?」

「あなたに任せてもいい? この子もあなたには心を開いているみたいだし」

「わかった」

「また連絡するね」

 ここまで話を理解できないでいるあたしにママが言った。

「悪いけど仕事なんで社に戻るね。あとは彼から聞いて」

 ママはそそくさと店を出て行ってしまった。


「兄と妹のことを心配してくれたんだね」

 ママが出て行くと池山さんが言った。

「ええ、まあ」

「君みたいな子が兄と付き合ってくれたらいいのにね」

 あたしは池山さんの言葉に意表をつかれた。それは突然にあたしの胸に入り込み、あた
しを貫いた。

「な、何言ってるの」

「私が自分の子どものうち妹姫のことだけを愛していると思ってるでしょ」

 姫か。この人もお兄さんと一緒で妹ちゃんのことを姫と呼ぶ。いったい妹ちゃんはどん
んだけ家族からお姫様扱いされているのだろう。別に自分の家族のことではないのだけれ
ど、あたしはなぜかこのとき妹ちゃんに嫉妬してしまったようだった。

「兄が生まれたとき、私も妻もすごく喜んだんだよ。私と妻の間にはもはや愛情なんかな
いけど、それでも兄のことを気にして大切に考えているのは二人とも同じだと思うよ」

「信じられません。あなたは妹ちゃんだけを贔屓にしているとしか思えません」

「そう見えるかもしれないとは私も思うよ。でも兄だって大切な息子なんだ。問題は兄が
姫を抱いたということだ。いくら兄も姫も大事だとはいえそんなことは絶対に許せな
い」

 何を言っているのだ、この人は。お兄さんと妹ちゃんは確かに水着姿で抱き合ってキス
していた。そこまでは事実だけど、お兄さんが妹ちゃんを抱いたって。池山さんが言う抱
いたという意味は抱きしめたとかそっちの意味とは思えない。

「少しかまをかけたら二人は白状したよ。肉体関係があることを」

 あたしは凍りついた。


「君のママに託された伝言を伝えるよ」

 あたしは何も言えなかった。もう遅いのだ。お兄さんと妹ちゃんはついに一線を越えて
しまったのだ。

「私は妻と離婚するし、君のママも君のパパと離婚する。民法で定めがあるのですぐにで
はないけど、半年後には私は君のママと再婚することになる」

「それで、できれば君と君のお兄さんには私と君のママと一緒に暮らして欲しい。私は妹
も引き取るつもりだから」

「ずいぶん都合よく考えているんですね。妹ちゃんのママだって妹ちゃんを手放すとは思
えませんけど」

 池山さんの次の言葉はあたしを驚かせた。ここまで厚顔無恥なことを言える人がこの世
の中にいるなんて。

「だから君には一緒に暮らしてもらいたいんだ。姫だって親友の君と暮らすことを喜ぶだ
ろうし。そうしてもらえれば姫の親権を取るのに有利になる」

「そんなわけないでしょ。両親の離婚で親友と姉妹になるなんて、妹ちゃんが喜ぶわけな
いないよ。それにお兄さんはどうなるんですか」

 池山さんはにっこりと笑った。

「兄の親権は私でも妻でもどっちでもいいよ。妻との間に兄の親権については争いはない
んだ。どうせあと数年したら成人するんだしね」

 やはりこの夫婦は妹ちゃんだけを優先している。お兄さんのことはどうでもいいのだ。

「でもね。さっきも言ったけど私は兄のことを心配している。自分の息子だもんね」

 池山さんが突然あたしの手を握った。

「頼むよ」

「え」

「君が兄と付き合ってくれたら私も安心だ。君のママもそれがいいと言ってくれているし。
君は兄のことは嫌いか」

「・・・・・・あたしは」

 突然の甘い誘惑にあたしは戸惑った。池山さんとママの公認でお兄さんと付き合える道
が、半ばお兄さんのことは諦めていたあたしに訪れたのだ。

「私と君のママと一緒に暮らして欲しい。それで兄と付き合って兄と姫をを救ってやって
くれないか」

 池山さんのその表情はどうやら冗談ではなさそうだった。


今日は以上です
また投下します

おつ
クズばっかやなぁ

おつ

乙。また妹友は妹を裏切るんだな
別れさせる会に逆恨みで乗っかるしもう兄と妹に関わらんで欲しい



何か妹友のママまだなんか秘密がある気がする.....



全員ゲスなのに、思ったよりはみんなそれぞれ良い所もあって、そのせいかだんだんとこいつ等全員良い奴なんじゃね?と思わされる不思議。

保守

このスレだけは絶対落とさせやしない...


<お兄さん起きてください>




「初めて会った女の子に自分の息子と付き合うように勧めることなのかあるのかな。たと
え好きな女の娘だとしてもさ」

 兄友さんはあたしの話を聞いたとき、疑わしそうな声を出した。それは普通に考えれば
もっともな疑問だった。でもあたしは兄友さんの言葉を無視した。自分の信じたいことを
信じようという衝動が働いたのだ。

 兄友さんはあたしのことが好きなのだろう。池山さんの容認の下であたしがお兄さんと
結ばれるのを阻止したいと思ったのかもしれない。たとえ意識したのではなくても無意識
のうちに。あたしは何も見えなくなっていたのだ。



『そのうち君にお父さんと呼んでもらいたいな』

 あのとき池山さんはそう言った。

『何か勘違いしませんか。あたしはあなたとママの関係を認めたわけじゃない』

『ああ、それはそうだろうね。そんなに簡単に割り切れることじゃないだろうし』

 池山さんが笑った。

『そうじゃないんだ。つまり君が兄の彼女とかお嫁さんになってくれれば、君は私のこと
をお父さんと呼ぶようになるだろ? そっちの意味なんだ』

『・・・・・・何言ってるの』

『君みたいな子が兄の彼女ならいいなって』

 冷静に考えれば兄友さんの言うとおりだったろう。あたしのことなんか何も知らない池
山さんがお兄さんの彼女にあたしがふさわしいなんて判断できる材料なんか何もない。

 ママとの再婚に際してあたしを味方に使用と知っていると考えるのが妥当だ。それでも
あたしは池山さんの言葉に乗ろうと思った。お互い様だ。どうせママと彼との仲は既定事
項で今さらどうしようもない。それならせめてこの動きに乗じて自分の望みをかなえても
いいのではないか。あたしはそう考えたのだ。


「私と君のママと一緒に暮らす件に関してはよく考えて欲しいな」

「そうですね。よく考えます。パパと一緒に暮らすのかあなたたちと一緒に暮らすのか」

 心が揺らいだせいか今でより穏かな口調になってしまた。こんな人相手に。

「君が私たちと一緒に暮らしてくれて、そして兄と仲良くなってくれると嬉しいと、私は
本当にそう願っているんだよ」

「・・・・・・あたしが誰と暮らすことになるのかはまだわかりませんけど、それとお兄さんと
のことは全然別な話でしょ」

 池山さんはにっこりと笑った。あたしは自分の願望を読み取られているようで狼狽した。

「明日の夜は君のママと一緒に君を予備校に迎えに行くように頼まれているんだけど、い
いいかな」

 彼はそう言った。

「お迎えなんていりません」

「まあ、そうかもしれないけど。私も君のママに頼まれたんでね」

「今までだって一人で帰ってたんだから。何でママがそんなことを言うのかわかんない」

 池山さんとあたしを親しくさせるためとしか思えない。

「いろいろ君のママと話し合っているんだ」

 埒が明かないと思ったのか池山さんが話を変えた。

「いろいろって?」

「もう一つ別な考え方がある」

「何ですか」

「妹姫が私のことを嫌悪して君と君のママと一緒に暮らすことを拒否することもありえ
る」

 ありえるって。それ以外は考えられないじゃない。

「その場合だけど。妹姫を私の妻に渡すことだけは避けたい」

 この人は本当は妹ちゃんのことが好きなのではないんじゃないいいいいだろうか。あた
しは直感でそう感じた。子どもがお気に入りのおもちゃを取り合っているのと同じだ。こ
の人は自分の奥さんにお気に入りの妹ちゃんの親権を渡したくないだけではないのか

「その場合、姫には引き続き寮生活を続けさせる。もちろん、親権は私だけど」

 池山さんはにっこりと笑ってあたしを見た。

「これは君のママの提案なんだけどね。その場合、君と君のお兄さん、そして兄も一緒に
暮らしてもいいかなって思ってるんだ」

「お兄さん? お兄さんには一人暮らしさせるんじゃ」

「姫とは一緒に暮らさせないというだけだよ。姫が寮にいるなら私たちと兄が一緒に暮ら
しても問題はない。その方が君だって嬉しいでしょ」


 この人はクズだ。自分の大切なはずの子どもたちまで、ママとの新しい生活を始めるた
めの道具としてしか考えていない。妹ちゃんの切実なファミコンは全く実体を伴わない幻
想であり彼女の空回りに過ぎなかったのだ。

 今のあたしは妹ちゃんと仲違いをしている。旅行のときの彼女の振る舞いや態度は最悪
だった。それでも池山さんの言動を聞かされていると、妹ちゃんが可哀そうに思えてくる。

「君と兄が一緒に暮らせばいろいろ楽しいだろうな。兄はいいやつだけどだらしないとこ
ろがある。君みたいな子が兄を世話してくれたら、あいつも目が覚めるだろう」

「いい加減に」

「一緒に暮らすことで芽生える感情もあるだろうし。今にして思えば姫と兄の間違いだっ
てきっかけは些細なことだろうしね」

 二つの家庭を壊すための策略であることは十分にわかっていた。ただ、そのときあたし
の脳裏に池山さんが囁きかけていた新生活の幻影がよぎったのだ。



 新しい家の朝。あたしは隣の部屋でなかなか起きてこないお兄さんを起こすため、お兄
さんの部屋に入る。声をかけてもお兄さんは起きてくれない。このままだと大学に遅刻し
てしまう。しかたなくあたしはお兄さんに手を触れる。そうしないとお兄さんが遅刻して
しまうから。

『お兄さん起きてください』

『うるさいな。邪魔するなよ』

 寝ぼけているお兄さんの声。しかたなくあたしはお兄さんに手を触れる。もう時間がな
いからだ。ベッドの中で温まって寝ているお兄さんの体は暖かい。もう少し寝かせてあげ
たいという自分の心を鬼にしてお兄さんの身体を揺さぶる。お兄さんはぶつぶつ文句を言
いながら目を開ける。

『おはようお兄さん』

『妹友か。おはよ』

 お兄さんが眠そうにあたしに答える。

 これは今まで妹ちゃんが毎日繰返してきたことにすぎない。でも、その役目があたしの
ものになるのかもしれないのだ。


<じゃあ、帰るね。兄友さんはそう言った>




「変な夢を見て惑わされない方がいいと思うけどな」

 兄友さんがあたしの回想を遮った。口にしたわけではなかったけど思考というかこの妄
想はだだ漏れだったらしい。

「そんなことはあたしにだってわかってます」

 情けなく兄友さんの胸に自分の顔を擦りつけながらあたしは弱々しく言った。

「まあ混乱するのも無理ないか。でも自分の両親の離婚と兄への気持はいったん切り離し
て考えた方がいいかもな」

「わかってるよそんなこと」

 本当にわかっているのだ。ママやママと再婚するという池山さんを拒絶し、傷付いてい
るであろうパパやお兄ちゃんの助けに専念するべきだということは。

「何かなあ。なし崩しに兄の親父さんと君の母親の手の内に落ちちゃいそうだな」

「・・・・・・そんなこと」

「ないって言い切れる? 君の望みが叶うんだよ」

「・・・・・・何でそんなに意地悪するの」

 肩を抱いてくれていても兄友の言葉は今のあたしにとって辛らつなものだった。

「意地悪するつもりじゃないんだけど」

「ひどいよ。兄友さんがあたしのことが好きだからって、そんなに責めることはないでし
ょ。あたしとお兄さんを仲良くさせたくないだけじゃないんですか」

 兄友さんは黙ってしまった。

 これは考え得る限り最悪の言葉だ。好きだという気持をこんな風に非難される材料にさ
れたら、あたしだったら本当に屈辱で悲しいだろう。そんなことはわかっているのにあた
しはそういうひどい言葉を兄友さんに向って口にしたのだ。さっきまで抱きついて兄友さ
んの優しさに慰めを求めていたくせに。


 しばらく沈黙が続いた。

「ごめんなさい」

「そうだな」

 あたしたちは同時に声を出した。

「妹友ちゃの言うとおりかもな」

 あたしの謝罪に押しかぶせるようにして兄友さんが言った。同時に彼はそっと自分の胸
からあたしを遠ざけた。

「悪かったよ。君が決めることなのに余計なことを言って。嫉妬丸出しでみっともないだ
ろ?」

 あたしから身を離して彼は立ち上がった。目すら合わせてくれない。「じゃあ、帰る
ね」

「・・・・・・別にそういう意味じゃなくて」

 彼はもうあたしの言いわけを聞く気はないみたいだった。

「さよなら」



 それから何度か塾の帰りに池山さんに車で送ってもらうようになった。ママと一緒に送
ると言われていたのだけど、いつもママに急用ができてしまうみたいで、塾の帰りは池山
さんと二人きりで車で送られることがいつのまにか習慣のようになってしまった。

 この頃になると、あたしはだいぶ池山さんに気を許すようになっていた。もちろん、マ
マの浮気や離婚を心から許したわけではないけど、これだけまめに送りをしてもらい車内
でいつでも親身に相談に乗るよ的な態度を見せられると、やはり仕事だけが大切で滅多に
家に帰って来ないパパよりも信頼できるような気がして来ていた。

 冷静に考えればこういう大事なときだから、池山さんも無理によい大人をアピールした
だけだろうと理解できたはずだった。妹ちゃんの話でも池山さんは滅多に家に帰ってこな
かったはずだったから。それでもそのときのあたしは盲目だった。お兄ちゃんと気まずく
なり妹ちゃんとも喧嘩状態だったあたし。唯一親身になってくれた兄友さんからはあの日
以来何の連絡もない。一度自分から兄友さんにメールをしたけど、彼は返事をしてくれな
かった。兄友さんと知り合って無視されたのは初めてだった。


 池山さんは親身にあたしの話を聞こうとしてくれていただけではなかった。その日が近
づいてくると彼はあたしに柔らかくだけど決断を迫るようになってきた。

「私と君のママのせいで二つの家族が壊れようとしていることは理解しているつもりだ」

 彼はハンドルを握って夜の通りを真っ直ぐに見つめながら言った。

「それは本当に申し訳ないと思っている。でももう自分の気持に嘘はつけないんだ」

「また自分勝手なことを言うのね」

「それも承知している。その十字架は一生背負っていうつもりだ。でも、それでも君のマ
マを愛しているし、一緒に暮らしたいんだ」

「あなたの大事な大事なお姫さまを傷つけることになるのにね」

 一瞬池山さんの表情が暗くなった。それでもその後に続けた言葉はしっかりとしていた。
「それでもだ。四人の子どもたちには本当に申し訳ないと思っているよ。でも、だからこ
そチャンスが欲しい。君たちを幸せにするチャンスをもらいたいんだ。私たちと一緒に暮
らしてほしい。大切にすると誓うよ」

 あたしは初めて池山さんと会ったときから真面目に考えていた。

 お兄さんとのことはひとまず置いておくとして、現実的に考えれば実はパパと一緒に暮
らすという選択肢は全く現実的ではなかった。あの会社人間のパパと暮らすということは、
実質的には子どもたちだけで暮らすというのと同じことだった。これまでだってどうして
も避けることができない行事とかの際は、パパとママがそれぞれ何とか都合をつけて対応
してくれていた。それをパパ単独でできるとは思えない。

 あるいは親権はどっちになるにせよ、寮に入って一人で暮らすかだ。寮に入った後の妹
ちゃんの落ち込みようを見るまではそういう選択肢もあったけど、あのひどい様子を見た
後ではとてもそんな気にはなれない。あたしは妹ちゃんほど家族命のファミコンではない
にしても。

「あなたは自分の子どもたちとお兄ちゃんとあたしの両方を引き取りたいの?」

「兄はともかく、姫と君、そして君のお兄さんの三人とは一緒に暮らしたい。でも、場合
によっては姫には寮生活を続けてもらって、兄と君たち兄妹の三人でもいいと思っている
よ」

「何で」

「親権争いは男親に不利だから。妻は姫の親権を主張しているし形式上は私が有責配偶者
ってやつらしいから、争っても難しいと弁護士に言われているんだ」

「弁護士って・・・・・・そんなにどろどろしてるの」

「そうでもない。妻とはもう夫婦としては一緒には暮らしていけない。あっちにも男がい
るしね。でもね、それでも私と妻が姫の両親であることには変りはない。姫の幸せを一番
に考えることに妻とは同意しているんだ」

「じゃあどうやってどっちが妹ちゃんを引き取るのかを決めるんですか」

「君たちと一緒。姫の意向に任せるということで妻とは合意している」

 家族のことが大好きな妹ちゃんにはつらい選択になるだろう。あるいは、お兄さんと一
緒に二人で暮らすという選択肢があれば妹ちゃんも救われるのだけど、そんなことをこの
人が許すはずはない。


<疑惑>




「信じてもらえないかもしれないけど、私には兄だって大切な息子だ」

「じゃあ何で」

 二人を引きはがしたのか。

「必ずしも姫のためにだけじゃない。兄のためでもあるんだ」

 嘘を言っている表情でも声音でもないとあたしは思った。

「君も考えているとおり、兄と姫の恋愛なんて将来なんか何もないんだ。姫にとってもそ
うだけれども、それは兄にとっても同じなんだよ。兄は中途半端にだけど頭はいい方だ。
親としてはこのまま順調に自分の人生を進んで行って欲しいという気持には嘘はないん
だ」

「・・・・・・妹ちゃんたちはそれを承知でお互いを選んだんだと思いますけど」

「それを止めるのが親の権利でもあり義務でもあると私は思うよ。妻も同じ考えだろう」

「二人は納得しないと思うな」

「兄に彼女ができれば姫だって納得するんじゃないかな」

「・・・・・・」

「妹友ちゃんみたいな子が兄の彼女になってくれれば自然に問題は解決すると思うよ」

「その話はともかく、妹ちゃんを一人で寮生活をさせている時点でお兄さんがあたしたち
と一緒に暮らそうと思ってくれるわけないじゃないですか」

 池山さんは前方の暗い道を見つめながら笑った。

「あたしたちって言ってくれたね。ありがとう」

「今のはそういう意味じゃなく」

「あとは君のお兄さんが一緒に暮らしてくれればそれでいい。兄のことなら任しておいて
くれ。最悪は仕送りを止めるとか脅してでも説得するから」

「・・・・・・・お兄ちゃんはあなたのことを恨んでいますよ」

「わかってる。それは妹友ちゃんだって同じでしょ。それでもここまで心を開いてくれた
んだし」

「それに」

 池山さんが自信ありげに続けた。

「君のママに言われたんだ。あの子はあたしが大好きだから、どっちかを選べって言われ
れば必ずあたしの方を選ぶってね」

 確かにお兄ちゃんはマザコンだ。何せ初恋の相手はママだというくらいの。でもそれは
家庭的なママのことで、不倫して他の男のものになろうとしているママをお兄ちゃんが選
ぶだろうか。


「じゃあ本音では妹ちゃんの親権とか一緒に暮らすことは諦めているということですね」

「まだわからないと思っているよ。私には姫に好かれているという自信もある」

 それは家庭を大切にしていた頃のあなたでしょ。あたしは思った。妹ちゃんもお兄ちゃ
んも同じだ。自分の家族を裏切って崩壊させた池山さんやママと一緒に暮らすことを選ぶ
のだろうか。

 それに妹ちゃんと一つの家族として一緒に暮らすことをあたしは本当に望んでいるのだ
ろうか。本音で言えば、前に夢想したようにお兄さんと一緒に暮らすことに対しては期待
があることは否定できない。でもお兄さんと一緒に暮らすことは保証されているわけでは
なく、池山さんはあたしとお兄さんを付き合わせたがってはいるけど、本音では妹ちゃん
と一緒に暮らしたいという気持の方を優先しているとしか思えない。

「着いたよ」

「ありがとう」

「いや。また迎えに行くよ」

「・・・・・・別にいいのに」

「いや。私の役目を兄に譲るまでは、仕事の都合がつく限り送らせてもらうから」

「おやすみなさい」

「おやすみ」



 自宅は暗かった。誰もいないようだ。迎えに来なかったくらいだからママが会社にいる
ことはわかっていたし、パパがいないことも意外ではない。それにお兄ちゃんも最近は帰
宅時間が遅いようだった。あたしどころではなく予備校で受験勉強をしているのだろう。

 学校でも妹ちゃんには無視されていたし、家庭にも話し相手がいない。いったいいつか
らこんなに孤独になってしまったのだろう。そう思うとママの浮気相手、再婚相手の池山
さんとの会話だって、今のあたしには貴重なコミュニケーションになっていたのだった。


 一月後に結論は出たけど、その結果は散々なものだった。

 お兄ちゃんは浮気して家庭を壊したママと一緒に暮らすことを冷たく拒否した。自業自
得ではあったけど、そのときのママの傷付き狼狽した姿を見るのは結構つらかった。お兄
ちゃんはこのままこの家でパパと暮らすそうだ。実際にはパパはほとんど不在なのにも関
わらず。それでもママに裏切られたパパにはお兄ちゃんの選択はせめてもの救いのようだ
った。

 あたしはママと暮らす方を選んだ。心の中にお兄さんとのことが燻っていたことは正直
否定できないけど、それでもほとんど家にいないパパより浮気して家庭を壊したにしても、
パパよりは家にいてくれたママを選んだのだ。

 池山さんの方はもっと悲惨だった。妹ちゃんは池山さんに引き取られるのを拒否し、マ
マの方を選んだ。どっちも選べないようならそのまま寮生活になったはずだけど、彼女は
はっきりと自分のママの方を選んだのだった。ファミコンの妹ちゃんにしてはよく決断し
たものだと思う。彼女ならどちらも選べず一人で悩み傷付いて、最悪の場合はそのまま壊
れて行くのだと思っていたから。

 とにかく彼女は母親を選んだ。

 そして、池山さんのシナリオの破綻はそれに留まらなかった。お兄さんは両親のどちら
からも望まれていなかった。それでも池山さんは妹ちゃんが自分と暮らさない場合は、お
兄さんを自分と一緒に暮らさせるようにすると言っていたのに。別に池山さんのその約束
を過度に期待していたわけではないけれど、結局それが実現しないと知ったとき、あたし
は深いため息をついた。夢は夢に過ぎない。あたしはそれを思い知らされた。結局兄友さ
んの言うとおりになってしまったではないか。池山さんのことを信頼しすぎたのだ。

 お兄さんはこれまでどおり一人暮らしを続けたがった。池山さんが兵糧攻めを匂わせて
説得したけど、お兄さんのママが彼を救った。

『兄があなたや私と暮らすことを拒否している以上、強制する理由はないでしょ』

 お兄さんのママは池山さんにそう言ったそうだ。『あなたがそういうことを言うなら兄
は成人するまであたしの戸籍に入れます。それで兄の望みどおり一人で暮らさせるから』

 新しいマンションは富士峰に通学するのに便利な場所だったし、部屋数も多かった。そ
の広いマンションで結局あたしはママと池山さんと三人だけで暮らすことになってしまっ
たのだった。それも最初の一月がたつと、二人は仕事で帰宅しないようになったため、以
降はあたしは一人暮らしをしているのと同じだった。


 あたしが新しいマンションに引越す前日の金曜日。下校しようとしていたあたしは、校
門の前で妹ちゃんを見かけた。彼女は大きなバッグを抱えたまま寮の同室の子と抱き合っ
ていた。何をしているんだろう。あたしは何となく校門前の木陰に隠れて二人の会話を盗
み聞きした。

『いろいろありがとう。これからも友だちでいてね』

『よかったね。約束どおり友だちだよ?』

『うん。もちろん・・・・・・泣かないでよ』

『妹ちゃんと一緒に暮らせなくなるのが寂しい』

『ごめんね』

『こっちこそごめん。でも、本当は喜んでいるんだ。妹ちゃんがようやくお兄さんと二人
きりで暮らせるんだし』

『・・・・・・うん』

『頑張ってね。寮で辛い思いをした分幸せになってね。応援してるから』

『ありがと。でも大袈裟だよ。また学校で会えるじゃん』

『うん』



 あたしは呆然としてその会話を聞いていた。



『こっちこそごめん。でも、本当は喜んでいるんだ。妹ちゃんがようやくお兄さんと二人
きりで暮らせるんだし』



 妹ちゃんはママと暮らすのではなかったのか。お兄さんは一人暮らしを続けるのではな
かったのか。

 やがて妹ちゃんが同室の子と名残惜しげに別れを告げて歩き出した。あたしは思わず彼
女の後を追った。


今日は以上です
また投下します

おつ



何か妹友が可哀想になってきた.....

どうかみんなが幸せに慣れますように..

というか今更だが兄はなんで両親からこんなにいらないやつ扱いされてるんだ。いや、皆が妹を溺愛した結果ってのは分かるし厳密には理由なんてないんだろうが

早く兄友助けてやれよ……
もう次スレかぁ。こんなに濃いのに


<妹不在の休日>




兄(あれ? 姫が横にいない)

兄(何時だろう? もう朝か。姫は先に起きたのかな。今日は休みなんだから弁当とかい
らないのに)

兄(ベッドで一緒にゆっくりしたかったな)

兄(姫と二人きりの生活は良くも悪くも落ち着いてきた。最初は夢みたいでお互いに数分
毎に愛してると言い合いながらいつも一緒にくっついていたけど、それは一緒にいないと
何か不安だったからで)

兄(お互いの覚悟とか父さんにばれたらどうなるだろうとか、一人でいるとそんなことば
かり考えちゃうんだよな。きっと姫もそうだったと思うし)

兄(でもお互いの気持は十分に理解できたし、それにまだ安心できるというほどではない
けど、父さんが俺と姫の秘密の二人暮らしに気がつく様子もない)

兄(妹も学校では俺と二人で暮らしていることは信頼している寮で同室だった子以外には、
誰にも話してないと言っていたし)

兄(そうして何となくお互いに気持の余裕ができてからは、姫も異常なほどいつも俺にく
っついてこなくなった。それはそれで寂しいけど、別に喧嘩したわけじゃないし。落ち着
いた愛情って言うのか? そういう感じに落ち着いた。それでも夜はいつも同じベッドで
寝ているし)

兄(・・・・・・)

兄(それにしても・・・・・・。同居しだしてから一度も姫とああいうことしてないなあ)

兄(最初のうちはそんなことはどうでもよかったからだけどな。一緒にいるだけで幸せだ
ったし)

兄(最近はどういうわけか落ち着きすぎちゃって、以前の仲のいい兄妹関係まで戻ってし
まったし)

兄(それはそれで居心地はいいんだけど)

兄(でも、それでもいい。俺は一生姫を守るんだ。そのために一緒に暮らすことを選んだ
んだから)

兄(それはそれでいいんだ。それでいいんだけど・・・・・・。だが最近じゃキスすらしてねえ
なあ。つうか手を繋ぐ頻度すら減ったかもしれん)

兄(それでもいいんだけど・・・・・・姫が俺のことをどう考えているのかは知りたい。直接聞
く勇気はないけど)


妹「あ。やっと起きた」

兄「うん。つうか休みなのに姫の方が早起きなんだよ」

妹「おはよ。おにいちゃん」

兄「おはよう。あれ? どっか行くの(何か着替えてるし)」

妹「忘れちゃった? 前に話したでしょ」

兄「ごめん、忘れた。何かあるんだっけ」

妹「・・・・・・今日は最初の面会日だから」

兄「あ(そうだった。今日は離婚してから姫と父さんが最初に面会する日じゃんか)」

妹「やっぱり忘れてたのね」

兄「うん、悪い。そうか今日だったのか」

妹「行きたくないけど約束だからね」

兄「そうだな(そのわりには何か服とか気合入ってる気がする。つうか薄く化粧してる
し。俺とデートするときより姫が綺麗だとか・・・・・・複雑な気分)」

妹「もう出かけるね」

兄「うん。何時ごろ帰る?(まあ、裏切られたとはいえもともとこいつは父さんが大好き
だったしな。久し振りに会えるのが嬉しいんんだろうな)」

妹「多分、そんなに夜遅くならないと思う」

兄「え? 夜って。まだ午前中じゃんか。面会って、一日中一緒に過ごすもんなの?」

兄(・・・・・・何か納得できねえ。それに父さんと長く一緒にいると秘密はばれる可能性も大
きくなるし)

妹「お兄ちゃん?」

兄「俺の食事は?(何言ってるんだ俺。姫は俺の母親でも家政婦でもないのに)」

妹「あ、ごめん。支度してないから適当にお願いしていい?」

兄「わかった」

妹「ごめんね」

兄「別にいいけど。それよかうっかり俺と一緒に暮らしていることを漏らすなよ」

妹「わかってる。なるべく早く帰るから」

兄「・・・・・・別にゆっくりしてくればいいんじゃねえの」

妹「・・・・・・行って来る」

兄「ああ(俺の態度、嫉妬出まくりだ。最悪)」


兄(つまらん)

兄(飯の支度をするのも面倒で外出してはみたものの)

兄(ファミレスで飯を終えてしまえばもうやることは何もない。時間がたつのがやたらノ
ロノロとしている感じだ)

兄(姫と一緒だと休みの日なんかあっという間に終っちゃうのにな。それも何をしている
でもなく二人で話をしているだけですぐにニ、三時間は経ってしまう)

兄(不思議だ。生まれてからほぼずっと一緒にいるのに姫との間で話題が尽きたことなん
か一度もないもんな)

兄(姫の話を聞いているのも好きだし、姫に話しかけるのも好きだ。要するに姫が好きっ
てことになるんだけど)

兄(あ~あ。これじゃ共依存じゃなくて俺の方が一方的に姫に依存しているみたいじゃね
えか。何が姫を守るだよ)

兄(・・・・・・まだ午後一時か)

兄(いつまでもファミレスにいてもしかたない。とにかく外に出るか)

兄(さて。どうしたもんか。家に帰ろうか)

兄(・・・・・・却下。夜まで一人とか気が滅入るわ)

兄(ついこないだまで一人暮らしをしていたわけだが、そんときは姫を恋しく思ったりは
したけど、ここまで寂しくは感じなかったな)

兄(まあ、あのときはどちらかというと一人で寂しいというよりは、失恋してつらいって
いう感情の方が大きかったからな)

兄(しかし情けない。姫がいないと時間を潰すことすらできなくなってしまうとは)

兄(これじゃ本当に依存症だ。まじでメンタルクリニックとかに行くレベルかもしれん)

兄(こんなことが姫に知られたら確実に引かれるな。というより姫のことだから責任を感
じかねない)

兄(思ったけど姫って学校とかで、友だちとかとどういう距離感なんだろう。二人きりで
生きて行くしかないと決心してからは、俺は友だちとかどうでもよくて必死に勉強とバイ
トだけしてたけど。姫は学校で俺と一緒じゃないときは普通に交友関係とかあるのかな)

兄(俺も少しは姫以外の友だちとかと過ごすようにしないといけないのかもしれない
な。そうしないとかえって姫に精神的負担をかけてしまう)

兄(それに家事だってそうだ。俺の飯は? とかでかける姫に平気で訪ねる自分の神経を
疑うわ)

兄(よし。少しづつでもいいからいろいろ改善してみよう。長く姫と一緒に暮らすためで
もあるんだ)

兄(そうと決まればさっそく夕食は自分で作ってみよう)



「兄?」

兄(やることができたぞ。スーパーに行って食材を、ってえ?)

女友「やっぱ兄じゃん。こんなとこで何やってるの」

兄「女友? え? 何々。何でおまえら一緒に・・・・・・」


<だってそれじゃあたしが兄に嫌われちゃう>




女「・・・・・・久し振りだね」

兄「おう。つうか何で」

兄友「よう」

兄「(ようじゃねえだろ)女と兄友ってやっぱり・・・・・・」

女「違うよ。違うって」

女友「やっぱりって何が?」

兄友「久し振りだな。元気か」

兄「・・・・・・まあな」

女「いろいろ誤解なの」

女友「そういうことはもういいじゃん。話し出すと面倒くさくなるしさ」

女「あんたはもう。いい加減にしてよ」

兄友「おいおい。一度仲違いしてようやく元通りに仲直りしなのにもう破綻か?」

女「そんなんじゃない!」

女友「そうそう。あんたらって深刻に考え過ぎだって。あはは」

兄(何だよ。結局こいつらつるんでんじゃんか)

兄友「あははじゃねえよ。いつまで間違いを繰返すつもりなんだよ」

兄(何言ってるんだこいつ)

女「あのさ。全部誤解だったっていうか、本当兄友は悪くないの」

兄「はあ?」

女友「それじゃわかんないでしょ」

女「あとさ。あたしはあんたのことも勘違いしてたんだけど、今さらもう遅いよね」

兄「(何言ってるだっこいつ)何だかよくわかんねえけど」

女友「わかんなくていいって。そんで? 相変わらず妹姫とは仲良くやってんの?」

兄友「よせよ」

女友「何でよ」

兄「まあ、そこそこな」

女「・・・・・・」

女友「そ、そか」

兄友「ダメージ受けるくらいなら最初からそういう話は振るなよ」

女友「うっさいなあ」


女友「あたしたちお昼食べるところなんだけど、兄も一緒にどう」

兄「(何で兄友とこいつらが一緒に行動してるんだろうな)俺はもう食べ終わって帰ると
こ」

女友「いいじゃん。お茶くらい付き合ってよ」

兄「悪い。ちょっと行くところあるから」

女友「ああそうか。ひょっとしてあんたの大切なお姫様と待ち合わせかな」

兄(・・・・・・女友を振ったのは悪かったけど、それにしてもこいつうぜえ。さっぱりしてい
いと思ってたけど、考えてみれば女友にはいろいろ振り回されてきたんだっけ。それに兄
友と女てどうなってるんだ。いや、女に関しては今さらどうでもいいんだけどさ)

兄友「だからもうそういうのよせって」

兄(兄友ってちょっと感じが変ったかな。何か兄友のくせに常識的なことを言ってる)

女「そうだよ」

女友「何よ。あんたたちだって気になるくせに」

兄「俺、用事があるから帰るわ。またな」

女友「そう? まあ大事なお姫様と待ち合わせなら邪魔しても悪いよね」

兄「そうじゃねえよ。買物だって(こいつに言い訳しなくたっていいのに)」

女「じゃ、じゃあね。また」

兄(またなんてねえよ。俺はもうおまえらとは縁を切って姫とだけ)

兄(あれ?)

兄(姫への依存をやめるんじゃなかったっけ。そしたらこいつらと仲良くした方がいいん
じゃないか)

兄友「じゃあな」

兄(そうだよ。このままじゃ妹にだって負担になるから、姫と二人だけで行きて行くって
いうのを少しだけ修正するんだった)

兄(これは姫からの自立の一歩でもあるのかもな。よりによってこいつらじゃなくてもい
い気はするけど、俺には他に友だちはいないし)

女友「どうした? 帰らないの」

兄「よく考えたら俺って今日は暇なんだった。ちょっとだけ付き合おうかな」

女友「やった。それでこそ兄だね」

女「・・・・・・」


女友「そういやさ。何っていっていいのかわからないんだけど」

兄「何?」

女友「・・・・・・お父様たちの離婚、残念だったね」

兄「え?(何でこいつらが知ってるんだ)」

女「よしなよ。そんなことわざわざ言うことないじゃん」

女友「そうだね。よけいなこと言っちゃった。周りからこんなこと言われたっていい気持
ちしないよね。ごめん、忘れて」

兄「いやちょっと待て。離婚自体はもう自分の中では整理できてるんで、別に気にしてく
れなくてもいいんだけどさ」

女友「そっか。ならよかった。つらかったね」

兄「いや、それはいいって。それより俺、両親の離婚のことは誰にも話してねえんだけ
ど」

女友「・・・・・・あ」

女「ばか」

兄「何でおまえが知ってるの? 誰から聞いた?」

女友「誰って・・・・・・それはさ。つまりその」

兄「教えてくれよ。それとも何か言えない事情でもあるのか」

女友「女?」

女「どうしてあたしに振るのよ。この間から全部あんたの自業自得つうか自爆じゃない
の」

兄友「これ以上はもうやめようぜ」

兄(何言ってるんだこいつ)

女友「ちょ、ちょっと兄友」

兄友「もう兄に隠れてこそこそするのはやめよう。もちろん俺も含めてだけど。もともと
兄と妹ちゃんの生活に口を突っ込む権利なんか、俺たちにはこれっぽっちもないんだから
さ」

女「・・・・・・そうだね。あたしも兄友に賛成」

女友「でも、でもさ。だってそれじゃ」

兄友「もういいだろ。今日偶然兄に会ったのはいい機会じゃんか。全部話そうぜ」

女友「・・・・・・だってそれじゃあたしが兄に嫌われちゃう。チャンスがなくなっちゃうじゃ
ん」

兄(何だって)

兄友「おまえ、まだそんなこと言ってるのかよ」

兄(・・・・・・いったい何なんだろ)


<あたしは今ではお兄さんと同じ池山姓を名乗っている>




 それから数日後、朝目覚めて階下のリビングに下りていくと、珍しくこんなに早い時間
なのに、池山さんがそこにいて迎えてくれた。休日でも普段は朝早く出勤で家にいないの
が普通だったのに。

「おはよう妹友ちゃん」

「・・・・・・おはようございます。って、どうしてこんな時間に家にいるの?」

 驚いた様子を見せないように冷静さを装って聞いたけど、内心では嬉しかった。

 別にこの人に心を開いたわけではない。自分の選択の結果とはいえ、この家庭を選んだ
ことで結果的にあたしは孤独になったのだから。結局、この人が唆したようなあたしとお
兄さんが一緒に仲良く暮らす生活は手に入らなかった。それどころかお兄さんと妹ちゃん
は一緒に暮らしている。妹ちゃんは学校であたしを無視しているし、お兄ちゃんからも連
絡はない。そして兄友さんは何度メールしても返事をくれない。そういう原因を作ったの
はこの人とママだ。

 それでもあたしは久し振りにこの家に人がいることが嬉しかった。

「もう少ししたら出かけるところだよ。朝食を用意しておいた。よかったら食べてくれ
る?」

「うん。ありがとう」

「君には父親らしいことをしてやれないから、たまにはこれくらいはしないとね」

 池山さんが用意してくれた朝食を取りながらあたしは不思議だった。父親らしくも何も、
この人は自ら破綻させた元の家庭で父親役を演ずる上で朝食の支度はおろか父親らしいこ
とは何もしてこなかったはずだった。妹ちゃんを溺愛することを除いては。そのことは仲
違いする前の妹ちゃんからずいぶんと詳しく聞かされていたことだから、あたしの思い違
いではないと思う。



『パパって家事は何もできないんだ。食事の支度もお掃除も』

『ふーん。じゃあママが全部してるんだ』

『まさか。ママは何でもできるけど、パパと同じでお仕事が忙しいからね』

『もしかしてそれで妹ちゃんって料理部に入ったの?』

『それもある。せめてあたしが家の中のことを手伝おうかと思ってさ』

『妹ちゃんって偉いね。そんなパパじゃ家にいてもしかたないもんね』

『そうでもないよ。パパが家にいるとあたしは嬉しいし』

『・・・・・・何で?』


『パパはあたしのことが大好きだし、普段は家にいないけどいつもあたしに優しいの』

『そうなんだ』

『うん。それにママだって家にいる時は仕事で疲れていてもご飯の用意をしてくれるし』

『本当に妹ちゃんって家族のことが好きなんだね』

『うん』

『ご両親がいないときは妹ちゃんが料理しているの?』

『う~ん。最近は慣れてきたからなるべくそうしてるんだけど。それでも出前とかコンビ
ニのときもあるかなあ』

『お兄さんはあんまりそういうこときにしなさそうだね』

『え? 妹友ちゃん、うちのお兄ちゃんと話したことあったっけ』

『あ、ごめん。ないよない。何となく男の人は気にしないかなって』

『そうか。でも違うんだ。お兄ちゃんって朝は和食がいいとか焼き魚は西京焼きがいいと
か好みが面倒くさくてさ。そのわりにオムライスとかお子様味覚なとこもあるし。作るの
大変なの』

『まさか、そんなの登校前に用意してるの? お兄さんのために』

『あ、いや。そうじゃなくて。ママがそう嘆いていたってこと。あたしは西京焼きもオム
ライスも作ったことなんかないよ』

『何で? お兄さんの好物なら作ってあげたらいいのに。あたしだったらお兄ちゃんが好
きなら作ってあげるけどなあ』

『妹友ちゃんのブラコン』

『違うよ。そうじゃないって』



 今にして思えばこのときの妹ちゃんは兄ラブ全開だったのだけど、そういうことは今は
どうでもいい。むしろ、これだけ自分勝手に仕事一筋に生きていたにも関わらず、池山さ
んは妹ちゃんに嫌らわれていないということの方が重要な情報だった。


「どうかな。久し振りに作ったんだけど」

 さわらの西京焼き。赤味噌のお味噌汁。

「料理上手なんだね」

 見た目はすごくおいしそうだし、一から作ったとすれば多忙なこの人にしてはたいした
ものだ。あたしは素直にそう思った。

 池山さんは照れたように顔を背けた。

「そんなことないよ。昔を思い出して何とか作ってみただけで。まずかったら無理に食べ
なくてもいいからね」

 実際に食べてみると、さわらは焼きすぎで西京味噌が焦げて黒くなっていたし、味噌汁
は赤味噌はいいけど出汁が取れていないため辛いだけだ。

「こんなのいつ覚えたの」

 味に関する評価はさておきあたしはそう尋ねた。このメニューはお兄さんの好物だった
はず。

「昔のことだけどね。前の妻が姫を出産するために入院したとき、兄の好きなものを必死
に作ったことがあってね。あの頃は私も若かったな」

「・・・・・・お兄さんのこと本当は大好きなのね」

「さあどうだろう。姫を傷物にした兄のことは一生許せないと思うよ。でもまあ、姫は母
親と一緒に暮らすことになったし、兄は一人で反省しているだろうし。このままま二人が
冷静になったら、兄のことも許せるようになるのかもな」

 二人は一緒に暮らしているのよ。あたしは思わずそう言いかけた。お兄さんへの愛情や
執着やみっともない未練はまだあたしの胸の中で燃えさかっていた。それでも、あたしが
言いつけていいことじゃない。


「よく覚えていましたね。そんなに昔に作っただけの料理のレシピを」

 あたしは無理に兄妹の消息から話をそらした。

「こういうのって意外と忘れないものだよ。大事な人にはこれくらいはしてあげたいとい
つも思っているから」

「そうなんだ。やっぱり池山さんってお兄さんが大切なんですね」

「それは息子のことだからね。私は姫が好きで好きでしようがなかったし、前の妻ともそ
の気持だけは共有していたんだ」

 池山さんは笑った。

「どうしたの」

「その気持を込めた料理を久し振りに大事な人に作れて嬉しいよ。妹友ちゃんはもう僕の
大事な娘だから」

「あ、どうも」

「・・・・・・君はどうなの?」

「はい?」

「君は僕のことを人称抜きで呼んでるでしょ。一緒に暮らす前は池山さんだったけど、暮
らし始めてからは、池山さんともあなたとも君とも言わない。もちろん、パパとかお父さ
んとかもね」

「・・・・・・」

 最近はこの人のことは嫌いじゃない。でも、パパとかお父さんという呼び方は今はお兄
ちゃんと二人暮らしをしている本当のパパのためのものだ。かと言って池山さんと呼ぶの
は既におかしい。あたしは彼の籍に入って名前は池山となっていたからだ。皮肉にも、あ
たしは今ではお兄さんと同じ池山姓を名乗っている。そして妹ちゃんは今では学校の名簿
には結城妹と記されていた。それは妹ちゃんのママの旧姓ではないようだから、新しい父
親の姓なのだろう。

「変なことを言ったね。悪い。そろそろ私は出かけるよ」

 池山さんが立ち上がって上着を取り上げた。

「今日もお仕事なの?」

 相変わらず人称を省略してあたしは彼に聞いた。

「いや。今日は姫との面会日なんだ。楽しみすぎて今朝は早く起きすぎたよ。妹友ちゃん
に朝ご飯を作れたから結果オーライだけどね」

「・・・・・・そう」

「じゃあ、行って来るよ。姫と一緒に夕食をとってから帰るからね」

「行ってらっしゃい」

 池山さんが出掛けたあと、あたしは彼の整えてくれた朝食を食べることを諦めてシンク
の隅に捨てた。


明けましておめでとうございます

このスレで終われなかったので次スレたてました
妹と俺との些細な出来事・2 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1388669627/)

あまり長くならないで終ると思いますけどど続きはこちらで

それではまた投下します

おつ

①持つ

>>1000ならみんなに妹ができる



本当単行本出たら買うわ
マジで

へたなラノベよりよっぽど面白い

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