股間から竜が生まれた話 (19)

5月に入ってから急に暖かくなった。
窓から見る天気はまさに五月晴れであった。冬の寒さもここまでは追ってくることはない。

自分の陰毛をすべて剃り落としたときのような、すがすがしい空気だった。


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連休真只中の今日は特にやることがなかった。
だから昼からビールを飲みながらテレビの前のソファに腰を掛けた。

遠い南の国が水不足に喘いでいるということを深刻そうな声色で語ったアナウンサーの女は、その直後に明るい声で連休をカスピ海でヨーグルト浴を楽しむ人々の特集を語る。

きっと彼女にとって、ニュースの一つ一つは何の思い入れもないことなのだろう。
もちろん僕にとってもどうでもいいことだった。

なんの関連もなく様々な事を話し続けるアナウンサーは、逆に何かを暗号めかして誰かに伝えようとしているのではないかとさえ思える。

昔戦争があったとき、オランダでは風車の羽の角度を用いて連絡を取り合ったらしい。
今日では、アナウンサーが来ている服や髪形、そして彼女が話す事柄を用いてそれが行われているのだ。

世界はいつも僕のあずかり知らぬところで回っている。
そういった疎外感を感じるのは、きっと連休で家に引きこもっているからだろう。
外に出れば何かが変わるかもしれない。

アナウンサーを用いた暗号通信に割り込むことはできなくとも。

昼食を食べたら買い物にでも行こうと思った。
ぼろぼろになったテニスシューズを買い替えようと思ったのだ。
シャワーを浴び、着古したポロシャツを着る。

昼食は簡単なサラダを作った。料理をしているとき、冷蔵庫の中のビールの本数が残り少なくなっていることに気付いた。
酒屋にいくなら車で行きたかったなとビールを飲んだことを後悔しながら作ったサラダを食べた。
味なんてあってないようなものだった。

どうせならいっぺんに用事を済ませてしまいたい。
明日も休みなのだし、明日車で出かけよう。
今日は残り少ないビールを開けてしまうことにしようと思った。

ただ出かける準備だけはしてしまっていたので、散歩には出かけることにした。
投資をした分は回収せねばならない。

そんなケチな感性から出た考えだった。

外に出てみると、本当に気持ちのいい陽気であった。

窓から見た空は素晴らしいものであったし、外に出たら気持ちはいいだろうなとは思っていたけれど、それを上回るものだった。
出来立てのカップヌードルに陰茎を差し込んで痛い目をみたあのときとは違う予想の裏切られ方をした。
雲と空のコントラストが美しく、初めて空を見上げたかのような感動にとらわれた。

日差しは初夏のにおいがする。

公園に行くと、たくさんの小さな子供たちが遊びまわっていた。
そしてそれを見守る母親たちは、彼女らの役目を全うするでもなく井戸端会議に盛り上がっている様子で、こちらに気づいてもいないふうだった。

僕は藤棚の下のベンチに腰を掛けて、藤の屋根の隙間から覗く空を眺める。
空は広くとも、僕に割り当てられた空は手のひらほどもなかった。
気持ちのいい風が頬を撫で、子供たちの歓声が遠くで残響のように聞こえている。

そのままじっと小さな空を眺めていると視線を感じた。
母親たちは、彼女らの職務を思い出したらしい。
ぼろぼろの靴を履き、よれた服を着ている僕は不審者たる資格を十分に満たしているらしい。
居たたまれなくなって、その場を後にした。
藤棚を介さずに見上げた空は大きく、そしてきれいだった。

空を見上げながら自分の家に帰る途中、空を泳ぐものが見えた。
魚を模したそれは、この時期に掲げられるものだった。

大きな口を開け悠遊と空を泳いでいる。
一体何を考えているのだろう。

彼らにとっては、風を泳ぐことだけが重要なのだ。
そのほかのことはきっとどうでもいいことで、そこが居場所のない僕とは決定的に違っていた

そう考えると無性に腹が立った。
犯してめちゃくちゃにしてやりたいと思った。
そう思ったから、その家の塀をよじ登り、ベランダまで這い上がる。
相変わらず魚たちは一切僕のことを気にしている様子はなかった。

その魚群れは3匹の群れとイカのような何か組み合わせだった。

一番高いところで泳いでいたそれは、雲のように白くまるで竜のようにも見える。

白ならシミになってもわからないだろうという現実的な判断力を持って僕はその中の一番上の竜を犯すことにした。

いきり立つ自分のブツを取り出し、大口を開けたそれに突っ込んだ。
その瞬間、風が強く吹き、僕のそれを優しく包み込んだ。

そういえばズボンとパンツを履き忘れていたなと思いながら僕は射精した。

出された精液は竜に飲み込まれ、そのまま後方から吐き出されていった。
初夏の日差しに、反射した精液たちはキラキラと輝きながら風に運ばれ、空を泳いだ。
反射する光はまぶしく、光り輝く鱗のように見えた。

力強く、流れる川のようにうねる精液は、一匹の竜のようにも見えた。
ここに新たな竜が生まれたのだ。

精液は、勢いを増し、牙を持ち大きな爪を形作った。
風は竜に付き従い、大きなうねりとなった。
そして竜はそのまま空のかなたに飛び去って行った。

竜を見届けてから僕は帰路についた。
その気持ちは晴れ晴れとしていて、五月の陽気にふさわしいものだった。

竜は空を翔け、海を渡り、干ばつにあえぐ国に雨雲を運んだ。

その竜は何千万人もの命を救った。

そしてそのことを男は知らない。

世界はいつも彼の知らないところで回っているのだ。

おしまい

変態だー!

てっきり竜みたいな大きさになる話かと……(ミミズを見ながら

変態だああああああああ!?
でも面白かった乙

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