【ミリマス】音無小鳥「ちょっと指ペロ妄想しましょ」 (28)

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 今日も今日とて音無小鳥はキーボードを打ちモニタに向かう。

 事務所が弱小だったのも、今となっては早や昔。
 日に日に増える仕事の量に、コッソリ休む暇も無し。

「と、頭の中では嘆きつつも――」

 ターンッ! とエンター一叩き。
 小鳥は業務に一区切りをつけると、不穏な笑みを浮かべて言った。

「こうしてしっかり休憩する時間を作れるのもデキる女の証よね。さぁて、今日はどんな息抜きを……」

 室内をグルリと見渡せば、談話用のスペースで仲睦まじくお菓子を分け合う少女が二人。

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「はいどうぞ、可奈」

「ありがとう、志保ちゃん!」

 北沢志保と矢吹可奈。志保が箱から手に取ったチョコ菓子を可奈の目の前にかざして言う。

「これ、結構美味しかった。可奈も食べてみる?」

「いいの? 食べる食べる~♪」

 次の瞬間、志保が驚きに声を上げた。
 何せ自分の指先ごと、可奈がチョコに食いついたからだ。

「はれ、どひたの?」

「……可奈、アナタねぇ」

 呆れた様子の友人に、可奈が不思議そうな顔をしてそう訊くと。

「どうして一旦受け取るとか、箱から別のを取るって発想が浮かばないの?」

「えっ? えっ? だって志保ちゃんが、食べてみてって言ったからぁ……」

これは素晴らしい予感!


 どうやら可奈は、志保の呆れている理由に見当がついて無いらしい。

 そしてまた、その様子を観察していた事務員は、
 志保のとった決定的な瞬間を見逃すことはしなかった。

 それは志保が可奈に小言を言いつつ、
 先ほどまでチョコを摘まんでいた指先を、ペロリとひと舐めしたことである。

 志保の名誉のために言っておくが、これは全く無意識のうち。

 彼女としては弟の食べ残しの始末をつけるぐらいに、ごく自然と出た「姉として」の行動である。

 だが、事務員小鳥はそう取らない。

 思わず出そうになった「来たッ!」という台詞を口を押さえて飲み込むと、
 彼女達から顔を逸らし――しかし、視線だけは二人に向けたまま――ほくそ笑む。


(これよ、これ! 指ペロ、指ペロだわっ!!)

 そんな挙動不審な彼女のことを、こちらも観察する者が一人。

「あの、律子さん」

「えっ?」

 コピーを取っていた青羽美咲が怪訝そうな顔をして、小鳥の向かいに座る秋月律子に問いかける。

「小鳥先輩、何してるんです?」

「ああ、気にしないで。発作みたいなものだから」

「は、はぁ……」

 自らの醜態をまざまざと後輩事務員に見せつけながら、それでも小鳥は旅立った。

 何を隠そう彼女にとっての趣味とも言える、甘く切ない妄想へとだ。

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 妄想する上で大切なのは、一に人物二にシチュエーション。
 三、四も含めて後は想像力任せの世界である。

 まず初めに『指、ぺろっ☆』妄想を広げるに為に、小鳥はどんな物なら指ペロに相応しいか……
 言い換えれば指ペロしやすいかについて考えた。

「基本はやっぱり粘着性で、出来れば液状に近い固形がいいわ。
 それから指で舐めることになるだから、当然対象は食べ物ね」

 ブツブツと小声で呟きながら、小鳥はイメージを固めていく。

「シチュエーションは、さっきの志保ちゃんたちの物をベースにしましょう。
 つまり、誰かが誰かに食べ物を差し出すっていう状況」

 デスクの上のメモ帳にペンを走らせて、小鳥は思いついたアイディアを列挙していく。
 そうして生まれた組み合わせを、脳内でシミュレートしていくのだ――。

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 ……そう、場所は川のせせらぎが聞こえるような春の土手。爽やかな風が吹く正午。

 拡げられたピクニックシートにちょこんと座り、
 お手製のお弁当を並べるのは宮尾美也。

「今日のお弁当は、私の自信作なんですよ~」

「美也の弁当は美味しいから、楽しみだな~♪」

 そんな彼女と一緒にいるのは永吉昴。

 あぐら座りでウキウキと、美也の広げたランチボックスの中身を覗いている。


「はい、昴ちゃん。あーん」

「あーん!」

 そうして昴は美也から差し出された、大きなサンドイッチにかぶりつき

 ――彼女なら自分で食べるだろうって? その辺りの融通を利かすことができるのも、楽しい妄想の特権だ――

 パンとパンの間から溢れたドレッシングが、美也の手を伝ってシートの上に染みを作る。

「あっ! ご、ごめん!」

 慌てて謝る昴に向かい、「大丈夫ですよ~」と美也が言う。

 さらにはその手を自分の口元へと近づけてペロリとドレッシングの筋を舐めとると、彼女はいたずらっぽく微笑んで。

「ふふっ、昴ちゃんの言う通り」

「み、美也……?」

「とっても美味しい……」

 そうして見つめ合う二人の距離は、自然にじりじりと詰められて行き――。

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「……って、お手拭き使えばいいじゃないっ!!」

 小鳥の大声が事務所に響き、室内がシンと静まった。

 自分で自分の妄想に突っ込みを入れるのは、この種の遊びの醍醐味である。


 と、同時に小鳥の言葉を訊き、今更ながらに自分の行いを自覚した少女を、
 羞恥の谷に叩き落した事実も忘れてはならない。

「あれ、志保ちゃんどうしかした? 顔赤いよ」

「な……なんでもない!」


 とはいえ、小鳥は既に次の段階に移っていた。

 今度は夏の日差しが眩しい、白い砂浜と海岸線――。

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「はい、千早ちゃん」

「……ありがとうございます。風花さん」

 波立つ海を眺めながら、如月千早は豊川風花からソフトクリームを受け取った。
 勿論、海に来ているのだ。二人とも当然水着である。

「まさか、千早ちゃんがコレを好きなんて」

 熱い陽の光を浴びながら、パラソルの下に座る二人は手にしたソフトクリームに舌を這わす。
 すると風花の言葉を受けた千早が、少々表情を暗くして。

「子供っぽいと、思いますか?」

「ううん。実は私も……ふふっ」

 答えた風花の笑顔につられ、千早もぎこちなくその口角を上げた。

 別に彼女のことが嫌いなのではない。
 ただ、こういうやり取りに慣れていないというだけだ。


「ところで千早ちゃん」

「はい、なんでしょう?」

 風花が自分の持っていたチョコ味のソフトクリームと、千早の持つバニラ味を交互に見つめ。

「一口、交換してみない?」

「アイスをですか?」

「うん。……ダメ、かな?」

 断る理由などどこにもない――何せここは妄想の世界。物語の筋書きは、描く小鳥の匙加減次第――

 風花が千早にアイスを差し出し、千早がそれをおずおずと舐める。

「千早ちゃん、美味しい?」

「……は、はい」

 千早がどこか緊張した面持ちをしているのは、決して誇張した表現ではないだろう。

 風花が千早の方へとそっと身を寄せ、今度は千早が持っていた、
 バニラ味のソフトクリームを風花に差し出す。……が。


「あっ!」

「きゃっ!?」

 差し出された右手は勢い余り、風花の胸元に白濁した水溜まりをこしらえた。

 その冷たさにわずかばかり驚きながらも、「す、すみません風花さん! 私、私……」
 と狼狽える千早を「大丈夫、落ち着いて」と制すると。

「服じゃなくて水着だし。海に入れば落ちるから」

 ピッと立てた人差し指で胸の谷間に溜まったアイスをすくい上げ、
「ちゅっ」と音を立てて指先を舐めとった。

「……うん、美味しい」

 そうして恥ずかしさに顔を赤らめつつも、
 視線を逸らすことが出来ない千早にその指先を近付けて言う。


「ほら、千早ちゃんも……舐めてみない?」

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「ダメ! ダメよ小鳥これ以上は!!」

 小鳥が事務所を再び揺らし、律子が「うるさいですよ、小鳥さん!」と呼びかける。

 全く自分はなんという、健全・純粋・無垢・天真な妄想を広げてしまったのか。

 だが、最早勢いついた彼女を止められる者などいないのだ! 

 小鳥は乗るがままよとかぶりを振ると、三度目の妄想を開始した。

 場所は夕暮れ時の食卓だ。四畳一間のボロアパート。

 小さなちゃぶ台を挟み座るのは、高槻やよいと水瀬伊織の二人である。

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「伊織ちゃん、はいどうぞ」

 隙間風が窓を揺らすようなボロ住まいで、しかしやよいの笑顔は変わりない。
 ご飯が盛られた茶碗を受け取り、伊織が「ありがとう」と小さく返事する。

「伊織ちゃん、どうかした? なんだか、元気ない感じ……」

 この発言は当たっていた。事実伊織は元気が無い。

 どうして無いのかと問われれば、「金が無いのだ」と返って来たことだろう。

 天下の水瀬財閥の娘も、勘当されればただの少女。

 支援も援助も無い状態でやよいと二人、身分違いの恋の果て。
 駆け落ちした二人に待っていたのは、当然のような極貧生活。

「ごめんなさいやよい。私の甲斐性が無いばっかりに、こんな辛い生活なんてさせちゃって」

 伊織の沈んだ呟きに、やよいが「そんなことないよ!」と声を張り上げる。


「私、貧乏なのは慣れっこだもん。それより伊織ちゃんの方が心配だよ。……こんな生活、経験したこと無いでしょう?」

「ええ、まぁ……甘かったわ。私ぐらいの実力があれば、親元を離れてもどうにかやって行けると思ってたけど」

 だが実際は、伊織の思うようには進まなかった。

 アイドル業で稼ぐお金の殆どはやよいの実家に送金され、残る金額は雀の涙。

 それでも日々の糧を得るために、伊織は日雇いのバイトだって。

 アイドルとしての仕事が無い日には一日窮屈なデスクと向き合い、
 人形を撫で続けるという過酷極まるバイトである。


「今日だって、元締めと給料の支払いで揉めに揉めて……もしかするとバイト、クビになるかも」

 落ち込む伊織に、やよいが言う。

「そんなの、全然大丈夫! もしそこをクビになっても、お仕事は一杯あるんだから!」

「……やよい」

「私もね、採用試験に受かったんだ。月曜からは私この街の、お巡りさんになるんだよ!」


 そうしてやよいは、うなだれる伊織の手をギュッと握ると。

「だからほら、元気だしてよ伊織ちゃん。……どんな時でも、私がいるから」

「……うん。そう、そうね」

 見つめ合い、頷き合う二人の関係はどこまでも真っすぐにピュアである。

「そうと決まれば、ご飯にしましょ!」

「うん! たっくさん食べて、元気つけなきゃ!」

 一袋八円のもやしを分かち合い、空腹は笑顔で満たせばいい。
 慎ましいながらにも幸せに包まれた夕食を食べていると、突然やよいが伊織の頬に指を伸ばした。


「動かないで、伊織ちゃん」

 そうして彼女は伊織の口元についていた米粒を、自分の指先にくっつけると。

「ご飯粒、顔についてたよ? ……ふふっ♪」

 パクリ、そのまま口に含んだのである。

 その光景は何とも微笑ましい物だったが、伊織にとっては欲情を掻き立てる行為でもあった
 ――もちろん、小鳥フィルターを通してだが――

 物欲しそうに指へ吸い付く唇と、いじらしく動くやよいの手の動きに、
 堪らなくなった伊織が彼女のことを押し倒す。

「ちょっ、ちょっと伊織ちゃん! まだ、ご飯が……」

「……大丈夫。ちゃんと食べるわよ」

「でも、それって意味が違うかなーって……あっ」

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「ああ、もう! 誰か止めて! これ以上はさすがにNGよっ!」

「止めて欲しいなら止めてあげます、小鳥さん!!」

 怒声によって我に返る。

 顔を上げた小鳥の前で、仁王立ちするのは般若か律子か。

「いい加減、仕事を再開してください」

「はいっ! 直ちに!」

 鬼軍曹に睨まれて、小鳥がピシッと敬礼を返した。
 そのいつも通りのやり取りに、律子はくたびれたようなため息をつき。

「それじゃあ、私は外回りに行ってきますから」

「アイアイ、マム!」

「……そのノリも、とっとと止めてくださいね?」


 律子が部屋を出て行くと、小鳥は助かったとばかりに息を吐いた。

 時計を見ればお昼前。
 もう少しすれば楽しいランチタイムである。

「ランチタイム……ああ、指ペロ」

 何でも妄想と結び付け、連想してしまうのは悪い副作用だと言えるだろう。
 と、そこに。律子と入れ替わりで外から戻った者がいた。

「あっ、お帰りなさい。千鶴さん」

「ええ、ただいまですわ」

 女性の名前は二階堂千鶴。

 彼女は小鳥のデスクに近づくと、
 持っていた紙袋からコロッケの包みを取り出して。

「ところで、お腹は空いてませんこと?」

「嬉しい! 差し入れですね♪」

 悲しいかな……小腹が空いていた小鳥は不覚にも、
 千鶴の差し出したコロッケにそのままかぶりついてしまったのだ。


「あっ……!」

 一瞬固まる空気と体。

 小鳥はゆっくりと身を引くと、唇についた衣の欠片を親指で取り。


「ふふ……美味しい」


 ペロリと舐めて、見せたドヤ顔。

 そんな小鳥に、千鶴は「そ、そう。それは、良かったですわね」と若干引いた様子である。

 教訓。現実は妄想よりも世知辛い。
 勢いだけで生き急ぐと、往々にしてこのような状況に出くわすものだ。

 そんな小鳥を憐れむように、千鶴が「必要なら――」と言葉を続ける。

「お茶も、お持ち致しますわよ?」

「是非に」


 ああ、いつもと変わらぬ765プロの、ある日における一幕の話。

 どっとはらい。

以上、お粗末さまでした。
それにしても後輩事務員さんは、どんな呼称で皆のことを呼ぶのやら……。

お読みいただき、ありがとうございます。

美咲ちゃもいるやんけ!最高かよ!

おつおつ
リトルバード最高だな

乙ぴよ

おっつおっつ

ピヨェ…

もしかしたら美咲ちゃんの方がポンコツかも…

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