モバP「あなたこそ永遠のプリンセス!」 (61)
――――冬、大阪、堀江、パーティー会場
青年実業家「瑞樹さん、あなたほどの麗しい人をボクは知らない。
あなたはこの世の美、そのものだ。・・・ボクと一緒に踊ってくれまいか?」
川島瑞樹「あら、ありがとう。その言葉とっても嬉しかったわよ?
でも私は今日はもうすっかり疲れているの、遠慮させてもらうわ」
貿易商「瑞樹さん、あなたほどの輝きを持った宝石をわたしはついぞ見たことがない。
信頼してくれ。財宝に関するわたしの鑑定眼に間違いなどないのだよ。
長きに渡った我が旅の人生を・・・あなたで終わらせてくれまいか?」
川島「あら、とてもありがたく存じますわ。
けれどもわたくしはまだ若輩者、あなたとの旅のお供には物足りないのではなくて?」
一流企業役員「瑞樹さん、私はこれまでの人生、お金で全ての価値を計ってきた。
だがあなたの艶やかな姿を見て私の認識は変わった・・・金銭などでは決して手に入らない美を。
私の人生に革命をもたらした責任、とってはくれないかね?」
川島「あら、それは大変おめでたく存じますわ。けれどごめんなさい。
わたくしは浅学非才の身、あなたほどの方を統治するのは、わたくしには少し荷が重すぎますわ。」
大学教授「僕は長い研究人生でようやく見つけたのだ。美学という学問は今日で役割を終えた。
瑞樹さん、あなたこそが僕が見つけ出した・・・唯一の美の定義だ」
川島「教授さん?あなたが長年の美学を捨ててしまったら、そこに残るのは醜いわたくしとあなたでなくって?」
後輩アナA「・・・かわしま先輩、さすがのあしらいです。
私はさっきからとても怖くって・・・」ブルブル
川島(まったく・・・どいつもこいつも話にならないわ!
私が美人・・・そんな誉め言葉で私が、アンタたちになびくとでも思ってるの!?
なんでなの!どうしてなの!
・・・
どうして誰も私をカワイイって言ってくれないのよ!)
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――川島家
川島(はぁー疲れた)
(今日もほんっとうにひどいパーティーだったわね。
職業上、付き合い上出るのは仕方ないパーティーなのだけど、本当に面倒ったらありゃしない!
・・・私が可愛いのを認めてくれない場所なんて行く必要がないわ!)
(見なさいよ私の女子力!掃除!洗濯!料理!
これがか弱い大和撫子以外の何ものだって言うの!
ほら、今日もちゃんと料理が可愛くできました。
・・・うん。美味しい。ブリの煮付けも久しぶりね。和風出汁を自作した甲斐もあったわ)
(私は可愛くて華やかな世界に憧れて、必死に勉強してアナウンサーになったのよ!
華麗に私は厳しい入社試験もパスして、こんなに派手できらびやかで可愛い生活を謳歌しているのに!
・・・ふぅ、やっぱり安くてどこにでもなんにでも使える重曹は女子の味方ね。あら、台所にまだ油ヨゴレが・・・
・・・ほら見なさい!ピカピカの人生よ!)
(ああ、若い・・・じゃない。昔は・・・じゃない。
入社当初はまだよかった。一番後輩の私を、みんなが可愛い可愛い言うんだもの)
――――・・・年前、大阪某ローカル局アナウンス室
若川島「おつかれさまでしたー」
アナウンス室長「おお瑞樹クン!よく頑張って取材に行ってくれたね!
本当にお疲れ様だよ!・・・いやぁ、瑞樹クンのような可愛い新人は近年例を見なかったよ。
俺も年甲斐を忘れて、もう一度セイシュンしたくなってきたぞう!」
若川島「きゃっ・・・」
室長「おお、悲鳴まで若々しくて可愛いねえ!」
先輩アナB「室長、それ以上その子に手を出したら人事に報告しますよ?
か弱い女の子を少しでもおびえさせたらもう、立派なセクハラなんですからね」
室長「・・・すまなかったな、瑞樹クン」
若川島「いえ、そんな」
B「イヤだったらイヤだとはっきり言うのよ?瑞樹ちゃん
・・・こんな可愛い後輩に絶対に手なんて出させない。瑞樹ちゃんのことは絶対に守るからね?」
若川島「ありがとうございます!」
後輩の子がちやほやされるから悔しい←わかる
だからアイドルになる←!!??
の川島さん
川島(ってな感じで、本当に私はあのときアナウンス室のアイドルだったのよ。
みんながか弱い私を守ってくれた。みんなが可愛い可愛い言ってくれた。
先輩みんな、ことあるごとに私をかわいがってくれた。
室長のセクハラまがいは確かに怖かったけど、今考えるとまんざらでもないもの!
まさに花の時代ね・・・)
(それがいまじゃあ・・・)
――――この間、大阪某ローカル局アナウンス室
A「おつかれさまでしたー♪」
アナウンス室長「おおAクン!よく頑張って取材に行ってくれたね!
本当にお疲れ様だよ!・・・いやぁ、Aクンのような可愛い新人は近年例を見なかったよ。
俺も年甲斐を忘れて、もう一度セイシュンしたくなってきたぞう!」
A「あはっ☆室長、そんな冗談やめてくださいよー♪
・・・でも室長みたいなオジサマだったら、私も禁断のアバンチュールを・・・
なーんて、信じちゃいました?あはっ☆」
室長「いやぁ、何をさせてもAクンは若々しくてかわいらしいねえ!」
A「いやだなぁ室長さん、そんなことありませんよー♪」
B「・・・川島さん、あなたもそろそろ自覚ってモノを持った方が良い時期なんじゃないかしら?」
川島「・・・どういう意味でしょうか?」
B「さあ?自分で考えなさいな」
川島(なんてことに・・・)
(どこに行ったのかしら私のかつての立場は。軽井沢の谷へと麦わら帽子と一緒に落っこちてしまったのかしら。
そりゃあAちゃんも確かに可愛いわよ。可愛いのプロの私が言うんだから間違いないわ。
けれども(かつての)私とは絶対的な違いがあるのよ・・・)
(私は可愛いって言われたいだけ。可愛いって認めてもらいたいだけ。
でもAちゃんは・・・自分が可愛いってことを自分が一番知ってるの。
そしてそれを一番の武器にして、私達先輩を蹴落としかねない勢いだわ。
・・・実際彼女のレギュラーはどんどん増えて、人気もうなぎ登り。
そしてそれに伴って私のレギュラーは減っていき、人気・・・は興味もないし知らないけど。
とにかく!そういうところがね、若くてキャピキャピしたAちゃんのそういうところがね、)
(――本当にムカつくのよ!)
(いや、私は嫉妬なんてしてないわ。若さに嫉妬なんてしてない。
嫉妬なんてなんにも可愛くないもの。あれ?でも可愛く嫉妬されると喜ぶ殿方なんていうのも聞いたことが――)
――――冬、大阪、某ローカル局、朝番組の芸能情報コーナー
A「――ということで、大阪ドームに集まった数万人のファンの皆さんは、
生で見る竜宮小町の歌声に、ただただ熱狂するばかりなのでしたー」
男性アナ「いやー、三人とも顔も小さいし可愛いし、ホントにトップアイドルですねぇ」
芸人コメンテーター「いや、でもな。Aちゃんもそこら辺に関しては負けてへんのとちゃう?」
アナ「お、Aさんもアイドルデビューですか?」
芸人「世の中に吹き荒れるアイドルブーム全力で乗っかっていく!まったくこの局も大阪商人の鑑ですなぁ」
A「いやぁ、そんなことないですってぇ♪
そんなのはわたしじゃなくって、かわしま先輩のほうが適任ですよー♪」
アナ「ほう、確かに川島さんがアイドルというのも興味深いですねぇ」
芸人「あっはっは、確かに川島はんもお似合いですわな」
「クールビューティーな川島はんが意外にも歌って踊る姿、
さぞかしかわええんやろうなぁ!あっはっは」
川島「・・・わかるわ」
一同「え?」
――川島「今私がアイドルできると言ったわよね!今みんな!みんな出来るって言ったわよね!確かに言ったわよね!
ああ、出来るわよ!してやるわよ!やってやるわよ!誰よりもプリティーなアイドルになってやるわよ!
私は本気よ!アナウンサーなんてもうおさらばだわ!私はもうアイドルになることにきめたの!
みんな納得なんでしょう!わたしにお似合いなんでしょう!ならやるほかないわよね!
見てなさい!すぐにデビューしてこの場の全員に認めさせてやるわ!
・・・私が可愛いことを!全国民の可愛いアイドル・川島瑞樹の存在をいますぐに広めてやるわ!
そう!たった今から!私の可愛いアイドル人生の伝説が始まるのよ!」
芸人(・・・たしかにこの放送は、かならず伝説になるやろなぁ・・・)
――――春、渋谷、CGプロ
川島「ねぇ、君。
私、この年でもまだまだアイドルとしてイケると思ってるんだけど・・・君はどう思う?
プロデューサーとして率直な意見聞かせてちょうだい。ホントのことだけ教えて?」
モバP「はぁ・・・」
(これが例のあの人かぁ・・・)
川島「・・・教えなさいよ」
P「ああ、ごめんなさい。
これが僕の担当するアイドルなのかと、ちょっと感傷に浸ってしまいましてね。
そうですね。いけると思いますよ。もちろんアイドルとして」
川島「ちょっと今の君、怪しいニオイがしたわよ?」
P「・・・いや、川島さんは僕の担当アイドルですからね。
そして僕は川島さんの担当プロデューサーです。
アイドルの意志は極力尊重しますよ」
川島「なによそれ・・・まあいいわ。
今日からようやく可愛い私のアイドル生活がスタートしたってわけね!」
P「今日から、ですか?」
川島「そうよ。タレントを引き抜くのなんかと違って、
私はただの会社員がアイドルになったって扱いだからすぐにでも活動出来るってわけ。
フン。小娘どもなんかには負けないんだから!」
P「では・・・どういう路線がご所望で?」
川島「路線って・・・決まってるじゃない、何をバカなことをいうの君は?」
P「はい?」
川島「アイドルなんだから可愛いに決まってるじゃない!
ほかにどんなアイドルがいるというの?アイドルは可愛い。可愛いからアイドル。
これは決して崩れない等式よ。・・・ああ、もしかして歌やダンスのこと?
任せなさい!アナウンサーとして発声はばっちし!後輩の指導もやっていたからね。
体力だって自信あるわ!アンチエイジングはカワイイ愛され女子力の基本よ!
運動だってずっとばっちりこなしてきたんだから!」
P「そうですか、では――」
川島「それとね!
大学時代の知り合いに頼んで、もう曲も作ってもらったのよ!
私が付きっきりで監修してね、夜を徹して出来た大傑作よ!
私の物言いもほとんど取り入れてくれて、とってもカワイイ曲に仕上がったんだから!
だから・・・心して聞いてよね!」
P「・・・わかりました」
川島「それでは聞いて下さい、『Angel Breeze』」
P(アナウンサー口調だ・・・)
~♪~
P(古い!古いってこれは!いい曲だけど!
確かにアイドルソングだけど、これは90年代アイドル歌謡曲だよ!
森高千里とかそんな感じ、っていうかあなたも世代じゃないでしょ!)
川島「・・・」ジーッ
P「て、僕がせっかく曲を集中して聴いている間に何読んでるんですか?
かってに僕の机を漁りだして――」
川島「これ、企画書よね?」
P「どうしてそんなことが・・・」
川島「とぼけるんじゃないの。ほら、『パジャマパーティー企画』って書いてあるでしょ?」
P「ああ、それはウチの事務所で、カワイイパジャマが似合う子を集めてグラビアを撮ろう。
そういう企画なんですよ・・・」
川島「緒方智絵里、若林智香・・・この二人のことはよく知っているわ。
かたや思わず抱きしめたくなるような庇護欲をかきたてられる小動物系のかわいさをもったアイドル。
かたやいつも元気でみんなを笑顔にする純粋なみんなのチアリーダー、そんなかわいさをもったアイドル。
・・・そして二人ともティーンエイジャーね」
P「・・・よくぞ研究熱心で」
川島「私も入れなさい」
P「ほえ?」
川島「私は新人ピチピチのアイドルでしょ?
こういう企画にいち早く参加して、知名度を上げるのも重要だと思うのよ。わかるわね?
だからプロデューサーには急だけど、ごり押しお願いね?」
P「マジですか?」
川島「マジよ。私はいつだってマジなんだから。
マジ。真剣。本気。それで大学受験もアナウンサー試験もお肌の手入れもやってきたのよ。
そして今度はマジで私はアイドルをやるの。精々付いてきてね?お願い。
じゃ、さっきの曲にあった衣装楽しみにしてるから、私はレッスンに行ってくるわね!」
――
P(ふぅ、疲れた・・・)
(とんでもないバイタリティに溢れた人だったな。
これじゃあどっちがプロデュースしてるんだかわかったもんじゃない。
もうあの人の脳裏には完璧なアイドル像があって、
それを俺はちょっとだけお手伝いするって形になるのかね)
(これじゃあプロデューサーじゃないよ、
マネージャーなんかと変わらんじゃないか・・・)
(でも話題性は抜群、まさに彼女は時の人だ。オレだってあの番組のことは山ほど耳にした。
世間の耳目は間違いなく集めてる。やりがいのある仕事、チャンスだと思わなければ。
・・・プレッシャーはハンパない。仮に失敗したら川島さんは世間のとんだ笑いモノだ。
あの人のアイドルにかける熱意は本物、そこは大事にしていかないと)
(あの人は本当に真面目だ。この先一週間はレッスンに専念するからと、俺に会う気はないらしい。
了解しましたよアイドル様。是非とも腕によりをかけてカワイイ衣装を用意してあげますよ。
・・・それとパジャマパーティー企画へのごり押しもだな。アレもおおかた「カワイイ」に反応したんだろう。
まったく、あれほどのとんでもない美人がどうしてそんなにもカワイイに固執するんだか。
お陰で本来の魅力が半減しているといっても過言じゃないっての・・・)
P(担当アイドルな訳だし。もともと有名人な訳だし。
・・・さらに有名人になってしまったわけだし。
ネットや週刊誌の評判も調べておくか・・・)
(うん。これはひどい。
YouTubeやニコニコ動画、2chやtwitterやまとめサイトに拡散して、
動画は爆発的なヒット数を誇ってる)
(・・・でもネットの評判はまだいい。
本人は傷つくかも知れないが、まだ「ネタにするだけの愛」がある。
反応も「黙ってたら超美人なのにwww頭おかしいww」とか「残念な美人www」とかだからな。
・・・可愛いとは書いてくれてはいないけど)
(それよりもひどいのは週刊誌やワイドショーだ。
なんだ、「プッツン系アナウンサー、狂気のアイドル転身」って。
プッツン系って藤谷美和子とかのことだろ?古すぎる。
オッサンやオバサンどもは、自分の意志を貫く女性を狂人としてでしか見られないのか?
・・・許せねえ)
(まあこの辺りを川島さんに見せるわけには絶対に行かない。
彼女のアイドルへの気持ちは純粋だ。それを傷つけるようなことは絶対にしたくない。
・・・一週間後に会う時、いろいろ釘を刺しておくかな)
――
――――CGプロ、一週間後
P「お久しぶりです、川島さん」
川島「お久しぶりねプロデューサー。一週間ぶりね」
P「さて約束通り、あなたの要望にそった衣装を用意してきましたが――」
川島「試着してくるわね。覗いちゃダメよ♪」
P「命令されてもしませんよ」
――
川島「プロデューサー!どうこの格好!可愛いでしょ!」
P「そうですね・・・本当にお似合いですよ。ビックリしました」
P(なんだこの感覚!ボキャブラリーが見あたらない!
一周回って?ギャップ萌え?意外性?・・・とにかく、可愛い衣装が似合ってる!)
川島「・・・あら?一週間前とはずいぶん反応が違うわね?」
P「一週間前?初顔合わせの時ですか?なにかありましたっけ?」
川島「一週間前は私の『イケるかしら?』という発言にずいぶん微妙な反応をしてたからね」
P「・・・じゃあ僕が社交辞令を覚えたと言うことにしておいて下さい」
川島「うふふっ、私正直に言ってプロデューサーのことをほんとに見直しちゃった」
P「そう、ですか?」
川島「そうよ。私のためにそこまでしてくれるなんてね・・・!
もう、この衣装で、若い子なんかには負けないんだから!」
P「自覚はあったんですね。それより――」
>>15訂正
――――CGプロ、一週間後
P「お久しぶりです、川島さん」
川島「お久しぶりねプロデューサー。一週間ぶりね」
P「さて約束通り、あなたの要望にそった衣装を用意してきましたが――」
川島「試着してくるわね。覗いちゃダメよ♪」
P「命令されてもしませんよ」
――
川島「プロデューサー!どうこの格好!可愛いでしょ!」
P「そうですね・・・本当にお似合いですよ。ビックリしました」
P(なんだこの感覚!ボキャブラリーが見あたらない!
一周回って?ギャップ萌え?意外性?・・・とにかく、可愛い衣装が似合ってる!)
川島「・・・あら?一週間前とはずいぶん反応が違うわね?」
P「一週間前?初顔合わせの時ですか?なにかありましたっけ?」
川島「一週間前は私の『イケるかしら?』という発言にずいぶん微妙な反応をしてたからね」
P「・・・じゃあ僕が社交辞令を覚えたと言うことにしておいて下さい」
川島「うふふっ、私正直に言ってプロデューサーのことをほんとに見直しちゃった」
P「そう、ですか?」
川島「そうよ。私のためにそこまでしてくれるなんてね・・・!
もう、この衣装で、若い子なんかには負けないんだから!」
P「無茶をさせている自覚はあったんですね。それより――」
川島「なにかしら?」
P「インターネットはなさりますか?」
川島「あまりしないわ。CookPadと掃除用品のことをたまに調べるくらいよ」
P「意外と所帯じみてるんですね」
川島「今度のオフにはお掃除に行ってあげようか?」
P「あんまりからかわないで下さい?あなたも立派なアイドルなんですから」
川島「アイドル・・・」
P「まあインターネットをそれくらいしかしないならいいんです。
それと週刊誌などは読まれますか?」
川島「いいえ、ファッション誌と料理本くらいかしら」
P「ああ、それならいいんです」
川島「へえ・・・」
P「最後に、テレビなんかだと何をご覧になります?」
川島「料理番組とか・・・」
P「なるほど料理番組なら――ってそれはダメです!
ああいうものは大抵ワイドショーに付随しているものですから、
そこに出ている現役アナウンサーたちの姿を見たら、あなたのモチベーションに関わる可能性があるんですよ?
そんなこと、プロデューサーとしては断じて許せません」
川島「うん。まかせて、了解したわ」
P「あ、Twitterやブログも禁止ですから。あなたのかわいいイメージが些細なことでおかしくなってしまうかもしれませんよ?」
川島「・・・ありがとね」ボソッ
P(・・・?どういう意味のお礼だ?イメージを守るっていったからか?)
P「あと、例のパジャマパーティー、通りましたよ」
川島「本当?」
P「ご覧下さい、衣装もあがってますから」
川島「うん。確かに可愛いけど――」
P「かわいさも前面に出しましたが、その裏にセクシーさも表してみました。
ご不満でしたか?」
川島「いえ、そういうわけじゃないけど。
でもちょっと、最初の私の要望と食い違ってないかしら?」
P「いえ、そんなことはありません。僕なりに川島さんのかわいさというモノを考えた結果です。
例えはものすごく悪いですが、ウーパールーパーも佐々木希もかわいいでくくられるのは同じこと。
僕はこの衣装で、川島さんだけのかわいさを表現したかったんです」
川島「でもオトナの色気なんて私は――」
P「この衣装を着てあなたは、川島瑞樹だけのかわいさを持ったたったひとりの女の子になるんです。
――あ、いや、失言でしたね。セクハラまがいの。ごめんなさい。あなたはだいじなアイドルなんですから」
川島「大丈夫、そんなものは前の職場で慣れっこよ?P君。うふふっ
まだまだ若い子にも負けないってこと、一緒に証明してよね!」
――――さらに一週間後
P(前回、なんだか人間関係の距離感をなんかいきなり縮められたぞ?どういうことだ?
またオレをからかってるのか・・・?相変わらずあの人は)
川島「はぁ・・・」
P「あ、川島さん。パジャマパーティーの撮影お疲れ様です。」
川島「ホントにお疲れよ・・・。わ、若いわね・・・・・・」
P「あなたほど気持ちの若い人もそうそういませんよ」
川島「P君、ちょっと私はしゃいじゃってるわよね・・・」
P「やめてください。あなたがそんなこといってどうするんですか」
「可愛いの方向性は人それぞれです。この2週間であなたもわかってくれたと思います。
小学生たちの可愛い。ティーンエイジャーの可愛い。成人女性の可愛い。
そしてそれがさらに細分化されて・・・ひとりひとりが持つそれぞれのかわいさになっていくんだと僕は思います。
・・・ですが、そして、あなた達はみなアイドルです。
下は9歳から上は31歳まで、同じ輝き、同じスポットライトを目指している女の子たちなんです。
老いも若きも関係ない。みな同じ目的地を目指す戦友でありライバルなんです。
それはあなたが一番わかっているはずでしょう?」
「・・・バイタリティーに満ちていない、元気のない川島さんなんて、僕はみたくないです」
川島「ありがとね、P君。でもそういう意味でいったんじゃないのよ?」
P「え?」
川島「私もあの企画に参加して、思ったのよ。同じようで違うこと。
みんな小娘なんかじゃなくて、精一杯頑張っているのよね。・・・私もまだまだ負けてられないわ。」
P「・・・そう。トップアイドルという同じ目標に向かって、ですよ」
川島「そう!まだまだここからよっ!私負けたくないわ!
――若い子とか関係なくよ!」
P「そうですか。ありがとうございますよ、僕の演説もすこしは浮かばれます」
川島「でもね・・・」
P「なんでしょう?」
川島「私、ちょっと気負いすぎてたのかなって思ったわ。
でも皆信頼してくれるし、何よりP君も信頼してくれるものね」
P「・・・ありがとうございます」
川島「うふふ。毎日いろんな刺激で本当に飽きない生活だわ。そう思わない?」
P「そうですね・・・川島さんが来てから本当にもうドタバタですよ」
川島「そうね。アナウンサー時代とは大違いよ」
P「まあ、言ったらただの会社員ですから・・・そんな大騒ぎもないでしょうよ」
川島「私・・・アイドルが天職なんじゃないかしら?」
P「はい?」
川島「P君、私を売り出すなら今がチャンスよ」
P「そうかもしれませんね。川島さんにもアイドルのプロ意識というモノが芽生えたようですし。
きっとこれからどんどんファンが増えて――」
川島「P君にはアイドル川島瑞樹のファンでいてほしいのよ」
P「・・・そんなの当たり前じゃないですか。
・・・ここにいるのはファン第一号。先ほども言いましたが、元気なあなたが――アイドルが、見ていたいんです」
川島「そう。それで・・・アイドルとしてまずは、P君を魅惑するというのはどうかしら?」
P「ええっ!?」
川島「セクシースタイルを織り込んだのはP君なのでしょう?
アイドルが一番身近な男性を魅了出来なくてどうするの?」
P「ごめんなさいね、アイドルにも人にも、いろんなタイプというモノがあるんですよ」
川島「Pくん、アナウンサーとか好き?家事が得意な女の人ってどう?
一般的な話よ?雑談よ雑談」
P「もう、まったく。こないだから僕のことをからかってくるのやめてくださいよ・・・」
川島「今度のオフにはお食事作ってあげようか?」
P「前も同じようなこといってましたよね?」
川島「じゃあP君、お仕事終わったら夕食でもご一緒しない?」
P「・・・それなら、喜んで」
――――数ヶ月後、夏の東京
P(オレの読みは、まあそれなりに当たったかな。
過保護なまでの情報統制をしたおかげでか、川島さんはまわりの雑音など一切気にせず、
自分の道を信じて可愛いアイドルを驀進している)
(最初はこぞってバカにしていた各メディアも、
熱がすぎたのか、一周したのか、――それともそのひたむきさについに心を打たれたのか、
最近ようやく落ち着いて普通のファンが増えた気がする。
いや、パジャマパーティー企画でのトークパートなどがなかなかに話題をさらってくれたせいで、
ネタにしてるファンの方も多い。
けれども彼らはよくグラビアを買ってくれたりするので、これもまたあなどれないのだ)
(・・・そんなこんなで、可愛いアイドル川島瑞樹にオレはちょっとの修正こそ加えたけれども。
彼女が初対面の時に持ち込んだ音源は、あえてほとんど手を加えずにCD化した。
・・・それが彼女の純粋さ、彼女が描いてたアイドル像の象徴だったからだ。
もちろんスタジオミュージシャンも呼んで、ちゃんとしたミキシングもして、
メジャー音楽市場に乗れるだけのクオリティにはしてある。
そして試聴音源をネットに公開したところ・・・いろんな意味で大ウケした)
(そしてCDデビューお披露目公演のチケットはバカ売れし、
アイドルCDとしては異例の予約数をAmazonは記録することになるのである。
さーて、もう今日はそんなライブの当日だ・・・もう起きなきゃ・・・)
川島『わかるわ』
P「わっ!?」
川島『あら、どうしたの?ライブの当日・・・もう起きなきゃ・・・ってところに、同意をしただけなのだけど』
P「ごめんなさい、ねぼけてまして・・・っていつの間にモーニングコールを?」
川島『私がかけたのよ・・・すぐに出てくれたと思ったのだけど。約束したの、覚えてない?』
P「あ、たぶんアラームと間違って・・・。というかごめんなさい。覚えてません」
川島『そう。当たり前よね。そんな約束してないもの』
P「・・・何かありました?」
川島『別に、私だって、少しは緊張するだけよ』
P「大丈夫ですか?何か不眠だったり、そういう健康面での――」
川島『大丈夫。コンディションはばっちりよ。睡眠もちゃんととったわ』
P「そうですか。じゃあちゃんと、夢を見られたってことですね」
川島『はい?』
P「夢を見て、夢を叶えたあなたは、ファンに夢を届けに行くんです。
今日夢を見られたことは、あなたにとってラッキーなことですよ」
川島『そう・・・。夢を見られるって、幸せなのね。いろんな意味で』
P「いいですか?もうこれは誰の夢でもありません。あなたの夢でもありません。
幻のようにすぐ消えてしまうものでもありません。これは現実です。
夢を見られたあなただけがつかんだ、幸せな夢の現実です。
老いも若きも関係なく、夢を求めている幸せな現実世界なんです。いいですか!」
「あなたこそ永遠のプリンセス!」
「・・・そんな意気込みで、今日はのぞんでくださいね」
川島『わかったわ。うふふっ。じゃああなたはどんなプリンスなんでしょう?』
P「しがない一般プリンスですよ・・・」
――――品川ステラボール、本番前楽屋
川島「アイドルミズキ、登場~♪ ぴーす☆
うん、このセリフなら若い子の心もグッと掴めると思うんだけど、どうかしら?
それとも、もう少しキャピキャピした感じをいれた方が…ううん、悩むわ…」
P「なにやってんですか・・・ちゃんと考えてます?」
川島「P君、私はいつだって全力よ。楽しいんだもの!」
P「そうですか・・・」
川島「だって、あなたが私を永遠のプリンセスって言ってくれたんでしょ?」
P「あれは、その、その場の勢いと言いますかね――」
川島「P君が私を信じてくれたから・・・本当に・・・
ねえ、P君。私はPくんが誇れるようなアイドルになりたいわ」
P「え?それってどういう・・・」
村上巴「ん?おぬしどこかで見た顔じゃのう?」
P「!?」
市原仁奈「差し入れのお菓子うめぇですよ・・・」
PaP「いや、ごめんなさい。
ウチの子ども組がお姉さんのライブがあるらしいからどうしても遊びに来たいと・・・
きっとオトナの雰囲気を味わいたかったんでしょう。
川島さんだってことは伝えてなかったんですけどね・・・」
P「ははは。でも、ウチの川島ではそんなことは難しいと思いますが――」
巴「思い出した!近頃売れっ子の川むぐっ」
川島「今の私は一人のオンナよ」
PaP「巴!なにやってんだ!」
巴「あれが・・・アイドルってもんか・・・」
川島「うふふ。楽屋を出たら、もっとそれがわかるわよ?」
P(気のせいだろうか。
川島さんというアイドルだけではなく、川島さん自体が変わっていっているような気がする・・・)
なにこの川島さん
かわいい
――ライブ本番
「ハーイ!みんなのアイドル、川島瑞樹のスペシャルライブに来てくれてありがとーっ☆
……コホン!みんな、元気ないねっ!?
せっかく私のライブに来てくれたんだから、全身で楽しんでいってね♪ねっ♪」
「みんな、応援よろしくーっ!」
「アイドルミズキ、行くわよ♪」キャッピピピーン
「ファンのみんなにありがとっ♪」
ワーワーワーワーワーワーワーミズキサンーワカルワーカワシマサンーkwsmーwkrwーワーワーワーワー
P(・・・なんにも変わらないじゃないか!)
――ライブ終わり
巴「やはりおぬしはすごいのう、川島の姐御!
あそこまで仁義を通したライブ、ウチもお見それとおしたわ。
川島の姐御!ウチを舎弟にしてはくれんかのう!」
川島「うふふ、お嬢さん。お名前はなんて言うの?」
巴「巴じゃ!村上巴!」
川島「じゃ、巴ちゃん・・・私がオトナのオンナの魅力をたっぷり教えてあげるから覚悟しなさい♪」
PaP「巴!もういい加減帰るぞ!」
巴「よろしくたのんだぞー!!!」ドタドタ
P「川島さん。もう可愛いアイドル路線はいいんですか?」
川島「うん。だって君が永遠のプリンセスだなんていうんだもの・・・もうちょっと、満足しちゃったかな」
P「!?」
川島「永遠のプリンセスなら・・・このライブで出した私のかわいさも永遠に残ると言うことだもの」
P「そうですか、つまりこれを限りにこういうパフォーマンスは封印――」
川島「そうね。P君のプロデュース方針に従っていきたいわ」
P「じゃあたとえば妖艶なボーカルとダンスを軸にして――」
川島「だって前、私だけのかわいさはセクシーさも含めた可愛さだっていってたでしょ?」
P「はい!?いや言いましたけど」
川島「私が卒業するのは私がずっとおもってた、私だけが抱いてたアイドル像。
・・・今日のライブみたいなね。
それでも、可愛いことを追求するのには変わらないのよ?」
P「はあ、そんなめちゃくちゃな・・・」
川島「いいのっ!細かいことはっ!私はいつだってオンナノコなんだから!」
P「で、僕の方針に従うとのことですが・・・どんなものがご所望で?」
川島「ライブもグラビアもお任せねっ!肌を見せてもまだまだいけるわ!
セクシーもオトナの魅力もかわいさも全部弾き出してね!
P君。こうなったら私、全力でやりきってみせるわ!」
P「そうですか、じゃあさらなるアイドルを目指して――」
川島「P君、私、ここで終わるつもりなんか全然ないわ。もっともっと上を目指したいのよ。
あなたといっしょに・・・ねっ!」
P「それは・・・プロデューサー冥利です」
川島「プロデューサーはP君の天職だと思うわ。そうでしょ?」
P(!!)
川島「これは私の素直な気持ち・・・
P君、何もかも、あなたのおかげよ。ふふっ
P君は、私の人生を変えたのよ。わかってる?
だから責任をとってもらわないと。なんてね?」
P「また年下をからかっちゃって・・・そんな・・・」
「それでもまあ、一つ言えるのは・・・」
「今日みたいなライブ、ずっと続けていきましょう」
――
P(オレは・・・彼女をプロデュース出来ていたのか!?
ずっと彼女のものすごい馬力に振り回されて、
オレなんかそれを追いかけるのが精一杯で、
してやれたことなんかなにもない。
ただ単に彼女の話題性に乗っかって売れただけの無能Pだと自分を思っていたのに・・・
彼女はオレの天職がプロデューサーであると確信しているのか!?)
P(かつて彼女は自分の天職がアイドルだと言っていた。
そしてそれを自分で確信していたんだ。
オレもいまではそれを確信している。
あの人は周りの嘲笑の声を黙らせて、見事に自分なりのアイドルを開花させた)
P(・・・けど彼女のプロデューサーが天職発言で思い返してみれば、
オレって彼女のために情報統制したり、
かわいい衣装もほいほい作ったり、パジャマパーティーにもぶち込んだり、
Angel Breezeもほとんど元のアレンジのままCD化させたり・・・
あれ、オレってもしかしてちゃんと彼女を導いていたのでは?
彼女にただついていくだけではなく・・・)
P(――さて、そんな彼女もライブでは相変わらず可愛い路線を発揮しているものの、
グラビアのお仕事、テレビのお仕事、ラジオのお仕事などではセクシー路線どころか、
落ち着いたおしとやかな淑女といった風情になっている。
・・・むろん彼女はほっておけば絶世の美女なのだから、これまた新しいファンを開拓している。
え、これがオレ主導のプロデュースの結果?オレの趣味?ないない。
数々の醜態を見てきたオレに、川島さんが恋愛対象になるわけないだろうが。
さて、今日はクリスマスイブだが、クソ寒い中鎌倉の海岸でお仕事だ。
まあお互いにメディア関係なのだから慣れっこだけれども、まあ、ちょっとした恩返しくらいは――)
――
今日はここまで
続きは明日書くと思います
今日の深夜かも知れません
まあほとんどクライマックスですけど
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川島瑞樹(28)
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村上巴(13)
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市原仁奈(9)
>>12
若林さんを知っているとは……流石ですっ☆
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パジャしまさん
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緒方智絵里(16)
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若林智香(17)
巴ちゃんを簡単に黙らせたあの劇場の話はよかったよなぁ
――――クリスマスイブ、鎌倉市内、電車
P(――ってオレが派手に遅刻してしまった!)
(売れっ子アイドルになった川島さんに公共交通機関を使わせるわけにもいかないので
彼女はマイカーで現場まで集合することになる。
一方これまで免許も取っていなかったオレは、情けないことに途中で拾っていただくか、
オレが公共交通機関を利用して現地まで向かい、そこで合流するという形をとっていた。
アナウンサー経験も長く朝番組も担当していた川島さんは、
その職業柄寝坊したり遅刻したりしてしまうことは全くないと言っても良い。
・・・だからほかの苦労しているPを見てると、やはりつくづく自分の運の良さを感じてしまう)
(もともと知名度の非常に高い彼女を担当させてもらった時点でそれはそうだし、
彼女は頭はおかしくとも聡明な女性なのだから、私生活の管理に手を焼かせることもない。
・・・やはりオレはホントに無力だ。
まあ、だからオレはそれが申し訳なくって情けなくって、
せめて彼女より早く現地に着くことを心がけていた。なのにこのザマだよ!)
(・・・まぁ今日の集合はクリスマスイブの朝10時だし、
鎌倉市内の閑散とした駅の人足はかなりまばらだろう。それは幸いなことだ。
見た目だけならただのオトナのキレイなお姉さんだ。
すこしばかり変装していればバレることはまずあり得まい)
(――オレがこういう時に遅刻してはいけない理由はもうひとつあって、
オレが少しでも合流のタイミングをミスってしまうと、彼女はすぐにファンに取り囲まれてしまう。
・・・キャピキャピした正統派かわいいアイドル志望の川島さんとしては、
すぐ嬉しくなって即席サイン会などをその場で自発的に始めてしまうんだが。
それは彼女の最近になっての評判の向上に、かなり役だってはいるのだけど、
いつもどこでもそんなことをしたら際限がなくなってしまう。
だからオレはそれを止めなければならない。彼女にだってオレが守らなくてはいけないことはある。
みんなも川島さんも不服そうな顔をするが、だからこそやらせるわけにはいかないんだ)
(・・・キャピキャピしたアイドル。もちろん彼女はそれを続けているところだが、
最近の奥ゆかしい古風な女性像はなんだろう。――それで今日の仕事も取れたんだけどね。
けどやはり世間が求めるのも彼女自身が求めるのも、パワフルでかわいさに向かって突き進む彼女なのだ。
・・・なのに、どうして?
まあいい、そろそろ目的の駅に着く。そんな疑問は後回し――)
――――クリスマスイブ、鎌倉市内の駅、午前10時半
P(お、あのコンサバ系の白のコートとボトムズにエンジニアブーツ。
そしてカーキ色の手袋を息で暖めながらサングラスをしている女性。
あれがきっと川島さんだな・・・なんだか服装までおしとやかな大人の女性をしている。
ま、サングラスがなじむのはさすがマダムの街鎌倉といったところか・・・)
「遅れて申し訳ありませんでした!川島さん、大丈夫ですか?
不審な方に声をかけられたりとかはありませんでしたか?」
川島「大丈夫よ、収録は十二時からだし、まだたっぷりと時間はあるわ。
それにこういう格好だから、誰にも気付かれなかったしね」
P「・・・大切な担当アイドルを一人ぼっちにさせるわけにはいかないんですよ。
プロデューサーとして僕はあなたを守らなくてはいけない。待たせてはいけないんです。
申し訳ありませ――」
川島「ふふっ。それでもちゃんと待ってあげるのよ。
オトナだから・・・ね?」
「・・・私がアイドルだって言うのも関係ない。
P君がプロデューサーだって言うのも関係ない。
ここにいるのは二人の大人の男女。違う?」
P「それでも・・・僕個人としても、あなたを待たせるのはとても申し訳なくて――」
川島「ねぇ・・・待ってる間、P君のことを考えてたの。
・・・私の大事な"プロデューサー"のことをね。
待つ時間も楽しいものよ。うふふ♪」
ズキューーーーーーーーンッッッッ!!!!!
P( カ ワ イ イ ッ !)
(スベイン戦のオリセー並みの強烈な弾丸シュートだっ!
そこでオレが「プロデューサー」であることを引き合いに出すのは反則だろ!クソッ
・・・あれ?)
P(・・・)
P「・・・川島さん、そういう一面を出していくのは、これから禁止です。
これはプロデューサー命令です。
――僕以外の前で、そういうしとやかな面をだすのはやめてください」
川島「どうして?あなたが言ったのよ。
『大人しくしていても、内面からにじみ出るかわいさというものは存在する』って。
・・・これ、P君が私にくれた、初めてのアドバイスだったじゃない。
『私だけのかわいさ』とかじゃないの。
シンプルな、一般的な、そんな普通の『かわいさ』に関するアドバイスを。
つまりそれは、あなたがふだん考えている『かわいさ』のことなんじゃないの?」
P(!?)
「・・・それでもです。僕はやっぱり川島さんが考えるカワイイイメージを大事にしたい。
それだけです。あなたの対外的な印象まで変わってしまう――」
川島「いいじゃない。新しいファン層を開拓出来たなんて喜んでたじゃない。
それにライブだと私はいつもの私よ?・・・何もイメージを損なうことなんてないじゃない」
P「いいんです!僕はとにかく、そんなあなたのことを周りの人に見せたくなんかない!
そんな面をひとに見せたら・・・瑞樹さんが・・・とても危なくなってしまうんです!」
川島「P君。もう・・・それはプロデューサーとしての発言?」
P「・・・ええ。もちろん」
川島「そしてあなたは私のおしとやかな面を見たっていい、ってことになるわよね?」
P「ああ、そうですね」
川島「・・・あれ?P君。昔あなたが――
『僕は、アイドルとしても、そうじゃないとしても、元気のない川島さんなんか見たくないんです』
なんて言ったの、覚えてない?
私、とっても嬉しかったのに」
P「そ、それは――」
川島「完全に矛盾してるわよね?元アナの頭脳を舐めない方が良いわよ?
――でもいいの。どうしてあなたがそんな矛盾したものを両方とも私に求めるのか、私はもう知ってるの。
・・・オトナだからね」
P「・・・そのオトナだから、っていうのが危うい、と言っているんです」
川島「あら?あなたの前でそういう発言をするのはよかったんじゃなくって?
うふふっ。わかったわよ。プロデューサーくん。
私もあなたにはずいぶんめちゃくちゃな要求をして、それをちゃんと叶えてくれたもの。
さあ、私はバイタリティーに溢れたカワイイのプロとして、P君をどんどん振り回していくわよ?
覚悟なさいね?」
川島「今日のお仕事は、どんな内容なのかしら?」
P「頼朝ゆかりの寺をめぐって、和菓子屋などにも入りながら、最終的には由比ヶ浜まで・・・
ってところですかね」
川島「・・・それってやっぱり、私のしとやかな面を期待して入ってきた仕事なのよね?」
P「・・・そうですね。仕方ありません。そういう仕事の時には許可します。
やむなくですよ」
川島「あははっ、まためちゃくちゃなこと言って。
――でもぜんぜん矛盾はしてないわ。仕事じゃない時にそういう面を見せなければいいってことでしょう?」
P「?よくわかりませんが・・・たぶんそういうことじゃないですかね」
川島「じゃ!向かいましょう!仕事の時でもプライベートな時でも、アイドルミズキはカワイさ全開よ♪」
P「しかしそういえばずいぶん、巴ちゃんたちをはじめとした子どもたちにはなつかれていますね」
川島「あはは、確かに子どもたちが集まってくるわね?
やはりあの子たちもいっぱしの女子、
私の生まれ持った女子力を本能でかぎつけてくるのね、わかるわ。
それはあたかもなにも知らない蟻たちがフェロモンに寄せ付けられるかのように――」
P「最初からフェロモンでよかったんじゃないですかね。
でも同僚のみんなからも、あなたの世話好きは評判ですよ?」
川島「そうかしら。
確かに巴ちゃんの愛され系演歌計画の一環として、
いろいろ仕草を可愛くしてみようとも思ったのだけど、
やはり演歌はそういう作法にうるさいらしくて・・・
だからせめてもと右肩のシールの刺青を、
ファンシーな桜吹雪に変えようと思ったのだけど」
P「無理でしょうね。
というかなんですかファンシーな桜吹雪って。
いやなんとなく想像が付いてしまうんですけど」
川島「あら、私に触れている内にだんだんかわいさというものを理解してきたみたいね、
あなたも愛され系の女子力を蓄えてみたら?まずはビスコを食べるとこから」
P「絶対にイヤです。
というかビスコは明らかに愛され系スウィーツじゃないでしょうに」
川島「あはは」
P(とまあ川島さんは快活に振る舞っているけど、
オレは突然二人きりなのを中学生男子のように意識してしまってるよ!)
P「さ、そろそろ着きますよ。
って、あ、雪・・・」
川島「雪・・・綺麗ね・・・」
P「ホワイトクリスマス・・・ですけど。
まあ由比ヶ浜に行くまでにはあがっているといいですね」
川島「はあ、ロマンチックのかけらもない男ね。
まあいいわ。冷えは女性の大敵なんだから。
はぁっ・・・暖めてほしいわね」
P「ぐおっ!?
や、やめてくださいよー。
もう本当に、いつも冗談ばっかりで――」
川島「この雪空の下で・・・きっといろんな人が思い思いのクリスマスを過ごしているんでしょうね。
毎年、仕事だからクリスマスなんてって思っていたけど・・・
今年は少し違ったクリスマスが過ごせそう・・・ねっ?」
P「・・・僕ら芸能関係の宿命ですからね。クリスマスだろうと仕事。
そう簡単に開き直れるものではないかも知れませんが、
・・・鎌倉で過ごす和風なクリスマスもまた格別と?」
川島「違うの。今年はPくんと一緒に過ごせるから・・・悪くないわ」
P「・・・。
僕のことをそうやってからかう前に、あなたは一人のアイドルなんですから。
とっととその使命を果たしてきて下さい」
川島「そうね。こんな日のお仕事でもそれは、ファンのみんなのハッピーなクリスマスのため!
そろそろ私の出番かしら。
じゃあアイドルミズキ、いってくるわっ!」
P「では」
P(オレが変な方向にたきつけてしまったけど・・・
この仕事いったいどうなるのだろうか?)
川島「ここは通称『竜巻寺』とも呼ばれ、たびたびその被害に遭ってきましたが、
その美しい姿は900年たった今でも健在です。
1181年に頼朝の祈願所として建立され、開山の文覚は奥州藤原ゆかりの――」
P(さすがの滑舌。さすがの美声。さすがの台本記憶能力だが)
川島「そこで瑞樹さん。まずはお堂の内部に案内していただきました」
P(セルフナレーションをつけるというのはどうなんだ?)
川島「とても荘厳な雰囲気ですね・・・
私も頼朝ゆかりの女子力にあやかってみたいと――」
P(ねえよ!源頼朝にゆるふわガーリー愛されスタイルは!)
川島「あら、そしたら義経のそれにもあずかれるかも知れませんね」
P(頼朝よりはありそうだけど!タッキーならばありそうだけど!
でもやっぱりその兄弟に女子力はねえよ!)
川島「あ、なんだったら弁慶も・・・」
P(武蔵坊弁慶には一番ねえよ!)
――
川島「これが頼朝が愛した枯山水・・・
つまり愛され系枯山水ということですね。
かわいい・・・」
P(カワイイから枯山水を愛した訳じゃ無いと思うよ!)
川島「中庭に並ぶは冬枯れの木です。
一生懸命にとまっている蓑虫たちがかわいいですね!」
P(そんな詫びさびたものにかわいさを感じるのは
千利休とあなたとムツゴロウくらいのものだよ!)
――
川島「こちらの甘味処の名物と言ったらやはりこの白玉ぜんざい。
かわいくていかにも愛されモテスイーツといった感じが」
P(しねーよ)
川島「モグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグ」
P(おちょぼ口で少しずつブリっ子しながら食べるな!
白玉ぜんざいを!)
――
川島「伝説によると由比ヶ浜には、義経の妻静御前が産み落としたとされる息子が、
ここで殺されて眠っているとも伝えられています。
鎌倉の街は優雅なだけではないのです――」
P(さすがかわいいのプロ・・・。
一切衆生悉有カワイイが如き姿勢でスタッフを面食らわせながら進んだ撮影だったが、
結局撮影はとくにつつがなく進んでいった。
結局、川島さんのそのキャラは浸透しきっているのだし、
なによりも、冬の鎌倉を艶やかにゆく淑女としての川島さんは絵になるのだ・・・)
スタッフ1「はい、オッケーでーす!川島さん、お疲れ様でしたー!」
スタッフ2「せっかくのクリスマスに早上がりですし、
Pさんも川島さんも何か飲んで行かれませんか?」
P「いえ、すいません。
僕らはしばらくここにのこっていようと思います」
川島「え・・・?」
P「さ、皆さん僕らを置いて帰っていきますね・・・」
川島「ねぇ、こうして砂浜なんか歩いてると・・・
昔のトレンディドラマとか、思い出しちゃうわよね・・・。
気持ちに気付かないオトコと、空回りしちゃうオンナのお話」
P「なんの話ですか」
川島「・・・さぁ?何のことかしらね・・・うふふっ」
P「どうせ僕とあなたのことでしょう・・・?
スタッフさんが居なくなった瞬間にからかい始めるのは辞めてください。
もし見られていたら勘違いされかねませんよ?」
川島「さあ、どうかしらね?」
P「さて、皆さん撤収されたところで川島さん・・・
僕からプレゼントがあります」
川島「なに?」
P「ある方々からの手紙です。
・・・僕が代読する形になりますが」
A『ハッピークリスマスかわしま先輩!
あのときは女子アナ界で蹴落としていかなければいけないライバルだと思っていましたし、
転身の話を聞いた時も何を考えているんだかと、正直思っていたのです。
でも、かわしま先輩が全国ネットで活躍する姿を見て私は思ったんです。
かわしま先輩は私の誇りです。私の自慢の先輩です。かわしま先輩を・・・すべて尊敬しています』
川島「・・・そう。最初からこの子には歳は関係なかったってことね。
ホントに自分に正直な子だこと・・・」
B『ハッピークリスマス。
君の若さに嫉妬してしまって、本当にごめんなさい。
瑞樹ちゃんは、いつまでたっても私の可愛い後輩よ?』
川島「・・・ありがとうございます」
室長『ハッピークリスマスだね瑞樹クン!
君はどんなときにもどんなとこでも、やはり我がアナウンス室のアイドルだよ!』
川島「・・・ちょっと引っかかりますけど、ありがとうございます」
P「――ということで、どうでしたか?
プレゼント、お金もないのでこういう形にしかならなかったんですが」
川島「うん。ありがとう。でもP君もまだまだ若すぎるわね?」
P「!?」
川島「私、自分がアナウンサーだったってことしか教えていなかったはずよ?
あなたも別に詮索もしなかったじゃない。
それとも何かトラブルがあったと思って?」
P「!?い、いや、そうですけど・・・。
そう、彼女らの助言がなにかアイドルになったのと関係があったのかと――」
川島「お気遣い嬉しゅうございますけど、私があの番組で騒動を起こしたあと、
どんなことを言われていたか。ネットやニュース、ワイドショーでどんな扱いを受けていたか。
私がいかに世間の道化として弄ばれていたかなんて、そんなこと十分承知のことよ?」
P「!?」
川島「当たり前じゃない。気違い気違い言われた女だけど。これでもそれなりの大学を出た身よ。
あのあと自分がどんなことを言われるかは予想していたし、
その覚悟もしていた。大人の女として当然のことでしょう?
だからいろんな批判を甘んじて受けていたし、そのチェックもしていた。
それをP君ったら、前なんか『アナウンサー時代に大騒ぎなんかなかったでしょう?』なんてとぼけちゃって・・・」
P「・・・すみません。知っていました。あなたが、僕の担当になるその前から」
川島「・・・でも、嬉しかったわ。
アイドルになってあなたのプロデューサーとしての最初の指示が、
「インターネットも週刊誌もテレビも見るな」だったでしょ?
それをもっともらしい理由をつけて。
でもね、そのお陰で私は『この人が私を守ってくれるんだ』という気持ちになって、
ちょっと迷いかけていた自分のアイドル道を突き進むことができたの。
正直、批判にはすこし傷ついていたからね・・・」
P「そうでしたか・・・」
川島「ねえ、ちょっと隣に座ってもいい?
さっきの手紙と今の話と寒さとで、ちょっとさびしくなっちゃった」
P「どうぞ、お隣に」
川島「優しいのね。
・・・もう私の元気な顔はお仕事で十分見たってことかしら?」
P「どういう、ことでしょう?」
川島「おしとやかな私の姿、ふたりっきりだから見せてあげる」
P「・・・こんな真っ暗じゃ、見たいものも見えませんよ」
川島「そう。・・・冬は空が澄んでいるわね。晴れてよかった。満天の星空よ」
P「そうですね・・・とてもキレイだ。こんなクリスマスもありかもしれませんね」
川島「うん。これだけ近くにいると・・・星の輝きがすごい・・・キラキラしてるわね・・・眼も輝いてるみたい」
P「・・・僕の瞳が星の光で輝いてる、ということですか?」
川島「そうだと言ったら?」
P「・・・あなたの瞳で輝きながら動くその光は、きっと羽田へ向かう飛行機でしょう」
川島「ふふっ。・・・ちょっと波打ち際まで向かうわね」
P「寒いのに、そんな!」
川島「うふふ。砂に書いた手書き文字。一度やってみたかったのよ」
P「でも――」
川島「いいじゃない。こんな暗くては、見たいものも見えないんでしょ?
何を書いたってわからないでしょ・・・」
P(確かに砂に書いてある文字は見えない。夜の影に隠されて全く見えない。
けれど・・・星影が照らす川島さんの真白い指のシルエットが、どう動いているかは見えている。
・・・そして、どんな文字を書いているかも。はは、センスが古いですよ瑞樹さん)
川島「・・・何度消えたって文字を書くわ。大人になると、待つのも楽しいの」
P(!!)
P(もうからかわれてるだけだっていい!勘違いだっていい!大人の遊びだっていい!
・・・オレはもうこの人に惚れている。きっともう、ずっと前から惚れていたんだ!)
P「・・・好きです。瑞樹さん。かわいい人。あなたが好きです」
「・・・これも、一回ではあなたの心から消えてしまいますか?」
川島「ありがとう。P君。私も愛してる。愛してるって何度でも言うわ。
愛してる。すごく優しい私のあなた。とても愛してるわ。何度でも言う。」
P「じゃあ僕も大好――」
川島「やめて。あなたの言葉は一回だけで良いの」
P「どうして――」
川島「だって昔、いってくれたじゃない。私は[永遠のプリンセス]だって。
・・・そのたった一回の言葉も、私の心には永遠に残っているのよ」
「――私だけの、どこにでもいる、しがない一般プリンスさん」
SSおしまい
SS四回目書きます
こわかったです
川島さんが料理も出来るのがアイプロでわかってよかったです
乙
トライアド書いてた人か
おつかれさま!
おっつおっつ
なかなかきれいだった
おつ
アンソロで川島さんキャラがまた変わりそうなのでまた研究して書き直しますきっと
全体的に雑ですしね
いまは他の創作活動が忙しいのでいろんな意味で次回はいつかです
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