私の嫌いな大悪魔 [ガヴドロ] (10)
ノリと勢いで書いた。後悔はしない。
いつからだろうか私があいつを嫌いになったのは。
耳を刺すようになき喚く蝉と静かに私を包み込むような波の音を聞くと、私は海に来たことが実感できた。なぜか懐かしく感じるその音に少しの違和感がしたが、冷房の効いた電車を降りるとすぐにでも汗が噴き出すような暑さのせいで、その違和感もどこかに消えてしまう。
ヴィーネ 「ふぅ、なんだかんだ雨が降らなくて良かったわね。」
ラフィエル 「そうですね。これも日頃の行いがいいせいでしょうか。」ウフフ
昨日の天気予報では降水確率60%じゃなかったっけと思いながらラフィの方を見ると向こうも気づいたように不敵な笑みを向けられた。
なるほど。なんだかんだラフィには敵わないな。
サターニャ 「ンナーッハッハッハッ!!この大悪魔サターニャ様のおかげね!」
ラフィエル 「さすがです!サターニャさん!」
ガヴリール 「いや、それだけはない。」
サターニャ 「ナッ!?…フッフッフ、笑っていられるのも今のうちよガヴリール!今日はお前を倒すためにとんでもない悪魔的行為を」
ガヴリール 「はいはい、わかったから着替えに行くぞ。」
サターニャ 「ちょっ、ちょっと待ちなさいよ!」
ラフィエル 「ウフフ」
ヴィーネ 「ほら、ラフィもいくわよ!」
こんな馬鹿げた掛け合いも慣れたものだ。表面上はダルそうにしてる、というよりもダルいのは確かだ。でも、きっと、ラフィやヴィーネは私がなんだかんだ海に行くのを楽しみにしていたことに気づいているだろう。そして、きっと私があいつに対して抱いているおかしな感情も見破られているだろう。
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サターニャ 「さあ、行くわよヴィネット!人間どもに悪魔の力を見せつける時よ!」
ヴィーネ 「ちょっとサターニャ!ちゃんと準備運動してから海に入るのよ!」
サターニャ 「ナーッハッハッハッ!私には準備運動なん、、て、、」
ヴィーネ 「準備運動」ニコッ
サターニャ 「わ、わかったわ。この大悪魔の力を最大限に発揮するため、馴れ合いに興じましょう。」フフン
ラフィエル 「さすがです!サターニャさん!」
全くうるさい連中だ。よし、私は、っと パラソルブスー
よし、今日はここで過ごそう。
サターニャ 「ちょっと!何のんきに寝ようとしてるのよガヴリール!」
ヴィーネ 「そうよ、ガヴ!せっかく来たんだから泳ぎましょうよ!」
ガヴリール 「えー、だって私泳げないしー」
サターニャ 「分かったわ、なら私たちが海の楽しみ方を教えてあげるわ!」
サターニャが何か提案するときはろくな事が起こらない。しかし、どこかでそれを楽しみにしている自分がいる。この矛盾した思いを払拭するために私はサターニャを上手くあしらっているのかもしれない。
きっと、サターニャは、私の事をただのライバル、そして、ただの友達としか思っていないのだろう。
そんなのは当たり前の事だ。でも、きっとそんな当たり前があいつを嫌いになった理由なのかもしれない。
サターニャ 「さぁ、行くのよヴィネット!まずはあなたの番よ!」
ヴィーネ 「よ、よし分かったわ!ガヴが泳げないって言ったから、砂浜でできる事をするわ!それは…お城作りよ!!」ペタペタペタ
ラフィエル 「ヴィーネさん…」
ガヴリール 「ヴィーネ、それ地味。」
ヴィーネ 「ガーン、どうせ私なんて。」チマチマチマ
サターニャ 「フッフッフッ やはりヴィネットには少々荷が重すぎたかしら。
ここは、この大悪魔サタニキアに任せなさい!ガヴリール覚悟なさい。」
ガヴリール 「お、おい、何する気だ。」
サターニャ 「こんなもの海に入っちゃえば面白くなるのよ!」ガヴリールダキカカエッ
ガヴリール 「ちょっ、まて、お前」ジタバタ
このとき私は何を考えていたのか。自分でも笑っちゃうくらいだが、こんな事を考えていた。サターニャの肌ってこんなにすべすべで気持ちいいのか。
サターニャ 「ソオレェェェ」
フワッ
あ、投げられた。そう思うのと同時に私はまた変な事を考えてしまった。しかしその考えをかき消すように水しぶきが四方にはね、私の身体、そして意識は、まるで四方が塞がれた黒い箱の中に押し込められたかのように自由を奪われた。
何秒?何分?もうだめだ。そんな途切れ行く意識の中感覚が遮断された黒い箱の外から3人の声が届いた気がした。その刹那、黒い箱の中に私が投げられる前のあの心地よい肌の感覚が戻ってきた。
全くお前が投げてお前が回収するなら世話ないなと、どこか冷静に考えながら私は考える事を放棄した。
=====
…ガヴッ!ガヴちゃん!ガヴリール!
うるさいなあもう少し寝かさせてくれよ…ってあれ…私…、ウッ、眩しい、あれ、これどこかで…あぁ校長がよくこんな感じで光ってたっけ。
ガヴリール 「あれ?私…」
ヴィーネ 「ガヴ!気がついた?良かった! 」ギュッ
ラフィエル 「ガヴちゃん!良かったです!どこか身体におかしなところとか気持ち悪いとかないですか?」
ガヴリール 「あ、あぁ、大丈夫だけど私は?」
ラフィエル 「サターニャさんに突然海に投げ込まれたんです。浅瀬だったはずなんですが、ちょうどそこだけ溝があってガヴちゃんの足が届かなくて、溺れちゃったんですよ。」
ああ、そうだった。サターニャに投げられたんだった。
ガヴリール 「私、どのくらい気を失ってた?」
ヴィーネ 「ほんの4~5分よ。でもよかった。すぐ目を覚ましてくれて。」
サターニャ 「ガヴリール、その…」
サターニャは泣きそうな顔をしていた。きっと反省をしているのだろう。いつもなら、サターニャのいたずらの後はあいつが嫌いだと思うだけだった。他にどんな感情も浮かばなかった。しかし、なぜか今回は違った。サターニャの今にも崩れ落ちそうな顔が、身体が、とてつもなく私をイライラさせた。私を怒らせた。
ガヴリール 「私、今日はもう帰る。後は3人で楽しんで。」
ヴィーネ 「ちょっ、ちょっとガヴ!」
ラフィエル 「ガヴちゃん待ってください!」
サターニャ 「…」
そんな2人の制止の声も耳には届いていたが、まるで自分の心には届かなかった。とにかく今は、その場を離れたかった。
神速通を使う気力も場所もなく、私は1人、電車に揺られていた。
とにかく家に帰って横になりたい。帰路はただそんなことしか考える余裕はなかった。
=====
家に着いた時、蝉はうるさいが、傾きかけた陽を見て、少しもの寂しさを感じた。
ガヴリール 「まっ、当たり前か…すぐ帰ってきちゃったもんな。」
横になりながら1人、そう呟いた。
携帯を見ると通知が何件か来ていた。
その中の一件、ラフィからだ。
ラフィエル
『ガヴちゃん体は大丈夫ですか?
ガヴちゃんが怒るのも無理はないと思います。でも、サターニャさんも悪気があってしたことではないんです。きっとガヴちゃんと一緒に海を楽しみたかっただけなんです。
おかしな事を言っているのはわかります。本来ならサターニャさんから謝罪をするべきです。でも、ガヴちゃんからサターニャさんに何かフォローをお願いできませんか?なんで私はガヴちゃんにサターニャさんを頼んでるのでしょうかね。それはきっと私は昔のガヴちゃんを知っているから、なぜかあなたにこんな事を言ってしまうのかもしれません。サターニャさんに甘いと言うのもガヴちゃんの気持ちを考えていないのも分かります。でも、夏休みはまだ始まったばかりで私は皆さんと色々思い出を作りたいと思っています。このメールはヴィーネさんと一緒に打ちました。ヴィーネさんも同じ気持ちです。
ガヴちゃんが帰ってしまった後、私たちが呆然としている中、サターニャさんも、「ごめん私も帰る。」 と言って帰ってしまいました。
とても辛そうな顔をしていました。なにも声をかけられませんでした。
長文でごめんなさい。今日はしっかり休んで、なにかあったらまたすぐに連絡を下さい。』
そんなことは分かっている。サターニャの悪ふざけを一番受けて来たのは私だ。サターニャが本気で私を怒らせたり、危ない目に合わせようとしてないことくらい私が一番分かっている。なのに、どうして私はあんなに怒ってしまったのだろう。
冷静になると色々な考えが頭を駆け巡る。
私はそんな思考に蓋をするように瞼を閉じた。
=====
…ピ…ン、ピンポーン
…ンンッ誰か来たか。エアコンをつけっぱなしにしていたせいか室内は冷えている。夢見心地で時間を確認する。時刻はもうすぐ21時になるところだった。
居留守を使おうかと思ったが電気を付けっ放しで寝たからいるのは分かっているだろう。気だるい身体を奮い立たせ玄関に向かう。
ガヴリール 「はいはい、誰ですか。」
覗き穴から覗くとそこには私の嫌いな大悪魔がいた。
ドアを開けずに声を出す
ガヴリール 「…なにしに来たんだよ。」
サターニャ 「…」
ガヴリール 「なんか答えろよ」
サターニャ 「…その、謝りたくて。」
いつになくしおらしいサターニャを見て、少し気が動転するも、分かったといい部屋にあげた。サターニャは中に入って来た瞬間に頭を下げながら言葉を並べた。
サターニャ 「その、今日は本当にごめんなさい!まさか、あんなことになるなんて…。私、ただ悪ふざけでガヴリールを危険な目に合わせてしまったわ。謝って済むものではないかもしれないけど、とにかくこれだけは伝えたくて。」
なぜだろう。サターニャの泣き崩れそうな顔を見ていると腹がたつ。
ガヴリール 「お前今日泊まっていけよ。私をあんな目に合わせたんだから、家事とか色々手伝ってくれよ。」
なぜだろう。気がつくと自然に口から言葉が出ていた。
サターニャ 「わ、分かった。それでガヴリールが許してくれるなら、頑張るわ。」ニコッ
ガヴリール 「ッッ!」
なぜだろう。サターニャの表情一つ一つが、私をイライラさせる。
=====
サターニャ 「ガヴリール、食欲はあるの?」
ガヴリール 「んー、あんまない。」
サターニャ 「そう。分かったわ。じゃあタマゴ粥でも作るわ。」
ガヴリール 「お前に作れるのか?」
サターニャ 「ばっ、馬鹿にしないでちょうだい!その程度この大悪魔サタニキア様にかかれば朝飯前よ!」
ガヴリール 「そ、そうか。まあ、助かるよ。それと七味唐辛子は入れなくていいからな。」
サターニャ 「えー勿体無い。あれがあると何倍も美味しくなるのに…」
それはお前だけだ。と心の中で突っ込みをいれつつも、いつもと変わらない会話に少しホッとする自分がいる。私は少しボーっとする頭でサターニャが作り終えるのを待った。
=====
ガヴリール 「うん、お前にしてはなかなか美味いものを作ったな。」
サターニャ 「と、当然でしょ!その、私のせいで体調を悪くさせちゃったんだから。」
確かにそうだな。だったら別にお礼を言う必要はないか、というとサターニャは少しむっとした顔をしたが、その後にまあしょうがないかという顔をして、食べ終わったお皿を下げてくれた。
ガヴリール 「ふう、なんだかお腹が膨れたらまた眠くなって来たな。風呂入ったりしてなんだかんだもう日を跨ぎそうだし寝るか?」
サターニャ 「あんたが寝るなら私も寝るわ。あんたが起きているなら私も付き合うわよ。」
ガヴリール 「そうか。じゃあ寝ようぜ、なんか私疲れたから。」
サターニャ 「そう。…で、私はどこでねればいいのかしら。」グチャァ
ガヴリール 「えーっと…」
サターニャ 「ちょっと、あんたが泊まっていけって言ったのよ!」
ガヴリール 「わ、分かってるよ。よし、一緒に寝るぞ!」
サターニャ 「な、なに言ってるのよ!私は大悪魔サタn」
ガヴリール 「まさかお前今日のこと忘れたわけじゃないだろうな。」 ジトッ
サターニャ 「っう わ、分かったわよ。じゃあ、その…一緒に寝ましょ。」
=====
ガヴサタ ボー
二人で布団に入ってから何分経っただろう。さっきまでさんざん寝たからかな。眠くなったって言ったのに全然寝れないな。…それにしても、人と布団に入るってこんなにも温かいものなのか。それともサターニャだからか?
頭の中で考えることが多すぎて、整理できないでいると隣からかすかに声が聞こえてきた。
サターニャ 「ガヴリール、起きてる?」
ガヴリール「…」
サターニャ 「今日は本当にごめんなさい。ただ、せっかく一緒に来たから一緒に海で遊びたかったの。」
サターニャの声がする、匂いがする、温もりがする。私は静かにサターニャのほうを向いてサターニャに声をかけた。
ガヴリール 「サターニャ、こっち向いて。」
なぜこんな行動をとったのだろう。いや、自分でもわかっている。きっと前から抱いていた感情に決着をつけることができそうだったから。
サターニャ 「なに?」 ゴロッ
チュッ
サターニャ 「な、な、な、なにすんのよ!?」
ガヴリール 「なにって、お前がこっち向いて来たから唇が当たっちゃったんだろ。」
サターニャ 「そ、それはあんたがこっち向いてって言うから…」
私は少し恥ずかしくなりまた上を向き直した。
ガヴリール 「サターニャ、実は私、前からお前のことが大嫌いだったんだ。」
サターニャ 「え?」
ガヴリール 「自信満々に1人で突っ込んで、失敗して、泣きべそかくところ。勝負、勝負と私に突っかかってくるところ。本当は寂しがり屋のくせにいつも強がっているところ。無駄にテンションが高いところ。私にすぐ騙されるところ。本当は人一倍他人思いなところ。頼まれたら断れないところ。なんだかんだ私の我儘を聞いてくれるところ。今、私の隣にいてくれるところ。自分で海に私を投げ込んだくせに私が溺れてたら真っ先に私を助けに来てくれたこと。」
サターニャ 「…」
ガヴリール 「前から思ってた。サターニャと話してる時、サターニャがそばにいる時、サターニャが笑っている時。
きっと、今日じゃない。もっと前から気づいてたんだ。サターニャが特別だってことに。サターニャに対する大嫌いが本当は大嫌いじゃないってことに。」
ガヴリール 「だから、今日、サターニャに溺れさせられたくせにサターニャが真っ先に助けてくれたことすごい嬉しかった。サターニャが家に来てくれたことすごい嬉しかった。」
ガヴリール 「大嫌いなのにサターニャのことが大好きなのかもって。」
ガヴリール 「だから、もうちょっと一緒にいたら分かるのかなって。きっとそうしたら、サターニャのことが大嫌いか大好きか分かるのかなって。」
なぜだろう。言葉が止まらない。言葉が詰まると、胸の奥の感情も詰まってしまうような気がしたから。口に出さないと私の中にどんどん溜まっていって、どうしようもなくなりそうだったから。
ガヴリール 「だから、」
サターニャ 「ガヴリール」
私の言葉を遮るようにサターニャが口を開いた。不意な言葉に少しびくついてしまう。
サターニャ 「こっち向きなさい。」
チュッ
ガヴリール 「え?」
サターニャの手でむりやり向かされるとそこにはサターニャの顔があった。優しい笑顔でこちらをまっすぐ見つめてくれていた。
サターニャ 「えっと、これはさっきの、えーと、その、お返しよ!うん、お返し!あんたに私が遅れを取るなんてありえないからね!」
サターニャ「私、私だってあんたの事が大嫌いよ。いつも、適当にあしらわれるし、いじられるし、嘘つかれるし…。でも、私だって、あんたの事が特別じゃなきゃあんなに突っかからない!大嫌いだけじゃあんたにあんなに絡まない!だから、だから、きっと私のガヴリールに対する大嫌いも本当の大嫌いじゃないわっ!」
ああ、やっぱりそうだったんだ。だから私はサターニャに対して怒てったのか。私はサターニャの事を特別に思っていたのに、サターニャは私のことが特別じゃないんだって。そう、思ってたんだ。いや、勘違いしてたんだ。きっと、何十回、何百回と同じ日常を繰り返すたびに蓄積された思いが、特別なものだって分かっていたから、サターニャにも私を特別視してほしかったんだ。だって、私に蓄積されたサターニャとの日常は、サターニャにもガヴリールとの日常として蓄積されているはずだから。
=====
ガヴリール 「フフフッ。なに恥ずかしいこと言ってんだか。」
今は変わらない日常を
サターニャ 「ちょっ、あ、あんたが先にいったんでしょ!あーーもう!」
ガヴリール 「あれ?サターニャ照れてる?」
今は変わらない思いを
サターニャ 「て、照れてないわ!も、もう許さないわ!ガヴリールゥーー」コショコショー
ガヴリール 「ちょっ、アハハなにすんだサターニャ!ヒアッ」
今までの特別を
サターニャ 「フッフッフッ、これこそが真の悪魔的行為よ!くらいなさいガヴリール!」
ガヴリール 「やぁめぇろぉーーー!!!」
まだ、夏休みは始まったばかりだ。ネトゲのイベントも始まるし、大変になるかな。でも、きっとネトゲよりも楽しいことがたくさんできると思う。ヴィーネやラフィ、そして、隣で寝息を立てているサターニャと一緒なら。
サターニャ 「ウウン、ガヴリール!ムニャムニャ」ドカッ
ガヴリール 「イテッ」
やっぱり私は、サターニャの事が嫌いだ。
ガヴリール 「これからもよろしくな」ニコッ
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