男「太陽が落ちてきたらどうしよう……」 (27)
男「なあ、太陽が落ちてきたらどうしようか」
友人「は? 何言ってんだ、お前」
男「昨日、寝床でふと思ったんだ。もし太陽が落ちてきたらどうなると思う?」
友人「落ちてくるわけないだろ」
男「でも落ちてくるかもしれない」
友人「そんなことよりお前、仕事はどうしたんだよ」
男「そんな場合じゃないだろ、辞めてきたよ」
友人「えっ」
天津飯「太陽拳!」
男「どうしたんだ、昼から酒をおごってくれるなんて、お前も肉屋の仕事が」
友人「いいからちょっと座れ!」
友人「よく聞けよ。太陽は、落ちて、こない」
男「何か証拠があるのか?」
友人「落ちてくるという証拠もないだろ!」
男「じゃあ落ちてくるのかも…」
友人「何千年も落ちてきてないだろ! 今日いきなり落ちてくるわけがない!」
男「いつか落ちてくる日があるとしたら、今までずっと落ちてきてないわけで」
男「つまり落ちる確率は日に日に高まっているんじゃないか?」
友人「ちょっと待て頭こんがらがってきた」
友人「まあいい、落ちてくるとしても、あんなもんが落ちてきたら世界が滅ぶレベルだろ、人間にどうこうできる話じゃない」
男「諦めるのはまだ早い、できることを考えないと」
友人「妙にポジティブなこと言うなああああああああ!!」
友人「おい、元気にしてるか」
男「やあ久しぶり」
友人「みんな心配してるぞ、いつもの飲み屋にも顔を見せなくなって」
男「節約しなきゃいけないからな。土地を処分したばかりとはいえ、金がかかるんだ」
友人「土地? 確か親父さんから受け継いだ山があるとか…」
男「売ったんだよ。それでこれを買った」
友人「買ったって…岩しかないけど」
男「この岩で家を作るんだ、それなら太陽が落ちてきても大丈夫だ」
友人「……で、でかい岩だな、いくらするんだ、これ」
男「運送費がものすごく高かった。まあいろいろ込みで、山を売った額ぐらいかな」
友人「うわあああああああ」
友人「……あれから一年」
友人「あいつは建材がなくなったとかで、猫の額ぐらいの畑を耕して食料を得つつ、遠い山から岩を切り出して船で運んでいる」
友人「そしてヤグラみたいなものを組んで、巨大な岩を動かして並べ、家らしきものを作っている」
友人「たまに大勢の人足を雇って岩を動かしているが、あれじゃ金がいくらあっても足りるはずがない……」
友人「おい、生きてるか」
男「やあ……」
友人「…やつれてるな、死にかけじゃないか」
男「ああ、でも急がないとな、今にも太陽が落ちてくるかも…」
友人(俺はもう、こいつの説得を諦めてしまった)
友人(これまで何人も偉い先生やら、天文学者やら、占い師やらを連れてって説得したが、無駄だった)
友人(無理やり座敷牢に閉じ込めたこともある、だが夜も日も空かず泣き叫ぶので、出してやるしかなかった)
友人(こいつがこの作業に執着するのなら、放っておくしか無い、そんな結論しかなかった)
友人「だいぶ、できてきたな…巨大な岩を並べた家って感じだが…」
友人「……しかし、屋根がないようだが」
男「何を言ってるんだ、太陽は凄く大きいんだぞ、遠くだから小さく見えるだけだ」
男「だから落ちてきたなら、この岩の柱だけで受け止められるはずだ」
友人「…ああ、そうだな」
友人「……しかし、もしそんなに大きいなら、仮に落ちてきたとしても、その丸みの影に入って助かるんじゃないか?」
男「もちろんそれも考えた」
友人「考えたのか……」
男「だから警戒すべきは夏至の日、太陽が真上に来る瞬間だ。向こうの岩を見てくれ」
友人「あれか?」
男「夏至の日の太陽が登ってくる時、あの岩の門を通過するんだ、それでその日が夏至だと分かるんだよ」
友人「……じゃあ、朝にこの場所にいなきゃいけないだろ」
男「もちろんだよ、僕は最近、この岩の中だけで生活してるからな」
友人「……そうか」
なんだこれは・・
怖い
友人「その二ヶ月後、やつは死んだ」
友人「激しい雨の日の翌日、俺はあいつを訪ねていって、その死体を見つけた」
友人「死因は明らに衰弱死だった。体は酷使しすぎてボロボロだったし、雨ざらしの岩の中で寝起きしていたせいで、内蔵もだいぶ弱っていたようだ」
友人「俺は共用墓地にあいつを埋めてやり、ささやかな葬儀も行った」
友人「あいつは幸せだったんだろうか?」
友人「ずっと不安と焦りに捕らわれていたような気もするし、作業の間だけはその不安を忘れていたようにも見える」
友人「いずれにしても、もう二度とあいつのような男が現れないことを願いたい」
友人「もう二度と、な……」
― 4000年後 ―
ガイド「はーい、修学旅行の皆さん、これがあの有名なストーンヘンジですねー」
ガイド「巨大な岩を輪の形に並べた遺跡です、環状列石、柱状列石などとも言われます」
生徒A「でっけー!」
生徒B「迫力あるー!」
!?
ガイド「これを作ったのは紀元前2000年頃の古代ケルト人だと言われてますねー」
ガイド「岩は大きなもので一つ40トン、岩は400キロ以上離れた山から切り出され、船で運ばれたと言われています」
生徒A「でも川なんかありませんよー?」
ガイド「それは長い年月の間で川の流れが変わったからですねー」
生徒B「なぜこんなものを作ったんですかー?」
ガイド「宗教的施設だと言われていますが、正確には分かっていません」
ガイド「結婚式や葬儀などに使われたとも、天体観測の施設だとも言われてますねー」
ガイド「輪の内部では当時のナイフや、矢じりや火打ち石なども見つかっており、内部で生活が行われた可能性もあるそうです」
ガイド「まあ4000年も前にこんな巨大なものを作ったんですから、きっと大事な理由があったんでしょうねー」
生徒C「……」
ガイド「ストーンヘンジとその周辺遺跡は、ダラム城などと並び、1986年にイギリス初の世界遺産に認定されています」
ガイド「この場所は歴史や文化的価値のほかに、ここに立つ人そのものに肉体的な影響をあたえるとも言われてまして、いわゆるパワースポットとして…」
生徒C「……あの太陽」
生徒C「もし…落ちてきたら……」
(おしまい)
というわけでSSというか短編小説のようなモノを書いてみました
読んでくれた方ありがとうございます
乙キチSSだと思ったら良作だった
「杞人の憂い」ですな
これはなかなか面白かった
ストーンヘンジ見に行きたくなった
最後にちょっとトリップを
杞憂だね
なんか良かったよ
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