〇キャラ・口調崩壊注意
〇初投稿
〇亀更新になるかも…
〇ちょっとした小説のように書いてます。
サークル活動もして足りなかったり笑
では、よろしくお願いします!
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1491389733
悲しい時に誰かがそばに居てくれたら、
その悲しみは半分になるって誰かが言っていた気がする。
けど、この悲しい気持ちも、あたしにとっては大切だから。
半分になんかしたくないって。そう彼女は言っていた。
これは、察しとおもいやりと、ちょっと多めのウソの。
そんなお話である。
あっ!
先に書き込んでしまいました笑
あと〇オリジナル提督と設定注意です
―――廊下
「うー…笑わないでいるって、難しいよぉ…」
私、プリンツ・オイゲンはとある理由からアトミラールさんの秘書艦になることを目指しているんだけど…
これがとっても難しかった。
みんなの協力もあって、なんとか実技試験まではいけたんだけど…。
「絶対、アトミラールさんが面白いのがいけないんだって…」
秘書艦たるもの、周りが笑っている中でも凜として構えていなければならない場面というのは多いらしくて、
秘書艦になる為には最低3日間アトミラールさんの横についてお仕事のお手伝いをして、
その間笑ってはいけないっていうテストをクリアしなければいけなかったんだけど…。
「はぁ~…」
昨日はお昼に。
今日は朝一番から、執務室で提督のことを指差して笑ってしまいその日は失格となってしまったのだった。
…ちなみに、今回の轟沈理由は執務室にテレビが取り付けられてリモコンで電源をオンにしたら、
アトミラールさんの目から映写機みたいにして壁にテレビ番組が映し出されたのを目の当たりにしたからだった。
…えっと。多分言葉にしたら大したことないんじゃないかって思うのかもしれないけど、
その場に居た妙高さんたちが一向に気にすることなく振舞っていたりとかして…
その場を目の当たりにしたっていう空気は…
私にはちょっと耐えられないものだったんだよね…。
…あ。ちなみに、手にDVDを持たせるとちゃんとそれが映るらしい。
なんていうか。アトミラールさんって、何でも出来るよね。
ひと部屋にひとりとか欲しいかも。
地の文多すぎると誰も読まないから注意
そうなんですね!
教えていただきありがとうございます!
地の文多めの方が俺は好きだぞ
なんだか書き込み頂いて嬉しいですので、
地の文お好きな方やお付き合いいただける方いらっしゃいましたら
よろしくお願いします!
「…………」
量産型アトミラールさん。
変なの想像してたら、また笑いがこみ上げてきそうになって、
私は気を紛らわそうとして窓の外に目を向けた。
この場所からは、海と並び立つ倉庫が見えて、
青くて綺麗な空は失格になった気分も一緒になって紛らわしてくれる。
倉庫…。あ。そうだ。
実地訓練の後半は、あそこで加賀さんたちからボーキサイトを守ってみせないといけないんだよねぇ…
そっちも自信ないなぁ…。
…ううんっ。後ろ向きじゃダメだよね。
明日また挑戦して、今度こそアトミラールさんに、秘書艦やっても大丈夫だってアピールしないと。
「妙高さんが教えてくれた、秘書艦の極意。察しと思いやり…?」
うーん。むずかしいことを言われている気がする。
時々聞く言葉なんだけど、具体的にどうしたらいいのか。
分からずにまた外を見ていると、視界のすみっこの方で倉庫の方に舞風ちゃんが歩いていくのが見えた。
舞風ちゃんは、倉庫の向こう側を練習場所にして、時々そこで踊っていた。
私も、何回か一緒に踊っていて楽しいなーって思ってたんだけど…なんだか今回はちょっと様子が違っていた。
「………もしかしてっ!!」
真面目な雰囲気。
これは、もしかして。私の任務に何か関係のあることなのかもしれない。
私は、ドイツからここの鎮守府に派遣された際に、
アトミラールさんの不透明なお金の動きとかを調査して報告することを極秘任務として与えられていた。
そんな中で、舞風ちゃんがいつもと違う雰囲気で倉庫の方に歩いていく。
これは…急がないといけないのかもしれないっ。
『あぁ。ここに居たのか。プリンツ、ちょっと頼みたいことが…』
「急がないとっ!! あ、ごめんなさいっ。アトミラールさんっ!! 今急いでるからっ」
振り向きざま。
近くに居たアトミラールさんの頭をサッカーボールみたく思いっきり蹴飛ばしちゃったけど、
今は鎮守府の秘密を探るのが先決。
後で謝ればきっと許してくれる…よね? きっと!!
「待ってて下さい。ビスマルクお姉さまっ!!」
ドイツの戦況はここほど深刻じゃないけど、資金繰りや資源のやりくりは結構深刻だって聞いていた。
マネできる部分っていうのはそれが秘密でもマネしないといけないんだと思う…。
だから、ドイツで頑張っているビスマルクお姉さまたちの為にも。今は急がないとっ!!
「えっと…確か…こっち!!」
【補足】
〇プリンツはドイツからこの鎮守府の財政管理についての秘密を探りに来た秘密任務も任されている
〇提督はぬいぐるみ
〇何か説明が足りていないところがありましたら、レスお願いします!
いきなりの急用が入ってしまった…
また明日の20時ほどから更新したいと思います。
乙
遅刻してしまいました…
大変遅くなってしまいましたが、
はじめたいと思います!
ダンスの練習に使ってる場所に、舞風ちゃんは居た。
もしかしたら倉庫の中に秘密があって、
私じゃ見つけられないのかもって思ってたから心配してたんだけど…
半面、あそこであぁしているってことは、秘密じゃないのかなって思い始めていた。
そうして、倉庫の影から様子をうかがっていると…。
「………ぇっぐ」
「っ!?」
舞風ちゃんが泣いてる…っ!?
えっと…えぇーーっと!!!
『舞風ーー!!!』
「て、提督っ!?」
「アトミ…ぅぇええっ!!!」
戸惑う私を追い越して、
泣いている舞風ちゃんのもとにものすっごい速度でアトミラールさんが駆けつけてくる。
泣き声が聞こえたからなのか、その手には救急箱が抱えられていて、
どこか怪我でもしたのかと心配そうに舞風ちゃんに聞いているんだけど…。
「提督、なんで破れてるの?」
…アトミラールさんの頭は、こっちから見える後ろ半分が物凄い勢いで破れていた。
これ、どうみても救急箱が必要なのはアトミラールさんの方だよね…。
『ちょっとそこで蹴られたらエアバッグ機能が発動してな…』
「ぁ…」
―――執務室
「これでよし…っと。指令。縫い終わりましたよ?」
『あぁ。すまない…』
アトミラールさんが破裂してたのは直前に私が蹴り飛ばしたからだった。
あの後、慌ててふたりの前に掛けていって頭を下げた私はそのまま執務室に戻ってきて…
今は、妙高さんがアトミラールさんの頭を縫い終わったところだった。
「それにしても、倉庫で躓いて引っ掛けるだなんて…気をつけてくださいね?」
アトミラールさん、多分私をかばってなのか妙高さんにウソをついて縫ってもらっていた。
…なんだか、心がチクチクする。
『あぁ。まぁ。タイミングがわるかったんだ。な?』
「う、うん…」
「ほんとほんとっ。提督ってば、すごい勢いで滑り込んできたんだから。ねー?」
凄い勢いといえば、確かに凄い勢いだったけど…走りこんできたアトミラールさん。
…そういえば、舞風ちゃんってどうして泣いていたんだろうか?
『…………』
「………。あ、そうそう。私、今日はこれから用事があるんでした」
アトミラールさんと目が合うと、妙高さんはそのまま執務室を出て行ってしまった。
…これって“察しとおもいやり”っていうやつなんだろうか。
秘書艦になるんだったら、私もこれが出来ないといけないのかも…って思うと。
なんだか物凄く難しそうに見えるのだった…。
『それで…“また”なのか?』
「ぁ…うん。…ちょっとね」
そして、妙高さんが居なくなったのを見計らってアトミラールさんが舞風ちゃんに話をふる。
「…なにが“また”なの? あ、もしかして泣いてたこと?」
舞風ちゃん、なんか居心地悪そうにっていうか…よく考えたらそうだよね。
泣いてた理由とかって、あらためて聞かれると答えにくいものだった。
でも、またって言ってたってことは少なくともこれがはじめてっていうわけじゃなさそうだった。
…だったら、ちゃんと原因を究明しないとっ。
「原因究明って…そういうんじゃ、ないんだけど…」
「そうなの? あ、もし言いにくいこととかだったら、ごめんね。勝手に話、入っちゃって」
もう十分踏み込んじゃってる気はするんだけど、プライベートなことだったら、
いくら同じ艦娘でも勝手に踏み込んだらいけない部分っていうのはあると思った。
「そういうのでも…ないのかなぁ…。ま、見られちゃったし、いっか」
舞風ちゃんは、いつもと変わらない様子で時々あぁして泣いてることがあるっていうのを教えてくれた。
その理由は舞風ちゃん本人にも分からないっていうんだけど…。
「プリンツさんにもない? 理由もなくってなんだか哀しくなる時って。ぁ…でもなんか、なさそっか…」
「うーん…」
理由もなく、悲しくなる時?
それって、さみしい時とはまた違うのかな?
「あー、そんな感じかも。提督はどう思います?」
『…加賀に渡されたノルマが常軌を逸していた場合に、たまに哀しいと思う時はあるな』
「ぁー…それはたぶん違うかも」
…ていうか。それって“たまに”なんだ。
舞風ちゃんとふたりして、それはアトミラールさんだけだってアイコンタクトで会話しあう。
……ぁ。出来た。これが察しとおもいやり!!
―――倉庫練
結局、あの後もいろいろと話してたんだけど、舞風ちゃんが悲しくなる原因は分からないままだった。
アトミラールさんは、折角だからお菓子でも食べていけばってお茶を入れてくれたんだけど…
私は、やっぱり舞風ちゃんがあぁなった原因が気になって、ひとりさっきの場所に戻ってきていた。
…ここで、舞風ちゃんは泣いてたんだよね。
ここに原因があるのかもしれないって…そう思ったんだけど…。
「…………」
…倉庫だった。
そこは、いつもと変わらない殺風景といえば殺風景な倉庫だった。
屋根に移動式の対空火器が取り付けられていて、入り口に消火器と消火栓があって、
ここからだと見えないけど屋根が多重構造になっていて爆撃とかされても大丈夫なようになっている。
こういった設備なんかも、きちんと報告しないといけないのでしっかりと調べ上げてあった。
だから分かる。
ここは、ほんとーに普通の倉庫だった。
「………次っ」
ここで折れたらいけない。もしかしたら倉庫の近くで見落としがあるかもしれないのだ。
倉庫と倉庫の間は、5メートルくらい。
ちょっと離れすぎてないかなって思うのは爆発物なんかも保管する為で、
消化の為の車両が入ってこれるスペースの確保と出火した時に隣の倉庫に燃え移るのを防ぐ為なんだって。
「そうね。まあ、両サイドの倉庫から火が出た時のことを考えると、
もうちょっとスペースはあってもいいのかなって思うけど。
流石に建っちゃってるものは動かせないからねー」
「ぁ…伊勢さん」
心の中だけで思ってたつもりが、いつの間にか口に出していたみたいで、
しかもそれがばっちりと伊勢さんと日向さんに聞かれてしまっていた。
幸い機密事項とかじゃなかったけど、なんか…とっても恥ずかしい気持ちだった。
あ、私も今、ちょっとだけ泣きたいかもしれない。
「こんにちは。どうかしたの? 何か探してるみたいだったけど」
「あぁっ。いやっ。うぅ…えぇっと…」
「えっ? なに? 私、何かいけないこととか聞いちゃった??」
舞風ちゃんのことを話していいのかどうか分からなくって、
しどろもどろになってたら伊勢さんの方が困っているみたいになって、あぁ、どうしようっ。
「…触れられたくないことというのは、誰にだってあるものだ。
ただ、私たちで力になれることがあるかもしれない。
だから、もしよかったら不都合のない範囲で教えてくれないだろうか。
…伊勢はそう言いたいのだ」
「そ、そうそう。ごめんね日向、翻訳させちゃって」
翻訳っていうか、説明っていうか。
全部私がいけないんだけど、日向さんに間に入ってもらう形で…
とりあえず舞風ちゃんのことは伏せたまま相談に乗ってもらうことにした。
寝落ちしてしまっていた…
今日も21時ほどから更新致します。
始めていきたいと思います!
「ふむ。理由もなく哀しくなる時…か。あるかもな」
どんな時、っていうのは思い出せないけどふたりとも時々あるって教えてくれる。
思い出して欲しいけど、あんまり無理を言いたくはないっていうのもあった。
でも、やっぱり知りたくて…困った顔をさせてしまった。
「…そうだな。この鎮守府は賑やかだからな。こうして静かなところに来ると、時々考えてしまうのかもしれない…」
普段賑やかだから、急に静かになると寂しくなる…。
あぁ、それだったらなんとなくわかるかもしれない。
「だったらさ、それを忘れちゃうくらい、ぱーっと楽しいこととかしてみたら?」
「…悩んでいるのは私ではないぞ?」
「あ、そうだった」
日向さんを遊びに連れて行こうとする伊勢さん。
日向さんは、自分はそういう時は身体を鍛えることで気を紛らわしていると言っていた。
気が紛れるかぁ…。
根本的な解決とは違っても、ずっと落ち込んでるよりはいいって伊勢さんは言うし、
日向さんは時々の気持ちの浮き沈み自体が気の迷いみたいなものだから…とか、気晴らしをしてみるとそれまで気づかなかったことに気がつくようになるって言っていた。
…よーし。決めたっ。舞風ちゃんを、気晴らしに誘ってみよう。
―――執務室
「気晴らし?」
「そう。気晴らしっ。寂しい時は、気晴らしがいいんだって」
「うーん。そんなに気をつかって貰わなくてもいいんだけど…」
舞風ちゃんは、アトミラールさんと一緒に執務室でテレビを見ていた。
見た感じでは、もうあんまり気にしてないのかなーって思ったり、
おせっかいだったかもって思ったんだけど、
今度はアトミラールさんが助け舟を出してくれた。
『いいんじゃないか? 折角のご好意だ。近場に遊びに行くくらいだったら…』
さっすがアトミラールさん。話が分かってくれる。
舞風ちゃんも、アトミラールさんが言うんだったらって言って何かしたいことを考えてくれていた。
「あ、それだったら“あれ”やってみたい♪」
そして、思い出したって言いながらテレビを指差した。
映っていたのはテレビのCMで…なんのコマーシャルなのかは分からなかったけど、
無重力っぽい空間の中で思い思いに色んなことをしてる人たちが映っていた…。
「これ、飛行機で急降下して無重力になってるところで撮影したんだって」
「へぇ~…」
飛行機で無重力かぁ…。
面白そうだけど、大丈夫なのだろうか。私、船だから空は飛んだことないし…。
遠出の外出だからアトミラールさんの許可とかいりそうだったし…。
「実際は数分もない時間らしいんだけど、ここで踊れたら楽しいかなって。
プリンツさんも一緒にっ♪ ね、提督♪」
…っと、いけないいけない。
舞風ちゃんを励ますつもりが、なんか私の方が励まされちゃっている。
…うん。ちょっとでも面白そうって思うんだったら、やってみよう。
レッツ無重力Dancing!!
アトミラールさんも、なんだか話を勝手に進めちゃってるけど、舞風ちゃんの為だし。
きっとオーケーしてくれるよねっ。
『…遠出だから、妙高と加賀の許可が下りたらな。今週のボーキサイト採掘のノルマが、まだ終わってないんだ…』
「ぁ…」
ここで、最初の壁が立ちはだかる。
妙高さんはともかく、加賀さんは……えーいっ!やる前から落ち込んでなんかいられないっ。
これも舞風ちゃんのためなんだからっ。
私は、アトミラールさんが外出してもいいように加賀さんに許可を貰いにいくことにした。
当たって砕けろっていうこの国の精神である。
―――甘味処間宮
「…別に構いませんが?」
「うそだぁ!!?」
…その結果。あまりにあっさりと許可が出たので、聞いた瞬間に思わず大きな声を出してしまった。
「……嘘?」
「あぁ、えっと…」
そんでもって、大きな声からもの凄いピンチを招いてしまったっ。
そりゃ、いくらなんでも失礼だったって思うけど…加賀さんに見つめられたまま、
私はなんて切り替えしたらいいのか分からないまま、
気まずい雰囲気だけが漂ってしまっていた。
「加賀さんは、少し誤解されやすいところもありますけど、本当は優しいんですよ? ねぇ?」
「赤城さん。私は…っ」
加賀さんは…何か言いかけてたみたいだけど、赤城さんに助けてもらう格好で…
とりあえず外出の許可は貰うことが出来た。
助け舟…助け舟…。今日は、ダンケって思うことがたくさんある日だなぁ…。
もっとしっかりしないと。
「プリンツさん。舞風さんのこと、宜しくお願いします」
「ぁ…っ。はいっ!」
助けてもらったばかりじゃなくて、丁寧に頭を下げてお願いされてしまう。
赤城さんは、普段はごはんの量ばっかり目がいくんだけど、やっぱり礼儀正しいなぁって思う。
…でも、なんだろう。今、ちょっとだけ舞風ちゃんと同じ感じがした…気がする。
なにかあるのかな?
「さあ。そうと決まれば妙高さんのところに行きましょう。
提督が長期不在の間はおやつの管理は妙高さんですから“りくえすと”というのをしておかないと♪
ね? 加賀さん」
「…そうですね。私も、ちょうど提督に言っておかなければいけないことがありますし…」
…やっぱり、気のせいだったのかもしれない。
加賀さんと一緒に妙高さんのところに向かうっていう赤城さんは、やっぱりいつもの赤城さんだった。
私も、ふたりと一緒に執務室に戻って、今度は妙高さんから外出の許可を貰わないといけないんだった。
―――執務室
執務室では、すでにアトミラールさんが戻ってきていた妙高さんに今回のことを話していて、
先に許可を貰っておいてくれた。
そのアトミラールさんに向かって、
加賀さんが「帰ってきたらボーキサイト3倍です」ってぼそっと言ってるのを聞いちゃったりしながら…
とりあえず、話はまとまってくれたみたいだった。
「…ボーキサイト、3倍だってね」
『ノルマ3倍なのか、今あるのを3倍にしろってことなのか。それが問題だな…』
「そ、そういうのもあるんだ…」
私には、その発想はこれっぽっちもなかった。
さすがアトミラールさん…。
きっと、加賀さんとのやりとりは毎日私の想像を絶するような…。
「…………」
…ぁ。加賀さんもこっち見て驚いたっていう顔してる。
言葉を聞かなくても分かる。
あれは「全然考え付かなかったけど、なるほどそういうのもありなのですね…」っていう顔だ。
察しとおもいやり。
言わなくても分かるっていうそれを、だんだん体得出来ているのかもしれないっ。
私は、この日の出来事に確かな手応えを感じながら
後日鎮守府を離れて無重力体験をしにいく日を迎えることになった。
おつ
今日も夜の21時ぐらいから更新始めたいと思います!
―――防衛空軍基地
無重力体験っていうのは、実際に宇宙まで行くか、
飛行機に乗って急降下してる間に体験するっていうのが一般的みたいだった。
私たちの場合、流石に宇宙まで行くのは無理だから飛行機に乗って急降下する方だったんだけど…
それでも結構なお金が掛かるらしいので、
今回はそれと同じことをアトミラールさんの知り合いの将校さんにお願いして、
小型の輸送機でやってもらうことになったのだった。
『…随分とボロいな。大丈夫なのか?』
「年季が入っていると仰って下さい。これでも、高い信頼性を誇っている輸送機ですよ」
貸してもらえる飛行機は、
連続で3,4回の急降下、急上昇だったら平気で耐えられるって話だったけど、
アトミラールさんは整備の人と一緒になって念入りに確認をしていた。
『こういうのは、確認をし過ぎて困るっていうことはないからな。
機体の整備に、ちょっと興味もあるし。…と。…よし。
人数分のパラシュートもあるし、機体の方も問題はなさそうだな』
艦娘が乗ると、機体のあちこちにガタが出やすいってアトミラールさんは心配していたけど…
どういう意味なんだろう。…まぁ、那智さんとかは確かに物をよく壊してたような気がするけど。
「さぁ♪ それじゃぁ空の旅に~♪ しゅっぱーつ♪」
私は、そんなに物とか壊したりとかしてるつもりはなくて…
この間、アトミラールさんの頭壊しちゃったけど。
……普段はあんまり意識とかしないんだけど、艦娘の力ってそれなりに強いのかもしれない。
ノリノリの舞風ちゃんの後ろに続く形で、今までの言動を少し反省するのだった。
…あ、ちなみに今回は軍仕官の候補生募集の一環としてこの様子を撮影する人…
っていうのが同行してたりする。
アトミラールさんが言うには、
そうすることで予算を上の人たちに持ってもらって私たちはタダで楽しめるんだって。
…こういう“財テク”っていうのの積み重ねが、鎮守府の資金源のひとつなのかもしれない。
今度、そこのところを思い切ってアトミラールさんに聞いてみようと思った。
そのアトミラールさんなんだけど…。
「…? ねぇ、アトミラールさん。何持ってるの?」
『スナック菓子だ。無重力でこれバラ撒いて一気に食べる。…実は、一度やってみたかったんだ』
おいしそうなお菓子の袋を上下に振ってるのを見ると、確かに楽しそうって思う。
あ。だけど、これって広報で使うんだよね?
大丈夫なのかな???
『広報っていうのは、本来ありのままを映すべきものなんだ。
変に脚色すると、入ってから後悔しかねないからな』
「そうなんだ…」
ありのまま…。確かに、アトミラールさんの場合はお芝居でビシっと決めても……
あんまりビシっとは決まらないかもしれない…。
『プリンツは何するか決めてきてないのか?
20秒だか30秒だか知らないけど、何か決めておかないと、すぐだぞ?』
「あ、そっか。待って…」
そっか。折角の無重力なんだから何するか決めないと。
………何したらいいんだろう???
あれこれ考えているあいだに、飛行機は上昇して…一回目の急降下を迎えてしまう。
「わわっ。髪がっ」
急降下してからだから、髪も身体もぶわって上にあがってしまう。
足も突然床から離れちゃって、わかってはいたんだけど、
一向に下に降りないっていう事態を前に頭が混乱してしまう。
「やっほー♪ 楽しいねこれ♪」
『キュォォォオオオオオ!!!』
…なんとか身体をよじって見た光景。
楽しそうに手足をじたばたとさせてる舞風ちゃんと、
宣言してたとおりお菓子を空中にバラ撒いて、
後頭部に掃除機を装備してそれを一気に口の中に吸い込んでいるアトミラールさんの姿だった。
「あ。終わっちゃったね。…どしたの? プリンツさん」
「ブフ…っ。い、今触らないで…っ!!」
忘れよう。忘れようっ。今私は何も見なかったんだっ。
だって、あんなのハンソクだって!!
ビデオ撮ってた人も驚いてたしっ。
『ムシャムシャ…シャクシャクシャク…。あぁ、機体が上向きになったから、
もうちょっとしたら二回目の急降下だな』
「よーし! 今度は何しよっかなぁ♪ あ、そーだ♪
プリンツさん、提督使ってバレーボールとかしてみない?」
『やめてくれ。こっちはスナック菓子食べるのに忙しいんだ』
そう言いながら懐から2袋目を取り出すアトミラールさんに、
舞風ちゃんはちょっと怒った風にしてその袋を取り上げてしまった。
「だーめ。同じことしてたらつまんないでしょ?」
舞風ちゃん、Gut(グート)!!
流石に二回目は私も耐えられるかなって思ったんだけど、
食べ方にバリエーションがあるのだって食い下がっているのを聞くと、
その自信もなくなってしまった。
だから、アトミラールさんにはわるいけど…舞風ちゃんGut!! だった。
あ、ちなみに。英語だとこういう時に“ナイス”とかって言い回しなんだろうけど
、ドイツ語だとこのGut(グート)が幅広く対応してるから、
英語慣れしてる人にはちょっと不思議に聞こえるかもしれない、かも。
『…うーむ。予定が狂ったな。何をするか…』
「予定がないんだったら、踊ろう♪ ね、提督♪」
…よく考えたら、舞風ちゃんも踊ってばっかりだと同じことしてるって言われるのかもしれないけど。
…ま、いっか♪
私も踊っちゃおう♪
「機体水平。…間も無く急降下します」
撮影班の人が次のタイミングも教えてくれる。
「よーしっ」
二回目ともなると、身体が無重力の感覚を覚えてくれている。
さっきよりも上手く。手足を伸ばして…。
「それ♪ わんつー♪」
「アイン…ツヴァイ♪」
これを最初っからやれている舞風ちゃんって、結構すごいんだなーって思いながら私も踊ってみる。
カメラで撮られてるっていうのは、やっぱりちょっと恥ずかしいんだけどね。
『無重力ブレイクダンス!! これも一度やってみたかったんだよなぁ!!!』
ふわふわと浮きながら、逆さまで空中を高速回転するアトミラールさん。
それを舞風ちゃんがバレーボールみたいに叩いて、
アトミラールさんは機内中を回転しながら飛びまわっていた。
「っと!」
反射してくるアトミラールさんを避けようとして、私は壁に向かって移動。
なんとなく、この状態の移動も慣れてきた。ちょうど、
機体横の扉のところにも握りやすいグリップがあって…。
……扉のグリップ?
「わわっ!! これ、さわっちゃダメなやつだ!! っとぉ!?」
…放そうとして、返って強く握っちゃうこととかって、あるよね? あるよね!!?
わ、私も、今扉の開閉グリップを強く握っちゃって、ちょっとだけ。
ちょっとだけだけど、上空何千メートルだか扉をばーって開いてしまった。
「わぁ!! な、なに!?」
「舞風ちゃん、何かに掴まって!! あ、アトミラールさん以外に!!」
あんなのに掴まったって何の支えにも…って、
流石に失礼だとは思うんだけど、
宙ぶらりんのアトミラールさんに掴まったってどうにもならないのは分かりきっていた。
「あっ!! 提督ーっ!!」
…ここで、私は“シツネン”していた。
アトミラールさんに掴まっても仕方がないんだけど、
アトミラールさんを掴まえなかったら大変なことになるんだった!!
『なんだ? 謎の吸引力が…っ』
…私と舞風ちゃんの、ちょうど中間くらいのところを高速でブレイクダンスをしたままのアトミラールさんが通り過ぎていく。
そして、私が扉を閉めるよりも早くに表へと吸い込まれるように飛び出していって…。
『あれ。20秒ってこんな長か…』
……私と舞風ちゃんは、地面に向かって頭から高速回転しながら突っ込んでいくアトミラールさんを、
何もコメントすることが出来ないまま、ただ見送るしかなかった。
「提督。セルフスクリューパイルドライバーしてるね…」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい…」
ハッチ開けちゃってごめんなさい。
掴まえらんなくてごめんなさい。
はい。今私、口元引きつっちゃってます。笑ってます。ごめんなさい。
―――地上 ぬいぐるみ墜落現場
「提督ー。生きてるー? てーいーとーくー♪」
地上へと帰ってきた私たちは、
急いでアトミラールさんが落っこちていったと思われる場所に行き…
地面に“おしぼり”みたいにして身体を捻りながら、きれいに頭が埋もれているぬいぐるみを発見していた。
顔は埋まってて見えないけれど、このおしぼりが、間違いなくアトミラールさんである。
『……こ、ここはっ!! えーっと…確か…飛行機で目を回して…。
ブラックアウトしたのはあれか? Gにでも負けたのか?』
「提督“エコノミー症候群”とかってやつにでもなったんじゃない?」
『エコノミー症候群!? …確かに。若干、中綿が偏ってはいたな』
「ほらぁ。気をつけないと♪」
…しれっとすごいウソをつく舞風ちゃんと、それを信じるアトミラールさん。
あぁ、いや。バレると困るのは私なんだけど…。
………うん。心の中で思いっきり謝っておこう。
アトミラールさん。ほんとーーーに、ごめんなさいっ。
…ちなみに、このウソは同行していた撮影班の人がその様子をプロモーションビデオにしたことで、
妙高さんには全部バレて思いっきり注意されたんだけど…
幸いアトミラールさんにケガとかそういうのもなかったということで
秘書艦の研修生から外されるというのことはなかった。
それはまぁ…よかったんだけど。
肝心の舞風ちゃんのさびしいっていうのに関しては…それからも、時々あるみたいだった。
「うーん…どうしたらいいんだろう?」
『そっとしておいてやるのが、一番なのかもしれないな』
アトミラールさんは、舞風ちゃんは本当にさみしくならないようにする為に今泣いているんだって言う。
どういうことなんだろうか?
『舞風は、もともと“見送ってきた側”の艦だからな…』
「見送ってきた? それって…」
アトミラールさんは、それ以上言うのをやめてしまったけど…私は、なんとなく分かった気がする。
『…先に言っておこう。他人の内心をあれやこれやと考え過ぎるのは、時として邪推になる』
「じゃすい…。わるいことってことですか? 私は、そんなつもりじゃっ」
赤城さんが、舞風ちゃんのことお願いしますって言っていたのも、
きっとそうだからなんだって、私の中で繋がったんだけど、
アトミラールさんはそれを否定するようなことを言う。
さっきの舞風ちゃんが泣いてる理由についてもそうだけど、私にはよく分からないことが多かった。
乙です
まーた寝落ちしてた…
更新始めます!
『…まぁ。言いたいことは分かる…つもりだ。
別に他人の心に土足で踏み込んでいこうって気じゃない…というかだな。
そもそも、この話は泣いてる原因のベクトルが違うんだよ…』
「どそ…く?」
靴を履いていると、何かいけないのかな?
あ、でも和室って靴を脱いで入るんだよね。
鎮守府にも何箇所かそういうところはあるし、これも異文化なのだろう。きっと。
『…話を戻そう。舞風が時々泣いているっていう話だ』
アトミラールさんは、一瞬戸惑った私を見て、ゆっくりと私の知らない舞風ちゃんのことを話してくれた。
『舞風が来た時、今回みたいなことがあったんだ。
最初は話してくれなかったんだが…流石に救急箱持って一週間付回したら教えてくれたことがあってな』
つけまわすって…。
曲がり角からこっそりと、全然隠れられてないアトミラールさんが、
救急箱持って常に控えていたんだとか…。それって、ちょっと怖いかもしれない…。
『舞風本人がいないところで喋るのもあれだが、ここまで関わったんだ。
知っておいてもいいんだろう。彼女のあれはだな…』
―――本当に大切なものが、本当になくならないように。先に泣いている。
……私は、ここから先。詳しく聞くのには中途半端な気持ちじゃ舞風ちゃんに失礼になるって思って。
ソソーのないように心の中で靴を脱いでおくことにした。
よし。これで“ドソク”じゃないよね。
…あとで漢字調べておこっと。
駆逐艦舞風。
ミッドウェー海戦にて赤城を雷撃処分したことで知られる駆逐艦であるが、
この件に関しては本当のところは分からない部分があるという。
戦争中は様々な艦と行動を共にし、最後はトラック諸島沖にてアメリカ軍艦隊の砲撃により戦没した艦である。
この際に、脱出し漂流していた乗員はアメリカ軍機の執拗な攻撃により全滅した…とアメリカ軍は記録している。
『…舞風がこの鎮守府に来たのは、少し特殊な理由からだ。
戦闘中に仲間が被弾した際に、戦闘能力が著しく低下する。
その解消を模索しろ…との“お達し”だった』
「…………」
戦争だった。
どっちが悪いとか、いけないとか。
そういうのを通り越した世界の…けれど、忘れちゃいけない出来事だった。
でも、それに縛られてるように思えるのは…。
『縛られてるわけじゃない。あいつにとっては、きっとどれも大切なんだろう。
忘れちゃいけないから、忘れないようにしている。二度と繰り返さない為に…だそうだ』
「…………」
心に傷が残るような出来事も、大切だって言われてしまうと…
私には、どうしたらいいのか分からなくなってしまう。
いつもあんなに笑ってる舞風ちゃんだったけど、
そんな風に思ってたんだっていうのは、私にとってはショックなことだった。
『ま、そんなに暗い顔をするもんでもない。
実際のところ、いつものとーり笑ってる舞風も、間違いなく舞風なんだ。
ただ、常に笑ってばかりじゃないってだけでな…』
「…そう。なのかな…」
泣いていることがあるからといって、あの笑顔までウソにしないでやってくれ。
そうアトミラールさんは言っていた。
…時々、アトミラールさんって本当にアトミラール(提督)さんなんだなって思う。
舞風ちゃんも、
もしかしたら本当に私の助けなんて必要ないくらいに大きくて強かったのかもしれない。
アトミラールさんは、他にもいろいろと舞風ちゃんの話を聞かせてくれて…最後に…。
『ぁー…それとこれは舞風にはナイショな話で頼むぞ?
そーいえば口止めされてたことを、今になって思い出した』
「ふぇっ!? そうなの!!?」
最後の最後で、やっぱりアトミラールさんはアトミラールさんなんだなってオチを思い知らせてくれた。
ど、どうしよう。
よりにもよって、今ちょうど目の前に手に何か持った舞風ちゃんが居るんだけど…。
『なっ!? 舞風、いつからそこに!!』
「今だよ。今。…それより、提督~。プリンツさんにあたしのこと喋ったでしょ~?」
『……ナンノコトデショウカ?』
「とぼけたってだーめー。まったく、ぜったいにしゃべらないでって言ったのに…」
『あぁ。すまない。最近記憶の混乱が激しいんだ。
他に忘れてることがないかよく思い出さないと…』
「ま、まぁ。忘れてたっていうんなら、いいよ。そのまま忘れてても。
どーせ大したことじゃないんだし? ねぇ、プリンツさん」
「えっ? あっ。えー…」
…この場合、なんて答えたらいいんだろうか。
ドソクは脱いだつもりだったけど、
明らかに高速スクリューとか履いた勢いで踏み込んじゃったわけで…。
そ、それを大したことじゃないって言われて…。
…ていうか、思い出されちゃったら困ることが今は多くて。…あれ?
『…さっきから静かだったが、大丈夫か? 顔色がよくないぞ…』
「……いけない。私、ちょっと頭痛くなってきたかも…」
いろんな情報と、いろんな感情がごちゃごちゃに混ざり合ってしまい、
自分の中で上手く処理出来ていなかった。
「大丈夫? プリンツさん。医務室まで送ろっか?」
「あ…うん。だいじょうぶ。ちょっと、混乱しちゃってるだけ…だと思う」
『………それで。舞風は何か用があったのか?』
…ぁ。そっか。流石にさっきの会話を聞きつけてやってきたっていうのじゃ、ないよね。
舞風ちゃんはアトミラールさんにお届けものを持ってきたって言って
一冊の小冊子みたいなものを渡していた。
「中身は見てないんだけど、それ何?」
『…人さまへの届け物を見ようとするなよ』
「だから見てないって。何なの? 提督~?」
『……ふむ。艦娘の異動先の募集のお知らせだな…』
機密レベルとしてはそこまで高くはないものの、一応極秘文書だから、
手渡しとか通販カタログみたいに偽装した宅配便で送られてくる…
前に金剛さんとかが資源的に厳しくなってしまった鎮守府から夏休みの間だけこの鎮守府に遊びに来てたけど、
今回のは鎮守府を指定しないで、誰かほしい人~っていう感じに募集してるタイプのリストらしかった。
…うーん。まだ頭が混乱してて、上手くまとまってくれなや。
よーするに、異動したい艦娘の載った人事カタログってことだよね?
『偽装とはいえ、通販カタログっぽいこの仕様は…どうにかならないもんかなぁ。
異動する艦娘に失礼だろうに…』
「これ…提督がウチで引き取りまーすって言ったら、ウチに来るわけ?」
『引き取りますって…お前もなぁ。まぁ、言葉選びは悪いが…そんな感じだな。
資源的に実力を発揮しきれないっていうのの他に、
他のところで実力を試したいとかって艦娘も、中には居るみたいだし…。えーっと…なんて読むんだ?』
この国の漢字は、とにかくむずかしい。
同じ文字でも読み方が違うとか、ともかく覚えるのが大変だった。
…うん。ちょっと回復してきたかも…。
『野分(のわけ)? 刷毛(ハケ)みたいな名前だな…』
「ちょっと見せて! 提督、それ多分“のわっち”だ!」
…載ってた艦娘にお友達が居たのかな。
舞風ちゃんが大きな声を上げてアトミラールさんからカタログを取り上げようとする。
「提督。それ、異動申請なんだよね?」
『…そうだな。
彼女の場合は…記載によると、護衛任務の多い鎮守府に異動したいって申し出を先方の提督が承認した形だな…』
「よし! 取ろう!!」
即答する舞風ちゃんだけど、艦娘の人事に口を挟むのって…
少なくともドイツだとごはっとだったりする。
アトミラールさんは、そこのところはどうなんだろう?
『……護衛任務ねぇ。彼女が希望する鎮守府とは、ここは少し違う気が、しないでもないんだけどな…』
「そんなのちょっとだって。タンカーだって秋刀魚漁船だって、護衛は護衛でしょ?」
『まぁ…それで本人が納得すれば、そうかもしれないが…』
…なんか、大丈夫そうだった。よかった。
アトミラールさんは、普段こういう時に手を挙げないから、
希望したら案外通るのかもしれないって言っていた。
そしたら舞風ちゃん、背中を押そうとする姿勢をどんどん強めていった。
もう、押しているというより蹴飛ばしているといった感じである。
『わかった。わかったから』
…あ。アトミラールさんが折れた。
「わ~い♪ やった~♪」
強引なおねだり攻撃。
…これは、今度私も鎮守府の秘密を探るときとかにマネしてみてもいいのかもしれない。
『…だが。いいのか? 友達が来たら、おいそれとは泣けなくなるぞ?』
「大丈夫大丈夫♪ そしたら、また提督が笑わせてくれるでしょ?」
どんなに悲しいことを思い出した時、
アトミラールさんだったらそれを大事なことだって理解しながら、
一緒に楽しいことをして吹き飛ばしてくれる。
背を向けるんじゃなくて、乗り越えていく。
…ふたりの間にあった、ちょっとした沈黙とアイコンタクトに私はそんなやりとりを見た気がしていた。
なんとなくだけど、きっともう舞風ちゃんは大丈夫なんだろう。
見えないけど、ふたりの間にある信頼関係。察しと思いやり。
私には、まだちょっとマネできないかもしれないけど…
やっぱりちょっとうらやましくて、私もできるようになりたいなって思うのであった。
……あれ? でも、何か大事なことを忘れてるような…。
『…ふむ。しかし…。“野に分ける”これで“のわっち”と読むのか…ふむ…』
「あっ。舞風ちゃん。アトミラールさん相手にあだ名とか使ったら…!!」
アトミラールさんは、他人の名前を覚えるのが苦手、というか間違った覚え方をするのが大得意なのだった。
「あっ。そっか。…ま、いいや♪」
「よくないよくないっ。ぜったいによくないからっ!」
…あの日。吹雪ちゃんに助けられなかったら、私はあやうくプリン串になるところだった。
吹雪ちゃんには今でもダンケダンケダンケって心の中で思っている。
「でも…多分もう手遅れだよ?」
『ノワッチ…ノワッチ…。ふむ…ノワッチか。なんかカッコいいな』
…遅かった。ううん。私は諦めない。
私は、一度吹雪ちゃんに助けてもらったのだ。
だから、今度は私が誰かを助けないと。かくなる上は…。
「吹雪ちゃん直伝っ。見よう見まねだけどっ。アトミラールさん、覚悟(Feuer!!)」
…確かこのへんだったはず。
思いっきり振りかぶってからあの時吹雪ちゃんが叩いてたっぽいところに向かって、
タンスの上に置いてあった額縁をアトミラールさんの後頭部めがけておもいっきり叩き付けた。
「プ、プリンツさん…。一応言っておくけど、見よう見真似だと“直伝”とは言わないからね…?」
「あ、そうなの? じゃぁ、もう一回っ!!」
「…あと、そこに妙高さん居るけど」
「え、うそっ!!!」
気絶しているところをもう一回。
額縁の角を振り下ろしたところを、執務室の入り口に立っている妙高さんにばっちり見られてしまう。
舞風ちゃんの声が聞こえた時には、身体はもう止まってくれなくて、
私はスローモーションの世界の中で妙高さんの表情が静かに笑顔になっていくのを、
アトミラールさんを叩きながら目の当たりにすることになる。
「お二人とも…ちょっとよろしいでしょうか?」
「ひぃぅっ」
「え? あたしも、って。たんまっ妙高さん、たんま!!!」
…この後。舞風ちゃんとふたり揃って妙高さんに吊り上げられて、
思いっきりお説教されてしまうのだった。
思えば、今回はいろいろとアトミラールさんにも酷いことをしてしまっていたので、
これがおしおきなのかなって思うんだけど…
それでも、妙高さんのアイアンクローは、二度とやられたくはないって思うのだった。
それで、肝心のアトミラールさんなんだけど…。
―――後日 執務室
「提督のお噂はかねがね。私の配属に舞風がご無理を言ったことも、聞いております。
ここは戦線を支えるのに最も重要な拠点のひとつ。全力で頑張らせていただきます」
『よろしく頼む。えーっと…“ヘズンノワッチ”だったっけ?』
「…………」
……やっぱり、上手くはいっていないみたいで、それどころか悪化してた!!
「舞風っ!! あんた、また変な呼び方吹き込んだでしょう!!」
「あたしじゃないよ!?」
『……違ったか? えーっと…ノワイセンじゃなくて…』
…なんだろう。どんどん離れてってる気がするけど…
これは、やっぱり吹雪ちゃんを呼んできた方がいいのかもしれない。
「提督っ。私の名前は野分(のわき)です」
『あぁ…覚えるように、努力する…』
……舞風ちゃんは、確かに元気になっていた。今もまた笑ってるし。
けどまたひとり、アトミラールさんが名前を覚えられないことによる犠牲者が、増えてしまった気がする。
…これで何人目なのかはわからないけれど。
これで終わります!
読んでいただいた方ありがとうございました!
おつ
おつおつ
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