第1話 恐怖、伝説の森を生む神現る!
はるか昔、一つの平和があった。
地平線まで続く豊かな緑、その間を駆けるは獣達。
彼らは皆自然を愛し、共に生き、健やかなる生を謳歌していた。
だが、そこに一つの種が生まれた。人間である。
彼らは不必要に動物を狩り、木を切り倒し、果てにはその地を我が物とする為に争いを始めたのだ。
当然一部の獰猛な獣は抵抗をはじめ、自然は怒り罰を与えようとした。
しかし知恵を持つ人間は徒党を組んで獣を退け、木を組み立て自然から身を守った。
――そして時は平成二十八年、あらゆる神は姿を消し、
地上は人間によって完全に支配されていた。鉄とコンクリートが全てを覆い尽くし、
残されたのは最後の慈悲とばかりに片隅に寄せられた小さな森や山ばかり。
太古の緑は、もう何処にも残っていない。
誰かが思った、またあの豊かな森に帰りたい。誰かが祈った、私達を救って欲しい。
地上のあらゆる動物達が、神を求めた。
想いは集まり、祈りはやがて流れをつくる。そしてその果てで、奇跡が起こった。
百獣の想いが総算、自然の怒りの体現。深緑の瞳と髪、穢れのない純白の肌、
弱きを助け強きを挫く自然の神――樹娘が生まれたのだ。
身体から植物の種子を生み出し森を造るその力を持ってして、樹娘は復讐の為に立ち上がる。
今こそ、人間に大地の恐怖を思い出させる時が来たのだ。自然を取り戻せ、樹娘!
「うんしょ、うんしょ、うんしょ・・・・・・早く芽を出してね、皆」
「あの、ここは私有地ですので・・・・・・種? を植えるのは止めて欲しいのですが」
「うんしょ、うんしょ、うんしょ・・・・・・お日様にもお願いをしておいたから
、きっとすぐに森になれるよ。ふふ、多分60年後くらい」
「・・・・・・あの、ここは私有地ですので、森をつくられては困るのですが」
「うんしょ、うんしょ、うんしょ・・・・・・暑いなあ、今日は」
樹娘、自然の神。彼女の時間の感覚は・・・・・・あまりに途方もなかった。
照り返す真夏の太陽の下、麦わら帽子を被る樹娘の侵略は続く!
続
第2話 絶叫! 神代の道具現る
水、時に雨となって乾いた大地を潤し、時に濁流となって全てをなぎ払うその姿は、
古来より生と死を司るものとされてきた。地上のあらゆる存在がその恩恵に感謝し、
その怒りに畏怖を持ってひれ伏していたのだ。
曰く、日本書紀・神代上によれば、火神を生んだ伊弉冉尊が焼け死ぬ際、
水神の罔象女――ミツハノメを生んだという。古事記に記される弥都波能売神その方だ。
天の安河原の水を治め、慈愛の眼差しを持って植物の生育を助けるその姿は、
さながら全ての母と言ったところか。
蛮行を極め鉄と火で地上を統べたあの人間でさえ、灌漑(農作)用水の神、
井戸の神としてミツハノメを崇め奉り、今尚各地でその信仰は息づいているのだ。
――時は平成二十八年、数百年ぶりに目を覚まし地上を眺めたミツハノメは驚愕した。
あの緑生い茂る美しい娘達は、爪と牙を持ち健気に生を謳歌する息子達は何処へ行ったのだ。
何度視線を漂わせても、見渡す限り鉄とコンクリートばかりである。
ミツハノメは涙を流した。僅かに残された山々は深い悲しみに包まれ、
やがてその涙は水脈を辿り、木々の声となった。
「ミツハノメ様、どうかお気を確かに。まだ、希望は・・・・・・救いはあります」
――自然の化身、百獣の願いと自然の怒りが生み出した深緑の神、樹娘のことに他ならない。
ミツハノメにとっては、最後の娘も同然である。
ミツハノメは一本の枯れ枝を拾い上げ唇を重ねると、樹娘の元へそれを送った。
土と水を司り全てを育む、恐ろしい神代の道具を生み出したのだ。
強力な武器を手に入れた樹娘の人間界侵攻は、その勢いを増していくことだろう。
戦え、樹娘よ。今こそ人間に原初の恐怖を思い出させるのだ!
「わーい、じょ、う、ろ! じょ、う、ろ! 皆これで早く密林になれるよ! ふふ、多分120年後くらい」
「あの、ここは私有地ですので、如雨露で木を育てられては困るのですが」
「じょ、う、ろ! じょ、う、ろ! あ、水汲んでこよー!」
「・・・・・・あの、ここは私有地ですので、水道を勝手に使われては困るのですが」
「おーばーおーるっていいなぁ」
樹娘、復讐の鬼である。そしてその時間の感覚は・・・・・・やはり途方もなかった。
水神の加護の元、新しい鎧に身を包む樹娘の侵攻は、まだ始まったばかりだ!
続
やっと続きがきたか!
期待
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