アイドルマスターシンデレラガールズの、三船美優さんのお話です。
欝々とした暗い話です。最低な人間しか出てきません。なので、少しでも不快に感じたらすぐにブラウザバックをお願いします。
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「ん……」
偽りの、仮初の幸せから現実に戻された時、隣に彼は居ませんでした。
「……もう行ってしまうんですか?」
「一緒に出社なんて出来ませんから」
こちらに一瞥もくれることなく、昨日と同じスーツに袖を通す貴方を、私はただ見ているだけしかありません。
「もう少しだけ……なんて言うのはワガママでしょうか?」
暖かくなったとは言え、こんな格好ではまだ寒いです。昨夜は隣に居た温もりのお陰で寒くなかったのですけど、今はその温もりも遠くに行ってしまいました。
「馬鹿な事を言わないでください。これでも時間ギリギリなんです」
「そう……ですよね……」
とても優しい貴方は私のワガママに付き合ってくれました。それだけで充分過ぎるほどに幸せなはずです。
でも、私は……それでも私はもっと幸せを求めてしまうんです。
例え貴方が昨夜の事を何も思っていないのだとしても。
「……少し聞いてもいいですか?」
「なんですか?」
あと少しで良いんです。ほんの少しだけ貴方と一緒に居たくて、私は聞いてはいけない事を聞いてしまいました。
「どうして、私のワガママに付き合ってくださったんですか?」
「美優さんが応えてくれないと仕事が出来ないと言ったからです」
「……そう、ですか」
わかってはいたんです。貴方が私になんの感情も抱いていない事を。
でも……私には貴方しか居ないんです。私を見つけてくれた貴方しか、私には居ないんです。貴方にとって私は数多く居るアイドルの一人に過ぎないんでしょうけども……。
「これで、今日もちゃんと仕事してくれますよね。前みたいに直前になって泣き出したりはしないでください」
「はい……」
出会った頃はこんなに冷たい人じゃなかったはずです。ですが……いつの間にかこんな風に変わってしまって。一体何がここまで貴方を変えたんですか……?
「では、俺はこれで」
「三千世界の烏を殺し、主と朝寝がしてみたい」
「……」
私が口にしたこの言葉はちゃんと届いたみたいです。
さっきまで頑として私の事を見てくれなかったのに、相変わらず無表情のままですけど、こちらを見てくれたんですから。
「Pさん……!」
私は嬉しくなって駆け寄ろうとしました。だって、やっと貴方と向き合えたんだから……!
「……訳の分からない事を言わないでください、三船さん」
ですが……そんな私の束の間の喜びは夢のように儚く散ってしまいました。
「はい……すみません……プロデューサーさん」
私の事を『三船さん』と呼ぶプロデューサーさん。『美優さん』と呼んでくれたPさんとはまたしばらくお別れらしいです……。
プロデューサーさんは「遅刻しないでくださいね」とだけ残して去っていきました。
……今日も一日お仕事が始まります。
◆
「おはようございます……」
私が事務所に遅刻せずに行くと、そこには既にちひろさんと一緒に忙しそうに仕事をしているプロデューサーさんの姿がありました。
「あ、おはようございます。美優さん」
「おはようございます、ちひろさん」
私がちひろさんに挨拶をすると、ちひろさんはプロデューサーさんに向かって私が来たことを告げていました。
時間通りに来たはずなのですが、遅かったんでしょうか……?
「おはようございます、三船さん。行きましょうか」
「は、はい……!」
プロデューサーさんは鍵を手にして私に声をかけると、私がついてきている事を確認してさっさと駐車場の方へ歩いていきました。
◆
「あ、あの……もしかして、私遅刻してしまいましたか……?」
車内の沈黙に耐えかねて質問してみました。昨日のうちに聞かされていた時間通りではあったのですが、本来なら事務所で軽く打ち合わせをするはずの予定が、移動中の車内で行うことに変更になったんです。
「いえ、三船さんは時間通りでした。ただ先方が入り時間を早めてほしいと先ほど連絡してきたんです」
「あ……そうだったんですね……」
少しだけ安心しました。ただでさえトロい私です。また何かやらかしてしまってこれ以上Pさんに嫌われてしまっては生きていけないかもしれません……。
「Pさん……、次はいつお会いできますか?」
私が尋ねるとPさんはちらっとだけこちらを見た後、しばらく無言のまま車を走らせていました。
「……今は仕事中です。その呼び方はやめてください」
「す、すみません……」
赤信号で停まった時にPさ……プロデューサーさんに窘められてしまいました……。
「以前、お約束したはずです。いつどこに誰の目があるかわからない世の中です。注意してください」
「はい……」
私とプロデューサーさんの関係が始まった夜に約束をしたんです。名前で呼ぶのはプライベートの時だけ、仕事にプライベートは持ち込まないって。
私は……そんな約束すらも守れないんです。このままでは本当にプロデューサーさんに見捨てられるかもしれません……。ただでさえ良くは思われていないのに……。
「着きましたよ。今日もよろしくお願いします」
「あ、はい……」
お仕事の、始まりです。
◆
「ふぅ……」
「お疲れ様でした」
今日の分の撮影を終えた頃にはすっかり夜になっていました。
「お疲れ様です、プロデューサーさん」
多忙なプロデューサーさんは私を送り届けたあと別に現場に行っていたのですが、撮影が終わる頃に戻ってきてくれていました。
今日はこのまま一人で帰らなければいけないと思っていた私にとっては嬉しい誤算です。
「では送っていきますが、ご自宅で良かったですか?」
「いえ、明日の資料を受け取りたいので事務所にお願いします」
……本当はそんな資料なんてないのですけど、私の自宅に寄ってもらうと遠回りになってしまうので、事務所に直接戻ってもらった方がプロデューサーさんの負担が少ないと思ったんです。
「わかりました。では、シートベルトをお願いします」
「はい」
朝と同じように沈黙に包まれる車内。朝と違うのは沈黙を破ったのがプロデューサーさんの方でした。
「今日はお疲れ様でした」
「ありがとうございます。プロデューサーさんのご期待に添えられたかは分かりませんが……」
「プロとして素晴らしい出来でした」
「では……ご褒美が欲しいな、なんて……」
ふと、少し前に事務所で聞いた話を思い出したんです。なんでも、アイドルのみんなはお仕事頑張ったらご褒美と称してプロデューサーさんに色々してもらってるって。
「……」
私がそう言うとプロデューサーさんは苦い顔で押し黙ってしまいました。
「あの……ダメ、ですか……? プロ……Pさん……?」
「今日は忙しいので……明日で良いですか?」
「はいっ……!」
なんでも言ってみるものですね。しばらく会えないかと思って覚悟していたんですけど、思ったよりも早くPさんに会える事になりました。
◆
「お疲れ様です……?」
ある日の事です。その日はオフだったので数日前にPさんと会えた事を思い出しながら溜めていた家事をしていた時でした。
ちひろさんから電話が入ったんです。今すぐに事務所に来てほしいと言う電話が。
何かミスをしてしまったのかと思い、慌てて事務所に向かうとそこには一冊の週刊誌を囲むように社長、ちひろさん、プロデューサーさんが居ました。
「あの……」
「この記事ですが、身に覚えはありますか?」
「え……?」
ちひろさんから見せられた記事に写っていたのは、紛れもなく私でした。顔はあまり鮮明とは言えませんが、自分の記憶と照らし合わせてみればいつ撮られたのかはっきりわかりました。
数日前にPさんと一緒に過ごした時のものです。
「『人気アイドル三船美優。熱愛発覚か!?』だそうです」
ちひろさんが淡々とした声で記事の煽り文を読み上げます。
私は震えながら俯くことしか出来ませんでした。
「……アイドルも人間です。ですが、夢を売る職業だという事は理解して頂けますよね?」
「……はい」
ちひろさんからかけられる厳しい言葉を聞きながら、週刊誌の記事と写真に目を通してほっとしました。
この記事から私は特定出来ても、Pさんの事は特定出来ませんでした。不幸中の幸いです。
Pさんの顔は写っていませんし、週刊誌も私の隣の男性をPさんとまでは特定出来ていないみたいです。
「お相手の方、教えて頂けますね?」
「……いやです」
「……はい?」
この場にPさんが居るのに私に尋ねてくると言う事は、事務所もまだ私とPさんの関係を知ってはいないのでしょう。
「お相手の方に迷惑がかかります……ですから、お答えできません」
すでにこうして一緒に居るところを写真に撮られてしまった時点でPさんには迷惑をかけてしまっているのですが、これ以上の迷惑はかけられません……。
「はぁ……。あのですね、美優さん。これは事務所として対応しなければいけない問題なんですよ?」
すっかり呆れ顔のちひろさんと、ちひろさんの言葉にゆっくりと頷く社長。……相変わらず無表情のままのPさん。
「……どうしましょうか、プロデューサーさん」
「そう……ですね。三船さんが言いたくないと言うなら仕方ありません。一度三船さんには自宅謹慎してもらいましょう。仕事もほとぼりが冷めるまではキャンセルと言う事で」
ちひろさんと同じように淡々と話すプロデューサーさんを見て安心しました。
「……そうですね。美優さんから事情が聞けない以上、私達ではどうしようもありませんし」
一瞬、ちひろさんのプロデューサーさんを見る目が険しくなった気がしましたが、とりあえずは私が自宅謹慎する事でなんとか進みそうです。
……でも、こうなってしまった以上、もうPさんとは会えないんですね。
◆
「これで……良いかしら」
手書きの手紙なんて書くのはずいぶんと久しぶりでしたけど、ブログに挙げるわけにも行きませんし、何より確実に私とわかるものじゃなければ意味がありません。
Pさんの事は伏せて、今回の事のすべてを書きました。
すべて私が悪くて、Pさん……お相手の方に非は一切ない事を私の言葉で真剣に書いたつもりです。もちろん、これで納得してもらえるとは思っていません。
なので、責任をとるために辞表も一緒に封筒には入れておきました。
「これで……あとは私が消えてしまえば大丈夫……」
ポストに、万が一にも戻ってくる事の無いようにたくさん切手を貼った封筒を投函しました。
これで……すべて終わるんです。
「どこに行くんですか?」
私がポストから立ち去ろうとすると後ろから声をかけられました。
「……どこでしょうね」
今、一番聞きたくない人の声でした。せっかく諦めたつもりだったのに、声を聞いたら諦められなくなってしまいます……。
「……」
Pさんは無言のままで私の事を見据えています。相変わらず冷たい無表情なままで。
「ご迷惑をおかけしました……」
頭を下げたところで今回の件が無くなるわけじゃないです。Pさんに……プロデューサーさんにかけた迷惑は計り知れないと思います。
「……」
頭を上げると、やはり先ほどと同じ冷たい無表情なままのプロデューサーさんが居るだけで、他にはなにもありませんでした。月もどこかへ行ってしまい、夜の闇ばかりが広がっています。
「……私は」
言うつもりはなかったんです。でも、これで最期なら……最期のワガママくらい許されると思ったんです。
「私は……まやかしでもPさんに愛してもらえて幸せでした」
好きな人が私だけを見てくれる。それだけで私はとても幸せでした。例え、その目が私を見ていなかったとしても。
「……さようなら」
何も言ってくれないPさんに別れを告げ、このままどこへ行こうかと歩を進めた時です。
「貴女と居ると……」
「え……?」
「月が綺麗ですね」
月なんて見えないのに、Pさんはそんな事を言ったんです。『月が綺麗ですね』と。
「どう……して……!? どうして今更そんな事を言うんですか……!?」
ずっと我慢してきた涙が溢れてきます。仕事でもプライベートでもPさんに迷惑をかけたくなくてずっと我慢してきたのに。
「俺は……美優さんとあんな関係になりたくありませんでした。……仕事じゃなくて、ちゃんと貴方を愛したかった」
私をそっと抱きしめながらそう言うPさんの表情は出会った時のような優しいものでした。
「好きになった人の幸せのためならなんでもする。そう決めた俺はどこか狂っていたんだと思います。だから……あの時の美優さんのワガママを受け入れるしかなかったんです」
きっと、私が最初のワガママを言ったあの日にPさんは壊れてしまったんでしょう。プロデューサーと言う自分の立場と、Pさん自身の想いの両方で揺れてしまって。
「全部……私のせいだったんですね……」
「貴女は何も悪くないです。決められなかった……俺のせいです」
自然と私を抱きしめる腕に力が入り、少し痛いくらいです。でも……その痛みさえ今は心地良くて……。
「貴女と居ると月が綺麗ですね」
Pさんは私を抱きしめながらもう一度言いました。
「死んでもいいわ」
……だから私はそう答えたんです。
◆
『昨夜未明、男女が折り重なるように死んでいるのが発見されました。死体からは身元を判別する所持品は発見されておらず、警察は身元の特定を急ぐとともに、事件と事故両方の可能性があるとして、当時の状況を詳しく調べています』
『次のニュースです。突如活動中止を発表した人気アイドルの三船美優さんの所属事務所は未だ沈黙を続け――』
End
以上です。
頭のおかしい話を書きたくなったから書いた。反省はしているけど、後悔はしていない。
ですが……美優Pの皆さま、本当に申し訳ありませんでしたっ……!
次は……次はちゃんと美優さんが幸せになれるような話を考えますので……!
また、不快に感じられた方々には深く謝罪申し上げます。
ですが、お読み頂けたならばば幸いです。依頼出してきます。
悲しいなぁ
おう絶対書けよ。書かなきゃ死ぬぞ、美優さん抜きで
あ、乙
SSくらい美優さんを幸せにしてやって
美優さんはこういう話だとめっちゃ映えるなあ乙
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