チエリエルドロップアウト (51)


※独自設定あり、キャラ崩れ注意


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 最近何だかおかしいんです、と緒方智絵里は喋りだした。小日向美穂が智絵里に相談を聞いてほしいと頼まれたのは定期レッスンが終わったところだった。
 いつも控えめで抱え込みがちな智絵里に相談を頼まれたとあれば、断る理由なんてない。それでなくとも美穂という人間は頼ってもらったことに対して無下にするようなことは無いのだけれど。
 悩める子羊を救うのは天使として当然であるということを鑑みるとやはり美穂は天使であるという証明であった。巷で話題の魔界天使ミホリールである。

 おかしいんです、と言ってから目をキョロキョロと動かして言い淀みながら、言葉を逡巡している智絵里を見て美穂は静かに微笑みながら見守ることにした。
 下手に言葉を引き出そうとするよりも待ってあげたほうがいい。無理に聞き出そうとしても智絵里を焦らせてしまうだけであり、それならば智絵里のペースで喋らせてあげることこそが正解だ。
 暫くして、ようやく智絵里は美穂にまっすぐ視線を向けた。


「実は──翼が、黒ずんでいるんです」

 …………………。
 ん? んん?? んんん???
 目を何度か擦る。何を言っているのか理解が及ぶよりも前に──いやもう本当にそれ以前の問題としてなんだかとても衝撃的な光景が広がっているような。
 智絵里の背後に何かある、というか、背中から直接何か生えているような。なんとなく黒ずんでいるように見える白い翼のようなものが生えているような。

 いや、いやいやいや。
 そんなバカなことがあるはずない。人間に翼は生えていない。羽なんてない。
 だいたい、智絵里はまだ翼が黒ずんでいるんです、と言っただけだ。何の翼がとは言っていない、自分に生えた翼だなんて言っていない。きっと小道具の翼が汚れてしまったとか、そういうあれで。


 ぱたぱた。ぱたぱた。

 …………………。
 羽ばたいてるー!?

 今目撃している光景がはたして現実なのか、もしかして全て夢だったりするんじゃないか。そういや今日はまだお昼寝していなかったし、こんなに良いお天気なのにお昼寝していないなんてそれこそ嘘みたいなお話だしきっと夢だそうだ。
 つねり。
 痛い。
 つまり夢じゃなかった。

 こうなってしまえばもう現実を受け入れなければならない。幸いにも辛く悲しいものではない、どちらかと言えば幸福なものかもしれない。
 何せ美穂が今見ているものは──天使の翼、かもしれないのだから。

「あの、私どうしたら……!」

「ごめん智絵里ちゃんちょっと待ってほしいかな」

「はい。……あ、わっかも少し黒ずんでる。拭いとかなくちゃ」

「あははそうだね汚れは拭かないといけないよねそうだよね」

 智絵里の頭の上に金色に光るわっかが突然何もない空間から出てきたけど今さら気にすることではない。頭の上からひょいと動かしてハンカチで拭いたら簡単に汚れが取れていってるけど気にすることではない。気にしちゃいけない。
 これ以上は処理が追いつきません。
 美穂は智絵里から目をそらして、心を落ち着けるために深呼吸をする。
 吸ってー、吐いてー。
 吸ってー、吐いてー。
 よし、落ち着いた。いや、正直なところまだ戸惑いを隠しきれていないけどそこはもう、慣れていくしかない。

「智絵里ちゃん。……えっと、その、翼が黒ずんでいるんだよね?」

「はいっ、そうなんです! 私、もしかしてこのままだと堕天しちゃうんじゃないかって不安で──」

 蘭子ちゃん以外から堕天なんて言葉をまさか聞くとは思わなかった。

「お、落ち着いて智絵里ちゃん。とりあえず原因を考えてみよう? 天使(?)のことはよくわからないけど、まずは原因を特定しないと」

「あ、は、はいっ……私、戸惑ってばかりで、そんなこと全然考えていませんでした……さすが美穂ちゃん、いえ、ミホリールちゃんです」

「待って」


「?」

 智絵里はきょとんと首を傾げる。可愛い。いや違う、そうじゃない。

「待って。え、ちょっと、待って」

「え? どうしたんですか、ミホリールちゃん。そういえばさっきから様子がおかしいですけど……」

「それ、その、ミホリールってなに?」

「え、ミホリールは美穂ちゃんの天使名ですよね? プロデューサーさんが言ってましたよ。『あーマジ小日向ちゃん天使、マジ聖天使ミホリールだわ』って」

「なな、何を言ってるんですかあのプロデューサーさんは! も、もう、天使だなんてそんな褒めすぎ──」


 ──じゃない!!
 照れている場合じゃない!!

「あの、もしかして智絵里ちゃん……私が天使だと思ったから翼を?」

「はい。そういえば美穂ちゃんは翼、何枚ですか? 私は階級が低いので二枚ですけど、ミホリールちゃんならきっと十二翼の熾天使なんだろうなぁ」

「過大評価がこわい」

 ちなみに、十二翼の天使は後に堕天して魔王になるといわれている最上位かつ特例な天使であるのだが、美穂はそんなものは知らないし智絵里もそこまで深く意識をして言っているわけではない。

 とにかく、誤解を伝えなければいけない。自分は天使ではないと。……智絵里が人間ではなく天使であることをいよいよもって認めないといけなくなるが。
 まさか正体がバレたからにはその人は消さなければいけない、なんてことはないだろう。……ないよね?

「あの、智絵里ちゃん。凄く言いづらいことなんだけど……」

「なんですか美穂ちゃん。実は天使じゃなくて人間だったなんてことはまさかないですよね……? もしそうだとするなら少し、残念なことになるけど……」

 選択肢を選び損ねたかもしれない。
 そもそも始まりであるところの智絵里から相談を受けたという時点で選択を既に失敗していたのかもしれないけれど。
 いや、まだ希望は捨ててはいけない。
 希望というものは捨てた時点でその人間にはやってこないもの、とまで言ってしまえばそれはさすがに過言でしかないけれども、とは言え希望をしないものに対して神はきっと微笑まないだろう。
 志して目指すからこそ人の夢は叶うように、願うからこそ願い事は叶う。

 ガチャは引かなければ出ないのだ!

「ち、ちなみに残念なことってどんなことなのかな……?」

「……上司からのお叱りと始末書です」

 残念なことになるのは智絵里だった。

 さて、智絵里の始末書が決定してしまったところで話を再び元に戻すことにしよう。智絵里の翼が黒ずんでしまっている理由が何なのか、という話題に。
 ……まさか自分の人生の中で天使から翼が黒ずんでいるけれどどうしたらいいだろう、なんて相談を受ける日が来るとは美穂はこの日まで露ほどにも思っていなかったであろうが、人生とは往々にして思うようには進まないものである。

 とは言っても、そもそも翼が黒ずんでしまうシステム自体が美穂には理解の外であり、だから相談を受けたところでどうしようもないのかもしれないけれど。
 しかし智絵里が困っているということは確かなのだろうし、人間である自分には理解できないかもしれないけれど、それでも何か力になれればとは思う。


「実は翼が黒ずんでしまうことに──穢れてしまうことに、心当たりがないわけではないんです」

「そうなんだ! その心当たりって?」

「そ、そんな……そんな恥ずかしいこと言えませんっ! 禁忌に触れるべからず、です!」

 禁忌とまで言うほどの恥ずかしいことって一体。
 とは言え、それでは話が進まない。言いたくないことであれば無理に聞き出すようなことなんてしないほうがいいのかもしれないけれど、しかしそれではわざわざ美穂に相談をした意味がなくなる。
 美穂も頭を悩ませる。
 さて、どうしたものか──

「李衣菜ちゃんのことを好きになってしまったなんて、言えませんっ!」

 油断していたらハードパンチを喰らってしまった、みたいな感覚だった。
 藪を突っつけば蛇が出るとはよく言うけれど、藪を突こうか考えていたら向こうから襲いかかってくるなんて思いもしない。それもとびきりの大蛇だ。

 いや、美穂がそう言った嗜好に対して差別感情があるわけではない。もちろん理解できているのかと言われるとわかっていないし、そもそも美穂は恋愛感情というものをはっきりとわかっていない。
 自覚症状のない病状のように、誰かを想っていることはあったとしても、それをはっきりと自覚するほどではない。
 だから智絵里がはっきりと李衣菜のことを好きだと言えることに対してはむしろ凄いことだとすら思っている。

 しかしその一方で一般的な価値観を持つ美穂には、あまりにも衝撃の大きいものである。差別的感情、ではなくて。
 まさか智絵里が李衣菜のことを好きだった、ということである。
 同じ部活の仲間でホモだと公言してきた友達が、実はうちの女子マネージャーのことが好きなんだ、とか言ってきたら普通にびっくりする。そういうことである。
 美穂だって正直に言えばこの衝撃の発言の主が前川みくだったら、『あ、やっぱり』となっていた。そういうことである。

「え、えっと……いつからなのかな?」

「Masque:Radeで同じユニットで活動して、ハロウィンで一緒に仮装して、そうしている内にいつの間にか──李衣菜ちゃん、優しいし、格好いいし……美穂ちゃんもそう思いませんか!?」

「そ、そうだね……」

「えへへ、ですよね。でもだめです、李衣菜ちゃんはあげませんからっ」

 あはは、と、曖昧な笑顔を浮かべて誤魔化す美穂。恥ずかしくて言えないどころが実は言いたくて仕方なかったんじゃないのだろうかとも思ったが、口には出さずになんとか黙りとおした。

 話は戻るが翼が穢れている──だったっけ。それと李衣菜を好きになったことに、どういう関係性があるのだろう。
 確かにそれはまあ多少珍しいことではあるかもしれないが、誰かが誰かを好きになるというのは当然の感情であるのだし、それが原因というのには、どうにも美穂の中でうまく当てはまらない。

 しかし、それはあくまでも美穂の価値観であり──つまり、人間の価値観だ。
 根本的に、違う。
 人間と天使は、違う。
 たぶん。きっと。違う。天使的には違うんじゃないかなあ、わかりやすい設定として違わないといけないよね、みたいな。価値観の相違があるはずだよね、と美穂は強引に結論をつけた。


「それにしても、やっぱり李衣菜ちゃんが寝ている隙にさこつにキスをしたのがいけなかったんでしょうか……?」

 訂正、人間的にもアウトだった。

 あわあわあわ、と美穂が赤くなる。智絵里ちゃん凄い。寝込みを襲うなんて凄く大胆。やばい。凄い。というか、光景を想像しちゃうからしばらく李衣菜ちゃんの顔見れないかもしれない。やばい。
 純情無垢、清廉潔白な少女である美穂にとって、鎖骨にキスをするということは物凄く恥ずかしいことに聞こえた。

「あ、あの、あの、やっぱりそういうことはお互い起きているときにするべきなんじゃないかなって!?」

 合意の上で鎖骨にキスをするとなるとそれはそれでレベルの高いプレイにも聞こえるが、残念ながら美穂の性的知識は保健体育のそれレベル程度にしか到達していない、一般的かつ常識的な模範生であるためにわかっていない。

「そう、だよね……やっぱり寝込みに襲うなんておかしいですよね……」

「え、あ、いや、襲う……?」

「わかっています、美穂ちゃんの言うとおりです。私は寝込みにさりげなくきすまーくをつけることしかできない、卑怯者の天使です……」

「いや、そんなこと言ってない……」

「うう、こんな、こんな私なんて──堕天して地獄に落ちますぅぅ……!」

「勝手にネガティブ思考に陥らないでー!? ちょっ、シャベルを床に当てても掘れないから、タイルは掘れないから、ストップ、ストップー!!」

「アイドルならどんなとこでも掘って掘って堀り抜いて、突き抜けるのが常識なんですっ!」

「私は掘れないけどね!?」

 ああもう、どう収集をつければいいんだ。智絵里がこんなことになってしまっては自分には処理ができない。こういうときにこそみくや未央のような人間が必要なはずなのに、何故か誰もやってくる気配がないし。
 ……いや、本当、なんで誰も来ないのか。
 レッスン後の時間帯と言えば仕事上がりの子であったり、他所のレッスンルームを使っていた人間がやってきてもおかしくないというのに。
 何かがおかしい──はっ、まさかこれも天使の力なの!?

 ──ババーン!

 なんて、いい具合に美穂の頭もこの空間に慣らされてしまっていたところに、大きく扉が抉じ開けられる音が響いた。

「はいどうもデレタリングでーす。……あ、これ、看板見せにくるだけの仕事だし、もう帰っていい?」

 《デレタリング》と大きく太文字で書かれた看板を持つ、双葉杏がいた。

「で、デレタリング……?」

 状況を読み込めない美穂は、智絵里のほうと、杏のほうを交互にみやる。
 看板にはデレタリングの文字。
 シンデレラガールズをモニタリングの略称でデレタリングであり、某テレビ番組とは一切関係ない346プロダクションオリジナルコンテンツ、ルールーにてシリーズが絶賛公開中の人気番組である。
 ところでかな子はカメラの端のほうでお茶とお菓子をてきぱきと人数分用意している。気のせいか人数分の割に量が幾分多いようにも見えるが、思春期女子にとってお菓子は別腹、いくらでも食べられるものであるから是非もない。

「そ、デレタリング。今回は、美穂ちゃんは智絵里ちゃんに禁忌の感情を告げられたときどう反応するのか、だったよ」

「え……ええっと、それならつまり?」

「李衣菜ちゃんのことは、好きじゃありません。……あっ、もちろん、お友達としては大好きですよっ、本当、本当です! ぐーたっちしてますから!」

「謎の基準だねぇ……だいじょーぶだよ智絵里ちゃん、視聴者も美穂ちゃんもそこは嘘だって思ってないから。ね?」

「うん、それはもちろん」

「ほっ……それならよかったです」

 ところで机の上ではいつの間にかホールケーキが置いてある。さっきまであんなものは存在していなかったとは思うが年頃の女の子はお菓子を錬成できると言われているので何もおかしくはない。

「ま、美穂ちゃんは期待どおり優しい対応と、テンパってくれたから。これはもちろん智絵里ちゃんの設定、脚本をした杏にも特別手当てがあるよね? え、手当てはそこのお菓子、ケーキ? いやいやいやっ、現金、マネーは!?」

「美味しいから大丈夫だよ?」

「……美味しいなら大丈夫か!」

 あれ? 杏ちゃん洗脳されてない?

 後日談。或いはオチ。

「ところであの翼ってどうやって出したの? マジックみたいな感じかな」

「え? あれはこうやって、空間の認識を弄ってしまえば……はいっ」

「………………え?」

「厳密には出現をさせているんじゃなくて、人間の視角認識の誤魔化しを解除しているだけなんです」

「………………えっ?」




おわり

魔界天使チエリール・アリエス。なんでもないです。
ガブリールドロップアウトではヴィネットちゃんが可愛くて好きです。だらしなくするからお世話してほしい。
それでは

書き方がいつもの人っぽいなと思っていたらいつもの人だった

美穂が可愛い智絵里が可愛い素晴らしい

ゴミマスカキ豚ってすーぐ他の作品剽窃してタダ乗りするからゴミ

へそフェチ幸子の人かな乙

乙乙
やはりチエリエルは天使
ところで翼が穢れてるなら実際にそういう感情があるんじゃ…

あとめっちゃ見覚えあるし前に読んだとき好きだって思った筈なんだけど思い出せぬ

ミホリール前に見た記憶あるぞw
こういうコメディすき


堕天して魔王にジョブチェンジしたの、まさかちh(消し炭にされる音)

クソだわ

クッソかわいいわチエリエル もっと書くんだ

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