※注意事項※
このSSはアイドルマスターシンデレラガールズの二次創作です。
続き物ですので、前作(【モバマスSS】あやかし事務所のアイドルさん【文香(?)】)を先に読んでいただければ幸いです。
登場するアイドルの多くが妖怪という設定になっております。
それでも構わない、人外アイドルばっちこい!という方のみご覧下さい。
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むかしむかし、ある所に人の記憶を食べる一匹の妖怪がおりました。
名前を文香といいます。
自分でつけた名前ですが、彼女は自分の名前が結構お気に入りでした。
記憶を食べたり、それを纏めた本を読んだりしながら何百年間も過ごしてきた文香でしたが、ひょんなことからアイドルにスカウトされてしまいます。
それだけでも驚きですが、なんとその事務所のアイドルたちはみんな妖怪だというではありませんか。
今回は文香と個性豊かな、豊かすぎるアイドルたちとの出会いのおはなしです。
あやかし事務所のアイドルさん 第2話:文香と愉快な仲間たち
アイドル見習いとして事務所にやってきた文香。
期待と不安に胸を膨らませる彼女を迎えたのは、プロデューサー(歯形付き)と少しむくれている少女(自称狼女)でした。
「おはようございます文香さん。予定よりも少し早い到着ですね、いいことです。今日はアイドルとして活動を始める前に、何点か確認をさせて頂こうと思います」
昨日も使った応接室に入ると、プロデューサーは乱れた着衣を整えて何もなかったかのように挨拶をしました。
「おはようございます。あの……傷は大丈夫ですか?」
なかったことにはできませんでした。
「…はい、問題ありません。慣れていますから」
「手加減はしましたから大丈夫ですよ。甘噛みです」
「加害者が言うな。それに少しとはいえ血が出たんだが…」
「久しぶりだったのでつい…そんなことより文香さんが置いてけぼりですよ、確認事項はいいんですか?」
「…んんっ、失礼しました。いくつか質問をさせて頂きます。答え難いことはノーコメントでも結構ですので」
「は、はい、分かりました。よろしくお願いします」
「食べ物や飲み物でこれだけは無理というものはありませんか?」
「それはない、ですね。食は細いほうです」
「では日光や雨などが苦手ということはないですか?」
「ないですね……雨の日は少し憂鬱ですが、雨上りの空はむしろ好きです」
「特定の物がさわれない、見たくない、臭いが駄目などということは?」
「いえ、そのような経験も特には……」
「文香さんは目立った弱点や苦手なものがないんですね。奏さんが聞いたら羨ましがりそうです」
「奏はなぁ…人気もあるしもっとメディアへの露出も上げたいんだが」
「弱点のバリエーションが豊富過ぎますから…ただ、鏡やカメラに写らない体質を克服できているのは凄いと思います」
「そこはアイドルになれるかどうかの瀬戸際だったからな、よく頑張ってくれたよ」
話題に出ているアイドルの詳細が少し気になる文香でしたが、話が次の質問へと移ったため、疑問は置いておくことにしました。
「すみません、話が逸れました。では…【記憶を食べる】ことについてですが、その頻度について教えて頂けますか?」
おそらく一番聞きたかったのはこの話なのでしょう。
心なしか空気が張りつめたような気もします。
「……間隔としては大体数ヶ月に一度、です。半年以上食べなかったことはありません」
「なるほど。最後に記憶を食べたのはいつになりますか?」
「二ヶ月ほど前になります」
「ではそろそろ食べたくなってくる頃と」
「そう、ですね……昨日はそのつもりで街に出ていましたから」
質問に答えていると、文香はプロデューサーに尋ねたいことがあったのを思い出しました。
「あの……私からも一つ、質問をよろしいでしょうか?」
「ええ、構いませんよ」
「実は私は、昨日の喫茶店でプロデューサーさんの記憶を食べようとしました。まずはそれを謝らせてください、申し訳ありませんでした」
「…文香さんが妖怪だということを明かした時、ですよね?」
「はい。ですが、チカラは弾かれてしまいました。あんなことは初めてで……プロデューサーさんは陰陽道など修められているのですか?」
「いえ、そのような訓練は特には…」
プロデューサーが答えにくそうにしていると、横で聞いていた肇が話に加わってきました。
「プロデューサーさんは小さい頃から妖術のたぐいに耐性があってですね。さらにわた…コホン、それを面白がった妖怪たちが色んな妖術をかけようとするうちに、どんどん抵抗力が強くなったんですよ」
「耐性とやらのおかげで命拾いしたこともあるから文句は言いにくいが、どうも釈然としない…」
「なるほど、そんな方もいらっしゃるのですね……?」
疑問が解決したその時、文香は少しだけお腹が膨れるのを感じました。
「どうかされましたか?」
「いえ、その、記憶を食べた時ほどではないのですが、少しだけ空腹感がやわらいだ気がしまして……」
「ふむふむ…仮説ですが、文香さんの空腹感は知識欲と関連があるのかもしれませんね。最も効率的な手段は人の記憶を食べることなのでしょうけれど、読書などでも少しは補うことが出来るのではないでしょうか」
「試してもらう価値はありそうだな…文香さん、読書はお好きですか?」
「好きです、とても。今までは自作の本を読み返してばかりいましたから、色んな書物を読めるならば是非お願いしたいです」
「ではこちらでもいくつか見繕っておきましょうか。代金は経費にもできますから、文香さんが本を買われる時には領収書を忘れないようにしてください」
プロデューサーのその言葉はまさに天の恵みで、これまではお値段の問題で読めなかった本も読めると思うと文香の気分は高揚してしまうのでした。
後日、読書に夢中になりすぎてレッスンに遅れた文香に特大の雷が落ちたりもするのですが、それはまた別のおはなし。
その後も寮についてなど色々と話していると、気付けば時間はお昼前になっていました。
「今日聞いておきたかったことは以上です、お疲れ様でした」
「はい、お疲れ様でした。色々と気を使って頂いてありがとうございます」
「いえいえ、文香さんは注意しないといけないことが少ないようで安心しました」
「むぅ、まるで私たちは手がかかる、みたいな言い草ですね」
「それは否定できないな…」
二人の気安いやり取りに文香はくすりとしてしまいました。
プロデューサーの耐性についても肇から説明してくれましたし、幼いころからの付き合いなのかもしれません。
文香がそのことについて尋ねてみようか迷っていると、部屋にノックの音が飛び込みました。
プロデューサーが返事をすると、猫耳を付けた少女がひょこんと覗き込んできました。
「Pチャン、集まれるメンバーはみんな揃ったけど、まだ待ってた方がいいかにゃ?」
「お、もうそんな時間か。ちょうど終わったところだからすぐにそっちに行くよ」
猫耳少女と目が合った文香がお辞儀をすると、元気な返事がもらえました。
「はじめましてにゃ!自己紹介はあとでみんなと一緒に…って、あれ?この気配…」
猫耳少女は何故か涙目になってプロデューサーに詰め寄りました。
「ちょ、ちょっとPチャン!?話が違うにゃ!次こそマルヒを狙うって言ってたじゃん!」
「今回もやってたのか…ああ、お察しの通りマルヨだ」
「ガーンだにゃ…みくのハーゲン〇ッツ…」
猫耳少女は耳としっぽを力なく垂らしてしまいました。
何か悪いことをしてしまったのかと文香がおろおろしていると、肇が苦笑しながら説明してくれました。
「ええと、恒例行事なんですが次にスカウトされるアイドルが人か妖怪かで賭けをしていたんです。それっぽさを出すために人ならマルヒ、妖怪ならマルヨって呼び方にしていまして、みくちゃんはマルヒに賭けていたんです、一人だけ」
「Pチャンから狙いは聞いてたし、今回は一人勝ちできると思ったのにぃ…」
「すまんがお前たちと違って俺は一目で見分けたりできないからな。そんなことより文香さん、全員ではありませんが事務所のアイドル達を紹介しますから行きましょう」
「そんなこととは酷いにゃあ…」
文香たちが応接室を出ると、そこには数名の少女達が待っていました。
慣れない視線に緊張しながらも自己紹介をしようとする文香でしたが、背後から何者かに飛びつかれてしまいました。
「ひゃっ!?」
「クンカクンカ…これは!芳しい古書のか・ほ・り♪キミはあれかな、文車妖妃とかなのかな?ハスハス~♪」
文香が軽くパニックになっていると、先ほどの猫耳少女が助けてくれました。
「はいはいストーップ!新人さんを驚かせちゃダメでしょもー」
べりべりと引きはがされたのはこれまたどこか猫っぽい少女でした。
「うーん残念。あとで続きさせてねー」
「中断させちゃってごめんにゃ、改めて自己紹介お願いするにゃ。あと志希チャンはそこに正座!」
「ぶー、横暴だー」
そう言いながらも素直に正座する少女の佇まいは妙に美しく、正座慣れしているのが一目で分かるほどでした。
「ええと……文香、と申します。ご覧の通り妖怪ですが、種族はすみません、分かりません。本日よりアイドル見習いとしてお世話になりますので、どうかよろしくお願いいたします」
文香がぎこちなく挨拶をすると、暖かな拍手に包まれました。
「それでは私たちも順番に自己紹介をしていきましょうか。改めまして、狼女の肇です。よろしくお願いしますね、文香さん」
笑顔で差し出された手を文香がおずおずと握ると、続いて和服に身を包んだ二人が自己紹介をしてくれました。
「はじめましてー。わたくしは座敷童の芳乃と申しますー。何か悩み事などありましたら、是非相談していただきたくー」
「うち、妖狐の紗枝いいます。よろしゅうお頼もうします~」
見た目を裏切らない二人の大和撫子オーラに文香は思わず感嘆の息を漏らすのでした。
「じゃあ次、みくだにゃ!種族は…えっと、秘密だにゃ!」
あからさまに猫アピールをしているみくは猫又や火車などではないのでしょうか。
少し不思議に思いながらも握手をしていると、正座から復帰した少女が今度はみくに抱き着きました。
「やーん、ちょっぴり足が痺れちゃったー。痺れが取れる道具を出してよミクえもーん」
「だぁれが青いタヌキ型ロボットにゃ!!」
「あはは、ごめんごめんー。ああ、あたしは志希、猫又だよー。よろしくね文香ちゃん」
「は、はい、よろしくお願いします」
猫又は志希の方だったようです。ではみくはなんの妖怪なのでしょうか。
文香の聞きたそうな視線を感じたのか、みくはぷいっと目を逸らしてしまいました。
「ミク、私は狸も可愛いと思いますよ?」
すると色白の少女が正解を教えてくれました。
「あー!何で言っちゃうの!アーニャちゃん酷いにゃ!」
「イズヴィニーチェ。あー、ごめんなさい。でも、狸も猫と同じくらい可愛い、私はそう思いますね?」
「うー…アーニャちゃんは悪気がないから性質が悪いにゃあ…」
ちょっぴり落ち込んでしまったみくは、芳乃になでなでされました。
「ミーニャザヴートアナスタシア。私は、アナスタシアと言います。雪女、です。アーニャはニックネーム、ですね。アーニャと呼んでください」
差し出された手はひんやりとしていました、流石は雪女です。
ちなみにアナスタシアはロシアの妖怪であるキキーモラと日本の雪男とのハーフだそうです。
妖怪社会にもグローバル化の波が訪れているのかもしれません。
「今居るメンバーは以上か。仕事などで今日は会えなかったメンバーとは追々顔合わせをしてもらおうと思いますので」
「はい、お願いします。ええと、肇さん、芳乃さん、紗枝さん、みくさん、志希さん、アナスタシアさん……もとい、アーニャさん。改めまして、どうぞよろしくお願いします」
「おー、一発で覚えちゃった。やるね~」
「記憶力には少々自信がありますので……」
文香がはにかんでいると、お腹がくぅとなりました。
真っ赤になってしまう文香でしたが、助け船はすぐに出されました。
「もうお昼時も過ぎておりますゆえー、親睦を深めるべく食事を共にするのはいかがでしょー?」
「賛成にゃ!久しぶりにみんなで焼肉とかどうかにゃ?Pちゃんの奢りで!」
「たまにはええどすなぁ。プロデューサーはん、ご馳走様どす~」
「異議なーし。食べた後は新作の芳香剤を試させて欲しいな~」
「マロージァナイ…あー、アイスクリーム、沢山あるところだと嬉しいですね?」
「お前たちは遠慮がないな…まあ今日は文香さんの歓迎会だ、豪華に行くか」
事務所は歓声に包まれます。
笑顔の仲間たちに囲まれて、文香も思わず笑みをこぼしてしまうのでした。
「それでは出かける前に、恒例のアレをやりましょうか」
「ですなー」
「今回の音頭取りはアーニャちゃんだっけ?」
「紗枝ちゃんじゃにゃいの?」
「うちの方がちょっぴり先やったから、アーニャはんの番になりますえ」
「あー、分かりました。それではいきますね?せーのっ」
「「「「「「あやかし事務所へようこそ!」」」」」」
ここは不思議と妖怪が集まる、通称あやかし事務所。
文香の物語はまだ始まったばかりです。
今回は以上になります。読んで頂きありがとうございました。
前作の感想など誠にありがとうございました。続きを書くエネルギーをもらえました。
続きの話もおぼろげに浮かんできてはおりますので、まとまり次第書いていきたいと思っております。
乙
読みやすい文章だし人外スキーなので続きが楽しみ
いいじゃんいいじゃん?
奏、弱点山盛りカメラ鏡無効って吸血鬼かー
前作も読んできたわ
妖怪アイドルいいな
続きを楽しみに待ってる
キキーモラて手足が鶏のような老婆の姿の妖精で其れをかたどった人形を大工に仕込まれると家に不幸をもたらすやつじゃん。
働き者の味方で、怠け者を祟る。
日本の雪女ではなくあえて南ロシアルサールカの方が違和感ないのに。
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