【FGO】時計塔若きロードの召喚魔術 (18)

最終章がっつりネタバレにつき注意
前に書いた「【FGO】カルデア所長代理・キリエライトと時計塔の若きロード」の続きと言えない事も無いです

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「せんぱ……いえ、ロード・ロマン。サークルの準備、完了しました」
「ありがとう、マシュ。さて、ここからは成長した俺の力を見せる時だな」

カルデア内部、今は空き部屋となっている一室。
ロード・ロマン、即ち俺は羽織っていたローブを脱ぎ捨て、花緑青のシャツの上で緩んだネクタイを締めなおした。
深呼吸一つ、二つ目に差し掛かったところで、腕に巻いた通信機がけたたましく鳴り響く。

『こちらは管制室。カルデアの全電力、魔翌力を集中させる用意は出来ているよ』
「了解、ダヴィンチちゃん。理論上では必要なのはその半分。使い切ることは無い筈だから、たぶん大丈夫」
『実際に事を起こすのは初めてなんだろう? 転ばぬ先の何とやら、だ』
「荷物はちょっと多いぐらいがいい、ですからね」
『その通り。マシュ、よく分かっているじゃない』
「長い付き合いですから」

カルデア所長代理、マシュ・キリエライトは笑顔を浮かべているが、緊張しているのか指先を擦りあわせている。
……俺も多分緊張している。
額が汗で滲んでいるのが自分でよく分かっている。

「アルテラ。上手くいくと思う?」
「どうだろう、な。私が提供したデータは不完全だ。本体から切り離された私に出来る精いっぱいではある、が……はっきり言って、お前達の言うところのうろ覚えに近い」

室内の片隅で腕を組み作業を見守っていたアルテラは、一見何処を見つめているのか分かりにくい瞳を俺に向けた。
飽くまで冷静な意見に、頭の中がスッと冷えていくような感覚がある。
彼女の言うとおり、これから行う召喚が成功するのかしないのか、誰にも分かっていない。
気を引き締めないと、とシールドを利用した召喚サークルへ向き直ろうとした、その時。

「だが」

アルテラの、声量が弱くとも耳にしっかり届くその声が俺の動きを止めた。

「……私は成功すると信じている。信じたい」

彼女が期待、願望を口にするのは珍しい。
少しばかりの驚きと、感謝。
アルテラの協力があったからこそ、俺はここまでこの計画を進めることが出来たのだから。
嬉しさのあまり頬が緩むが……集中、集中。
これを両立できるほど、俺は器用じゃない。
そして、協力者はもう一人。

「うんうん、アルテラちゃんの言うとおり。私達は、君達が頑張っている姿をずっと見て来たから。大丈夫、きっと上手くいく!」

親指を立て、強気な笑みを浮かべる宮本武蔵。
アルテラ、武蔵、マシュ、それにダヴィンチちゃんを始めとするスタッフ一同。
……うん、彼女達の助力に報い、期待に応えなくてはいけない。
皆にありがとう、と告げ、俺は改めてサークルへ向き直った。

「それじゃあ、やるよ」
『了解。ミッション・レガリアをスタートする。フォローはこっちに任せて!』

シールドに触れる。
魔術回路に火を灯す。

「……素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。祖には我が大師シュバインオーグ。降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」

魔翌力生成に体が反発し、痛みが走る。

「閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する」

魔翌力生成に体が反発し、痛みが走る。

「―――――Anfang」

痛い、痛い、痛い。
だが、この程度。
この程度の恐怖、乗り越えて見せなくては……いや、それでもきっと、彼は俺の事を嘲笑いはしないだろう。
いつも通り、ふにゃふにゃした笑みを浮かべ、しょうがないよ、と慰めてくれるのだろう。

「――――告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の杖に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」

だが、俺はもう素人ではない。
時計塔で魔術を学び、アムニスフィア家からロードの称号を賜った。
自慢したいことがいっぱいあるんだ、何も言わずさっさと出て来い――!
召喚サークルが起動。
宙に光で描かれた魔方陣が浮かび上がり、広がっていく。

「誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者。汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」

その瞬間、カッ、と。
視界全部が白い光に押し潰される。
ダヴィンチちゃんから対閃光用グラスを借りておくべきだった。
……瞬き一度、二度三度。
召喚サークルとして使用したシールドの上に、誰かが立っている。
四度五度、滲んだ視界がはっきりとしてくる。
薄く黄色の入った白髪は床に届き、隆々とした褐色の身体を堂々たる衣装で包んだ男は、その姿に似合わない軟弱な笑みを浮かべていた。

「……これは素直に驚いた。一体、どういう手品なのか、僕に教えてくれないかな?」
「アルテラと武蔵の力を借りたんだ。剪定事象について調べ上げて、知恵をつけ、理論を確立した。後は貴方が英霊の座にいる世界を探し当てて、後は俺のパワープレイ。俺の実力で、無理やりこっちまで引っ張ってきた」
「なっ……うぇぇええええええええええええええ!? 君、自分が何を言っているのか分かっているのかい!?」

立派な格好に対して表情は情けなく、リアクションはオーバーだ。
ああ……懐かしい。

「君はつまり、パラレルワールドに踏み入ったということで、それはつまり、魔術師ではない本物の魔法使い、万華鏡、キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグの至った第二魔法に触れたということだぞ!? 」
「うん、まぁ……そういうことになるかな。凄く修業したんだ」
「はは、あはは……凄く修業した、ね。現存するどの魔術師よりも魔法使いに近づいたかもしれないのに」

呆れたように、困ったように、彼はがっくりと肩を落とす。

「時計塔で修行したのも、全てはこの為だ。だから、これでいい」

そう言うと、彼は照れくさそうに頬を掻いた。
うん、まぁ俺も照れくさいけど。

「……それにしてもロード・ロマンね。そのエメラルドグリーンのシャツといい、僕の真似かい?」
「うん、そうだよ」
「えっ?」

ソロモンが目を丸くして硬直する。
なんでさ。

「それ以外何があるって言うのさ。まぁ、言い方を良くするとリスペクトってやつ。人類の救世主、ドクター・ロマニ・アーキマンに対してね」
「……」

なんで固まってるのさ。

「……そうか。そうか。僕の十年は……無駄ではなかったんだね」
「勿論。貴方がいなければ人類は焼却されていました。貴方の力、再び俺に貸して頂きたい」
「……ああ。ああ、いいとも! よぅし、俄然やる気が湧いてきたぞぅ! っと、自己紹介がまだだった! 僕はキャスター、真名はソロモン! いいよ、何でもやってあげようじゃないか、絶対あの頃よりは楽だしね!」

無論、そのつもりだ。
彼には医療部門のトップとして働いてもらいたい……が。
困ったな、いざ召喚してみると共に肩を並べ戦うと言うのも悪くない気がしてきた。
さて、どうこき使ってやろう。
自分でも悪い笑顔を浮かべているなと思った、その瞬間。
ぽん、と。
ソロモンの大きな手が、俺の頭に置かれた。

「……何さ?」
「マシュも。おいで」
「はっ、はい」

ソロモンに招かれるまま、マシュがやって来て俺の横に並ぶ。
そして、ぽん。
マシュの頭にも、ソロモンの手が置かれた。

「最後まで見届けることが出来なかったからね。当時のカルデアのトップとして……これを言えなかったのが心残りだったんだ。きっと、あのまま終わってはいないだろう? 人類の存続を最後に勝ち取ったのは君達だ」

ソロモンは俺達の頭をひとしきり撫で回した後、背に手を回し。
二人まとめて、力任せに抱きしめられる。

「わっ、わっ! 苦しいです、ドクター!」
「ちょっと、! 俺、もう子供じゃないんだけど!?」

言葉通り、俺もマシュももう二十歳半ばに差し掛かっている。
このようなあからさまな子ども扱いは恥ずかしい。

「二人とも、よく頑張ったね。お疲れ様」

……だが。
だが、ここは年長者の顔を立てることにしよう。
俺は抵抗をやめ、マシュごと彼の身体を抱きしめる。

「……うん、頑張ったよ。だから、うん……おかえり、ドクター・ロマン」
「お帰りなさい、ドクター・ロマン!」
「あぁ……ただいま。もう一度、君達に会うことが出来て、僕は本当に嬉しい……!」

暫くの時間そう過ごした後、ソロモンがふっと顔を上げて照れくさそうに笑って見せた。
なので、俺は彼の背から手を離し、その胸元をとんと押す。

「後でダヴィンチちゃんともハグしてあげなよ。きっと喜ぶから」
「えぇ、レオナルドが? そうかなぁ……」
「あっ、私呼んで来ます!」
「待ってマシュ、俺も行く!」

恥ずかしさがピークだったのだろう、マシュが走って部屋から出る。
俺はそれを追いかけ、少し本気で走って横に並ぶ。

「先輩、やりましたね……! ドクターが帰ってきました!」
「うん、良かった……本当に良かった!」
「でも、まだまだこれからなんでしょう?」
「ああ、次はオルガマリー所長だ! ドクターは第二魔法へ到達すればどうにかなりそう、って目標が合ったけど、所長はどうすれば助けられるのか、さっぱり分からない。でも、絶対に諦めない。マシュ、それでもまだ俺に付き合ってくれる?」
「勿論です、マイ・マスター! マシュ・キリエライトはいつだって、どこでだって、貴方の傍にあります!」

だが、俺にはきっと何とかできるという予感がある。
何故なら、このカルデアに魔術王が舞い降りたのだから。
どんなに苦しくなっても、俺は諦めない。
それだけが、俺の取り柄なのだから。

終わりです。
読んでくださった方がおられましたらありがとうございました
ガバは許して

これピクシブで見た

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