【艦これ】迷子のマックス・シュルツ (40)
めっきり寒くなってきた初冬の昼過ぎ、午後の業務を始めようとしていた提督の携帯に、一件の通知が届いた。
[道に迷った]
12:56
LINEで送られてきたのは、ただそれだけのごく簡単な一言。
送り主は、今日は非番で街に出掛けているらしいドイツの駆逐艦、マックス・シュルツからだった。
このメッセージを受け取ったこの鎮守府のトップ、提督は何も言わずに座ったばかりの椅子から腰を上げた。
大淀「どちらへ?」
提督「街に」
大淀「へ?あの、午後の業務が…」
提督「すまん、任せた」
ただそれだけ言い残して部屋を出て行った提督を、秘書艦の大淀は呆れた様子で見送った。
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]周りに目印になりそうなものはあるか?[
13:00
[分からない、けれど人が多くて、1階建てのお店がたくさんあるわ]
13:01
提督(1階建ての店…商店街か?)
鎮守府のあるこの街には、商店街と呼べる通りは三つほどある。
コートを着込んだ提督は、一番近い商店街に向けて歩き出した。
]分かった。今から行くから温かい物でも食べて待ってろ[
13:03
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
【商店街-A】
提督(…さて)
土曜の午後1時。商店街は人々でそれなりに賑わっていた。
その商店街の入り口、商店街のシンボルである時計台の下で提督は携帯を弄っていた。
]その通りの入り口に時計台はあるか?[
13:17
それだけ送り、すぐに既読が付かないことを確認してから提督は一度携帯をしまった。
提督(普段からこんなところに来る機会はないが、意外と賑わっているんだな……ん?あれは…)
鈴谷「あれ?提督じゃん、めっずらしー!」
熊野「あら本当、ご機嫌よう、提督」
提督「鈴谷と熊野か、今日はお前達も非番だったな」
鈴谷「そういう提督は?サボり?」
熊野「こら、鈴谷…」
提督「ああ、サボりだ」
冗談交じりに返すと、明るい笑い声が返ってくる。間の熊野も笑ってはいるが、苦笑いだった。
提督「マックスを見てないか?」
鈴谷「マックスちゃん?何でまた」
提督「まぁ、ちょっと」
熊野「それでしたら、10分ほど前にこの商店街の奥を抜けて行くのを見ましてよ」
鈴谷「うん、肉まん食べながら歩いてたよ」
提督「そうか、助かった」
軽く礼を言い、提督はマックス・シュルツが向かったと言われた方向に歩き出した。
提督が携帯を見ると、マックス・シュルツからの通知が二件来ていた。
[時計台はないけれど、とても電線が多いわ]
13:24
その一文と、その場で撮ったらしい写真が送られていた。
写真は、上を見上げたアングルで撮られていて、電柱と電線、それと空くらいしか写っていなかった。
提督(商店街からは移動したか…これは…住宅街?)
]さっきの商店街には戻れるか?[
13:27
[いいえ、道が分からなくなってしまったわ]
13:27
今度はすぐに返信が返って来た。
即答するくらい道に迷っているのに、よく歩き回れるものだと提督は呆れた。
彼女はたまに、よく分からない図太さを発揮する。
]そこから動かずに、周りの特徴を教えて欲しい[
13:28
すぐに既読が付かなかったことに嫌な予感を抱えながら、提督はまた歩き出した。
自身が機密の塊だと自覚せず迷子になるマックスがアホの子かわいい
ハイエースからのダンケダンケはよ
【住宅街】
それからしばらく歩き回り、ようやく先ほどの写真の場所と思われる場所に辿り着いた時には提督の嫌な予感は的中し、マックス・シュルツの姿は見当たらなかった。
提督は携帯を開き、先ほどの一文に未だに既読が付いていないのを確認し、溜息を吐いた。
]おーい[
14:05
取り敢えず彼女が連絡に気付くまで休憩しようと思い、提督は近くの公園のベンチに腰掛けた。
そして数分そのまま座っていると、知っている顔が近付いてきた。
利根「おお、提督ではないか!奇遇じゃのう!」
筑摩「こんにちは、提督」
提督「おお、二人も街に来てたか」
探し人とは違ったが、この二人に聞けばマックス・シュルツの居場所の手がかりが掴めるかもしれない。と提督は思った。
提督「いきなりで悪いんだが、マックスを見てないか?」
利根「マックス?ドイツ駆逐艦のか?」
提督「ああ」
筑摩「それなら先ほど見かけましたよ、ですね姉さん?」
提督「本当か?」
利根「ああ、何やらキョロキョロしながら急ぎ足で街の図書館の近くを歩いておったのを15分ほど前にの」
提督「図書館…」
筑摩「何かを追っているというか、探しているというか…何だか、そんな様子でした」
図書館ならばここから歩いて10分程度だ。何があったのかは分からないが、彼女なりに目印でも探していたのだろうか。
提督「分かった、ありがとう。帰り道には気を付けろよ」
そう言って、提督はその場を後にした。
Z3スレとは期待
利根たちと別れてから間も無く、提督の携帯にマックス・シュルツからの連絡が届いた。
[ごめんなさい、ちょっと慌ててて携帯を見れてなかったの]
14:15
]慌てる?何かあったのか?[
14:15
[ちょっとね、もう何でもないわ]
14:16
]何か危ないことに巻き込まれたりはしてないか?[
14:16
先ほどの利根たちとの会話から少しだけ心配していた提督だったが、このやり取りの直後に送られて来た画像でそれは杞憂だったと悟った。
[この子達を追っていたの]
14:17
その一文とともに送られて来た写真には、今度は猫の親子が写っていた。
急ぎ足で歩きながら携帯を見ていた提督は、その場で携帯を落としそうになったのをなんとか堪えた。
提督は忙しなく動かしていた足を止め、道端に避けてから再度携帯を弄り始めた。
]1時間近くも返事がなくて心配したぞ[
14:19
[あ]
14:19
[やだ、こんなに時間が経ってたなんて]
14:19
[ごめんなさい]
14:19
提督は合点が行った。
先ほどの利根達が見たと言うのは、この写真の猫を追っていたマックス・シュルツだったのだろう。
[でも、この子達、可愛いでしょう?]
14:20
]お前の方が可愛いよ[
14:21
安堵と呆れが混じった溜息を吐きながら送ったその嫌味は、果たして文面だけで伝わるだろうか。
一気に終わらせられなくて申し訳ない、今晩はこれまでで
次で終わるくらいには短い内容です
乙
>>]お前の方が可愛いよ[
万里ある
違いないな
[そう、ありがとう]
14:26
既読を付けられて数分、返ってきたのは素っ気ない返事のみであった。
]それで、その近くに図書館があるはずだ。そこに向かって欲しい[
14:28
[どうして?]
14:28
]そこまで迎えに行く、おそらく20分程度で着く[
14:29
[分かったわ]
14:30
今度こそこれで問題はないだろう、そう思いながら提督は三度歩き出した。
その考えは、容易く裏切られることになるとも知らずに。
それから30分、提督は図書館の入り口横のベンチで頬杖を付いていた。
自然と急ぎ足になってしまったせいで、15分もかからずに図書館に着いた提督。だが、その時点ではマックス・シュルツの姿が見えなかったため、こうして待っているのだ。
だが寒空の下でこうして待つのもなかなか辛いものがある。マックス・シュルツは今どこにいるのだろうか。
まさか図書館に戻る道の途中でまた迷子にでもなっているのか。
そう考えていた提督の携帯が、通知に震えた。
かじかんだ手で携帯を開くと、マックス・シュルツから画像と共に一言メッセージが来ていた。
[ここよね?]
15:02
画像は、またマックス・シュルツが撮影したらしいものだった。
市営の建物の入り口、大きく刻まれたその施設の名前は。
]そこ、見ての通り『博物館』なんだけど[
15:03
[?]
15:03
[ここじゃないの?]
15:03
]俺が言ってたのは『Library』、そこは『Museum』だ[
15:04
[あら]
15:04
[ごめんなさい、間違えてしまったわ]
15:05
提督は溜息を吐きそうになったが、今度は堪えた。
彼女に悪気はないのだ。ならば、自分がもっと分かりやすい言い方をすれば良かったのだ。
ただでさえ彼女には、日本のルールに合わせることを強要させてしまっているのだから。
]いや、俺の言い方が悪かった。とにかく迎えに行くよ[
15:06
[分かったわ、それじゃあ、目印になる建物がないか探してくる]
15:06
]いや、その博物館が目印になるから[
15:06
]だから動く必要はないぞ[
15:07
]おーい[
15:10
]おい[
15:15
]おーい!!![
15:20
何故彼女は突然既読をすっぽかすのか。
提督は暫くうなだれていたが、しばらくして険しい顔を上げた。
簡単な話だ。
マックス・シュルツが動くスピードより速くこちらが動けば、距離は近づいて行くはず。
そうと決まれば行動だ。提督は立ち上がり『島風作戦』を開始した。
まずは博物館の方角へ。
【博物館】
提督は腐っても軍人だ。
着いてみれば少し息が上がっている程度で、この距離にしては中々のタイムが出せたと満足気味だった。
しかしそんなことが本題ではない。
マックス・シュルツ。
もうここを離れたであろう彼女からの連絡は、移動中ついに来ることはなかった。
提督(もう一度連絡してみるか)
そう思いながら提督が携帯を取り出したタイミングで、見計らったかのように彼女から連絡が来た。
[目印を見付けたわ]
15:40
[あ]
15:40
[そうね、さっきの所に残っておけば良かったわ]
15:41
[ごめんなさい]
15:41
]いや、いい運動になったかな!![
15:41
提督は最早、何だか楽しくなって来ていた。
独艦に英語で説明する提督
]それで、見付けた目印ってのは?[
15:42
何にせよ、提督がやることは変わりなかった。
場所を聞き、マックス・シュルツが動くより早くその現場に到着する。それだけで彼女との距離はグッと縮まるはずだ。
彼女は何と言おうとその場に留まることはないだろう。そんな確信が提督にはあった。
提督(さぁ、どこだ…一瞬でたどり着いてやる…!)
携帯を片手に、すぐにでも走り出せる体勢を取っていた提督に、目的地が告げられた。
[山よ]
15:43
提督(…それだけじゃ分かんねえよ!!!)
提督は膝から崩れ落ちそうになった。
どんな山か聞こうとしている提督に、追加でメッセージが届く。
文章でなく、写真。
マックス・シュルツが今いるらしいその山の登り口には、見覚えがあった。
提督(あの山か!)
提督は弾けるように走り出した。
目的地の山は、提督にとって馴染みのある場所だった。
学生の頃から冒険で、部活で、トレーニングで、何度も登った経験のある山だった。
何より、山頂から見ることのできる景色が提督は好きだった。
提督になってからは登る機会は無かったが、その景色は今でもハッキリ覚えていた。
提督は、走りながら違和感を覚えていた。
提督(いくらなんでも、動くのが速すぎないか?)
こんなふうにマックスに翻弄されるのも羨ましい
博物館からその山までは、このまま走れば10分程度だ。
しかし、歩けば当然その倍以上の時間がかかる。
そんな場所まで、どうしてこの短時間で。
疑問といえば疑問だが、とにかく提督は走った。
目指しているのは、山の麓…
では、なかった。
提督は10分弱で確かに山の麓に到着したが、その足は止まることはなかった。
登り口を駆け抜け、携帯に届いたメッセージにも目もくれず。
ただ、山頂に向けて走った。
疑問といえば疑問だが、答えは分かりきっていた。
マックス探して三千里
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
【小さな山-山頂】
提督「………見付けたぞ」
山頂に設けられた広場、その入り口に背を向ける形で設置されたベンチに座る探し人の姿に、提督は後ろから声を掛けた。
Z3「…ふーん…早かったのね」
背を向けた少女は、振り向くことなく答えた。
提督「ああ、走って来たからな」
Z3「そうじゃなくて」
提督「バレバレだ。わざと動き回って、俺を煙に巻こうとしてたことも」
Z3「そう…どの辺りで気付いたの?」
提督「…図書館から博物館に移動してる時には、なんとなく」
Z3「ふぅん…意外と気付くのは遅かったのね」
横の少女は、少しだけ笑った。
無造作に少女の隣に座った提督は、目の前の景色を見ていた。
今まで何度も見て来た景色だ。昼の姿も、夜の姿も。
提督「それで、どうしてこんなことを?」
Z3「どうしてかしらね。それより、具体的にどうして私がわざと逃げてると分かったのか教えてくれるかしら?」
提督「…いや、図書館と博物館を間違えるのはないだろ。って…それに、博物館の方向は真逆で、お前のルート的にそっち方面は通ってなかったはずだったからな」
Z3「ふぅん…まぁ、気付くとしたらそんなところよね。…それより、LibraryとMuseumはどうなのかしら、私、ドイツ艦なんだけれど」
提督「俺はドイツ語分からないんでね」
提督はぶっきらぼうに答えた。
今の時刻は17:00分。
太陽が水平線に近づいて来ていた。
Z3「この景色」
提督「…………」
Z3「…貴方は、知ってた?」
提督「…知ってた」
Z3「…………」
提督「……はずなんだけどな」
何度も見て来たこの景色。
昼の姿も。夜の姿も。
しかし。
提督「…夕陽って、あんなに大きかったんだな」
夕暮れの街と、限りない水平線。
それを照ら沈みかけの太陽は、生まれて見たことないほど幻想的だった。
Z3「一緒に見たかったの」
提督「…………」
Z3「……………」
パシャッ、と、カメラの音が響いた。
音は、少女の携帯電話から。視線を目の前の景色から少女に移した提督に何を言うでもなく、マックス・シュルツは携帯を操作する。
間も無くして、提督の携帯に一件の通知。
提督は何も言わず携帯を開くと、一枚の画像が送られて来ていた。
送り主はマックス・シュルツ。
街と水平線、沈む太陽が一望できる、夕暮れの写真だった。
横の少女は、何も言わず景色を眺めていた。
五分ほどそのまま二人で景色を眺めていると、また携帯のカメラのシャッター音がなった。
今度は提督だった。
怪訝な顔をしている横の少女の携帯に、たった今撮影した写真を送信し、携帯を閉じる。
そして、少女に携帯を確認するように目で促すと、マックス・シュルツは素直に従い携帯を開いた。
送られて来た写真は夕暮れの写真だった。
夕暮れに照らされた、栗色の少女の横顔。
提督「綺麗だな」
提督は、目の前に広がる景色を見ながら呟いた。
Z3「……そう」
マックス・シュルツはただそれだけ呟いた。
夕暮れに照らされたせいか、その顔は少しだけ紅く見えた。
【迷子のマックス・シュルツ-終わり】
乙乙
すげー良かったです。またマックスがレーベで書いて欲しい
【おまけ1-おまかわ】
]お前の方が可愛いよ[
14:21
猫の親子の前に座り込んでいたマックス・シュルツは、携帯に送られて来たその一言で動きを止めた。
Z3「ふぅん…そう…」
周囲には猫以外誰もいないのに、何かを確かめるように一人ごちる。
Z3「………ふぅん…」
その口元は、本人も気付かないうちに、少しずつ緩んでいた。
Z3「……そう…そうなの……ふぅん…」ニヤニヤ
その隠しきれないにやけ顔を見た猫の親子は、思わず驚いて逃げ出してしまった。
しかし、彼女はそんなこと気にも止めず、ただ壊れた機械のように反芻する。
Z3「…ふぅん…可愛い…」ニヤニヤ
この後しばらくして意識を取り戻した彼女は、提督に追いつかれないように全力疾走する羽目になった。
乙!
【おまけ2-スクープ】
次の日の午後には、提督が業務をすっぽかしてまで探しに行くほどアツい艦娘がいる。と鎮守府中の噂になっていた。
それが誰か、というのを突き止めるため、鎮守府の噂好きの面々が随分と騒がしくなっていた。
Z3「……だそうだけれど」
提督「艦娘でも恋愛話が好きなのは女子共通なんだな、やっぱ」
Z3「…恋愛話…ね」
提督「お前はそういうの、嫌いか?」
Z3「そうじゃなくて…貴方なら、相手が誰だろうと探しに来てくれるでしょうに、って話よ」
提督「ああ、なるほどね…」
Z3「…………」
提督「まぁ、確かに大変だったな、昨日は」
Z3「ごめんなさい、付き合わせてしまって」
提督「ああ、好きな女からの頼みじゃなかったら、俺だってそんなことしなかったよ」
Z3「ふぅん…まぁ、普通そうよね…」
提督「……………」
Z3「……………」
Z3「………へっ…?」
【おまけ-終わり】
おまけ含めてこれで全て終わりです、ありがとうございました
このSSは昨日の朝に見た夢を元に書いたもので、何とか忘れないうちに書ききれてよかったです
乙です!
マックスで萌え死にそうなSSをありがとう!
そして裏山な夢だ!
おつ
最後に決めるところ決めてて笑ってしまった
乙
駆逐艦と仲良くなる方のスレの更新も待ってます
乙乙
やっぱマックス可愛いわ
このSSまとめへのコメント
マックスが夢に出るとか羨ましいすぎるぞ