雪染「そうよ! 希望ヶ峰学園のOGの人に作ってもらったわ!」
七海「ちさ先生はどうしてそんなものを……?」
雪染「前に日向くんに会ったとき、とても深刻そうな顔をしていたわ。だからこれを用意してみたの」
七海「でもなんで元気(意味深)になるスイッチなの?」
雪染「普通に気持ちを上向きにさせるスイッチの製作を頼んだつもりだったんだけど、相手が何だか深読みしちゃったみたいで……」
七海「元気(意味深)になるスイッチを作ってきちゃったんだね」
雪染「ええ。でも、もったいないから貰ってきちゃったわ」
七海(えー)
雪染「これがあれば日向くんもイチコロよ!」
七海「ちさ先生は日向くんをどうしたいの?」プクー
雪染「ごめんなさい。作ってくれた人が『これがあればその男の子もイチコロでちゅ!』って言ってたからつい釣られちゃったわ」
七海「(でちゅ……?)そんなスイッチで大丈夫なの?」
雪染「一応、普通に元気になる作用もあるみたいだわ」
七海(普通のを作り直してもらえばいいのに……)
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スレタイですでにつまらなそうな件
雪染「ところで七海さん、日向くんとはあれから何度か会ってるの?」
七海「……うん。噴水のところのベンチで一緒にゲームしたり、一緒にゲーセン行ったりしてるんだ」
雪染(放課後デートかしら? 七海さんも隅に置けない子ね)
七海「でも昨日……新作ゲームで一緒に遊ぼうって誘ったんだけど、行かなくちゃいけない所があるからって断られちゃった」
雪染(昨日は本科の校門前で逆蔵くんが日向くんを足蹴にしていたわね……何か嫌な予感がするわ)
七海「『また明日』って言ってたから今日また会えると思うけど……」
雪染「……! それなら七海さん、このスイッチを預かってほしいの」
七海「え、そのスイッチをですか?」
雪染「ええ。このスイッチは効果の出る範囲がそこまで広くないみたいだから、なるべく日向くんに近づいた状態で押さないといけないの」
七海「だから日向くんと会う機会の多い私に……」
雪染「そういうこと。頼めるかしら」
七海「うん。わかった。私に任せて」
放課後、いつもの場所でゲームをして待っていたが、日向は現れなかった。
学生寮へ帰る道すがら七海は頬を膨らませ、ひとりごちた。
七海「『また明日』って言ってたのに……」
七海は気づいていなかった。
『また明日』と約束したのは自分だけで、日向は『またな』としか言っていなかったということに。
そして、今の日向が自由に人と会えるような状況ではないことを彼女は知る由もなかった。
夕食と入浴を済ませた後、七海は雪染に渡されたスイッチを色々調べてみた。
よく見てみると説明書のようなシールが貼られており、このスイッチがどのようなものなのかがそこに書かれていたのである。
七海「へえ。アロマの匂いで周りに影響を与えるんだ……」
どうやらイランイランと呼ばれるアロマオイルの香りを噴霧し、周囲に影響を与える装置らしい。
このスイッチの製作者はアロマテラピーに造詣が深い人物なのかもしれない。
よく見るとスイッチの表面には、噴霧に使うのであろう小さな穴が点在している。
七海「でもこれ、スイッチの形をしている意味がないような気がする……」
アロマの香りを振りまくだけなら、それこそ小瓶やスプレーの形をしていればいいはずだ。
スイッチの形のスプレーにする意味が分からない。
おそらく製作者の趣味なんだろう。と結論づけることで無理やり納得することにした。
いくら超高校級の生徒と言えど、考えても分からないものは分からないのである。
次に七海は、スイッチに使われているアロマについて調べてみることにした。
あいにくアロマや香水といったものに無頓着なため、イランイランと言われてもピンと来ない。
普段はネットゲームをしたり新作ゲームの情報を漁ることにしか使わない尞のパソコンでアロマについて検索する。
七海「イランイランの香りには抗鬱作用や催淫作用があると言われており……さ、催淫!?」
元気(意味深)になるという名前の時点でなんとなくそんな気はしていたが、やはりこのスイッチはいかがわしい物のようだ。
調べてみると確かにイランイランにもリラックス効果はあるようなのだが、官能的やら興奮作用やらその手の単語がやはり目立つ。
スイッチに可愛らしくプリントされた魔法少女風のウサギ(何かのマスコットキャラだろうか?)と内容とのギャップが酷い。
さらにシールの文章を読み進めていくと、別の単語が目に入った。
七海「あ、他にもエストラテトラエノール? っていう化学物質が入ってるんだ」
今までの流れで既にイヤな予感しかしないが、エストラテトラエノールについても一応調べてみる。
どうやら男性が女性を嗅ぎ分けるフェロモン物質らしい。
この雪染はすでに絶望落ちしてそう
七海「ふぇ、フェロモン!? やっぱりいかがわしいよこのスイッチ……」
同級生の花村が媚薬入りエロエロスープなる物を作っていたが、彼といいこのスイッチの製作者といい、才能の使い道を間違えている気がする。
もっとも、ある意味生き物としては間違ってないのかもしれないが。
七海「このスイッチ、押した本人も色々と危ない……と思うよ?」
近くの相手を興奮させるということは、押した本人の身に危険が迫る可能性が高いということを意味する。
製作者はそれを承知の上で作ったのかもしれないが、これを渡してきた先生はその可能性に気づいていなかったのだろうか。
まさかとは思うが、気づいた上で渡してきたのだろうか。
七海「ちさ先生に限ってそんなことはないと思うけど……」
スイッチの効能で自分に襲い掛かる日向を想像してしまい、思わず顔が赤くなる。
日向のあの硬そうな厚い胸板に抱きしめられてしまうのだろうか。
知り合ってから半年も経っていないが、日向のことはクラスメイトと同じかそれ以上に気に入っている。
だが、『そういうこと』を考えたことは今まではなかった。
元々そういった知識はせいぜい年齢制限付きのゲームでしか知らなかったのもあるし、日向のことは純粋に男友達として気に入っていたからというのもある。
七海「うう……ちさ先生のバカ」
変な方向に考えが行く前にさっさと眠ってしまうことにした。
恥ずかしさを紛らわそうと思い切り寝転がったため、ベッドがギシリと小さく悲鳴を上げる。
そのことが呼び水となりまた邪な光景が頭に浮かびそうになるが、頭を振ってそれを追い出す。
そのまま、悶々とした気分のまま七海は眠りについた。
その後も七海は日向を探したが、結局日向が姿を現すことはなかった。
いつものベンチで待っていたこともあったし、予備学科の校門前で待ち伏せることもあった。
予備学科生からの嫉妬の視線を受けながら何日、何か月も待ち続けたが、やはり日向の姿を見ることは叶わなかった。
そうするうちに予備学科生によるパレードが始まり、日向を探すどころではなくなってしまう。
そして1年以上が経過したその日、狛枝とともに向かった地下室にて思わぬ再会を果たす。
【銅像下 地下室】
七海「日向くん……」
カムクラ「……」
七海「日向くん……でしょ? 日向くん、だよね? 髪どうしたの?」
カムクラ「あなたは誰ですか?」
七海「……ッ!」
江ノ島「ハイハイストップ。少女漫画じゃないんだからー。いつまで見つめ合ってるの?」
七海「あ、あなたは……?」
江ノ島「今回の件の黒幕です」
七海(今回の件……? 黒幕……?)
江ノ島「ところで貴女、77期生第1クラスの委員長……七海千秋先輩ですよね?」
七海「そ、そうだけど……」
江ノ島「七海先輩とはぁ、お友達になりたいと思ってたんですよぉ。自分から来てくれるなんてありがとうございまーす」キャピーン
七海(いきなり喋り方が変わった? この人普通じゃないよ!)
七海「な、何を……」
江ノ島「カーンタンなことですよー。ちょっとした映像を見てもらっ……」
その瞬間、地下室に雪染が駆けつけ、江ノ島に向かって消火器を投げつけた。
どうやら消火剤を煙幕にして七海たちを逃がそうとしているらしい。
江ノ島「ちょっと! これって体罰なんじゃないのー!?」
七海「先生!」
雪染「七海さん! 狛枝くんを連れて逃げて!」
七海「でも」
雪染「任せて。私はあなたたちの……先生なんだから」
だが、髪が異常に伸び、自分のことを忘れている様子の日向が気になる。
それに、あの普通とは思えないギャルからは何か危険な雰囲気が漂っている。
このまま立ち去ったとして先生が無事でいられるとは限らない。
さっき彼女が言いかけた『ちょっとした映像』というのもなんだか怪しい。
そのとき、七海はあるもののことを思い出した。
七海(そうだ……前に雪染先生から貰ったスイッチ!)
七海(お願い……日向くんを助けて!)ポチッ
そのとき、スイッチからプシューという大きな音がした。
充満していた消火剤を吹き飛ばすぐらいの勢いでイランイランの香りを含んだ蒸気が噴霧されたのだ。
1年以上使わないまま放置していたせいで噴霧の勢いを調整する機能が壊れてしまったのだろうか。
その場にいる全員がイランイランの香りをもろに嗅いでしまった。
江ノ島「ッ! なにこれ香水!? にしても濃すぎでしょ! くっさ!」
雪染「この匂いは、もしかして……」
カムクラ(何かを嗅がされてしまいましたか……催眠ガスでしょうか、いや)
カムクラ「これは、花の香り……?」
七海(いちかばちかだったけど、日向くんにも匂いを嗅がせられたみたい)
カムクライズルは超高校級の植物学者、そして超高校級のセラピストとしての知識を用いその匂いの正体を探った。
そして、一つの答えに辿りつく。
カムクラ(これは、バンレイシ科イランイランノキ属イランイランノキの花の香りですね。アロマテラピーにも使われ、その香りによる作用は……興奮)
カムクラ「……」ジー
七海「……?」
カムクラ「……」ボー
カムクラ(な、なんなんでしょう……この胸の高鳴りは)トゥンク
日向が七海に感じていた『親しみ』がイランイランの香りによる作用により『思慕』や『性欲』と混線し、表面に現れてしまったのである。
だが、感情の希薄なカムクライズルはその事実に気づくことができない。
日向だった頃の感情なんて本来知る由もないはずなのだ。
そして、スイッチは思わぬ幸運をもう一つ七海らにもたらした。
江ノ島「な、なにこれ、体が熱い……」ハァハァ
見れば江ノ島が膝をついている。息も妙に荒い。
濃厚なイランイランの匂いを思いきり嗅ぎ、発情してしまったのだ。
それに対して七海、雪染、狛枝の3人は花村特性エロエロスープを飲んだ経験により耐性がついていたため、イランイランの影響をあまり受けずに済んだ。
そのことに気づいた七海は叫ぶ。
七海「先生! 今のうちにみんなで逃げよう!」
雪染「……!」
七海「行きましょう! あの子が動けなくなってる今のうちに!」
雪染「わかったわ! 狛枝くんは私に任せて!」
七海「ねえ、日向くん」
カムクラ「……」
七海「日向くんも一緒に行こう? ねっ?」
カムクラ「ええ。そうすることにします」キュン
そのときカムクライズルの足元がふらついた。
彼も強烈なイランイランの香りで意識が朦朧としているのだ。
スイッチの中には男性にしか効果のないフェロモン物質が含まれていたはずだ。見かけによらず江ノ島より辛い状態にあるのかもしれない。
七海「大丈夫!? 日向くん」ガシッ
カムクラ「申し訳ありませんが、肩を貸していただけませんか?」
七海「いいよ。一緒に行こ?」ムニュン
カムクラ「……ありがとうございます(おっぱい)」
ぐったりしている狛枝を雪染が抱え、七海がカムクラを支えることで4人は地下室から脱出することができた。
後ろから「残姉アイツラを捕まえてー! ってしまったぁー! 残姉は別のところに向かわせてたんだった絶望的ィー!」という声が聞こえたが気のせいだろう。
カムクラに指示される方向へ4人で歩いていくと、途中まで一人で逃げていた(痩せてる方の)御手洗と合流することができた。
カムクラ曰く「探偵の才能ぐらい僕も持っていますよ」ということらしい。
錯乱していた御手洗を、雪染が新たに用意していたという元気(意味深ではない)になるスイッチを使い、落ち着かせた。
その後、カムクラを含めた5人で本科の教室に戻ることにした。
幸いにもカムクラを連れて歩いていることを咎める者は誰もいなかったという。(後から分かったことだが、狛枝とカムクラの2人分の幸運のおかげらしい)
教室に戻ってから、(痩せてる方の)御手洗から色々なことを聞き出した。
肥満体の彼が本物の代わりに御手洗として出席していたこと、そしてその間に江ノ島により悪意のあるビデオを作らされていたこと等が皆に伝えられた。
どうやら予備学科生によるパレードも江ノ島のしわざということらしい。
行方不明になっている罪木の様子がおかしいという情報には、同級生たちや雪染も動揺を隠せなかった。
御手洗が言うにはアニメーターの技術を悪用したビデオを見せられ、一種の洗脳状態にあるのではないかという。
御手洗と七海の証言により学園の混乱の元凶であると判明した江ノ島と戦刃は、学園によって拘束された。
彼女らの手引きにより暴動を行っていた予備学科生たちも鎮圧された。
自ら動いていた江ノ島と戦刃はともかく、彼女らの掌の上で踊らされていただけの予備学科生たちはそこまで酷い処遇にはならないだろう……そう信じたい。
御手洗の証言と突き合わせた結果、その後発見された罪木は『絶望』と呼ばれる状態にあると判断された。
洗脳状態を解除するため、新世界プログラムと呼ばれる更正プログラムにかけられるという。
超高校級のプログラマーにより作成された、被験者の知り合いを模したアルターエゴと絆を結ばせ、その情報を現実の情報と置換させるそうだ。
なるべく知り合いの数は多い方がいいと言われていたため、教師役の雪染のアルターエゴと、2人の御手洗を含む同級生たちのアルターエゴが使われるらしい。
更正の終わった罪木は完全に以前の彼女と同じというわけではないだろうが、皆でその後を支えるつもりだ。
一方日向は『絶望』状態にはないと判断されたため、新世界プログラムの適用は見送られた。
一体どこの誰の判断なのかは分からないが、どうやら経過観察をして様子を見たいということらしい。
おそらく日向をこんな状態にした人たちの判断なのだろう。
雪染から伝えられた情報によると、今の日向は元の記憶と人格を失い、その代わりに数多の才能を得た状態にあるという。
七海のことを覚えていなかったのもそのせいだということだ。
ただし、元の記憶や思考は完全に取り除かれたということではなく、あくまでも無理やり忘れさせられた状態らしい。
つまり、元の日向が脳の奥底に残っているかもしれないということだ。
元の彼と同じことをしていれば記憶が戻るかもしれないと思い、七海は今日もベンチで日向とゲームをしている。
七海「……」ピコピコ
カムクラ「……」ピコピコ
最終的に元の日向が戻ってくるかもしれないし、このままカムクライズルという人格のまま一生を過ごすことになるのかもしれない。
また、仮に元の記憶や人格が戻ってきたら今ある才能が失われてしまうかもしれないし、案外デメリットも何もないまま記憶だけ戻る可能性もある。
何一つ分からない状態だが、七海はどんな日向とでも友達になるつもりだ。
たくさんの思い出を作り、未来を自分の手で創る。そう決めたから。
……私たちの未来はここにある。
カムクラ「あっ」ゲームオーバー
七海「勝った」ドヤァ
終里
依頼出してきます
乙
まさかのシリアス?なSS
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