お役に立てたのなら【艦これ】 (45)

”【艦これ】お役に立てるのなら”の続編にあたります.個人的に落とし前を付けたいがために書いた蛇足です.

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「かんぱーい!」

大潮型姉妹は、次女満潮の暮らすマンションで揃って雑談を交わすことになった。

姉妹が全員揃ったのは、戦争が終わり、軍部のもとで義務教育を受け、そこを卒業してから初めてのことだ。

何人かで集まったことはあったが、全員が揃うことは初めてだった。

特に朝雲と山雲は年に一度の年賀状程度の付き合いしかなく、二人が看護師となったことさえも、この日に初めて分かったことだった。

「そういえば荒潮は、結婚したんだよね! おめでとう!」

大潮が妹の荒潮を祝う。同時に、荒潮の目が、暗く曇る。

「ふふ・・・結婚、したっかたわね・・・」

「え・・・どういうこと?」

大潮は予想だにしない反応に、少々戸惑う。思い返せば、結婚式の招待状をもらっていないし、開かれたことも聞いていない。

荒潮はグラスの酒を飲み干し、トロンとした目で、虚空を見つめる

「草食系なんて言ってもね、男はみんなみんな、狼よ。

一度攻め込めば味をしめてクルッと肉食に早変わり

そんなヤワなもんなのよ・・・」

姉妹はみんな、荒潮に何があったのかを察した。男の浮気による婚約破棄。

姉妹の脳裏に、婚約を幸せそうに自慢する、荒潮の笑顔が浮かび、消えていく。

開口一番の暗い話に、空気は重く静かになり、外の雑音が部屋に響く。

そんな暗く包まれた雰囲気を打開すべく、大潮はバッグの中から、戦中のアルバムを取り出した。

「・・・そうだ。ねえ、これ、覚えてる? 艦娘だった頃のアルバム」

大潮はテーブルの上を整理し、アルバムを盛大に広げた。姉妹は身を乗り出し、アルバムを見る。

途端に、思い出話に華が咲いた。

1ページ目最初から欠けているアルバムに、当時の大潮の豪快さが思い出され、自然と笑いが溢れる。

ところどころ欠けつつも、当時の慌ただしい状況を表した一枚一枚には、胸が締め付けられる。

「・・・懐かしいね」

大潮が呟くと、妹は皆、ゆっくりと首を縦に振った。

「そして、ある日突然、終わっちゃったのよね・・・」

満潮の言葉に、大潮は当時のことを振り返る。ある日スクランブルが出て、あっという間に終わってしまった戦争の最後。

あまりのことに、どこか不吉ささえ覚えたものだ。

「あれ・・・」

満潮がこめかみを抑え、難しい顔で考え事を始めた。大潮がどうしたと尋ねる。

「大潮姉さんが前に言っていたこと。大潮は、長女じゃないっていうの。あれ、私も最近気になっているのよね。

何かが、抜けているような・・・」

「ああ、それなら」

大潮は、以前提督に聞いたことをそのまま満潮に伝える。

大潮型には、0番艦と言える『朝潮』という艦娘がいた。

しかし朝潮は、計画最終段階に欠陥が見つかり、結果、建造されなかった。しかし、名前だけは残ってしまった。

艦娘は、姿形は人であるが、少し特殊である。

よって、建造計画最終段階で取り消されたれた朝潮が、つまり自分たちの姉がいるという錯覚をしていても、特別不思議ではない。

大潮の話を満潮は真剣に聞いた。しかし、どこか納得できなかった。

大潮の姉という架空の存在は、正真正銘、艦娘特有のただの錯覚なのだ。実在はしない。

この提督の話で長い間の引っ掛かりが取れ、すっきりしていた大潮とは裏腹に、

満潮を含めた他の姉妹の心にはモヤがかかる。

「朝潮・・・朝潮、お姉さん」

荒潮は、架空であるはずの姉に対し、拭えない濃いモヤを感じる。思い出せそうで思い出せない。喉に骨が刺さったような、妙な違和感。

それは霞も同様だった。何かが記憶から欠けている。それが何かがわからない。

長い間思い出さなかったがために、忘れてしまった何かがあると、二人は思った。

それ以外の姉妹は、ちょっとした違和感を感じるものの、荒潮と霞ほどではなかった。

「朝潮姉さん、朝潮姉さん・・・」

荒潮は、架空の存在『朝潮』の名前を繰り返し呟く。大潮が、それは錯覚だと言っても聞かない。

その後は、再度雑談話で盛り上がり、終電に送れない程度まで、姉妹同士の時間を満喫した。

***

後日、霰が出社する。

「おはようございます、海野さん」

「おはよう、大海さん」

艦娘は、社会復帰の際に苗字をもらった。大潮型は大海(ヒロミ)。明石は海野(ウミノ)。皆、海にちなんだ苗字がつけられた。

普段は慣れ親しんだ艦娘時代の名前で呼び合うが、公の場では苗字で呼ぶようにしている。

明石と霰は、共に再就職に成功。小さな会社だが、二人は楽しく働くことができている。

冷たく暗かった明石の表情には穏やかな笑顔が満ち、以前とは打って変わって、霰に対してとても優しくなった。

その日の休憩時間。明石と一緒に昼食をとっている時、霰は先日のことを話題に出した。

「そういえば少し前、初めて姉妹全員で揃ったんですよ」

「おお! 楽しかった?」

「終わってから初めてです。朝雲と山雲が看護師になっていたなんて」

「あはは、あの二人がね。でもなんとなく想像できるよ」

そして、霰がアルバムのことを話題に出す。

「それで、大潮姉さんが持っていた、私達のアルバムを一緒に見たんです。

そうしたら、まあ、昔からのつっかかりが蘇ってしまって・・・」

「昔ながらのつっかかり?」

「はい、大潮姉さんは前から、大潮は長女じゃないとか、大潮型には0番艦が実在すると言っているんです。

でも、これは提督いわく、私達特有の記憶違いらしいんです。

建造計画後期で中止された、幻の0番艦『朝潮』のことが記憶に入ってしまったと」

唐突に出てきた『朝潮』の名前に、明石は硬直する。しかしすぐに我を取り戻し、霰の話に、真剣に耳を傾ける。

「大潮姉さんは提督の説明で納得したんですけど、今度は満潮、荒潮、霞姉さんがそれに嵌ってしまったようで。

あ、私はそういうのあまりないんですけど・・・」

明石は、自殺未遂を図った時に、提督が病院で言っていたことを思い出す。

彼女たちは以前に納得してくれた。次、疑問を抱くのなら、その時は、その時考えると。

そして、その時が今来たのだ。大潮型は決して納得していない。

「あの、明石さん」

「ん?」

「あ、いや・・・なんでもないです」

明石の表情が暗く、思いつめたように見えた霰だったが、何かしらの考え事だろうと思い、それ以上は触れなかった。

「あ、もうすぐ休憩終わりだね。職場に戻ろうか」

「はい」

支払いを済ませ、店を出て、職場へと向かう。霰の頭には、次の仕事のことが占めている。

一方明石は、近いうちに提督と会い、話すことを考えていた。

病院で提督の話を聞いたからといって、明石の考えは揺るがない。

朝潮は、姉妹の幸せを常に願っていた。我々も、残された大潮型姉妹のこれからのことを考えるべきだと。

知らない方が良いこともあるのだと。

それは違う。戦争を共に過ごした姉妹のことを知らないのこそ不幸だ。明石は常にそう思っていた。

そして今、その明石が願ってきたことが成就するチャンスなのだ。

朝潮型の残された姉妹に、本当のことを伝えることができるかもしれないのだ。

提督に約束を取り、いつも通り、適当なカフェで待ち合わせをする。そして、提督との、数カ月ぶりの対面。

「こんにちは」

「久しぶりだな」

約束のカフェには、すでに提督が座っていた。明石は席で軽食とコーヒーを頼み、提督に話を切り出す。

「すでにメールでお知らせした通りです」

「・・・・・・」

提督は無言でコーヒーを口に含み、ゆっくりと飲み込む。そして、全く別の話題を切り出した。

「・・・霰とは、仲良くしているのか?」

「えっ? あ、はい。職場も業務も同じですし」

「そうか・・・」

突然のことに戸惑う明石に対し、提督は穏やかに微笑みかけながら、明石に言う。

「お前は変わったな」

「えっ? な、なんの話ですか?」

「前のお前は、髪も服もボサボサで表情は暗く、周りを見ていなかった。

しかし今では後輩を気遣い、表情も明るい。

変わったよ、お前は」

「・・・ありがとうございます」

提督は、艦娘を指揮していた頃から、感情を余り出さない人だった。

微笑みながら人を褒めたり、部下をきつい口調で叱ったりといった職務上の感情表現はするものの、

普段は非常に淡々として、感情をめったに出さない。

そんな提督が今、明石の前で、率直に主観的な感想を言っているのだ。

「あっ、それより・・・朝潮型のみんなのことですが・・・

きっといつか、噛み合わない話に不信感を抱き、再び、提督の下にやってくると思います。

そうしたら、提督はどうするのですか?

ごまかしは長く続くわけありません。悲しい真実だとしても、本当のことを伝えるべきだと、私は思うのです」

明石の言葉に、提督は黙って耳を傾ける。明石は話し続ける。

「提督は以前、私達は、朝潮ちゃんが望むような生き方をすべきだと言いました。

人への思いやりを持ち、本当の意味で相手のことを考えるべきだと。

しかし、人を騙すことは、本当にその人のためなのでしょうか?

悲しい真実、受け入れがたい過去を事実としてそのまま受け入れ、自分でそれを消化する。

これができるようになることが成長でしょう。私達の、本当に相手のことを考えた行動とは、

結局、大潮ちゃんたちにありのままの真実を話し、それを受け入れてもらうことなのではないでしょうか?」

明石の語気が、次第に高まり、声はカフェ全体に響いていた。

提督はしばらく俯き、黙りこむ。そして、声を発する。

「過去の人は、もういいのか?」

「・・・分かりません。でも、朝潮ちゃんに固執して、別の姉妹を犠牲にするとは・・・」

「・・・朝潮の願ったことは、自分の死による罪を、妹に被せないこと。

死後までの責任は取れない。よって、死後に余韻を残さないようにするべきであるということだろう。

結果、俺達二人にのみ被害が及んだに過ぎず、他には及ばない。

しかし今になって、ボロが出そうになってきた。

そして、朝潮の願ったことそれ自体が、妹の成長を妨げる、妹のためにならないのだと、お前は主張している

何であろうと事実は事実。ありのままに伝えるべきだと・・・」

提督はコーヒーで喉を潤し、無感情な目で、明石を見つめる。

「なるようになる。これが、今のところの俺の答えだ。

知りたいというのなら、知ってもらえば良い。それだけだ。

隠したのには理由がある。それをありのままに伝えようではないか」

「提督・・・つまりそれは・・・」

明石は、この提督の発言に驚いていた。

今までは頑なに、朝潮の遺言に基づいて、朝潮の存在を消そうとしてきた。

しかし今の提督の言葉はどうか。朝潮型姉妹に、朝潮のことをそのまま伝えようと言っているのだ。

「つまり、本人たちが望むのなら、朝潮ちゃんの存在を伝えるということですね」

「そうだ」

「・・・私としては、とても嬉しいことですが、なぜ、今になって」

「・・・お前が病院に運ばれてから、俺も変わったんだ。自然体が一番だって、思った」

提督はそう言って席を立ち、明石と共に駅まで行く。そしていつも通り、二人は別れた。

提督との意見が合致した。そうと決まれば、明石の行動は決まっている。

朝潮型姉妹に、朝潮の存在を知らせるのである。

霰の話では、荒潮、霞、満潮だけが、欠けた記憶のピースに苦しんでいるという。

しかし、これは朝潮型全員の問題だ。

欠けた記憶を認知している姉妹以外にも、伝えなくてはならない。

明石は霰に、話したいことがあるということだけを伝えて、朝潮型姉妹を一箇所に集めようとした。

そして数カ月後、それが叶う。ついに、朝潮の存在が、姉妹全員に知らされる機会を得たのだ。

***

某料理店。提督の計らいにより、店でご飯を食べながらの話となった。

店に入ってくる朝潮型姉妹に対し、明石は優しく接する。

「満潮ちゃん! こっちよ」

「あ、明石さん、それに司令官。・・・ご無沙汰しています」

全員が揃い、それぞれが適当な料理を頼む。ギクシャクしていた空気も、次第に柔らかくなっていく。

しかし提督は、ほとんど口を開かず、目を瞑り、じっとしていた。

大潮は事務職員。

満潮は外国語講師を本業に、色々な仕事を請け負っている。

荒潮は銀行員。

朝雲、山雲は看護師。

霰はプログラマ。

霞は保育士。

明石はプログラマで、提督は海軍に所属している。

それぞれが、それぞれの道に旅だった後の再会。各々の胸に、何かくるものがある。

「じゃあ、そろそろ、本題に入ります。

今回大潮型の、いえ、朝潮型の皆さんを呼び出したのは、

私と提督が皆さんに隠し続けてきたことを、告白するためです」

明石の前置きに対し、姉妹は皆、怪訝な顔をする。

明石は、今まで隠し続けたこと全てを、朝潮型の姉妹に話した。

朝潮は実在し、実際に艦娘として普通に戦っていた。

そして、あるとき朝潮は精神的におかしくなり、療養のため、提督は書類作業と称した長期の休暇を与えた。

しかし、心の傷はむしろ悪化し、ある時、深海棲艦の巣が特定され始めていた時、

朝潮は、回天特攻を志願した。

朝潮の熱に押され、明石は回天の作製を承諾。提督は特攻を承諾した。

そして、朝潮は特攻をした。その結果が、戦争最後のスクランブルである。

朝潮が明石と提督に頼んだ、最後の願い。

それは、『朝潮』という存在を消すことだった。

特攻とはある意味自殺。自殺者の妹として、社会の中で生きていくことは世間体を傷つける。

捨て身の犠牲で終わった戦争。その罪を、汚名を被って生きていくことは辛いだろうと。

その言葉を受け、明石と提督は、朝潮の存在を、嘘を言ってでも隠してきた。

明石は全てを話し終え、水を口に含む。

横の提督は、腕を組み、俯き、起きているのかもわからないほどに、じっと静かにしていた。

明石は、やっと、全てを伝えることができたと、達成感に満ちていた。

自ら特攻し、戦争を終わらせた影の英雄。

そんな彼女のことを、彼女が最も愛し、死の直前まで気にかけた妹に、伝えることができたのだ。

「許せない!」

満潮が机を叩き、立ち上がる。突然のことに、姉妹と明石は目を見開き型を震わせ、提督はゆっくりと目を開けた。

「自殺なんて、絶対に許せない。

過酷な世界に生まれて、日々生きたい生きたいと願う人がいる反面

安全で恵まれた環境下で、死にたい死にたいと叫ぶヤツ。

そんな人間が、私は許せない。その朝潮が許せない。

明石さんと司令官は、朝潮の特攻を勇ましいと思っているのでしょう。

でも私は、生きられるのに生きようとしない、その態度それ自体が許せないの!」

満潮は、外国語の講師として、国内外問わず教えている。

そこから派生して、何度か、飢餓のボランティアに参加したことがあった。

そこで見たのは、貧困で食べ物が不足し、餓死した黒く薄い死体。

生きたい、生きたい訴えながらも、病気であっけなく死んでいく子どもたち。

そんな過酷な現実を見た満潮にとって、生きているということそのものが恵まれたことであり、

自殺という行為は、言葉で言い表せないほどに、愚かで浅薄なものであるのだ。

満潮は食事を残したまま、荷物をまとめ、店を出て行った。

「私も帰るわ」

霞が立ち上がり、帰りの支度を始めた。

「五体満足で生まれ、普通に安全に生きているのに、自分で生きることを放棄する。

そんな人間が、私は許せない。私にとって、朝潮もそんな人間。

・・・こんな胸糞悪い話、聞かなきゃよかった」

霞は保育士として、幼い子どもと接している。

そんな子どもの中には、先天性の障碍に苦しむ子もいる。

皆が一人でやっていることを、自分一人でもやろうと、必死の形相で努力する。

ハンディキャップの中で必死にもがく、自分よりもずっとずっと幼くか弱い子。

そんな姿に霞は度々、心を打たれていた。

満潮と霞の甲高い足あとが聞こえなくなる頃。すすり泣きがテーブルに響く。

「朝潮姉さん、朝潮姉さん・・・」

荒潮の泣き声が空間に響く。

艦娘時代、朝潮と荒潮は、性格的に仲が良かった。きっと、姉妹で一番仲が良かったのは荒潮だ。

そして朝潮が書類作業に移った時、一番最初に朝潮を忘れようとしたのは荒潮だった。

朝潮のことを心配しては、戦いに集中できなかったのだ。

もしも朝潮がこの場にいれば、戦いという使命を果たすべきと言うに決まっている。

そう思い、荒潮は必死に、朝潮のことを忘れた。戻ってきたら、自然に思い出すはずだから。

しかし、朝潮は戻ってくることなく、荒潮は本当に忘れてしまった。

そうやって眠っていた記憶の断片が、少しずつ、荒潮の頭を覆い尽くす。

そして、行き場のない感情に荒潮は、ただ泣くしかなかった。

「あの・・・私達も、帰ります。気持ちの整理がつかなくて」

「うん・・・ちょっと、あまりに急激で・・・」

朝雲、山雲が席を立つ。

彼女たちは看護師として、病気の人と毎日接する。そして、臨終する人もいる。

回復し、笑顔で退院する人。難病で長期入院する人。死を受け入れて、自宅療養やホスピスに転ずる人。

癌の末期延命治療の下で、殺してくれと叫びながら、断末魔の中に死んでいく人。

そして、自殺で運ばれてくる人など。

色々な人が色々な人生を歩んでいく中で、長生きが幸せかは分からない。早死にが不幸かも分からない。そして、自殺というものも。

そんな二人にとって、身内の自殺というのは、どう受け入れるべきものかが分からなかった。

4人が帰り、残ったのは、呆然としている大潮。泣いている荒潮。黙って俯く霰の3人。

提督は相変わらずじっと目を瞑っており、明石は涙を溜め、目をぎゅっと閉じて俯く。

明石は、朝潮型姉妹のためを思い計画し、罵倒された現状に、やりきれない気持ちが募っていた。

沈黙の長い時間が流れる。姉妹は3人共、頭の整理に夢中だ。

そんな静寂を、提督が打ち破る。

「そろそろ時間だ。店を出よう。」

提督はすっと立ち上がり、会計を済ます。他4人は混乱する気持ちの中で、帰り支度をする。

帰り道。泣く者はいないが、誰も口を開かず、ゆっくりと帰路につく。

別れ際にも目を合わせず、軽く会釈をするのみで、それぞれの家へ帰っていった。

***

「おはよう」

「おはよう」

平日の朝。大潮と霰は、淡々と挨拶を交わし、朝食を取る。

音のない朝食風景。昨日のことが、未だに整理できていない。

騙されたことに対する提督への怒りなどは、大潮は持っていない。

ただ、実在した姉の自殺。戦争の終焉の真実。

不自然に思っていたことへの悲しい答え。

パズルのピースが埋まったと同時に残った、妙な喪失感、虚無感が、大潮を無気力にさせた。

「行ってきます」

霰が先に家を出て、大潮はゆとりある少々の時間を家で過ごす。

思い出そうにも、思い出せない『朝潮』。いつ出会い、いつ別れたのかも思い出せない。

一方霰は、朝潮に関する記憶は全くない。

ただ、近くにいたのに気づけなかった。明石の時と同様の、そんな罪悪感があった。

そして、明石が姉妹のために、意を決して話してくれたことに対する姉妹の罵倒に、どこか申し訳なさを感じていた。

電車に乗り、いつも通り会社に出社する。いつも通り、明石が隣にいる。

「おはようございます、海野さん」

「おはよう、大海さん」

明石はいつも通り笑顔で挨拶をするが、その目は腫れている。

いつもは仕事中でも多少のおしゃべりはするが、今日は全く話さない。

明石も霰も、いつも以上に仕事に集中し、気を紛らわす。

昼休憩。思い切って霰は明石を昼食に誘うと、明石は微笑み、外に出た。

店で適当に頼み、何を話そうか考える暇もなくサッと食べ終わり、店を出てしまう。

会社に向かう途中、霰は思い切って、明石に話しかけた。

「あの・・・明石さん」

「ん?」

「その・・・昨日は・・・」

「ああ、大丈夫。気にしてないよ」

そう言って、明石は足早に会社に戻ってしまった。

霰が会社につく頃には、すでに仕事を始めていた。その姿は、以前の明石に戻ったよう。

どこか張りのない一日を過ごし、霰は仕事を終え、帰路につく。そして、今度は大潮との溝が待っている。

「おかえり」

「ただいま・・・」

心ここにあらずで、ぼうっとしている大潮。目の前の霰は、そこにいながら、大潮の心には写っていない。

夕食をサッと済まし、大潮はアルバムを開く。

同じページを何度もめくり、ぶつぶつと独り言を呟く。

この写真を取ったのは、朝潮姉さんか、私か。

写真が抜けているのは、朝潮姉さんが抜いたせいか、私が適当に入れたからか。

自問自答しながら、分からないことを増やしていく。

そんな大潮を心配に思いながらも、話しかけられない霰は、大潮の後ろで、静かに眠りについた。

明石の告白により、大潮や荒潮以外も、朝潮型姉妹の頭には、朝潮が占める割合が徐々に増えていった。

戦時中のことを思い出すと同時に、今まで欠けていた朝潮の記憶が、そこにはまっていく。

違う流れに作られていた記憶が、正規の道を取り戻す。

提督の施した、記憶の因果をズラすという一種の洗脳を抜け出し、

朝潮の存在が、思い出の下に明確になっていく。

そして、今までなぜ忘れていたのかというほどに、今は亡き、朝潮型1番艦『朝潮』の存在が胸一杯に広がった。

朝潮の行った特攻という作戦は、決して褒められた作戦ではない。若い蕾をその場で潰す、退廃的行為だろう。

しかし、これにより、今の平和が訪れたと言えば、どうであろうか。

朝潮の特攻がなければ、戦争は未だに続いていたかも知れない。それはもう、誰にもわからない。

朝潮の特攻は、ただの自殺として片付けられる問題なのだろうかという問が、姉妹の心を埋めていく。

***

ある日の夜。提督の下に、知らない電話番号から着信が入る。

「もしもし」

「もしもし、大海大潮です。突然の電話、失礼します」

大潮は霰を通じて明石と接し、明石から提督に接した。そして、朝潮の話を全て話してほしいと、提督に頼む。

提督は小さく微笑み、その場で承諾する。

「都合の会う時なら、いつでも良い」

電話の向こうで大潮がお礼をいい、通話は終了する。

朝潮の遺言に従い、朝潮の存在を今まで秘密にしてきた。

当時は情報を操作することさえした。それが、朝潮の願いだと信じていた。

道徳的に良くないこととは頭ではわかっていながら、それを実行した。

しかし、もしも朝潮が生きていたら、自分の行為は喜ばれることなのかと思うと、

提督は、この答えのない問題に頭を悩ませ、最終的に、考えることを放棄してきた。

今、真実が、朝潮が最期まで愛していた妹たち、残された朝潮型姉妹全員に伝わった。

提督の心の英雄、朝潮の、存在と特攻による殉職という真実が。

大潮から電話を受けた1か月後、大潮との対面が叶う。

待ち合わせの場所に提督が行くと、朝潮型全員、そして、明石がそこにいる。

今は亡き姉、朝潮のことを思い出そうという意志のもとで、朝潮型姉妹が再び全員揃った。

そして、提督の知らない朝潮のことも伝えようと、明石も来た。

不気味なほどに静かな空間で、提督は水で喉を潤し、話を始めた。

提督が提督として見てきた、朝潮の姿を。

心のどこかで覚えていたこと。初めて知る朝潮の素顔。そして、あっけない最期。

時に笑い、そして悲しむ。当時の朝潮が生き生きと語られる。

提督の話が尽きると、今度は明石が話しだした。

アイテム屋として接した数少ない記憶から、

回天特攻を願い出て、そしていなくなるその時まで。

時々、提督の話以上に生々しい素顔を明石から知っては、

姉妹はもちろん、提督までが、眉をひそめ、ゆっくりと涙を流した。

蘇る記憶の連鎖。思い出話。

姉妹として共に過ごしてきた、朝潮との日々が徐々に蘇る。思い出が思い出を呼び、

記憶の中の朝潮がパーツを集め、この場で蘇る。

大きな記憶が出尽くし、断片的で小さい思い出が飛び交うとき、提督は一つ、提案をした。

「今から、鎮守府に行かないか? 軍部の管理区域だが、外からなら見ることはできるだろう」

提督の提案に満場一致で賛成し。早速電車を乗り継ぎ、鎮守府へと向かう。

日が暮れ始める頃にも関わらず、皆がそこに行こうとした。

向かう途中、電車の窓から海が見え始める。深海棲艦と戦っていた頃、毎日出ていた海だ。

懐かしさのあまり、心が揺さぶられる。そして、見えてきた鎮守府。

戦争後、施設としての再利用の目処は未だに立たず、資料として残されている。

提督は守衛に歩み寄り、身分証明をして無理に見学許可と懐中電灯を得た。

「入っていいぞ」

「えっ? 大丈夫なのですか?」

「許可はもらった。ここまで来たんだ、見ていくべきだろう」

提督を先頭に、門を経て鎮守府内に入る。

守衛は呆けた顔で、彼女たちを見ていた。

提督が向かう先は、鎮守府の外れ。たいていの艦娘も来たことのないような場所。

電灯もなく、懐中電灯で照らして進んでいく。

草木が生い茂り、入りにくい。

「司令官、ここに何があるの?」

大潮が尋ねるが、提督は下を俯き、無言のまま。そこに明石が、大潮に耳打ちする。

「朝潮ちゃんの・・・うっ・・・うっ」

明石はこみ上げる涙を止めることができなかった。こらえていた提督も、明石に誘われ、感情を全開にして、泣きだした。

「・・・ここはな・・・あさっ・・・朝潮の・・・回天の基地だ・・・」

提督は辛うじて言い切ると、首をこれでもかと下に向け、目をきつく瞑り、歯を食いしばり、手を震わせて泣き出す。

提督と明石のすすり泣きが、静寂の空間に響き渡る。

朝潮が特攻をした場所。

回天を沈め、そこに乗り込み、深海棲艦の巣を目指して突撃する。

いわば、朝潮のこの世との別れとなった場所。

提督は溢れる感情を必死に抑え、目を見開き海の方を向き、敬礼をした。

明石、姉妹もそれに続く。

暗闇の中で、穏やかな水面が僅かな光を得てキラキラと輝いている。

当時の朝潮の面影が、目の前の海に重なった。

提督、明石、朝潮型姉妹。各々の思いを胸に抱き、各々の気が済むまで、海に向かって敬礼をした。

その後は全てが、なるように、自然に物事は動く。

関係者にとっては一大事件。他人にとってはなんともない日々。

全てが元あった生活に吸収されていく。事件といっても、実態はもう何年も過去のもの。

日常というものは強力なもので、外から見ればなんの変哲もない。

しかし、彼ら彼女らの中では、亡き姉朝潮の存在というものが、心の奥底でゆっくりと波を打ち、

それはまた、人を変えていった。

ここで、朝潮の特攻するときの最後の思いを反芻しよう。

皆さんの未来に、幸がありますように。

-FIN

<外伝:いつか>

*艦娘の一人称視点です.人物像が壊れている可能性がありますのでご了承ください.

ゆっくりと確かになっていく意識.

瞼を通過する光さえ眩しく,私は,ゆっくりと,目を開けた.

ぼんやりとした視界が段々とはっきりし,目の前に人が立っているのがわかる.

「ようこそ鎮守府へ.私は君を歓迎する」

目に入ったのは,その人の白い服,帽子.

私はとっさに,本能的に,言葉を発した.

「駆逐艦朝潮.着任しました! 以後,よろしくお願いします!」

私は目の前の司令官に最敬礼をすると,司令官は優しく微笑み,

司令官が直々に,私を部屋に案内してくれた.

部屋に向かう途中,司令官は私について,話をしてくれた.

「君は,我が海軍が新たに計画した朝潮型駆逐艦の一番艦だ.

未定だが,まあ,5人は,君に妹ができるだろう.

長女として,妹を支えてやってくれ」

「はい!」

私が返事をすると,司令官はまた,優しく微笑んでくれる.

鎮守府に着任し,これから始まることは知っている.それは艦娘の誇りであり,同時に,純粋に怖いもの.

しかし,この司令官の元でなら,安心して,私はこの使命を尽くすことができるように思った.

案内された部屋は,一人で使うには広すぎる部屋だ.妹ができたら,相部屋になると司令官は言っていた.

この部屋が妹で狭くなっていく様子を想像すると,どこか,嬉しい気持ちになった.

制服や布団などの日用品を揃えると,その日から,私の学習,訓練が始まる.

深海棲艦という敵を倒すために生み出された私達艦娘.

日々学び,自分の練度を高めなくてはならない.さもないと,すぐに死んでしまうのだろう.

この鎮守府で沈んだ人はいないと聞いたが,私が一番になるかもしれない.そう考えると,無性に怖くなった.

先輩は時に優しく,そして時に非常に厳しく,私を指導してくれる.

初めて前線に出て小破した時,叱るよりも私の無事を喜んでくれた.

暖かい先輩と同期の人に恵まれ,厳しい戦争の中にも,私は心が満たされていた.

***

「駆逐艦大潮です! おまかせください」

「ようこそ鎮守府へ.私は君を歓迎する」

「ようこそ大潮.私は朝潮,あなたの姉よ」

私に初めての妹ができた.私と変わらないくらいの身長だが,私の妹だ.そして私は,大潮の姉.

「司令官,お世話になります! 朝潮姉さん,これからよろしく!」

「こちらこそ.一緒に頑張りましょう」

ハイテンションで笑顔を絶やさない妹に,私は優しく微笑んだ.

「お部屋に戻って,日用品を揃えたら,早速訓練があるわ」

「うひゃ〜,さすが鎮守府」

初めての妹ができたその日から,私の生活にはいつも大潮がいた.

先輩と同期とのつきあいに加え,妹の大潮のことをいつも考えるようになった.

「こらっ! 早く起きなさい!」

「はっ!」

「起床時刻を6分過ぎています! 素早く制服に着替えなさい!」

大潮は元気だが,どこか抜けているところがある.

そんな性格が取り返しのつかないミスにつながらないよう,私はフォローをする.

大潮が来て,次に来たのが満潮.彼女は司令官を見るや,いきなり暴言を吐く問題児だ.

「なんでこんな艦隊に・・・」

「満潮! あなた司令官に向かって何を言ってるいるの?」

「あんた誰よ」

「私は朝潮.朝潮型の1番艦.一応はあなたの姉よ」

私と満潮で短い口論を続け,満潮の,もう面倒くさいの一言で終わりになった.

一人目の妹の大潮は豪快で抜けているが根は真面目だったので,

私はこの満潮と姉妹として上手くやっていけるのかが不安になった.

「ごめんなさい,司令官.満潮には,私から言っておきますので」

「ああ,頼む.・・・ここは軍隊だからな」

私は司令官に頭を下げ,執務室を出る.部屋に案内するその間,満潮とは口が聞けなかった.

「ここが私達の部屋よ.日用品を取りに行きましょう」

「・・・はい」

満潮は俯きながら答える.さっきの暴言と口論を気にしているよう.思ったよりも,悪い子ではなさそうだ.

姉妹といえども訓練,出撃までも一緒になることはめったにない.

そんな中でも,一緒に過ごす僅かな時間の中で,私は妹達と接した.

妹達はどんどん増えていった.

荒潮,朝雲,山雲,霞,そして最後に霰.

部屋は狭くなり,壁には私物を入れるロッカーが8個並ぶ.

荒潮は私をよくからかってきた.そういう意味では,一番仲が良いのかもしれない.

山雲はかなり抜けているが,姉の朝雲がフォローをしてくれるので,私は安心できる.

霞は,ある意味妹の中で一番の問題児だ.満潮以上に口が悪く,私の言うこともあまり聞いてくれない.

しかし,かつて世話を焼いた大潮や満潮も,彼女たちの妹の前では立派なお姉さん.

私が気を張らずとも,妹の面倒をきちんと見てくれる.

私は,そんな良い妹を持てたことに,嬉しさと微かな誇りがこみ上げてくる.

ある日,私は気分転換に,明石さんの店に寄った.

何かのために,将来のために貯金をしているので,物を買ったことはない.

しかしその日はふと,インスタントカメラとアルバムが私の目に止まった.

アルバム.思い出の保管.

戦争がいつ終わるかは分からない.しかし,いつかは終わるものだと,私は信じている.

そして戦争が終わり年月が経てば,いつか,その戦争を懐かしいと思えるのではないだろうか.

そんな考えが私の頭によぎり,気づくと私は,インスタントカメラとアルバムの両方を持って,部屋に向かっていた.

戦争は辛く苦しいものだ.大破した人がドッグで長時間休んでいるのを見ると,背筋が凍る.

運が悪ければ,沈んでいたかもしれないのだ.

朝に顔を合わせた人が,夜には帰らぬ人となる.

私はまだそんな場面に遭遇したことはないし,遭遇したくもない.

しかし,それが戦争というものなのだ.

「みんな! 記念写真を取りましょう!」

私は妹達を並ばせ,セルフタイマーに設定したカメラを押入れにおき,撮影範囲に合わせて妹たちの立ち位置を調節する.

「はい,取るよ!」

私は,妹が用意してくれた位置に入り,シャッターが降りる.

パシャ.その場で写真が現像される.

妹に見せ,私はその写真をアルバムの一枚目に入れた.

喉元すぎれば熱さを忘れる.その熱さがいつの日か懐かしさに変わることを信じて,私はこの戦場で,精一杯思い出を作ろうと思った.

-FIN

以上のお話とは無関係ですが,以前に書いたものを落とします.

<【艦これ】霞の願い事>

意識が次第にはっきりとしてくる。そして、目の前の分厚い扉が開かれた。

「霞、ようこそ鎮守府へ!」

最初に私を温かく出迎えたのは、長女の朝潮姉さん。

「ようこそ。我々は君を歓迎する」

次に出迎えてくれたのは、鎮守府の司令官。私の上官。私の指揮者。

朝潮型の7番艦として生を受け、深海棲艦撲滅に向けて戦う。それが私の使命。

戦いはとても辛い。死ぬかもしれないと思うと、怖くて膝が震えてくる。

朝笑っていた人が、夜には重体でドッグ入り。そんなことは日常茶飯事。

でも、そんな中で、私は優しい姉と友人に恵まれている。

ストレスと緊張感に押しつぶされそうな時も、姉妹と友人が、心の支えとなる。

そう、私は幸せ者。

でも、そんな日は決して長くは続かなかった。

一つ下の、8番目の霰が沈んだ。

霰姉さんが沈んだのは、提督の慢心のせいと聞き、私は執務室まで走る。

当時秘書艦を務めていた人がしばしば提督の慢心ぶりを愚痴に出していたこともあり、

司令官の慢心が姉を殺したと、そう思えて仕方がなかった。

そう思うと、いても立ってもいられなくなった。

「司令官! お話があります!」

私は荒くノックをし、荒く扉を開ける。

例の異臭と、黒く赤い液体。

横たわる司令官の肉体を見て、私は全身の力が抜け、その場で座り込む。

通りかかった他の人が衛生兵を呼ぶ中で、私はただ呆然と座っている。

温かい涙が頬をつたって、服を濡らし、水たまりを作る。

どこか幻想の中にあった死という概念が、一度に私に牙を向いてきた。

私は一度に二人、大切な人を失ってしまった。

***

それから私は、大切なお姉さんを失いたくがないために、提督の作戦に口出しするようになった。

しかし、わかってもらえるはずがない。

うるさいの一言で片付けられ、睨まれ、

それでも何度も何度も意見をしたけれども、

俺も本気で戦っているんだとの言葉に、私は何も返せない。

私はただの艦娘。新入りの青い艦娘。

それでも次第に減っていく仲間たち。

それを話に出せば、司令官は赤い顔で私を殴った。

***

最初にいなくなったのは、1つ下の、8番目の霰。次は2番めの大潮姉さん。

その次は1番目朝潮姉さんで、その次は4番目荒潮姉さん。

その次は3、5、6番目の満潮、朝雲、山雲姉さんが一度にいなくなった。

私は7番目。朝潮型の最後の生き残り。満潮型とか途中名前は変わったけど。そんなの、私には関係ない。

私は朝潮型7番目の霞。

残り物で海に出撃。

敵に責められ、私はこけた。

兵器は壊れ、私も壊れ、海に沈んで意識は段々と不確かなものとなる。

夢と現の区別もつかず、目の前の光を見てみれば、

温かく優しい光が、私の体を震わせる。

「ごめんなさい」

ドン。

仲間から発せられたそれは、私目掛けてやってくる。

ああこの世界

なぜこうなる、なぜこうする

大切な人はもういない

自分の体も守れない

生が終わり死が訪れて

生まれたものがいつか死に、また生まれてくるという

自然のサイクルに則ってこの肉体は滅び

また、この世界に生まれてきて

自然の本能とは別に自由意志を持つ

人の姿で生まれてくるのなら

私はその時何よりも望む

本当に幸せになりたいと

海は大きく波は高く

下は大水、上は火花

海の底で平和に眠れ

冷たい水でも暖かい

-FIN

閲覧有り難うございました.
書きかけの短いものがあるので,まだ落とさないつもりです.

乙です
前のよりよかったと思うがただ鬱物にしても微妙

<集団生活>

広い,広い海の小さな孤島に,朝潮は一人で座り,無限に広がる水平線を眺めていた.

疲労した体に鞭を打ち,潮風の中をただ走り,やっと辿り着いた小さな無人島.

しかしこの島には何もない.草と木しかない.

朝潮の生命も,もう限界が間近だった.

***

戦闘は困難を極めていた.

何度も何度も出撃を繰り返しては,ボロボロになって戻ってくる.資材も底を尽きようとしていた.

繰り返される出撃の中で何度も編成が変わり,朝潮は何回か,この戦闘に参加した.

もう,残り少ない出撃.朝潮を含んだ編成は出撃した.その時は,今までにないほど,運が巡ってきた時だった.

効率よくボスに辿り着き,こちらの攻撃もよく当たる.

ついに海域攻略かと期待されていた.

しかし最終決戦,いつも通り,大破撤退を提督より命じられてしまう.

そして朝潮はそれを無視した.

自分の命が果てようとも,目の前の憎き敵を倒すことができるのならと,朝潮は単艦で進軍した.

結果はどうだろうか.敵を倒すことはできた.しかし,朝潮はもう帰ることができなくなってしまった.

濃い霧が漂う中で,大破以上に傷ついた体に鞭を打ち,朝潮は闇雲に海の上を走り続けた.

地獄に仏.朝潮は孤島にたどり着いた.しかし,もう,それで終わりだった.

命令順守という軍人たるものの最低限の規律さえも,己の感情で破った朝潮の末路だ.

***

鎮守府が難関海域を制覇した5日後,行方不明だった艦娘が救助された.彼女の名前は朝潮.

少ない資源の中でも延長を重ねた救助作業の甲斐あり,朝潮の救助は成功した.

しかし,朝潮の意識はなかった.心臓の拍動もか弱く,今すぐ死んでも,全く不思議ではない.

せめて,朝潮の死を看取ろうと,ドッグに集まった提督,艦娘たち.

心のどこかで意識が戻ることを期待しながらも,時間はただただ流れ,息は止まろうとしている.

提督は脱帽し,部下である朝潮に対して敬礼をする.

周りの艦娘も,それに続いた.

「司令官」

朝潮の妹の荒潮が,一つ,提督に頼み込む.

「朝潮姉さんを,私に近代化改修してください」

今にも止まりそうな,朝潮の息.しかし,まだ,彼女は生きている.

このまま鎮守府で死ぬのと,妹と一緒になるのでは,どちらのほうが良いか.

提督は目を閉じ,ゆっくりと首を縦に降る.提督は,荒潮の願いを受け入れた.朝潮は,荒潮に吸収された.

無事,改修が終わる.荒潮は目を瞑り,自分の胸を,自分で抱きしめた.

「お姉さん・・・本当に,お疲れ様です」

朝潮は荒潮の一部として,未だ生き続けている.

***

「駆逐艦朝潮です! 勝負なら,いつでも受ける覚悟です!」

建造により,新しい朝潮が鎮守府にやってきた.辺りには,朝潮の元気な声が響き渡る.

「ようこそ朝潮,鎮守府へ.君を歓迎する」

「はい! 司令官のご命令であれば,何でも受ける覚悟です!」

「そうか・・・なら・・・」

提督は,隣に立っている荒潮を横目で見てから,声を発した.

「君の命は,鎮守府全体の命だ.とにかく生きろ.生きて,敵と戦え」

「はい!」

朝潮の元気な声がこだました.

「お姉さん,お部屋へ案内します」

「ありがとう,荒潮」

荒潮は朝潮の手を引き,部屋まで案内する.

見た目は同じ.中身も同じ.しかしそこには,記憶だけがない.

***

働き蟻や働き蜂は,敵に責められると,身を捨てて攻撃をする.そして一部は死ぬ.

しかし,皆女王のクローン.自分の遺伝子と全く同じものを,他の個体が持っている.

それ故,自分が死のうとも他が生きていればそれで良い.

それは朝潮も同じ.代わりはまた見つかる.

ある朝潮が死のうとも,他の朝潮がいれば,鎮守府としては問題ないのだ.

-FIN

HTML化を依頼しました.閲覧してくれた方,ありがとうございます.

悲しいなあ
鬱ばっかじゃなくて前書いてた甘々のやつとかもう書かないの?

【依頼済みですが,処理をお願いします】

過去作
電「二重人格……」
提督「艦むすの感情」
艦娘という存在
朝潮は『不安症候群』
朝潮はずっと秘書艦
映画『艦これ』 -平和を守るために
深海の提督さん
お酒の席~恋をする頃
忠犬あさしお
影の薄い思いやり
欠けた歯車、良質な物【艦これ】
【艦これ】お役に立てるのなら
お役に立てたのなら【艦これ】

>>40
コメントありがとうございます.気づいたら恋話に拒絶反応を示すようになってしまいました・・・
霞が主人公の甘い話を書いていたのですが,筆が進まず,ボツにしました.

乙です

鬱物をするにしても例えば朝潮を不幸にする仮定が急すぎるというか強引すぎるというか…
恋話が無理でもほのぼのとか書いて欲しい

朝潮ちゃあああああああああああん……

【書き込みますが,処理をおねがいします】
ごめんなさい,今更ですが誤字を見つけました.
>>26 l.15
霰姉さん→霰

誤字はまだまだあるかも知れませんが,気がついたので報告しました.
・・・しかし史実的には.霞が末っ子のようで.

>>43 長い目で待ってもらえれば幸いです.
お役に立てるのならは,今読み返すと設定が途中で壊れています.なので,ゆっくりと書き直し作業をやってきたいのです.

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