【ワールドトリガー】 香取「――次は負けない」 (115)
ワールドトリガーのssです
時系列はROUND3終わった後
玉狛は上位入りして、香取隊は入れ替わりに中位に落ちたところからです
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2月9日 日曜日
「中位に落ちた?」
一夜明けてランク変動の結果を麓郎から聞かされた。
結果は中位落ちだ。
「どっか上がったの?」
「玉狛第二ってチームみたいだね」
玉狛第二、聞いたことのないチームだ。
話を聞けば今期できあがったばかりのチームらしい。
そんなチームと入れ替わりで降格なんて。
――バン
机に叩きつけた拳が大きな音を鳴らす。
痛みはない。
トリオン体というものは、こういうとき都合が良い。
「どこ行くんだよ」
「帰るのよ」
「っは? これからミーティングの予定だっただろ?」
「上位チームのためのね。中位なんて、ミーティングの必要もないわ」
「逆だろ。最近戦ってなかったからこそミーティングが大事なんじゃないか」
もっともだ、と思った。
しかし、同時にアタシのプライドが邪魔をする。
2期連続上位クラス入りのプライドが。
「なら少しでも練習しなさいよ。アタシの足を引っ張らないようにね!」
「おい!」
声を無視してアタシは退室を出た。
これ以上、麓郎の声は聴きたくなかった。
*****
雪こそふっていないものの春を感じるにはまだまだ遠く、三門市の風は身を切るように寒い。
アタシはカバンからマフラーを取り出し、少しの風も通さまいときつく首元に巻きつけた。
冷たい空気が火照った頭を冷やす。
どうも最近イライラすることが多い。
中位におちたこともその理由の1つではある。
でもそれだけじゃない。
この頃、いろんなことが上手くいかない。
何をしても失敗する。
そんな現状が、アタシをいらだたせるのだろか。
良くわからない。
分からないことがさらにアタシをイライラさせていた。
いまごろ雄太が麓郎をなだめているころだろうか。
麓郎の言っていることは分かる。
しかし、いまさら中位グループにさした対策も必要ないだろう思ったのも事実だ。
ROUND4ではアタシが点を取って勝つ。
そして上位にもどる。
それだけの話だ。
それだけのはずだ。
15分ほど歩いて、ある店の前にたどり着いた。
今ではめっきり見ることも減ったゲームショップ。
アタシのお気に入りの場所だ。
嫌なことがあると良くここに来ていた。
現実の嫌なことも、ゲームの世界までは持ち込めない
店内のゲームの間を縫うようにして進む。
「ラスト1本、ついてる」
アタシが探していたのは、ついこの間発売したばかりのゲーム。
シリース物の3作目。
誰もが知ってるゲームではないけれど、3作発売されるくらいには人気のあるものだった。
「ミーティング。しないで正解だったわね」
ミーティングなんかしていたら売れていたかもしれない。
格下チームのミーティングなんてした挙句に、ゲームまで売切れてたとしたら、泣きっ面に蜂も良いところである。
ラッキー、ラッキー。
心の中でそう呟きながら、アタシはその残ったゲームソフトへと手を伸ばした。
「あ……」
「お……」
手と手とが重なり合う。
こんなことが起こるなんて漫画かよ、と悪態をつく。
男の人だったら譲ってもらおう。
女の人だったら強気にでれば良い。
そんなことを考えながら、触れ合った手から上の方に視線を移らせると、見知った顔がそこにあった。
「香取ちゃん?」
「……こんにちは、先輩」
A級1位オペレーター国近先輩だ。
「奇遇だね~こんなところで出会うなんて」
「そうですね」
知り合いと会うなんて。
それも顔を知っているくらいの先輩だ。
正直きまずい。
「先輩もゲームとかするんですね」
「するよ~ゲーム大好きだからね~」
「意外です」
この先輩がゲームに勤しむ姿は想像つかなかった。
やっていたとしても、牧場作ったりとか、その手のゲームな気がした。
「私も驚いたよ~。でも、そうするとー」
うーんと人差し指を顎に添えて唸っている。
あざといとも捉えられかねないポーズも、この先輩だと不思議と自然にきまっている。
「なんですか?」
「このゲームどうしよっか?」
ま、それしかないよね。
ソフトは1本、買い手は2人、半分こというわけにはいかない。
なんとしても購入したいと思っていたが、相手がこの先輩では仕方がない。
今日のところは諦めよう。
「アタシはいいですから、先輩どうぞ」
「そんなの悪いよー香取ちゃんが買ったら良いよ」
「そういうわけには、アタシのほうが後輩ですから」
「だったら私も先輩として、自分だけ買うわけにはいかないよ」
っち。
心の中で舌打ちをする。
本当にめんどうくさい。
形だけの譲り合い。
ただ過ぎる時間。
何も生み出さない、無駄な時間だ。
この時間が終わるなら、ゲームを譲ることもいとわないとさえ思った。
「そうだ! じゃあ私が買うからうちの作戦室来なよ!」
「は、いや……それは」
「うんうん、それが良い。私もこのゲーム好きな人話したいし」
「ん……」
どうこの場を切り抜けようか。
ゲームなんて誰かとするものはない。
その類のゲームはあるが、アタシは好きじゃない。
それも、とくに親しいわけでもない先輩と。
そんなことばかり考えていたら、手が引っ張られるのを感じる。
先輩の手だ。
いつのまにか会計をすましていたらしい。
グイグイと引っ張られ、抵抗を試みるタイミングさえない。
「じゃーいこかー」
やれやれ。
アタシは、自嘲気味にそう呟いた。
百合はないですが
カトリーヌと国近先輩がメインです
今日は終わります
乙
期待
「ごめんね~散らかっててー」
A級の作戦室は広いらしいのだが、この部屋からそれを感じ取ることは出来ない。
入って最初に目に入るは、一対のソファーと机。
机の上にもソファーの上にも私物が散乱している。
「いまお茶いれるからね~」
「あ……ありがとうございます」
先輩に準備をさせるなんて。
そう思って口を開きかけたのだが、ここは太刀川隊の作戦室だ。
アタシがお茶の準備を出来るわけもなく、ここはご厚意に甘えることにした。
ぼうっと突っ立てるのも何だかマヌケに思える。
かといって1人だけ勝手にソファーに座るのもいかがなものか。
どうしようかと、辺りをキョロキョロ見回しているとモニターの近くにゲーム機を発見した。
ついさっき購入したゲームソフトに対応するハードだ。
アタシはサクサクとそのゲーム機のセッティングを始めることにした。
「ありがとうー準備手伝ってもらっちゃって」
「これくらいは……」
「本当にゲーム好きなんですね。こんなたくさんあるなんて」
「太刀川さんとかも結構ゲームやるからねー。ほとんど私の趣味だけど」
なるほど道理でコントーローラーなんかも多いわけだ。
みればパーティーゲームの類も何個かあった。
太刀川さんや出水先輩たちと楽しそうにゲームしている姿が簡単に想像できる。
アタシには無縁の話だ。
皆でワイワイやったり、協力しながら進むゲームは肌に合わなかった。
1人でドンドン先に進められるようなゲームが好きだ。
「香取ちゃんのとこもゲームたくさんおいてあるのー?」
「昔は置いてあったんですけど……全部片付けました」
作戦室にゲームがあるとどうしても気になってしまう。
だから少し前にアタシが片付けた。
もっとも、携帯ゲームをするようになったので、あまり効果はなかったのだけれど。
ゲーム機の準備が終わり、国近先輩がソフトを箱から取り出してセットする。
(アタシ1人ならスキップするんだけどなあ)
OP画面が始まり心の中で呟く。
逆に先輩はすごく楽しそうだった。
*****
「また、一緒にやろうねー」
「はい、ありがとうございました」
区切りの良いとこまでプレイしてお開きとなった。
最後に洗い物の手伝いをし、お礼を述べ、アタシは作戦室を出た。
基地から出ると辺りは真っ暗になっていた。
思った以上の時間を過ごしていたらしい。
自宅までの帰り道で、今日のことを思い出す。
誰かと一緒にゲームをした経験は少なかったけれど、悪いものではなかった。
先輩とアタシとでは同じゲームでも楽しみ方が違う。
アタシはいかに効率よくクリア出来るかが楽しみだが、先輩はそれとは真逆といっていい。
細かいところまで調べ、眺め、楽しむ。
ゲームの魅力を一部分でも逃してはいけないとしているようだった。
効率的とはいえないけれど。
アタシ1人では気づけないとこまで楽しめたと思う。
ポケットの奥で携帯が震える。
先輩からだ。
内容は今日は楽しかったよということ。
次はいつ集まるということ。
端的に言えばその2つだ
文面からでも早く進めたくてウズウズしている先輩の姿が容易に想像できて、笑みがこぼれる。
かじかむ手を、入力ミスしないよう、しっかりと動かし先輩へ返信する。
――明日は大丈夫ですか?
終わります
乙
なかなかミスマッチな組み合わせだけど興味深いな
2月12日 水曜日
あれから次の日も、そのまた次の日も、アタシは太刀川隊の作戦室を訪ねていた。
国近先輩と、ときに出水先輩や太刀川さんを交えて様々なゲームを楽しんだ。
そのあいだ、麓郎たちと会話する機会はなかった。
「今日ウチの隊泊りにきなよー」
「泊まるとこ、あるんですか?」
この学校の水曜日は午前授業である。
ランク戦は毎週土曜日と隔週水曜日おこなわれ、今週は休みの週。
そのため、こうして先輩にお昼をご馳走になっていた。
「うん。いちおーあるよ。普段は私が徹ゲーするときに使うんだ~」
「徹ゲー……ほんっとゲーム好きですよね」
呆れと関心を半々に込めてアタシは言う。
「えへへ」
「ま、そういうことなら……何時ごろ行けば?」
「うーん、17時くらいかな。それまでミーティングあるから」
「なるほど……」
「香取ちゃんとこは大丈夫なの?」
「アタシの……」
まいった。
あれから麓郎たちとは会っていない。
華には学年が一緒だからあったけど、何かを言ってくることはなかった。
せっかく楽しくゲームの話をしてるのに、先輩ときたら嫌なことを思い出させてくれる。
――嫌な?
アタシは嫌なのか。
何が?
ミーティング?
麓郎?
ランク戦?
ボーダー?
それとも別の。
分からない。
分からないまま、何かを嫌だと思った感情だけが残る。
「香取ちゃん?」
思考はそこで中断される。
心配そうな目を向ける先輩の顔が視界にはいってくる。
「……大丈夫です、17時、ですね」
「ほんとー? 忙しいなら無理しなくても」
「無理なんかしてません。アタシも楽しみです。お泊り」
「なら良かったよー。お互い忙しい時期だけど遊ぶときは遊ばないとだね」
うんうん、と1人うなずく先輩。
何故だろう。
そんな先輩の顔を、アタシはまっすぐ見れなくなってしまった。
今日の分おしまいです
確かに趣味が合ってる2人だな
「ここだよ、ここ!」
アタシが17時きっかりに作戦室を訪れると、先輩は外食に行こうと提案してきた。
断る理由もなく二つ返事で承諾した。
そうして案内されたのがこのお店だ。
お好み焼き屋。
先輩ってお好み焼き好きなのかなーとか、ここってそんな有名なのかなーとか、勝手な想像をしながらお店の戸をくぐる。
「らっしゃいまーって、んだよゲーヲタかよ」
「やっほー」
そこには見覚えのある顔があった。
よく言えば無造作ヘアー悪く言えばまとまりのない髪形にギザギザの歯の持ち主は、アタシは1人しかしらない。
「影浦先輩?」
「香取? っは、いつの間にメシ食いに来るような仲になったんだ?」
「つい最近ですけど……そんなことより先輩ってバイトとかしてました?」
「ちげーよ、ここが俺んちなの」
それは初耳だった。
なるほど、ここが実家なのか。
「わたしたちも良く来るんだー」
「わりぃけど、いま満席だからー相席だぞ」
店内は座敷とテーブル席に分かれていた。
今日は繁盛しているようで、ほとんどの席は人の姿があるか、予約の札が置かれている。
幸いというか、そのなかに見知った人間はいなかった。
案内された席を除いての話だが。
「お、国近か」
「こんばんはー荒船くん」
「よ、国近」
「鋼くんも、ばんはー」
席には荒船先輩と村上先輩が座っている。
見事に高3のボーダー隊員たちだ。
もしかしたら、良く集まっているのかもしれない。
テーブルに埋め込まれてる鉄板の上からはジュウジュウと、いい匂いをさせてお好み焼きが焼けていた。
席に置いてあった荷物を先輩たちがどける、アタシは村上先輩の隣に、先輩は荒船先輩の隣に座る。
「お前等って仲良かったか?」
荒船先輩からさっそく質問される。
そりゃ気になるよね。
「カゲくんからも聞かれたよー」
「まあ、最近ですね」
日曜日にゲームショップで出会って今日は水曜日。
アタシ達が2人で食事に来ても不自然でなくなるには、もう少し時間が必要になりそうだ。
「注文したらどうだ?」
村上先輩がメニューをこちらに手渡してきた。
お好み焼き、もんじゃ、モダン焼き、海鮮などなど。
メニューは豊富で鉄板焼き屋だといっても差し支えない気がした。
「まずは、じゃがバターは外せないよねー」
「じゃがバター……?」
「うん。ここきたら、じゃがバター頼まなきゃ~」
ここ、お好み焼き屋ですよね。
「香取ちゃんは何頼む?」
「アタシは先輩にお任せします」
「そー? じゃーシーフードとーそれからー」
注文は先輩に任せた。
お好み焼き屋でアタシが食べられないものはない。
程なくして料理が運ばれてくる。
自分で焼くか、焼いてもらうか選べる方式みたいだ
アタシはもちろん焼いてもらうことにした。
先輩は自分で焼きたがっていたみたいだが。
「そういや、香取んとこ中位におちたんだっけ」
「……まあ、はい」
正直、あまり話したい話題ではない。
「玉狛があがってったんだよ。俺も負けたし」
「玉狛頑張ってるよねー出来たばっかなのに」
そんな話を麓郎から聞いていたことを思い出す。
「っくっくっく。荒船も鋼も玉狛のチビにやられてんのは傑作だったぜ」
心底楽しそうな笑い方とともに影浦先輩がやってきた。
右手には丸いイスと、左手にはお好み焼きが入っているであろう銀のボールが握られている。
お店のほうはもういいのだろうか。
「もう店の方は良いのか?」
「まあな」
持ってきた椅子を下して、先輩が腰かける。
そして何も言わずにお好み焼きを焼き始める
うん。
流石にお好み焼き屋の息子だけあって上手だ。
「でも空閑はほんとに強いぞ。カゲでも負けるかもな」
「ありゃお前が油断しまくってただけだろ」
「面目ない」
ボーダー隊員があつまれば自然と会話もボーダーのことが多くなる。
この場に集まった先輩方は皆アタッカー経験があり、血の気も多いタイプであり、バトルマニアだ。
影浦先輩なんてチームの勝敗よりも自分が強いやつと戦うことを優先している。
それでも不動の2位なのだから凄い。
そんな先輩方の話のネタになっているのが空閑という人物らしい。
「その空閑って人、そんなに強いんですか? 」
「お前知らないのか?」
「はい」
「ま、香取は最近ずっと上位にいたからな。知らなくてもしかたない」
「でもそれなら影浦先輩だって……ログとか見ないのによく知ってましたね」
「荒船と鋼が負けたっていうからなー久しぶりにログ見ただけだ」
「「見んなよ」」
「でも流石の空閑くんも厳しいかもねー次は二宮隊と東隊もいるんでしょ?」
「上位の壁ってのを感じてくるだろうな」
上位の壁か。
話はそのあとも盛り上がり続けた。
アタシとしてははやくゲームがしたかったのだけども、そんなことは言えない。
店を出たころには時計の針が午後9時を指していた。
今回の分終わりです
乙! 丁寧な描写よい!
「――先輩1ついいですか?」
「なにかな?」
「こいつのステ低くないですか? そろそろリストラした方が……」
「うーん、でもこのキャラ結構気に入ってるし」
先輩たちと別れ作戦室に戻ってくるとすぐにゲームを始めた。
いまは先輩がプレイをしている。
このゲームは数多くのキャラが登場するのが魅力の1つである。
アタシのお気に入り理由でもある。
キャラごとにステータスに差はあり、強いキャラもいれば、弱いキャラもいる。
アタシは割とクリア優先でサクサクと進めていくのだが、先輩は寄り道が多かったり弱くても好きなキャラを使おうとするので進むのは遅い。
「香取ちゃん、そういうとこ柔軟だよねー」
「いかに効率よく敵を倒せるかってのが大事だと思ってますからねー」
敵を倒せないとイライラする。
敵に勝つことが楽しい。
ゲームでもなんでも。
「ふむふむ。だから香取ちゃんはさっき乗り気じゃなかったのかな?」
「何の話ですか?」
「荒船くんたちの話。香取ちゃん、あんまりのってこなかったから。ランク戦の話もしたくないのかなーって。最近調子わるそうだし」
うっ。
この先輩は、こう見えて鋭い。
それともアタシの態度が露骨だったのだろうか。
「まーないとはいいません」
なんか恥ずかしくなる。
年上の先輩の前で拗ねてる自分なんて。
ガキみたい。
「大丈夫だよ。香取ちゃん才能あるもん」
「才能?」
「うん。まだ16歳なのに隊長務めてて、ガンナーだってすぐマスターいったし。もっと上にいけるよー」
「そうかな……」
才能か。
確かに昔はそれがあるって思ってた。
何でも人並み以上に出来たし。
勉強だって運動だって。
でも、ここには、もっとすごい人たちもいる。
「それにね。香取ちゃんって実はオペの間では人気あるんだよー」
「え……」
そんなに交友関係が広い方でもないし、ましてやオペレーターとなると。
華を除けば、先輩くらいのものだ。
「オペの子ってさー最初は戦闘員志望してた人も割といるんだよね~」
「……」
「だけど、自分にはどうしようもなくて、努力とか、成長とか、そんなものじゃ足りなくて。その道が閉ざされる」
その話は知っていた。
ボーダー隊員になるのに最も必要な才能。
トリオン。
いかに運動能力があろうとも。
いかに戦闘技術があろうとも。
トリオンがなければ、戦闘員としてはやっていけない。
トリオンが足らなく、オペレーターに転向した人物を、アタシは知っている。
「だから隊長やって、頑張ってる香取ちゃんには一種の憧れがあるっていうか……ほら女の子て格好いい女の子好きだし」
面と向かってそういわると、どう反応していいのか分からなくなってしまう。
じゃあ加古さんは? 那須先輩は? とか思いつきもしたけど、その言葉はなんだかアタシが嫉妬してるみたいに思われて口にしたくはなかった。
先輩は。
先輩はどうなのだろう。
先輩も挫折してしまった1人なのだろうか。
今はゲーム画面に集中している先輩の横顔を盗み見する。
いつもと変わらない、楽しそうにゲームしてる先輩の顔からは、何も読み取れない。
いっそのこと聞いてしまおう。
そう思って口を開きかけたとき、先輩の顔がこちら向けられた。
目と目が合う。
「だから頑張ってね。わたしは葉子ちゃんのこと応援してるから」
あ。
言葉が出ない。
ただ嬉しくて。
最近上手くいかないことが多かったけど。
その言葉で、少し元気が出た気がした。
「が、頑張ります」
やっとの思いで、その言葉だけを、絞りだした。
2月15日 土曜日
しかし。
待っていたのは厳しい現実だ。
格下だとなめてかかり、準備を怠ったアタシ達に、勝利の女神がほほ笑みはしなかった。
ROUND4。
その日、アタシ達は敗れた。
ランキングはB級9位まで落ちていた。
今日の分おしまいです
いいぞ~ 香取ちゃんかわいい
面白いぞ
2月17日 月曜日
「ほんとにわかってんのか? ランク戦明後日だぞ」
明後日のランク戦のためのミーティングをするはずなのだが、隊長の香取は作戦室に現れない。
華は半ば呆れており、若村は苛立っていた。
三浦はそんな隊の雰囲気の悪さを感じ、どうにかしないとと悩むことしかできないでいる。
「ここんとこずっとだよね。葉子ちゃん」
「中位に落ちてからの1週間、放課後も予定あるとか言って全然顔ださないし。何考えてんだよ」
「もしかして……」
華が突然気づいたように、作業を止めて口を開く。
「男が出来てたりして」
「はあ!?」
「ええ……」
思いもよらぬ発言に1人は、ありえないとでも言うように怪訝そうな顔を浮かべ、もう1人は心なしかショックを受けている。
「ありえなくはないでしょ。葉子モテるんだし」
「ん……それは知ってるけど、だからってこんなときに」
「こんなとき、だからよ」
「華、それどういう意味?」
「勝つことが大好き、負けるのが大嫌い。器用で大抵のことは人よりも上手くできる。だから上手くいかないことがあると、すぐ逃げ出すのよあの子は」
「なるほど……」
「自分も勝てない、チームも勝てない。このあたりが潮時だと思っていても不思議はないわね」
少し残酷な言い方にも聞こえるが、華と葉子は付き合いが長い。
おまけに華は人を見る力もある。
そんな華が言うのだからと、男性陣2人は何も言い返せなかったのであった。
また負けた。
しかも今度はB級中位に。
上位を守ってきたアタシからすれば格下の相手だ。
「面白くない」
面白くない、面白くない。
あんなに楽しかったのに、いまではランク戦の話もしたくない。
明後日も試合があるが、気は乗らないし、身も入らない。
だからミーティングもさぼり、気分転換と言い訳をして、今日も太刀川隊に向かう。
「――ありがとうございました」
見慣れぬ男が太刀川隊の作戦室の前でお辞儀をしていた。
誰だろう。
隊服にも見覚えがない真面目そうなメガネの男。
ほかの試合に興味がないといっても、A級やB級中位くらいの隊なら顔と隊服に見覚えはある。
でもこの顔にも隊服にも見覚えがない。
ということは、ルーキーか万年下位の雑魚かどっちかだ。
どちらにせよアタシには関係ない。
そんなことを考えていると、その男はアタシが来た方とは逆の方へと歩いて行った。
「おじゃましまーす」
この1週間でずいぶんこの作戦室にも慣れた。
もはや、この1週間の滞在時間は国近先輩に続いて2番目かもしれない。
「香取ちゃんおつー」
「……なぜ君が」
「それはこっちのセリフね、あんたまだ辞めてなかったの?」
この1週間会うことがなかったからすっかり忘れていたが、太刀川隊にはまだこの男がいた。
唯我尊、大企業のバカ息子。
「出水先輩なんでこの女がウチの作戦室に来るのですか!?」
「柚宇さんのゲーム仲間なんだよ。唯我、おまえとりあえずお茶入れてこい」
「っく、なんでボクが……」
文句を言いながらも給湯室に引き下がっていく。
あの唯我も先輩たちの前では頭はあがらないようだ。
「さっき誰か来てましたか?」
「ん? ああメガネくんが来てたんだよ」
「メガネくん?」
「玉狛第二の隊長」
玉狛第二、その名前は最近良く耳にしている。
アタシたちと入れ替わりに上位に上がり、上位の壁に阻まれまた中位に落ちてきたはずだ。
空閑といったか。
先輩たちが噂していた奴がいるところだ。
そして次の対戦相手だ。
「それって、空閑って子ですか?」
「ちがうちがう、空閑は一隊員で隊長は三雲っていうメガネくんだよ」
エースの空閑が隊長のワンマンかと思っていたけど違うのか。
さっきのメガネ隊長はなにしてたんだろう。
「まあ、座りなよ。コレ食べる? さっきメガネくんが持ってきてくれたお菓子なんだけど、結構美味いぜ」
アタシが食べるのは違う気もしたが、せっかくなので頂くことにする。
美味しい。
「玉狛と仲良いんですか?」
「仲良しってほどの付き合いもないけどなー。いまおれメガネくんお師匠みたいなことしてるから」
「そのお礼ってこと……」
「香取ちゃん次の対戦相手だろ?」
「ええ。あと柿崎隊も」
「頑張れよー。メガネくんいつになく自信満々な顔してたからな」
なんか引っかかる言い方。
自分の弟子という手前もあり、玉狛の試合を楽しみにしてるみたいだ。
それもアタシ達と玉狛というよりは、玉狛の戦い、つまりはメガネくんの戦いそのものを。
「玉狛の試合、楽しみですか?」
「まあ、解説も頼まれてるし。面白い試合するんだよ」
「玉狛が?」
「そうそう。思い切った作戦たてるし、華もあるっていうか、なんとなく応援したくなるんだよなー」
玉狛というのはだいぶ気に入られてるようだ。
出水先輩、村上先輩や、影浦先輩までも。
「仮にもぼくの弟子でもあるからね。B級中位ごときに無様な試合見せないと良いのだがね」
皮肉を垂れながら、唯我がやってくる。
お盆には湯呑が3つ置かれていた。
「B級下位の実力しかにくせになにいってんだか」
「まったくだな」
「先輩! それはあまりにひどいのでは」
「だって本当のことだろうが」
「身の程わきまえなさいよ」
この男は嫌いだ。
実力もないくせに偉そうで、むかつく。
「っく……ボクの真価は集団戦で発揮されるのさ。B級中位に甘んじているようなチームには理解できないと思うが」
「は?」
「だってそうではないのかね? 上位に登るのには高度な集団戦のノウハウが必要になってくる。ですよね? 出水先輩」
「そうそう。だから俺たちは毎度毎度苦労してんだよ」
「な! ボクだって日々努力を重ね――」
むかつく。
いつも以上にこいつの言葉は癇に障る。
気分転換にゲームをしにきたというのに、なぜこんな話ばかりしてるのか。
無言で席をたつ。
「どうした、香取ちゃん?」
「唯我がムカつくんで帰ります。国近先輩にも帰ったと伝えてください」
一刻も早くこの場から離れることにした。
このときの苛立ちは、実は唯我の言葉が間違っていなかったからだ。
図星をつかれ反論も出来ずに逃げ帰る。
なんて屈辱的な出来事だったろうか。
そのことにアタシが気づいたのは、ずいぶん時間がたってからのことだった。
今日はおしまいです。
なんとなく香取と唯我はとっても仲が悪い気がします
いつも見てます!
こういうやりとりありそうだな~ 1のキャラを把握してる感じ好き
唯我さんウザすぎわろた
火に油を注いでいくスタイル嫌いじゃない
2月18日 火曜日
学校屋上
麓郎
今日こそミーティングやるからな! 明日は防衛任務もあるんだし顔出せよ!
麓郎への返信はせず、携帯の電源を落とす。
明日は昼間防衛任務、夜からランク戦。
まったく。
こんな予定を組んだのは誰だ。
ランク戦の前の防衛任務なんて聞いたことがない。
しかし。
防衛任務のまえに作戦室に顔を出さないわけにはいかない。
放課後になったら行こうか。
今は昼休み。
夏ならば昼休みの屋上は昼食をとるもの、昼寝をするもの、たくさんの人が集まる。
今は冬。
こんな寒い時期に屋上にあがろうなんて馬鹿はアタシくらいのものだ。
出来るだけ離れたかった。
ボーダーにまつわるあらゆることから距離を置きたかった。
増えないポイント。
上がらないランク。
「これが……限界なのかもね」
アタシは何でも人並み以上に出来ていた。
ボーダーにはいってからもそれは変わらなかった。
アタッカーとしてもガンナーとしてもマスターまでは簡単にあがった。
だが、そこまで。
8000の先にいるのは化け物ぞろいだ。
生駒先輩、村上先輩、影浦先輩。
B級上位であり、同時に上位アタッカーである先輩方とは良く戦った。
勝てなかった。
勝てるはずもなかった。
だってアタシには。
ボーダー随一の旋空も。
強化睡眠記憶も。
感情受信体質もないのだから。
彼らは生まれながらの才能有していた。
アタシにはその才能がない。
それだけだ。
敵に勝てるから面白い。
負けたらつまらない。
勝つには才能がいる。
アタシには才能がない。
だから、負ける。
だから、つまらない。
このままだと、自分を嫌いになってしまいそうだ。
「あ、いたいた」
背後から声が聞こえてくる。
「探したよー教室にもいないからさー」
「それは……ご迷惑おかけします」
「……」
国近先輩がやってきた。
わざわざ、アタシのために。
嬉しいのだけれど、いまは喜ぶ気持ちにはなれなかった。
「この前はごめんねーうちの唯我が余計なこといったみたいで」
「いつものことですから……むしろ良く同じチーム組めてますよね」
「うーん、たしかに生意気なところもあるけど、年上からするとそういうのが可愛く見えちゃったりするんだよねー」
「……そういうもんですか」
「そういうもんだねー」
先輩の思惑が分からない。
なんのためにこんなとこに来たのか。
分からないから、ただ待つ。
少しの間沈黙がこの場を支配する。
「だめだなー……なにか気の利いたこと言おうと思ってきたんだけど、なんにも思いつかないや」
この場に似つかわしくない、あっけらかんとした声に緊張が緩む。
「この前来てくれたとき唯我のことを抜きにしても、なんか様子が変だったって聞いたからさ。ここは先輩がひとつ導いてしんぜよー、なんてね、思ってたんだけど。慣れないことはするもんじゃないねー」
うんうん、と1人腕を組み頷く。
その様子にアタシはおかしくなって少し吹き出してしまう。
「ふふ……先輩の悩みが解決したみたいで嬉しいです」
「ちがうよーわたしが悩みを解決しにきたのに、これじゃあ逆だよ~」
なんか悩んでいたのがバカみたいだ。
この先輩の前では、どんな深刻な悩みでもどうでも良くなってしまうのかも。
悩みが消えるわけでも、軽くなったのでもないけど話してみようとは思った。
「アタシ限界かなーなんて思うんですよね」
それはずっと胸の内にあったこと。
自覚さえも最近まで出来てなくて、ずっとわだかまりになっていた胸の内。
「最近全然勝てないしランクも伸びないし、才能の限界っていうか壁っていうか……そういうの感じちゃうんですよね」
「……」
「ゲームと一緒ですよね。ラスボスまで連れていける仲間なんてほんの一握り。ステータスの……才能の差は覆せないんです」
そこまで話して口を閉じた。
思ってはいても誰かに話すのは初めてのことだった。
こんなこといきなり言われても困るよね。
アタシ限界です、なんて。
先輩は案の定困ったような顔をしていた。
何か言わなきゃいけないけど、うかつなこともいえない、そんな感じだ.。
キーンコーンカーンコーン
昼休み終了の鐘がなる。
この時間は惜しいけど帰らなくては。
「先輩、いきましょうよ」
アタシは先輩を促して屋上の出入り口へ向かう。
アタシは相談したかったわけじゃない。
ただ、どこかに気持ちをぶつけたかっただけだ。
そう思うことに決めた瞬間、先輩の声が聞こえた。
「大丈夫だよ」
「……」
「葉子ちゃんは自分の可能性に気づいてないだけだよ。葉子ちゃんの限界はまだ全然先だよ」
足を止める。
率直に言えば、それは壁に直面したことない者のセリフだと思った。
太刀川さんや出水先輩が近くにいるからそんなふうに思えるだけなのだと。
でも同時に心が救われたきもした。
いまのアタシが感じている物が、壁じゃないのだとしたら。
アタシが自分の限界よりも遥か手前に線を引いてしまっただけなのだとしたら。
分からない。
自分の限界が見えたら良いのになと思った。
ゲームのように、数値で表してくれれば。
でもそんなことは出来ない。
アタシはどうすればいいのだろう。
今日は終わります
あと一回か二回ほどで完結できるとおもいます
いかにも普通の悩みって感じで好き
R5って香取ちゃんもザキさんもそこを強調してた感じあったよね
乙
敵を倒しても経験値になるかどうかは人によるよね
ラストいきます
あれからずっと考えていた。
けれど、答えはでない。
この壁の超える方法が分からない。
「これ以上おちたらどうすんだよ」
思考は中断される。
そうだ。
あと少しでランク戦が始まるのだ。
麓郎が相手チームどうのこうの話していた。
ほとんど耳には入っていないけれど。
「どうするもなにも、負けたらそれが今のうちの実力ってことでしょ」
そうだ。
負けて落ちたらそれが実力だ。
才能がなかったというだけだ。
それは変わらない。
「ちょっと、負けたくらいで毎度毎度……」
「……は? 毎度ってなによ」
「今までだってそうだったろーが!」
違う。
「アタシよりガンナーランク下の人に説教されたくないんだけど」
「あんだと……?」
絶対的な才能の前に、アタシはアタシの才能を信じてきた。
アタッカーが駄目なら、ガンナー。
ガンナーが駄目なら、オールラウンダー。
その可能性に賭けてきたつもりだ。
マスターにもいけないコイツにはそれすらも分からないんだ。
マスターにもなれない麓郎にアタシの何が分かる。
その程度の実力しかないくせに、偉そうに。
「『上級者の壁』ってのがあんのよ。マスターになったこともない人間には分からないだろうけど」
「葉子ちゃんそれはちょっと……」
「ああ。そうだよ……けど、お前は違うだろうが!!」
は?
「訓練もせずに、そんだけやれるくせに。なんでもっと本気でやらねーんだ!?」
「毎回毎回全力ださねえ理由ばっかり探してやがって!!」
「『上級者の壁』だと!? いっぺんでもまともに壁にぶちあたってから言いやがれ!!」
違う。
アタシはいつだって本気だ。
まともな壁にぶつかったことがない?
そんなはずない。
麓郎の言葉はズレてる。
お前は間違ってるんだ。
そういってやらなくちゃ。
麓郎に。
けれど。
アタシの口から出てきた言葉は違った。
「なに熱くなってんの……だっさ」
そう言うことしかできなかった。
茶化して、誤魔化して、目をそらさずにはいられなかった。
イライラする。
麓郎の言葉がどうしようもなくアタシをイライラさせる。
どうして、こんな。
――葉子ちゃんは自分の可能性に気づいてないだけだよ
先輩の言葉がよみがえる。
誰もかれも、これ以上アタシになにをしろというのか。
本気になれとか、可能性があるだとか。
アタシは本気でやってきた。
アタシは可能性を信じてきた。
そのはずだ……
「……3人とも時間よ」
分からない。
時間もない。
あと数秒で転送が始まる。
落ち着け。
シンプルに考えればいい。
結局のとこ、才能のあるものが勝つ。
だからアタシは勝てば良いだけだ。
玉狛第二。
空閑。
相手にとって申し分ない。
証明してみせる。
ここで勝って上位に戻る。
アタシがアタシの可能性を証明してやる。
「――勝てばいいんでしょ。勝てば」
****
あと1人!!
メガネはすぐに落とせた。
残りは空閑だけ。
一撃で急所を貫く。
アタシは強い。
こんなとこで躓いてるアタシじゃない!
!?
『ワイヤー!?』
あのメガネ……!!
ビュアアア!!
これは! 影浦先輩の……
『トリオン供給器官破損 緊急脱出』
****
負けた。
空閑どころか。
あのメガネにすら。
「もうやめる。ボーダーやめる」
やめてやる、やめてやる。
どうせアタシなんて、才能なんて最初からなかったんだ。
「葉子ちゃん、そんなこといわないでよ」
あの日、アタシなら1位になれると本気で思った。
でも違った。
あんなメガネにまで一杯食わされて。
アタシの才能ってそんなものだった。
「負ければ負けるほど自分が嫌いになるもん。だからやめる」
「今やめても、自分を嫌いになると思うけど?」
そんなこと分かってる。
「そういう言葉が欲しいんじゃない!」
分かってるよ。
でも。
分からないの。
どうすれば良いのか。
苦しくて苦しくて。
この苦しみからどうすれば逃げられるのか。
分からないの。
あいつらは違った。
――ただ単に自分がそうするべきだと思ってるからです。
あいつらは、自信満々だった。
自分のすべきこともわかってた。
アタシのことなんて眼中にもない。
アタシとは正反対で、なんだかそれがすごくムカついた。
「ムカつくんだよ玉狛! ポッと出の新人のくせに! ムカつく! ムカつく! もぎゃああ!!!」
小さな子供のように泣き叫ぶ。
ムカつく、ムカつく。
どうしてこんなに違うの。
あいつらとアタシ達と何が違うっていうの。
目指すべきものがあるから?
それならアタシにだってある。
華の家族を、アタシ達の幸せを奪ったネイバーを、絶対に許さない。
違いなんてどこにもないのに。
なのに、なのに、なんであいつらだけ。
「やめたいならやめれば」
「華さん……!」
「葉子はやりたいことやったほうがいい。そういう性格だから」
うぅ。
違う。
そういう言葉が欲しいんじゃなくて。
アタシは。
アタシは。
雄太がアタシの前にしゃがみ込む。
「……葉子ちゃんもうちょっとだけ頑張ってみようよ。葉子ちゃんが玉狛にムカつくのは、きっと玉狛がうらやましいからだよ」
あ……
「玉狛みたいに工夫して、作戦たてて、勝てるようになろうよ。まだ全然遅くないよ」
そうだったんだ。
工夫して、作戦たてて、あいつらは頑張ってたんだ。
アタシとの違いなんて簡単なことだ。
アタシは自分の能力に胡坐かいて適当にやってた。
あいつらは違う。
最初から勝てるはずなかった。
「……だってアタシ工夫とか勉強とか苦手だもん」
「大丈夫」
――大丈夫だよ。
ああ。
そういうことだったんだ。
国近先輩の言いたいこと、アタシようやくわかった。
「悔しいって思えるなら、まだ強くなれるはずだから」
うん。
大丈夫。
強くなろう。
****
太刀川隊 作戦室
「――ありがとうございました」
激闘から一夜明けてアタシは太刀川隊の作戦室を訪ねていた。
先輩以外は誰もいない。
「アタシ馬鹿でした。まだ何もしてないのに限界とか壁とかくだらないこと……スタートすらしてなかった」
「逆に言えばそれでこれだけ出来ちゃう葉子ちゃんってほんと凄いんだよ~。最後の攻撃だって格好良かったよ!」
こう褒められると恥ずかしい。
あれは思い付きが彼だったから上手くいっただけだから。
「アタシ今度は頑張ってみようと思います。勉強とか工夫とか……正直苦手だけど、助けてくれる人もいるから」
「うん」
少し気がかりだった先輩への挨拶も終えた。
先輩は最初から分かってた。
とても清々しい。
壁なんて、努力から逃げるための言い訳でしかなかった。
それに気づかせてくれたのは隊の皆と、国近先輩だ。
「そういえば、こないだ話してたあのキャラ覚えてる?」
「あのキャラって、先輩が使ってたよわっちいやつですか?」
「そうそうー実はねー、こないだあのキャラでゲームクリアできたんだよー」
「え!? 本当? あいつ全然ステ上がんなかったのに……」
「ふふふ、まーそこは私のテクニックかな?」
「ゲームでもまだまだ先輩には及ばないみたいですね……」
ちゃっかりやりこんでたのか。
こうなったら縛りプレイでもしようかな。
でも、今迄みたいにゲームにばかり時間使うわけにも。
むむむ。
「今日はしていく?」
国近先輩がアタシを誘う。
アタシはそのお誘いを丁重にお断りして、席を立つ。
「これからチームミーティングで。また誘ってください」
「うん。それが良いね」
「先輩……ほんとうにありがとうございました!」
「わたしはなんにもしてないよ? チームの皆が頑張ったんだよ」
「いえ、最後に気づかせてくれたのはあいつらですけど。先輩に会ってなかったら、それも気づけなかったかもしれません」
負けてふてくされてたアタシを受け止めてくれたのは国近先輩だった。
お好み焼き屋にいって、お泊りして、応援してくれて、アタシよりもアタシの可能性を知っていてくれた人。
国近先輩に出会ってから、アタシはアタシと向き合うことが増えた。
だから雄太の言葉もすんなり受け入れることが出来た気がする。
先輩には感謝しかない。
「葉子ちゃんなら大丈夫だっだよ。だって私が応援してるんだもん」
ああ。
この先輩には。
柚宇さんには。
本当に敵わないな。
「また来ますね。ゲーム。まだ完クリしてないですし」
「うん。またね」
作戦室をでる。
さて作戦室に行こう。
そう思い右に曲がると、向こうから見慣れた顔が歩いてくるのを見つけた。
三雲修だ。
おおかた、出水先輩へのお礼といったところだろうか。
今出水先輩いないけどね。
向こうもアタシに気づいたらしくペコリと頭を下げる。
「お疲れ様です」
まったく見かけどおりの真面目メガネだ。
「――次は負けない」
挨拶を返す代わりに、すれ違いざまにそれだけ言う。
「――はい! 僕も次は負けません!」
廊下に響き渡るような大きな声で答える。
あれだけ見事にアタシ達に勝ったっていうのに。
次も手ごわいんだろうな。
――次は負けない
アンタたちに、そして何よりアタシ自身に。
ここから始めよう。
0から始めよう。
――やるからには1番を目指すよ。わたしは。
そうだったね。
アタシと華と、麓郎と雄太。
アタシらが組めば楽勝だわ。
これで完結です
ありがとうがとうございました
乙乙
面白かった
モブのいない原作だよね
乙!
面白かったです! ヨーコちゃん可愛い
ダメっ娘ヨーコちゃんが好きな身としてはちょっと綺麗過ぎる気もする
けどこれはこれで良かった
乙
もぎゃあ~
試合後の場面でジャクソンが何も言わ(言え?)なかったのも印象的だったよな
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