書き溜めを吐き出したくなったので。
駄文すいません。
あとキャラの喋り方とか違和感あったらごめんなさい。
脳内で補完お願いします。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1474824095
ー1ー
桜が舞った、並木道。
私はそこに立ち尽くしていた。
都会の賑やかさの中で、私はそこで目を閉じ、静かに息を吐く。
思い出す。
あれはもう何年前のことだったか。
歳を数えるのも嫌になる年齢になって、それでもあの人との思い出は数え切れないほど思い出して……。
一緒にこの道を歩いた。
一緒にあの学校で過ごした。
一緒に青春を駆け抜けた。
いつでも一緒にいた。
いつでもそばにいてくれた。
あなたは今何をしていますか。
自分の夢に夢中になれていますか。
脇目も振らずまっすぐに生きていますか。
楽しい日々を過ごせていますか。
もしそうならあなたを送り出した私はとても嬉しく思います。
あなたのピンと伸びた背中を涙を堪えて見送った甲斐があります。
だけど私は……。
「ねえ海未ちゃん、聞いてる?」
「えっ? あ、すいません。 ちょっとぼーっとしてたみたいです」
「もー! ちゃんと私の話聞いてよね!」
「ごめんなさい。 それで、何の話でしたっけ?」
「だからー、進路の話だよ! 海未ちゃんまだ進学先決めてないって言ってたじゃん?」
「あー……。 そうでしたね。 もう10月、さすがにそろそろ決めなくてはいけませんよね……」
「海未ちゃん頭いいからやっぱり○○大いくのかな? それとも運動のために□□大とか?」
「ふふ、さすがに私でもそんな頭のいいところにはいけませんよ。 そういう穂乃果はどうするつもり……って聞くまでもありませんよね」
「ふふふ、そんなこと言わずに聞いてくれてもいいんだよ? さぁ! さぁ!!」
「なんですかその反応は」
「ほら! ねぇ!」ワクワク
「……はぁ。 あなたは卒業したらどうするんですか?」
「穂むらに就職だよ!」
「あーはいはい。 すごいですね」
「ちょっと、何その薄い反応!」
「だってわかってましたし……。 というかいつも自分で言ってるじゃないですか」
「そうだっけ? まぁどのみち私の頭じゃ進学なんて無理だしねー」
「そうですね。 あなたでは受験に受かる気がしないので潔く諦めましょう」
「ひどっ!! もう私おこったもんね! ふんだ!」プンスカ
「……はぁ」
「ただいまー」
「あ、ことりちゃんおかえり!」
「あら、ことり。 どこへ行ってたんですか?」
「え? あー、えっと……お手洗いに、ね」
「? そうですか。 言ってくれればついていきましたのに」
「あ、ごめんね。 ちょっと急いでたから」
「もーことりちゃんったら、そんなに我慢したら体に悪いんだよ」
「ごめんね。 これからは気をつけるね?」
「そうそう、それでいいんだよ! ことりちゃんが病気になったら私も悲しいしね!」
「穂乃果ちゃん……っ! ありがとっ」
「うわ、もぉことりちゃんってば、くるしいよ~」
「えへへ~♪」
「はいはい。 その程度にしてそろそろ部室に向かいましょう。 後輩たちが頑張ってるのに私たちだけ油を売ってるわけにはいきませんよ」
『はーい』
「……ふぅ。 久々に踊りましたが案外やれるものですね」
「海未ちゃん最近勉強ばっかりで部活に顔出せてなかったもんね。 それで調子のほうはどう?」
「はい。 とりあえず模試は手応えありましたし、このまま勉強を続ければ△△大にもいけるだろうと先生も言ってくれました」
「うわ~、すごいっ! やっぱり海未ちゃんってすごいんだね! ことりも友達として鼻が高いよ♪」
「そういうことりこそ、英語の成績は特に良かったと聞きましたよ」
「えへへ、英語は昔から得意だったから自信あるんだー!」
「……」
「あれ、海未ちゃん? どうしたの、急に下向いて」
「……ことり」
「?」
「ことりは……どうするんですか?」
「ん? なんのこと?」
「そろそろ教えてくれてもいいんじゃないですか? 進路のこと」
「……」
「……そうですか。 いえ、いいんです。 私も無理に聞き出そうとは思っていませんので」
「……ごめんね」
「謝らないでください。 むしろしつこく聞いてる私の方が謝るべきなんです」
「ううん、海未ちゃんは悪くないよ。 話さないことりが悪いの。 でも……もう少しだけ待って欲しいの。 近いうちに、きっと話すから」
「別に無理に話さなくっても……」
「……」
「……はい。 その日まで待っていますね」
「ねぇ2人ともー!! いつまで休んでるのー!!」
「あっ、穂乃果ちゃん。 ごめんねー! 今戻るからー!」
「穂乃果ったら、 もう2時間も踊りっぱなしなんだから少しは休んだほうがいいですよ」
「えー! 後輩が頑張ってるのに先輩である私が休むわけにはいかないよ!」
「はぁ。 オーバーワークは怪我のもとだって何度も言ってるのに。 真姫からも何か言ってもらえませんか 」
「え? んー、まぁ別にいいんじゃない? 凛も花陽も久々に3年生が来て楽しそうだし。 海未には申し訳ないけど穂乃果にはもう少し頑張ってもらわなきゃね」
「真姫まで……」
「正直スポーツおばけの凛と張り合える人なんて同じおばけの穂乃果くらいしかいないしね。 だからずっと相手していてもらったほうが私としても楽できていいってわけ」
「穂乃果ちゃんは何おばけなの?」
「そうねぇ、努力おばけとでも言ったところかしら」
「ふふっ、それは穂乃果ちゃんにピッタリの命名だね♪」
「あー、真姫ちゃんサボってるにゃー! いーけないんだーいけないんだー! かーよちんに言ってやろー!」
「ちょっ、サボってないわよ! 休憩してただけだし、今戻るわよ!」
「それじゃあ海未ちゃん、私たちも戻ろっか」
「はい。 後半は穂乃果に負けてられませんね」
「あー、楽しかったー!!」
「久しぶりに練習に顔出しましたが、あの調子だと今度のライブも問題なさそうですね」
「そうだね。 とりあえずことりたちが引退してからもちゃんと頑張ってくれてるみたいで良かったよ」
「思い返せば、穂乃果から『ラブライブが終わったので3年は引退します!』と宣言されたときは何事かと驚いたものです」
「ほんとうにね~。 ことりもびっくりだったよ」
「あはは……。 だってラブライブってさ、ほかの部活で言ったらインハイみたいなものでしょ?」
「確かに時期や規模で言ったらそうなりますね」
「ならさ、それが終わったら私たちは次の夢に向かって頑張らなきゃいけないんじゃないかなって、そう思ってさ」
「それはまぁそうですけど。 ですが絵里たちは3月まで残っていたのですから、私たちもそれでよかったのではと思いますが?」
「えっと……、私たちには私たちなりのアイドル研究部があるっていうことで!」
「なんですかその取って付けたような理由は。 ですが他でもない穂乃果がそう決めたのですから私たちは反対しませんけどね。 しっかり悩んで出した結論だったのでしょう?」
「うん。 スクールアイドルは楽しくて、みんなと輝ける場所で、私を成長させてくれた。
……でも私たちにはもっと大切なものがあるから……」
「……大切なもの?」
「あ、あー!! あんなところに珍しい色をした鳥さんがいるよ!!」
「えっ? どこにもいないじゃないですか」
「あ、あれー、おかしいなー? さっきまでそこの木にとまってたのになー?どこかに飛んでいっちゃったみたい。 えへへ」
「……はあ? いきなりどうしたんですかことり」
「え? な、なんでもないよ! それより誰が先にあそこの曲がり角まで着けるか競争だよ! よーい、どん!」
「あ、ことりちゃんずるい! 私も負けないぞー!」
「ちょ、2人とも!……なんなんですかまったく。 待ってくださいー! 2人ともー!」
穂乃果が濁した言葉、
『大切なもの』
あの子がスクールアイドルを手放してまで得ようとしたもの。
きっとあの子なりに私やことりの進路のことを考え、ひたすら悩んだ末に出した決断だったのだと、その時の私は思っていた。
生まれる前からの幼馴染。
一緒のいた時間の長さが物語る。
私は穂乃果に対しての圧倒的な理解者であると。
この子の考えていることは手に取るようにわかる、会話中は次はどんなことを口走ろうとしているのかも予想できる。
笑顔の裏に見せる辛さを覗き込むことができる、涙の奥に隠れた強さに触れることができる。
親友としての、私の特権。
それ故に穂乃果の語った言葉を自分で解釈して、納得して……。
だから考えてもいなかった。
私が理解していなければならなかったのは『彼女』だということを。
ー2ー
あれから幾つかの月日が流れた。
私は都内の大学に進学することが決まり、穂乃果も今からすでに穂むらで働く気満々でいる。
……でもあの子からは、まだ話を聞くことができていない。
別に仲違いがあったわけでもないし、変わらず3人は一緒にいた。
ことりは時々申し訳なさそうな目で私を見ていたが、その度に私は気にしてないと言った意味を込めて微笑を返す。
その繰り返しで今日まで過ごしてきた。
今でも待っている。
あの子の口から、あの日語ってくれると約束した言葉が紡がれるのを。
たかが進路……。
大事な選択ではあるが、人に隠すほどのことだろうか。
ましてや私たちは幼馴染であって、今まで小学校も中学校も高校もお互いの進路を合わせてきた。
だから今回も……、同じとはいかなくともお互いの進路について応援しあえる日が来るのだろうなと思っていた。
でも、それが現実になることはなかった。
私は焦っていた。
彼女は私に話すことを躊躇っている、というよりは私に話すことを避けているのだろうか……と感じるくらいに。
彼女の中で私という存在が何かをきっかけに変わり始めていて……。
彼女にとって私は、将来のことを教える価値がない存在になってしまっている。
……最近ではそんなことすら考えてしまう始末。
そんなことはありえないとわかっていながらも。
ことり。
私は……。
「とうとう私たちも卒業かー。 寂しくなるね……」
「そうですね。 去年卒業した先輩方もこんな気持ちだったのでしょうか」
「去年は絵里ちゃんたちが卒業してから海外に行ったんだよねー。 あぁ、あれももう一年も前のことになるんだなぁ」
「月日の流れというのはあっという間、まさにその通りですね。 だからこそ私たちは貴重な時間を有意義に使わなくてはいけないのです」
「うんうん、まさしくその通りだよね! 一度きりの人生、これからも精一杯やりたいことをやって生きていくべきだよね!」
「それは賛成です。 それはともかくあなた、この1ヶ月間ずいぶんと素敵な生活を送っていたそうですね?」
「えっ……?」
「学校がないのをいいことに毎日家でダラダラダラダラと過ごし、たまにふらっと練習参加しに行っては帰ったらすぐ寝、翌日は昼間に起きてぼーっとしてはまた昼寝をして惰眠を貪る……そんな日々だったと報告を受けていますが?」
「うげ!? な、なんで海未ちゃんがそんなこと知ってるの!?」
「あなたの様子をおばさんや雪歩から聞いているんです。 それはもう見事なダラけっぷりだった、と」
「え、えっと、……そ、そう! 私のやりたいことがそれだったんだよ! 学校の時は寝坊することも昼寝することもできなかったでしょ!? それに働き始めたらもっと早い時間に起きないといけない! だから今のうちにダラけられるだけダラけたかったの!」
「お黙りなさい! そもそも寝坊も昼寝もこれまで結構な割合でしていたでしょう! なまけは敵! 今からあなたのその腐った根性を矯正します!」
「や、やめて~! 春休みまでピシッとして過ごすのはやだよー!!」
「節度を今のうちから身につけておくことが大切なのです! そのための春休み、認識を改めなさい!」
「うえぇぇ~ん! 誰か助けてぇ~!」
「逃げるんじゃありません! おとなしく私が1週間かけて作った矯正プログラムを受けなさい!」
「海未ちゃんこそそんなもの作ってる時間が無駄じゃんかー! ばかー!!」
ガララッ
「穂乃果ちゃん? 海未ちゃん? いるー?」
「あっ、ことりちゃんだ! たすけてー!」
「え? な、なになに?」
「ことり! 穂乃果を捕まえてください!」
「えっと、状況がわからないけど、とりあえず穂乃果ちゃんを捕まえればいいの?」
「敵が増えた!? ひどいよ! 信じてたのに!」
「ふふっ。 穂乃果ちゃんごめんね?」
「うぎゃー!! はーなーしーてー!」
「つーかまえた♪」
「ナイスですことり! というかことり、今までどこへ行っていたのですか? 気付いたらいなくなってましたよね?」
「あ、そうそう。 ことりね、2人を呼びに来たんだった」
「呼びに?」
「うん。 ちょっとお母さんに呼ばれて理事長室に行った帰りに、廊下で花陽ちゃんに会ったの。 それでアイドル研究部のみんな中庭にいるから2人と一緒に来て欲しいって」
「おっ、そうだったんだ! じゃあこんなことしてる場合じゃないね! 早く行かなきゃ!」
「あっ、穂乃果! 待ちなさい!」
「いやだよーだ! 私は春休みを思いっきりダラダラして遊び呆けるという充実した予定があるのだー!」
「……あっ、もう。 逃げ足の早い子ですね本当に」
「あはは。 だいたい何があったか想像つくけど、今日くらいは今まで頑張ってきたご褒美をあげてもいいんじゃないかな?」
「……ことりにそう言われてしまうと、……はぁ。 それもそうですね。 あの子にとっては学生として最後の長期休暇ですし、見逃してあげますか」
「さすが海未ちゃん、海のように広い心を持っておいでで♪」
「からかわないでください。 それじゃあ私たちも行きましょうか」
「うん、そうだね!」
ギユッ
「……」
「……」
「……?」
「……」
「……あの、ことり?」
「えっ?」
「えっと、どうして私の手を握って……?」
「……えっ!? あ、ご、ごめん!」
「いえ、謝らなくてもいいですけど……何かあったんですか?」
「う、ううん! 何もないよ! なにも!」
「そうですか。 では行きましょう?」
「そ、そうだね。 あはは……」
グイッ
「……っ!?」
「……」
「……あの、えっ……? 行かないんですか?」
「……」
「こ、ことり?」
「……。 海未ちゃん」
「は、はい」
「2人っきり、だね」
「えっ? あっ、はい。 そうですね、穂乃果も行っちゃいましたし……」
「……だから、今伝えたくて。 海未ちゃんに、話さなくちゃいけないこと」
「!! そ、それって……」
「うん。 ずいぶんと遅くなっちゃったけど、最近まで話す決心がつかなくて。 でも今なら大丈夫」
「そうですか。 で、ですがことりも大袈裟ですよね。 進路くらいそんな隠し通す必要もなかったのに」
「……そうだよね。 うん、そうだよ……」
「……?」
「ねぇ、海未ちゃん。 ことりたちって、これからもずっと仲良しでいられるよね?」
「え? まったく、なにを言うと思ったら。 そんなの当たり前じゃないですか。 私も穂乃果も、これまでもこれからもずっと仲良しのままですよ」
「だよね……。 よかった……。 ぐすっ」
「え、こ、ことり!? どうして泣いて……!?」
「……あのね、ことりね……、外国行くんだ」
「……えっ?」
「……フランスに行ってね、服飾のお勉強頑張りたいの」
「フランス……ですか。 やっぱり去年のこと諦めてなかったんですね」
「うん……。 どうしても、挑戦したいなって気持ちは捨てられなくって」
「……そうですか」
「そ、それでね、ことりがあっちに行ったらなかなか帰ってこられないと思うし、それでことりたちの関係も変わっていっちゃうんじゃないかって不安で、怖くて……」
「……もう、バカですね。 そんな心配は必要ありませんよ。 先ほども言った通り、私たちはいつまでも仲良しのままですから! 絶対に!」
「……うん! あ、あはは。 これならやっぱり今日まで引き延ばす必要なかったね……」
「まったくですよ。 私のこと少々甘く見過ぎでは?」
「ごめんね……」
「このこと、穂乃果は?」
「穂乃果ちゃんにはね、実はもう話してるの」
「え、そうだったんですか?」
「うん。 去年のラブライブ終わった後に」
「……えっ?」
「……あっ、か、勘違いしないで欲しいけど、海未ちゃんだけ除け者にしてたわけじゃないの! これには理由があって……」
「理由……ですか。 私今ちょっと怒っていますのでそれなりに納得いくものでないと許しませんよ?」
「ひぃ……!? いや、その……ね? 穂乃果ちゃんにはどうしても話さなくちゃいけない理由があったの……」
「聞きましょうか。 その穂乃果だけにしか話せなかったっていう理由とやらを」
「あ、あのあの、えっと……ことりね、留学のためにはフランス語もできなくちゃいけないって知ってたの。 本当は英語が通じる国でもよかったんだけど、フランスの方が設備が充実してるってことがわかって……。だからこの半年間を使って勉強しようと思ったの。 だからそのためには部活をしている時間もなくて……」
「……なるほど。 つまり、穂乃果の引退宣言はそういうことだったんですね」
「うん……。 ことりちゃんがやめるなら私たちも一緒に、って」
「私は別に構いませんけどね。 そもそも穂乃果をサポートするために始めたスクールアイドルですし、あの子がいなかったら私も続ける道理はありせんし」
「海未ちゃんもそういうだろうって穂乃果ちゃんが言ってた。 だから3年生の部活はこれで終わりって」
「そんな事情があったんですね。 ですか、それだけだと私に隠していた理由としては不十分では?」
「うっ……、やっぱりだめ?」
「まさかこれだけしかないんですか? だったら怒ります」
「いや、他にも理由はあるんだけど……えっと……」
「それなら話してください。 さぁ」
「う、うぅ……」
「ことり」
「……」
「……あの、ことり?」
「……よし。 話すぞ話す話す話す話す話、す……」
「な、なんか邪悪な気を感じるんですけど気のせいですかね……」
「そ、園田……
園田……う、海未、しゃん……」
「……は、はい?」
「あの、わ、わた、わたしこと南ことりは……えっと」
「……?」
「あなたのことが……好きです……」
「……は?」
「」プシュュュュュュ...
「いや、あの、私もあなたのことは好きですよ? それはともかく早く理由を……」
「違うよ海未ちゃん……。 ことりはね、海未ちゃんみたいに友達としての好きじゃないの。 女の子として、好きなの」
「………………。 ………………はぁ?」
「だからぁ!! ことりは海未ちゃんのこと、いつでも手繋いでいたり、抱きしめあったり、ちゅっちゅしたりしたい意味で好きなのぉ!!」
「……」
「……?」
「えっと……ち、ち、ちょっと待ってください? 私たち女の子同士ですよ?」
「そんなことわかってる! でも海未ちゃんに打ち明けられなかったのは、もし留学の試験に失敗したときに情けない姿を見せたくなかったから! これが理由なの! わかった!?」
「えっ!? わ、わかりません!」
「わからないの!?」
「あ、当たり前です! そもそも、あなたは勘違いしてるんです! あなたの感じているそれは恋愛感情ではなく、家族や親友に寄せる親愛の情! それに決まってます!」
「ち、ちがうもん! ことりは海未ちゃんのこと本当に恋愛感情で好きなんだもん!」
「と、とりあえず打ち明けられなかった理由は受験に失敗した時の不甲斐ない姿を私に見られたくなかったということで納得します。 ですが、他の部分はまったく納得できませんよ!? ていうかむしろ理由を隠されていたこと以上に大問題なんですが!?」
「えっ!? これって大問題なの!?」
「はい! 大問題です!」
「ひ、ひどいよ海未ちゃん!」バッ!
「……!」
(ぶ、ぶたれる……!)ギュゥ
「……海未ちゃん」
「……う、うっ……? ……って、ちょ、顔ちか……
んむぅ!?」
「……ん」
「……!!????!?」
「……これでも、まだ疑う……?」
「……あ、あなた……何して!?」
「……ことりが、海未ちゃんのこと好きな証明」
「え、え……エッ!?」
「海未ちゃん、好き。 大好きなの。 お願い。 ことりのものになって?」
それからの私の記憶は曖昧だ。
この後もことりに誘惑され続けていたのか、走って逃げ出したのか、はたまた意識を失ったのか。
ただただ気が動転していて、どれが本当の記憶なのか思い出せない。
だって人生で初めてのキスの相手が……幼馴染で、しかも同性で……。
こんなの動揺しないほうがおかしい!
その後、中庭で後輩たちがライブをしてくれたけど、私とことりは焦点の合わない目で、後輩のダンスとお互いの顔色を伺うという動作をひたすら無意味に繰り返していた。
あぁ……なんでこんなことに……!?
ふんふむ期待
-3-
ピロ-ン
「……?」
[明日時間ある? 海未ちゃんと今日のこと、しっかり話したいの]
「……」
卒業式の終わった日の夜。
ことりから連絡が入った。
『話』といっても……。
未だに思考が追いついていない。
とりあえず今日のことを振り返ってみる。
今日は卒業式だった。
私たちの高校最後の日。
たくさんの同級生が、顔がくしゃくしゃになるほど泣いていた。
3年間の楽しかったことを振り返って、辛かったことを思い出して、友との別れを惜しんで。
でもしばらくするとその目は眩しく輝く明日を見つめていた。
私たちはここで終わりじゃない、と。
たくさんの後輩に見送られた。
私たちと共にあったμ'sの後輩もいる。
そして、まさしく私たちの青春の証……、音ノ木坂の1年生もいる。
来年度の倍率も1をゆうに超えていて、この分だと当分はまた廃校の危機に陥ることないだろう。
それに頼もしい後輩たちはこれからも学校のため、自分たちのやりたいことのために頑張って行ってくれるはずだ。
そして卒業式が終わってから……
さて、ここからが問題。
穂乃果と話し終え、私たちを呼びに来たことりと話した。
卒業後はフランスに留学すること、そのことはすでに穂乃果には話していたけれど、私には話していなかった。
……いや、話せなかった。
その理由が私のことが好きで、もし夢破れたときのみっともない姿を見せたくなかったから。
……。
「私たち……女の子同士なんですけど……」
こんなのおかしい。
……でもあの子の目は本気だった。
だから何?
[わかりました。 明日は私の家は誰もいませんので、昼頃に来てください。]
親友が間違った道に進もうとしているなら、私がすることはただ一つ。
ピンポ-ン
「ことり、いらっしゃい」
「お、お、おざましましゅ……!」
「なんでそんなに緊張しているのですか。 唇が真っ青ですよ?」
「いや、えっと、なんかさ、昨日のことがあった直後に海未ちゃんの家に……しかも誰もいない……のにお呼ばれされちゃったから、ちょっとだけ意識しちゃって……えへへ」
「……? ……。 …………!!?」
「///」カアァァァ
「な、な、何バカなこと言ってるんですか!? そ、そんな変なことするために家へ呼んだんじゃありませんよ!?」
「えへへ、海未ちゃん何を想像したのかな? ことりと同じことなのかな?」ニヤニヤ
「……!! 追い出しますよ!?」
「ご、ごめんごめん! もう意地悪しないから許して?」
「もう……。 それじゃあお茶菓子を用意してきますので先に部屋へ上がっててください」
「は~い!」
「な、なんか海未ちゃんの部屋に来るの久しぶりな感じするね」
「そ、そうですね。 今までは穂乃果の家に集まることが多かったですしね」
「そうだよね、あ、あははは……。 いつ以来かな~……」
「えっといつでしたっけね、あはは……」
「……」
「……」
(部屋に入って早々この空気。 これから話す内容が内容だけにどう切り出したらいいのかわからない。 ……えっと、どうすれば……)
「……えっと、海未ちゃん」
「……は、はいっ!」
(よかった、ことりの方から切り出してくれましたね)
「昨日のこと……考えてくれた?」
「昨日のこと、と言いますと?」
「……言わせないでよ。 わかってるんでしょ?」
「うっ……」
「聞かせて」
「…………一つ聞かせて欲しいのですが、これを聞いて、後悔はしませんか?」
「……」ジワッ
「あ、ちょ、泣かないでください!」
「……ごめん。 ……うん、大丈夫、大丈夫だよ。 だから聞かせてください。海未ちゃんの答え」
「……はい、わかりました」
「~~……」ウルウル
(うう、ことりが今にも泣きそうな顔に……。 でもここで甘やかして有耶無耶にしてしまってはそれこそ失礼ですよね)
「ことり」
(だから伝えなくては。 私の想い)
「……すみませんが、あなたの気持ちには答えられません」
「……っ」
「あなたが私のことを好きだと言ってくれた時はすごく嬉しかった。 私もあなたのことが好きだから」
「な、なら……っ!!」
「だから……お互いを好きでいられる友人でこれからもあり続けたいと思っています」
「ゆ、友……人……」
「正直に言いますが、あなたのことを恋愛の対象としてみることはできないんです……。 もちろん同性であることもありますが、第一に幼い頃から良き友として接してきたあなたを、今から別の目で見ることなんてできない……それが大部分を占めています」
「…………そっか」
「気持ちに応えてあげられなくてごめんなさい。 ですがこれからも変わらず親友で居続けましょう」
「……うん、そうだね。 ことりと海未ちゃんは親友、それ以上でもそれ以下でもない……」
「……」
「海未ちゃん。 これからも仲良し……でいようね……っ!!」
「……はい、もちろんです! ふふっ、なんだか緊張が解けたらお腹が空いてきましたね。 どこか行きませんか?」
「あ、えっとね~、駅前に新しくイタリアンの店ができたからそこに! あっでもその近くのケーキバイキングの店も捨てがたいな~、いや、そのほかにも~、ーーーーーー」
それから私たちは外でお昼を食べた後、穂乃果も呼んで遊びに出かけることにしました。
ことりの目尻は少し赤かったですけど、穂乃果には悟られないよういつも通りに過ごしていました。
……これでよかったんですよね。
だってこれだけはハッキリ言える。
ことりに抱くこの気持ち、これは間違いなく親愛の情だって。
幼き頃から時間を共にした友への、信頼と友情が積み重なってできたのがこの想い。
だから私はこれより先には進めない。
これは後日談になるけど、
ことりに私のどこを好きになったのか聞いてみたところ、
何よりも女性らしいお淑やかさと漢らしい熱血さを併せ持っている部分らしい。
その他にもたくさん伝えてくれたけど、終始顔の紅潮が抑えられなかった……。
語るにはあまりにも恥ずかしいので割愛。
その時思ったこと。
世界には私のことこんなに見てくれてる人がいるんだなって、なんだか嬉しいのに照れ臭くてすごく甘酸っぱい感情に襲われた。
人間、本当に自分のことを理解している人はごく僅かだと思う。
実際、ことりから聞いた私という人物は、私が操っている私よりたくさんの姿を持っていた。
だからこんなに私のことを知ってくれて、好きになってくれたあの子に言いたい言葉。
ありがとう。
私も……あなたのことがもっと知りたい。
ー4ー
それから2週間ほど経った。
今日はことりが日本を発つ日。
穂乃果と共に空港まで行き、ことりを見送ることにした。
朝は案の定寝坊した穂乃果を家まで叩き起こしに行くところから始まり、バスの中でパンを幸せそうにかじる横顔を見た後、空港でことりの姿を探した。
ことりは荷物もあるので、お母さんと一緒に車で先に空港へ向かっていた。
一足先に着いていると先ほど連絡をもらっていたので、辺りを見回してみる。
「あ、ことりちゃんみっけ!」
「本当ですか?」
「うん! あそこに座ってる!」
穂乃果が一目散にことりの元へ駆けていく。
私も後に続く。
近くまで来て、ことりの隣にいる珍しい人かげに気づいた。
「あら、穂乃果、海未。 遅いじゃない」
「ふふっ、久しぶりね。 元気だった?」
「うん! 元気元気! こうして会うのも久しぶりだね~♪」
「絵里、お久しぶりです。 えっと、どうしてここに?」
「そんなの決まってるでしょ? ことりの見送りよ。 ことりの留学のこと、穂乃果から予め聞いていたから」
「そうだったのですか。 ということは他の方たちも?」
「……ううん、希もにこも忙しいみたいでね……。 どうしても外せない用事があるらしくって」
「そうなんだ……。 花陽ちゃんたちもね、運悪く今日がライブで……」
「そう……。 ツイてないわね……」
「ううん、いいの! 逆に海未ちゃんに穂乃果ちゃん、それに絵里ちゃんが来てくれたからそれだけですごく嬉しいよ♪」
「ことり……」
「うぅぅ……。 こ”、こ”と”り”ち”ゃ”ん”……ッ!」
「えっ、穂乃果ちゃん?」
「ぶえぇぇぇええん! 寂しくなるよー!! たまには日本に帰ってきてねー!!」
「もう、穂乃果ったら……笑顔で見送りましょうって……決めてたのに……」
「穂乃果ちゃん、絵里ちゃん……」
「……ことり」
「……海未ちゃん……?」
「あなたの夢が叶う日が来ることをここでずっと祈っていますね。 だから、精一杯頑張ってきてください」
「……海未、ちゃん……」
「ことり……っ」
「ふふっ、おかしいね……。 別にずっと離れ離れになるわけじゃないのにね……、なんでこんなに悲しいんだろうね……」
ギュッ
「わっ、海未ちゃ……」
「これからどんなに辛いことがあっても、私は、私たちはずっとあなたの味方です。 だから……いつでも帰ってきていいんですからね」
「……ありがと、海未ちゃん。 本当に……嬉しいよ。 でも最後までやりぬいてみせるから。 だって……
情けない姿はみせられないもん……!」
そして、私は今日もこの町にいる。
あれから何度、桜の季節を迎えたのだろう。
最初の頃は長期休暇の度に帰ってきたものの、学年が上がるにつれて忙しいからと滅多に帰ってこなくなった。
卒業してからは……おばさん曰く一度も帰ってきていないらしい。
それからだんだんと連絡も取れなくなっていき、次第に私たちは疎遠になっていった。
だからあの子が今どこで何をしているのかも……。
結局、あの子のことを知るにはあまりにも時間が足りなかった。
あの子が私を見てくれていたように、私もあの子を見ていたい。
休みに帰ってくる度に時間を作って彼女と一緒にいよう、卒業したらきっとこっちに帰ってくるのだろうからもっと話をしよう。
そうして2人の絆をもっと深めていこう。
……そう思っていたのに。
まさか、顔も見れない、声も聞けない、何をしているのかもわからない。
こんな風になってしまうなんて考えてもいなかった。
私も気づけば大学を卒業していて、実家を継ぐために日々鍛練を続けている。
決して退屈な毎日を過ごしているわけではないし、むしろやることは山のようにある。
でも……今日まであの子のことを考えなかった日はなかった。
苦しい。
私は……後悔しているのだろうか。
あの頃の私の気持ちを裏切れまいとこの歳になっても見合い話はすべて断ってきた。
もしあの時の告白を受け入れていたら……。
今でもそばにことりがいて、あの頃のように幸せな時間を過ごすことができていたのだろうか。
なんて、
そんなこと考えても仕方ないのに。
会いたい。
私の人生、今日までいろんなことがあって、それを聞いてほしい。
あなたの人生、今日まで経験してきたいろんなこと、すべて聞きたい。
……。
そうか……、
きっと私は……。
ガラララッ
「いらっしゃいませー。 って海未ちゃんじゃない。 ごめんねー、今日は穂乃果いないのよ」
「あっ、いえ。 今日はお饅頭を買いに来ただけですので」
「あら、そうなの? それじゃあいつものやつ用意するわねー」
「ありがとうございます。 ところで穂乃果はどこへ?」
「んー、まあいつものやつよ。 いやね? あの子もうちを継ぐって張り切ってくれてるのはいいんだけど……うちの亭主も歳だからさ、早いうちに厨房を任せられる婿をもらってきてほしいのに……」
「あー、なるほど」
「それにしてもあの子も困ったものよねー。 なんでも、好きな先輩がいるからまだ結婚するわけにはいかないの! とかいつまでも乙女なこと言っちゃって……。 雪歩なんてすぐ貰われてったっていうのに姉の方は……はぁ」
「私が言うのもなんですが、あと少しだけ好きにさせてあげてもいいのではないでしょうか」
「あと少しあと少しで気づいたら何年も経ってるものなのよ? そういえばお母さんから聞いたけど、海未ちゃんの方はどうだったの?」
「私の方は……いつも通りですかね」
「あらあら……。 これはまた愚痴を聞かされることになりそうだわ」
「いつも母がすいません」
「申し訳ないと思ってるなら少しでも早くお母さんにいい話を持ってきてあげてね?」
「……はい」
「だけど、どうしてそこまでして断り続けるの?」
「……えっと、まあいろいろと事情がありましてね……」
「事情ねぇ。 ま、とりあえず娘に困らされてる身から言わせてもらうと、早いうちに相手を見つけた方が両親も安心すると思うわよ」
「そうですよね……。 はい、考えておきます。 それではこれで失礼しますね」
「はーい。 気をつけて帰るのよ」
ガラララッ
「……結婚、か」
ガラララッ
「いらっしゃいませー!」
「こんにちは」
「はーい、こんにち…………って、あらー! 久しぶりねー!」
ー5ー
『そんなわけで来週の日曜ね! おやすみー!』
「はい。 おやすみなさい」
ピッ
その日の夜、穂乃果から電話がかかってきた。
内容は、来週末に行われる東京某所で行われるファッションショーを観に行きたいとのこと。
「そういうのにはあまり興味ないのですけど……。 そもそもあれって誰でも見に行けるものなのですか?」
『ふっふっふっー、その心配は無用! ちゃんと招待券貰ってるからね! なんでかわからないけどお母さんがくれたの!』
「そうなのですか? まあ予定もないですし、別についていっても構いませんけど」
そんな感じで久々の休みの予定は埋まってしまった。
まあ最近は遠出することもなかったから、少しだけ羽を伸ばしてきてもいいのかもしれない。
「ファッションショー……」
その言葉に今まで何度期待を寄せたことだろう。
もしかしたら……
ひょっとすると……
いや、でも……
やっぱり……
私が大学を卒業してから、いくつものファッション雑誌を見ては、その度に落胆していた。
だから次第にその行為自体に苦しみを感じて、やがて服飾に関わるものに苦手意識を感じるようになってしまった。
あの時から数年経った今でもそれは変わっていない。
だから今回のことも断ろうと思ったのだが、
『うちのお饅頭しばらく食べ放題にするからさ、一緒にいこうよ!』
そんな風に誘われてしまったから、つい了承してしまったのだった。
「食べ物の誘惑に逆らえないなんて呆れますね……」
そして当日。
「すごい人……。 まるでお祭りみたい。 穂乃果、はぐれないようにしてくださいね」
「うんうん、わかってるって~」
「そう言う時に限っていなくなるんですよね」
「もー、心配症だなー! 大丈夫だってー!」
「それならいいのですが。 そういえば穂乃果には好きなデザイナーとかいたりするん……」
…………。
「って言ってるそばからいない! あー、もう! どこへ行ったんですか!」
「まったく、出店なんてあるから穂乃果がふらふらしちゃうんです! 場内でのファッションショーなんだから会場の外まで盛り上がる必要ないでしょうに」ブツブツ
「穂乃果ー? どこですかー? もう仕方ない。 電話してみ……」
カツン...
カツン...
数十メートル先から、ヒールがコンクリートを小突く音が聞こえた。
まるで周りの喧騒が消え、その足元から鳴る音以外は全て存在していないかのように、
この耳にはっきりと届いた。
視界に映るのは、長いベージュ色の髪をもったサングラスの女性。
「…………えっ?」
いや、待て。
今までこんな雰囲気の人は何人も見てきた。
だから今回もきっと……。
でも、なんだろう。
この人から無性に感じる……懐かしさ。
「はあ、はあ……。 …………さん! やっと見つかった。 今回はモデルもやられるんですからもう控え室で待機していてください!」
「Excuse-moi, J'arrive」
「……? あっ、ここ日本だから日本語でお願いできますか?」
「……あっ。 そうでしたね! フランス語に慣れちゃってたから、ふふっ。 『ごめんなさい、すぐ行きます』って言ったんです」
「そうでしたか。 それでは案内しますよ」
そうして女性はスタッフと思われる人物とともに会場内へと向かっていった。
……。
……いや、だめだ!
なんでかんからないけど、きっとここで声をかけなくちゃ絶対後悔するって……そんな気がする!
「す、すいま……っ!」
「んあっ、海未ちゃんいたー! もー、いい歳なんだから迷子になっちゃだめだよー?」
「穂乃果? いやいや、はぐれたのはあなたの方でしょう……っていや、今はそれよりも……!」
「?」
「あっ……。 いない……」
「海未ちゃん? どうしたの?」
「……。 いえ、なんでもないですよ。 ほら、その手に持ってるもの食べ終わったら中へ行きましょうか」
「はーい!」
……そうだ。
今回も他人の空似に決まっている。
また無意味に期待して、苦しい思いはしたくない。
「それでねー、今回のテーマはねー、『遠い日の思い出』なんだってー!」
軽快な音楽とともにステージを歩いていく女性たち。
それを見ながら穂乃果が今回のショーについて説明してくれる。
「思い出、ですか。 正直服を見ただけじゃ分かりませんよね」
「いやいや、甘いね海未ちゃん。 目がお子ちゃまだよ海未ちゃん。 わかんないかなー、あのデザインから溢れでる思い出的な感じ!」
「なんですかそれ。 それに、私は的を射抜く目さえあれば十分ですので」
「女の子なのにもったいないねーまったく。 あっ、そうそう! ちなみに今回私が推してるのはねー、……ペティット・オイセアウ(Petit Oiseau)さん!」
「へっ? ペティ……なんですって? なんだかすごい名前ですね。 どうしてその人なんですか?」
「いやー、さっきその人のデザインが見れる出店があったんだけどさー、それ見てたらなんか懐かしくなって」
「懐かしい?」
「うん。 なんかね、雰囲気が私たちがスクールアイドルしてた頃の衣装に似てて……あはは」
「スクールアイドルですか。 それは確かになつかしいですね」
「そんなわけで、その人のデザインがもうそろそろ出てくるかもしれないし、ちゃんと見ないとって思ってるの!」
「今回のデザインもスクールアイドルの頃の衣装に似たものだといいですね」
私が言い終えたのと同時に。
ワ-!ワ-!
キャ-キャ-!!
「……!」
彼女は出てきた。
「……ね、ねぇ、海未ちゃん?」
「……は、はい」
「……あれって……」
「……穂乃果も、そう思いますか……?」
「……ってことは……やっぱり……」
それからの記憶は曖昧だ。
こんなの高校の卒業式のあの時以来。
覚えているのは、
ただその人に話せる瞬間がくることを祈り、会場を飛び出したということぐらい。
2人で走った。
あの子に会える場所まで。
そして待った。
一瞬にも思える数時間、ただ待っていた。
裏口でほかのモデルたちが次々と会場を後にしている。
きっとここからあの子も……!
そして今、最後と思われるモデルさんが出てきて扉は閉じられた。
「そっくりさんだったのかな……」
「……」
期待とは裏腹に、
あの子は扉から姿を現すことはなかった。
「あの髪型の人はいなかったし、顔似てる人がウィッグつけてただけだったのかもね……」
「……」
「……ちょっと喉渇いちゃったな。 ジュース買ってくる! 海未ちゃんの分も買ってくるからそこらへんで待ってて!」
「……」
近くのベンチに腰掛けた。
あの穂乃果が気を使うくらい、私はショックを隠しきれていなかったのだろう。
それだけ、今回も期待してしまっていたのだ。
……もう、決して望まないと決めていたのに。
スッ
「……おかえりなさい。 ジュースありがとうご……」
「ただいま♪」
「……」
この数年間全く見かけることはなかった見慣れた顔がそこにはあった。
最後に会った時より大人びた印象で、しかしあの頃と変わらない純真無垢さも持っていて。
その手にはグランプリと書かれた賞状を持っていた。
ことりが、立っていた。
ー6ー
「……こ、こ、こ、」
「緊張で疲れて控え室で寝ちゃってたらさ、気づいたらすごい時間経ってて……。 スタッフ入り口も閉じちゃってて表から出ようとしたらそこでお客さんにサインねだられちゃうし……。 はぁ、疲れた~」
「こ、こ、こと……」
「コココ? コケコッコ? さっきから海未ちゃんそればっかり。 ふふっ、いつからニワトリさんになったの? ……ていうか、おでこに少しシワできてるよ?」
「……こ、こと、こ、……とり……」
「そうだよー? ことりだよっ」
「……っ!!」
バチンッ!!
「……ッ」
「ば、ば、ばか……っ!! 今まで……私がどれだけあなたのこと……!!」
「……」
「どうして……連絡しても返してくれなかったんですか……!! 電話もメールも通じない! 住所もわからなくなってるし! あなたにもしものことがあったのではと不安だったんですよ!? それなのに、いきなり私の前にそんな陽気に現れて! 私は……あなたに会えなくて……す、すごく……さみしかったのに……っ!!」
「海未ちゃん……。 ごめん……。 そんなに私のこと思ってくれてたんだ」
「当たり前です! あなたのことを考えなかったことなんて……なかった……!」
「私もね、海未ちゃんのことをずっとずっとずぅぅぅ~っと考えてたよ!」
「ならどうして今まで私のことを避けていたのですか……」
「それはね……まあ、海より深い事情があったもので……」
「説明してください」ギロッ
「そ、そんな怖い目で見ないでよ……。 ちゃんと話すから……」
それからことりは私にこの数年間のことを話してくれた。
大学を卒業してからもフランスでデザイナーになるために修行を積んでいたこと。
自分のセンスに限界を感じ、一度はデザイナーとして大成することを諦めたこと。
妥協で始めたパタンナーでも、周りとの技術の差に絶望したこと。
いっそのこと服飾で輝く夢も捨ててしまおうかと思ったこと。
でもそれは、自分には帰る場所があるからと甘えていたからだと気付いた。
いつでも帰ってきていい、その言葉が自分を追い詰めないための言い訳になっていた。
だから自分の甘えの原因となるもの全てを排除した。
そうしてまた一からデザイナーになるべく、寝る間も惜しんで努力を重ねた。
逃げ道がなくなってからはなんでもやることができた。
生死の狭間を何度も渡り歩いた。
これまで以上に辛く苦しい日々だった。
でもこの夢を叶えなければならない理由がある。
そのためなら鉛のような足をも動かし続けることができた。
そうして去年、フランスの某コレクションでグランプリを獲ったことで日本に帰ることに決めた。
「と、まあこんなところかな?」
「ちょっと待ってください。 ということはしばらく日本にいたということですよね?」
「半年くらいかな?」
「ならどうして顔を見せに来なかったのですか」
「だって……、たまたま誘われて行ったショーで、グランプリに輝いた親友と感動の再開を果たすってなんだかドラマチックじゃない?」
「……まさか穂乃果に招待状を渡したのは……」
「正確には穂乃果ちゃんのお母さんに、穂乃果ちゃんに渡すようにお願いしたんだけどねっ♪」
「まさかあの日穂むらに来ていたなんて……」
「海未ちゃんの後ろ姿見えたけど、追うの我慢するの大変だったんだよ?」
「……はぁ。 とにかく、ここまで来るのにすごく頑張ってきたんですね……。 本当に、お疲れ様でした」
「お疲れ? ううん、私はまだまだここで終わるつもりはないよ。 だって日本に帰ってきたのは、私のブランドを日本を拠点にして世界に広めていくためなんだもん!」
「」ポカン
「……ふふっ、海未ちゃんったらおマヌケさんな顔してるよ?」
「えっ、あ、いや……。 なんだか私にとってはまるで現実味のないことを話しているので……」
「ひどいなー。 私には無理だって言いたいの?」
「いえ、違います。 きっとあなたならやってしまうのでしょうと思いますよ。 ただ……あなたがもはや手の届かないところにいると実感して、なんだか悲しくて……」
「どういうこと?」
「私なんて現在進行形で名もない実家の道場を継ぐために頑張っているのに……対して今のあなたときたら世界でも指折りのデザイナーとなっているんですもんね……」
「ふーん……。 つまりは置いていかれちゃったみたいで悔しいんだ?」
「……あり大抵に言うと、そうなりますね」
「そんなこと気にする必要ないのに。 海未ちゃんが今やってることに胸を張ることができるんでしょ? ならそれで十分だよ。 どっちが先を歩いているかとか、そんなのは関係ない。 そう思う」
「ことり……」
「……あっ、そーだ♪」
「……?」
「海未ちゃんさ、私のことずっと考えてくれてたって言ったよね?」
「……は、はい。 言いましたけど……」
「じゃあさ、あの日をもう一回繰り返してみようよ!」
「えっ? あの日を繰り返すって…………あっ」
「そうと決まればレッツゴー!」
「あ、ちょ、ことり! 穂乃果がまだ帰って来てな……!」
「はぇ~、懐かしいなぁ!」
「そうですね。 私もこの門をくぐったのは何年ぶりだったか」
「さすがに部室に行くわけにはいかないかなぁ」
「もう夜ですから校内に入るわけにはいかないでしょうね」
「しょうがない。 じゃあここでいっか」
「えっ、ここ……ですか?」
「うん。 だめ?」
「……いえ、だめというわけでは……」
「……」
「……」
「……緊張してる?」
「そういうあなたはどうなんですか」
「……私……ううん、違う。 ことりは、……すごく緊張してる」
「……」
「……」
「……」
「……海未ちゃ」
「……あ、あー!! やっぱりやめましょう! 校外といえどさすがに敷地内にいては何か言われるかもしれませんしね! さ、帰りま……」
ギュッ...
「……っ」
「……海未ちゃん。 聞いて」
「……」
「ことりね、離れててもずっと海未ちゃんのこと好きだった」
「……」
「海未ちゃんに……好きな人に情けない姿を見せない、そのために今まで頑張ってきたんだよ」
「……」
「今日、あそこで海未ちゃんとすごく久しぶりに会って、話して……、そのとき自分の心臓がすごい速さで動いてるのがわかった」
「……」
「あの時よりずっと海未ちゃんのことが好きになってる。 それがわかった」
「……」
「あなたとの空白の時間、これから埋めていきたい。 でもそれは親友としてじゃイヤ。 それじゃあ足りないの」
「……」
「ことりの……恋人になってください」
「……」
「……あはは。 ごめん、答えは明日でいいから。 それじゃあ今日はバイバイ!」
「……あっ……!」
……答えなんて考える必要なかった。
私の心はもう、叫びたがっていたから。
想いを伝えるだけなのに、こんなに痛いくらい心臓が締め付けられるものなのか。
こんな経験をことりは2度も……。
ことりだけじゃない、世界中の人間はこの痛みを超えて成長していくんだ。
ならば私も超えなくては、この痛みを。
出そうとした声が喉元まで迫り上がってきている。
しかし音が発せられない。
全身が氷のように冷たくなっていくような緊張感、これが喉の筋肉の活動を阻害している。
伝えなきゃ。
あの日の私は、あなたとの未来をどれだけ望んでいたのか。
伝えなきゃ。
あなたへの感情が変化していったときの苦しみと喜びを。
伝えたい。
私がこれからどう生きていきたいのかを。
「ことり!!
私は、あなたのことが……!」
~終わり~
ほのかわいそう
続いてくれ(迫真)
雰囲気いいね
続けてほしい
このSSまとめへのコメント
このSSまとめにはまだコメントがありません