男「プリントのお届けです」 女「ど、どうも・・・」(54)

~学校~

教師「じゃあ男、これ渡しておいてくれよ?」

男「・・・わかりましたけど・・・いいんですか?進路希望調査とかって俺が渡すより親御さんに渡したほうがいいんじゃないすか?」

教師「進路希望はあくまで生徒本人の希望だからな。まず生徒本人から希望を聴かないとな」

男「とかいって・・・本当は親御さんに会いに行くのがめんどくさいとか思ってません?」

教師「いいからいけ。それに女が入院しているのはお前の家だろ?」

男「そうですけど・・・俺あいつとしゃべったこともないんですけど・・・」

教師「そうか、クラスメートと親交を深めるいい機会じゃないか」

男(ああ言えばこう言う・・・)

男「なんだってなぁ・・・めんどくせ・・・」

友「医者の家ってやだな。同級生が入院してるとか・・・」

男「・・・なんだよ」

友「いやさ、同級生の女の子が入院してるともしかしたらお着換え中に・・・なんてことが」

男「人んちの家業をいかがわしい目でみんなアホ」

友「といっても現にお前んとこに女が入院してんだからない話とも言えないだろ?」

男「あるかよ。だいたい女さんと話したこともないんだぞ俺」

友「まぁあいつ結構おとなしいやつだからな。女友達は多いけど野郎どもと話してるところはあんま見たことないしな」

友「そういえば女って何の病気で入院してんだ?」

男「しらね。話したこともないのに知ってるわけないだろ」

友「お袋さんから話とかされないのか?」

男「母さんは男患者のことならペラペラ話すが相手が女性の場合は決して話さないからな。プライバシー絶対!って」

友「ふーん。お前のお袋さん・・・あんまりしつこいとしっぺ返しが怖いもんな・・・」

男「お前も昔母さんにしつこく歳聴いて簀巻きにされてたもんな」

友「あれから俺は女性に歳だけは聞かないことにしてる。いい教訓だった」

~男の家~

男「んぁ~・・・さて・・・めんどいけど渡しにいくか・・・」

妹「ありゃ?にーちゃんお帰り~」

男「ただいま。母さんいるか?」

妹「たぶん院長室でいかがわしい本でも読んでるよ」

男「うい。後で伝えとく」

妹「ごめん訂正。院長室で聖書を読んでる」

おつ
聖書も十二分にいかがわしい気がしなくもない

男「ちっ……読書中かよ。読書中に邪魔するとうるさいんだよなぁ母さん」

妹「なに?なんか用事があるの?」

男「ああ。ウチに入院してるクラスメイトにプリント渡してもらおうと思ってさ」

妹「そんなの自分で渡せばいいじゃない」

男「めんどい」

妹「あ、もしかしてその子女の子でしょ」

男「だったらどうした」

妹「やっぱりねー。渡すのが恥ずかしいんでしょ」

男「ばっ……!ちげえよ」

妹「それなら早く渡してあげれば?」

男「くそ……わかったよ。じゃ、ちょっと行ってくる」

妹「変なことしちゃダメだよ」

男「病人相手にんなことするかよ」

・・・・・・

男(……えーと、ここが女の病室か)

男「ちっ……さっさと渡して帰るか」

コンコン

???「はい、どうぞ」

男「失礼するぞ」ガラッ

女「あ、男君……」

男「おっ、俺のことよくわかったな」

女「クラスメイトですもから。当然です」

男「俺は未だに半分くらい顔と名前が一致しないぞ」

女「ふふ、早く覚えてくださいね」

男「気が向いたらな」

女「でも私のことは覚えててくれたんですね」

男「たまたまだ」

女「たまたまでも嬉しいです。男君とはあんまり喋ったことなかったから、なおさら」

男「そういうもんか?」

女「はい。……で、今日は何か御用ですか?」

男「ああ。先公からプリント渡すの頼まれちまってさ。ほれ」ペラ

女「ありがとうございます、わざわざ」

男「ま、一応ここは俺の家でもあるからな。気にすんな」

女「それでもありがとうございます」

男「よせって。俺に感謝されても何もご利益は出せないぜ」

女「くすくす。男君は面白い方ですね」

男「そうか?」

女「はい」

男(……俺の周りに約1名バカがいるからな。そいつのがうつっちまったのかもしれん)

男「ま、そういうことだ。……まだ学校来るまでにはしばらくかかりそうなのか?」

女「はい……。しばらくはちょっと無理かもです」

男「そっか。あんま無理すんなよ」

女「はい。気を付けます」

男「じゃ、俺はそろそろ行くから。お大事にな」

女「はい、ありがとうございました。男君」

・・・・・・

翌日

教室


友「やぁ!おはよう!今日もいい天気だね!」

男「うるせえ。爽やかに登場すんな」

友「なんだよノリわりいな。そこは爽やかに返してくれよ」

男「てめぇなんかに爽やかに挨拶してなんのメリットがあるんだ」

友「親しき仲にも礼儀あり、っていうだろ?だから挨拶はきちんとしようぜ」

男「親しき仲……?誰と誰が」

友「俺とお前がに決まってるだろ」

男「わりい……。お前そもそも友達だと思ってねぇや」

友「ちょっとそれはいくらなんでも酷すぎませんかね!?」


友「……で、昨日はどうだったんだよ」

男「何が」

友「ほら、女ちゃんにプリント届けにいっただろ?着替え覗いちまったか?」

男「お前ほんとスケベな」

友「あるいはさ、替えの下着とか机の上に置いてあったりしなかったか?」

男「んなもんあるわけねぇだろ。普通だよ。ただプリント渡しにいっただけだ」

友「なんだよ、何もなかったのかよ……。つまんねぇの」

男「てめぇが変な妄想抱きすぎなんだよ」

ガラッ

教師「はいみんな席着け……お、男。どうだ?プリントちゃんと渡してくれたか?」

男「はい。渡しましたよ」

教師「ありがとな。やっぱり入院長くなるとか言ってたか?」

男「あ……そういやそんなこと言ってましたね。しばらくは学校これないって」

教師「そうなのか……。男、進路調査票の提出期限は言ってくれたか?」

男「提出期限……?ちっ……忘れてた」

教師「そうか。なら男、悪いんだけど今日も彼女に会って提出期限伝えてくれるか?」

男「はぁ?またですか?」

教師「いいじゃないか。家に帰るついでだろ」

男「はぁ……。わかりましたよ」

教師「頼んだぞ」

教師「よーし、みんなホームルームはじめるから席着けー」

男(くそ……めんどくせぇことになったな)

病室


男(……今日のところもさっさと終わらせるか)

コンコン

「はい、どうぞ」

男「失礼するぞ」ガラッ

女「あ、男君。こんにちは」

男「よぉ」

女「今日もまたプリントですか?」

男「いや、今日はただの事務連絡だ」

女「そうですか。どんなことですか?」

男「昨日渡した進路希望調査あったろ?あれ、今週の金曜までだとさ」

女「金曜日までですか……」


男「なんだ、まだ進路決まってないのか?」

女「えへへ……実はちょっと迷ってまして……」

男「確かお前は頭良かったよな?なら普通に四大とかじゃないのか」

女「はい……。できればそうしたいんですけど……」

男「なんだ。何かダメな理由があるのか」

女「いえ。特には、大丈夫です」

男「ならいいじゃねぇか。さっさと書いちまえよ」

女「はい……」

男「てかそもそもお前、一週間以内に退院できるのか?」

女「そうですね……今の状態だとちょっと難しそうです」

男「じゃあ誰かに代わりに調査票提出してもらわないとな」

女「はい……」

男「先に言っておくが、俺に頼むのはダメな」

女「えぇー!?なんでですか?」

男「めんどいから」

女「……そうですよね。男さんだって忙しいですもんね」

男「ああ。今日だって帰ったら生意気な妹の面倒見なきゃならんしな」


妹「……誰が生意気ですって?」

男「げっ!?なんでお前ここにいんだよ!?」

妹「にーちゃんに用があったから探してたんだよ。……でももうそれはいいや」

妹「女さん。調査票が書けたら遠慮なくにーちゃんに頼んでいいからね」

女「えっ……で、でも」

妹「大丈夫だって。にーちゃん、どうしても代わりに提出してあげたいってさ」

男「おいてめぇ!ねつ造すんな!」

妹「生意気な妹とかいうねつ造を言いふらしてたのは誰かな?」

男「事実だろ」

妹「え?聞こえないよ?何か言った?」ゲシゲシ

男「俺は何も言ってない。空耳だ」

妹「……てことで女ちゃん。遠慮なくにーちゃんに頼んじゃっていいからね?」

女「は、はぁ……」

妹「じゃっ、私はもう行くね。……にーちゃん、次変なこと言ったらお母さんに解剖してもらうからね」

男「さらりとこえぇこと言うなよ……」


男「くそ……まあ仕方ねぇな。調査票は俺が届けてやるよ」

女「ありがとうございます、男君」

男「よし。てことで今すぐ書くんだ」

女「え……?」

男「明日もう一度くるのも面倒だしな。後ろ向いててやるからな。ちゃちゃっと終わらせろ」

女「きゅ、急にそんなこと言われてもかけませんよー」

・・・・・・

5分後

男「かけたか?」

女「うぅ……まだ全然かけてません」

男「でも一つくらいかけたろ?見せてみろよ」バッ

女「あっ!」

男「どれどれ……って全部空欄じゃん」

女「うぅ……やっぱり今日中は無理です」

男「しょうがねぇな。じゃあ俺が代わりに書いてやる」

女「え、えぇー!?」

男「まずは第一希望、お天気お姉さん、と」

女「そ、そんなー……私、テレビに出るなんで無理です……」

男「仕方ねぇな。じゃあグラビアアイドルだ」

女「そ、そんなにスタイルに自信ないですよっ」

男「いや……。そういう子供っぽいスタイルも案外需要あるんじゃないか?」

女「うぅー……ひどいです……。気にしてるのに」

男「わりぃわりぃ」

女「もうっ。真面目に考えてください」

男「俺はいつだって真面目だ」

女「男君、意地悪です……」


男「……結局書き終わらなかったな」

女「はい……すみません」

男「お前が謝ることじゃねぇよ。まあ、金曜日までに出せればいいんだ。ゆっくり考えることだな」

女「でも……そうしたら男君の手間が増えます」

男「もう別にいいって。俺は気にしてねぇからさ」

女「うう……。申し訳ないです……」

男「さて、今日はそろそろ帰るとするよ。じゃあな。また木曜あたりに来るから、それまでに書いとけよ」

女「はい。ありがとうございます」

男(さて……俺もさっさとかかねぇとな、進路希望……)

翌日


男(……結局全然書けなかったな、進路……)

男(……まあなんとかなるか)

友「よっ、男!ベリーグッモーニン!」

男「てめぇは普通に登場できねぇのか」

友「普通に登場してたらつまらないだろ?今日一日の始まりなんだしさ。もっと楽しく行こうぜ」

男「お前がいなければもっと楽しく朝が迎えられる気がするな」

友「言ってるそばから悲しい気分にさせないでくれよ!!」

男「そういえばお前もう書いたか?進路調査」

友「ああ。とっくの昔に書いたさ」

男「だよな。お前の進路は類人猿だもんな」

友「なんで退化しなきゃならないんだよ!?」

男「……で、真面目になんて書いたのよ」

友「そりゃ当然ミュージシャンだ」

男「は?」

友「ほら俺って歌上手いじゃん?ルックスもまあまあイケてるし……。絶対売れる気がするんだ」

友「そして女の子のファンもたくさんついてさ……!うはっ!こりゃミュージシャンになるしかないっしょ!」

男「世界初の類人猿のミュージシャンか」

友「だから類人猿じゃねぇよ!」

友「そういうお前は何て書いたんだよ」

男「あん?まだ何も書いてねぇよ」

友「なんだよ、人を散々けなしといて……。書けてねぇんじゃん」

男「俺はお前と違って現実主義者だからな」

友「とか言っちゃって男、お前大学は無理だろ?」

男「聞くまでもねぇだろ。俺の成績知ってるくせに」

友「まあな。てことは男も就職か。いやー、遊んでられるのも今年までだね」

男「お前は来年からも動物園で遊べるだろ」

友「だから類人猿じゃねぇっつってんだろ!」

・・・・・・

休み時間

友「おーい、男―」

男「あ?」

友「突然だけど勝負しようぜ!」

男「わりぃ。校舎の屋上から飛び降り勝負はお前ひとりでやってくれ」

友「誰がそんな危険な勝負するかよ!?」


男「じゃあなんの勝負なんだよ」

友「ふっふっふ。男、忘れたのか?今日はこの前の中間テストが返ってくる日なんだよ」

男「ああ。そういやホームルームでそんなこと言ってたな」

友「というわけで俺の方が総合点が上だったら明日の昼お前のおごりな!」

男「そして俺の方が上だったらお前が全裸で校庭を100周するわけか」

友「そんなことしたら捕まるよね!?てか捕まる前に死ぬよ!」


男「わかったよ。負けたら昼飯おごればいいんだろ?」

友「そうだ。残念だけど男。今回のテストには自信があるんだ」

男「そんなに話したいなら聞いてやるぞ」

友「ああ。実は中間テスト期間中、徹夜で勉強したんだ。しかも数日にわたってね」

男「そういえば、お前死ぬ寸前みたいな顔でテスト受けてたもんな」

友「ああ。だから今回は絶対俺の勝ちだ。明日の昼飯はおごってもらうよ」

男「わかった。ただし10円までな」

友「う○い棒しか買えないよねそれ!?」

・・・・・・

友「グァ……」

男「で、あんなに自信満々だったのにこのザマか」

友「仕方ねぇだろ!?名前書き忘れで0点なんて絶対おかしいよ!」

男「自業自得だろ」

友「くそ……。名前さえ書いてれば総合点は俺の方が上だったのに……」

男「明日の昼飯よろしくな」

友「わかったよ。おごればいいんだろ、おごれば。ああくそ……」

男「今度からちゃんと名前書くんだぞ。『友 17歳 彼女募集中です』ってな」

友「絶対嫌だよ!」

男「さて……そろそろ帰るか」

教師「男、ちょっといいか?」

男「あん?」

教師「今日中間テストが返ってきたろ。それで女の分を届けてほしいんだ」

男「ちっ……またかよ」

教師「頼むよー。お前の家が一番病院から近いんだからさ」

男「家が病院なんだしそりゃそうだろ」

男「はぁ……わかりましたよ。ここまできたら徹底的に届けてやりますよ」

教師「ははは、頼もしいな。じゃあ、頼んだぞ」

男「へいへい……」

・・・・・・

病室

コンコン


男「入るぞ」ガラッ

女「あ、男君。こんにちは」

男「おぅ」

女「今日も事務連絡ですか?」

男「いや、お前に告白しにきた」

女「え……えぇー!!?」

男「冗談だ。ただテスト届けに来ただけだよ」

女「お、驚かせないでください……」

男「わりぃわりぃ」

女「もう、ひどいですよ……」

男「そんなに怒るなって。おわびに明日なら昼飯おごってやるぞ」

女「え?いいんですか? でも私入院中ですよ?」

男「ああ。そういやそうだったな。なら仕方ねぇな、別の機会にな。いやぁ残念」

女「うぅー……わざとらしいです」

男「まあいいじゃねぇか。ほら、いい点とれてるぞ。元気出せよ」

女「あぁー!それ私のテスト!男君、見たんですか?」

男「結構きれいな字だった」

女「もう!ひどいですー!」

男「運ぶ途中でつい、目に入ってしまったんだ」

女「封筒の中身はつい目に入らないです……」

男「実は俺、透視能力があるんだ」

女「絶対嘘です……」

男「ごめんって。つい、気になってさ。でもこの点なら余裕で大学行けるよな」

女「そ、それは……」

男「ん?なんでそこで口ごもるんだよ」

女「私は……どうしたらいいかわからないんです」

男「……どういうことだよ」

女「わたし、生まれつき体が弱くて、よく病気になってたんですけど……」

男「ああ。そういえばそんな噂を聞いたことがあるな」

女「はい。でも、今回の入院は今までのより大分長くなってしまいそうなんです」

男「どれぐらいなんだ?」

女「たぶん、冬休みが終わるくらいまでになると思います」

男「冬休みまで……1・2学期はもう来れないってことか」

女「はい……。だから出席日数が足りなくなってしまうと思います」

男「てことは留年……」

女「おそらく、そうなると思います」

男「……すまん。何も知らないくせに、こんなこと聞いちまって」

女「いえ、いいんです。男君は悪くありません」


男「でもそれなら、来年卒業してから大学に行けばいいじゃないか」

女「はい……。でも、怖いんです」

男「……確かに。留年だもんな」

女「はい。友達がみんな卒業したあと、私だけがとり残される……。そう考えるとこわくて……」

男「女……」

女「だから私、高校辞めようかと思ってるんです」

男「お、おい女!?」


女「だって来年はみんないなくなっちゃうんですよ?友達も、クラスメイトも……。そして男君も」

女「私には、きっと耐えられませんから」

男「……女」

女「なんですか?」

男「明日、一日だけ学校に来てみないか?」

女「明日ですか?……でも私、入院中……」

男「それは分かってる。明日一日だけでいいんだ。何とかならないか」

女「……わかりました。なんとか交渉してみますね」

男「ああ。よろしく頼む」

教室

友「うぃーっす!男!」

男「ちっ……なんだてめぇか」

友「え?もしかして誰か待ってたの」

男「まあな」

友「ふーん?あ、もしかして彼女?」

男「バカ。ちげぇよ」

友「ははは。だよなー。口悪いお前に彼女ができるわけないよなー。二枚目な俺ならともかく」

男「二枚貝みたいな顔して何言ってんだ」

友「どういう顔なんですかねそれ!?」

ガラッ

女「……」

男「!女……」

女「あ、男君……。おはよう」

男「来てくれたんだな」

女「今日は体調も良かったから……。特別に許可を貰えました」

男「そうか。よかったな。じゃあ、またあとでな」

女「あ、はい」

女友「あ!女ちゃん!もう大丈夫なの?」

女「えへへ……今日は体調が良かったから特別に登校できることになったの」

女友2「へぇー!よかったねー」

キャッキャッ

友「……おい、男」

男「あんだよ」

友「お前、さっき女ちゃんと親しげに話してたけど……どういう関係よ」

男「どういう関係もこういう関係もねぇよ」

友「お前……信じていいんだな」

男「ああ。本当に何もねぇからな」

友「ならいいんだ。男、お前俺より先に出し抜いて彼女作ろうなんてすんなよな?俺たち親友なんだからな」

男「あ、わりい。俺は二枚貝の親友は受け付けてないんだ」

友「せめて人として扱ってくれよ!?」

昼休み


友「おい……男」

男「あん?」

友「確かに昨日俺、昼飯おごるとは言ったけどさ……」

男「ああ」

友「なんで女ちゃんもいるの……?」

男「俺が呼んだから」

友「なんだよそれ!聞いてねぇよ!」

男「当たりめぇだ。言ってないからな」

女「す、すみません……。私、お邪魔ですか?」

男「大丈夫だ。むしろコイツのが邪魔だから」

友「おごってあげてる人に向かってその言い方は鬼畜すぎませんかね!?」

友「はぁ、おかげで財布の中身がスッカラカンだよ……」

男「よかったじゃん。ポケットの中が軽くなって動きやすいぞ」

友「ちっとも嬉しくないよ!?」

女「くすくす」

友「女ちゃんまで笑わないでよ……」

女「すみません。お二人を見ているとつい、楽しくなってしまって……」

男「だとさ。お前、今すぐ進路調査お笑い芸人に訂正してきた方がいいぞ」

友「やだよ。ミュージシャンの方が格好いいだろ」

女「え?友さんはミュージシャン目指してるんですか……?格好いいです……」

友「だろ?よし、女ちゃんは俺のファン第一号だ!プロデビューしたら一番にサイン書いてあげるからね」

女「わー、ありがとうございます」

男「ま、おそらく今世中には無理だろうがな」

友「アンタはいつも手厳しいっすね……」

友「女ちゃんはさ、なんて書いたの?進路希望。やっぱ大学?」

女「え、私は……。えと……」

男「レースクイーンだよな」

友「えっ……。お、女ちゃん。意外と大胆なんだね」

女「ち、ちがいますよっ!!もう、男君!嘘言わないでください」

男「わりぃわりぃ」


友「てことやっぱり大学かぁ。やっぱそうだよねぇ。女ちゃん頭いいもんね」

女「そ、そんなことないです……」

友「またまたー。知ってるよ?学年では10本の指に入るくらいの成績でしょ?」

女「そう言われるとなんだか照れちゃいます……」

男「そしてコイツが下から10本の指に君臨する男だ」

友「それはお前もだろ!?」

女「くすくす」

男「笑われてるぞ」

友「てめぇには言われたくないよ!?」

・・・・・・
病室


女「男君」

男「あん?」

女「今日は楽しかったです。ありがとうございました」

男「礼なんていらねぇよ」

女「友さんにもあとで宜しくお伝えください」

男「そうだな。アイツには今日は世話になったからな。あとで感謝してやらなきゃな」

女「はい」


男「で、どうよ?少しはさ、辞めたくなくなったか?」

女「はい……。おかげさまで……でも」

男「やっぱりまだ不安か」

女「はい……。来年一人になってしまうのは変わりませんから」

男「何なら俺も留年してやろうか?」

女「だ、だめですよそんなの!男君はちゃんと卒業してほしいです」

男「大丈夫だ。成績があれだから、どっちにしろ留年するかもしれないしな」

女「……男君は大学目指さないんですか?」

男「おいおい。今日の昼も言っただろ?俺は下から10本の指に入るレベルだぞ。無理だって」

女「無理じゃないです。男君ならできると思います」

男「まあ、俺も行けるもんなら行きたいけどな。でも流石にもう間に合わねえだろ」

女「そう、ですね……」

男「でもお前はせっかく頭いいんだから。ここで高校辞めたらもったいないと思うぞ。俺は」

女「……はい。ありがとうございます」

男「じゃ、俺はこれで……」

女「ま、待ってください!」


男「ん?まだ何かあったか?」

女「……私ももったいないと思います。男君が大学進学をあきらめるのは」

男「女……?」

女「だってまだ時間はあります。それなのに、諦めてしまうのは、早すぎです。勿体ないです!」

男「女……」

女「あ……す、すみません……。私、つい……」

男「別に謝ることはねぇだろ。少なくとも、お前が言ってることは間違ってないと思うぞ」

女「男君……」

男「ま、俺ももうちょい早く勉強しとけばよかったんだがな。今更おせぇけどな」

女「……男君、これ」

男「あん?……調査票か。いつの間にか書けてたんだな。そういや期限も明日までだったな。渡しとくよ」

女「男君が背中を押してくれたおかげです」

男「ああ。役に立てたんならよかったよ。じゃ、そろそろ行くわ。またな」

女「はい。またです」

・・・・・・


男(そういや、調査票、まだ書いてなかったんだよな……)

男「はぁ……どうしよ」

女『……私ももったいないと思います。男君が大学進学をあきらめるのは』

女『だってまだ時間はあります。それなのに、諦めてしまうのは、早すぎです。勿体ないです!』

男「……大学、か」

翌日

教室

友「ぐっもーにんえぶりばでぃー!よっ、男」

男「うるせぇ。邪魔すんな」カリカリ

友「あ……ぁ……お、男が勉強してる……?」

男「何言ってんだ。勉強は学生の本分だろ」カリカリ

友「夢じゃないよね?」

男「安心しろ。現実だ」ボコッ

友「だからって殴らないでくれますかね!?」

ガラッ

教師「はいみんな席つけー。今日は進路調査票の提出締切だぞー」

男「……先生、これお願いします」

教師「おっ。早速きたか。女の分と男のぶんだな。どれ」

教師(ふむ……やっぱり女は四大か。男は……って!?)

教師「おい、男」

男「あん?」

教師「これ、本気なのか」

男「本気です」

教師「そ、そうか……。わ、わかった。先生も全力でサポートするからな。頑張れよ」

男「ありがとうございます」

友「お前、なんて書いたんだよ。先生すげえ驚いてたじゃん」

男「大学って書いた」

友「はは。お前はいつもすぐ冗談いうよなー」

男「……」

友「え……マジなの?」

男「ああ」

友「なんだー。やっぱり夢だったのかぁ」

男「だから現実だバカ」ボカッ

友「いてぇ!」

・・・・・・

病室


男「……俺、大学目指してみることにしたよ」

女「男さん……」

男「お前が背中押してくれたおかげだよ。ありがとな」

女「い、いえそんな!私はなにもしてません!」

男「でも俺やっぱバカだからさ……。今までのリカバリーもしなきゃだから。多分浪人、ってなると思う」

女「そうなんですか……。残念です」

男「……それが残念なことばかりじゃないんだ」

女「え?どうしてですか?」

男「だって浪人すれば、お前と一緒に大学行けるじゃないか」

女「え……?えぇーっ!?

男「とりあえずどこ目指せばいいかわかんなかったからさ、志望校もお前と同じとこにしちまった」

女「もう……男君ったら」ポロポロ

男「っておい。何でお前が泣くんだよ」

女「だって……。嬉しいです。来年、男君が私と一緒の目標に向かって頑張ってくれるんですもん」

男「んなこといって俺だけ今年受かっちまったりしてな」

女「うぅー……男君、意地悪ですよ」

男「大丈夫だ。流石に今年中は厳しい」

男「だから女。来年は俺は学校には残ってないけど……。お前と一緒に頑張るから。それならお前も寂しくないだろ?」

女「はい。もちろんです」ポロポロ

男「あー、ほらもう泣くなって!ほらハンカチ」

女「ありがとうございまふ」グスグス

男「よし、俺は明日からも頑張るから、お前も頑張れよ?」

女「はい。勉強で分からないことがあったら教えてあげますね」

男「ああ。頼りにしてるよ」

女「はい。あ、男君。ハンカチありがとうございました」

男「ああ」

女「男君」

男「あん?」

チュッ

男「……お、女?」

女「ふふ。ハンカチのお返しです」

男「お、お前なぁ……恥ずかしいだろうが///」

女「私も恥ずかしいです///」

男「それに、こういうことは恋人同士がするもんだろ」

女「ふふ……そうですね」

男「……大学受かったら、なろうな。ま、お前さえよければだがな」

女「……!!」

男「嫌なら断ってくれてもいいぞ」

女「そんな……いいに決まってます!私こそよろしくお願いします!」

男「俺は口悪いぞ?」

女「大丈夫です。ほんとは心が優しい人ってわかってますから」

男「そっか。よし、なら問題ねぇな。……大学受かったら、一緒にたくさん遊んで思い出作ろう」

女「……はい!」

女「さて、じゃあ早速、今日から勉強教えてあげますね♪」

男「げ……明日からにしないか?」

女「善は急げです。さ、男君。ビシバシいきますよ」

男「お、お手柔らかにお願いします……」

女「ダメです。きびしくいきます」

男「ああ……早くも自信喪失しそうだ……」


男(でも、こういうのも悪くねぇな……)

男(これからはコイツと一緒に 辛いことも、そして楽しいこともみんな共有して、共に未来に向かって歩んでいけるのだから)




おわれ

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