はぁとが紅い (41)


佐藤心さんSS。


地の分。

P視点。過去作読む必要ないです。

白無垢はなかった。いいね?

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 全てはアルコールのせいだ。そうに違いない。
 普段の僕ならこんなことは思いついても、行動に移したりはしない。

 僕の部屋には今、はぁとさんと僕しかいない。誰も僕のことを邪魔することはできない。

 これまでにもはぁとさんと二人きりになったことはあった。
 でも僕は担当アイドルであるはぁとさんに手を出そうと思ったことは一度もなかった。
 
 今までは。

 身体が熱い。クーラーがきいているはずだが、汗が滲んできた。
 夏の暑さとアルコールが僕の身体から心臓や頭へと熱を運び、身体だけでなく気分も果てしなく高揚していく。

 僕の様子をはぁとさんは知る由もなく、僕のベッドの上で横になっている。

 すやすやと寝息を立てている無垢な寝顔を前に僕は罪悪感に苛まれるが、
 罪悪感以上に、僕がこの状況に興奮しているのが現実だ。

 僕はごくっと喉を鳴らした。

 どうか目を覚まさないで。

 僕はゆっくりとはぁとさんに手を伸ばしていく。

 お盆が明けた週の金曜日。クーラーをがんがんに効かせた事務所で
 パソコンとにらめっこをしていると突然肩を叩かれた。
 
 誰だろう、用があるなら声かけてくれればいいのにと深く考えずに振り返ると、

「ぐえっ」

 はぁとさんが立っていた。右手の人差し指で僕の頬を突き、左手は口を隠すように口元に添えられている。

 
 オレンジのフレアスカートに白のタンクトップ。髪型はクリーム色のツインテール。

 大きくて丸い瞳に白い肌。

 見た目はすごく幼いのに、身長は166センチと女性にしては高く、年は26歳。僕よりも年上だ。


「やーい♪ひっかかったー♪」

 いたずらが成功したのをはぁとさんは子供のように喜んだ。
 どうやら顔と頭の成長は中学生で止まってしまったらしい。
 

「何か用ですかはぁとさん」

「うん♪プロデューサーに用事があるの♪」

 はぁとさんはふっと突然しゃがみ、デスク仕事を中断し頬をさすっている僕を見上げる恰好をとった。

 これはろくなことじゃないな。
 勘繰って目を細めた僕に、上目遣いのまま、はぁとさんは言った。

「今夜飲み行こうよ☆行くぞ☆」

「なんだそんなことですか」
「そんなことってなんだよ☆」

 大げさに口を膨らませるはぁとさんを余所に、僕はほっと胸を撫で下ろした。

 てっきりもっと大変なことを頼まれるのかと踏んでいた。
 スタドリの成分を解明するだとか、安倍さんの実年齢を調べるだとか。
 どうやら虎の穴には入らなくていいらしい。

「それともはぁととは行きたくないの?」

 さっきまでの生き生きとした声とは打って変わって、消え入りそうな声ではぁとさんが訊いた。
 見ると、口は元の大きさに戻っていて、瞳も少し潤んでいる。

「そんなことはないですけど」

 僕が答えた途端、はぁとさんはとびきりの笑顔を作った。

「よかった☆ じゃあ今夜7時ね☆遅れるなよ☆」

 僕の返事も聞かず、時間と場所だけを告げ、鼻歌交じりではぁとさんは事務所を飛びだしていった。

……これだけ演技できるなら、ドラマのお仕事をとってきてもいいかもしれない。

 7時より10分ほど早く約束の場所に向かうと、3人のアイドルが僕のことを待っていた。

「おつかれ☆プロデューサー」

「おつかれさまです。はぁとさん。それに高垣さんと三船さんも」
 
 高垣さんと三船さんは軽く頭をさげ、おつかれさまですと返した。
 
 高垣さんは薄紫色のワンピースが、
 三船さんは白っぽいベージュのチュニックと黒のタイトスカートの組み合わせが、とても似合っている。

「それにしても珍しい組み合わせですね。一緒のお仕事だったんですか?」

 誰に宛てたでもない僕の質問に、三人は顔を見合わせた。

「今日は総選挙のCD音源の収録の仕事だぞ☆というか担当アイドルの仕事の内容くらい覚えとけ☆」
 
 3人の中から代表して、はぁとさんが答えた。
 
 ああそうか。今回の総選挙で各部門の3位以内に入った大人はこの三人だけか。
 確かキュート部門にも一人いた気がするが、大方断られたのだろう。

「それで今日プロデューサーと飲みにいくって話したら、楓ちゃんと美優ちゃんも来たいって☆」

 はぁとさんが言うと、高垣さんが一歩、僕の方に近づき、首を傾ける。

「ご一緒してもいいですかPさん」

 さすがは事務所のトップアイドル。行動の一つ一つに華があり、どこか惹きつけられる。
 僕は即答した。

「もちろんです」
「では。ごちになります♪」

 へ?



 思わず情けない声が漏れた。
「今日はPさんが全額だしてくれるそうで♪」

 高垣さんは、歯を見せないでふふふと笑い、
 三船さんは申し訳なさそうに、僕にもう一度軽く頭を下げた。

「……はぁとさん」
「なーに?プロデューサー☆」
 
 この事件の主犯格であろうはぁとさんは、笑いをこらえようとしているが、出来ていない。
 ところどころ笑顔がこぼれている。

「これはいったいどういうことですか?」
「……じゃあいこっか☆ お店は楓ちゃんのおすすめの店だから☆」

 はぁとさんは僕の方に舌を見せてから、
 高垣さんと腕を組み、スキップを踏みながら飲み屋街の方へと逃げだした。

 高垣さんのおすすめの店ということで、僕は手持ちに不安を覚えていたが、
 どうやら高垣さんは庶民の味方らしい。
 このくらいの値段設定なら、なんとか支払うことはできそうだ。

「Pさん。この梅酒うめーですよ」

 お酒が入って上機嫌な高垣さんはほんのりと頬を紅く染めている。
 
 差し出された梅酒入りのロックグラスを
 果たして僕ごときが口をつけていいものかと受け取りかねていると

「どうしたんですか?私のお酒が飲めないんですか」

 細い両腕で僕の身体をしっかりつかみ、ゆさゆさと揺らしてくる。

 少し前までの自分の意見を訂正する。
 
 こんな美人さんとお酒が飲めるなら、手持ちの金額では安いくらいだ。


「プロデューサー。楓ちゃん相手に鼻の下伸ばしすぎ」

 梅酒の甘さに酔いしれている僕を前に、はぁとさんはカクテルグラスをテーブルに置いた。
 
 深い緑色の瞳は鋭く、形の整った口は今朝と同じくらい膨らんでいる。
 どうやら僕と高垣さんが仲良くしているのが気に食わないらしい。

「そんなことありませんって」
「やっぱり楓ちゃんみたいな大人っぽい人の方がいいのか」
「確かに高垣さんは大人の魅力がありますけど」
「ふふふ。ありがとうございます。お礼にこれどうぞ」
「あ、ありがとうございます」

 僕とはぁとさんの会話に高垣さんが間を割って入ってくる。
 
 自分で飲むだけではなく、相手に飲ませるのも好きらしい。
 梅酒の次に頼んだ日本酒を僕のお猪口にもなみなみと注いでいく。


「楓さん。あんまり心さんとPさんを困らせてはいけませんよ」

 この状況をまずいと思ったのか、事務所随一の常識人であると噂の三船さんが僕に助け舟を出すも、

「別にはぁとは困ってない!」

 どうやら逆効果だったらしい。
 小さくなる三船さんと対照的に、はぁとさんの口はどんどん膨らんでいく。

「困ってないそうですよ」

 高垣さんは軽く微笑みながら、僕に期待の視線を向けた。
 緑色と青色の瞳が僕を捉え、不覚にもドキッとしてしまう。

 顔に出ていないだろうか。

 高垣さんに見惚れそうになる目をあわててお猪口に向け、僕はお酒と気恥ずかしさを一気に飲み込んだ。

「わー強いですね。どうぞ♪もう一杯♪」
 
 僕の気持ちも知らず、高垣さんは嬉しそうに僕のお猪口に日本酒を注いでいく。毎回、毎回、なみなみと。
 そのたびに僕は一気にお猪口を傾ける。
 
 彼女と飲むと必ず誰かが酔いつぶれると噂では効いていたが、どうやら本当らしい。

 お猪口を3回ほど空にし、すっかり高垣さんのファンになってしまったところで、高垣さんが僕に提案した。


「こんなにお酒強いなら、また一緒に飲みにいきましょうよ。今度は二人きりでも構わないですよ♪」

 そう言うと、高垣さんは僕から目を外し、少しにやけながら、テーブルの前を一瞥した。

 高垣さんに釣られて前を見ると、鋭い深緑色の瞳が僕を睨んでいた。

「あの……はぁとさん、これはですね……」

 僕が弁解を始めたころには、時すでに遅し。

 膨らみ続けていたはぁとさんの口がついに爆発した。

「ビール!大ジョッキで!!」

「楓さん帰れますか?」
「帰れません。今日は泊めてください」

 三船さんの肩を借りながら、高垣さんが答えた。
 動きは完全に酔っ払いのそれだが、口調はしっかりしている。

「もう。私と飲むとき、いつも酔い潰れてしまうのはなんでなんですか」
「美優さんなら、なんだかんだ面倒見てくれるかなって。信用してるんです♪」


 三船さんは大げさにため息を吐いているが、表情はどこか柔らかい。
 普段から面倒見が良い人なのか。それとも高垣さんが相手だからなのだろうか。

「それで、私は楓さんを家に泊めますけど、心さんの方は大丈夫ですか?」

 三船さんは心配そうに僕と僕の背中で眠っているはぁとさんを交互に見つめた。

 あれからはぁとさんはすごい勢いでお酒を体内に摂取していった。
 
 僕と三船さんは止めようとしたが、高垣さんがどんどん燃料を投下し、
 はぁとさんの顔はみるみる真っ赤になっていった。


「はい。家が同じ方面なので、タクシー拾って帰ります」
「狼になっちゃだめですよ♪」
「大丈夫です。高垣さんこそ三船さんのこと食べないでくださいね」

 高垣さんは舌をぺろりと出し、獲物を見つけた、それこそ狼のような目で三船さんを見た。


「……楓さん?」
「……美優さん美味しそうですね」


 何やら始まりそうな予感がするが、情けないことに、
 それを見届ける間、はぁとさんを背負っている体力が僕にはない。

「さて、はぁとさん帰りますか」

 返事がないはぁとさんを落とさないよう、しっかりと態勢を整えてから、
 僕はタクシー乗り場に向かって歩き始めた。



「楓さん!私に噛みつこうとしないでください!」

 背中越しに、狼に襲われた三船さんの楽しそうな悲鳴が聞こえた。

 集合玄関の扉を開け、自分の部屋を目指す。

 3階建てのマンションだからかエレベーターが設置されていないので、
 横に外付けされている階段をあがることになる。

 毎日上り下りしている階段が今日は一段とつらい。いつにもまして身体が、背中が重い。


 タクシーに乗ったまではよかったが、そこからが問題だった。
  
 眠っているはぁとさんの代わりに、僕が海に行った日に迎えに行ったはぁとさんのマンションの住所を、
 アルコールが巡る頭をフル回転させて思い出し、運転手さんに

「ここは右」「こっちは……確か左です。あれ右だったかな?」とその場その場で伝えた。


 運転手さんに多大な負担をかけながらも、試行錯誤の末、
 やっとの思いではぁとさんの住んでいるマンションに着いたのだが、事件はそこで起こった。

 はぁとさんのマンションも僕のマンションと同じく暗証番号型の鍵だったのだ。

 流石に住所はわかっても、部屋の暗証番号はわからない。

 暗証番号をはぁとさんに訊いても、ちゃんとした答えが返ってこない。これはどうしようもない。

 そのままマンションの玄関に置いておくわけにも、
 こんな時間に他のアイドルの方に連絡するのも気が引け、結局、僕は再びはぁとさんをタクシーに乗せたのだ。

 鍵を開け、部屋の明かりを点ける。
 
 部屋自体はすごくきれいというわけではないが、
 一応、今朝も掃除機をかけたし、そもそも酔っ払いには気にならないだろう。


 はぁとさんをベッドに横たわらせてから、食器棚からコップを一つ取り出し台所に向かう。

 水を一杯飲んでから、コップにもう一度水を入れ、今度はベッドへと運ぶ。

「はぁとさん。水です。要りますか?」

「もらう」

 はぁとさんは起き上がり、水を一気に飲み干すと、再びベッドに横になった。
 どうやら起きる気はないらしい。

「はぁとさん。水もっと要りますか?」
「……」

 返事がない。さて困った。


 売れっ子ではないにしろ、はぁとさんだってアイドルだ。
 さすがに担当プロデューサーの家にお泊りはまずい。起きて、ちゃんと家に帰ってもらわないと。

 ベッドの横に立ち、僕ははぁとさんの様子を覗き込む。

 まつ毛は長く、さっきまで紅かった肌も、元通りの綺麗な白に戻っている。

「黙っていればすごい美人なんですけどね」

 思わずそんな言葉が漏れてしまう。

 はぁとさんを起こすという目的を忘れ、僕はついついはぁとさんの寝顔に見入ってしまった。

 何分経ったかはわからないが、しばらくはぁとさんの寝顔を観察して、僕はあることに気づいた。

 枕から耳が生えている。それもクリーム色の耳が。

 僕の愛用している枕が小さいせいか、はぁとさんの自慢のツインテールが枕から飛び出しているのだ。

 そういえば……
 立派なツインテールを眺めながら、僕ははぁとさんとの日々を思い出す。

 事務所でも、アイドルの仕事でも、海でも。

 僕が知っているはぁとさんは、どんなときでもツインテールだった。

 そのことに気づいたとき、僕は不意に衝動に駆られた。


 髪をほどいたはぁとさんを見てみたい。
 
 はぁとさんの髪を触ってみたい。

 僕は辺りを見渡した。
 
 一面の白い壁。ベッドと小さなテーブルに、パソコンが置いてある作業用の机。

 
 間違いなく、見慣れた僕の部屋だ。 

 担当アイドル以前に、眠っている女の人の髪を勝手に触ることがダメなことくらい僕にもわかる。
 
 でも、今、この部屋には、僕とはぁとさんの二人しかいない。
 そして肝心のはぁとさんも僕のベッドで瞳を閉じ、仰向けに眠っている。

 ……今しかない。


 ばれなかったらいいのだ。

 髪を少し触らせてもらってから、
 何事もなかったかのように、はぁとさんを起こし、家に帰ってもらえばいい。


「はぁとさん起きてますか」

 念のため、もう一度、はぁとさんが眠っているか確認するが、
 はぁとさんからの応答はない。規則正しく寝息を立てている。

 僕はごくっと唾を飲んだ。

 どうか目を覚まさないで。

 僕はゆっくりとはぁとさんに手を伸ばした。

 はぁとさんの顔に息が当たらないように、息を止める。

 クーラーと時計の音が聞こえてきた。早くしないと、自分の心臓の音も聞こえてきそうだ。

 ヘアゴムにゆっくりと触れるが、
 女の人のヘアゴムを外したことなんてないから、勝手がわからない。

 なかなか外れないヘアゴムに、もどかしさを感じる一方で、この状況をどこか楽しんでいる自分もいる。

 ベッドから離れ、一度呼吸を整えてから、僕はヘアゴムとの格闘を再開する。

 

 なんとか、丁寧にハート型のヘアゴムを外し終えると、
 はぁとさんのツインテールは解放され、それはもう、きれいなロングストレートが姿を現した。

 はぁとさんが眠っているのが残念だ。
 横になっているせいで、髪がどのくらいの長さなのか正確にわからない。

 ベッドから再び離れ、乱れた呼吸を元に戻した後、僕ははぁとさんの髪に触れていく。

 
 指で救い上げると、
 はぁとさんの髪は僕の手の上から、さらさらと溶けていき、ふんわりと甘い香りが立ち込める。



 もう一回。

 僕は指で髪を救う。
 
 クリーム色の髪はすぐに溶け、甘い香りが僕の鼻をくすぐる。

 僕は感動に打ち震えた。

 髪。
 
 絹のような髪とよく例えられるがまさにその通りで、
 どこを救い上げても、はぁとさんの髪は僕の手に絡むことなく、流れ落ちていく。

 近くで見ると色もすごく綺麗で、僕の手から流れていくとき、水飛沫のようにきらきらと輝いている。


 匂い。

 女性特有の甘い香りの中に、安心感があり、どこか僕を幸せな気持ちにしてくれる。
 
 ずっと嗅いでいたいような、そんな匂い。

 もう一回。

 もう一回。



……………………

 もう一回。


 はぁとさんの髪は想像以上の破壊力を秘めていた。

 本当はもっと触れていたいが、残念なことに、明日も仕事があるし、
 はぁとさんを家に泊めるわけにもいかない。ここらが止め時だろう。それに……

 僕はベッドから少し離れ、小さく息を吸った。


「起きてるんでしょ?はぁとさん」


 僕が言うと、はぁとさんはゆっくり起き上がった。

「はぁとのこと食べないの?狼さん」

 ベッドの上で横座り、はぁとさんが僕に訊いた。

「食べませんよ」
「でもさっきまで髪触ってたよね?」
「それはそうですけど……」

 何も言い返すことができない。髪に触れただけでも、アウトはアウト。
 狼になるつもりがなかったと僕が言っても、はぁとさんから見て僕が狼に見えたら、それはもう狼だ。

「まぁいいや☆これは貸しにしとく☆
 でも、どうしてはぁとが起きてるってわかったの?」

「最初は気づかなかったんですが、髪を触っているときに、
 はぁとさんの寝息が不定期になっていることに気づきまして。
 意識して見ると、髪を触っている間だけ、呼吸が止まったり、
 止めすぎて苦しくなったのか、急に速くなったりしていたので、これは明らかに起きてるなぁと」


 

 そう。何度もはぁとさんの髪に触っている途中で、
 僕ははぁとさんが起きていることに気づいてしまったのだ。

 でも気づいてからではもう遅い。

 一番ばれてはいけなかったはぁとさんに、僕が髪を触っているという状況がばれてしまったのだ。

 僕はやけになった。

 はぁとさんは何も言ってこない。
 
 本当に寝ているなら、起きてからケアしよう。
 起こそうと思って頭を触ったとか、適当に言えばいい。

 起きているなら、どうせ後で何か言われるのだから、
 気づかないふりをして、今ははぁとさんの髪を堪能しよう。

 僕ははぁとさんが起きているかどうかを考えることはやめ、
 はぁとさんの髪の毛を楽しむことに全神経を集中させたのだ。
 

「そっか。でもしょうがないじゃん! 目瞑ってたら、いきなり髪触ってくるんだもん!」

 はぁとさんは口を膨らます。今日何度目だろうか、この光景を見るのは。

 ……あれ?

「はぁとさん」
「なに?」
「今の発言だと、はぁとさん、
 僕に最初に髪を触られたときから起きてますよね?一体いつから起きてたんですか?」

 思い返せば、水を持っていった時の動作もおかしい。
 
 水をもらう、水を飲む、再び横になる。
 次の水には全く反応しなかったのに、この一連の動作だけは異様に動きが速かった。
 
 それにさっきの会話のやりとり。

 高垣さんが「狼になっちゃだめですよ♪」と言った時、はぁとさんは僕の背中で眠っていたはずだ。



「はぁとさん?」

 僕が上目遣いで、ベッド上のはぁとさんを覗き込むと、はぁとさんの口はすごい勢いで縮んでいった。

「夏だけど、やっぱり夜は少し肌寒いね」

 はぁとさんは期間限定のストレートロングだ。
 胸より少し下のところで、何にも縛られていないクリーム色がゆらゆら揺れている。

 タクシー会社に電話したら、20分ほどで来れるとのことだった。
 目印に、最寄りのバス停を指定し、僕とはぁとさんはタクシーを待っている。


「アルコール取ると、体温管理が難しくなるらしいですからね。大丈夫ですか?」
「大丈夫。あ、あれかな?」

 辺りが明るくなっていく。どうやらお別れの時間らしい。

「あっ忘れてた」

 不意にはぁとさんが声を上げた。振り向くと嬉しそうに僕を見つめている。

「どうしたんですか?」
「貸しの件だけど」
「……あれは無効なのでは?」
「はぁとは犯罪に手を染めてないけど、プロデューサーははぁとが訴えたらセクハラだよ?」
「わかりました。何ですか?」

 はぁとさんは僕の方へくるりと向き直った。
 
 上目遣いではなく、真っすぐと僕を見つめていたので、僕は慌てて身体をはぁとさんの方に向ける。

 女性の中では高身長のはぁとさんと、さばを読めば170センチの僕。

 
 同じくらいの高さで目と目が合う。


「今度飲み行こうよ。……二人で」

 タクシーははぁとさんを乗せ、夜の中へと消えていった。
 
 タクシーが見えなくなってからも、しばらく僕は、その場で、はぁとさんのことを思い浮かべていた。

 
 
 全てはアルコールのせいだ。そうに違いない。


 僕の身体が熱く、心臓が激しく鳴っているのも。
 
 去り際のはぁとさんの顔が、紅く染まっていたのも。

 全てはアルコールのせいに違いない。



 以上です。 今回、長くなりすぎたので、読みづらかったらすみません。

総選挙しゅがはに投票した甲斐があったと本当思うわ

声実装された日、ずっとループで再生してました。  依頼出して、佐藤心担当の称号とるために、ファン数増やしてきます。

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