・アイドルマスター　シンデレラ＆シューズ　渋谷凛の話
・地の文、短編

５歳の頃。
マジックテープ止めの子ども靴を卒業して初めて自分で選んだ靴は、お母さんとお揃いの水色のキャンバススニーカーだった。

お父さんとも色違いだけどお揃いで。

お店での格好が二人ともシャツとジーンズに濃紺の作業エプロンだったから、
服もお揃いにしたくて、オーバーオールとかデニム地のワンピースばっかり着てたっけ。

靴紐をきゅっと締めたら足が凄く軽くて、どこまでも歩いていけるって気がしてた。
雨の日にはぐしょぐしょになっちゃうのだけは苦手だったけど、汚れてもあんまり気にならない感じが好き。

高学年になってからは長い丈のパンツばっかり履いてたし、ローカットのスニーカーはピッタリで重宝したな。

一度だけ、ハイカットのスニーカーも試してみたんだけど……、
歩き方の癖のせいなのかな、踵のところがすぐにヘタれちゃって。

歩くたびにつっかかるような感じがして、何度も転けそうになって履くのやめたんだ。

長距離を歩くのには向いてないんだけど、
きちんとソールを入れたらハナコの散歩ぐらいならゆったり歩けるし、
何歳になっても気兼ねなく履けるだろうから、これからもきっと、スニーカーにはお世話になるんじゃないかな。

ーーー

今、普段履きで一番お世話になってる靴は……　ローファー、だと思う。
何しろ、中学高校と毎日のように履いて行ってるわけだし。

革靴、憧れだったんだ。

近所の少し年上のお姉さんが履いてるのを見て、紺色の制服に濃茶のローファーがすごく似合ってて、いいなぁ、って。
その人とは違う中学高校に通うことになったからおんなじにはならなかったけど。

でも、入学が決まって初めてローファーに足をいれた時、憧れに一歩近づいたって感じがして、すごく嬉しかった。

靴紐の無いシンプルなコインローファーだから、すっと履けるし、意外とどんな服装にでも合うんだよね。
どこにでも履いていって、いつの間にか私の足、私の靴って思えるぐらいには馴染んでた。

革靴の固さが良いし、革靴の固さが辛くて。

冬は霜焼けで赤い指先がぎゅっと締め付けられて、痛くてかゆくてたまらなかった。
夏は暑くて湿気で蒸れて、暗色の合皮が太陽で灼けて、裸足で歩くほうがマシかもって何度も思ってた。

それでも、この靴が好きでさ。

新品のピカピカのローファーより、履きつぶして傷だらけのローファーに愛着がわいちゃって。
皮がだいぶ軟らかくなって足に馴染んでくれたし、傷の一つ一つも、なんかカッコいいじゃん、って思えるようになってたんだ。

靴裏が斜めに削れていくのを、これだけ一緒に歩いたんだな、って実感しながら。

セミフォーマルなら大丈夫ってことで、あのお姉さんの結婚式の時にも履いていったっけ。
ちっちゃい頃に憧れてたって話をしたら、ちょっと笑って、「ありがとう」って言われちゃった。

じゃあ今度はこの靴だね、って。白くてキラキラしたウェディングシューズも、すごく似合って素敵だったな。

ところで、セミフォーマル、ってどれぐらいなんだろうね。
……舞踏会には履いて行けない、ってぐらいなのかな？

ーーー

スニーカーもローファーも、私の日常を支える靴で。地面にしっかり足をつけて、一歩一歩歩いていくための靴。

じゃあ今の、”アイドル”としての私は？

ファッションのことなんてそんなに詳しくなくて、
だから、実際に色々履くようになるまでは、踵の高い靴は全部『ハイヒール』なんだって思ってた。

つま先歩きが怖かったんだ。踵に力を入れていないと、倒れそうで、崩れそうで。


……でも、一歩踏み出した世界は。

皆とおそろいの毛皮のピンヒール。
フラフラゆらゆらしながらも、少しずつ踊れるようになって。

皆の足がきれいに揃った時、ああ、アイドルって……楽しい！　って、本気で思えたんだ。

初めてのドラマ出演で履いた紺のパンプス。
靴擦れがひどくて泣きそうになりながらも、絶対に負けるもんかって気持ちで、
前を見て、私らしく強く演じて。

血の痕が残ったから買い取りになっちゃったけど、今でも大切にしまってあるよ。
……時々、思い出したように履いてみたりもして。

ウェッジソールは比較的履きやすかったかな。
足の先が出るから、足の指にネイルを初めてしてもらって。

これからは足のケアもしっかりしなきゃ、って反省したっけ。あんまりきれいな足先じゃなかったから。

そして。
……黒の、編み上げのロングブーツ。

魔法使いさんにもらった、私だけの、初めての魔法。

ソロのステージでは必ず履く靴。
靴紐をしっかり締めて、脚をピンと伸ばして、真っ直ぐに前を見て。

さあ、行くよ。


ステージの上では、一番輝いてみせるから。

ーーー

ハイヒールを履くとき、私はきっと、変われる。

ハイヒール・スイッチ。……それが私の、




　〈fin〉

ベタ靴の女の子が背伸びして新しい世界に一歩踏み出すとき、それはきっと素敵なことだから
渋谷凛ちゃん、誕生日おめでとう！

モバマスの５周年記念はアイドル全員の普段靴実装がいいです
ガラスの靴を履く前はどんな靴を履いてたのか知りたい

前作

・瞳子「その手に、乗せられて」

誕生日のやつ

・モバP「こーひーふーふ」