ミコチ「一緒に行きますか? だご汁食べに」ゴロウ「助かるよ」 (22)

このSSはハクメイとミコチと孤独のグルメのクロスSSです。

五郎はハクメイとミコチの世界観に合わせてゴロウとなっております。

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夢品商店というアナグマが経営している店に商談しに来たまでは良かった。

問題はそこの店長がかなりやり手かつ話好きということだった。

かなり向こうに良い条件で契約をしてしまった………。

スズミ「ということでよろしくね」

ゴロウ「は、はぁ」

書類をまとめバッグに入れ立ち上がる。

そのとき俺の自己主張の激しい腹の虫が盛大に鳴いた。

ゴロウ「これはすいません」

俺の腹の虫の鳴き声を聞いた彼女がカラカラと笑い思わず赤面してしまう。

しかし

………腹が減ったなぁ。

ゴロウ「それでは私はこれで失礼します」

スズミ「あ、ならこれを帰りながら食べるといいわよ」

ゴロウ「これは」

円柱状の花のような独特の形をした………カヌレか。

スズミ「うちの弟が作ったのよ。なんといっても私の弟が作るカヌレはマキナタでも」

ゴロウ「すいません。失礼します」

スズミ「あら、そう? それじゃあよろしくお願いするわね」

ゴロウ「はい」

これ以上空腹に耐えられそうにない。

絶対に長くなると思ったため、話を切り上げる。

もう一度腹の虫が鳴いた。

急いで何かを食べにいこう。

疲労と空腹でもう大変だ。今にも腹の虫が再び合唱を始めそうなのだ。体は元気じゃなくても腹の虫は元気だ。

とにかく今はなんでもいいから腹にいれたい。良くを言えばおいしいものを。

どこか、どこか店はないか。

腹をさすりながら夢品商店の扉を開けようとすると、俺がドアノブに触れるよりも先に扉が開いた。

ミコチ「こんにち、きゃっ」

入るものと出るもの。当然意識してなかったため俺たちはぶつかることになる。

尻もちをついて額をさすっている彼女は俺と同じで人間。長い艶やかな髪が床に広がっていた。

ゴロウ「すいません。大丈夫ですか?」

ミコチ「は、はい。大丈夫です」

彼女に手を差し伸べると再び腹の虫が鳴く。

どうやら今日の腹の虫はとても元気なようだ。

再び赤面しながら彼女を立ち上がらせる。

恥ずかしさから急いで店を出ようとする俺の袖を彼女が掴んだ。

まさかここで見れるなんて

ミコチ「お腹空いてるんですよね」

ゴロウ「え、あぁ、はい、まぁ」

ここでお腹が空いていないと言えるほど腹の虫が謙虚じゃない。

ミコチ「なら、もしよかったらなんですけど、私これからだご汁食べに行くんで一緒に行きませんか?」

突然のお誘い。

正直もろ手を挙げて甘えたいがどうしたものかと悩んだ。

スズミ「その子、一度言い出したら諦めないわよ。マキナタで一番のおせっかいだから」

ミコチ「やめてくださいよそんな言い方!?」

私は別にそんなとかごにょごにょ言っている彼女だったが、ばっと顔を上げて

ミコチ「一緒に行きますか? だご汁食べに」

もし彼女が諦めない人で相当なおせっかいならばそれに甘えよう。

いくらなんでも善意を断るのは気が引ける。

ゴロウ「助かるよ」

ミコチは店長に用があったらしく俺はその用が終わるまで店の外で待っていた。

ゴロウ「そうだそうだ。これがあったんだ」

さっきもらったカヌレ。手に取っただけでその食感が思い浮かべれるようなほどのさくさくとした手触り。

うん。美味しそうだ。

こう見えても俺は甘いものに目がない。

ゴロウ「いただきます」

カヌレにかじりつくと口の中に広がるのは芳醇なはちみつの甘味と香り。

そして

ゴロウ「驚いたな。これはほうじ茶だな」

見た目よりもずっと落ち着いた味だ。

しかし後で鼻からさっと抜ける甘い香りはこれはラム酒か。

はちみつ、ほうじ茶、ラム酒。

異端にみえるほうじ茶がカヌレを新しいものに変えている。

これは異端者ではなく新しいリーダーの登場といったところか。

このはんなりとした甘さならば何個でも食べれてしまいそうだ。

ゴロウ「もう食べてしまった」

さくさくしっとり、はんなりほわん。

そんな味だ。

これは満足だ。大変満足だ。

ぐぅ。

腹の虫は満足ではないようだが。

まるっこいごろーちゃんがちっとも想像できない……。
全部頭だけそのままになってしまう……。

作品は面白いので是非頑張ってほしい。

ミコチ「おまたせっ」

カヌレの余韻に浸っていると用が終わったらしくミコチが出てきた。

ミコチ「それじゃあ行きましょうか」

ゴロウ「それで、今から行く場所はどこにあるんだ?」

ミコチ「えっと、ちょっと遠いから」

ミコチが小走りで街中の方に向かっていく。

数泊遅れながらついていくと―――

ミコチ「やった。今日は亀タク空いてるわね」

とても大きい亀がいた。

亀タク。

知ってはいたけど乗るのは初めてだ。

ミコチが運転手と数度交渉すると、亀は足を折り人でも乗れるようにしてくれた。

亀の甲羅に乗るといつもより高い視界に戸惑う。

ミコチを引き上げると亀は立ち上がり、のっそのっそと歩き出した。

ミコチ「ゴロウさんって力持ちなのね。とっても大きいし」

たしかに身長は一般的な人よりも大きい。人ごみでもある程度先が見えるくらいには。

それに武術をやっていたため身体能力も高いほうだと思う。

ただ―――

ぐぅ

ミコチ「あら、そんなにお腹が空いてるのね」

ゴロウ「………」

燃費が非常に悪いことが悩みだ。

ミコチ「えーっと、それなら」

ミコチがきょろきょろと周りを見渡す。

一体何を探しているんだろうか。

少しすると何かを見つけたらしく、右手を上げていた。

一体なんだろうかと首をかしげていると小走りでこっちまで駆け寄ってくる一人の少女がいた。

その少女はゆるくパーマの入ったロングの赤毛で、バスケットとポットを持っていた。

売り子「はいはいっ! 小走り農場ですよ!」

ミコチ「今日はあれあるかしら?」

売り子「ありますよ。いくついりますか?」

ミコチ「エスプレッソ2つ。あとミルククリームジャリパン2つ」

売り子「毎度!」

ミコチから手渡されたエスプレッソはドロドロとした濃さでかなり苦そうだ。

まいったな。苦いのはあまり得意じゃないんだが。

行儀が悪いが少し舐めてみる。

うん。苦い。

触れた舌の先が熱と苦みでビリビリしびれるかのような苦さだ。

一息で飲み干せばいけるだろうか。

そう悩んでいるとミコチがこっちを見て笑っているのに気が付いた。

ミコチ「ジャリパンを一口かじってみて?」

そう言われてジャリパンを一口かじる。

コッペパンの懐かしい味に挟まれたのはずどんと重いミルククリーム。これだけでも甘いのに中に入ってるのは砂糖。

ジャリジャリとしたこの食感が堪らない。香ばしい、甘い、じゃりじゃり。

匂い、味、食感。

甘党にはたまらないな。

今日二度目の満足に人心地ついていると

ミコチ「はいエスプレッソ飲んで!」

そう、手を叩いて急かす。

言われた通りにあの苦い苦いエスプレッソを飲むと。

ゴロウ「………なるほど」

口の中に残ったくどいほどの甘味がエスプレッソの苦さと合わさっていい感じだ。

ミコチ「ここのは特製で、エスプレッソと一緒に食べると美味しい甘さになってるのよ」

抹茶と茶菓子のようなものか。しかしこっちはジャリパン。お腹の中も満足だ。

甘味と苦み。一緒に取れば相乗作用で美味さがどんとアップ。

たまらないなぁ。

エスプレッソとジャリパンに舌鼓をうち一息。

しかしこの亀タク

ゴロウ「歩いた方が早いんじゃ」

ミコチ「それは言わないお約束。少しお腹も膨れたからまだ我慢できるでしょ?」

たしかに腹の虫は食後の一睡を決め込んでいるが。

いや、ゆらりと流れる風の中街中の風景を眺めるのもまた一興といったところか。

亀タクのゆったりとした時間とは対照的に道行く人は忙しそうに、また活気にあふれて往来を行き来している。

たまには仕事を忘れてこうゆっくり過ごすのもいいのかもしれないな。

ゴロウ「それで亀タクで行けるところまで行って、それからどれくらい歩くんだ?」

ミコチ「えっと、ここから亀タクだから、あと二時間ぐらいかかるかしら」

ゴロウ「歩こうか」

さすがにそこまでゆっくりはしたくなかった。

亀タクから降りしばらく歩く。

すでに街中からはだいぶ離れ人影のない寂しいところまで来た。

ミコチ「あ、ゴロウさん。もう一人いるんだけどいいかしら?」

ゴロウ「構わないが」

人を待たせているのにのんびりしていたのか。

と考えているとどうやら顔に出ていたらしく。

ミコチ「大丈夫よ。どうせ今も賭け事なんかしてるはずだから」

と言われた。

………それでいいのだろうか。

それから少し歩き続けるとかやぶき屋根の古風な店が見えた。

呑戸屋と書いてある看板が見える。

そうだ、こういう雰囲気の店が実は美味しかったりするんだ。雰囲気も料理の一部だから。

心の中でスキップをする。

それと同時に腹の虫もスキップをした。

かやぶき屋根は今でも見るとこでは見るが、こんな風に山の奥に一軒だけあるのは珍しい。

引き戸を開けて中に入ると広い一間にいくつもの囲炉裏が見えた。

なるほど炉端焼きか。何度か食べたことはあるが炭火で作る料理はまた格別なんだよな。

記憶の中の料理の味は空腹に悪い。

昔食べた味を振り払っていると店の中から大きな悲鳴が上がった。

シナト「ギャーッ! ありぇねえだろそんなの!!」

ハクメイ「いやぁ、今日の私はついてるな、うん」

店の一番真ん中にある囲炉裏の傍で頭を抱えた………目つきの悪い女性がカラカラと笑う明るい茶色の髪をした女性にくってかかっていた

シナト「はぁ!? どういうことだよ。てめぇサマしてんだろ!?」

ハクメイ「いつ私がイカサマしたっていうんだよ。心外だ」

ゴロウ「………あれが?」

ミコチ「笑ってる方が私のツレのハクメイよ。もう一人の方はこの店の店主のシナト」

シナトはハクメイに向かって「ノーカン!」と連呼しているが、ハクメイは大笑いをするだけで返事は返さない。

ミコチは大きくため息をつきながら二人の元へ向かった。

さて、どうしたらよいかと考えていると背中に軽い衝撃が走った。

「わっ。す、すいませんっス」

ゴロウ「申し訳ない。入口に突っ立ってしまって」

振り向くと短髪の活発そうな少女………少女?が申し訳なさそうに俺の顔を見ていた。

その少女はシナトとどこか似ているような………?

「お客さんっスか?」

ゴロウ「え、あぁ。そうだけど」

「じゃあご案内を、って姉さん! お客さん来てるっス!」

シナト「あぁん!? いまそれどころじゃねぇんだよミマリッ」

ミマリ「お客さんより優先することなんかあるわけないっスよ!!」

ミコチ「シナトもハクメイもそこまでよ」

ミマリ「そうっす、お客さん来てるんスよ?」

ハクメイ「じゃあ今日の料理はシナトの」

ミコチ「ハクメイ!」

ミコチの一喝によりハクメイは一瞬大きく目を見開いて小さくため息をついた。

ハクメイ「………ノーゲームってことで」

シナト「ちっ。まぁよく来たな。ミコチ、とそっちは」

ミマリ「お客さんっスよ」

ゴロウ「雑貨商をやってるゴロウだ。いろいろあってミコチに誘われた」

ミマリ「雑貨商っスか! うちの店にも何か」

シナト「いらねぇ」

ミマリ「そうっスか………」

肩を落として落ち込むミマリ。シナトの言葉通りこの店には飾り気がない。必要なものしかないという点ではずいぶんと質素だ。

シナト「それじゃあ飯を作ってくるが、何がいいんだ?」

ミコチ「ダゴ汁で」

シナト「あいよ」

囲炉裏の炭はぱちぱちと音を立てるが決して必要以上に火を見せたりしない。

炭を使うときはそうでなくてはいけない。必要以上の火は表面を焦がすだけで中まで火を通してはくれない。

それに炭の火は自分の体の奥まで温めてくれるような気がする。

実にこの時間はのんびりと、温かく―――

シナト「できたぞっ!」

自在鉤に勢いよくかけられた鍋の中には並々と入ったダゴ汁。

湯気を上げるそれに入っているのは平べったい麺状のダンゴ。その他にもしめじやゴボウも入っている。

シンプルだが鼻孔をくすぐる味噌とゴボウの香りに誘われすぐにでもかき込みたくなる。

味噌汁ってのは万能だ。具材を豪華にすれば主役も十分張れる。主役をひきたてる脇役にも、最後の一服にもなれる。

変幻自在のベテラン役者だなぁ。

ミコチ「はい。ゴロウさん」

ゴロウ「あぁ、すまない」

受け取った椀の中には味噌のいい香り、とこれはゴマか。ゴマの香ばしい香りもする。

ゴマっていうのは入れると入れないじゃ結構な違いが出る。

地味なように見えて大切な存在だ。

手始めにずずっと汁をすする。

ゴロウ「!」

これはニンニクか。驚いたな。

そんな気配は感じさせなかったのに後味でいきなり現れるうま味。

これは良いサプライズだ。

気づけば俺は茶碗を空にしており、深く長い息を吐いた。

ミコチ「気に入ってくれたようね」

ゴロウ「あぁ。でもこれはいったいどうやったんだ?」

ミマリ「にんにくをそのまま鍋の底にいれとくんスよ。旨味は出るけど、匂いはそれほどでないんッス。鍋とかじゃないとできないんスけどね」

なるほど。

聞きながら二杯目を飲み干し、三杯目を椀にそそぐ。

ハクメイ「はは、よく食べるな」

シナト「かなりガタイがいいしな。本当に雑貨商か?」

ゴロウ「なりは大きいがちゃんと雑貨商だよ」

ハクメイ「ってことはいろんなところを旅してるのか?」

ゴロウ「あぁ仕入れにね。カザシも行ったしアラビもヤシロも行ったな。最近だとカノカンにも」

仕事上いろんな町に行くことになる。家は一応あるがほとんどいない。近くならいいんだがほとんど遠くの町にいくことになるからな。

ミコチ「あら、なら私達ともすれ違ってるかも」

ハクメイ「すれ違ってないよ。こんなに大きいなら覚えてるはずだ」

ハクメイ「ヤシロはちょっと治安悪いけどゴロウなら襲われそうにないな」

ゴロウ「あぁ、一回もめごとが起きたな。スリにあって」

ハクメイ「大丈夫だったのか?」

ゴロウ「すぐ気づいたから追いかけて取り押さえたよ」

ハクメイ「お、おぉ。追われたスリは恐怖だっただろうな」

実際はアームロックをかけたところを近くのキャラバンに止められたんだが。

そのときあった狼とは今でも仲良くさせてもらっている。今はどのあたりにいただろうか。

5杯目を食べ終え一息つく。

5杯食べても飽きない味。これが味噌汁のいいところだよな。

シナト「にしてもよく食べるな」

ハクメイ「よし、シナト」ゴニョゴニョ

シナト「ほうほう、なるほど、その勝負乗った」

ミマリ「二人とも?」

ミコチ「何の話かしら?」

ハクシナ「「なんでもないです」」

にっこりと笑った二人の後ろに何かが見えた気がした。

疲れているのだろうかと両目をこする。

ミコチ「でもこんなに食べっぷりがいいと見てるほうも気持ちよくなるわね」ウズウズ

ハクメイ「ミコチ、今何か作りたい気分でいっぱいだろ?」

ミコチ「よかったら今度私の家まで食べに来てね。ゴロウさん」ニッコリ

シナト「ってもうだご汁がなくなりそうじゃねぇか。追加で作るぞ!」

ミマリ「了解ッス」

シナト「あと酒呑むぞぉ!」

ハクメイ「おー!」

ゴロウ「………勘弁してくれ」

結局酔っぱらった二人のせいで店じまい。

ミマリと一緒に店じまいの手伝いをしていると空はもう暗く、星が見えていた。

ゴロウ「やれやれ、明日は早めに出ないといけないみたいだな」

徐々に忍び寄ってくる冬の気配を感じながら、俺はかすかに白い息をはいた。

各地を旅して雑貨を取り扱う『ゴロウ』。その目利きと人脈は非常に優れており顧客は多くはないが満足度は非常に高い。

注文があればどんなところでも行き、顧客の要望にもできる限り応え、祭りなどの企画に取り扱うための小物を大量に取り扱うこともできる。

しかし特筆すべきはその職業ではなく、体格と胃袋。

彼は空腹になるとふらりと料理屋に立ち寄り、気持ちの良い食いっぷりを見せる。一般よりもかなり大きめの体による炎のような食いっぷりには一見の価値あり。

さらに彼が立ち寄った店は繁盛するとのうわさもあり、この噂を知る飲食店は彼の来店を心待ちにしているという。

この噂を裏付けるように彼が訪れた田楽・炉端焼きの『呑戸屋』は現在開店以来空前の客数を記録しているという。

店主であるシナトはうれしい悲鳴ではなく、忙しさからくる怒声を上げているそうだ。

おしまい。

モブ小人だと小走り農場の売り子と蜂蜜館のバーテンダーがかわいいと思います。

つぎもたのむ

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