アルビノの女「……いくらですか」黒髪の娼婦「お気に召すまま」 (104)

『――――新都市東京の今夜の降水確率は、西地区で80%、東地区で90%、北地区で100%、南地区で75%、中央区で45%』
『うち北地区と東地区では重金属酸性雨、南地区では更に75%を越える放射性ラジウムが降雨に含有されます』



アルビノの女「……ついさっきが、仕事終わりです。それなりの額は、出せますが」

黒髪の娼婦「安すぎなければ、幾らでも。3000円あれば、十分よ」



『――該当地区にお住いの皆様は、午後11時から明朝6時までの外出をお控えなさるか』
『あるいは弊社の対NBCアーマーを着用した場合、30分以内であれば安全な活動が保障されます』



アルビノの女「悪くないですね。義体に男性器をつけてみたんですけど、射精機能のテストが済んでないんですよ」

黒髪の娼婦「……アンドロイドも、レプリカントも、人間も。お金さえ支払ってくれるのなら、歓迎するわ」



『――跳べよ宇宙へ、拓けよ星々を。アーシズ・インダストリアルの提供でお送りしました』
『続いてパブリック・アドバタイザーより、北地区第七ゲートの老朽化と近辺高層ビルの大幅改築に関する――――』



アルビノの女「雨宿りもしなくちゃいけない。……暫く、お世話になりますよ。名前は?」

黒髪の娼婦「ロゼッタよ。貴女は?」



『――――緊急のニュースをお伝えします。本日午後9時30分ほどに、中央区・6番セントラルビルの180階付近にて大規模な爆発が発生』
『原因は現在調査中ですが、この爆発によりアーシズ・インダストリアルの社長であるマコト・シキシマ氏68歳の死亡が確認されました――――――』



アルビノの女「ラティーナ。ラティーナ・C・スコーピオ」

ラティーナ「――――『壊し屋』とでも、呼んでください」

黒髪の娼婦「そう。ありがとう、ラティーナ。それじゃあ、ついてきて頂戴」カツ、カツ

アルビノの女「……ここも随分と奥まった所なのに、もっと深くへ行くんですか」

黒髪の娼婦「捕まえてバラそうだなんて、考えてないわ。安心して?」

アルビノの女「……半分ぐらいは生身ですし、第一安モンの義体です。高くは売れませんよ」

黒髪の娼婦「そうかしら? だって――――――」

黒髪の娼婦「随分と〝重い〟もの」「コートの下に、隠しているようだけれど」

アルビノの女「……仕事に使う、工具類ですよ」「切り裂きジャックみたいなことは、考えてませんから。安心してください」


◇ ◆ ◇ ◆ ◇


アルビノの女「……結局、最下層の深部まで来るとは」

黒髪の娼婦「ええ。――ここよ、入って」

アルビノの女「どこの〝家〟かと思えば、安宿ですか」

黒髪の娼婦「帰る家は、私から自由を奪うもの」「娼婦にも、プライベートは必要なのよ?」

アルビノの女「……は。随分と、いいご身分なことで」

アルビノの女「シャワー、まだ浴びてないんです」「ベッドにでも座って、暫く待ってて下さい」

黒髪の娼婦「ああ、それなら。私も、まだだから」

アルビノの女「気にしませんよ、私は」    黒髪の娼婦「私は、そうは行かないもの」

アルビノの女「……仕方ありませんね。なら、お任せします」    

黒髪の娼婦「……ありがとう、ラティーナ」スルリ

揺らめくようにして近付いた娼婦の指先が、アルビノの女の付けていた酸素マスクを外す。
恐らくは右目にオンライン脳直システムを内蔵した、赤と金のオッドアイが微かに見開かれて、眼前で穏やかに微笑む娼婦の紅い目を見つめた。

黒髪の娼婦「あら」「マスクを外すと、そんな顔なのね。可愛いわ」

アルビノの女「……安物の、酸素マスクですよ」「人のもの、勝手に取らないで下さい」

黒髪の娼婦「ごめんなさい。でも、安物なら少しくらいいいでしょう?」

アルビノの女「そういう問題ではありません」「知られたくないもの、近付いて欲しくないもの。誰しも持っていますから」

アルビノの女「――――だから、貴女もそんな仕事をしているのでは?」

黒髪の娼婦「……さあ、どうでしょう」クス


◇ ◆ ◇ ◆ ◇


アルビノの女「……終わりましたか」

黒髪の娼婦「もう少し待って頂戴。今から、身体を拭かなきゃいけないの――――」

アルビノの女「こんなに客を待たせる娼婦、初めて会いましたよ」

黒髪の娼婦「そんなことはないでしょう。直ぐに済ませるから、もう少し待っていて頂戴」

アルビノの女「拭かなくていいから、とっとと来てください。こちとらベッドの上で薄いバスタオル一枚、冬場だったら風邪引いてますよ」

黒髪の娼婦「……仕方ないわね。あまりここの主人には、迷惑をかけたくないのだけれど」

アルビノの女「あんな『弱い』AIのオートシステムなんて高が知れてますよ。さ、早く」

黒髪の娼婦「はぁい。……せっかちね、貴女」

アルビノの女「ご心配なく。『こっち』は長持ちするよう、取り付けの時にOSごと調整してもらいましたから」

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

黒髪の娼婦「…………っ、ふぁ、……ん、………」

アルビノの女「……ぁむ、………ん、……ふふ、………ぷぁ」


白い肌を水滴に濡らして、二人の女がベッドの上で絡み合っていた。
黒髪の娼婦は下に組み敷かれ、その細い両腕をアルビノの女に絡めていた。
柔らかい唇を貪られ、伸ばされた舌先に口内を蹂躙され、征服の証として流し込まれた苦い唾液を甘受する。
潤む紅色の瞳へと、愉悦に満ちた色合いで視線を絡めて、アルビノの女はいよいよ娼婦の肌に指を這わせ始めた。


黒髪の娼婦「……ん、ふぁ……随分、情熱的なキスね」

アルビノの女「やる時は思い切りよく。私の主義ですから……ん、ちゅ」

黒髪の娼婦「っ、っ…………ふ、ぁ……は、ぁんっ……、ん、……」

アルビノの女「……ちゅ、あむっ、……くす。……ちゅ、じゅるうぅ……」


引き摺り込まれた舌先を啜り上げられ、その喉奥で娼婦はくぐもった声を漏らす。
同期させるように、ラティーナの指先が娼婦の太股にそっと這わされる。微かに股を震えさせて、娼婦の女はそれひ答えた。
快感に喘ぐ声さえ、ラティーナに賞味されている。おのれの全てを奪い取られ、支配され、舌の上で転がされる感覚。
娼婦としては不釣り合いなほどに震える背筋を、今夜の悪辣な客は目敏く知っていた。
故にまた、その赤と金の瞳が更なる愉悦を覚えるのも道理であった。



アルビノの女「……くす。キスだけで、濡れてきたんですか?」

黒髪の娼婦「……ん、はぁ、んっ……貴女が、早くしたいって言うから。サービス、よ?」


アルビノの女「では、お言葉に甘えて。……それでは、改めて」

黒髪の娼婦「……ええ。……ふふ、大きいのね……」

アルビノの女「もう少し大きめにオーダーしたはずなんですがね。……じゃあ、いきますから」


少なくとも、屹立するその男性器は「安物」ではないのだろう。人工粘膜の質感と擬似海綿体は、直接の神経・血管接続を施さなければ再現できない。
にやりと笑んで欲望を隠さないラティーナの顔貌に、荒い息のままロゼッタは微笑して――そして、直ぐにそれは消える。


アルビノの女「……へーぇ。こんな感触なんですか、膣の中って」

アルビノの女「このまま、根元まで入れちゃいますからね。……って、聞こえてますか?」

アルビノの女「まあ、いいや。……精々、たくさんいい顔を見せて下さいね」


半ば目を剥いて、肺の酸素を悉く吐き出そうとするかのようなロゼッタに、容赦なくラティーナは一撃を打ち付けた。
豊満な肢体が痙攣して、殊更その締め付けを強くする。またも唇が塞がれる。嬌声さえ彼女は許さない。
二撃目。三撃目。四撃目。ただただ強く、短く切られた爪を背に立てて、ロゼッタは狂おしいまでの快感を堪えようとしていた。
だが。結局の所、そのような安い努力は五分にも満たない価値しかなかった。


黒髪の娼婦「――――――ん、んん………っ、!!!」


一際大きく、身体を二、三度震えさせて、呆気なく娼婦の女は絶頂に達した。喉奥から思い切り濁った叫びを上げて、自らを蹂躙する雌という名の雄に四肢全てで縋り付いた。
強く引き締まって滑りと熱を増す肉壷の感覚に、ラティーナは酔い痴れる。過熱する娼婦の体温がそれを急かす。更なる打撃を与える。
まだ彼女は射精を済ませていなかった。深い絶頂に至ることを望むのは、むしろ客である彼女のほうであった。
夜は続いた。鉛色の空が酸性雨を絞り終えて、くすんだ朝日が摩天楼の頂点を照らすまで。

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

『――パブリック・アドバタイザーが午前6時をお知らせします。昨夜の爆発事故についての新しい情報です――――』



アルビノの女「はい。お代です」

黒髪の娼婦「……桁かお札、間違えていない?」

アルビノの女「いいえ。ほんの気持ち、ちょっとしたチップですよ」



『――――――保安警察はこの事件を、一連の〝壊し屋〟関連事件と認定。関係各社と協力し、全力を以って捜査に当たると――――』



黒髪の娼婦「……気前のいいお客は、好きだけれど。返してと言っても、返さないわよ?」

アルビノの女「揺するつもりなんざありませんよ。貴女と同じで、私も一匹狼ですしね」

黒髪の娼婦「そう。それならいいわ――――ありがとう、ラティーナ」


『――続いてのニュースです。新興のオリンピア・エンタープライズが、大手軍産企業であるマシマ・コングロマリットに吸収合併されることが――――』


アルビノの女「こちらこそ。また呼びますよ、ロゼッタ」

アルビノの女「貴女の長い黒髪。とても素敵ですよ」

黒髪の娼婦「……いつもマスクを外してたら、貴女はもっと素敵よ」

アルビノの女「生憎と、喘息持ちなものでして」「――――それでは、さようなら」

黒髪の娼婦「ええ。――――元気でね」

サイバーパンクっぽいのが書きたかったんです
頑張って書きました
多分つづきます


個人的に好きな世界観
頑張ってくれ。応援する


いいねー待ってる

なんか不思議やな
乙乙

この頃固有名詞有りのSS増えてる気がする

『――――……パブリック・アドバタイザーが、午後7時をお知らせします』


――――……ガタンゴトン、ガタンゴトン、ガタンゴトン………


女「………………………」


≪……お客様にお願いいたしします。優先席付近での通信端末の使用は、内蔵・外付け問わずご遠慮ください≫
≪またお年寄りやお身体の不自由なお客様、妊娠中・乳幼児をお連れのお客様、甲種以下の義体をご使用のお客様がいらっしゃいましたら、席をお譲り下さい≫
≪お客様のご協力をお願いいたします――間も無く、新三河島。新三河島。車体とホームの間が空いているところがございますので、お足元にご注意ください≫


……プシュー ピンポーン ピンポーン……


女「…………降りないと」


ガヤガヤガヤガヤ……コツ、コツ、コツ……ピッ<残金 307円>


女「…………はぁ」

女「……ただの発破工事なんて、私じゃなくてもできたでしょうに」

女「………………」



女「つまらない仕事の日は、精々遊ぶに限ります」


三河島は、古くは西暦から続く由緒正しきラーメンの名所だった。中華系統の大衆料理店から、このご時世で天然素材に拘る本格的な日本料理店まで。
しかし薄汚いほど小綺麗な駅を一歩出れば、やはりそこは何処に行っても変わり映えのしない新都市東京の街並み。
安いネオンと饐えたアルコールの匂いが混ざった、人混みの吐息に満たされる猥雑な大路である。
汚れた黒いコートの女は、雑踏の中に溶け込んでいった。その俗悪な空気から逃れるために、彼女は物々しいマスクを通して息をするのかもしれない。


女「………………ええっと」

女「…………『龍味 三河島支店』でしたっけ」

女「……道順、どうだったかな」


女「……使ってみますかね。この間インストールした、30日間の試用ナビゲーターソフト」


金に輝く女の瞳孔に、先ずは視界を埋め尽くすような広告が映し出された。女が疎ましい顔を浮かべれば、煩い色彩はすぐに消える。
そのまま、女は独りで何度か舌打ちをした。出来の悪いUIは、例え内蔵品でなくとも頭痛を生みかねないものだ。


女「……GPS認識までズレてるじゃないですか。ちゃんと辿り着けるといいんですけど」

女「……やっぱり、いつもの『天網』がいいですね、これ」

女「……同じところ、三回くらい回る羽目になるとは」

<――中華一 龍味 三河島支店――>

女「……入ってみますか」

イラッシャイマセー

女「餃子四つ。ラーメン一杯。チャーハン一皿と麻婆丼」

フタツデジュウブンデスヨォ?

女「餃子四つ。ラーメン一杯。チャーハン一皿と麻婆丼」

…アイ、マカセテクダサイヨォ

女「…………」

チャーハンコーデルイーガー、ヤナギコーテルニガニガ――――

女「…………あ」

娼婦「……あら」

娼婦「……ふふ、こんばんは。何日ぶりくらいになるかしら?」

女「3日くらいじゃないですかね。……オフですか、休憩ですか?」

娼婦「いいえ。お客を探してるの。こういう所だと、結構声をかけてくれる人もいるから」

娼婦「でもそこらの地下通路で、ホームレスみたいにだらしなぁく股を開いてる女とは一緒にされたくないし」

娼婦「そうなったら、値段だって足元見られるもの。3000円なんて、とてもじゃないけど払ってもらえないわ」

女「そりゃあ大変だ。……それにしたって、中華料理は貴女には似合わないと思いますがね」

娼婦「そうかしら?」  女「胸も足も出てるそのドレス、とてもチャイナドレスには見えませんよ」

娼婦「まあ、いいじゃない。どこで誰がどう見られるかなんて、その人が決められることよ」

女「……まぁやたらに爪の短い娼婦に、何言ったって今更かもしれませんね」

娼婦「失礼ねぇ。お客様の綺麗なお肌に傷をつけたら悪いと思ってるだけなのに」

女「貴女と体を重ねるような奴に、綺麗な奴なんていやしてませんて」

女「爪。伸ばした方が、似合いますよ」

娼婦「まあ。失礼な人。……ふふ」

女「上客に向かって、その口の利き方はないでしょう。……くふっ」

娼婦「……それじゃあ、そうね――――」

隣席の娼婦はそっと身を乗り出した。伸びかけている右指の爪先を、女の白い首筋に立てた。
品のある甘い芳香が、女の鼻腔をくすぐった。少しだけ食欲が失せて、代わりに腹の底が熱くなるのを、彼女は感じた。
女の首筋を、紅い爪先が掻いた。微かな赤色が色鉛筆のように引かれた。女は引き攣るような声を少しだけ零したが、直ぐにそれは厨房で跳ねる油の中に溶けていった。
やがて染み出す瑞々しい紅を、娼婦の指先が潰すように掬う。紅い唇から伸びる紅い舌先で、娼婦は紅い指先を舐めた。

娼婦「……ふふ、おいしい」

女「吸血鬼じゃないんですから。……食前酒にはなりましたか、カーミラさん」

娼婦「そうね。もう少し、欲しいかな」

言葉通りに、娼婦はまた身を乗り出した。そうして指先をまた伸ばした。
また爪を立てて、しかし先ほど作った傷より少しだけ下に、新たな証を刻んだ。後は、語るべくもない。

女「……ふうん。随分、私は気に入られたようで」

娼婦「だって、上客なんでしょう? 予約くらい、させてもらわないと」

女「それは客のやることです」

娼婦「知いらない。それは、私の決めることよ」


ギョウザヨッツ、ラーメンドウゾォ

女「……よく客がつきますよね、貴女」

娼婦「流石に、注文をつけるお客は選んでるわよ?」

女「隠せるものと、隠せないものがあるでしょう」

娼婦「さあ、どうでしょう。……案外、それも魅力なのかも?」

女「は。自分で言いますか、それ」

娼婦「自分の価値だって、自分で決められるものよ」

女「怪しいもんですね」

娼婦「そういうものよ」

娼婦「……随分、たくさん食べるのね?」

女「お腹空いてましたし。それに」

女「これからも、一働きするんですから。きちんと精力、つけておかないと。でしょう?」

娼婦「……そうね、ふふ。毎度有難う御座います、お客様」

黒いマスクを外した女は、企み深い笑みを娼婦へと投げかけた。
カウンターテーブルの割り箸は取り出され、木が裂ける小気味良い音が響く。

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

マイドォアリガトウゴザィシタァ

女「…………中々、美味しかった」

娼婦「でしょう。しかも安い」

女「チェーンで食ったら二倍はしますね。……油が少々安っぽくて、お腹壊しそうですが」

娼婦「あら。義体でも胃もたれするの?」

女「私がいじってるのは下半身と脊髄、両腕までですよ。丁度、達磨みたいな感じです」

女「口から胃腸まで改造すると、味覚もなくなりますし。それに、どんなメシでも腹を下す体になる」

娼婦「それは困るわね。お水遊びも碌にできないんじゃなくて?」

女「確かにそれもありますね。電脳空間でやるセックスは、どっかしら無味乾燥なもんでして」

娼婦「でも、絶世の美女を何人でも侍らせられるんでしょう? こぉんな汚れた娼婦じゃなくても」

女「ありきたりなくらいでも意外と満足できるものですよ。都合のいいツクリモノなんて、むしろずっと面白くない」

娼婦「冷たいのねえ。私、少しは変わった女だと思うのだけれど」

女「誰が貴女がありきたりだと言いましたか。言葉尻を論うのはご勘弁願いたい」

娼婦「ふふ。やっぱり上客ね、貴女」

娼婦「それで。そんな上客様のお仕事って、何なのかしら?」

女「つまらん仕事です」

娼婦「嘘。〝壊し屋〟だなんて、娼婦よりは面白そうなお仕事じゃない」

女「……覚えてたんですか」

娼婦「お客のことに無関心でいちゃ、客商売なんてやってけないわ」

娼婦「それで? 貴女のお仕事」

女「……今日は、北地区のビルの解体でしたよ」

女「定礎に入ってた解体手順に則って、適当にコンクリにドリルぶっ刺して、代わりに爆薬詰めて」

女「今時の建物って凄いんですよ。建築時に想定されてた発破パターンに従えば、1階をちょっと崩してやるだけで全部自壊するんです」

娼婦「……手抜き工事の安普請、と言うべきじゃないかしら?」「解体時のコストを減らす代わりに、耐久性を軽視してるってことでしょう、それ」

女「そうとも言いますね。大学出たての素人建築士でもやれる仕事でしたよ。やり甲斐もクソもあったもんじゃない」

女「……そういう貴女は?」

娼婦「変なことを訊くのね。今から仕事じゃない」

女「そうじゃなくて。……この3日くらいで、何人くらい相手にしたんですか」

娼婦「……貴女がこの3日くらい、どんな仕事をしていたか」「教えてくれたら、考えてもいいけれど?」

女「…………つくづく、食えねえんだから」

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

娼婦「……さ、着いたわよ。今日も、シャワーからかしら?」

女「そうしましょうか。二人で入って、とっとと出てきましょう」


娼婦「…………ん、ふふ、……ちゅ、じゅるっ…………」

女「ふぁ、はぁ、っ、……ん、はぁ…………は、ぁっ」

娼婦「……くす。責められると弱いのね、貴女」

女「……誰だって、そうでしょう」


数日前と同じ時間。数日前と同じ部屋。数日前と同じベッド。数日前と同じ、瑞々しい二つの裸体。組み敷かれているのは、白い女。
娼婦の豊満な肉体が、空気に溶けそうなほど白い女の肉体を覆い隠す。磨り潰すように押し付けられる娼婦の柔肉に、女は殆ど無抵抗だった。


娼婦「そうでもないわよ。……まあ、いいわ」「沢山可愛がってあげるから。覚悟して頂戴、ラティーナ?」

女「……ひ、ぁぅ……精々、私を満足させて……みせ、てぇっ……」

娼婦「ん、はむ……呂律、回ってないわよ」「耳と、ここと、ここ……一緒に責められるの、堪らないでしょう?」

柔らかい娼婦の唇が、女の白い耳を挟んだ。目を見開いてびくんと震えた女は、半ば反射のようにして娼婦から逃れようとした。
だが既に腕を肩へと回した娼婦は、ら無慈悲にも女を抱き寄せてその耳を味わう。
唇の粘膜で耳朶を包み込み、ねっとりと扱きあげる。肌を舌先でちろちろと掠め、荒い吐息と囁きを存分に味合わせてから、不意に粘つく熱い舌先が捩込まれた。
絡みつくような責めを震えるように堪えていた女は、しかし一際大きく震えた。そして熱り立つ剛直を待っていたように、娼婦の魔手が伸ばされた。
垂れ流される先走りをぐりぐりと指先で亀頭に塗り込むだけでも、容易く女は声を上げる。
敏感な裏筋の脇を親指で擦ったかと思えば、掌を丸く包み込んで亀頭全体を撫で回す。腰の抜けるような快感に打ち震えさせておきながら、滑る鈴口を指先で押し潰して残忍な刺激を与える。
「ふふ、もうそろそろかしら」「我慢できない?」「いつでも出していいのよ」――熱い舌先と共に流し込まれる優しげな言葉は、却って女の屈辱さえそそった。
女の身体を抱き寄せる片腕は、そのまま女の脇腹へと伸ばされ、撫で上げて、直ぐに胸へとたどり着く。
ねっとりと溶かすように、娼婦のそれよりは幾分小ぶりな片側を揉みしだかれる。それでいて人差し指と親指は、淡い乳首をくりくりと摘んで無邪気に嬌声を楽しむ。
いつの間にか、剛直で遊ぶ娼婦の片手は、親指と人差し指を丸めた輪を作っていた。「何回通したら、イッちゃうのかしら?」
くすくすと嘲笑うその声さえ、今の女には届く由もない。ただ結局彼女は、その指の輪が数回上下しただけで――――


女「~~~~~っ、………ぁああああ……!!」


――――甲高く切ない雌の声を上げながら、呆気なく精を噴き出した。
絶頂の浜辺に打ち上げられて、ラティーナという深海魚は幾度か跳躍しようとした。それさえも娼婦の、ロゼッタの腕の中での出来事だった。

娼婦「……ふふ、もうイッちゃったのね。可愛い……ん、じゅる」

女「あ、は、ひっ、ふぁぁ………」

実に楽し気な笑みを満面に浮かべて、直様掌で受け止めた女の精を、娼婦は満足気に啜り上げた。
白い喉が蠢いて、女から吐き出された生命の欠片は、娼婦の腹へと落ちていった。
だがこれこそ食前酒であった。少なくとも、このロゼッタという娼婦にとっては。

娼婦「次は、お口で。……ふふ。まだまだ、寝かせないから」


◇ ◆ ◇ ◆ ◇

『――――パブリック・アドバタイザーが、午前六時をお知らせします』
『本日の新都市東京はおおむね晴れ。鉛色の空に太陽が昇る、爽やかな1日となるでしょう』
『その分光化学スモッグや、昨夜までの降雨によって蓄積した重金属汚染粒子の吹き上がりには、十分ご注意ください――』


女「…………はい、お代です」

娼婦「……そろそろ、不安になってくるわよ」

女「あんなに気持ちよくなったのは初めてでした」「正直、ぶっ壊れてないかメンテに行きたい気分です」

娼婦「あら、それは光栄ね。楽しんでもらえたようで、嬉しいわ。ふふ」

女「……ねえ、ロゼッタ」 娼婦「何かしら? ラティーナ」

女「お金を積めば、貴女は誰にでも買われるのでしょう」 娼婦「まあ、間違ってはいないわね」

女「では、ここで」


女「もし、貴女の人生を――買い取るのでしたら、幾らになりますか?」


娼婦「……おあいにく様。娼婦になっても、誰かの奴隷になるつもりはないの」

女「……もしも、の話ですよ」

娼婦「ええ、知ってるわ。でももし、誰かが私を〝買い上げる〟のだったら――――」


娼婦「――――魂の一つでも、売り渡して貰わないと」


女「……流石に、吸血鬼が言うと凄みがありますねえ」

娼婦「冗談よ、冗談。――もう、行くの?」

女「今日の仕事は早いんですよ」 娼婦「ふうん。どんなお仕事?」 女「守秘義務違反になるので言えません」

娼婦「あら、残念」 女「腰、抜けてないといいんですがね」


娼婦「抜いてほしいなら、いつでも抜いてあげるわ。――――いってらっしゃい、ラティーナ」

女「洒落になんないんで止めてください。――――また今度、ロゼッタ」



『――――次のニュースです。昨日の北地区第7ゲート付近の発破解体から行方が分からなくなっていた、ヴェンダー社の開発主任である――――』
『――――――保安警察は事件性の有無を調査すると同時に、未だ発見されていない同氏の頭部を――――――』

意味深そうでその実あんましっかり考えてません
要望とかあったらなるべくお応えします
まだ結構続くと思います

乙乙
今のままでも面白いので続きを楽しみにしとく


早漏のラティーナちゃん可愛い


『――――パブリック・アドバタイザーが、午前3時をお知らせします』
『現在、当地区である旧川崎を含む南地区には、重金属含有の放射性酸性雨が――――』
『――――――の皆様の外出は――――禁止され――――』


新都市東京に、夜は来ない。くすんだ月が高く昇れば、確かに街から人影は失せるかもしれない。
だが人工灯の安い光は、華々しく乱立する摩天楼の足元を、何時までも疎ましく照らし続ける。
そして程なくして、害毒の雨脚は降り注ぐ。街も人も光も、全てが白い水煙に包まれる。


    「…………あ、あ"っ…………お"ぇ"っ、げほっ、げほ……あ"、あ"」

 「ち、畜生!! トモを、放――――」


銃声も、断末魔も、脊髄の折れる音も。ことごとく、酸の雨に包まれる。隠されて、溶けて、消える。


          「……お、おま、え、は、」



白い雨が、赤く染まる。されど流れる紅色でさえ、無慈悲な恵みの雨は薄めてしまう。
畢竟何もかもが流れ着くのは、一月前に取り替えられていながら、今でさえ溶けかけている路地裏の排水溝に過ぎない。

『――――川崎区行政より、お知らせです』『つい先程、――――による、――――殺人の――――――』
『――――――は、外出をお控えください――――――』


女「…………………」コツ、コツ、コツ


黒いコートに、黒いフード。同じように黒いマスクの下で、その女は安堵に似た溜息を吐く。
旧川崎区。降り頻る雨の中、狭い路地裏の奥深く。彼女はそこに立って、時代遅れのネオン管が形取る一枚の看板を眺めていた。


     <<ヴァルカンの日曜日>>


女「………………」ガラリ


女「……おやっさん」


女「……起きてますか、おやっさん」


女「………………」


女「………………〝マスター〟」


作業着の男「おお! ラティーナじゃねえか、気付かなかったぜ悪い悪い」

女「……わざとですよね」

作業着の男「さあ? 分からんな」

女「おやっさんでいいでしょう。あんたにはそれが丁度いい」

作業着の男「聞こえんなー。俺はまだそんな年じゃねえって。マスターと呼べ、マスターと」

女「場末のバーじゃあるまいし。マスターなんて気取った名前、余計似合いませんよ」

作業着の男「一応、酒場でもあるんだがね。お前がその時間に来ないだけで」

女「だってここの酒、まずいじゃないですか」

作業着の男「ほー、どんな味だい」

女「汗と油と埃の雑味」

作業着の男「言ってくれるじゃねえか、ええ?」

女「事実です。……せめて〝おやっさん〟の声紋パターンくらい、ミュートリストから外しておいてくださいね」

作業着の男「考えておこう。それで――――」

作業着の男「――――〝ご用件〟は?」

女「〝いつもの〟」

作業着の男「それだけかい」

女「〝首三つ〟と、〝身元不明〟」

作業着の男「……随分と派手にやったな、おい」


コートの裏に差し入れた手を、女はカウンターの向こうへと突き出した。白い掌に握られていたのは、細長い4本のメモリー・デバイス。
その内の3本は酷い安物であった。剥き出しの基盤にハンダと回路がスパゲティされた、秋葉原の露天商が300円で売り捌いているような粗悪品。
対して残りの1本は、見た限りは不気味な黒い六角柱である。恐らくは内部に非接触型通信ポートを備えているであろうそれには、何処かの社名と思しき企業ロゴの刻印が施されていた。


作業着の男「……じゃあ、少し待ってな」「……この3つが、〝首〟なんだな?」

女「勿論」

作業着の男「了解。残りはそれが終わってからだ。どうせ、払う金もないんだろう?」

女「勿論」


そう言って、男はカウンターの後ろに据えられた扉に入っていった。
手持ち無沙汰に女は椅子に腰掛け、白い雨音に耳を澄ませることにしたようだった。

作業着の男「終わったぜ。確かに全て、依頼主の提示した生体IDと合致した」

作業着の男「ネットへの接続履歴も合致する。死ぬちょっと前まで、18禁の出会い系でサクラやってたらしい」

作業着の男「名前は上からユウヤ・タマイ、アキラ・シンジョウ、トモヤ・マスムラ……合ってるか」

女「ええ。拝借した財布の身分証明書にもそう書いてありました」「明々後日までの宿代にもならなそうですが」

作業着の男「だが、クライアントは相当血が上ってたみたいだぜ」 女「そりゃあ、当たり前でしょう」


女「〝人様〟に、わざわざ〝復讐〟を頼むんです」「金に糸目をつけるわけがありません」


作業着の男「……まあ、そうだな」

作業着の男「兎も角、これにて一件落着だ。報酬は既にお前の口座に振り込まれてる。きっかり日本円で1200万だ」

女「……報酬は現金で、って念押したはずなんですけど」

作業着の男「そういうことを気にする依頼主にも見えなかったからなあ」「ま、金貰えたんだからいいだろう」

女「……これだから、ああいうレトロ世代は……」「振込先間違えてたり、万が一洗浄されてないデータ混じってたら、洒落にならないんですけどね」

作業着の男「お前、そんなに金持ってたか?」

女「仕事用と個人用は、それぞれ別名義なので」

作業着の男「じゃあ、残りの二つだ。どっちからにする」

女「――――〝いつもの〟からで」


言うが早いが、女はコートに背負った〝骨組み〟に手を伸ばした。折り畳まれたそれを女は〝展開〟し、その柄を片腕で男に突き出す。
瞬く間に掌の中で組み上がり、掌より遥かに大きく広がったのは、白い大鎌であった。
女の背丈ほどもある長い柄と、何人かの首を纏めて斬り落とせるほどの長い刃を持つ、凡そ人殺しの道具である。
その先端には斧槍の機構と、斬撃に際して鎌自体を加速させると思しきジェットノズルが付随していた。


作業着の男「毎度。そういや、イチモツの調子はどうだい」

女「悪くないですね。ただもう少し、射精量と勃起時のサイズを拡大してもらいたいです」

女「あと、もう少しくらい耐えられるように。或いは、一回や二回出しても問題ないくらいの絶倫にしてください」

作業着の男「……随分と欲張りを言うな。あれでも結構、でかめに寸法取ったんだぜ」
作業着の男「俺より普通にでかいもんだから、ちょっとムカついたくらいなのに」

女「貴方の貧相な包茎の話に、興味はありません」

作業着の男「かーっ冷たいねぇ。……何だ? もしかして早速、女作ったのか?」

女「そう言うと、やや大袈裟です」

作業着の男「セフレってとこか。……ま、せいぜい満足させてやりなよ」「そのくらいなら、リミカソフトのインストールでどうにでもなる。後で渡そう」

女「どうも。……丁度いい暇つぶし、ありませんかね」

作業着の男「ネットで男でも引っ掛けてこいよ。この時間だと、バーチャルでもヤリたい奴は結構いるぜ」

女「仮想空間は嫌いです。酔うんで」

作業着の男「そりゃあお気の毒に。……じゃ、暫く待っててくれや」

作業着の男「ああ、そうだな」「――――奥の部屋に、綺麗な姉ちゃんがいるぜ」

女「へえ。貴方の恋人さんですか?」

作業着の男「まさか。娼婦とは言ってたが、客捕まえる前に酔い潰れて寝ちまったよ」
作業着の男「カウンターで寝っぱなしじゃ風邪も引くだろうから、仕方なく部屋に入れた」

女「それじゃあ、暇潰しにはなりませんね」


作業着の男「そう言うなって。顔だけ見てくのも悪かねえだろう」「胸もでかいし、顔も整ってる。泣き黒子も可愛いもんだ」
作業着の男「こんな御時世なのに、ほとんど義体にもしちゃいない。整形手術さえ受けちゃいない。まさしく天然物さ。娼婦にしとくにゃ勿体無いね」


女「……ふうん。じゃあ、顔だけでも」

作業着の男「おう、見てけ見てけ。もしかしたら、起きてくれるかもしれないぜ」

女「……毒林檎の一個で、死ぬような人にも思えませんがね」

作業着の男「どうしてまたそう思う」

女「なんとなく、ですよ。……それじゃ、お邪魔します」

作業着の男「おうとも。俺自慢の畳と卓袱台の和室、古き良き昭和の一部屋だ。寛いできな」ガチャ

女「さて、………………」ガチャ


黒髪の娼婦「…………すぅ、…………」


女「………………………」


黒髪の娼婦「………すぅ、…………………」

女「…………………………………………」

女「…………………………………随分、素直な寝顔ですねえ」


黒髪の娼婦「……………………すぅ、……………………………」


女「………………………………………ご丁寧に、蒲団まで敷かれてる」

黒髪の娼婦「…………………………………すぅ、……………………………………」

女「…………………………………………不思議な縁(えにし)も、あったもんです」

女「…………どれ」

女「……散々、耳いじめされた、仕返しでも」

女は黒いコートを脱いだ。その下に着た、草臥れたレディーススーツも脱ぎ捨てた。程なくして、彼女は下着だけになった。
ガタのきた雑居ビルの空調設備など高が知れている。冷えた外気へと存分に白い肌を晒して、女は徐に屈み込んだ。
煎餅布団を首まで被った娼婦の寝顔は、静かに寝息を立ててあどけなかった。平生の艶然とした色合いなど、どこになかった。

女「……………………ふーー……………」

娼婦「……んぅ、ふぅ…………」

女「……ふー、ふー」

娼婦「……んー…………?」

女「…………ふ」

娼婦「んー……………すー、……すー…………」

女「…………………」

女は元より仏頂面であった。今の女の表情には、殊更その意思が強かった。
ごそりと衣擦れ。屈み込んでいた女は、遠慮なく娼婦の眠る布団に潜り込む。

娼婦「…………ん、んぅ………?」

女「――起きて、ロゼッタ」

娼婦「――――――ふぁ、ひゃああっ!!」

細い唇で、女は娼婦の耳朶を挟み込んだ。直後にそう囁いて、耳の裏側をひと舐めした。女の目論見通り、娼婦は痙攣したように身体を跳ねさせた。
この程度の前戯、平生の娼婦であれば微笑みの元に受け止められたであろう。
然し彼女は微睡みの中にある女だった。であれば夢という媚薬に犯されない人間など、この世のどこにいるというのか。

女「ん、ちゅっ、れろ、っ……朝ですよ。まだ夜だけど、朝ですよ」

娼婦「な、ふぁあっ、ラティー、ナっ……? はあっ、ちょっ、胸ま、でっ……!」

愉悦に満ちた微笑みをそのまま囁きとして残しながら、女は思い切り舌先を伸ばして、娼婦の耳穴を好き放題に穿り回す。
背後から伸ばした両腕で、娼婦の身体を思い切り抱き竦める。女がそれで飽き足りる筈もない。
娼婦の仕事着であるドレスの上から、九月の西瓜のように熟れた両胸を鷲掴みにして、揉みしだく。
細く白い指先が、黒いドレスの布地に食い込んで、端正なその形を捏ねくり回して好き放題に歪める――――

女「そうですよ、ラティーナです。ほら朝ですよ、起きて、起きて、起きて……ん、ふふふ」

娼婦「は、ひぅ、はぅ……っ、ん、あ、い、ぅぅ……!!」

女「お耳とお胸だけで、そんなに感じちゃうんですか。可愛いですね、ロゼッタ……ん、れろぉ」

娼婦「やっ、だめっ、っっ、ひぅ、はぁ……んっ、あ、っっ、ぅぅぅ……!!」

女「もっともーっと、いじめてあげますから」「とっても可愛い寝顔みたいに、素直にさせてあげますから……ふふ、ちゅっ、ふふふ」

娼婦「そんな、のっ……っ、て、ぇ……ぅ、ひゃ、はぅぅ………っ」

女「お胸以外も試してみましょうか。ふふふ」「先ずは、お胸から下って、お腹……ん、じゅるるっ、ちゅうっ……」

娼婦「やっ、んぅ、はぁぅ……くす、ぐったい、からぁ…………」

女「本当にそれだけですか? くす……お腹から、お股、太腿……」「んふ。……びくんってしましたね」

娼婦「は、ひぅ……だめっ、言わないで……」

女「そんなこと言われたら、もっと言いたくなります。れろ、れろ……」「ロゼッタの柔らかーい太腿、とっても敏感なんですね」

娼婦「………っ、うぅぅ………………」コクン

女「ふふ。それじゃあ後で、沢山キスして、沢山舐めて、沢山犯してあげますから」「じゃあ、まずは」

女「――――――――もっと脚、開いてください」


◇ ◆ ◇ ◆ ◇

ちょっと今日眠くなってきたので一旦ここまでで
明日続き書きます

背景世界の懐かしさに戦慄……

ニューロマンサーからすでに30年以上経つんだなぁ。

女「…………それで」

女「なんで貴女がここにいるんでしょうか」

娼婦「……どこにいようと、私の勝手でしょう?」

女「別に、責めてはいません」

娼婦「……この間の、忘れ物よ」

女「……ここの名刺、ですか」

娼婦「脱衣所に落ちてたわ。コートからこぼれたんでしょう、きっと」

女「……それで、わざわざここに」

娼婦「たまには新天地を開拓しないと。結局、酔って寝ちゃったけれどね。……年甲斐もないわね」

女「貴女が何歳なのか知らないので、何とも言えません」

娼婦「そう」

女「……もしかして、怒ってます?」

娼婦「別に」

女「怒ってますよね」

娼婦「別に、って言ってるでしょ」

女「……」

娼婦「…………」

女「身勝手ですねえ。おとついは散々私をいじめたくせに」

娼婦「……別に、可愛がられるのは嫌いじゃないけれど」「手順ってものが、あるわ」

女「どんな」

娼婦「夜、私が街角で微笑んでる。貴女は私に声をかける。私と貴女は宿に泊まる。次の朝、貴女は私にお代を払う」

女「……上客なら、少しくらい飛ばしてもいいでしょう。少しくらい」

娼婦「だめよ。私と貴女が売春婦とお客であるためには」「そういう、健全な関係を保つためには」「最低限の手続きが必要なの」

女「……そういうもんですかね」

娼婦「そういうものよ」

女「でも、とっても楽しそうでしたよ。今日の貴女」

娼婦「楽しけりゃいいってもんじゃないの」

女「もっと楽しいこと、したくありませんか?」

娼婦「何かしら」

女「そう、ですね。例えば――――――」



女「――――――私だけの女になる、とか」



娼婦「……また、その話? お断りした筈だけど」

女「ええ覚えてますとも。だから、準備ができたんですよ」

娼婦「……何の」

女「私の、魂」「――――貴女へ、売り渡してあげます」

娼婦「…………」

女「……いかがですか?」




娼婦「嫌よ」




女「どうして」

娼婦「当たり前でしょう?」

女「嘘をついたんですか」

娼婦「いいえ」

女「じゃあ、どうして」

娼婦「だって、貴女の魂のこと」「――――私は、全然知らないわ」

女「…………」

娼婦「貴女が私のことを知らないのは、まだ許すわ」
娼婦「貴女は私を買うんですもの。モノの価値なんて、買ってみなけりゃ分からない」


女「…………」


娼婦「でも、私は貴女に買われるの。私だって、立派な人間よ」「買われるかそうでないか、私にだって決める権利はあるわ」

娼婦「どこの誰とも知らない相手に、身体を売るのはまだいいけれど」「――――私の人生を売る気になんて、なれるわけがないでしょう」


女「……じゃあ、私にどうしろと」

娼婦「そんなの、とっくに分かってるでしょう」

女「……はー……本っ当に、タチの悪いひとですね。貴女って」

娼婦「強かになれないなら、娼婦として生きていく資格はないわ」

女「分かりましたよ。話せばいいんでしょう、私の身の上話」

娼婦「勿論、それだけじゃ不足だけれどね」

女「貪欲ですねえ。……どこから話しましょうか」

娼婦「そうね。……先ずは、貴女の産まれから?」

女「それに関しては、あまり話したくはありません」

娼婦「私のお願いなのに?」

女「無論です」

娼婦「仕方ないわね。……それじゃあ、貴女のお仕事」

女「この間話したじゃあないですか」

娼婦「あれだけで満足するわけないじゃない」

女「…………仕方ないですね。他言無用ですよ」

女「これで貴女が危険な目に遭っても、私は知りませんからね」

娼婦「そんな危険なお仕事なの?」

女「他人に話したくないというのは、そういうことです」

娼婦「益々聞きたくなってきたわ」

女「……貪欲ですねえ」

娼婦「勿論よ」


女「……私の仕事は、〝壊し屋〟です」「クライアントの依頼に則って、何でも〝壊す〟お仕事です」

女「表向きは、老朽化した建物の発破解体とか」「下請けで、スクラップ系の産業廃棄物の処理とか」
女「……最近やった面白い奴だと、天然クロマグロの解体ショーにも出ましたね」

女「でも、私の本当の仕事は」「そんな陽の当たる場所にはありません」



女「依頼されれば、何でも〝壊す〟んですよ」「例えそれが、人間でも」

娼婦「――――……………」

女「……あんまり、驚かないんですね」

娼婦「……何となく、予想はついていたから」

女「……続けましょうか」


女「人口爆発が文字通りに炸裂して、超光速航行が実用化されて」
女「火星や月はおろか、太陽系の遥か外部にまでテラフォーミングされた植民星が作られてる現在でも」
女「未だ人類は押し競饅頭で、地球から落っこちそうになってます」

娼婦「貧乏子沢山、ね」

女「ご名答。新たなる開拓地と新たなる人材、そして新たなる顧客を得た企業体は際限なく肥え太り続け」
女「いつしか国家権力を遥かに踰越した彼らは、己れの利潤追求の為だけに地球環境を無視した産業化を続けた」
女「アンドロイドやレプリカント、クローンヒューマンの開発も進んだ。けれど、彼らは中々放っておいても勝手に増えてくれない」
女「代わりに産業発展の結果として莫大な数となった人間の被雇用者に、企業は一定の権利を認めた」
女「ぁけどそれは嘗てあったように、人としての品性を鑑みたような優しいものじゃない」
女「〝労働者を限界を超えて酷使したら、次の世代の労働力と顧客が絶滅する〟――計算高いもんです」

娼婦「……それと、貴女のお仕事と」「一体、どんな関係が?」

女「彼らにとって、確かに人口の減少は由々しき事態です」「ですが同時に、旧来の法は形骸化を見せています」

女「むしろ企業体からすれば、邪魔な人間・切り捨てたい人間の方が多いんです」

女「――――――――人殺しが咎められるご時世じゃあないんですよ」「貴女も、よく知っているでしょう」

娼婦「……ええ。殺されかけたことだって、何回かはあるし」「目の前で人が殺されたことは、それ以上にあるわ」

女「復讐、報復、見せしめ、人材の排除……動機は、様々です」「勿論形骸化しているとはいえ、大っぴらにやれることじゃありません」

女「普通の人間でさえ、義体というサイバネティック技術と」「恒常的・普遍的なネットワーク接続が一般化しているのだから」
女「どこで誰が何をしているのかなんて、調べればすぐに足がついてしまいます」

女「だから、私のような輩が必要なんですよ。誰にも知られない所で、誰かを〝壊せる〟人間が」


娼婦「……今夜も、仕事をしてきたんでしょう?」

女「よく分かりましたね」

娼婦「少しだけ、血の臭いがしたから」

女「3人ほど首を刎ねてきました。このへんのスラム街にたまってる、中卒のゴロツキどもでした」
女「どこかの地主の令嬢を襲って、一月くらいレイプしてリンチして、うっかり殺しちゃったみたいですね」
女「コンクリ詰めにして隠したはいいけれど、当然バレたみたいで。怒り狂った地主本人が依頼してきましたよ」
女「良くてどうせ懲役刑だろうからって、わざわざ警察にも手を回して敢えて捜査させなかったそうです」


女「貴女も、気をつけてくださいね。どこでどんな恨みを買うかなんて、中々知れたもんじゃない」

娼婦「――――貴女も、やっぱり」「誰かにお金を積まれたら、私を[ピーーー]の?」



女「まさか。貴女と同じですよ」「私のような汚れた職にも、仕事を選ぶ権利はあります」

娼婦「ふふ。随分と、いいご身分なのね。……安心したわ」

女「金回りだけはいい仕事ですから。でも、本当に気をつけてくださいね。こんな仕事でも、やってる人間は相当いるんですから」

娼婦「あら怖い。もし命を狙われたら、誰に助けを求めれば?」

女「無論、私ですよ」

娼婦「どんな風に?」

女「〝人の恋路を邪魔する奴は、鎌に裂かれて死んじまえ〟……とでも」

娼婦「いつからキューピッドは死神になったのかしら。ふふ」

女「時代の流れに順応したんですよ。恋愛も人殺しも、今の時代どっちかじゃ食ってけないわけです」

娼婦「…………ねえ」

女「何でしょう」

娼婦「……後悔、したことはないの?」

女「……後悔、ですか」

女「いつもしてる、とも言えますし――やり甲斐を感じてる、とも言えます」

娼婦「……どういう意味かしら」

女「私の産まれに、関わる話ですよ」

娼婦「……そっか。分かったわ」「ありがとう、ラティーナ」

女「ご静聴ありがとうございました。ロゼッタ」

女「さあ。私はもうこれだけ話したんです」「――――そろそろ、貴女の話をしてくれても、いいんじゃないですか」

娼婦「…………そうねえ」

娼婦「――――――〝4本目の傷〟がついたら、にしようかしら」

女「……卑怯ですよ」

娼婦「初めから平等な取引じゃないことくらい、貴女も分かってたでしょう?」

女「……ずるいですよ」

娼婦「結構結構。でも、そうね……最後にもう一つ、聞きたいことがあるの」

女「今更です。ご自由にどうぞ」

娼婦「ありがとう。それじゃあ、ね――――」


娼婦「――――――――貴女の家、教えて下さる?」

女「…………それ。〝死んでもいいわ〟ってことですか」

娼婦「急かないで。お友達になってあげるわ、ってことよ」

女「……お友達じゃなかったんですか、逆に今まで」

娼婦「お客だったわ」

女「……ドライですねぇ。下はいっつもウェットなくせに」

娼婦「3回くらい抱いた程度で、知ったような口を利かないでくれる?」
娼婦「宿代を浮かせたいのよ。結構馬鹿にならない額だしね」「後は、そうね――――――」


娼婦「――――――――一人の夜は、やっぱり寂しいから」


女「……でも、普通に他所で一晩過ごしたり」「帰ってくる時でも、他の男に抱かれてきたりするんでしょう」

娼婦「当たり前でしょう」

女「……ま、いいですけどね」

女「じゃあ、貴女の連絡先教えてください。適当に送るんで」

娼婦「少し待って。……ええっと、この辺にスマホが……」

女「……いつの時代の産物使ってるんですか」

娼婦「娼婦は身体が商品なのよ。電脳化なんてしたら、お客から変な目で見られちゃうわ」

女「…………怖いんでしょ、手術」

娼婦「……はい、電話番号とメールアドレス」

女「ほらやっぱり怖いんだ。可愛いですね」

娼婦「………………」

女「分かりましたよ怒んないでくださいよ、ほら今から送信テストしますから――」

~♪

娼婦「問題なさそうね。こっちからも送ってみるわ」

女「はーい。………う、うぉ、っ」クラァ

娼婦「……大丈夫?」

女「……SMSから送られるの、久しぶりだったもんで」

娼婦「なあんだ」

女「……もう、6時ですか」

娼婦「夜って、早いわよね」

女「長い夜もありますよ。そういう日に限って、嫌な夜です」


女「……そろそろ、おやっさんの仕事も終わったかな。私はもう行きますけど、貴女は」

娼婦「一日くらい、ここで過ごそうかしら。……ちょっと、二日酔いしちゃったかも」

女「らしくないですねえ。お大事に」

娼婦「貴女も、気をつけて。――元気でね、ラティーナ」

女「ええ。また今夜、会いましょう。――ご自愛を、ロゼッタ」

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

作業着の男「……随分とお楽しみだったじゃねえか」

女「聞いてたんですか。はしたない人ですね」

作業着の男「隣の部屋に嫌でも聞こえさせるほど大声でやってんじゃねえよ、全く」

女「防音工事でもしたらどうですか」

作業着の男「人様の布団も好き放題汚したんだろ、その分だと。クリーニング代出せ、クリーニング代」

女「契約内容に含まれていないので、お断りします」

作業着の男「てめえなんざインポになっちまえ。……おらよ、リミカの方のパスはいつも通りだ」

女「丁寧なお仕事、いつもありがとうございます」

幾分か白さを増した大鎌を、女は手に取った。満足気に片手で何度か振り回して、鼻歌交じりに畳んで背負う。
既に女は着慣れた服装に戻っていた。黒いコートに黒いフード、黒いフードに黒いマスク。微かに見える彼女の肌とその両眼だけが、彼女に許された色彩だった。

女「で、どうでした。〝身元不明〟の方は」

作業着の男「……お前、あれをどこで手に入れたんだ」

女「答える必要はありません」

作業着の男「……まあ、構わんが。妙なことに首突っ込んだら、そこにギロチンが仕掛けてあっちゃ笑えねえぞ」

女「重々承知しております」

作業着の男「兎も角俺の手に負える仕事じゃねえよ。俺は昔から技術屋畑の人間でね」
作業着の男「ハッカーやデバウアーに頼まねえと、あいつは読み解けそうにないぜ」
作業着の男「徹底的にエンコードされてやがる。恐らくは持ち主のシステムじゃないと復号化はできん」

女「分かりました。……あまり、〝彼女〟に頼りたくはないのですが」

作業着の男「――――お前の〝元カノ〟か」

女「気まずくなるほど子供じゃありませんが、それでも気は進みませんよ」

作業着の男「頼るしかねえんだから仕方ねえわな。上手くやれよ、復縁も狙えるかもしれんぞ」

女「ご冗談を。――――今日もありがとうございました、おやっさん」

作業着の男「マスターと呼べ、マスターと」

遅くなりましたが何とか書きました
まだまだ結構続きます

>>43
そっちにも結構影響されてますが、一番はやっぱりブレードランナーですね。
サイバーパンクと現実がここまで卑近になるなんて、昔は思ってもみませんでした
せめて発想だけでもエポックメイキングでありたいけれど、それさえも中々ままなりません

おつおつ


ブレードランナー本当にいつになっても見劣りしないから大好きだわ

『――――パブリック・アドバタイザーが、正午をお知らせします』
『本日の新都市東京は快晴です。ただし午後からは全域で雨となり、特に北東部では――――』


掠れた青で塗られたような空から、灰色の陽光が降り注ぐ。乾いた空気が人混みに湿る、四ツ谷の大通り。
黒い外套に黒いガスマスク、黒いフードを被ったその女は、やおら路傍で立ち止まる。錆びたトタンの庇の下である。
如何にも出稼ぎに来て稼げていない、という見窄らしい露天商が、彼女の片足を引くように話しかけた。

露天商「買多啲啦」

大陸系の顔をしたその東洋人は、ワンタンで出来たような唇で何かを言った。ふう、と彼女は溜息を吐いた。

女「――――〝マーク4号L型〟ひとつ」

ワンタンの唇が急に萎びて引き締まった。何も言わずに、露天商は立ち上がった。
自身の身体で隠していた背後の扉を、恭しく引いた。やたらに冷えている、空調の効いた空気が吹き出す。
「謝謝」マスクの下から微笑みを投げて、その女は扉の中に入っていった。彼女を見送って、露天商はまた扉を己の背で封じた。

ドアを開けた先には、地下へと伸びる打放しの階段があった。入り口からは底知れないように見える闇だったが、降りてしまえばたかだか十数段であった。
次に女の眼前に現れたのは鋼鉄製の片開き扉である。核シェルターもかくやという冷たさを放つそのドアノブに、彼女はゆっくりと手をかけて、開いた。

女「……ダフネ。仕事ですよ」

扉の先に照明はなかった。ただ、無数に備え付けられた液晶モニターが、水晶体に悪いバックライトを輝かせていた。
光源を遮る人型の影が座っていた。やや躊躇いがちに、女は声をかけた。ぶうんという冷蔵庫の音とがさついたタイプ音だけが、暫くの間響いていた。が。

少女「…………やあ、ラティーナ。久しぶりだね――僕の、〝彼女〟」

女「未練がましい女は、嫌いです」

振り向きがちに、声の主はふン、と鼻息を荒くした。被っていた視界拡張用ゴーグルと、今や希少品となった可動品のヘッドフォンを、気だるげに外した。
わざとらしく頬を膨らませるその顔は、二十歳にも至らない少女のものだった。椅子に座っていても分かる幼い体格に、不釣り合いなほど気の強そうな青の瞳。
足元のケーブルをローラー椅子の足で踏みながら、彼女は不機嫌そうにくるくると回った。腰まで伸びた長い金髪が、モニターの光に煌めいた。

少女「何と言われようとも変わらないよ。僕は今でも、君のことが好きなんだ」
少女「まあいい。君がそういうのなら、今日はそういう話なんだろう」



少女「――――どんな仕事だい?」

女「貴女の物分りがいいところだけは、今でも好きですよ。――まずは、これです」

少女「どーれどれ……ほお、こいつは。ヴェンダー社謹製のメモリデバイスじゃないか!」
少女「しかも上級役員専用の社員用支給品、とびっきりのレアモノだ……ねえ、幾らで売ってくれる?」

女「用があるのは、こいつの中にあるデータと認証アカウントです」「それさえ割ってくれましたら、代金としてそのままお譲りしますよ」

少女「やったぁ!! さっすがラティーナ、最ッ高に君は気立てのいい女だよ!!!」

女「お褒めに預かり光栄です。……さあ、さっさとお願いします」

少女「もっちろん!! 世紀が産んだこの天才ハッカー、ダフネ・ファルクナー様の手にかかればちょちょいのちょいさ」
少女「こいつの接続ポートは少々特殊でねえ、ぱっとグランス・スキャニングした限り物理セキュリティだけでも相当厳重みたいだし」
少女「でもまあ30分もかからないよ! テリヤキ・ピザのLサイズを持て余してたんだ、冷蔵庫のルートビアと一緒に食べて待っていたまえよ」

女「結構です」少女「そう言わずに!!」女「……では、いただきます」

『ーーーーーーーーーーが、午後2時をーーーーーーーーーーーー』

女「……Lサイズって、結構大きいんですね。ごちそうさまでした」

女「それで?」

少女「……………うーん………………」

女「どうしたんですか、天才デバウアーさん」

少女「一緒にしないでくれたまえ! 僕はハッカー(賢い奴)であっても、デバウアー(貪り食う奴)ではないのだから」

女「どっちも同じ金庫破りでしょうに。……それで?」

少女「……予想以上に時間がかかりそうだ。僕が、辞書攻撃に頼るとは……」
少女「でも、必ずケリはつける。もう物理セキュリティは全部無効化して、第7論理防壁にとりかかってるんだ」

女「本当に終わるんでしょうね」

少女「僕が君に嘘をついたことがあるかい?」

女「星の数ほど」

少女「…………じゃあ、進展があったらまた後日連絡するから」
少女「あ、でも、今日はもう暫く寛いでいってもいいよ!」

女「こんな埃臭くて黴臭い部屋でどう寛げと? 清潔でないのも私が貴女をフッた理由です 」

少女「……くぅ、手厳しいなぁ」

女「――――ただ」



女「今日貴女に頼むお仕事は、まだありますよ」


少女「本当!?」

女「私が貴女に嘘をついたことが?」

少女「覚えてる限り、何回か」

女「少なくとも、今の言葉は本当です。何、人探しの依頼ですよ」

少女「へえ。君が人探しってことは、ターゲットの身元でも調べるのかい?」

女「いいえ。個人的な理由です」

少女「ふうん。というと?」

女「――――――ある人物に関する情報を、探って欲しいんですよ」

少女「誰、それ」


女「ロゼッタという、この街の娼婦です」


少女「……もしかして、好きなの?」

女「さあ」

少女「……ねえ、それサクラか美人局か何かじゃない? まさかとは思うけど、騙されてない?」

女「……怒りますよ」

少女「君の身を案じているだけさ。君に限って他人に出し抜かれるなんてことはないだろうけどさ」

女「そこまで分かってるなら結構。さ、とっとと調べてください」

少女「全くもう。……ま、いいけれどさ」「大切な人の人生を、僕が弄れる権利はないから」

女「聡明で嬉しいですよ、貴女は」

少女「君のお陰さ」

少女「で? 苗字は?」

女「分かりません」

少女「はぁ? ロゼッタなんて名前、確かにそれなりに珍しいけどさ」
少女「……じゃあ、住所は?」

女「今のところ、私の借りてる宿です」

少女「それ以前は?」

女「分かりません」

少女「……君、それでも本当に恋する乙女い?」

女「貴女がストーカー気質すぎるだけですよ」

少女「だって普通に考えておかしいじゃないか。君、彼女のことを何も知らない」
少女「どうしてロクに知りもしない人のことを、そんなに好きになれるんだい?」

女「……彼女からも、同じことを言われましたよ」「何ででしょうかね。分かりません」

少女「君にしては珍しく愚かだなあ。……まあ、悲恋に終わった時は僕のところにおいで? 忘れさせてあげるよ、〝文字通り〟」

女「勘弁してください」

少女「で、報酬は?」

女「とりあえず、現金の後払い」

少女「了解。サルベージならお手の物さ、この場で済ませてみせるよ」

女「助かります。どうやって探るつもりですか?」

少女「とりあえず、『ベイカーストリート・ボーイズ』でも差した検索エンジンで調べてみようかな」
少女「画像検索と名称検索、ついでに声紋検索を併せて絞り込めば判るだろうし」カタカタ

少女「ちょっと送ってくんない? そんだけセックスしてるなら、視覚データと聴覚データくらいキャッシュされてるでしょ」

女「……はい、どうぞ」

少女「さんきゅー。……成る程、君が一目惚れするのも無理はないね」

少女「……ええっと何々、検索結果17件……」

少女「……どれも目ぼしいのはないなー。画像検索と名前に引っかかったのは幾つかあるけど、別人だ」

少女「……ん、これは……?」



少女「…………産業省の、データベース?」

女「そんなもの漁って、何になるんですか?」少女「おやおや。そんなセリフは、トーキョーの住人だから言えることだよ」

少女「往時の拘束力こそ大きく衰退したとは言え、今なお国家権力は健在」
少女「特に企業にとって産業的価値が薄い田舎なんかは、今でもきちんと国が治めてる」

女「……京都のあたりが、実質的な〝日本国〟の首都になってるんでしたっけ?」

少女「そ。福岡や大阪、札幌なんかの大都市圏になると、企業と国家の勢力はほとんど拮抗してるよ」

少女「それに東京だって、政府の息がかかった埼玉や海老名、甲府なんかに囲まれてるわけで」
少女「特に甲府なんて天然の要害だ。小競り合いだってちょくちょく起きてる」

女「また少し賢くなりましたよ。じゃあとっととそのデータ、引っ張り上げて下さい」「どうせ骨折り損でしょうけどね」

少女「お安い御用。……と、言いたいけれど……」「……ま、当然管理者データだよね」

女「ページハック、ですか?」

少女「足が付きそうで怖いねえ。一応国の組織だし、そこまでヌルいセキュリティとも思えない」
少女「それよりも、適当な産業省職員のアカウントでも踏み台にした方が良さそう」

少女「た・し・か、丁度いいパーソナルデータをこの間拾ってたはず――――あったあった。タカフミ・オオヤブ、47歳」

少女「典型的なボンボンのお坊ちゃんだね。幼稚園から私立のいいとこに入ってて、そのままエスカレーター進学」
少女「ポストこそそれなりの地位だけれど、彼の功績はほとんどコネとゴマスリの産物みたい。ハゲだし、タイプじゃないな」

少女「無能な文系、って奴か。22歳の時に義体化手術を受けてるようだけれど」
少女「しょうもないオプションサービスのせいで旧型の義体なのに相当ボラれてる。清々しいくらいに機械オンチさ」

少女「――――――上等、上等。彼なら、いい藁人形になってくれそうだな」

女「どうするつもりです?」

少女「耳小骨コールで直接お電話。もちろん非通知で、中国の日本大使館風捨て番号から」
少女「トンツーで音声化したブレインハック・プログラムをそのまま聴かせて、海馬に蓄積させて実行ファイルっぽくアセンして」
少女「一般的なサイバネメモリシステムは、記憶の再生を解釈実行として扱ってる奴が大半だし」
少女「そうなれば後は簡単さ。しばらく僕のお人形になってもらうよ」
少女「現実で知覚系にセキュリティ張ってる奴なんてそうそういない。ほぼ確実に効くのに、マイナーなんだよねぇこの手口」
少女「まあアクセスログを簡単に消せるし、普通の通信ルートじゃなくて電話回線使うし。どうやってクラックされたのか自体、分かりにくいってのもあるけどね」


女「……好きな話になると饒舌なんだから。しかし、手の込んだ真似をしますねえ」

少女「特定されても、まあ新しい戸籍を買えば済む話ではあるけれど」「色々と面倒だし、ヘマしすぎても笑われるからね」

女「そういうもんですか」

少女「そういうものさ。――――さて。テレフォンショッキングのお時間ですよ、っと」

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

小太りの禿男「…………なんだ、こんな時間に。全く、何処のどいつだ」

小太りの禿男「……中国大使館からか。ふん、件のレポートで私の助力が欲しいのだろうな」

小太りの禿男「どれ。どうせ暇なんだ、少しくらい手伝ってやるkkkkkkkkk――――――――――」

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

少女「はい一丁上がり。……へえ、家で一人で酒盛りしながらマス掻きか」「見た目ブスに性格ブスだと、救いようがないねえ」

女「……そういう貴女は、本当に性格が悪い」「人様から離縁される理由を考え直すべきですよ、全く」

少女「ふーん。今でこそそんな口利いてるけど、昔は僕の手マンで善がりまくってたよね、君」
少女「高速タイピング用のアクチュエーターをあんな風に使わせるとは、あの時はまったく呆れたよ」

女「……ったく。そういうところですよ」

少女「何か言ったかい? まあいいや。これでこのおっさんは〝僕のものだ〟」


少女「さてさて、改めて産業省のデータベースにアクセスして――よし。ボンボンだけあって、セキュリティ・クリアランスだけは一流だね」

少女「……データベースには入れた。後は彼女のデータを調べるだけ……ん、あれ……?」

女「どうしました」


少女「……セキュリティ・クリアランスが足りない」

女「どうして?」

少女「知らないよ。それだけの機密情報なんだろうね、多分」

少女「このクラスだと、電脳クラックそのものを受け付けにくい連中も多いだろうし……とりあえず」

少女「おっさんのユーザーアカウントを復号化して……セキュリティ関連のフラグを書き換えて、と」

少女「一応、仮想ページでテストしてみよう。……よし、行けそうだ」

少女「……網膜認証? 仕方ないな、僕のデータを使うか……ちょっと『フェイク・フェイサー』取って」

女「はい。……いつ見ても不気味ですよねえ、これ」

デスクの片隅にあった剥き出しの義眼二つを、女は少女に手渡した。
既に生活用義眼を取り外し、闇の中に金色の電子基板を覗かせる眼窩へと、少女は新たな義眼を嵌め込む。

少女「……出来の悪い認識システムで助かった。5回目がペナルティだけど、3回目で済んだよ」

少女「さあて。いざ、パンドラの箱とご対面か――――――――」

少女「…………ビンゴ」

女「ロゼッタ、……」

少女「君の想い人は、どうやら相当ヤバい仕事に手を染めてたみたいだね。どれ早速ダウンロードを……くそ、コピーガードか」
少女「ソースコードを書き換えるには、少し時間がかかりそうだ。それまで彼女の素性を、じっくりねっとり見てやろうじゃないか」

女「……そうしますか」

少女「本名はロゼッタ・ラヴクラフト。28歳、身長177cm、体重は」女「結構です」
少女「……十数年前まで、経済産業省の産業技術開発局・生命科学研究所に所属してたらしい。結構、若いね」
少女「相当高い地位にいたみたいだね。バリバリのキャリア組だけど、実績も多い……クローンヒューマンやレプリカント、遺伝子操作なんかが主みたいだ」
少女「……ん?」

女「……妙ですね」

少女「ああ。…………3年前に、実験中の事故で死亡している」

女「……どういうこと、でしょうか」

少女「僕に分かりっこない。限りなく顔と名前の似た別人か、はたまた一卵性双生児か、ともすりゃクローン人間か」

少女「まあでも、一番線が強いのは――――」


女「偽装死、ですか」


少女「……そうだね。何を恐れたのかは知らないけれど、彼女には〝死んだふり〟をしなくちゃいけないだけの理由があるんだろう」

少女「しかし、それにしちゃあ整形手術もしちゃいない」「偽名さえ名乗ってない……どういうことなんだろう?」

女「彼女、そういうのは嫌いなんだそうで」

少女「個人的な拘りなわけがないだろう。……まあ、考えても仕方ないか」

女「……しかし、見てみると出鱈目な経歴ですね」

少女「ああ。相当有能な人だったんだろうね」

女「そうじゃない。本当に、〝出鱈目〟なんです」

少女「…………?」

女「何のために作られたデータベースなのかは知りませんが、相当な嘘が混じってます」

女「出自もそうですが、研究実績関連になると特に顕著です」「彼女の功績と書いてあるほとんどの論文、実際に発表されたものは別名義です」

少女「…………なぜ、そんなことが分かるんだい?」

女「つまらない聞き齧りですよ」

少女「……君の恋人は、本当に何者なんだろうね」

女「……何となく、分かった気がしますよ」

少女「へえ?」

女「分からない理由が、分かったんです」

少女「ソクラテスみたいな事を言うなあ。ずいぶん深みのない言葉だけれど」

女「…………………」

少女「そろそろ、アカウント経由のハッキングも終わる。後でじっくり見てみるといい――――」


≪WARNING!!:-174cgk=...Unable to connect with the puppet≫


少女「――――――――な、にッ……!!」


女「……どうしました」

少女「――――――――ッッッ!!!」バチイッ

女「大丈夫ですか!?」

少女「ああ、何とか……身代わり刺しといて正解だった、危うく焼かれてお陀仏さ」
少女「……向こうに、気付かれた。あのセキュリティフラグ、やはり正規の挙動はしてなかったんだ」


女「……つまり、それって」

少女「最初から泳がされてたってわけ。ページの権限を書き換えて、ダウンロードが済ませられるようになるまで――」
少女「ダウンロードの際に、一瞬だけこっちの回線を開いた。おっさんも焼かれた。居場所とアクセス元、しっかりバレたよ」

少女「……僕としたことが。とんでもないものに、手を出してしまったらしい」

女「……ごめんなさい、ダフネ」

少女「慰めないでよ、却ってプライドが傷つくから。……実行部隊の到着か、空爆要請か。いずれにせよ、数十分とかからないはずさ」

少女「僕はとっととトンズラさせてもらうよ。また新しい戸籍を買わなきゃならない」
少女「家財道具を纏める。君は早く逃げるんだ。幸い君のデータは漏れてない。後で連絡を寄越すから」



女「……分かりました。お元気で、ダフネ」

少女「うん、君こそ。その女には気をつけるんだよ、ラティーナ」

女「――言われなくとも、最初から」



タッタッタッタッ…………

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

≪――――The next station is Shibuya.The door left side will open.≫
≪Watch your step when you leave the train――――≫

女「………………」ガタンゴトン、ガタンゴトン、ガタンゴトン…………

女「……………………」ガタンゴトン、ガタンゴトン、ガタンゴトン、ガタンゴトン……

女「…………………………」プシュー……ピンポーン、ピンポーン

女「……………………」スック

女「………………」Pi……<残金 136円>

女「……………………」

女「………………………………」





『――――――――――パブリック・アドバタイザーが、午後7時をお知らせします』

とりあえず今夜は一旦ここまでです
深夜に気力があれば濡れ場まで行くかもしれません

>>63
未だに私含め、アマもプロも多くのSFがあそこから抜け出せてないってのはある種恐ろしいですよね


待ってる

サイバーパンク的な世界観を描く場合まずブレードランナーの呪いにかかると誰かが言っていたな


話も濡れ場も続きが楽しみだ

おつおつ

面白い

乙です
車内アナウンスはこの世界でもクリステル・チアリだろうか?

あれ?
続きは?

支援

待ってる

まだですか?

待ってる

ほしゅ

はよ

待つわ

待ってるぞ

まってる

待ってる

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