探偵「推理……? 必要ないですね……」 (11)
記者「ほう、それはつまり……?」
探偵「いや、その通りですよ。僕に推理は一切必要ないんです」
記者「……というと?」
探偵「というと……と言われてもその通りですから」
記者「……なるほど。確かに探偵さんにとって推理は商売の種ですものね。
私達における『どのように情報収集をしてネタをあげるのか』。それを聞かれているようなもの。
いやはや……実に手堅い方だ。だからこそ、今まで数々の難事件を解決できたのでしょうなあ」
探偵「(違うけれど、もうそれでいいかな)」
探偵「はは、まあ。そんなところです」
記者「しかしですね、私達も『何も教えてもらえませんでした』とは新聞に書けないのですよ。デスクにどやされてしまう」
記者「だから……その、ちょっと話を盛らせてもらいますが、構いませんか?」
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探偵「(三流ゴシップだらけの雑誌にしては、こんなことで確認をとるなんて妙に律儀だな)」
探偵「そりゃあ、なかなか、僕としても『うん』とは言いにくいですよ」
記者「ちょっとだけ! ちょっとだけですから! 『推理不要の超天才探偵! 見た瞬間に全てを理解するその頭脳に迫る!』と
煽るくらいですから! ね? ね?」
探偵「超天才探偵……(なんて頭の悪そうな探偵だろうか)」
記者「これくらい煽らないとうちみたいな弱小は厳しいんですよ~。探偵先生、お願いします! この通り! お礼は必ずしますから!」
探偵「出世払いで?」
記者「出世払いで」
探偵「(この人はいつもこれだからなあ)」
探偵「(紙面で囃し立ててくれるから言い宣伝になるとか所長は言うけれど……)」
探偵「(僕としてはやっぱりあまり気持ちの良いものじゃない)」
探偵「僕はね、記者さん。あまり騒がれるのが好きじゃ―――」
バタン!(突如、本棚の資料が全て床に落ちる)
記者「おおっ。……ビックリしました。なんでしょうね。地震もないのに……」
探偵「(はあ……はいはい、分かりましたよ、所長)。……はは。うん。その……話を戻させてもらって
あまり過激には書かないでくださいよ……」
記者「ではッ!?」
探偵「好きに書いてください……(うなだれつつ)」
記者「ありがとうございますッ! それじゃあ早速会社に戻らないとッ! 先生! またよろしくお願いしますよ!」(駆け足で去っていく)
探偵「……『所長』。勘弁してくださいよ。僕、目立つの嫌いなんですから」
所長「なぁに。私につかまったのが運のつきだと諦め給えよ。いや、運のつき始めかな?」
探偵「本当に貴方って人は……。僕は推理なんて一回もやったことないっていうのに
世間では素晴らしい探偵様と崇められる。正直、居心地が悪いですよ。僕の功績なんて一つもない」
所長「なにを言うか。全て君の功績だ」
所長「たとえ、君があらゆる難事件において一切の過程を理解できなくても、だ」
所長「君は死んだ霊と交信ができる。それは希有な才能だし、間違いなく君の功績だ。誇りなさい――――」
.
探偵「(僕が所長に捕まったのは偶然だった)」
探偵「(たまたま居合わせた旅先の旅館で殺人事件がおき……被害者は所長だった)」
探偵「(そして……何の因果か所長は僕に取り憑き、こう言った)
所長「君、私の代わりになれ。さもなくば呪い[ピーーー]」
探偵「(それから……僕の受難は始まる」
どこぞのドS魔人と悪食女子高生みたいだな
探偵「(所長が取り憑いてから、僕は幽霊が見えるようになった)」
探偵「(インチキも良いところだ。僕は殺人事件の被害者に直接【誰が犯人なのか】を尋ねることができる)」
探偵「(推理もクソもない……イカサマだ)」
探偵「(推理が必要な場面だと……所長がしてくれるし。警察を説得する会話も所長が考えてくれる)」
探偵「(安楽椅子探偵ならぬ、傀儡探偵……それが僕だ)」
探偵「はあ……嫌になっちゃうな。もう」
所長「気にするほどのことかね。君は楽して名声を得られるし、犯人も実際に捕まる。いいことだらけではないか」
探偵「僕は閑かに暮らしたいし……その、インチキをしているような気がしてどうも落ち着かないんですよ」
所長「肝っ玉の小さい奴め」
探偵「身体も小さいですからね。仕方ないことです」
からん(ドアが開く音)
女性「申し訳ございません……探偵事務所はここでよろしかったでしょうか?」
所長「おお、客だぞ。さあ、探偵君。もてなすのだ」
探偵「(見つけにくい場所に事務所を借りたのに、みんなよく見つけるな)」
探偵「そうですよ。どうぞ、ソファーにお座りください。コーヒーは好きですか?」
続きマダー?
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