P「もう昔の話ですよ」(36)
ーTV局、廊下ー
P「お疲れ様です…あ、お疲れ様です」ペコペコ
P(相変わらずTV局の雰囲気に慣れないんだよなぁ…)
P(新人の頃から変わってねーな、俺)
???「あら…Pさんじゃないですか?」
P「…?」クルッ
???「あ…やっぱりPさん」
P「…か、楓さん」
楓「フフフ…お久しぶりです」ペコッ
P「…」ペコッ
楓「そんなに身構えなくてもいいじゃないですか…食べたりしないですよ」
P「お、おぅ…」
楓「私、ベジタリアンなので…フフ。あ、ベジタリアンっていうのも嘘です、ウフフフ…」
P「…変わらないな、楓さん」
楓「そんなにガラッと変わる人なんていませんよ…Pさんはどうですか?この4年間」
P「…」
P(変わらず、といった手前だが…)
P(俺は、この4年間で変わったのだろうか…?)
P(いや、変われたのだろうか…)
楓「フフフ…悩んでますねぇ。まだ、『あの頃』に未練がありますか?」
P「嫌らしい言い方をするなぁ…」
楓「そんなことないですよ、別にPさんや『彼女』を恨んではいませんので。…ちょっとしたイジワルです」
P「…つくづく敵わないよ、貴女には」
楓「人は変わらない、と言いましたが私の周りは随分と変わりました…」
P「の、ようだな。『今人気上昇中の高垣楓さん』」
楓「ウフフ、さっきの仕返しですか?」
P「好きなように解釈してくれ」
楓「恨んではいない、とさっきは言いましたが私も『あの頃』に心残りがないわけではありません…」
P「『アイツ』のことか」
楓「ええ…でもその心残りも、Pさん。アナタにここで会えたことで無くなりそうです」
P「?…どういう…」
楓「今のプロデューサーとしての活動はいかがですか?」
P「な、なんだよ突然…まぁ、ボチボチ順調だが…」
楓「…よかった、アナタのやり方は間違ってなかった。ただ、若すぎたんです…私も、アナタも、『彼女』も」
P「…」
楓「この業界で私達3人が『やりたいことを、楽しく』なんて知識も経験も地位も足りなかった」
楓「そして…彼女は業界から去り、アナタも私の前からいなくなった」
P「なぁ、その話は…」
楓「少しはお話くらい聞いてくださいよ。フフ、久しぶりに会ったんですから…」
楓「思い出話でも、募らせましょう…」
ーー
ーーー
ーーーー
ー4年前、某大手プロダクションー
P(新人)「今日から俺も一人前のプロデューサーかぁ〜」
P「下積み時代もあっという間だったな…よ〜し、バッチリプロデュースしてトップアイドルを世に送り出すぞ!」
ガチャ!
上司「P君、アイドル候補生を連れてきたぞ」
P「はい!ありがとうございます!」ペコッ
上司「ハハハ…元気だねぇ、P君。それじゃ、早速…」
楓(21)「こんにちは…」ペコ
上司「高垣楓君と…」
瞳子(21)「こんにちは、よろしくお願いします!」ペコッ!
上司「服部瞳子君だ」
ーー
ーーー
ーーーー
楓「若々しかったですねぇ…眩しくて目がクラみそうです」
楓「目がクラんで、クラクラ…フフッ」
P「…」
楓「瞳子ちゃん、私の隣だったんです。プロダクションの面接で」
楓「元気で可愛くて…私、ずっと彼女に憧れてました」
楓「Pさんのプロデュースで活動するって決まった時に、『一緒に頑張りましょう』って言ってくれたんですよ」
P「…そうか」
楓「今は順調、とおっしゃっていたのでPさんのプロデュース方針は間違っていなかったのでしょう…」
P「だが、未熟な俺達に世間は甘くなかった」
ーー
ーーー
ーーーー
ー4年前、プロジェクトルームー
P「んー…またオーディションだめだったかぁ」
楓「たかが、高垣ってことですよね、フフッ」
瞳子「ダメよ楓、そんなに自分を卑下してはいけないわ」
P「あ、あぁ…そうだな瞳子の言うとおりだ、楓さん」
楓「いえ、今のは…高垣と『たかが』を掛けて…」
瞳子「?」キョトン
楓「なんでもありません…ごめんなさい」
P(あのフリーダムの塊の楓さんが押されてる…恐るべし、瞳子)
瞳子「一度ダメでも次があるじゃない!数撃ちゃ当たる、っていうでしょ?」
楓「それ…前向きに捉えるような意味合いの言葉でしたっけ?」
P「さ、さぁ…?でも瞳子の言いたい事はわかるぞ!下ばかり向いてちゃダメだよな!すぐに次のオーディション情報持ってくるから!」
瞳子「ええ!次こそは合格できるように全力を尽くすわ!」
楓「はい…次は頑張りますね…あ、『次も』でした。ウフフフ…」
ーー
ーーー
ーーーー
P「そうだ、俺達のユニットは見向きもされなかった」
楓「何度も、何度も…数え切れない程落選の文字を見ましたね」
P「アイツはその度に気丈に振る舞ってたな」
楓「私も瞳子ちゃんに救われた事が何度もあります…」
楓「でも世間が求めたのは彼女ではなかった…」
ーー
ーーー
ーーーー
P「ソロデビューって…どういうことですか?!」
上司「私も上には掛け合ったんだが…『結果を出せないユニットは不要』、とだけ…」
上司「すまない…P君」
P「…失礼します」
ガチャ!バタン!
P「クソッ…俺のせいだ…」
P(どこで、どこで間違えたんだ?…それとも俺は最初から間違ってたのか?)
P(『好きなことを、楽しく』なんて…所詮は絵空事なのか?!)
P(アイドルは…『ビジネス』でしかないのか?)
楓・瞳子「…」コソコソ
楓「私だけ…ソロデビュー?」
瞳子「みたいね」
楓「な、何かの間違いですよ、瞳子ちゃん。瞳子ちゃんのソロならまだしも…私なんて…」
瞳子「だから自分を卑下してはいけないわ、楓。貴女は才能も容姿も揃ってる。」
瞳子「私の事は気にしないで、貴女はPさんと次のステージに進みなさい」
楓「な、なんで…なんでそんなこと言えるんですか!同じ…同じユニットの仲間じゃないですか!」ポロポロ
瞳子「鬱陶しいのよ…」
楓「?!」
瞳子「そのウジウジした態度が!鬱陶しいって言ってるの!さっさとソロデビューでもなんでもしなさいよ!…それとも何?残された私が惨めだとでも言うの?!」
楓「ち、ちが…」
瞳子「貴女には…負けたくなかった」
楓「…え?」
瞳子「同じユニットになってから、劣等感を常に感じていたわ。でも、いつも明るく振る舞って…気持ちだけでもあなた達を引っ張って行きたかった」
瞳子「オーディションでも…楓、あなた『だけ』オファーは来ていたのよ」
楓「な、なんですかそれ…聞いてない…」
瞳子「Pさんがそんなこと言うわけないじゃない…あのお人好し、変なところで気を使うんだもの」
楓「…」
瞳子「こうなってしまった以上もう後には戻れないのよ。貴女は上に行って、私はここを去る。それがアイドルという世界よ」
楓「そんな…」
瞳子「現実を見なさい、楓。いつまでも仲良しこよしでやっていける世界ではないの。誰かを糧に次へ行く、当然の事だわ」スタスタスタ
楓「ど、どこに行くんですか?!」
瞳子「Pさんにもう辞めるって言ってくるわ…じゃあね、楓」スタスタスタ
楓「ま、待って…」ポロポロ…
瞳子「来ないで!」
楓「!!…グスッ」
瞳子「もう…私に構わないで…!せっかくサッパリ別れようとしてるのに…!」ポロ…ポロ…
楓「瞳子ちゃん…」ポロポロ…
瞳子「…!」ゴシゴシ
瞳子「…」スタスタスタ…
楓「…うわぁぁぁん…」ポロポロ…
ーー
ーーー
ーーーー
P「あのプロダクションに俺の求めるアイドルプロデュースはなかった」
楓「そのプロダクションに、私はまだ所属してるんですけどね。フフッ」
P「…すまん」
楓「気にしないで下さい…といっても気にするでしょうね、Pさんなら」
P「あの後無責任にプロダクションを辞めてしまったことは本当にすまなかったと思ってる。今のプロダクションが安定してきたら、誘うことも考えたんだが…瞳子の事が引っかかって…」
楓「いいんです。私の道、Pさんの道、瞳子ちゃんの道。交わることはない道なのかもしれません」
楓「どうせお呼びが掛からないのも瞳子ちゃんの事で悩んでるんだろう、って思ってました」ニコッ
P「本当に、敵わないなぁ楓さん」
瞳子「いつまでも戻ってこないと思ったら…何やってるの楓」
楓「あっ…瞳子ちゃん」
P「…?!と、瞳子?!」
瞳子「あら、Pさん…ひさしぶりね」
P「え?!ちょっと意味がわからない。なんでお前ここにいるんだ!?」
瞳子「なんでって…アイドルがTV局にいたらまずいのかしら」
P「あ、アイドル…?お前が?」
瞳子「お前がって失礼ね、これでも元アイドルよ」
楓「瞳子ちゃん、アイドル復帰するんです」ニコニコ
P「は、はぁ?!聞いてないぞ!そんなこと」
瞳子「言ってないもの、当然よね。あ、あとちひろさん…だっけ?Pさんのとこの事務員さんに履歴書持っていくから。連れて行ってくれる?そのために楓にここまで連れてきてもらったんだけど」
P「それも聞いてない!!」
瞳子「私も聞いてないわよ、プロダクション移ったなんて。久々に楓に会ったら楓の事務所にPさんいないって言うし」
楓「今度は、一緒じゃないけど…改めて勝負ですね瞳子ちゃん」
瞳子「本当はアイドルなんてもう…楓に言いくるめられちゃったけど」
P「楓さん!思わせぶりな昔話始めて!全部知ってたんだな?!」
楓「神のみぞ知る…神の味噌汁…フフッ」
ーー
ーーー
ーーーー
ー事務所ー
P「えー…というわけで、新しい仲間の服部瞳子さんです」
瞳子「服部瞳子です、よろしくお願いします」ペコ
友紀「わー!」パチパチ
菜々「よろしくお願いします!」パチパチ
響子「一緒に頑張りましょうね!」パチパチ
仁奈「おねーさんが増えやがりました!うれしーですね〜」パチパチ
早苗「25…なかなかやるわね」パチパチ
瑞樹「あなた何に張り合ってるの?」パチパチ
ちひろ「よろしくお願いしますね!瞳子さん」パチパチパチ
瞳子「はい!…あ、Pさん」
P「?」
瞳子「私、『次は無い』つもりでいるから。今回に賭けてるの…そこのところよろしくね」
P「重いわ!…『今度こそ』トップアイドルになれるようにプロデュースするよ」
早苗「と・う・こ・ちゃ〜ん」
瞳子「は、はい…?」
早苗「随分P君と仲が良いみたいだけど〜?お姉さん達にもお話教えてほしいなぁ〜」
瑞樹「若気の至りの一つでもあったんじゃない?わかるわ〜」
友紀「」ピクッ
仁奈「友紀おねーさん、何してやがるんですか~?」
友紀「仁奈ちゃん、しーっ!」
仁奈「??」
菜々(お、反応してますねぇ)
響子(友紀さんのライバル出現、って感じですね♪)
P「まぁ、前から知り合いというか…」
瞳子「なんというか…」
早苗「やっぱり!おほほほ〜♪今日は取り調べね!」
瑞樹「昔の知り合い…詳しく聞かせてもらおうかしら」
P「別にそんな特別なものは…ある?あるか?」
瞳子「ある…んじゃないかしら?」
P「ま、まぁとにかく!」
P「もう昔の話ですよ」
おわり
終わりです。ありがとうございました。
スッキリ読みやすいな
おつ
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