デレマスSSです。
地の文の百合SSです。
更に言えば以前に書いた
(デレマスSS)モバP「チーズカツカレーとメロンソーダ」
(デレマスSS)モバP「チーズカツカレーとメロンソーダ」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1463398746/)
こちらの続編になりますので、
もしお手間で無ければ、前作を見てから読んでいただけると幸いです。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1463903935
0、小さい狼の煩い
ウチは、事務所のソファーでメロンソーダを飲みながら、ファション誌を読むのが好きだ。
たまに輝子や乃々とか、みんながいろんなことをしていて、
それに笑ったり、怒ったり、変なことを言うプロデューサーをひっかこうとしたり……
それが今までの日常だった。
でも、最近、今はウチの隣にアイツが立つことが多くなった。
ウチが好きでやってることに、相手の好きなことでお返ししてくる。
そんな変なヤツ
でも、ソイツと居ると、心がくすぐったいような嬉しいような気持ちになって、
いつも以上に素直になれなくなったり、居ないといつもより……何か不安になる。
『桐生つかさ』
2人っきりの時にはウチのことを「ワンコ」って呼んで、優しく頭を撫でてくる。
それが、子供扱いされているようで、少しだけ悔しかったり、
でも、でも……それ以上に嬉しい気持ちが溢れているのが……分かる。
この気持ち、何て言えばいいんだろう……
『好き』
そんな言葉が頭に浮かぶけど、ウチは……何でか分からないけど、それを認められなくて……
また、素直じゃないウチが、つかさとの間に入ってくる。
これは、そんなウチの……1つの決着までのお話。
1、心が鳴らす音
その日は、同じ歳の仲間たちとおしゃべりをしていた。
紗南と幸子……二人と話すのは嫌いじゃない。
今日の話題の中心は年上のアイドルたちについてだった。
「そういえば、涼さんと小梅ちゃんって仲良いよね」
白坂小梅。
1つ下のアイドルでちょっと洋服のセンスが似てるから仲良くしてる。
小梅は、松永涼っていう年上のアイドルと仲がいい。
2人ともホラー映画が好きで、一緒に映画を見たり、お出かけをしているらしい。
そういえば、2人で一緒に話しているのを見かけることがある。
小梅も涼も楽しそうっていうか……いつも幸せそうに会話している。
チクッ
……何だろう、胸に小さく何かが刺さったような痛みと音がする。
ウチはその正体が分からなくて、少しだけ戸惑う。
「まぁ、あたしも杏さんにゲームで一緒に遊んでもらったりしてるんだけどね」
紗南も双葉杏っていう、だらだらしたやつと一緒にゲームしてる。
アイツはウチとソファーのお気に入りの場所が同じだから競い合うことになるし、
ちょっとだけライバルみたいに思ってる。
そんなことを考えている時だった、
「そういえば!ボクはこの前、つかささんに可愛いって褒められましたよ!フフーン!当然ですけどね♪」
幸子がつかさに可愛いって言ってもらったって言う言葉が耳に入る。
グサッ
って、さっきよりも大きい音と痛みが胸に刺さる。
何で?何で幸子がつかさに褒めてもらってるの?
ウチだけじゃないの?何で?
急にグチャグチャに混ざった口に出せない言葉が溢れてきて、ウチは黙って俯く……
「美玲?どうしたの?」
「おや?ボクの可愛さに目が眩みましたか?」
急に俯いたウチにそれぞれが声をかけてくる。
「な、なんでもない!あ、ウチはそろそろ行くからッ」
ウチはどうしても、この場所に居たいと思えなくて
テキトーな言い訳をして2人と別れて帰ることにした。
何だろう……まだ痛い。
ウチは、少しだけ泣きそうになって、フードを目深に被る。
アイドルになる前の周りを見ないウチに戻った気分だ。
つかさは、旅のロケでまだあと数日は会えない。
それが余計に痛みを強くしているなんて思いたくないけど、
アイツの笑顔が今、この瞬間だけでいいから見たいって強く思った。
2、先客の言葉
今日は、久しぶりにお気に入りのソファーをアイツに占拠されていた。
「やぁやぁ、元気かね?」
普段は話しかけないアイツが珍しく話しかけてくる。
「……」
ウチはそれに違和感しか感じなくて逃げようとしたが、
「まぁまぁ、メロンソーダもあるしさ。隣に座ってよ」
そう言って、寝そべってた姿勢を直して隣に誘う。
「……怪しいぞ……杏」
「そんなこと無いって~」
……ウチは、仕方なく座ってやることにした。
メ、メロンソーダのため…とかじゃないからなッ!
ウチは、そのままいつものファッション誌のページを開く。
確か今日は、アイツのブランドの新作情報が出てたはず……。
アイツのはカジュアルがメインだけど、
いろんなテイストを少しだけ入れてデザインしてるから、
パンク系が多いウチにも使いやすい。
あ、また新しくハート型のパッチを出す予定なんだ。
この眼帯に使ったの、売れたんだな……。
ウチは、前につかさに褒められた眼帯が気に入っていて、コレを使うことが多い。
褒められたことを思い出して、少しだけ眼帯を撫でてみる。
ちょっとだけ、今日もロケで居ないアイツの笑顔が眼帯の裏に見えて嬉しくなる。
「はぁ……重症だねぇ」
ふと、杏から声をかけられる。
「な、何がだよッ」
ウチは杏のヤレヤレって感じの声が何か嫌で少し強い言葉をぶつけてやる。
「本当は自覚してるんでしょ?」
「だから!何がだよッ」
言いたくない言葉と言いたい言葉とか混ざったウチには、
同じ言葉で杏に言い返すしか出来ない。
「……ほら、アイドルがしちゃダメな顔してるよ。美玲は顔に出やすいんだから」
「そ、そんなことないモン!」
そう言うと、杏は分かりやすく大きくため息をつく。
「ま、あっちに言えばいいか……美玲。杏はやっぱり寝そべるからジャマ」
「な、何なんだよもうッ!杏なんかきらりに投げっぱなし高い高いされちゃえッ!」
「そ、それは勘弁して……」
ちょっと弱そうになった杏に満足してウチはソファーを後にした。
少しだけ気分は晴れたけど、
『本当は自覚しているんでしょ?』
という言葉だけ、ウチの中にずっと棘が刺さったように残ってる。
3、きっと、その煩いの名前は……
アイツの言葉が刺さった日から、ちょっとだけ過ぎた頃だった。
「み、美玲ちゃんは……きっと、つかささんが好き……なんだね」
それは、急に投げかけられた一言だった。
レッスンが終わったウチは、
一緒にレッスンを受けた小梅とレッスンルームの前のベンチでおしゃべりをしていた。
その時、入れ替わりでレッスンを受けるつかさや涼、杏とすれ違って、
小梅と一緒に挨拶をしたあと、小梅はそんなことを呟くように笑顔で訊いてきた。
「……」
ウチは、上手く言葉に出来ず、俯いてしまう。
変なことを言われたら、顔が熱くなって暴れよう!って思うのに
今日は、上手く言葉にも表情にも出ない。
「な、なんで……?」
ウチは小梅だけに聞こえるように小声で言う。
「あの子が……美玲ちゃんがつかささんを見ている顔がね、私が涼さんを見てるときに似てる……って……」
小梅が、涼に「レッスン頑張って」って言うとき……とても嬉しそうで、優しい笑顔だった。
ウチにもそんな顔が出来ていたのかな……
そう思った瞬間、今度は急に顔が熱くなって、
ウチは手で顔を覆い隠して顔を伏せてしまった。
「み、美玲ちゃん?……ど、どうしたの?」
そんなウチが心配になったのか、小梅は隣にもっと近づいて、アタフタしている。
「だ、大丈夫……大丈夫だから……」
ウチは、そっと小梅にだけ聞こえるように伝える。
「よかった……」
小梅から安心したような声が聞こえてくる。
「小梅……ごめん……」
「ううん……こっちこそ、ごめんね……変なこと、言っちゃった……んだよね?」
「……小梅の言ったことは、たぶん間違ってない……でも」
ウチはうまく言葉に出来なくて、小梅を見る。
小梅は、そんなウチを見て……いつもより優しく微笑んでから……
「……うん。美玲ちゃん……ずっと悩んでるんだよね。自分の気持ちと……」
「何で?」
全て見透かされているような気持ちになって、小梅に問いかける。
小梅は優しい表情をしながら……
「わ、私もね……涼さんのこと……その……たくさん、たくさん悩んだから……」
って、少しだけ弱いトーンで話ながらウチの手をそっと包み込む。
ウチより小っちゃくて、ちょっと冷たい手のぬくもりが優しく伝わってくる。
「大丈夫だよ。きっと……美玲ちゃんなら……」
小梅はそう祈るように呟きながら少しだけ手に力を込める。
急に今までのグチャグチャだった心が落ち着いてくる。
何かトクベツなモノを受け取った気分だ。
……そんなウチの顔を見て、小梅が優しく頷く。
ウチは、小梅からもらった冷たいけど温かい贈り物を大切に心に敷き詰めて……
アイツがレッスン終わった後に見るメールの文章をスマホに入力した。
4、アイツの……
メールの返事は簡単な内容だった。
『1週間後にオフが同じ日があるから、その前夜なら泊まりに来てもいい』
ウチは、それが嬉しくて嬉しくて踊りだしたくらい嬉しかった。
その1週間の間にはレッスンとか握手会とか、ミニライブとかいっぱい仕事が入っているけど、
今のウチなら全部いつも以上にしっかり出来るって思った。
でも、その1週間の間にアイツと会える時間が無いのは……やっぱり寂しい。
そんな日々はあっという間に過ぎて、アイツの家に行ける日になった。
アイツは、前と同じようにプロデューサーに運転させて、
家の近くのスーパーマーケットまでウチと一緒に乗せてもらう。
プロデューサーは、今回のことに運転中は何も言わなかったけど、
「つかさ。どんな道を歩んでもいいけど、相手が居ることを忘れるなよ」
って、事務所に帰る前につかさに一言だけ言った。
つかさは……少しだけ笑って、
「分かってる」と一言だけ答えていた。
スーパーでの買い物は、今晩のおかずの買い物だけだった。
お泊りセットは、用意済みだって言われた。
シャンプーもこの前使ってるのを教えてもらったから、
買っておいてあるって言われた。
……うん。それはそれで嬉しいんだけど……
あ、ウチは少しだけワガママになってメロンソーダとキャラメルポップコーンをカートに入れた。
つかさは、仕方ないなって顔をして一緒に買ってくれた。
つかさの家に着いたウチは、一緒に手洗いうがいをして……今日はご飯を作るのも手伝う。
一緒に作って、一緒に食べる。
それが嬉しくて、ずっと会えなかった気持ちもどっかに行ったみたいになってた。
でも、1番言いたい言葉は、つかさの漬物のように重い石に閉じ込められているみたいで、
まだ言えない。
そんなことを思っているうちに……それぞれお風呂に入って……寝る時間になってしまう。
明日は一緒のオフを楽しむために早く寝る。
それが今晩の約束。
ウチは前と同じようにつかさの部屋とは別の客間に敷かれた布団で寝ることになる。
部屋を分かれてから……どれくらい時間が経っちゃったんだろう。
ウチはどうしても眠れなかった。
どうしても、どうしても、今、つかさの顔が見たくて……
ウチは……我慢できなくなった。
そして、音を出さないように静かに狩りをする狼になった気分でつかさの部屋に近付くことにした。
つかさの部屋のドアを優しく『コンコン』って叩く。
けど、返事は無い。
ウチは会いたい気持ちが溢れて止まらなくて、
……音を立てないように静かにドアノブを捻って押してみる。
音を出さずにドアが開いていく。
……静かに……静かにウチは部屋の中に入り込む。
つかさは少し大きなベッドで寝ている。
ウチは、ベッドの左側に回り込んでつかさに近付く。
……やっぱりつかさは綺麗だ。
カッコイイし、綺麗だし、ウチのことを分かってくれる。
ウチは……ウチは……そんなつかさが……
やっぱり声には出せない。
……ふと、視界に掛け布団から出ているつかさの左腕……ううん。左手が視界に入る。
左手……ウチは、その左手に触れたくてベッドにゆっくりと乗ってつかさの左手を包み込む。
ウチより少し大きくて温かい手を両手で抱きしめる。
……抱きしめてもつかさは起きてないみたい。
そんなつかさに安心するような残念なような気持ちになる。
ウチは抱きしめた左手をもう一度見つめる。
右利きのつかさはウチの頭を撫でる時は、いつも右手だ。
いつもと違う手……で、この手の薬指って……
ウチは声に出せない言葉の代わりに……左手の薬指にそっと……噛みついた。
右側の犬歯が薬指の付け根くらいに少し刺さる。
い、痛いかな?大丈夫……かな。
気になるけど、止められない。
ウチはつかさにずっと、ずっとウチだけのつかさで居て欲しいって願いながら、
ずっと薬指に甘く噛みつく。
……何でちゃんと言葉で伝えられないんだろう。
「ッ……ぅぅ………」
素直に伝えるべきだったって思うウチの心が……締め上げられるような苦しさでウチを追い詰める。
そして、ウチは視界がうるんで、
つかさを見られなくなって目を閉じる。
その瞬間、右頬に熱い雫が流れ、眼帯が湿っていくのが分かった。
そんな時、優しい感触がウチの右頬を軽く撫でて、頭を撫でた。
ビックリして目を開くと、つかさがウチを見つめていた。
ウチは、つかさに見つかったことから逃げたくて、口を開いて指を外し、ベッドから降りようとした。
けど、降りようとした瞬間につかさに抱きしめられて、逃げられなかった。
つかさはウチを抱きかかえてベッドに倒れ込む。
ウチを絶対に逃がさないように強く抱きしめてウチの髪に頬摺りをする。
「全く世話のかかるワンコだ……明日言いたかった言葉が早まっちまうな」
そんな声が聞こえてきて、ウチはつかさの顔を覗く。
ウチをワンコって可愛がるときとはちょっと違うけど、でもウチが好きな嬉しそうな顔をしてる。
そして、少しだけ抱きしめる力を緩めると、つかさの顔が近づいてウチの唇に柔らかいつかさの唇が触れる。
あぁ、この感触……好きだ。
●、Another side episodes
アイツがアタシの家に来るのは今回で2度目だ。
アイツから泊まりたい、そしてアタシと遊びたいと言ってきた。
ずっとアイツは受け身だったけど、今回は違う。
そこに含まれている意味は分かってるつもり。
きっとアイツは寝てるはずだし、明日には伝えるべき言葉を伝える。
緊張して眠れねぇなんて……まだまだアタシも弱いな。
早坂美玲
アイツにはいろいろちょっかいを出してきた。
最初は奇抜なコーデをするヤツって印象だった。
ただ、あいつはそのコーデを着てるのにどこか臆病で、
貫きたい自分とそれに負けそうな自分とずっと戦っていた。
自分のために全力で居られるヤツはリスペクト出来る。
それがアイツへのスタートだった。
いつも同じソファーで同じようにメロンソーダとファッション誌
たまには同世代にからかわれたり、同じユニットの2人を机の下から引っ張り出したり、
いつもアイツなりに一生懸命だった。
そんなアイツが気になって、
ちょうどパンクテイストを入れた服のデザインをする企画もあって、
アタシは声を掛けた。
最初は警戒心の塊だった。
「誰にも懐かないようにしてる子狼」だとプロデューサーは言ってたかな。
アタシに対しても例外じゃなかった。
でも、それこそがアイツをもっと気になるようになっていく要因になった。
次にあったのは、一緒のライブでの差し入れ。
準備の手伝いに奔走してたアタシに、スポーツドリンクをくれた。
実際、ワンチャンあれば、そこで買う予定だったから最高のタイミングだった。
プロデューサーに説明したら、ヤツは笑いながら
「美玲に少し懐かれた証拠かもな」
とか言ってきた。
……それが少し嬉しかった。
その後は、ちょっと強めの恩返しで遊んでやったけど。
いつから、アイツが特別になったんだろう。
ふと、そんな言葉が浮かんでくる。
ソファーで目を合わせて眼帯を褒めたとき?
アイドルの私服調査でアイツを推薦したとき?
……いや、きっと違う。
もっと答えにならないくらいシンプルだ。
きっと、ずっとアイツの存在は気になっていた。
そして、それを見抜いていた奴らに……レッスン後にMTGさせられた。
双葉杏と松永涼
涼は小梅とそういう関係で、杏は……本人曰く美玲とソファーを争う好敵手
2人からの言葉は、簡単だ。
『相手の貴重な青春時代を独占する』
その権利を持て余してずっと身勝手に遊んでいるのは、美玲に対して失礼じゃないのか?
……そういうことだ。
確かにアタシは自分の好きなようにアイツを『わんこ』って呼んで遊んでいる。
涼は、小梅の隣にずっと居ることを選んだ。
杏も……言わねぇけど、きっと誰かとの天秤に決着を付けたんだろう。
そのMTGの後、メールを確認すると……美玲から1通のメールが届いていた。
そんな回想を続けていたら、ドアをノックする音が聞こえた。
え?アイツ……来るのか、今。
アタシは寝ているフリを決め込むように整える。
ドアが開いて差し込む廊下からの光を察して動きを止める。
布団の中に左腕をしまうのが遅れて、
少し不格好になるけど、もう気にしてられない。
静かな空間にシュルシュルと小さく布が擦れる音が聞こえる。
その音は、私の左側に移動しているのが分かる。
……どれくらい経っただろうか……美玲とアタシの呼吸しか聞こえない静寂の中、
少し息を飲む音がして、ミシっと美玲がベッドに乗ってくる。
美玲は、アタシの左手を掴む。
弱弱しくオズオズと……そして、ゆっくりとアタシを起こさないようにするためだろう。
両手で優しく包んだあと、アイツは、アタシの左手を胸元に抱きしめる。
緊張している空気が伝わる。
……もう少し人間の触覚が鋭敏なら、美玲の鼓動を堪能することが出来たのかもしれない。
そんなことを考えられるくらいには、アタシは落ち着いているらしい。
また、美玲は動かなくなる。
アタシはどうしていいのか分からない。動けない。
……そして、また静寂の時間に留まった後、2人の時間が動き出す。
美玲はアタシの左手を包むと中指と小指を握らせるように動かして……
アタシの……左手の薬指にそっと唇を触れさせ……そのまま咥えた。
少しだけ食い込む歯による痛みがじんわりと伝わってくる。
逃がさないようにほんの少しだけ力を入れた甘噛み。
この指を独占したいと思う気持ちが何を意味するのか、言葉より伝わってくる。
完全に不意打ちをくらったアタシは、どうしていいのか分からなくなる。
きっと、ここで起きたら美玲を傷つける。
きっと、この勇敢で臆病な小さい狼は逃げてしまう。
そしてきっと、アタシが逃がしてしまったことを後悔する。
「ッ……ぅぅ………」
ふと、漏れる声が聞こえる。
美玲……泣いてる?
アタシは、それに驚いて目を開いてしまう。
そこには……左手の薬指に噛みついて泣いている小さい女の子が居た。
『慕ってくれる年下に主導権握られるなんて、ダサいことすんなよ?社長さん』
会議の中で涼に言われた言葉が脳内で再生される。
そうか、今、言葉以上に伝わった気持ちが美玲の『言葉』なんだよな。
アタシは、そう気付いた瞬間、美玲の濡れた頬を拭い、頭を撫でる。
ビクッっと驚く美玲はちょっとだけ強く噛む。
痛っ……けど、これは、ちゃんと動かなかったアタシへの罰だと受け入れる。
アタシと目が合った美玲は咥えていた指を離し、ベッドから降りようとする。
ダメだ!さっきも考えていただろう!逃がしちゃダメ!
アタシは、美玲が逃げられないように抱きしめて、ベッドに倒れて連れ込む。
美玲の肩を抱きかかえるようになってしまい、美玲の頭が頬に当たる。
……ん?
アタシは少しだけ違和感を感じる。
この前、アイツが泊まったときにいつも使ってるシャンプーを訊いておいた。
ちゃんとそれを買って置いておいたはずだ。
でも、今、美玲から香るのはアタシと同じ匂い……。
この子は、アタシとお揃いを選んだんだろうか。
そう思うと……この健気な狼がもっと愛おしくなり、少しだけ頬摺りしてしまう。
でも、折角買ったのに意味が無くなっちゃうじゃないか。
それに……これじゃあ、明日伝える言葉が台無しだ。
「全く世話のかかるワンコだ……明日言いたかった言葉が早まっちまうな」
精いっぱい、アイツがカッコいいと言ってくれたカリスマJK社長のように振る舞って、
見上げてくれた美玲の唇を奪う。
……甘くて、柔らかい。
この感触は、かなり反則だと思う。
アタシは、この魅力的な感触を堪能するのだった。
5、ずっと、つかさと……
唇が触れて、どれくらい経っただろう……。
1回で大好きになった感触が遠ざかる。
遠ざかる感触が寂しくて、そして、触れている間出来ていなかった呼吸が再開できて、
ウチは、大きく、大きく息を吐く。
きっと、頬は緩んでる。
きっと、だらしない顔になってる。
そう考えた瞬間、恥ずかしくなって、
まだ抱きしめて離してくれないつかさに抱き着いて顔を隠してしまった。
「……必要な言葉はアタシから伝えるつもりだったんだけど……」
そんなウチを気遣ってか、優しく頭を撫でながらつかさが語りかけてくる。
「順序が逆転しちゃったな。まぁ、バズっちゃうだろ左手の薬指を食われるなんてさ」
いつもの口調で言葉を続ける。
それがウチを安心させてくれる。
心地よい温もりと、言葉に包み込まれて、少しだけ……ううん。甘えたくなる。
「美玲、好きだ」
その時、1番聞きたかった言葉が聞こえる。
また涙が溢れてくる。
ウチは……何度も何度も頷いて……ちゃんとつかさの目を見て、
「ウチもつかさが好きだッ」
って、今出来る精いっぱいの笑顔で伝えた。
つかさも涙を流していた。
つかさは泣いてても綺麗だ……本当に……大好き。
ウチは、最後の気力でもう1回だけつかさの唇に触れて……睡魔に負けてしまった。
Last、
2人とも、伝えたい言葉が言えて力を使い果たしたのか、
そのまま抱き合ったまま眠っていて……揃って寝坊しちゃった。
一緒に苦笑いをして、一緒に朝ごはんの用意をして、
……今日は、つかさの流行調査だってことで、
一緒にウィンドウショッピングやスイーツ探索をした。
とっても、とっても楽しくて、
これからも一緒に居られるよね?
ウチはつかさのワンコじゃなくて、恋人になれたんだよね?
帰り際にウチが言った言葉に
つかさはイジワルな笑顔をした後に抱きしめてきた。
言葉で伝えてくれない。
今までのウチへの仕返しかな……
何か、負けたくない気持ちになって、
隙だらけの唇を奪って、固まったつかさから逃げてみた。
やっぱり、ウチ達は素直じゃないままでいいかもしれない。
そんなことを考えていたら、背中から追い付いたつかさに抱きしめられる。
抱きしめられたぬくもりを感じながら見上げる空は、とても広くて、
少しだけ、ほんの少しだけ、眼帯を外した満天の空を仰ぎたくなった。
以上です。
勢いだけで続編を書いてしまいました。
桐生つかさと早坂美玲……少しでも読んだ方の琴線に触れることが出来たら嬉しいです。
そんなあとがきで今回は締めます。
願わくば誰かの暇つぶしになりますように……
乙ー
つかみれ、せつなくていいわー
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