響兄「アイドルになりたい?」 響「うん」 (452)
兄「何言ってるんだ、アイドルになるために上京だなんて……」
響「でも、自分なら必ずトップアイドルになれるって黒井社長が……」
兄「その黒井ってやつにもこの前会ったばかりなんだろう? そいつの口車に乗せられてるんだよ」
兄「お前は人一倍騙されやすいんだから」
響「そ、そんなことないぞ!」
兄「前々から思っていたが、お前にアイドルなんて無理だ」
兄「アイドルスクールだって、もともとは友達に誘われて入ったようなもんだろう?」
兄「お前にやっていけるとは思えない」
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1463840009
あ、最初に書き忘れましたが、アイマスのゲームをしたことがないので、アニマスくらいしか知識ないです。
あとキャラ崩壊がひどいと思われます。
響「な、なにー! 兄貴に何がわかるんだよっ! 兄貴なんかにアイドルのことが分かるはずないだろっ!」
響「黒井社長は悪趣味でキザったらしいけど……でも、れっきとしたアイドル事務所の社長だぞ! そんな人が自分のことを認めてくれたんだ!」
兄「バカ言うんじゃない! お前も現実を見ろ! 俺は絶対に認めないからな!」
響「っ! ……………いいよ、別に……」
兄「え……?」
響「別に、兄貴に認めてもらわなくたって、黒井社長のもとで絶対にトップアイドルになってみせる!」
響「兄貴のバカーッ!」 ダッ
兄「あっ、おい響!」
ガララ ピシャ!
兄「…………響……」
兄「……」
母「……ちょっとキツく言い過ぎじゃない……?」
兄「母さん、響はまだまだ子供だ。夢ばっかり追いかけていて、現実を知らない」
兄「アイドルだって、あんな表向きのキレイ事ばっかりじゃないはずだ」
母「あの子だってそれくらいは分かってると思うわよ?」
母「きっとそれを知った上で、それでも諦めきれないくらいの夢なんでしょう」
兄「たとえそうだとしても、俺には認められないよ……」
母「……」
兄「……」
母「……ふぅ、アンタ、お父さんに似てきたわね」
兄「親父に……?」
母「強情で、怒りっぽくて、でも、本当はとっても優しい」
母「……アンタ、響のことが心配で仕方ないんでしょう?」
兄「心配……? 違うよ……俺は響に、いつまでも夢見てないで身の丈に合った行動をしろって……」
母「そういう素直じゃないところもお父さん似ね」
兄「……」
母「でも少し過保護すぎない……? あの子だってもう誰かにどうこう言われなくたって考えて行動できる」
母「もう少しくらい、あの子のことを信じてあげてもいいんじゃないかしら……」
母「信じて送り出してやることも、私たちの仕事だと思うわよ」
兄「信じること……」
兄「……俺は、どうしたらいいんだろう」
母「それは私に聞くより、自分で考えたほうがいいんじゃない?」
母「響のためにどうするべきか、アンタ自身がどうしたいのか……」
兄「…………」
その後、響は家に帰ってきたが、俺とは一度も口を利くことなく、荷物をまとめて出て行ってしまった
母さんから聞いた話によると、響は当分この家に帰ってくるつもりはないらしい
黒井崇男に961プロ……資金力があり、全面的に響を売り出してくれるという話らしいが……嫌な予感がしてならない……
俺はどうするべきなんだ……どうしたらいい……
俺は……
兄「…………母さん」
母「決めたんでしょう?」
兄「母さん、俺……」
母「分かってるわ」
兄「……」
母「響のこと、頼んだよ」
兄「…………ごめん……」
母「いいんだよ、寂しくはなるけど……私も安心はできる」
母「次に家へ帰ってくるときは、響と一緒に、仲直りして帰ってくるんだよ」
兄「……ありがとう……」
――――――
――――
――
にぃにぃだぞ!
兄(……………と、勢いだけで沖縄から出てきたものの……)
兄(どうしたもんかな……)
兄(高校までは行ったけど……そこからはずっと家の仕事の手伝いだったし……)
兄(面接とかしたことない……まず住む場所決めてない……資金もあまりない……)
兄(……まずいなぁ……)
兄(…………)
兄(響はたしか……961から住む場所や生活費なんかも提供されてるんだよな……)
兄「…………響に相談したら、一緒に住まわせてくれるか……?」
兄(いやいや……直接会ったらきっとまたケンカしてしまう)
兄(あくまで響にバレないように、それでいて定期的にでも様子が見られるような……)
兄(961プロ……)
兄(961の清掃員でもしてみるか……? いや、名前でバレるな……)
兄「はぁ……」
考えもなしに出てきたことを少し後悔した
しかし、ここで諦めるつもりはない。なんとか仕事と住む場所を確保しなければ……
母のためにも、響のためにも……
――
高木「うーむ……」
高木(そろそろうちの事務所も人員を増やさねばならないのだが……)
高木(しかし……なかなか人が集まらない……)
高木(まぁ、まだまだ事務所自体の名が売れているわけでもないから、しょうがないといえばしょうがないのかもしれないが……)
高木(誰かいい人材が見つからないものか……)
高木(…………ん? あそこに座っている青年……)
高木(……)
高木「!」
高木「あー、そこのベンチに腰掛けているキミ!」
兄「?」
兄「……」 キョロキョロ
兄「…………もしかして、俺ですか?」
高木「そう、キミだよキミィ! まぁ、とりあえずこっちに来なさい」
兄「は、はぁ……」
兄(何だろうこの人……)
高木「ほう、なんといい面構えだ……」
高木「ティンときた!」
兄「?」
兄「えーと、あなたは一体……?」
高木「おお!すまない、私としたことが少し興奮していたようだ……」
高木「私は高木、この近くの事務所の社長だ。あ、これ名刺ね」 スッ
兄「あ、どうも…………芸能事務所『765プロダクション』……?」
高木「そう! いや実はね、今ウチの事務所では優秀な人材を募集中なんだ」
高木「私自身、人を見る目はあると自負しているからね。こうやって歩きながら勧誘してまわっているんだよ」
兄「そうなんですか」
高木「そして今……こうしてキミを見つけた」
高木「私の目に狂いがなければ、キミは間違いなく我々が探し求めていた人材なんだ!」
高木「どうだろう、ウチで働いてみる気はないかい?」
兄(な、なんだかとんでもなく急な話だな…………けど、仕事のない今の俺にとってはまたとないチャンスなのかも……)
兄「あの、具体的にどんな仕事をするんですか?」
高木「うむ、キミにはウチに所属しているアイドルのプロデューサーをやってもらおうと思っている」
兄「へ……?」
兄「あ、アイドル……?」
高木「実はね、ウチには将来有望で個性的なアイドルがいるのだがね、彼女たちを売り出す人手が不足しているんだ」
高木「どうだい、やってみてはくれないかね?」
高木「こちらとしては是非ともキミに燻っている彼女たちを助けてやってほしいのだが……」
兄「……」
兄「……俺自身、アイドルや芸能界に関する知識なんてほとんどありません……」
兄「そんな俺でも、力になれるのなら」
高木「おお! やってくれるかね!」
兄「ただ少し、お願いしたいことが……」
高木「? 言ってみたまえ」
兄「実は……」
――
高木「…………なるほど」
高木「つまり、キミは961プロにスカウトされた妹、我那覇響くんには内緒でこちらにやってきた、と……」
兄「はい」
高木「ふむ……黒井がスカウトしたとなると、キミの妹さんは並外れたアイドルの素質を持っているということなのだろう」
兄「あいつがアイドルに向いているのかどうかは俺には分かりませんが……」
兄「ただ……あいつが家を出て、一人でやっていくと決めたのなら、今こうしてここにいる俺はあいつの決意や目指す夢の邪魔でしかないと思うんです……」
高木「しかし、心配でもある……」
兄「はい……だから、我那覇響の兄としてではなく、別の人間として雇ってほしいんです」
高木「……うむ、そういうことなら構わないよ」
高木「そのほかにも困ったことがあれば喜んで協力しよう」
兄「ありがとうございます!」
高木「いやぁ、にしても……」
兄「……?」
高木「キミたち兄弟はきっと、似た者同士なんだろうねぇ」
兄「? ……は、はぁ……」
高木「ハッハッハ、まぁ、これからよろしく頼むよキミィ!」
――――――
――――
――
兄(まさか俺がアイドルのプロデューサーだなんて……)
兄(響が知ったら、なんて思うだろうな)
兄貴なんかにアイドルのことが分かるはずないだろっ!
兄(…………)
兄(……がんばらないとな…………)
――
兄(高木社長からは1時頃に事務所に来るようにと言われた)
兄(それまでにこっちの用事も済ませとかないと)
兄「とりあえず床屋にいこう」
兄「よし、そんなに切らなかったけど雰囲気は変わったかな?」
兄「アホ毛もなくなったし」
兄「次は眼鏡だが……おっ」
兄「あんなところによさげな店が。あそこにするか」
兄(別に目は悪くないけど……もし響に顔を見られたら大変だからな)
兄(とりあえず、伊達メガネを……)
兄(オシャレするためじゃないし、こんなのでいいかな?)
?「わわっ、どいてください!」
兄「え?」
どんがらがっしゃーん!
兄「いてて……」
?「あぁっ! すみません、大丈夫でしたか!?」
兄「うん、俺は大丈夫だよ……キミのほうこそだいぶ派手に転んでたけど大丈夫?」
?「はい! 私は普段から転びなれてるので大丈夫です!」
兄「そ、そうなんだ……」
兄(変わった子だなぁ……)
?「あー、でもここの棚の時計がそこらへんに散らばっちゃいましたね……」
兄「ああ、俺も棚に戻すの手伝うよ」
?「す、すいません、ありがとうございます」
?「あれ…………」
兄「ん?」
?「すいません……この時計って、時間あってますか……?」
兄「んー……うん、正確みたいだけど」
?「」
兄(な、なんか分かりやすいくらい顔色が悪くなったな……)
?「ど、どうしよう……!」
兄「どうかしたの?」
?「い、いえ! ちょっと時間の待ち合わせがあって……」
兄「ああ、なるほどね」
兄「いいよ、ここは俺がかたづけとくから」
?「えぇ!? で、でも悪いですよ!」
兄「いいって……ほら、時間に間に合わなくなっちゃうよ」
?「っ! あ、ありがとうございます! 今度必ずお礼しますので!」
兄「はは、分かったよ。今度は転ばないよう気を付けてね」
兄(いやぁ、ほんとに変な子だったな)
兄(名前も聞いてないのに、今度必ずお礼しますって……)
兄(響も妹ながら変な奴だとはずっと思ってたけど、あの子もなかなか……って失礼か……)
兄(でも可愛い子だったな)
兄(見た感じたぶん歳は響と同じくらいかな?)
兄「……おっと、俺もそろそろ事務所に向かわないと」
兄(時間はまだ余裕があるけど、はっきりとした場所も分からないし早めに行っておこう)
兄「えー……と、地図だとこの辺だよな」
兄「…………」
兄「……それらしき建物はないけど……」
兄「! うまそうな匂い……」
兄(近くに食事処でもあるのか……そういえば昼飯はまだだったな……)
兄(……) キョロキョロ
兄(……ここか……名前は、たるき亭……)
兄(…………まぁ、まだ1時まで時間もあるし、さっさと済ませればいいだろう)
兄(ついでに店の人に765プロの場所を聞けばいいし)
ガララ
定員「いらっしゃいませぇー」
定員「こちらがメニューになります」
兄(随分と可愛い声の定員さんだな……)
兄(…………)
兄(……うーん、さんま定食ってのもおいしそうだが、レバニラ定食ってのも捨てがたい……)
兄(いや、レバニラ定食だと結構匂いが残るかな……)
兄(初めて職場に行くわけだから、第一印象がニラの匂いとかまずいよなぁ)
兄(ここはさんまにしておくか……?)
定員「お待たせしましたぁー、サバ味噌定食です」
?「うわぁ、おいしそう! いただきまーす!」
兄(サバ味噌定食! そういうのもあるのか)
兄「すいません、俺にもサバ味噌定食を」
定員「はーい、サバ味噌追加でーす」
ガララ
兄(うまかった……いやホントにうまかった)
兄(今迄生きてきた中で一番うまいサバ味噌だった)
兄(また今度来よう)
兄「ふぅー……」
兄「……」
兄「あ、765プロの場所聞き忘れてた……」
兄(しまったなぁ……戻って聞けばすぐだけど……)
兄(そのためだけに今出てきた店の中に戻るってのも……)
兄(うーん……)
ガララ
?「はぁー、おいしかった。やっぱりたるき亭が一番ね」
兄(あ、さっきサバ味噌定食を頼んでた人だ……)
兄(さっきはちらっとしか見てなかったけど、随分ときれいな人だな……) ジー
?「?」
?「あのぉ、さっきたるき亭にいた方ですよね」
?「私に何か御用ですか?」
兄(やべ、ジロジロ見すぎたか!?)
兄「あぁいや、随分ときれいな人だなぁって……ハハ……」
兄(ああ! ヤバい、テンパって変なこと口にしてる! これじゃナンパみたいじゃないか!)
?「ピヨォッ!?」
兄「!?」
?「どうして……いやでも……まさかこれがモテ期……? ついに私にも春が……?」 ブツブツ
兄(なんだこの人……突然奇声を上げたかと思ったら、なんかブツブツ独り言言ってる……)
兄「あ、あのー」
?「……ハッ! は、はい! なんでしょうか!」
兄「この近くで765プロダクションって事務所の場所を知りませんか?」
?「え? 765プロ?」
?「765プロでしたら、このたるき亭の上ですよ」
兄「へ?」
兄「あ、ホントだ……」
兄(黄色いビニールテープで765って書いてある……)
兄(なんか思ってたイメージと違うな……)
?「もしかして765プロに御用ですか?」
兄「あ、はい。今日、そこの社長に呼ばれてて……」
?「……あっ! もしかして、新しいプロデューサーの方ですか!?」
小鳥「私、765プロの音無小鳥といいます! お話は社長の高木から伺っています!」
兄「765プロの……? ああ、アイドルの子か……どおりで……」
小鳥「!」
小鳥「アイ……ドル……!?」
小鳥(まさか、私のことをアイドルだと思ってる? いや、そんなまさか……いや、でも……!)
兄「?」
小鳥「と、とりあえず事務所までご案内しますね!」
兄「あ、よろしくお願いします、音無さん」
小鳥「私のことは小鳥ちゃんって呼んでください! あ、いっそのこと小鳥でも……!」
兄「あはは……じゃ、じゃあ小鳥ちゃんで……」
小鳥(ピヘヘヘヘ……)
コツ コツ コツ
小鳥「……」
小鳥「そういえば、プロデューサーさんはおいくつなんですか?」
兄「俺ですか? 俺は19です」
小鳥「若ァッ!!!」
兄「!?」
コツ コツ コツ
小鳥「すみません……ここのエレベーター壊れてて……」
兄「いえ、大丈夫ですよ」
兄(小鳥ちゃんは女の子なのに随分と体力あるんだな。やっぱりアイドルは違うな)
小鳥「はい、ここが事務所ですよ」
兄「ここが……」
兄(な、なんだか緊張してきた……)
小鳥「じゃあ、開けますよ?」
兄「は、はい!」
ガチャ
パンパパンパン!
兄「うわっ!」
亜美「いらっしゃーい!」
真美「765プロへようこそー!」
やよい「ようこそ~!」 パーン
兄「え? え?」
真「あれ? 小鳥さんも一緒?」
小鳥「実はたるき亭で一緒だったのよ~」
伊織「ふーん、こいつが私たちのプロデューサーになるわけね」
雪歩「うぅ~……男の人……」
千早「歌や音楽の知識のある人だといいのだけど……」
?「…………あれ?」
高木「ハッハッハ、いやぁ、よく来てくれた!」
高木「ようこそ!わが765プロへ!」
兄「あの、これは一体……?」
小鳥「実は今日プロデューサーさんが来るのはみんなには内緒だったんですけど……」
高木「私が今朝うっかり口を滑らせてしまってね!」
亜美「みんなで歓迎パーティしようって思ったんだけど、知ったのが今朝だったからバタバタしちゃってて……」
真美「真美たちが飾りつけをしてる間に、ジャンケンで負けたはるるんにクラッカーとかを買いに行っててもらったんだ!」
兄「はるるん?」
兄「…………ん?」
兄「キミは確か、雑貨屋にいた……」
?「あーっ!」
?「やっぱりそうだ! 眼鏡かけてるから違うかなって思ってたけど」
?「あの時はどうもありがとうございました!」
千早「春香? 知り合い?」
春香「実は買い出しに行ってる時に私が転んでぶつかっちゃって……」
真「春香はほんとよく転ぶよなぁ」
高木「どうやら天海君のことは知っていたようだね」
兄「ええ、まぁ、名前までは知りませんでしたけど……」
真美「あとここにいないのはりっちゃんとあずさお姉ちゃんだけだね」
亜美「あずさお姉ちゃんにもこまったもんですなぁ~」
伊織「噂をすれば帰ってきたみたいよ」
ガチャッ!
律子「すみません! 遅くなりました!」
あずさ「すみません~、道に迷っちゃって」
小鳥「律子さん、あずささん、おかえりなさい」
小鳥「新しいプロデューサーさん、もう来てますよ」
律子「ええっ!? やだ、ホントだ!」
あずさ「あらあら~」
高木「よし、全員そろったようだね」
高木「じゃあまずは、アイドル諸君から自己紹介をしてもらおうかな」
春香「じゃあまずは私から!」
春香「私は天海春香です!トレードマークは頭のリボン!」
春香「家から事務所まで時間がかかるので、朝早くから遠距離通勤してます!」
春香「え~とあとは……え~……あっ、一日一回転びます!」
亜美「はるる~ん、自己紹介で話すことに困るってどうなの……?」
真美「それに転ぶことが個性って……」
春香「う、うるさいなぁ……」
兄「あ、あはは……」
春香「もう、プロデューサーさんまで笑わないで下さいよぉ!」
兄「天海さんは趣味とかあるの?」
春香「趣味ですか? 私、お菓子を作るのが好きなんです!」
春香「今度、プロデューサーさんにもお菓子作ってきて上げますね!」
兄「そうか、ありがとう。楽しみにしてるよ」
春香「あ、あと……」
兄「?」
春香「私のことは天海さんじゃなくて、春香って呼んでください!」
兄「うん、キミがそれでいいなら、これからは春香って呼ぶことにするよ」
春香「はい! 改めてよろしくお願いしますね!」
雪歩「えぇっと……萩原雪歩といいます……17歳です……」
雪歩「私、ひんそーで……ひんにゅーで……ちんちくりんで……」
千早「くっ……」
雪歩「犬が苦手で……その……男の人も苦手で……」
雪歩「その……その……こんなダメダメな私は、穴掘って埋まってますぅ~!」
真「わぁ! ゆ、雪歩! 穴を掘るのはやめて!」
春香「プロデューサーさん! なんとか雪歩を止めてください!」
兄「え、えぇっ!?」
兄「萩原さん!」 ズィッ
雪歩「ひぃ!」
兄(露骨に嫌がられた……)
兄「は、萩原さん、自分のことっていうのは、どうしてもいいところより悪いところが目にとまっちゃうもんなんだ」
雪歩「え……?」
兄「でもそれは決して悪いことじゃなくて、ちゃんと自分の弱点を知ってるってことなんだ」
兄「今萩原さんには悪いところが際立って見えてるだけで、いいところもきっとあるはずだよ」
兄「だから、今度はキミのいいところを考えてみてくれないかな」
雪歩「…………私……」
雪歩「私、お茶と仕事のことは真剣なんです……!」
雪歩「それだけは……はっきり言えます……!」
兄「うん、なにか真剣になれることがあるのは立派なことだ」
兄「これからも自分のいいところを探していけるといいね」
兄「俺もできる限り手伝っていくからさ」
雪歩「は、はい……!」
亜美「何が嫌いかより 何が好きかで自分を語れよってやつだね!」
真美「兄ちゃんいいこと言うねー!」
伊織「そうかしら……私にはただ自分に酔ってるようにしか見えないけど」
真「伊織!」
やよい「うっうー! 高槻やよいです!」
やよい「家は貧乏ですけど……それでも、元気にお仕事頑張ります!」
やよい「プロデューサー、これから一緒に頑張っていきましょうね!」
やよい「よろしくお願いしまーす!」
兄「ああ、こちらこそよろしく頼むよ高槻さん」
やよい「私のことはやよいでいいですよー」
兄「そうか? じゃあ、やよいは好きな食べ物とかあるかい?」
やよい「好きな食べ物……ですか……? う~ん……」
春香「やよいといったらもやしってイメージだけど」
やよい「もちろんもやしも好きですよー!」
兄「もやし?」
兄「もやしか……確かにおいしいよな、安いし」
やよい「プロデューサーももやし好きなんですか?」
兄「うん、俺の家のゴーヤーチャンプルーに入っててさ、よく食べてたよ」
兄「ほかにもソーキそばとかに盛ったりしてさ」
やよい「どっちもおいしそうです!」
兄「ああ、妹が料理得意だから、よく作ってくれてたんだ」
亜美「へー、妹がいるんだ!」
真美「確か二つとも沖縄の料理だよね? もしかして兄ちゃん、沖縄から来たの?」
兄「ん?あー……えっと……」
兄(しまった……つい口を……) チラ
高木「……」 コク
兄「…………まぁ、そんな感じかな……?」
亜美・真美「ふーん」
伊織「水瀬伊織、15歳よ」
兄「……」
伊織「……」
兄「……」
兄「えっ、終わり?」
伊織「何?」
兄「い、いや……」
伊織「……」
伊織「知りたいことがあるんだったらアンタから質問しなさいよ」
兄「あ、ああ、そうだな……」
兄「水瀬さんの得意なことは何かな?」
伊織「何でもできるわ、仕事も受けたらなんだってこなすつもりよ」
伊織「ビジュアルだってほかのアイドルたちに引けを取ってないって自負してる」
兄「そ、そうか……」
兄(すごい自信だな……実力こそまだわからないが、彼女の言う通り確かに可愛い)
兄(性格は、別として……)
伊織「あと……」
兄「?」
伊織「水瀬さんって呼ばないで」
兄「え……じゃあ、伊織ちゃん?それとも伊織?」
伊織「いきなり馴れ馴れしいわね」
兄「えぇ……じゃあ何て呼べば……」
伊織「そうね……」
伊織「…………伊織……様、かしら」
兄「様ぁ!?」
伊織「冗談よ、伊織でいいわ」
千早「名前は如月千早です」
千早「アイドルに興味はありません」
兄・春香「えぇぇっ!?」
千早「ですが、もしも歌えるチャンスがあるのなら……」
千早「クチバシだろうとなんだろうと付けてでも頑張ります」
兄「クチバシ……?」
亜美「前に受けた仕事にクチバシをつけて歌うっていうのがあって」
真美「やめとこうって言ったんだけど、それで歌えるのならって……」
兄(歌えれば何でもいいのか……?)
春香「じゃあ胸パッd……」 のヮの
伊織「やめておきなさい」
千早「やるからにはどのようなことでも全力を尽くします」
兄「そうか」
兄「なるべくキミの望む仕事が取ってこれるよう、俺も頑張るよ」
千早「はい、よろしくお願いします。プロデューサー」
兄「ああ、よろしくね」
真「ボクの名前は菊地真といいます! ダンスが結構得意です!」
兄「ダンスか、確かに得意そうな見た目だね」
真「……それって褒めてます?」
兄「も、もちろん褒め言葉で言ったつもりだよ。元気がよさそうだなぁって」
真「むー……」
兄「あー……ところでさ、キミってすっごくモテるでしょ」
真「ええ、モテますよ…………相手は全員女の子ですけどね……」
兄(やっぱりな。次郎にそっくりだし、そりゃモテるよ)
兄(次郎もモテモテだったからなぁ……)
真「はぁ……白馬に乗った王子様……いないのかなぁ……」
兄「あはは……さすがに白馬に乗った王子様を見つけてくることはできないけど、キミの魅力を十分に発揮できるような仕事を俺が見つけてくるよ」
兄「そしたらきっと、キミの魅力に気付いたキミのだけの王子様も見つかるんじゃないかな」
真「……ホントですか……?」
兄「まぁ、俺にはそれくらいしかできないから、あとはキミのがんばり次第だよ」
真「そうですね……よーし!」
真「これからバリバリ気合い入れて、頑張っていきましょう!」
兄「うん、一緒に頑張ろう、菊地さん」
真「真、で大丈夫ですよ! よろしくお願いしますね、プロデューサー!」
あずさ「三浦あずさといいます。おっとりしてるといわれます」
あずさ「あと、私よく道に迷ってしまうのでみんなに迷惑をかけてしまって……」
あずさ「さっきも事務所の場所が分からなくって、律子さんに迎えに来てもらったんです」
兄(事務所の場所も……!?)
あずさ「プロデューサーさんにもご迷惑をおかけすることになると思います」
兄「ああ、いえ、そんな……そういったこともプロデューサーの仕事ですから」
兄(たぶん……)
あずさ「私は一応最年長ですから、もっとしっかりしなきゃって思うんですけど……」
律子「大丈夫です、私たちがみんなでカバーしていけばいいんですよ!」
春香「そうですよ! 私たちみんなで765プロなんですから!」
兄「俺もこれからここの一員なわけですから、どんどん頼ってくださいね」
あずさ「あらあら~、ありがとうございます、律子さんに春香ちゃん、プロデューサーさんも」
あずさ「どうぞよろしくお願いしますね」
亜美「亜美です!」
真美「真美です!」
亜美・真美「二人合わせて亜美真美でーす!」
真美「少し前まで変わりばんこでアイドルしてたよ」
亜美「今は髪型がお互い違うからバレちゃうけどね」
兄「そ、そんなことしてたのか……」
亜美「ねぇねぇ、兄ちゃんの妹っていくつなの~?」
真美「かわいい~?」
兄「ぐっ、まだそれを引っ張るのか……兄の誕生日も祝ってくれないような妹だよ」
真美「へ~、仲良くないの?」
兄「いや……ていうか、今は双海さんたちの自己紹介の番だろ?」
亜美「ぶ~、けち!」
真美「それに双海さんじゃなくて、真美たちのことは名前で呼んでよね!」
亜美「なんていうか、たにんぎょーぎってカンジがするよね」
兄「わかったわかった、よろしく、亜美、それに真美」
亜美真美「よろしくゥー!」
律子「私は秋月律子です。あなたと同じくこの765プロでプロデューサーをしています」
兄「え? アイドルじゃあないんですか?」
律子「あ……ええ、まぁ、一時期やっていたこともありましたけど」
律子「私にはこっちのほうが向いてますから」
兄「そうなんですか」
兄(もったいない気がするけどなぁ……)
律子「……」
高木「そして私はこの765プロの社長、高木だ」
高木「もう私のことを説明する必要はないね」
高木「ああ、それとキミももう知っているかもしれないが、765プロの事務員である音無君だ」
兄「事務員? 小鳥ちゃんが?」
亜美「小鳥……!?」
真美「ちゃん……だと……!?」
小鳥「しまったピヨ……!」
――
高木「つまりキミは音無君のことを765プロの現役アイドルだと勘違いしていたということかね?」
兄「ええ、そのようですね」
小鳥「ピヨ……」
小鳥(一時の気の迷いのせいで恥かいたピヨ……)
小鳥(しかも現役アイドルたちの前でなんて……)
亜美「ぬかったな、ピヨちゃん!」
真美「こんな所で辱められる己の身を呪うがいい!」
小鳥「ピヨォ……」
高木「それじゃあ、最後に」
高木「プロデューサー君から一言、よろしく頼むよ」
兄「はい」
兄「えー、今回、この事務所に勤めさせていただくことになり、誠に……」
亜美「ちょっと兄ちゃ~ん!」
真美「全然おもしろくないよ~?」
兄「ぐっ……ごほん、まぁ、俺はこの業界のことはまだまだ何も知らない」
兄「最初のうちは頼りないかもしれないけれど、キミたちの力になれるよう、精いっぱい努力するつもりだ!」
兄「夢はみんなまとめてトップアイドル! よろしくお願いします!」
ワー ワー ガンバリマショーネ! ウッウー!
伊織「…………」
伊織「……みんなまとめて……ね……」
―――――――
―――――
――
今日はここまで
序盤の書き溜めはあるんで、明日も投下します
眠いので寝ます。おやすみなさい
あと、亜美真美誕生日おめでとう
乙
続き楽しみ
再開します
兄「なんでだ……」
真「何がですか?」
春香「あ、プロデューサーさん、クッキー焼いてきたので食べませんか?」
亜美「わーい、クッキー!」
真美「いっただきー!」
兄「なぁ、今迄もこんな感じだったのか?」
真「こんな感じ……?」
春香「どんな感じですか?」
兄「ホワイトボードだよ、ホワイトボード」
兄「その名のとおり真っ白だ」
真「仕方ないですよ、仕事がないんですから」
兄「どうしてだ……何故……」
真美「オーディション、全滅だったからね~」
兄「何がいけなかったんだ……? 外回りだってちゃんとしてたし……」
春香「もっと別の部分に問題があるとかですかね?」
亜美「別の部分? 例えば?」
春香「例えばって聞かれるとちょっと分かんないけど……」
兄「別の部分……か……」
兄(まずいなぁ……こういう時に経験不足だと、どこから手を付ければいいか全くわからん……)
兄「……」
律子「ただいまぁー」 ガチャ
伊織「ただいま」
やよい「ただいま帰りましたー」
亜美「あ、りっちゃんたちおかえりー」
伊織「あれ? アンタたち何してるの?」
真美「見てのとおり仕事がないんだよぉ~」
律子「えぇ、またオーディションダメだったの?」
兄「申し訳ない……俺が何とかしてやんないといけないのに……」
律子「うーん……」
律子「でもこの数は異常ですね……ただの実力不足とは思えないし……」
伊織「ねぇアンタ、なにか考えはあるの?」
兄「えっ? ……えー……と……」
兄「ゴメン、ぶっちゃけどこがダメだったのかもわからなくって……」
伊織「なによ、役に立たないわね」
律子「伊織、そういう言い方はやめなさい。プロデューサーはこの前入ったばっかりなのよ?」
伊織「仕事の相手には関係ない話でしょ?」
伊織「このままじゃ本当に仕事がゼロになるわよ」
やよい「そうなったらお給料が貰えなくなっちゃいます~!」
真美「まさか、事務所がつぶれちゃう!?」
律子「まだそこまでは切羽詰まってないわよ……」
伊織「でもずっとこのままならいずれそうなるわ」
亜美「こんなときにミキミキがいればなぁ……」
兄「? ミキミキ……?」
律子「…………」
伊織「……」
伊織「……あんな奴に頼らなくたって私たちはやっていけるわ」
真美「でも、いなくなってから仕事がめっきり減ったよね……」
やよい「確かに美希さんはすごかったです……」
真「やっぱり美希がいなきゃ……」
伊織「またアイツの話……? 言ったところで無駄でしょ」
真「っ! そんな言い方ないだろ、ボクたちだって美希のおかげでここまでやってこれたんだから」
伊織「そういうことじゃないの! 今いない奴のこと言ってもしかたないでしょっ!」
伊織「アンタたちがそんなことばっかり未練がましく言ってるからダメなのよ!」
真「だって本当のことだろ!」
春香「ま、まぁまぁ、二人とも落ち着いて……」
律子「そうね、ここでケンカしたってなんの解決にもならない」
律子「何が原因なのかは私たちが考えておくから」
伊織「ふん……今日はもう帰るわ」
律子「送っていきましょうか?」
伊織「いいわ、もうすぐ新堂が来ることになってるから」
律子「そう、お疲れさま」
ガチャ バタン
真「ふんだ、なんだよ伊織の奴……」
兄「なぁ、美希って誰だ?」
春香「え、美希ですか……?」
律子「あぁ……プロデューサーは知りませんでしたね……」
春香「えっと、元々は私たちと同じ765プロのアイドルだった娘です」
真「ボクたちも嫉妬してしまうくらい歌もダンスもビジュアルもどれをとっても完璧で、天才ってこういう人を言うんだなってくらいの……」
律子「美希がこの事務所の中じゃあ一番売れてましたから、実質ここまで765プロがやっていけていたのも美希の活躍が大きいんです」
律子「美希と一緒に共演させたりすることで、ほかの娘たちのファンを少しずつ増やしていこうと思ってたんですけど……」
兄「今はどこにいるんだ?」
春香「……えっと……実は、別の事務所に移籍しているらしいんですけど……」
春香「ハッキリとした名前は分かってないんです……」
兄「……そうなのか」
兄(事務所の名前も分からない……アイドル活動をしてないってことか……?)
兄「……でもなんで……? どうして移籍なんか……」
真「飽きたからだそうです」
兄「……飽きた……?」
『美希! 765をやめるだなんてバカ言わないで!』
『…………ミキね、もう飽きちゃった……』
『飽きた……?』
『飽きたって、アイドルに飽きたってこと……!?』
『ううん、アイドルは続けるよ? まだまだキラキラしたいもん』
『ただ、続けるのはここじゃない』
『どうして765プロじゃあダメなの? 誰一人欠けちゃいけない、私たち全員そろって765プロでしょ!?』
『私たちと一緒じゃだめなの!?』
『うん、ダメなの……今のここじゃあ』
『そんな……』
『…………あ、でも安心していいよ。別のとこで飽きたらまたすぐに帰ってくるの』
『待って美希! 今の私たちにはあなたが必要なのよ!?』
『美希!』
春香「…………」
兄「……そんな……」
真「……」
律子「……はい、この話はおしまい」
律子「とりあえずオーディションの件は私に任せて」
律子「みんなはそれぞれ自分たちにできることを全力で取り組むこと、分かった?」
兄(秋月さんにもほかの仕事があるんだから本当は俺が何とかしなきゃいけないのに……)
兄(……でも、今の俺じゃあ……)
春香「あの、プロデューサーさん」
兄「! な、何?」
真「ボクたち今から自主トレでもしようかなって思ってるんですけど、よければ見てもらえませんか?」
兄「ああ……」
兄(見てもらうなら秋月さんのほうがいいと思うけど……)
兄「……うん、俺でいいなら」
春香「よろしくお願いしますね、プロデューサーさん!」
――
春香「はぁ……はぁ……ど、どうでしたか……?」
兄「ん……うーん、と……そうだなぁ……」
兄(今まで現役アイドルのダンスなんて見たことがないからどうコメントしていいやら……)
兄(とりあえず正直に)
兄「まぁ、もう少しってとこかな……?」
真「えっ」
真「ボク的にはかなりいい感じだったと思うんですけど……どこら辺がダメでした?」
兄「え……いや、ダメっていうか……」
真「…………」
兄「えーと……」
春香「わ、私、正直あんまり真の動きについていけてなかったから……」
兄「あっ、あー……確かに春香は少し動きが遅れてたね」
春香「た、体力が持たなくって……えへへ……」
真「なーんだ、そういうことですね」
真「春香、これから毎日ボクと体力付けるために走りに行こう!」
春香「え、えぇぇっ!?」
兄「あ、あはは、それはいいかもな」
兄「ただ、あんまり張り切りすぎて体壊したりしないように」
真「はーい!」
春香「うぅ……はぁーい……」
兄(……)
兄(あんなもんなのか? アイドルのダンスって……)
兄(別にダメってわけじゃあなかったんだが……)
兄(あくまで素人目戦だけど、正直アイドルスクールに通ってた頃の響と大して変わらないような……)
兄(でもアイドルはダンスができればいいってもんじゃないからな、うん)
兄(……まぁ、それは置いといて)
兄(さっきみたいに、どこがいけなかったか聞かれたときにアドバイスができないっていうのは致命的だよな……)
兄(俺ももっと勉強しないと……)
――
小鳥「ここ二週間足らずでだいぶ仕事が増えましたよね」
律子「そうですね、ホワイトボードに文字が書いてあるってだけで安心できます」
兄「どうやったんですか? 秋月さん」
律子「あの後、みんなのプロフィールや情報、宣材なんかを一通り確認してみたんですよ」
律子「そしたらみんなの宣材写真が原因だってことに気が付いたんです」
兄「宣材写真?」
小鳥「ああ、そういえばこの前みんなの分撮り直してましたね」
兄「写真だけでそんなに変わるなんて……一体前の写真はどれだけひどかったんだ……」
律子「前の写真ですか? えーと……」 ガサゴソ
律子「はい、これです」 ピラ
兄「うわ……なんというか……随分と個性的といいますか……」
律子「実はプロデューサーがここに来る前は人手が足りなくって、仕方なく社長にも手伝ってもらってたんです」
律子「確認してなかった私も悪いんですけど……まさか社長がこんな写真でOK出してるなんて……」
小鳥「社長は人を見る目はあるんですけどねぇ……」
律子「ま、これで無事一件落着ですね」
兄「……本当、すみません」
律子「? 何がですか?」
兄「俺だってプロデューサーなのに、全然役に立てなくって……」
律子「そんなことないですよ、もしかして伊織に言われたこと気にしてるんですか?」
兄「いえ、別にそういうわけじゃあ……」
律子「大丈夫です、人手が一人増えただけでもこっちは大助かりなんですから」
律子「だいたい、最初から何でもできる人間なんていませんし、伊織も最近イライラしててついプロデューサーに当たってしまったんだと思います」
小鳥「伊織ちゃんはいろいろと一人でため込みやすいタイプですからね」
兄「そう……ですか……」
兄(俺も早くみんなに頼られるようにならないと……)
――
兄「さーて、仕事、仕事……」
兄「……」
兄「…………あれ……?」
小鳥「? どうしたんですかプロデューサーさん、ホワイトボード見て固まって」
兄「嘘だろ……うわぁ、これは……!」
小鳥「?」
兄「すみません! 俺ちょっと出てきます!」
伊織「――、それじゃあお疲れ様でしたー!」
伊織「ふぅ……」
伊織(少し疲れたわね……ま、仕事がないより全然マシだけど……)
伊織(少し早いけど帰って休みましょ)
兄「伊織!」
伊織「きゃっ!?」
伊織「あ、アンタ……驚かすんじゃないわよ!」
兄「す、スマン……」
伊織「で、なんでアンタがここにいるわけ? 迎えならいらないわよ、今日はもう直帰するから」
兄「い、いや、実は……って今は時間がないんだ! スマンがとりあえず来てくれ!」 ガシッ
伊織「手ぇ握らないでよ! というかまず説明しなさい!」
兄「説明は車の中でするから!」
伊織「ちょっ、ちょっと!」
兄「……くそっ、信号が……時間がないっていうのに……」
伊織「で、なんで私は車に乗せられてるわけ?」
兄「あ、あぁ……その……俺のミスなんだ……」
伊織「どういうこと?」
兄「実は俺がスケジュール調整をミスしてて、伊織に連続で仕事を入れてしまっててさ……」
伊織「は、はぁ!? この後にまた仕事が入ってるっていうの?」
伊織「時間は?」
兄「1時半には開始……」
伊織「1時半ってアンタ……もう5分もないじゃない!」
兄「わ、分かってる!」
伊織「それに私だって休憩なしじゃあキツイわ、まだ昼ごはんだって食べてないのよ?」
兄「すまない……そこの袋に買っといたお茶とおにぎりが入ってると思うんだが……」
伊織「これから番組の収録だっていうのに、歯にのりでも付いたらどうすんのよ!」
兄(えぇ……)
伊織「それと、私に飲み物を買ってくるときはオレンジジュースにしなさい! 分かった!?」
兄「わ、分かった……」
兄(な、なんとか間に合った……)
兄(……伊織、大丈夫かな……今は何とかやれてるみたいだが……)
兄(お腹が鳴ったりしないだろうか……というより、体力的に大丈夫なんだろうか……)
兄(…………)
兄(……オレンジジュースでも買ってくるか……)
――
伊織「…………」
兄「だ、大丈夫か伊織!」
伊織「うるさいわね……少し疲れただけよ……」
兄「あ、家まで送っていくよ」
伊織「いいわ、もう新堂に連絡してあるから……」
兄「そ、そっか……」
伊織「それよりも……これからはちゃんとスケジュールもちゃんと確認しなさい……」
伊織「それに、私たちアイドルの体調管理なんかもアンタたちプロデューサーの仕事なんだから」
伊織「それじゃ……」
兄「あっ、い、伊織……!」
伊織「なに?」
兄「あの、ありがとう……」
伊織「は?」
兄「今日の俺のミスのせいで無理させちゃったからさ」
兄「伊織が失敗もせずにやってくれたから……」
伊織「だからありがとう?」
兄「うん」
伊織「ふん、なに当り前のこと言ってるわけ?」
伊織「私はアイドルとして、アイドルの仕事をこなしただけ」
伊織「普通自分の仕事ぐらいきっちりとこなすのが当たり前なんじゃないの?」
兄「! ご、ごめん……」
伊織「一つ言っとくけど、次はないと思いなさい」
伊織「今回は何とかうまくやれたけど、次もうまくいくなんて保証はどこにもないんだから」
兄「わ、わかったよ……」
兄「……あ、そうだ……」 ガサゴソ
兄「はい、オレンジジュース」 スッ
伊織「……いらない」
兄「え?」
伊織「私、100%のしか飲まないの」
兄「えぇ……」
伊織「それじゃあ」 スタスタ
兄「……」
――
兄「……」 モグモグ
兄「……はぁ……」
兄「自分の仕事ぐらいきっちりとこなすのが当たり前……か」
兄(その通りだよな……大の大人が、子供に叱られて……恥ずかしいな……)
グワグワ
兄「はは……カモはいいなぁ……楽そうで……」
兄「……」 モグモグ
?「……」
兄「……」 モグモグ
?「……」
兄「……」
?「……」
兄(なんだろ、すごい見られてる……)
兄(高校生くらいか?えらく目立つ髪色だな、顔はすごくかわいいけど)
兄「あの……」
?「……」 グゥ…
兄「……」
?「……」
兄「キミ……お腹すいてるの?」
?「え……」
?「…………うーん……そうかも?」
兄「えっと……余り物のおにぎりでよかったら食べる?」
?「お兄さん、もしかしてナンパ?」
兄「え……えぇ……?」
?「あはっ、冗談なの」
?「おにぎり一つ貰っていい?」
兄「あ、うん、おかかでいいかな?」
?「うん」
兄「……」 モグモグ
?「……」 モグモグ
兄「……」
兄(橋の上でカモを眺めながらおにぎりを貪る男と少女の図)
兄「なんだこれ」
?「何言ってるの?」 モグモグ
兄「いやごめん、独り言だよ」
?「悩みやストレスを抱えてる人は独り言が多いんだって」
?「さっきも、カモはいいなぁとか一人でつぶやいてたの」
兄(た、確かに……最近独り言が増えてるかも……?)
?「悩み事でもあるの?」
兄「悩み事……まぁ、あることにはあるかな……」
?「ふーん……」
?「なら、おにぎりくれたお礼にお兄さんの悩みを聞いてあげるの」
兄「えぇ……?」
?「人に話すと楽になるっていうよ?」
?「まぁ、言いたくないんなら別にいいけど」
兄「うーん……」
兄「……それじゃあ……つまんない話かもしれないけど、聞いてもらっていいかな……?」
?「つまんないのは、ヤ」
兄(どっちだよ……)
――――
――
兄「―――でさ、俺がバヤリースオレンジを買っていったら今度はその子、私は100%オレンジジュースしか飲まないって言ったんだよ」
?「へー」 モグモグ
兄「信じられるか? オレンジジュースにしろって言ったんだからオレンジジュース買ってきたのにいらないだなんてさ……ワガママもいいとこだよ」
?「100%のオレンジジュースしか飲まないなんて、デコちゃんにそっくりなの」
兄「デコちゃん……?」
?「んーと、友達……かな」
?「あっちは多分、顔も見たくないって思ってるだろうけど」
兄「な、なんだかひどい話だな」
?「ううん、仕方ないよ。先にひどいことしたのはこっちだから」
兄「え?」
?「……それよりお兄さん、どう? 少しはすっきりした?」
兄「ん、ああ、そうだね……」
兄(すっきりした……のかな?)
兄(まぁ、だいぶ気分はよくなったけど)
?「あふぅ、なんだか眠たくなってきたの」
兄「あはは、ごめんね、ずっと話聞いてもらっちゃって」
?「おにぎりも貰ったし別にいいの」
ブロロ キッ
?「あ……」
兄「うん?」
兄(少し離れたところに黒塗りの高そうな車が……)
?「お迎えが来たの」
兄「え?」
?「それじゃあもう帰るね、お兄さん」
兄「あっ、ちょっと待ってくれ」
?「どーしたの?」
兄「キミ、アイドルに興味ない?」
?「アイドル……」
兄「あぁ、765プロっていうんだけど……俺、そこのプロデューサーやっててさ……」
?「765プロにプロデューサー? へぇ……」
兄「きっとキミのビジュアルならアイドルも夢じゃあないと思うんだ」
?「んー残念、実はもうアイドルやってるんだ。ほかの事務所でね」
兄「えっ?」
?「バイバイ、またねお兄さん」
兄「あ、ちょっ……」
兄「…………行っちゃったよ……」
兄(あの子、現役アイドルだったのか。どうりで可愛いわけだ)
兄(あのビジュアルなら相当売れてそうだけど、テレビで見たことないんだよなぁ)
兄(こっちに来てからはちゃんとチェックしてるのに……どこの子だろう)
兄(あ、名前聞いておけばよかった……)
一旦、ここまで
また夜に投下します
再開します
――
やよい「うっうー! お疲れ様でしたぁー!」
兄「お疲れやよい、今日の撮影はばっちりだったな」
やよい「はい!」
兄「ちょうどお昼だな、事務所に帰ってもいいがどこかで先に済ませようか」
やよい「あ……でも私、お金が……」
兄「ん? あぁ、大丈夫、それは俺が出すよ」
やよい「えー、悪いですよ……」
兄「いいっていいって、こんなとこぐらい俺にいいカッコさせてくれ」
やよい「そこまでいうなら……じゃあ、今回は甘えちゃいますね!」
兄「ああ、やよいは何か食べたいものあるか?」
やよい「食べたいものですか? うーん……」
やよい「うーん……うーん……」
兄「や、やよい……そんなに悩まなくても……」
やよい「私、普段外食なんてしないから、何を食べたらいいのかわからなくって……」
兄「やよいの好きなものとか食べてみたいものとか、何でもいいんだぞ?」
やよい「食べてみたいもの……」
やよい「……あっ」
兄「ん? なんだ?」
やよい「あの、あそこにあるラーメン屋さん、あそこがいいです!」
ラーメン二十郎
兄「ラーメン? ラーメンでいいのか?」
やよい「はい! 実はラーメンをお店で食べたことってあんまりなくて……」
兄「そっか、じゃあそこにするか」
ガラ
やよい「うわ~! いいにおいです~!」
兄「確かに食欲のそそられる匂いだ」
兄「ここはこの販売機で券を買って注文するみたいだな」
やよい「プロデューサーはどれにするんですか?」
兄「そうだなぁ、俺は豚ダブルってのにしようかな、やよいは?」
やよい「じゃあ私も同じのお願いします」
兄「よし分かった」
定員「ニンニク入れますか?」
兄「あ、お願いします」
やよい「お客さん多いですね」
兄「お昼ってのもあるんだろうが確かに多いな」
?「隣、失礼致します」
兄「あ、はい、どうぞ」
やよい(ふわ、きれいな人……)
兄(銀髪……外人さんか……?)
スッ
”豚ダブル大”
?「メンカタカラメヤサイダブルニンニクアブラマシマシ」
兄・やよい「!?」
兄(なんだ今の呪文……)
やよい(なんだろう……私も言ったほうがいいのかな……?)
定員「お待たせしました」
兄「お、きたか……って、うわ」
やよい「すごい量です……!」
兄(普通のラーメンの倍近くあるんじゃないか?)
ズルズル
兄(うん、おいしい……おいしいが食べても減っている気がしない……)
兄(やよいも食べているが、あれは女の子が一人で食べるには少々きついんじゃないか?)
兄「やよい……大丈夫か?」
やよい「はい! おいしいです!」 ハフハフ
兄「そ、そっか」
兄(意外とやよいって食べるんだな……)
定員「お待たせしました」
兄「!!?」
定員の運んできたラーメンはもはや食べ物には見えなかった。
山のように盛られたもやしは、定員がただお遊びで乗せたとしか考えられない程の量だった。
先ほどまで夢中で箸を進めていたやよいも、おびただしいほどのもやしを見て放心していた。
兄(下のラーメンだけでも俺たちの倍以上はあるぞ……)
?「ふふ、では、いただきます……」
兄(なっ、この量を前にして余裕の笑みを……!)
バクバク ズルズル モグモグ
兄(速い! あの風貌からこのスピード! し 信じられんッ!)
兄(お、俺も早く食べないと麺が汁を吸ってしまう……)
兄「う、うーん……うぐ……ゲップ……」
やよい「けぷ……」
兄(な、なんとか食べきれた……)
?「まこと、美味でした」
兄(あの量で俺たちと同時に食べ終わるのか……)
やよい「すごいです……」
?「ふふふ、貴方もとても良い食べ振りでしたよ」
?「では、お先に失礼いたします」
兄「あ~、食った~」
やよい「量はすごかったけど、とってもおいしかったです!」
兄「あぁ、確かにおいしかったな」
兄(でも、当分ラーメンはいいや……)
兄「にしても、隣に座ってた銀髪の女性、すごいの食べてたな。胃袋どうなってんだろ」
やよい「あの人とってもキレイでしたね!」
兄「うん、顔も整ってたしアイドル……というかモデルとかでやっていけそうな感じだった」
兄(あの上品さからは考えられないギャップ……早食いアイドル……いや、大食いアイドル……?)
兄(普段の美しい佇まいから垣間見られる可愛さ……ギャップ萌……これはいける!)
兄(いや…………いかんな、最近はなんでも仕事に結びつけようとしてる……)
やよい「プロデューサー?」
兄「ん?あぁ……すまない、ちょっと考え事しててな……」
兄「今度はみんなでどっか食べに行こうな」
やよい「はい!」
――
兄(……)
兄(もうこっちに来てから3か月以上は経った……)
兄(765のアイドルたちともそれなりに仲良くなり、ちゃんとやって行けていると思う……だが)
兄(そんなにも時間がたったにもかかわらず、いまだに響を見かけたことがない……)
兄(テレビはおろか、ネット上にも載っていないなんて……)
兄(活動をしていないってことなのか?)
兄(…………響……)
プルルルル プルルルル
兄「ん? 電話……あずささん?」
ピッ
兄「もしもし」
あずさ『あっ、プロデューサーさんですか?』
兄「あずささん、どうかしたんですか? 今日は直帰のはずじゃあ……」
あずさ『実は、お仕事帰りにちょっと散歩に出かけたら道が分からなくなってしまって……』
兄「あ~、なるほど……えっと、なにか特徴的な建物とかありますか?」
あずさ『え~……と、あっ、すっごくオシャレなビルがあるみたいです~』
兄「オシャレなビル?」
あずさ『金と赤のシマシマで、ピンクのネオンがついてます』
兄(その配色はオシャレなのか……?)
兄「わ、分かりました。こちらから迎えに行きますから、とりあえずあずささんはそこからなるべく動かないようにしてください」
あずさ『わかりました~』
ピッ
兄「金と赤のシマシマのビル……」
兄「音無さん、ちょっといいですか?」
小鳥「? どうしました、プロデューサーさん?」
兄「この近くに金と赤のシマシマで、ピンクのネオンのついたビルってありますか?」
小鳥「金と赤のシマシマ……」
小鳥「……」
小鳥「……この近くってわけじゃあないですけど、確かにありますよ」
兄「何て名前ですか?」
小鳥「えぇと……961プロダクションっていう所です……」
兄「! 961プロ……」
小鳥「どうして961プロのことを……?」
兄「あずささんが帰り道で迷ってしまって、電話で場所を聞いたら近くにそのビルがあるって言ってたんです」
小鳥「あぁ、なるほど」
小鳥「それじゃあ事務所から961プロまでの地図を渡しときますね」
兄「ありがとうございます」
ブロロ…
兄(961プロ……)
兄(…………)
キッ
兄「地図だとこの辺だけど……」
兄(あれか……実際見てみるとスゴイ悪趣味なビルだな)
兄(…………)
兄(……それより、あずささんはどこだろう……) キョロキョロ
兄(この近くにはいない……ビルの周辺を回ってみるか)
――
兄「うーん……一通り回ったけどいないな……」
兄「電話してみるか」
プルルルル プルルルル ピッ
あずさ『もしもし、プロデューサーさんですか?』
兄「はい、今ビルの近くにいるんですけど、どこら辺にいますか?」
あずさ『すみません、今はビルの向かいにあるコンビニの前にいます』
兄「分かりました、すぐに迎えに行きます」
ずさ「プロデューサーさん、ここです~」
兄「あっ、あずささん、見つかってよかった」
あずさ「すみません、ご迷惑をおかけして……」
兄「いや、大丈夫ですよ。あずささんもコンビニがあるならわざわざ外で待たなくてもよかったのに……」
あずさ「え~と、実は……」
「ヂュイ」 ヒョコ
兄「え? ハムスター……?」
あずさ「はい、迷っているときに偶然この子が空から降ってきたんです」
兄(空から!?)
あずさ「そのまま放っておくこともできないですし、ずっと一緒にいたんです」
あずさ「コンビニには動物って入れてもいいのかわからなくって……」
兄「な、なるほど……」
「ヂュ」
兄「でも、ハムスターって野良でいるんですかね?」
兄「飼い主から捨てられたとか……もし脱走したとかだったら飼い主が探してるかな」
あずさ「こういうのって交番にもっていったほうがいいんでしょうか?」
兄「そうですね、一応そうしましょう」
あずさ「うふふ、可愛いわね~」
「ヂュヂュ」
兄(ハムスターか……懐かしいな)
あずさ「あら?」
兄「ん?」
「ヂュ」 クンクン
あずさ「どうやらプロデューサーさんのことが気になるみたいですね」
あずさ「一生懸命匂いを嗅いでますよ」
兄「……あずささん、ちょっとその子見せてもらっていいですか?」
あずさ「はい、どうぞ」 スッ
兄「ありがとうございます」
兄「……」
兄(いやまさか……ハムスターなんてこの日本中、数え切れないほどいるだろうし……)
?「ハム蔵ーー!!」
兄「!!!」
響「どこ行った、ハム蔵ー!! 自分が悪かった! 帰って来い、ハム蔵ーっ!」
あずさ「あら、あの女の子……」
兄「……」
響「自分が、キミのピーナッツを勝手に食べたのは謝る! だから帰ってきてよーっ!」
響「あっ!? そこの二人!!」
あずさ「えっと、私たちのことかしら……」
響「この付近でハムスターを見なかった? 脱走しちゃって、もう三時間も探してるんだ!」
あずさ「ハムスター? もしかしてその子って……」
兄「…………こいつか?」
響「ああっ! ハム蔵! よかった、無事だったか!」
あずさ「あら~、飼い主さんが見つかってよかったわ~」
兄「……」
兄「……」
響「?」
響「…………あの、ハム蔵を返してほしいんだけど……」
あずさ「…………プロデューサーさん?」
兄「……感謝の言葉もなしか?」
響「……え?」
兄「ありがとうもなしかって聞いてるんだ」
あずさ「ぷ、プロデューサーさん……?」
響「え、あ……ありがとう……ございます……」
兄「ふん……ホラ」
響「あ……ハム蔵、よかった……大丈夫だったか?」
兄「飼い主ならペットの面倒ぐらいちゃんと見たらどうだ?」
響「なっ……!」
兄「そんなこともできないのなら動物なんて飼うんじゃない」
響「な、なんだよ! いきなり偉そうに!」
あずさ「ど、どうしたんですか? プロデューサーさん、落ち着いてください……!」
?「そのとおり、少しは落ち着いたらどうだね」
響「あっ、黒井社長……!」
兄(! こいつが……黒井崇男……)
黒井「ウィ、こんなところで声を荒げてどうしたんだね響ちゃん」
響「…………な、なんでもないよ……」
黒井「私には何でもないようには見えなかったが……」
黒井「……」
黒井「そっちは弱小事務所765プロの三浦あずさ、そして……」
兄「……」
黒井「……ふん、高木が新しいプロデューサーを雇ったと聞いていたが……」
黒井「やはり弱小事務所、同類同士が集まるようだな」
兄「とんだご挨拶ですね」
あずさ「ぷ、プロデューサーさん……!」 オロオロ
黒井「フッ、安い挑発にすぐに乗るとは……」
黒井(相当頭に血が上っているようだな)
黒井「……まぁいい」
黒井「もう遅い、響ちゃんももう帰りたまえ」
響「わ、分かったぞ……」
兄「……」
弱小事務所のアイドルをフルネームでちゃんと覚えてる黒ちゃんprpr
黒井「さて……」
黒井「貴様たちもここに用事がないのならさっさと帰るがいい」
兄「ええ、言われなくてもそうさせてもらいます」
兄「行きましょう、あずささん」
あずさ「は、はい」
黒井「……」
黒井「最後に忠告しておこう」
黒井「貴様が何者だろうか知らないが……響ちゃんはウチにとって大切な存在だ」
黒井「むやみに近づいたり、ちょっかいでも出せば、最後は貴様自身の首を絞めることになるぞ」
黒井「よく覚えておくことだ……では、アデュー」
――――
――
ブロロ
兄「……」
あずさ「……」
あずさ「…………」
あずさ「……あ、あの……」
兄「すみませんでした」
あずさ「えっ?」
兄「相手は大手事務所の黒井社長……」
兄「俺の軽率な行動のせいで、あずささんに……765プロ全体に、多大な迷惑をかけてしまうところでした」
あずさ「そ、そんなこと……」
あずさ「……」
あずさ「…………ただ……」
兄「?」
あずさ「プロデューサーさんがあの女の子に何故あそこまで言ったのかが……分かりません……」
兄「それは……」
あずさ「確かに、最初にあの子はありがとうとは言っていませんでしたけど、受け取ってから言うつもりだったのかもしれませんよ?」
あずさ「それに……あんなに冷たく言わなくてもよかったと思います」
あずさ「少しだけ、大人げなかったんじゃないかなって……思いました……」
兄「……」
あずさ「…………すみません、私だってプロデューサーさんに迷惑かけているのに……こんな偉そうなことを……」
兄「いえ……あずささんの言う通りですよ……俺も、大人げなかったと思います……」
あずさ「……」
兄「……」
――
兄「……ハァ」
兄「なにやってんだろう……」
兄(結局、響と会ったらケンカした……いや、俺が勝手に吹っ掛けたのか)
兄(俺は何がしたかったんだ……ハム蔵をすぐに渡してやれば、もっといろんな話ができたはずなのに……)
兄(おまけに他事務所の社長にまでケンカ吹っ掛けようとして……)
兄(バカみたいだ……)
兄(……)
兄(俺は……何がしたいんだろう)
兄(元々は響を見守るだのなんだの言って、沖縄を出て)
兄(そのための生活をするためにプロデューサーをやっているはずなのに……)
兄(響の状態を知れたのがこっちに来てから3か月以上たった今日)
兄(この3か月、俺は何をしていた?)
兄(響のことを忘れて、765のプロデューサーをやっていた……)
兄(765プロのアイドルである、彼女たちから頼られる存在になるために)
兄(それ自体は悪いことじゃあない……でも)
兄(それは、俺がすべきことなのか……?)
――
兄「……」
伊織「……なにをボーっとしてんのよ」
兄「え? あ、伊織……」
伊織「アンタ、ここの所ずっと上の空じゃない」
伊織「役に立てるようになりたいんだったら、もっと気合い入れて頑張ったらどうなの?」
兄「あぁ、分かってる……」
伊織「ホントに分かってんのかしら……」
兄「なぁ、伊織……」
伊織「なによ」
兄「……」
兄「俺がこの765プロのプロデューサーをやってる意味ってあるのかな……」
伊織「ハァ?」
兄「……だってさ、俺なんかよりもっと仕事のできる人材なんてそこら中にいると思うんだよ」
兄「俺ってあんまり役に立ててないし……」
伊織「……」
兄「いっそのこと、俺なんか抜けたほうが……」
伊織「バカじゃないの?」
兄「え?」
伊織「それでアンタはどういう答えを待ってるわけ?」
伊織「そんなことない、アンタは役に立ってるって言ってほしいの?」
伊織「それとも、役に立たないからやめろって言ってほしいの?」
兄「……」
伊織「どちらの回答だろうと、人に答えを求めるのは卑怯よ」
伊織「役に立たないからなに? 周りに自分の上がいるからなに? 要はそれを理由に逃げたいんでしょ?」
伊織「意味なんていらないのよ。アンタは今できることを頑張ってればいいの」
兄「……」
兄「……お前ってホントに中学生か?」
伊織「年齢詐称してるって言いたいの?」
兄「いや……大人びてる……なんてもんじゃないなぁと思って」
伊織「アンタがガキっぽいのよ、理由づけてウジウジして……もっと男らしくなんなさい」
兄「あはは、面目ない……」
伊織「あと……」
伊織「どうあがいたってやめられないわよ」
兄「え」
伊織「春香なら多分『誰一人欠けちゃいけない、全員そろって765プロ』って言うと思うわ」
伊織「アンタがこの765プロに入った時点で、アンタも欠けちゃいけない一つになったのよ」
伊織「だからアンタがやめようとしても、春香たちが全力で止めにかかるわよ」
兄「……はは……」
兄「なら……仕方ないかな……」
伊織「ええ、やめるなんて考えないことね」
伊織「それに、もしもやめたくなるほどつらかったら、そんときは私でも誰でもいいから言いなさい」
伊織「一人でだめでも、二人なら何とかなるから」
兄「……」
伊織「なによ」
兄「いや、伊織ってそういうことも言えるんだなぁって……」
伊織「失礼なやつね……ま、今のも春香の受け売りだけど」
伊織(そう、春香は人と人とを繋ぐ、架け橋のよう)
伊織(呪いじみてすら見えるその繋がりがあるからこそ、こうして私たちはここにいる)
伊織(そして、ここにいない美希のことも……きっと春香は……)
伊織「……」
伊織「ま、つらくなったら逃げずに誰かに頼りなさいってこと」
伊織「あ、頼るのとあてにするのは違うからね、そこんところ間違えないように」
兄「あはは……わ、分かってるよ……」
伊織「しっかりしなさいよね、そんなんじゃアンタの夢はいつまでたっても叶えらんないわよ」
兄「俺の夢……?」
伊織「……みんなまとめてトップアイドルにしてくれるんでしょ?」
兄「あ……あー! うん、そうだ!」
伊織「アンタが忘れてどうすんのよ……」
兄「す、すまん……」
伊織「まったく……」
伊織「頼りにしてるわよ? プロデューサー」
高木(……)
高木(ふむ、彼と水瀬くんにはいい機会になったね)
高木(お互い、一人でため込む癖があるから、なかなかどちらも自分のことを話さないけれど)
高木(彼が腹を割ったため、水瀬君も自分の本音を話せていた)
高木(まるで、彼女自身が自分に言い聞かせるように……)
高木(誰かに頼るなど普段の彼女からは考えられないことだが、彼女自身が本当はよく分かっていたんだね)
高木「いやぁ、部屋に入らずドアからコッソリ聞いていてよかった」
小鳥「社長? なにしてるんですか?」
本日はここまで
書き溜めがそろそろなくなりそうなので、少しずつ書き足しながら
明日も夜に投下しようと思います
おやすみなさい
そろそろ投下していきます
――
ブロロ
兄「久々の歌の仕事だな、緊張してるか?」
千早「少しだけ……でも、歌えるのはうれしいです」
兄「ごめんな、俺が仕事をもっと沢山とってこれたらいいんだけど……」
千早「そんな……プロデューサーは私たちのために頑張ってくれているじゃないですか」
千早「今日の仕事だってプロデューサーのおかげです。新曲を発表する場まで設けてもらって……」
兄「あはは、千早は優しいな。ありがとう」
千早「いえ……私は別に……」
キッ ガチャ
千早「案外、早めに着きましたね」
兄「ああ、前に時間のことで伊織に怒られたからな」
兄「それに余裕があったほうが千早も緊張を解きやすいかなって思ってさ」
千早「そうですね、お気遣いありがとうございます」
兄「よし、先に挨拶して…………ん?」
千早「? ……あの車がどうかしましたか?」
兄「…………」
兄(あの黒塗りの車……どこかで見たことあるような……)
兄「……いや……なんでもないよ……」
千早「?」
――
「―――では如月千早さんの新曲、歌っていただきましょう。如月さん、ステージへどうぞ」
千早「はい」
兄(撮影も終盤、千早は……)
兄(……うん、千早もちゃんと緊張が解けてるみたいだ)
~♪
兄(新曲だし、やっぱり最初の印象が大切になってくる)
兄(大きなインパクトがあれば、人はおのずとついてきてくれるからな)
兄(千早も俺が入ったころに比べればだいぶファンが増えたしいい調子だ)
千早「~♪」
――――
――
ワァアアアア
「はい、如月千早さんの新曲――でした。ありがとうございました」
「如月さんの歌はいつ聞いても惚れ惚れするような美しさですね。とても心惹かれる歌声です」
千早「ありがとうございます」
兄(よし! ばっちりだ!)
「――さて、いつもならばここでお別れの時間ですが、実は今回、スペシャルゲストに来ていただいております」
千早「?」
兄(ゲスト? そんなこと一言も聞いてないぞ?)
「出てきていただきましょう、新アイドルユニット、『フェアリー』の3人です!」
兄・千早「!」
ワァアアアアアアアアア!
?「あは! こんにちはなのー!」
?「はいさーい!」
?「ふふ、皆さまごきげんよう」
千早「美希!」
美希「千早さん、お久しぶりなの」
千早「どういうこと!? どうしてここに……それにユニットって……!」
美希「うん、961プロの新アイドルユニット『フェアリー』」
千早「961……!」
千早「…………美希は765プロをやめて、961プロに移籍してたのね……」
美希「……ごめんなさいなの、黒井社長に移籍したことは黙ってるように言われてて……」
千早「……」
兄(美希……あの金髪の子が春香たちの言っていた、星井美希だったのか)
兄(それにあの銀髪の女性……)
兄(ラーメン屋で前に会ったけど、あの人も961のアイドルだったんだな。どおりで美人だったわけだ)
兄(だけど問題は……)
兄(…………)
兄(響……)
兄(……まぁ、そろそろだろうとは分かってはいた……)
兄(だが、まさか……ユニットとはな……)
「今日来てくださったのは961プロダクションの新アイドルユニットメンバー、ミステリアスな雰囲気を醸し出す銀色の女王、四条貴音さん」
「太陽のような笑顔がまぶしい沖縄育ちの元気っ娘、我那覇響さん」
「そしてこの新ユニットのリーダー、天性のカリスマを持つビジュアルクイーン、星井美希さんの3人です」
「ご存知の方も多いと思われますが、リーダーの星井さんは元々は如月さんの現在所属している765プロダクションに所属されていたアイドルで、絶大な人気を誇っていました」
「一時的に活動を休止されていましたが、今こうして961プロダクションのアイドルとして活動を再開されることとなりました」
「それでは早速一曲披露していただきましょう、961プロダクション、フェアリーの『kisS』です。どうぞ」
ワァアアアアアア!
――――
――
千早「……」
千早「美希……」
美希「……千早さん……」
千早「どうして……」
千早「どうして961プロに……」
千早「どうして765プロをやめて961プロに……?」
美希「……」
美希「……キラキラ、するためなの……」
千早「……それは765プロではダメだったの……?」
千早「私たちと一緒じゃあダメだったの?」
美希「ダメなの……だってミキが……」
美希「ミキが765にいたら……」
千早「美希……?」
美希「……ごめんなさい……」
兄「……よう」
響「あっ……」
兄「また会ったな」
響「……そーいえば765のプロデューサーって言ってたな……」
兄「そう嫌そうな顔しないでくれ……この前は俺が悪かった、謝るよ」
響「……」
響「……」 ジー
兄「……なんだ? 人の顔ジロジロ見て……」
響「……なんでもないぞ」
響(やっぱりハム蔵の勘違いだな。確かに顔は似てるけど、兄貴は眼鏡なんてかけてないし髪型だって違うぞ)
響「はぁ……」
兄「?」
黒井「今日も辛気臭い顔をしているな765の貧弱プロデューサーよ」
兄「黒井社長……」
貴音「……」 ニコ
兄「……」 ペコリ
黒井「どうだ、961プロダクションの新アイドルユニット『フェアリー』は」
黒井「どこぞの弱小事務所の小娘たちとはビジュアル、ボーカル、ダンス、全てにおいて比べ物にならんだろう?」
黒井「まぁ、どこの事務所とは言わんがなぁ、ハーッハッハッハ!」
兄「……」
兄「……そうですね……今の765プロじゃあ到底太刀打ちできないでしょう」
響「!」
黒井「……」
黒井「…………貴様……」
兄「……けど」
兄「今の765プロでは無理でも……765プロは……俺たちは、これからもっともっと強くなっていきます」
黒井「フン、フェアリーは今日始動したユニットだぞ?本当にこれからなのはフェアリーのほうだ」
黒井「貴様たちがいくら打倒フェアリーを目標として努力し、力をつけたところで、フェアリーの三人はその遥か上を行くだけよ!」
兄「いえ、俺たちの目標は打倒フェアリーではなく」
黒井「……?」
兄「みんなまとめて、トップアイドルです」
黒井「……」
兄「……」
黒井「……くくっ」
黒井「ハァーッハッハッハ! ……みんなまとめてトップアイドルだと?」
黒井「面白い……」
黒井「フェアリーを倒すこと……それは、トップアイドルも同義語」
黒井「しかし、それは永遠に叶わない……なぜなら玉座はただ一つ!」
黒井「そして! その玉座は真の王者たる、我らフェアリーのものだからだァッ!」
黒井「精々足掻くがいい、貧弱プロデューサーと不愉快な仲間たちよ」
黒井「では、アデュー!」
アニマスやゲームでもにぃに呼びしてたはずだがな
SPツン響は兄貴とも言うぞ
貴音「それでは失礼いたします……」 ペコリ
兄「……」 ペコ
響「……」
兄「……またな、響」
響「べー」
兄「……」
兄(行ったか……)
兄(前回会った時はただいやみったらしいだけのおっさんかと思ったけど、予想以上に変な人だった)
兄(それよりも……フェアリー……確かにすごいユニットだ……)
兄(一人一人のスペックが超人的で、それが三人もいたんじゃあホントに完璧に見える)
兄(だが、たとえそんな相手でも超えていかなきゃトップアイドルにはなれないはずだ)
兄(…………そういえば黒井社長は変なこと言ってたな……)
『フェアリーを倒すこと……それは、トップアイドルも同義語』
兄(フェアリーを倒すことが……トップアイドル……?)
兄(……まぁいいや、とりあえず今日は帰ろう)
兄「そういえば千早はどこにいるんだ?」
千早「……」
兄「お、いたいた」
兄「おーい、千早」
千早「……」
兄「? ……千早?」
千早「え……あ、プロデューサー……」
兄「大丈夫か? 呼んでもぼーっとしてたけど……」
千早「すみません……少し疲れたみたいです」
兄「そっか、じゃあ事務所じゃなくて家に直接送ろうか?」
千早「はい、お願いします」
ブロロロ
兄「今日はよかったよ。緊張もしてなかったみたいだし、しっかりと声が出てた」
千早「ありがとうございます……」
兄「突然の新ユニット発表で、少しインパクトは弱まってしまったかもだけど、本来の力は出せていたからきっとファンも増えるはずだ」
千早「そう……ですか」
兄「……」
千早「……」
兄「気になるか」
千早「え?」
兄「星井さんのこと」
千早「……」
千早「気にならないわけがありません……」
千早「同じ、仲間でしたから……」
千早「いえ……」
千早「今でも私は……」
兄「!」
千早「…………だめですね……私」
千早「自分の新曲のことよりも、他のことばかり考えてしまうなんて……」
兄「……」
キッ ガチャ
千早「ありがとうございました、プロデューサー」
兄「ああ、今日はしっかり休むんだぞ」
千早「はい」
兄「じゃあ、また明日」
バタン ブロロ
兄(……)
今でも私は……
兄(千早……)
――
小鳥「それじゃあ今日はお先に失礼します、戸締りよろしくお願いしますね?」
兄「はい、お疲れ様でした」
ガチャ バタン
兄「ふー……」 キィ
兄「……」 カチカチッ
♪~絡まる吐息 交わる視線~
兄(フェアリー……発表から一週間、この短期間でぐんぐんと知名度をあげ、今最も注目されているアイドルユニット)
♪~真っ赤なPure cherry 翔ばたく Fairy~
兄(響はこの卓越したユニットの中でも違和感なく、存分に力を発揮できている)
兄(今こうしてアイドルに携わる仕事をして分かったことだが……響は相当な逸材だったんだなと思う)
兄(沖縄にいたころは響の歌やダンスを見てもなんとも思わなかったもんだが……)
兄(……これじゃあまるで親バカ……いや、兄バカだな)
兄「動画見てないで仕事しなきゃな……」 カチッ
兄「あー……」 コキ
兄「肩いてぇ……」
兄「誰か肩揉んでくれねぇかなぁ……」
兄「…………そういや肩もみっていえば……」
――――
――
『にぃにぃ、肩もんであげる!』
『いや、いいよ。別に肩こってねぇし』 カチカチ
『えー、いいじゃん、ちょっとだけでいいからぁ』
『ちょっとだけってなんだよ。そんなに肩もみたいなら父さんの肩もんでくればいいだろ?』 ピコピコ
『たーりーじゃなくてにぃにぃがいいの!』
『んなこと言ったら父さんがかわいそうだろ』
『たーりーはいっつもしてあげてるもん』
『じゃあ母さんは?』
『あ、あんまーは……えっと……』
『なんだよ』
『うー……だからぁ……そのぉ……』
『はぁ……俺忙しいから後にしてくれないか?』
『! ううぅぅー……』
『うわああぁ~! にぃにぃのばか~!』
『えぇ……』
『コラァー! なに響のこと泣かせてんだー!』
『ちがっ、響が勝手に!』
――
――――
兄(ははは……そんなこともあったな……)
兄(あの頃の響は可愛かったなぁ……)
兄(昔の俺と今の俺を交換して肩もんでもらいたい……)
シーン
兄「…………はぁ……」
兄「コーヒーでも飲もう」
カチ ボッ
兄(……そーいやあの日はやたらと肩もみをやりたがってたけど、なんでだっけ?)
兄(思い出せないな……ま、大したことじゃないだろうけど)
――
春香「プロデューサーさん」
兄「ん? どうした春香」
春香「プロデューサーさん明日ってオフですよね?」
兄「そうだけど」
春香「じ、実は私もオフなんですよ」
兄「そっか、よかったな」
春香「そこでですね、い、一緒にお出かけでもどうかなぁって……」
兄「なんか買うものでもあるのか?」
春香「い、いえ、そういうわけじゃあないんですけど、その、遊びにでも……」
兄「んー……」
兄(春香は一応アイドルなわけだし、あんまり男性と一緒に出掛けたりするのはよくないだろう……)
兄「すまん、出掛けるなら他の人誘ってくれ。明日ならたしか千早も休みだろ?」
春香「え……」
春香「あ、あはは……す、すみません、私ったら……プロデューサーさんもオフの時ぐらいゆっくりしたりしたいですよね……」
兄「ん、まぁそうだな」
春香「! ……そ、そうですよね…………じゃあ、プロデューサーさんの言われた通り、千早ちゃんを誘ってみることにします。それじゃあお疲れ様でした……」
兄「あぁ、お疲れさま」
ガチャ バタン
兄「さて、俺はもう少し頑張りますか」
小鳥「ピヨ―!」 バンッ
兄「うわっ、いたんですか音無さん」
小鳥「ええいました、いましたとも! 先ほどの様子、しっかりと見させていただきました!」
兄「先ほどの様子?」
小鳥「春香ちゃんですよ春香ちゃん! 春香ちゃんとプロデューサーさんの会話です!」
兄「ああ、そのことですか。春香も自分がアイドルだっていう自覚が少し足りませんよね」
小鳥「ピーヨォー! プロデューサーさん! バッドですよバァッド!」
小鳥「まるで乙女心が分かってない!」
兄「わ、分かるはずないじゃないですか、男なんですから」
小鳥「ノンノン、そんなんじゃあいつまでたっても相手が見つかりませんよ!」
兄(それを音無さんに言われるのか……)
兄「でも、春香は千早を誘うって言ってましたよ?」
小鳥「カァーッ! プロデューサーさんはそれでいいと思うんですか!?」
兄「いや、いいんじゃないですか?」
小鳥「カァーッ!」
兄(今日、テンション高いなぁ)
兄「でも、遊びに行くって言ってましたし、春香も女の子同士のほうが楽しめるんじゃないですかね」
小鳥「そういう問題じゃあないんです! 春香ちゃんは『プロデューサーさん』と遊びに行きたかったんです!」
兄「えぇ? 何でですか?」
小鳥「何ででもです! とりあえず春香ちゃんに明日一緒に遊びに行くよう誘ってください!」
兄「春香、もう帰っちゃいましたけど」
小鳥「電話でもメールでもいいから誘うんです! 分かりましたか!?」
兄「は、はぁ……」
――
兄「んなこと言われてもなぁ……」
兄「……」
カチカチカチッ
=================================
さっきはごめんな、春香。
断っといてなんだけど、後から考え直してやっぱり明日俺も遊びたくなったんだ。
もしまだ千早を誘ってなかったらでいい。
調子いいやつってカンジかもしれないけれどよかったら返信してくれ。
=================================
兄「……なんか変な文になったが……まぁいいか」
ピッ
兄「……」
ティロン
兄「返信はやっ!」
=================================
まだ千早ちゃんにはメールしてなかったので大丈夫ですよ!
それじゃあ明日、――――に一時に集合でいいですか?
=================================
兄「一時か、事務所の近くだし余裕だな」
=================================
分かった。
行く場所なんかは春香に任せておくよ。
明日、楽しみにしてる。
=================================
ピッ
兄「送っといてなんだが、もっと気の利いた文章が書けたらいいんだがなぁ」
ティロン
=================================
了解です!
明日、楽しみにしててくださいね!
プロデューサーさん、今日はお疲れ様でした。
また明日、おやすみなさい。
=================================
兄「ふむ」
兄「どこかに出かけるなんて久しぶりだな」
兄「お昼といっても明日に響いちゃまずいからな、早めに寝よう」
――
兄(そろそろ着くな、まだ12時半だが……)
春香「プロデューサーさん!」
兄「うおっ! は、春香?」
春香「はい! みんなのアイドル春香さんです!」
兄「いつの間に後ろに……」
兄「というか随分と来るのが早いな」
春香「えへへ、今日はとっても楽しみだったので、つい早く来ちゃいました」
兄「そうか。そういえば今日はどこに行くんだ?」
春香「今日はですね……じゃじゃん! これです!」 バッ
兄「遊園地?」
春香「はい! 遊園地ですよ! 遊園地! 実は最近リニューアルオープンしたばっかりなんです!」
兄「へぇ、ペアで入場料半額か……」
春香「早速行きましょう!」
兄「意外とでかいなぁ。遊園地なんて何年ぶりだろう……」
春香「どれから行きましょうか?」
兄「う~ん、俺はよくわからないから、とりあえず春香が選んでくれるか?」
春香「分かりました! じゃあアレに乗りましょう!」
兄「アレ?」
キャーッ ウワーッ
兄「……」
春香「フリーフォールっていうアトラクションですね! とっても楽しそう!」
兄「ホントにあれに乗るのか……」
春香「? もしかして別のがいいですか?」
兄「いや、どうせ避けて通れぬ道だ……それならばいっそ……」
春香「?」
兄「うぎゃああああああああああああああああああ!」
春香「きゃーっ!」
兄「あ゛あ゛ああああああああああああああああああ!」
春香「いやーっ!」
兄「あばばばばばばばばばばばばば!」
春香「あははははははは!」
春香「いやー、怖かったー!」
兄「」
春香「プロデューサーさん? 大丈夫ですか?」
兄「……ウス……」
春香「顔色がすごいことになってますけど……」
兄「……ダイジョウブデス……」
春香「そうですか? じゃあ次はあれに乗りましょうか!」
バイキング「よぉ」
兄「」
兄「」 ガクガクガク
春香「ふー、バイキングも楽しかったですね!」
春香「あのフワッとした感覚がたまりません!」
兄「」 ガクガクガク
春香「あれ? ぷ、プロデューサーさん? 脚がガクガクなってますけど……」
兄「」 ガクガクガク
春香「す、少し休みましょうか?」
兄「」 コクコク
春香「すみませんでした、まさか絶叫系がダメだなんて……」
兄「いや、いいんだ……」
兄「ごめんな、せっかく遊園地来たってのに」
春香「い、いえ、そんな……遊園地は絶叫もの以外にもいっぱいありますから!」
春香「あ、そうだ! 私、カップケーキ作ってきたんですよ!」
兄「おっ、うまそうだな。食べてもいいかな?」
春香「どうぞどうぞ! あ、プロデューサーさん、飲み物頼みましょうか? 何にします?」
兄「ん? じゃあコーヒーで」
春香「分かりました。すみませーん!」
「おい、バイトの鬼ヶ島君! 今、手が離せないからキミ接客行ってきてくれ!」
「わ、分かりました! あと俺、鬼ヶ島じゃなくて天ヶ瀬です!」
「すいません! お待たせしました! ご注文をどうぞ!」
春香「えっと、コーヒーとカフェラテを一つずつお願いします」
「コーヒーとカフェラテをお一つずつですね! お持ちしますので少々お待ちください!」
兄「うまい! 春香が作ってくるお菓子はホント美味しいな」
春香「ありがとうございます! 実はこれ豆腐を使って作ったんですよ! お砂糖も控えめだし、とってもヘルシーなんです!」
兄「これが豆腐? すごいな !春香はいつもお菓子とか作ってきてくれるけど、料理とかもできるの?」
春香「はい、お母さんが料理するのを手伝ったりしてたので、ある程度の物だったら作れますよ」
兄「へぇ、春香は何でもできるんだな」
春香「な、何でもはできませんよぅ」
兄「いやぁ、でもさ」
春香「はい?」
兄「春香って、料理ができて、気配りもできて、家庭的で、それでいて可愛いし」
兄「なんていうか」
兄「もしも春香と結婚できたら、そりゃあ幸せだろうなって」
春香「!」
春香「そ、それってもしかして――!」
「大変お待たせしました! コーヒーとカフェラテです!」
兄「おっ、丁度よかった。喉乾いてたんだ」
春香「……」
兄「さて、次はどうしようかな」
春香「……」
兄「春香?」
春香「へっ? あ、なんですか?」
兄「いや、次、どれにしようかって」
春香「あー、そうですね、じゃあ……」 チラ
ゴォーッ キャーッ
春香「あれはやめましょうか」
兄「そうだな」
春香「そういえば、プロデューサーさんが行きたいとこってないんですか?」
兄「俺が? う~ん、そうだなぁ……」
兄「……ん! あそこはどうだ?」
春香「あそこ?」
お化け屋敷「やぁ」
春香「お、お化け屋敷……」
兄「季節的にはまだ少しだけ早いけど、面白そうじゃないか?」
「はい、じゃあこのランタンを持って進んでくださいね」
「このランタンには心拍数を測る機能も付いています。出口で係りの者が回収し、どれだけ自分が怖がっていたのかを知ることができます」
兄「へぇ、最近のお化け屋敷はこんなのもあるのか」
春香「うぅ……」
兄「おぉ、中は結構雰囲気あるなぁ。造りも本物の病院っぽいし」
春香「ぷ、プロデューサーさん、待ってくださいよぉ」
「バァッ!」 バンッ
春香「ヒィッ!」 ビクゥッ
兄「あはは、よく見ろって。作りもんだよ」
春香「あ、頭ではわかってても、怖いものはこわいんですよぉ!」
\ うぎゃああああああああああ! / \ めんようなー! /
兄「!?」
春香「いぃっ!……い、今のって……」
兄「今のは仕掛けじゃあないみたいだけど……」
春香「えぇ!?」
兄「前のほうから聞こえたし、先に入ったお客さんか?」
兄(でもどっかで聞いたことある声だったな……)
春香「ひぃ……ひぃ……」
兄「だ、大丈夫か、春香?」
春香「うぅー……ぐすっ……」
兄(が、ガチ泣きしてる……)
春香「ぷ、プロデューサーさん……」
兄「な、なんだ?」
春香「手……握っててもらえませんか……」
兄「手……? こうか?」 ギュ
春香「…………ありがとうございます……」
春香「これなら……怖くても我慢できる気がするんです……」
兄「……」
『にぃにぃ……!』
『なんだよ響、こんなの全部仕掛けなんだから怖くないって。だいたい、お前が入るって言いだしたんだろ』
『うぅー……にぃにぃ……手ぇ握ってて……』
『手ぇ……? なんで?』
『握っててくれたら…………怖いのも、我慢できるから……』
春香「……プロデューサーさん……?」
兄「! い、いや、なんでもないよ」
兄「さ、あと少しだろうし、出口まで頑張ろう!」
春香「は、はい!」
春香「はぁ~……怖かったぁ……」
兄「うん、雰囲気もあって中々怖かったな」
春香「怖かったって言ってる割には随分と余裕そうですけど……」
兄「そうでもないぞ? 怖いとこはちゃんとビビってたし」
「出てこられた方はランタンをこちらに持ってきてください」
兄「ランタンはあそこか。確かどれだけ怖がってたかを確認できるんだったよな」
春香「うー……知りたくない……」
「はい、お預かりいたします。この機械に通すことでどれだけ怖がっていたのかを数値としてみることができます」
1~20 もっと怖がって、どうぞ
21~50 普通だな!
51~70 大丈夫か大丈夫か?
71~90 腰引けスギィ!
91~99 情けない格好恥ずかしくないの?
ピピッ
『36』
兄「俺は普通だな」
春香「そうですね」
ピピッ
『72』
兄「おっ、思ったより高くない。後半から持ち直したか」
春香「う~ん……あと2低かったらなぁ……」
春香「さぁて、次はどれにしましょうか」
兄「何があるんだ?」
春香「そうですねー、絶叫系は……」
兄「……」
春香「……乗らないとして」
春香「他にはミラーハウス、コーヒーカップ、メリーゴーランド……」
兄「この歳でメリーゴーランドはちょっとキツイかなぁ」
春香「まぁ、まだ時間もありますし、一つずつ回っていきましょう」
兄「そうだな」
――――
――
春香「う~ん! 楽しかったぁ~!」
兄「あぁ、遊園地なんて久しぶりだったけど、案外楽しめるもんだな」
春香「はい!」
兄「さ、だいぶ遊んだけど、もう帰るか?」
春香「あっ! 待ってください、もう一つだけお願いしてもいいですか?」
兄「ん? 何か乗りたいものでもあるのか? 言っとくが絶叫ものは勘弁だぞ」
春香「違いますよぉ。観覧車ですよ! 観覧車!」
兄「観覧車? そういえば確かにまだ乗ってなかったな」
春香「乗りましょう!」
兄「なんだ、やけに気合入ってるな」
春香「え? え~と、何と言いますか……その、言いたいことがあるっていうか……」
兄「言いたいこと? ここじゃダメなのか?」
春香「だ、ダメです! それを言うには雰囲気が重要なんです!」
春香「だから乗りましょう!」
兄「わ、わかったよ……」
――
春香「うわぁ~! 見てくださいプロデューサーさん! とっても綺麗ですよ!」
兄「あぁ、夕日がきれいだな」
春香「すごいなぁ……あんなに遠くまで見える……」
兄「…………」
春香「……」
春香「……プロデューサーさんは」
兄「?」
春香「ずっと私たちの味方でいてくれますか……?」
兄「味方……? 急に何を言ってるんだ?」
春香「じゃあ言い方を変えます。ずっと私たちのそばにいてくれますか……?」
春香「ずっと私たちの、プロデューサーでいてくれますか……?」
兄「……」
兄「……それは……」
春香「……ふふっ、冗談です……」
春香「先のことは誰にも分りませんからね! これから先、お互いに別の道を歩んでも、私はプロデューサーさんのこと応援してますよ!」
春香「頑張ってくださいね! プロデューサーさん!」
兄「…………応援してくれるのはありがたいんだけど、先に頑張るのは春香たちだろ?」
兄「星井さんの率いる961プロのフェアリーも出てきたし……」
兄「そもそも、俺はお前たちをトップアイドルにするまでは当分一緒だ」
春香「た、確かにそうですね……わ、私ったら早とちりっ」 コツンッ
兄「……」
春香「……」 のヮの
兄「……ぷっ」
兄「あはは! なんだその顔!」
春香「ちょ、ちょっとプロデューサーさん! いくらなんでも人の顔見て笑うのはやめてくださいよ!」
兄「げほっげほっ!あぁ、すまんすまん」
春香「これでも一応アイドルなんですからね?」
兄「ははは、もちろんわかってるって」
春香「はぁ~……雰囲気が……」
兄「あ、そういえば言いたいことがあるんじゃなかったのか?」
春香「いえ、やっぱりやめます」
兄「えぇ、なんで? 気になるんだけど……」
春香「そうですねぇ……私がトップアイドルになれたら、そのときに言います」
春香「だから、プロデューサーさん!」
春香「みんなで絶対、トップアイドルになりましょうね!」
――
春香「今日は本当にありがとうございました」
兄「いや、こっちこそありがとう。遊ぶなんて久々だったから、いい休日になったよ」
春香「それはよかったです! みんなとも……いつか遊びに出かけれたらいいのになぁ」
兄「そうだな、俺もみんなのスケジュールを調整したりしてなんとかできるようにしてみるよ」
春香「………そう、ですね……お願いします」
春香「……」
兄(? 今日はやたら黙り込むな……)
兄「どうしたんだ……?」
春香「……美希も……一緒にできたらいいのに……なんて……」
兄「!」
春香「私、美希のことはまだ仲間だと思ってます……」
春香「美希はちゃんと理由も告げずに出ていってしまったから……なんだかうやむやなままなんです」
春香「でも私は、美希との関係をこのままで終わらせたくない」
春香「だって、やっぱり私たちは全員そろって765プロなんです……誰一人欠けちゃいけないんです……!」
兄「……あぁ、その通りだ」
春香「!」
兄「春香のその気持ちがある限り、星井さんとの絆は絶対に切れたりしない」
兄「またいつかきっと、みんなで一緒に仲直りできるさ」
春香「……はい……!」
今日はここまで
また明日の夜も投下します
乙
いいゾ~これ
ネタぶちこむのやめろぉ!ナイスぅ!
乙
ピピン板橋さんもアイドルしてるのかな
正統派の長編とか最近じゃ少ないよな、先の展開が楽しみだ
そろそろ再開します
――
兄「ふぁーあ……」
雪歩「だ、大丈夫ですかプロデューサー……?」
兄「ん?あぁ……昨日あんまし寝てなくてさ、少し睡眠不足かも……」
亜美「んっふっふ~、兄ちゃん、夜更かしはいけませんなぁ~!」
真美「さては布団の中に隠れてずっとゲームしてたな~!」
兄「子供か! 俺はちゃんと仕事してたの!」
亜美・真美「キツいジョークだ」
兄「なんで!?」
雪歩「……」
兄「くあ……」
雪歩「あの、お茶どうぞ……」 コト
兄「お、サンキュー雪歩」
雪歩「小鳥さんにも」 コト
小鳥「あら、ありがとう。雪歩ちゃんは気が利くわねぇ、将来はきっといいお嫁さんになるわ」
雪歩「そんな……私にはこれくらいしかできないので……」
兄「いや、人に気が利けるっていうのは大したことだ」
兄「それに雪歩だってだいぶん人気になってきたじゃないか。この前発売したKosmos,Cosmosなんて売れ行きがすごかったんだぞ」
雪歩「それは……プロデューサーが頑張ってくれたから……」
兄「俺だけが頑張ったってあそこまで売れるわけないさ」
雪歩「で、でも私……」
兄「雪歩、こういう時は素直に喜んでいいんだ」
兄「人気が出てきたのも、曲が売れたのも、間違いなく雪歩の頑張りのおかげだよ」
雪歩「!」
兄「これからも頑張っていこうな」
雪歩「は、はい!」
兄「にしても伊織遅いですね」
兄「いつもなら来てる時間なのに……」
小鳥「え? 伊織ちゃんは今日は律子さんと一緒に雑誌の撮影ですけど……」
兄「え」
小鳥「これ、伊織ちゃんのスケジュールです」 スッ
兄「……ホントだ」
兄「……」
兄(マズい……)
プルルルル プルルルル ピッ
律子「はい……あ、プロデューサー殿、どうしたんですか?」
律子「え? 伊織ですか? いますけど……ちょうどそこにいるのでかわりましょうか? 分かりました」
律子「はい伊織、プロデューサー殿から」
伊織「? アイツから……?」
伊織「……かわったわ、何の用?」
兄『なぁ伊織、今日のスケジュールって……』
伊織「私のスケジュール? 3時まで雑誌の撮影だけど……」
兄『だ、だよなぁ……』
伊織「まさかその確認のためだけに電話してきたわけ?」
兄『それがさ……』
伊織「はぁ!? 舞台の仕事!?」
兄『ああ、俺のミスだ……完全にうっかりしてた……』
伊織「これで二度目よ!? うっかりで済まされるわけないでしょこのバカっ!!」
伊織「ダブルブッキングだなんて……どうするつもりなの……!?」
兄『…………どうしよう』
伊織「もー! 肝心なとこで役に立たないんだからっ!」
律子「伊織―、撮影始まるわよー」
伊織「あっ、ちょっと待って! あとはアンタで何とかしなさい! 分かった!?」
兄『えぇっ!? 俺はどうすれば……』
伊織「最悪、どうしようもないときはアンタが直に謝りに行きなさい! そのときは私も後日謝りに行くから!」
ブツッ
兄(……ど、どうしよう……何もいい案が思いつかない……)
兄(くそ……俺が何とかしないと……第一俺のミスなんだし……)
兄(でも、どうすれば……)
つらくなったら逃げずに誰かに頼りなさい
兄(……)
雪歩「あの……」
兄「! お、おお! 雪歩、どうしたんだ?」
雪歩「真ちゃんからプロデューサーにお電話ですけど……」
兄「あ、ありがとう……」
兄(そういえば真も同じ舞台の仕事だったな)
兄「あー、真か?」
真『プロデューサー? 事務所に伊織居ませんか?』
真『電話してもつながらないし……もう舞台の立ち稽古始まっちゃいますよ』
兄「あー、うん、それがだな……」
真『えぇっ!? どうするんですか!?』
兄「いや、ホントにどうしよう……」
真『ど、どうしようって……しっかりしてくださいよ!』
兄「す、すまん……」
真『……まぁ、今日は本番じゃないですから、伊織だけ代役ってこともできますけど……』
兄「代役……」
真『うーん……でも代役だとイメージがつかみにくいんですよね……』
真『台本の読み合わせって言っても感情移入や表情の付け方なんかも大事になってきますから、代役もその役に合ってる人じゃないと気持ちも込めにくいし……』
兄「な、なるほど……伊織は確かヒロインの役だったよな」
真『はい、そしてボクがなぜか主人公……って今はいいや』
真『今日のところはボクが事情を説明して代役を立ててもらいます』
兄「分かった、後から俺もそっちに向かう」
真『分かりました』
兄「はぁ……よし、行くか」
雪歩「プロデューサー……」
兄「うん?」
雪歩「あの、私も連れて行ってもらえませんか……?」
雪歩「私……舞台のお仕事にも興味があって……」
兄「あぁ、なるほどな……うん、実際に見てみるのはいい経験になるだろうし」
兄「それじゃあ一緒に行こうか」
雪歩「はい」
ブロロ
雪歩「この物語って、最後は悲しい終わり方なんですよね」
兄「え? もしかして台本読んだのか」
雪歩「実は伊織ちゃんと真ちゃんが演技の練習しているときに私も他の役を手伝ったりしてたんです」
雪歩「私が劇に興味あるって言ったら二人とも練習に混ぜてくれて」
兄「へぇ、そんなに興味あるなんて知らなかったな」
兄「今度は雪歩にそういった仕事をとってこれるよう頑張るよ」
雪歩「あ、ありがとうございます」
「ダメだダメだ! 菊地、なんだその演技は!」
真「す、すみません!」
「一旦休憩にする。もう一回台本を読み直しておけ」
真「はい!」
真「…………ふぅ……」
真(うーん、厳しい演出家さんだなぁ……まぁ、そのほうがやりがいはあるけどね)
雪歩「真ちゃん」
真「ん?」
真「えぇ!? 雪歩!? どうしてここに……!」
雪歩「プロデューサーにお願いして私も一緒に連れてきてもらったの」
真「プロデューサー?……あっ」
兄「――はい、申し訳ありません! 今回は皆さんにご迷惑を――」
真「……」
雪歩「真ちゃん?」
真「え? ああ、いや何でもないよ」
ゴクゴク
真「ふぅ……」
雪歩「やっぱり演技って難しい?」
真「うん、まぁそれもあるんだけど、今日は女性の人数が足りてないからヒロインの役を別の役の人が代わりにやってくれてるんだけどね」
真「相手が代役だからちょっとやりづらいっていうか……」
雪歩「そうなんだ……」
真「あーあ、代役でもいいからボクもヒロイン役やってみたいなぁ」
雪歩「ふふ……真ちゃんは今の役のほうが似合ってるよ」
真「う、嬉しくないよぉ……」
真「雪歩はいいよね、すっごく女の子っぽいからお姫様とか似合いそうだもん」
雪歩「えぇっ!? わ、私がお姫様なんて、似合わないよぉ……」
真「え~、絶対似合うと思うけどなぁ」
ピピピッ ピピピッ
真「あ、もう時間だ」
雪歩「頑張ってきてね真ちゃん」
真「うん、それじゃあ行ってくるよ」
兄「おっ、いたいた」
雪歩「あ、プロデューサー」
兄「どうだ? 実際に見てみて」
雪歩「はい、どの人も自分の役に入り込んでてすごいなぁって、ただ……」
「ストップ、ストップ! 菊地、もっと台詞に感情をこめろ!」
真「すみません……!」
兄「真……」
兄(俺のせいで……)
つらくなったら逃げずに誰かに頼りなさい
兄「……」
兄(頼る……か……)
兄「……雪歩」
雪歩「? なんですか?」
兄「お願いがあるんだ……」
兄「伊織の役……やってみてくれないか」
雪歩「え?」
兄「嫌ならもちろんいいんだ……ただ、ここで雪歩のことを向こうに知っておいてもらえれば後々こういう仕事がとりやすくなるかもしれないからさ」
兄「それに、雪歩にとってもいい経験になるだろうし……って無責任なことばっかり言ってるけど」
雪歩「……」
兄「俺が頼める立場じゃないのは分かってる。ある意味、俺のミスの尻拭いをさせるようなもんだからな……」
兄(伊織に言ったら、何都合のいいことばっか言ってんのって言われそうだ)
兄「頼む! 雪歩しかいないんだ!」
雪歩「……」
雪歩「私……」
「――やっぱり代役じゃあ難しいか」
「菊地さんすみません、私が水瀬さんの台詞を覚えられてないばっかりに……」
真「いえ、そんな……兼役ですからしかたないですよ、それにいきなりだったし……」
「しかしこのままじゃあ一向に進まないな……一度、人を変えるか」
兄「ちょっといいですか……?」
真「あ、プロデューサー、それに雪歩も……」
「765さん、どうかしましたか?」
雪歩「……」
雪歩「伊織ちゃんの役……私にやらせてもらえませんか?」
「え?」
真「えぇ!? ゆ、雪歩!?」
雪歩「私、舞台の仕事に憧れてて……ご迷惑でなければでいいんです」
兄「俺からもどうかお願いします。きっと雪歩の良い経験になると思うんです」
「……ふむ」
雪歩「台詞は一応憶えているつもりです……」
真「……」
真「ボクからもお願いします」
雪歩「! 真ちゃん……」
「…………」
「分かった、一度試しにやってみよう」
兄「!」
兄「あ、ありがとうございます!」
真「よかったね雪歩!」
雪歩「う、うん!」
「それじゃあ一度台本を読み直してから同じとこ通すぞ!」
――――
――
雪歩「名前がなんだというのでしょう……! バラと呼ばれるあの花は、他の名前で呼ばれても甘い香りは変わらない。だからロミオも、ロミオと呼ばなくても、あの完璧な素晴らしさを失ったりしない……」
雪歩「ロミオ、その名前を捨てて……! そして私をとってください……!」
真「お言葉通りにとりましょう……ただ一言、ボクを恋人と呼んでください。そうすればボクは自らの名を捨て去ることができる……もうボクはロミオではなく、貴方の恋人です」
兄「雪歩も真も、すごい演技だな……」
亜美「迫真の演技だったね」
真美「二人ともはまり役って感じだね」
兄「!?」
兄「亜美、真美、どうしてここに……仕事だったんじゃ……?」
亜美「残念だったなぁ」
真美「トリックだよ」
真美「なーんちって、帰りに寄っただけだよ~」
亜美「いおりんから頼まれたんだ~」
兄「伊織から?」
真美「うん、これを持ってくようにって」 ガサッ
兄「中身は何だこれ?」
亜美「んっふっふ~、知りたい? 知りたい? なんとこれは、かの有名なあのスイーツ!」
真美「今話題の人気急上昇中、売り切れ必須のゴージャスセレブプリン!」
兄「売り切れ必至な…………ん? 紙切れが入ってる……」
『お詫びの品兼差し入れとして演出家さんたちに渡しなさい。』
兄「はは……伊織ってほんとすごいな……」
「よかったぞ、菊池、それに萩原も、初めてとは思えない演技だった」
真「はい! ありがとうございます!」
雪歩「あ、ありがとうございますぅ!」
「もちろん改善の余地はあったが、あれだけ役に感情移入できる人間もそうそういない」
「機会があれば今度はこちらから呼ばせてもらうよ」
雪歩「ほ、本当ですか!?」
真「やったね雪歩!」
兄「よかったな、雪歩」
雪歩「あっ、プロデューサー!」
亜美「いよぅ、やってるな」
真「あれ? 亜美に真美?」
真美「やっほー、まこちんにゆきぴょん」
兄「お疲れ様でした。これ、みなさんで食べてください」
「あ、どうもすみません、ありがとうございます」
亜美「ねぇねぇ、亜美たちの分は?」
兄「いや、ないぞ」
真美「え~! タダ働きだなんて、ありえないっしょー!」
兄「しょうがないだろ、数がないんだし」
兄「帰りに何か買ってやるから、な?」
亜美「ほんとー!? 亜美はね、バナナクレープが食べたい!」
真美「真美はチョコ!」
兄「はいはい」
――
亜美「ヘイヘイ、イチゴも悪かねぇぜ」
真「あー! なにボクのクレープ食べてるんだよ!」
真美「おぉーい、怒ることぁ無いだろ」
兄「今日はありがとな、雪歩」
雪歩「え?」
兄「雪歩のおかげだよ。雪歩が俺の頼みを聞いてくれたから、今日はうまくいった」
兄「本当に感謝しきれないくらいだ」
雪歩「そんな……私はただ言われたことをしただけです……」
兄「それでも、勇気を出してその決断をしてくれたのは雪歩だ」
兄「その勇気によって俺だけじゃなく、真や演出家さん、他大勢の人たちが助かった。今回俺のミスで来れなかった伊織の評判も下げずに済んだ」
兄「それに雪歩は……自分自身の力で、自分の仕事を勝ち取ったじゃないか」
雪歩「!」
兄「自分をもっと誇りに思っていい」
真美「いっただきー!」
兄「あ゛ー! 俺のカスタード!」
亜美「兄ちゃん、カッコつけてると隙だらけだよ~!」
兄「カッコぐらいつけさせろ!」
真「あはは……亜美も真美も元気だなぁ、ボクもう疲れちゃったよ」
雪歩「私もだよ。舞台なんて初めてだったから緊張しっぱなしで……」
真「え? 緊張してたの? 随分と落ち着いてたように見えたけど……」
雪歩「してたよ、ずっと足が震えてて……ヘンに見えてなかったかな……」
真「心配しなくてもそんな風には見えてなかったよ」
真「……なんにせよ、雪歩」
真「おめでとう……っていうのはまだ早いかな……」
雪歩「ふふ……そうだね……」
真「それじゃあ……これからも一緒に頑張っていこうね!」
雪歩「うん!」
ガチャ
兄「ただいま戻りました」
小鳥「あ、プロデューサーさん、おかえりなさい」
兄「みんなを家まで送ってきたので、帰ってくるのが遅れました」
伊織「へぇ……その割には少し時間がかかりすぎじゃないかしら?」
兄「な、伊織!? 直帰のはずじゃ……!?」
伊織「アンタのおかげで私の評判に傷がついたんじゃないかって心配で心配で……」
伊織「さ、今日あったことをキチンと報告をしてもらおうかしら」
兄「え、えぇ……今からか……?」
伊織「当たり前でしょ、もとはアンタのせいなんだから」
兄「う、分かったよ……」
――
伊織「ふぅん、じゃあ雪歩のおかげでなんとかなったわけね」
兄「あぁ、ホント雪歩には感謝しきれないよ……」
伊織「ええ、私も雪歩に会ったら、ありがとうって言っとかないといけないわね」
伊織「にしても、今回もうまくいくなんて……それも前回とは比べ物にならないほどのお釣りも来て……」
兄「まさか……俺のミスが逆に幸運を呼び寄せている……!?」
伊織「バカ言わないで、毎回ヒヤヒヤさせられてるこっちの身にもなりなさいよね」
兄「すまん……」
伊織「たく……大体そんな情けない考えはやめなさい。もともとミスもなければそんな幸運必要ないんだから」
兄「はぁ……もしかして俺がこの事務所に来てからのほうが問題が増えたんじゃないのか?」
伊織「…………そうかもね」
兄「ぐへぇ……半分冗談のつもりだったのに……」
伊織「確かに、アンタのおかげで問題は増えたけど……その代わりに律子の負担はだいぶ減ったわね」
伊織「ま、今日のところはこのくらいでいいわ」
兄「そうか」
兄「今日は悪かったな」
伊織「そうねぇ……」
伊織「本当に悪かったと思ってるなら、私が寄越したゴージャスセレブプリンの代金でも支払ってもらおうかしら」
兄「えぇ!? ま、マジで……?」
伊織「にひひ、冗談よ」
伊織「それじゃあ、私はもう帰るから」
兄「あっ、なら送っていくよ」
伊織「そう? それなら、送って行ってもらおうかしら」
ブロロロ
伊織「アンタ」
兄「ん? なんだ?」
伊織「フェアリーに……美希に会ったんでしょ?」
兄「あぁ、うん」
伊織「……そう……」
兄「星井さんも含めて、フェアリーは非凡な才能を持った人間が集まっている」
兄「ビジュアル、ボーカル、ダンス、全てが俺の見てきた中で最高のユニットだった」
伊織「……くやしいけれどその通りだと思うわ。デビューしてから間もないっていうのにあの人気、並大抵のものじゃない」
兄「あぁ、今の765プロじゃあ到底フェアリーを超えることはできない」
伊織「随分とハッキリ言うのね」
伊織「もしかしてアンタ、諦めるつもり?」
兄「まさか」
兄「みんな、確実に力をつけていっている」
兄「人気が出て、ファンも増えて、様々な仕事をこなして、休む暇もないくらいに忙しくなって……」
兄「今でだめでも、いつか必ず、なれる日が来るって思ってるよ」
伊織「…………そうね」
伊織「そうなるためにも、アンタも頑張るのよ?」
兄「あはは、それはもちろん……っと」
キッ ガチャ
伊織「お疲れさま、ありがと」
兄「あぁ、ゆっくりと休むんだぞ。おやすみ」
伊織「ええ、おやすみ」
バタン ブロロ
兄「……」
兄「休む暇もないくらいに忙しく……か……」
――
ミーン ミーン
亜美「暑い~……」
真美「暑いよぉ……」
亜美「溶けるぅ……」
真美「公害怪獣ヘドロンになるぅ……」
律子「コラ、暑いからってダラダラしないの」
亜美「りっちゃ~ん、なんでエアコン壊れてるの~」
真美「エアコン直して~」
律子「無茶言わないでよ」
ガチャ
春香「た、ただいまぁ……」
兄「ただいま戻りました」
亜美「兄ちゃ~ん、エアコン直してよ~」
真美「男の子は機械いじりが得意なんでしょ~」
兄「さ、さすがに限度があるだろ」
ガチャ
小鳥「あら、プロデューサーさんに春香ちゃん」
兄「あ、音無さん。出てらしたんですね」
小鳥「ええ、アイス買ってきたのでみんなで食べましょう」
亜美「わ~い!」
真美「ピヨちゃん大好き!」
律子「ありがとうございます小鳥さん」
兄「いやぁ、ホント暑いなぁ」
真美「沖縄ってもっと暑かったんじゃないの?」
兄「う~ん……そうでもないよ。もちろん暑いのは変わらないけど」
兄「俺んちの目の前は海だったから風があって多少涼しくはあったかな」
亜美「へぇ~」
春香「海かぁ……」
真美「行きたいねぇ……」
亜美「青い空、白い雲、ああ、海が我らを呼んでいるぅ~!」
兄「……」
兄「…………行くか、海」
亜美「え!?」
真美「ホント!?」
律子「ちょ、ちょっと、プロデューサー!?」
小鳥「あら、いいんじゃないですか。慰安旅行」
小鳥「福利厚生、健康増進も大切なことですから」
律子「小鳥さんまでぇ……もう、社長に何て言われても知りませんよ?」
兄「よし! それじゃあみんなのスケジュールが空いている次の週末に、海に行くということで決定!」
亜美・真美「やったー!」
兄「今ここにいない人には俺から伝えておくから」
春香「……」
――
春香「……」
プルルルル プルルルル プルルルル ピッ
春香「もしもし、私、春香だけど……」
春香「久しぶりだね……」
今日はここまで
明日も夜に投下します
おつ
乙
沖縄の人は時間にルーズだから仕方ないね
沖縄県の出生率は毎年トップだからヤる事はヤってるんだよな…
そろそろ投下します
――
亜美「夏だ!」
真美「海だ!」
亜美・真美「ワイキキビーチだ―!」
兄「日本だっつーの」
あずさ「とってもキレイですね~」
真「ホラ、雪歩も行こう!」
雪歩「あ、待って真ちゃん!」
律子「みんなー、あんまりはしゃいでケガしないようにねー!」
伊織「やよい、日焼け止め塗ってあげるわ」
やよい「ありがとう伊織ちゃん、後から伊織ちゃんにも塗ってあげるね」
伊織「ええ、お願いするわ」
千早(高槻さん、スクール水着なのね……とっても可愛い……)
春香「千早ちゃん?」
千早「! は、春香……何かしら……?」
春香「い、いや、鼻血……」
千早「え? あぁ、暑さのせいねきっと」 フキフキ
春香「千早ちゃんは行かないの?」
千早「私? 私はその……泳ぎはあんまり……」
春香「ふふふ、まぁまぁそう言わずに。せっかく海に来たんだから!」 バッ
千早「あっ、ちょっと春香……! もう、上着返しなさい!」
春香「ここまでおいで~!」
律子「みんな楽しそうでよかったですね」
兄「あぁ、みんな、たくさん楽しい思い出を作ってもらいたい」
兄「これから人気が出て忙しくなったら、こんな風にみんなで遊びに来るってこともできなくなるだろうからな」
律子「確かに……そうですね」
春香「う~ん……」 キョロキョロ
やよい「? どうしたんですか、春香さん?」
真「何か探し物?」
春香「えっと、物っていうより……人?」
伊織「人?」
千早「知り合いでもいるの?」
春香「う~んと、私の知り合いっていうか」
春香「みんなも知ってる人だよ」
?「春香ー!」
春香「あ、美希!」
伊織「!」
千早「えっ!?」
真「どうして美希が!?」
美希「あはっ! みんなお久しぶりなの!」
やよい「ほ、ホントに美希さんですー!」
伊織「美希……なんでアンタがここにいんのよ……」
美希「デコちゃん……」
春香「私が呼んだの」
千早「春香が?」
伊織「……どうして……」
伊織「どうして呼んだのよこんなやつ……!」
真「ちょっ、ちょっと伊織……」
伊織「美希っ! アンタよくも私たちの前にノコノコと顔を出せたわね!」
伊織「アンタが私たちを捨てたおかげで、どれだけ大変だったかわかってるの!?」
美希「……」
伊織「それに……!」
律子「伊織」
伊織「っ!…………律子……」
美希「律子……さん」
律子「久しぶりね、美希」
伊織「……」
伊織「……ふん」
やよい「あ、待って伊織ちゃん!えっと……美希さん、あとからお話ししましょうね!」
美希「うん、やよいもまたあとでね」
律子「……」
美希「……えっと」
律子「……」
律子「美希」
律子「元気そうでよかった」
美希「! う、うん! 律子、さんも」
律子「伊織のことは許してあげて……美希ならわかるでしょ?」
美希「うん、わかってる……大丈夫なの」
真「にしても驚いたよ、ボクたちも知ってる人って言ってたから誰だろうって思ったけど、まさか美希だったなんてね」
春香「海に行くって決まった日、家に帰ってから美希に電話したんだ」
春香「美希たちも一緒にどうかなって」
千早「たち……?」
美希「うん、実はミキだけじゃなくって他の二人も来てるの」
千早「そ、それって大丈夫なのかしら……」
真「人だかりができそうだね……」
律子「で、その二人はどこなの?」
美希「え? えっと……あれ?」
美希「どこだろ」
――
雪歩「うぅ……と、トイレ……トイレはどこ……?」
「おっ! キミキミ!」
雪歩「はいぃ?!」
雪歩(お、男の人……!)
「キミ可愛いねぇ!」
「名前なんて言うの?」
「歳いくつ?」
雪歩「え……えっと……その……」
「まぁいいよ、とりあえずこっち来て遊ぼうよ!」 ガシッ
雪歩「ひぃっ……!」
?「もし……」
雪歩「!」
「え?」
「す、スゲェ! フェアリーの四条貴音ちゃんだ!」
「ほ、ホントだ! 有名人じゃん!」
貴音「海の家なる建物を探しているのですが……どこかご存じありませんか?」
「海の家? 知ってる知ってる!」
「俺たちが案内するよ!」
貴音「感謝いたします。それでは参りましょう」 スッ
雪歩「え……? は、はい……」
雪歩(わ、私も……?)
「ここだよ!」
貴音「ここですか……食欲のそそられる良い匂いがします」
「もしかして貴音ちゃん、お腹すいてるの?」
「そうだ! せっかく海の家に来たんだからさ、俺たちと一緒にお茶でもしない?」
「でさでさ、なんか食べた後どっか遊びに行こうよ!」
貴音「ふふ、それもいいやもしれませんね……」
「ま、マジ!?」
貴音「ええ……ただ、条件があります」
貴音「あちらにある、らぁめんで決めましょう」
「ラーメン?」
「あの『大盛りラーメン、20分で食べられたら無料』ってやつのこと?」
「なんであんなとこにラーメン屋の屋台が……」
貴音「あのらぁめんを誰よりも先に食べ終えた方のみに、本日を供にすることに致します」
貴音「誰よりも先に、ですのでもちろん私よりも先に食べ終えねばなりません」
貴音「では、早速皆で注文しに行くとしましょう」
「よ、よーし、やってやるぜ!」
「おい! お前ら手ぇ抜けよ!」
「バカ! 一位になって貴音ちゃんと遊ぶのは俺だ!」
雪歩(あ、あれ……私、一人になっちゃったけど、もう行っていいのかな……)
雪歩(あっ、あそこにトイレが……!)
コソコソ
雪歩「ふぅ……なんとか間に合ってよかったぁ……」
ザワザワザワ
雪歩「? なんだろう……」
「スゲーぞあの銀髪のねぇちゃん!」
「あの大盛りのラーメンをたった5分たらずで間食しちまったぞ……たまげたなぁ……」
雪歩「!」
貴音「ふふ、まこと、美味でした」
「う、嘘だろ……?」
「俺なんてまだ10分の1も減ってないのに……」
「貴音ちゃん、食べるの早スギィ!」
貴音「では、私はこれで失礼いたします」
「えぇーっ! ちょっ、ちょっと待ってくれよ!」
「お客さん、早食いを諦めるんならラーメン代の五千円を払ってもらいますよ」
「ちっ、ちくしょー!」 ズルズル
雪歩「あ、あの!」
貴音「おや、貴方は確か……」
雪歩「ふぇ、フェアリーの四条貴音さん……ですよね?」
雪歩「えっと……その、さっきはありがとうございました!」
貴音「? はて……私は何もしておりませんが……」
雪歩「……え?」
貴音「私はただ、海の家の近くに美味しいらぁめん屋の屋台が来ていると耳にしたので、海の家の場所を尋ねただけです」
貴音「それが偶然にも、貴方を救う形になったのでしょうね」
雪歩「そ、そうだったんですか……」
――
あずさ「あらあら~、ここはどこかしら~」
あずさ「おかしいわ~、さっきまでプロデューサーさんと一緒だったのに」
?「おーい! ハム蔵ー! どこ行ったんだよー!」
あずさ「あら? あの子は……」
あずさ「響ちゃん!」
響「あれ? あなたは確か……あずささん……?」
あずさ「まぁ! 憶えててくれたのね~、嬉しいわ~」
響「あずささん、ハム蔵を見てないか? 実はまたいなくなっちゃって……」
あずさ「あの時のハムスターちゃん?」
響「うん、今日は別に脱走したとかそういうんじゃないんだけどね」
響「ハム蔵を頭にのせたまま海に潜ってたら、いつの間にかいなくなっちゃって……」
あずさ(そ、それは大丈夫なのかしら……)
あずさ「分かったわ、私も手伝うから一緒に探しましょう?」
響「ほ、ホント!? ありがとう! もう一時間近く探しててさ……」
あずさ(ほ、本当に大丈夫かしら~……)
兄「あれ? あずささんがいない……さっきまで近くにいたのに……」
兄(人が多くて探しづらいなぁ……)
亜美「兄ちゃん、兄ちゃん!」
真美「クラゲ捕まえたよ~!」
兄「そうか、よかったな」
亜美「ちょっと~! 反応が薄すぎるよ~!」
兄「クラゲなんてそこら中ぷかぷかしてるし、大して珍しくもないだろ」
真美「じゃあ何だったら驚くの?」
亜美「ネッシーとか?」
兄「ネス湖でもないのにネッシーがいたらそりゃあ驚くだろうな」
亜美「よーし! 目指せネッシー!」
真美「じゃあ真美はシーサーペント!」
兄「おう、頑張れよ~」
兄(う~ん、あずささんを探しに行きたいところだが……荷物の見張りをしとかなきゃならんしなぁ)
ストン
兄「?」
伊織「……」
兄「どうしたんだ伊織?」
伊織「少し疲れたから休んでるだけよ。文句ある?」
兄「いや別に……オレンジジュースでも飲む?」
伊織「……そうね、いただくわ」
兄「はいよ」
伊織「……」 コク
兄「……」
伊織「……」
兄「伊織」
伊織「なに?」
兄「悩んでるときには、人に話すのがいいらしいぞ」
伊織「……私が悩んでるって言いたいわけ?」
兄「違うのか?」
伊織「……」
兄「別に話したくないならいいんだ」
兄「俺も前に、ある人に話を聞いてもらったら少しだけすっきりしたよ」
兄「聞いてもらうっていうか……ほとんど俺が独り言を話し続けるだけだったんだけどね」
伊織「……そう……」
伊織「……」
伊織「じゃあ、今から私が話すのもただの独り言……」
伊織「自分で言うのも変だけど、私はプライドが高い」
伊織「子供扱いされるのは絶対嫌だし、なんでも自分でこなそうとしてた」
伊織「私は、私自身の力で人よりも上の存在でありたかった」
伊織「そうすれば、人は私に惹かれ、信頼を得ることができると思ったから」
伊織「だから、私は努力した。人から頼られるために、誰にも頼らず自分自身の力に磨きをかけた」
伊織「でも、越えられない壁があった」
伊織「天才、なんでしょうね。恵まれたビジュアル、完璧な運動神経、美しい歌声、そして、人を惹きつけるカリスマ性」
伊織「完敗だったわ。どれにおいても敵うものがなかった」
伊織「あいつの何倍の努力をしても、何倍もレッスンを積み重ねても、何倍も汗水をたらしても、一向に手は届かなかった」
伊織「それは、明確な数字としても表れた」
伊織「ファンの数、仕事の量、CDの売り上げ……」
伊織「敵いっこなかった、だってみんなあいつのことを見てるんだもの」
伊織「敵わないと分かっていながら、惨めにも私は追いかけ続けた……けど」
伊織「あいつならなんだってこなせる、ミスがあってもあいつがなんとかしてくれる」
伊織「みんなの信頼のまなざしが、あいつだけを指していた」
伊織「だから、私は諦めたの」
伊織「みんなと同じ、あいつを頼りにした」
伊織「自分の、もはや意味もなさないプライドも全て捨てて、負けを認めたの」
伊織「あいつのおまけになっていれば、あいつがいつか私を有名にしてくれる」
伊織「あいつについていけば、私も人気になれるって……思ってた」
伊織「でもあいつは裏切った。みんなを捨てて出ていった」
伊織「みんな信じてたのに、みんなが頼りにしていたのに、あいつは自分だけ上のステージに向かっていった」
伊織「腹が立った。あれだけ人を惹きつけておいて、注目の的のままに消えていったあいつに」
伊織「でも一番腹が立ったのは、あいつに負けを認め、自分で勝手に信頼を置いて、無様に捨てられた情けない私が……そんな私がっ!」
伊織「一番……腹が立つわ……」
兄「……」
伊織「……どう? みっともないでしょ」
伊織「こんな自業自得の、子供みたいな理由で、私は今もどうしようかと悩んでる……」
兄「……」
兄「そんなもんだよ、みんな」
兄「人間は、最後は結局、子供みたいに感情でしか動けないんだ」
兄「その感情が、すれ違いを生んだり」
『バカ言うんじゃない! お前も現実を見ろ! 俺は絶対に認めないからな!』
兄「争いを生んだり」
『別に、兄貴に認めてもらわなくたって、黒井社長のもとで絶対にトップアイドルになってみせる!』
兄「俺たちが抱えてる、悩みを生むんだ」
兄「でも、だからといってこのままにしておくことはできない。前に進まなきゃいけない」
兄「俺たちは考えることができる、話すことができる、選択できる。だから、一生懸命考えて、言葉にして、相手の感情を知って、自分の感情を伝えて、そして選ぶんだ」
兄「自分たちが前に進むことのできる道を」
伊織「……」
兄「……」
伊織「前から思ってたけどアンタってちょっとイタいわよね」
兄「頼むからせめてカッコつけてるって言ってくれ」
伊織「ふぅ……でも、少し楽になったかも……」
兄「そりゃあよかった」
兄「どうだ、前に進めそうか?」
伊織「そうね、子供みたいにいつまでも意地張ってるわけにもいかないし」
兄「そっか、伊織はすごいな」
伊織「アンタがこのままにはしとけないって言ったんじゃない」
兄「いやまぁ、そうなんだけど」
兄「…………俺も――」
亜美「兄ちゃ~ん!」
真美「すごいの発見した~!」
真美「あれ? いおりん?」
亜美「どうしてここに?」
伊織「少し休憩してただけよ。それで、アンタたちもどうしたの?」
亜美「あっ、そうそう! シーハムスターですよ! シーハムスター!」
兄「ハムスター?」
真美「海の中を泳いでたんだよ! ホラ!」
「ヂュ……」
伊織「あら、ホントにハムスターね。随分とぐったりしてるみたいだけど」
兄「……ちょっと見せてくれるか」
真美「うん、いいよ」
亜美「どう? どう? もしかして亜美たち、新種生物発見しちゃった?」
兄「……いや、普通のハムスターだな」
兄(……まさか……いや、でも……)
真美「名前はハムナプトラにしようよ!」
亜美「え~! ハムラビ法典のほうがいいよ!」
伊織「どっちもどっちな気がするけど……」
兄「……」
兄「……ハム蔵……?」
「おーい! ハム蔵ー!」
兄「!」
亜美「? 兄ちゃん、どうしたの?」
伊織「ん? あれ、あずさじゃない? 誰かと一緒にいるみたいだけど……」
真美「お~い、あずさお姉ちゃ~ん!」
あずさ「! あら~、みんなここにいたのね~」
真美「おやおや~、あずさお姉ちゃんの後ろにいるのはまさか!」
響「え……」
亜美「現在人気爆発中のアイドルユニット、フェアリーの我那覇響ちゃんではありませんか~!」
響「765プロ……」
響「美希から急に海に誘われたと思ったら……そういうことだったのか」
亜美「え!? ミキミキも来てるの!?」
真美「ホント!?」
伊織「美希に誘われて……ということはもう一人もここに来てるのね」
響「そうだぞ」
兄「四条さんもか……フェアリー全員だなんて、よく黒井社長が許したな」
響「自分も最初はだめだろうと思ってたんだけど……」
響「これからさらに人気が出れば、それだけ休む暇もなくなるし、プライベートで外出するのも難しくなってくる。人生は一度きりだから、仕事だけじゃなくて他の思い出もちゃんと作っておくように、って」
あずさ「あらあら~」
兄「意外だな」
亜美「前に見かけたときはもっと厳し~カンジだったけど、優しいとこもあるんだね~」
真美「ツンデレでセレブ……いおりんと一緒だね!」
伊織「あんなまっくろくろすけと一緒にすんじゃないわよ!」
兄「あ、そういえば」
兄「響」
響「な、なんだよ、765のプロデューサー」
兄「こいつ、探してたんだろ」
「ヂュ」
響「あっ! ハム蔵!?」
亜美「え? ひびきんのハムスターだったの?」
響「ひ、ひびきん……? えっと、あずささんにも手伝ってもらいながら探してたんだ」
「ヂュイ」
響「心配したんだぞハム蔵。勝手にいなくなったら駄目じゃないか」
あずさ(今回はハム蔵ちゃんの意思は関係なかったと思うのだけど……)
兄「……」
兄「……見つかってよかったな」
響「! う、うん……」
貴音「おや……」
雪歩「みんな!」
真美「ゆきぴょん!」
響「貴音ぇ!」
貴音「ここにいたのですね、響」
響「貴音はどこにいたんだ? もしかしてあの変な三人組の言ってたラーメンを食べに行ってたんじゃ……」
貴音「えぇ、まこと美味でした」
響「やっぱり……」
貴音「らぁめんを食した後は、こちらの萩原雪歩と共に海の家で宇治金時かき氷を頂いていました」
響「さらに食べたのか」
雪歩「甘くてとっても美味しかったですぅ!」
亜美「い~な~! 亜美も食べたい!」
あずさ「私も……いえ、今はダイエット中……あぁ、でも……」
春香「お~い、みんな~!」
美希「あっ、響に貴音! ここにいたの!」
律子「あずささんもここにいたんですね。よかったぁ」 ボイン
あずさ「はい~、途中からは響ちゃんと一緒にいたので戻ってこれました~」 ドタプ~ン
美希「響も貴音も、急にいなくなったらびっくりするの」 ボイン
響「ご、ごめん。海で少しテンション上がっちゃって……」 ボイン
貴音「申し訳ありません、ですがらぁめんが私を呼んでいたのです……」 ボイ~ン
千早「くっ……」
雪歩「真ちゃん、さっき海の家で宇治金時食べたんだよ!」
真「へぇ! おいしそうだね! 後から食べに行こうかな」
亜美「亜美も行く!」
真美「真美も!」
やよい「伊織ちゃん……!」
伊織「ごめんねやよい、心配かけて……もう、大丈夫よ」
伊織「美希……」
美希「……デコちゃん」
春香「……」
伊織「その……ごめんなさい……私……」
美希「大丈夫……」
美希「ミキ、デコちゃんのことはちゃんと分かってるつもりだから」
伊織「!」
伊織「…………そう……」
伊織「…………ありがと……」
春香「……ふふっ、よかったね伊織、美希」
伊織「な、なによ春香。ニヤニヤして、気持ち悪いわね……」
美希「気持ち悪いの」
春香「え~、ひど~い、二人だって笑ってるじゃ~ん」
アハハハハ
いつもよりかは短めな気もしますが、今日はここまでにしておきます
あと、190で律子が響兄のことをプロデューサー殿と呼んでいますが間違いです
申し訳ありません
明日もまた投下します
乙、リアルタイムで読んでたよー
明日とは今日のことなのか、明日のことなのか
>>256 分かりにくい書き方をして申し訳ありません
再開します
――――
――
兄「おーい、みんなもう行くぞー」
律子「忘れ物が無いようにねー」
真美「あれ? はるるんとミキミキは?」
真「二人とも後から来るだってさ」
伊織「……」
春香「今日はみんなで遊べて楽しかったねぇ~」
美希「あふぅ、疲れちゃったの」
春香「あはは、美希は相変わらずだね」
美希「ん、でも今日は来てよかったの」
美希「みんなに会えたし……色々もやもやも消えたの」
美希「電話してくれてありがと、春香」
春香「ふふ、どういたしまして。でも、ちゃんと美希につながるかちょっと心配だったよ」
春香「出て行ってすぐのときにはみ~んな美希に繋がらなかったから」
美希「だって、みんなすごい量かけてくるんだもん」
春香「あはは、ごめんね。みんな美希のこと頼りにしてたから……」
美希「……こっちこそごめんなの。勝手に出ていっちゃって……」
春香「いいよ、美希にも考えがあったんでしょ?」
美希「うん……みんなには迷惑かけちゃったけど、ミキはこれでよかったって思ってる」
美希「だってみんな、前とは比べ物にならないくらい……すっごくキラキラしてるの」
春香「……」
春香「確かに、そうかもね」
春香「で~も!」
美希「?」
春香「あんまり心配かけちゃだめだよ?」
春香「みんなもそうだけど、律子さんなんか特に心配してたよ」
美希「律子、さんが?」
春香「美希が出ていってから少しの間は律子さん、まさに心ここにあらずって感じで美希の名前をつぶやいてて、仕事に手が付けられないくらいだったんだから」
美希「……そうだったんだ……」
春香「後からちゃんと謝っとかないとね?」
美希「わかったの」
春香「……さて、私たちもそろそろ行こうか。あんまり遅くなるといけないし」
美希「うん」
亜美「畳だ―!」 ゴロゴロ
真美「いえーい!」 ゴロゴロ
雪歩「畳のいいにおい……」
真「意外と広いねー」
律子「はいはーい、貴重品はここに集めてね」
兄「バーベキューの準備ができたら呼びに来るから、それまでに食材なんかもまとめといてくれ」
律子「分かりました」
春香「ただいま戻りましたー!」
千早「おかえり、春香」
春香「ただいま千早ちゃん、ホテルに荷物置いたら美希たちも来るって」
千早「そう、食材と飲み物多めに買っといてよかったわね」
ジュー
やよい「わぁ~! おいしいです~!」
兄「まだまだあるから、遠慮しないで食えよー」
亜美「兄ちゃ~ん! お肉頂戴!」
真美「ソーセージも!」
あずさ「あらあら、野菜もちゃんと食べなきゃだめよ~?」
美希「おまたせなの~!」
律子「あっ、美希たちも来たみたいね」
貴音「ふふ、とても良い匂いがしますね」
響「一応、自分たちも食材買ってきたぞー」
美希「おにぎりもたくさんあるの!」
あずさ「プロデューサーさん、私もう食べましたから焼くの交代しましょうか?」
兄「あ、すみません。じゃあ少しだけ代わってもらってもいいですか?」
あずさ「はい。焼けてるの取りますから、お皿出してくださいね~」
千早「プロデューサー、飲み物は何がいいですか?」 ガサッ
兄「ん? そうだな、じゃあ麦茶を貰おうかな」
貴音「面妖な……面妖な……」 バクバク モグモグ
やよい「おいしいです! おいしいです!」 モゴモゴ
伊織「やよい、そんなに慌てて食べなくてもたくさんあるから大丈夫よ」
美希「律子、さん! はい、あ~ん……」
律子「ちょっ、ちょっと、急にどうしたのよ美希!」
亜美「おやおや~? りっちゃん照れてますな~?」
真美「りっちゃんはミキミキのこと大好きですからな~」
律子「こ、コラ! からかわないの!」
響「モグモグ、ん? ハム蔵もトウモロコシ食べるか?」
「ヂュイ!」
真「へぇ~、よく懐いてるね」
響「そりゃあ家族だからな!」
雪歩「家族?」
響「うん。ハム蔵のほかにもヘビのへび香、シマリスのシマ男、オウムのオウ助、ウサギのうさ江、猫のねこ吉、ワニのワニ子、豚のブタ太、犬のいぬ美、モモンガのモモ次郎、そして沖縄の実家にはニワトリのコケ麿がいるぞ」
真「す、すごいたくさんいるね……」
春香「そういえば響ちゃんも沖縄出身だったね」
響「えっ? もしかして春香もなのか?」
春香「ううん、私じゃなくって、プロデューサーさんが」
響「765のプロデューサーが……?」
響「……」
「ヂュヂュイ」
響「いや……そんなはずないよ……だって……」
春香「響ちゃん……?」
響「え? あ、いや……なんでもないぞ」
貴音「……」
――
雪歩「あぁ~、気持ちぃ~」
真「露天風呂なんてボク久しぶりだよ」
亜美「うあうあ~、しみる~!」
真美「体が焼けるようにいたい~!」
やよい「えぇ!? 大丈夫!?」
伊織「ちゃんと日焼け止め塗らなかったからでしょ」
春香「美希たちも一緒に入ればよかったのにね~」
千早「私たちはお金を払って利用させてもらってるんだし、さすがにそれは無理じゃないかしら……」
律子「確か美希たちは隣のホテルに泊まるんだったわね」
あずさ「後から遊びに来るって言ってましたから、楽しみですね」
――
兄「あ~、さっぱりした」
やよい「ごくごく……」
春香「ゴクゴク……ぷはぁっ、あ、プロデューサーさん」
兄「コーヒー牛乳か、うまそうだな。俺も買おうっと」
あずさ「あぁ~、気持ちいいわぁ~」 ブルブルブル
亜美「トラップ発動! ブレイク・スルー・スキル!」
真美「うあうあ~! 苦労して出したアーミタイルが~!」
響「真、卓球しよーよ!」
真「よーし! 負けないぞ!」
雪歩「二人とも頑張ってー」
美希「zzz……」
伊織「こいつはこっちに来ても寝てんのね……」
兄(そういえば、四条さんは来てないのか……) ゴクゴク
兄「…………あれ……?」
――
ザザーン
兄「はぁー……どこやったかなぁ……」
兄(まさかケータイを忘れてたなんて……海水で濡れてなきゃいいけど……)
兄「うーん……とりあえず仕事に使ってるやつでかけてみるか」 ピッ
♪~レディトライアルダンス~
兄「おっ、意外と近くにあったな……」
兄「ん?」
貴音「……」
兄「あれ、四条さん? 何してるんだこんなところで……」
貴音「おや、あなた様……」
兄「えっ? あ、あなた様ぁ……!?」
貴音「私は月を眺めておりました……今宵はとてもキレイな月です」
兄「え……? 月? …………あ、ホントだ……」
貴音「……」
兄「……」
兄「……」
貴音「……」
兄「……」
貴音「……」
兄「……えーと」
兄「月がきれいなのはわかるけど、ずっと眺めてると体壊すよ?」
兄「あんまり潮風に当たると体も冷えるし……」
貴音「……ふふ、優しいのですね……」
兄「?」
貴音「先ほど響もやってきて同じことを言っていました」
兄「え……響が……?」
貴音「あなた様と響はよく似ています……」
貴音「やはり……」
貴音「……血のつながりがあるから、でしょうか?」
兄「!!!」
兄「…………な……なんでそのことを……!?」
貴音「トップシークレット、です」
兄「……はぁ……まいったな……」
兄「…………響は知っているのか……?」
貴音「いいえ、このことを知っているのは私だけ……黒井殿も知りません……」
兄(……響は知らないのか……よかった……)
兄「四条さんがどうやってこのことを知ったのかは知らないが、頼むから誰にも言わないでくれ」
兄「特に……響だけには……」
貴音「えぇ、もちろん誰にも話すつもりはありません」
兄「そうか……それならいいんだ……」
貴音「……」
貴音「申し訳ありません……」
貴音「野暮な詮索でした……興味本位で人の事情に土足で踏み入るような真似を……」
兄「いや、いいよ……」
兄「でも詮索ってことは……」
貴音「はい。先ほど私が鎌掛けをしたときのあなた様の反応を見て、そう確信したのです」
兄「はぁ……そういうことね……」
貴音「ハム蔵殿はあなた様が響の兄上であると分かっていたようです、響は否定していましたが……」
貴音「そのほかにもあなた様が響と同じ沖縄を故郷としていること……そして……」
貴音「あなた様の携帯の着信音が、響の歌であること……などでしょうか」
兄「……あぁ……」
貴音「響は……幸せ者ですね……」
兄「……」
貴音「私はもう少し月を眺めていきます」
兄「そ、そっか……」
兄「じゃあ、あんまり遅くならないうちにね。おやすみ」
貴音「はい、おやすみなさい……」
ザッザッザッ……
貴音「……」
――
春香「今日はホント楽しかったねぇ」
真「ボクももうクタクタだよ……ふぁ……」
やよい「スヤスヤ……」
亜美「ムニャ……えぇ……はるるんは……」
真美「……水をかけると増えるんですか……ムニャムニャ……」
春香「い、一体どういう夢を見てるんだろう……」
千早「私たちも早めに寝ましょう。明日からまた頑張らないと……」
伊織「そうね……また明日からは……」
伊織(美希たちとは……頂点を目指す敵同士、いや……)
真「……なれるかなぁ、トップアイドル……」
千早「……」
伊織「……」
春香「なれるよ……きっと……」
――――
――
亜美「たっだいま~!」
真「あっ、エアコンが直ってる!」
雪歩「涼しぃ~」
小鳥「あら、みんなおかえりなさい。美希ちゃんと久しぶりに会えたんでしょう?」
あずさ「あら~、知ってたんですか?」
小鳥「ええ、美希ちゃんがメールと一緒に写真を送ってくれたんです」
真美「ピヨちゃん一人で寂しくなかった?」
小鳥「実を言うと少しだけ……」
律子「すみません、小鳥さん一人に留守番を頼んで……」
小鳥「いえいえ、大丈夫ですよ……それよりも!」
小鳥「律子さん、社長が例の企画が通ったって言ってましたよ!」
律子「えっ! 本当ですか!」
兄「ふぃ~、ただいま戻りました~って、おお! エアコン直ったんだな!」
高木「おっほん!」
兄「! しゃ、社長……!」
高木「いやぁ、確か慰安旅行だったねかね? 楽しめたかい?」
兄「は、はい……それはもう……あはは……」
高木「おほん、まぁそれは置いといて」
高木「あー、帰ってきて早速だが、みんなに伝えたいことがある」
伊織「伝えたいこと?」
高木「律子君!」
律子「はい!」
高木「キミが進めてくれていた新ユニット企画『竜宮小町』の始動が正式に決定したよ、おめでとう!」
あずさ「竜宮……」
亜美「小町……?」
伊織「新ユニットって……!」
高木「うむ! この企画は我ら765プロの一大プロジェクト」
高木「961プロのフェアリーに対抗しうるカギだ!」
――――
――
水瀬伊織を筆頭に、双海亜美、三浦あずさの三人で構成される765プロの新アイドルユニット『竜宮小町』。
始動後、もともと比較的高かった彼女たちの人気はさらに、爆発的に上がった。
竜宮以外の765プロアイドルたちもそれぞれの長所を活かし、流れは好調だった。
勢いを増して成長する765プロ。
一方の961プロ『フェアリー』も以前にも増して人気を博し、今やトップアイドルに最も近い存在となっていた。
――
兄「あー……」 コキッ
小鳥「大丈夫ですか? だいぶお疲れのようですけど……それに目の下に隈が……」
兄「あはは……実はちょっと寝不足でして……」
小鳥「最近はみんな人気が出て、暇がないですからねぇ」
兄「嬉しい悲鳴ではあるんですけどね」
小鳥「でも少しは休まれたほうが……」
兄「いえ、まだ仕事が残ってますから。律子や音無さんだって頑張ってるのに、俺だけ休むなんてできないですよ」
小鳥「ならコーヒーでも淹れてきましょうか? ちょうど私も飲もうと思ってたので」
兄「すみません、お願いします」
小鳥「分かりました、プロデューサーさんはブラックでしたよね?」
兄「はい、それが一番目が覚めますし」
春香「ただいま~」
兄「おぉ、春香。おかえり」
小鳥「春香ちゃん、おかえりなさい。」
春香「うわっ、プロデューサーさん! 隈が!」
兄「あぁ、ちょっと寝不足なんだ。今、音無さんにコーヒー淹れてもらってるとこだよ」
春香「大丈夫ですか? ……あっ、そうだ!」 ガサゴソ
春香「え~と……はい、プロデューサーさん! 春香さんの手作りドーナッツです!」
兄「ドーナッツ?」
春香「はい! 疲れた時には甘いものが一番です!」
兄「へぇ、どれどれ……あむ」
春香「どうですか?」
兄「うん、うまいぞ! 春香はホントお菓子作るのがうまいなぁ」
春香「えへへ」
小鳥「プロデューサーさん、コーヒーです」 コト
兄「ありがとうございます」
春香「あ、ドーナッツを作ってきたので小鳥さんもどうぞ!」
小鳥「あら、おいしそう! じゃあ私も一つ……はむっ」
小鳥「うまい!」 テーレッテレー
春香「あはは、よかったぁ」
兄「……」
『にぃにぃ、これ食べてみて!』
『ん? サーターアンダギーか。もしかして響が作ったのか?』
『うん! あんまーに作り方を教えてもらったんだ!』
『へぇ、…………うん、うまいよ』
『よかったぁ!』
『大したもんだ。響は何でもできてすごいな』
『な、なんでもはできないよぅ』
『いや、響は運動神経だっていいし、頭もいいし、可愛いし、俺の自慢の妹だ。』
『ほ、ホント!?』
『あぁ』
『え、えへへ!』
兄「……」
春香「プロデューサーさん?」
兄「! あ……春香、どうしたんだ?」
春香「いえ、なんだかぼーっとしてたので……」
兄「あ、あはは……すまん、寝不足のせいかな……」
小鳥「プロデューサーさん、やっぱり少し休んだほうが……」
兄「そう……ですね……」
兄「じゃあ、少しだけ仮眠を……」
小鳥「分かりました、じゃあ私は仮眠用のタオル持ってきますね」
兄「ありがとうございます……」
兄「…………」
兄「zzz……」
春香「すぐに寝ちゃいましたね……」
小鳥「相当疲れてたのね……プロデューサーさん、夜遅くまで残って仕事してたから……」
小鳥「……さて、私ももう少し頑張らなくっちゃ」
兄「zzz」
春香「ふふ……」
春香「……」
春香「あっ、そうだ」
――――
――
亜美「たっだいま~!」
小鳥「しー……みんな、おかえりなさい……」
伊織「どうしたの……?」
小鳥「プロデューサーさんと春香ちゃんが眠ってるの……」
春香「すぅ……すぅ……」
兄「zzz……」
あずさ「あらあら~……」
律子「最近はプロデューサー、ろくに休んでませんでしたからね……」
亜美「いいなぁ兄ちゃん、はるるんに膝枕してもらってる~……」
小鳥「春香ちゃんもつられて眠っちゃったみたいね……」
伊織「…………ふんっ、なぁにだらしない顔して眠ってんのかしら……」
亜美「あれ? もしかして、いおりんヤキモチ妬いてるの?」
伊織「や、ヤキモチなんて妬くわけないでしょっ!」
律子「い、伊織、しーっ!」
兄「う……うーん……」
あずさ「あ、あらあら~……」
兄「ふぁ~あ…………ん? みんな、帰ってたのか…………って、春香っ!?」
春香「……むにゃ…………あれ? みんな、どうして……ってえぇぇぇっ!?」
兄「よ、よう、春香……」
春香「ぷ、プロデューサーさん、起きてたんですかぁ!?」
亜美「違うよ~、いおりんがおっきな声出して今起こしたとこだよ」
伊織「あ、アンタのせいでしょっ!」
春香「え、えぇっとですね……! こ、これはその……!」
春香「こ、これは膝枕っていうか、そのぉ、あ、ある種の実験っていうか……!」
兄「お、落ち着け春香!」
――
兄「落ち着いたか……」
春香「はい……」
小鳥(膝枕のところからバッチリ! いいもの撮らせてもらったわ……)
春香「でも大丈夫ですか? プロデューサーさん、まだ30分くらいしか寝てませんけど……」
兄「大丈夫、少し休憩を入れるだけでもだいぶ楽になったよ」
兄「これも春香の膝枕のおかげかな?」
春香「あ、あんまりからかわないでくださいよぉ」
兄「あははは、すまんすまん。春香の反応がが可愛くってさ」
春香「も、もぅ! プロデューサーさんったら」
あずさ「……」
亜美「……な~んか……亜美たち茶屋の外ってカンジ……」
律子「それを言うなら蚊帳の外」
伊織「…………ふん!」
伊織「まったく、バカやってんじゃないわよ」
伊織「アンタ、最近またボーっとしてることが多い気がするわ。これからが大事な時期だっていうのに……そんな気が抜けた状態じゃあ本番なんて望めないわよ」
兄「え? 本番?」
伊織「アンタ忘れたの? 目指すはトップアイドル。こんなとこでアンタにへばってもらっちゃあ困るのよ」
兄「あぁ、それはもちろん忘れてないさ。でも、トップアイドルったってそうすぐになれるもんじゃあないんだろ?」
兄「焦らなくたって必ずなれるさ。いや、ならせてみせる」
伊織「あと二か月もないわよ、そろそろ準備していくべきでしょ」
兄「二か月? 何が?」
春香「プロデューサーさん、IMAですよ! IMA!」
兄「アイエムエー?」
伊織「…………アンタ、まさか知らないの……?」
伊織「アイドル・マスター・アーツ、略してIMA。年に一度開催されるアイドルの頂点を決める祭典よ」
伊織「出場できるのは出場希望の中から選ばれた30組。出場可能な一つの組の人数は最大で15名まで」
伊織「二日間に分けられていて、一日目は30組すべてがそれぞれ100点満点中で審査される」
伊織「二日目は決勝戦。一日目の審査の中で最も点数の高かった2組だけが審査されるわ」
伊織「決勝戦は一日目の点数にまた100点満点中で点数が加算される。さらに、そのどちらかの組からか最優秀者が一人決定されて、その組の点数に15点が加算される」
伊織「200点満点中に15点が加算されて合計獲得点数の多かった組が優勝、その年のトップアイドルよ」
兄「トップアイドルってそういう風に決まるのか……」
伊織「まず30組の中に選ばれるためにも人気を集めておかなきゃならないのよ」
兄「な、なるほど……」
律子「ホントに知らなかったんですか?」
兄「うん、全然」
伊織「あきれた……アンタ、この仕事に就いてどれだけ経ったと思ってるの?」
兄「え、え~と……大体八か月くらい……?」
伊織「八か月間アイドルに携わってきて知らなかったのね……」
春香「あ、あはは……」
兄「そのIMAってので日本一のアイドルが決まるってことは、フェアリーも当然参加するんだよな?」
伊織「まぁ、そりゃあそうよ」
律子「フェアリーは間違いなく優勝候補の一つでしょうね」
あずさ「美希ちゃんたち、すごいですもんね~」
亜美「亜美たちも負けてられないね!」
伊織「去年は美希の移籍でIMAどころじゃなかったからね。今年こそトップアイドルを目指すわよ」
兄「そういえば前に黒井社長が言ってたな……フェアリーを倒すことはトップアイドルになることと同義語、とかなんとか……このIMAのことだったのか?」
伊織「まるでフェアリーは決勝に進むのが決まっているみたいな言い方ね」
小鳥「あはは……いかにも黒井社長が言いそう……」
兄「まぁこれで目標も明確になったわけだ! まずは30組に選ばれるよう頑張ろうな!」
伊織「そんなの当たり前でしょ…………ただ……」
兄「ん?」
伊織「全員で出場するのか、それとも、竜宮で出場するのか……よ」
兄「なんで? 全員のほうが……」
伊織「そうね、私たちにとってはそっちのほうが望ましい」
伊織「けど、やたらに人数が増えるよりも、今人気もあり名前も売れている竜宮で出たほうが出場できる可能性は高い」
伊織「それに人数が少ないほうが練習もはかどる。人数が多いとたった一人のミスで時間をとられてしまうかもしれない」
兄「そ、それって……」
伊織「ハッキリ言うと、足手まといは少ないほうがいい」
律子「……」
兄「っ! お前っ……!」
伊織「本当のことだもの。これはただの仕事とは違う、戦いよ」
伊織「力の出し切れない9人より、出し切れる3人のほうが断然いい」
兄「…………」
亜美「兄ちゃん……」
あずさ「プロデューサーさん……」
律子「……」
兄「俺は……」
兄「俺は、この765プロに足手まといなんていないと思う……」
兄「全員にそれぞれの良さがあって、ダメなとこもあって、お互いに助け合って、補い合ってる」
兄「春香も、千早も、やよいも、真も、雪歩も、伊織も、亜美も、真美も、あずささんも、律子も」
兄「それだけじゃない、音無さん、社長、そして俺」
兄「誰一人欠けちゃいけない、俺たち全員で765プロなんだ」
春香「!」
兄「俺はみんなを信じてる」
伊織「……」
伊織「……理屈になってないわね…………」
伊織「けど、安心したわ」
兄「! い、伊織!」
伊織「もしもアンタが、みんなじゃ無理そうだから竜宮で出場しようなんて言ってたらぶん殴ってたとこよ」
亜美「さっすがいおり~ん! 亜美は信じてたよ~!」
兄「ははは……」
伊織「まぁ大変なのは本当だから、それだけ頑張らないと」
兄「もちろんだ! 俺もしっかりとみんなをサポートしていくぞ!」
伊織「……さっきの台詞といい、アンタなんだか春香じみてきたわね」
春香「えぇ!? 私?」
小鳥「確かに、いかにも春香ちゃんが言いそうな言葉でしたね」
兄(そっか、そういえば前に春香が言った言葉なんだっけ……)
兄(まぁ、なんにせよ俺がみんなでやろうって言ったんだ)
兄(俺が、絶対に成功させてやらないと……)
――――
――
律子「はい、じゃあ一度休憩ね。15分経ったらまた再開するから」
雪歩「ハァ……ハァ……」
やよい「……ふぅ……ふぅ……」
ガチャ
兄「よ、みんな調子はどうだ?」
春香「あっ、プロデューサーさん!」
兄「はい、これ、みんなの飲み物買ってきたから」
千早「歌もダンスもまだ時間がかかりそうです」
律子「一日目も二日目もどちらも新曲で挑みますからね。もう少し調整がいります」
兄「二つとも新曲か。まぁ、今までこのメンバー全員での歌はなかったからな」
兄「ま、とりあえずそれは置いといてだ。律子、今日の練習は早めに切り上げてくれ」
律子「いいですけど、どうかしたんですか?」
兄「いや、注文してたみんなの衣装が届いたんだ」
律子「えっ、ホントですか!?。分かりました、早めに終わりますね」
真「うわぁ~! これが新しい衣装かぁ!」
小鳥「みんな似合ってて可愛いわ!」
あずさ「この衣装、それぞれみんなのイメージカラーになっているんですね~」
雪歩「あっ、ほんとだぁ」
亜美「亜美と真美は色おんなじだね」
真美「でも模様が左右逆になってるんだね」
春香「あれ? やよい、ブーツの色が私と一緒だ」
やよい「はい、春香さんと一緒ですね」
律子「あらホント……サイズはやよいの足にピッタリだけど、色が間違ってる」
兄「うそ、マジで?」
兄「うわぁ……ごめんな、俺の発注ミスだ……」
やよい「いえいえ、大丈夫ですよー!」
伊織「アンタが最近ボーッとしてるからじゃないの?」
兄「うっ……」
兄(た、確かに……最近気が付くといつも昔のことを思い出してるような……)
小鳥「とりあえずやよいちゃんのブーツはオレンジ色で新しく発注しなおしておきますね」
兄「はい、お願いします」
――
兄「ふぅ……」
高木「おや、まだ残っていたんだね」 ガチャ
兄「あれ? 社長、いらっしゃったんですか?」
高木「うん、まぁ少し用事があったからね。ところでキミ、みんなの調子はどうだい?」
兄「えぇ、みんなやる気を出して頑張ってくれています。今回は二つとも新曲ですから、気合いが入ってますよ」
高木「そうか、それはよかった」
高木「IMA、これで今年のトップアイドルが決まる……」
高木「……」
高木「先の話にはなるが、キミはこのIMAを終えた後どうするつもりだい?」
兄「IMAを、終えた後……ですか?」
高木「うむ、IMAでアイドルの頂点が決まるとしても、それが一体誰なのかはわからない」
高木「765プロの彼女たちかもしれないし、我々の知らないアイドルかもしれないし」
高木「キミに妹さん、我那覇響くんのいる、フェアリーかもしれない」
兄「……」
高木「もし、765プロが無事トップアイドルになったとき、キミは彼女たちのプロデューサーを続けてくれるのかい?」
高木「もし、765プロが優勝できなかったとき、今迄通り、キミは彼女たちを支えてやってくれるのかい?」
高木「もしフェアリーがトップアイドルになったとき、キミは……765プロの彼女たちと共に再びトップを目指してくれるのかい? ……それとも……」
兄(……そうか)
兄(俺は、響が心配でこっちにやってきた)
兄(こちらで生活するために、この765プロのプロデューサーになった)
兄(じゃあもし響がトップアイドルになって、沖縄へ帰ると言ったら?)
兄(いやそれ以前に、もはや俺は必要ではないんじゃないか?)
兄(母さんが言っていたように、ただの過保護だったのかも)
兄(響は一人でやっていける……もう、俺に頼る必要もない)
兄(なら俺は? 俺がここにいる意味は……?)
兄「……」
高木「……まぁ、まだ少し先の話だ。よく考えてから結論をだしたまえ」
兄「はい……」
高木「私はキミを雇ってよかったと思っている」
高木「たとえキミがこれからどのような道を進もうと、私はキミを応援しているよ」
兄「……ありがとうございます」
今回はここまで
あと少しで終わりです
ぐう聖高木
昨日までの展開から、響と春香、貴音と雪歩、いおりんと美希で潰し合うかと思ってたわ
Idol Missing Action(偶像活動中行方不明)か…
あずささん一人勝ちだな
投下します
なんとか二つの新曲を完成させ、出場枠の30組の中にも入ることができて、流れは好調。
IMA開催会場は事務所からは遠いため、全員で会場近くのホテルに宿泊している。
みんなも最終調整を終え、明日はもう本番という所まで来た。
しかし、この数週間考えても結局、社長から問われた質問の答えはまだ出せていなかった。
――
『歩くの疲れたよぉ、にぃにぃおんぶして~』
『にぃにぃ見て見て、ワンちゃん拾ったよ! 名前付けようよ!』
『はい、響特製シチューだぞ! へ? キノコが入ってるって? そんくらい我慢して食べろー!』
『うぎゃーっ! 兄貴! なに勝手に入ってきてるんだよーっ! 変態兄貴ー!』
『ねぇ、どうだった!? 中々上手かったでしょ? ま、自分にかかれば歌やダンスなんて楽勝さー!』
兄(……)
兄(眠れない……)
兄(最近よく昔のことを思い出す……。それも響との思い出……)
兄(俺は一体どうしたんだ……IMAはもう明日だっていうのに…………まさか……)
兄(寂しいのか……?)
兄(……いや、まさかな……こんな歳にもなって……)
♪~レディトライアルダンス~
兄「こんな時間に電話…………誰からだ……?」
兄「! ……響……?」
兄「……」
ピッ
兄「……」
響『……』
兄「……響か……?」
響『……うん』
兄「随分と久しぶりだな……どうした、こんな時間に……」
兄「もしかして、沖縄に帰ってくる気になったか?」
響『……』
響『……兄貴は、知らないの……?』
兄「…………フェアリーだっけ? 知ってるよ。冗談で言っただけだ」
響『! ……そ、そっか……! ふふっ』
響『あのさ……』
響『兄貴は……自分に、沖縄に帰ってきてほしい……?』
響『それとも……帰ってきてほしくない……の?』
兄「……」
兄「……知り合いが言ってたが、人に答えを要求するのは卑怯だそうだぞ」
兄「沖縄に帰ってくるかどうかぐらいは、俺がどうこうよりも自分で決めろ」
響『……わ、わかった……』
響『……』
響『兄貴……まだ、怒ってる?』
兄「何の話だ?」
響『自分が……家を出て、黒井社長についていったこと……』
兄「……いや」
兄「響が家を出ていったとき、子供がなにをバカなことをって思ってた」
兄「一人じゃどうせ何もできない……どうせすぐに諦めて泣きついてくるだろうと思った」
響『……』
兄「けど、お前は本当にアイドルになった」
兄「いつまでも子供だと思ってたけど、お前はちゃんと成長してたんだな」
響『あ、当り前だぞ』
兄「ははは、悪い」
兄「俺はもう誰に頼らなくても一人でやってけるなんて思ってたけど、そんなことなかった」
兄「俺はいろんな人に頼らないといけなかった。現実ってのは俺の思ってたより厳しいもんだった」
兄「お前よりも、俺のほうがよっぽど子供だったよ 」
響『そ、そんなことないぞ。自分だって黒井社長や、美希や貴音……フェアリーの仲間に支えられてたからやってこれたんだ』
響『それに……』
響『寂しくなって……こうやって今、兄貴に電話してる……』
兄「……」
響『寂しかったんだ……こっちに来て新しい友達も増えたけど……』
響『今迄ずっと一緒だった人がいなくなって……なんていうか、心にポッカリ穴が開いたみたいな……』
響『気が付けばいっつも、昔のことばっかり思い出してた……』
兄「……響……」
響『……』
響『実はね……明日はトップアイドルを決める大切な日なんだ……』
兄「!」
響『もちろん自分たちも出場するんだけど……トップアイドルになれるのは、優勝した一組だけ……』
響『だから……だからね……』
響『兄貴は自分のこと、応援してくれるよね……?』
兄(俺は……)
『夢はみんなまとめてトップアイドル! よろしくお願いします!』
『頼りにしてるわよ? プロデューサー』
『みんなで絶対、トップアイドルになりましょうね!』
兄「…………」
兄「頑張れよ」
響『!』
兄「俺もしっかり見ておくから」
響『う、うん! 自分、めいっぱい頑張るぞ!』
兄「あぁ、お前はそれでいい」
兄「さ、明日はその本番なんだろ? 明日、全力を発揮できるように早めに寝ておけ」
響『わかった、そうする』
響『……あの……今日は久しぶりに話せて嬉しかった……』
兄「あぁ、俺もだよ。おやすみ、響」
響「うん、おやすみ」
兄(響の夢がかなうこと……それは俺の望みでもある……)
兄(けど約束したんだ、みんなでトップアイドルになるって)
兄(響に頑張れといったのは本心だ……だけど)
兄(結局俺は、どっちなんだ……)
兄「……」
兄「もう寝よう……」
――
春香「うわぁ! 見てください、プロデューサーさん!」
兄「あぁ、ものすごい観客の数だな」
伊織「そりゃあそうよ、なんたってこれで日本一のアイドルが決まるんだから」
小鳥「それに、日本の総アイドルの中から選ばれた最高の30組ですからね。ファンの人もたくさんいますよ」
雪歩「うぅ……緊張してきちゃったぁ……」
真「さすがにこの数はね……」
千早「前にライブをしたときも相当大きな会場だったけど、ここまではさすがになかったわね」
やよい「とーってもひろいです!」
律子「みんな、眺めるのはそこまでにして、私たちも準備に取り掛かるわよ」
兄「ステージの後方にでっかいスクリーンがあるんだな」
伊織「あれは演出用のスクリーンね。あそこに点数も表示されるのよ」
兄「へぇ」
律子「点数が表示されるって言っても、30組すべてが終わってからですけどね」
兄「まぁ、じゃないとモチベーションの上がり下がりとかありそうだもんな」
兄「そういや、百点満点中で採点されるって言ってたけど、平均は何点ぐらいなんだ?」
伊織「平均は70後半ぐらいかしら。大体決勝に進むのは85から90前半ぐらいね」
伊織「80前半で決勝に進むこともあるけど、二日目はその点数がそのまま加算されるから、相手の点数によっては勝負にならないときもあるわ」
兄「平均が70点台って中々厳しいな」
伊織「そうね、私は毎年見てきたけど、今まで90後半を見たことないもの」
律子「さ、みんな着替え終わった?」
亜美「もちろんです、プロですから」
真美「カッコイイとこ見せましょ」
やよい「うっうー! 私もみんなとお揃いですー!」
伊織「今度はちゃんとオレンジ色のブーツね。良かったわねやよい」
春香「あ、あれ……」
千早「春香、どうかしたの?」
春香「な、なんかこのブーツ、きついような……」
あずさ「でも春香ちゃん、前に履いたときはサイズピッタリだったわよね?」
春香「はい……あ、あれぇ?」
律子「あら、春香?」
春香「あ、律子さん」
千早「律子、春香のブーツのサイズが合わないみたいなのよ」
律子「えぇ? そんなはずは……」
兄「うん? 春香、そのブーツ、よく見せてくれないか?」
春香「は、はい」
兄「……!」
兄(こ、これって……!)
兄「すまない! きっと俺が間違えて発注ミスしたブーツを持ってきてしまったんだ……!」
真「えぇっ! そんな……!」
雪歩「ど、どうしましょう……」
伊織「衣装とブーツは色が統一してあるから、代わりになるものがないわね……」
亜美「一人だけブーツじゃなかったら逆に目立っちゃうし……」
真美「逆にみんなブーツをやめればいいんじゃない?」
律子「それだと今度は別の履くものを探さないといけないわよ……」
兄「……」
兄「……小鳥さん、765プロの出番は何番目ですか?」
小鳥「えぇっと……25番目ですね」
兄「25……一組を5分で考えたら約2時間か……よし」
兄「俺が車で事務所まで行って取ってくる」
律子「時間……間に合いますかね……」
兄「事務所から泊まってたホテルまでは約1時間だった。往復で2時間と考えればなんとか間に合うはずだ」
亜美「兄ちゃん、行っちゃたね……」
真美「間に合うかなぁ」
伊織「私たちに手伝えることはないわ。私たちは目の前のことに集中しましょう」
『皆様こんにちは。今年も始まりました、アイドルの日本一を決める祭典、アイドル・マスター・アーツ――』
真「あっ、始まったみたいだ……」
春香(プロデューサーさん……)
――――
――
ブオォーン!
兄「よし、案外道はすいてる……」
兄(また俺のせいだ……。また俺がみんなに迷惑をかけてしまっている……)
『――今年はどのアイドルたちが日本一となるのか、必見です』
兄「くそっ、もう始まったか!」
兄「間に合ってくれよ……!」
「次は、エントリー番号6番、―――」
高木「うん?」
黒井「ふん、貴様か」
高木「やぁ黒井。キミもか」
黒井「当り前だ。我が961プロのフェアリーが出ないはずがない」
黒井「まぁ、こんなことをせずともフェアリーの優勝は決まっているがな」
高木「ほぉ、えらく自信満々じゃないか」
黒井「ふっ、見ろ。今、ステージにいる小娘どもを」
高木「ん? 可愛い子たちじゃないか」
黒井「あの程度の実力でフェアリーと同じ舞台に立とうなどと、おこがましい……」
黒井「所詮そこらのアイドルなど、トップアイドルという灯火にわらわらと集まってくる醜い虫」
黒井「実に哀れだよ、炎に向かう蛾のようだ」
黒井「蝶は蝶として生まれたから蝶であり、蛾は蛾として生まれたから蛾なのだ」
黒井「蝶は光の中を生き、蛾は光を求め彷徨い続ける。蛾は決して蝶にはなれん」
黒井「光の中で舞うことができるのは、王者たるフェアリーのみ」
高木「アイドルを虫扱いかね」
黒井「もちろん貴様ら765プロも蛾だ」
高木「はは、ひどいなぁ」
黒井「ふん、せいぜいフェアリーがトップアイドルになるところを這いつくばって見ているんだな」
バタン ガチャ ブロロン
兄「ブーツがすぐ見つかってよかった……」
兄「経過時間は……58分……会場の状況は……」
『――次は、エントリー番号12番――』
兄「12番か……よしっ!」
兄「この調子ならなんとか間に合うはずだ!」
――
『ワ―! ワ―!』
律子「……今、21番が終わったわね……」
律子(時間はもうあと20分もない……)
あずさ「遅いですね、プロデューサーさん……」
亜美「……もし、兄ちゃんが間に合わなかったらどうしよう……」
真美「そ、そのときは普通のブーツを赤いペンキで塗装して……」
雪歩「そ、それって乾かないんじゃ……」
伊織「……最悪の場合、春香は今あるブーツで本番に臨んでもらうしかないわね」
春香「!」
千早「春香……」
真「春香、できそう……?」
春香「……」
春香「大丈夫、少しサイズが小さいだけだから……」
春香「私……踊れるよ」
ブオォーン!
兄「あと少し……あと少しだ……!」
『――エントリー番号23番、961プロダクション、フェアリーによります、KisSです』
兄「! フェアリー!」
『♪~絡まる吐息、交わる視線――』
兄(確かに黒井社長があれだけ言うのも頷けるな……)
兄(澄んだ歌声、ダンスのキレのある動き……)
兄(響……)
プアァーッ!
兄「はっ!」
兄「しまっ――!」
キキーッ! ガシャァッ!!!
――
やよい「プロデューサー……」
律子「……限界ね」
律子「春香、行けるわね……?」
春香「はい……!」
伊織「春香……」
春香「大丈夫!」
春香「みんなには迷惑かけちゃうかもだけど、私はみんなを信頼してる」
春香「たとえどんな状況だろうと、今の全力を尽くそう!」
春香「いくよ! 765プロ! ファイトー!」
「オー!」
「次はエントリー番号25番、765プロダクションによります、L・O・B・Mです」
ワアァァァァ!
♪~アッ! とね言わせてみたい いっぱい愛があふれる ウットリするような世界創ろう
律子(ちゃんと実力が出せてる。今までで一番いい調子だと思う……だけど……)
律子(春香、あのブーツで踊るのは相当痛みがあるはず……)
律子(それに、勝ち残った場合明日もある。明日はちゃんとしたブーツがあるだろうけど……)
律子(今日、足を痛めでもしたら、明日に響く可能性は高い……)
♪~アイコンタクトをしようよ それで伝わることがあるハズさ
小鳥「り、律子さん……!」
律子「小鳥さん? どうしました?」
小鳥「プロデューサーさんが……!」
♪~みんなこの世界の中で いがみ合わずにいたいよ
ズキッ
春香(っ!)
ぐらっ
春香(あっ……)
バタッ
ザワ…
千早・真(春香!) ガシ グイッ
春香(千早ちゃん……! 真……!)
♪~そしたら もっと優しくなれるよ ねっ!
――――
――
ワアァァァァァァァ!
春香「ハァ……ハァ……」
伊織「春香……」
雪歩「大丈夫……?」
春香「だ、大丈夫だよ……でも……」
春香「ごめんね……途中で転んじゃった……」
真美「はるるん……」
やよい「春香さん……」
春香「……千早ちゃんと真、ありがとう……転んだときに、引っ張って起こしてくれて……」
真「へへ、それくらい当り前だよ」
千早「そう、私たちは仲間なんだから、もっと頼っていいのよ?」
春香「うん……」
律子「みんな、お疲れさま」
春香「律子さん……」
律子「今日の歌、ダンス、どちらもとても素晴らしかった。どのアイドルたちよりも輝いて見えたわ」
律子「それに真と千早……二人とも、とっさの判断で手を貸したのは良かった」
律子「春香も、そのブーツでよく最後まで踊りきってくれたわ」
律子「この後の予定は結果次第になるから、準備だけはしておいてね」
みんな「はい!」
律子「……あとそれと…………みんなに一つ伝えておくことがあるの」
伊織「伝えておくこと……?」
律子「実は……」
律子「プロデューサーが、事故にあったの……」
春香「えっ!」
亜美「に、兄ちゃんが!?」
律子「えぇ、警察から連絡があったのよ。トラックと事故にあったって」
千早「!」
雪歩「そんな……! プロデューサーは無事なんですか……!?」
律子「大丈夫、プロデューサーにケガはないわ」
律子「プロデューサーのとっさの急ハンドルでなんとか正面との衝突はなかったみたい」
やよい「よ、よかったです……」
律子「あとにプロデューサーから連絡が来ると思うから」
律子「とりあえず今、私たちにできることは明日に向けて体調を万全に整えることよ」
律子「とりあえず春香はブーツを脱いで」
春香「分かりました」
小鳥「みんなも衣装のほつれなんかがないか確認しておいてね」
春香「っ……」 スポッ
律子「これは……足にマメができてるわね……」
律子「とりあえず水で洗って冷やしてから、絆創膏を貼りましょう」
小鳥「はい、出来たわ春香ちゃん」
春香「ありがとうございます、小鳥さん」
小鳥「普通、こんな状況じゃあ運動なんかしちゃいけないんだけど……」
春香「そうもいきませんから……」
律子「ごめんね春香、無理させてしまって……」
春香「いえいえ、大丈夫ですよ!」
ワァアアアア!
伊織「……どうやら、30番まで終わったみたいね」
『――さて、30組すべてのアイドルたちのパフォーマンスが終わりました。歌にダンス、どれも素晴らしかったですね』
『今後の予定としては、これから点数発表となります。読み上げられていく点数が正面のスクリーンに表示され、その中から最も点数の高かった2組のみが、明日の決勝戦へと望むことができます』
「ただいまより、結果発表を行います。番号と点数が読み上げられます」
「1番、――プロダクション、76点。2番、――――」
亜美「……」
真美「……」
春香(……もし……もし、ダメだったら……)
春香(それはきっと私のせいだ……私が転んだから……)
春香(私は……どうすれば……)
千早「……春香」
春香「! な、なに?」
千早「大丈夫よ春香」
千早「あなたは一人じゃない。私たちは今までずっと、みんなで頑張ってきたんだから」
千早「きっと、大丈夫……」
春香「! 千早ちゃん……」
春香「…………ありがとう……」
「23番、961プロダクション、フェアリー、98点」
ワァアアアアアア!
伊織「きゅ、98!?」
律子「か、過去最高記録じゃないかしら……」
千早「これでフェアリーが決勝戦に進むのはほぼ確定したわね……」
真「これを超えなきゃトップアイドルにはなれないのか……」
雪歩「今、98点をのぞいたら81点が最高点だから……」
真美「82以上を取らなきゃ決勝にも出られないんだね」
「24番、――――――、79点」
春香(お願いです……どうか、どうか……!)
「25番、765プロダクション―――」
春香(お願い……!)
「――――82点」
真「や、やったぁー!」
亜美「これで亜美たちが2位だ~!」
やよい「うっうー! やりましたぁ!」
春香「よ、よかったぁ……!」
千早「やったわね、春香」
春香「うん!」
伊織「待ちなさいよあんたたち。まだ結果発表が最後まで終わってないんだから、82を超えるところがあるかもしれないのよ?」
伊織「ぬか喜びはしたくないわよ」
真美「でも嬉しいのは嬉しいんだよ、いおり~ん! いおりんも嬉しいでしょ~?」
伊織「ちょ、ちょっと、離れなさい!」
「30番、――――、80点。以上です」
真「ふぅー、あとのとこには82を超えるのはありませんでしたね」
あずさ「これで一安心ね~」
高木「おっほん!」
小鳥「あら、社長?」
高木「いやぁ、みんな、決勝進出おめでとう! 私も見ていたが、実に素晴らしかったよ!」
高木「明日の決勝戦でも、今日以上に、存分に力を発揮してもらいたい!」
みんな「はい!」
高木「うむ。……それと、プロデューサー君のことなんだがね……」
律子「プロデューサーがどうかしたんですか?」
高木「実は、事故の連絡のあとから、彼の電話につながらないんだよ」
春香「え?」
――
真「う~ん、ダメだ……ボクも全然つながらない……」
雪歩「私もダメみたいですぅ……」
伊織「もうっ! 何で出ないのよ!」
千早「出ないんじゃなくて、出ることができないのかもしれないわ」
亜美「でも、兄ちゃんケガはないって言ってたよね?」
真美「またさらに、何かに巻き込まれたとか?」
やよい「えぇーっ!? た、大変です!」
あずさ「大丈夫、きっとプロデューサーさん、電話に気づいていないんだと思うわ」
春香「……」
ガチャッ
美希「みんなー!」
響「はいさーい!」
貴音「こんにちは」
亜美「あ、ミキミキだー!」
真美「それにひびきんとお姫ちんも!」
律子「美希、決勝進出おめでとう」
美希「あはっ、それは律子さんたちもだって思うな」
真「98点だなんて、ホントビックリしたよ!」
響「まぁ、自分たちにかかればざっとこんなもんさー!」
雪歩「とってもカッコよかったですぅ!」
貴音「ふふ、ありがとうございます。ですが、あなた方の姿もとても輝いていましたよ」
美希「そーいえば、765のプロデューサー、今日はいないの?」
響「あれ? ホントだ……」
真美「実は兄ちゃん、事故っちゃってさ」
亜美「兄ちゃんにはケガはないらしいんだけどね。今どこにいるかはわからないんだ」
美希「どういうこと?」
律子「事故の連絡のあとから、新しい連絡もないし、こっちから電話をかけても繋がらないのよ……」
響「でもそれって変だな。連絡がないにしても、電話に出ないなんて……」
伊織「まったく、アイツはどこほっつき歩いてるのかしら」
貴音「……?」
春香「……」
貴音「……どうかしたのですか、天海春香」
春香「えっ? あ、貴音さん……」
貴音「なにやら神妙な面持ちでしたが」
春香「え、えっと……」
貴音「プロデューサーについてですか?」
春香「! は、はい」
春香「その、プロデューサーさんは、もしかしたら勘違いをしてるんじゃないかなって」
貴音「勘違い……」
春香「全部私の勝手な推測ですけど、もしもプロデューサーさんが事故のせいで結果を知らないんなら、自分のミスで私たちが決勝へは進めなかったと思ってるんじゃあないかと思うんです」
貴音「ふむ……」
春香「……ま、まぁ、全部想像ですから!」
伊織「いや、可能性はゼロじゃないわね」
春香「い、伊織……!?」
貴音「というと……?」
伊織「前にもアイツ、ミスをしたときに765プロをやめて逃げようとしたことがあったのよ」
春香「えぇ! そうだったの!?」
伊織「そのときは私が止めたからよかったんだけどね……」
貴音「……」
――
美希「じゃあ美希たちはもう行くの、みんな頑張ってね~」
やよい「私たちも頑張りますから、美希さんたちも頑張ってくださいねー!」
伊織「見てらっしゃい美希! 明日は必ず私たちが勝つんだから!」
響「みんな随分と余裕そうだなぁ」
亜美「んっふっふ~、諦めない心が勝利へのカギなんだよ~」
真美「明日は真美たちの団結の力を見せてやるぜ~!」
貴音「では、失礼いたします」
あずさ「ええ、明日はお互い頑張りましょうね~」
――
響「もっと焦ってるかと思ったけど、全然そんな感じじゃあなかったね」
美希「うん、とってもみんなキラキラしてたの」
貴音「ふふ、明日が楽しみですね」
美希「あふぅ、なんだか眠くなってきちゃったの。ミキ、一足先にホテルに帰ってるね~」
響「あ、美希! ……ってもう行っちゃったぞ……」
貴音「響」
響「ん? なんだ貴音?」
貴音「実は携帯電話を忘れてきてしまって……少しだけ貸していただけませんか?」
響「いいけど、どっかに電話でも掛けるのか?」
貴音「えぇ、すぐに終わります」
響「わかったぞ、じゃあ自分そこの自販機で飲み物買ってくるね。はい」
貴音「ありがとうございます、響」
貴音(申し訳ありません……)
――
春香「ふぅ……いたた……」
春香(決勝に出られるのはうれしいけど……マメは痛いなぁ……)
千早「春香、大丈夫?」
春香「大丈夫、平気だよ。そろそろ晩ご飯食べに行こうか?」
千早「そうね、2階にバイキング式の食堂があったから、みんなそこにいるんじゃないかしら」
春香「うん、行こう、千早ちゃん」
真「あ、春香に千早」
春香「あはは、やっぱりみんなここにいたんだね」
亜美「お肉山盛り~!」
真美「デザートも山盛り~!」
伊織「あんたたち、そんなに取って食べきれるの?」
あずさ「いくらでも食べていいって言われると、つい取りすぎちゃうのよね~」
やよい「え~!? これっていくらでも食べていいんですか!?」
雪歩「お肉がとってもおいしぃ……」
千早「私たちも食べ物とりましょうか」
春香「そうだね」
春香「そういえば律子さんたちはどこだろう?」 モグモグ
千早「確かにいないわね」
真美「社長とピヨちゃんもいないよ」 モグモグ
律子「あっ、みんな。ここにいたのね」
伊織「遅かったわね、どうしたの?」
律子「ちょっと……プロデューサーのことでね……」
亜美「兄ちゃんのこと?」
伊織「まさか、まだ連絡取れてないんじゃあ……」
律子「えぇ、そのまさかよ。どうやら事故の件はプロデューサーが一人で済ませたみたいだけど……」
真「これだけ時間が経っても連絡一つないなんて、なおさら変だよね」
雪歩「心配ですぅ……」
春香「……」
――
千早「春香、お風呂行きましょう?」
春香「うん……」
千早「……春香…………?」
春香「……ごめんね千早ちゃん、ちょっと疲れただけだよ」
春香「私、まだ用意できてないから、先に浴場へ行っててもらってもいいかな?」
千早「……わかったわ、じゃあ先に行ってるわね」
春香「うん」
千早(……春香……)
春香「すぅ……すぅ………………んぅ?」
春香「ふぁ……私、いつの間に寝ちゃってたみたい……」
春香「どれくらい寝たんだろう……」
コンコンッ
春香(あれ、もしかして千早ちゃんがもうお風呂から上がって帰ってきちゃったのかな)
春香「はーい、今開けまーす」
ガチャッ
春香「ごめんねー千早ちゃ……って貴音さん!?」
貴音「こんばんは、天海春香」
春香「ど、どうしたんですか? 貴音さんたちはこのホテルじゃあなかった気が……」
貴音「実は、貴方に渡しておきたいものがあって来たのです」
春香「え、渡しておきたいもの……?」
貴音「これを……」 スッ
春香「紙切れ……? 何か書いてある……これってもしかして電話番号ですか?」
貴音「その番号はあの方へと通じています」
貴音「頼みましたよ」
春香「えぇ? ちょっ、ちょっと待って……!」
亜美「おっ、はるるんはっけ~ん!」
真美「一緒にお風呂いこ~よ!」
春香「あっ、亜美、真美……」
真美「ど~したの? 階段のほう見て」
亜美「? 誰もいないよ?」
春香「……」
ガララッ
亜美「亜美参上!」
真美「真美参上!」
伊織「コラ、私たち以外にも人はいるんだから静かにしなさい」
千早「あっ、春香」
春香「えへへ、ごめんね千早ちゃん。私いつの間にか眠っちゃってたみたいで……」
千早「もう、あんまり遅いから少し心配してたのよ」
千早「でも、少し気分がよくなったんじゃない?」
春香「え?」
千早「なんだか部屋にいたときよりも生き生きしてるわ」
春香「う~ん、確かにそうかも」
春香「……」
春香「実はね、さっき貴音さんに会ったんだ」
千早「四条さんに?」
春香「それで、誰かの電話番号の書かれた紙切れを渡されてさ」
千早「誰かって……春香はその番号知らないの?」
春香「うん、初めて見る番号だった」
千早「四条さんは誰の電話番号だとかは言わなかったの?」
春香「それが……その番号はあの方へ通じていますって言ってたんだけど……」
千早「あの方……誰のことかしら……」
春香「…………私ね……」
春香「その番号……プロデューサーさんに繋がるんじゃないかって、思うんだ……」
千早「プロデューサーに?」
春香「うん……」
千早「……確かに……」
千早「あの方ってことは、春香が知っている人物だという前提の言い方……」
千早「四条さんも春香も知っている人物ってなると、プロデューサーの可能性は高いわね」
千早「ただ、何故四条さんがプロデューサーの電話番号を知っているのかって疑問は残るけど……」
春香「う~ん…………黒井社長が調べてくれたとか……」
千早「ありえるかしら……?」
春香「さ、さぁ……」
千早「まぁ、なんにせよ……春香はその番号をどうするつもりなの?」
春香「……かけてみようか」
千早「でてくれるかしら」
春香「わかんない、けど……」
春香「このまま明日になっちゃったら、もうプロデューサーさんに会えない気がする」
千早「春香……」
春香「私たちは、みんなで765プロだから、誰一人欠けちゃいけないと思うんだ」
千早「……そうね……」
とりあえずここまで
次はいつもより少しだけ早めに始めます
次の投下で終わらせられると思いますので、あと少しお付き合いください
響の実家は民宿言われてるし
父親は死別、実家は母と祖父ちゃんのみ
響の兄は長男で責任感強い感じ
そんな兄が実家を放置するとは考えられないんだけど
良いんじゃない?二次創作なのに
沖縄のお年寄りを舐めるなよ
ピンピンしてるから気にせず来れたんだろ
思ったんだがこの兄は意外なお馬鹿?
961プロに清掃員として雇ってもらうか?→いや、名字で~
765Pとして働く→よし偽名使おう!
なら最初から偽名使って清掃員になればよかったんじゃない?
>>342
響の兄だし…ね
伊達に我那覇を名乗ってない
響は馬鹿じゃなくて少し残念なだけだから(震え声)
原作やればわかるけど、高校メンバーで学力は千早に次いで二位(雪歩と同程度)なんだよなぁ
学力はあるし賢い響
ただ…なに、どこか抜けてるイメージが
ガバガバ設定申し訳ナイス!
そろそろ投下しますね
――――
――
伊織「ふぅん、この番号がねぇ」
真「確かに、プロデューサーは仕事用とプライベート用の二つを持ってたからね」
雪歩「この番号がプロデューサーのもう一つの電話の番号……」
やよい「でもプロデューサー、出てくれるでしょうか……?」
亜美「亜美たちの携帯でかけたら番号でわかるよね……」
真美「一応、別の電話でかけてみる?」
あずさ「ホテルにはたしか公衆電話があったと思うけど……」
春香「うぅん大丈夫です、私は自分の携帯で掛けてみます」
千早「それじゃあさっそく……掛けてみましょう」
春香「うん」
ピポパ…
兄(……)
兄(全部投げ出して逃げてきた)
兄(結局あの後会場には間に合わず、俺は起こした事故の対応をしていた)
兄(春香たちはきっとダメだっただろう、俺のせいだ)
兄(俺が彼女たちの夢を奪った。あれだけみんな努力していたのに)
兄(来年もあるかもしれない、けど、それでももう、みんなに合わせる顔がない)
兄(俺は、この事務所をやめよう……)
兄(正直、これだけ迷惑をかけておきながらやめるっていうのはどうかと思うが)
兄(もうこれ以上、ここにいる意味もない)
兄(ここにいれば、逆にみんなの迷惑になる)
兄(もう……いやだ……)
♪~レディトライアルダンス~
兄「………響……」
兄「……?」
兄「響じゃ……ない……」
兄「この番号……なんで……どうして知ってるんだ……?」
兄「……」
兄(最後に……もう一度だけ……)
ピッ
兄「……」
『…………あれ? もしも~し、プロデューサーさんですか?』
『どうしたの? 違う人だったの?』
『わ、わかんない……もしもーし!』
兄「……春香か……」
『あっ、プロデューサーさん! はい! 春香です!』
『亜美たちもいるよ~!』
『兄ちゃんどこいるの~?』
兄「俺か……? 今は自分のアパートにいるよ」
『え? アパート? なんで?』
兄「いや、もう出ていこうかなって思ってさ……荷物をまとめてたんだ……」
『えぇ!? プロデューサー、引っ越すんですか!?』
兄「引っ越すんじゃなくて、実家に帰るんだ」
『実家ってアンタ……私たちはどうなんのよ!』
兄「それは……」
兄「……」
兄「別に、俺がいなくたってやっていけるよ」
兄「ずっと思ってたんだ、俺なんかいらないって」
兄「前に伊織に言われたこともあったけど、やっぱり役に立たない奴はとことん役に立たないよ」
兄「迷惑ばっかかけるしさ」
『…………ふ……』
『ふざけんじゃないわよっ!』
『役に立たないとか、迷惑だからって、何アンタが決めてんのよ!』
『勝手に決めつけて、一人で悩んで、その挙句どっかに逃げようとするなんて!』
兄「だって!」
兄「だって俺のせいで……みんなの夢を……」
『終わってません』
兄「……え……」
『まだ夢は終わってない。私たち、ちゃんと決勝戦まで勝ち残ったんです』
兄「う、うそだ……そんな……ほ、ホントに……?」
『えぇ、82点を獲得して、明日決勝戦です』
『メールを送ったんですが、やっぱり見てなかったんですね』
兄「えっ、本当だ……」 カチカチ
兄「あ、相手はフェアリー……だよな? フェアリーは何点だ……?」
『フェアリーは98点です』
兄「きゅ、98……」
兄「…………い、いや、無理だ……それだけ点数差があるんじゃあ勝てない……」
兄「もし俺が、あんなつまらないミスをしなければ……可能性だってあったのに……!」
兄「勝てっこない……これも、全部俺のせいだ……」
『プロデューサー! 逃げるんですか!? まだ負けてもいないのに!』
兄「あぁ、そうだ! 逃げるんだよ! 俺のせいだ! どちらにせよ俺のミスのせいでみんなの夢を終わらせてしまったんだ!」
『プロデューサーさん! まだ終わってなんかいません! 目を逸らさないで! もっと、もっと私たちを信頼してください!』
『アンタのミス一つで私たちが負けるとでも思ってるわけ? そんくらいのハンデで勝てなきゃトップアイドルなんてなれるわけないわよ!』
『もっと私たちを信用してよ! もっと、もっと私たちを頼ってよ!』
兄「……!」
中の人の影響かやよいや貴音も本来のと変わっちまったしな
響も頭いいのにキャラのせいかお馬鹿認識されてるよな…
『今、プロデューサーはきっと、自分の悪いところが際立って見えてるだけなんですぅ……』
『私が道に迷ったとき、いっつも迎えに来てくれて……よっぽど私のほうが迷惑かけてますよ?』
『プロデューサー、あなたは私たちのために精いっぱい仕事をとってきたり、優しく接してくれたりしました』
『これでもあなたは役に立っていなかったのでしょうか?』
兄「お、俺は……」
『アンタの言ってたとおり、頭でわかってても、人間って最後には感情でしか動けないのよ』
『アンタがいままで散々偉そうに言ってきたことが、アンタ自身にも当てはまってるんだからね』
『それに、このままアンタにいなくなってもらっちゃ困るのよ』
『春香のブーツは今アンタが持ってるんでしょ? 明日も必要なものなんだから、明日ちゃんとアンタが自分で会場まで持ってくんのよ』
『兄ちゃんがいないと真美寂しいよ~!』
『兄ちゃんがいないと亜美暇になっちゃうよ~!』
『プロデューサー! みんなでご飯食べに行くって約束はどうなっちゃうんですかぁ!』
『ボクもまだふりふりのカワイイ衣装着るような仕事、取ってきてもらってないですよ!』
兄「そう……か……そう、だったな……」
『プロデューサーさん』
兄「春香……」
『私……信じてますよ』
『私たちは……みんな揃って765プロですから!』
――――
――
兄「……」
兄「俺は……」
♪~レディトライアルダンス~
兄「……また電話……?」
ピッ
兄「……もしもし」
響『あっ、兄貴か? 自分だぞー』
兄「響……」
響『ねぇ、ちゃんとテレビで見ててくれた? 自分たち、決勝戦に進んだんだぞ!』
着信音人によって変えればいいのに…
兄「……あぁ、おめでとう」
響『なんだー? なんか元気ないぞ?』
兄「いや、そんなことないよ……」
兄「なんていうか、お前の声聞けて安心した」
響『な、なに言ってるんだ? ガラにもないこと言って気持ち悪いぞ……』
兄「はは……」
響『まぁいいや、明日もしっかり見ててね! 自分たちがバッチリ優勝するからな!』
兄「……」
響『? 兄貴?』
兄「油断するなよ」
響『油断? 大丈夫だぞ、絶対に勝ってみせるから!』
兄「……追い詰められたネズミはとんでもなく強いからな」
響『え?』
兄「おやすみ響、明日楽しみにしてる」
響『お、おー、おやすみ』
ピッ
兄「……」
兄「よし……」
――
律子「たくもぉ、プロデューサーと連絡がとれたならまず私たちに報告しなさいよ!」
亜美「ごめんね、りっちゃ~ん」
真美「完全に忘れてたよ~」
あずさ「大丈夫ですよ。プロデューサーさん、今日はちゃんと来てくれるはずです」
律子「そういう問題じゃあなくてですね……はぁ……」
ガチャッ
美希「おっはようなの~」
伊織「はんっ、朝から敵陣にはいってくるなんて、随分と余裕じゃない」
美希「デコちゃんも朝から絶好調なの」
伊織「どーゆー意味よ! あとデコちゃんいうな!」
響「へへーん、今日は絶対に負けないからなー!」
真「ボクたちだって!」
やよい「負けませんよー!」
貴音「天海春香」
春香「あっ、貴音さん!」
春香「昨日、貴音さんが教えてくれた番号のおかげで、プロデューサーさんと話すことができました!」
貴音「して、その結果は……」
春香「はい! 私たちの気持ちはちゃんと伝えましたから、きっと大丈夫です!」
貴音「そうですか」
春香「でも、貴音さんはどうやってあの番号を手に入れたんですか?」
貴音「ふふ、それはトップシークレット……あの番号ついて詮索されるのは少々困る、というのが本音です」
春香「?」
響「なぁ、765のプロデューサーまた来てないのか?」
春香「ん? 大丈夫だよ、プロデューサーさんはちゃんと来るから」
伊織「ていうか、アイツが春香のブーツを持ってるから、来てもらわなくちゃ困るのよね」
ガチャッ
高木「おはようみんな! おや、フェアリーの諸君もおはよう!」
美希「あっ、社長! おはようございますなの!」
響「はいさーい!」
貴音「おはようございます、高木殿」
高木「今日は決勝戦、我々にとってもキミ達にとっても大切な日だ。お互いにベストを尽くせるよう頑張ろう」
美希「はいなの!」
高木「うむ。そういえばさっき、黒井がキミたちを探していたよ」
高木「おそらく今日の確認をするつもりなんだろう」
貴音「それは急いで向かわねばなりませんね」
美希「みんな、今日は頑張ってね~」
響「どっちが勝っても恨みっこなしだからなー!」
貴音「では、失礼いたします」
高木「さて、今日は待ちに待った決勝戦。これで見事優勝できれば、キミ達はトップアイドルになることができる」
高木「得点はフェアリーとはだいぶ差はあるが……」
高木「……うむ、みんないい目をしている。諦めないことが勝利につながる」
高木「今まで数々の苦難を乗り越え、たくさんの努力をしてきたと思う」
高木「その経験をフルに活かし、決勝へ望んでもらいたい」
高木「では律子君、続きは頼んだよ」
律子「はい社長」
律子「さぁ、みんなも分かっているとおり今日は決勝。泣いても笑ってもこれが最後よ」
律子「絶対に悔いを残さないよう、持てる力全部を出し切りなさい!」
「はい!!!」
黒井「美希ちゃん、響ちゃん、貴音ちゃん。分かっているとは思うが」
黒井「敗北は許されん。王者にとって勝利とは絶対条件」
黒井「キミ達は光の中を舞う蝶でなければならない。光に寄って来るあのような蛾に負けるなど言語道断」
黒井「完璧に、圧倒的に勝利したまえ」
響「はい!」
美希「はいなの」
貴音「……承知しました」
黒井「ん……どうかしたのかね? 貴音ちゃん」
貴音「いえ……」
貴音「確かに、光の中で舞う蝶は美しい。けれど……闇夜の中、ただ一つの灯火に集い、照らされ舞う蛾も、引けをとらず美しいもの……」
響「???」
黒井「……何が言いたいんだね」
貴音「ふふっ、決勝が楽しみだと思っただけです」
『皆様こんにちは。昨日に引き続き今日も始まりました、アイドルの日本一を決める、アイドル・マスター・アーツ決勝戦』
『昨日の30組のアイドルたちから選ばれた今年度最高の二組』
『98点というIMAの過去最高得点をたたき出した961プロダクション、フェアリー』
『一方、82点という点数でなんとか決勝へ進むことのできた765プロダクション』
『この二組には点数に差はありますが、ここからどういった展開を見せてくれるのか、必見です』
あずさ「始まりましたね」
真「決勝……うぅ、緊張するなぁ~」
律子「今日の順番はフェアリーからだけど……」
雪歩「プロデューサー……」
伊織「……アイツ、まだ来ないわけ? もう始まっちゃうわよ……」
春香「大丈夫だよ」
千早「春香……?」
春香「きっと、来てくれるから」
バンッ!
兄「はぁ……はぁ……」
亜美「あっ! に、兄ちゃん!」
真美「兄ちゃんだー!」
やよい「プロデューサー!」
あずさ「プロデューサーさん!」
兄「す、すみません! 遅れました!」
千早「時間ぎりぎりですね」
伊織「こんな日まで心配かけさせるんじゃないわよ!」
兄「すまん……昨日の事故のせいで車で来るわけにもいかなかったからさ……」
真「でもプロデューサーが来てくれてホントよかった!」
雪歩「昨日電話してみてよかったね」
兄「あぁ、昨日は突然でびっくりしたけど、みんなありがとな」
兄「それに……心配かけて、ごめん」
律子「まったく、その通りですよプロデューサー!」
高木「昨日はみんな本当に心配していたんだよ」
小鳥「ただでさえ事故で心配してたのに音信不通でしたからねぇ。連絡しないにしても、電話ぐらい出てくださいね?」
兄「ほ、本当に申し訳ないです」
春香「ね? 伊織、言ったでしょ来てくれるって」
伊織「はぁ……そうね……」
兄「なんだ? 伊織、俺が来ないと思ってたのか?」
伊織「ふん、一人で勝手に逃げようとしたくせにどの口が言うわけ?」
兄「ぐっ……」
春香「あ、あはは……」
千早「でも、これで春香のブーツも元のものが使えるわね」
春香「うん」
兄「あぁ、そうだな。そういえば昨日はどうやってやり過ごしたんだ?」
春香「えぇっと……あのまま小さいブーツで踊りました……」
兄「ええ!?」
千早「実はあのブーツで踊ったせいで春香の足にマメができてしまって」
兄「そんな……春香、大丈夫か?」
春香「だ、大丈夫ですよ、心配しないでください」
兄「ご、ごめんな……俺のせいだよな……」
伊織「あー、もう! すーぐネガティブ思考するんだから!」
亜美「なーやんでもしーかたない」
真美「兄ちゃん! ポジティブ、ポジティブ!」
兄「あ、あぁ、うん、そうだな……」
『本日の決勝は、得点の高かったフェアリーからの開始です』
『圧倒的な得点を獲得しているフェアリー。このまま逃げ切ることができるのか』
『フェアリーがどういった曲で決勝に臨むのかも気になるところです』
高木「どうやら今からフェアリーの曲が始まるみたいだね。ステージが見えるところまで移動しよう」
律子「みんな、曲が終わった後に少し時間が空くけど、トイレなんかは早めに済ませておきなさいね」
――
「――961プロダクション、フェアリーの『オーバーマスター』です」
~♪
ザワザワ
伊織「オーバーマスター……?」
兄「なるほど、向こうも新曲で来たみたいだな……」
優しさ欲しいと思ってる?
やっぱアンタには 高嶺の花ね
ここに響き渡らなくちゃ 意味がないのよ!
Thrillのない愛なんて 興味あるわけないじゃない
わかんないかな
Tabooを冒せるヤツは 危険な香り纏うのよ
覚えておけば?
Come Again!
やよい「うわぁ……!」
雪歩「か……カッコイイ……!」
真「確かに……普段のイメージからは想像もつかないくらいに……」
兄「…………」
♪~
牙の抜けたヤツになんて 心疼くわけないじゃない!
ありえなくない?
GentleよりWildに WildよりDangerous
試してみれば?
Good Luck To You!
ワァアアアアアアアアア!
律子「想像以上ですね……」
兄「あぁ、いつももさることながら、今回は特にな。非の打ち所がない」
兄(昨日の様子も途中までは見ていたが……確実にそれ以上だな……)
亜美「うぅ~……ひびきんたち、いつもはもっとバカっぽいのに~……」
真美「こ、これ……真美たち勝てるのかな……」
伊織「心配するだけ無駄よ。私たちは全力で決勝に臨めばいいの」
千早「そうね。今まで私たちだって頑張ってきたんだもの」
兄「春香」
春香「はい?」
兄「もうすぐ本番だけど、大丈夫か?」
春香「? 何がですか?」
兄「えっと、心の準備とか、あと、足の具合とか……」
春香「足のほうは大丈夫です、もうなんともありません」
兄「でも、今日もダンスがあるし、もし失敗でもしたら……」
春香「……」
春香「実はですね。私、昨日転んじゃったんです」
兄「え?」
春香「でも、転んだ時にすぐに真と千早ちゃんが手を取って助けてくれたんです」
春香「終わった後に、もっと頼ってくれていいって言ってくれて……」
春香「すごく申し訳なかったんですけど、それと同時にすごく嬉しかったんです」
春香「こんな舞台だから私緊張しちゃって、全然周りが見えてなかったんですけど、いつも通り周りにはみんながいて……」
春香「だから私は、勝ちに行くっていうよりも、足のことや心配事なんか忘れて、いつも通りみんなと楽しくやりたいなぁ……なんて……」
兄「……」
春香「……ちょっとワガママですかね……?」
兄「いや……そんなことないよ」
兄(そうか、春香はいつも”みんな”を大切にしてきたんだな……)
兄(いつも通り、みんなと、楽しく……)
高木「さぁ、そろそろ出番のようだね」
真美「ま、真美トイレ行ってくる!」
亜美「亜美も!」
律子「あんたたちさっきトイレ行ったばっかでしょ!」
雪歩「うぅ……穴掘って埋まってたいですぅ……」
真「ゆ、雪歩、スコップは締まって……!」
やよい「き、緊張してきました……」 プルプル
千早「緊張してプルプルしてる高槻さん可愛い……!」
春香「ち、千早ちゃん、鼻血が……」
あずさ「あら~、お手洗いはどっちだったかしら~」
小鳥「あ、あずささん、そっちは逆です!」
伊織「決勝直前だっていうのにウチは相変わらずね……」
兄「はは、確かにな」
高木「そういえば、まだキミから彼女たちへの一言をもらっていなかったね」
兄「えっ?」
小鳥「ホラ、プロデューサーさんもプロデューサーらしく、ビシッと一言お願いします!」
律子「そうですよプロデューサー、みんなに激励の言葉をどうぞ」
兄「きゅ、急に言われても…………ええっと、そうだなぁ……」
亜美「おおっと兄ちゃん選手! 一体どんな言葉を繰り出すのか!」
真美「期待が高まります!」
兄「や、やめてくれ……」
兄「……おほん、えっとだな」
兄「激励とは違うけど……とりあえず俺が言いたいのは、普段通りにやれ!ってことだ」
雪歩「普段、通り……?」
兄「決勝だからって何かを変えなきゃいけないわけじゃあないさ」
兄「俺たちは、俺たちの良さを、俺たちらしさを見せつければいいんだ」
千早「私たちらしさ……」
真「それって……!」
兄「あぁ、いつもと変わらない。みんなで力を合わせてやればいい」
兄「楽しく歌って踊る、そうすればきっと765プロらしさが伝わるはずだ」
亜美「ほうほう、つまり兄ちゃんはいつもの亜美たちを見せれば勝てると踏んでいるわけですな?」
兄「んー、まぁ、勝ち負けとかそんなんじゃあなくってだな」
兄「俺は、楽しそうに笑ってるみんなほど輝いているものはないって思ってる」
あずさ「私たちの笑顔……」
やよい「あ、改めてそう言われると少し照れちゃいます……」
兄「無理にフェアリーと競おうとしなくていいんだ」
兄「みんなの、765のやり方で決勝に臨もう」
伊織「なんだかいまいちためにならなさそうなアドバイスねぇ……」
兄「そうか? 俺は結構大切なこと言ったつもりなんだけど」
伊織「……信用して良いわけ?」
兄「あぁ、もちろんだ」
伊織「……そう」
兄「俺も、信用していいんだろ?」
伊織「ふん、あったり前でしょ」
伊織「任せときなさい」
兄「はは、頼りにしてるよ」
春香「プロデューサーさん!」
兄「ん?」
春香「しっかり見ておいてくださいね! 私たちの姿!」
兄「あぁ! 思いっきり楽しんで来い!」
「はい!」
春香「みんな! いくよー!」
春香「765プロー! ファイトー!」
「オー!!!」
「皆さま、大変長らくお待たせいたしました」
「二曲目、765プロダクションによります、『i』です」
ワァアアアアアアアアア!
♪~
新しい服着替えて出かけよう 靴も鞄も買いたて下したて
青い空には太陽眩しいな 人目気にせず歌でも口ずさもう
美希「やっぱり、みんなすっごくキラキラしてるの」
律子「美希」
小鳥「貴音ちゃんに響ちゃんも、来ていたのね」
貴音「ふふっ、皆、とてもいい表情をしていますね」
響「とっても楽しそうだぞ……こっちまで嬉しくなっちゃいそうなくらい……」
兄「あぁ、歌やダンスももちろんだが……」
兄「俺も改めて分かった……これが、765プロの、みんなの良さなんだって」
響「これが……」
♪~
いつも忘れてた他事に気を取られ すごく大切な人たちの存在を
自分一人だけ苦労した気がしてた だけどそれは違う
今だから分かるけど
みんな楽しく笑顔で舞台に立とう
兄(一人悩んでる俺に、声をかけてくれた)
歌やダンスで自分を伝えよう
兄(逃げ出そうとしてた俺を、追いかけてくれた)
言葉だけでは言えない熱い気持ちを
兄(みんなに何度、救われたことか)
少しだけでも届けられたならば
兄(母さん、響のためにどうするべきか、俺自身がどうしたいのか、やっとわかったよ……)
幸せ!
兄(俺は、やっぱりここが……765プロが好きだ!)
フェアリー好きとしてはフェアリーに勝ってほしい
――――
――
ワァアアアアアアアアア!!!
雪歩「ハァ……ハァ……! や、やった……!」
律子「みんな! よく頑張ったわ!」
高木「うむ! 実によく頑張ってくれた! フェアリーに負けていないくらい素晴らしい出来だった!」
あずさ「あら~! 本当ですか?」
小鳥「みんなとっても可愛かったわよ!」
亜美「ホント!?」
真「へへっ、やーりぃ!」
真美「兄ちゃん! 真美たちどうだった?」
兄「あぁ、すごくよかったよ。観客も盛り上がって、まるで全体が一つになっているようだった」
兄「みんなすごく楽しそうにしてたのが、こっちにも伝わってきたからな」
やよい「うっうー! とっても楽しかったですー!」
伊織「そうね……本当に、楽しかった……!」
千早「春香……!」
春香「うん……!」
春香「私たち、やったんだね!」
黒井「……」
黒井「……ふん」
美希「黒井社長……?」
黒井「ん? あぁ、美希ちゃんたち、戻ってきていたのか」
響「765プロ、想像してたよりもすごかったぞ……」
貴音「えぇ、とても素晴らしいものでした」
黒井「ふんっ、フェアリーに比べれば、765プロなどお遊戯にすぎんさ」
美希「……」
黒井「それに、奴らとは得点の差もある。今更どうあがこうが無駄なこと」
――――
――
『長らくお待たせいたしました。どうやら最終得点の結果が決まったようです!』
亜美「うあうあ~! もう結果が出たって~!」
真美「どうしよ、どうしよ~!」
伊織「別にどうしようもないでしょ」
雪歩「うぅ~、緊張する……」
真「た、確かに……ドキドキするね……」
兄「……」
『昨日に引き続き、いえ、昨日よりもはるかに素晴らしい曲を披露した二組』
『一体どちらがトップアイドルとなるのでしょうか!』
『ただいまより、最終結果発表を行います』
『まず最初に両組の今回獲得した得点が発表されます』
『961プロダクション、フェアリー、得点――――99点』
『ワァアアアアアア!!!』
伊織「きゅ、99点!?」
真「確かに昨日よりもすごかったけど……本当に超えてくるなんて……」
『961プロのフェアリー、過去最高得点である昨日の98点をさらに超えた、驚きの99点です!』
黒井「ふっ、当然だ」
響「99点だって! やったぞ!」
美希「あはっ、二日連続で記録更新なの!」
貴音「ええ、そのようですね」
貴音(……しかし……)
『次は765プロダクションの得点の発表です』
やよい「はわわ!」
雪歩「き、きた……!」
あずさ「あらあら~」
千早「これで決まる……私たちの得点が……」
『765プロダクション、得点―――――』
春香(お願い……!)
『――――100点』
小鳥「ひゃ、100点……?」
律子「う、ウソ……本当に……?」
亜美「100点……? ホントに100点……?」
真美「桁間違って10点とか……?」
亜美「それはないっしょー」
真美「だよねー」
亜美「てことは?」
真美「ホントのホントに?」
亜美・真美「100点だ―!!」
『これはすごい! フェアリーの最高得点、99点をさらに超えた、満点の100点です!』
真「すごい! フェアリーの得点を超えたよ! 過去最高得点だよ!」
やよい「やりましたー!」
伊織「ちょっと、まだ待ちなさい! 100点で嬉しい気持ちもわかるけど、まだ合計では超えられてないのよ!」
兄(その通りだ……100点という点数はまさに過去最高、そしてこれからも最高得点となり続ける得点だが)
兄(まだ合計が超えられていない……)
『最後に、今回のIMA最優秀者の発表です』
『最優秀者の所属している側の得点に15点が加算されます』
兄(最優秀者……これがフェアリーに対抗できる最後のチャンス……)
『最優秀者は――――』
兄(頼む……!)
『765プロダクション所属、天海春香!』
春香「え?」
春香「えええぇぇぇっ!?」
千早「は、春香! すごいわ!」
雪歩「おめでとう! 春香ちゃん!」
春香「う、嘘……なんで私が……? ゆ、夢じゃないよね………?」
亜美「んっふっふ~、はるるん、夢かどうか確かめてあげましょう!」
真美「うりゃ~! くすぐりの刑じゃ~!」
春香「ちょっ、亜美に真美! や、やめ、あっ、あははははは!」
あずさ「あらあら~、楽しそうね~」
やよい「やりましたね、春香さん! ハイ、ターッチ!」
春香「い、いえい! あはは! ちょっ、ちょっと、誰か止めてぇ!」
律子「こーら! そんなにはしゃがないの!」
真「まぁまぁ、律子、みんな嬉しいんだよ」
律子「嬉しいのは分かるけど、もう……!」
春香「ハァ……ハァ……た、助かった……」
小鳥「は、春香ちゃん、大丈夫?」
春香「なんだかとっても疲れました……」
伊織「春香、あんたも大変ね……」
春香「あはは……」
伊織「……春香」
伊織「おめでとう……」
春香「うん、ありがとう伊織! 私自身、全然現実味がないんだけどね……えへへ」
伊織「……」
春香「?」
伊織「……春香、本当にありがとう……」
春香「えっ? ど、どうしたの改まって?」
伊織「あんたには助けてもらいっぱなしだと思ってね……」
春香「私が、助ける?」
伊織「ええ」
春香「そんな……私の方こそみんなに助けられてるよ」
春香「みんなの支えがあったからこそ、ここまで来れたんだもん」
伊織「……」
伊織「じゃあ……お互いさまってことで良い?」
春香「ん? うん、そうだね!」
伊織「そう……」
伊織(春香……間違いなくあんたがいたからこそここまで来れたのよ)
伊織(誰一人欠けちゃいけない、この765プロを繋ぎとめたあんたがいたから……)
亜美「よぉ~し! これで我々765プロがトップアイドルだ~!」
真美「早速、トップアイドルの証のトロフィーの授与式にレッツゴー!」
律子「待ちなさい! 呼ばれるときはちゃんと放送が流れるから!」
小鳥「にしても、遅いですね。普通、すぐ呼ばれるはずですけど」
兄「……あれ?」
兄「なぁ、フェアリーの合計得点っていくつだっけ?」
千早「フェアリーですか? 昨日が98で今日が99ですから、合計197ですね」
兄「だよな……」
やよい「う? プロデューサー、どうかしたんですか?」
兄「765プロの合計得点は?」
あずさ「えっと……82点に100点で182点、それに春香ちゃんが選ばれて15点が増えて……」
律子「あっ……」
兄「これ……同点だな……」
あずさ「あ、あら~……」
律子「100点を獲得して、そのうえ春香が最優秀者に選ばれて、完全に浮かれてましたね……」
亜美「これってどーなるの?」
真美「延長戦とか?」
真「そんな、スポーツじゃあないんだから……」
伊織「今まで同点なんてなかったから……正直どうなるのかが分からないわね……」
小鳥「これどうなるんですか、社長……あら?」
小鳥「……社長どこ行ったのかしら……」
兄「……」
スッ
――
黒井「ば、バカな! ありえん!」
黒井「フェアリーと……我が961プロの、完璧なユニットのフェアリーと、あの765プロが同点だと……!?」
黒井「ありえん……なぜ……なぜだ……」
黒井「ありえない……あの程度の実力で……フェアリーのほうが優れているはず……!」
黒井「まさか高木め……あいつが裏で手をまわしたのか……!」
黒井「そうだ! それ以外考えられん……第一フェアリーのオーバーマスターを超えて、100点など……!」
黒井「たった一つでも……フェアリーが負けるようなことが、あってはならんのだ……!」
美希「黒井社長」
黒井「なんだ……!」
美希「アイドルって、実力がすべてじゃないと思うな」
黒井「なに……?」
響「み、美希?」
美希「ミキね、765プロのみんなが歌ったり、踊ったりしてるのを見たとき、すっごく楽しかったの」
美希「みんなもすっごく楽しそうで、それを見てる観客の人たちも楽しそうだった」
美希「上手いダンスとか、歌とか、もちろんそれは不必要とは言えないけど……」
美希「本当に必要なのは、どれだけ人の心を動かせるかだって思うな」
黒井「人の心を……動かすだと……?」
黒井「なら、フェアリーのダンスは、歌は、ビジュアルは、人の心を動かさなかったというのか?」
美希「ううん、そんなことないの。間違いなく、フェアリーはみんなの心を動かしたの」
黒井「ならば何故!」
美希「ただ、ミキたちよりも765プロのほうが、より人の心を動かした。それだけなの」
黒井「バカな、そんなわけが……! あんな踊りと歌で……!」
美希「黒井社長はあの笑顔を見ても、何も感じなかった?」
黒井「!」
美希「みんなキラキラしてたの、今までにないくらい……」
美希「やっぱり、ミキが765を抜けて正解だったの」
美希「……黒井社長」
美希「今日までお世話になりましたなの」
響「!?」
黒井「な、なにを……!」
貴音「……」
美希「ミキ、もう765に帰るの。頑張りすぎて、ちょっと疲れちゃった」
黒井「ふ、ふざけるな! 勝手なことを……!」
美希「元々、このIMAまでの契約だったはずなの」
黒井「ぐっ……それは……」
美希「それにミキ、そろそろ765プロのみんなが恋しいの」
美希「それじゃあ、響、貴音、黒井社長、またね」
ガチャッ バタン
黒井「ま、待て! ……くそっ」
貴音「黒井殿」
黒井「!」
響「貴音!? ……まさか……!」
貴音「えぇ、私も本日を以てこの961ぷろだくしょんを離れるつもりです」
貴音「この一年を満たない短い期間でしたが、アイドルという貴重な経験、そして非常に多くのことを学ぶことができました」
黒井「何故だ……! どうして辞める!?」
貴音「私も美希と似たような理由です」
黒井「なに?」
貴音「ある意味では美希も、ある人々の心を動かすために765から961へと移籍した……」
貴音「私も、ある人物の心を動かすために」
黒井「ある人物だと……? それは……」
貴音「ふふっ、トップシークレットです」
貴音「黒井殿、貴方は分かっているはずです」
貴音「そう、美希に言われたこと、全てを」
黒井「……!」
貴音「楽しみにお待ちしております。いつか、相見える日を……」
黒井「……」
響「た、貴音……」
貴音「さようなら、響。いずれまた会いましょう」
響「貴音……」
ガチャ バタン
貴音(響、貴方にも現れるはずです。貴方の心を動かすものが)
貴音(それに……再開の時はそう遠くないかもしれません……)
黒井「……」
響「黒井社長……」
黒井「……」
響「自分……」
響「自分は! 黒井社長のところに残るぞ!」
黒井「!」
響「黒井社長が……黒井社長が自分のことを見つけてくれたから、アイドルになれたんだ!」
響「だから……! 自分、一人になっても頑張るよ! 黒井社長のやり方で勝ってみせる!」
響「今度は! たった一人でも、トップアイドルになってみせるから!」
黒井「……響ちゃん……!」
黒井「たった……一人でも……か……」
黒井(私の……やり方で……)
黒井殿、貴方は分かっているはずです
黒井「……」
黒井「クックック……」
響「黒井社長……?」
黒井「悪いが……」
黒井「今日をもって響ちゃん、キミはクビだ」
響「え……?」
黒井「分からないか? もうキミは必要ないと言っているんだ」
響「な、なんで……? どうして……?」
響「自分が……勝てなかったから? 自分には……才能がないから……?」
黒井「違う」
響「じゃあなんで!」
黒井「それは…………そう、キミは私の求める存在ではなかった」
黒井「私の求めるイメージとは違ったのだ」
黒井「響ちゃん、適材適所という言葉を知っているかい?」
響「も、もちろんだぞ!」
黒井「つまりはそういうことだ。キミの適所はここではない」
響「そんな……」
黒井「……」
黒井「765の貧弱プロデューサーよ、そこにいるのだろう」
響「えっ?」
ガチャッ
兄「……よくわかりましたね」
響「あっ、765の……」
黒井「ふん……盗み聞きなど下賤なことを……」
黒井「……何の用だ」
兄「響を引き抜きに」
響「なっ!」
黒井「ふん……」
黒井「……」
黒井「いいだろう」
響「えっ!?」
兄「そんな簡単に……いいんですか?」
黒井「……」
黒井(確かに、手放すには本当に惜しい……だが……)
黒井「……構わん、もはや私には不要だ」
響「!」
響「黒井社長!」
黒井「……フェアリーでなくなったキミに、利用価値などない」
響「……!」
黒井「ふん、せいぜい弱小事務所で仲良しこよしで頑張るがいい」
兄「……」
黒井「765プロ、次はフェアリーをも超えた、究極のアイドルで貴様らを叩きのめす」
黒井「覚悟しておくことだ」
兄「……そうですか」
兄「じゃあ、俺からも最後に一言……」
兄「響をアイドルにしてくれて、ありがとうございました」
黒井「……」
黒井「……ふん」
黒井「では、アデュー」
ガチャッ バタン
響「なんでだよ……なんで……!」
響「自分……!」
兄「響」
響「……」
兄「……」
兄「はぁ……なーに辛気臭い顔してんだよ」
兄「黒井社長に感謝しろよ? きっとお前のためを思っての言葉だったんだからな」
響「自分の……ため……?」
兄「そ、お前のために、だ」
兄「あの人も思うところがあったんだろう」
響「……本当……?」
兄「あぁ。ウチにもあーいうタイプの人がいるから、分かるよ」
兄(なんて言ったら怒るだろうなぁ……)
響「そっか……」
響「それなら……いいんだ……」
響「……」
響「そういえば……なんで765が、自分のことを引き抜こうとしたんだ……?」
兄「ん? いや、俺の独断」
響「……はぁ?」
兄「俺さ、765のプロデューサーになれてよかったって思ってる」
兄「できることなら、このままずっと続けていきたい」
兄「それでさ、次は響のことをプロデュースしたいなって思ってさ」
兄「それで引き抜きに来たんだ」
響「な、なんだそれ、意味わかんないぞ……」
兄「あ、でも活動するのは少し先な」
響「ま、まだ自分移籍するなんて一言も言ってないぞ!」
兄「え? でも移籍しないとアイドル続けられなくないか?」
響「うっ……」
兄「……」
響「うぅ~……!」
響「……しょ、しょうがないから765プロに移ってやるぞ!」
兄「ほいほい、オッケー」
響「う~……なんかムカつくぞ……」
兄「でも、さっきも言った通り、活動はまだ先な」
響「別に文句はないけど……なんか理由でもあるのか?」
兄「ん? あぁ」
兄「心配かけないためにも、一度実家に帰って母さんに報告しといたほうがいいだろ?」
響「うん……うん?」
響「ちょっと待って、それはどっちの話? プロデューサーの? それとも自分の?」
兄「どっちって、どっちもだろ」
響「?」
響「……!」
響「あー、なるほど!」
響「そういえばプロデューサーの実家も沖縄だって言ってたな!」
兄「そりゃ当り前だろ」
兄「兄妹なんだからさ」
響「……」
響「へ?」
響「ちょ、ちょっと待って……何が何だか……」
響「えーっと、誰と誰が兄妹?」
兄「俺と響が」
響「……はぁ?」
響「い、いやいやいや……」
響「そんなわけがないぞ……」
兄「……」
カチャ ピポパ
プルルルル
響「? 誰に電話かけてるんだ?」
ヴーン ヴーン
響「!」 バッ
着信:兄貴
響「えーっ!?」
優勝出来なかったから世話になった事務所を捨てて優勝した事務所に速攻鞍替えする酷い奴らに見えるんだが
兄「分かってもらえたか?」
響「で、でも、髪型も違うし、それに、兄貴は眼鏡なんてかけてなかったぞ!」
兄「髪は切った」
響「眼鏡は!」
兄「伊達眼鏡」 スッ
響「な、なるほどぉ!」
兄(こいつ……)
響「じゃ、じゃあ、ホントに兄貴なんだな……?」
兄「あぁ、そうだ」
響「あ、兄貴ぃー!」
兄「響ー!」
響「なんで今まで教えてくれ無かったんだよー!」 ドゴッ!
兄「ぐっ! み、鳩尾はやめろ……」
兄「……な、なんでって……そりゃあ、言ったらケンカになりそうだったし……」
響「言わなくても結局ケンカになっただろ!」 ズンッ!
兄「ぐぅ……! まぁ、確かに……」
響「自分……」
響「自分、ずっと寂しかったんだぞ……」
響「うぅ……ぐすっ……」
兄「……」
兄「……」 ギュ
響「!」
響「……」 ギュウゥ
兄「……」
兄「やっぱ、まだまだ子供だな……」
響「今は……子供でいい……」
『皆さま、大変お待たせしました』
『961プロダクション、及び、765プロダクションの参加者は、ステージへお集まりください』
兄「おっ、やっとだな」
兄「おい響、お呼びだぞ」
響「……」
兄「ホラ、同点でも一位だろ? トップアイドルだぞ、もっと嬉しそうな顔しろよ」
響「……兄貴は来ないの?」
兄「俺はプロデューサーだろ。裏方はステージには上がれないんだよ」
兄「さぁ、待たせちゃみんなに悪いだろ。行ってこい」
兄「ちゃんと見てるからさ」
響「……うん!」
――
響「みんな!」
春香「響ちゃん!」
美希「あっ、遅いの響!」
真美「ひびきん遅刻だよ~!」
響「ご、ごめん、もう始まってるかと思っちゃったぞ」
亜美「とんでもねえ、待ってたんだ」
伊織「あんたたち静かにしなさい、もう始まるわよ」
ザワザワ
「ただいまより、IMA授賞式を行います」
「今年度のIMA優勝は、初の同点一位」
「961プロダクション、765プロダクション共にトップアイドルの称号、トロフィーが送られます」
ワァアアアアアア!
小鳥「よ、よかったぁ~!」
律子「これで一安心ですね」
兄「真美が言ってたとおり、延長戦になんてならなくてよかったな」
小鳥「あっ、プロデューサーさん」
律子「ホントにそんなことにならなくてよかったですよ……」
兄「みんな、ここまでよく頑張ったよ」
小鳥「えぇ、本当になれたんですね、トップアイドルに」
律子「夢みたいですよね……」
兄「……」
兄「ホントになぁ……」
兄(一年にも満たないこの期間、いろいろなことがあった)
兄(みんな、信じられないくらい成長した)
兄(俺も成長できたのかな……)
黒井「……ん?」
高木「……」
黒井「……」
黒井「ふん」
コツコツコツ
高木「……見ていかないのかい?」
黒井「……」
黒井「もはやあそこに私の求めるものはない」
黒井「私は、私の求める次の駒を揃えに行くだけだ」
高木「そうか……」
黒井「今、お前と語ることなどあるまい」
黒井「失礼する」
ガチャッ バタン ブロロロ
高木「黒井……」
高木「これだけの訴えを受けても……キミには届かなかったのか……」
貴音「大丈夫です」
高木「四条君……」
貴音「きっと……黒井殿にも……」
高木「そうか……」
高木「そうだと、願うばかりだ……」
「最後に、最優秀者である天海春香さんには、最優秀トロフィーが送られます」
亜美「ほらほら、はるるん!」
真美「トロフィーですよ! トロフィー!」
春香「うわっちょちょっ、押さないで!」
伊織「こら、あんまりはしゃがない!」
あずさ「あらあら~」
「見ているこちらも楽しくなるような素晴らしい笑顔だった、本当におめでとう」
春香「わぁ! あ、ありがとうございます!」
ワー! ハルカチャーン! オメデトー! カッカー!
パチパチパチパチパチ!!
美希「春香ー! おめでとうなの!」
響「おめでとうだぞ!」
千早「おめでとう、春香!」
春香「うんっ! みんな、本当にありがとう!」
春香「あっ」
兄「……」 パチパチ
春香「……」 ニコッ!
兄「はは……」
兄(そうだ……俺も、確かに前へ進めているんだ)
兄(だってこんなにも……頼れる仲間たちが出来た)
兄(ゆっくりでもいいさ……歩いていこう、これからもずっと……)
兄(みんなと一緒に……)
―――――――
――――
――
ピンポーン
兄「ん? 誰だ、こんな朝早く……」
兄「はーい、今開けまーす」
ガチャッ
響「はいさーい! 兄貴!」
兄「うおっ!? 響! それにハム蔵やいぬ美たちまで!」
ハム蔵「ヂュイ!」
いぬ美「ばうっ!」
兄「な、何の用だ? というかよくここが分かったな……」
響「とりあえず入れてくれない? 荷物が重たくって……」
兄「い、いや、このアパートは確か……」
響「大家さんに聞いたらペットOKって言ってたぞ」
兄「ぐっ…………まぁいい、入れ」
響「やったー!」
兄「先に言っとくけど、掃除なんてしてないからな」
響「う、うわぁ……ちょっと汚すぎない……?」
兄「だから言っただろ? 嫌なら帰れ」
響「まぁ、我慢するぞ」
兄「なにを偉そうに」
兄「で、なんでここに来たのか説明してもらおうか」
響「あぁ、うん。それなんだけど」
響「いやぁ、実はさ、961プロをやめちゃったから、住む場所がなくなっちゃったんだぞ!」
兄「待て」
響「ん? どうかした?」
兄「まさかここに住む気じゃないだろうな」
響「もちろんそのつもりだぞ」
兄「いや、いかんでしょ」
響「なんで?」
兄「いや、色々と」
響「大丈夫だぞ、いくら兄貴が変態だからって、さすがに実の妹に手を出すとは思ってないぞ」
兄「そういう問題じゃなくてだな」
兄「ここ一人暮らし用の部屋だぞ?」
響「うん」
兄「一人でも時折狭いと思うこの部屋で、2人+動物10匹」
兄「住めると思うか?」
響「うん」
兄「アホだなぁ、お前」
響「アホじゃないぞ!」
兄「はぁ……まぁいいや」
響「やったぞ。」
兄「そろそろ引っ越そうかと思ってたし、丁度いいかもしれん」
響「なんだ、兄貴、引っ越すのか」
兄「あぁ、その前にやることがあるけどな」
響「やること?」
兄「一度沖縄に帰るんだよ」
響「お、おおぉっ!」
兄「もちろんお前も一緒に帰るんだぞ?」
響「当り前だぞ!」
響「そっかぁ、電話では話したけど、まだあんまーに直接会ってないもんな」
兄「そういうことだ」
響「いつ行くんだ? まさか今日か!?」
兄「なわけないだろ、行くとしてもスケジュール的に来月以降だ」
響「なーんだ」
兄「はぁ……約一か月間、苦しい生活を迫られるのか……」
響「大丈夫だぞ、なんくるないさー」
兄「誰のせいだと思ってんだ」
兄「まぁいい、とりあえず朝飯食って着替えなきゃな」
響「どっか出かけるのか?」
兄「仕事だ仕事……ってやべ、時間が! 朝飯抜きでいいか!」
響「朝ご飯はちゃんと食べなきゃだめだぞ!」
兄「お前が来なかったら食べれてたの!」
響「むー……」
兄「あぁ、やばい……えーっとこの書類と……これと……」
兄「あれ……ネクタイがない……くそ……こういう時に限って見つからないんだよな……」
兄「どこだ……ちくしょう……」
響「これか?」
兄「あっ、それだ! どこにあった?」
響「普通にハンガーにかかってたぞ」
兄「よかったよかった」
響「ベルトも忘れてるぞ」
兄「あ、すまん」
兄「よし! それじゃあ行ってくるな!」
響「あ、待って!」
兄「なんだ?」
響「はい、これ」
兄「? ラップで包んだおにぎり?」
響「兄貴が準備してる間に、冷凍されたご飯を温めて作っておいたぞ」
兄「ま、マジか! ありがとよ!」
響「ふふん、存分に感謝してくれていいぞ!」
響「あ、それとネクタイ曲がってる」
兄「うそ、マジ?」
響「んー…………ちょ、ちょっとかがんで……」
兄「こうか?」
響「そうそう、そのままじっと……」
兄「お前……背ぇひっくいなぁ……」
響「う、うるさいなぁ! ……よし、出来た!」
兄「サンキュー」
兄「じゃあ、行ってくる」
響「うん、いってらっしゃい!」
――
兄「おはようございます」
小鳥「おはようございます、プロデューサーさん」
春香「あ! プロデューサーさん!おはようございます!」
兄「ん? 春香はまだ時間あるけど、随分と早く来たんだな」
春香「はい! 今日は久しぶりにプロデューサーさんと一緒ですから、張り切ってきちゃいました!」
春香(ふふふ……あの時言えなかったことを……今日こそ……!) のヮの
兄「一緒って言っても送り迎えだけだぞ……」
兄「まぁ、時間までのんびりしててくれ」
小鳥「あら? そのおにぎり……」
兄「え? あぁ、これ俺の朝食です」
春香「プロデューサーさん、またコンビニのおにぎりですk……あれ? 手作り?」
兄「実はこれ響が作ってくれたんだ。朝、時間がなかったから」
小鳥「へぇ! 響ちゃんが…………って響ちゃん?」
兄「ええ、なんか朝から突然やって来て、色々あって一緒に住むことになったんです」
春香「!?」
小鳥「ど、同棲……!?」
小鳥「ぷ、プロデューサーさん……血の繋がった家族に手を出したらさすがにまずいですよ!」
兄「そ、そんなことするわけないじゃないですか!?」
春香「……」
小鳥「禁じられた愛……いえ、だからこそ……!」
兄「何言ってるんだこの人は……」
春香「愛……」
春香「……」
春香「……ふ、ふふふ……」
春香「プロデューサーさん!」
兄「お、おう!? なんだ春香?」
春香「朝ご飯を作る時間もないなら、今度から私が作ってきてあげますね!」
兄「え? いや、今日が遅くなっただけで、別に朝食を作る時間ぐらいは……」
春香「私が作ってきてあげますね!」
兄「あ、うん」
春香「そっかぁ……妹なんて、完全に盲点だったなぁ……」
春香「可能性としては伊織か雪歩あたりを予想してたけど……」
兄(何のことだ……?)
春香「プロデューサーさん! 私、誰にも負けないように頑張りますね!」
兄「お、おう、がんばれ……」
春香「ふふふ……」 のヮの
小鳥「……実の妹と担当アイドルの間で揺れるプロデューサーさん……アリね……うふふ……」 ブツブツ
兄(な、なんだこの空間……) モグモグ
――
ブロロロ
兄「いやぁ、春香たちも、もうトップアイドルかぁ……」
春香「はい」
春香「この一年、色々ありましたねぇ」
兄「そうだな」
春香「ここまで来れたのは、プロデューサーさんのおかげです」
兄「ありがとう。でも、ここまで来れたのは俺のおかげじゃあなくて、みんなのおかげだ」
春香「えぇ、もちろんみんなのおかげでもあります」
春香「でも、私たちが変わるきっかけをくれたのがプロデューサーさんなんです」
兄「きっかけ……」
春香「ううん、きっかけだけじゃあない。プロデューサーさんはみんなを励まして、支えてくれました」
兄「……そうか」
兄「そう言われると、照れるな」
春香「えへへ、感謝してますよ? プロデューサーさん」
春香「はー、でも、トップアイドルかぁ」
春香「今じゃあ外に出るときに今みたいに変装することが多いし……」
春香「多分、一年前の私に来年の自分はトップアイドルだ、なんて言っても信じてもらえないだろうなぁ」
兄「あはは、かもな」
春香「一年前は丁度、美希が765を出ていったときでしたしなおさら……」
兄「星井さんか」
兄「でもよかったな、765に戻ってきてくれて」
春香「そうですね。美希もそうですけど、響ちゃんも765プロに移籍してくれてとっても嬉しいし、心強いです!」
兄「あとは四条さんだけ分かんないんだよなぁ」
兄「響や星井さんに連絡を取ってもらおうとしても繋がらないし……」
春香「謎ですね」
兄「まぁ、そのミステリアスさが彼女の売りなわけだが……」
兄「だけど……ふとしたとこで、また会える気がするよ」
兄「そういや今度な」
春香「はい?」
兄「俺、沖縄に帰るんだ」
春香「えぇっ!?」
春香「どうして……! プロデューサーさん、765プロをやめちゃうんですか!?」
兄「あぁ、いや、心配するな。帰るって言ってもちょっとだけだ」
兄「響と一緒に、親に会いにな」
春香「な、なぁんだ……急に沖縄に帰るなんて言うからびっくりしちゃいましたよ!」
兄「言い方が悪かったな、ごめん」
兄「……それに、俺はもうプロデューサーをやめるなんて言ったりしないさ」
兄「少なくとも、春香たちがアイドルを続けてる間は」
春香「本当ですか!?」
春香「なら私、一生アイドル続けちゃいますね!」
兄「いや、無理だろ……」
キッ
兄「さ、着いたぞ」
春香「はい、ありがとうございました!」
春香「それじゃあ、行ってきますね」
兄「あぁ、今日も頑張って来いよ」
ガチャッ バタン
タッタッタッ
兄「……」
兄(……よし、俺も事務所に戻って仕事するかな)
「プロデューサーさーん!!!」
兄「!」
「私たちみーんな! プロデューサーさんのこと、大好きですよー!!!」
「これからもずっとずっと、ずぅーっと、よろしくお願いしますねー!!!」
兄「は、春香……」
兄(変装中だからって、目立つようなことはしちゃダメだろ……)
兄「……」
兄(みんな……か……)
兄「ありがとう……春香……」
――――
――
兄「ただいま……」
響「あっ、おかえりー。随分とお疲れだな」
兄「あぁ………………って」
兄「おおっ! 部屋がスゲェきれいになってる!」
兄「まさか響が掃除してくれたのか!?」
響「ふっふっふ、まぁねー。これくらい、自分にかかれば楽勝さー!」
響「風呂、台所、トイレ、食器洗い、洗濯、ぜーんぶやっといたぞ!」
兄「す、すごいなお前……」
響「まぁ自分完璧だからな!」 ドヤァ
兄(あながち間違ってないかもしれん……)
響「お風呂沸いてるけど、ご飯とどっちがいい?」
兄「いい匂いがすると思ったら、飯まで作ってくれてたのか」
響「今夜は響特製クリームシチューだぞ!」
響「それで、どっちがいい?」
兄「あ、あぁ、じゃあ先に飯にするかな……」
響「わかったぞ、すぐ用意するから待ってて」
兄「お、おう……」
――
兄「うめぇ……」 ズズズ
響「あったり前だぞ、なんたって自分が作ったんだからな!」
兄「そうだな……いや、ホントにうまい……」
響「言っても自分が持ってきたものとか、有り合わせの材料で作ったんだけどね」
兄「俺自体あんまり料理しないから手料理なんて久しぶりだ」
響「だめだぞー、コンビニ弁当とかカップラーメンばっかり食べてちゃあ、体壊しちゃうぞ」
兄「いつもはこんな早い時間に帰ってくること自体稀だからなぁ……」
兄「どうしても料理する気がおきん」
響「ま、これからは自分が作ってあげるから安心だな!」
兄「へいへい、ありがとよー」
――――
――
響「上がったぞー」 ホカホカ
兄「ほいほい、冷蔵庫にある飲み物とか適当に飲んでいいぞ」
響「わかったぞ。兄貴は何かいる?」
兄「俺? じゃあビール取ってくれるか?」
響「はーい、ビールね…………って、ビール?」
兄「俺、この前二十歳になりましたー」
響「おおっ! そういえば! 完全に忘れてたぞ!」
兄「誕生日すら祝ってくれねぇ妹とは……ひっでぇ話だなぁ」
響「兄貴の誕生日は絶対に祝わないって決めてたからな。はい、これでいいよね」
兄「おっ、サンキュ」 プシュッ
兄「でもなんで祝ってくれないわけ? 昔は普通に祝っててくれた気がするんだけど……」
響「兄貴、憶えてないのか……」 ゴクゴク
兄「なにを?」
響「ふん……兄貴のせいだぞ……兄貴が悪いんだからな……」
兄「だから何がだよ」
響みたいな娘いたら即結婚申し込むよな
響「小さいころ、兄貴の誕生日に自分が肩を揉んであげようとしたら……」
――――
――
『にぃにぃ、肩もんであげる!』
『いや、いいよ。別に肩こってねぇし』 カチカチ
『えー、いいじゃん、ちょっとだけでいいからぁ』
『ちょっとだけってなんだよ。そんなに肩もみたいなら父さんの肩もんでくればいいだろ?』 ピコピコ
『たーりーじゃなくてにぃにぃがいいの!』
『んなこと言ったら父さんがかわいそうだろ』
『たーりーはいっつもしてあげてるもん』
『じゃあ母さんは?』
『あ、あんまーは……えっと……』
『なんだよ』
『うー……だからぁ……そのぉ……』
『はぁ……俺忙しいから後にしてくれないか?』
『! ううぅぅー……』
『うわああぁ~! にぃにぃのばか~!』
『えぇ……』
――
――――
響「……って……」
兄「あぁ……」
兄「そんなこともありましたね……」
兄(あれって俺の誕生日だったのか……)
兄「で、でも、それくらいの理由でこの十年以上意地張り続けたのか?」
響「それくらいの理由……!?」
響「こっちは祝ってあげようとしたら拒否されて……すっごくショックだったんだぞ!」
兄「す、すまん……」
響「はぁ……あの時は傷ついたぞ……」
兄(俺もあの後親父にゲンコツ食らって物理的に傷ついたがな……)
響「大体、兄貴だって自分の誕生日祝ってくれてないじゃん!」
兄「そ、それは……響が俺の誕生日を祝ってくれなくなったから……それに対抗して……」
響「子供か!」
兄「お前だって子供だろうが」
響「うるさーい! 元々は兄貴が悪いんだぞ!」
兄「わかったわかった! 次の誕生日はちゃんと祝ってやるから!」
響「うー……ホントに?」
兄「マジマジ、ホールケーキも買ってやる」
響「……」
響「なら……許してあげないこともない……かも……」
兄(よ、よし! あと一押しだ!)
兄「悪かったって、響」 ギュ
響「……!」
兄「許してくれ……」 ナデナデ
響「……」
兄「……」
兄(ま、マズイ……二度目は効かないか……!?)
兄「……」
兄「…………」
兄「………………」
兄「……あれ?」
響「すぅ……すぅ……」
兄「寝てるし……」
兄(すぐに寝ちまったけど……やっぱ疲れてたのか)
兄(にしても寝るの早すぎだけどな)
兄「ま、このまま寝かしといてやるか…………ん?」
兄「あ、これ……」
兄「……チューハイ飲んだのか、こいつ」
兄「ジュースと間違えたんだな……」
響「……すぅ……すぅ……」
響「……ん……あんまぁ……」
兄「はは……」
兄「沖縄にいたころの夢でも見てるのか?」
兄「……」
兄「沖縄……か……」
春香と響と美希の修羅場はよ
兄(なぁ、響……)
兄(この歳でトップアイドルになっちまったお前は、何を感じてるんだ?)
兄(この若さで、様々なモノを奪われた……)
兄(年相応の自由も、親も、故郷も……)
兄(お前の夢によって、お前自身が縛られる……そんなお前は何を……)
兄(期待……? 不安……?)
兄(俺は、不安のほうが大きいよ)
兄(でも……だからこそ、みんなで支えあうんだ)
兄(だから、きっと大丈夫だよ)
兄(辛くなったら、支えあって生きていこう)
兄(俺たちはみんな、家族なんだから……)
響「すぅ……にぃに……」
兄「……」
響「……かな……さんどー……」
兄「…………」
兄「……おやすみ…………響……」
―おわり―
見てくださった方々、本当にありがとうございました
途中地の文を入れることで色々(竜宮とか)省いたり、最後の方がご都合主義になってたりしましたが、今回が初ssなんで大目に見てください
最近になって某響ホラーssからアイマスを知って響にゾッコンです
響かわいいよ響。あんま出番なかったけど
某響ホラーって廃村シリーズ?
響ホラーってなったらそれしか思い付かない…
次は一応、廃村響や病棟千早を参考にした、千早が主役のssを書くつもりですので、その時はオナシャス!
(たぶんr板(?)でたてると思います)
病棟千早ってどんなんだっけ?
アリス?
html化(?)依頼出す前にテスト http://imgur.com/M06wk22
あのSSこっちに移動した時は参加したなー
あれ最初は怖いんだけど途中から怖いんじゃなくwktkしちゃうんだよね
今でもたまに読む
ウィ、かなりの良SSだ
褒めてやろう>>1よ
黒井「王者の風よ!」
黒井「全新!系列!天破!侠乱!」
このSSまとめへのコメント
このSSまとめにはまだコメントがありません