橘ありす「炎上しました、、、」 (28)
「炎上」という言葉があります。
国語辞典を引いていただければ分かりますとおり、本来は文字どおり何かが燃え上がる事を意味している言葉で、火事などで建物に火が付き炎に包まれている様子を表す時などに使われるものだったのです。
しかし、インターネットの世界やその影響を色濃く受けている芸能界などエンタメの業界では少し違った使われ方をします。
表現が難しいのですが、「騒動になること」といえば良いでしょうか?
少し前に、数万というファンを持つツイッターのユーザーが、「パクツイ」と言われる他人の発言をあたかも自身で考えたかのように呟き続けていたということで沢山の人の注目を浴びました。
沢山ネットユーザーが彼のことを話題に取り上げ、大喜利をしたりですとか、ニュースサイトに正論を添えたりですとかをして、盛り上がっていました。
私もまとめサイト読んだ話を正義感に駆られて何度か話題に出してしまったことがあります。
間違ったことをした人をちゃんと罰して社会を正しい方向へ導いていくことが私達人間一人一人の役割だと私は思うのですが、どうやらプロデューサーの考えは違っているみたいで、にやにやと笑いながら私の頭をワシワシと撫でてきました。
プロデューサーさんがこうするときは、私を子供扱いするときです。
プロデューサーさんが言う、「昔の自分を見ているようで懐かしい」とのことには少し感じ入るところが無いことも無いのですが、アイドルになって時間が経って、色んな経験を通してちゃんと大人になっている私をずっと同ように子供扱いしている事には流石に思うところがあります。
ちゃんと、成長している私のことを見て欲しい。
そんなことで私の頭がいっぱいになっていることを知ったら、貴方はまたいつもの顔で私の髪を掻き乱すのでしょうか。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1463757334
「はい、ありす。これが今度の舞台挨拶で話す内容な。当日はネットに動画が生放送で流れるから、上手に話せるように後で練習しよう」
普段はレッスンへ行く道中の車の中や、休憩室のソファーで仕事の話をするプロデューサーさんが、わざわざ会議室を取ってまでしてしているこのお話は、今度私が出演させていただく映画に関わるお話です。
歌や音楽に関わる仕事がしたい、とアイドルの門をたたいた私ですが、やはりこういった演技のお仕事にも興味はあります。
あのミュージカルのように、誰かを感動させられるようなお仕事へ魅力を感じるということもありますし、単純に尊敬できるカッコイイ大人の人達と肩を並べてお仕事ができるということに、これまでの自分の頑張りが認められたような達成感を感じるところもあります。
そんな新しい世界へ踏み出すことへの緊張もあるのでしょうか、いつもよりも少し丁寧なプロデューサーの言葉使いにお仕事の規模の大きさが垣間見えて、私の背筋もいつもに増してぴんと伸びています。
とりあえず、ありすが話すところだけ。と、渡された書類は普段持ち歩いている教科書よりもいくらも薄くて小さい筈なのに、とてもとても重たいような気がしました。
重たいような、気がしていたのですが、、、
「あの、なんといいますかコレ。ふつうではないですか?」
どう言葉にすればいいのでしょうか、どこかで聞いた言葉といいますか、それを私の普段の言葉使いに直しただけといいますか。
「ん?じゃあいつもみたいにちょっと可愛い感じの内容の方がよかったか?」
ため息と一緒に「からかうのはやめてください。今は真面目な話をしているんです」と睨む私に、プロデューサーさんは「すまんすまん」と照れくさそうな苦笑いを浮かべながらこういいました。
「いいんだよ、普通で。そこは違いを出すところじゃないから」
「いやいや、そんなじとっとした目で見るのはやめてくれよ。割とへこむから、、、」
最近、こうやってチャラけて話を脱線させようとするプロデューサを正すのが自分の役割のように感じてきました。
ため息の中に、呆れ......の気持ちは少し混ざってはいるかもしれませんが、決して嫌な意味とか気持はありません。。
悔しながら、私はそのことに気付いてしまっています。
そして、おそらくプロデューサーさんも。
こんな時も頭の中を過るのは、プロデューサーさんが私のことをどう思っているか、ということです。
まだほんの些細なことばかりですけど、頼るだけではなくて、少しずつプロデューサーさんのパートナーとして隣に立てる自分へと成長していけている自覚はあります。
なのに、プロデューサーさんとの関係は出会ったころから少しも変わる気配がありません。
私には何か、足りないモノがあるのでしょうか、、、
家に帰って、ご飯を食べてお風呂に入り、学校の宿題をやりながらも頭に過るのは今日のことでした。
ぷ、プロデューサーさんのことじゃありませんからね!
私はそんなに色ボケじゃありませんから!
どうしても頭から離れないのは、「ふつうではないですか?」と尋ねた私に「そこは違いを出すところじゃないからいいんだよ」と答えたプロデューサーの言葉です。
ファンの皆さんや協力してくれたスタッフの方々の為に、少しでも良い物を提供するのが私達のお仕事の筈です。
手を、抜いているわけではないのでしょう。
そのようなことをする人ではありません。でも、そのようなことをする理由も内容に思えます。
手を抜く以外の理由で、挑戦的ではない、無難なお仕事をしようとしている理由、、、
「失敗の無い、確実なお仕事をしようとしている、ということでしょうか」
だとすれば、考えられる可能性は一つです。
「プロデューサーさん、もしかして腰が引けてしまっているのでは、、、?」
妙に丁寧だった言葉使い、緊張した振る舞い。
プロデューサーさんは大人ですし、責任がある立場なのも分かります。
大きくて大切なお仕事なので、確実に成功させなければならないというプレッシャーも理解できます。
...それでも、そんなのはきっと、私達らしくありません。
だからここは私の頑張りどころです。
成長した私の姿を見せて、プロデューサーさんの目を覚ましてあげるのです。
―――今ならなんだって出来るような、そんな確信がはじけているのを感じます。
「私達だけの、私達らしい舞台挨拶を考えてみせます」
そう心に決めて、私は映画の原作になるゲームを起動しました。
「や、やはり難しいものですね」
舞台挨拶の日が迫る一方、私の原稿の進み具合はさっぱりな有様でした。
一応は何回か書きあがりはしたのですが、どうも納得がいかずに勢いのまま消してしまいまして。
そんなことを繰り返しているうちに、自分の中にあった感動や感想がぐちゃぐちゃと混ざり合ってしまって、キーボードを打つ手が動かなくなってしまいました。
あの登場人物を初めてみたとき、彼らや彼女達がとった行動に対して自分が何を思ったのか、今の自分には何一つ思い出せません。
「今からもう一度ゲームをやり直す時間はありませんし、、、」
やり直したとしても、初めて登場人物に出会った時のあの気持ちをもう一度思い出せる自信はありません。
「こんなとき、料理ならレシピを見ればいいんですけど」
いつかの収録の日から着いた手癖のとおりタブレットでインターネットの検索画面を開き、なんとなくの気持ちで原作ゲームの名前を打ち込んでみました。
流石は映画化までたどり着いたゲームだけあって、たくさんのホームページがヒットします。
その中で最初に目についたのは、何度か使ったことのある有名なインターネット通販サイトでした。
「あっ、も、もしかして!」
はやる気持ちをそのままに、通販サイトを叩きました。
読み込みがいつもよりも遅く感じます。
私の予想が正しければ、、、
「や、やっぱり!」
そうです。通販サイトにはそれぞれの商品のレビューが付けられているのです。
いつもなら商品の使用感であったり、食感や味について記入されているそのスペースにはそのゲームの感想について記入されていました。
そのレビューをひとつ、またひとつと読み続けているうちに、自分の中に埋もれて見えなくなってしまっていた感想たちが再び形を持っていくのを感じました。
「ま、まだ足りません。もっと、、、」
検索欄に、レビューの4文字を追加してもう一度検索を掛け直します。
「ああ!凄い!流石私、これなら!」
これだけ沢山参考になるものがあれば、きっと満足できる挨拶がかけるはずです!
『〇〇〇〇主演、橘ありす。語る!』
『大抜擢、346プロダクション橘ありす!』
翌日の朝のワイドショーは私の話題で持ちきりでした。
その全てが私のことを「しっかりしている」ですとか「子供だとは思えない」ですとかほめたたえるモノですから、もうほっぺたの緩みが止まらなくて大変です。
舞台挨拶の出来は、この上無い物でした。
リハーサルで話していた内容と全く違ったことを話し始めた私に司会の方は吃驚してましたし、プロデューサーには「勝手なことをするなよ、、、」と怒らたりはしましたが、それでも最後には「頑張ったな」と褒めてくれました。
くしゃくしゃと頭を撫でる手も、私に向ける表情もいつものどおりでしたが、それでも何かが少し変わったような。
そんな気がしました。
ここから、何かが始まってくるような、そんなオレンジ色の予感は、
突然駆け込んできたちひろさんに告げられた「今日のレッスンはお休み」の一言でがらりと形を変えました。
「346プロ所属橘ありす、〇〇舞台挨拶にてレビューサイトより丸パクリ!?」
朝のワイドショーにかかったテロップは、昨日とはうってかわって私を糾弾するものでした。
頭を大きくて堅い何かでたたかれたような、いつも通りの筈なのに、突然足元が不安定になるような、そして強い動悸を前にして私はへなへなと座り込んでしまいました。
実をいうと、こうなる可能性を全く思い浮かばなかったというわけではありません。
学校ではインターネットから見つけてきた読書感想文をそのまま提出して先生に叱られている同級生を見たこともありましたし、オリンピックのエンブレムの事件もありましたから。
ですから、あくまでも参考程度にしただけで文章自体は頑張って自分で作ったんです。
もしも疑われるようなことがあっても、十分言い訳ができるだけの理由も準備していました。
「でも。。。こんなことになってしまうと、、、」
もう、きっとこの流れは止められないでしょう。
まだ子供の私にも分かります。
私はとんでもないことをしてしまったのだと。
「どうしよう、プロデューサーさんを困らせちゃう、、、」
先ほどからなっているスマートフォン。
LINEではなくて、ちゃんとキャリアの電話回線を通したプロデューサーさんからの着信。
当然、とれるはずがありません。
合わせる顔どころか、交わす言葉すら、、、
「と、とりあえず学校に行かないと、、、」
朝ごはんなんて、喉に通るはずが無く。
その日初めて、私は両親が作り置きしたごはんに手を付けることなく学校に向かいました。
いつもと同じ通学路が、まるで異世界の迷路のように感じます。
決して多いとは言えませんが、私にだって何人かは学校にも友達がいます。
会話を交わす程度の知り合までを含めるれば「沢山」と言っても差し支えはないでしょう。
いつもはそんな、登校のタイミングが重なった同級生と他愛のないおしゃべりをしながら学校へと向かうのが私の朝の習慣でした。
なのに私は今、一人でうつむきながら歩道を歩いています。
私が歩く周り数メートルには誰一人として足を踏み入れようともせず、皆が私を何か恐ろしい物や歪なものを見るような、そして馬鹿にしてあざけ笑うような目で横からちらちらと覗き込んでくるのがたまらなく苦痛です。
どこかで笑い声がすれば、その嘲笑が自分に向かっているのではないかと背筋がびくんと反応し、そんな自分が誰かに見られて笑われているのではないかと、また周りが怖くなります。
そんなものはあくまで妄想で、朝のニュースなんてみんなちゃんと見ていなくて、もしくは朝見たあのニュースはたまたま見間違えただけで。
必死にそう自分に言い聞かせながら足を前へ前へ踏み出している途中にも、普段なら声をかけてくれる同級生が目をそらしながら傍らをかけていくのが目に入って心が苦しくなります。
今もプロデューサーさんからの着信で震え続けているスマートフォンに縋りついて逃げ出したくなります。
「プロデューサーさん、、、」
それでも今はまだ、この電話を取るわけにはいかないのです。
「何か、解決する方法を考えないと、、、」
これ以上プロデューサーさんに迷惑を掛けないように、何か皆に納得してもらえる方法を考えないと、、、
いくつかの角を曲がって差し掛かった、学校までの長い一本道。
遠くに見える校門の前に佇む見慣れた大きなカメラと、見慣れない3、4人の大人の人に気付いた私は、今まで一度も曲がったことの無い角へ駆け込み、知らない住宅街へ向かって逃げ出しました。
「まさか、テレビの人がこんなところにまで来てるなんて、、、」
良く考えれば、当たり前のことなのでしょう。
今まで何度かテレビ局に履歴書を送ったこともありますし、もっと言えば制服のままメディアに露出したことだって一度じゃありません。
「それでも、こんなことって」
今まであんなに良くしてくださっていてテレビ会社の大人の人達が、こんなに素早く私をニュース番組のネタにしようと襲い掛かってきた事実に、胸が苦しくなります。
プロデューサーさんにスカウトされて、沢山の経験をさせて頂いて。
そして色々な人と出会っていく中で、大人の人達は私が勝手に思い込んでいたようなものじゃないって思えるようになっていたのに。
「やっぱり、大人の人なんて、、、」
プロデューサーさんの声が聞きたい。
「お腹が痛い、、、」
じゃないと、本当に泣いてしまいそうです。
またPの家が燃えたのかと
やはり、といいますか。
家の前にもマスコミの人が張り付いていて、近づくことはできませんでした。
「せめて、この服とランドセルを置きたかったのですが、、、」
ただでさえこの時間子供が街中を歩いていると目を引いてしまうのに、私立のこの制服と両親が張り切って買ってくれたランドセルは必要以上に目を引いてしまいます。
こそこそと出来るだけ人目を避けられる人通りの少ない道を選んで歩いてはいますが、人とすれ違わずにいることはできません。
出来るだけタブレットで顔を隠したり、下を向いたりして私のことが分からないように工夫をしてはいますが、中には気付いた人もいるでしょう。
「テレビ局に通報とかされてないといいんですけど、、、」
人目を避けながら辿り着いたのは、個人経営の小さな漫画喫茶です。
テレビ局の大人達に手のひらを返された今、どうしても気になるのはファンの方々の反応でした。
「きっと、あの方々は私の味方でいてくれているはず」
あの、プロデューサーが私を連れて行ってくれた暖かい舞台の上で出会ったあの方々なら、きっと今の私を勇気づけてくれるはずなのです。
私のスマートフォンもタブレットも、両親がかけたフィルタリングという機能のおかげで、一番の生の声が聴けるというインターネットの掲示板にはアクセスできません。
プロデューサーさん達にもアクセスは禁止されているので、アイドルになってからは出来るだけ見ないようにしている場所なのですけど、あそこしか今の私に頼ることができる場所は思い浮かびませんでした。
自分の人間関係の狭さに、所詮は子供であることを痛感させられてまた一つ心が締め付けられました。
100円均一で買ったヘアゴムと野球帽で簡単な変装をしている私を、店員さんはいぶかしげに睨みつけはしましたが、特に何も言わずに中へ通してくれました。
きっと、個人経営のお店は色々なところがいい加減だという私の読みは当たっていたようです。
お金を前払いで支払って、通してもらったパソコンだけが鎮座した小さな部屋の中で、私は急いでキーボードをたたきました。
ここにたどり着くまでに試した図書館や、市役所に設置されているパソコンでは私のタブレットと同じようにアクセスできなかった大手掲示板サイトに問題なくアクセスできたことにほっと溜息をつきながら、検索欄に自分の名前を打ち込みました。
炎上なんざ正義面した暇人にやらせとけというスタンスだが、その的がありすとなると胸が苦しくなる
―――底の浅いガキが調子に乗るからこうなる。笑う。
―――あの年齢であの容姿なんて普通じゃん。何も特別なところなんて無いのに、なに勘違いしてるのww
―――「音楽を仕事にしたい」って言ってる割に歌唱力は二流。既にバラエティー担当に廻されてるのに、文化人気取ったようなあの発言。それだけでも笑えるのにパクリとかww
「間違った人をちゃんと罰すること」それが正しさだと思っていたつい先日の自分の、なんとバカなことでしょうか。
自分一人で盛り上がって、何も分かっていないのに、全てを分かったような顔で勝手に人を傷つけて。
そして今も、プロデューサーさん達との約束一つ守れずに、自分勝手に傷ついている。
「プロデューサーさんと一緒に積み上げて来たもの、全部なくなっちゃった」
―――橘ありすちゃんのファンやめます。
―――そもそもこいつ、出たころのキャラクターと全然違うし。この年で俺らから金を搾り取るために振舞い方まで変えて、相当末恐ろしいぞ。
―――ていうかこいつ、歳の割に最近色気ついてきたよな。やっぱアイドルだし男を知ったとかかな?
―――......勝手な想像はやめてください。ありすちゃんについたのは色気ではなく自信だと思われます。
―――おまえらもっとやれ。イメージビデオ業界がアップを始めますぞ。
溢れた涙で、画面が見えなくなりそうです。
―――ありすちゃん、こんな所で負けないでほしい。騒ぐほどの問題じゃない。
―――......幼い姿で必死に何者かであろうとする姿に毎日勇気づけられていました。もっとありすちゃんのことを見ていたいのです。
―――歳不相応の発言とか多かったけど、陰で勉強して努力してたってことが分かってむしろ好感が持てた。これからも頑張ってほしい。
―――・・・
――・・・
―・・
―・
・
こんな。こんな、考え無しで、バカで、どうしようもない。
自分と、プロデューサーさんのことしか考えてないような子供のことを、こんな状況でも庇ってくれる人がいるなんて。
こんなことになってもまだ、私のことを見てくれようとする人がいるなんて。
もしもまだ、許されるチャンスがあるのなら。
こんな私を、まだ応援してくれる人がいるのなら。
プロデューサーさんや、自分自身のためではなくて、ファンの皆さんの為に頑張りたい。
いつか物語の中で目にしたことのある、あの頃は少し胡散臭いと訝しんでいた感情が自分の中から湧き上がってくるのを感じました。
決して悪くは無く、とても心地のよいこの気持ちがここにあるなら、きっとここからでももう一度頑張れる。
心から、そう思えたんです。
―――応援もなにも、橘って娘学校にも行かずに逃げ回ってるんでしょ。このまま引退でしょ。
新着表示された書き込みを前に、「バカにしないでください。彼女はちゃんとけじめを付けれらる女の子です」と強くキーボードをたたきながら、ちゃんと頭を下げてもう一度頑張ろうと誓いました。
『大ヒット上映中』
そんな使い古された煽り文と私達の写真が収められた垂れ幕で飾られた駅ビルの映画館で、私が主演をやらせて頂いた映画が今日も上演されています。
使い古された煽り文に負けず、文句なしの大ヒット映画として。
あの後、マンガ喫茶の前で待ち構えていた、逃げ回っている私の噂を聞きつけて増えに増えたテレビ局のカメラの前で、私は素直に頭を下げて事情を説明しました。
―――調子に乗っていて、他の人がするような普通のあいさつでは満足できなかったこと
―――自分が満足するために、他の人が頑張って考えた言葉を無断で使ってしまったこと
―――謝罪の場から逃げたことを含めて、たくさんの人にご迷惑とご心配をかけてしまったこと
自分の頭で考えた、自分の言葉で、誠心誠意の謝罪を行いました。
そんな私を待っていたのは、さっきよりも強いシャッターの光と
「この責任はどうやってとるおつもりですか?」
という、追い打ちをかけるような、そして少し考えればわかる当然の質問でした。
「……」
「……ありすちゃん、どうされました?」
「いえ、あの日のことを思い出していたんです。ごめんなさい、このお話も何度目でしょうかね」
あの事件の後も、変わらず私を友人として対等に扱ってくれた文香さんとは、いまでもこうやって一緒にお茶をさせていただく関係です。
「……ありすちゃんは、プロデューサーさんのことが大好きですね」
「や、やめてください。恥ずかしい、、、」
あの日のことは、今でも瞼の裏に焼き付いています。
一生、忘れることはないのでしょう。
―――自分に取れる責任なんてありません
―――だから、許されるなら私を応援してくださる方が最後の一人になるまで、お仕事を続けたい
やっとの思いでそう絞り出した私に向かって、なおも畳み掛けようとするメディアの人達の前に立ちふさがったのは、私がずーっと追いかけてきたあの背中でした。
「ここから先は、プロデューサーである私の責任です。皆さんがそれで納得されるなら、職を辞する覚悟でもあります」
「ですから、ここまでの全てをこちらの橘ありすの魅力として受け入れ、これからのアイドル活動を応援していただきますよう、お願いできませんか?」
私にだって、この言葉の重みぐらいは理解できます。
結局、私は何も分かっていなかったんですね。
アイドルのことだけではなくて、プロデューサーさんのことも。
全く違うところを見ながら自分に足りないモノは何だろうだなんて、本当に馬鹿げていました。
プロデューサーさんのことは、大好きです。
この気持ちに、恥じ入ることなんてひとつもありません。
だからこそ、今はこの気持ちを飲み込みたいと思うんです。
今の私に必要なのはきっと、精一杯アイドルを頑張る事だから。
そして、プロデューサさんやファンの皆さんに、いつか私に見せて下さったあのサイリウムの海のような景色に、連れて行くことだと思うから。
おわり。
読みごたえあった 乙
おつ
心にくる重さだな・・・
乙乙
おつおつ
ネタスレだと思ったらガチスレだった・・・
この責任はどうやってとるの下りで吹いてしまった12歳やぞ
けどしっかりファンに説明責任を果たす橘さんさすがですね某知事も見習って欲しい
2chにコメしてる人の内二人が文香で笑ってる
まだ小学生に何を求めてるのかね
乙
ガキんちょに集りまくるマスコミか…
乙
実際にありそうで味わい深い作品だった
最期まで読んでくださった方々、コメントまでしてくださった方々、本当にありがとうございました。
過去作だけ置いてhtml化出してきます
ありすラジオ
http://elephant.2chblog.jp/archives/52137034.html
橘ありす「といいますか、ラインやってません」
http://elephant.2chblog.jp/archives/52153949.html
このSSまとめへのコメント
このSSまとめにはまだコメントがありません