盗賊娘「ハンターラビット」 (95)

盗賊「いよっしゃ、"皇帝の黒真珠"ゲット!」ビシッ

私は盗賊。この世界に点在しているダンジョンのお宝を収集している。
世の中は勇者だの魔王だの言ってるけど、私はあまり関心がない。

盗賊「この黒真珠はコレクションするとして…」

袋の中には、ついでに集めた旧時代の食器や工芸品が入っている。
私は、こういうものを換金して生活しているのである。

盗賊(どうせ魔物がウロウロしているようなダンジョンにある物だし、貰っても咎められないよな)



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>街


道具屋「全部で2万ゴールドになります」

盗賊「ま、こんな所か。じゃあ、また来るね~」

これで、しばらく食いっぱぐれることはない。
そんな満足感に浸り、稼いだお金を懐に突っ込みながら歩いていると…。

どんっ

盗賊「あ、ごめ……」

酔っ払い「ん? ねーちゃん可愛いなぁ。いくらだ?」

盗賊(うわ)

この男はどうやら、私を娼婦と勘違いしているようだ。
こんな夜の飲み屋街で、露出多めの格好をしていれば間違われるのも仕方ないが。

盗賊「ごめんな、私は商売女とは違うの。他をあたって、じゃあな」

酔っ払い「でも貧しい身なりしてるじゃねぇか。そのボインでサービスしてくれたら、礼ははずむぜぇ?」

盗賊「はぁ……」

面倒くさいのに捕まってしまった。
私は金に執着している方ではあるが、春を売る気は全くない。

盗賊「結構だよ。それじゃ」

酔っ払い「待てよ」ガシッ

盗賊「!!」

手を掴まれた。この男、よく見ればかなりの筋肉質で、力が強い。

盗賊(あー、厄介なのに捕まったわー。喧嘩は好きじゃないけど)

空いている方の手で、ナイフに手をかけた。


「おい、そこの男!!」

盗賊「!」

酔っ払い「あー? 何だテメェ?」

大勢の人が見て見ぬフリをして通り過ぎていく中、1人の若い男が止めに入ってくれた。
夜の飲み屋街にいる割に身なりはきちんとしており、場末の飲み屋よりも、お洒落なバーが似合う。そんな第一印象。

男「しつこくするのはやめておけ。お前のやっていることは条例違反だぞ」

酔っ払い「条例違反だぁ~? ハンッ、憲兵だって一々全部取り締まってねーよ!」

男「あぁそうだな。なら、俺のすることも取り締まらないだろうな」

酔っ払い「あ? 何を――」

ドカッ

酔っ払いの顔面に蹴りが入る。そのまま酔っ払いは吹っ飛ばされた。
蹴りを入れた男、細身ではあるが、図体のでかい酔っ払いを吹っ飛ばせる程度には鍛えているようだ。

盗賊(うわぁ~)

柄にもなく見惚れてしまった。
上品な雰囲気にも関わらず、力強いというギャップ。
そして、そんな男に助けられるというシチュエーション。

盗賊(なんか、いいシチュエーション…って、バカ)

盗賊「あの、ありが……」

と、礼を言おうとしたところ。

憲兵「喧嘩があっただと!?」バタバタ

男「面倒だな…それではな!」ダッ

盗賊「あっ」

男は素早くそこから立ち去った。
その後憲兵から事情聴取され、酔っ払いはしょっぴかれて行ったが…。

盗賊(お礼、言いそびれちゃったな。あーあ…やっぱ私みたいな底辺はラブコメと縁がないみたい)チェッ

盗賊は赤ん坊の頃から孤児院で育った。
だがその孤児院の環境は劣悪なもので、彼女は6歳の頃に孤児院から脱走した。

身寄りのない子供が1人で生きていくなど、通常なら困難なものだが…。

盗賊(運のいいことに、私には盗賊としての才能があった)

ダンジョンに入り、魔物との戦闘を避け、罠を突破し、金目のものを集める。
そういったことに天性の才能があった彼女は、ずっとそうやって生きてきた。





盗賊(久々にベッドで寝れる…。あぁ、ふかふかで気持ちいい~)

「お休みのところ申し訳ありません」トントン

盗賊「はーい?」

使者「失礼。中央国の使者と申します。盗賊様、ですね?」

盗賊「あぁ、そうさ。どでかい中央国の使者サマが、私みたいな底辺に用事?」

使者「ご謙遜を。トレジャーハントを生業としている方々の中でも、腕が良いと評判の盗賊様ではありませんか」

盗賊「……ふぅん」

愛想笑いを返した。
普段、上流階級の者が自分のことを"下賎な盗人"だの"廃屋荒らし"だのと陰口を叩いていることは知っている。
きっと、この使者の言葉も社交辞令だろう。

盗賊「で、何の用?」

使者「実は…貴方様に、トレジャーハントのご依頼をしたく」

盗賊「へぇ?」

使者「我が国の末姫様のことはご存じでしょうか?」

盗賊「えーと…神託で勇者に選ばれたとかいう?」

使者「そう。末姫様は勇者に相応しい、勇敢で優秀な剣の使い手でいらっしゃいます。しかし…」

盗賊「しかし?」

使者「ダンジョンを探索するということが苦手な方でして」

盗賊「ま、強ければいいってもんじゃないからね、探索は」

使者「神託によれば、魔王を倒すには5つの神器を集める必要があるのですが…その神器の1つが、難易度の高いダンジョンにあるそうで。そこで、貴方にご依頼をかけることになったのです」

盗賊「餅は餅屋だね。で、そのダンジョンてどこ?」

使者「はい…黒霧の森にある、廃城です」

盗賊「あぁ、あそこ。魔物が強いっていうから敬遠してたけど…」

使者「依頼を受けて下さるのでしたら、前払いでこれだけ……」ソッ

盗賊「!!! ……ゼロひとつ多くない?」

使者「もし神器を獲得して下されば、この倍の……」

盗賊「やる!!」

こうして盗賊は、金に目がくらんで依頼を引き受けることとなった。

盗賊「あぁ、でも、黒霧の森の魔物って強いじゃない? 廃城に行くまでの間の護衛がいるといいんだけど……」





盗賊(とお願いして、護衛をつけてもらうことになった。待ち合わせ場所に来たけど…)

盗賊「あ、武装集団。あれかな? おーい」

盗賊は5名の武装集団に声をかけた。
彼らの装備には中央国の紋章が入っていたので、すぐにわかった。

兵士「盗賊様ですね。本日は、王子の率いる白兎(はくと)騎士団が貴方を護衛します」

盗賊「王子が?」

兵士「はい、今席を外しておりますが…あ、戻ってこられた。王子ーっ」

と、兵士が声をかけた先には…。

盗賊「……!」

王子「む」

盗賊「あ、あんた……王子だったの?」

王子と呼ばれた男、昨晩盗賊を助けた、あの男だった。

王子「そうか、君が盗賊殿だったか」

盗賊「あ、き、昨日はありがとうございました!! お礼言いそびれちゃって……」

王子「いや、気にすることはない」

王子はフッと笑うと、今度は胸に手を当てて会釈した。

王子「改めて自己紹介する。俺は中央国王家第三子、王子。白兎騎士団を率いている」

盗賊「宜しく。まさか王子様率いる騎士団に護衛して頂けるなんてね」

王子「これは、それだけ重要な仕事だからな。それに、俺も少しでも妹の力になりたい」

盗賊(なるほど、こっちも失敗できないねぇ)

>黒霧の森


王子「せやあぁっ!」

白兎騎士団は、襲いかかってくる魔物を苦戦することなく返り討ちにした。

盗賊「さっすが。頼もしい~」

王子「我々にとっては本業だからな。逆にダンジョンに入った後は、足手まといになってしまうかもしれんが……」

盗賊「あはは。ダンジョンに着いたら私1人で大丈夫! ダンジョンで魔物を避ける方法は心得てるんでね」

王子「頼もしいものだな、酔っ払い1人はねのけるのに苦戦していた娘が」

盗賊「苦戦? 苦戦ってほどじゃないっすねー、割と慣れてるもんで!」アハハ

王子「……慣れている、か」

盗賊(あれ? しんみりして、どうしたのかな?)

王子「もう少し、異性に対して危機感を持った方がいい。せめて、夜の街を歩く時の格好に気をつけるのだな。挑発的な格好は、品のない男を引き寄せるぞ」

盗賊「あははー…服を買うお金が勿体無いもんで」

王子「……なぁ」

盗賊「はい?」

王子「正式に、中央国のトレジャーハンターとして雇われる気はないか」

盗賊「!」

トレジャーハンターとして国に雇われる。
確かに安定した収入は得られるが……。

盗賊「う~ん」

王子「どうした」

盗賊「あ、いや~…。雇われのトレジャーハンターって、今より自由がきかないって聞いたことあるもんで」

王子「返答を急ぎはしない。だが、君の望む条件は叶うよう善処する」

盗賊「王子様、見た目に反して軽率っすね~。よく知らない人間をそう簡単にスカウトしちゃ駄目っすよ~」

王子「…軽率か。そう思うならそれで構わない。だが……」

盗賊「?」

王子「…若い娘が、服も買えぬような貧しい暮らしをしているのは、どうも心が痛いものでな」

盗賊「……!」

盗賊(何、キュンときた~!! こんなことサラッと言えるなんて、高貴な男ってヤッベェ!!)

王子「どうかしたか」

盗賊「あ、いえいえ」

盗賊(なんてねー、浮かれるのも程々にしないとね。身分違いの恋に焦がれる程、私はバカじゃないよ~)

期待

今日はここまで。
スレタイのラビットの意味は明日わかります。

期待

期待

>廃城


王子「着いたな」

盗賊「さて、ちょっくら行ってきます!」

王子「本当に1人で大丈夫か」

盗賊「大丈夫っすよ。そんじゃ、期待して待ててくっさい!」


盗賊(探す神器は『星神の冠』だったね。よし、捜索開始!)

ダンジョンに入ると、盗賊の感性は研ぎ澄まされる。
五感を頼りに、タンジョンの中を探ってみる。

盗賊(あっちの道は魔物が多いね。こっちから探ってみるかな)

素早く、音をたてずに行く。この走り方は、長年の盗賊生活で身につけた技術だ。
しかし魔物は聴覚だけでなく、嗅覚も発達している。これに対してはどうするかというと…。

盗賊「よし、ここにするかな」

魔物「ガルル…」

盗賊(来た来た。退散~)ササッ

匂い袋を設置し、そこに魔物を引き寄せる。
こうして魔物が匂い袋に騙されている内に、ダンジョンの中を探るのである。

盗賊(あ。匂い袋の代金、王子に請求できるかな。後で聞いてみよっと)

魔物「グオオォォ!!」

盗賊「やば、見つかった」

すかさずダッシュ。足の速さには自信がある。

盗賊(とはいえ、走り続けてればスタミナ切れを起こす)

盗賊(この廃城は、旧帝時代の建築物。その時代の罠のパターンは……)

魔物「ガアアァ!!」

盗賊「ここをポチっとぉ!!」ドン

盗賊は壁を強く叩き、すぐに伏せた。

ビュンッ

魔物「ガハァッ!!」

盗賊(あぁ、やっぱこういう罠。うん、わかってきた)

盗賊(この時代の城は大体、地下を宝物庫にしていた。よし、早速地下を探そう)




盗賊「地下に到達、っと」

盗賊(道中、色々と金目のものがあったけど…それは後回しにして、早いとこ星神の冠を手に入れなきゃね~)

盗賊「…んっ!」

地下に頑丈そうな扉を見つけた。
怪しい、と盗賊の勘が言っている。

盗賊「怪しい場所には飛び込んでみなきゃね! たのもーっ!」

盗賊「…むっ!」

扉を開けた視線の先には――宝箱があった。

盗賊(あれは、まさか……)

盗賊は周囲を警戒しながら、宝箱を開けた。
すると……。

盗賊「……!!」

中に入っていたのは――キラキラした装飾が施された、冠だった。

盗賊(間違いない、これが星神の冠だ。よっしゃ!)

盗賊(早速、これを王子の元に……)

と、ふと視界がぴかっと明るくなった。
光を発したのは――手に持っている、星神の冠。

盗賊(な!? 何これ…何の光!?)

結論を出す余裕もなく――

カアァ――ッ!!

盗賊「―――!!」

>城外


王子(どうも落ち着かないな)ソワソワ

王子(待ち時間が長く感じる…盗賊は大丈夫だろうか)

兵士「お、王子ーっ!」

王子「どうした」

兵士「これ…っ、星神の冠で間違いないですよね!?」

王子「!! 間違いない、星神の冠だ! 盗賊は上手いことやってくれたのか!」

兵士「そ、それが…これを持ってきたのは、盗賊様ではなく……」

王子「何? 盗賊ではない?」

兵士「は、はい! 星神の冠を持ってきたのは、その…こいつです!!」

王子「!!」


うさぎ「……」

王子「……うさぎ?」

兵士「はい、うさぎです!」

王子「何の冗談だ? ん?」

兵士「いやいやいや、本当なんですって! このうさぎが、星神の冠をくわえて出てきたのです!」

王子「何だと……」


うさぎ「………」

うさぎ(そりゃ、おかしいと思うよねー)

>先刻


カアァ――ッ!!

盗賊「―――!!」

辺りを包む光に目が眩み、盗賊はそこに倒れた。
すぐに目を覚ましたが……。

(うーん…何だったのかな、今の光は。星神の冠は……あった! ……って)

(え、何か冠、大きくなってない?)

(つーか…部屋全体が大きくなっているような……。変な罠だな~、早いとこ部屋を抜け出さないと)

(……あれ?)

と、違和感に気付き盗賊は自分の体を見る。
そして仰天した。何せ、彼女の体は――

うさぎ(何じゃこりゃあああぁぁ!?)

白いうさぎに姿を変えていたのだから。




王子「いたか?」

兵士「いえ…ダンジョン中を探索しているのですが、盗賊様の姿は見つからず……」

王子「何てことだ…! まさか、罠にかかって……」

うさぎ(そんなヘマしない…と言いたい所だけど、罠にかかってうさぎになっちゃったんだよねー。いやー参ったわ)

兵士「王子……暗くなってきましたし、今日は引き上げた方が……」

王子「人の命がかかっているのだぞ! 我々が依頼して行方不明になったというのに、見捨てることができるか!」

うさぎ(何て良い人。いや私なんかの為に、申し訳)

兵士「ですが我々の探索能力では、これが限界でしょう。一旦引き上げ、探索能力に優れた方々に探して頂いた方がよろしいかと」

王子「むむ……」

兵士「それに…星神の冠が手に入ったことを報告もせねばなりません」

王子「くっ。できれば、こんな気持ちで冠を手にしたくはなかったが……」

うさぎ(気にしないでいいよー、私のヘマだし)

王子「お前たちは冠を持って城に戻れ。俺はもう少し、ここで盗賊の帰りを待ってみる」

兵士「わかりました。どうか、お1人で廃城に入らぬように」

王子「わかっている。行方不明者が増えるだけだからな」

うさぎ(王子も疲れてるだろうに。申し訳ないなー)ジー

王子「む。…心配してくれているのか、うさぎよ」

うさぎ(えぇ、まぁ)

王子「……うさぎ、か」キョロキョロ

うさぎ(ん?)

王子「よし誰もいなくなった……もう我慢ならん!!」ヒョイッ

うさぎ「!?」

王子「うさぎ…うさぎ………」

うさぎ(え、え、何!?)

王子「ふ、ふふふ……」



王子「あああぁぁぁぁ、うさちゃん可愛いいいぃぃぃ!! うさちゃんうさちゃんうさちゃんうさちゃんうさちゃんうさちゃんうさちゃんうさちゃんうさちゃんうさちゃんうさちゃんうさちゃん」ナデナデスリスリ

うさぎ(ひいいいいぃぃぃぃ!?)

うさぎ(王子…カタブツだと思ってたのに……)

王子「ふわふわの、おめめパチクリで、可愛いねぇ~」デレデレ

うさぎ(誰も見てないとこうなのかよ! 何かショックだわ!!)

王子「うさちゃ~ん? どうちて、こんな危ないとこにいたのかなー? 怖い魔物が、がおーってなるぞー?」

うさぎ(赤ちゃん言葉まで使い出したよ!?)

王子「うさちゃんパクッて食べられちゃうぞー。こわいこわい」

うさぎ(いやお前の方が怖いっつーの!!)

王子「…よし、うちに来るといいよ~。ずっとうさぎが欲しかったんだ~」

うさぎ(……へ?)

その時、盗賊の頭の中では、猛スピードで考えが紡ぎ出されていた。


人間としての生活
・貧しく衣食住に不自由
・食い扶持確保に危険が伴う
・将来性がない
・社会的底辺

王室うさぎとしての生活
・城で良いご飯が食べられる
・頑張らなくていい
・王子に可愛がられている限り安泰
・ちやほやされる


うさぎ(………おいしい!)

うさぎ「きゅー」スリスリ

王子「そっか、来たいか~。うさちゃん可愛いなぁ~」デレー


こうして盗賊は、人間としてのプライドをあっさり捨てた。

>城


兵士「トレジャーハンターに盗賊様の捜索を依頼しておきました」

王子「何かわかればいいのだが……」

うさぎ(わからん、わからん)ブンブン


うさぎ(そんなことよりニンジンうめぇ♪)ポリポリ

王子「一杯食べるといい」

兄「帰っていたのか、王子」

姉「トラブルはあったようだけれど、星神の冠は手に入ったようね。お疲れ様」

王子「兄上、姉上…」

うさぎ(そういえば王子は第三子って言ってたっけ。勇者が末姫って言ってたし、四人兄弟かな?)

王子「この白兎騎士団、微力ながら誠心誠意国に仕えるつもりです。何か御座いましたら、何なりとご命令下さい」

兄「そうだな。盗賊の護衛のような、丁度いい任務を見繕っておく」

うさぎ(は?)

姉「あまり簡単な任務ばかりでも困りますわ、お兄様。王家の"格"が下がりますもの」

兄「かといって危険な任務を任せれば、どうなるか目に見えているだろう? だから、丁度いい任務を見繕わねば」

姉「まぁ、そうですわね」

王子「……申し訳ありません、力不足で」

うさぎ(王子……)

王子「…はぁ」

うさぎ(シャキッとせんかい!)耳ペシペシ

王子「情けない所を見せたな。俺が無能なばかりに、2人には苦労をかけている」

うさぎ(無能? 王子が?)

王子「才知に優れた2人に、武芸に秀でた末姫……俺1人が凡人なんだ」

うさぎ(マジか)

王子「少しでも国に貢献したいと思ってはいるのだが……なかなか上手くいかなくてな」フゥ

うさぎ(うんうん、そういうこともあるよね)

王子「護衛対象を守ることもできなかった……」

うさぎ(いやいや気にすんなって! 養ってくれりゃそれでいいって!)

王子「俺は本当に…駄目な王子だ」

うさぎ「……」

うさぎ(そんなことないのに)

王子は、夜の街で自分を助けてくれた。たったそれだけのことかもしれないが、自分の手で下賎な者を助けてくれる王族がどれだけいるか。
それに王子はこうやって、真剣に自分の心配をしてくれている。

うさぎ(それだけ思いやりのある人間が、下々の人間を気遣える人間が、駄目なわけがないじゃん)

王子「あああぁぁ~、つらいよー!! 俺をなぐさめて、うさちゃん!!」スリスリスリスリ

うさぎ(こういうとこは駄目だけどな!!)

今日はここまで。
当初の予定より王子が残念になって俺得。

いいねー

うさぎの正体に気付いても気付かなくてもおいしいな

こうして盗賊のうさぎ生活が始まった。


*ごはん

王子「うさちゃんは一杯食べるなぁ」ニコニコ

うさぎ(高級食材うめええぇ!! 生野菜も美味しく頂けるうさぎ舌万歳!!)


*お風呂

うさぎ(あったけー……)ヌクヌク

王子「じゃぶじゃぶしたらブラッシングしようね~」

うさぎ(やってもらうって楽チンだな~)

王子「ああああぁぁ、サラサラしてるううぅぅ!!」ナデナデナデナデ

うさぎ(おい、毛並みが乱れるだろ)

王子「そうだ、リボンを買ったんだ。耳…に結ぶわけにはいかないから、首に……」

うさぎ(お、どーよ?)

王子「………!」

うさぎ(ん?)

王子「ああああぁぁ、可愛い可愛い可愛い可愛い!!」ナデナデナデナデ

うさぎ(病気かこいつは)


*うさんぽ

王子「良い天気だな」←人目があるのでキリッとしてる

うさぎ(タンポポ食べたいなぁ~)

子供「うさちゃんだー! なでなでしてもいい、王子様ぁ?」

王子「あぁ、良いぞ」

子供「わぁい、うさちゃーん!」ナデナデ

うさぎ(愛想振りまかなくてもデレるんだから人間てチョロいよな~)


*睡眠

王子「お休み、うさちゃん」

うさぎ(ふかふかベッドはいいなぁ)ヌクヌク

王子「お休みのちゅー…」

うさぎ「は、断る!!」シャッ

王子「あたっ。怒ってても可愛いなぁ」ナデナデ

うさぎ(チョロいにも程があるぞ)

うさぎ(金持ちに飼われたペットって人生イージーモードじゃん…私、めっちゃ勝ち組)ゴロゴロ


王子「むむぅ」ソワソワ

うさぎ(どうしたんだろ王子、朝からソワソワしてるけど)

ガチャッ

末姫「おにーさまっ! ただいまぁ~♪」ガバッ

王子「うわっと!」

うさぎ(『おにーさま』? あぁ、この子が勇者の末姫か)

王子「ノックくらいしろ、末姫。全く……」

末姫「えへへー♪ お兄様、星神の冠ありがとうね~。とっても役に立ってるよ、あれ!」

王子「……俺ではない。探してきたのは、そこのうさだ」

末姫「あ、この子がうさちゃん! 可愛いねぇ~♪」ナデナデ

うさぎ(デレた時の笑顔はそっくりだわ、流石兄妹)

末姫「でも、盗賊さんは今でも行方不明だとか……。心配だね」

王子「お前が心を痛める必要はない。俺の責任だからな」

うさぎ(いやいや、もう忘れてくれていいんだけどね)

王子「ところで帰省とは珍しいな」

末姫「うん…ちょっと、行き詰まっちゃって」

王子「どうした?」

末姫「神器"皇帝の鎧"を手に入れたんだけど……それ、どうも力を発揮しないの」

王子「あぁ、聞いたことがある。神器によっては、他の何かと組み合わせて使用するものもあるそうだな」

末姫「そう、それで調べに戻ってきたんだけど……あぁもう、最悪!!」

王子「ど、どうしたんだ」

末姫「鎧に"皇帝の黒真珠"っていうものをはめ込まないと使えないみたいなんだけど! その真珠がどこにあるのか、わからないのよ~」

うさぎ(……ん? 皇帝の黒真珠?)

王子「そうか…。アイテム探しは不得手だからな、お前は。じゃあ、国のトレジャーハンターに依頼するしかあるまい」

末姫「そうねぇ~。でも、うぅ~。手がかりなしじゃ行き詰まるよね~」グスグス

うさぎ(それって確か……)ダッ

王子「あ、うさ!? どこへ行く!?」

>国境外の森


うさ(ここに……)ベリベリ

盗賊は木に噛み付いて、皮を剥がした。すると、木の中は空洞になっていた。
ここが、盗賊の宝の隠し場所である。

うさぎ(皇帝の黒真珠、綺麗だったからコレクションしてたんだよね。えーと…)ゴソゴソ

うさぎ(あった!)

王子「う、うさ!?」

末姫「これって……皇帝の黒真珠?」

うさぎ(どーよ)ドヤ

城と森の往復に3日かかったが、とにかく無事に黒真珠を持ち帰った。
その知らせに、城中は大騒ぎだ。

末姫「これで鎧が真価を発揮するわ! ありがとう、うさちゃん!」ギュー

兄「信じられん……まさか、うさぎが黒真珠を持ち帰るとは……」

うさぎ(そう、敬え)ドヤ

王子「うさ、お前凄いな。よし、今日はご馳走だぞ」

うさぎ(その言葉が聞きたかった!!)

姉「ねぇ…確かそのうさぎ、以前にも星神の冠を持ち帰ったのよね?」

王子「はい。その時は偶然かと思っていましたが……」

姉「もしかしたら、そのうさぎ…トレジャーハントの能力を持つの!?」

うさぎ(いやいや、うさぎになった今じゃその能力も……)

姉「……試してみる価値はありそうね」

うさぎ(げ)

兎の獣姦か…レベル高いな…

姉「神器"守護天使の盾"は、邪神の神殿にあるという話よ」

兄「強力な魔物、複雑な設計…プロのトレジャーハンターにとっても難易度の高いダンジョンと言われている」

うさぎ(うん、私でも避けてたもん)

姉「そのうさぎに、邪神の神殿を捜索させてみてはいかが?」

うさぎ(無茶言うんじゃねぇ!)

王子「危険すぎます! うさは、戦闘力もないただのうさぎなのですよ!」

うさぎ(そうだそうだ!)

姉「心配いらないわ、護衛をつけるから。うさぎに護衛、っていうのもまぁおかしな話だけど」

兄「神器探しはうさぎの手を借りたい程に難航しているのだ」

うさぎ(いいぃぃやあぁぁだああぁぁぁぁ!!)

姉「それで、うさぎの護衛候補だけど…全員、出てきなさい」


くじ男「白鯨騎士団団長、くじ男で御座います」

カミ男「銀狼騎士団団長、カミ男で御座います」

シャケ男「紅鮭騎士団団長、シャケ男で御座います」


姉「我が国が誇る一流の騎士団達よ。どう、うさぎさん?」

うさぎ(顔が生理的に受け付けん!!)ブンブン

王子「何か、嫌がってますね」

姉「うさぎに嫌がるも何もないでしょ。とりあえず連れて行くわよ」

うさぎ(いやだいやだいやだいやだいやだいやだああぁぁ!!)

兄「むぅ。王子のズボンに噛み付いて離れないなぁ」

王子「だから嫌がってると言ったでしょう」

末姫「うさちゃん、お兄様と離れたくないのね~」

姉「うさぎに頼るという考えが間違っていたのかしら」

うさぎ(そうだそうだ! 私はほのぼのうさぎライフを楽しんでいたいんだ! 働きたくねぇ!)

末姫「あ、それならさぁ」

王子「ん?」

末姫「白兎騎士団……お兄様が護衛につくってのはどうかな?」

王子「……え?」

うさぎ(……は?)

末姫「うさちゃんは、お兄様のことが大好きみたいだし。お兄様と一緒なら、行くんじゃない?」

うさぎ(いやいやいやいやそれは大きな誤解ですよお嬢さん!?)

兄「…白兎騎士団に任せるのか……」

姉「それはちょっと恐ろしいかも……」

王子「……俺は恐れてなどいませんよ」

うさぎ(ちょ、おま…)

王子「だけど俺は、うさが嫌がることはさせたくない」

うさぎ(お?)

王子「兄上と姉上のおっしゃる通り、俺は力不足だ。けどそれ以上に、うさは俺にとって大事な存在で……」

うさぎ「………」

王子『才知に優れた2人に、武芸に秀でた末姫……俺1人が凡人なんだ』

王子『少しでも国に貢献したいと思ってはいるのだが……なかなか上手くいかなくてな』フゥ

王子『俺は本当に…駄目な王子だ』


うさぎ(全く……これはチャンスじゃないかっての)

姉「そう言うなら仕方ないわ、やっぱり別の方法を……」

うさぎ「……」クイクイ

王子「ん、どうした? うさ?」

うさぎ(とっとと来いっつってんだよおぉ!!)クイクイッ

末姫「まさか、うさちゃん…お兄様に『行こう』って言ってる?」

うさぎ(おう!)コクリ

王子「な…待て、うさ! 邪神の神殿は本当に危険な場所で…」

うさぎ(わかってらい!)ゲシッ

王子「いでっ!」

うさぎ(だからこそ、汚名返上のチャンスじゃんか! この私が協力してやるんだから、上手くやれよ!)クイクイ

王子「うさ……」

王子「今より、我々白兎騎士団は邪神の神殿に乗り込む! 全ては世界平和の為だ!」

オオォーッ

うさぎ(騎士団の皆、気合入ってるなぁ。私も頑張らないと)

王子「うさ、怖くなったら俺に飛びつけよ」

うさぎ(それはそれで怖いんだけどな)


王子「さて、神殿内に入るか……」

うさぎ(…! 駄目だ)ダッ

王子「どこへ行く、うさ!?」

うさぎ(正面突破は危険な予感がする。別の入口は……あった!)

うさぎ(あ、でも高いところにあるなぁ。ロープがあれば入り込めるんだけど…)ウーン

王子「あそこから入れってか、うさ?」

うさぎ(方法があるのかな?)コクリ

王子「よし、俺の服の中に入れ。さて、と…」ヨジリッ

うさぎ(え、まさか……)

王子「よいしょ、よいしょっと」

うさぎ(おぉ凄い、わずかな凹凸を利用して壁をよじ登っている!)

王子「全員、神殿内に入ったな。よし、探索にとりかかるか」

うさぎ(うーん、道は3つか…)


"私はここにいます"


うさぎ(……ん?)

長い耳が、女の声を拾った。
男性のみで結成されている白兎騎士団の団員ではない。

うさぎ(まさか! ダンジョン内で迷ってる女がいるのか!?)


"こっち、こっち…"


うさぎ(こっちの道だ!)ダッ

王子「うさが走り出した! 全員、続け!」

うさぎ(無事でいろよ…って!!)

立ち止まる。盗賊の耳は、足音を拾っていた。
そして、王子の後ろに隠れる。

王子「どうした、うさ?」

うさぎ(群れがこっちに来る!)

王子「…! 魔物だ、行くぞ!」

10匹程度の魔物が前方から現れ、騎士団の団員達は戦闘に入る。
その間、盗賊は物陰に避難していた。

うさぎ(この体、トレジャーハントには不便かと思ったけど、聴力と素早さが上がったのは割と便利)

うさぎ(おぉ。白兎騎士団、結構強いじゃん。あっという間に魔物をやっつけた)

のほほんとしていると、王子が物陰から盗賊を抱き上げた。

王子「怖かっただろう、うさ? だが安心しろ、俺がお前を守る」

うさぎ「……」ドキ

うさぎ(全く、格好つけちゃって……本音は『よしよし怖かったでちゅね、うさちゃ~んスリスリ』だろ)

そう思いつつも、紳士的な言葉に悪い気はしなかった。

今日はここまで。
自分もうさぎになりたい。

乙うさ

"こっち…こっち……"


うさぎ(声が近くなっている。よし、助けられる!)

「おやおや。まさかここまでたどり着ける人間がいるとは」

うさぎ「!!」

声が聞こえると同時、盗賊は王子の後ろに隠れた。
そして煙と共に姿を現したのは――

闇神官「私は闇神官。この神殿を守る者。人間風情がここまで来れるとは、正直驚きましたよ」

うさぎ(だって罠、そんなに無かったよね?)

闇神官「貴方達、分岐路の多い道から正確なルートを辿ってきましたね? そんなことができたのは、貴方達が初めてですよ」

うさぎ(分岐路…あぁー、違ったルートだったら罠にかかってたのか。ナルホド)

王子「俺たちは守護天使の盾を探している。そこをどいてもらおうか」

闇神官「そうはさせませんよ……!!」

王子「!!」

うさぎ「!!」

闇神官の手から、黒い光が発せられた。

王子「大丈夫か、うさ!」

うさぎ(な、何とか……)

王子が庇ってくれたお陰で、ダメージは免れた。
だが騎士団員の何名かは光を喰らったようで、怪我を負っている。

闇神官「この忌々しい神器、破壊どころか、我々魔物は触れることすらかなわない。なので私はここで、神器を求めて来る人間を排除しているのですよ!」

王子「奴の攻撃、広範囲型か…数で押しても無駄だな」

そう言って、王子は近くにいた者に盗賊を渡した。

王子「こいつは俺がやる! 全員、物陰に避難して援護を!」

騎士団の者たちは王子の命令通り、物陰に潜み、装備を弓矢に切り替える。
盗賊は顔をひょいと出して、王子の戦闘を見守った。

闇神官「はああぁ!」

王子「でりゃああぁぁ――ッ!!」ズバッ

うさぎ(すげぇ! 魔法を一刀両断した!)

闇神官「やりますねぇ! ですがこちらも魔王様にこの場を任された身、貴方には負けませんよ!」

闇神官は弓矢を弾き落とし、魔法攻撃で王子に距離を詰めさせない。
自信満々な発言は、確かな実力があってこそのもののようだ。

うさぎ(王子……!)

王子は闇神官の魔法を切るだけで、防戦一方だ。

闇神官「ふふふ! 守るだけでは勝てませんよ!」

王子「確かにお前の言う通りだな」

として王子は、剣先を闇神官に向け――

闇神官「……!?」

うさぎ(な、何あれ!? 剣が光ってる! あの光って、闇神官の魔法そっくり……)

王子「俺は魔法を切っていたわけではない。吸収していたのだ」

闇神官「きゅ、吸収…!?」

王子「お前のように、近づくことすら困難な敵には効果的だ。こうやって……」

王子が剣を振ると――光の刃が、闇神官を切った。

闇神官「カハ…ッ」

王子「同じ性質の技を、倍にして返す。単純な話だろう?」

闇神官は、信じられない、といった顔で倒れた。
出血量からして、絶命したと思われる。

騎士団の面々が姿を現して王子を気遣うが、王子は相変わらずの涼しい顔で「大丈夫だ」と返していた。

うさぎ「……」

うさぎ(やるじゃん、王子…。どこが凡人だよ)

王子「どうした、うさ。俺に見惚れていたのか?」

うさぎ「~っ」

王子は冗談めいた笑顔で声をかけてきた。
キザったらしいったらありゃしない。人目がないと、うさぎにデレデレのくせして。

うさぎ(そんなこたーどうでもいい! 早く、声の主を助けないと。確か、こっち……)

と、声の方に走っていったが――

うさぎ(あれ?)

そこには誰もいなくて――代わりに、盾があった。

王子「これは間違いない、守護天使の盾だ」

うさぎ(それも大事だけど、人助けをしないと……)


"見つけてくれて、ありがとう"


うさぎ(……へ? ありがとう?)

キョロキョロ辺りを見回してみたが、やはり女性の姿などない。
どういうことだ――と思ったその時、あるものと目が合った。

うさぎ(まさか……)

王子が持っている盾に装飾された天使が、一瞬だけ笑顔になった。
まさかとは思うが……。

うさぎ(盾の声を聞いたってのか…?)

>中央国、城


城では神器を持ち帰った白兎騎士団の面々が暖かく迎え入れられた。
うさぎや王子の武勇伝も、あっという間に広まった。

うさぎ(どーよ! 崇めてくれて構わんよ!)ドヤァ

王子「全部、うさのお陰だ。今日はご馳走だからな」

うさぎ(よっしゃあ!)

兄「王子」

姉「よく戻ったわね」

王子「兄上、姉上」

うさぎ(どうだ、見たか! あんたらがバカにしてた弟は見事に……)

姉「……良かったわ」ウルッ

うさぎ(え?)

姉「私、王子が無事なのか心配で心配で……」

兄「あまり重要な任務はお前に任せたくなかったのだが……よくぞやった、王子!」

うさぎ(…んー?)

王子「俺が凡人なばかりに、2人から信頼を得ることができない」

うさぎ(いや…あの2人、単純に王子の身を案じてるだけじゃないか? ちょっと伝え方が不器用なのと、過保護なだけで……)

王子「今回だって、全部うさちゃんのお陰だよぉ~、俺は駄目なんだぁ~」スリスリ

うさぎ(甘えん坊だなー、こいつ)

末姫「お兄様ーっ!」タッタッ

王子「コホン。おぉ末姫、どうし……」

末姫「お兄様ぁ!」ギュッ

王子「!」

うさぎ(わお)

末姫「聞いたよお兄様、神殿のボスを1人でやっつけたんでしょ? えへへ、やっぱりお兄様は凄いなぁ~」

王子「……俺など、凄くはない」

うさぎ(いや凄いって。何でこんなに自信ないのかねぇ、王子は。あー、尻を叩いてやりたいわ)

王子「…俺には、お前のような剣の才能はない」

王子はボソリと呟いた。

王子「俺の剣術には、正攻法で勝つ力がない。……王族の者としては恥である、姑息な剣術だ」

うさぎ(姑息……?)

闇神官との戦いで見せたあのトリッキーな技が姑息というのか。
確かに剣を使った戦いとしては邪道かもしれないが…。

うさぎ(でも、あの剣術があったから闇神官に勝てたんじゃん! もっと自分を誇っていいよ!)ゲシゲシ

王子「俺に、お前のような才能があれば……」

うさぎ(そうじゃねぇっつーの!! ああぁ、言葉を伝えられないのがもどかしいーっ!!)

末姫「お兄様は、凄いよ!」

うさぎ(お?)

末姫「それはお兄様が身につけた"技"だもん、十分に誇れるものだよ! もっと自信持ってよ、お兄様!」ギュゥ

王子「末姫……」

うさぎ(そうそう。……それ、私が言いたかったのになー)モヤモヤ

その後うさぎの評判は広まり、度々ダンジョン探索に行かされたが…。


"こっちだよ"
"気をつけて、こっちに来ちゃ駄目だよ"
"ここに隠し扉があるよ、おいで"


うさぎ(やっぱ、幻聴じゃないんだな…)

神殿に乗り込んだ時よりも、色んな声が聞こえるようになっていた。
そしてその声に従えば、難なくダンジョンを探索できた。

うさぎ(うさぎの聴力って凄いんだなぁ。おかげで忙しいけど、まぁいっか)

敵は白兎騎士団の連中が倒してくれるし、城に戻れば良い待遇を受けられた。
人間の頃に比べれば、大分楽な生活だ。

王子「うさちゃんは凄いなぁ~…」ナデナデ

今日もダンジョン探索を終えた王子は、ぐったりしながらベッドで盗賊を撫でていた。
すっかりダンジョン探索班となった白兎騎士団で、毎日大変なのだろう。

うさぎ(何せ私は、白兎騎士団以外の騎士団にはデレないもんね。そうやって王子の株上げに貢献してるんだぞ~)

王子「どうして俺なんかに懐いてくれるのかな~? 不思議だなぁ……」

うさぎ(自分を卑下すんじゃねぇよ!)ゲシゲシ

王子「あたた。…なぁ、うさちゃん」

うさぎ(ん?)

王子「正直、うさちゃんの能力についてずっと半信半疑だったけど、今なら言える。…その能力で、盗賊を探せないか?」

うさぎ「!」

王子「兄上達は、行方不明になってから日数が経っているから諦めろと言う。だが、俺は……」

うさぎ「……」ゲシゲシッ

王子「いたたっ、な、何!?」

うさぎ(もう、本当にこいつは…どうしてこんなに私なんかのことを気にかけるんだよ!)ジッ

王子「うさちゃん……?」」

うさぎ(もう"盗賊"はいないの!)ブンブン

王子「まさか…無理だ、って言ってる?」

うさぎ(そう!)コクリ

王子「………」

王子「うさちゃ~ん……」ギュウゥ

うさぎ(どうしたよ)

王子「俺はつらい…誰も死なせたくないのに」

うさぎ(この時代にそれは現実的じゃないぞ。死体とか飽きる程見てきたし)

王子「……盗賊は、可愛らしい娘だった」

うさぎ(な!?)

王子「彼女の人生を思うと、つらい。貧しい生活を送り、最期はダンジョンの中で人知れず……」

うさぎ「………」

王子「…彼女に仕事を依頼した中央国に、大きな責任がある。俺も、加害者の1人だ」

うさぎ(仮に死んでたとしても、私はあんたを恨まないのに)

王子「加害者の俺が彼女を悼むのは偽善でしかない。だが…それ以外に何もできない。俺は無力だから……」

うさぎ(……ほんとに、王子は弱いな)

自分のせいで王子が心を痛めるなんて、不本意だ。自分は誰かに死を悼まれる程、価値のある人間じゃないのに。
王子は繊細だ。それは王族として、騎士団を率いる者として、致命的な弱点だ。

うさぎ(優しすぎるんだね、王子は)スリスリ

言葉を伝えられないのがもどかしい。
一瞬だけでも人間に戻れたら、ありがとうと伝えたい。何でありがとうなのかは、自分でもわからないけど。

うさぎ(私が側にいるから、癒されなよ。盗賊よりうさぎの方が、ずっと可愛いだろ?)

今日はここまで。
盗賊も可愛いけどうさぎの可愛さは最強だから仕方ない。

盗賊ちゃんもかわいいで


兄と姉がほんとに不器用なだけだったなら可愛いやつしかいなくて素晴らしいな

>ある日


末姫「うさちゃあぁ~ん、助けてぇ~!!」ギュム

うさぎ(何だよぅ)

王子「末姫。確か神器を揃えて魔王城に向かったはずでは…」

末姫「あのね、魔王城ね、色んな謎解きとか仕掛けがあって進めないの! もー、イライラするーっ!!」

王子「なるほど、それはお前にとっては頭が痛い問題だな」

末姫「だから、ね! うさちゃんに助けてほしいの!」

王子「うさを連れて行くなら俺も行くぞ。足を引っ張るだけなので、魔王戦には参加できんが」

末姫「オッケー、オッケー! よっしゃ、もう逃がさないよ魔王!」

王子「魔王が逃げるわけないだろう」ハハハ

うさぎ(魔王城か…難易度MAXだろうなぁ)

兄「王子が魔王城に…くっ、動悸が」

姉「無理しないで、怪我したら帰ってきなさいね?」

王子「俺は…何て信用がないんだ」ズーン

うさぎ(2人のあの目は慈愛の目だろ、よく見ろアホ!!)ゲシゲシッ

そういうわけで、末姫ら勇者一行と、白兎騎士団は魔王城までやって来た。


末姫「じゃじゃーん、ここが魔王城でぇーっす!」

うさぎ(うっわー。何かヤな雰囲気……)

末姫「ん、何、戦士? え、疲れた? わかった。皆ぁ、各自休憩!」

王子「呑気なものだな……」

うさぎ(強者の余裕なのかねぇ)

末姫の戦闘を生で見たことはないが、実力は世界的に有名だ。
幼少期は魔物をちぎっては投げ、反抗期にグレて悪魔狩りをし、素手でドラゴンを倒したとかいう噂も……。

うさぎ(ま、流石に誇張してるだろうけどね)

王子「うさ、怖くないか? 木陰で少し休もうか」

うさぎ(まぁ私は大丈夫……ん?)

ふと、何者かが近づいてくる音がした。それも複数…これは人間の足音ではない。
盗賊は警戒し、耳をぴんと立ててそちらの方を見た。

王子「魔物か!?」

盗賊の様子に気付いたらしき王子は、剣に手をかける。
草を踏むガサガサという音は段々と近づいてきて、その姿を――

わらわら

うさぎ「………」

王子「………」


うさぎの群れ?


王子「う、う、うううぅぅうううううぅぅぅううぅぅぅ」

うさぎ(あ、これヤバい)

王子「うさくぁwせdrftgyふじこlp;!!!」

うさぎ(うさ萌え野郎が発狂したぞ!!)

王子「ああぁぁ可愛い可愛い可愛い可愛い」ナデナデナデナデ

うさぎ(誰もいなくて良かったなー…)

王子「幸せだ…もしこれが魔王の罠だったとしたら、俺は喜んで死ぬだろう」 ゲシゲシッ>

うさぎ(めっちゃ踏まれてるじゃん、うさぎの群れに)


黒うさぎ「失礼」

うさぎ「お?」

黒うさぎ「貴方様はこれから…魔王城に乗り込まれるのですか?」

うさぎ「まぁね。あ、うちのうさ萌え野郎がゴメンな」

黒うさぎ「いえ。人間に癒やしを与えるのも、我らうさぎ一族の役目。我々も魔王の討伐と世界平和を望んでいるのです」

うさぎ「そうなのか。うさぎも大変だねぇ」

黒うさぎ「彼が、貴方様を守護する方ですか?」

うさぎ「そう。あぁ見えて、頼れる奴だよ」

王子「うさぁ~」

黒うさぎ「微力ながら…我々うさぎ一族から、彼に祝福を……」

王子「いて、いててっ! あぁもう、無邪気だなぁ!!」 ボコスカ>

うさぎ(うさパンチかい。まぁ王子が幸せそうならいいけど)

>魔王城内


末姫「お兄様、土埃まみれだけど大丈夫?」

王子「気にするな。転んだだけだ」

うさぎ(自ら寝転がってうさぎに踏まれたんだけどな)

末姫「でねー、前に来た時はこの行き止まりから進めなくなったんだけどねー」

王子「割と早い段階だな」

うさぎ(ん…? 何か罠がある予感……)

末姫「でね、このボタンをポチッと押したらね」ポチッ

うさぎ(ちょ、それ、罠!!)


ドオオオォォン


うさぎ「」

末姫「こうやって巨大からくり兵が現れる仕掛けでね」

王子「わかってて押すな!! ……って、危ない!!」

5メートルほどある、鉄筋でできた巨大からくり兵は斧を振り下ろし――

末姫「うっさいわ!」バキィ グシャ

うさぎ(えっ)

末姫「一杯倒したら次の道が開けるかな~と思ったんだけど、100体倒しても駄目で。諦めちゃった」

王子「多分、その攻略法間違っているぞ」

うさぎ(ワンパンで倒した……)

王子「うさ、わかるか?」

うさぎ(これは……)トコトコ

末姫「どこ行くの、うさちゃん?」

うさぎ(ここをこう行ってこう行って……)

王子「…? さっきの場所からどんどん離れているな」

うさぎ(ここだ)

末姫「あ、階段」

王子「……」

末姫「ありがとう、うさちゃん! よし、新しい道が開けたわ!」

王子「単純に道を間違っていただけかあぁ!!」

末姫「何よー。こんだけ広いんだから仕方ないでしょー」プクー

うさぎ(このパーティーは全員、方向音痴かい。こりゃ魔王の所までお守りする必要あるな……)ガックリ

うさぎ(ん)

王子「どうした、うさ」

うさぎ(この壁……)ポンポン

王子「む、壁の間から光が漏れているな。これは隠し扉か」

末姫「どうやって開けるの?」

王子「見ろ、ここに数字盤がある。恐らく、この階のどこかにヒントがあるはずだ」

末姫「めんどくさっ。何でわざわざそんなことするのよ?」

うさぎ(魔王の遊び心だと思うよ)

王子「不満を言っていても仕方ない、ヒント探しを……」

末姫「イヤ。あんまり歩き回りたくない」

王子「あのな…。仕方ない、じゃあお前はここで待って……」

末姫「ううん、探しに行く必要がないのよ。見てて」

王子「?」

うさぎ「?」

末姫「だりゃあああぁぁっ!!」バキィッ

うさぎ「」

末姫「あちゃー、一擊じゃ無理かぁ。まぁ何度か殴れば破れるでしょ、おらああぁ!!」バキィベキィ

うさぎ(堅い壁を…破壊している……)ボウゼン

>その後も……


<岩が転がってきたぞー!

うさぎ(大丈夫、回避できるポイントが……)

末姫「よっと」

うさぎ(片手で止めた…!!)



<うわっ、この像、火を吹くぞ!

うさぎ(火除けに、そこらにある岩を転がして……)

末姫「らあああぁぁ!!」ビュンビュン

うさぎ(!? 剣風で火を消しながら像に接近して……)

末姫「あっついじゃないのよっ!」バキィ

うさぎ(破壊したー!!)



<魔物の群れが……

末姫「はいはい」ズバズバッ

うさぎ(あー、うん、舐めプだよね)



王子「流石、末姫だ。それに比べ、俺は……」

うさぎ(いやいやいや! 末姫が異常だから! あれと比べて卑屈になるの絶対間違ってるから!!)

もしかして魔王は、本当に末姫から逃げる為に罠を用意したのかもしれない…そんな風に思えてきた。

末姫「何か、魔王に近づいていってる感じがするよー♪ うさちゃんのお陰だねー♪」

うさぎ(いやいやいや、それ以上にあんたが凄いから)

末姫「あ、この扉も開かないね。よーし、破壊を……」

うさぎ(やめい、この扉はそうじゃなくて……)ブンブン

王子「これも何度か見かけたことある仕掛けだな。魔法で開かない仕組みになっている」

うさぎ(そうそう、力技じゃ無理)

末姫「あ、それなら。任せて!」ポワァ

うさぎ(お、魔法?)

ギギギ…

王子「おぉ開いた。末姫、何をした?」

末姫「この星神の冠は、魔法効果を打ち消す効果があるの。どうよ、賢いでしょ!」エッヘン

王子「冠の効果を知っていれば普通に考えつく手段だと思うがな……」

末姫「ええぇー」

王子「まぁお前にしてはよく頭が働いた方だ」ナデナデ

末姫「えへへー」

うさぎ「……」ジー

王子「? どうした、うさ」

うさぎ(フンッ!)ゲシッ

王子「いたっ」

末姫「お兄様…モテモテだね」ニヒヒ

王子「???」

今日はここまで。
王子の残念っぷりが愛おしい。

自分も謎解きとか苦手なので、うさぎみたいな役割の人が欲しいです。


うさちゃんかわゆい




末姫「この通路の先に魔王がいるって神器が訴えてる~! よーし追い詰めたぞー!」

うさぎ(可哀想に…今頃怯えてるだろうなぁ、魔王)

王子「ここから先はお前と仲間で進め。俺たちは足を引っ張るだけだ。大丈夫だよな、うさ?」

うさぎ(うん、もう罠の気配はないよ)コクリ

末姫「おっけー♪ 避難しといて、お兄様! じゃあ皆、気合入れて行こーっ!」


王子「さて戻るか……」

うさぎ(……ん? 何か、フロア全体が…)ピクリ

王子「どうした、うさ?」

グラグラ…

うさぎ(こいつぁーヤバい! 早く避難しなきゃ!)ダッ

王子「まさか罠か! 全員、うさを追うぞ!」

ガラガラッ

うさぎ「!!!」

その時、床が崩れ、体が空中に放り出された。

うさぎ(いてて、うーん……)

周囲をキョロキョロ見回すが、王子や、騎士団員の姿は見えない。

うさぎ(あちゃー、はぐれたか。魔物を避けながら探すか……)

「忌々しいうさぎめが……」

うさぎ「!!」ガバッ

ばさばさっと翼の音が聞こえ、身構える。
そいつは、盗賊の前に降り立った。

悪魔「よ~ォ、うさぎ姫様? 今まで、よくもやってくれましたねェ?」

うさぎ(うげげ……私狙いかよ!)

悪魔「お前のせいで、魔王様があの化物勇者にブッ殺される。俺たち魔物は、新たな魔王が現れるまで、また何百年も待つ羽目になるわけだ」

うさぎ(部下に負け予想されてる魔王って……あいや、末姫相手なら仕方ないけど)

悪魔「忌々しい血族の血は、17年前に絶やしたと思ったが……」

うさぎ「?」

悪魔「まさか、その末裔が生きてたとはなあぁ!! だが今度こそ、その血を絶やしてやるよおォ!」バキィ

うさぎ(ひいぃーっ!)ピョン

盗賊はギリギリ攻撃を回避し、文字通り脱兎のごとく逃げ出した。

うさぎ(ヤベェのに目ぇつけられたーっ! 怖い怖い!)ダダダッ

悪魔「待てやァーっ!!」

うさぎ(あいつも素早い! 逃げ切れんの、これ!?)

悪魔「オラァ!」ドカァン

うさぎ(ぎゃっ!)

直撃はしなかったが、軽い体が爆風に吹っ飛ばされる。
悟った。これは、逃げきれない。

うさぎ(死ぬんかい、私……)

元々、命が軽い世界にいただけに、悟った後は潔いものだった。
人はいつか死ぬ。それが今。ただ、それだけのこと。

うさぎ(けど――)

悪魔「覚悟したか…」

うさぎ(せめて死ぬ前に……)


――王子に言いたいこと、沢山あったなぁ


悪魔「死ねや――」ゴオオオォォン「ゲファッ!?」

うさぎ「!?」

柱が倒れた。急に。これは一体……?


ドドド…

黒うさぎ「間に合いましたね」

うさぎ「う、うさぎ一族!?」

「あの方に手を出すなー!」ポカポカ
「命に代えても守ってみせる!」カジカジ
「今こそ、我が一族の悲願を!」ゲシゲシ

悪魔「いてっ、いてぇっ!」

黒うさぎ「大丈夫でしたか、うさ様」

うさぎ「あ、ありがとう…。助けに来てくれたの?」

黒うさぎ「貴方様だけを危険な目に遭わせるわけにはいきませんからね」

うさぎ「でも、うさぎが集まって勝てる相手じゃないと思うんだけど……」

黒うさぎ「ぬかりはありません」

うさぎ「え?」


タッタッタ

王子「待て待て~、うさちゃん達ぃ~」アハハ

うさ三等兵「例の男を連れて参りました!」

うさぎ「お、王子!」

王子「んなっ!? うさちゃんズが魔物を攻撃している……!!」

悪魔「このうさぎ共、いい加減に……」ゴゴゴ

王子「うさちゃんズに手を出すなあぁ――っ!!」バキィ

悪魔「グハァ!!」

うさぎ(王子ぃーっ、ナイスイケメン!)ピョーン

王子「あ、うさ! 無事だったか!」

悪魔「チッ、勇者の血縁の者か…。そのうさぎを消す邪魔をするなら、テメェも消すぞ…!」

王子「…」ビュンッ

悪魔「!?」サッ

王子「ちっ、討ち損ねたか」

悪魔「何の迷いもなく殺しにかかってきたな…!?」

王子「うさぎの敵は俺の敵。何を迷う必要がある」

うさぎ(流石うさ萌え男、ブレねーな)

王子「覚悟ォ――ッ!!」

悪魔「くっ」

ガキン、ガキイイィィン

王子「やるな…!」

悪魔「こっちの台詞だ!」


うさぎ「剣と爪の打ち合い…実力は互角か」

黒うさぎ「あれでは、王子殿の方が不利ですね」

うさぎ「え、どゆこと……」


悪魔「こうなったらぁっ!」バサッ

王子「っ、上空に逃げたか」

悪魔「逃げたわけじゃねぇよッ!!」ゴオオォォッ

王子「!!」

ザクッ

王子「くっ……!」


黒うさぎ「奴には、翼がある…」

うさぎ「猛スピードの急降下での、切り裂き!? あんなん、どうやって防ぐんだよ!?」

悪魔「何度でも行くぞオォッ!!」バサッ

王子「またか…!」


黒うさぎ「狙うタイミングがあるとしたら、上昇中ですかね」

うさぎ「王子の遠距離攻撃は私が知る限り、魔法を吸収しての放出のみ。けど悪魔は攻撃魔法を使わないから、その手段が取れない…!」

黒うさぎ「我々も援護のしようがありませんね…」

うさぎ(何かないか、何か……!)キョロキョロ

その時、壁に、あるものを見つけた。

うさぎ「あ、あれは…!」


悪魔「オラアァ!!」ズバァッ

王子「がはっ!!」


黒うさぎ「なるほど、あれを使って…」

うさぎ「……無理だ! この体じゃ……」

黒うさぎ「うさぎの体では…ということですか?」

うさぎ「うさぎの体じゃ力が足りない、どうすれば…」

黒うさぎ「ならば――」

うさぎ「………え?」

悪魔「4回も耐えるとはなァ。見た目に反して、頑丈じゃねぇか」

王子「一応、子供の頃からあの末姫と兄妹喧嘩してたからな……!」

悪魔「だが、いつまでも持ちはしねぇだろうなァ! よっしゃ、もう1回行くぜぇっ!!」バサッ

王子「ぐ……」


「今だぁっ!」


王子「――えっ?」

ざくざくっ

王子「――」

悪魔「――え?」

悪魔の体に数本の矢が刺さった。
そして、矢が飛んできた方を見ると――


盗賊「これぞ、壁ドン矢発射トラップ。どうよ!」

王子「盗賊……?」

>つい数秒前


黒うさぎ「"擬人化の術"というものが御座います」

黒うさぎは急ぎ目に説明を始めた。

黒うさぎ「これを貴方に使えば、貴方は人間の姿になるでしょう」

うさぎ「やって、それ!」

黒うさぎ「本当に構いませんか? …正体がバレますよ」

うさぎ「あぁ、構わないよ!」

そりゃうさぎでいる間、色々とやましい気持ちがあったのは否定できないけれど。
人間になったらもう、王子との生活は帰ってこないだろうけど。

うさぎ「とにかく王子を助けることが最優先だろ!」

だから、迷わなかった。

黒うさぎ「了解しました。では…擬人化の術ッ!!」ピカー

今日はここまで。
うさぎが可愛すぎて緊張感も何もない。

うさうさ…
  /))
 (・ )
   ̄ ̄

乙うさ
最高すぎる


うさぎが本体だったのかよww

今明かされる衝撃の真実
おつおつ


魔法無効化する冠に触ってうさぎになったんだからまさかと思ったけどやっぱりかww




悪魔「バカな……」

悪魔は地面に落ち、そのまま動かなくなった。
矢はどうやら、急所に刺さったらしい。

王子「……」

だが王子はそんなことよりも、盗賊から目を離さない。
何だか、気まずかった。

王子「その首のリボン……」

盗賊「ん?」

王子「俺がうさに結んだものだ……」

盗賊「……うん」

誤魔化しはきかない。こうなれば、腹をくくって――

王子「うさの正体は――盗賊、だったのか?」



長老うさぎ「ちょっと違あぁう!!」

盗賊「うわぁ!?」ビクッ

王子「うさぎが喋った!?」

長老うさぎ「ワシはうさぎ一族で唯一、人語を話せるのじゃ。2人とも、よーやったのぅ」

王子「口調からして恐らく年寄り…! けど可愛い……!」キュン

盗賊「うさ萌えバカめが」

長老うさぎ「王子殿、我らの姫を守ってくれて感謝じゃ」

王子「姫? うさ…じゃなくて、盗賊が?」

盗賊「ん?」

そう言えば悪魔もそんなことを言っていた気がする。
逃げるのに必死で深く考えなかったが、自分に「忌々しき血族の末裔」だの…。

盗賊「どういうこと?」

長老うさぎ「先ほど、王子殿は言ったのう。うさ姫の正体が盗賊、と」

王子「あぁ、言ったな」

長老うさぎ「逆じゃ。盗賊の正体がうさ姫、ということじゃ」

盗賊「……へ?」

王子「ん?」

長老うさぎ「覚えておらんのも無理はない。うさ姫に擬人化の術をかけたのは、まだ姫が赤ん坊の頃じゃ」

盗賊「え…えっ!? っつーことは私は……」

長老うさぎ「うさぎの姿こそ本来の姿じゃ」

盗賊「ちょっと待て、意味わかんない! 何で、どゆこと、私は何!?」

王子「すまない、順を追って説明してくれないか」

長老うさぎ「わかった。あれは17年前じゃ――」


17年前、うさぎ一族は魔物達の襲撃を受けた。
魔物達の狙いは、うさぎ一族の王の血筋を絶やすこと――
そして王の血筋には、当時生まれたばかりだった姫がいた。

長老うさぎ「我々は魔物に立ち向かうこととなったが、正直、勝ち目はほとんど無かった。だから、せめて幼き姫だけでも魔物の手から逃れられるよう、擬人化の術をかけたのじゃ」

盗賊「それが、私……」

長老うさぎ「魔物に勘付かれてはいけないので、我々は擬人化してからの姫をお守りすることができなかった…。しかし、ご立派に成長されたようで…これほど嬉しいことはないのう」

王子「何故、魔物達はうさぎ一族の王の血筋を狙ったのだ?」

長老うさぎ「それは代々、王の血筋に受け継がれている力のせいじゃよ」

盗賊「代々、受け継がれている力……?」

長老うさぎ「そう。それは、いかなるダンジョンの攻略法も見抜く特殊能力じゃよ」

盗賊「……!!」

盗賊「それじゃ私がダンジョン探索を得意としていたのも、うさぎになってからその能力に磨きがかかったのも…」

長老うさぎ「王の血筋の力、じゃな」

盗賊「なるほどね…。でも何で擬人化の術が急に解けたんだろうな?」

王子「星神の冠のせいじゃないか? ほら、末姫が言っていただろう」

盗賊「え? えーと……」


末姫『この星神の冠は、魔法効果を打ち消す効果があるの』


盗賊「………あ」

王子「星神の冠が擬人化の術を解いてしまったのだろうな。そうか…うさは盗賊だったのか」

盗賊「な、何だよ。ガッカリした?」

王子「まさか」

王子はニコッと笑った。

王子「ずっと、君の件について後悔していたのだ。だが、君は生きていた。それだけで俺は嬉しい」

盗賊(~っ、こいつはまた、こういうことをサラッと……)

盗賊「か、かっこつけてんじゃないっての! うさぎの前では"あんなん"なるくせにさぁ~!」

王子「………!!」

盗賊(あ、こいつ今更気付いたか、自分が恥晒したことに……)

王子「うわああああぁぁぁぁ!!」ガクッ

盗賊「!!? 崩れ落ち……」

王子「死ぬしかない死ぬしかない死ぬしかない…あんな姿をバラされるくらいなら死ぬしか」ブツブツブツブツ

盗賊「バラさねーから!! 落ち着けよ、な、な!? 死ぬな!?」

王子「ほんとだな!? な!?」ユッサユッサ

盗賊(マジで見てはいけないモンだったんだな、あの姿は…)

長老うさぎ「さて。これは先ほど、一族全員で話し合ったことなのじゃが…」

盗賊「ん?」

長老うさぎ「またいつか新たな魔王が現れ、我々一族を襲うじゃろう。だが、時代の流れと共にうさぎ一族と魔物の実力差は開いていき、次こそ本当に一族は滅ぼされかねん」

盗賊「そうだね…」

長老うさぎ「じゃが、王の血筋に代々受け継がれている力だけは守っていかねばならぬ。そこで、姫様や」

盗賊「はい?」

長老うさぎ「姫様には、より強い種族の者と子孫を残して欲しいのじゃ」

盗賊「それって……」

長老うさぎ「そうすれば、より強い子孫にその力が受け継がれていく。…姫様には、相手もおるようじゃしのう?」チラッ

王子「……」

盗賊「ち、ちちち、ちげーし!! 王子はそういうんじゃないしぃーっ!!」

長老うさぎ「わしは王子殿とは言っておらぬが?」

王子「……っ」

盗賊(ハメやがったな、このジジうさぎ……)グヌヌ

長老うさぎ(ちょろいのう、姫様や)

盗賊「だ、駄目だよ! だって王子は中央国の王子様なんだよ! 色々と、しがらみのある立場だし……」

王子「いや、俺は第三子だしな。割と自由になるぞ」

盗賊「あ、いや、そういう問題じゃなくて」アワワ

王子「それに君はうさぎ一族の姫君。身分的にも、問題はないだろう」

盗賊「いや、だから、そういう問題でもなくて……」

王子「…なら、こう言えばいいか?」

盗賊「――え?」

王子は優雅な動作で、盗賊の手を取って跪いた。

王子「――君に恋をした。君が良ければ、交際から始めないか」

盗賊「!!!」

盗賊「な、何で……?」アワワ

王子「こういうのは理屈ではなく、感覚的なものだからな…。まぁ1番は容姿か」

盗賊「私、育ちは悪いし品のない女だよ!? きっと、王子に沢山恥かかすよ!?」

王子「こちらは、既に恥を晒しているしな……」

盗賊「あ、あと…えっと……」

王子「君の気持ちは?」

盗賊「…え?」

王子「君にも選ぶ権利がある。俺など嫌なら、そう言ってくれればいい」

盗賊(…また、そういうこと言う)


そりゃうさぎを前にすると残念な男だけど、思いやりがあるし、努力家だし、勇敢だし。
そういった良い所を知る度に、自分は――彼に、惹かれていった。


盗賊「……後悔しても知らないからな。私、尻に敷くぞ」

王子「構わん。知っての通り、俺は好きな相手には割と被虐的なのだ」

盗賊「恥の部分、既に開き直ってんな!」

王子「もっと俺を知って欲しいからな。嫌か?」

盗賊「…嫌なわけない。そういうとこも含めて、あんたのこと、その……」

王子「ん?」

盗賊「……何でもない!!」

王子「?」

長老うさぎ(いやぁ、初々しいのう)ホッホッホ

王子「そうと決まれば城に帰るか。白兎騎士団の者はもう城外に避難を済ませているはずだ」スッ

盗賊「あっ」

王子は盗賊の手を取った。
まるで恋人としての第一歩。なんかちょっと、ドキドキする。

王子「うさぎ一族も来るがいい! 全員、城で世話しよう!」

ゾロゾロ

王子「ああぁ…うさちゃん達が群れをなして俺の後をついてくる……」デレー

盗賊「おい。…まさか、うさぎ目当てで私に交際を申し込んだ?」

王子「安心しろ、それは理由のひとつに過ぎん!」

盗賊「安心できるかあぁ!!」

ドキドキ撤回。やっぱり王子は残念だ。

長老うさぎ「おや」

盗賊「どうした?」

長老うさぎ「上の階での戦闘音が止んだ。どうやら、勇者殿が魔王を討ち取ったそうじゃぞ」

盗賊(あ。……完っ璧に、魔王戦のこと忘れてた)

王子「今日はめでたい日だな。しばらくは祝いが続くぞ」

盗賊「お、美味しいもん食べれる!?」ジュル

王子「あぁ、勿論だ。君は食いっぷりがいいからな」

盗賊「に、人間になったら自重すっし! うさぎの時と違うしー!」

王子「そうかそうか」ハハハ


こうしてうさぎ物語の1章はハッピーエンドを迎えた。
これから続いていく未来もハッピーでいたいと、うさぎ姫は王子の隣で願っていた。


Fin

ご読了ありがとうございました。
登場キャラへの好意的なレスを沢山頂けて嬉しかったです(小並感
うさぎにした理由は可愛いからです。


過去作こちらになります
http://ponpon2323gongon.seesaa.net/

ついに1文字すら台詞がなかった魔王くん
おつ

おつ
良かった

おつ
良かったけど最後が駆け足ぎみだったのが残念

乙うさ
姫様はチョロインだし、末姫はアホの子だし、ウサギは可愛いし、言うことないな


暗黒騎士の人だったのか見おぼえのあるコテだと思った

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