龍鳳「咲かずやはあらぬ 桜花」 (15)
龍鳳「失礼いたします、提督。お呼びでしょうか?」ガチャリ
提督「ああ、貴様にしか頼めんことがあってな……」
龍鳳「出撃ですか?」ワクワク
提督「……いや、まあ……その……」
龍鳳「はい?」
提督「……残念ながらそうではない」
龍鳳「そうですか……」シュン
提督「コホン。今度の休みに交代ではあるが、鎮守府の裏山で花見をすることになっているのは貴様も知っているだろうが……」
龍鳳「……桜……の……」
提督「どうかしたか?」
龍鳳「……あ、はい!鳳翔さんと一緒に腕を奮って美味しいお花見弁当の準備をさせて頂きますから、期待していて下さいね」
提督「それは楽しみだな。しかし、今日はその事ではなくてな。……花見の事を全て貴様に頼むようで心苦しいのだが……裏山だからな……去年の花見からまともな手入れも出来ていない。だから……」
龍鳳「お掃除ですね。分かりました!」
提督「うむ、助かる。……俺も手が空いたらすぐそちらに行く」
龍鳳「はい。それでは失礼しますね」パタン
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本日(4月12日)は大鯨の起工日になります
できれば完成してからうpしたかったのですが、ちょっと間に合いそうにないので書き終えた分から投稿していきますのでよろしくお願いします
龍鳳「よいしょ……っと、到着。ふわぁ、草がいっぱい……これはちょっと大変だなぁ……」
龍鳳「桜は……うん、少し咲き始めてるみたい。……休みごろには満開になるかな」
龍鳳「……うん、楽しみ」
龍鳳「そういえば、鎮守府って裏山から見るとこんな風に見えるんだ……。意外に大きいな……」
龍鳳「不思議だなぁ……いつもあそこに居るのに、そんな風に意識したことなかった……」
龍鳳「ねえ、桜さん。桜さんは、私たちのこと、ずっと見ててくれたのかな?」
龍鳳「どんな風に……見えてたのかなぁ……?」
龍鳳「…………桜さん…………」そっ
龍鳳「…………桜花…………ごめん、ね……」ぎゅうっ
提督「……ほう……り……ほ……龍鳳……龍鳳!」ゆさゆさ
龍鳳「……ん……あ……提督……」
提督「起きたか?」
龍鳳「……ん……ん?え?あれ?……やだ!もしかして私、寝てました!?」
提督「そのようだな。いやしかし肝を冷やしたぞ。手早く仕事を片付けて来てみれば、桜の根元で貴様が倒れているのだからな」
龍鳳「すすす、すみませんっ!」ペコペコ
提督「どこかが悪いのかと思い、明石を呼ぼうと思ったのだが……寝言が聞こえてな」
龍鳳「~~~~!」ふしゅー
提督「いやまあ、安心したぞ?」くっくっ
龍鳳「あ、あ、あ……」パクパク
龍鳳「ななな、なんて言ってました!?なんて言ってました!?」
提督「……いや、もごもごとだけ。よく聞き取れなかったな」
龍鳳「そ、そうですか……」ほっ
提督「まあ、なんだ。日頃の疲れが出たのだろう。掃除だ料理だ洗濯だと、毎日よくしてくれているからな。今日の所は少し休んでいろ」
龍鳳「い、いえ、そんなわけにはいきません。それにせっかくこうして準備もしてきたのですし……」
提督「……遠慮せずともいいんだがな。……ではこうしよう。このあたりの草を俺が刈る。その間は休んでおけ」
龍鳳「ですが……」
提督「なに、こういう時のために天龍刀を借りてきた」
龍鳳「…………それ、怒られませんか?」
提督「ダメか?」
龍鳳「ダメだと思います」きっぱり
提督「……では普通にするとしよう」むぅ…
龍鳳「じゃあ、私も……」
提督「そうは言っても鎌は一つしかないからな。遠慮するな。一足早く花見に興ずるのもいいだろう」
龍鳳「……ですが……」
提督「いいから休んでいろ。それとも俺に命令だと言わせたいか?」
龍鳳「……はい、ありがとうございます」
提督「俺が持ってきた荷物の中に、ジュースと茶が入っている。好きな物を飲むといい」
龍鳳「ありがとうございます、いただきます」
提督「……そう萎縮するな。咎めているわけではないのだぞ?」
龍鳳「は、はい」
提督「働く男の姿という物を見せて、見惚れさせてやろうという下心もあるのだ」むんっ
龍鳳「……くすっ……///はい」
提督「うむ、貴様の笑顔は桜にも負けんほど華やかだな。そうしてくれれば俺も元気が出る」
龍鳳「//////」カァァ
提督「……と、とにかくだ……は、始めるとしよう、うむ」ぷいっ
提督(少し……どころではなく臭かったか……。いかんいかん、無心だ無心)
提督「…………」ザックザック
提督「……………………」ザックザック
提督「……ふぅ……こんなものか……」
提督「さて、龍鳳、手伝って……」
龍鳳「………………」ぼ~…
提督「龍鳳、どうした?」
龍鳳「はっ……あ、いえ、お手伝いですね?は、はい、すぐに!」
龍鳳「えっと、ほうきは……」
提督「……龍鳳」
龍鳳「はい?」
提督「どうした?今日は……その、らしくないぞ?」
龍鳳「そ、そんなことありませんよ!?私は元気、元気です!」
提督「……ふぅ……龍鳳」
龍鳳「な、なんでしょう」
提督「俺は少しくたびれた。休憩に付き合え」
龍鳳「で、ですが……」
提督「確かスポーツドリンクがあったはずだ、それを取ってくれ」
龍鳳「……はい」
提督「……うむ、美味い」
提督「…………ん」
龍鳳「あ、はい、閉まっておきますね」
提督「すまん」
提督「…………」
龍鳳「…………」
提督「風が……心地いいな……」
龍鳳「はい……」
期待
提督「…………あ~、その、なんだ」
龍鳳「はい?」
提督「実は、先ほど貴様に嘘をついた」
龍鳳「嘘……なんでしょう?覚えがありませんが……」
提督「……寝言のことだ」
龍鳳「ねご……?――!!あ、あ……!」
提督「貴様はこう言っていた。桜花、と。そして、ごめんなさい、とも……」
龍鳳「――――あ……」ポロっ
提督「気に病んでいたのか……」
龍鳳「いえ……そのっ……」ぽろぽろ
提督「貴様は人一倍優しいからな……気にしないはずは無かったな……。すまん。勝手ではあるが、人間の代表として謝る」
龍鳳「いえ、そんな……提督は悪いことなどなにも……」
提督「桜花……旧日本軍がかの戦争の時代に開発した、特殊特攻兵器。一度飛び立てば、まず生きては帰ってこられない……。それを龍鳳、貴様は……」
龍鳳「はい……沢山、載せました。そして……桜花はあまり戦果をあげることなく……散っていきました……」
龍鳳「桜花部隊が初めて戦果を挙げたのは、皮肉にも4月12日……」
提督「龍鳳、貴様の起工日か……」
龍鳳「はい、私が初めて形を成そうというその日に、私が運んだ桜花で、『敵』の命を……奪いました」
龍鳳「それは同時に、私が守るべき人の命が散ったということでも……あります……」
提督「……そう……だな……」
龍鳳「…………」ぐすっ
提督「……龍鳳……」
龍鳳「……すみません。こんなこと、艦むすの私が言うことじゃあありませんね……やめます」
提督「……そうか……」
提督「しかし……だ。艦むすの龍鳳としてはそこでやめてしまっていいのかもしれん。だが、貴様はどうなのだ?」
龍鳳「私……ですか?」
提督「そうだ」ガバッ
龍鳳「きゃっ!」
提督「艦むすの龍鳳でなく、俺の好いた、今俺の腕の中に居る貴様はどうなのだと聞いている」
龍鳳「……ていと……く……」
提督「こうすれば、小さな貴様など誰も見ることなどできはしないだろうよ」ぎゅっ
提督「だから、貴様のその心の内の音を俺に聞かせろ」
龍鳳「て……いと…………」ポロ…
龍鳳「ふぁぁぁぁぁぁっ……!怖かった、辛かったんです!」
提督「ああ」
龍鳳「ただただ死んでいく人たちを見るのが……!必死で笑っている姿が痛かった!夜、一人でこっそり泣いている姿が辛かった。家族の写真を胸に秘め、飛び立っていく人が……悲しかった……」
龍鳳「どんなに辛くても、どんなに悲しくても、私にできることは見ていることだけ。ただ、見送ることしかできなかったんです」
龍鳳「……そんな辛い想いをするのなら、私なんて、初めから居なければ良かった。そうすれば、死ぬ人はもっと少なかったのかもしれない。私が居たから、彼らは死ななきゃならなかった……」
提督「……同時を生きることのなかった俺が、貴様をどうこう言う資格がないのは分かっている。だから、俺は貴様のその考えを否定せんよ」
提督「……だから、もしもの話をするぞ」
龍鳳「…………」コクン
提督「きっと、俺がその時代に生きていれば……俺も桜花に乗ったやもしれん」
龍鳳「……い……や、いや……です」ぎゅぅっ
提督「まあ、聞け。……それは何故か。守るためだ」
龍鳳「…………」ぐすっ
提督「親であったり、兄弟であったり、恋人であったり、友人であったり……人によって色々と理由はあるだろう。しかし、誰かを守りたい。その一心があれば、俺は必ず銃を取る」
提督「もし、そのための手段が桜花しかないのであれば、俺は迷わず桜花に乗るだろう」
龍鳳「……だめ、だめ……そんなの私が耐えられない……」
提督「…………結局の所、それ、なのであろうな」
龍鳳「……?」
提督「くっくっ……貴様はよく俺に何と言っているか、気付いているか?」
龍鳳「…………」フルフル
提督「で、あろうな。何せ俺も今の今まで気づかなかったのだからな……。なあ、龍鳳。貴様は何故出撃したがる?」
龍鳳「――!」ビクッ
提督「ああ、そうだ。俺も貴様も、同じ気持ちだったのだなぁ……」
龍鳳「提督……も?」
提督「もちろんだ。もし俺が戦えるのならば、俺が艤装を背負って征くところだ」
提督「……しかし現実は違う。俺は戦いに征く者の背を見送ることしか出来ない。それを歯がゆく思っていた」
龍鳳「……提督……提督も、私と同じ気持ちだったんですね」
提督「ああ、しかし貴様と俺とでは一つ、違うことがある。何か分かるか?」
龍鳳「……?」フルフル
提督「お帰り、だ」なでなで
提督「貴様たちが出撃して、生きて帰ってくる。それがなんと嬉しい事か……」
龍鳳「あ……」
提督「幸いなことに、俺は未だ未帰還者を出したことはない。しかし、出してしまえば……どれほど傷つくかは……想像もできんよ……」
提督「本当に、貴様には辛い思いをさせたのだなぁ……」
龍鳳「…………」
提督「さて、龍鳳。こんな詩を知っているか?春ごとに 花のさかりは ありなめど あひ見む事は いのちなりけり」
提督「春になれば、美しい花の盛りは様々にあるだろうが、それらを見ることができるのは命があるからだ、という詩だ。……なあ、龍鳳……」
龍鳳「は……い……?」
提督「居なければ良かったなどと、言ってくれるな。貴様が居なくば、俺のこの気持ちは無くなってしまうではないか」
龍鳳「それは……その……どんな気持ち……でしょうか……」かぁぁっ
提督「言わねば分からんか?では言おう。貴様が微笑む様は嬉しい。頬を染める様は美しい。涙を流す様は痛ましい。怒る様は愛らしい」
龍鳳「あのあの……あ、あり……がとう……ございます///」
提督「ふむ……ところで龍鳳、貴様はまだ、自分が居なかった方が良いと言うのか?はぐらかしたところで悪いが、その答えを聞いていないぞ?」
龍鳳「……提督は……いじわる、です///」
提督「はっはっ、貴様が怒る姿が愛いから悪いのだ」
龍鳳「もうっ……」
龍鳳「その……提督」
提督「なんだ?」
龍鳳「いつも……いつも……いつまでも、いつまでも。提督のお側に、私……!」
提督「龍鳳……」
龍鳳「提督……」
提督「…………」
龍鳳「…………」
ブワァァッ
提督「なっ!?桜吹雪!?」
龍鳳「…………綺麗…………」
提督「……ふぅ……まったく……せっかくだというのに……桜のやつめ……嫉妬かやっかみか?」
龍鳳「……ふふっ、激励、かもしれませんね」
提督「だといいがな。――桜花よ、見ていてくれ。俺たちは日ノ本の国を守る。生きて、守る。これは貴方がたが教えてくれた事だ」
提督「そして、生きて愛する女を抱く」
龍鳳「//////もぅ……」
提督「……心なしか風が強くなった気がするな。ふん、うらやましいか。龍鳳は俺の女だ、いくら尊ぶべき先人と言えど、貴様らにはやらん」
龍鳳「提督///!!」
提督「……だから、見ていてくれ。俺たちの行く先を、な」
提督「…………」グイッ
龍鳳「……ていっ……んっ……」
以上、終了でございます
読んでくださった方、ありがとうございました
しかし4月12日中に書き上げたかった……18時ちょい過ぎに知った後に大急ぎで色々調べて書いたので、やや荒いですがお許しください
龍鳳がタイトルで歌っている詩は「ごとならばさかずやはあらぬさくら花見る我さへにしづ心なし」という詩で、
「桜の花よ、こんなことならば、なぜ咲かないでいられないのか。見ている私までも落ち着いた心でいられない」という意味になります
このSSの内容は、この詩を元に作られています
以上、お目汚し失礼いたしました
それではまたどこかで
詩を元に書いたSS
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こちらもよろしければ
乙
色々言いたいことあるけど要約すると龍鳳ちゃんかわいい
いい話だった。祖父を思い出し、涙が出たよ。ありがとうよ。
乙
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