ザザーン…
ザザーン…
老人「……む……」トントン
老人「……」ポキポキ
瑞鶴「肩、こったの?」
老人「……ん」
瑞鶴「そっか」クスッ
瑞鶴「じゃあ、ここ座って?」
瑞鶴「瑞鶴が肩たたきしてあげる!」
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ザザーン…
ザザーン…
トントントン…
瑞鶴「おじいちゃん、どう?」
瑞鶴「気持ちいい?」
老人「…………」コクッ
瑞鶴「そう、よかった!」
瑞鶴「こうしてこうして……ん、これで終わりね」グッ
老人「ん……」グルングルン
瑞鶴「ふふっ、どういたしまして」ニコッ
ザザーン…
ザザーン…
瑞鶴「海、綺麗……」
老人「……」
瑞鶴「……ねぇ」
瑞鶴「おじいちゃんは、いつからこの島に住んでるの?」
老人「……」
ザザーン…
ザザーン…
瑞鶴「だっておかしいよ、日本人のおじいちゃんが」
瑞鶴「南方レイテ沖の……しかもこんな何もない島で」
瑞鶴「一人で暮らしてるなんてさー」
老人「……ヒヒッ」
瑞鶴「むぅ、答えるつもりはないのね……」
瑞鶴「まぁいいわ」フフッ
瑞鶴「どのみち一人じゃ心細かったから」
瑞鶴「誰かが居てくれた……それだけで嬉しいよ」ニコ
ザザーン…
ザザーン…
瑞鶴「……それにしても……」グゥー
瑞鶴「……お腹すいたなぁ……」
老人「……」スタスタ…
老人「……ん」スッ
瑞鶴「あ、ありがとうおじいちゃん」
瑞鶴「でもこのキノコ……食べられるの?」
老人「……」コク
瑞鶴「そ、そう……」
瑞鶴(すごい色だなぁ……)ジーッ
瑞鶴「やっぱり、遠慮するよ……ごめんね」アハハ…
老人「」ガーン
ザザーン…
ザザーン…
瑞鶴「さてさて、ここらで一度無線をチェックよ!」
キュイッ ザザザザザザ……
瑞鶴「まだ……駄目みたいね……」シュン
老人「……」
瑞鶴(翔鶴姉、皆……)
瑞鶴(無事に逃げきれたのかな……)
ザザーン…
ザザーン…
瑞鶴「おじいちゃん、知ってる?」
瑞鶴「このレイテの海には……怪鳥が現れるんだって」
老人「……」
瑞鶴「おじいちゃん、見たことある?」
老人「……」フルフル
瑞鶴「そっか、無いか」フフッ
瑞鶴「でも、恐らくだけど……」
瑞鶴「瑞鶴達は知ってるんだ、その怪鳥の正体」
瑞鶴「この海にはね、空母型の深海棲艦がたくさんいるの」
老人「……」
瑞鶴「どうやら、ここで新型の艦載機も飛ばしているらしいわ」
瑞鶴「たぶん……それが、怪鳥の正体なの」クスッ
老人「……か……」
瑞鶴「それに皆とはぐれちゃったのも、私がこの島で身を隠してるのも」
瑞鶴「実は、その“怪鳥”に襲われたからなんだよね」シュン
老人「……」
ザザーン…
ザザーン…
瑞鶴「……」グゥー…
瑞鶴「もう限界!」ゴソゴソッ
老人「?」
瑞鶴「じゃーん!秘密兵器、クッキー!」
瑞鶴「長い航海だって言われてたから、隠して持ってきちゃった!」ヘヘン
瑞鶴「たくさんあるから、おじいちゃんも一緒に食べよ?」
老人「?……?」オロオロ
瑞鶴「いいのいいの、遠慮しないでっ」
瑞鶴「……おいしい?」
老人「……ん」サク サク
瑞鶴「えへへ、よかったぁ」ニコッ
瑞鶴「そういえば……」ジーッ
瑞鶴「おじいちゃん、この葉っぱの山はなに?」
老人「!」
瑞鶴(何かを……隠してるみたい……)
瑞鶴「見てみよーっと」ス…
老人「……あ……あ……!」オロオロ
瑞鶴「えっ、ど、どうしたの!?」
老人「う……う……!」
瑞鶴(見られたくない……のかな?)
瑞鶴「……分かったわ」クスッ
瑞鶴「もう見ないよ……安心して、おじいちゃん」ニコッ
老人「……」ハァ ハァ
ザザーン…
ザザーン…
瑞鶴「……」サクサク
瑞鶴「……ん?」
バサバサバサバサ…
瑞鶴「わぁ……綺麗な鳥さんが目の前に!」
老人「……」ジーッ
瑞鶴「この辺りの野鳥かな……」
瑞鶴「ひょっとして、このクッキーにつられてやって来たの?」
老人「……」パキ
老人「……あ……」ヒョイ
ピョン
パクパク
瑞鶴「あはは、美味しそうに食べてるねっ」
老人「……ヒヒッ」
バサバサッ
瑞鶴「あ、鳥がおじいちゃんの肩に……」
老人「む……」
老人「……」スリ スリ
瑞鶴「すごいね、この子逃げないんだ!」
瑞鶴「……あはは、首元を撫ぜられて、鳥さんもなんだか気持ちよさそー」ニコッ
瑞鶴「私もやりたいなぁ」スクッ
バサバサバサッ…
瑞鶴「あぁ~!逃げちゃった!」ガーン
老人「……ほっほ……」クスッ
ザザーン…
ザザーン…
瑞鶴「そういえば……」ジーッ
老人「?」
瑞鶴「おじいちゃんのそのツナギみたいな服、すごくボロボロだね」
老人「……ん」
瑞鶴「直してあげたいな……」
瑞鶴「あ!でも今は無理だぁ……」
瑞鶴「ごめんね」シュン
老人「……ん」コク
ザザーン…
ザザーン…
瑞鶴「ハァ……暗くなってきたなぁ……」
瑞鶴「無線も何も反応しないし、今日はおそらく野宿だね」
瑞鶴「おじいちゃん、今夜だけお隣お邪魔するね?」
老人「……」コク
瑞鶴「そろそろ火を起こさなきゃ、えっと……」ゴソゴソ
瑞鶴「あった、マッチ!」
瑞鶴「そこ、火をつけるから少し開けてもらっていい?」
老人「……あ」コク
パチ…パチ…
瑞鶴「あったかぁい」ニコニコ
瑞鶴「南とはいえ、どこも夜は冷えるなー」
瑞鶴「やっぱり、人間には火が必要よねっ」
老人「…………」
瑞鶴(それにしても……)
瑞鶴(このおじいちゃん、普段は火をどうやって起こしてるんだろ?)
瑞鶴(むぅ……謎は深まるばかりだわ……)
少し休憩するのです!
期待
一旦乙です
この老人一体何者なんだろうな
ザザーン
ザザーン
瑞鶴「……おやすみなさい、おじいちゃん」
老人「…………」ゴロリ
ずっと一人だったから発声できなくなってるんかねぇ?
キアアアアアッ
バサバサバサッ
瑞鶴「ッ!」ガバッ
瑞鶴「……はぁ……はぁ……!」
瑞鶴(だめだ……眠れないよ……)
瑞鶴(翔鶴姉……)グスッ
老人「……ん」ムクッ
瑞鶴「あ……!」
瑞鶴「ご、ごめんねおじいちゃん……起こしちゃったね」ゴシゴシッ
老人「……」
瑞鶴「……あはは、ほんと情けないなぁ、私」
瑞鶴「艦娘になって、覚悟は決めていたつもりだったのに……」
瑞鶴「戦いが怖くて、眠れなくなるなんてね」クスッ
老人「…………」
老人「……ん」ムクッ
瑞鶴「あ……!」
瑞鶴「ご、ごめんねおじいちゃん……起こしちゃったね」ゴシゴシッ
老人「……」
瑞鶴「……あはは、ほんと情けないなぁ、私」
瑞鶴「艦娘になって、覚悟は決めていたつもりだったのに……」
瑞鶴「戦いが怖くて、眠れなくなるなんてね」クスッ
老人「…………」
ザザーン…
ザザーン…
瑞鶴「この海には、私……」
瑞鶴「……いい思い出がないの」
老人「……」
瑞鶴「……これが、前世の記憶っていうのかな?」
瑞鶴「何故か……このまま……帰れない気がして……」
瑞鶴「……」ガクガク
瑞鶴「……あれ、おかしいな?」フルフル
瑞鶴「……震えが……止まらな……」ガクガク
老人「……っ」
老人「……」ゴソゴソ
老人「……ん」スッ
瑞鶴「……え……?」フルフル…
瑞鶴「おじいちゃん……これは?」
老人は身に着けていた“それ”を抜き取り、そのまま瑞鶴に手渡してくれました。
渡されたもの……それは赤い結び目のたくさん付いた、1mに満たない長さの白布。
老人は足元の砂に文字を書き、それがおまじないの品なのだと教えてくれました。
老人「…………」
瑞鶴「……もしか……して」
瑞鶴「これ……くれるの?」
老人「……」コク
瑞鶴「で、でも……!」
瑞鶴「これ、おじいちゃんの大事なものじゃ……」
老人「…………」
老人「……ヒヒッ」ニカッ
瑞鶴「……わかった……」
瑞鶴「……ありがとう、おじいちゃん」クスッ
ザザーン…
ザザーン…
瑞鶴「……震えが……止まった」
瑞鶴「おじいちゃんのおかげだよ……ありがと」ニコ
老人「……ん」
瑞鶴「……なにか、お返ししなきゃねっ」クスッ
老人「…………」
瑞鶴「ふふ、何が良いかな?」
瑞鶴「私にできる事なら……なんでもするよ」
老人「……あ……」
老人「……」カキカキ
瑞鶴「えっと、なになに……」
瑞鶴「“うた”……歌っ!?」
老人「あ……」コクコク
瑞鶴「うぅーん、う、歌かぁ……」オロオロ
瑞鶴(ど、どうしよう……歌うのは別にいいんだけど……)
瑞鶴(最近の曲を歌っても……おじいちゃんに分かるわけないよね?)
瑞鶴(かといって……昔の人が好きそうな歌なんて、私……)ムムム
瑞鶴(…………あ)
瑞鶴(い、一曲だけあるけど、あれはちょっと……!)
老人「……」ワクワク
瑞鶴(うぅ……仕方ない!これもおじいちゃんのためよ!)グッ
デデン!
「む~ねぇ~ひ~めたぁ~っ」
パンッ
「お~もぉ~い~ひぃ~とつぅ~っ」
パンッ
満天の星空のもと……響き渡るのは、気恥ずかしげな少女の歌声と、老人の愉快な手拍子だけでした。
それはまるで、彼女達にとっての闇夜を照らすかのように……。
すみません、また離れます。
次の一回で、終わりまで書ききります。
待ってる
ザザーン…
ザザーン…
『……か……!』ザザザッ
『…い…く…!』ザザッ
『応……瑞…!』ザザザッ
瑞鶴「……うぅ~ん……」
瑞鶴「……はっ!」ガバッ
瑞鶴「し……」ジワ…
瑞鶴「……翔鶴姉!」
瑞鶴『応答し……あぁ、瑞鶴!』ザッ
翔鶴『よかった……無事なのね?』ザザッ
瑞鶴「うん!うん!」コクコクッ
瑞鶴「そか、翔鶴姉も無事だったんだね……」
瑞鶴「よかったぁ……よかったよぉ!」グスッ
翔鶴『うふふ……泣くのはまだ早いわ、瑞鶴』ザザッ
瑞鶴「うん……そうね!」ゴシゴシッ
翔鶴『今いる場所……分かる?』
瑞鶴「あぁ、そうかっ」
瑞鶴「えっと、海図によると……」ペラッ
瑞鶴「し……」ジワ…
瑞鶴「……翔鶴姉!」
翔鶴『応答し……あぁ、瑞鶴!』ザッ
翔鶴『よかった……無事なのね?』ザザッ
瑞鶴「うん!うん!」コクコクッ
瑞鶴「そか、翔鶴姉も無事だったんだね……」
瑞鶴「よかったぁ……よかったよぉ!」グスッ
翔鶴『うふふ……泣くのはまだ早いわ、瑞鶴』ザザッ
瑞鶴「うん……そうね!」ゴシゴシッ
翔鶴『今いる場所……分かる?』
瑞鶴「あぁ、そうかっ」
瑞鶴「えっと、海図によると……」ペラッ
瑞鶴「ふふっ、これでもうすぐ合流できるねっ」ニコッ
瑞鶴「助かったぁ……」ホッ
瑞鶴「さて、おじいちゃんは……」クルッ
老人「……」スースー
瑞鶴「まだ寝てる……か」クスッ
瑞鶴「……あれ?」
瑞鶴「懐から何か落ちてる……なんだろ?」
瑞鶴「古い写真みたいだけど……」ヒョイ
瑞鶴「ひゃ~っ、綺麗な女性!」
瑞鶴「おじいちゃんの恋人……かなにかだった人かな?」
瑞鶴「ふふっ、おじいちゃんもなかなか隅に置けないね、このこの!」ニヤニヤ
瑞鶴「…………」
瑞鶴「……だった人……か」
老人「……ふぁ……」ムクリ
瑞鶴「!」
瑞鶴「おはよう、おじいちゃん」
老人「……ん」
瑞鶴「ごめんね、写真見ちゃった……」
老人「……」コク
瑞鶴「すごく、綺麗な人だね」
老人「……」コク
瑞鶴「…………」
瑞鶴「……ねぇ、おじいちゃん」
瑞鶴「一緒に、日本へ……帰ろ?」ニコッ
老人「……っ!」
瑞鶴「もうすぐ、お迎えが来ることになったの」フフッ
瑞鶴「……それと、これは私の勘なんだけど」
瑞鶴「おじいちゃん……昔の兵隊さんだったんだよね?」
老人「……」
瑞鶴「確かに、おじいちゃんがいた頃の日本とは……」
瑞鶴「もう、だいぶ変わってしまってるかもしれない」
老人「…………」
瑞鶴「……でもね」フフッ
瑞鶴「今の日本はね、とても豊かな国なんだよ」
瑞鶴「美味しいものがたくさんあって、皆やりたいことをやって」
瑞鶴「男も女も分け隔てなく、楽しくお話ができて……」
瑞鶴「とにかく、とてもとても素敵な国なのっ」
老人「…………」
やはり敗残兵、生き残りだったか……
瑞鶴「……それにねっ」
瑞鶴「今の時期は、ちょうど桜が満開なんだよっ」
老人「……さ……く……」
瑞鶴「そう、桜!」ニコッ
瑞鶴「それで私達の鎮守府でも今度、お花見をやるの!」
瑞鶴「もちろん、その時はおじいちゃんもお誘いするね!」
老人「…………」
瑞鶴「それにそれに!」
瑞鶴「今はスマホやパソコンなんかで……」
瑞鶴「おじいちゃんの好きなお歌だって、たくさん聞けるんだよ!」
老人「…………」
瑞鶴「食料制限もないから、お腹がすいても大丈夫!」
瑞鶴「今はボタン一つで安全に火がつけられるし……」
瑞鶴「なんだったらお湯さえあれば、即席麺だって食べられるんだ!」
瑞鶴「クッキーだって色々売ってるし、大きなお風呂だって入れるよ」
瑞鶴「あ、エアコンも付いてるから……気温だって快適だねっ」
老人「…………」
瑞鶴「……そうだよ、おじいちゃん」
瑞鶴「……本当は、ずっと帰りたかったんだよね?」
老人「……!」ブンブン
瑞鶴「ふふ……嘘はだめ、おじいちゃん」
瑞鶴「じゃなきゃ、女の人の写真を肌身離さず持ち歩いたりなんて……普通はしないよ」
老人「……っ」
瑞鶴「……おじいちゃんが何故、この島でずっと過ごしていたのか……私には分からない」
瑞鶴「でも、この女の人は今でも生きて……日本でおじいちゃんを待ち続けてる」
瑞鶴「私にはそんな気がするんだ」ニコッ
老人「……あ……あ……」
瑞鶴「おじいちゃんには、おじいちゃんの世代の人達が作り上げた」
瑞鶴「今の豊かな日本を……その目で見て欲しいんだ」
瑞鶴「そして、幸せな余生を享受してほしいの!」
瑞鶴「私は海に浮かべるから、おじいちゃん一人くらいなら」
瑞鶴「日本までしっかりおぶっていってあげる!」フフン
瑞鶴「だから……」
瑞鶴「一緒に……帰ろうよ、おじいちゃん」
老人「あ……あ……!」ポロ…ポロ…
「瑞鶴~っ!」
瑞鶴「あっ!翔鶴姉の声だ!」
瑞鶴「おじいちゃん、よかったね」ニコッ
瑞鶴「おぉーい!こっちこっちー!」
おじいちゃんはちゃんといるよね?こええ
ザザーン…
ザザーン…
翔鶴「……よかったぁ」ニコッ
翔鶴「怪我はないみたいね……」
瑞鶴「ずいかくねぇ~」ウルッ
ギュッ
瑞鶴「会いたかったよぉ~!」グスッ
翔鶴「ふふ、しょうがない子ね」
翔鶴「はいはい、お姉ちゃんですよ」ナデナデ
瑞鶴「……はっ、そうだ!」
瑞鶴「翔鶴姉、このおじいちゃんも一緒に連れて行ってあげようよ!」
瑞鶴「おじいちゃん……この島でずっと一人ぼっちだったの!」
瑞鶴「だからさ、ねっ!」ニコッ
翔鶴「瑞鶴……」
翔鶴「……おじいちゃんって……どこ?」
瑞鶴「……へ……?」
瑞鶴「ははは、翔鶴姉なにを言って……あれ?」
瑞鶴「え!?え!?」キョロキョロッ
瑞鶴「ちょっとおじいちゃん、どこ行ったの!?」
瑞鶴「おじいちゃん!おじいちゃん!?」
翔鶴「ず、瑞鶴?」
瑞鶴「おじいちゃん……どこにいったの……?」
瑞鶴「……おじいちゃぁぁんっ!!」
彼女は一生懸命……それはもう一生懸命に、消えた老人の姿を探しました。
……ですが、彼がそこに現れることは、とうとうなかったのです……。
(おじいさん)シャベラナカッタァァァァァァァ!!!
瑞鶴「あ……あぁ……っ」ポロ…ポロ…
瑞鶴「おじい……ちゃ……ん……」グスッ
瑞鶴「なん……で……どうして……!」ポロ…ポロ…
翔鶴「……」
翔鶴「そのおじいさんは……本当にいたのよね?」
瑞鶴「……う……ん……!」ポロ…ポロ…
翔鶴「……私、信じるわ……瑞鶴」
翔鶴「……でも……」
翔鶴「おじいちゃんにはきっと、帰れない理由があったのよ……」
翔鶴「……だから……ね?」
翔鶴「皆が……待ってるわ……」
瑞鶴「…………」グスッ
瑞鶴「……」コク…
二人は青く揺らめく海へ、静かに漕ぎ出しました。
瑞鶴は老人のくれた白布、“千本針”をその手にしっかりと握り……。
涙を拭って、姉の背中をゆっくりと追いかけます。
翔鶴「ほかの機動部隊の皆は、ここからもう50km先の島で待機してるらしいわ」
翔鶴「皆に会う前に、その顔を……なんとかした方がいいわね」フフッ
瑞鶴「……うん」
バシャバシャッ
瑞鶴「げ、しょっぱい……」
翔鶴「うふふ、海水なんかで洗うからよ」クスッ
翔鶴(……強い子ね……)
翔鶴(もう、大丈夫そう)ニコッ
ブォォォォォォ……
翔鶴「あら、何かしら……この音?」
瑞鶴「ひょっとして……誰かが艦載機で、私達を探しに?」
翔鶴「そうかも……でも待って、音がおかしいわ」
翔鶴「……こ、これは……!」
翔鶴「……瑞鶴、戦闘機隊と第一次攻撃機隊、全機発進準備よ……」
瑞鶴「え、えぇ!?ま、まさか……!」
翔鶴「……“レイテの怪鳥”だわ!」
翔鶴「偵察機によると……数は6……」
翔鶴「うち2隻がヲ級相当の新型……」
翔鶴「そして、1隻は……“姫”だわ!」
瑞鶴「な、なんで!?」
瑞鶴「なんで姫級の深海棲艦がこんなところに!?」オロオロ
翔鶴「分からないわ……ただ」
翔鶴「彼女達は……生き残った私達を本気で叩くつもりよ……!」
瑞鶴「翔鶴姉!4時方向より多数の機影……!」
翔鶴「瑞鶴!迎撃機を上げるわ!」
翔鶴「急いで!」
弓を引き、熟練の烈風部隊を次々と打ち出す瑞鶴。
彼女は老人との別れを惜しむ間もなく、再び戦闘状態に突入してしまったのです。
ブロロロロロロロッ……
ズガガガッ
高練度の戦闘機隊の奮戦により、深海側の第一次攻撃機隊の迎撃にはひとまず成功。
二人は転舵し、全速力で海域を抜けようとしました。
翔鶴「はぁ……はぁ……」
瑞鶴「さすが新型ね……手ごわいわ……!」
瑞鶴「翔鶴姉、いつ第二次攻撃が来るか分からないよ!」
翔鶴「えぇ、分かってるわ……早急に離脱しましょう!」
……ですが、空戦によって戦闘機隊は数を大きく減らし、且つその高度が下がっていることに……
彼女達は、気が付きませんでした。
ズガンッ!
翔鶴「きゃあっ!」ズドーンッ
瑞鶴「翔鶴姉!?」
瑞鶴「ど、どうしたの!大丈夫!?」バッ
翔鶴「……くっ……瑞か……」ヨロッ
瑞鶴「一体どこから!?……はっ!」
瑞鶴「直上!?」バッ
気が付いた時にはもう、全てが遅かったのです。
雲に紛れ、翔鶴を爆撃した急降下爆撃機隊が機体を引き起こし、空を目指していた時……
その更に後続の爆撃機隊多数が……隣の瑞鶴めがけ、急降下をかけていました。
深海棲艦の姿が、水平線にはっきりと見えるほどの距離まで……
彼女達は、敵の接近を許してしまっていました。
瑞鶴「翔鶴姉!早く逃げるよ!」グイッグイッ
瑞鶴「でないと、また爆撃が……!」
翔鶴「……瑞鶴……」ヨタッ
翔鶴「私はもう……だめ」
瑞鶴「な、何言って……!?」
翔鶴「ごめんね……瑞鶴、一人で逃げて……」
瑞鶴「そんな……!」
瑞鶴「そんなこと、できるわけないじゃん!」
瑞鶴「早く立ってよ翔鶴姉!」
瑞鶴「もう……一人ぼっちは……やだよ!」グスッ…
翔鶴「瑞……鶴……」
そんな中……瑞鶴を狙った急降下爆撃隊は、ついに目前まで迫っていました。
ブォォォォォォッ!
瑞鶴「翔鶴……姉……!」ポロ…ポロ…
翔鶴「ごめん……ね……瑞……鶴……!」ポロ…ポロ…
最期を覚悟した二人は瑞鶴の千本針を強く握り、抱き合いました。
……しかし。
いくら待てども、その爆撃は行われなかったのです。
なぜなら、瑞鶴がおそるおそる顔を上げると……
そこには火の玉となって海に落ちてゆく、敵爆撃機の姿があったからです。
ブロロロロロロロロッ!
瑞鶴「っ!?」
刹那、二人の真上を何かが通り過ぎ、一筋の風が瑞鶴の髪をふわりと持ち上げました。
それと同時に、彼女の手元に一枚の木の葉がひらひらと舞い降りてきたのです。
……それは、瑞鶴にとって見覚えのある木の葉でした。
ブロロロロロロ…
翔鶴「あれ……は……誰かの烈風……?」
翔鶴「まさか、島から応援が?」
瑞鶴「……違うよ、翔鶴姉……」
瑞鶴「あれは……“ゼロ”だよ……」
翔鶴「ゼロ……?でも、あれは誰も……」
状況が把握できない翔鶴に対し、突如飛来した謎の零戦は、大きくバンクを振りました。
そして……多数の敵爆撃機を二種の機銃によって、瞬く間に叩き落としていったのです。
瑞鶴「……すごい……!」
第二次爆撃機隊を全滅に追い込んだ後、更にそれは美しい弧を描いて、翔鶴を狙った爆撃機隊を単機で猛追します。
敵もすかさず迎撃機を放ちましたが、零戦の極まった技量がそれを寄せ付けません。
まさに曲芸と呼ぶべき戦闘機動で、幾度も敵機の射線を回避していきます。
その様子を、二人は口をポカンとあけて見つめていました……。
瑞鶴「……はっ!いけない!」
我に返った瑞鶴は、無事だった攻撃機隊をすぐさま撃ち出します。
目標は水平線の敵旗艦……。
空母棲姫です!
ズドォォン……
旗艦を狙った流星改の酸素魚雷が、彼方で大きな水柱を上げました。
その振動が、彼女達の下まで伝わってきます。
瑞鶴「衝撃波伝播……敵旗艦大きく損傷してるわ!」
瑞鶴「……あぁ!敵機動部隊が……逃げていく!」
翔鶴「瑞鶴……!」
瑞鶴「翔鶴姉……やったよ!」
瑞鶴「私達、助かったのッ!」ニコッ
瑞鶴「やったぁぁ!」ピョンッ
敵機動部隊の完全な撤退を確認した二人は、その場で胸を撫で歓喜しています。
そして……安堵の後、瑞鶴はレイテの大空を舞うゼロを見上げました。
目を凝らすと……その落ち葉にまみれたゼロはどうやって飛んでいるのか?
それすらも分からないほど、全体を大きく損傷していました。
茶色く染まった風防と主翼にはいくつもの穴が開き、塗装の剥げたボディからはジュラルミンの素地をのぞかせています。
ただ唯一残った垂直尾翼の塗装が……赤字で書かれた「653-208」という数字が、
そのゼロがかつて、帝国海軍航空母艦「瑞鶴」の艦載機であったことを示していました。
翔鶴「……あれは……いったい……」
瑞鶴「……翔鶴姉」
瑞鶴「あれが本当の……“レイテの怪鳥”だったんだよ」
青空に二筋の白い軌跡を残しつつ、ゼロは彼女達の頭上をグルグルと回って、自分達の勝利を鼓舞していました。
……そしてやがて、それは燦々と照りつける陽の光をその身に浴びて、遥か大空の彼方へと飛び去って行ったのです。
瑞鶴「……ねぇ」
瑞鶴「どこへ行くの……?」
瑞鶴「それで……よかったの?」
瑞鶴「……ううん、こうするしかなかったんだよね」
瑞鶴「あなたが結局、生きている一人の人だったのか」
瑞鶴「それとも……幽霊だったのか、私には分からなかった」
瑞鶴「……でもね、ふたつだけ……確かなことがあるよ」
瑞鶴「あなたは今度こそ、“瑞鶴”を守ることができたの……」
瑞鶴「そして、“私”を守ってくれたのよ」
瑞鶴「ありが……とうね……」ポロ…ポロ…
瑞鶴「さようなら……おじいちゃん……!」ポロ…ポロ…
瑞鶴と翔鶴。
二人の姉妹はこの後……やがて多くの戦場を駆けつつも、無事に終戦を迎えることとなります。
その際、瑞鶴は常に……あの“千本針”を手放さなかったといいます。
終わり
このお話は、これで以上になります。
幸運だ幸運だと言われてる瑞鶴も、最期は囮部隊としての最期だったそうですね。
それは、とても無念なことだったと思います。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
乙です
あのじいさんは瑞鶴の心の中でいつまでも生き続けるんだろうな
乙
絵本っぽい語りが良かった
>>48
自 分 を 抱 く
瑞鶴が「ずいかくねぇ」と呼んでいますが、これもミスです……すみません
乙
いい話だぁ…ってしんみりしてたのにずいかくねぇに今気づいてワロタ
安心し過ぎて幼児退行的なのになったのかと思ったわ
乙
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