西住みほ「堕ちていくほど、美しい」 (633)

喪うことの多い生涯を送ってきました。

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子供の頃はまだ憧れだった偉大な姉も、歳がゆけば西住の名を背負う存在となり(それは仕方のないことですけれど)、母が私にもそうあれと望み、周りの者に比べられるようになってからは、お化けのような恐ろしい存在になってしまいました。

隊長の妹。西住流の娘。

名ばかりの七光りとはならぬようにと努力するうちに、愛してやまぬはずの戦車は鉄の檻のように感じられるようになり、私は不安に陥ってしまいました。

私の一生を決定的なものにしたのは、2年前の全国大会の決勝での一件です。

崖道を走行中に、後輩の乗るIII号戦車が川に滑落し、水没したのです。

私は我知らず、己の居るフラッグ車から走り出してしまい、結果として我が校は敗れ、10連覇は喪われました。

さて私が行ったからにはその者たちは助かったのかと問われれば、残念ながら、と言うほかありません。

III号に乗っていた後輩はみな死にました。

「西住先輩、西住先輩、助けてください」

そう言って沈んでいった、後輩の顔を忘れたことはありません。

伸ばした手をつかんだのに。

当然私自身も無事とはいかず、しばらくの入院を余儀なくされました。

敗けたこと、III号の後輩がみな死んだことは、病床で逸見さんから聞いたことです。

逸見さんは怒っていました。

というより、後輩を喪った気持ちと、敗けた口惜しさと、私への怒りが綯い交ぜになってやりきれなかったのだと思います。

逸見さんはあの時、フラッグ車の砲手でしたから、落ちてゆくIII号がよく見えたのです。

後輩たちがどんな思いで落ちていったかも、きっとわかったはずです。

病室を去る前、逸見さんは、お前が殺したんだ、と言いました。

それについては、私は何とも申し上げることはできません。

私は病床で、病でもないのに臥せったまま、無為に退院までの日を過ごしました。

尋ねる人は不在でした。

ぼんやりと天井を眺めるまま、私も死んでいれば、と思いました。

何を食べる気にもなれず、点滴の世話になりました。

1週間程度で、私はすっかり痩せました。

そうして退院するころには、まるで餓鬼のようでした。

やがて退院の日が来ました。

迎える人も、不在でした。

もしかしたら、姉が迎えにきてはくれないかと期待もしたのですが、戦車で来られでもしたら卒倒していたでしょう。

私はひとりで、わずかな荷物を傍に抱えて家路につきました。

期待



家で私を待っていたのは、恥辱であり、面罵であり、地獄でした。


私が玄関先で何も言えないで、変にもじもじしているのを一瞥した母は、

「入りなさい」

と短く言いました。


暗がりを歩くようにおっかなびっくりと家に入る時は、とても敷居が高く感じられました。


眼前に座る母は、和室の戦車柄の襖も相まって閻魔様のように見えました。

その傍に座っている姉でさえ、まるで地獄の悪鬼悪霊と見まごうほど恐ろしく感じられるのです。

いつになく険しい顔で、一文字に結んだ口を開こうとはせず、私を睨んだままでいます。

「よくもおめおめと顔を出せたわね、この恥曝し」

おおかたそのようなことを言おうとしていたのか、はたまた私を労わる言葉をかけようとしてくれていたのかは、ついぞわからぬままになりそうです。

「何故フラッグ車を放って救助に行ったの」

「...え、っと」

「貴女が助けに行こうと行くまいと、どのみちあの子達は死んでいたわ」

「っ...ぁ」

「犠牲無くして勝利は得られないのです」

母が私の心臓に金槌を振り下ろしました。

私は眼の前が暗くなりました。

がくりと項垂れ、全身をわなわなと震わせることはできても、なお言葉は出ず、身体も動きません。

勝利のためならば、人死にさえ厭わないと言うのか。

それではまるで戦争ではないか。

できることなら、母の言葉を否定しとうございました。

できることなら、母の喉笛に飛びかかってやりたいところでした。

そうして何もかも葬り去ったのちに、火を以って西住家を灰にしてやろうとも思いました。

無論そんなことはできようはずもなく、唖のように黙り、瞽のように何も見ていない私を、姉が連れ出してくれました。



部屋で私は、ぼこられ熊を抱きしめて、固まっておりました。

声は出ず、ただ涙だけが頬を伝います。

姉は私を見下ろしているばかりです。

夢なら覚めてほしいと願いました。

しかしこれは天の道理が起こした運命なのだと気づかされ、私はどうしようもない虚無の思いを抱えざるを得ないのです。


お姉ちゃん、と声が漏れました。

痩せこけた心が絞り出した悲鳴でした。

待っていたのは、武士の情けでした。


「私はもう、お前の姉ではいられないよ」

あとのことは、もう覚えておりません。

気づけば、私は熊本の生家から、大洗に転がり込んでおりました。

戦車から逃げ出したのに、また戦車に追い込まれるとは、思いもよらない出来事でした。

今日はここまで。

またよろしくお願いします。

期待

いいぞ

闇深過ぎぃ!!
いつも台詞SSばかり読んでるせいか新鮮ですわ

今日は少しだけ、投下します。

*
手記を持つ手が震えていた。

私は頭がおかしくなりそうだった。


あの子が何を思っていたのかなど、私は知る由もなかった。

自分の言葉が、あの子にどんな意味を持ったのかもわかっていなかった。

その結果がこれだ。

笑い話にさえなるものか。

西住の名を継ぐ者。戦車道の体現者。

私はそうあろうと努めてきたし、それ以外の道を知らぬまま生きてきた。


あの子は、何を求めていたのだろう。

あの子は、救いを求めていたのだろう。


傍にあったウォトカを少し呷ると、私は震える手で次の頁をめくることにした。

素面では、正気を保てそうにない。

今日の分はこれだけで終わりです。

またよろしくお願いします。

ouch…

おちゅ

いいねぇこういうのは期待できる

投下します。

*

大洗はよい町でした。

大きくはないけれど、素朴な人々が美しい町でした。

何よりも友人がいました。


沙織さんがいて、華さんがいて、優花里さん、麻子さんがいました。

教室で、誰と話すこともなく、席にいて、ペンを落とし、消しゴムを落とし、拾おうとして机に頭を打つ醜態をさらしていた時、声をかけてくれたのは沙織さんと華さんでした。

食卓を3人で囲むうちに、仲良くなりました。

その後のことでした。

「西住ちゃん?」


心臓がどきりと跳ね、命の危機を訴えます。

この時に私のところにきた3人は、生徒会の役員の方だとあとで聞きました。


「は、はい」

「大洗にようこそ。戦車道とってね~」

3人は去って行きました。

石のように固まった私を、二人が心配してくれました。


「みほさん、大丈夫ですか」

「大丈夫...大丈夫だから」

「顔色悪いよ?保健室行こっか?」

「いいんです、いいんです」


「...何かあったのですか?」

華さんの問いで、私は答えに窮しました。

そして同時に、ようやくできた友らしい友を喪いはしないかと畏れました。


「大丈夫だよ。なにか不安なら、言って」

沙織さんは強いひとでした。

戦車道という規範など無くても、沙織さんのような女性ならばきっと良妻賢母となるでしょう。

私は意を決して、経緯を告白したのです。


戦車道の試合中に、後輩のⅢ号が川に落ちたこと。

助けようとフラッグ車を放り出して、その結果黒森峰は敗れたこと。

そしてⅢ号に乗っていた後輩は死に、私も重体になったこと。

そうした責任や戦車道を棄てて逃げてきたこと。

全てを話し終えると、二人は深刻そうな顔をしましたが、すぐに一周回って何も感じていないような顔になりました。

今度は友人を喪った。そう思いました。


ところが背を向けて去ろうとすると、二人は私を引き止めるのです。


幸せなことに、二人は私を案じてくれました。

行かずともよい、と言ってくれました。

もし生徒会が何か言ってきたら、直談判してあげるとまで言ってくれました。

二人のおかげで、かりそめとはいえ安心が得られました。

悪夢はそこから始まりました。

今日の分はこれで終わりです。

休みがもう無いので、投下ペースが遅くなります。

おつおつ

何故だろう、もしBADENDになったとしても最後まで見たいと思ってしまう…

それでもゼクシィなら、ゼクシィならなんとかしてくれる!

悪い方向に開き直った人間程怖いものはないぞ

冒頭が太宰治のアレだしBADになりそう……でも楽しみ

大洗側でもひどい目にあうのか?だとしたら悲しいな

投下します

*

ウォトカの瓶が転がっている。

一つや二つではない。

吐き気を催すほど、身を抉られるほど、読むのが辛い。

私がここにいること、今生きていることさえもが、あの子を苦しめていたように思える。

頭を抱えてうずくまっていると、声がした。

「大丈夫ですか、しほさん」

振り返ると菊代さんであった。

大丈夫です、と短く答えてから、手記に向き直った。

目を背けるわけにはいかない。

それは許されない。

*
その日の放課後に、生徒はみな体育館に集まるようにと放送がありました。

行ってみれば何のことはなく、戦車道のプロパガンダ映画の上映でした。

乙女の嗜み。良妻賢母となる為に進むべき道。


規範。

熱狂する女生徒たちは、それが人を死に至らしめうるものであることを忘れているようでした。


戦車とはもとより、戦争のための兵器です。二度の世界大戦でも用いられ、今日では武道です。

人を殺すための道具であるにも関わらず。

いかに特殊カーボンに護られていようと、防げるのは砲弾と銃弾に過ぎません。

それすら不安な時だってあるのですから。

きたきた


昨年の全国大会で命を落とした赤星さんたち後輩のことは、無かったことにされたのです。

sage忘れすまん

私にとって何より辛かったのは、私の味方になってくれた沙織さんも華さんも他の女生徒たちと同様に、生徒会が煽った熱狂にあてられていることでした。

願わくば、少なくとも二人には戦車道などという恐ろしいものには触れもせずに生きていて欲しいと思っていたのです。


私は既に、戦車道で近しい人を喪っていたからです。

少なめですが、今日はこれで終わりです。

書き溜めが少なくなってきたので、次はもうしばらくかかりそうです。

おつ
これはまたみぽりん誰か失いそうで怖いのう

というよりしほさんが手記を読んでる時点でみぽりんの先行きが・・・

みぽりんなき世で成長したまぽりんが手記を読んでるもんだと思ってたから、まだ希望はある

今日も投下します。

翌日のことです。

蛇が蛙を睨むように、私は履修登録用紙に睨まれていました。

戦車道という単語さえ、私を窒息させるに足るのです。

死体のように固まっている私を見かねてか、二人は心配そうに私の顔を覗き込んでいます。


逃げることは容易いのでした。

けれども、一人でその道を行く勇気は無いのでした。

沙織さんは、わかった、と一言言って、幸せにも私に合わせてくれました。

私は胸のつかえが取れたようでした。


これで少なくとも、やっとできた友人を、また戦車で喪うことはないと思えたからです。

翌日の昼、校内放送がありました。

『西住みほ、生徒会室に出頭せよ』

私は震え上がりました。

死の宣告をされた気分でした。

取り落とした箸が情けなく転がって行き、体はどうしようもなく強張っています。

私の顔はきっと青ざめていたでしょう。

初期のみぽりんはマジで不憫だったなぁ


幸いなことに、二人が寄り添ってくれました。

そのおかげで、なんとか生徒会室にはたどり着けました。


鉄塊の様な扉を開けると、生徒会の方が揃い踏みでした。

案の定、何故戦車道を選択しないのかと詰問されました。


「私、戦車道が嫌で、この学校に...」

「取ってくれなきゃ困るんだよねぇ」


駄々をこねる子供を見るような調子で、私を横目に見ながらそう言うのです。

その傍らでは、広報の河嶋さんがこれはどういう事だと履修登録用紙を突き出していて、また副会長の小山さんが我が校はお終いですと嘆き悲しんでいました。

みほが戦車道を取らねばならぬ道理などない、生徒の規範たる生徒会が道理を捻じ曲げようというのか、と沙織さんと華さんは臆することなく声をあげてくれました。

けれども、二人はそれほど戦車道に抵抗を示しているわけではないのでした。


何故生徒会が私にそこまでこだわるのかはのちにわかるのですが、この時はまだそんなことおくびにも出ず、私は混乱し怯えるばかりでした。

事情もわからず渦中に放り込まれるほど、心にのしかかるものはありません。


本当はどこかで戦車道をやりたいと思っているであろう二人に申し訳なくなり、私は我知らず、やります、と口走っていました。

これが良いことだったのかは、未だに答えを出せずにいます。

そして図らずも、追い込まれていることに気づかずに、逃げ出したはずの戦車に自ら足を踏み入れていたのです。

今思えば、なんと愚かだったことか。


*
夜が明けていた。

暗い家の中に、青白い光が浮かび上がっている。

足取りはおぼつかないけれど、顔を洗うことにした。


顔を上げて鏡を見た。

写っていたのは、まるで死者だった。

みほの苦しみは、どれほどのものだっただろう。

私が最後に見たあの子の姿は、どんなだっただろう。

振り向いて、家の中を見回してみても、記憶は浮かんでこないのだ。

あの子はどんな風に笑う子だったか。

考えてみれば、まほの笑った顔も覚えていない。

私さえ、笑った記憶がない。

私は、みほのことも、まほのことも、何も知らなかったのだ。

娘としてでなく、西住流の後継者としてしか見ていなかった。


今更悔やんでも、悔やみきれない。

今日はこれで終わりです。


滅茶苦茶怖いけど続きが読みたくなる…
バットエンドで終わってもいいかも

ここからハッピーエンドとかどう考えても思いつかないぞ…。
どんなエンドでもいいから思いのままに書いて欲しいです

よく見たら>>1の名前も太宰の本名なのな

ええぞ

しほさんの独白が混じるって事は、
最後がかなりやばそうだ

投下します

*
私が戦車道を取るとなってからは早いものでした。

総勢22名が集められ、目の当たりにしたのはガラクタの様なⅣ号戦車1輌でした。

経験者ではない私以外も、これだけかと疑問を口にしています。


「書類上はまだ残っているはずだ。捜せ」


河嶋さんはそう言い、会長は愉快そうに笑っているだけでした。小山さんは力なく首を振っています。

大洗の戦車道は、戦車の調達から幕を開けたのです。


けれども、まずⅣ号の装甲に触れてみれば、まだまだ活きの良いもので、整備さえすれば戦闘は可能な車輛でした。

単砲身の威力は些か心許ないですし、錆など長い間放置されていたらしき傷が心配でしたが、自動車部の皆さんが一晩で修復してくださいました。


しかし、1輌では試合など夢想に過ぎません。


皆さんの懸命な捜索活動により、Ⅲ号突撃砲、八九式中戦車、38t、M3リーを発見することができました。

沼に沈められていたものもあったり、森に棄てられていたようなものもありましたが、一人一人の協力と自動車部の皆さんの尽力でどうにか全ての戦車が完璧に修復されたのです。

また捜索の傍ら、友人であり、戦車の専門家でもある優花里さんに巡り会えました。

戦車道の経験はないとのことでしたが、経験不足を補って余りある知識と洞察力は、経験者のほぼいない大洗にとっては願ってもないアドヴァイザーでした。


何より、数少ない私の友人でした。


それから、遅れて登校した日に、綿毛のようにふらついていた女生徒に出会いました。

それが麻子さんでした。


あまりにふらふらしているので、肩を貸したことを覚えています。

聞けば、低血圧ゆえに遅刻ばかりしているとのことです。風紀委員長の園さんが憤慨なさっていました。


何日か後、陸自の教官を招いて指導を請うと聞きました。


その日、輸送機から落下傘で投下された10式は、学園長の車を破壊してから私たちに向かってきました。

44トンの重量は軽量な部類といえど、車を潰すには充分です。


しかしそんなことは皆、意に介さない様子でした。

中から現れた女性は蝶野さんと言いました。

私が西住の娘であることに気づかなかったのか、はたまた気づかないふりをしてくれていたのかは定かではありませんけれど、私に注目しないでいてくれたのは僥倖でした。

しかし、その後の経験はあの時以来の恐ろしいものでした。


基礎訓練もままならぬのに、教官はいきなり実戦を指示したのです。

危険ですと言っても、大丈夫だと言って聞かぬのです。

愉快そうに、会長は笑っています。

そうして、なし崩し的に模擬戦が始まったのです。


戦車に乗ったこともない素人をいきなり戦車に乗せて戦わせるということは、子供に銃を持たせるほど危険なことなのに。


問題なのはそれだけではありません。

私は戦車に乗ると、動悸と頭痛に悩まされるようになっていたのです。

とはいえ、この時はまだそれほど深刻ではありませんでしたから、なんとか堪えておりました。

車長は沙織さん、操縦手は華さん、砲手は優花里さん、装填手は私。

ひとまず通信手は置かずに模擬戦が始まりました。個人の殲滅戦です。

試合開始から10分も経たぬうちに、こちらに八九式の砲撃が浴びせられました。

車長の沙織さんは、先ほどまではまだ元気でしたけれど、今や半狂乱で、もうやだと泣き叫んでいます。

操縦手の華さんは、無理もありませんが初めての操縦にまごついています。

砲手の優花里さんは、沙織さんとは反対に初めての戦車に高揚していました(一種のcombat highでしょうか)。

私は砲塔脇のハッチから周囲を観察しつつ、冷静さを欠いた沙織さんを励まして指示を出しました。


その時、演習場だというのに草っ原で昼寝している麻子さんがいたのですから、全く肝の冷える思いがしました。

戦車の外は危険極まりないので、私たちは麻子さんを車内に収容して向こう岸に向かうため、吊橋を渡ろうとしました。


不覚にも、そのすぐそこにはⅢ突がいたのです。

砲撃を受けましたがまだ撃破はされておらず、それなのにⅣ号は動きを止めたのでした。

目をやれば、華さんがぐったりと横たわっていて、失神したのだと直ぐに合点がいきました。

Ⅳ号の直下は川が流れており、このまま砲撃を浴びていては落ちてしまいます。

私はどうなっても構いませんが、この人たちをここに沈めてはならない。

そう思った私が操縦手を替わるために華さんを通信手席に座らせていると、俄かにⅣ号が命を取り戻しました。

覚醒した麻子さんが説明書を片手に、まるで手足のようにⅣ号を乗りこなしています。


「西住さんには借りがある。ここは任せてくれ」

これなら、と感ぜられました。

麻子さんは手早く吊り橋を渡りきると、草陰に車体を潜めました。


「優花里さん、あのⅢ突を破ってください」

「はい」

優花里さんは先ほどの興奮が嘘のように落ち着いていました。

冷静に、教えてもいないシュトルヒ計算を淡々とこなし、一撃でⅢ突を撃破したのです。


味方である私さえ恐れを抱くほどに、鮮やかな砲撃でした。

背後で橋を渡り終えた八九式も、すぐに撃破してくれました。

近くにいたM3リーは泥糠に嵌ってエンジンが燃えてしまったらしく、また残る38tも優花里さんが撃破して、この危なげない模擬戦は幕を閉じました。

蝶野さんが試合終了を告げ、毒にも薬にもならないお言葉でもって演習は終わりになりました。

現状はこれで充分だということになり、河嶋さんの一本締めで解散になりました。

練習試合の話も早く、来週の寄港時にはSaint. Glorianaとの練習試合があると聞かされ、暗澹たる思いになったものです。

それでも、私は年端もいかぬ頃から戦車に乗ってきましたから、持ち合わせている情報と西住流仕込みの経験で戦力の差を埋めることを必死に考えました。

採用されたのは河嶋さんの作戦でしたが、あの校にはそれほど有効な作戦とは言えぬものでした。


待ち伏せはあらゆる戦いにおいて基本中の基本ですし、真っ先に警戒すべき点の一つです。

流派はどうあれ、その程度の作戦ならば容易く撃ち破る力を持ち合わせた高校が、Saint. Glorianaという強豪なのです。


その上当時の私たちには、作戦を完遂するだけの戦車も練度もありませんでした。

私は脅されるようにして引き込まれた身であるし、若輩者の部類に入ると頭ではわかっていましたけれども、口を出さずにはいられませんでした。


案の定と言うべきか、結果は河嶋さんを激昂させただけでした。


「黙れ。私に文句があるならお前が隊長をやれ」

言い分としては尤もです。

未経験者ばかりの中で、河嶋さんは年長者として、隊を率いていかなければならない重圧もあったのでしょうが、私には青天の霹靂みたいな大声でした。

会長が河嶋さんを宥め、ひとまずその場は取り持たれました。

今日はこれで終わりです。


まだ平和で安心

頭痛と動悸がレベルアップしていきそうでこわいこわい

原作以上のトラウマがあるからなここのみぽりんは…。

大洗からの台詞とか展開はほぼ本編通りなのに
感じるプレッシャーが桁違いなのが凄く怖い


報告書みたいに淡々としてるのが余計に怖い

某マジノの隊長みたいにゲロ吐いてそう

少しだけ投下します。

試合の日、大洗の港にはSaint. Glorianaの学園艦がそびえ立っていました。

私は、マチルダⅡやチャーチルが列を成して大洗の町へと下って行くのを眺めながら、なんとなく胃の痛い思いにふけっていました。


やはり戦車の中に入ると、あの時の光景が脳裏に浮かぶのです。

ひどい時には何もしていなくても助けを求める声が聞こえるほどでした。


そして私は、一人で誰にも見られない部屋に篭り、会長に頂いたセルシンを腕に注射しました。

今になってから思いますけれど、これは明瞭な選択の誤りでした。

戦場に赴くのにクスリが必要だなんて、まるでゲリラか少年兵です。

それでも、クスリのおかげかなんとか平静は保てました。


それが我が身を蝕んでゆくとも知らずに。

今日はこれで終わりです。

この書き方からするに、みほがこの手記を書いたのは全てのコトが片付いてからなのかな…?

なんにせよ期待

(アカン)



セルシンってたしかに精神安定剤だな
でも副作用とか中毒性がやばい…

物忘れもあるはず

さらっと薬物を注射する描写が出てきてゾクッとした
この時点でかなり重症なのね西住殿

怖い

ふじきりおを思い起こさせる

というか、何で会長がセルシンなんて持っていて、それをみほに渡したのか謎

そら会長だもの

投下します。

練習試合の日の何日か前のことです。

日増しに悪くなっていく動悸と頭痛は耐えかねるものになってしまいました。

顔色が悪い、と指摘されることさえも頭痛の種になるようです。

幻聴があった時には、もう限界だと思いました。

もう駄目です、と会長に言いました。


会長は、いい医者がいる、とだけ答えられました。


この時になってようやく、この人は、私がどのような経緯でここに来たのかをわかった上で、私がこうなることをわかった上で、私に戦車道を強いたのだと悟ったのです。

私はもう既に、怒ることも出来ぬほど疲弊していました。

次の日、会長に手渡されたのは、幾つかの使い捨ての注射器とセルシンのアンプルでした。

覚醒剤やなんかとは違って簡単にできるし合法だから、辛い時に使いなよと言われました。

その言葉は、偽りではないようでした。

さて試合会場に行ってみると、大洗の戦車隊は仰天の有様でした。

38tは黄金色に、M3リーは桃色、Ⅲ突は派手な色に車高の低さを打ち消すような4本の幟。

八九式に至っては、バレー部復活を願う語句がアカのデモ隊みたいな書体で車体に書き込んでありました。

絶句する私をよそに、皆誇らしげでした。

これでは擬態効果など微塵も望めませんが、考えてみれば迷彩云々は教えた覚えもありません。

ですから、もう何も言わぬことにしました。

今日はこれで終わりです。


やはり会長がモノホンの悪役になっちまったか

pixivにもあったな。このネタ

これ世間に晒されたら会長やばいっすな

会長はどんな手段を用いてでも、学園巻を救うといふ立場に酔ってるんだよ
大事があって、初めて自分のやらかしたことに気づき、恐れおのの組みたいな。

当事者達は「まさかこんな事になるとは」と思っても
傍から見れば「起こるべくして起こった」と分かる事柄

>>211
kwsk

河嶋「会長はそれなりに取り繕ってらっしゃるけどな、戦車道選択したくらいでケジメつけたと思ったら大間違いだよ!」

>>215
これじゃね?
【ガルパン漫画】あれから【その①】 | ふじ・きりお #pixiv http://www.pixiv.net/member_illust.php?illust_id=55017977&mode=medium

投下します。

蝶野さんの号令で、試合開始が告げられました。

めいめいが戦車に乗り込み、大洗の、他校とは初の実戦が幕を開けました。

幸いにもあちらのご厚意で、こちらよりも少し多い程度の編成で試合をしてくださるとのことでした。


私たちの現在位置を知る良い機会ですから、無駄にしてはなりません。

最初の模擬戦とは編成を変え、砲手を華さん、装填手を優花里さん、通信手を沙織さん、そして沙織さんの説得で加わってくれた麻子さんを操縦手、車長が私になりました。

先に指定位置でⅣ号以外を待ち伏させ、私たちは偵察に出ました。

河嶋さんの作戦通りに待ち伏せを成功させるには、まず大洗の戦車では火力に、次に機動力に劣ります。

ですから、そこを腕と頭で補わねばなりませんでした(この時点ではそうする間もありませんでしたが)。


見下ろした崖からチャーチル、マチルダⅡを確認し、おびき寄せるために一発、撃てと指示をしました。

ぎこちなくはありますが、華さんは着実に一角の砲手に大成しつつあるようでした。

当てられませんでしたと申し訳なさそうにしていましたが、どのみちあの距離と単砲身では当たったところで擦り傷になるかならないかですから、気にしないように言ってから離脱しました。


沙織さんが無線で砲撃準備を指示し、敵戦車をキルゾーンへ誘導したと思ったら、次の瞬間には味方から砲撃されていました。

Ⅳ号に当たった訳ではありませんでしたが、味方に撃たれるのはぞっとしないものです(最初に私たちに撃ったのは生徒会の38tでしたから、嫌われているのだろうかとも思いましたが、今までの射撃訓練を思い返してみれば理由は察しがつきました)。

そしてやはりSaint.Gloriana相手に待ち伏せは通じず、彼女たちは私たちの攻撃を意に介さないかのようにこちらを包囲し始めました。


マチルダⅡとチャーチルの猛攻に恐れをなしたのか、M3リーの一年生たちは戦車から飛び出して行きました。

キューポラから見えたその背中に向かって、外に出てはだめですと叫びましたが、既に遅く、あの子たちは逃げて行ってしまいました。


カーボンで守られているのは車内だけですから、外に生身を晒せば何があるかわかったものではありません。

逃げた生徒のすぐ近くに着弾したときにはもう、クスリを打っていなければ卒倒していたでしょう。幸いにも、みな無事ではいてくれましたけれど。

無人となったM3リーは撃破されました。

今日はこれで終わりです。

どんどん見るのが怖くなっていく…乙

決勝まで持つのかこれ
みぽりん頭真っ白通り越して禿げちまうよ…

みほ「もう、さようなら、サンタマリア」からの『おや、[一字不明]、川へ入っちゃいけないったら』エンドだったら泣く

>>4で出てるのが2年前の話で、それが黒森峰時代だから、今このみぽりんは3年生って事で、きっと生きてる…生きてるんだ…多分きっと

>>235
その作品だと、みぽりんは解放されるエンドじゃない?
むしろ会長が「くしゃくしゃに潰れ」るオチではないだろうか

投下します。

そうこうしているうちに、38tは履帯が外れたらしく、窪地に嵌っていました。

浅い窪地なら履帯さえ直せば這い出すことはできますし、市街地まで退いてから遭遇戦に持ち込む以外に取るべき道はありません。

五体満足なⅢ突と八九式を従え、私たちは大洗の町へと下りました。

マリンタワーを右に、学園艦前を通過しつつ、遭遇戦の指示を出しました。

私以外はみな多かれ少なかれ大洗ないし茨城県の出身ですから、私よりも土地勘があります。

Ⅲ突のエルヴィンさんと八九式の磯辺さんの頼もしい返答を聞いてから、私たちも市内へと身を潜めました。

しばらく後に、それぞれから1輌撃破という話を聞いたときには胸が躍ったものです。


けれども、その直後に被撃破報告を聞いたときには、背筋の凍る思いでした。

残っているのは私たちだけです、と優花里さんが溢しました。


そこに、こちらへ向かってくるマチルダⅡとチャーチルが見えたのです。

急いでください、と言い切らぬうちに麻子さんはわかっていたようにⅣ号を急加速させました。

それなりに足も速く、練度の高いSaint. Gloriana戦車隊の追撃をⅣ号で振り切る麻子さんは、到底戦車に乗って日の浅い者の動きではなく、熟練の手練です。

しかし、折り悪く中断した工事現場に追い込まれてしまいました。

前に降りた時には無かったんだ、と麻子さんが舌打ちし、背後には敵戦車が揃い踏みです。

報告よりも1輌多いように見えましたが、よく見れば1輌は燃料タンクが破損しているのみです。


ふと、チャーチルから金髪の女性が姿を現しました。

こんな格言を知っているかと問うのです。


「英国人は恋と戦争では手段を選ばない」

これは恋でも戦争でもない、と叫びたくなるような気持ちでした。

そこへ、生徒会の38tが間を割って到着したのです。


一発、砲撃が響きました。

砲弾は虚空を舞い、返答が4つ。

38tは虚しく敗れ去りました。

けれども、その機会を無駄にはせずに、私たちは脇道に逃げ込みました。

すれ違いざま、38tを陰にマチルダⅡを1輌撃破しました。

道の突き当たりから顔を出した他のマチルダⅡも2輌撃破し、残るは私たちとチャーチルだけになりました。

Ⅳ号でチャーチルを破るには、弱点を近距離から射抜かなければなりません。

皆さんを信頼し、チャーチルの側面に回り込むように指示を出しました。

刹那ののち、はたして白旗はⅣ号から上がったのです。

回収車に運ばれてくる戦車を眺めながら、私はなんだかよくわからない幸福感に包まれていました。

あれほど嫌だった戦車に乗った後で、なぜ幸せを感じるのでしょう。クスリのせいでしょうか。

ぼんやりしていると、Saint. Glorianaの方々がいらっしゃいました。

あのチャーチルに乗っていた方々で、隊長はダージリンさんと言いました(Saint. Glorianaの戦車道は幹部クラスの生徒のみ、紅茶の銘柄を名前として襲名するのだそうです。本名はのちに伺いましたが、ここには記しません)。

名前を聞かれ、私は焦燥に駆られました。

しかし誤魔化す訳にもいかず、名を名乗りました。

ダージリンさんは、合点がいったような顔で、お姉さんとは随分違うのね、とおっしゃいました。

楽しかった、と一言残し、Saint. Gloriana の皆さんは帰って行きました。

その後、沙織さんに連れられ、大洗の町を楽しんだ後は帰艦が出航のギリギリになってしまいました。

するとなにやら、一年生たちが勢ぞろいでした。

逃げ出したりして申し訳ない、と言うのです。

人に謝ることはあっても、謝られたことのなかった私は、ちょっと返答にまごつきましたけれど、無事でよかった、くらいのことは言えました。

そこに居合わせた会長からは、次から作戦は西住ちゃんに一任すると言われ、一つ、籠を手渡されました。

紅茶のティーセットと、ダージリンさんからのメッセージカードでした。


貴女のお姉さんよりも面白い試合だったわ、と書いてありました。

Saint. Glorianaは認めた相手にティーセットを贈るから、西住殿が認められたのです、と優花里さんは喜んでいるようでしたが、あまり頭に入っては来ませんでした。

そうして、大洗の初の実戦は幕を閉じました。

今日はこれで終わりです。


これ読むとき心臓ばくばくで胃がキリキリするのはおれだけだろうか

>>265
クスリ打てよ

展開が同じところはカットしてくれてもよい

乙!

さて、そろそろまほとエリカとの再会が近づいて来たな

投下します。

1週間後、全国大会予選の抽選会が行われました。

大洗の番号は8。縁起の良い数字ですが、巡り合わせは悪く、強豪の一角たるサンダース大附属高校が一回戦の相手になりました。

けれども、フラッグ戦であることと、試合毎の車輌数制限を鑑みれば勝つことが全くの不可能ではありません。

戦車喫茶の席で項垂れる皆さんを励ましていた時でした。


「...副隊長?」

振り向くと、逸見さんと姉でした。

私はもうお前の姉ではいられない。

お前が殺したんだ。

いつかの情景が眼前に浮かんでは消えました。

フォークを落としたことにも気づかずに、私は石のように固まっていたようです。

我に帰ると、私以外の皆さんと逸見さんが言い争っているようでした。

あの時の西住殿は間違っていませんでした、という優花里さんの言葉は心を撫でるようで、胸に刺さるようでもありました。

姉は、まだ戦車道を続けていたんだな、と短く言いました。


姉の顔には表情と呼べるものが浮かんでいませんでした。

私自身は何も言えないまま、二人は去って行きました。

けれども、去り際に、逸見さんがばつの悪そうな顔で言った言葉はまだ覚えています。


逸見さんは、あんなこと言って悪かった、と告げたのです。

ぼんやりした言いようのない不安に、少しだけ安心が見えました。

今日はこれで終わりです。


少しだけ救われてるけど、これが最後の救いにしか感じられない
あとまぽりんもこれやばそう

素直な逸見いいぞ

エリみほいいゾ~これ

とか言ってらんないぐらい不穏

この僅かなエリみほが救いになるのか

救いにならないからしぽぽんが今更ギギギしてんじゃないの?

今纏めて読んだが重苦しい雰囲気が最高だ

乙!続き気長に待つぜ

蛸壺屋の前日譚みたいな・・・

投下します。

大洗の戦車隊は、性能も国籍もバラバラでしたけれども、その違いを活かしたやり方でもって、どうにか三回戦までコマを進めることが出来ました。

一回戦は、サンダース大附属らしからぬ無線傍受の憂き目に遭いましたが、逆手にとってこちらの優位に持ち込みました(サンダース大附属の名誉の為に明らかにしておきますが、これは不幸な事故とも言うべきことです)。

そして最後は、華さんの一射で勝利を掴み取りました。

二回戦では、アンツィオ高校という、戦車道を再興させようとしていた、大洗と似た境遇の高校でした。

一見すると大洗のそれよりも貧弱な戦車群で、非常に上手な戦いをするので思わず感心したのを覚えています。


もし彼女たちの作戦が本当の意味で成功していれば、私達も危うかったことでしょう。

彼女たちには不幸でしたが、ほんの僅かな違和感があったからこそ、こちらの心理を突いた欺瞞作戦を破れたのだと思います。

サンダース大附属の隊長はケイさん、アンツィオ高校隊長はアンチョビさん(あの校はイタリア料理の名か食材の名を襲名する慣習があるようです)といい、どちらも人格者と言うべき方でした。

流派や名前ではなく、人として、戦車道を往く者として純粋に、私を評価してくださったからです。


そうした喜びとは裏腹に、クスリの量は緩やかに増えていきました。

三回戦の会場に向かうために学園艦が北上しているとき、会長から声がかかりました。

夕食のお誘いでした。

行ってみると、生徒会の皆さんが炬燵を囲んで鮟鱇鍋を煮ています。

何を問うても、皆さんは鍋を勧めるばかりでしたから、机を叩きそうになりました。


その刹那、会長の目には怯えの色が浮かんだのです。

その声の震えも、間違いではありません。

私が怒っていると勘違いをしているのでしょう。

借りが余りにも多いから。

私だけが、総てを台無しに出来るから。

ひとまず晩餐を共にし、あとで部屋でお話をしましょうね、と会長に言い残してから校舎を後にしました。


私の胸は、どす黒い劣情に満たされていました。

今日はこれで終わりです。


あぁ、クスリの影響で段々人格が

乙です


学園艦は残っても学園に通う生徒が誰もいなくなったとかになったら怖いな…

感情ではなく劣情ときたか・・・

会長がボコになるタイプのみほ杏の予感

投下します。

私の部屋の中で、会長は悪事が暴露た子供のように震えていました。

可愛らしい猫が可愛らしさ故に石を投げられるように、私は嗜虐的な愛おしさを会長に見出していました。

私に何か隠してることありませんか、と言ったら、びくりと身体を震わせていました。


クスリの作用か気が大きくなっていた私は、ぞくりと沸き立つ悍ましい慾望を、会長に向けたのです。

ベッドの上に彼女を押し倒すと、私は唇を奪いました。

両腕を捻り上げて、痛いと喚く彼女を押さえつけてから、私は右腕を眼前に突きつけました。

無数の注射痕を前に、彼女は益々震え上がり、さながら天敵に追い込まれた小動物のようでした。

会長のおかげで、もう戦車に乗るの、怖くないんですよ、と微笑んでも、ひっと身体を強張らせるばかりです。

興が削がれるような気がしたので、手近にあったタオルで彼女の身体を縛ってから、私はこう囁きました。


言ってくれないと、酷いことしちゃいますよ、と。


そしてついに、彼女は告白したのです。

一度でも敗ければ大洗は廃校になることを。

まだありますよね、と言ったら、好き、とも言いました。

それから、彼女は啜り泣き始めました。

私は、この人が堪らなく愛おしくなって、なにか慰めの言葉を吐いてから、この角谷杏というひとを嬲り、犯し、穢してしまいました。


行為の後、人形のようにぐったりした彼女を抱きかかえて浴室に行くときに、鏡に写った私の姿が見えました。


堕ちた雌犬の、醜い有様がそこにありました。

けれども、décadent調の一種の美しさも見出され、私の心は揺らぎました。

戦車道という規範から見れば、私は忌むべきものであり、人間ですらないのだろうと思います。


しかしどうやら、人は堕ちていくほど美しいようなのです。

クスリが見せた幻覚なのか、あるいは単なる夢だったのかはわかりませんけれど、それは思い込みというよりは悟りにも似た境地でした。


その夜、私は会長を、これまでぬいぐるみにそうしてきたように抱き締めて眠りました。

酷いことをしてすみません、と謝ると、会長は何も言わずに抱きしめる力を強めました。

こっちこそ、西住ちゃんの優しさに付け込んだりして、悪かったよと言う様子は、普段の飄々さからは想像もつかないしおらしさでした。

そして私は、ようやく根を下ろせると思えたこの学び舎を喪わないためにも、より真摯に戦いへと身を投じなければと思ったのです。

追い込まれたはずの戦車道で、いつしか私は自ら退路を断ち、自発的に戦車へと足を向けるようになっていました。


それから私は、クスリを絶ちました。

今日はこれで終わりです。


>>1に「for elise ~エリーゼのために~」というハートフルでらぶらぶなエロゲーをオススメしたい

クスリはやめられたのか!
しかし今後どうなっていくやら…乙乙

乙です


もしも人間失格のようになるのだとしたら、今後が怖すぎる

闇…いや病みの杏みほじゃないですかーやだもー
もっとお願いします

クスリ断ちは良い
しかし禁断症状が怖い

投下します。

三回戦は、赤星さん達を喪った時以来のPravda校戦でした。

屈強なソヴィエト戦車で知られるPravdaですが、大洗とて修羅場はくぐっています。

Ⅳ号を旧部棟で発見された長砲身に換装し、さらに山中で発見されたルノーB1bisと風紀委員の方3名が戦列に加わり、多少の戦力も増強することができました。

一度退いてからの戦いを得意とする彼女らに対しては、慎重さを以って臨むことが必要です。

しかし二回戦までの快進撃とも呼ぶべき戦果に自らの位置を見誤っていた皆さんは、一気に押し切ることを望みました。

上がりきっていた士気を下げることもあるまいと思い、短期決戦に舵を切ることになりました。


後になってからそれが仇となるのですが、この時はまだそんなことは思いもよらないのでした。


試合開始の前、Pravdaの隊長であるカチューシャさんと副隊長のノンナさんにお会いし、挨拶を交わしました。

地吹雪の異名に恥じぬ不遜な人だと思う方でしたが、実際には紳士的な(女性にこの表現が適当かは存じませんけれど)方でした。


カチューシャさんは去り際、あんな勝ち方は望んでいなかった、本当に済まなかった、と申し訳無さそうに言いました。

今度は正々堂々、道に恥じぬ戦いをすると誓う、と言いました。

私は、はい、とだけ言って、戻りました。

今日はこれで終わりです。

カチュたんは黒校の西住何某よりマトモなのかな?

故意じゃ無いとはいえ人殺しの片棒担いだようなもんだからな
フラッグ車撃破した=あの場にいた事になるし

みほと同じくトラウマになっても不思議じゃない

お前が殺したんだという非難はみほに対しては言い掛かりもいいとこだが、カチューシャに対してはある程度の説得力があるからな
トラウマ度合いはカチューシャの方が上でもおかしくない

カチューシャずいぶんおとなしいと思ったらそーいや死人でてるのか
こっちも薬やってるのかな そりゃ成長とまるわ

よし、カチューシャのトラウマ攻めて勝とう

支援

更なる期待

強い負の感情の魅力ってすごい

sageミス

続き楽しみにしてます

事情を知らないとはいえ、PTSDを患った元兵士をまた軍隊に入隊させようとしたり再び戦争で戦わせるような行為を知らず知らずにやる生徒会長
ほかで例えるならPTSDや他の精神病に罹患してる人にメンタルが弱いからそんな病気になるんだと無理解なことをいうようなもの

もう少し1レスの内容を多くしてくれませんかねぇ……
今の10レス分を一つに纏めても余裕だろうに

>>141

このバカを自衛隊から放り出せ

>>363

と思ったら申し訳なく思うのね

なんだこのキチガイ

生徒会長は大筋の内容を知ってると思うぞ
じゃなきゃみほが大洗に来る理由が無いし都合よく薬物なんて用意できんしみほに償いとして身体をさしださんだろ

投下します

試合開始が告げられ、静謐な白い大地にエンジンの音が響きました。

皆概ね戦車に慣れ、雪原であってもよく走れていましたが、三回戦が初参加かつ初の実戦である風紀委員の方々(鴨チームと呼んでいました)は、雪の坂道を上がりづらそうにしていました。

ですが、麻子さんの手ほどきを経てからは見違えるようでした。

しばらく進むと、敵戦車が3輌のみ、こちらに背を向けて鎮座していました。

これ幸い、とは思わず、最初に浮かんだのは違和感でした。

敵もすぐにこちらに気づいたようで、砲撃が始まりました。


長砲身の優位を活かすならば今だ、と思い、砲撃用意に移らせ、河馬チームのⅢ突と鮟鱇のⅣ号でそのうちの2輌を撃破しました。

けれども、これほど容易く撃破されるのは、精強なPravdaらしからぬことです。

その戦果は、どうやら皆さんを浮つかせたようでした。

残された1輌を追うと、フラッグ車を含む6輌ほどが確認されました。

めいめいが砲撃と全身を小刻みに繰り返す中、私の中の違和感は強みを増していました。

心理的に、二兎を得た者は三兎を得ようとさらに追おうとするものです。

敵は明らかに指向性のある動きをしています。

廃村に差し掛かり、背後に迫るT-34に気づいた時、違和感は確信に変わりました。


しかし、些か手遅れのようでした。

撤退が可能なルートは既に抑えられていました。

周りはすべて敵だったのです。

唯一見えた、南西の廃教会へと逃げるよう指示し、これまでで最も早い速度で私たちは撤退を強いられました。

追い込まれたまま闘ったところで蹂躙されるだけですし、籠城以外に取るべき道はありません。

入り口付近で転輪ごと履帯を破壊されたⅢ突をⅣ号で押し込んだところで、砲撃の雨はひとまず止んだようでした。

10分も経たぬうちに、白旗を持った伝令が2名やってきました。

曰く、"勝負は決した。これ以上無駄な争いは無用。降伏せよ"とのことでした。

三時間、返答を待つ、と言い、彼女たちは帰って行きました。


これが、道に恥じぬ闘いか。

激昂こそしませんでしたが、冒涜されているような心地が拭いきれず、我知らず、Ⅳ号の車体を殴りつけて皆さんを怯えさせてしまいました。

カチューシャさんは、あの一件を畏れ、臆病になりすぎているが故にこのような手を使ったのです。

力を見せつけて、抵抗の意思を挫くことは、平和的な手段としては最良の部類に入るでしょう。

しかし、これは戦争ではありません。

生きているかぎり、闘い抜かねばならない戦車道なのです。

己の道に背き、自ら負けを認めさせようなどというやり方など言語道断です。

敗ければ廃校になるなどということは、感情の昂るあまり頭から抜け落ちてしまっていました。

よく見ると、皆さんが心配そうな顔で私を覗き込んでいます。

華さんが何度も私の名を呼んでいたことさえも、気づいていなかったのです。

外は零下の寒さですが、私は地獄の火よりも熱くなりすぎていたようです。

クスリの後遺症か少し荒ぶる性格になってるなみぽりん

普段は傲岸不遜な河嶋さんでさえ、鼠のように固まっています。

なぜこんな目に遭わなければならぬのだ、と目が訴えていました(考えてみると、廃校の事実は私と生徒会の方々以外は知らないようでしたから、そのことでかなり苦労なさったのでしょう。初めて会ってからの態度にも納得がいきました)。

降伏などするものですか、と絞り出した声は、皆さんをさらに戦慄させたように見えました。

今日はこれで終わりです。


軍神が覚醒してきた

こわい

乙です

だから内容が2レスで済む量だって
レス数稼ぎたいんか

>>388
区切り方も演出の内ですよ
完結まで黙っておられるが良いでしょう

乙乙

この区切り方いいと思うけどなあ…

詰めれば詰めたで読みづらいだの何だのと文句しか言わない読者様(笑)は黙ってろよ

誰に見せるでもないみほの個人的な手記だと思いながら読んでるとこの区切り方もそれっぽい

>>388
自分の思い通りになると思うのが許されるのは幼稚園児までだよ

ひどいことゆーな。


ゆっくりでいーよー

楽しみに待ってる

楽しみに待ってる

面白い

追いついた

投下します

気づけば、吹雪の音だけが聞こえているようでした。

皆立ち尽くしているか、膝から崩れ落ちているかです。

これでは打開など望むべくもありません。なにか具体的な策を取らなくては。

このスターリングラード染みた包囲と、カチューシャさんのとった方法を考えれば、大方包囲網のどこか一箇所には薄い部分があるのでしょう。


しかし、元来力押しを是とする彼女ならばそこに私たちを誘い込むのが狙いに違いありません。

すぐに動くには情報があまりにも不足しており、また皆さんは策に嵌められたという悔しさと、これまでの勝利に舞い上がってしまったことへの後悔がいささか見てとれましたから、先ずは士気を上げ、そして偵察を徹底して行う必要に迫られました。

幸いにも、優花里さんとエルヴィンさん、冷泉さんと園さんの協力のもと、敵勢力の配置をほぼ完全に把握することができ、偵察はおおよその成功を収めました。

けれども、なによりも問題なのは皆さんの心の方でした。

心理的に、私がそうであったように、逆境に追い込まれた人間は何もかもを諦めるか、破れかぶれになるかのどちらかです。

私は隊を率い、この大洗という学舎の存亡を背負う第一人者として皆さんを支える責任がありました。

赤星さんたちを喪ったときの私は、きっと今の皆さんのような顔をしていたに違いありません。


あの時に私が必要としていたのは、ひとえに共感と救済でした。

絶望し、不安に陥った者を掬い上げるのに必要なのは、共感と救済、そして信頼です。

私がクスリを断つことができたのは、皆さんに対し、幼少の頃から抱えてきた不安をぬぐい去る程の信頼を抱くようになっていたからです。

私は口火を切りました。

今日はこれで終わりです。

乙です

おつ

毎回楽しみにしています


そうだった赤星ちゃんたち亡くなってんだよな

流石に踊らんか

投下します。


「三つ、話があります」

重苦しい気配が辺りに広がって行くのが見て取れるようでした。


「一つ、私はここに来る前、黒森峰にいました」

戸惑う皆さんをよそに、私は話を続けました。


「去年の全国大会の決勝で、後輩の乗っていたⅢ号が川に落ちて、後輩が五人、皆死にました。助けに行ったのに、手を掴んだのに、助けられなかったんです。後輩が、西住先輩、西住先輩、助けてください、と言っていたのは覚えています。私は、死なずにいました。それから、ぜんぶ捨てて大洗に逃げてきました」

事情を知る沙織さんと華さんは、口をきつく閉じて不安そうにこちらを見ていました。


「二つ、大洗は廃校の危機に立たされています。文科省で、実績のない校は予算の都合で解体が決まっているのだそうです。大会で一度でも敗れれば、私達は母校を失うことになります」

肉親の死を知らされたように、皆さんの顔は凍りついていました。


「三つ、皆さんには私を信じてほしい」

一人一人の目を強く見据え、私は演説台のチャーチルのように声を上げました。


「大洗という学校は、町は、皆さんにとっては、帰るべき家であり、心強い拠り所でしょう。失いたくないのは、私も同じです。追われるように逃げてきた私を、受け入れてくれたからです。私は、命を懸けて、大洗を護るつもりです。死んでも構わないと思うほど、心に決めているのです」

声が震えているようでした。


「私についてきてください。死中に活を見出して、大洗を護り通してみせます」


皆さんの目に、強い意志を宿すことができたようでした。

やりましょう、まだいけます、と皆が口を揃え、まるで島津の武士の如き闘志が燃え始めました。

沙織さんと優花里さんが調理し、皆に振る舞ったスープは、天上のボルシチみたいなおいしさで、体の奥底から戦意を沸き立たせるかのように感ぜられました。

そして、審判の時がやってきました。

降伏はしない、と言い、私達は戦闘の用意に入りました。

ふと、会長がこちらに微笑んで、ここまで連れてきてくれてありがとう、と言いました。

それはまるで、今生の別れのように聞こえました。

けれどもそれは、これからの道を誓う祈りでした。

38tを戦闘に、フラッグ車の八九式を守りつつ、私達は駆け始めました。

カチューシャさんの作戦を打ち破るのであれば、取るべき作戦はただ一つ、意図的に開けられた西側の穴を無視し、真正面の、厚い戦車群の壁に穴を穿つのみです。

案の定、悪い夢を見たような顔が、キューポラの上に確認できました。

そして、38tに気を取られたのか、どれを狙えば良いかわからないかのように、散発的な砲撃が始まったのです。

前方から新たな敵が4輌視認され、後方からも4輌ないしそれ以上という報告を受け、挟撃される前に10時の方向へ旋回を指示したところで、38tが庇うように躍り出ました。

ここは引き受けたよ、できたら合流する、と会長が言ったのです。

そのようなことを言って生還した者を、未だかつて見たことはありませんでしたが、すぐさまお願いします、と言えるくらいには彼女を信頼していました。

実際に、彼女は素晴らしい手練で、数多くの履帯と転輪を破壊した末に砲撃によって(砲撃音からしてT-34のどれかでしょう)撃破されました。

それはまるで、夜叉でした。

あとは頼む、と言葉を残し、生徒会の皆さんは戦線を離れました。


残された私達は、敵の追撃を振り切るため、2時方向へと舵を切りました。


しかし予想に反し、砲弾ではなく機銃の、それも曳光弾の波が夜空へと、オーロラめいて放たれて行きました。

この時点で追撃に来ていたのは6輌程度で、雪の坂を越えればやり過ごすことはできる数でした。


暴露るのを避けるため、あまり撃ち返さないように言ってからⅣ号とⅢ突を控えさせ、フラッグ車を含む皆さんを先行させました。

目論見が外れたとなれば、恐らくカチューシャさんはとにかく物量を以って早い段階で戦闘を終わらせようとするでしょう。

ひどく盲目的に、シベリアの熊のようにフラッグ車だけを追うに違いありません。

そして間違いなく、自軍のフラッグ車だけは、敵はおろか自分たちからすらも遠くに隠しておくことでしょう。


キューポラに直立する程度では見えないので、優花里さんにお願いし、偵察に出てもらいました。

快く飛び出して行ってくれた優花里さんを見送り、私達は先行させた本隊を追いました。


無線により、IS-2の砲撃でM3リーが撃破されたことがわかりました。

私は皆さんに全幅の信頼を置いていましたが、実際のところ、私達はそう長く逃げ続けるわけにもいきません。


冬に慣れていない私達には、長くなればなるほど不利でしかないからです。


眼前に立ちふさがるKV-2を河馬チームのⅢ突と鮟鱇のⅣ号で破り、さらに歩を進めたところへ、鴨チームの被撃破報告が届きました。

家鴨チームの八九式が丸裸にされたのです。

勝敗の決するところまでは、もって4分でした。

廃教会の塔に立った優花里さんの報告で、敵フラッグ車の位置は既に把握できました。

けれども、走り回る対象に、走りながら砲撃を当てるのは至難の技です。


ならば、と優花里さんに管制を指示し、河馬チームを伏させました。

家鴨チームの皆さんには、あと少しだけ持ちこたえてください、と言うほかありませんでした。


そして、敵フラッグ車をキルゾーンへと誘い込み、雪中からⅢ突の主砲が火を噴いたのと、無線から轟音が響き渡ったのは同時でした。

僅かな静寂が流れ、どうやら、白旗が上がったのは敵フラッグ車でした。

右の履帯を失いながらも、八九式は持ちこたえてくれたのです。

ともあれ、私達は、この長き戦いの果てに勝利を収めたのでした。

試合後、カチューシャさんは少し憔悴したような顔でした。

何か言うことはありますか、と問うと、下を向いて黙りこくってしまいました。

ふと、私が悪いのです、とノンナさんが現れました。


「今回の作戦は、私が無理を言ったんです。怖かったんです。あの時も、カチューシャが庇ってくれて、...甘えていました」

どういうことですか、と言うと、耳を疑うような一言が放たれたのです。


「あのⅢ号を沈めたのは、私なんです。ずっと、どうしたらいいか、...謝っても、謝りきれなくて、...」


彼女は泣き崩れ、カチューシャさんは、何も言わずに項垂れました。

崖崩れだと思っていました、と呟くことしかできず、心の中を戸惑いだけが満たしていました。

何かを喪っていたのは、私だけではなかったのです。

フラッグ車の護衛は、確かにまず狙われます。

彼女はたんに、正攻法で戦っていたのです。

それが人を死に至らしめるなどとは、思いもよらない結果だったでしょう。

私がその立場だとしたら、どうしても彼女を責めることはできません。


彼女はあの時、人命と、信じてきた戦車道とをいっぺんに喪っていたのです。

かつて怨敵だと思っていたひとは、私と同じく苦しんできたのです。

私は、泣き暮れるノンナさんと、項垂れるカチューシャさんに向き直りました。


「私は、聖職者ではありませんから、赦しを与えることはできません。けれども私は、守るべきもののためにどこまでも争い、太陽のように生きるつもりです。どうかあなた方も、あなた方の闘いをたたかい続けてくださいまし」

そうして、私はふたりを腕の中に抱いて、いつまでもふたりの苦しみに共感していました。


そしていつしか、親の仇のように降っていた雪は鳴りを潜め、静かな宵闇が眠るように流れて行きました。

今日はこれで終わりです。


まさかの真実
いよいよ黒森峰か

乙。ノンナと言えども流石にトラウマになるよな
戦車道続けてるだけでもタフだわ

この段階では西住殿は太陽のように生きるって言ってるんだか……


カチューシャいい子だ

乙乙
いよいよまほとの戦いか…みな苦しみから解放される事を願ってる

乙です

今までに比べればだいぶ光に満ちてるがこれからどうなるか

ハッピーエンドがイメージ出来ない…

とりあえず眼鏡役人は腹を切って詫びるべき

この流れや背景を経て、こちらでも起きるであろう大学選抜戦を思うと
プラウダの行動がより重く胸にくるなぁ、、、


現状みほが戦車道で最も憎いと思ってるのは戦車道で人死を肯定している(様に見えた)母親かな?
自分だけならまだしもプラウダ側も苦しんでるの見たら到底納得出来るもんじゃないし

黒森峰の川エンストが怖い…
ウサギさんチームが沈んでみほがまた助けられなかったら…

流石に去年と同じ事故で同じように人死にでたら政府の大会誘致どころか戦車道自体できなくなるだろうし戦車道委員会などは総辞職必須やな

まあ柔道とかしょっちゅう人死でてますし…

2014だか15だかは死人0だったらしいよ
そもそも海外見ると柔道の練習で死人が出ること自体ジャップ案件だったらしいが

子供が銃を誤操作して死ぬ案件を何件も出してるのはどうだって話

またどうでもいい話してんな

銃の誤操作と教育の一環で人死に、それも日本から海外に伝わったのに海外のが
教育の過程でのトラブルが少ないことを比べるのってピントずれてると思うけど
ずれてないと思う人もいるんだね

ID:UqBDfSyMo
こいつ韓国マンセースレ乱立してる例の荒らしじゃねーの
糞スレ立てまくるのに飽きて他人様のスレ荒らしに来たのか最悪だな

ジャップって言った時点で疑ったけど多分そうだろうね

ふじきりおの方は終わったぞ!
こっちも早よ!

みほ「ドーピングあんこうスープだ・・・」

投下します。

3回戦が終わってすぐ、決勝戦の相手が黒森峰であると伝えられました。

特に不思議ではありませんし、覚悟はした上でことに臨んでいましたけれども、実際問題、黒森峰の重戦車群にどう対処するかは悩みの種でした。

姉や逸見さんはティーガーを駆るでしょうし、パンター、ヤークトパンター、ラングなど、ドイツ戦車見本市のような布陣を敷いてくるに違いありません。

対して、こちらはⅣ号、Ⅲ突、八九式、M3リー、38t、ルノーB1bis。

戦車の歴史をなぞるかのような趣はこちらも同じですが、まず数で、次に火力で劣っていました。


しかし大洗とて、伊達に3回戦までを戦ってきたわけではありません。

黒森峰の、重戦車と定められたドクトリンは、一見合理的ですが、裏を返せばそれは、僅かな綻びが命取りになる教科書的な戦い方ということです。

これまでにそうしてきたように、陽動、撹乱、待ち伏せ、そして遭遇戦に持ち込めば、決して勝てなくはないのです。

ただ、少しばかり足りないものがありました。

頭を抱えていると、河嶋さんからお呼びがかかりました。

先日発見されたポルシェティーガーの修復が完了した、とのことでした(実を言うと、Pravda戦の直前に既に発見されていましたが、学園艦の奥深くという場所が場所だけに搬出が難航し、また構造の複雑さ故に修復に時間がかかってしまいました)。

これは願ってもない、と私達は校庭へ駆け出しました。


私自身、戦車には長いこと触れてはきましたが、実際にポルシェティーガーをこの目で見、そして共に戦おうというのは初めてのことでした。

足回りの弱さとエンジンの燃えやすさは懸念事項でしたけれど、それでも主砲の88mmは大洗にとっては頼もしい存在でした。

それに、対処法がないわけではありません。

それから、新たに猫田さんとその友人の方2名が戦列に加わり、また学園の駐車場に放置されていた三式中戦車が導入されました(長い間放置されていたようでしたが、幸いにも最低限の整備で運用が可能な、状態の良い戦車でした)。

次に既存の戦力強化が図られました。

会長が手配してくださった(事務手続き等は小山さんがしてくださったようですが)シュルツェンをⅣ号に装着し、カラーリングも変えてH型仕様にしました。

もとより、歩兵支援車両のD型を改造したものですから、装甲の薄さは相変わらずですけれども、この状況では破格の戦力と言えました。

そして38tは、ヘッツァー改造キットなるものに換装され、砲塔を犠牲に火力が向上しました(車幅の違う38tにどうやってヘッツァーの車体を移植したのだかは未だにわかりませんが、ポルシェティーガーの件といい、大洗女子学園の技術は、私の思うところよりも遥か上を行っていたようです)。

ともあれ、合計で9輌になった大洗の戦車隊は、Saint.Glorianaとの一戦から大きな成長を遂げ、未来を掴み取る舞台へと赴く用意も終えることができました。

人事を尽くした後は、天命を待つばかりでした。

試合の日、私達は戦車道の聖地へと降り立ちました。

自動車部の皆さんと戦車の最終チェックをする最中、Saint. Glorianaのダージリンさんとオレンジペコさんがいらっしゃいました。

次いで、これまでに鉾を交えた皆さんが応援に駆けつけてくださいました。

貴女は不思議な方ね、とダージリンさんは言いました。

私は戦った人皆と仲良くなる、と言いました。

皆良い人ですから、と返答すると、ひとつ英国の諺をくれました。

4本足の馬でさえつまづく、という諺で、強さは永遠ではない、という意味なのだそうです。


ダージリンさんの言わんとするところが黒森峰の斜陽を意味していたのか、大洗の終焉を意味していたのかは、神のみぞ知るところです。

9両? 8両じゃなくて?

試合開始の直前、逸見さんは姉の傍に、からりとした微笑みをたたえて控えていました。

あとは戦車にて語るべし、とその目は告げていて、さながら武士のようでした。

ん?9輛?
8輛では?

>>498

ミスりました すみません

黒森峰の戦法は、基本的には火力による力押しです。

Pravdaとは対照的に、1輌ごとの火力が高い点は特筆すべきでしょう。

まずは有利な場所へ急行し、長期戦を展開せねばなりません。

私達と敵との距離が縮み切らないうちに、移動を完了する必要がありました。


開始直後に207地点への移動を指示し、乗車始めの号令を発し、大洗の行く先を決める闘いが幕を開けました。

誤字訂正

>>373

× 全身と砲撃

◯ 前進と砲撃

>>434

× 38tを戦闘に

◯ 38tを先頭に

>>492

× 合計で9輌になった

◯ 合計で8輌になった

今日はこれで終わりです。完結は遅くても6月上旬までです

乙でした

今回の投稿分だけ読むとまほエリの態度の分本編より爽やかさを感じるな

上げてきてますな


そうだった赤星ちゃんがいないんだ

死者の名前を出すな

エリカはまだしもまほに爽やかさは感じないなぁ
みほの心にトドメ刺した「私はもう、お前の姉ではいられないよ」のフォローがないし

投下します。

これで完結です。

向かう道すがら、良かったですね、と優花里さんが言いました。

西住殿は間違っていなかったんですよ、と微笑んでくれました。

私は、自分がどうなっても、助けてあげたかったんです、と言いました。

207地点まで2kmの段階で、敵による砲撃を確認しました。

森を重戦車で横断するなどとは、猪突猛進な黒森峰らしい戦い方と言えるでしょう。

おそらく、私達が作戦に入る前に叩き潰す腹積もりに違いありません。

ジグザクに動きながら、前方へと逃げるように指示しました。


丘へ上がろうとする最中、三式がⅣ号の盾となって落伍してしまいました。

猫田さんが、ごめんね、と言いました。

3名とも無事なのは幸いでしたが、被撃破報告というものは、いつ聞いてもぞっとしないものです。

ある程度走ったところで、こちらが用意した煙幕を展開しました。

無駄玉を撃たせたい願望が無い訳ではありませんでしたが、実際の狙いは、私達がポルシェティーガーをある程度の高さに牽引し切るまで、こちらの真意に気付かせない点にありました。

そして中腹に差し掛かったところで、比較的軽く足の速い、八九式とルノーB1bisに煙幕を展開しながらジグザク走行をするよう指示し、同時に麓に待機させておいたヘッツァーに陽動を開始させました。

丘の頂点に到着し、陣地を構築完了したとの報告を受けてから、射撃用意の号令を発しました。

麓に停止した黒森峰は、一瞬の沈黙を経てからこちらを囲み始めました。

そこで射撃を開始させ、数輌の戦果を得たところ、ヤークトティーガーが盾のように前へ出てきました。

ドイツ重戦車史の一端を担うヤークトティーガーは、やはり巨人のような趣で、甲冑のような硬さでもってこちらへゆっくりと進んで来ています。

黒森峰の有り方をその身に写すようなヤークトティーガーへ、幾重にも砲撃を重ねるものの、正面からではなす術もありません。


流石に、西住流を継ぐ者たる姉らしく、私の意図は見抜かれていたようです。

しかし、現状二輌程度削ることができれば、この段階では御の字でした。

撤退のため、陽動の第二段階を発令し、今度はヘッツァーを黒森峰の隊列の中に走り回らせました。

重戦車級の大きな車輌ばかりを主だって運用する黒森峰は、小さな戦車で懐に入り込まれるのを大の苦手としているからです。

中には固定砲塔も多く、また回転砲塔でも長砲身ならばすぐ近くの敵を撃つことは、相打ち無しにしては至難の技でしょう。

特に、隊列を組んで攻めることを主とする黒森峰には。


そしてヘッツァーに気を取られ、横を向いたラングを河馬チームのⅢ突が仕留めました。

次いで本隊も再び射撃を始め、慌てふためいた黒森峰の隊列は伸びきっていました。

教科書通りの戦い方では、このような事態に対応しきれないのです。

パニックに陥るのも無理はありません。

そしてがら空きになった右側へと舵を切り、ポルシェティーガーを先頭に、楔を打つように撤退を始めました。

鈍重で足回りが弱いポルシェティーガーでも、下り坂ならば巡行戦車並みの早さでした。

さて黒森峰の隊列が再び整う前に、次の作戦地域である市街地へと急ぐ必要がありました。

そこに至るルートには大河が横たわっていて、越えられない川ではありませんが、軽い戦車では流される恐れがありました。

そのため、ポルシェティーガーを上流に、八九式を下流に置いて、私達は川渡りを急ぎました。


ところが、半ばまで来たところで、一年生たちのM3リーは動きを止めたのです。

エンストを起こしたらしく、川の半ばで立ち往生を強いられていました。

そして恐るべきことに、かつての記憶が、それに起因する不安が、動悸が、じわじわと蘇り始めたのです。

けれども、その時、私の手に重ねられた沙織さんの手の温もりが、私を私へと繋ぎ止める糸になってくれました。


「行ってあげなよ。こっちは私達が見るから」

沙織さんに勇気付けられ、私は優花里さんからロープを受け取り、救助へと行くことができました。

戦車は横に並んでいますから、跳べないことはありません。

これは、私が何のために逃げ出した戦車道へと再び舞い戻り、私達が何のために戦っているのかを、再考する瞬間でもあったのです。

M3リーへとたどり着くと、私は、泣き腫らした顔の一年生たち(兎チームと呼んでいました)と協力し、牽引の準備を早急に整えました。

その間、6時方向に視認された敵は、不思議と砲撃はせず、その上私たちが川を渡り終えるまでは近寄りもして来ないのでした(この点に関しては、紳士的だと思います)。

浅瀬まで来ると、M3リーも息を吹き返し、同時に敵の砲撃も再開されました。

市街地の直前に掛かっている橋を渡る際、最大限に時間を稼ぐため、橋を落とすよう自動車部の方々(レオポンチームと呼んでいました)へと指示をしたさい、鈍重な車体をとことん利用したウィリー走行のような挙動と、そのスポーツカー染みた加速には驚かされました。

ほかにもポルシェティーガーのエンジンを走行しながら修復していたりと、レオポンチームの皆さんは私が思う以上に逸材揃いだったようです。

そして苦難のすえ、ようやく市街地に到達することができました。

数で劣るこちらが打つもう一手は、市街地での遭遇戦です。

砲塔が長く、鈍重な重戦車中心の編成である黒森峰には、これ以上ない有効な一手であり、現状私達が取りうるほぼ唯一の正攻法です。

廃墟の陰から顔を出したⅢ号を追いかけ、私達は団地群へと入って行きました。


次の瞬間、驚愕とも畏怖ともつかぬ感情が私達を支配しました。

壁のように、山のように眼前に聳え立つそれは、ドイツ重戦車の終幕を飾ったマウスでした。

重戦車偏重主義もここに極まれりか、と思わず舌打ちが出るほどでした。

ネズミの名に不釣り合いな巨体から放たれた砲撃の至近弾だけで、ヘッツァーが吹き飛ばされかけましたから、その火力は絶大です。


直後に反撃を試みたルノーB1bisが撃破され、マウスの進撃が始まったのです。

そして反撃を試みたルノーB1bisが撃破され、マウスの進撃が始まったのです。

後退するこちらの反撃も意に介さぬかの如くⅢ突が破られ、私はどうしようもない焦りと、危機感に襲われました。

しかし、迫る敵の本隊が合流する前に、沙織さんの素朴な感想で、この巨大なマウスを撃破するための策を思いつくことができたのは僥倖でした(市街戦でカタをつけるにはマウスはどうしようもない障壁でしかないからです)。

もはや荒唐無稽な作戦ですが、捨て身の精神を持った皆さんとならば、不可能ではありません。


後戻りはできないという逆境が、大洗をこれほどまでに強くしてきたのです。

マウスの陰に控えていた、視界の狭いマウスの目代わりであろうⅢ号を撃破したところで、マウス撃破のための作戦を始めました。

装填の遅いマウスの一撃を先ずかわし、ヘッツァーを激突させてマウスの下へと潜り込ませ、船を座礁させる要領で動きを封じました。

それからM3リーとポルシェティーガーによる挑発で砲塔を向けさせ、最後の仕上げに八九式をマウスの上へ登らせたのです。

亀チーム(生徒会の皆さんをそう呼んでいました)の皆さんと、兎チームの皆さんと、レオポンチーム皆さんの度胸、そして八九式の家鴨チームの皆さんの練度(それも、マウスの車体程度の狭い範囲を動きまわれるほどの)なくしては、この策は成功し得なかったでしょう。


少しの間踏ん張ってくださいと言ってから、Ⅳ号で背後へと回り込み、車体後部のスリットを華さんが射抜き、ついに猛鼠は息絶えたのでした。

マウスほどの存在にもなれば、実際の戦力よりも精神的な支柱としての役割が大きくなります。

ですから、この戦果は黒森峰を多少なりとも揺るがすに違いありません。

同時に、私たちの士気を上げる結果にもなりました。

偵察に出した兎チームの報告で、3分以内に本隊が到着する様子でしたから、いよいよ最後の作戦を発動する時がやってきました。

そしてそれは、この学舎の行く末を定める刹那でした。

しかし移動の最中、無理がたたったのかヘッツァーは完全に破損してしまいました。

我々の役目はここで終わりだ、あとは頼む、と言葉を残し、勝利の地での再会を約束して、私達は別れました。

14対4という劣勢に私達は身を置いていましたが、フラッグ車自体は1輌ずつに過ぎません。

はなから、互いの狙いはフラッグ車以外にないのです。

敵フラッグ車との一騎打ちをうかがうべく、敵の戦力を可能な限り分散するように指示を出し、レオポンチームの協力を仰ぎました。


脅威は後続のヤークトティーガー、エレファントの火力でしたが、その足止めに兎チームの皆さんが手を挙げてくれました。

かつてSaint. Glorianaとの一戦で逃げ出してしまったあの子達は、大きな成長を遂げていたのです。

そして鮟鱇には、袋小路には用心しながら敵を撹乱し、相互の情報と位置を把握し、またHS0017地点までは発砲を避けるように指示してから、最後の作戦を発動しました。

私達がHS0017地点へと向かうまでに、兎チームの皆さんはエレファントを撃破した後にヤークトティーガーと刺し違え、次に家鴨チームの皆さんが落伍しました。

鮟鱇とレオポンチームだけを残すのみとはなりましたが、事は目論見通りに運ばれて行きました。

やはり姉は西住流の者であるらしく、私の誘いには乗ってくれたようで、自らの駆るフラッグ車だけで廃校の中庭へとやってきてくれたのです。

追おうとする後続を締め出さんと、ポルシェティーガーの車体を入り口に鎮座させ、さながら弁慶の仁王立を思わせる有様となりました。

レオポンチームの皆さんには、勝敗が決するまでの間、邪魔を入れないようにしてもらう必要があったからです。

そしてそこまでは、既に成功を収めています。

あとは、この血縁の呪いのような戦いへと身を投じるばかりでした。

中庭で、私達は敵フラッグ車のティーガーⅠへと向き合いました。


「西住流に逃げるという道はない」


これまで機械のように口を閉ざしていた姉が、初めて声を発しました。

それは、お前に勝てるのか、という挑戦状であり、西住流の矜持を、誇りを、未来を背負う者の覚悟でした。


「受けて立ちます」

躊躇いもせずにそんな事を言えたのは、私がひとりではないからでした。

一瞬の静寂を、Ⅳ号とティーガーⅠの咆哮が破りました。

いかにレオポンチームの皆さんの奮闘があるとはいえ、いかに一騎打ちを仕掛けているとはいえ、敵はフラッグ車を除いてまだ11輌を残しているのですから、そう長く戦い続けるわけにもいきません。

おそらく姉以外では、逸見さんがすぐに私のやらんとするところを見抜くでしょう。

ポルシェティーガーの装甲とて、それほど長くはもちません。

勝敗の決するところまでは、長くても5分が精々でした。

廃校の中庭で、私達は互いに背後を探りあい、遮蔽物から遮蔽物へと移動し続けていました。

しばらくして響いた音は、徹甲弾ではなく榴弾のそれでした。

一瞬の間を置いて、道が破壊されていることを確認すると、全速で後退し、背後に迫るティーガーⅠに車体をぶつけることで辛くも一撃は避けることができました。

見て呉れをいかに変えたところで、元来の装甲の薄さは誤魔化しようがありません。

ティーガーⅠの88mmは、こちらを正面からでも瞬殺できる威力を秘めているのですから、一発でもまともに喰らうことは避けねばなりませんでした。

しかし度重なる砲撃でシュルツェンは徐々に剥がされて行き、徐々に丸裸に近づいています。

その上、ポルシェティーガーの被撃破報告が届き、残るは鮟鱇のみとなり、いよいよ私達は追い込まれました。


このまま一進一退を繰り返すだけでは、無様に負けるのを待つのと同義です。

かといってティーガーⅠの正面装甲をⅣ号で抜くことは不可能に近い所業ですから、ひとつ賭けに出ることを選んだのです。


装填速度を速めることはできますか、と尋ねると、優花里さんは二つ返事で、可能ですと言ってくれました。


華さんは、行進間射撃でも可能ですが、0.5秒でも停止してくだされば確実に射抜きます、と言ってくれました。


全速で正面から背後まで一気に肉薄できますか、と尋ねると、麻子さんはひとこと、できると言ってくれました。

Saint. Glorianaのチャーチル相手には失敗したこの一手は、確実に弱点さえ射抜けば成功するはずです。

今度は逃がさない。


そして正対するティーガーⅠへ、私達は駆け始めました。


回りこむ直前、互いに一撃を交わし、転輪も履帯をも引き千切りながら、吸い込まれるように私達はティーガーⅠの背後へと回り込み、砲撃の音が重なって轟きました。

爆煙が周囲に満たされ、僅かな炎がいくばくか上がっているようでした。

ぼんやりと、遠くのキューポラに、間に合わなかった、という落胆の顔が見えました。


白旗は、ティーガーⅠから上がっていたのです。


試合後、勝利の喜びに浸る皆さんを置いて、私は姉のもとに走りました。

私はどうしても、姉の言葉に関して、真意を問わねばならなかったのです。

そして、母のことも同様でした。


姉は私を振り返ると、優勝おめでとう、と一言言いました。

そして、ごめんね、と言いました。

私は、あの時の真意を問いました。

ここでも、Pravda戦での一件のような、驚くべき事実が明らかにされたのです。


「...あの時は、とにかくみほを熊本と戦車道から引き離す必要があった。事後処理をする間、みほに色々なものの矛先が向かないようにするためだ。へんに慰めを言うよりも、突き離した方がいいと思っていたんだ...済まなかった。」

姉は、涙を堪えているようでした。

姉は、私を護るために手を尽くそうとしてくれていたのです。

ただ少し、言葉足らずで、不器用でした。

そして私は、どうしようもなく脆かったのです。


「お母様をあまり責めないでやってほしい。赤星たちの死に、心を痛めていないわけじゃない。決して、人死を肯定などはしていないよ。お母様は、戦車道で誰かが亡くなったことを受け入れ難かったんだ。自分の道が、人を死に至らしめうるものであるとは、思いたくなかったんだろう。」

犠牲無くして、勝利は得られない。

あの言葉は、母の揺らぐ心を、過去を、生き様を否定しないための防衛機制だったのかもしれません。

起きてしまった結果は、信じてきた己のたたかいの果てにある報いとしては、あまりに残酷です。

私はとたんに、母を憎いと思う気持ちを喪い、むしろ同情すら抱くようになっていました。


顧みると、人の心を疑うのは、最も恥ずべき悪徳でした。

それから私は、泣きかけた姉を抱きしめて、かつてPravdaのふたりに贈った言葉をかけ、その苦しみに寄り添っていました。

あとには、大洗が護られたという事実だけが残りました。

それが、唯一の救いでした。

いまは私には、幸福も不幸もありません。

今でさえ、折に触れて、赤星さん達が死んだときに私も死んでいるべきだった、という思いが頭をよぎります。

しかし、大洗に逃げてからの数年間は、私の生涯で唯一、命を賭して守るべきものが与えられた瞬間だったのです(となると、私が会長を犯した夜は、私がこの身を以って学校を護るという誓約だったのでしょうか。生徒会の皆さんは私以外に頼る者がいなかったのですから、どうか責めずにいてください)。

本当のことを言いますと、廃校の危機を脱したらすぐに、もっとも楽な世界へ消えてしまうつもりでした。

けれども、後に残されるみなさんのことを考えるといかにも不憫です。

そのうえ、また決勝で相見えることをエリカさんと約束していましたから、そのまま死ぬ訳には行かずに、ずるずると今日まで生きて参りました。

記憶してくださいまし。

私が生きたかったのは、立ち塞がるものを薙ぎ倒して往く戦車の道ではなく、己の足で歩んで行く人の道だったのです。

撃てば必中。

守りは固く、進む姿は乱れ無し。

鉄の掟。

鋼の心。

人として幼い少女を淑女に育て、良き妻、賢き母として成熟させるための礎としてはこれ以上ない、よい規範でしょう。

しかし、普遍的な家族愛とかいったものをもたらしてはくれません。

母も、姉も、逸見さんも、ノンナさんも、カチューシャさんも、是とした自分の闘いを、たたかい抜いていただけなのです。

赤星さんたちの死は誰のせいでもないという事実が、やりきれぬ無念となって私を塗り潰して行きました。


私は今になって、人の業というものを強く思い知らされたのです。

沈んでいった赤星さん達が、今を懸命に生きている大洗のみなさんが、そしてエリカさんとの約束が私を生き長らえさせました。

それからもう一年が経つでしょうか。

明日は大洗女子学園と黒森峰女学園との決勝戦です。

エリカさんとの約束のあとは、もうやり残したことはありません。

伝えるべきことはすべて、大洗のみなさんに伝えました。

私が大洗で見出した戦車道が、しっかりと受け継がれていくことを願うばかりです。


私がいなくても、一切は過ぎて行きます。

私がいなくなっても、大洗女子学園の行く先に心配が無いのは幸いです。

私はあの人たちに残酷な恐怖を与えたくはありません。気付かれぬうちに消えて果てるつもりです。

願わくば、私を産んだ私の過去が、もう誰の身にも決して起こらぬようにしてください。

それが叶ったとき、喪い続けてきた私の一生は、本当の意味で救われることになるのです。

そしてどうか、私の代わりに、赤星さんたちのお墓に、花を供えてあげてください。

考えてみると、私は、悔いるばかりで、悼むことを忘れていましたから。

*
この手記を書き終えたみほは、その翌日の黒森峰との再戦を終え、姿を消した。

方々、手は尽くした。

私自身も各地へと出向き、ひたすらにあの子を捜した。

各校も協力すると手を挙げてくれて、とりわけSaint. GlorianaやPravdaなどは、自前の諜報機関で日本はもとより、世界中を捜してくれた。

それでもなお、みほの行方は杳として知れなかった。


あの子は、どこかへと消えた。

どうしようもない後悔と、茫漠たる虚無だけが残された。

今年の10月、私は、いまは静岡に住んでいる、みほの当時の友人を訪ねた。

彼女は大洗女子学園を出てから、現在は陸自で10式の教練を受けているのであるが、どうしても聞かねばならないことを聞くために、無理を言って都合をつけてもらった。


というのは、あの手記は彼女が私に手渡したものだったからだ。

もっと早く行くべきだという思いを抱えていながら、踏ん切りをつけられずに既に2年が経っていた。

富士駐屯地は、富士山の麓にあるかなり大きい駐屯地であった。

その中の応接室らしき場所に通され、私たちは顔を合わせた。

私自身は、大洗優勝の一報を聞いた時に見た写真で彼女の顔は知っていたし、向こうも私の顔くらいは知っているはずであったけれど、実際に膝を向けて話をするのはこれが初であった。

そして、最後であろう。

「初めまして…秋山優花里と申します」

「ええ、初めまして…西住しほです」

「はい、存じ上げます」

「今日ここへ来たのは、伺いたいことがあるからなのです」

「…はい」

「この手記を、あなたは読みましたか」

「はい。これは、まず西住殿が私に、このノートと写真と、小さなぬいぐるみの小包を送ってきたものです。黒森峰との、最後の試合があった数日後です。差出人は、西住殿本人に決まっているのですが、名前も住所もありませんでした。西住殿がいなくなってから、全部読んでみて、…」

それから、彼女は、静かに嗚咽を漏らした。


「結局、私たちが何をしても、大洗がどうなろうと、西住殿は、消えてしまうつもりだったのかな、と悲しくなりました。どうして、…私たち、まるで、捨てられたみたいに、…もう、生きているかどうかも…」

私が悪かったのです、と、我知らず声が出た。

彼女は、泣きはらした顔を上げた。


「じぶんで、したことは、そのように、はっきり言わなければ、かくめいも何も、おこなわれません。じぶんで、そうしても、他のおこないをしたく思って、にんげんは、こうしなければならぬ、などとおっしゃっているうちは、にんげんの底からの革命が、いつまでも、できないのです」

私は魂を射抜かれたように、心を抉られたように、うなだれた。

彼女は最後に、貴女は、貴女の闘いをたたかい続けてください、と言った。

そしてこう付け加えた。


「私たちの知っている西住殿は、とても素直で、よく気が利いて、…天使みたいないい人でした」

終わりです。

まとめてくださる場合はこのレスを除き、>>609で終わるようにお願いします。


おもしろかった

乙乙
いい感じに闇深なSSだった


完結まで長かったがよかった

乙です

西住殿失踪だと、カチューシャとノンナと会長さんの正気度も
ガリガリ削られちまたんじゃないでしょうかと思わないでもない。

乙 よかった


闇が深いなー

いろいろ気になる点も残ったけど完結乙

もう一回読み返さねば


最後まで読めてよかった

乙。せめて生きていて欲しいものだが手記の内容からするともうね


よかった
とても

乙。みほは…手記の内容とボロボロの内心を見るにどうなったか察するな

優花里の言葉でダグラムの始まりと終わりのナレーション思い出した

乙です
お疲れ様でした

乙でした
ありがとうございます

乙でした。
みほはきっとヘストンワールドに召されたんだそうに違いない

お疲れ様でした。

乙です

乙です

戦車道の安全性どうなんだろう? テレビをみる限りF1でも事故が起きたら救助が駆けつける

フィールドが広大だというせいもあるかもしれないが、専門的な事故対応チームあるのか?

そもそもみほが黒森去った状況も普通なら試合中止やまた再試合が検討されるべきじゃないか

まあアニメだから仕方ないか

会長との描写頼む

乙です。
読んでて引き込まれた。この作者の作品をまた読みたい。

お疲れ様です

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