友人「また落選したんだって?」
男「ああ……自信作だったのに……」
友人「まぁ、そう落ち込むなって。またチャレンジすりゃいいじゃんか」
男「うん……だけど次は俺、推理小説にチャレンジしようと思う」
友人「推理小説? ……ミステリーか」
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友人「推理小説って人気あるし、やり尽くされてるジャンルって聞くけど……勝算はあるのか?」
男「ある」
男「実はさ……前々から温めてたアイディアがあるんだ」
友人「ほう」
男「推理小説で、容疑者全員が犯人だったってヤツあるだろ?」
友人「ああ、あるな。アガサ・クリスティのアレとかな」
男「そうそう」
男「俺もああいうのをやってみようと思うんだよ」
友人「ほう」
男「ずばり……地球人類全てが犯人!」
友人「……ほう」
男「どうだ!? このスケール! すごいだろ!?」
友人「うん……たしかにすごい。すごいよ、うん。すごいことはすごい」
友人「だけどさ、動機はどうすんだよ?」
男「動機?」
友人「60億人……今は70億だっけか? そんだけの人間がたった一人を殺そうとする動機だよ」
男「えぇと……あんまり考えてなかった」
友人「言っとくけど、ミステリー物で動機ってすげえ大事だからな?」
友人「ハッキリ言って俺は推理小説読む時は、トリックやら推理部分なんてわりと流す感じで読んで」
友人「なんでこの犯人はこんな犯罪やったのか、ってところの方がむしろ興味あるからね」
友人「極端なこというとトリック破綻してても、動機部分がドラマチックなら結構読めるんだよ」
友人「いくら発想がすごくても“なぜそうなったか”に説得力がなきゃ、話にならんぜ」
男「ううん……そうだなぁ」
男「そうだ! 犯人は宇宙人にすればいい!」
友人「……ほう」
男「犯人は地球侵略にきた宇宙人! これなら人類全員がそいつに殺意を抱いてもおかしくないだろ?」
友人「どうかな」
男「え」
友人「地球って広いよ?」
友人「たとえば日本を襲撃してる宇宙人に対して、ブラジル人は殺意を抱かないと思うんだ。対岸の火事だ」
男「たしかに……」
犯人じゃなくて被害者では?
男「だったらこうしよう!」
男「世界各地を同時に攻撃できるような宇宙人なんだ。これなら問題ないだろ?」
友人「ああ……まぁなんとか」
男「よっしゃ!」
友人「問題はまだあるぞ」
男「まだあるのか!」
友人「仮に米軍だとか自衛隊だとかがそいつを退治したとしても、70億人全員が犯人とはいえないだろ」
友人「そこをどうすんだ?」
男「うーん……あっ、そうだ!」
男「軍隊じゃ宇宙人に歯が立たないんだけど、ある天才博士が作り上げるんだよ!」
友人「なにを?」
男「全人類の心の力をエネルギー化して放出できるマシーンを!」
友人「それが凶器ってわけか」
男「そうそう! これが凶器!」
男「だけど、最初はうまくいかないんだ」
男「人々は精一杯宇宙人を憎んだり恨んだりするんだけど」
男「憎しみや恨みといった心じゃ、残念ながら悪い宇宙人には通用しなかった」
男「天才博士の秘密兵器も通じず、もはやこれまで……人類は諦めてしまう! ――しかしその時!」
友人「その時?」
男「一人の少年が立ち上がるんだよ……!」
男「皆が絶望する中、ある少年がたった一人で宇宙人に立ち向かおうとする」
男「宇宙人はまるで弄ぶように少年を痛めつけるが、少年は決して諦めない。何度でも挑みかかる」
男「その様子を博士の映像機械を通じて知った全人類は、ようやく悟る」
男「憎しみじゃ宇宙人に勝てない。少年のような勇気を持たないとってね」
男「結果、そのパワーが少年に注がれて、少年は正義の戦士として覚醒する!」
男「そして、みごとに宇宙人を倒すんだ!」
男「――どうだ!?」
友人「うん……いいんじゃないかな」
友人「もうちょい細かいところをちゃんと詰めていけば、もしかすると化けるかも……」
男「よぉし、さっそくこの物語を書いて、ミステリー界に風穴を……」
友人「ちょっと待った」
男「なんだよ、まだなにかあるのか?」
友人「……俺に提案がある」
――
――――
記者「このたびは、SF小説における名誉ある賞『エスエフ賞』の受賞おめでとうございます」
男「ありがとうございます!」
記者「男さんは長年SF小説に挑戦し続け、落選を繰り返していたそうですが、ついに花が開きましたね」
記者「全人類の力を結集させて戦う……読者を熱い気持ちにさせてくれる素晴らしい物語でした!」
男「元々は違うジャンルの賞に応募するつもりだったんですが、友人のアドバイスで変更しましてね」
記者「そうだったんですか!」
男「友人も来てくれているので、この場を借りて礼を言わせてもらうよ。ありがとう!」
友人「どういたしまして。こちらこそ、改めて祝福させてもらうよ」
友人(……この作品がどういういきさつで出来上がったか、果たして推理できる人はいるのだろうか)
おわり
乙
お前がナンバー1だ!!
乙!
乙
もし推理小説として発表してたら、バカミスに分類されてただろうな
乙
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