【ガルパン】優花里はもう一度立ち上がる (18)

知波単学園との練習試合、大洗女子学園のフラッグ車であるIV号戦車のあんこうチームが相手フラッグ車を追い詰めた時にそれは起こった。
砲手の五十鈴華が放った砲撃は、フラッグ車の急制動を読み切れず外してしまう。次弾装填を急がないと、逆にこちらが危ない。
そう考えた装填手の秋山優花里は急いで砲弾を掴む、が。
「あっ」
焦りが普段起こさないミスを起こしてしまい、手から離れた砲弾が転がり、運悪く前に座っている通信手の武部沙織の腰に当たってしまう。
「痛っ!」
「沙織!?」
通信機越しの沙織の悲鳴に驚いた操縦手の冷泉麻子が一瞬だけ手を止めてしまい、IV号戦車は数秒停止してしまう。そこを好機と見逃さなかった相手フラッグ車がIV号戦車の側面に回り込んで砲撃、IV号戦車からは白旗が上がった。

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『大洗女子学園フラッグ車、走行不能! よって、知波単学園の勝利!』
「みんな、怪我は……、沙織さん、大丈夫ですか?」
試合会場に結果を告げる審判の声が響き渡り、騒めきがあちらこちらから沸き上がる中、車長の西住みほが乗員の無事を確認しようとして、先に悲鳴を上げた沙織に声をかける。
「もー……ゆかりん、痛いよ……」
「も、申し訳ございません、武部殿……」
涙目で抗議の声を上げた沙織に、優花里はただ申し訳ないと頭を下げる。みほが困ったように眉を下げて、優花里の方に顔を向けた。
「優花里さん、一体何があったの?」
「その……私が手を滑らせて砲弾を落としてしまいまして、それが武部殿の背中に当たってしまったんです」

優花里が事情を話すと、みほは次は気をつけてと言って、車両の外に出ていた沙織の腰の辺りをさすって痛みを和らげようとしている。
「優花里さんがミスをするのは珍しいですね……、でも、ミスは誰にでもありますから、あまり気に病まない方が……」
「五十鈴殿……」
華に慰められて、更に意気消沈する優花里。自分のミスで負けてしまった事もそうだが、何より友人に痛い思いをさせてしまった事に自分でもショックを隠せないのだった。

そこから優花里のスランプが始まった。装填の速度が躊躇から落ちてしまい、練習や紅白戦で遅れを取る事が目立った。来年度の全国大会の為に練度を上げなくてはならないと言うのに、上手く噛み合わない。
「うぅ……どうして足を引っ張ってしまうのでしょう……」
スランプの原因は分かっているが、砲弾を持とうとする度に涙目の沙織の顔が脳裏をよぎって、一瞬だけ砲弾を持つ手が止まってしまう。
その度に練習中、試合中、と言い聞かせて装填をするのだが、一瞬の躊躇が練習の成果を下げ、紅白戦では勝敗に関わってくる。
戦車道の授業が終わった後、優花里は今日も失敗したと落ち込み、とぼとぼと自分のクラスへ戻っていく。
最近の優花里の様子を心配したみほが優花里に声を掛けるも、一言申し訳ないと言って小走りで逃げるように去っていった。

「ゆかりん、もしかしてまだあの事、引きずってるのかな……」
「……私、優花里さんにもう一度話してきます!」
みほは、下校時間を見計らって彼女のクラスに顔を出して優花里の姿を捜す。
「あれ、戦車道の西住さん? 秋山さん、気分が悪いって早退しちゃったよ」
「そうですか、ありがとうございます」
が、優花里のクラスメイトが、早退したと言ったので、みほは急いで優花里の家へと向かった。

優花里の家である秋山理髪店へと足を踏み入れて、みほが優花里の母に優花里の事を尋ねると、どうも最近様子がおかしい、今日だって暗い顔をして帰ってきた、と言ったので、家に上がらせてもらって優花里の部屋をノックする。
「優花里さん、居る?」
「……に、西住殿、えっと、その」
「入るよ?」
「ま、待ってください、今は──」
優花里が何か言い切る前にみほが部屋に入ると、赤い目をした優花里がみほを見ていて、その目が潤んでいるのが分かった。
「西住、殿……」
「優花里さん」
みほが優しく声をかけると、優花里の目から涙がこぼれ落ちる。みほがそっと頭を撫でれば、優花里の喉から嗚咽が漏れる。
「ごめんっ、なさっ、えぐっ、ひっく」

優花里は、きっと自分のミスに皆は呆れかえっているのだろう、何も言わないだけで内心では……、そう考えていた。だから、こうしてみほが来てくれて、優しくしてくれることがたまらなく嬉しかったし、悲しかった。
しばらく泣いて、落ち着いた時に、ポツリポツリと怖かったことを話すと、みほはまた優しく優花里の頭を撫でる。
「大丈夫、大丈夫だよ、優花里さん。あんこうチームのみんな、私も、優花里さんが大切な仲間だから、大丈夫」
「ううっ、西住殿、ありがとうございます……」
と、部屋の外から複数の足音が聞こえてくる。何事かと二人が顔を向けると、扉が開いて沙織、華、麻子の三人が部屋に入ってきた。

「武部殿……、五十鈴殿に冷泉殿まで……」
「ゆかりん、ごめんね、悩んでるの気がつかなくて……」
「こちらこそ……お怪我をさせてしまって、申し訳ありませんでした」
「気にしないで! みぽりんが痛いの痛いのとんでけーってやってくれたから大丈夫!」
「さ、沙織さん!」
みほが慌てて顔の前で手を振っているのを見て、皆が笑い出す。
「みほさん、そんなに恥ずかしがらなくても、私達の仲ですし」
「だから恥ずかしいんですっ、言わなければ良かったかな……」
「西住さん、案外お茶目なんだな」
あっという間にいつもの和やかな空気になって、優花里はどうしてあんなことで悩んでいたんだろう、と。馬鹿らしくなってしまった。
「皆さん、今日は本当にごめんなさい。明日からまた頑張りますから、これからもよろしくお願い致します!」

『赤チームフラッグ車M3リー、行動不能! 白チームの勝利!』
「ふう、皆さんお疲れ様です」
「やっぱりみぽりんの指揮はすごいね?」
「流石西住殿です!」
「優花里さんの装填もお見事でした、私、砲撃を見切られると思っていませんでしたし」
「いえ、皆さんのおかげですよ!」
「決勝戦の時と思ったが、ドリフト中によく装填できるな」
「日頃の訓練の賜物です! それに、冷泉殿は重心移動がとても上手いですから!」

翌日の紅白戦で、優花里は見事に復活した。それまでのスランプが嘘のように装填が早くなり、あんこうチームは少し前の勢いを取り戻した。
「皆さん、ありがとうございました! 私は本当に幸せ者です?!」
「やだもーゆかりん、照れるー!」
「沙織さん、何かしましたっけ?」
「沙織はただ単に砲弾が体に当たっただけだろう」
「ちょっとぉ!」
笑い声に包まれた車内で、これからはもっとみんなを頼ろう、そう誓った優花里だった。


終わり

みほゆかはいいぞ。
html化依頼出してきます

乙!


短いながらもあんこうチームの友情が詰まった素晴らしい作品だと思いました

乙です!

あんこうチームの友情がつまったいいショートショートだった
乙です

乙です
てっきり、アリクイさんチームと一緒に鍛えるのかと思ってました(苦笑)

良かったよ乙

一見するとみほの方がメンタル弱そうなのに
実際は優花里の方がガタつきやすそう

良いものを見させてもらった

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