(デレマスSS)モバP「魔女と幸せなラジオ」 (15)

デレマスSSです。
よろしくお願いします。

オリジナルPというかPのキャラ濃いめなので念のため注意ってことで

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1、深い廊下の奥に

 そこはアイドル事務所の一角 誰も近寄らない特別な空間

最奥には普通よりも重い扉が鎮座している

その雰囲気は豪奢で厳かなものではなく むしろ夜の森に迷い込んだような

入る者を拒絶するような空気が漂っていた

噂によると そこには「魔女」と呼ばれる女性プロデューサーが居るらしい

担当アイドルは居ない その人に会う人間は不幸になる その部屋に呼ばれた人間は消える

そんな噂が独り歩きしていた


そこに一組の新人アイドルとプロデューサーが呼ばれた

これは、そのアイドルとプロデューサーの1つの物語

2、宣告

 今の時刻を持って、プロデューサーは解雇。アイドルは私の再審査の上で進退を決める。

私は、相手の反応など気にせず、決まったことを伝える。

プロデューサーと呼ばれた男は、受け入れられない顔

アイドルは何を言われているのか分かっていない顔

と言った感じかな。

「ちょ、ちょっと待って!!何でそんなこと言われなきゃいけねぇんだよ!!」

お、開口一発で怒りを吐き出すか……まぁ、その性格だからダメだと言われたんだけど

私は社長の印が捺印された通知書を見せながら「社長命令」とだけ言う。

男の顔が歪む。人をプロデュースするという仕事をする人間とは思えない醜さだ。

「ね、ねぇ、プロデューサーちゃん……ど、どういうこと?」

アイドルは未だに訳が分かっていないみたい……才能だけの子とは聞いてたけど……ここまでなの?

少し、この子への再評価ポイントが下がるわね。

「俺はクビ!!お前もほぼクビって言われてんだよ!!!」

あ~ぁ、アイドルに当たり散らしてる……ダメダメね……解雇で正解だわ。

「え!何で!?ゆい、何にも悪いことしてないよ!!」

……自分は悪くないか……

「大槻唯……だったかしら?」

「ん?そーだよー♪ゆいでいいよ!」

あっけらかんと挨拶をしてくる再審査アイドル……

「貴女は、昨晩……何をしたのか覚えてるの?」

「え?昨日?……あぁ、プロデューサーちゃんと遅くまで遊んだよねー」

「バ、バカ!」

担当が止めようとしてももう遅い。

まぁ、それは「アイドルから言わせた」とか、それ以前なんだけど……

「プロデューサー……君のやってきたことなんだけどね、全部バレてるのよ。会社にも社外にも」


そう『社外』にも

このプロデューサーはこのアイドルを才能があると言って養成所から勝手に引き抜いて、

甘やかしてろくなレッスンもせずテキトーな仕事をさせ、その後はただただ二人で遊び呆けていた。

更に言えば、その費用をプロデューサーに支給される仕事上の経費から引き落としていた。

もっと言えばそれらについて同僚への口封じもしていたらしいね。

それだけでもすでに問題なのだけど、あえて上層部は好きにさせていた。

ついに昨晩、終電が間に合わないくらいまで遊び、2人で宿を共にしたことを……週刊誌に抜かれた。

その情況をすぐに察知した一部の上層部と私は今朝まで揉み消しに躍起になり、処遇を決めた。

『社外』の一言でようやく察したのか、プロデューサーと呼ばれた男は肩を落とした。

「君の尻拭いをさせられたのは大変だったよ。これ以上は迷惑だから、消えてくれ」

未だに分からずオロオロしてる子が一人いるけど……まぁ、いいか。

「じゃ、君の処遇は分かったよね?これ、即日だから今日中に荷物まとめてね。はい、回れ右」

そう言い放って、男を部屋から出させる。

残ったのは、未だに状況が分かっていなそうな再審査アイドル

「貴女は、アイドルとして扱うに値するか再審査します。今日から審査が終わるまで、このシフトに合わせてここに来なさい」

1枚の紙を渡す。

「……ねぇねぇ、これって……」

明らかに沈んだ声

「貴女は、今、この瞬間から私が審査するアイドル候補生。ただそれだけよ。反論はクビだと思いなさい。では、また明日」

そう告げて、相手の反応など一切見ずに私は自分のスペースに戻る。

廊下から入ってすぐに応接室、その奥に私のレッスンルーム兼職務室になってる。

私は、応接室から職務室に移り、重役に報告を済ませる。

これから、あの候補生との日々……少し頭が痛くなりそうね。

3、深い森の訓練場

 そこは深い深い部屋の奥 お姫様も魔法使いも眠らせるような森のような場所

そこに1人とお姫様候補が通うようになりました

まるで灰かぶりのように 毎日毎日地道な稽古を強いられて

お姫様が憧れる景色とは全く違う まるで地獄のような場所でした

そこに佇む魔女は ただ静かに稽古の指示を出し見つめる

魔女の両手はいつも空いていた 

まるで差し出すものを迷っているかのように

その子が持つべきは 林檎か 硝子の靴か 

4、審査

 大槻唯が私の監視下に入って1週間。

彼女は不満しか言わず、与えたレッスンもまともにやらない。

理由は『楽しくない』から

彼女のスタンスなら間違いではないのだろけれど……

現状でのそれは今の状況を理解しようとしていないに他ならない。

「ねぇねぇ、ゆい。こんなことしたくない!」

また始まった子供のような癇癪。

これで17歳だと知り、正直プロフィールを疑っている。

「じゃあ、アイドル辞めれば?」

「ぅ……」

中途半端に前の担当が表舞台を見せたからだろう。

それがチラついて「嫌だから辞める」までは踏み切れないみたい。

現状、この子の実力はそれなりにある。

養成所でもアイドル候補には挙がっていた……ただ、その性格のマイナス面の影響で決め手に出来ないだけ

特に歌が自信だと言っていた。実際に声は良い。

それゆえに顕著にレッスン不足が見え見えになり……正直、言って以上の知識のある人間からすれば聞くに堪えない。

「ゆい、歌は本当に自信あるんだよ!カラオケだって上手いし!!」

また出た。この子はことあるごとにカラオケでの歌自慢をしてくる。

私はこの話が嫌いだ。

だから……1回現実を見せてあげようと決めた。

「分かったわ。じゃあ、うちとコネのあるカラオケ店に連れて行ってあげる……」

「カラオケ行けるの!?やったーっ!」

「ただし、私も同伴……そして、そこで歌の審査をするわ」

「えぇ……好きに歌いたいのに……」

「嫌ならいいわ。今日はこれで帰れば?審査結果はお粗末だけど」

「うぅ……分かったよぉ~」

コロコロと表情を変える。こういう能力が演技に活きればそれだけで武器になると自覚できていない。

元々の美貌もあり、それが惜しいと思わせる程度には簡単に切り捨てるのが難しい子だ。

実際、慰留を求める声が他のプロデューサーから上がっている。それほどにスター性もある。

ただ、今のままでは……私は許さない。

「じゃあ、行くわよ。着替えてきなさい」

「はぁ~い」

いつものギャルスタイルに着替えた子と一緒に部屋を出る。

きっと、ここがターニングポイント……そんな直感を持ち……カバンに入れたボイスレコーダーの重さを感じる。

5、歌

 最初は好きに歌わせる。

ノリといい、表情といい

『楽しそうに歌う』

いや、実際に楽しいのだろう。

ただ、やはり……荒い。

私は彼女の声がきちんとノッたのを確認して、

ボイスレコーダーを取り出す。

そして、切り出す

「貴女の18番と『お願いシンデレラ』を聴かせて……ただし」

マイクのエコーレベルとマイク音量を0にする

「この条件で」

18番の曲を聴きだし、お願いシンデレラと連曲で入力し、ボイスレコーダーを起動する。

この1週間。ボイスレッスンはあえてさせていない。

表情、筋力トレーニング、リズムトレーニングなど単調なレッスンだけにした。

それも全部、ここのため。

惑うように歌っていたけど、2番に入り少しは自分の力で歌えるようになる。

アイドルになって、まともにレッスンをしていないのも影響が大きいだろう。

私は目を閉じ俯き、表情を見せないように歌声に集中する。

そして、2曲を歌い終わったとき、ボイスレコーダーを止めた。

彼女の顔は自信を欠いた顔だった。

私は、イヤホンを2つ取り出し、3つある出力ジャックのうち2つに両方とも刺す。

そして、1つは自分で装着し、1つを彼女に装着させ……さっき録音した音を流す。

聴こえてくる声。彼女はどう感じているのか……そんなものは火を見るより明らかだ。

2曲の音が鳴りやんだ後……私は問いかけた。

「貴女の言う歌が上手いってどういうこと?貴女はこれをファンに聴かせたい?」

1問目には悩むような表情を、2問目には大きく大きく頭を振った。

「これが今の貴女の実力よ。どうする?まだカラオケを続ける?」

また大きく頭を振る。

振った後から、きらりと光る雫が飛んでいるのが分かる。

「じゃあ、最後に1曲だけ……ちゃんと見て、聴きなさい。私を」

彼女はとても驚いたように私を見上げる。

そんな彼女を後目に私は『お願いシンデレラ』を入力し、本気で歌い踊る。

目の前の観客を1秒も飽きさせないように、1つ1つの歌詞に気持ちを込めて……伝えるように!

アウトロが終わり、彼女に問いかける。

「貴女がもし、アイドルを続けたいのなら文句を言わず全力で学びなさい。それが嫌なら道は無いわ」

私を見上げた大槻唯の涙に濡れた目の奥に……何が宿ったのか。

それを知るのは、ここから。

6、魔女

 魔女は最初から魔女ではなかった

魔女は輝く魔法使いになりたかった

そのために魔法使いの仕事 お姫様の気品を育てる訓練者の仕事

必要なものを全て学んだ

その結果に待っていたものは 類まれな知識量を見込まれた

魔法使いの審判役だった

何度も繰り返される 一部の魔法使いの愚行の断罪

その断罪と

時には切り捨てなければいけないお姫様に 毒りんごを食べされる苦悩

何度も何度も未完成の硝子の靴をその手で砕き 血まみれの手で顔を覆い

何度も何度も自分の顔に血を塗り重ね 魔女の顔を作る

その繰り返しの果てに魔法使いは 怖い魔女になっていた

その果てに出会った 太陽のようなお姫様候補

魔女は 毒りんごを作り慣れていた手で

優しく硝子の靴を今度は壊さないようにと磨く

その靴を渡せる魔法使いを探しながら

7、終演へ

 その日も大人しくレッスンを受けていた。

いや、大人しくは無い。

疑問には質問を 納得できなければ再チャレンジを 上手に出来たら喜びを爆発させる

喜怒哀楽を全力で出して、本気でレッスンをしている。

そして、その結果が歌声に反映されていることを知って、更に楽しくなっているみたい。

そんな良い循環が出来始めていた。

私はあのカラオケの後、彼女への印象やレッスンの効果、今後の予定を伝えた。

そこでやっと気づいて、納得したらしい。

今ではもっと全力で楽しむためにレッスンを進んでするようにすらなった。

まるで、往年の映画……そう、『ベスト・キッド』を演じているような気分ね。

ちょっと前はやらされるワックス掛けに意味はあるのか?

彼女は主役の少年のようにやることの意味が分からない

そんな気分だったのだろう。

意味が分かった瞬間から、その行動の1瞬にでも気を抜かないようになる。

もうこの子は大丈夫だろう。

そんな気持ちになる。

そろそろ……あの映画なら大会のシーンが近づく。

私がやれることは、ここまで……

そう。ここまで

明日、彼女は1人の魔法使いに会わせる。

私の仕事は……ここまで

8、ノーマル特訓前

 その日、私は彼女がレッスン用に着替える前にミーティングをすることにした。

「ねぇねぇ、レッスンしようよ!ゆい、最近レッスンが楽しいんだーっ!」

もうレッスンスイッチが入っているみたいね。

「今日はレッスンしないわ。大事な用事があるの」

「えぇー…って、大事な用事!なにそれー!」

本当にコロコロと表情が変わる。

表情のレッスンをきちんとするようになってから、その仕草に可愛さが増している。

「貴女のプロデューサーと今後の方針が決まったのよ」

「え?」

キョトンとした顔

「貴女は再審査合格。アイドルとして再度仕事をすることができる。その担当も決まったの」

「……」

考え込むような表情……まさか、再審査のこと……忘れてたわけじゃないわよね……。

「あ、そういえば、そういうんだったっけ……」

忘れていたみたい。

「でもでもぉ、ゆいの担当はプロデューサーちゃんじゃないのー?」

と、私を覗き込んでくる。

「私は私の仕事があるの。だから、貴女には新しい担当が決まっ…」

「いやだ!!」

それは強い否定。

「ゆいはプロデューサーちゃんじゃなきゃ嫌!!もっといろいろ知りたいの!!」

「その子もレッスンなりなんなり企画は出来るわ」

「でもでもぉ…」

またワガママ病が出てきたみたいね。

「そうね。じゃあ、その人の元で頑張るレッスンだと思いなさい」

「え?」

少し視点を変えさせる

「新しい担当はしっかりしてるけど、少し奥手で押しに弱いのよ」

私は少し意地悪な魔女になった気分で表情を作る。

「だから、貴女の魅力で引っ張り回してたくさん仕事をさせてレッスンさせなさい。それが私からの最後のレッスン」

新担当のプロフィールや顔写真を見せながら、イジワルな提案を続ける。

「私はね、プロデューサーとアイドルの評価をする魔女なの……だから、いいことをしても悪いことをしても全部お見通し」

さらに畳み掛けるように言葉を続ける。

「貴女は私にどんな報告を届けるのかしら?良い報告が多かったら半年に1回の審査のときに直接面接してあげるわよ?」

そう、私は審査役だから、担当をもっての仕事は許可されていない。

だから……こういう形にするしか出来ない。

それはとても悲しいけど……仕方ない。


「……ゆい、もっとプロデューサーちゃんに教えてもらいたい」

弱弱しい声が聞こえてくる。

「ここまでやるべきことが分かれば自力でも出来るわ」

優しく頭を撫でながら伝える。

そう、もう最初に来たときのような持ち腐れの子じゃない。

「歌姫」の称号を狙える歌唱力を備えたアイドルだ。

「今日。そのプロデューサーが挨拶に来るわ。最初の一言、期待しているわよ?」

そう言って撫でていた手を離す。

彼女は思案している。最初の一言、きっと彼女らしい言葉を言い放ってくれるだろう。

その時、控えめのノック音が響く。

私は新しい魔法使いを部屋に招き入れる。

彼女は、その魔法使いを一目見て、イジワルそうな顔をして


「どもども、こんちわ~☆アイドルと言えば歌唱力だよね?
 
 ってことでサ、レッスンだと思って今からカラオケ行こうョ~♪

 おっと、ジョーダンだから怒んなぁ~!!」


ふいうちを食らった魔法使いはコロコロと表情を変えて困惑する。

でも、魅了されているは確かだ。

うん。きっといいコンビになる。

これで、この物語は……終われそうね。

Last、魔女の独り言

 あの仕事が終わって、彼女は飛ぶ鳥を落とす勢いで仕事をこなしていった。

ミュージカルの主役に抜擢され、様々なイベントの主役をこなし……ついにCDデビューを果たした。

「Radio Happy」と題されたアップチューンの曲

彼女の魅力をぎゅっと詰め込んだ曲だ。

それを自分の手で差し出せなかったこと……少し悔んだりしているけど……

お姫様や魔法使いを永遠に眠らせる針や毒りんごばかり作って、

幾多のガラスの靴をこの手で砕いてきた、そんな手では綺麗なガラスの靴は作れない。

いや、作ったところで、きっと呪いがかかるような気になって、作りたくないのが本音。

だから、これで正解。

私は、どうしても耐えらないときは、この曲を聴くようになるだろうなぁ。

そんな……魔法使いになれない魔女の独り言。


終わり

以上です。

唯ちゃんCDデビューおめでとうございます。

唯ちゃんって、底なしに明るくて前向きだから、自分には少し軽く見えちゃうことが多くて、
そんな部分を自分なりにストーリーにしたらどうなるだろう?と書いてみました。

そろそろ締めますね。

願わくば誰かの暇つぶしになりますように……

よかったよ
なんとなく魔女にちなったんを重ねてた

読後感がすごくよかった

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