幼馴染に貰ったぬいぐるみが喋りだした話 (54)
思い返せばあれは夢だったのではないかと今でも思う。
でも俺が現在この仕事に就けていることも、あいつへの気持ちに気づくことができたのも、記憶を遡ればあのぬいぐるみのおかげだったのではないかと思う。
久しぶりに過去の想い出に耽るのも悪くないだろう…
俺とぬいぐるみが過ごしたあの日々を…
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五年前
「ジングルベル~♪ジングルベル~♪鈴が鳴…らねぇよっ!」
リビングに悲しみのクリスマスソングが響き渡る。
今日は十二月二十四日、クリスマスである。
しかもイブ。クリスマスイブとクリスマスの違いがわからんっ。
「何が楽しくてクリスマスに男子高校生一人でケーキを食べないといけないんだよ…」
友人は皆、彼女とか彼女とか彼女とかで今日は聖夜、いや性夜らしい…
あいつら[ピーーー]。
家には自分以外に人の気配はない。
両親はというと仕事の都合で海外で暮らしている。
実際は親父だけが海外へ転勤のはずだったのだが、仕事以外一人では何もできない親父を心配して母さんも一緒に海外へ行ってしまった。
おいおい、息子は放ったらかしですか…
しかも今日は息子の十六歳の誕生日ですよ。電話の一つでも寄越していんじゃないんですかねぇ。
あらかた国際電話って高いじゃん、みたいな理由に違いない。
えっ、それとも本当に息子の誕生日忘れてますっ!?
あー、世話焼きの妹が欲しい…
というわけで俺は一人寂しくクリスマス&誕生日を迎えていた。
「ハッピーバースディ、トゥーミー」
自分で自分を祝うとか悲しすぎるだろ…
信者の方に「新スレあったの気づかなかったけど荒らしてくれたから気がつけたわ」と感謝されたので今回も宣伝します!
荒らしその1「ターキーは鶏肉の丸焼きじゃなくて七面鳥の肉なんだが・・・・」
↓
信者(荒らしその2)「じゃあターキーは鳥じゃ無いのか?
ターキーは鳥なんだから鶏肉でいいんだよ
いちいちターキー肉って言うのか?
鳥なんだから鶏肉だろ?自分が世界共通のルールだとかでも勘違いしてんのかよ」
↓
鶏肉(とりにく、けいにく)とは、キジ科のニワトリの食肉のこと。
Wikipedia「鶏肉」より一部抜粋
↓
信者「 慌ててウィキペディア先生に頼る知的障害者ちゃんマジワンパターンw
んな明確な区別はねえよご苦労様。
とりあえず鏡見てから自分の書き込み声に出して読んでみな、それでも自分の言動の異常性と矛盾が分からないならママに聞いて来いよw」
↓
>>1「 ターキー話についてはただ一言
どーーでもいいよ」
※このスレは料理上手なキャラが料理の解説をしながら作った料理を美味しくみんなで食べるssです
こんなバ可愛い信者と>>1が見れるのはこのスレだけ!
ハート「チェイス、そこの福神漬けを取ってくれ」 【仮面ライダードライブSS】
ハート「チェイス、そこの福神漬けを取ってくれ」 【仮面ライダードライブSS】 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1456676734/)
ピンポ~ン
ケーキも食べ終え、テレビのクリスマス特集なんて観る気にもなれず、リビングのソファに寝転がって本を読んでいると急に玄関のベルが鳴った。
時計の針はすでに夜の九時を回っている。
こんな時間帯に俺の家に来る人なんて心当たりがない。
「ったく、こんな時間に誰だよ」
ソファから起き上がり、玄関先をモニターで確認するとサンタの格好をした女が立っていた。
誰?
俺がクリスマス&誕生日に彼女がいないことに気を使って誰かがデリヘルでも呼んだのか…
そういえば友達の一人が今日の夜は家にいろよ、誰か来るかも知れないから。
なんて笑いながら言ってやがったな…
何あいつ、デリ呼んだの!?
おいおい、逆に迷惑だわ…
どうしよう、居留守でも使おうかな…
ガチャ。
と思っていた矢先、玄関のドアを開閉する音がする。
あっ、やっべー。そういえば玄関の鍵かけとくの忘れてたわ。はっはっは。
頑張れよ
えっ!?
最近のデリヘルは鍵が掛かってなかったら家の中入ってくんの!?恐いんだけど…
サンタの格好のデリヘルであろう足音が俺がいるリビングのドアの前で止まる。
仕方がない、ここは早急にお引き取り願おう。
バタンっと音を立て、勢いよくドアが開かれたかと思うと…
パ~ンッ!
「メリ~クリスマス~&ハッピーバースディ~!!!」
クラッカーの轟音と火薬の匂い。んでもってクラッカーの中から飛んできたであろうカラフルなビニール。
そしてミニスカサンタコスのデリヘル、ではなく近所に住む幼馴染が立っていた。
「……何やってんのお前?」
素直に何やってるんですかね、この幼馴染は…
「え~、ひとり寂しくクリスマス&誕生日を迎えていると思って祝いに来たのにその反応!?」
「誰も祝ってほしいなんて言ってねぇよ!それになんだよその格好?」
「ええ~、このサンタの衣装可愛いでしょ。手芸部の最高傑作なのに~」
手作りかよ。クオリティすげぇな手芸部!?
「勝手に家の中に入って来んなよな。もし俺に彼女がいて夜の営み中とかだったら気まずいどころじゃねえぞっ!」
「えっ、でも男くんって彼女いないよね。えっ!?もしかしているの?」
「いや、いないけどさ…」
「…だ、だよねっ」
「……」
「……」
変な沈黙が部屋の中を駆け巡る。
「…あ、寒かったから温かい飲み物~」
幼馴染が沈黙を破ると、まるで我が家のように炬燵に入り込む。
「ってか、炬燵の電源入ってないじゃん~」
「…炬燵入んなくてもこの部屋充分あったかいじゃん」
「ええ~、やっぱ炬燵に入らないと日本の冬って感じがしないじゃない」
日本にも炬燵がいらない地域もあると思うけどな…
「とにかく、早急に温かい飲み物~。あ、あと机の上のみかん貰うね」
「はぁ…紅茶でいいか?」
ため息が漏れるわ…
「ありがと~」
幼馴染はそう言うと、みかんの皮を剥き始めていた。
本当に何をしに来たんですかねぇ、この幼馴染は…
うちにはポットがないので、お湯を沸かすのにも結構時間がかかる。
その間に俺の幼馴染との過去でも語ろうと思う…
俺が幼馴染と初めて出会ったのは地元の保育園に通っていたときだった。
その頃の記憶は曖昧だが、俺の家から幼馴染の家までが徒歩ですぐの距離であったこと、それから俺と幼馴染の母親同士が仲が良かったこともあり、
俺は必然的に幼馴染と遊ぶことが多かった。
幼稚園になってもそれは変わらず、近所の公園などでいつも日が暮れるまで遊んでいた。
ご近所からも仲がいいって評判だったらしい。
俺自身も、あいつと遊んでいて楽しかったことを覚えている。
期待
しかし、そんな関係も長くは続かなかった。
幼馴染との関係が変化したのは小学校の高学年の時だった。
俺はバレンタインデーの日に幼馴染からチョコを貰った。
チョコを貰うのは毎年のことだったのだが、その年のバレンタインデーは今までと違っていた。
「…男くんのことが、好きですっ」
そう一言、雪の降る小学校の校舎裏で告げられた。
女子の思春期は男子よりも早く小学校高学年から中学にかけてらしい。
恋愛などに興味を示すのもその頃らしいと俺は後になって知った。
しかし小学生の、しかも男子である俺は毎日友達や幼馴染と遊ぶのが楽しく、恋愛なんてどうでもよかった。
だから、
「ごめん。俺好きとかよくわからないし…」
そう告げた。
幼馴染は泣きながら俺の前から走り去っていった。
小学生の俺はその時なぜあいつが泣いていたのか、その理由さえ分からなかった。
それから俺と幼馴染は極端に話すことが少なくなり、中学に入学する頃には一言も言葉を交わさなくなっていた。
中学になると、俺は部活に打ち込んだ。
二年生の時、バスケットボール部でレギュラーを勝ち取り、県大会で準優勝した。
三年生の最高学年になり、部の部長を任された俺は、去年の県大会準優勝を超える結果を残そうと必死に練習に打ち込んだ。
部長として学校側や顧問に期待され、それに応えるためにも、死に物狂いで練習を続けた。
期待。更新楽しみにしてる
だが、それがいけなかった…
ろくにストレッチもせずに夜遅くまで練習を続けてきた俺の身体はついに悲鳴をあげた。
練習中、急に膝にグキッと痛みが走り、激痛でその場に倒れ込んでしまった。
半月板損傷、靭帯もかなり痛んでいると診断された。
大事な大会の一週間前の出来事だった。
結局、俺のその大会を見ていることしかできなかった…
それから俺は残り三ヶ月の部活期間を残してバスケ部を退部した。
勿論部員や顧問からは辞めて欲しくないと言われたが、俺は強情だった。
キラキラしながら部活に励む部員たちを見ているのが、ただただ辛かった。
そして後、俺は部活でおろそかになっていた勉強に打ち込んだ。
放課後も図書室で勉強を続けた。学校内でも静かな図書室は、今の俺にはピッタリだと思った…
ただ、水曜日だけは図書室には寄らず、まっすぐ家に帰った。
水曜日は幼馴染が図書当番だったからだ。
俺は極力あいつと顔を合わせたくなかった。
それは小学生の時のことも勿論あるだろうが、それよりもあの日、怪我をする数日前に久しぶりに幼馴染と会話をしたことが関係していた。
その日も俺は遅くまで、体育館で一人、自主練習をしていた。
時計の針が八時を回った頃、そろそろ帰ろうと思い外を見るとかなり強く雨が降っていた。
練習に集中しすぎて外の雨音が聞こえていなかったらしい。
傘を持ってきていなかったが、いつも帰ったら直ぐにお風呂に入るので濡れて帰るつもりだった。
だが、そこに委員会で遅くなった幼馴染と鉢合わせてしまった。
俺は走って校門を出ようとしたが、いきなり声をかけられた。
「傘、持ってきてないの?」
本当に久しぶりに声を聞いた。
あの時とは違い、落ち着いた響きのある声だった。
「…ああ。でも帰ったらすぐ風呂入るしさ。濡れても大丈夫だよ」
俺は早くこの場を立ち去りたかった。理由は自分でもなぜだか分からなかったが…
「家も近いしさ。私の傘に入っていけば?」
幼馴染の手には小さい傘があるだけだった。
「…いや、いいよ。遠慮しとく」
「でも、もうすぐ部活の大会でしょ。濡れて帰って風邪ひいちゃうと部員に迷惑かかっちゃうよ?」
それから断り続けるが、しつこい幼馴染に根負けし、結局相合傘をして帰ることになった。
幼馴染を放って走って帰ることもできただろう。
だが、なぜか俺にはそれができなかった…
すぐ隣にいる幼馴染は小学生の時とは違い髪も長く、女の子らしい香りがした。
小学生の時には同じくらいだった身長も、今では幼馴染を見下ろせるくらいになっていた。
あの頃とはお互い変わったんだなと、雨の降り続く空を見上げ、そんなことを思った。
帰り道はお互いに世間話程度の会話しかしなかった。
部活のこと、勉強のこと、志望校のこと、そんなたわいもない話題と沈黙を繰り返した。
「…こんな時間まで部活してるんだ?」
「…ああ、もうすぐ大事な大会だからな」
俺の口調は常に素っ気ないものだったと思う。
「…でもさ、あんまり根を詰めすぎるとさ、怪我とかしちゃうかもよ。たまにはリフレッシュでもしないと…」
「これぐらいしないと試合では勝てないんだよっ!」
自分でも驚く程キツイ言い方だった。
その頃の俺は少しスランプ気味で部活でも思うように動くことができていなかった。
だからイライラしていたのもあったし、何より今求めていたのは幼馴染のような優しい言葉ではなかった。
幼馴染からの忠告、いや多分あいつは俺のことを心配してくれて言ってくれたんだと思う。
けど、その心配がその時の俺には不必要なものだった。
もっと早く、もっと高く、もっと正確に。
その時の俺はそんなことしか頭になかった。
「……ごめん。無神経な発言だったね…」
幼馴染は泣きそうな声でそう呟いた。
それから会話はなく、ただひたすら雨粒が傘を叩きつける音が虚しく響いているだけだった。
あの時の幼馴染の言葉をもっと素直に受け取っておけば、俺が怪我をすることもなかったんじゃないか…
そんなあるはずのない違う未来を想像する。
だが、そんな未来は存在しないのだと、俺の膝が語りかけてきた。
そんなこともあってか幼馴染とさらに距離を取るようになり、中学ではそれっきり話すことはなかった…
ピーーー
やかんが沸騰を知らせる笛を鳴らす。
慌てて火を止め、大きなため息を漏らす。
「はぁ…」
なんていうか、今思い返せばあの頃の俺最悪だな。
いや、思い返さなくても最悪だわ。
絶対友達になりたくない奴ワースト一位とれるレベルだよ…
「っはぁぁぁぁぁ…」
さきよりもさらに大きなため息が台所に響き渡っていた。
紅茶を入れ終え、幼馴染がいるであろうリビングへ戻る。
「あ、紅茶入った~?」
幼馴染は炬燵に潜り込み、顔しか出ていない状態だった。
机の上にはすでに二つ分のみかんの皮が置かれていた。
この短時間にもう二つもみかん食べたのかよ…
「お前ここ一応俺の家だぞ。くつろぎ過ぎだろ」
「外が寒かったんだって。男くんも外に出てみたら分かるよ」
「嫌だよ。俺寒いの苦手だし…」
「あ、テレビつけていい」
そう言うのと同時に幼馴染はテレビの電源を入れる。
こいつ、人の話聞けよ…
面白いっす
テレビには、クリスマスらしいの泥棒を撃退する映画が流れていた。
「あ、これ~。何回見ても面白いよねぇ」
幼馴染は俺の入れてきた紅茶を飲みながら、画面から目を離さない。
俺は炬燵には入らず、ソファのテレビが観える位置に腰掛ける。
今は、幼馴染の近くには行ってはいけない気がした。
「ん?炬燵入らないの?」
「…いいよ。この部屋十分あったかいし」
「もしかして私と一緒に炬燵入るの恥ずかしかったりするのかな?」
「誰もそんなこと言ってねぇだろ…」
そんな会話の後、テレビに映る映画が終わるまで、俺たちは一言も言葉を交わすことはなかった。
「やっぱり何回観ても面白いねぇ、この映画」
幼馴染はソファに座る俺の方を向き、感想を求めてくる。
「確かに面白いけど、やっぱ二、三回観てると飽きるよ…」
「ええ~、それは男くんだけだよぉ」
こんな幼馴染との他愛もない会話が懐かしい。本当に懐かしいと思った。
どういう偶然か同じ高校に進学することになり、とある事件をきっかけに学校内でも挨拶くらいは交わすようになった。
でもこんな会話をしたのは本当に久しぶりだったし、純粋に楽しいと思った。
でも…
「それで、結局何をしに来たわけ?」
リビングの壁掛け時計を見ると、もう時刻は十一時を指す頃だった。
付けっぱなしのテレビからは夜のニュース番組が流れている。
「だからさっき言ったんじゃん。男くんのことを祝いに来たんだってば~」
「…ああ、そうですか。それはどーも…」
「何だかまったく感謝されてない感じがするんだけど…」
「…彼氏持ちの奴に祝われても嬉しくねーよ」
「は?」
急に幼馴染の声音が低くなる。
恐いよ…
「何それ?どういうこと?」
幼馴染は立ち上がり俺の座っているソファに前に来ると、顔を近づけて来る。
俺と幼馴染との顔の距離は、ほんの数センチまで迫っていた。
俺は慌てて幼馴染から顔を逸らす。なんかすっげーいい匂いがした。
「…いや、なんか俺の友達が噂してたんだよ。お前が最近手芸部の先輩と仲良く帰ったり、買い物したりしてたって…」
幼馴染の顔がマジで怖い、いや恐い…
「…それで、私とその先輩が付き合ってるって思ったんだ?ふーん…」
「いや、知らん。でも美男美女でお似合いだって噂だったからさ…」
「…確かにあの先輩はいい人だけど…私の好きな人は…」
「何お前、好きな人いんの?じゃあ、こんな冴えない奴の家になんかにいないでとっととそいつに告白しろよ。今日クリスマスだし…」
「…………」
急に幼馴染が黙り込む。
あれ?俺なんか変なこと言った?
「帰る…」
「あ、ああ…もう遅いし送ろうか?」
「いいわよっ!このバカっ![ピーーー]ぇっ!」
幼馴染をそう言い残し、俺に顔に何かを投げつけると、足早に俺の家の飛び出していった。
「何なんだよ一体…」
幼馴染から投げつけられたのラッピングされた可愛らしい包みだった。
中を開けてみると、少し大きめのサイズの可愛いぬいぐるみとメッセージカードが入っていた。
男くんへ…
メリークリスマス&ハッピーバースディ!!
メッセージカードにはシンプルにそう書かれていた。
「この歳でサンタクロースのぬいぐるみって…」
しかもこれ手作りだな。可愛いらしい顔つきをしたサンタクロースのぬいぐるみが入っていた。
しかし、やけにポップでキュートな感じだな…。
そういえば小学生の頃はよく幼馴染とクリスマスにプレゼント交換をしてたっけ…
その時に貰ったのもサンタのぬいぐるみだった気がする…
昔は信じてたなぁ、サンタ…
今になってみれば俺にバレないように枕元にプレゼントを置いていた両親を想像すると少し笑える…
「プレゼントって思っていいのかな、これは…」
幼馴染から投げつけられたプレゼントを見ながら過去の思い出に浸る。
そろそろ俺も前に進んでいいんじゃないのか、そんなことを思いながら…
静かな部屋で未だ付けっぱなしのテレビからは、今日この近くで自殺した人が発見されたというクリスマスには似合わないニュースが寂しく流れていた…
翌日、昨日から高校も冬休みに入り、気が抜けた俺は昼過ぎまで眠っていたらしい。
雪は降っていないようだが、窓は結露し外はかなり寒いことが分かる。
結局昨日はあれからリビングのソファで眠ってしまったらしい。
「あぁ、起きたくねぇ。もう一生寝ときたい…」
毛布をかぶりなおし、もう一度眠りに入ろうとする。
てか俺、昨日毛布なんかかぶって寝たっけ?
まぁいいか…
「おやすみぃ~」
「…おやすみじゃないです。もうお昼なので早く起きてください…」
なんか誰かに起こされてる気がするわ…
ああ、俺もついに幻聴が聞こえるようになったのか。
さて、もう一眠り…
………えっ!?
さっきの誰?
急いで上体を起こし、リビングをぐるっと一周見渡すが人の気配はない。
幽霊…いやそんな非科学的なものは信じていない。
でも、だったらさっきの声は…
そういえば昨日は結局家の鍵を閉めていなかったな。やばくね…
もしかしてさっきのモーニングコールは泥棒!?
なんて思い出した頃、さっきと同じ声がソファの下の方から聞こえてくる。
「どこを見てるんですか?こっちですよ」
俺は立ち上がり、ソファの下に顔を向けると、そこには…
「…えっ?サ、サンタァ!?」
昨日、幼馴染から貰ったプレゼントの可愛らしい顔つきをしたサンタクロースのぬいぐるみがひとりでに立ち、こちらを見上げていた。
「どうしたんですか、きょとんとした顔をして…」
「…いや、なんていうか…俺ってもしかしてまだ夢の中にいる?」
「頬でも抓ってみたらどうですか?」
淡々とした口調でぬいぐるみが言葉を発してくる。
とりあえず自分の頬をおもっきり抓ってみた。
超痛てぇよ。
やっと物語が動き始めたか
とりあえず一旦落ち着こう。
深呼吸、深呼吸…
すぅ~はぁ~。すぅ~はぁ~。
「って、落ち着けるかぁ~!」
ぬいぐるみがひとりでに立って、しかも喋りだすとかっ!
何この状況!?
「大きな声を出さないでください。近所迷惑になりますよ」
「あ、はい。すみません…」
ぬいぐるみに注意されてしまった…
何この状況?
「いやいや、そうじゃなくてさ」
状況が把握できないぜ…
「と、とりあえず、何で言葉話せんの?」
「私にも分かりません。ただ目が覚めたらここにいて、この身体になっていました」
「…ぬいぐるみだよね?」
「ぬいぐるみですね」
「…もう一回聞くけどぬいぐるみだよね?」
「ぬいぐるみですよ」
………
「…俺に毛布かけてくれたのって君?」
「あ、はい。寒そうにしてらしたので。もしかして余計なことをしましたか?」
「…いや、ありがとう…」
もう訳わかんなくなってきたよ…
寝起きには辛い…
とりあえず、幼馴染に確認してみたほうがいいのか。
でも俺、幼馴染のメアドも携帯番号すら知らないしなぁ…
かといって幼馴染の家に直接確認しに行くのもなぁ…
「…はぁ~」
とりあえず今の現状だけでも確認するか…
昨日、幼馴染からぬいぐるみを貰う。俺はそのあとすぐに寝る。朝起きたら幼馴染から貰ったぬいぐるみが喋りだす。
んでもって二足歩行までしてやがる。
そこから導き出せる結論は…
うん…全くわからんww
…いや、待てよ…
まってる
「なぁ、ぬいぐるみ!」
「…ぬいぐるいはやめて下さい」
「じゃあ何て呼べばいいんだよ?サンタか?」
「確かにサンタの格好はしてますけど…何だかそれも…」
「それじゃあ自分で決めてくれ。俺はその通りに呼ぶから」
「そうですね。それじゃあ…」
と言うと人形は当たりを見渡す。時には飛んだり跳ねたりしている。
すげーな、このぬいぐるみ…
「……あ、それでは私のことはミカって呼んでください」
「ミカか…ちなみに理由を聞いてもいいか?」
「机の上にみかんの皮ががあったからです…」
「………」
結構単純なのか…
「今、単純だなとか失礼なこと考えませんでした?」
「い、いや。そ、そんなこと微塵も思ってないですよ…」
エ、エスパー!?
「まあいいです。それで、何ですか?」
「ああ、そうそう。なぁミカ。お前さっき目が覚めたらその身体になってたって言ってたじゃん?」
「はい、確かにそう言いましたね」
「ってことはさ。ミカはその身体になる前は何だったの?」
「分かりません。私が知りたいくらいです…」
ぬいぐるみ、今はミカと名乗るその人形は間髪入れずに答えを返す。
その口調はまるで、返事を決められたロボットのようだと思った…
でもとりあえずは幼馴染になにか聞きに行くしかないか…
喋るぬいぐるみのおかげですっかり覚めてしまった目をこすりながら、洗面所に向かい顔を洗う。
余談だが、冬の床を素足で歩くと寒さで足がおかしくなりそうなので、着ているズボンを少しずらして足の裏に布地を添える人は俺だけじゃないはずだ…
だって寒いんだもん…
ミカはというと俺の後を付いてきている。
なんというか某死神代行が出てくる漫画のライオンみたいなフォルムのぬいぐるみなのだが…
「なぁ」
「なんですか?」
「なんで俺の後付いてくるの?」
「他にやることもないので…」
この状況を傍から見たらどう思われるのだろうか…
ぬいぐるみに話しかける高校生…
ああ、ただの変人か…
「変人ですね」
ミカが小さな声で何かを呟いたようだが…
「何か言ったか?」
「いえ、何も」
小さすぎてよく聞こえなかった。
それから支度を済ませ幼馴染の家に向かおうとしたのだが…
ミカ、どうしよう…
幼馴染に何かを聞くにしてもこいつを連れて行っていいものだろうか。
いきなり自分が作ったであろうぬいぐるみが喋っているところを見せつけられる。
うん、俺だったら失神しちゃうね☆
「とういうことでミカさん、お留守番しててください」
コートを羽織る俺の横にいるミカに話しかける。
横っていうかかなり目線下だけど…
「いえ、私も幼馴染さんに会ってみたいので連れて行ってください」
「いや、でもなぁ。いきなりお前が喋ったりしたら幼馴染もびっくりするだろうし…」
「私は一言も喋りませんので…」
それに、とミカは言葉を続ける。
「あなたは話す私の姿を見ても失神しなかったのできっと幼馴染さんも大丈夫ですよ」
そういうミカの顔は、なんというかぬいぐるみにしてはいい顔をしていた。
笑うでもない、微笑むでもない、何とも言えない顔で。
てかこの人形、表情も変わるんだな…
確かに出会った時から喋る時は口がしっかり開いてたな…
「それじゃあ付いてくるのはいいけど絶対喋るなよ。いいな」
「分かりました」
という訳で、いざ外に出ようと思ったのだが…
ここで問題発生。
「なあミカ。お前以外にでかいよな…」
このぬいぐるみ、以外にも俺の膝丈くらいまである。
そういや幼馴染も結構でかい白い袋を持ってきてるなと思っていたが、こいつを隠すためだったのか…
なんだよ、コスプレの一部かと思ってたのに…
「このまま連れて行くわけにもいかないよな…」
てか常識的に考えて、このままこのぬいぐるみ持ち歩くってやばい人じゃん…
「いいんじゃないですか。歩いて話す人形と外に出かけるなんてなかなか体験できるものじゃないですよ」
いや、そりゃそうだろ。
「…でもね、俺ももう高校生なわけですよ…小学生ならまだしも高校生にもなって人形もって出歩くとか、ただの変質者だろ…」
「あなたは多分変質者なので大丈夫です」
「…それは見て呉れの話?中身の話?」
「どっちもです…」
ぐはぁっ!
傷つくわ。面と向かって人形に変な奴だと言われたわ…
「…まぁいいや。じゃあミカ俺の肩の上にでも乗っとけば」
「そうします」
そう言うとミカは俺の肩までジャンプする。
おいおい。すげージャンプ力だな。俺身長百八十くらいあるんだけど…
ミカはというと俺の肩を椅子に見立てて器用に座っている。
まあ、人形に立って歩かれるよりはマシか。
なんてその時は思っていたが、今になって考えてみると鞄なんか入れたりとか他にも方法は沢山あったなと思う…
「それじゃあ行くか」
肩に乗っているミカに話しかける。
「その前に一つだけいいですか?」
「何?」
「私はまだあなたの名前を聞いてません。名前がわからないとあなたのことをなんと呼べばいいのか分かりません…」
ミカに言われ、そういえばまだだったなと思った。
「俺は男って名前だよ。気軽に男って呼んでくれ」
てかぬいぐるみに自己紹介とは…
「…それでは男さんとお呼びします」
今までと同じく淡々とした口調で喋る人形…
俺の耳元で話すミカの声は、どこかで聞いたことがある。そんな気がした…
期待
俺たちはそれから雪の降る中、幼馴染の家へと向かった。
まぁ徒歩二分ぐらいで着くけどな…
俺の住む町は田舎とまではいかないが、山や住宅地も多い。
都会の方から見れば、田舎の部類に入るだろう。
が、今はそんなことより…
「なぁ、ミカ」
「何ですか?男さん」
「寒い。死ぬ…」
外は今にも雪が降り出しそうな天気である。
いま外の気温何度だよ…てか風が冷たい。
「私は寒さを感じないのでわかりませんが、この程度では死なないと思いますよ…」
もうちょっと優しい言葉をかけてほしいよ…
こんな会話をしながら住宅街を歩くこと二分弱。
俺たちは幼馴染の家の前に到着した。
ああ、二分歩いただけで身体中寒い…
しかし、幼馴染の家を訪れるのは何年ぶりだったかな…
確か最後に遊びに来たのは小学生の時だったから、大体三年ぶりくらいか…
「とりあえずミカはどっか隠れててくれ。流石に肩の上に乗ったままだと幼馴染も驚くだろ」
「分かりました。それでは…」
と言うと、ミカは俺のフード付きコートのフードの中に身を隠す。
これ大丈夫かな…しっかり隠れてます?
まぁいいか。
「じゃあ、インターホン押すけど絶対喋るなよ」
「分かりました」
俺には幼馴染の家のインターホンに手を伸ばす。
手が微かに震えているのは緊張ではなく寒さのせいだと思いながら…
インターホンを二度押し、誰かが出てくるのを待つ。
ああ、なんかやっぱ緊張してるわー。
心臓がバクバク鳴ってるわ…
なんというか告白しようと家に来た中学生のような気持ちだわ…
「どうかしましたか?」
いきなりフードの中にいるミカから話しかけられる。
後ろから話しかけるなよ、びっくりするだろ…
「なんでもないよ。てか喋るなよ」
「すみません。でも妙に緊張しているようだったので…」
色々あるんだよ、幼馴染とは…
なんて言えないよぉ~。
「もしかして幼馴染さんって男さんの想い人だったりするんですか?」
ミカが何かを言うと同時に、あたり一面に強い風が吹き荒れる。
「おお、スゲェ風だな。それで、なんだって?」
「…いえ、何でもありません。独り言です」
そう言うと、ミカはフードの中に身を潜める。
どうやらもう喋る気はないらしい…
まぁ、もちろんミカの独り言は聞こえていた。
真後ろにいるミカの声が風の音なんかで聞こえないことなんてないだろう。
でも、聞こえなかったふりをした。
人は心の奥底に自分でも理解しえない感情を持っている。
俺はその感情に長年支配されている。
幼馴染に対する想い。
この感情は俺には到底理解できないし、理解するつもりもない。
もし、理解してしまったら…
なんて柄じゃないことを考えるもんじゃないな。
このSSまとめへのコメント
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