スポーツマン (15)

小さい頃からずっと同じスポーツを続けてきた。
幸い才能があったようで、小学生高学年になるころには全国大会で上位入賞の常連になっていた。
中学でももちろんそれに打ち込み、親をはじめ、周りの大人も皆僕が結果を残すことを当然のように求めた。
僕はそれに応え続けた、勉強なんてしていない。
していなくても、高校にはスポーツ推薦で特待生として学費を免除されて入学出来たのだから。

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高校ではさらに激しく練習に打ち込んだ。
高校の監督は典型的な精神論者で、僕はある意味それに洗脳されていたのかもしれない。
授業中はずっと寝ていた。授業中にも睡眠を取らないと、過酷な練習には耐えられなかったのだ。
1週間に1日だけの休みも、ちょっとしたミスなどでよく潰れていた。
特別顔が言い訳でもなく、女の子とのお喋りも得意ではなかった僕に彼女が出来る事は無かった。
しかし、大学にいけば勝手に出来るだろと、高をくくってる自分もいた。

そして一流の私立大学にスポーツ推薦で入学した。
順調な競技生活が続いたのは入学して1ヶ月だけだった。
5月の最初、僕は交通事故を起こしてしまった。
買ってもらったばかりの車で、スピードを出しすぎて崖から転落したのだ。

病院のベッドで目覚めた僕は、腰より下に全く感覚がない事に恐怖し、パニックに陥った。

下半身不随

医者は言った。
現代の医学では、回復は絶望的だとも。

しばらくして落ち着いた僕は、気がついてしまった。
スポーツが出来なくなった僕には、無いにも残っていないのだ。
車イスで大学には通えるようにはなったが、授業を聞いてもなにも分からなかった。
ノートを取ろうとしても、取り方が分からなかった。

その時思い出した、高校の時に、僕に無理矢理でも勉強をさせようとしてきた先生がいた事に。

「他の先生とかお前の監督とかは、スポーツだけやれば良いって言うかもしれない。
しかし、勉強も絶対やらなきゃダメなんだ!勉強をしたと言う事実は、絶対に自分を裏切らないんだぞ」

その先生は、僕が2回目に進級する時に学校を辞めてしまった。
噂では、他の職員から陰湿な嫌がらせを受けていたと言う事だ。
あの頃は、うるさい奴が消えて良かったくらいにしか思ってなかったが。

あの事故から両親は喧嘩をしなくなった。
いや、会話が消えたと言うべきか。
常に家の空気は冷えきっていた。
しかし、大学にも居場所が無かった僕には、
この家に引きこもるしか無かったのだ。
筋肉質だった身体はどんどんとやせ細り、
全く使わなくなった脚は棒切れも同然になった。

ある日成人式の招待状が家に届いた。
そして、2次会のLINEグループに招待された。
もちろん行く気はなかった。
行けるわけが無い。
誰がこんな状態の僕を見たいか。
いや、僕がこんな身体を見られたくないだけか。


グループの招待を拒否した次の日、突然電話がかかってきた。

「私のこと覚えてる?」

誰だよお前

「中3の時同じクラスだった女だよ」

ああ・・・そんな奴もいたな

「成人式来ないの?」

行かない

「行こうよ」

脚が動かない奴なんかが行ってもしょうがないだろ

「・・・・そんなこと、ない」

あれ、こいつは事故の事知ってるのか。
どちらにせよ、数年感連絡すら取っていなかった奴に何を言われようとも、
僕の意思が変わる事は無い。

「男君って、実家暮らしだよね?」

こんな身体で一人暮らし出来るわけないだろ

「ごめん」

別に、気にしてないよ

「・・・・今暇してる?」

ずっと暇だよ
嫌みか?


「じゃあ今から家行っても良い?」

・・・・は?

「すぐ着くと思うからちょっと切るね」

っておい!
本当に切られてしまった。
一体あの女は何を考えているのか・・・
全く分からない。

十数分後、家のインターホンが鳴った。
本当に来てしまったようだ。
混乱する頭で、ノロノロと玄関まで向かう。
ふと、自分でこのドアを開けるのが久しぶりな事に気がついた。


こんなにドアって重かったっけ。

「あ、久しぶり!上がらせてもらっても大丈夫?」

別に良いけど・・・

「じゃあお邪魔しま~す」

今は僕しかいないよ

「ご両親はお仕事?」

まあそうだね

当たり前のように女が車イスを押そうとする。

1人で動けるから、押すな。

「そ、そっか・・・。ゴメン」

とりあえずリビングにでも連れて行けば良いか。
部屋は色々と散らかっているし。

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